Shop Chart
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BILL HARDY
Disco Conspiracy
PARTEHARDY / US
»COMMENT GET MUSIC
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BILL HARDY
Disco Conspiracy
PARTEHARDY / US
»COMMENT GET MUSIC
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架空のバンドによる演奏をコンセプトに、フュージョンやプログレ的フレイバー溢れる複雑で高度なソング・ライティングを見せた2008年の『ジャスト・ア・スーベニア』、自身の6弦ベースによるワンマン即興演奏を収録した2009年の『ソロ・エレクトリックベース1』......これら近年のディスコグラフィーからも伺えるが、スクエアプッシャーことトム・ジェンキンソンの音楽的関心は、段階を経ながらよりフィジカルでオーセンティックなスタイルに向かっているように思える。今回はついに、満を持して結成されたトム自身によるリーダー・バンドの処女作が届けられたというわけだ。
ショバリーダー・ワン(Shobaleader One)はトムがベースとヴォーカル(ヴォコーダーによる)を担当、それにツイン・ギター、キーボード、ドラムを加えた5人組編成のバンドである。『ジャスト・ア・スーベニア』制作時に夢想した「クレイジーで美しいロック・バンド」のある意味具現化であり、トム自身も「恐ろしいほど優れた名プレイヤー」と賛辞を惜しまない凄腕のミュージシャンを集めたということで、彼の持ち味である超絶技巧的なサウンド・プログラミングが生演奏で具現化されたりするのかな? と安易なことを考えたりもしていたが、実際には予想の斜め上をいくような作品だった。言うなれば、今作はスクエアプッシャー流のポップ・ソングブックである。
『ジャスト・ア・スーベニア』では速いパッセージのフレーズや一聴しただけでは口ずさむことも困難な複雑なフレージングが頻出したの対して、今作での楽曲構造はいままでと比べてグッとシンプルになり、何より全編を通してトム自身によるヴォーカルがフィーチャーされている。ヴォコーダーで変調こそされているが、スクエアプッシャーが歌モノのアルバムを作ったという事実も特筆すべきだろう。
驚きのいっぽうで、戸惑いを隠せない部分もあった。ファンク、R&B、AOR、ロックと、さざまなな書法のアプローチを駆使して作られた楽曲群は、メンバーの演奏能力の高さと相まって、相当ウェルメイドなものに仕上がっている。だが、ある意味でウェルメイドがゆえというか、トム自身が成熟しすぎたからなのか、楽曲からどこかオヤジ臭さのようなモノを感じている自分もいる。4曲目に収録されている"Frisco Wave"がとくに顕著で、パット・メセニーでも聴いているかのように心地よいイージー・リスニングなのだが、言い方をかえるとラジオの交通情報のバックで流れていても何の違和感もないような曲でもある。僕自身が初めてスクエアプッシャーに触れた時期が思春期の盛りだったということが問題なのだろうか、やはりスクエアプッシャーの音楽にはある種のささくれだった感覚や破壊衝動のようなものを感じたいという気持ちがある。ツーバスでドカドカ鳴らすメタル的なアプローチをしている9曲目の"Maximum Planck"にしても、とにかく"良くできている"という点のみが前に立ってしまって、どうも心の底から熱狂することができないでいるのだ。
この音楽が格好良いか格好悪いかと問われれば、格好良い音楽だと答えるだろう。が、「トム、もう落ち着いてしまったのか?」とでも言いたくなるような複雑な気持ちもある。トムが自らのソング・ライティングのスキルに、ある意味で溺れてしまったのではないか? という疑念も拭えずにいる。とはいえ、ショバリーダー・ワンはフィジカルなバンド・プロジェクトなわけで、やはりそのライヴ・パフォーマンスがどんなものになるのかは期待したいと思っている。そのときには、僕がいま抱えているモヤモヤしたものが払拭されるのではないだろうか、という予感もあるし......。
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Sit - Year 3000 - Jesus loved you |
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Red Rack'em - How I program - Bergerac |
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Shakarchi & Straneus - Macedonia - Geography |
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Rondenion - In one's mind - Bosconi extra |
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Rills - Peep show - All inn |
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Signor Andreoni - Soul Burner - T-Bet |
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Lowtec - Use Me(Laid mix) - Laid |
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TT ENSEMBLE - Fiul Risiptor - Yojik ConCon |
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Jus-ed - Shit - Underground Quality |
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Delano smith - I Fly - Undertones |
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Floating Points - Shark Chase - EGLO |
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Blagger - Strange Behavior (Dj Koze aka Swahimi Remix) - Perspectiv |
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DJ Sprinkles - Masturjakor Dub - mule musiq |
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Khixbrrr - Fairies - Northern General |
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OZKA - Intel Dub - Mowar |
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Cultural Vibes - Ma foom Bey - Easy Street |
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Namlook - Subharmonic Atoms - Macro |
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Four Tet - Love Cry - Domino |
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Blackalicious - Make You Feel That Way - MCA |
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Monty Alexander - Monticello - MPS |
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BROOKES BROTHERS - Last Night -BREAKBEAT KAOS |
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PROTOTYPES - Need The Love - INFRARED |
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SEBA - Keep Me Waiting - 31 RECORDS |
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METRIK - T-1000 - VIPER |
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METRIK - Arrival - VIPER |
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CAMO & KROOKED- Without You - BREAKBEAT KAOS |
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DJ VADIM - Terrorist(PROTOTYPES RMX) - NINJA TUNE |
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FURLONGE - This Love - VIPER |
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CUTLINE - Die For You(SHOCKONE RMX) - NEVER SAY DIE |
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MUFFLER - Mindgames(DABS RMX) |
UPCOMING EVENTS
11/17 (wed) Shibuya FM 18:00~19:00 MIX SHOW
11/20 (sat) DBS "Bristol Bass" at unit "14th anniversary" ft. DJ KRUST/RSD
12/4 (sat) Judgement Day at plastic theater "Sapporo DJ Tour"
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Darkstar - North - Hyperdub |
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Terror Danjah - Undeniable - Hyperdub |
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Lone - Emerald Fantasy Tracks - Magic Wire |
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Robot Koch - Songs For Trees And Cyborgs - Project:Mooncircle |
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Robert Wyatt/Ros Stephen/Gilad - For the Ghosts Within -Domino |
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Cornelius - Fantasma - Warner Japan |
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Girls - Brocken Dream Club - True Panther |
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Colored Mushroom And The Medicine Rocks - Wagon |
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Magnetic Man - Magnetic Man - Sony Music |
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Mount Kimbie - Crooks & Lovers - Hotflush Recordings |
ミズ・ダイナマイトのラップをフィーチャーした"ファイヤー"を聴いた瞬間から、手は震え、舌は乾き、胸の鼓動は激しさを増し......「マグネティック・マン、最高!」と叫んでいる。家のなかで......。
これを聴いていると、久しぶりにクラブに行きたくなる。音楽から週末の夜の匂いがしてくるのだ。猥雑で、エロティックで、少しばかり危険で、激しい歓声が聞こえてくる。レイヴ・カルチャーの懐かしい感覚は、しかし彼らが作るダブステップ/グライム・サウンドによって掻き消される。
完璧なアルバムではない。冗長な曲もあるし、お決まりのダーク・ストリングス系の曲など要らないと思う。それでもずば抜けて良い曲が不満を吹き飛ばす。スクリーム、ベンガ、アートワークの3人によるライヴ・プロジェクト、マグネティック・マンのデビュー・アルバムは、エネルギッシュでストレートな、シンプルで大迫力のダンス・ミュージックである。
いま、UKは20年振りにダンスの季節の真っ直中にいる。インディ・キッズはライヴハウスに背を向けてクラブに押し寄せ、ロックのシングルにはダブステップやファンキーやウォンキーのリミキサーが名を連ねる。次から次へと新しいDJ、新しいプロデューサーが現れている。
マグネティック・マンのデビューを促したのはそうした時代の風向きだが、このプロジェクトにはある種批判めいた声もあった。まさに「20年前と同じことが起きている」と『ガーディアン』の記者は書いている。アンダーグラウンドの純粋主義者たちは、あからさまに商業主義に臨んでいるこのプロジェクトをよく思っていないという話だ。まあ......僕もどうかと思っていた。スクリームのセカンド・アルバムで充分ではないかと思ったし、アンダーグラウンドにおけるポスト・ダブステップがやたら面白いので、シーンの重鎮3人によるスーパー・プロジェクトという、ハナからヒット狙いのあざとさに引き気味だったのも事実である。が、マグネティック・マンはそんな雑音を尻目に、2010年の夏をキャッチーな"アイ・ニード・エア"で制覇すると(UKチャートで10位)、続いてシングル・カットされたR&Bナンバー"パーフェクト・ストレンジャー"(16位)によって、クロイドンの地下室から生まれたこの音楽のポップとしての実力をまざまざと見せつけたのである。
場数を踏んでいる3人だけあって、無闇にベースを鳴らしたりはしない。抑えるところと出すところを心得ているし、その最悪な瞬間でさえも包み込んでしまう、ダブステップを生んだコミュニティのマナーの説得力というモノがある。そしてとくにかく、"ファイヤー"、"アイ・ニード・エア"、"パーフェクト・ストレンジャー"の3曲がずば抜けている(僕と同世代のいい歳した連中には、これらはゴールディーの"インナーシティ・ライフ"の現代版であると言っておきましょう)。お陰様でというか、マグネティック・マンがここまで魅力的なのだから、スルーしていたロスカ(UKファンキーの第一人者)のアルバムもやっぱ聴いてみようかと思い直している。それを聴かずして、2010年を終えてしまうのもアレだし......。三田格も良いって書いているし......。
7年前、ディジー・ラスカルは「ロンドンよ、立ち上がれ!」と言った。マイノリティの就業率が60%を下回るほどの格差社会の生んだグライムからの切なる叫び声である。マグネティック・マンは最近のライヴでこうMCした。「ロンドンよ! ぶっ飛ぶ準備はできてるかい?」
そこで「イェーイ!」と叫ぶ人が僕は20年前から好きなのである。もっとも、立ち入り禁止の領域からチャート・ヒットまでものにしてしまったサウス・ロンドンの不良がステージいれば、押し黙りながらひとりで踊るなんてこともできないだろう。連中はマナーの悪いクラフトワークではない。これはジャングル、ヒップホップ、R&B、ダンスホール、テクノがごちゃ混ぜになった現代のアーバン・ミュージックであり、要するに、20年振りの高みを迎えているUKダンス・カルチャーからのどでかい一発である。
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Donato Dozzy & DJ Say - Your Transparent Eyes - Attic Music |
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Blakkat - In This World (Bkat Dtla Dub) - Mild Pitch |
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Space Dimension Controller - BBD Alignment - Royal Oak |
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Andre Zimma feat. Thief - Time Exists In Memories (Slope Dub) - Swedish Brandy |
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Lerosa - Plesso - Ost-Gut-Ton |
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Tiefschwarz - Renix - Classic |
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Dewalta - Eftive - Meander |
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Jacob Korn - Sand - Dolly |
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Sun Electric - Toninas(Fehlman / Meteo RMX) - Shitkatapult |
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Aybee - Ozzie Davis - Deepblak |
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Seahawks - Omega Beach - Captains Log ('10) |
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Colored Mushroom And The Medicine Rocks -S.T - Wagon ('10) |
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Shackleton Vs. Kasai Allstars - Mukuba Special - Crammed Discs ('10) |
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Discodeine - Falkenberg (Pilooski Edit) - Dark & Lovely ('10) |
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Thierfeldt - S.T - MMR ('86) |
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Magic Aum Gigi - Starring Keiko - Fractal('07) |
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Treats Vol.2 - Session Victim -Retreat ('10) |
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Basso - Basso's EP - Blackdisco ('10) |
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Jolly Kunjapu - I love dancing - CMC'83 |
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Julian Babiga - Mbongo Percussion - SafariAmbianence ('84) |
iPodにはこんなに容量があるのに、聴きたいものがなにひとつ入っていないように感じることがないだろうか。所詮は自分で集め、取り込んだものだから、驚きや偶然というものが生まれにくい。好きなものはたくさん入っていても、未知のものに揺さぶられるということは稀である。私は私のライブラリという世界の中で、いくつかのレイヤーを設けて曲を分類し、必要に応じて呼び出す。自分の限界がiPodの限界である。
アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズの"サンキュー・フォー・ユア・ラヴ"は、そこに途方もない力で押し入ってきた。本作の要といえる曲で、先行EPの表題曲でもある。再生するたびに同じように驚く。もちろん入れたのは自分自身だが、なにか自分ではさばききることのできない異物を取り込んでしまった感触だ。あの控えめな、しかし非常にクリアな音質のピアノのイントロ。冒頭の2拍だけで完全に掴まれてしまう。明るく、深いかなしみのにじむ和音である。アルペジオがいち音ずつ心を切り開く。すぐにヴォーカルが入る。その瞬間に視界の色が一変する。ここまで約1秒の出来事だ。そして何度聴いても同じ鮮度でこの体験がある。アントニー・ハガティは、実にすごい声を持っている。
「あなたの愛に感謝します。けれど、もうたくさん。もう生きるのはじゅうぶんです」、てっきりそんなふうなことを歌っているのかと思った。「アイ・ウォント・トゥ・サンキュー」の「アイ・ウォント・トゥ」が、「ノー・ワン」とか「ノー・モア」のように聴こえるのである。音声としてもそうだし、アントニー・ハガティの歌い方がそのように感じさせる。しかし、リテラルにはまるでそんな表現はない。「苦しみ、迷い、魂が崩壊したときに、私はあなたの愛に感謝を捧げたい」という内容の、短い詩である。
アントニーはとても複雑な声を持っている。この世にあって、この世の外(ほか)を請い願う声。同時にそれが叶わないことを知っている声。彼は、クイアな存在として知られている。そもそも「ジョンソンズ」という名称自体が1969年のストーンウォールの暴動の首謀者のひとりとして記憶される、ニューヨークの伝説的なドラッグ・クイーン、マーシャ・P・ジョンソンの名から採られている。彼はジョアンナ・コンスタンティンらとともに前衛的パフォーマンス集団を立ち上げ、活動していた。ニューヨークのアンダーグラウンドなシーンでは注目を浴びる存在であった。マーキュリー・プライズを受賞したセカンド・アルバム『アイ・アム・ア・バード・ナウ』はもちろんゲイ雑誌からも高い評価を受けているが、遡る2004年にはゲイ映画への出演を果たし、あの美声を披露してもいる。
ところが、こうした彼の精力的な活動が、彼の孤独を救うものだとは限らないようだ。前作『クライング・ライト』収録の名曲"アナザー・ワールド"は、「私にはどこかほかの場所、ほかの世界が必要だ」という歌い出しとは矛盾するように、この世界への執着がつづられている。この世を離れたがりつつも、この世に留まりたいのだ。
そんな彼の分裂した思いを聴いていると、もしかするとほんとに世界は残酷な場所なのかもしれないと思わせられもする。あの泣いているようなヴィブラート、"サンキュー・フォー・ユア・ラヴ"は、間違いなく新作『スワンライツ』の白眉である。"サンキュー・フォー・ユア・ラヴ"......「私はあなたの愛に感謝を捧げたい」というこの一行は、迷いつづけても、世界が壊れてしまっても、そして他の世界を見つけたとしても、唯一約束される行為である。曲は速度を増し、ホーンが加わり、いよいよ衝迫をもって「サンキュー」が叫ばれる。なまやさしい「サンキュー」ではない。ほとんど「サンキュー」ですらない。勤め先の店でこの曲をかけると、店がしんと静まる。いろいろな音楽的嗜好を持った人びとが、一様に耳を奪われているのがわかる。曲が終わると、時間が解凍されたように人びとの気配と物音が戻ってくる。
いずれの曲も室内楽風のアレンジが施されている。古典調の"ゴースト"は演奏自体もブリリアントだ。また、アイスランド語で歌われるビョークとのデュエット曲もよい。ハーキュリー・アンド・ラヴ・アフェアーやルー・リードとの仕事でも際立っていたが、誰かと一緒に歌うとアントニーのセクシャルな魅力はさらに増してくるようなのだ。