「Nothing」と一致するもの

Dennis Bovell - ele-king

 露天商を営むバスブーサと呼ばれた青年がチュニジア政府への抗議行動として焼身自殺をしたのは、2010年12月17日のことだった。これがジャスミン革命の引き金となった。それは反政府デモをうながし、結果、「アラブの春」と呼ばれる大規模な民主化運動をもたらしている。デニス・ボーヴェルの『メイク・イット・ラン』の1曲目のサブタイトルは"ダブ・フォー・バスブーサ"、この1~2年で中東や北アフリカ諸国へと急速に拡大した歴史的な変革の発端となった青年に捧げられている。
 今年はボブ・マーリーの映画が上映されるが、ルーツ・レゲエは骨董品ではなく、いまもなお動いていることを証明するかのようだ。"ダブ・フォー・バスブーサ"に続くのが"ラン・ラスタ・ラン"。デニス・ボーヴェルの息子、ボビー・ボーヴェルは2011年に『ジ・エマージェント・エクレクティック』というゴスペル・アルバムを出している。その作品の主題はエジプトのムバラク政権の崩壊で、そのアルバムのトラックの元ネタになったという曲"アフター・ザ・ストーム"が『メイク・イット・ラン』のクローザーとなっている。ほかにも興味深い曲がたくさんある。"アフリーカン"は、ヒュー・マンデルの有名な"アフリカ・マスト・ビー・フリー・バイ・1983"へのアンサーとして1984年にI・ロイが吹き込んだ曲だが、1979年に1983年を予言した曲に対する回答を1984年にするのは良くないと考えたボーヴェルが曲を編集し直している(しかも、実に格好良いミリタント・ビートの進化型)。

 デニス・ボーヴェルといえば、UKレゲエにおけるゴッドファーザー的な存在として(マトゥンビのベーシストとして)、ポスト・パンクにおける重要なバンド、ザ・ポップ・グループやザ・スリッツのプロデューサーとして、多大な功績を残している。『メイク・イット・ラン』は、彼が1978年から1986年に録音したアナログ音源を、マッド・プロフェッサーのアリワ・スタジオで高周波数のデジタル音源へと変換させ、あらたにダブ処理した曲のコンピレーション・アルバムである。多くの曲では当時マトゥンビとツアーしたI ・ロイが参加している。ステッパーズ・スタイルを基調としたリディムも塗り替えられ、驚くほど新鮮に感じる。元ネタはヴェンテージだが、仕上がりは真新しい。先述した"アフリーカン"、もしくはフルートが美しさがたまらない"ダブ・コード"、もちろん"アフター・ザ・ストーム"や"ダブ・フォー・バスブーサ"......、これらのうちのどれかを聴くためだけでも価値がある。
 つまりこれは、レゲエにありがちな、いわゆる未発表曲集、レア・ヴァージョン集といった類のものではない。過去の伝説にしがみついているエルダー・ロックとは訳が違う。そして、自分で自分のことを「オヤジ」「おさん」と繰り返す自意識は(ここの部分に関しては僕も人のことを言えないが)、デニス・ボーヴェルに学ぶといいだろう。冒頭の"ダブ・フォー・バスブーサ"がその良い例であるように、これは現在音楽なのだ(スティーヴ・ベイカーのライナーも秀逸で、彼の解説を読むためだけでも日本盤をオススメしたい)。

 まとめ。デニス・ボーヴェルの『メイク・イット・ラン』は、二木信がそろそろ書いてくれるはずのリクル・マイの強力なソロ・アルバム『ダブ・イズ・ザ・ユニヴァース』とも精神的には同盟の、明快な意見表明と前向きな気持ちの入った素晴らしいルーツ・アルバムである。

100% Silk x Diskotopia - ele-king

 オイは生まれてはじめてミラーボールば見たんばい......筆者は生まれてはじめてミラー・ボールをこの目に見た。ききかじりの長崎弁もどきをつかうのは、そうストレートに告白するのがしのびないからである。はずかしながら、このように4つ打ちがとどろく場所に来たことがなく、押すのか引くのかわからない重い扉を開けてものすごい音の波動が押し寄せてきたとき、筆者はほんとうに驚いた。前日に諸先輩方から「外国にも行きたくない、クラブにも行かない、××もやったことがない、それではいかんというか異常。」というような説教を受けてきたが、じつのところオールナイトも初めてで、いろんな先入観からやや腰が重かった。だが、緊張しながらも筆者は仮眠をとり、尋常に準備をととのえ、24時過ぎに人の群れを逆行して渋谷へたどりついたのである。おお、免許証がいるのか。後ろのひと大変すみません。初めてなもので......と、受付に見知った担当者の方の顔をみつけてほっとしながら、ご挨拶もそこそこに混みあったロビーに足を踏み入れると、ビールを手に入れるのもひと苦労なほどの人の入りようだ。〈100%シルク〉というから、マーク・マグワイヤのときのようなムードや客層を漠然と思い描いていたのだが、それはくだんの音圧とともに吹き飛んだ。同じように混んでいるが雰囲気は真逆である。たぶん、シルクが何なのか知らないできている人もいる。だが、ジュリア・ホルターが来ていたならともかく、彼らのプレイはその客層にうまく機能していた。マグワイヤには(そしておそらくジュリア・ホルターやアマンダ・ブラウンなどにも)ステージへの集中があったが、ここには発散がある。ここはダンスをするところだ。なるほど思ってもみないところに来てしまった。そのときはじまっていたマジック・タッチがなにか特別に優れていたり目立っていたりしたわけではないと思うのだが、とにかくバキバキに4つ打ちで、「パワー」というより「フォース」というに近いその音圧には意外なほどわくわくした。なにか、人生で初の部類のことに触れようとしていたのだ。明確にそう直感された。よって、ここまでお読みくださって苦笑されているみなさんも、どうかそんなおぼこいやつの体験記としてあたたかくお目こぼしいただければと思います。

 ただ、そのときたまたまうしろのモニターが摩天楼の夜景をレトロなタッチで映し出していたのにはすこし笑った。まさに幻想のエイティーズというか、ヘリからの空撮といった趣でゴージャスに、なかばアイロニカルに街が輝いている。そして時おりシルクのロゴがひらめく。オーソドックスで制圧的な力にみちたマジック・タッチに似合っていた。それに比して、概して隙間の多めの音響構築、ウラ拍とズレをいかしたマーク・バートルズのほうは、最大の盛り上がりポイントでVJがいい仕事をして盛り上がった。温泉・カラオケ・大人数宴会やその他設備を盛ったスーパー旅館のCMが用いられていて、人々の髪型や大写しになったすきやきの色合いや画質などから、これまた失われし80年代への、そして80年代ノスタルジーじたいへのシニカルなオマージュがうかがわれる。タイミングは完全に偶然なのかもしれないが、それならば彼は偶然をうまく引き寄せた。

 小さい前ならえほどのスペースをあけて人々が踊りあっている空間は居ごこちがよかった。みなよく相手の耳もとに大きな声で話しかけていたが、ちっともうるさいと感じなかった。そこでは自分もただ大勢のなかのひとりで、音が互いの距離をほどよく遮蔽している。そして暗さがやさしく意識をまもってくれる。ビートと音量が圧倒的で、あまりなにも気にしなくてよくなる。自我や自意識を相対化されるというか、インディ・ロックを聴きにいくときの一種独特の緊張感からは自由であった(その緊張感も大事なものであるが)。ぼーっとしている人もいる。スポーツ観戦に近いのかもしれない。ある瞬間には一体感が訪れる。さまざまな例外はあるものの、ロックの場合、たとえみんなで合唱したとしても一体感はステージ側との1:1の関係で生まれる精神的なものであることが多いのではないだろうか。ここに時おり生まれる一体感とは、もっと動物的な、たとえば一羽のカモが方向を変えるといっせいにみなついていくというような種類のものであるように思われた。

 さて、2杯めのビールの調達に手間どっているあいだにサファイア・スロウズがはじまってしまっていた。先のふたりの手練とはちがい、音圧がうすく、出音はやや平面的な印象であったが、彼女は果敢に、その場にライヴを取り戻した。あれだけガンガンと4つ打ちに支配されていたフロアには、いまやメランコリックにピアノの旋律が響いている。生演奏による単純なメロディが、一瞬は場違いにも思われた。目の前のふたり連れが「なんだ、ただのライヴじゃん」と言っていたが、そうした当初の当惑を、彼女はじつに堂々と変えていった。マイクをつかみ、ハイ・プレイシズナイト・ジュエルのあいだを縫うような感覚で反復するフレーズを丁寧に歌いつづけ、繊細なエレクトロニカは叙情をやめようとしない、そうしているうちにすっかり会場が説得されてしまった。ほとんどの人が踊りをやめていたが、ゆるやかに音に身をもたせて、最後はとてもよい雰囲気で終わった。マジック・タッチとの共作というトラックを披露して幕。非常に勇気のあるステージだったと思う。

 さあ、そしてアイタルの独壇場がはじまる。あたまから唐突に、半端なくナルシスティックでわがままで横暴な高音ヴォーカルがすさまじいノイズとともに押しつけられ、なんというか完全に場が異化された。これはなにかが違う。と誰もが感じるのを、またしてもカモの一羽のように察知した。間髪をいれずモニターにはきのこ雲......これも偶然なのか。激しいドンツクの上に、満ち潮のようにノイズが這い上がってきて、そのある一点をとらえ、海鳥のように鋭い彼の鳴き声が滑降する。まさにブラック・アイズが、しかし思ってもみなかったところで重なった。異様なくらいに彼という人間のエネルギーがほとばしっている。ちょっとのあいだ、言葉を失うほどにかっこよかった。インダストリアル風の音もじつにエモーショナルに取り込んでいたと思う。ローファイなテクスチャーも生きていた。なぜ、これがこんなふうにパッケージされないのか? CD作品とのあいだには深い乖離を感じずにはいられない。間違いなく、CDやアナログのメディアに落とし込まれた段階で、彼の中心のエネルギーは20パーセントくらいに削られてしまっている。背景にはきのこ雲を茂らせた木々が動き、星の夜空がまわる。ほとんどシューゲイズと呼べる展開をみせ、突如としてケトルばりの叙情性がはさみこまれてまもなく、大興奮につつまれてアイタルはライヴを終えた。つづくBD1982はすこしかわいそうだった。ナードで落ち着いた趣向をみせたが、みんな外に出て行ってしまって。みんな、どこへ行ったんだろうか。この間、ちょうど2、3人の知人にバタバタと出会ったが、そのうちのひとりはこれから寝ようと思っていたとのことだ。寝る、どこで? ここで? ワイルドだ。

 つづくミ・アミにむけて、よい場所を取っておくことにした。ケータイで写真も撮らなければならない。筆者のようにひとりで突っ立ってとくに踊りもせずにいる人間は、ぶつかられたり何だか不明な水沫を浴びたりすることになるのだ。ということも学習した。ステージが収まる写真など、いい場所じゃないと撮れないにきまっている。べつに、それでまったく腹も立たないのがこの空間の不思議さだ。

 そしてミ・アミもまたすばらしかった。マジック・タッチとアイタルは、デュオでの立ち姿もとんでもなくきまっている。彼らには華がある。アイタルのノイズ感は薄れてタイトな印象のステージだったが、ビートが入るとともにまたしてもブラック・アイズなハイ・トーンの機関銃ヴォーカルにあおられ、足元と脳が揺れた。地面にはいつくばってペダルやツマミをいじりながら叫びまくるというスタイルもいいだろうが、卓とサンプラーやミキサー一式のむこうで直立してマイクを握ってさけぶのもいい。叫びながらも手元をするどく見つめてせわしく音を調節し、またときどき言葉を交わしてなにごとか確認しあう、その動作ひとつひとつがわれわれを惹きつけた。ラストは先のアイタルと同様にエモーショナルな展開をみせ、ひと刷毛のメランコリーが加えられた。オーディエンスの動物的な神経はいつしか精神の琴線へと抜き替えられ、微量のものがなしさを含んだコード感と、身体のなかに残存する昂揚感を、迎えつつある夜明けのけだるさのなかに迎え入れた。非常に充実したライヴだった。その後はぼちぼち始発の時間で、知的でミニマルなプレイをするア・トウト・ラインの途中で筆者も出てきてしまった。4割ほどの人たちが思い思いに休んだり話したり、あるいはまだ中で踊ったりしている。
こうして初のオールナイトはつつがなく楽しんだ。ちなみにミラー・ボールはいちども回っていない。最後に驚いたのは、早朝の渋谷にこんなにも帰路につく人々がいるのか、ということでした。

The Orb feat. Lee Perry - ele-king

 いやー、暑い、暑いっす。この暑さのなか、ご機嫌な曲をお届けしましょう。ジ・オーブとリー・スクラッチ・ペリーによる待望のアルバムから先行で発表されている"Golden Clouds"です。あの名曲"リトル・フラッフィー・クラウド"でサンプリングされたフレーズ(スティーヴ・ライヒの曲です)がミキシングされています。アルバム『ジ・オーブ・フィーチャリング・リー・スクラッチ・ペリー・プレゼント・ジ・オーブザーバー・イン・ザ・スターハウス』の発売は8月8日。アレックス・パターソンへのインタヴューは8月のなかばにはアップされる予定です。



 
 

Your Favorite Summer Song - ele-king

 「夏が来た、路上で踊るには良い季節」......こう歌ったのは1960年代のマーサ&ザ・ヴァンデラスでした。彼女たちがデトロイト市内のホールでこの曲を歌っているときに、町では暴動が起きていたという話は有名です。
 さて、梅雨が明けて、夏到来です。スタンダード・ナンバーの"サマータイム"にたくさんの名カヴァーがあるように(ジャニス・ジョップリン、ニーナ・シモン、ブッカー・T&ザ・MG'S、サム・クック......)、この世界には夏をテーマにした名曲がたくさんあります。ビーチ・ボーイズは夏だらけだし、マーサ&ザ・ヴァンデラスには他にも"ヒートウェイヴ"があります、エレクトロニカ/IDMには『エンドレス・サマー』があるし、ハウス・ミュージックにもベースメント・ジャックスの「サマー・デイズEP」があり、チルウェイヴにはウォッシュト・アウトの「ライフ・オブ・レイジャー」があります。あるいはドナ・サマーやメキシカン・サマー......芸名やレーベル名が"夏"であるケースもあります。
 
 夏の音楽は多くの場合ロマンティックですが、セックス・ピストルズの"ホリデー・イン・ザ・サン"を聴いたら怒りがこみ上がってきて、ザ・ドアーズの"サマーズ・オールモスト・ゴーン"を聴いたら夏が終わってしまった気持ちになるかもしれません。そしてジミ・ヘンドリクスの"ロング・ホット・サマー・ナイト"を聴けば、あたり一面は燃え上がるでしょう。
 MFSBの『サマータイム』のアートワークに使われている写真も素敵ですね。熱波で焼けた路上でひとりの女性が水浴びしている姿にグッと来ます。
 日本の音楽にも多くの夏の曲があります。曽我部恵一"Summer '71"、フィッシュマンズの"夏の思い出"や"Sunny Blue"......RCサクセションなどはホントに多くの夏の曲を作っています。
 
 以下のチャートを見て、自分の「Favorite Summer Song」が入ってないじゃないかという方は、コメント欄に書いてください!


1
Martha And The Vandellas - Dancing In The Street

2
Miles Davis - Summertime

3
Jimi Hendrix - Long Hot Summer Night

4
Fennesz - Endless Summer

5
Sex Pistols - Holiday in the Sun

6
The Associates- Fire To Ice

7
The Ramones - Rockaway Beach

8
RCサクセション - 海辺のワインディイングロード

9
Alice Cooper - School's Out

10
The Beatles - Mr. Moonlight

11
RCサクセション - 楽しい夕に

12
Eddie Cochrane - Summertime Blues

13
The Style Council - Long Hot Summer

14
Best Coast - Summer Mood

15
The Doors - Summer's Almost Gone

16
Sly And The Family Stone - Hot Fun In The Summertime

17
The Drums - Saddest Summer

18
Pub - Summer Pt 1

19
MFSB - Summertime

20
The Beach Boys - All Summer Long

21
RC サクセション - サマータイムブルース

22
Girls - Summertime

23
Yo La Tengo - Beach Party Tonight

24
Bruce Springsteen - Backstreets

25
Pink Floyd -Summer '68

沢井陽子

The Beach Boys - Endless Summer

サマーソングといえば、いまのタイミング的にも真っ先にビーチ・ボーイズ。イメージが先行しているのですが、こちらは、1966年前のヒットソングのコレクションで、初心者も十分楽しめる内容。ロスアンジェルスにいた頃、ジョニー・ロケットというレトロなハンバーガー・チェーン店に行って、ハンバーガーとフライズを食べながら、ジューク・ボックスに"サーフィンU.S.A."を入れて、パーフェクトな夏を満喫した思い出があるので、曲も素敵だが、そのときのイメージも多々影響。楽しい出来事ばかりでなく"イン・マイ・ルーム"で、もの悲しい夏の残骸を胸に抱え、自分の心の中にグッとしまっても、最後に"グッド・ヴァイブレーション"が流れると、ドラマチックな夏物語を「まあ、いいか」とまるく収めてくれる。全体が、夏のさまざまなシチュエーションに当てはまり、イメージが膨らむが、サマーソングって、結局それが楽しいのです。

DJ Yogurt(Upset Rec)

RCサクセション - サマータイム・ブルース

"サマー・マッドネス"、"サマー・イン・ザ・シティー"、"サマー・ミーンズ・ファン"、etc...
いろいろな曲が頭に浮かんだけど、2012年の日本の夏にハマっているのは、エディ・コクラン作の名曲に、いまは亡き清志郎が日本語の歌詞をのせた"サマータイム・ブルース"ではないかと。「電力は余ってる、いらねー、欲しくねーー」。

大久保潤 aka junne(メディア総合研究所/大甲子園/Filth)

SxOxB - "レッツ・ゴー・ビーチ"("ドント・ビー・スウィンドル")

ハードコア・パンクはナパーム・デスなどにより"速さ"という点において90年前後にネクスト・ステージに進み、90年代半ばにはファストコアとかパワー・バイオレンスとか呼ばれる激速なバンド群がシーンを席巻した(あの頃はそういうバンドの7インチが毎週のようにリリースされて本当に楽しかったなー)わけだが、そのルーツのひとつが初期S.O.Bである。大阪ハードコア・シーンから現れた彼らは「世界最速」と謳われ、日本にとどまらず世界のハードコアに多大な影響を与えた。
そんな彼らの初期の代表曲のひとつが"Let's Go Beach"で、歌詞はただ「Hot Summe soon comes again.
Let's Go Beach. Let's Go Surfin」だけ。ハードコア・パンクとサーフィンという組み合わせ(当時はまだ日本ではハードコアとスケートの関係もあまり一般的じゃなかったはず)、そしてファスト・パートから後半はキャッチーなシンガロング(♪レッツゴサマービ~~~チ!)に移行するポップなセンスもおそらく当時は斬新だったろうし影響力もデカかったんじゃないかな。ポップに始まって一転して激速! みたいなのって90年代には(たぶん今も)本当にたくさんありましたからね。
この曲と、ハノイ・ロックスの"Malibu Beach Nightmare"とラモーンズの"ロッカウェイ・ビーチ"を「新・三大ビーチソング」とさせていただきます!(全然新しくないけど)

DJ Hakka-K (Luv&Dub Paradise)

Baiser - Summer Breeze

夏といえばレゲエやその他大好きな曲はたくさんあるのですが、僕がいちばん最初に影響を受けたDJ Soneが夏になると必ずかけてたのが、83年に発表されたこの曲。いまでも夏になるとレコード・バッグに入れておく想い出がたくさん詰まったDISCOの隠れた名曲です。

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山田蓉子

ピーナッツ - 恋のバカンス

言わずと知れた昭和歌謡の大名曲。中学生の頃からカラオケで必ず歌っているのだが、気持ちよくハモりながらひたすら「そっかーバカンスってのは、金色にかがやく熱い砂の上で裸で恋をするのねー。素敵」と思い続けてきた。全国民が一年中バカンスのことばっかり考えて暮らしているフランスで生活するようになったのも、そんな刷り込みのせいなのだろうか。でもまだ金色にかがやく熱い砂の上で裸で恋なんかしたことない。バカンスのために生き続ければいつかできるんだろうか...。
合掌。

why sheep?

私見ですが、夏は24,25と2日で勝負のクリスマスと違って日本人にも長丁場ですので、一曲に絞るのはむずかしいのです。

というわけで、アルバム単位で失礼します。これは、僕のサマー・ソングのオールタイム・フェイバリットで、オールタイムというからには理由があって、日本がどの季節であっても、暑くてビーチのあるところになら、僕が必ず持っていくアルバムだからでもあります。実家のある茅ヶ崎に帰郷する際はどんな季節であっても必ずです。

ちなみにわたくし、渋谷区神宮前生まれ、現住所湘南というプレミアムな、昔なら免許証だけでナンパできると言わましたがそれは昔の話で、もし免許証に写真を載せなくて良かったら、人生は今とずいぶん違ったことでしょう。さて、

閑話休題、

神奈川県茅ケ崎市の出身であればだれもが知ってることですが、
茅ヶ崎市民=サザン・オールスターズ・ファン
というのが公理となります。
茅ヶ崎市民≒サザン・オールスターズ・ファン
は許されませんし、
茅ヶ崎市民なのに≠サザンオールスターズ・ファン
はばれたらその場で公開処刑されます。

しかし、どんなところにも反逆者はいるもので、江戸時代の隠れキリシタンのように
そんな中でサザンを崇拝しなかったのがこの私です。もちろんサザンの曲も大好きですが、神宮前の生まれの私にはあまりにも野暮ったすぎました。

長くなるとあれなので順不同ということで三枚選ばせていただきますと、

Boz scaggs - Down To Then Left

もちろんbozの名盤といえばsilk degreesですし、一枚後のmiddle manは東海岸AORあげての名盤ですが、その中庸にあるこのアルバムなぜか期待されていたほどに売れませんでした。だからこそぜひ聴いてみてください。超ゴールド・ディスクのsilk・degreesの直後になんでこんなアルバム作ったのかと俄ファンは首をかしげたかもしれまえんが、ルーツと言えばパンクと忌野氏の話しかしない三田格が即座にこのアルバムの名前を言えるということだけお伝えすれば、ele king読者は気持ちは動くことでしょう。三田さんが好きかどうかは知りませんが。

Bobby Caldwell - Carry On

アルバムのすべての曲が珠玉としか言いようががありません!
邦題は原題とまったく関係ない「センチメンタル・シーサイド」と付けられてましたが、その心は当たらずとも遠からず。。
1980年代、日本のサマーリゾートの代表である湘南は傍目はアメリカ西海岸、(実情はサザン=茅ヶ崎駅南口)だったのですが、桑田圭祐もその音楽的ホームグラウンドであるという茅ヶ崎の現存するレコード屋さん「CHIYAMA」(桑田さんが青学に通ってる頃厨房の私が通っていた)につつましげに張ってあったポスターが忘れられません。
「マイアミの蒼い風」
そこにはそう書いてありました。
当時の日本の理想とするカリフォルニアでもなく、はたまた湘南の実情ださいヤンキー文化でもない、架空のビーチがあった!そこはマイアミ(本当のマイアミは行ったことないので知りません。。)
あぁ...哀れなるかなbobby caldwell。3枚目にして自身のもてるすべてを注ぎ込んだ、そして当時のレコード会社も起死回生を図って宣伝したこのアルバム、期待ほど売れませんでした。当然です。日本人はカリフォルニアしか頭になかったのですから。

長々と前節書きましたが、この感傷性の至高とも言えるアルバム。アラサー独身男子の方ならきっと理解してもらえることでしょう。はまっちゃったら一生結婚できないこと請け合いです。

さて最後、

J.D.Souther - You're Only Lonely

あぁ、このメロディーにこの歌詞に極め付けのこの声。同胞のイーグルスのほうが100倍有名ですが、彼はイーグルスの第五(第六だったかな?)のメンバーと言われるほどイーグルスに貢献したソロ・シンガー・ソングライターです。(名曲"New Kid In Town"は彼の曲)
一聴したら単なるアメリカの野暮ったいカントリー&ウエスタンの歌手と間違える人もいるかもしれませんが、よく聴いてくださいこの声。
現代音楽の大家メシアンは音を色に例え、詩人ランボーは言葉を色に例えたそうですが、わたしに言わせればJ.Dの声は「いぶし銀の声」と呼んでいます。
それをもっとも感じるのはこの前のアルバムの『Black Rose』収録の"Silver Blue"ですが、夏の間聴くべきはこのアルバムです。
とくに一押しは彼の出世曲の"You're Only Lonely"ではなく!!!!"If You Don't Want My Love"、このモラトリアムから抜け切れないガキっぽい歌詞が胸をえぐります。しかしなんといっても必聴すべきは、彼の声もさることながらハモンド・オルガンB3の旋律というかその音色!!!
はっきり言って"Let It Be"のBilly Prestonを軽やかに凌駕しています。その名はJai Winding。ちょっと調べた限りでは往時の人気スタジオ・ミュージシャンということですが、実際のところよくわかりません。"My Funny Valentine"のときのJimmy.Smithぐらい良い!!!知ってる人いたら情報求む!!!

それでもどうしてもと野田努に一曲選べと言われたらこの曲、

佐野元春
Heartbeat』収録 "Interlude"~"Heartbeat"
↑ここには私の少年ゆえの切ない恋愛体験がすべて詰まっております。くれぐれも("Interlude"から聴いてください)

他にも山下達郎の"Big Wave"(口が裂けても『Beach Boys』の"Pet Sounds"とか言いたくない)とかあるんだけど、この企画が来年も続いたらその時にでも。

おやすみなさい。みなさん家のエアコン止めてビーチでセンチメンタル・シーサイドしようぜ!

summer, 2012
why sheep?

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三田格(e-Busters...)

Wham! - Club Tropicana

なんてな

竹内正太郎

□□□ - 渚のシンデレラ

夏、夏か、、、。この、永遠に思わせぶりで無責任な季節は、これからもギリギリのところで前向きな予感たりえてくれるのだろうか? いや、しかしこうも明らかな異常気象が続き、つい先日も日本国内の最高気温都市の上位三位を独占したような場所に住んでいる身としては、サマー・ソングを悠長にセレクトするにも体力を使って仕方がない。しかし橋元優歩に催促され、限られた時間内に直感で選ぶとしたら、("真夏のラストチューン"も捨てがたいが)やはりこの曲になるだろう。クチロロがバンド編成時代に残したきらきらのクラシック。超多層構造のトラックをハイパーなまでに軽く聴かせるその手さばきは、今なお並々ならぬセンスを見せつけている。それはもう、嫌らしいほどに。ヴォーカル/大木美佐子の安定しない高音域もいい。夏は楽しく充実しているべきか? この疑問自体、広告業的な価値観に刷り込まれたちゃちな不安でしかないわけだが、優れたサマー・ポップは何度だってその空虚さを上塗りする。とても鮮やかに。パルコの広告にほだされ、私は今年も嫌々と海に出掛けるのだろう。一年に一度くらい、まったく見当違いの恋をしてみるのもいいものだ。それがどれほど軽薄なものであっても。「ここから物語は続く/忘れたものもあの角を曲がればきっと思い出すさ」!!

松村正人

XTC - Summer's Cauldron

私は夏が大好きなので、好きな曲はビーチの砂の数ほどありますが、そのなかでもこの曲は、陽がのぼるとすぐにうだるようで、退屈で、楽しくないので、どこかに逃げたいがまわりは海ばかりで、しょうがないと諦めつつ、それもそう悪くないかと思いはじめたころ、暑気がひけて、虫や鳥の声が際だちはじめた、島に住んでいたころの夏の日の宵の記憶をくすぐるようでとても甘美だ。

水越真紀

戸川純 - 隣りの印度人(玉姫様)

21世紀の日本の夏、80年代に比べて湿度は低くなった。絶対なったと思うのだ。数年前、そのことを示すグラフをネットで見つけたのだけど、二度と出会えないでいる。
ともあれ、目の前の暑さをどうにかして「涼しぃ?」と断言する、言いくるめる、歌い上げる姿勢に私は共感するのである。ポストモダンな感じがする。人間の知恵、つー感じだ。しかし、現実逃避の知恵ばかり身につけてしまうのもどうかとも思う。
私は冷房を使っていない。本当に暑いには空気がゆらゆら揺れているのが見える。汗が吹き出しては乾いて皮膚を冷やす。
去年の夏は2時間置きに猫を冷やす保冷剤を取り替えていた。濡れたタオルで拭いてやり、耳を氷で冷やしたりした。今年こそ冷房を入れてやらねばと思っていたが、それを待たずに彼女は逝った。今年、冷房を入れる理由はなにひとつなくなった。

橋元優歩(e-Busters...)

Animal Collective - Fireworks
Photodisco - 盆踊り

わたしも夏が大好きです。黄色といったときに山吹からレモンとかまでいろいろあるように、夏というのもいろいろあって、お盆とかかなり好きです。"Fireworks"は詞に夏が明示されているわけではないのですが、わたしには幻想的なお盆メンタル・ソングとしか考えられません。海外にお盆はないでしょうが。

木津毅

R.E.M. - Nightswimming

 昔から自分が惹かれてきたのは、夏の盛りよりも夏の終わりの歌でした。それは青春そのものよりも終わっていく若さ、すなわち中年に惹かれるのと似ている......かもしれません。真夏を謳歌するのと同じくらい、夏を無駄にした......という感覚をポップ・ソングは拾ってきたようにも思えます。
 R.E.M.のこのナンバーは彼らの代表曲のひとつで、もう去ってしまった誰かのことを思いながら、晩夏の夜にひとりで月に焦がれながらプールで泳いでいるという、「夏を無駄にした」度では抜きん出た名曲です。リリカルな風景描写はマイケル・スタイプの詩人としての才能を見せつけ、それ以上にこのポップ・ソングに美しいフォルムを与えています。「君のことを、僕は知っていると思っていた」......悲しすぎますが、それがとても穏やかに歌われることで、夏の終わりの感傷が許されるようでもあります。「9月がじきにやって来る」......。

國枝志郎

Chapterhouse - Summer Chill

俺と言えばシューゲイザー、シューゲイザーと言えば俺(反論上等)なんで。チャプターハウスが1stアルバム『Whirlpool』と2nd『Blood Music』の間に発表した神シングル「Mesmerise」(俺的にはスロウダイヴのシングル「5 ep」と並ぶ究極ロッキン・チルアウト)収録の1曲。2ndアルバムにはもうひとつサマーネタで「Summer's Gone」というナンバーもあるけどやっぱりこっちでしょう。タイトルも最高!!!!!!!!!! あーチルりたい。

Photodisco

H Jungle with t - GOING GOING HOME


夏といえば、やっぱりこの曲ですね。お盆に帰省した際、実家でビールを飲みながら聴きこうと思います。

オノマトペ大臣(Maltine Record/TJNY)

Phillis Dyllon - Nice Time

夏になるたびに学生時代を思い出します。

白い太陽、青い海、赤く日焼けしたあの子の細い腕
楽しいはずなのに何故だか寂しい、いつか終わってしまう刹那的な煌めく青春の夏。。。

どこかの誰かが過ごしているそんな極彩色の夏を尻目に、マジで永遠に続くんじゃないかと思うような怠惰な余暇を、クーラーガンガンの部屋でカーテンを閉め切り、ゴローンと横になって手に持った黒い文字の羅列を追うことでやり過ごしていたしょっぱい夏。
ベッド横に置かれたローテーブル上に、氷が沢山入った透明なグラスが置かれ、カナダドライのジンジャーエールがパチパチとはじけると、西宮の六畳間にも、にわかに夏の気配が漂います。
近所の外資系CDショップで買ってきた3枚組3000円ちょっとのTrojanのCalypso Box Setをミニコンポにセットすると、いよいよ目の前に常夏のトリニダードトバゴが広がるのでした。
内容の薄っぺらい新書を読み進め、40ページぐらい行ったところでPhillis Dyllonの歌声が響き渡ると、心は完全に夏の夢の中。
新書をベランダから捨て去って、背中の羽をパタパタとして舞い上がり、ヤシの木の上の方に座り心地よく揺られたものでした。

それから4年が過ぎた、2012年の夏。
永遠に続きそうだった怠惰な夏は、心のアルバムの中で色褪せるどころか、それなりに輝いて見えます。

今年の夏はどのように過ごそうか、とりあえずPhillis Dyllonを聞いて、西宮のトリニダードトバゴで考えようと思っております。

(最近サンクラに上がってたCoconuts Beat Clubによるmoombahton editもすごく好きです。https://soundcloud.com/coconuts-beat-club/nice-time-coconuts-beat-club )

赤塚りえ子

Brian Jones Presents the Pipes of Pan at Joujouka

44年前の7月29日、ブライアン・ジョーンズは真夏のジャジューカ(モロッコ)に行きMaster Musicians of Joujoukaの演奏を現地で録音した。
彼の死の二年後にリリースされたこのアルバムでは、ブライアン・ジョーンズというフィルターを通したジャジューカを体験できる。
今年6月、ついにそのMaster Musicians of Joujoukaの生演奏を現地で体験してきた。
全身にものすごいグルーヴ浴びて、何本もの生ガイタ音が立体的に脳を直撃、そのまままっすぐに脳ミソを突き抜けた。
ブライアン・ジョーンズがなぜジャジューカにハマったのか?一瞬にして体でわかった。
来年の夏もまたジャジューカで、4000年のダンスミュージックで踊りまくってくるゼィ!

Yuji Oda (The Beauty/Cuz Me Pain)

No Joy - Negaverse

カナダの男女3人組バンドNo Joyが送り出す12インチシングル。
全てが正しいと思わせるオルタナギターと儚いボーカルが夏の荒野を駆け抜け交差する疾走シューゲイズ。
2012年の夏はこれ。

YYOKKE (White Wear/Jesse Ruins/Cuz Me Pain)

Junei - You Must Go On

夏はこんな涼しげな曲を何も考えずにずっと聴いていたいです。

Nobuyuki Sakuma (Jesse Ruins/Cuz Me Pain)

Prurient - There Are Still Secrets

夏に熱いものを食べる的な感じで暑苦しい曲も聴きたくなります。

寺尾紗穂

サニーデイ・サービス -"海岸行き"
saigenji - El Sur

夏の終わりを歌う以下の二曲が好きですが、youtubeにはあがっていないようです。

サニーデイ・サービス「海岸行き」
サニーデイの曾我部さんのさらりとした感触の歌詞は自分にはなかなか書けないもので、よく羨ましく思います。いつかカヴァーしたい曲。

saigenji「El Sur」
「El Sur」はサイゲンジさんと歌ったことがありますがもう一度歌いたいです。
「南へ帰るなら僕のさみしさもその翼に乗せていっておくれ」とツバメに語りかける歌詞が切ないです。サイゲンジさんのライブというとアップテンポの曲でノセたりアゲたりしてくれるイメージがありますがスロウで穏やかな曲にも名曲が多いです。

洋楽で好きなJudee Sillの歌詞を読み直したら「Jesus Was A Cross Maker」がちょっと夏の気配でしたので挙げておこうかと思います。
クラシック的な手法を織り込むというのは色んな人がやっていることなのだろうと思うのですがこの人の場合、その織り込み方がとても大胆で生き生きとしていていつ聞いても新鮮な感じを受けます。


San Proper - ele-king

 暑いし......何も考えたくないのでフィジカル・リリースのあるものから今年前半のベスト・シングルを選んでみたら、

■Jam City / The Courts (Night Slugs)
https://soundcloud.com/pdis_inpartmaint/jam-city-classical-curves-the
■Kodiak / Spreo Superbus (Numbers)
https://soundcloud.com/nmbrs/kodiak-spreo-superbus-actress-girl-unit
■Mieux / Next Episode (Up My Alley )
https://soundcloud.com/upmyalley/sets/mieux-alleyx001/
■San Proper / Animal Ricardo Villalobos Remixes (Rush Hour)
https://soundcloud.com/rushhourrecords/sets/san-proper-animal-12/
■Swindle / Do The Jazz (Deep Medi Musik)
https://soundcloud.com/sbdubstep191/swindle-do-the-jazz-deep-medi
■Eltron John / Electric Worldlife (U Know Me)
https://soundcloud.com/u-know-me-records/eltron-john-electric-worldlife
■Dauwd / What's There (Pictures Music)
https://soundcloud.com/dauwd/whats-there-pictures-music
■A.N.D. / Resonance EP (Hidden Hawaii LTD)
https://soundcloud.com/hidden-hawaii/hhd-014-a-n-d-resonance-ep
■Daniel Stefanik / Dambala Experience #2 (Dambala Experience)
https://soundcloud.com/daniel-stefanik/sets/dambala-experience-2/
■Kaiju / Close Break (Osiris Music UK)
https://soundcloud.com/osirismusic-uk/kaiju-close-break-release-date
次点でKahn & Neek / Percy (Bandulu)か、October / String Theory(Simple)か。

 ......こーんな感じかなーと。自分でも驚くのはUKガラージやベース・ミュージックに混ざって、いまだに「ヴィラロボス・リミクシィーズ」などというものが入ってしまうこと。この世界は浜崎あゆみとレイディオヘッド、そして、リカルド・ヴィラロボスで止まってしまったのかもしれない(暁美ほむらがいちいち元に戻しているのでなければ......)。

 シャクルトン"ブラッド・オン・マイ・ハンド"やDJスニーク"デルタ・トリッピン"もまだ記憶に新しかったヴィラロボスが春先にリミックスを手掛けたサン・プロパー"アニマル"を長々と聴いていて(例によって2ヴァージョンで25分ぐらいある)、この奇妙な技はやはりヴィラロボスによるもので、オリジナルはそれほどのものではないのだろうと勝手に決めつけていた。なので、デビュー・アルバムがリリースされてもスルーのつもりが......

 全曲試聴→https://soundcloud.com/rushhourrecords/sets/san-proper-animal/(実際の曲順とは全然違います)

 ......ははは。要するに音楽をショッピングするのがリッピングやダウンロードよりも好きなんですねw。すべては80年代のせいです。つーか、いまだに80年代を生きているのかも(だっせー)。

 いまひとつ狙いのわからないスリーヴ・デザインに包まれた『アニマル』は退屈な4つ打ちで幕を開ける。シカゴ・アシッド風のリフが悪い予感を打ち砕き、激しい盆踊りへと突入。ほとんどの曲に呪文のようなヴォーカルが入り、"カラーズ&カラーズ"ではブレイクビートとも相性がいいことを印象づける。巷ではミニマル・テクノとして売られているようだけれど、プリンスとグリーン・ヴェルヴェットが出会ったかのような"デジャ・ヴー"といい、なんというか、ゲットー・ソウルとでも呼んだ方がしっくりくるような気がしてくる。ためを効かせた"ウォーター・キャッスル"から"アニマル"のオリジナルへ進むとシカゴ・アシッドをクールにアップ・トゥ・デイトさせた未知の感性が広がりはじめ、もしかしなくてもヴィラロボスが手を加える以前に、しっかりと構築されたものがあったことを思い知らされる。アルバムの後半はスウィング感が増し、"シェルズ"では少し毛色を変えて異様なほど雰囲気のあるアコースティック楽器が多用される(歌詞の内容がヘヴィイすぎるのでインナーには記載しないとあるけれど、要するにインストゥルメンタル)。
 〈ラッシュ・アワー〉はシカゴやデトロイトなどクラシックの再発にも務めるレーベルだけあって、伝統と現在を行き来するのがとても上手い。あるいはそういうイメージをこつこつと築き上げてきた。カール・クレイグとトム・トラーゴのリレイションもそうだし、初期のコンフォースやBNJMNなどを経て、ここにサム・プロパーが加わったことは自然な流れといえる(金の流れかもしれないけど)。ちなみにミックスは全曲、ヴィラロボスが手掛けている。かつてデトロイト・テクノ・リヴァイヴァルを促した『ヴァーチュアル・セックス』をリリースしたのもオランダだったけれど、ここからまたデトロイト・テクノが新たな次元に突入すると予想することは安易だろうか(つーか、「ここから、フィッシュマンズを連想するのは安易だろうか」って、安易だよ、安易! 二木はまた逮捕されて下さい)。

三田格先生のテクノ講座 - ele-king

 なんと、今週金曜日、横浜にて三田格のテクノ講座が開かれます! お題は1992年に〈ワープ〉が発表したコンピレーション『Artificial Intelligence』から20年ということで、1992年のテクノ・シーンについての講義になります。こんな機会、なかなかないので、ぜひ足を運びましょう!

モリィ・バーンズのHARD-BOP-HIGHSCHOOL
第15回: 再考 『Artificial Intelligence Series』

2012 7.27(Fri)黄金町 試聴室その2 https://cafe.taf.co.jp/live/index.html

進行:Morry Burns
ゲスト:三田格

開場 19:00/開演 19:30
※999Yen+order

●マンスリー・トーク・イベント「モリィ・バーンズのHARD-BOP-HIGHSCHOOL」その第15回は「再考 Artificial Intelligence Series」と題し、その画期的なリリースから今年で20周年を迎えるコンピレーション作『Artificial Intelligence』と、その関連シリーズ、並びに世界中でそれに呼応し、また同時多発的に発生したリスニング・テクノの動きについて再考していきます。

 1992年、イギリスはシェフィールドのレーベル"WARP"はコンピレーション・アルバムとして「Artificial Intelligence」発表します。それは当時まだ駆け出しだったPolygon Window(Aphex Twin),B12,Black Dog Production,FUSE(Richie Hawtin),Speedy J,Autechre等がコンパイルされた内容で、続いて彼らのオリジナル・アルバム作品がそのシリーズ作として次々とリリースされていきます。シリーズ作に共通する実験的かつリラックスしたトーン、フロアや喧騒からは意識的に距離をとったかのようなチル・アウト的傾向によりそれらは"リスニング・テクノ"と称され、後のエレクトロニック・ミュージックの進化に多大な影響を与えることとなります。

 92年当時のテクノ環境においては、The KLFが解散を表明しセカンド・サマー・オブ・ラヴが終焉を迎えるなか、The Orbが「Blue Room」にて全英シングル・チャート1位を獲得。そして『Selected Ambient Works 1985-92』にてAphex Twinがいよいよアルバム・デビューを飾り、新時代を担っていきます。
その当時のヨーロッパのダンス・フロアにおいてすでに一時代を築いていたベルギーの〈R&S Records〉は、突如その傘下にアンビエント・サウンドにフォーカスしたサブ・レーベル〈Apollo〉を設立。
カナダのレーベル〈Plus 8〉はコンピレーション作「From Our Minds To Yours Vol. 2」においてそれまでのハード・テクノ路線からリスニング・テクノ・サウンドに急接近。
アメリカはデトロイトのCarl Craigは自身のレーベル〈Planet E〉からのコンピレーション作『Intergalactic Beats』においてBlack DogやKirk Degiorgio等のヨーロッパのリスニング・テクノ勢とのコンパイルにも成功します。
一方ではドイツのPete Namlookがレーベル〈FAX+49-69/450464〉を立ち上げ、凄まじいペースでチル・アウト作品をリリースしていったのもこの年からのこと。
またベルギーのレーベル〈BUZZ〉がコンピレーション『PANIC IN DETROIT』を発表するほか、これら1992年のシーンの動向を象徴する最重要作品としても『Artificial Intelligence』の存在は位置づけられるのです。

 当日はライターの三田格氏をトーク・ゲストとしてお迎えし、上記に羅列したアーティストに関連する音源を可能な限り紹介しながら、『Artificial Intelligence』のその今日に至るまでの影響力やサウンドの魅力についてをたっぷりトークしていく予定です。是非ご期待ください。
(Text by Morry Burns)

※入場料としては徴収致しません。終演時にお支払いください。内容に応じたご判断で結構です。999Yenとあるのはひとつの目安です。飲食物に関しては会場をご利用ください。

@試聴室その2
横浜市中区黄金町2丁目7番地先
045-251-3979

[アクセス]
●京浜急行電鉄「黄金町」駅下車 徒歩3分
●横浜市営地下鉄「阪東橋」駅下車 徒歩8分

 「ハウス・オブ・ヴァンズ」というイヴェント・スペースがグリーンポイントにある。
去る7月21日、ウィリアムスバーグの、いちばん川側のフランクリン通りを北に歩いて行くとグリーンポイントになるのだが、そこに近づくにつれて、音が大きくなってくる。ヴァイタミン・ウォーターのトラックが停まっていたり、人が群がっていたり、一目瞭然。セキュリティを軽々通り抜けると、広い場所が目の前に広がる。手前にテーブルが並び、Tシャツやカスタム・ヴァンズが置いている。「これ売ってるの?」と尋ねると、すべてフリー。サイズを聞かれ、ハイ、とTシャツとヴァンズを手渡される。Tシャツは、今回のイヴェント「クラシック&ブルックリン」のロゴ入りで、ヴァンズはヤーヤーヤーズの衣装でもお馴染みのクリスチャン・ジョイのカスタムデザインだ。

隣のブースには女の子たちが群がっている。ヴァンズ・クラシックのデザインのネール・シート(ミンクス提供)がフリーで配られていて、女の子はせっせとネイルシートをつけている。4種類あって、同じ柄のオリジナルのヴァンズがガラス・ケースのなかに仰々しく飾られている。
その日の出演者、ウィドウスピークはすでに終わっていて、ダム・ダム・ガールズを見ようとステージに近づくと、後方には写真撮影場所があり、スケートボードが出来るエリアがある。もっと奥にいくと、アウトサイドエリアまである。そこにはフリー・ドリンク(ヴァイタミン・ウォーター他アルコールも)やフード・トラック(フィルズ・ステーキコム・シ・コム・サ)などがあり、小学校の運動場みたいに、ゆうに1000人は収容出できるスペースだった。
実は行くまでは、どうせぎゅうぎゅうに混んでいて、ライヴもろくに見れないんだろうと思っていたが、大きな間違いだった。さすが老舗のパーティ・ブランド!

 個人的な印象では、こういうイヴェントは、人が来すぎてドリンクも気軽に買えないし、ライヴも人が多くて、見れないことが多い。が、このイヴェントの良いところは、人が集中しないように、さまざまなアトラクションをスペースのあちらこちらに設置し、人がばらけるように仕向けているところ。もちろんこの広さが大きなポイントだが、ライヴ中でも、ネイルに夢中な女の子がたくさんいたし(たぶんボーイフレンドについてきて、バンドには興味がない)、外でハング・アウトしたり、スケー・ボード・エリアで気持ち良さそうに寝転んで、上からライヴを見ている輩もいて、それぞれの楽しみ方ができる、空間の作りがいいのだろう。そう言えば、コンヴァースはウィリアムスバーグに音楽スタジオを作り、ブルックリンの若手ミュージシャン、バンドのレコーディングをフリーで開放している。コンヴァースといえば大企業で、大企業といえば、たいていは人気スターや有名人のサポートを好むものだが、このようなかたちでまだ若い才能をサポートしていることは、正直、感心させられる。

 さて、久しぶりのダム・ダム・ガールズだったが、ディディが金髪になっていて、他の3人のメンバーも相変わらずブリブリに健在。みんな黒のコスチュームなのでディディの金髪がより際立っていた。新曲、古い曲をミックスしたセットで、MCは少ないが、ところどころで「今日は来ていないのだけど、これは私の旦那について書いた曲です」など、はっとするプライヴェートな言及があり(聞いたことがなかったので新曲?)、相変わらずの客に媚びないパフォーマンスであった。

 イヴェントは、ロスアンジェルスのアイ・アム・サウンドがプレゼンターで、ロスアンジェルス、ブルックリン、ポートランドで開かれている。ブルックリンでは、6月20日にはラプチャー、タンラインのショーも行われた。ブルックリンのラインナップは以下の通り。7/26:キングカーン&シャリンズ、エブリマン 8/2:ワッシュド・アウト、チェアリフト、レモネード 8/16:カーシヴ、ティタス・アンドリニカス、ラブ・アズ・ラフター 8/29:ターボネグロ、バロネス、ドゥーム・ライダー、ナイトバード。ココを参照→
企業がサポートしているフリー・イヴェントも千差万別だが、今回は感じの良いものだった。是非、日本の企業も見習っていただきたい(笑)。

MV & EE - ele-king

 いま〈ウッディスト〉からリリースするには、たとえば"ウェイストランド"のギター・ソロなんかはちょっとこぶしがきき過ぎていると思って、でも奏法の問題でもないと感じたので、ためしにガレージバンドに入れてハイを削って中低域を強調してみたら、じつに具合がよろしかった。まったくDTMの知識はないからやれることはここまでで、操作の意味を理解しないまま他もいろいろいじってみたが、まあ、リアル・エステイトやウッズみたいにはならなかった(クレジットにはジェレミー・アールの名がある。ドラムやスティール・ギターで参加しているようだ)。これはタワーレコーディングスや彼らが取り組んできた一連のアヴァン・フォーク作品を振り返れば、冒涜ともいえる行為である。ローファイであっても、クリアな感触、さめたようなプロダクションのなかに彼らの無重力的なサイケデリアは宿る。けっしてチルウェイヴっぽく音をけずってもこもこにしたり、よごしたり、あるいはリヴァーブをかけ過ぎたりすることのなかにはない。その意味で筆者のおこなった聴き方は、尾頭つきの鯛をつみれにして食べてしまうようなものかもしれず、品もない。しかしそのほうがいまの生理にあっていたということと、なにより、〈ウッディスト〉のまばゆかった先進性がここへきて後退してしまったように感じてさびしかったのである。実力者たちによる心ある優れた作品、をリリースするのはすばらしいことだし、個人的な関係やリスペクトもあるだろうが、〈ウッディスト〉からの新しい才能がしばらく見出せなかったなか、次の一手がMV & EEとはなにか保守的な展開だという気はしないだろうか。

 とはいえ、もちろんMV & EEは素敵だ。タワー・レコーディングスのマット・ヴァレンタインと、パートナーでありマルチな才能を持つエリカ・エルダーによって2000年に結成されて以降、おびただしい量の作品をリリースしてきた。サーストン・ムーアの〈エクスタティック・ピース〉からも発表しており、ほかにハンドメイドの超限定ものも多い。ニール・ヤングやグレイトフル・デッドと比較されるが、レイドバック感よりは、たとえばギャラクシー500やステレオラブの時代のあとの音だということがよくわかる。それはなにも"トゥー・ファー・トゥ・シー"に挿入される電子音などのことばかりを指すわけではなくて、"ハート・ライク・バルバラ・スティール"という導入のドリーミーなアンビエント・スタイルもとてもしゃれていて現代的だし、"スウィート・シュア・ゴーン"での打楽器の響きかたやハンド・クラップも空間性を繊細に生むようとても心地よく塩梅されている、そうしたことの全体についてである。タワー・レコーディングスらのエクスペリメンタルな志向性に対して、サウンドキャリアーズやコットン・ジョーンズのように、より素朴で瀟酒な歌ものとしてとらえることもできる。それはフォーク・ロックのアクを持ちながら、とても浮遊感のある、そしてどこか環境音楽的な音の採りかたをしているようでもあり、聴きながそうとすればしっくりと背景に、じっくり聴こうと思えば緻密な細部を備えて前掲に浮かびあがる。この作品じたいはとても上質なものだ。夏の薄明には"ポーチライト>リーヴス"もよく映える。

Chart JET SET - ele-king

Shop Chart


1

Windsurf - Weird Energy Remix (Catune45) /
『Bird Of Paradise』以来約3年ぶりとなる新作は洗練された極上のバレアリック・トラックを収録した12インチ!リリースはBorisでお馴染みのCatuneから!

2

Cro-magnon - Riding The Storm -Idjut Boys Remixes- (Jazzy Sport) /
Idjut Boys Remix収録!最高の形でカム・バックを遂げた国内屈指の3ピース・ジャム・バンド、Cro-magnon。パーカッシヴでダビーな強力12インチが到着!

3

Mandog - Guitar Pop (Room Full Of) /
初陣を飾る本作は、宮下敬一によるソロ・ギター・プロジェクト、Mandogによるオリジナル楽曲"Guitar pop"と同曲の"Gonno Remix"を収録した強力12インチ!

4

Jeremiah Jae - Raw Money Raps (Brainfeeder) /
相棒Samiyamの紹介でFlying Lotusががただちに契約を交わしたというシカゴ出身/L.a.在住の新鋭Jeremiah Jaeが待望のフィジカル・デビュー。凄まじいまでの個性です!!

5

Ashley Beedle - Riders On The Storm / Eminence Front (Modern Artifacts) /
Ashley Beedle主宰の人気エディット・レーベルから登場の最新作は、The Doors名曲カヴァー作品とロンドン・インディ・バンドの作品をエディットした注目作!

6

Blu & Exile - Maybe One Day (Fat Beats) /
2007年リリースの名盤『Below The Heavens』の正規リリースも記憶に新しいBlu & Exileのタッグですが、2011年に発表されたもののフィジカルリリースの無かった楽曲が新たに10"インチ化!

7

Kathy Diamond & Mastercris - Right There (Endless Flight) /
世界中から注目を集める日本が誇る名門Endless Flightから登場となる、Kathy DiamondとMastercrisによるコンビが送るバレアリック系ニュー・ディスコ・チューン!

8

Afro Latin Vintage Orchestra - Last Odyssey (Ubiquity) /
10人編成のド迫力サウンドで強力なグルーヴを生み出すパリのアフロ集団。キラーなD-3をはじめ、本作もアフロ・ファンク+スピリチュアル・ジャズな大傑作です!

9

Rayko - Dragon Soul (Glenview) /
先日リリースされ大好評となった限定盤に同封されていた、スパニッシュ・プロデューサーRaykoによるファースト・アルバム『Dragon Soul』が待望のアナログ2枚組にて登場。Onur Enginに続く"Glenview"発のアルバム作品第二弾!!

10

Mannmademusic - The Hustlers Ep (Glenview) /
Volta CabやMatthew Kyleらのリリースで知られる"Diner City Sound"の最新作に登板したUkのMannmademusicによる最新4エディッツが"Glenview"より登場。

Purity Ring - ele-king

 人生を物語として理解する。それによってどんな自分でも受け入れられる。これがフロイトだとしたら、いままで散々、チルウェイヴを××してきた僕がピュリティ・リングに魅せられてしまったとき、1. ピュリティ・リングはチルウェイヴではないことを証明する(=学問的解決))。2. フロイトを否定し、マルチな主体を示唆したドゥルージアンになる(=哲学的解決)。3. この件に関しては黙っている(=政治的解決)。4. これまで僕がチルウェイヴに関して書いてきた痕跡をすべて消去してもらう(=経済的解決)。5. 記憶喪失になる(=生物学的解決)。6. どうしてこれがいいと教えてくれたんだよと、赤塚りえ子に抗議する(=行動あるのみ)。7. 泣く(=感情あるのみ)。8. オウム真理教に帰依する(=信仰あるのみ)......といった選択肢からどれかを選ばなければならない。複数のドメインを使い分けることやネット上に別な人格を作り出すことが当たり前になっている昨今、2. はもはや自明のことに思えるので、このレビューに要求されている字数を満たせるのは、しかし、1. だけだろう。3. から8.を選択して原稿料に相当するような報酬をくれる人がいるとしたら、資本主義や共産主義はなんだったのかということになりかねない。そんな感じも悪くないけれど。

 かつて僕はチルウェイヴをダフト・パンクの延長線上にあるサウンドと捉えた。つまり、シカゴからはじまったディスコ・リコンストラクトが下部構造の基本にはある。ダフト・パンクはいわばシンセ-ポップ・リヴァイヴァルの立役者だし、チルウェイヴの定義が初期にはシューゲイザー・ディスコであったこととも通じている。しかし、ミュンヘン・サウンドの影響下からはじまった80年代のシンセ-ポップがソフト・セルやユーリズミックスを筆頭にブルー・アイド・ソウルの再定義を試みるという変化を辿ったように、チルウェイヴもいい加減、ディスコ・リズムからは離れて16ビートを意識したようなものになっていくか......どうかは橋元さんがこれからじっくりと考えてくれるんじゃないでしょうか。

 ブレイズとのスプリットに続いてリリースした7インチ・シングル「アンガースド」1曲で、一気に期待の新人No.1に這い上がってしまったカナダの男女デュオ、ミーガン・ジェイムス(ヴォーカル)とコリン・ロディック(楽器+ドノヴァンみたいなラップ?)はヒップホップのビートをいかにもシンセ-ポップとして聴かせてしまうトリートメントに長け、ポップ・ミュージックに新しいフォーマットを確立したといえるかもしれない。これまでチルウェイヴに関して言われてきた様々な気分をちゃんと腰を揺らせて聴かせてくれるのである。ペット・ショップ・ボーイズを評して「踊れるザ・スミス」とか、ニュー・オーダーを差して「ジョイ・ディヴィジョンのディスコ・ヴァージョン」といった言い方が80年代にはなされたけれど、これはいわば「踊れるグライムス」であり、「ヒップホップと出会ったナイト・ジュエル」といったことになるのだろう。〈4AD〉への移籍が決まって再リリースされた"ベリスピーク"などはスネアとハンドクラップだけでかなり粘っこいグルーヴが編み出され、ヒップホップといってもエレクトロニック色の強かったサウス系がそのまま援用されていると思えるぐらいである。こうなったときに、こういったものもチルウェイヴと呼ぶか......どうかは橋元さんがこれからじっくりと考えてくれるんじゃないでしょうか。https://thepurityring.tumblr.com/

 シンセサイザーによる飾り付けがとても可愛らしい"サルツキン"、冒頭からスクリュードさせた"ロフトクライズ"、ストロウベリー・スウィッチブレイドを思わせる"ファインシュライン"、そして、やはりバロック風のエレクトロとでもいえる"アンガースド"に止めを刺すだろうか。ふたりは元ゴブル・ゴブルのメンバーで、ポスト・クラシカル風のポスト・ロック『ニオン・グレイヴヤード』を3年前にリリースしたこともある。ビヨークを薄めに薄めたようなコケティッシュかつラブリーなヴォーカルは『神社』と題された再デビュー・アルバムを舌足らずに歌い抜け、新しい風を呼び込んでいく。

 デンマークからニック・コル・エリクセンによるタラゲネ・ピジャラーマはザ・フィールド以降のシューゲイザー・ハウスに連なるニュー・エイスで、一時期路線を変えていたアークティック・ホスピタルも4作目の『ゴーイング・サン』で同傾向に回帰してきたばかり。"オーシャン"1曲でコンパクトと契約が決まったというのも頷けるほど、爽やかな音の広がりとイメージの豊かさは群を抜いている。それだけでなく、タイトル曲ではフランクフルト系のクールなアンビエントにもトライしている......けれど、ピュリティ・リングを聴いてしまうと、やっぱりもうちょっとリズムに工夫が欲しいかなー。

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