あんなに小さな声で歌ったのに
みんなにきこえちゃったみたい
RCサクセション"君はLove Me Tenderを聴いたか?"
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東京にはボヘミアニズムがある。それはクラブ・カルチャーよりもさらに地下に降りていったところに広がっている。経済効率とはあまり縁のなさそうな、しかし心優しい音楽好きな不眠症の連中によるかなりゆるいコミュニティだ。ラヴ・ミー・テンダーというバンドはそういう場所で生まれている。
メンバーはMaki 999(歌とドラム)、Arata(ギター)、Teppei(ベース)、Takagi Sota(鍵盤)、Ackky(サックス)の5人。Maki 999はHBという女性3人によるバンドで、昨年は『ブラック・ホール・イン・ラヴ』を発表している(マニ・ノイメイヤーの現代版)。長年DJとして活動しているAckkyも、昨年最初のソロ・アルバム『コンポジション』を発表している(コズミック・ディスコ)。高木壮太は、日本の早すぎたチルウェイヴ・バンドとも言えるシュガー・プラントの元メンバーとしても知られている。すでにキャリアのある人たちがラヴ・ミー・テンダーで試みているのは、清々しいまでのシティ・ポップスで、そして少々ユーモアの詰まった危険な言葉の歌なのだ。
震災直後にリリースされ評判となった自主制作の『FRESH!』を経て、バンドが震災後に録音したミニ・アルバム『TWILIGHT』が最近〈Pヴァイン〉からリリースされた。それが夜の深い旅が好きでたまらない人にとってのポップスで、"STAR"や"TWILIGHT"のような新たに収録された曲では、空想的な童話的世界とヴェルヴェット・アンダーグラウンドの溝を埋めつつも、山下達郎にも接近するという離れ業にも取り組んでいる。バンドの代表曲である"シャーマン青春サイケ"が言うように、「あふれ出す光の海/終わらない夜明けの旅」へようこそ......という感じである。
9月なかばの大雨の晩、ちょうど筆者が下北沢のお店で飲んでいる深夜の12時過ぎに、「明日の深夜か明後日なら取材できます」とレーベルの担当者からいきなり電話。翌日「明日の3時に渋谷で」と伝え、そして取材当日の3時20分になったとき、その場にいたのはAckky(ほぼ時間通り)、そしてTakagi Sota(10分遅れ)のふたりだけだった......。
自分たちのやっていることを言葉で表すとしたら何になるのかという話になって、「シャーマン・ロック」って。「サイケ」も絶対に入ってるし、じゃあ、「シャーマン・サイケ」、でも何かが足りない、「青春じゃん!」って。
■まだ他のメンバーが来てませんが、はじめてましょうか。
Ackky:はははは、すいません。
■そもそもラヴ・ミー・テンダーってどうしてはじまったんですか?
Sota:俺とアッキーは途中から入ったから結成の経緯はぜんぜん知らない。
■それじゃあ、ダメですね(笑)。
Sota:だいたいドラッグ絡みじゃないですか。×××××が同じだったとか、そういうことでしょう。
■(笑)オフレコはなしでやりますから。
Sota:でも何なんだろう。聞いた話では......。
Ackky:ミルクバーで3人でセッションしたら調子が良くて、それがのちのちカタチになっていったと聞いているよ。
■その3人とは?
Ackky:マキ、テッペイ、アラタの3人です。
■まさにいまこの場にいない3人ですね(笑)。
Sota:それがラヴ・ミー・テンダーになったという話は聞いている。
■いつの話ですか?
Ackky:4年前とかじゃないのかな。
■そんな前なんだ。
Sota:バンドの名付け親はミユキちゃんですよ。
■ミユキちゃん?
Sota:MCチェルノブイリです。
■ミユキちゃん?
Sota:そう、いまナカシマミユキというユニットをやってます。
■ハハハハ。
Sota:危なすぎて人前には出せません。
■ハハハハ。
Ackky:ミユキ・シーベルトっていう別名義もあるんですよ。
■すごいね。
Ackky:ラッパー、ミユキ・シーベルト。
■そのミユキちゃんが何故ラヴ・ミー・テンダーって名前を付けたんですか?
Sota:さあ、わからない。ドラッグっぽいセンスだと思いますよ。
■どこもドラッグっぽくないじゃないですか(笑)!
Sota:意味がわからないじゃないですか。検索しづらいし......まあ、思いつきで付けたんだろうね。
Ackky:こないだギャラクティックというジャム・バンドと伊豆で会ったときに、バンド名を言ったら大爆笑してましたよ。
■それは何処に笑いのツボがあるの(笑)?
Ackky:いや、俺にもわかんないすけど......。
Sota:プレスリーの話はいっかいも出たことないすけどね。
[[SplitPage]]俺たちは複雑な楽曲で微妙なものを......高価な楽器とちゃんとしたスタジオで伝えたいというブルジョア的な価値観が根底にあります。
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■ふたりが参加したのはいつから?
Sota:俺はセッションによく参加してましたね。はじまった1年目ぐらいのとき、ギターとかキーボードで参加してましたよ。バンドはもう人前でジャム・セッションをやってましたね。
■どんなスタイルの音楽だったんですか?
Sota:コード進行がありましたね。ジャム・バンドってコード展開がないでしょ。だいたいワンコードで演奏していく。それがラヴ・ミー・テンダーにはコード進行があるんですよ。というか、コード進行マニアなんですよ。
■へー。そんなに難しいんだ。
Ackky:難しいと思いますよ。
Sota:俺たちは複雑な楽曲で微妙なものを......高価な楽器とちゃんとしたスタジオで伝えたいというブルジョア的な価値観が根底にあります。
■ああ、そうした贅沢さは出ているよね。それは最初からあったコンセプトなんですか?
Sota:アラタのキャラクターなんじゃないかな。お坊ちゃんだし。
■ラヴ・ミー・テンダーに関してよく言われるのが「シティ・ポップスとドラッグ・カルチャーとの出会い」とかさ、「シンナーを吸ったシュガーベイブ」とかさ、とにかく音楽的にはシティ・ポップスなんだよね。
Sota:いやー、それはコンセプトでもなんでもないですけどね。ただのコード進行マニアなんですよね。ティン・パン・アレーとか、細野晴臣さんとか、やっぱコード進行マニアでしょ。
Ackky:意識はしてないけど、全員やっぱそこは共通して好きですね。
■アッキーはいつから入ったの?
Ackky:1年半前、いや2年くらい前かなー。マキちゃんからミクシィで「やんない?」って言われて。昔、サックスを吹いていたんですよ。その映像がYouTubeに上がっていて。
Sota:「アッキーがサックス吹けるらしい。こんどスタジオに呼んでみよう」って。
■俺もアッキーがサックスを吹いているっていうのは驚いた(笑)。
Ackky:17年ぶりですよ(笑)。
■アッキーは加入する前から、バンドの存在は知っていたんですか?
Ackky:もちろん。好きだったし。
■どこが気に入ったの?
Ackky:楽曲も歌詞も。
■ポップスを目指すところが良いとか?
Ackky:DJ的に聴いても耳障りがいいんですよ。
■アッキーが知ったときにはもうオリジナルの楽曲はあったんでしょ?
Ackky:"シャーマン青春サイケ"もあったし、"TWILIGHT"もありましたね。"ヤブレターラブレター"もやってましたね。『FRESH!』に入っている曲はほとんどあった。
Sota:つねに、作ってはボツにして作ってはボツにして、ライヴで何回もやっても飽きない曲が残っていくんですよ。
Ackky:持ち曲が多いんです。
Sota:30曲くらいはある。
■なのに何でミニ・アルバムが続いてんですか?
Sota:『FRESH!』の曲はそれぞれ録音した時期が違うんですよ。で、最近出た『TWILIGHT』は震災以降。
Ackky:1週間後だったね。
Sota:『FRESH!』のほうは2年ぐらい前のトラックが入っているからね。
■とにかく、聴いていて感心するのは、洗練と言うことを目指していることなんですよね。はじまった頃は混沌としていたんだろうけど。
Sota:いまでも混沌としてますよ。
■でもちゃんとポップスになっているじゃないですか。
Sota:それはね、人力テクノとか、人力トランスと言われるようなものへのアンチテーゼがありますね。
Ackky:いわゆるジャム系にありがちな感じが嫌いなんですよ。
■なんで?
Sota:ダサいからですよ。
Ackky:ダサいよね。
■好きそうじゃない(笑)。
Ackky:だいっ嫌い!
■ハハハハ。
Ackky:好きなバンドもいますけどね。
■なるほど。作曲は誰がやっているの?
Sota:誰かがアイデアを持ってきて、それをみんなで膨らませる。
Ackky:スタジオで1~2時間かけてカタチにしていく。
■代表曲のひとつだと思うんですけど、"シャーマン青春サイケ"はいつできたんですか?
Ackky:これは初期の曲だよね。
Sota:俺、最初なんて歌っているのかわからなくて、「湘南新宿ライン」って聞こえてたんですよ。
Ackky:うちらがよくいるバーカウンターでできたんだよ。
Sota:そうなの?
Ackky:マキちゃんがそう言ってたよ。
Sota:そうなんだ。
Ackky:マキちゃんが来ればわかるよね。
■しかしそのマキちゃんがなかなか来ないですね......(汗)。
Sota:お化粧してるから。
■ハハハハ。ソウタくんは誘われて入って......。
Sota:いや、押し掛けて行ったんです。いちども誘われたことはない。いまでも正式メンバーって気がしない。
Ackky:俺は誘われたんだけどね(笑)。
■ハハハハ。で、ソウタくんから見て、彼女の歌詞っていうのは......。
(ここでMAKI 999登場)
Sota:あ、来た。
Ackky:やっとで来たね。
Sota:結局ラヴ・ミー・テンダーって、マキちゃん親衛隊なんです。騎士なんですよ。つまり俺たちは使い捨てなんです。
■いや、実はもう、かなり話が進んでて(笑)。
Maki:あ、もう。
Sota:可愛いし、女の子だし、命の価値が高いんですよ。
Ackky:ハハハハ、命の価値!
[[SplitPage]]結局ラヴ・ミー・テンダーって、マキちゃん親衛隊なんです。騎士なんですよ。つまり俺たちは使い捨てなんです。
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■"シャーマン青春サイケ"がどうやって生まれたのか? っていう話で、そしたらバーカウンターのなかで作られたって。
Maki:みんながよく集まるバーで、私とアラタくんとテッペイの3人でやっていた頃に、ドラムセットを広げて、リハーサルをやっていたんですよ。
■おー、あそこでリハやってたんだ。
Maki:そう。で、自分たちのやっていることを言葉で表すとしたら何になるのかという話になって、「シャーマン・ロック」って誰かが言って。で、「サイケ」も絶対に入ってるし、じゃあ、「シャーマン・サイケ」、でも何かが足りない、「青春じゃん!」って。
■ハハハハ。
Maki:それで"シャーマン青春サイケ"。
■なんで「シャーマン」? 霊と交信しているの?
Sota:それは「ジャーマン」のパロディ。
Maki:言葉遊び。だって「ジャーマン(ドイツ人)」じゃないし。
■でもジャーマン・ロックっていう感じの音でもないでしょう。
Maki:感じないですよね。
■HBには感じるけど。じゃあ、オリジネイターが来たので、もういっかい最初から質問するんですけど、「どうしてはじまったのか?」という質問に、ソウタくんは押し掛けていったと、で、アッキーは誘われていったと。
Maki:スカウトしたから。
■とにかく、ふたりともどうやってラヴ・ミー・テンダーがはじまったのかよくわかってていないんです。
Maki:2007年7月7日に、セッションがあったんですよね。そこにアラタくんとテッペイと3人で集まって、ミルクバーっていうバーで。で、後日、「これ、バンドにしちゃわない?」っていう話になって。ぜんぶバーなんです。話が進んでいく場所がぜんぶバー。
■渋谷のバー。
Maki:三茶にむちゃ狭いバーがあって。
Sota:日本一狭いバーです。狭すぎて、ナンシー関が入れないようなバー。世田谷通りの奥のほうにいる芸大生が集まっていたようなバーでね、みんなジャーマン・ロックとか好きでね。初めて行ったときにはマグマとかかかっていたな。
■もとはジャーマン・ロック好きの集まりだったんだ。
Sota:あとはライフ・フォーサーだね。
Ackky:〈ライフ・フォース〉のお客さんが集まっていた。
■アッキーがなんで〈ライフ・フォース〉のDJになったのかいつか訊きたいけどね。
Ackky:いやもう、「やれ」って言われて。
■まあ、それはそれで長い話になるのでいまは止めておくとして。
Maki:バンドの名前もそのときに決まったのかな。
Ackky:ミユキちゃんね。
■いや、だからミユキちゃんって誰ですか(笑)。DJチェルノブイリだっけ。
Maki:そう、チェルノブイリ。そう言われているんだけど、しかしなんでラヴ・ミー・テンダーになったのかは......わからない(笑)。覚えていない(笑)。
■誰も覚えていない(笑)。
Maki:そのときのいちばん良い名前になった。
■で、どこが気に入ったんですか?
Maki:響きと、そしてまあ、「優しく愛して」という意味も含めて。これで行こうと。「ラヴ」も入っているし。
■いつからそれを名乗っているんですか?
Maki:だから2007年の7月。
■え、じゃあ、さっき言った......。
Maki:バンドが始動して2日後ぐらいです。
■最初はジャム・セッションだったんでしょ?
Maki:そう、ジャム・セッションして、代々木公園なんかでも広げてやったりとか。あとはバーでやっていた。最初は歌も入ってなくて、ホント、ただひとすら3人でセッションする感じで、それが飽きてきて、歌を歌おうって。マイクを3本立ててみたんですけど、最初は誰も歌わなかったんですけど。いちばん最初にできた曲が"マリフレ"なんですよね。歌と言うよりも、ああいう言葉のループですね。
■その頃はシティ・ポップスじゃなかったんだ。
Maki:そんなではなかったですね。
■何がどうしていまのようなシティ・ポップスになったんですかね。
Maki:なんでしょうね。歌モノを意識しはじめて、ソウタくんが入ってきたときに、なんかどんどんゴージャスになっていったんですよね。
Sota:ケレンミなく、青春賛歌を高らかに歌い上げようっていうところです。まさに『けいおん!』ですね。「バンドやろう」、「ここに楽器がある」って。「早くこれを使ってなんかやろう」って。
■それがなんでアシュ・ラ・テンペルやスペースメン3にはならずにシュガーベイブになったんでしょうね。
Sota:血ですね。
Maki:都会派の生き様がでてしまったんですよね。
■じゃあ、それはごく自然に自分たちのなかから出てきたと。
Sota:そうなんじゃないですか。メジャー7thの響きなんじゃないですか。
Ackky:ディジリドゥ持って、フレアパンツ履いてるバンドに誘われても絶対にやらないですからね。
■HBとはかなり距離を感じますけどね。
Maki:HBとは違いますね。同じことやっても仕方ないし。
■音楽的なリーダーみたいな人はいるんですか?
Sota:アラタがそうかな。モチーフ持ってくるのがいちばん多いですね。スタジオ自体がワークショップみたいで、こういうコード進行があるとか、こういうリズムがあるとか、研究しているんです。
■ポップスを目指していることに関しては、やっぱ研究の成果?
Sota:目指してないです。自然にやっているだけで。
Maki:メンバーみんなポップスが好きなんですよ。
■でもホント、自然にやったらアモン・デュールとかマグマとかになりそうなのにね。
Ackky:ハハハハ、たしかに。
Sota:セカンド・アルバムでは逆回転の音から入って、ずっとディレイのウェット音だけで構成されているようなものになっているかもしれないですね。
■しつこいけど、そういうことをやってそうな感じなのに、なんでポップスなんでしょうね。
Sota:俺たちにはポップスができる。演奏できる。そういう自負があるんです。
Ackky:マキちゃんが歌ったのが大きいよね。
■マキちゃんはそれ以前は歌っていたんですか?
Maki:歌っていないですね。ずっとドラムです。
■歌詞もマキちゃんが書いてますよね。
Maki:だいたいそうです。アラタくんが書くこともありますけど。"DIET"なんかはアラタくんです。それを人に言ったら驚かれてしまって。「えー、あの曲、アラタくんの歌詞なの? 気持ち悪ぃー」って。
Ackky:女の子の気持ちになって書いたってね(笑)。
Maki:なので、もうこれからは、私が書いていることにしようと思っています。
■普通に歌詞を読むと、ドラッグ・カルチャーからの影響を感じるんですが、実際はどうなんですか?
Sota:いやー、酷いものですよ。
■ハハハハ。
Sota:ドラッグ・ソングばっかですよね。
Maki:ねぇ。
■ハハハハ。"マリフレ"とか"花と盆"とか、自分の耳を疑うぐらいにびっくりした(笑)。
Sota:みんなその週にあったトピックを歌詞にしたり。珍事件とかね。どうしてもそうなるんですよね。
■欧米にはポップスのなかにドラッグ・ソングがけっこうありますよね。ビートルズなんかもすごく多いでしょ。"アイム・オンリー・スリーピング"とか"シー・セッド・シー・セッド"とか"トゥモロー・ネヴァー・ノウズ"とか。
Sota:まあ、ラヴ・ミー・テンダーはドラッグ・ソングをやっていると受け取ってもらわなくてもいいんですけどね。いくらでも解釈はあるので。
Maki:いろんな意味がね。
■ストーン・ローゼズの"ディス・イズ・ザ・ワン"とか、ハッピー・マンデーズの"ルーズ・フィット"とか、ああいうのって、ある意味すごくメタファーとして楽しんでいるっていうか、ドラッグやるやらないとか、その是非じゃなくて、ある種のユーモアとしてのドラッグ・ソングの面白さってありますよね。
Maki:それはある。歌詞の反応を見るのが面白いっていうは。
Sota:俺の見極め方は、この人は知ってるか知らないかだからね。
■ハハハハ。日本のポップスではそういうのがほとんどないよね。RCサクセションの"うわの空"とか、"つ・き・あ・い・た・い"とか。
Sota:「LとSはDまでいった」(不思議)とか歌ってるしね。
■そうそう。日本ではそれがホントに極端にない。ポップ・カルチャーの重要ないち部なのに、音楽リスナーのなかにさえ偏見が多いというか、すごく抑圧されているよね。最近のインディ・ヒップホップはけっこう表現しているけど、やっぱ日本の不自由さを象徴しているように思うよね。
Ackky:ただ、俺らは力コブシをこめて「リーガライズド・イット」という感じではないんだよね。
■でも、歌のネタとしては面白さを感じているんでしょ。
Sota:日常がそうですからね。
■はははは。
Maki:たしかにそうなんです。"円山町ラプソディ"もreloveというバーが円山町にオープンしたときの話を歌詞にしているんですね。とくに作り込んでいる感じでもないんですよね。
■ドラッグのような危ういモチーフを持ってくるとき、どうしても日本では暗いアングラ臭がついてしまって、シメっぽくなるか、過剰な幻想を抱きがちだったと思うんですけど、ラヴ・ミー・テンダーはそれをもっとドライに、ユーモラスに表現してるし、音も洗練されている。そこがいままでにはないかなって思ったんですよね。
Sota:やっぱもう、そこは行くところまで行って彼岸に着いたらメジャー7thが鳴っていたということでしょう。
■(笑)負の感情がないよね。
Sota:ないですね。『マゴット・ブレイン』的なものもぜんぜんないです。
■『マゴット・ブレイン』は乾いているじゃないですか。
Sota:俺はもっと、(デトロイトではなく)カリフォルニアです。ドロドロしていないんです。
[[SplitPage]]まあ、ラヴ・ミー・テンダーはドラッグ・ソングをやっていると受け取ってもらわなくてもいいんですけどね。いくらでも解釈はあるので。
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■はははは。そういう意味ではラヴ・ミー・テンダーのドラッグ・ソングはちゃんと相対化されているんですよね。ところで今回リリースされた『TWILIGHT』にも、自主でリリースした『FRESH!』にも"シャーマン青春サイケ"と"円山町ラプソディ"が入っているんですけど、まずその、「円山町」という地名に関しては、やっぱ思い入れがあるんですか?
Sota:マキちゃんが円山町で生まれたような人間なんです。
Ackky:住んでいるのも円山町だしね。
Maki:愛着がありますね。
Sota:バンドでライヴで田舎行って、車で走りながら、「アー、良いなぁ、この辺り、安いんだろうなー、住みたいね」とか言ってると、マキちゃんだけひとりでガタガタ震えているんです。「朝までやってるバーがない」って。
■ハハハハ。それすごいね。
Maki:「絶対に住めない」「帰る!」ってね。
■いいですねーそれ(笑)。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを地でいってる感じが。
Sota:マキちゃんは都会の頽廃を地でいってるから。
Maki:好きなんです。
■僕も好きです。しかし、アルバムが楽しみですね。ホント、期待されてるんですから......。
Sota:もう制作に入ってますよ。しかし、いまどき誰がレコードを買うんですか。
■いや、ラヴ・ミー・テンダーとか普通に売ってますよ。ジェトセットとかで。ちゃんとキャプション付きで。シュガーベイブや相対性理論を持ち出して説明されてますよ(笑)。ちなみに今回リリースされた『TWILIGHT』にはテーマやコンセプトはあるんですか?
Sota:『TWILIGHT』って、パーティのタイトルなんです。
Maki:2年前に1回しかやってないんですけど、人生のベストにはいるようなパーティでしたね。そのときにテッペイが失恋するんですけど、それが曲のモチーフです。"円山町ラプソディ"も円山町のバーのパーティ名です。
■都内の小さなバー・シーンから出てきたというか。
Maki:そう、バー・シーンです(笑)。
■なんでバーが好きなんですか?
Sota:日光が嫌いなんですよ。
■アッキーとか日光、好きでしょ!
Ackky:俺、好き。俺はアウトドアなんでね。
Sota:俺も好きなんだよな。
■で、なんでバーなんですか?
Maki:別にお酒が好きなわけじゃないですしね。
■音楽バー?
Sota:誰が店員かお客かわからないバー。
■僕はこの取材で、ソウタくんが逮捕されるんじゃないかと心配なんですけどね(笑)。
一同:(笑)。
■ソウタくんは、ツィッターのシーンでは有名人だという話をうかがっていますが。
Sota:いやもう、行き詰まりました。
Ackky:ハハハハ。
Sota:思ったようにいかないです。何にも伝わらない。
■つねに議論を提供しているんでしょ?
Sota:言いたいことはなんでも言う主義なんで。
■マキちゃんから見て、このバンドのメンバーはどんな集まりなんですか?
Maki:酒場で出会った人たちですよね。
■シュガー・プラントを見ていたとか?
Maki:でもホント、友だちって感じですよ。自然に集まっていたという感じです。
■僕、HBが好きなんですけど、あのバンドはもうはじまっていたんですか?
Maki:HBは、2004年にははじまってましたね。
■それ以前は?
Maki:違うバンドをやってました。METRO999っていう、サンプラーとドラムのユニットだったり、その前は淺野忠信くんとLMっていう、LちゃんMちゃんっていう、双子の女の子がヴォーカルのバンドをやったり。
Ackky:ナチュラル・カラミティとかもやってるんでしょ?
Maki:レコーディングにちょっと参加した。
■へー、すごい輝かしいキャリアじゃないですか。ソウタくんはシュガー・プラントみたいなバンドにいながら、日本のアンダーグラウンドなシーンをずっと見てきていると思うんですけど、ラヴ・ミー・テンダーはどういう風に位置づけられますか?
Sota:ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを砂浜に連れ出したようなバンドじゃないですか。
■たしかに(笑)。......しかし、結局、他のメンバーの人は来なかったですね。
Ackky:来るとしたらアラタくんなんですけどね。
■アルバムの発売日は決まってますか?
Maki:春ぐらいにはってテッペイが言ってたよね。
■けっこう先なんですね。
Sota:俺は昔から録音してからリリースまでがなんでこんなに時間がかかるのかわからない。モータウンなんか、月曜日に会議して、火曜日に録音して、水曜日にミックスして、金曜日には出荷していたわけでしょ。あのスピード感が欲しいですね。
■ジャマイカもすごいよね。
Sota:店の奥で録音したものを店先で売るみたいなのがいいですね。
■じゃあ、そろそろ撮影しましょうか?
Ackky:結局、アラタくん、来なかったね。
Maki:アラタくん、携帯持ってないんですよ。
■いまどき携帯持ってないってすごいね。思想でもあるのかね。
Sota:アーミッシュと言いますかね。そういえば、最近、渋谷の街自体が移動していると思いませんか? どんどん神泉とか、そっちのほうに移動しているというか。
■ああ、たしかにセンター街や宇田川町あたりに個人商店を出すのって、もう難しいもんね。この10年で、そうした渋谷の文化もどんどん辺境へと移ってるよね。
Sota:バーの数で言えば三茶がすごいですよ。最強ですね。いま、バー・シーンは三茶ですね。
Maki:三茶はいますごいね。
Sota:音楽関係とかアート関係とか、来ない。鬱病のシステム・エンジニアとか、気が狂ったAV監督とか、そういう人たちがぶいぶい言わせている町で、オラオラの感じもあって最高です。
Ackky:不良が多いんですよ。
Sota:バビってますよ。
■なるほど。じゃあ、今日はどうもありがとうございました。
Sota:えー、もう終わりなんですか。
■アッキーは昨年、ソロ・アルバム出しているけど、ソウタくんは出す予定はないんですか?
Sota:自分の死後、いくらでも出せるようにプリンス並みに録りダメしています。
■まあ、とにかく、ラヴ・ミー・テンダーの今後が楽しみです。今日はどうもありがとうございました。