「Nothing」と一致するもの

Gorillaz - ele-king

 デイモン・アルバーンはとんでもない情熱家だ。向学心があって、ポップ・ミュージックの時計を20年前に戻すことを許さない。ブラーとしてセカンド・アルバムを出したばかりの頃に取材で話したときの彼は、60年代の音楽とカーナービー・ストリートの服屋の話を喜んでするようなご機嫌な青年だったけれど、ブリット・ポップ騒動のなかで相当に揉まれたのだろう。トニー・ブレアにオアシスとともに持ち上げられ、そしてまあ、アイドル系のルックスだったがゆえに、労働者階級の英雄であるオアシスの、結局はなかば引き立て役のような、どこか損な役回りを強いられ、が、しかし労働党に裏切られたという政治的な経験をバネにするかのように、アルバーンはつねに向上心を捨てることなく、その後驚くほど貪欲な活動を見せている。アフロ・ミュージック(トニー・アレン)にアプローチしたかと思えば、イスラム文化にも接近してみたり(『シンク・タンク』)、あるいは漫画家のジェイミー・ヒューレットと一緒にゴリラズとして『西遊記』をモチーフとしながら音楽と文化をシャッフルさせる。イギリスの音楽らしく、そこに社会風刺と政治的主張も含まれる。

 ゼロ年代にはじまったゴリラズは、デビュー・シングル「クリント・イーストウッド」において西海岸のヒップホップの魔術師オートメイターの力を借りながら、90年代初頭にコンシャス・ラップのひとつとして注目されたオークランドのデル・ザ・ファンキー・ホモサピエンスにラップさせている。2005年のセカンド・アルバム『ディーモン・デイズ』では、その時期玄人筋からもっとも受けていたUSとUKのふたりのラッパー、MFドゥームとルーツ・マヌーヴァを誘い、チャレンジ好きのヒップホップ・プロデューサーとして知られるデンジャー・マウス、それからデ・ラ・ソウルとショーン・ライダーを招き入れている。こうした前2作のスジで考えても今回のアルバムのゲスト陣は尋常ではない。

 物欲の塊のような西海岸の大物ラッパー=スヌープ・ドッグ、ガラの悪いUKグライムのスター=ケイノ、正義感の強いラッパー=モス・デフ、ウェールズのヒッピー左翼のロッカー=グリフ・リース、毒舌と批評精神のシンガー=マーク・E・スミス、それからルー・リード......ボビー・ウーマック、それから元ザ・クラッシュのミック・ジョーンズとポール・シムノン、前作に続いてデ・ラ・ソウルも......、洒落たクラブ・ジャズからはユキミ・ナガノまで......、あるいはシカゴからは元サン・ラ・アーケストラのヒプノティック・ブラス・アンサンブル......。まとめると、ルー・リードとケイノとマーク・E・スミスが1枚のアルバムに収まっていること自体が奇跡的で、まずはこのオーガナイズ力だけでも賞賛に値する。
 もちろん背番号10を11人揃えれば強いチームが作れるわけではない。問題は明確な方向性だ。ゴリラズは、エレガントなエレクトロ・ヒップホップやディスコやポップスを回転させながら、世界が滅亡した後に太平洋に残された島を舞台として、新自由主義の犠牲としての環境破壊を物語る。

 「世界は絶望的だ」――西海岸のG・ラップのスーパースター(スヌープ)はラップする。「革命はTV放映される」――先頃カムバックしたギル・スコット・ヘロンの言葉を引用する。レバノンのナショナル・オーケストラの演奏に混じってグライムのビートが飛び出し、バッシーとケイノのラップがたたみかける"ホワイト・フラッグ"はアルバムの白眉のひとつだ。この曲から素晴らしい生気が放たれたかと思えば、モス・デフとボビー・ウーマックが共演するダーク・エレクトロの"スタイロ"のメランコリーからはディストピアが浮かび上がる。マーク・E・スミスのぼやき節のみならず、曲調までザ・フォールじゃないかと思わせる"グリッターズ・フリーズ"は文句なく格好いいし、モス・デフとヒプノティック・ブラス・アンサンブルによる"スウィープステイクス"の楽天性は多くの人に愛されるだろう。ルー・リードがエコロジーについてソウルフルに歌う"サム・カインド・オブ・ネイチャー"やグリフ・リースが未来の食生活を憂う"スーパーファスト・ジェリーフィッシュ"も面白いし、ユキミ・ナガノがコズミック・ディスコをバックに歌う"エンパイア・アンツ"も捨てがたい。

 多くの個性派を集めたが故に、アルバムの中心がどこにあるのかわかりづらいという評もあったが、たしかに1曲だけを選ぶことは困難かもしれない。まあ、しかし逆に言えば全曲気を抜けずに聴けるということでもある。そして何よりも重要なのは、元ブリットポップのスターが情熱を傾けてこのコンセプト・アルバムを完成させたということだ。「オレは自分が環境問題について考えていたとは言わないよ。あの曲もそんなものではないんだ」、ケイノは『ガーディアン』の取材でアルバーンが最初にアルバムのコンセプトについて説明してくれたことを明かし、そしてこう語っている。「"ホワイト・フラッグ"は警告なんだ。世界は滅び、そしてふたたびはじめるための警告だ。それは平和を暗示するのさ」

Hard Talk - ele-king

わざと日本語ラップ・シーンに言及しているのに、そこを残念って言われても困る。そういう意図でやってるんだから。――環ロイ

提灯記事ばっかりなのが、また日本語ラップの閉鎖性だと思うよ。というか、それが普通だと思って納得しているのはおかしいよ。――二木信

 あっという間だった。環ロイと僕、そして同席したくれたY氏は渋谷の喫茶店で3時間ぶっ通しで話し込んだ。相手の話を真剣に聞き、自分の言葉で語り、そして時に沈黙した。最初、環ロイが待ち合わせ場所の喫茶店に入って来たとき、こちらの想像以上に殺気立っているように感じられた。いや、怒っていたのかもしれない。


環ROY
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 この話は2ヶ月以上前に遡る。2月頭、僕が書いた環ロイの2作目となるソロ・アルバム『BREAK BOY』のレヴューが『ele-king』にアップされた。その後、環ロイから反論のメールが僕の元に届く。反論の中身については環ロイ自身の言葉に譲るが、メールはけっこうな長文だった。正直驚いた。それから何度かやり取りをして、結果、このような形で環ロイの反論を聞く取材をするに至った。それが大まかな流れだ。

 環ロイは音に貪欲なラッパーである。鎮座ドープネスやシーダやK・ボンらと同じように未知の音の航海に勇んで船出しようとする冒険心を持っている。彼はここ数年で、様々なジャンルのトラックメイカーとタッグを組んでアルバムを立て続けに5枚制作し、スカイフィッシュ、やけのはら、ピーチボーイらをリミキサーとして迎えてもいる。僕の経験から言うと、環ロイは日本のラッパーとしてはだいぶ珍しいタイプだ。

 論点を簡潔に言うと、「そんな幅広い音楽性を持った環ロイが、なぜ、ここに来て日本語ラップにあえてこだわろうとしたのか、またそこに毒を吐いたのか」ということである。とはいえ、それはあくまでも議論の出発点でしかない。話題は、クレバ、表現の自由、音楽ジャーナリズム、七尾旅人との出会いなど多岐におよんだ。われわれは皮肉じみたことも言い合ったかもしれないが、がっぷり四つで組み合った。

環ロイ:アルバムをみんなに「良いよ」って言われると思ったのに、二木にああいう風に書かれて、すげぇムカついて。それを彼女に話したら、「みんなに良いって言われるなんてあり得ない」って言われた。

あの原稿のどこに引っ掛かったの?

環ロイ:わざと日本語ラップ・シーンに言及しているのに、そこを残念って言われても困る。そういう意図でやってるんだから。

いや、残念というか、あれだけのトラックメイカーを集める幅広い音楽性を持って日本語ラップの枠を飛び越えて来た環ロイが、なんでまた日本語ラップにこだわっているのかなって。最初は素朴な疑問ですよ。

環ロイ:日本語ラップに対して言及しているのが「もったいねぇ」って言ってるわけでしょ?

もったいないというか、もうちょっとナチュラルに突き抜けると思っていたから。そもそもなんでそこまで日本語ラップにこだわったの?

環ロイ:フラグメント、エクシー、DJ ユイ、オリーヴ・オイル、ニューディールと連作を続けたのに、そんな理解されてないなって思ったから。

理解されないというのは?

環ロイ:日本語ラップ・シーンからもっとちやほやされると思ったけど、そうでもなかった。でも、他のシーンからはそれなりに満足いく手応えを得られた。俺のやっていることがわかりづらいんだなって。みんな、言葉が好きだから。特に今、生き様を提示する系を求めているから。だから、「生き様比べだけならまっぴら」って"任務遂行"でラップしてる。

環くんが考える日本語ラップ・シーンはどこなの?

環ロイ:昔は『FRONT』とか『BLAST』があって。今はすげぇあやふやで、ないのかもしれないんだけど、やっぱりあって。俺は日本語ラップ・シーンって言われるところから出て来て認知されたから。MCバトルを見て、俺のことを好きになりましたって人も多いわけでしょ。そういう人たちに対して、あの連作の5枚は振り回し過ぎたと思った。オーセンティックな、何の新しさもないビートの上でエッジの尖ったラップだけして欲しい奴がけっこういる。そういう奴らをシカトしてやって来たから、落とし前をつけたかった。一言で言えば、落とし前感だね。

メールに「責任感がある」って書いていたでしょ。それは日本語ラップに対する責任感なの?

環ロイ:そう。だって、俺、『さんぴんCAMP』を超見てたし、ジブラのファーストを発売日に買ったし。2000年代前半まで出てた日本語ラップの音源はそんなに数がないからほとんど聴いてた。

そういう責任感を捨ててるところが環ロイの面白さだと思ってたんだよね。

環ロイ:それは次でいいかなと思った。さっき言ったけど、俺のやっていたことがわかりづらかったって気持ちがあった。わかって欲しいのよ。すごく単純な話だよ。自分が出て来た村の住人にもわかって欲しいという願望が強い。

"任務遂行"と"Jラップ"は、ある意味日本語ラップ・リスナーに対する挑発だよね。

環ロイ:そうもなるよね。この前、ケン・ザ・390と5時間ぐらい話して、あいつと俺の立場は違うけど、考えてることはほとんど一緒ですごく驚いた。二木はヒップホップ・シーンをどう思うの?

どう思うっていうのは?

環ロイ:日本語ラップ・シーンってあるよね?

それは実体としてあるんじゃないの。

環ロイ:あるよね。『Amebreak』とかサイバーエージェントもあるしね。

『Amebreak』からも取材依頼来るんでしょ?

環ロイ:来る。シーンの裾野を広げるためにやっていますって人がいるじゃん。メジャーでやっている人たちはそういうこと言いたがるでしょ。俺も〈ローズ・レコーズ〉のコンピに入って、5周年のパーティに出たり、(石野)卓球さんのイヴェントに出たり、2008年は〈センス・オブ・ワンダー〉と〈フジ・ロック〉に出た。俺もシーンの裾野を広げるのに貢献してるじゃんって思う。「シーン、シーン」、気持ち悪いな(笑)。

ハハハ。たしかに気持ち悪い。あちこちのジャンルのトラックメイカーと5枚もアルバムを作って、いろんなイヴェントに出演しているのにあまり評価されなくてムカついていたわけだ。

環ロイ:そう。そういうのをあからさまに言うと外側に対してエンターテイメント性を孕むと思ったの。

逆じゃないかな。日本語ラップ・ファンは喜ぶけど、そうじゃないリスナーは小さいとこで何を言っているんだって思うよ。

環ロイ:でも、小さいところでやっているのはもう共通概念だよ。というか、わかりきってる。他の畑の人と話すとみんなヒップホップ通ってるし、好きだって感じるよ。でも、日本語ラップ・リスナーは閉鎖的でコミットしづらいと思ってるでしょ。アジカン(アジアン・カンフー・ジェネレーション)の後藤(正文)さんはTwitterで自発的にヒップホップの人に絡んで行ってる。

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ちゃんと売れて、しかもクリエイションもしっかりやっているものを作るのがいちばん難しいんだよ。――環ロイ


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日本語ラップの閉鎖性ってなんだと思う?

環ロイ:端的に言うと、プレイヤーが音楽好きじゃなくて、ヒップホップを好きっぽいんだよね。

実際、音楽をあまり聴かないラッパーの人は多いからね。

環ロイ:その閉鎖感から生まれる強さはあるから、それはそれで成立すればいいんだけどね。海外はそれで成立しているけど、海外と比べても仕方ない。シーンの裾野を広くしたいって言うなら、ウェルカム感を出した方がいいと思う。

環くんも裾野を広げたいって気持ちがあるんだ。

環ロイ:というか、いろんな人からわかってもらった方が売れるからいいじゃん。小さいところでやってるんじゃないのって言ったけど、内側でこういう反乱分子がギャンギャン言っているのが、俺はエンターテイメントになると思ったけどね。

原稿に書いた通りなんだけど、俺はもっとナチュラルに突き抜けるのを期待していたから。

環ロイ:でも、今回はもったいなくていいんだよ! 先は長いから。

ケリをつけたかったんだ。

環ロイ:それはある。だって、俺、キングギドラとか超歌えるよ。

環ロイが日本語ラップの閉鎖性を象徴する存在なんだろうね。

環ロイ:そう、とくに俺の世代ね。

環くんが日本語ラップが嫌だなと思う理由のひとつは、音楽と関係ない、不良的な封建制が強いのもあるんじゃない?

環ロイ:それもすごく嫌だなと思う。不良、ヒップホップ、音楽なんじゃない、あの人たちのプライオリティって。俺は、音楽、ヒップホップ、社会生活だからさ。

そういう風に日本語ラップのルールから解き放たれているのが環ロイの面白さだと思う。

環ロイ:でも、始めたときからそこに関わってないから。そこにしがらみを感じたことはないよ。

じゃ、環くんのコンプレックスって何?

環ロイ:なんだろうね。それについては鎮座(ドープネス)とも話していて。〈さんぴんCAMP〉があってさ......。

〈さんぴんCAMP〉に勝てないって気持ちがある?

環ロイ:そうじゃないんだよ。あんなのどうでもいいじゃんって思う。

どっちだよ(笑)。

環ロイ:あれに引っ張られている奴らがムカつくんだよ。でも、それに引っ張られている奴も多いから。「じゃあ、わかりやすく言ってやるよ」って。それで"J-ラップ"を作った。

〈さんぴんCAMP〉は行った?

環ロイ:行ってない。

俺も行ってないんだよね。その当時いくつぐらい?

環ロイ:歳は一緒でしょ?

〈さんぴんCAMP〉は96年だから。

環ロイ:中学生とかでしょ。その頃、ヒップホップ聴いてないもん。やっぱ、それはどうでもいいや。三千人集めるイヴェントなんてそこら中でやってんだもん。そうじゃなくて、それをいまだに言ってることに「バカか!」って思う。

でも実際、日本のヒップホップ史の象徴的なイヴェントだからね。それは事実としてあるよ。それにこだわる、こだわらないはまた別問題。俺だってあまりにこだわっている人を見ると、そりゃバカだなって思っちゃうよ。

環ロイ:それそれ。そのバカだな感を活動で示して来たけど、あんまり伝わっていないから、そのバカだなって思う対象に。それをシカトしてスルーするのが大人の対応なんだけど、俺はわからせてやりたくなるから。

「鎮座DOPENESSよりも大人じゃねー」って"J-RAP"でラップしているからね。

環ロイ:あの人はそんなのスルーして行こうとしているし。俺はいちいち言いたい。というか、言わないと気持ち悪い。

そこが妙に言い訳がましく聴こえちゃった部分なのかも。

環ロイ:その意味が全然わかんないんだよ。

「ゴタクじゃねーぞ/感情をぶつける」って、"任務遂行"でラップしているけど、結局ゴタク並べてるなって感じたから。言い方は悪いけど、なんか理屈くさいなって思ったんだよね。それは率直な感想。

環ロイ:それは歌詞が?

そう。環くんの批評性はすごく面白いと思ってるんだけど、ラップでああいう風に出されて、なんか引っ掛かっちゃったんだよね。

環ロイ:じゃあ、俺の歌詞が悪いじゃん。ゴタクじゃなくて、「お前らムカつくからちょっとわかれよ」って言ってるんだけど。ちょっと言い方が悪かったかな。「あえてゴタクで感情をぶつける」って言えば引っ掛かんなかったの?

いやー、それはどっちでも同じだったと思う。でも、あそこが面白いところだった。

環ロイ:意味わかんねぇ。じゃあ、「最高」とか「良いよ」って書いてよ。売れる枚数に影響およぶよ。

およばないよ(笑)。

環ロイ:及ぶよ。俺らのレーベルはまだ小さいんだから。

関係ないよ。

環ロイ:そう? 提灯記事書けばいいよって思っちゃうんだよね。

それだったら、『Amebreak』だけでいいじゃん。

環ロイ:まぁ、そうだよね。

提灯記事ばっかりなのが、また日本語ラップの閉鎖性だと思うよ。というか、それが普通だと思って納得しているのはおかしいよ。提灯記事じゃない方が面白いじゃん。

環ロイ:そういうのが普通って思ってないよ。提灯記事じゃないほうが俺も楽しいし。でも俺は傷つくからヤダ。

Y氏:そんなことで傷ついたら。

しょうがないよ。

Y氏:やんない方がいいってことになっちゃわない?

環ロイ:それは彼女も言ってた。

そもそもラッパーなんてディスり合いじゃん。

環ロイ:いや、プレイヤーにディスられんのはいいじゃん。

なんでライターはだめなの? プレイヤーじゃなくても文句言っていいでしょ。

Y氏:レヴュー書いてくださいって言うの止めた方がいいって話になっちゃうよね。記事が出ない方がいいってことになっちゃうよ。

環ロイ:俺がもっと偉くなって、書かせてくださいって言われるぐらい頑張りますよ。俺のアルバムを載せたらその媒体がプロモーションになるようにしますって。

Y氏:もちろんそこまでなればね。

つまりは書かれて傷ついた話だよね。

環ロイ:そう。

でも、本心でもないのに「最高」って書かれるほうが嫌じゃない。

環ロイ:知らぬが仏じゃん。

そもそも俺はアルバムがつまらないとは書いてないからね。

環ロイ:そういう風に読めないよ。

そうかー?!(笑)

環ロイ:他の良いところを書いてよって思うじゃん。

書いてるよ。トラックメイカーの選び方とか、あれだけ多彩なヴァリエーションのビートに乗せることのできるラップのスキルとか、いろんな音楽を貪欲に聴いてチャレンジしていることとか。

環ロイ:うん。"任務遂行"で「外野はすでに騒いでるぞ」って言って終わってるじゃん。最近、Twitterでいろんな人と喋ってて、アジカンの後藤さんとかクラムボンのミトさんとかストレイテナーのドラムの(ナカヤマ)シンペイさんとか。みんな良いって言ってくれるよ。

そんなにいろんな人から認められてるんだからいいじゃないですか。

環ロイ:彼女も同じこと言ってた。でも、俺が出て来た村の幹部面している奴がいるじゃん。

ああ。

環ロイ:そういう奴らが俺のことを無視なの。なんか悔しいわけよ。だから、"任務遂行"は、わざと日本語ラップ好きが好きそうな感じにした。

トラックを?

環ロイ:トラックって言うか、あの感じが。

パンピーくんが作った"go! today"のトラックがいちばんオーセンティックだと思ったけど。

環ロイ:そうだけどさ。"Jラップ"と"任務遂行"は、日本語ラップ好きな奴が好きそうじゃん、って思ったの。

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曲がりなりにも日本語ラップについて書いて来たライターとして、"任務遂行"や"Jラップ"についてはちゃんと反応しないとって気持ちはあったよ。無視はできない。――二木信


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"Jラップ"で唯一評価できる先輩はクレバだけ、みたいなことをラップしているよね。なんで、クレバなの?

環ロイ:ライムスターを言い忘れちゃった。

でも、クレバは特別なんでしょ?

環ロイ:クリエイティヴだから。

俺も『心臓』は大好きだし、傑作だと思う。

環ロイ:クリエイティヴなことをできる場所まで持っていって、クリエイティヴなことをしているから。クレバと同じことを、完全に同じクオリティで音楽的に遜色なく別の奴がやっても、あんなに売れない。キック・ザ・カン・クルーを経て、「クリスマス・イブRap」を出して、武道館ライヴやって、ソロで1枚目、2枚目、3枚目を出して、4枚目の『心臓』ができているから。「俺が大丈夫って言ったら売れるよ」っていう説得力をつけて来てるからできる。例えば、「THE SHOW」に「one for the money.two for the show~」っていうフックがあるけど、あんなのメジャーの奴は無理って言うから、普通は。

どういうこと?

環ロイ:「one for the money」って、第一に金だってサビで言っているわけでしょ。もし別の奴がそういうシングルを出しますって言ったら、メジャーの人は絶対拒否ると思う。あそこまで含蓄を持った活動をして来てなかったら、無理だと思う。

でも、そういう意味じゃ、ジブラもクリエイティヴなんじゃないの?

環ロイ:そうなの? 超好きな曲もあるけど。

流行のサウンドを取り入れたトラックもよくできていると思うし、彼のメッセージに若者が鼓舞されるのもわからないでもない。

環ロイ:クレバのそれはトレースの加減なんだよね。アメリカのやっていることをまんまトレースして上手いですねっていうのは、俺が言ってるクリエイティヴではない。

『心臓』は、Jポップのラヴ・ソング的な要素と歌謡曲の哀愁の感性とUSのヒップホップとR&Bを絶妙なバランスでミックスしているよね。俺はそこがすごくクリエイティヴだと思った。あとクレバって、ヒップホップをブラック・ミュージックの歴史の中で捉えているよね。だから、古内東子と一緒にやっても違和感がないし。実はそういうラッパーやトラックメイカーはあまりいないと思う。

環ロイ:それそれ。俺のクリエイティヴってそれなんだよ。ヘンリー・ダーガーってヘンな画家がいるじゃん。家でひたすら描いて、死んだ後に絵が見つかった人。あの人は芸術のマックスを行ってて最強にクリエイティヴだけど、誰にも理解されないまま死んでいくわけじゃん。それは嫌なんだよ。「わかる奴だけがわかればいいや」っていうのは、俺のクリエイティヴの意味からは外れちゃうの。

大雑把に言うと、ちゃんと売れたいってことでしょ。

環ロイ:ちゃんと売れて、しかもクリエイションもしっかりやっているものを作るのがいちばん難しいんだよ。アンダーグラウンドでわかる奴しかわからないマックスと、めちゃめちゃ売れるマックス、その真ん中を保ちながら続けていくのがいちばん難しいから。クレバはそこをやってるからクリエイティヴだと思う。

クレバの音とラップはクリエイティヴだと思うけど、リリックがそこまで刺激的だとは思わない。

環ロイ:そこに同意できないから、この話はたぶん成立しない。俺は最強だと思う。作詞家だと思う。ラッパーと作詞家ってイコールじゃないからさ。ラッパーはラップを書く人だから、作詞とはまた別なんだよ。だけど、クレバは作詞家も兼ねてる。だから、メジャーの検閲っていうレベルじゃないんだよ。この国のシステムのなかでやれることを最大限ギリギリまでやってる。資本主義のシステムのなかでメジャー・レーベルがあって、利益追求するための組織があって、そのなかでどれだけ多くの人に伝えられるかということと、自分が表現したいことの綱渡りなんだよね。

『心臓』のクレバのリリックはラヴ・ソングの詩としては秀逸だと思うけど、刺激的な綱渡りをしているとまでは思わない。クレバの話からは逸れるけど、USのメジャーはスヌープやグッチ・メインのように存在そのものがイリーガルみたいなラッパーを出すよね。それは表現の自由という意味では健全だと思う。

環ロイ:まぁ、人殺しでもめちゃくちゃCD売れるからね。俺もそう思うよ。でも、音楽やる奴にそこまで負荷をかけられても困るって感じなんだよね。

クレバや環くんがそこに挑戦して欲しいという話じゃまったくないよ。悪いことをラップすればいいということでもない。ここで俺が言っているのは表現の自由の問題だから。例えば、D.Oがああいうことになって、メジャーはアルバムを発売中止にしたけど、そういう日本の音楽業界の体質はやっぱりおかしいよ。

環ロイ:そうだね。でもそんな論理は無茶だよ。それはアメリカに戦争で負けたのが悪いっていう話になってくるから。徳川幕府が悪いっていう話になってくるから。三百年間、封建制度作ってさ。武士に生まれたら次も武士、農民は永久に何代も農民みたいな時代が三百年続いていたわけじゃない。そういう話になってくるよ。

それについてはよくわからない。

Y氏:ふたりは同じことを言ってるように聞こえますけどね。もちろん、クレバがそういうドギツイことまでチャレンジしないのは、彼がしたくないからで。実際にそういうことやっている人たちが売れてないのは、そこまで良くないからでしょ。インディでもものすごく良ければ、百万枚とか売れる可能性はある。ただ、それぐらいのレベルじゃないから、売れてないだけじゃないかな。

表現のレヴェルがそこに達していないと?

Y氏:生活のリアリティはあるかもしれないけど、求められてないっていうか。要するにオーディエンスの問題。それは、完全に日本の音楽聴いている人たちの意識を変えるようなすごいものを作って行かないとひっくり返らない。

環ロイ:それもそれで無茶だよ。それはものを作ることに直結している側面もあるけど、システムの話になって来ちゃうじゃない。ラジオ局がどうだとかさ。

ちょっと話を戻していいですか。『BREAK BOY』には"バニシングポイント"っていう曲があって、フラグメントとの『MAD POP』には"primal scream"っていう曲があるじゃない。プライマル・スクリームが好きなの?

環ロイ:なんとなく好き。アルバムは全部持ってるけど、メンバーの名前は知らない。

ロックンロールしてて、ダンス・ミュージックもやってる、ああいう雑食的な音楽が好きなのかなって。

環ロイ:そこが好き。毎回違うじゃん。ジャンブラ(ジャングル・ブラザーズ)もそうだけど。

"Break Boy in the Dream"で七尾旅人とやることになったのはどういう経緯だったの?

環ロイ:旅人くんと対バンで一緒になったときに話しかけたのが最初の出会いだね。名前はあちこちで見てて、ずっと気になってはいた。で、対バンする前に旅人くんのファーストを聴いたのね。それですごく好きになった。「なんてアヴァンな人だ!?」って。で、ライヴを観に行ったり、旅人くんが俺のライヴに遊びに来てくれたり、飯食ったりしてたら仲良くなった。とりあえず、俺がすげぇファン。

へー、仲良いんだね。

環ロイ:仲良いのかな? 俺がファンだよ。"Break~"のヴァースを録音した日にフックができてなくて、フックは歌がいいなーって漠然と思ったのね。その瞬間に「旅人くんに歌を入れてもらったら素敵かも!」って思いついて、スタジオから電話したら「いいよー」って。「Rollin' Rollin'」と構造が似てんなーってできてから気付いた。でも「いい曲できたから関係ねーかー」って。旅人くんは、音楽を創造することに対して「殺気」を持ってる人だね。真剣度が高いんだと思う。

なるほど。

環ロイ:ところでさ、レヴューで気の抜けたデジタル・ロックがどうのこうのとか書いてたよね。あれは、どの曲のことを言ってるの?

「いくつかのトラックが気の抜けたデジタル・ロックが空騒ぎしているように聴こえてしまうのは、どうにももったいない」って書いた。それこそ"任務遂行"とかもそう思ったよ。

環ロイ:デジタル・ロックなの? 俺は超オーセンティックなヒップホップだと思うけど。

あれは音質のことだから。なんでこんなにシャカシャカした音にしちゃったのかなって。

環ロイ:俺もちょっとマスタリングには満足してないから。

どこらへんが?

環ロイ:音のでかさが揃ってないとか。俺はもっと暴力的な音にしたかった。ミックスもね。だからそんなこと書くなよって思った。

いや、書くのはいいじゃない。

環ロイ:ヤダ。"任務遂行"はデジタル・ロックなの?

あと"バニシングポイント"。

環ロイ:でしょ。いくつかってどれだよって思って。1個は"バニシングポイント"だろうなって思ったけどさ。ヒムロ(ヨシテル)さん怒ってたらしいよ。

あと"うるせぇ"とかも。

環ロイ:超ヒップホップじゃん。デジタル・ロックは、マッド・カプセル・マーケッツとかプロディジーみたいなサウンドじゃないの? それは、"バニシングポイント"しかねぇじゃんと思って。

だから、あれは音質のことだって書いてるよ。

環ロイ:そうなんだ。分かりかねるわ。

「ここで音質について語るのはフェアじゃないかもしれないが」ってエクスキューズまで付けてる。ビートの組み方やトラックの構造がデジタル・ロックだとは書いてない。

環ロイ:ああ、そういう意味なんだ。あの文章はジャンルとしてデジタル・ロックって思っちゃうよ。音質を俺の好きにやったら、全然違うことになるから。

だから、フェアじゃないかもしれないって書いているんですよ。

環ロイ:でも、それ、困るよね。50枚ぐらい売り上げ下がるんじゃないの、あれで。

下がんないよ。

環ロイ:わかんないよ。下がった分を二木が買えよ。

レヴューで批判されている盤って気になって聴きたいなって思う場合もあるし。いずれにせよ、提灯記事を読んでも何も引っ掛からないでしょ。

環ロイ:俺、高校生の頃、提灯記事とかわかんなかったからさ。騙されてたよ。

いまの人はわかるよ。しかし、環くんがこんなにショックを受けていたとは思わなかった。もっと「ちげーよ!」って感じかと思ってた。

環ロイ:俺は普通に傷つくけどな。「ちげーよ!」はあるけど、売り上げが下がったらどうしようっていう小心者が出てくるよ。

曲がりなりにも日本語ラップについて書いて来たライターとして、"任務遂行"や"Jラップ"についてはちゃんと反応しないとって気持ちはあったよ。無視はできない。「環ロイは日本語ラップに対する愛憎をラップしているから、偉い!」とだけはさすがに書けない。

環ロイ:別にそんな風に書けって言ってないし。「堅苦しい」って言わなくていいじゃんって思うわけ。今回のアルバムで、俺は「村の人」じゃありません、みたいにはできなかったんだよ。

俺はその感覚がわからない。

環ロイ:そりゃないだろうね。

だから、環ロイほど自由に音楽をやって来たラッパーが、なんで日本語ラップに今さらこだわるのか疑問だった。

環ロイ:話が戻って来たね。地元愛だよね、やっぱ。

なるほど。

環ロイ:日本語ラップに影響を受けて、2000年代前半まで信じてたから。キングギドラの頃のK・ダブ・シャインが韻を踏まないのはラッパーじゃないみたいなことをラップしていて、そういうのを真に受けて来たから。でも、信じていた世界がエデュケイトして来たことが、音楽を聴く上でそんなに意味がなかったっていう。

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だから、「ヒップホップをリスペクト」みたいな原理主義の右翼よりは俺のほうがわかっているぞっていうのがあるから。――環ロイ


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自分が影響を受けて来た人たちに振り向かれない悲しさもあったと。それがコンプレックスってことなのかな。

環ロイ:そうかな?! K・ダブ・シャインは大好きだからね。

ヒップホップってもっと自由だろって伝えたい?

環ロイ:うん。いまなら、ダブステップがいちばん先鋭的なヒップホップの概念を継承している音楽だよって俺は思う。でもみんなわかんないんじゃん? 「ズッツーター、ズッツーター」って汚い音でビートが鳴っていて、ファンクからのサンプリングを乗っけてたり、最新のハイファイなUSのラップとか、そういうのしかヒップホップじゃねぇと思ってるから。

まぁね。でも、それをみんなに求めるのは酷だと思うな。幅広く音楽を聴いていればわかることだけど。

環ロイ:「音楽やってんなら音楽を聴けよ」って思うじゃん。

もちろんそうだけど、でも、仕方ないと思うんだよね。

環ロイ:仕方ない奴は仕方ない奴でいいけどさ、自分の食い扶持を広げていくことができないだけだから。でも、「俺はヒップホップを愛しているからシーンをでかくしたい」とか、そんな絵空事を言ってるんだったら、そっから考え方変えて行けよと思う。

多くの人に理解されたいと言いながら、ヒップホップ以外の音楽をあまり聴かなそうだしね。

環ロイ:うん。そのクセにシーンのなかで近親相姦して、「これが俺らのヒップホップだ!」って言っていて、それじゃ何も変わらないじゃん。パラダイム・シフトしたいじゃん。だから、ゴタクを言ったんだよね。フラグメントのレーベル(術ノ穴)のコンピに、フィッシュマンズの"マジック・ラブ"にダブステップのリディムをバコンと入れてるだけの曲があって、超カッコイイの。それって超ヒップホップじゃん。ベースをボンボン入れて、ハイ終わりみたいな。あんまりダブステップを知らないけど、エクシーにいっぱい吹き込まれて聴いている限りは、ヒップホップの曾孫ぐらいの場所で概念を相当継承している音楽だなと思った。

同じようにヒップホップ聴いて来た人たちにはそういうことをわかって欲しいと。

環ロイ:うん。

なるほど。それが責任感なのかなぁ。

環ロイ:わかんない。そうかも。

みんな責任感を持ってるの?

環ロイ:俺の世代はそうだよ。スラックはそういうのないから、ああいう風にできる。

ああ。

環ロイ:責任感が芽生える必要もなかったっていうか。でも、俺の年代は違う。26ぐらいから上は、何かしらあると思う。コマチにも感じるしね。ライヴのときにヒップホップの裾野を拡げるためにやっているって強調してたから。

俺、コマチはユニークだと思うよ。タロウ・ソウルやケン・ザ・390もヒップホップの裾野を広げたいみたいなことを言うよね。でも、俺にはディープな音楽性を譲る時の言い訳に聞こえちゃう。

環ロイ:って思うじゃん。俺もそう思ってた。でもなんか俺に似たものがあるんだよ。たぶん。

裾野を広げる使命感のためにこの音楽性なんですって言われたら、こっちとしたら何も言えなくなっちゃうよね。それはずるくないかって。言った瞬間に台無しじゃない。

環ロイ:ずるくねーよ。ケン・ザ・390と話したら、俺と似たようなことを考えてた。表現された音楽の形は違えど、俺と似たコンプレックスがあるなって。ヒップホップの裾野を広げるって本気で思ってるんだよ。

彼らは本気だと思うし、音楽を真剣にやっているのもわかるよ。でも、俺はタロウ・ソウルとケン・ザ・390の音楽にセルアウターとしての説得力を感じない。

環ロイ:でも、言い訳ではないんだよ。音楽がたいしたことないねっていう二木の論理は別に自由だけど、それを言い訳にして、ああいうものを作ってるんだろっていうのは邪推だよ。

Y氏:そういう風に聴こえてしまうのは邪推じゃないよね。

そう、邪推ではない。だって、彼らの過去の活動も知った上で、いまのメジャーでの音を聴いて、裾野を広げたいって発言が言い訳に聞こえちゃうんだから。

環ロイ:それはしょうがないね、まぁね。そこはもうわかった。それでいいです。

ところで、あの原稿で言いたかったことはわかってもらえました。

環ロイ:俺の反論は何だったの? 意味あったの?

"任務遂行"や"J-RAP"に辿り着くまでの道程はよくわかったし、わざわざなんでああいうことを言うのかもわかった。

環ロイ:そう思うのは自由だから、しょうがないじゃんってことだよね。

自由だからしょうがないじゃんっていうか......。

環ロイ:意外とそこにはドラマがあったんだねってこと?

だいたいわかっていたけど、発見もあった。

Y氏:こういう反応があるのが正しいんじゃないの、ロイくんの狙いとしては。

環ロイ:そうなのかな? 反応せざるを得ないように作ったんだもん。

だから反応しているわけですよ。

環ロイ:俺のやっていることをシーンの価値観のなかにいる人たちにもガッツリ伝えたいなっていう。

それならば、アルバム全体で徹底的に啓蒙するべきだったかもね。

環ロイ:それをアルバム全部でやったら、うるせぇじゃんって思うんだよね。汎用性ないし。

でも、そこまでやったらすごいインパクトがあったと思う。

環ロイ:それはちょっと無理だわ。それはライターとして面白がって言ってるんだろうけど、そんなの売れなそうじゃん。

ビートとラップがカッコ良ければ売れると思うし、シーンの外の人から見てもヘンな奴がいるなーって見られるかもしれない。

環ロイ:スキャンダラスではあるけど、それは無理だね。やりたくない。企画盤としてミニアルバムを作るのはやぶさかじゃなかったけど、今回は徹底的に啓蒙するほど手間は使いたくなかった。でも、2、3曲はやりてぇなみたいな。もうやりたくないよ。

啓蒙って上から目線に聞こえるけど、クレバがライヴでやっていることも啓蒙だと思うし。

環ロイ:啓蒙ねぇ。

ヒップホップってやっぱりそういう要素がある音楽だと思う。

環ロイ:「そういう音楽でもありますね」感が嫌なんだよね。

でも、実際にそうだから。

環ロイ:でもさ、リスペクトがヒップホップだとか、ヒップホップで救われたとか、みんなそういうことを言いたがるじゃん。それが嫌で。

嫌なの?

環ロイ:くだらねぇなって。ヒップホップなんて、ただのツールでしかないじゃん。ヒップホップをリスペクトとか言っているんだったら、電車リスペクトとか、i-podリスペクトとか、ビル・ゲイツリスペクトみたいになるじゃん。それは、ただの言語だから。別の方法でリスペクトを示せばいいじゃん。俺はそうしたいよ。

環くんがヒップホップ・カルチャーから受けたいちばんのインパクトは何?

環ロイ:わかんない。

何かあるでしょ。

環ロイ:俺はけっこう間違っちゃった感があるから。ヒップホップを間違ってチョイスしちゃったかなって。俺は坊ちゃんだったなぁ、みたいな。

それはヒップホップのゲットー至上主義的な考え方に引っ張られ過ぎだよ。別にそんなものは関係なくない。

環ロイ:その通りだけど、そう思っちゃうよね。

ヒップホップにしろ、テクノにしろ、ダンス・ミュージックにしろ、レイヴにしろ、一般的な社会で好ましいとされる生き方から道を踏み外させる力のある文化でもあるわけじゃない。そういう意味で、どうなのかなって。

環ロイ:見た目とか雰囲気。田舎のヤンキーが暴走族に憧れるみたいな感じ。で、俺はセンス良かったからヒップホップになった。

センスの問題なのか、それ(笑)。

環ロイ:だから、「ヒップホップをリスペクト」みたいな原理主義の右翼よりは俺のほうがわかっているぞっていうのがあるから。

じゃあ、環くんが音楽を作る上で、ヒップホップや音楽以外に影響を受けているものって何かある?

環ロイ:あんまり考えたことない。やっぱ音楽じゃん。

音楽以外では?

環ロイ:手塚治虫が「漫画家はマンガを読んで漫画を描くな」って言ってて。それをそのまま置き換えると、「ヒップホッパーは、ヒップホップを聴いてヒップホップを作るな」になる。さっきも言ったけど、ヒップホップでしかヒップホップを表現できないのはヤダ。近親相姦だなって。そこにいて安心している感じもするし。アメリカの最新のハイファイな音を真似したり、外国のファンクとかソウルばっかりサンプリングしてさ。

あと、ジャズのサンプリングとかね。それは、90年代の東海岸ヒップホップが日本で異常に影響力を持ってるからね。

環ロイ:『FRONT』と『BLAST』のせいでしょ。

それはたしかにあるかもね。

環ロイ:そこから細分化されたからね。

90年代中盤のヒップホップばかりかけるパーティにたまに出くわすことがあって、ああいうのはつまらないと思う。いろんな新しい音楽があるのに。

環ロイ:聴いている方は、『FRONT』や『BLAST』を読み込んで来た世代がやってるってわかってないよ。事務所に古い『BLAST』があるから、たまに読むの。昔、メイスってラッパーがいたでしょ?

いたいた。

環ロイ:あいつのことをボロクソ書いてんの。「ダセー」って。50セントのラップなんて、あいつ以降なわけじゃん。

ああ、なるほど。

環ロイ:シーダくんのラップは勿論すげぇんだけど、彼がやる前に、ああいったフロウはドーベルマンインクがバック・ロジックのプロデュースでトライしてるからね。ヒップホップのライターってそこはスルーしてたでしょ? 意味わかんねーから。

90年代のヒップホップの話は、青春時代に聴いたものから逃れられてないってことだよね。常に新しいものを追う気持ちになれてないってことだと思う。

環ロイ:懐メロ大会だよ。

そうね。

環ロイ:懐メロで良しとしているのはセンス悪いよ。そこをわかってないじゃん。

センスが悪いっていうか、新しい音楽も面白いのにって素朴に思う。

環ロイ:うん。

やっぱクラブ行って、新鮮な音楽を爆音で聴きたいじゃん。それが、90年代に聴き飽きた音だったりするとがっくし、みたいな。

環ロイ:でも、なんでそうなってるのかを考えたら答が出るように思う。

どういうこと?

環ロイ:俺は新しいのを作んないと気持ち悪いから作るけどさ。同じことを繰り返して楽しい人もいるってことでしょ。そこはなんとも言えないけど。

青春時代のインパクトが強いってことじゃない。

環ロイ:それは俺のなかで、音楽好きじゃなくてヒップホップが好きなんだっていう話につながる。

新しい音楽を追うのは体力の要ることだしね。

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売れているとか売れていないとかはどうでもいい。そういう評価基準で音を聴いてないから。 ――二木信


環ROY
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Y氏:いずれにせよ、"任務遂行"と"J-RAP"はロイくんの狙いどおりだったと思うんだけど。

環ロイ:そうなんですか?

Y氏:だって、Jラップのフィールドの人の反応を待ってましたっていう感じでしょ。そのフィールドにいる人だからこその今回の反応なんだから。俺からしてみれば、全く気にしてなかったから。でも、あえて言ったことで響いてる。

環ロイ:だから、もっとよく書いてよって話だよ。

Y氏:でも、それをよく書いたらダメでしょ。話がつながっていくことで気づく人も絶対多いよ。

何? また売り上げの話?

環ロイ:よくわかったね。

Y氏:俺がJラップ好きだったら、これ買ってみようかなって思うよ。

レヴューがあって、この記事がアップされれば、どんな曲なんだろうって思うよ。

環ロイ:こんだけ言ってたらね。

でも、逆に言うとハードル上げてるよ。

環ロイ:上げてるね。なんだたいして過激じゃねぇじゃんってなるよね。

そんなに過激じゃないってことは言っといたほうがいい。

環ロイ:そこまで過激ではない。"任務遂行"でゴチャゴチャ言ってわかりやすくして、後半はもっと広い世界があるよって示唆してる。で、(七尾)旅人くんとやったケツの曲で次につながるっていう感じなの。意外とそうやってコンプレックスを浄化していく作業でもある。まあ、いろんな奴が聴いてくれたら、それでいいのかもね。しかも、あのジャケでさ。

あのジャケっていうのは?

環ロイ:曽我部恵一さんみたいな。

これは自分で提案したんだ。

環ロイ:してない。ああなっちゃった。「おめぇらできねぇだろ」ぐらいやったほうがいいんじゃねぇみたいな。

その対抗心、わかりにくいなぁ。

環ロイ:(坂井田)裕紀くん(ポップグループのオーナー)が俺を説得するために言っていたことだけどね。アンダーグラウンドのラッパーはジェケで顔を隠した写真を使ったりするから。

現実問題として顔を撮られたくないんだろうね。

環ロイ:そうだね。そっちのほうがでかいかもね。

そっちのほうがでかいと思う。

環ロイ:じゃあ、顔写真をジャケにすんなよってなるじゃん。

あれは「俺は顔を出せない」ってアピールなんじゃない。たぶん。

環ロイ:ああ、不良アティテュードなんだ。

だと思うよ。

環ロイ:へぇー。あんまり意識してなかった。それ、カッコイイな。でも、キッズ的にはカッコイイけど、資本主義社会システムのなかだとただのはぐれ者でしかないじゃん。

ヒップホップははぐれ者が生きられる世界でもあるんだから。

環ロイ:全然生きられてないよ。それができてないのは......。

そういう人たちだけの責任だとは思わないけどね。

環ロイ:それ、さっき俺が言ったじゃん。

言ったっけ?

環ロイ:言ったよ。システムは俺ら全員で作っているからさ。アメリカに戦争で負けたからって話につながるじゃん。

戦争の話はよくわからないけど、MSCやベスやシーダの音楽はこのままの社会システムでいいのか?って注意を喚起したよね、結果的に。

環ロイ:俺はそういう考え方があまりなかったから。

前に環くんにインタヴューしたとき、彼らと違うリアリティを表現したいと思わない?って訊いたの覚えてる?

環ロイ:覚えてない。そしたら?

「金持ちを相手にしたいなー」って(笑)。

環ロイ:それは、ああいう人たちより育ちがいいから、できないんだよ。

育ちが良くても社会との軋轢は生じるでしょ。

環ロイ:あるね。でも俺はシステムに順応したフリをしてハッキングしたほうがカッコイイって思うんだよ。そのほうが訴える絶対数も増えると思うし。だから、俺のほうがカッコイイじゃんって思ってるよ。それしかできないんだけどさ。

体制に忍び込んで反体制的なことを表現していると。

環ロイ:そういうつもりでやってるよ。

そこまではわかんなかった。

環ロイ:アウトロー文脈じゃ、やっぱ勝ち目ねぇしさ。そういう人間でもないし。むしろ溶け込む。バイトしてた時、普通にしてても明らかに浮いてたけどね。

溶け込めなさそうだよね。

環ロイ:溶け込んでいる風にできるから。クレバもハッカーだと思うし。

どこらへんが?

環ロイ:USのヒップホップの手法を織り混ぜていく感じとか。

また話が戻って来ちゃった。

環ロイ:〈横浜アリーナ〉のライヴでエフェクターの説明してたじゃん。あんなの普通に生きていたら、なかなか聞けないよ。2万ぐらいで買える機材でこんなに楽しいことができるって教えるのは、あの人じゃないとできない。

なるほど。それなら音楽に合わせてそれぞれがもっと自由に踊っていいんだよっていうメッセージのほうが重要だと思った。みんなが同じように手を振る一体感はやっぱり違和感あったよ。

環ロイ:クレバの判断上、それをやっても効果はそんなに望めないって思ったんじゃねぇかな。よりポップな選択をしたんだよ。二木が言うような啓蒙はクリティカルだけど、クレバは自由に動いていいよって言われてもわかんねぇっていう奴のほうが多いと思ったんでしょ。より多くの人に伝わる選択をしたんだよ。そこは急に求めんなよってことだよ。みんな、じょじょに頑張ってるんですよ。だって、パラパラがこの間まで流行ってたんだぞ。そういう現実があるよ。あんな大勢の人間にコミットできるクレバは二木より考えてるんだよ。

多くの人にコミットできているのはすごいことだと思う。

環ロイ:考えの賜物だと思うから。

でも、多くの人にコミットできている人がすごいって論理でいくと、売れている人がいちばんって話になっちゃうから。

環ロイ:っていう論理もあるじゃん。

それは資本主義の論理だから。

環ロイ:だって資本主義の社会じゃん。それは学歴社会みたいなもんで、ひとつの評価軸になることは否めない。

否めないとは思うよ。

環ロイ:それでいいじゃん。

だから、資本主義は絶対じゃないから。

環ロイ:もちろんそうだよ。

そもそも俺は売れているとか売れていないとかはどうでもいい。そういう評価基準で音を聴いてないから。売れている云々とは別のところで俺なりにクレバの音楽に思うところがあるというだけの話だよ。

環ロイ:ムカつくな。俺の大好きなクレバに対して。俺にとっては唯一ヘッズに戻させてくれるラッパーだから。

『心臓』はかなり聴いたし、大好きだよ。でも、ライヴには素直に乗れなかった。環くんはあの場にいて、心底燃えた?

環ロイ:楽しいよ。多くの人間にコミットできているラッパーの数が少ないからっていう、さっきの評価軸による力が大きいとは思う。それでいて、ラップの内容はハードコア・ラップじゃん。ファンキー・モンキー・ベイビーズに比べたら、ヒップホップっていう文脈のなかから出て来た人のラップだよ、やっぱ。音楽やってる人はみんなクレバ好きだよ。簡単に言っちゃうと、あの人はセンスいいんだよね。国内で音楽やっている人がぶつかる何かしらの壁に対しての壊し方なのか、いなし方なのか、その手法のセンスがいい。ハッカーってそういうことだよ。あの人こそ言わないだけで、日本語ラップ・シーンを超意識しているよね。ヒップホップであるっていうことにも超意識的だしね。

 今回の取材にはここには書き切れない長い後日談がある。が、それについていまは言うまい。僕が環ロイの音楽を聴いて何を言おうが書こうが自由だし、環ロイがそれに対して異議を唱えるのももちろん自由だ。また、当然のことながら、読者の方々がこの記事を読んでどんな意見を持ち、発言しようとまったくの自由なのである。そして、当たり障りない提灯記事を読みたいか、正直な意見や感想が記された記事を読みたいか、その判断は最終的に読者に委ねられている。僕が環ロイの取材を通して、いま、最後に言いたいのはそれだけだ。

トクマルシューゴ - ele-king

 自分の部屋でずっと夢想していただろう風景をやっと手中に収めたね、おめでとう! というのがぼくの率直な感想。『ポート・エントロピー』は、自分で用意したたくさんの楽器/非楽器をひとりオーヴァーダビングしながらドリーミーな風景を構築していくトクマルシューゴの、2年半ぶりとなる4枚目のフル・アルバムだ。朝日新聞ではコラム連載、NHKテレビでは特集が組まれ(クリエイティヴな発言が多数ありました)、海外でも高い評価を受けるなど、いまや国際的アーティストとして注目を集めているトクマルだが、自身も初めて「自信作かな」と語るほどのキャリア最高の傑作の誕生だ。

 初期の作品はフランスのトイ・ポップ、ブライアン・ウィルソン、ジョン・フェイヒィ、ガスター・デル・ソル、ミュージック・コンクレートといった数々のキーワードが「ベッドルーム・サウンド」という名の下に混在していたが、もはやそれらはトクマルシューゴの手癖というか、ブランドとしてスタンダードになったように思える。新作は世のなか(とくにブルックリン)のモードとも同時代的にリンクしながら、さらに評価されることだろう。ちなみにマスタリングはボブ・ディランやノラ・ジョーンズ、MGMTなどを手掛けたニューヨーク在住のグレッグ・カルビが担当。厳選された音数(アルバムで使用された楽器の数自体はこれまででもっとも多い)、その配置と鳴り、メロディとハーモニーの構築など、磨き抜かれた質の高さにも舌を巻くが、そこで描かれているファンタジーが素晴らしい。まるで自分がトクマルシューゴの箱庭の住人になったかのような錯覚に陥ってしまう。

 初期の作品で描かれていた風景は、どちらかと言えばトクマルの脳内を覗いているような感覚があった。新作は彼がCDの中に箱庭をつくった、そんな感じだ。ここには以前より鮮明に具体化された風景が広がっている。森の奥で木々も小人たちもおもちゃもみんな唄い踊ってるような......そう、絵本やファンタジー映画、ブリティッシュ・トラッドなどに登場してくるケルトの森のような。先にリリースされたEP「Rum Hee」で描かれていた空想的な世界に繋がる話が12編用意されていると思ってもらえばいい(トクマル自身は「Rum Hee」を"宇宙でイカが飛んでるイメージ"と言っていたが......笑)。取材でトクマルはこの新作の全体像について、「孤児院の子供たちが無邪気に遊んでるイメージ、そういうのは裏の裏の裏くらいにコンセプトとしてある」と語っていたが、チャイルディッシュなかわいさと同時に残酷なもの哀しさを孕んだお話という部分では、世間でも囁かれているようにグリム童話のような世界が音で描かれているとも言えそうだ。

 さしづめ、「ベッドルームの夢想家」あらため「音で綴る童話作家」というところだろうか。いずれにせよ、どんな曲解も許容するような強度と余白が、この作品にはある。

X-103 - ele-king

 アンダーグラウンド・レジスタンスについて日本で初めて紹介文が書かれたのは、たしか、阿部曜によるもので、ということはレイヴ・カルチャーの文脈ではなかったことは間違いない。スカムやインダストリアルなど、ハードコアやジャンク・カルチャーに流れていたメンタリティがセカンド・サマー・オブ・ラヴとはむしろ正反対の視点からURにシンパシーを寄せることで、おそらくはジム・フィータスやミニストリーなどの系譜に位置付けようとしたのだろう(よく覚えていない)。ジェフ・ミルズ自身がファイナル・カットのインナーでナチスのハーケンクロイツなどをデザインに使っているぐらいだから、あながちそれも間違いではないし、ファイナル・カットのサウンドに横溢しているものはそれこそインダストリアル・ボディ・ミュージックのデトロイト解釈といえるものだったから「半分は正解」ということになる。「残り半分」が、そして、ファイナル・カットにキーボードで加わったマッド・マイクの資質によって与えられた方向性である。デオダードやモンゴ・サンタマリアを思わせる開放的なラテン・フュージョンがジェフ・ミルズのそれを相殺せず、セカンド・サマー・オブ・ラヴという特殊な気運のなかで明確に時宜を得て、ざっくりと止揚された時にアンダーグラウンド・レジスタンスはテクノのポテンシャルを飛躍的に高めることになった。一時期のジャーマン・テクノがすべてURのものマネのようになってしまったことでもその影響力は推し量れる(クリストファー・ジャストでさえ完璧なフォロワーだった)。

 X-103はマッド・マイクとジェフ・ミルズの蜜月時代が終わったことを告げた作品だった。1993年に『アトランティス』がリリースされたとき、そこにはマッド・マイクの名前はなく、マイク・バンクスは早くもレッド・プラネットのシリーズやギャラクシー・2・ギャラクシーでテクノ・フュージョンの確立に邁進していた(レッド・プラネットがマイク・バンクスだとは3枚目か4枚目が出るまで誰も気づいていなかった)。Xシリーズは元々、URとロバート・フッドによる別プロジェクトとしてはじまり、『アトランティス』は結局、ジェフ・ミルズとロバート・フッドだけで製作されている。フッド=Hとミルズ=MによるH&Mとして、このタッグはその後も持続しているぐらいだから、Xシリーズを踏襲するよりもH&Mのファースト・アルバムとしてリリースした方が図式的にはすっきりしたはずだし、ふたりとも揃ってミニマル・サウンドへ移行する契機をなしたともいえるので、この出し方はけっこうナゾである(ちなみに2枚のシングルはいずれもミルズのアクシスからカットされ、CDヴァージョンには「セラEP」から3曲が最後にまとめて追加されている)。

 とはいえ、ハードコアとフュージンが分離し、そのダイナミズムのなかでミニマルへのベクトルも内包していた『アトランティス』がこの当時、どれほど音楽的に豊かなアルバムに聴こえたかということは、その後の展開を先に耳にしている世代には伝わりにくいのではないのだろうか。ロバート・フッドの役割がどの程度のものか、その詳細はわからないけれど、もしも、そのパーセンテージが低いとしたら、『アトランティス」はいわば、ジェフ・ミルズにとっては、ミニマルではないソロ作として珍しい部類のものになるだろうし、意外にもマイク・バンクスが加わっていたX-102よりも印象は華やかで、ブレイクビーツから離れたせいか、曲のつくりはストイックであるにもかかわらず、サウンドがその色気を失うことはない。それともそのようなニュアンスを与えているのがロバート・フッドだったのだろうか(?)。

 ちなみに英ワイアー誌が選ぶ100(+30)枚のアルバムにも97番目にノミネート。つーか、ケン・イシイも入ってるでよ。

Shop Chart


1

DJ HIKARU

DJ HIKARU Sunset Milestone SLEEPING BUGZ / JPN »COMMENT GET MUSIC
この春イチ押しMIX CD!!! BLAST HEADのDJ HIKARUによる「天然ゆるふわ型」MIX CDが完成!!! DJの現場からは絶大な支持を得てきたレコードショップ「Sleeping Bugz」による新規レーベルからの処女作!! 沖縄に移住した氏の、やすらぎというか、安寧というか、とにかく聴いてるコッチサイドも心地よくなってくる素敵な音。KIZMの60'Sサイケっぽいアートワークも間違いないっす。(I)

2

6TH BOROUGH PROJECT

6TH BOROUGH PROJECT Part Five INSTRUMENTS OF RAPTURE / UK »COMMENT GET MUSIC
いよいよ、高品質安定供給型・大量生産に入ったREVENGE。CRAIG SMITHとのユニット6TH BOROUGH PROJECTもPART 5です。これまでの作品もジャンルを問わない幅広いDJ達から、未だに使われ続けているトラック・メイキングのセンスは勿論今回も健在。"らしい"スローFUNKなフィリーディスコ調"A1"、70'S NY DISCOテイストの"B1"など。最高です。(I)

3

MARCELLUS PITTMAN

MARCELLUS PITTMAN S/T FIT SOUND / US »COMMENT GET MUSIC
再入荷!! まもなくMIX CDもリリースされる3 CHAIRSのメンバーでも活動中のM.PITTMANによる限定プレスの12inch。THEO PARRISHのダークでミニマルな側面を推し進めたような"A1"。さらにミステリアス具合に拍車をかけた"B1"。一転、スロウでメロウなLOOP TRACKの"B2"などを収録。DEEP HOUSE 最深部を知るにはここは外せない。(I)

4

DEADBEAT

DEADBEAT Radio Rothko AGRICULTURE / US »COMMENT GET MUSIC
BEAMSからの仮想LIVE MIXも記憶に新しい、NU DUB TECH アーティスト、デッドビートの最新MIX CD!!! これが、カナリの"ガチ"具合。BASIC CHANNEL関連のDUB TECHNOクラシックから、自身の音源、INTRUSION、MONOLAKE、QUANTECなどの現行エレクトリック・ダブシーンの牽引者のトラックをセレクトした、ミニマルダブの決定版!!(I)

5

FOUR TET

FOUR TET Sing DOMINO(US) / UK »COMMENT GET MUSIC
FLOATING POINT REMIX!!! 再び四つ打ちシーンからのフックアップで大絶賛中のFOUR TETのアルバムからの12inchカット!! 各所からREMIXERなどで引っ張りだこ、俄然注目を高めるFLOATING POINTによる、キックレスなのに無茶苦茶盛り上がるパーカッション・エレクトロニック・ミックス!!! TAKIMI KENJI PLAY@DOMMUNE!!!!(I)

6

UR

UR Somewhere In Japan EP UNDERGROUND RESISTANCE / US »COMMENT GET MUSIC
長年封印してきたプレジェクト「SOMEWHERE IN シリーズ」の名を冠した、「SOMEWHERE IN JAPAN EP」がリリース2009年夏、神戸に滞在した際に、MAD MIKEの「インスピレーション」から始まったアイディア。「5TH ELEMENTS」をテーマにしたB面。UR節炸裂のA面。。HI-TECH FUNKは止まらない・・・。(I)

7

SCB

SCB 20_4 SCB / UK »COMMENT GET MUSIC
セカンド・アルバム「TRIANGULATION」で新たなステージへとステップアップしたSCUBAによるミニマル・プロジェクトが登場! 既にSCUBA名義でもミニマル・テクノとの親和性バッチリでしたが、本作ではさらにその深度/強度を増しています! アンビエント・テイストのパッドと粗い質感のサンプルの対比がスリリングなタイトル・トラックがキラー! B面もじわじわと広がっていくシンセリフが覚醒感たっぷり!(S)

8

DONNACHA COSTELLO

DONNACHA COSTELLO Before We Say Goodbye POKER FLAT / GER »COMMENT GET MUSIC
実は既に10年を越えるキャリアを築いてきているアイルランドの才人、DONNACHA COSTELLOのNEWアルバム! 今回は自らのレーベル・MINIMISEではなく、STEVE BUGのPOKER FLATより。ドラマチックなシンセやストリングスを積極的に導入し、アレンジメントにこだわった豊かな音楽性が感じられるテックハウスの傑作! アートワークには来日時に撮った日本の風景(業務用エレベーター!)も使われています。(S)

9

VARIOUS ARTISTS

VARIOUS ARTISTS Tribute To Ken Collier WHITE / US »COMMENT GET MUSIC
デトロイトのアーチストであれば誰もが影響を受けたであろう伝説のDJ Ken Collierによる出所不明の1枚が入荷!多くのDJに愛されるWas(Not Was)の"1. Tell Me That I'm Dreaming"、ロンやフランキーのミックスでも知られるOn The Houseの"Ride The Rhythm" 、ガラージクラシックMichelle Wallace"Happy Days"という豪華なセレクト。オイシハナーシジャン!(Y)

10

MALIK PITTMAN

MALIK PITTMAN From Jzz To Jlb WHITE / JPN »COMMENT GET MUSIC
3 ChairsのメンバーM.PittmanのMIX-CDはBPM110前後のユル~いソウルやフュージョンを チル~スムースな内容。例えるならピークタイムで疲れた体をフロアにいながら癒してくれる、体にしみこんでくるようなクラシックスをピックアップ、80'sのアーバンメロウな香りが素敵です。4/9を皮切りにジャパンツアーもスタートとのこと。(Y)

CHART by JET SET 2010.04.06 - ele-king

Shop Chart


1

HENRIK SCHWARZ & KUNIYUKI

HENRIK SCHWARZ & KUNIYUKI ONCE AGAIN »COMMENT GET MUSIC
日独両雄によるハイ・レヴェルなコラボレート第2弾!!クニユキ氏の新アルバム『Walking in the Naked City』からの先行カットとなる本作はHenrik Schwarzが達者なヴォーカルを聞かせる他、板橋文夫氏がピアノで参加!!

2

HIKARU

HIKARU SUNSET MILESTONE »COMMENT GET MUSIC
渋谷、宇田川町のレコード・ショップ「Sleeping Bugs」がレーベルとして始動!まずは交流深いDJ達のミックスCDシリーズ「The Sound of Space」をリリース。初陣を華やかに飾るのはHikaru(Blast Head)!

3

FLOATING POINTS

FLOATING POINTS PEOPLES POTENTIAL »COMMENT GET MUSIC
☆☆年間ベスト候補筆頭☆☆ステッピー・ニュー・ディスコ超話題盤が遂に正規リリース!!Four Tetの"Sing"でもリミキサーを務め、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのFloating Points。片面プレス先行プロモが即完売した噂の新作が正規リリースされました!

4

LEMONADE

LEMONADE PURE MOODS »COMMENT GET MUSIC
遂に到着ー★人気爆発トロピカル・インディ・ダンス・ユニットがさらにぶちあげる猛烈最高マキシEP!!絶対マストでお願いします!!ごぞんじ西海岸ユニットLemonadeが、Vampire WeekendもFriendly FiresもEl Guinchoもなぎ倒す最新レコーディングス!!全5曲ともアルバム未収録、CDリリースなしです。

5

RAW DOPE POSSE

RAW DOPE POSSE LISTEN TO MY TURBO »COMMENT GET MUSIC
埋もれた88年の東海岸産、鬼レア・カルト・クラシックが入荷しましたッ!涙Muro & K-PrinceのMix Tape"Wkod The Golden Era Of HipHop"にも収録された一曲! 中古市場では1万円から2万円は当たり前!

6

POLLYESTER

POLLYESTER GERMAN LOVE LETTER »COMMENT GET MUSIC
Nite Jewel、jj、そしてドイツにはPolyester。またもや超最高です!!メチャクチャおすすめ★前作"Roung Clocks EP"が激ヒットとなったドイツの女性シンガー/トラックメイカー、Pollyester。待望のサード・シングルが到着しましたー!!

7

COBBLESTONE JAZZ

COBBLESTONE JAZZ THE MODERN DEEP LEFT QUARTET »COMMENT GET MUSIC
待望のアナログ盤が登場です!!先行シングル、そして先立ってリリースされたCD盤も絶好調な最強、フリースタイル・テクノ・ジャムバンドCollolestone Jazzのセカンド・アルバム!!アナログ盤も出ました。

8

FOUR TET

FOUR TET SING RMX PART 2 »COMMENT GET MUSIC
☆☆特大推薦☆☆爆裂ヒット美麗名曲"Sing"のリミックス12"第2弾が登場!!当店激推し新鋭Moscaによるアフロ・トライバル・ファンキー・リミックスと、レジェンドDelinquentに見出された新星Hardhouse Bantonリミックスを収録!!

9

ACTRESS

ACTRESS PAINT, STRAW AND BUBBLES »COMMENT GET MUSIC
Joy Orbison最新作でもリミキサーを務めたActressを、今度はZombyがリミックス!!☆大推薦☆スクウィー以降の耳にもフィットする8ビット・メランコリック・ニューディスコB1や、カラフル・サイケ・ダブステッパーZombyによる傑作リミックスA2を搭載ですっ!!

10

U.B.'S

U.B.'S STONE FOX CHASE 2009 (TODD TERRY REMIX) »COMMENT GET MUSIC
Area Code 615のカヴァーをTodd Terryがハウス・リミックス!あの有名なブルース・ハープのフレーズとブレイクがお馴染みの、Area Code 615"Stone Fox Chase"をTodd Terryがハウス化!!

Liars - ele-king

 長引くポスト・パンク・リヴァイヴァルは、この10年、ESGやワイヤー、スーサイドやザ・スリッツといったオリジネーターたちの新譜のリリースを促してきた。再発も相次いだし、多くのコンピレーション・アルバムもあった。ザ・ラプチャーやチック・チック・チック、レディオ4等々、リヴァイヴァリストとして多くのバンドが脚光を浴び、それがダンス・ミュージックとの新たな渡河点ともなり、それなりの成果をもたらした。が、多くはバンドはアイデンティティをポスト・パンクに規定され過ぎたのか、身動きがとれなくなっている。そこから抜け出る力とオリジナリティを持ったバンドは少なかったということなのだろう。

 ブルックリンの鬼っ子、ライアーズもそのなかのひとつとしてシーンに登場した。5作目となる『シスターワールド』、ここには相変わらずスーサイドもギャング・オブ・フォーもディス・ヒートもいる。が、この新作には変化もある。それらポスト・パンクとともにディアハンター的ともいるのだ。『シスターワールド』は『マイクロキャッスル』、あるいはアトラス・サウンドの『ロゴス』にまで繋がる。喩えるならば、クラクソンズとホラーズが『マイクロキャッスル』をやっている、そんなふうに聴こえる。つまりアルバムを通して聴こえる深いリヴァーブやフィードバック・ノイズが今作の色を決定づけているのだ。

 『シスターワールド』は、密教的でエキゾチックな諷経を思わせる、男声コーラスの微分音で幕を開ける。ライアーズは曲の頭で小芝居をやるというか、枕が長い。もったいぶる癖があるのだが、そこは愛嬌でもある。じきに強烈なビートが押し寄せてくる。シェラックやビッグ・ブラックにも通じる硬質でヴァイオレントなビート。鈍器で打ちつけられるようなビートだ。それはシェラックらとは逆で体が解放される感覚がある。「きたきた、思いっきり飛び跳ねたい」、そんなふうに体を刺激される。2曲めの"ノー・バリアー・ファン"もライアーズらしい。不穏なベース・リフ、のこぎりを挽くような気味の悪いストリングスとグロッケンが効いている。身体におよぼすビートの訴求力が半端ではない。

 問題は"アイ・スティル・キャン・シー・アン・アウトサイド・ワールド"や"トゥー・マッチ・トゥー・マッチ"といった曲に顕著な色濃いドリーミーな音のたゆたいだ。ブラッドフォード・コックスがここ数年試みている質感である。シューゲイジンな閉塞感と深いまどろみとでも言おうか。

 ここ数年、シューゲイザーというのはひとつの基調だ。ネオ・シューゲイザーと呼ばれる一群は、本家への自家撞着がモチベーションとなった特異なシーンを形成している。そこには自分たちの好きなシューゲ・レジェンドの音を自分好みにカスタマイズして制作した、コスプレ的な楽曲を見せ合う「シュー芸人」とでも呼びたいバンドたちが跋扈している。それらを別にしても、新しいバンドの音からそれと意識せずシューゲ・マナーなサウンドが検出されることが多い。90年代におけるディストーションのようなもので、リヴァーブやディレイは甦って時代の音となった。

 ディアハンターはそのようにシューゲイザーなるもののオープン・ソース化された状況を巧みに利用して、シューゲイズという狭い枠を取り外すような音や文体を獲得したバンドだ。『マイクロキャッスル』以降、「サイケ・シューゲイズ」なる珍妙な言葉が定着した感があるが、このことだ。もっとうまい表現がないものかとは思うが、「サイケ」も「シューゲイズ」もともにゼロ代後半のモードを引っぱった要素のひとつであり、その結節点にディアハンターがいる。

 ライアーズはまさにこの部分を拾っている。でなければ、今作は「この10年に活躍した、そこそこ実力のあるバンドの新作」以上の評価を得ることは難しかったのではないだろうか。どちらかというと先走った前衛志向に焦点を当てられがちな彼らだが、自分たちのオリジナリティを忘れずに、新しい音にすばやく反応するところには、したたかな力量をうかがわせる。

 "スクエクロアズ・オン・ア・キラー・スラント"や"プラウド・エヴォリューション"、"ジ・オヴァーチーヴァーズ"なども愛聴したい曲だ。これらの曲からはソニックス的なガレージ・ロックという参照点があることを再認識させられる。どちらかというと柔らかく中性的な音がひしめく現在のシーンにあって、こんなに臆面もないロックは久々だ。

 バンドは一時期ドイツに渡って楽曲を制作していたが、本作はロサンゼルスに戻ってのレコーディングとなった。テーマは「ロサンゼルスで生き延びるために人びとが作り出したオルタナティヴ・スペース」=「シスターワールド」。なんとも後味の悪い、しかしどことなく引きのある設定である。限定盤には、アラン・ヴェガやトム・ヨークをはじめ、メルヴィンズ、スロッビング・グリッスルのカーター・トゥッティ、ブロンド・レッドヘッドのカズ・マキノ等々の豪華なリミキサー陣によるリミックス・ヴァージョンが収録されている。彼らの来歴をきれいに証すような納得の顔ぶれだ。やっぱりというべきか、アトラス・サウンド名義でブラッドフォード・コックスも加わっている。

F - ele-king

 先行リリースされた同タイトルの12インチ・シングルにおけるアントールドのリミックスがすでに話題となっているフレンチ・ダブステッパー、フォローレン・アウペティ、通称"F"のデビュー・アルバムだ。Fはフランスのシーンにおける草分けのひとりで、彼の地で最初のダブステップ・レーベル〈セヴン・レコーディングス〉の看板アーティストである。デビューは2008年で、この年にはFともっとも作風が近い2562がファースト・アルバムを発表している。

 『エナジー・ディストーション』は、現在のダブステップの広がりを確認する1枚としてもすでに話題となっている。僕と同年代の人間はフレンチ・テクノのパイオニア、ロラン・ガルニエと彼の〈F.コミュニケーションズ〉を重ね合わせてしまうだろう。またしてもデトロイトからの影響が深く刻まれているからだ。
 あるいは、このアルバムはいまのダブステップ・シーンのある局面を強調している。ガラージとテクノの中間に位置しながらベルリンのミニマル・ダブが響いているという例の路線、2562やマーティン、あるいはロンドンからベルリンへ移住したスキューバらが押し進めている路線だ。そういう意味で目新しさはないと言えばない。ダブ処理もずいぶんと素朴で、真っ当と言えば真っ当である。が、それでも『エナジー・ディストーション』がシーンで温かく迎えられているのは、個々のトラックの出来の良さゆえだろう。リズムのプログラミングのセンスが良く、アントールドのような奇抜さはないが、素直なビートの心地良さがある。パーカッシヴな響きと、控え目だが効果的な電子音とのブレンドもうまい。すべてのトラックは滑っていくようにグルーヴィーで、それはこの人がダンスフロアからやって来たことを知らしめているのだろう。派手さはないが、DJやダンサーたちに愛される類の音楽なのだ。もちろん、ベーシック・チャンネルやチェイン・リアクションのように家のなかでも繰り返し再生されることにもなるはずだ。
 "シフト"はエイフェックス・ツインの初期のアンビエントを彷彿させるようなキラキラとした響きを有している。"アナザー・プレイス"はガラージのリズムを下地にしながらホコリにまみれた路上から遠く離れ、クリーンで透明感のある空間で鳴っている。"ホログラム"はジェフ・ミルズめいたパーカッシヴなミニマリズムのトラックにダブのベースとエフェクト処理をかませている。"スペースウォーカー"のようなトラックではミニマル・テクノのクリシェをそのまま使っているものの、リズムトラックが入ってきた瞬間にそれを新鮮な次元へと瞬間移動させる。

 アートワークも秀逸だ。UKダブステップのダークなイメージとは異なる、まるでラウンジ・ミュージックのジャケットのようなエレガントなデザインである。こうした上品な洒落っ気が彼の抽象的な音楽にも反映されているように感じる。何はともあれ2010年のダブステップにおける最初の成果だ。しばらくのあいだ僕はこのアルバムの良さを訴えることになるだろう。

ALMADELLA - ele-king

 カラフトがはじまった頃に到着。入口に並んでいるとDJを終えたばかりのリラ(このパーティの主役のひとり)が「うぉうぉうぉ~」と叫んでいる。店に入るとまだ早い時間なのにかかわらず酔っぱらったシロー・ザ・グッドマンがいる。同じ日に〈エイジア〉でまわしていたそうだ......が、まだ12時をまわったばかりで、〈モジュール〉のなかの雰囲気はパーティはこれからだといった感じだ。
 ビールを持って下のメイン・フロアに入る。良い感じに埋まっているフロアを強引に横切って、DJブースのカラフトのところまでいく。カラフトのダビーなセットにダンサーたちは心地よく体を揺らしている。

photo Yasuhiro Ohara
  photo Yasuhiro Ohara


 〈ALMADELLA〉はアンダーグラウンドのエレクトロニック・ミュージックにおいて前向きに新しい要素を取り入れていくパーティで、東京でもっとも早い時期からテクノとダブステップとのブレンドを試みていたひとつとして支持を得ている。静岡の〈ラジシャン〉周辺ではこういうのをシンプルに「音好き」と表現する。音を聴くのが好き、音を聴くのを面白がっている、積極的に面白い音を求める、そういう人間のことをざっくり「音好き」と呼ぶ。で、僕はちゃんと......というかたまたま偶然なのだが、1ヶ月以上前からリラとケイヒンのミックスCDを聴いて予習してきていたのだ。そしてもちろん、シャックルトンが〈パーロン〉から発表した『スリー・EPs』も聴き込んでいる。それらは「音好き」を惹きつけるには充分な内容だ。  

 カラフトがコントロールするテクノ・アンダーグラウンドの途中で酒を買いに上の階に行くと、吉田タロウと遭遇した。こういう場で彼と会ってしまうとテクノやダブステップどころではない、サッカーの話になってしまう。彼はFC東京の近況を話し、僕は清水エスパルスと小野伸二の素晴らしさについて語った。実は僕はその翌日の昼過ぎから等々力である川崎フロンターレとの試合に行かなければならなかった。正直な話、生で小野伸二のプレイを見れるのが楽しみでならなかった。
 と同時に、僕には深い悲しみがあった。大好きだったサッカー・ジャーナリストの大場健司氏が数日前に他界したのである。氏は、静岡のみで刊行していたサッカー雑誌『Goal』の編集者を経て、清水エスパルスをずっと追っていたジャーナリストだ。分野は違えど、メディアの人間として僕は彼の活動を本当に尊敬していたし、彼の運営する『Sの極み』という有料サイトの会員でもあった。誠意のある書き手だったし、愛情と批評精神を忘れない人だった。僕の友人であり脚本家の上杉京子が同級生だったこともあって、近い将来、僕は彼に会うはずだった。いや、彼と会えなくても彼の文章がこの先もずっと読めれば良かった。僕は彼の読者のひとりだった。自分にとって大切な書き手をひとり失うことは、途方もなく悲しいことだ。

 金曜日の深夜のダンスフロアに戻ろう。シャックルトンがいたので、軽く挨拶をした。あなたの作品が好きだと話し、ハルモニアのリミックスも良かったと伝えた。そしてふたたびフロアに戻った。フロアは満員電車状態だった。カラフトからシャックルトンに代わると歓声が起きた。彼のトレードマークでもあるトライバルなパーカッションがフロアを揺さぶると、歓声はさらに上がった。UKファンキーのダークサイドとでも言いたくなるような彼のシンコペーションするドラム・プログラムはオーディエンスを容赦なくダンスへと向かわせる。

マイクを持って叫ぶドラムンベースの王様!photo Yasuhiro Ohara


 あるDJから興味深い話を聞かされた。いまDJがダブステップをかけたら仕事を失うという、そういう話だ。その人の"現場"では、セットのなかで2割ぐらいしかプレイできないという。なるほど、それはたしかにつらい。DJにとってその手の挑戦は慎重にならざる得ないものだろう。
 とはいえ、良い時代になったものだ、とも思った。"仕事"という言葉が遣えるのだから。僕がこの音楽と関わりはじめて、田中フミヤがまだ19歳でテクノをまわしはじめた頃は、良くも悪くもこれを"仕事"という基軸で考えたことはなかった(だからまあ、商売が下手なままきてしまったのだけれど)。
 また、90年代初頭では、多くのクラブにおいてテクノはつまはじきものだった。NY経由のハウスが正当であり、アシッド・ジャズが人気があって、テクノなんてものは既存のクラブ・カルチャーからは相手にされていなかった。が、当時の僕たちには自信があった。新しい世代にとってテクノはひとつのシグナルである。連中にはわからないだろう、しかし、僕たちより下の世代はこの狂った音楽を好むに違いない......。数年後、その通りになった。
 ダブステップも移りゆく時代のシグナルなのだ。その晩もちゃんと新しい「音好き」たちがフロアに詰めかけていたじゃないか。

[Techno] #4 by Metal - ele-king

1. Oni Ayhun / 004 | Oni Ayhun (GER)

E王 あーっ......すっかり騙された......とんだ深読みだった。ベルリンのアンダーグラウンドから突如出現し、ミステリアスなアートワークとコンセプチュアルなサウンドが話題のオニ・アイフン。このレーベルから出された001はアシッド・ベースが独特のねじれを持ってうごめくミニマル・テクノと、ブライアン・イーノとのコラボレーションなどでも知られる現代音楽家ジョン・ハッセッルの電子トランペットをサンプリングした、深い音響のダーク・アンビエントだった。特殊なエッヂングが施されたヴァイナルとともに、それはコアなリスナーのあいだで即座に話題となった。002ではドレクシアを髣髴とさせるような、ブレイクビーツ主体の不穏な気配のデトロイティッシュ・テクノを聴かせ、プレス・シートにはチリ出身のロシア系ユダヤ人映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーの処女作『ファンド・アンド・リス』からの引用がプリントされていた。

 それから、ジョン・ゾーンにリスペクトを捧げるユダヤ系ドイツ人のテクノ・プロデューサーで、ステファン・ゴールドマンの〈マクロ〉からリリースされたパトリック・カウリーの未発表音源のリミックスを手がけたことから、ユダヤ系のトルコ人(ayhunはトルコ人の姓名に良く使われている)かと思っていたのだが......。  003では北欧の自然をアートワークに、ギャラクティックなシンセが印象的な力強いダンストラックと、メランコリックなビートダウン・トラックだった。〈ワークショップ〉のシリーズにも近い質感で、〈ハードワックス〉系の影をちらつかせた。そして昨年ベルリンでのライヴでその正体がようやく明らかになった。オニ・アイフンはなんと、スウェーデンの姉弟によるエレクトロ・ユニットのザ・ナイフの弟、オーロフ・ドレーイェーの変名プロジェクトだった。ミステリアスなプロモーションは周到に仕組まれた偽装だった。

 ザ・ナイフは、姉であるカーリン・ドレーイェーのヴォーカルをフィーチャーしたニューウェイヴ・リヴァイヴァル系のダンス・ユニットで、"Silent Shout"の大ヒットによってスウェーデンのグラミーを受賞している。ポップ・フィールドで活動する彼らだが、シングル盤のリミックスではレディオ・スレーヴやトレント・モーラー、トロイ・ピアースなどをフィーチャーし、テクノのリスナーを意識したプロモーションを展開していた。

 また、オーロフ・ドレーイェーは本人名義でナイン・インチ・ネイルズの"Me,I'm Not"のリミックスを手がけているが、ここではミニマルを基調とするアンビエント・ハウスを披露している。そんな彼がソロとして自分の音楽の探求に向けたプロジェクトがこのオニ・アイフンなのだ。

 004では、まずランダムに動くアシッド・ベースと突発的なノイズをアクセントとするミニマル・テクノがある。その裏では、ファットでローファイなブレイクにエコーがかかり、じょじょにミニマルへ・テクノへ変化する。BPMの同期用いたトラックだ。音響的にも深みがある。プレスシートにはこの2トラックが引き起こす化学反応が論文調にまとめられ、「NaHCO3 + H+ → Na+ + CO2 + H2O」なる化学式で表されている。まだ公にはその正体を公表してはいないため、これも彼らしいフェイクのひとつだろう。そうしたギミックは抜きにしても、このプロダクションは素晴らしい。同じく今月リリースされた〈コントラ・ミュージック〉からのジェイソン・ファインのリミックスも秀逸だ。

2. Billy Shane / Runner EP | Stead Fast (GER)

 デッド・ビートやイントリュージョンとともにミニマル・ダブを発展させるビート・ファーマシーことブレンダン・モーラーがスタートした注目の〈ステッドファスト〉から5番目となるリリースは、フランソワの〈ディープ・スペース〉一派から頭角を現し、独自のダブ音響を拡大するブルックリン出身の新鋭、ビリー・シェーンによるストイックなミニマル・ダブである。ニューヨークで生まれ育ち、ボビー・コンダースやフランキー・ナックルズ、初期のシカゴ・アシッドに影響を受け、長年DJとして活動していた彼ではあるが、その作品には回顧的な色合いはいっさいない。〈ベーシック・チャンネル〉を経由して新たな発展を見せるニューヨークのIMAを伝えるサウンドとなっている。

 表題作の"Runner"は硬質だが柔軟なグルーヴを刻む。現在のミニマル・ダブの雛形とも言えるクアドラントの傑作"infinition"が甦ったようだ。下する中域のシンセが広がりを見せ、DJユースで使いやトラックに仕上がっている。低域が強調されダビーで音響的な深みがある"Hole"、ベン・クロックのようにタイトなグルーヴのアシッド・ハウスを聴かせる"Fach"、収録されているすべてがフロアに直結したミニマル・テクノだ。ブレンダン・モーラーによるエコロジスト名義でのリミックスは、ストレートなミニマルを聴かせるオリジナルをねじ曲げて、土着的なグルーヴがうなりをもったシンセとともに広がる、プリミティヴでトランス感のある曲に変換している。

3. Mike Shanon / Under The Rader | Cynosure (GER)

 モントリオール出身でベルリン在住のミニマル・プロデューサーであるマイク・シャノンの運営する〈サイノシュアー〉が昨年発足から10周年を向かえた。月日が経つのは本当に早い。ゼロ年代のテクノの最前線にはアクフェンに端を発するモントリオール勢がいつもその名前を連ね、10年のあいだにテクノの世界地図は大きく変わった。マイク・シャノンは大きなヒット作こそ出していないものの、マシュー・ジョンソン、デット・ビートとともにアクフェンが切り開いた土壌を拡大してきたアーティストのひとりである。

 今回のリリースはレーベルの10周年を記念したダブル・パックの10インチで、そうそうたる面子のリミキサーを起用されている。オリジナルはいままでにはないアプローチを見せたもので、ロソウルのシングルにも起用されていたベルリン在住の女性ヴォーカリスト、ファディラがジャジーに歌っている。マイク・シャノンらしいアシッド・ベースにファディラのヴォーカルが絡む。トランシーに疾走する切れのあるミニマル・テクノだ。

 リカルド・ヴィラロボスによるリミックは、もはや一聴しただけでわかる彼らしいリズムのミ二マル・ハウスだ。ヴォーカルの抜き差しとともにじょじょに変化していく、本当に細かいエディットが施されたもので、〈パーロン〉からの作風にも近く、そしてまたキャシーのトラックにも近い質感だ。デット・ビートのリミックスは原曲のトランス感を生かしながら、独自のベース・ミュージックへと拡大している。〈ブッシュ〉や〈プラスティック・シティ〉などに作品を残しているロッゾことマウンテン・ピーポーのリッミクスはまさに現在のフロアの気分を捉えたもので、オリジナルのヴォーカルを生かしたグルーヴィーなテック・ハウスはぞくっとするほど美しい。

4. To Rococo Rot / Forwardness Fridays | Domino (UK)

 トゥー・ロココ・ロット(上から読んでも下から読んでも)はベルリン出身のロナルドとロベルトのリポック兄弟とデュセッルドルフ出身のステファン・シュナイダーによる3人組みによるエレクトロ・アコースティック・バンドだ。1995年に〈キティ・ヨー〉からのデビュー、〈サブ・ポップ〉や〈ファット・キャット〉など、ポスト・ロックやエレクトロニカのフィールドからのリリースを重ね、現在は主に〈ドミノ〉を中心に活動している。ドラムとパーカッションを担当するロナルド・リポックはタルヴェルターのメンバーとして〈モール・ミュージック〉からダビーなダウンテンポをリリース。ギターを担当するロバート・リポックは〈ラスターノートン〉から美しいアンビエントをリース、現代音楽の方面からの注目を集めている。ベースのステファン・シュナイダーはマップステーションとして〈シュタオプゴルド〉から秀逸なエレクトロニカをリリースしている。

 今回のシングルは〈ドミノ〉からリリースされたニューアルバム「Supeculation」からのファースト・カットで、リミキサーにはダブステップとテクノを行き来する、シャックルトンとトラヴァーサブル・ワームホールが起用されている。両リミキサーの起用もさることながら、オリジナルの"Forwardness"は優雅なアンビエンスに溢れた傑作で、彼ららしい温かみのある素晴らしい演奏が収録されている。レコーディングはデュッセルドルフにあるクラウトロック・バンド、ファウストのスタジオでおこなわれ、ファウストのメンバーであるヨーヘン・イルムラーがピアノやオルガンで参加したという。どこまでも多幸感に満ちたアンビエント・ハウスは、同じくデュッセルドルフで活動していたクラウト・ロック・バンド、ノイ!のメンバーであったミハエル・ローターのソロ作を髣髴とさせる。

 そのいっぽうでは、ホワイト盤にスタンプだけの12インチが話題を呼び、テクノやダブステップのリスナーに注目されているトラヴァーサブル・ワームホールのリミックスも面白い。原曲のピアノのリフを上手く生かしながら、ダークで落ち着いたフロア・フレンドリーなダブステップに変換している。このトラヴァーサブル・ワームホールは90年代にハード・テクノ界を席巻したフランキー・ボーンズの実弟で、〈ソニック・グルーヴ〉などからハード・ミニマルをリリースしていたアダムXの覆面プロジェクトである。

 シャックルトンによる"Fridays"のリミックスは、エクスペリメンタルなオリジナル(シーケンスされたAMMとでも言おうか)をストレートに加工し、ディストーションのかったギターのリフに演説調のヴォーカルを絡ませながら、じょじょにトランスしていく。ダークで力強いダブステップだ。さまざなアイデアの詰まった素晴らしい12インチだ。

5. Floating Points / Peoples Potential | Eglo Recording(UK)

 クラブ・ジャズとダブ・ステップとテクノを結びつけ、さまざまな方面から注目を集めるフローティング・ポインツことサム・シェパード。 〈R2〉からリリースされたデビュー・シングル"Love Me Like This"では、セオ・パリッシュのようなスローなファンクを聴かせ、ジャイルズ・ピーターソンをはじめとするクラブ・ジャズ系のDJからの支持を集めている。〈プラネット・ミュー〉からリリースされた"J&W Beat"は初期のブラック・ドックにも似た雰囲気のトラックで、新世代のインテリジェント・テクノとして、ダブステップやテクノDJからの支持を集めている。

 あるいは、自身が立ち上げた〈エグロ・レコーディング〉からの"vacume boogie"は70年代のジャズ・ファンクが変調したような、そしてアナログ・シンセの響きが独特なビートダウン・トラックで、オランダの〈ラッシュ・アワー〉系とも近い作風だった。

 そして、今月〈ドミノ〉から出たフォーテットの"sing"のリミックスでは、メランコリックな原曲の雰囲気を上手く生かし、バウンシーなテクノへと変換した。また、〈ニンジャ・チューン〉から出たボノボの"Eyes Down"のリッミックスでも、UKガラージやダブ・ステップからの影響をほどよいアクセントとする、バレアリックで美しいエレクトロ・ブレイクを披露した。

 すべてのリリースはここ1年以内のものだ。いかに彼の急速に頭角を現しているかがわかるだろう。

 ここに挙げた〈エグロ〉からのニュー・シングルではジャジーなピアノとシンセが煌めく、デトロイト調のブレイク"peoples potencial"と、シカゴ・ハウスに接近し、ファットなベース・ラインにフェンダーのローズ・ピアノが絡むジャジーで力強いアシッド・ハウス"Shark Chase"が収録されている。彼はUKアンダーグランドの音楽シーンを自由に歩きながら、ジャズやレアグルーヴをもとにデトロイトを解釈しているのだろう。イーブンキックにとらわれない曲を創出するフローティング・ポインツは、アズ・ワンやスタシスの正当な後継ともいえるのではなかろうか。

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