「大量破壊兵器(The Weapons Of Mass Destruction)」ではなく「数学破壊兵器(The Weapons Of Math Destruction)」というのが、バッファロー・ドーターにとって4年ぶり通算6枚目となるアルバムのタイトルである。なんとも含みのある言葉を冠したもので、これまでのバッファロー・ドーターを思えば今回の刺々しい政治性は、どうにも異質に思える。とにかくバッファロー・ドーターは帰ってきた。パンキッシュになって。
シュガー吉永、大野由美子、山本ムーグの3人によって1993年に誕生したこのバンドは、1996年にはビースティー・ボーイズの主宰する〈グランド・ロイヤル〉と契約を交わしている。そして、伝統的なロックのいかめしさに対するアンチ的なセンスとミニマルでダンサブルで独特のメロディ(ときに可愛いメロディ)を持つサウンドによって、コーネリアスや嶺川貴子、少年ナイフらとともにUSインディ・シーンにその名を刻んだ。カット・マスター・カット(ドクター・オクタゴンに参加していたDJ)やコーネリアスらによるリミックス・ヴァージョンでも知られる1998年の"Great Five Lakes"がバンドにとっての最初のピークだろう(というか......、セカンド・アルバム『ニュー・ロック』に収録されたこの曲が、僕が最初に好きになった曲なのです)。
クラウトロックとヒップホップの幸福な出会いとでも言えそうな"Great Five Lakes"を聴いていると、誰もいない広い草原へと瞬間的にテレポートされたような気分になる。とにかくそれは新鮮で、どこまでも心地よい。
![]() Buffalo Daughter / The Weapons Of Math Destruction Buffalo Ranch AWDR/LR2 7月7日発売 ¥2,500(税込) |
『ザ・ウェポンズ・オブ・マス・ディストラクション』は、そうした陶酔を遠い過去においやるアルバムとも言える。実験精神旺盛なこのバンドはいま、世界を覆う暗い風――しつこいけど、10年前にレディオヘッドやゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラー!が描いたもの――を見つめている。その暗さをバネに、力強く前向きな音楽を創出した、それが今回の新作である。
危険を冒した冒険者の生還のように、バッファロー・ドーターはいま晴れ晴れとしている。バンドのトレードマークとも言えるリフは鋭く鳴り、ビートはパワフルに響いている。このバンドが素晴らしいのは、いまでも音楽には前進の余地があると考え、その困難さに挑戦している点にあるが、その実験をいちぶのマニアにしか通じないものではなく、よりポップに捉えているところにある。それがコーネリアスとの共通点であり、そして相違点はバッファロー・ドーターにはどうしても伝えたいメッセージが込められている――ということである。『ザ・ウェポンズ・オブ・マス・ディストラクション』はそういう意味で、広く聴かれるべき作品となった。
3次元世界は、5次元からの見えざる力によって動かされていると。だから、いまの世界が悪い方向にいっているのも、5次元からの力によるものじゃないかという結論が出たんですよ。
■最初からコンセプトがあってはじまったんですか?
大野:ぜんぜん。もうー、とにかく出したい。4年も空いてしまって、もう出さないと。「出したい」という強い気持ちからはじまりました。コンセプトも何もなく、とにかくアルバムを作るんだと。
■4年という月日はどんな意味がありましたか?
大野:ホントは2年前に作っていたはずなんですけど、契約していた〈V2〉がなくなったんですよ。
■そうでしたよね。
大野:そのゴタゴタで出せなかっただけで。
■本来だったら2年前に出てたんですね。
大野:出てましたね。
■内容的にも同じモノが?
大野:たぶん違うと思う(笑)。
■じゃあ、2年前に録音していた音源は今回入っているんですか?
大野:いや、だから制作に入る前にレーベルがなくなっちゃったら。
■青写真もない?
大野:ない。そろそろ作ろうかっていうときになくなったから。
■4年のブランクはバンドにとって気になりましたか?
大野:気にはならなかったけど、レーベルを探すっていうのが大変だった。そのストレスはあった。
■音楽的な方向性で迷ったということはなかったんですか?
大野:それはなかった。それよりも実務的なことというか、いままではマネージャーがいて、バンドの3人がいて、それで話していたことが、今回は3人で話して、それをディストリビューターに伝えて条件を詰めていっていって......そっちのほうが大変だった。
吉永:この4年も、ライヴはコンスタントにやっていたし、フェスにも出ていたし、ただとにかく、アルバムを出す地盤となるレーベルを探すということに奔走したというか、これはものすごいエネルギーがいることなんですよね。私たちにとってはすごいエネルギーがいることだった。はっきり言って面倒くさいんですよ。
■まあ、それはそうですよね。
吉永:そういうのはあったんですけど、まあ、最終的にはもうレーベルを探すのを止めてしまって、自分たちでレーベルをはじめて、「バウンディみたいなディストリビューションを持っているところでやるのがいいね」と決まったのが......半年前とか?
■そのときはもう音はできていたんですか?
吉永:いやもう、自分たちのなかでは時間切れというか、「待っていても仕方がないから、とにかく音を作っちゃおうよ」、「最終的には自分たちで出すことができるんだし、どうにかなるよ」と。それで作りはじめたんです。
[[SplitPage]]だから、今回はラップでもやっちゃおうかなと。ただし、ラップをやるには言いたいことが明確にないと意味がないじゃないですか。言いたいことがしっかりあって、力強い音楽になっていないと意味がないから
![]() 山本ムーグ (photo by Yano Betty) |
■言いたいことがいっぱい詰まったアルバムだと思ったんです。いままでのなかでもっともメッセージ性の高い作品なんじゃないかと思うんですけど、そのあたりはどうですか?
大野:メッセージ・バンドではないんだけど、いままでの作品とくらべたら強く意志が出ていると思う。こういう時代、はっきりさせたほうがいいかなと。
■で、資料に書いてある物理学の話なんですが、どういう経緯で、数字や物理をテーマにしようということになったんですか?
大野・吉永:(ムーグ山本を指さす)
■はははは、ここでムーグさんの登場なんですね(笑)。
山本:先にコンセプトがあったわけじゃないんです。フリーハンドで絵を描くようにはじまっているから。ある程度の数、曲ができあがって、イメージがはっきりしない素材もたくさんあって、そのときにね......。その前からなんとなく「物理がいいね」という話はあったんですよ。シュガーなんかも物理とか言い出していて、それで3人で調べだしたというか。そしたらリサ・ランドールさんという女性の物理学者の話があって。
■どういう方なんですか?
山本:アインシュタイン以来の発見をするかもしれないという40代の女性で、新しい物理学によって「世のなかこういうことになっているんじゃないか」という仮説を立てている方なんですね。彼女自身もチャーミングな人で、とても好感を覚えたんですけど、僕のなかでローリー・アンダーソンと似ているというか(笑)。ティナ・ウェイマス、ローリー・アンダーソン、リサ・ランドールという並びでね。
一同:ハハハハ。
山本:すごくスマートで、ロックな感覚を持っているというか。
■リサさんが言っている物理学の新説はどういう内容なんですか?
山本:アインシュタインが相対性理論を打ち出したときに解明できなかったことがあったんです。地球の重力は本当だったらもっと強いはずだったという話なんですけど。しかし現実のそれは弱くなっている。じゃあ、なぜそう弱くなってしまったのかと。それをアインシュタインは解明できてなかったんです。
■本当だったらもっと強いはずだったと。
山本:そうなんです。他の力にくらべて相対的に弱いんです。
吉永:力というのは4種類あって、そのなかのひとつが重力なんだけど、他の3つにくらべて重力は桁違いに力が弱いんですって。たとえばクリップがあって、磁石を近づけるとピッと上の磁石にくっついてしまう。磁石ごときに負けてしまうなんて、それは重力が弱いことの証だと。そう言われると「なるほど、たしかに」と。
大野:アインシュタインもそこを解明しようとしたんだけど、解明できているようで実は矛盾があるという、いままでも「アインシュタインのここがおかしい」といろんな指摘があったんだって。
吉永:そこにリサ・ランドールさんが切り込んだのが"extra dimensions"っていう考え方で。
山本:5次元というのをいったん仮定して、力というのは5次元から3次元におよんでいると。3次元のことを考えても解明できないことが、5次元という仮説をたてることで解明できた。その仮説をいま立証しようとしているらしいんですけど、その話が面白かったんですよ。要するに、リサ・ランドールさんは僕らに新しい感覚を与えてくれる人で、新しいミュージシャンみたいに思えたんです。雰囲気も良かったし。
■「物理という絶対的にパワーに対するアート宣言」というキャッチとどういう風に結びつくんですか?
山本:3次元世界は、5次元からの見えざる力によって動かされていると。だから、いまの世界が悪い方向にいっているのも、5次元からの力によるものじゃないかという結論が出たんですよ。
■はははは。それ、どういう解釈ですか(笑)。
吉永:勝手な解釈。
山本:でもそういう風に解釈したほうがすっきりするじゃないですか(笑)。個人的な思い入れや神秘主義に逃げるよりは。いったん物理学的には、とにかく3次元は5次元の影響を受けているということになったんですよ。
■普天間基地問題も5次元の影響ですか?
吉永:そうですよ。悪いことはぜんぶそっから来ている(笑)。
山本:そう、あくまでそういう解釈なんですよ。だからといって、悪くなっていることをそのまま終末論的には嘆いても仕方がないし、現実的にはそこは要所要所で戦っていかなくてはならないというか、そこはもう、物理学ではなく、もうロック思想になるわけです。
■なるほど。ちょうど今日はここに取材に来る前に鳩山が辞任しいて、「まあ、結局こんなもんか」と思ったんですけど、民主党もあれだけ期待を背負っておきながら、ホントに「まあ、結局こんなもんか」って感じですよね。みんなすごく期待していたでしょ。
大野:なんでこう簡単に辞めてしまうのかとは思いましたね。
吉永:結局さ、政治ってパワーゲームだもんね。私も最初は、鳩山さんを応援していた。
■最初はいろいろ革命的なこと言ってましたからね。
吉永:掲げていることは面白かったし、自民党は違うという意味で面白かったんだけど、民主党もだいぶ問題がありそうだなと思っていて、「やっぱりね」という感じでそこが露呈したよね。鳩山さんもがんばれば良かったんだよ。だけど、がんばれない事情があったんだろうね。なんかさ、「がんばったんだけど、ダメでした」みたいな、言い訳がましいじゃない。「あんた奥さん宇宙人なんだから、そこをタテにがんばればよかったのよ」と思うね。
■はははは、そうかも(笑)。
吉永:私はそこにいちばんがっかりした。やっぱさ、首相なんだからさ。
大野:最初は顔つきも良かったし、「いまキテマス!」って感じがあったんだけど、最後のほうもう、声も小さくなってしまって。ダメかなっていう雰囲気はもうだいぶ前からありましたよね。
■だから、そういう意味では、バッファロー・ドーターの新しいアルバムは実にタイムリーに出てしまうというか。
吉永:はははは。
■ホントにそうでしょ。
吉永:ちょうど参院選のタイミングぐらいかな(笑)。
[[SplitPage]]自作自演の歌は、あの人、昔からやっているんだけど、「次は私の自作自演、マンハッタンの自殺未遂常習犯の歌を歌います」、で、みんな「ワー!」とか(笑)。それがすっごい歌なのね。もう、譜割りが尋常じゃない。
![]() シュガー吉永 (photo by Yano Betty) |
■ホントでも、久しぶりにバッファロー・ドーターの過去のアルバムを聴き返してみたんですが、今回のアルバムはすごくソリッドな音というか、カンがパンクをやっているみたいな音だと思ったんですね。ところが資料を読むと、ムーグさんが「ヒップホップをやりたかった」と書いてある。
大野・吉永:ハハハハ。そこ必ず突っ込まれるね(笑)。
山本:なんでそんなこと言ったのか......(笑)、アルバムを作るときに、いままでとは違うことをやりたいというのがあるんです。その前の『ユーフォリカ』(2006年)では僕が歌ったんで、次はラップかなと。そういう風に攻めていきたいというか、アグレッシヴな姿勢をですね......(笑)。
![]() Buffalo Daughter / Euphorica |
■『ユーフォリカ』は"歌"なんですか?
山本:"歌"というか、それまでターンテーブルでやっていたことを声でやるという。だから、今回はラップでもやっちゃおうかなと。ただし、ラップをやるには言いたいことが明確にないと意味がないじゃないですか。言いたいことがしっかりあって、力強い音楽になっていないと意味がないから。
■ああ、たしかに"Rock'n'roll Anthem"や"The Battle Field In My Head"みたいな曲はラップと言えばラップなのか......。
山本:メロディを聴かせるよりも、そういうことだと思いますよ。
■なるほど。制作中に勇気づけられた音楽があったら教えてください。
大野:勇気づけられたというか、「私もやりたい」と思ったのが、ソニック・ユース。「ギターを弾きたい」と思った。
■ああ、昨年の『ジ・イターナル』でしたっけ。
大野:あんな風には弾けないけどね(笑)。でも、弾きたいと思った。
山本:僕は......ここ何年もDJ見てないんですけど、リッチー・ホウティンだけは見ているんですよ。見てますか?
■いや、ぜんぜん見てない。
山本:見たほうがいいですよ。リッチー・ホウティンは、先端の物理学を理解している気がしますね。そのうえでやっている気がします。ずば抜けて共感を覚えていますね。
■どこがですか?
山本:YouTubeに"We (All) Search"という曲のPVがあがっているんですけど、それを見たときに「あ、この人もう感覚的に次の流れつかんでいる」って思ったんですよね。重力みたいなものをすごく感じられたし......、あの人、スタジオに籠もって電子音楽作ってますけど、友だちをスタジオに入れて楽しそうにやってますけど、そのいっぽうで世界中まわっていて、そのライフスタイルをふくめて、すごく正しいと思う。
■シュガーさんは?
吉永:影響を受けたというか、「きた!」と思ったのは、草間彌生さんが自作自演の歌というの見たときで。
■それは濃いっすね。
吉永:自作自演の歌は、あの人、昔からやっているんだけど、実際、譜面にもなっているんだけど、それを見たんだけど。「次は私の自作自演、マンハッタンの自殺未遂常習犯の歌を歌います」、で、みんな「ワー!」とか(笑)。それがすっごい歌なのね。もう、譜割りが尋常じゃない。歌詞に対する譜割り、メロディもリズムそうだけど、とにかく尋常じゃない。ものすごいパワーがある。「これは何だろう?」というね。すごく影響受けたかな。
■へー。
吉永:要は、もうカタチじゃないし、普通に考えられる譜割りじゃなくて、すべてに逸脱している。でも、パワーだけはすごい(笑)。
■なるほどねー。いまの話、すごくよくわかったというか、ソニック・ユース、リッチー・ホウティン、で、草間彌生。
山本:完璧ですよね。
■見事に『ザ・ウェポンズ・オブ・マス・ディストラクション』を語ってますね(笑)。
山本:素晴らしい。
[[SplitPage]]大手レコード会社が息切れしているなか、インディーズががんばっているわけでしょ。一時は「これで食ってけるのかな」と思っていたけど、意外とみんなしっかりやっている。
![]() 大野由美子 (photo by Yano Betty) |
■あのー、90年代にくらべてゼロ年代の10年間の音楽シーンにはどんな印象を持っていますか? 僕はバッファロー・ドーターといえば、新宿リキッドルームでコーネリアスと対バンしているのを見たり、あるいは日比谷野音でフィッシュマンズと対バンしているのを見ています。いわゆる"90年代組"と括られてもいいと思うんですね。でも、ゼロ年代は"90年的"なシーンはどんどん小さくなってしまったと。もちろんゆらゆら帝国はいたけれど、たしかに、この10年J-POPはより支配的になって、洋楽は売れなくなったという現実があったと思うし、そのあたり、どういう風に思っていますか?
大野:J-POPを聴いているわけじゃないから......それがいま中心になっているのは認めるけど。まあ、でもいろんな音楽があって良いと思うから、そっちはでそっちでこっちはこっちで良いんじゃないかな。
■両方あればいいんだけど、"こっち"のほうが弱体化したのがゼロ年代じゃないかという意見もあるわけです。90年代は"こっち"が多かったじゃないですか。
大野:でも、意外とそんなに変わらないと思うよ、数自体は。
吉永:90年代は小室の時代だったから、まあ、J-POPの時代といえばJ-POPの時代じゃない。変わってないじゃないの。J-POPを気にしているわけじゃないし、よくわからないけど......。ただ、洋楽は聴かれなくなったとは思う。映画でも字幕がイヤだから吹き替えで見たりとか、そういう意味では時代が変わったなと思う。映画も音楽も、多くの人が外ではなく、国内に向いていると思う。あと......、バンドの形態をとったJ-POPが増えたよね。バンドやってるんだけど、明らかにコーネリアスやゆらゆら帝国とは違う、J-POP的なバンドが目に付くようになった。やたらバンド多いでしょ。
■そうなんですよね。
吉永:でもね、かたやインディーズでも、それなりの動員と売り上げを持っているバンドもいるでしょ。さらに言うなら、最近はインストのバンドも多い。こないだ〈残響レコード〉のイヴェントに出たんだけど、やっぱ中心にいるのがインストのバンドで変則リズムをいっぱい使うんですよ。ザゼンボーイズみたいな。ザゼンはまあ、歌があるけどね。
■そういう意味では、ゼロ年代で大きく変わったとは思わない?
吉永:シーンは変わってきているけどね。ただ、小室がチャットモンチーに代わっただけで、少なくとも小室がいなくなっただけでも、私はまあ、いいかなと。小室よりはいいやと思うけど。
■エグザイルとか嫌じゃない(笑)?
大野:エグザイルねー。
吉永:いや、でも、小室はきついよ。
大野:小室はまだ日本のポップスになってるけど、R&B系は向こうのコピーじゃない。
吉永:いや、小室だってさ......。
■はははは。
吉永:まあ、ふだん気にしてないからよくわからないけど(笑)。ただ、外の世界を見なくなったというのは感じますね。バンド名もなんかさ、横文字じゃないじゃん。私、あの風潮もあんま好きじゃないからさ。
■まあ、ゆらゆら帝国もいますけどね(笑)。解散しちゃったけど。とにかく、音楽の世界があんま良い方向にいってないという感覚はないんですね?
吉永:思ってない。大手レコード会社が息切れしているなか、インディーズががんばっているわけでしょ。一時は「これで食ってけるのかな」と思っていたけど、意外とみんなしっかりやっている。あと、オーディエンスと直に繋がるようなシステムもできているし、大手プロモーターが仕切るのではない、手作りフェスも増えているし。
■そういう意味では、むしろ良くなっていることもあると言えるのかもね。
吉永:音楽を好きな人が減っているわけじゃないと思えるかな。逆に音楽を生で聴きたいと思っている人も増えてきているしさ。たしかに売り上げ的には昔に比べたら落ちているのかもしれないけど、活況としているんじゃないかな。ホントに聴きたい人、やりたい人が、積極的にやっているというか、昔はシステムのなかに入ってやらなければならなかったことが、いまはやりたいと思ったときにできる、発信したいと思ったときに発信できる。だから......健全化しているんじゃないかなと思っていて。
■ザゼンボーイズだってインディーズだしね。
吉永:そうだよね。
山本:たぶん......2000年から2010年にかけて音楽業界の状況は悪くなってきていたんだけど、「まあ、まだ大丈夫だろう」と、沈んでいく船にみんな乗っていたわけですよ。それって自民党みたいなもので、沈むときにあっという間に沈んでしまう。それで民主党とか新党とか出てきて新しいことやる。で、失敗する人もいるんだけど、少なくとも新党を立ち上げようとしている人たちはなんか元気がある。「じゃあ、なんか新しいやり方を提案しよう」というかね。光明を見出している人たちもいるわけです。まあ、たとえばそれはDOMMUNEや『エレキング』だって、何か新しいやり方を提案しているわけであって、資金力はなくてもアイデアがあればいろんなことはできる。で、それをやってる人は、とりあえずは元気ですよね。お金が潤沢にあるかどうかは別にしてね(笑)。
■まあ、そうかもしれないですね。ちなみにバッファロー・ドーターというバンドはカウンター・カルチャーを信じているバンドだと思っていいんですね(笑)?
一同:ハハハハ。
山本:音楽のシーンは、なんだかんだまだ新しいことをやろうとしている人や実験的なことをやろうとしている人が他のジャンルにくらべていっぱいいるなとは思いますね。だから、やってて良かったなと思うんですよね。
■なるほど。
吉永:「新しいことができるから楽しみだねー」という部分もあるんだよね。うちらはだから、ぜんぜん悲観的になってない。
■バッファロー・ドーターといえば、まあ、90年代らしくボアダムスやコーネリアスとともに海を渡ったバンドのひとつですけど。
吉永:海外とのライセンスもこれから自分たちでやろうと思ってて。海外はもうダウンロード主流になっているから、まあ、それをどうプロモートするかは別にして自分たちでやっていくにはより発展した土壌があるでしょ。
■そうした前向きなエネルギーは今回のアルバムからヒシヒシと感じましたよ。ムーグさんが言ったように、「力強い」作品だと思いました。
大野:作っていながら思ったのは、1曲1曲が濃いなと(笑)。
■1曲の長さが、以前にくらべて短いですよね。
大野:そう。
■そこはロックンロールのマナーに戻ろうとしたんですか?
吉永:たぶん、いまダンス・ミュージックの流れじゃないんですよね。『シャイキック』(2003年)の頃は完全にダンス・ミュージックの流れだったから、「3分じゃ短すぎるよ」と思っていたけど、いまは10分やるよりは3分で簡潔に物事を言いたい。
■ニューウェイヴ/ポスト・パンク・リヴァイヴァルみたいな時代のモードは関係してますか? この10年であの時代のささくれ立った感覚がまた音楽の最前線に戻ってきたじゃないですか。
山本:ある意味では周期的なものですよね。ニューウェイヴの前だって、ザ・フーやストーンズみたいなものがって、それがプログレみたいなものに展開しがら産業も肥大化して、それでパンクでいっかいスパッと切った。そういう流れってつねにありますよね。だから、ちょっと前にはやっぱ、神秘的な音楽やプログレっぽい音楽がたくさんあったし、音楽産業もやっぱ巨大化していたし、それがある程度までいくとまた元に戻るというか、ささくれ立ったものが欲しくなるというか。それはもう......ポスト・パンクみたいな短いことではなく、輪廻のような(笑)。
大野・吉永:ハハハハ。
![]() Buffalo Daughter / Captain Vapour Athletes |
山本:バッファロー・ドーターというか、僕としてはファースト・アルバム、『キャプテン・ヴェイパー・アスリーツ』(1996年)の頃の気持ちに戻ったというか。
吉永:そうだね、『キャプテン・ヴェイパー~』を作っていた頃の実験精神に近いね。いま時代は過渡期だし、逆にいろんなことができるわけだし。
■しかし......、そうは言っても、行き詰まりを感じたことはないんですか?
山本:すごくそれ訊かれるんですよね。「いままで行き詰まりを感じたことはないんですか?」って。それは絶対に訊いている人が行き詰まっているんじゃないかと思うんですけど(笑)。
■まったくそうですね(笑)。
山本:僕はすごく行き詰まるんです(笑)。考え込むとぜんぜんダメで、ネガティヴになって、どうしようもなくなってしまうんですね。何もできなくなるんです。でも、このふたりは行き詰まらないんですね(笑)。考える暇なくやってしまうんですよね。動くと止まらないんです。で、とにかく締め切りを決めるわけです。そうすると、そのときまでにやるしかない。だから、もういちいちネガティヴになる暇なく、がむしゃらにやるわけです。そうすると、何か生まれてくるんですよね。今回のアルバムは本当にそうだった。
[[SplitPage]]「"アシッド・トラックス"の影響を受けたロック・バンドってそういないかも」と思ってね。「"アシッド・トラックス"は私たちのなかで重要なんだよなー」と思ってね。
■しつこいようですけど、クラウトロックを参照にしたとかないんですか?
山本:もう、それは染みついちゃってるよね。
■コーネリアスは、欧米での評価が一様に「カンみたい」だとか「クラウトロック的な」とか......、なんですよ。
山本:コーネリアスは東京っぽいよね。日本ぽいというよりも東京。東京だから生まれた。ああいう風にいっぱい聴いて作るというスタイルは、やっぱ東京だから生まれたんだと思いますよ。ただ、小山田君はもう、ああいう風に情報をいっぱい詰め込んだやり方にはもう飽きていると思うけど。それもまた東京っぽいと思うんです。カンってどこですか?
■ケルンですね。
山本:ケルンか......。やっぱ住んでいる場所と音楽はすごく関係ありますね。最近はよくそう思います。ボアダムスが西から出てきたのもわかるし。
吉永:あれは東京からは生まれない。
■バッファロー・ドーターは東京ですよね?
山本:このふたりは東京ですね。
■コーネリアス的なところもあると思うんですけど、バッファロー・ドーターのほうがパンキッシュかなと思うんですよね。
大野:コーネリアスは優秀なスタッフに囲まれているけど、アイデアを練るのは小山田くんひとりでしょ。私たちは3人だから。怠けていても違うアイデアが出てくるし、お互いに助け合える関係になっている。
吉永:3人だと、みんながみんな自分をぜんぶ出したらまとまらないでしょ。だから「あ、これ必要ないかな」って、いろいろ個人個人のなかで削ぎ落としていかなければならない。だからシンプルになるんですよ。
■では、最後にアルバムのなかでそれぞれの推薦曲を1曲だけ選んでください。
大野:人によるな~。
■このアルバムに興味を示すであろう音楽リスナーに対して。
吉永:それはやっぱ曲順だから。だから最初の(Gravity )曲じゃないの。
■でも、最初の曲は印象違うじゃないですか。
吉永:そうかな。
■歌っているし。
大野:歌っている曲は他にもあるけど。
吉永:いや、私は今回は初心に帰ろうと思ったの。「バッファロー・ドーターってどういうバンドだっけかな?」というところを思い返してみたの。パブリック・イメージもふくめ、「他のバンドとどこが違うんだろう?」って。そのときに、"アシッド・トラックス"が好きで、〈グランド・ロイヤル〉の初期の音源が好きで、さらにシルヴァー・アップルズ好きで、という最初の3つの影響を思い出したのね。「"アシッド・トラックス"の影響を受けたロック・バンドってそういないかも」と思ってね。「"アシッド・トラックス"は私たちのなかで重要なんだよなー」と思ってね。
■いまでも?
吉永:いまでも。だからTB303はいまも使っている。だからアルバムの1曲目は303の音が入っている"Gravity"にしたんだよね。それがそう伝わっているかどうは別にして、私たちの気持ちとしてはそうだった。
■"アシッド・トラックス"の何がそんなに衝撃だったんでしょうね。
山本:303は、大阪でライヴをやったときにたまたま寄った古びた楽器屋で超安値で買ったんですね。
■それはすごくラッキーだよ!
山本:まさにデトロイトの人たちのように、見捨てられた状態だったものを買ったわけです。それも良かったし、実際、すごく革命的な機材だし、パンクだし。
■ですよね。なるほど、とにかくシュガーさんの1曲は"グラヴィティ"というわけですね。
大野:私はじゃあ、5曲目、"A11 A10ne "にしようかな。
吉永:8曲目(Five Thousand Years For D.E.A.T.H. )はどうですか?
大野:8ね(笑)。それ、新しい展開だよね。
山本:8,けっこう好きだよ。
■僕は2(All Power To The Imagination)と3(Two Two)が好きだけど、2と3はいまでの路線を踏襲している曲だよね。
吉永:8はいちばん新しいね。演歌だねこれは(笑)。
山本:演歌なんだ(笑)。
■曲のタイトルはどういう意味なんですか?
吉永:"50億年後の死"。50億年後に太陽系が滅亡するというね。
■まあ、演歌というよりもエレジーですね。
吉永:あ、それいいね。これからエレジーと呼ぼう。
山本:そうだね、エレジー。
バッファロー・ドーター、ライヴ情報!
7月29日(木) | 新代田FEVER / 東京 |
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8月1日(日) | FUJI ROCK FESTIVAL'10 / 新潟県・苗場スキー場 |
8月3日(火) | 渋谷CLUB QUATTRO / 東京 |
8月13日(金) | RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010 / 北海道・石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ |
11月15日(月) | LIQUIDROOM / 東京 |
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11月16日(火) | 心斎橋 クラブクアトロ |
11月17日(水) | 名古屋 クラブクアトロ |
info. SMASH 03-3444-6751 https://www.smash-jpn.com/index.php https://www.buffalodaughter.com/ |