「Nothing」と一致するもの

Neu! - ele-king

 「NEU!――その大文字と感嘆符、アート・ポップ・スローガン。労苦や障害を破壊するかのようだ。2、3分後、退屈なセットが歌い出す。唐突に何かがクリックする。目的地を持たない旅。実にファンタスティックなダンスビート、上機嫌な音、純粋に脈打つ推進力、エゴのない悦びの表現、激しく、本能的で、身体的な経験かつトリップ。これがノイ!体験。これを知ったあとでは、伝統的な歌の構造は......平凡で、つまり不要!」
 2009年にUKで出版された『クラウトロック』において、ノイ!はこのように紹介されている。宇川直宏は文章中に、メールでも原稿でも対談でも「!」を多用するが、その源流はノイ!だろう。ノイ!が「ノイ」だったら、やはり寂しい。「ノイ!」は「「ノイ!」なのだ!!!!!!!

 クラウス・ディンガーが東京にやって来たとき、僕はステージを見ながら、「ああ、この人は本当にヒッピーで、純粋なロックンローラーなのだ」と思ったものだった。本作に収録されている"ドライヴ(グルントフンケン)"を聴けばわかるように、ノイ!はもともとはシンプルなロックのバンドだ。バンドのトレードマークであるミニマル・ビートは、ディンガーいわく「自動車を運転しているような気持ち」「どんどん進んでいくような気持ち」を表していることから、モータリック・サウンドと呼ばれているが、この気持ちよさの恩恵に授かっているロック・バンドはいまでは世界中にいる。我が国ではオウガ・ユー・アスホールがそうだ。
 実を言えば僕は、中学生のときにジョン・ライドンがファンだからということで、初めてノイ!のファーストを聴いたものの、これのどこが良いのか最初は理解できなかった。迫力あるセックス・ピストルズのデビュー・アルバム、迫力満点のベースと残酷なギターのPIL、あるいはザ・フォールのニヒルな展開......といったノイ!の子供たちの音楽のほうが親身になれた。ノイ!の「エゴのない悦びの表現」その「上機嫌」な音、その「推進力」を充分に感じ取るには、いろんな意味において、まだ未熟で、狭量で、若すぎたのだ。
 だから1970年代初頭、ドイツのロックを"クラウトロック"とバカにしたイギリスのジャーナリストの気持ちがわかる。グラムやハード・ロックやプログレ全盛の時代においてこのペラペラとした軽さ、なかば間の抜けた空間は、アングロサクソンの高慢で保守的な耳にとっては嘲笑の対象だったのだ。いまとなっては立場は逆転している。コニー・プランクとともに彼らが作ったファーストから『ノイ!75』までの3枚は、今日のインディ・ロックやテクノおける大きな影響、すなわちクラシックな作品として広く認識されている。

 ノイ!とは、ふたりの男の喧嘩の物語だ。セカンドをリリース後にいったん別れ、レコード会社との契約上、もう1枚作らなければならなかったため、ふたたび一緒にやることになったクラウス・ディンガーとミヒャエル・ローターは、パンクの青写真となった1975年の『ノイ!75』の録音途中で結局、喧嘩別れしている。そして、10年後の1985年10月、またしても一緒にドュッセルドルフのスタジオに入って録緒をはじめている。が、1986年になってもそれは完成しなかった。ふたりの仲はまたしても険悪になり、レコード会社もその事態に関心を寄せず、プロジェクトは消えた......。
 1995年、クラウス・ディンガーが〈キャプテン・トリップ〉を通じてリリースした『ノイ!4』はそのときのセッションの記録だが、のちにミヒャエル・ローターが所有していたマスターテープをエディットし、選曲したものが『ノイ!86』。何曲かは『ノイ!4』と重なっているが、こちらはミヒャエル・ローター主導でリリースされたという点がミソである。
 ローターはそもそも、アンビエントな方向性への関心が深まって、ディンガーから離れて、1973年、クラスターのふたりと一緒にハルモニアを結成している。ハルモニアの素晴らしい2枚のアルバム、そして『ノイ!75』のA面の3曲とそれ以降のソロ作品を聴けばわかるように、この頃の彼は穏やかさ、メロウな感性に向かっている。
 しかし、ローターが2010年に監修した1986年の録音物は、紛れもなくディンガーとローターふたりのノイ!だ。上機嫌なモータリック・サウンドは走り、ところどころでディンガーの野性味もよく出ている。"クレイジー"はパンク・ソングの"ヒーロー"(『75』収録)の再現のようだし、"ドライヴ"は歴史的名曲"ハロガロ"(ファーストの1曲目)の発展型だ。"エラノイツァン"のようなアンビエントもある。
 そのいっぽうで、"ウェイヴ・マザー"のような陽気なジョイ・ディヴィジョンに聴こえる曲もある。"デンツィン"や"ラ・ボンバ(ストップ・アパルトヘイト・ワールドワイド!)"のようなシンセ・ポップは笑えたが、"ユーフォリア"にいたってはほとんどニュー・オーダーじゃないかという......当時のニューウェイヴを強く意識している。
 美しくも幸福な"ノーヴェンバー"を経て、そして『ノイ!86』は、"KD"の豪快な酔っぱらいっぷりで終わる......"KD"とは当然クラウス・ディンガーのことだろうが(彼は2008年に死んでいる)、彼はそういう人だった。大酒をかっくらって、ギターを抱え、「バーバールッバー!」をわめいている人だったのだ。結局、それがノイ!の最後のメッセージとなった。
 あらためて言えば、ノイ!とは水と油が同居した奇跡的なバンドだった、そうした奇跡的な、必然とも偶然とも取れる混乱こそ、強度のある音楽を生む、セックス・ピストルズのように。僕はいまでも"ハロガロ"を聴くと気持ちが舞い上がる。

Interview with shonen knife - ele-king


少年ナイフ
Pop Tune

Pヴァイン

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 昨年、結成30年を迎えた少年ナイフの新作『ポップ・チューン』は、タイトルどおりのポップなアルバム。これだけではなにも言ってないか......。
 どんなに浮き足立った時代にもどん底にも思える暗い時代にも、少年ナイフはいつも目の前にある現実を歌ってきた。それはいまも変わらない。おいしいもの、おかしいこと、つらいこと、ふしぎなことーーソングライターのなおこの体験や目にとまったものが、彼女独特のイマジネーションを加えて、それが少年ナイフのチューンになる。
 かわいいものはただかわいいのではなく、つらいことはただつらいのではなく、おいしいものは......これだってただおいしいってだけじゃなくなる。「私たちの音楽で楽しんでほしい」と少年ナイフは言う。覚えやすいメロディとシンプルな言葉、むずかしいことなんてなにも言っていないのに、なおこの視線にはすごく醒めたところがあって、そのクールさが少年ナイフを少年ナイフたらしめ、そのロックンロールに巻き込んでゆく。
 「ロマンは苦手」となおこは言う。以前のインタヴューで訊いた「命がどうしたってことにロックを感じない」という言葉は、大震災後のいまも変わらず少年ナイフの作品を支えている。へそ曲がりだけど偏屈でもシニカルでもない。そんなのは彼女たちにとっては平凡すぎて「ロックじゃない」んだろう。
 新作を聴くたびにそうなるのだけど、今回もまた、少年ナイフ的「世界の見方」に笑って楽しんでドキッとして、それから(文字どおり)ハングリーでロックなーーなんというか、「暮らしの基本」のようなところに立ち返らせられてしまった。
 では、インタヴューをお楽しみください!

実体験を歌にすることが多かったんですね。想像をふくらませて、想像の世界でおおきくして。ロマンじゃないんです。ロマンは苦手なので(笑)。現実主義なんで、そういう現実から少しふくらませていくんです。(りつこ)

りつこさんとえみさんは今度のアルバムは少年ナイフとしては何作め?

りつこ:わたしは今回が3枚めです。加入してからアルバムとしては4作品めです。オリジナルとしては。

えみ:わたしはひとつ前の『大阪ラモーンズ』からですが、オリジナルとしては今回が初めてです。ライヴは一昨年からですね。4月でまる2年になりました。

なおこ:だけどもう昔からいる感じです。もう10年はいる感じ(笑)。

りつこ:わたしは何年めだったかな。数えてないんですけど......。

なおこ:5年め。

りつこ:ああ、5年めです。今回の『ポップ・チューン』では、少年ナイフというものがどういうものかということをはっきりと言えるようになったと思っていて、自分の自然体でやれました。やっぱり入ったばかりの頃は「少年ナイフ」という名前にかまえていたところもあったし、いろいろ慣れない部分もあったけど、やっとここにきて少年ナイフというものを楽しめるようになりました。もともとファンだったので、責任感というわけじゃないですけど、自分のせいで悪くなったらイヤだとか、そういうのもあるじゃないですか。そういうのからはじまって、いまになって、今回の作品はほんと、いいものができたと自負しております。

なおこ:ははは。

えみ:わたしももともと少年ナイフに憧れて、少年ナイフに入ったんで、背中に大きな看板背負ってるという気持ちはあったんですけど、でももっといいバンドにするという気持ちもあったし、今回のアルバムにはそういうのが出せたと思います。

なおこさんから見ていまの少年ナイフはどうですか?

なおこ:もう最高にいい状態だと思います。最初のオリジナル・メンバーのときは原初的な狂気もはらんでいたかなとも思うし、そのあとに参加してくれたメンバーやサポートの人たちもそれぞれの持ち味があって、そのときは面白かったけど、いまのメンバーというのはすごく、りつこさんもさっき言ったけど、自然に合わせて、そうしたらそれがすごく相性のいい演奏になると言うか、そういうことが自然にできるメンバーなので、いまのメンバーはいまの少年ナイフとして最高じゃないかと思います。

去年、たくさんのライヴをこのメンバーで回ったということですが、その時のことを聞かせてください。

なおこ:去年は日本でもたくさんやったし、北米とヨーロッパ・ツアーと2回大きなツアーをやりました。やっぱり1回大きなツアーに行くと、それでバンドのグルーヴができるというか、まとまりが出てくる。えみさんが入ってからも海外のツアーを4回、一昨年には中国や台湾にも行ったし、去年は1ヶ月以上のツアーを2回もできたんで、それがバンドにとってすごくよかったですね。

えみ:年間80本くらいはやってると思いますよ。

りつこ:国内でもそこそこやってて、海外には1回行けば30本くらいはやりますから。

少年ナイフとしてはそんなにハードにやる年ばかりではなかったですよね。

なおこ:ははは。そうなんですよ。4月に大阪の難波ベアーズっていうライヴハウスで少年ナイフ結成30周年記念イヴェントをやって、1部がライヴ、2部がトークだったんですけど、そのトークショーのために昔の資料を調べて日記とかを見てたら、1年目は10数本、2年目3年目になったら年間24回ライヴやった、というときもあれば、年に4回しかしなかったこともあった。海外ツアーに関しても、1989年に初めてアメリカに行って1回だけライヴをやって、2回目は91年にアメリカの4都市で、同じ年にニルヴァーナの前座でイギリスに行った。そのあたりから急に増えたけど、98年から2002年はぜんぜん海外は行かなかったりして......。ものすごくたくさんやってる年とやってない年があるんだなあと......。ただ、えみちゃんが加入してからは一昨年も去年もアメリカ・ツアーやヨーロッパ・ツアーがあるから、ものすごく密度が濃いと思います。

りつこ:えみちゃんが加入して間もない頃に750回だったんですよ、たしか。ほら、高知で712回目だって言ってませんでしたっけ?

なおこ:そうだ。高知で。

りつこ:そこからでもずいぶんやってるから、もう800回になってるかもしれない。

えみ:ええ、わたしも200回はかるく超えてる気がします、あれよあれよという間に。

りつこ:ここ数年でめっちゃライヴ増えたね。

ツアーの思い出と言えば?

なおこ:そうですねえ。やっぱり食べ物がおいしかった。スペインの食べ物がおいしかったなあとか。

えみ:よく食べて、私は前回のアメリカ・ツアーで5キロ太りました。

りつこ:ははは。今回は太らへんと言いながら途中で崩壊していくんですよ。

えみ:ピザ7切れ食べました。

りつこ:ちょっとえみちゃんやりすぎよ、って言って。

ははは。やっぱりお腹すくんだ。

えみ:すきますねえ。

体力いるわけで。

えみ:ええ、やっぱりいるんでしょうね。いるということにしておきましょう(笑)。

りつこ:ははは。そう言っときましょ。

なおこ:でも車ばっかりですから、歩かないんですけどね。

えみ:そうなんですよね。

なおこ:あと、おととし中国に初めて行ってすごく面白かった。

中国のどこですか?

なおこ:北京と上海と、台湾の台北の3本で大きめのライヴハウスでやったんですけど、「わあ!」となりましたよ。しかもお客さんが若かったんです。北京は中国人でしたが、上海は白人のお客さんばっかりで、ここはどこなんだろうって感じでした。もちろん初めて行くし、お客さんがどんな感じかまったく分からなかったんですけど、ステージに上がった途端、びっくりした。しかもみんなナイフを待ってたっぽい感じだったし。ナイフは中国でCDのリリースはないのにどうやって手に入れるのかはわからないんですよ。

りつこ:ここがいちばん印象的、というのはないんですけど、どこの国に行ってもナイフを待っててくれるお客さんがいるというのがつねにありましたね。

むかしと変わった印象はありますか? わたしは92年に初めてニューヨークで拝見したんですが、楽しそう、というか、すごく笑ってるお客さんが多かったですね。

なおこ:そうですか。いまもおんなじですね。お客さんけっこうにこにこして笑ってくれてる人が多い。それは日本でも外国でも。それでこっちも元気を与えられて。

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北京と上海と、台湾の台北の3本で大きめのライヴハウスでやったんですけど、「わあ!」となりましたよ。しかもお客さんが若かったんです。北京は中国人でしたが、上海は白人のお客さんばっかりで、ここはどこなんだろうって感じでした。(なおこ)


少年ナイフ
Pop Tune

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30周年ということであらためて感じたことはありましたか?

なおこ:そうですねえ。いままでぜんぜんうしろを振り返ったりしなかったんですけど、かといって未来を考えてああしようどうしようということもなくて、とにかく目先のこと目先のことしか見てなくて、なんにも反省もしないし、なまけものなのか計画性もなくやってきたんで、だから30年っていう感覚はないんです。「いま」が積み重なるばっかりで。それで「いま」がつみ重なるとだんだん過去が消去されていく。上書き上書きになってる状態。

いつも新鮮な気持ちで。

なおこ:ええ。そうしてます。

今作はどんな作品ですか?

なおこ:今回のアルバムはポップな感じにしたいと思っていたんです。前のアルバムは『大阪ラモーンズ』でちょっとパンクで、その前の『フリータイム』というアルバムもパンキッシュな曲が多かったんで、今度はポップな感じにしたかった。なんでポップかというと、メンバーみんなポップな音楽が好きで、いちばん好きなジャンルとか音楽がポップだったんです。たとえばポール・マッカートニーみたいな世界とか。バンドによってはハードコアが好きな人のバンドの中心はハードコアになるように、少年ナイフの中心はポップだなあと思って、つぎは30周年やし、少年ナイフもはじまりはポップやと思うし。

なおこさんはふだんの生活の中で少しずつ書きとめていると以前うかがいましたが。

なおこ:そうですね。ふだんからネタ帳に例えば単語だけ書きとめたりしてて、いざ曲を書こうという時に、それを歌詞にしつつ曲をつけていったりするんですが、まあ1ヶ月に1曲ずつでも地道に作っていけばあわてなくてすむけど、わたしはそうでなくてレコーディングのスタジオを予約した段階であわてて曲を書くんです。今回も3月からスタジオで、曲は1月に書きはじめました。

そういう日常生活のなかで作られる少年ナイフの曲はかなり具体的なエピソードがもとになっているんですよね。今回はどんなエピソードがあったのか教えていただけますか?

なおこ:はい。1曲目は"ウェルカム・トゥ・ザ・ロック・クラブ"で、日本だとライヴハウスっていうけど、アメリカとかだとクラブ。この曲はライヴでお客さんに楽しんでほしいなあと思う曲で、どっちかというとアメリカのライヴ会場をイメージしてできた曲ですね。ツアーのことを思い出して......。

日本のライヴハウスとなにが違うんですか?

なおこ:アメリカは地方の町にでも何軒かロック・クラブがあって、人があんまり住んでないようなところでも、夜な夜な人が集まってきて、横にレストランやバーが併設してあるから、そこでゆっくり飲みながら、ビリヤードの台が置いてあるのでそういうのもやりながら、で、時間になるとライヴがはじまるので今度はそこに見にいって、という具合に、そこで半日遊べるような施設が多くて、それがすごい楽しい。日本はわりと土地がせまいからバーとステージもひとつの部屋のなかに限られてるし、ライヴが終わったら「もう出て行ってください」みたいな感じだけど、アメリカだとライヴが終わっても好きなだけ飲んで飲んでという感じなんです。レストランもあるからお腹いっぱいになってからライヴを見たり。やっぱり土地があるから、あとよく飲む人が多いというのもあるのかも。

でも車で来てるんですよね。

えみ:うん、そうですね(笑)。

なおこ:ああ、そうだね。そのへんがどうなってるのかは、わたしたちにはわからない。来てる人の年も幅広い。日本ってだいたい30代か40代かな。

少年ナイフはわりと広いですよね。

りつこ:広いです。日本でも広いですけど、海外はもっと広い気がします。

なおこ:それこそ親子三代みたいなね。おばあちゃん、息子、孫って。

それは楽しそうな場所ですね。そういう場所で『ポップ・チューン』とつながるんですね。

なおこ:ええ。音楽を楽しもうと。で、ちょっと最後のところに「政治家もいらないし、心配もいらない」って、ちょっとそういうのも入れといて。

そこ、少年ナイフらしい言いかたですよね。最後の2曲にも、この1年のいろいろな日本の困難な事態や気分に対しての歌かなあと感じたんですが......。

なおこ:最後の曲を作ったのは2年くらい前なんです。

あ、そうなんですか。

なおこ:ええ、だからほんとに関係ないんですけど(笑)。スポーツで金メダルをとろうって。

ああ、金メダルってどういう意味だろうなあと思ってたんですけど、ストレートな意味なんですね(笑)。

なおこ:自分もテニスをするので、うまくなれたらいいなあと思って書いたんです。

じゃあ最後から2曲目の"サンシャイン"は? わたしは寒そうな避難所の光景を思い出したりしたんですが。

なおこ:無意識のうちにそういう影響はあるかもしれないですけど、日本で大震災があったからどうのっていうようなことはとくにないです。聴く人がいろいろ感じてくれたら嬉しいなあと思いますけど。地震があったことに、少年ナイフとして曲をとおしてなにかしなければ、ということは考えないです。個人的に募金したりというのはありますけど。

すごくあったかくて、でもクールでもあって、大きなできごとのなかでも日常生活から離れずにいるというようなところが少年ナイフらしいと感じたんです。

なおこ:やれることは、音楽を演奏して、それが誰かが楽しくなってくれたらうれしいなあと思って。

この"サンシャイン"はりつこさんが歌ってるんですよね。

りつこ:たぶんわたしは、自分は雨女だと思ってて、なおこさんがあたし向けに曲を作ってくれたときに、そういう歌になったんだなあと思いました。だから歌ってるときはそういうことはなにも考えませんでした。ただ私はビートルズのような雰囲気の曲やなあと思って。このアルバムのなかであったかい色あいを出せたらいいなあと思って歌いました。

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日本で大震災があったからどうのっていうようなことはとくにないです。いろいろ感じてくれたら嬉しいなあと思いますけど。地震があったことに、少年ナイフとして曲をとおしてなにかしなければ、ということは考えないです。個人的に募金したりというのはありますけど。(なおこ)


少年ナイフ
Pop Tune

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なるほど。ところでえみさんもヴォーカルを担当している曲がありますね。

えみ:ええ。"サイケデリック・ライフ"(笑)。

なおこ:あははは。

えみ:なんで笑うんですか(笑)。

なおこ:ははははは。歌詞はギャグで書いたもんで。えみさんは、サイケな服とかいつも着てはるから、ばっちりだよねと思って。ペパーミント・ティーも飲んでるし。

えみ:瞑想もするし。はははは。

りつこ:ボヘミアンチックな服で。

ああ、ちょっと不思議な歌詞なんですけど、事実そのままということなんですね(笑)。話が最後の曲に飛んでしまったんで、"大阪ロックシティ"にもどりたいのですか......。

なおこ:これはロビン西さんが原作の『ソウル・フラワー・トレイン』という映画の主題歌を少年ナイフにやってほしいということで、面白そうだから作ったんです。舞台が大阪だからこういう歌に。自分ら通天閣とか大阪城とか好きだから、アメリカやヨーロッパでもリリースがあるし、外国の人にも大阪の魅力を知ってほしいと思って。

わたしはつぎの曲が頭にこびりついてしまったんです。「食べ放題のレストラン」なんですが。

三人:(ざわめく)

なおこ:これは、去年、アメリカ・ツアーに行ったときに車で移動中に昼ご飯の時間になったので「ここが美味しいよ」と連れていってもらった店のことです。ゴールデン・コーラルという店なんですが、そこに行ったら、チョコレート・ファウンテンもあるし、ミートローフみたいな巨大なハンバーグもあったね。
りつこ・えみ:あったあった。

えみ:食べ過ぎました(笑)。

なおこ:日本ではいま食べ放題がたくさんあるけど、アメリカで食べ放題といったらラスベガスのバフェみたいなとこしかなくて、「こういう店もあるんだ」と感動してばくばく食べて。

えみ:おいしかったね。

なおこ:それで作った。食べ放題にいくときは、先にお皿を持って順番に取っていくよりも、まず全体を見渡してから選ぼうということを言いたかった。

美味しいんですか?

なおこ:ええ、おいしいですよ。

アメリカのレストランって......。

三人:あー(笑)。

なおこ:ヨーロッパは好きですよ(笑)。

どこが好きですか?

りつこ:スペインが...。

なおこ:スペインのごはんは好きです。

えみ:ヨーロッパはどこ行ってもおいしいです。

なおこ:おいしくないことの方が少ない。でもわたしが行ってた最初のころのイギリスは、たとえばサンドイッチにマヨネーズがかかってなくて、パサパサのパンにハムが挟んであるだけで、イギリスに行くときはいつもマヨネーズを持っていってたくらいなのに、最近、ちゃんと味がつけてあって、日本のコンビニのサンドまではいかないけど、まあおいしいです。

りつこ:チーズとかバターとかパンはおいしいですよ。

手をかけなければ...

なおこ:2、30年前のイギリスだと、スパゲティは柔らかく茹でてあって、缶詰のミートソースをかけたみたいのしかなかったのに、最近は日本のイタリアンで食べるようなものがパブで出てきたりとか、フィッシュ・アンド・チップスの店なんかも......。

やっぱり食べ物の歌は重要ですね。そしてアルバムではさっきの"サイケデリック・ライフ"から"ミスターJ""ゴースト・トレイン"とちょっと不思議な曲へとつづいていくんですが。

なおこ:"ゴースト・トレイン"というのは、家の近所を電車が走ってて、最終電車が行ったあと、回送列車が車内灯をつけずに走ってくるんですね。先頭のライトだけついててあとは真っ暗なのでおばけの列車みたいなんです。それにインスパイアされました。"ミスターJ"は、地下鉄の駅のベンチにいつもおじいさんが座ってはって、携帯をいじったりしてるんです。ほんとにいっつもいるの。

ああ、実在の人なんだ。一日中、そこに座っているんですか。(笑)全曲に渡ってありがとうございました。少年ナイフの曲って、こうやって種あかしを聞いても、それに影響されずに聴けるのでつい聞きたくなってしまうんです。

三人:ははははは。

なおこさんがインスパイアされたというもとの体験がとても楽しいし、おもしろいんですよね。ささいなできごとなんだけど、それがこんな歌になるんだって。

りつこ:いっしょに体験していることが、歌になって出てくるときに、すごく感動します。

えみ:ほんとにそうですね。

りつこ:「あの時の歌」というのは聞いてないけど、そこにいた人間ならわかる。「ああ、チョコレート・ファウンテンおいしいゆうてはったなあ、おいしいおいしいって食べてはったなあ」って。そういうのが、聞かなくてもわかる。

ああ、なるほど。だから、そこにいなかった人も、そこでの話を聞いてから歌を聞くともっと楽しくなるんですね。

なおこ:昔から、実体験を歌にすることが多かったんですね。想像をふくらませて、想像の世界でおおきくして。

ロマンじゃないんですよね。

なおこ:ああ、ロマンじゃないんです。ロマンは苦手なので(笑)。現実主義なんで、そういう現実から少しふくらませていくんです。

Shop Chart


1

Ruf Kutz

Ruf Kutz Ruf Kutz #5 Ruf Kutz / UK / 2012/5/31 »COMMENT GET MUSIC
推薦盤!LTD.250pcs.!!絶好調<RUF KUTZ>第5弾!こちらシリーズ史上最高傑作なのでは・・

2

Kenny Dixon Jr

Kenny Dixon Jr Ultra Rare Jan Remixes & Edits 3 Unknown / FRA / 2012/5/30 »COMMENT GET MUSIC
入手困難なMOODYMANNレア・ワークスをコンパイルしたMOODYMANN公認と思われる「ULTRA RARE JAN REMIXES & EDITS」第3弾!今回も垂涎級の極上レア・トラックが並びます。謎の初アナログ化トラックも!?

3

Craig Huckaby

Craig Huckaby Black Music / Child Of The Sun Sound Signature / US / 2012/5/23 »COMMENT GET MUSIC
推薦盤!<SOUND SIGNATURE>新作はあのMIKE HUCKABYの実兄CRAIG HUCKABYにフォーカスした興味深い一枚。黒人音楽愛に満ちたその名も"BLACK MUSIC"の初アナログ化&PIRAHNAHEADとの共作"CHILDREN OF THE SUN"をカップリング!

4

J Dilla

J Dilla Jay Dee's Revenge / Birthright Ruff Draft / US / 2012/5/31 »COMMENT GET MUSIC
間もなくリリースされるJ DILLA未発表音源を集めたニューアルバム「REBIRTH OF DETROIT」から先行10"シングル!リミテッド・クリアヴァイナル!

5

Mental Remedy feat. Carlos Roberto

Mental Remedy feat. Carlos Roberto Children From Bahia The Remixes Sacred Rhythm Music / US / 2012/5/20 »COMMENT GET MUSIC
JOE CLAUSSELLバンド=MENTAL REMEDYによる極上ラテン・フュージョン・ハウス!アコースティックなオリジナルは勿論、密林アマゾンを駆け抜けるB面テイクも◎

6

V.A.

V.A. Deep Classics Amour / FRA / 2012/5/30 »COMMENT GET MUSIC
推薦盤!第1弾/2弾共に絶好調の注目新興レーベル<AMOUR>第3弾!"LOVE & HAPPINESS"使いのA-1を筆頭に5 KING'S a.k.a. MR. K ALEXI SHELBY、DJ AAKMAELらによる極上ハウス・トラック搭載。

7

Nick Sole

Nick Sole Flower Soil Mojuba / GER / 2012/5/30 »COMMENT GET MUSIC
<MOJUBA>看板NICK SOLE新作!ダビーな陶酔感に包まるメディテーショナル・スロー・トラック"MISSION OF LOVE"◎

8

Will Sessions

Will Sessions True Story / Dub Rock Funk Night / US / 2012/5/30 »COMMENT GET MUSIC
BLACK MILKインスト・カヴァーにて恐らくキャリア初(?)となるレゲエ/ダブ・アプローチの"DUB ROCK"!USのヒップホップ/生音ファンクなグッド・レーベル<FUNK NIGHT>から主軸WILL SESSIONS新曲カップリング7"。

9

Girls We Like / D Bo

Girls We Like / D Bo The Do-Over Vol.4 The Do-Over / US / 2012/5/17 »COMMENT GET MUSIC
推薦盤!上質ビートダウンをカップリングした話題作。LAのサンデーアフタヌーン・パーティー代表格「DO-OVER」より派生したアナログ・ レーベル第4弾!

10

Los Miticos Del Ritmo

Los Miticos Del Ritmo Los Miticos Del Ritmo Soundway / UK / 2012/5/11 »COMMENT GET MUSIC
QUANTIC指揮の元、現地凄腕ミュージシャンからなる"QUANTICと神話の打楽器隊"、待望のフル・アルバム!伝統的な演奏形態を踏襲し つつも豊潤な音楽観と洗練のアレンジでアップデートした2012年型ハイブリッド・クンビア極上盤◎

Chart by JET SET 2012.06.04 - ele-king

Shop Chart


1

Calm Presents K.F.

Calm Presents K.F. Dawn Ep (Music Conception) »COMMENT GET MUSIC
4月発売のCalm Presents K.F.名義でのアルバム『From Dusk Till Dawn』からシングル・カット第二弾。本作もハーフスピード・カッティングを施した珠玉の一品です。

2

Beck

Beck I Just Started Hating Some People Today (Third Man) »COMMENT GET MUSIC
Jack WhiteのThird Manからの限定7インチ!!

3

Pacific Horizons

Pacific Horizons Re-Illumination Series Volume 1 (Pacific Wizard Foundation) »COMMENT GET MUSIC
Laのニュー・バレアリック人気ユニット、Pacific Horizonsによる2011年リリースの最新オリジナル・トラック2作をDj Cosmo & Yam Who?、Split Secsがリミックス。

4

Still Going

Still Going Walk That Shit Party (Still Going) »COMMENT GET MUSIC
Eric Duncan(Rub N Tug) x Liv Spencer(House Of House)の最強コンビStill Goingが手掛ける注目のレーベル第2弾作品!

5

Keep Shelly In Athens

Keep Shelly In Athens In Love With Dusk / Our Own Dream (Forest Family) »COMMENT GET MUSIC
チルウェイヴ~エレクトロニカ~ダウンビートの枠を超えるサウンドで絶大な人気を博すギリシアの男女デュオ。2枚のレアEpがForest Familyから嬉しすぎる再登場!!

6

Sweatson Klank

Sweatson Klank Elevate Me (Project Mooncircle) »COMMENT GET MUSIC
L.a.名門Alpha Pupからのリリースでもお馴染みTakeによるダブステップ通過以降の新プロジェクトSweatson Klank第1弾。当店大人気Project Mooncircleからの超話題作です!!

7

King Midas Sound

King Midas Sound Without You (Hyperdub) »COMMENT GET MUSIC
レジェンドThe BugことKevin Martinと日本人女性ヴォーカルHitomiのBlack Chowコンビに詩人のRoger Robinsonを加えた人気トリオの楽曲を、これ以上ない豪華メンバーが仕立て直した超話題盤です!!

8

Ital / Magic Touch

Ital / Magic Touch Anywhere You Want Me / From A Dream (100% Silk) »COMMENT GET MUSIC
100% Silkを代表する2人がソロで初顔合わせ。それぞれのオリジナルとお互いのリミックスを披露。どちらも気合の入りまくったミュータント・ディスコです!!

9

Arsenal

Arsenal One Day At A Time Ep (Play Out!) »COMMENT GET MUSIC
Hendrik Willemyns & John Roanからなるブリュッセルの古株ユニット、Arsenalによる昨年リリースの4thアルバム『Lokemo』から豪華リミックス・カットが新着!!

10

Lord Of The Isles

Lord Of The Isles Unthank003 (Unthank) »COMMENT GET MUSIC
Eneからリリースされた"Pacific Affinity"でも話題となったスコティッシュ・プロデューサーLord Of The Islesによる新作10インチ。

Black Dice - ele-king

 アヴァンギャルド・ミュージックでも実験音楽でもなんでもいいけれど、いわゆるマイナーな音楽には快楽的とは言いがたい音楽が少なくない。快楽の定義も千差万別だろうし、ポップ・ミュージック=快楽的とも限らないので、そこが対立軸ではないはずだとはいえ、それにしても意図がよくわからない音楽が多い。多すぎる。そもそも何を実験しているのか。何と戦っているのか。もしかして聴いた自分が悪いのか。売った店員の責任か。盤を割って中身を調べてもやっぱり理由はわからない。教えて、クルト・ゲロン。なぜなの、ジェームズ・ホエール......(どっちも死んでるか)

 しかし、ときにはあっというほど明快に諧謔的だったり、ユーモラスであることが狙いだとわかるアンダーグラウンド・ミュージックも世にはけっこう存在している。ピエール・アンリやジャド・フェアーは結果的にそう聴こえるだけなのかもしれないけれど、ノイ!やレジデンツ、ホルガー・ヒラーやジャックオフィサーズは笑いを意識していないとはとても思えないし、トム・ハミルトンやナーキー・ブリランなど、どっちでもいいからとりあえず笑いが欲しくて再生してしまう音楽もそれなりの量はある。メルテイブル・スナップス・イット、コズモナウテントラウム、スーパーライフ、GCTTCATT、ビューボニーク......笑いの数が一種類ではない以上、各種取り揃えたくなるのも仕方がない。

 ゼロ年代以降のUSアンダーグラウンドにもこの系譜はしっかりと混在していた。ゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラー!からドゥームなりノイズ・ドローンには流れなかった系統がそれで、それはどこかでクラウトロック・リヴァイヴァルと重なる傾向だったといえるところもある。ヴァス・ディフェレンス・オーガニゼイションからブラン(...)ポス、そして、何よりもブラック・ダイスの軌跡にそれははっきりと顕れている。かつてのハードコアは、デビューから5年も経つ頃には見る陰もなくなり、前作『リーポー』でそのメソッドは確固たるものとなった。さらに『ミスター・インポッシブル』ではいささか様式美といえるほど諧謔性はフォーマット化され、VDOがノイ!で、ブラン(...)ポスがホルガー・ヒラーなら、ブラック・ダイスは明らかにマウス・オン・マースとフザケ方が似てきた。ミニマルというよりも嫌がらせのような反復、ノイズが減って全体にビート指向となり、急にテンションを上げたり下げたりする構成も一歩間違えばクリシェになりかねない。彼らの資質からしてリズムでこれ以上、面白くするには限界があるだろうから、この次が難しいとは思うけれど、いまのところはまだ笑かしてくれる(レジデンツでいえば『インターミッション』(82)の辺りだろうか。新鮮味は薄れたけれど、笑うには充分......みたいな)。

 全曲試聴→https://soundcloud.com/ribbonmusic/sets/black-dice-mr-impossible

 解散したイエロー・スワンズのピート・スワンソンやウルフ・アイズのネイト・ヤングなど、ゼロ年代中期にはノイズ・ドローンの中核にいた人たちがこのところ相次いでエレクトロニック・ミュージックに手を出したり、ノイエ・ドイッチェ・ヴェレもかくやと思えるバク・バク・ビガップスからkplrのような諧謔系ミニマルが目立ってきたことも、ブラック・ダイスの影響によるものなのだろう。マウサスやカルロス・ジッフォーニがノイズを鳴らしはじめたときとはもう季節感が変わったのである。ここへ来てエアリアル・ピンクがVDOを復活させたことが、その証といえる。

 同じようにしてアヴァンギャルド・ミュージックのバック・カタログをユーモアの文脈で再生させようとする試みもある。スクウィーの中心的存在であるランディ・バラクーダとメシャクがコンパイルしたペッカ・アイラクシネンの発掘音源がそれで、78年から85年までに録音された8曲はどこか現在のスクウィーに通じるものばかりが選ばれている。60年代からスペルマとしてフィンランドのフリー・ジャズを牽引してきたアイラクシネンは、03年に『マダム・アイム・マダム』がコンパイルされてから再評価の気運にのり、昨年はドローンをメインとしたファースト・ソロ『ワン・ポイント・ミュージック』(72)が39年ぶりに復刻された。このまま待望のセカンド・アルバム『ブッダズ・オブ・ゴールデン・ライト』(84)も再発されちゃうのでは......とワクワクしていたら、ファーストからセカンドまでの時期に録音されたマテリアルが陽の目を見るのだから、世のなか、何が起きるのかわからない(アイラクシネンといえば、国内なら京都のメディテイションズか栃木のアート・イントゥー・ライフが扱ってきたものなのに、両者とも完全にスルーで、まさかダンス・カルチャーからこのようなアプローチがあるとは誰も予想していなかったことが如実に窺える。アイラクシネン本人だって、きっとまだ文脈を呑み込めているとは思えない。DJカルチャー=聴く力の勝利だと考えたい)。フリー・インプロヴァイゼイションが往時の基調だたっとはいえ、いわゆる緊張感のある演奏という当時の様式美には習わなかったところがアイラクシネンの存在をこれほど長く闇に葬り去った理由であり、ここへ来て蘇る理由でもあるのだろう。そのユーモアによって。ダンス・カルチャーの文脈から→https://soundcloud.com/perzza/simhaghosha-1983

トクマルシューゴ - ele-king

 ディー・ヴイ・ディー(d.v.d)もおもしろかった。なるほどそれは「みる音楽」であって、動画サイトで静止した画像を観ながら音楽を聴くというあの奇妙な「きく絵」体験と不思議な対照をなすように思われた。

 この日はトクマルシューゴのDVD作品『トノフォン・フェスティヴァル&ソロ2011』の発売を記念したライヴだった。ステージには2台のドラム・セットが左右に配置されていて、真ん中には大きなモニター(ドラムス・ヴィジュアルズ・ドラムス=d.v.d)。2台で構築するコンピュテーショナルなドラミングに連動して、プログラムされた映像が動いていく。映像は音と独立したものではなく、音に反応して展開するもので、一打されるたびにマルやサンカクが増えたり変形したりをくりかえしている。

 音の信号性を強調するようなそうした設計は、メカニカルなドラミングと協調しながらオーディエンスを別次元のライヴ空間へと導くかに思われた。モニターの向こうにあるマルやサンカクの世界へだ。あれだけ卓抜でビート感のあるドラミングであるにもかかわらずほとんど誰も踊っていないのは、われわれがほぼ全員でそのサイバーなフロアへと移動させられてしまったから、だろう。われわれはおそらく身体を置きざりにして、マルやサンカクの世界で踊っていたのである。そのフロアには終わりがなかった。
 そもそも抽象的にデザインされているから、出口・入口もなく、直線は伸びつづけ、波形はうねりつづけ、マルは増えつづけ、空間はひろがりつづける。それがすこしこわいようにも思われた。なんともいえない微量の不安がドライに砕かれ、顆粒状にふりまかれていると言えばいいだろうか。音もインフレーションしつづけるが、その先に当然迎えるはずの破滅をまるで感じないこと、そして当然破滅がやってこないこと、こうしたことがなにかおそろしいのである。エレクトロニックな上もの自体はとてもかわいらしい音だ。だがあの平板なピコピコ音には小児的で傲岸な無邪気さとともに、つめたい批評性が圧縮されているようでもある。「ほんとうは怖いにこにこぷん」、というか。家で聴くというわけにいかない。生演奏という価値のためではなく、インスタレーションであるからして会場に足を運ばざるをえない、不思議な種類の音楽である。DVDで観るのもいいだろうが、おそらくそこにはいま体験している即興性とは別のレヴェルの即興、別種の仕掛けがなされているはずだ。と思った。

 次号『ele-king』掲載の金田淳子氏を迎えた座談会の収録が終わったところだが、音楽には明るくないという氏にも教えてさしあげればよかった。ディー・ヴイ・ディーは音楽性の高さに比して非常にリスナーへの敷居が低いというか、アート的な文脈を持っているぶん音楽ファンにかぎらない広い層に受け入れられるプロジェクトではないかと思う。かつ、おそらくメンバー諸氏はイケメンと呼ばれる種類の人びとであり、ドラムとラップトップというストイックなフォルムをまとった電子男子として、多大な想像力の供給源となるのではないだろうか。MCも軽妙。噺家がせんすで話の間をとるように、しゃんとハットを鳴らしていたのがおもしろかった(ジマニカ氏)。

 トクマルシューゴはとても親密な空気のなかではじまった。ドラムス、その他パーカッション、アコーディオン、ベース、ギターと歌。"リンネ"のミュージック・ヴィデオ(https://www.youtube.com/watch?v=PfgB3bX0sLg)のつづきのように、楽器を持ってみんなでここまで歩ってきたといったふうのたたずまい、ステージという場所の異質さを中和するくだけた雰囲気がつくられている。それはオーディエンスにも確実に共有されていて、多くの人がとてもリラックスしながら、ほどよい緊張のなかで音を待っている。人の音楽を聴こうというときに、考えられるかぎりもっとも好意的なムードだ。なるほどこれがトクマルシューゴかと開始早々に敬服してしまった。みなビールさえ持っていない。

 しかし演奏じたいもややカジュアルであったというか、録音物としてのトクマルシューゴの緻密さはほとんど目指されていないように感じられた。全体にアコースティックなセットだったが、トクマル自身の演奏はやや埋もれがちで、セッションのダイナミズムを優先したということかもしれないが、もう少しくっきりと聴きたかったという思いがある。そもそもセッション(合奏、というほうが的確か)それじたいというより、それぞれの音の非常に繊細なつながり、行き届いたプロダクションがトクマルシューゴの魅力だ。それをライヴで再現するかどうかは考え方によるが、初めて観るものとして個人的には期待していた点ではあった。

 とはいえ、このがちゃがちゃとした合奏にはひとつの理想やテーマ性が織り込まれているのかもしれないとも思う。ひとりユニットや夫婦デュオなどが繚乱と生まれてくる一方で、3人以上のファミリーを形成することの意味は想外に大きい。もちろん単純に音数が必要だということもあるだろうが、それこそどのようにでもプログラミングは可能であって、人間が数人寄り集まって合奏をするというスタイル、とくに"リンネ"的なパーティのイメージは、ただ生音志向だという以上のなにかを持っているように思われる。ここに集まっているオーディエンスにも、アコースティックな合奏へのオーガニック幻想や一種のファミリー幻想が上質なフィクションとして機能しているのではないか。これを率いるのがギター弾きだというのがまたクリティカルである。「父」ではなく、しなやかにやせた青年の風貌が、ここで奇妙な説得力を持ってせまってくる。

 8分の6拍子で祝祭性を生み出すシーンも多かった。アニマル・コレクティヴのような、混沌として多幸的、どこの土地のものとも知れない架空的なフォークロアが奔出し、高揚感をあおる。ベイルートなどがやろうとしていることを日本で実践していると言いかえてもいいかもしれない。驚いたのは、幕間やアンコールを求めての拍手まで8分の6拍子になっていたことである。これは偶然ではなく、オーディエンスの側に明確にその手拍子を合わせ打つ意志があった。あれだけの会場でかなりの人数でそれを合わせることのむずかしさは、高校時代に応援団に従い、気ののらない3、3、7拍子を打った記憶のある人にならだれにでもわかるだろう。気持ちが重なり、いちリスナーを超えるファミリーのムードがあるからこそそれは可能であったと言える。

 またここに参加している人びとには、音楽の好みにも強い共通性があるようだ。イントロ・クイズのようなトクマルのギターの誘いに応じ、会場にはサケロックの合唱が起こったりしていた。ギターで人をその気にさせるのもうまい。筆者にはシンプルな弾き語りがとてもよかった。6月9日には町田の簗田寺にてソロでの出演を控えている(https://blog.shugotokumaru.com/)ようだが、ロケーションといい規模といい音響といい、かなりすばらしい演奏が聴けるのではないかと思う。

Georgia Anne Muldrow - ele-king

 長いあいだの圧迫から、古いレコードのジャケには、なかに入ったレコード盤の型が出てしまうことが多々ある。これをレコードファンはリングと呼ぶが、ジョージア・アン・マルドロウの『シーズ』には、あらかじめリングがデザインされている。また、長い歳月を経るなかで生じうるジャケの汚れや剥がれ、中古のランクで言えば、very good-、もしくはgoodのコンディションの状態が、あらかじめデザインされている。デジタル環境で育ったミネリニアルズである彼女はオーティス・ジャクソン・ジュニアすなわちマッドリブの名前で知られるプロデューサーの手を借りて、60年代のニーナ・シモンや70年代のカーティス・メイフィールドのレコードに針をおろしているかのような、ノイズを注いでいる。2006年、〈ストーンズ・スロー〉から彼女が最初のアルバムをリリースしたときのことだった。まだ渋谷のレコード店で働いていたヨーグルトに「これを聴かないと後悔する」といわんばかりに、なかば脅迫的に買わされたことをよく憶えている。そして2012年、下北沢のジェットセットの店長から同じように買わされた。
 70年代初頭のスティーヴィー・ワンダーのような民族衣装を身にまとうジョージアは、ジャズ・ギタリスト父に持ち、そしてアガペ・スピリチュアル・センター(誰も入れる教会のようなもの)で音楽を担当する母のあいだにロサンジェルスで生まれ、育っている。ファラオ・サンダースとアリス・コルトレーンが両親の仲間だった。ジョージアのソロ・デビュー・アルバム『オレシ: フラグメンツ・オブ・アン・アース』を特徴づけるのは、1970年代のソウルやファンクのサイケデリックな再構築感だ。そのサイケデリックな感性は、フリー・ジャズの引用によって強調されているが、彼女のバイオがそのまま彼女の音楽を表しているかのようである。〈ストーンズ・スロー〉一派のディクレイムとの共作を経て、彼女はデトロイトのPPP、そして昨年はロンドンのディーゴのアルバムでも歌っている。

 ジョージア・アン・マルドロウと比較されるアーティストがいるとしたらエリカ・バドゥだが、音楽的に言えば、ジョージアはエリカ以上の急進派だ。『シーズ』は1970年代のスピリチュアル・ジャズの再構築のような趣のストリングス、そして歪んだビートを有した、この暗黒時代におけるソウル・ミュージックである。メッセージ的には、カーティス・メイフィールドの『ゼアズ・ノー・プレイス・ライク・アメリカ・トゥデイ』(1975)なのかもしれない。嘆き、悲しみ、愛、言葉の端々から察するに、とくにこのハードなご時世を生きる子供たちへの慈愛が歌われているのだろう。メロディは豊富で、歌は力強い。彼女の歌声は、実に奇妙なムードを表している。トラックは――マッドリブのファンにはお馴染みなのかもしれないが――ヴィンテージ・サウンドを使いながら、温かみのあるループを展開する。美しい精神に導かれた、美しいアルバムである。

casette player chillout - ele-king

 先日、千駄木の養源寺で開かれたコンサート、「LIVE AT YOUGENJI」において最安値のテレコとカセットテープが大活躍したように、もっとも手頃で安価なこの再生装置とメディアは、デジタル全盛の今日に再発見され続けている。福岡のカセットテープ・レーベルの〈ダエン〉はこの度、「カセットテープをMP3に変換するプレーヤー」というUSB付カセットプレーヤーを発売した。その名も、「USB CASSETTE PLAYER "CHILL OUT"」。税込みの3980円で、限定100台。ステッカー、付属音源として「duenn feat NYANTORA」も付きます。カセットをUSBに取り込めるので、デジタル音源としても楽しめるわけです! これは嬉しいですね!
 

■商品概要
・サイズ 幅110×奥行き77×高さ30(mm) 重量 214g
・対応OS Windows XP / Vista / 7 電源 USB給電 電池駆動(単三乾電池×2) インターフェース USB2.0
・付属品 本体、日本語マニュアル、アプリケーションCD、USBケーブル USBケーブル長 80cm
・オーディオ変換フォーマット wav,mp3,wma (128kbps) *ご注意 単三乾電池は付属しません。別途ご用意ください。

Gonno - ele-king

■2012.6.9 "Carte Blanche to Redbox" with JD TWITCH (Optimo) , HAJIME INOUE etc... @ 渋谷WWW
■2012.6.15 ENESPNO.1 ROOM FULL OF RECORDS KICK OFF PARTY @ eleven LIVE:MANDOG / KAORU INOUE
DJ:LOVEFINGERS / THE BACKWOODS aka DJ KENT / 5IVE / CHIDA
■2012.6.19 MANDOG LIVE & DJ GONNO @ DOMMUNE
■2012.6.21 "Shop 12th Anniversary" with DJ DYE (Tha Blue Herb), JUN-GOLD @ MORROW ZONE (Sapporo)
■2012.6.22 "HYBRID" @ UNDERSTAND (Kitami)
■2012.6.28 "FAAM" @ WOMB (Shibuya)
■2012.6.30 @ 蜂 (Aoyama)

May 2012 Chart


1
Actress - R.I.P - Honest Jon's

2
House Mannequin - B2 of 5 - House Mannequin

3
J Greenspan - Guu - Jiaolong

4
Mandog - Guitar Pop (Gonno Remix) - Room Full Of Records

5
Yoshio Otani - Strange Fruits (Gonno Remix) - Black Smoker Records

6
Italojohnson - ITJ005 A - Italojohnson

7
Iori - Spread - Phonica

8
Fushiming - All Set To Go (Fresh Remix) - Hole And Holland

9
Szare - Red Desert - Krill Music

10
Tc Studio - Waste - All Inn Black

DJ SHO (Luv&Dub Paradise) - ele-king

82年よりキャリアをスタート。
高橋透氏、曽根氏らが在籍した伝説のDISCO六本木「TSUBAKI BALL(玉椿)」時代に「ラリー・レヴァン&ガラージサウンド」に出会い感銘を受ける。当時レジデンツだった「TSUBAKI BALL」にて85年よりDJ SONEと共にハウスサウンドオンリーの1オフパーティ「HOUSENATION」を手がけその後のクラブのあり方を示す。「TSUBAKIBALL(玉椿)」閉店後は活躍の場を求め全国を渡り歩き90年に念願のニューヨークへ移住。高橋透氏、DJ NORI氏がNY時代在籍した事で知られる「FUJIYAMA MAMA」にて長年レジテントDJとして活躍。15年のNEW YORKでのDJプレーを経て2005年に帰国後は「Luv&Dub Paradise」@神宮前bonoboを始め、実に20年以上ぶりに「HOUSE NATION since 1985」を静岡CLUB fourにて再開。また故郷姫路では「彩音」にもスタッフとして参加し、地元のCLUBでもレギュラーパーティーをスタートさせる。その経験からくる文脈に囚われない選曲と確かな技術で各地方にファンを増幅させ続けている。

Ring Of Fire Eclipse & Music 2012.5.26


1
Will Azada - Easy Does It - Mystical Disco

2
Shackleton - Touched - Woe To The Septic Heart !

3
Manmade Science - Phase - Philpot

4
Fushiming/Mamazu - Ride Music EP - Hole and Holland Recordings

5
Pirupa - Party Non Stop(DJ QU Remix) - Desolat

6
IORI - Moon - Phonica White

7
Rhauder - Acid Jam - Polymorph

8
DEADBEAT - Lazy Jane - Blkrtz

9
Mind Fair Presents....No Stress Express - Reach The Stars - Rough Cat Sounds

10
Psychemagik - Valley Of Paradise(Toby Tobias Remix) - Psychemagik
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