「Nothing」と一致するもの

ZAZEN BOYS - ele-king

 ザゼンボーイズの『すとーりーず』、4年ぶりの新作、これがすごい。リズミックで、フリーキーで、強力なファンクが展開されている。キャプテン・ビーフーハートの遺伝子全開といったところだが、それはいつものことか......。とにかく、欧米でマス・ロックと呼ばれているジャズとロックとのダンサブルな出会いを、ザゼンボーイズはポップに咀嚼する。
 だいたい「繰り返される諸行は無常......」、お馴染みのこの言葉が、いまはまたあらたに響くでしょう。「諸行は無常......」、これは何かつらいことがあったときに現実を誤魔化し、逃避するために言葉ではない。これは何かつらいことがあったときに、そのつらさに情が呑まれて身動きが取れなくなってしまうことへの、日本人の防御反応、つまり、宗教心というよりも、自分の気持ちをラクにするための知恵だ。
 おそらく、世界のほかの都市では、いろんな民族が多様な声を露わにするために、なにか大事が起きたときも自分の情は相対化されやすい環境にある。ロンドンで裕福な人たちが涙でくれているその傍らで黒い人たちが笑っていることは珍しくない。その分、連帯感など生まれようにないのだけれど。ところが、昔にくらべれば外国人の人口も増加したとはいえ、ほとんどが日本人で占められている日本という国では、あるひとつの方向性の情はマスメディアを通じて瞬く間に伝播し、ある種の力となって、多種多様な自我を覆い尽くす。みんなが泣いているかたわらで笑っているわけにはいかなくなる。わかっちゃいるけど、連帯感を欠いている人間には息苦しい。
 そういう意味では、ザゼンボーイズは、土着的な日本でありながら異邦人的でもある。向井秀徳の「パンツ一丁になって踊れ」からは、おそらくは彼が理想とする社会──昨年だっけかな、iLLとのコラボ作"死ぬまでDANCE"で映像化されたような、多種多様な色の人たちが一緒に踊っている世界が見える。その強烈でケオティックな思いゆえか、彼らの音のうねり、言葉と音のファンクネスはいまも際だっている。ポテトサラダが食べたい人はもちろん、バトルスが好きな人も是非聴いてみて!

 『すとーりーず』の発売は、9月5日。特典がいっぱいついたデジタル配信もある。詳しくは→(https://www.mukaishutoku.com/main.html)、視聴もできます。

BASSの時代 - ele-king

 日本のベース・ミュージックについて改めて考えてみると、「ベース・ミュージック」という言葉を日本人が使いだしたのは東では〈Drum & Bass Sessions〉、西では1945 a.k.a KURANAKAが率いる〈ZETTAI-MU〉に代表される方々が支えてきた「ドラムンベース」や「ラガ・ジャングル」の登場以降だと推測される。
 しかし、近年では「ベース・ミュージック」という言葉の意味にかなり広がりを持つように進化し続けていると思う。もともとは海外でマイアミ・ベースやゲットー・ベースなどのヒップホップやエレクトロからの流れが「ベース・ミュージック」と言われだしたのがはじまりだろうし、「DUB STEP」という言葉にある「DUB」についてはもっと昔から存在する手法だ。
 そんな「ベース・ミュージック」の言葉が持つ深いポテンシャルに注目し、日本におけるベース・ミュージックの現在進行形を体験できる貴重な機会があったので、少々時間は経ってしまったが、レポートしようと思う。

 〈Outlook Festival〉とは、ヨーロッパはクロアチアにて数日間に渡って開催され、世界中のアーティストやDJ、そしてサウンドシステムが集結する世界最大級のベース・ミュージックの祭典だ。その錚々たるラインナップには、リー"スクラッチ"ペリーやマックス・ロメオやジャー・シャカといった、生きるレゲエ・レジェンドたちからスクリームやデジタル・ミスティックズなど、最先端ダブステップ・アーティストが一斉に名を連ねる。

 ある日、Part2Style Soundの出演するクロアチアの〈Outlook Festival〉に同行したeast audio sound system(イーストオーディオ・サウンドシステム)のtocciの体験談として「BASS MUSICは体で体感する音楽である。しかるべきサウンドシステムで鳴らせば、その重低音は肌から伝わり、体のなかを振動させ、ついには喉が震えて咳き込むほどの音楽だ」という見解を、過去にサイトにアップしていたのを読んで、自分の目を疑ったのと同時に「体感してみたい」という思いが芽生えた。その個人的な思いは「Outlook Festival Producer Competition」という、勝者はクロアチアへのチケットを手にすることができるコンペに自作曲を応募する形でぶつけてみた。仲間や応援してくれたみんなのおかげもあって、数多く存在するファイナリストまでは残れたものの、結果としては敗北に終わり、悔しい思いをしたのも記憶に新しい。
 そんな〈Outlook Festival〉の日本版がPart2Style とイーストオーディオ・サウンドシステムによって、今年も開催されると知ったのは春のはじまりのころで、それを知ってからは毎日のように「Outlookを体験したい」と心のなかで連呼したが、どうしても行きたい思いとは裏腹に、諸事情により今回のフェスへの参加を諦めていた。
 その矢先、小説家であり、ライターであり、大阪の夜の飲み先輩であるモブ・ノリオさんから一本の電話がかかってきた。
 以前、モブさんにとあるパーティで会ったときに酒を飲みながら〈Outlook Festival Japan Launch Party〉がいかなるものかと熱く説明したことがあり、そのときに何度も「それにはお前は行かなあかんやろ」と言われたが、「行きたいですねぇ......」と返すのが僕の精一杯の返答だった。それを察しての電話口だった。「〈Outlook〉行くの?」と聞かれ、「めちゃくちゃ行きたいですけど、もう諦めました」と返すと「行かんとあかんときっていうのは、どうしても行かんとあかん。お前、ああいうことを自分で書いといて、いかへんつもりなん? それはあかんぞ......あのな、エレキングで取材の仕事をセッティングしたから、行って来てレポートを書いてみぃへんか? 文化を体験するって行為は絶やしたらあかんで」
 涙がでるほどの奇跡が起きた。僕のなかで行かない理由はなくなった。

 5月26日、TABLOIDの隣にある、日の出駅に着いたときに、まず驚いた。改札を通るときに重低音の唸りが聴こえてきたからだ。駅から会場までの近さも手伝って、初めて行く会場への方向と道のりを重低音が案内してくれた。会場の建物がどれなのかは、低音の振動でコンクリートが「ピシッ」と軋む音でわかった。ついに ここに来ることができた、と胸が高まった瞬間だ。

 会場に入り、さっそくメインフロアであるホワイト・アリーナへ向かうと、先ほどの駅で聴いた重低音の唸りがSPLIFE RECORDINGSがかけるラガ・ダブステップだったことがわかる。そびえ立つモンスター・スピーカーたちの城から発せられるその音は、「爆音」なんてものではなく、まるで生き物のようにスピーカーから"BASS"が生まれ、フロア中を駆けめぐった後、壁を登り、遥か高い天井で蠢く、「獣帝音」と言えば伝わるであろうか。そう、これがイーストオーディオ・サウンドシステムとTASTEE DISCOが繰り出す、メインフロアの音だ。驚いたのは、出番が終わったあとにSPLIFE RECORDINGSのKOZOから聞いたところによると、これでまだ50%ぐらいの音量だというのだ。驚きとともに、100%の音量を出したときに自分は正気でいられるのだろうか? 建物は大丈夫なのだろうか? などと、少しの不安と緊張感を抱くとともに、武者震いをするかのように心を踊らせた。

 大阪から到着したばかりで腹がすいていたので、メインフロアの後方にあるFOODブースへと向かった。
 DUUSRAAのカレーを注文し、待っているあいだにおもしろい出来事があった。テーブルの上に置いてあった誰かのカクテルのカップが、重低音の振動で勝手に動き出し、なかに入ってあるカクテルが噴水のようにしぶきを上げ、こぼれだしたのだ。それぐらい、建物自体が振動していたということだ。

 知人の皆と、久しぶり感がまったくない(1ヶ月前に会ったばかり)挨拶やジョーク等を交わし、会場全体をウロウロとまわるうちに最初の狼煙が上がった。Part2Style最重要ユニット、ラバダブマーケットの登場だ。Erection FLOORと名付けられたフロアで鳴り響く、姫路は最高音響サウンド・システムの音も、サブ・フロアという陳腐な言葉では片づけられない、まさしく最高の音だった。その音は暖かく、どれだけの音量で鳴っていたとしても耳が疲れない、例えて言うならマホガニーサウンドだ。しかし、鳴っている音量はかなりのもので、ここのフロアが階段を登った2階にあったのも手伝ってか 振動が床を伝い、足から体全体が震え、まるで自分がスピーカーになったような錯覚すら覚えた。そんな最高音響でのラバダブマーケットのライヴは、フロアの反応も最高だった。Dread Squadの"Sleng Teng International Riddim"にジャーゲ・ジョージとMaLが歌う"Digital dancing mood"~e-muraのJUNGLEビート本領発揮の"Bubblin'"~突き抜ける"MAN A LEADER"の流れは、正にリーダーが告げるこのフェスの本格的開始合図だった。そしてその勢いは櫻井饗のエフェクターを駆使した多彩なビートボックス・ライヴへと継がれていった。

 ホワイト・アリーナへ戻ると会場にも人が溢れ返っていて、LEF!!!CREW!!!が、フロアにいるオーディエンスをハイテンションでガンガンにロックしていた。休憩しようと外へ向かう途中にグラス・ルームではDJ DONが、まだ生まれて間もないベース・ミュージック、ムーンバートンのリズムで"Bam Bam"をプレイしていた。僕もよくかけるリミックスだ。ついつい休憩のつもりがまたひと踊りすることに。Jon kwestのアーメンブレイクを切り刻んだムーンバートン(これまた僕もよくかける)など、ニクイ選曲にTRIDENTがパトワのMCで煽る。108BPMという、遅いような早いような不思議なテンポに錯覚してしまい、ついつい踊らされてしまうのがムーンバートンの魅力だろう。

 外の喫煙ブースでマールボロのタバコをもらい一服してからなかへ戻ると、さっきのグラス・ルームでは函館MDS CREWのボス、SHORT-ARROWがSUKEKIYOのMCとともにジャングルをプレイしていた。同じく函館から来ていたKO$は今回、カメラマンとしてもかなりいい写真を撮っていたので、是非チェックしてほしい。ここでも先ほどラバダブマーケットのライヴでも聴いたDread Squadの"Sleng Teng international"が聴けたし、時を同じくしてホワイト・アリーナではTASTEE DISCOがスレンテンをかけていた。

 この〈Outlook Festival Japan Launch Party〉の興味深いポイントとして、「ベース・ミュージックに特化したフェスティヴァル」ということでは日本ではかなり早いアクションだということだ。以前からPart2Styleは"FUTURE RAGGA"というコンセプトのもと、コンピュータライズドなレゲエをやっていたし、ジャングルやドラムンベースはもちろんのこと、最近ではダブステップやクンビアも自分たち流に消化して発信していたし、ムーンバートンを僕が知ったきっかけはMaL氏とNisi-p氏がふたりで作ったミックスだった。それらやその他もろもろを総じて、ベース・ミュージックと日本内で呼ばれ、波及しだしたのは ごく最近のことであり、まだまだ発展途上といえる段階だろう。スレンテンのベースラインは、この新しい試みのなかでも 互いに芯の部分を確かめ合うように呼応する不思議な信号や、電波のようにも聴こえた。

 時間が深まっていくなか、eastee(eastaoudio+TASTEE)が本領を発揮しだしたと感じたのはBROKEN HAZEのプレイだった。重低音が何回も何回も、ボディブローをいれてくるように体に刺さりまくる。激しいビートとベースで、まるでボクシングの試合でボコボコにされ、痛いどころか逆に気持ちよくなってしまう感覚だ。パンチドランカー状態になってしまった体を休めに、バー・スペースへ行きDUUSRAA Loungeの音が流れる中、友人と談笑したりした。

 上の階では、ZEN-LA-ROCKPUNPEE、そしてファンキーなダンサーたちによってオーディエンスが熱狂の渦と化していた。音の振動によってトラックの音が飛ぶトラブルもなんのその。
「皆さん、低音感じてますか? Macも感じすぎちゃって、ついつい音が飛んじゃいました。低音はついに800メガヘルツに到達! Everybody say BASS!!」とトラブルすらエンターテイメントへと変換させる話術は、お見事の一言では片づけられないほど素晴らしく、ごまかしや隠すことの一切ない、正に全裸ライヴだと実感した。ZEN-LA-ROCKは独自にこのフェスティヴァルをレポートしているので併せて見てほしい。



 楽しいライヴを満喫した後は、D.J. FULLTONOを見にグラス・ルームへと移動する。個人的にエレクトロやシカゴ・ハウス、ゲットーベース等を2枚使いでジャグリングをガンガンやっていた頃を知っているだけに、いま、日本のJUKE/JIT第一人者として〈Outlook Festival Japan〉に出演していることが不思議であり、同じ大阪人として嬉しくもあった。彼がプレイしている時間のフロアは、このフェスのなかでもっとも独特な空気を放っていただろう。矢継ぎ早に、時にはトリッキーに繰り広げられるJUKEトラック、"FootWurk"という超高速ステップ、難しいことは言わず自然体な言葉でフロアを煽るMC、仲間たちお揃いのBOOTY TUNE(FULLTONO主宰レーベル)のTシャツ、ブースに群がるクラウド、汗だくになりながらも、次々とフットワークを踊り、DJブース前のフットワークサークルを絶やそうとしないダンサーたち、出演者、観客、スタッフ、なんて枠組みは取り払われたかのように、そこにいる皆で夢中になってフロアを創った時間だった。その素晴らしさは、FULLTONOが最後の曲をかけてすぐさまフロアに飛び出し、さっきまでDJをしていた男がいきなり高速フットワークを踊りだした時に確認できた。僕にはその姿が輝いて見えた。

 メインフロアに戻ると、Part2Style Soundがいままで録りためたキラーなダブ・プレートを惜しげもなくバンバン投下しフロアをロックし続けていた。そのスペシャル・チューンの連発にフロアのヴォルテージが高まりすぎて、次の日に出演予定のチャーリー・Pが我慢できずにマイクを取ったほどの盛り上がりだ。そしてその興奮のバトンとマイクは、DADDY FREDDY(ダディ・フレディ)へと渡された。高速で言葉をたたみかけるダディ・フレディのライヴは圧巻であった。何回も執拗にライターに火を灯せ! とオーディエンスに求め、フロアは上がりに上がった。早口世界チャンピオンは上げに上げた後、だだをこねるように「もう行っちゃうぞ?」とフロアに問う。フロアは声に応え、ダディ・フレディを放そうとはしない。チャンピオンはノリノリでネクスト・チューンをうたい終えた後、またフロアに問う。「おれはもういくぞ!?」と。もちろん皆は声に応える。するとチャンピオンはノリノリで「ワンモアチューン!」と、まだまだ歌い足りなさそうだが、やはりチャンピオン。どのアクトよりも怒涛の勢いを見せつけた、素晴らしいステージだった。

 チャンピオンの勢いに圧倒された後に続いて、特別な時間がやってきた。
 DJ、セレクタのセンスと腕が問われる真剣勝負、サウンド・クラッシュ。今回、かなり楽しみにしていたイベントだ。NISI-Pの司会によってルール説明が行われ、場内は緊張感に溢れた。今回のルールとして、はじめにくじ引きで第1ラウンド出場者である3組の順番を決め、1ラウンド目はダブ・プレートではない曲で3曲ずつかけ、次ラウンドの順番が決まる。第2ラウンドが「Dub Fi Dub」(ダブプレートを1曲ずつかける)の流れだ。第2ラウンドで決勝進出の2組が決まり、ファイナルラウンドで一対一の対決となる。
 第1ラウンドの一番手はHABANERO POSSE(ハバネロ・ポッセ)だ。普段からイーストオーディオ・サウンドシステムの音を研究しているだけあって、音の鳴りはピカイチだった。ガンヘッドのDJにFYS a.k.a. BINGOのMCの勢いもハンパなく、スピーカーとオーディエンスを存分に震わせた。続いて、JUNGLE ROCKがプレイするジャングルはレゲエのサウンドマンの登場を物語る。サウンドクラッシュはレゲエから発生した文化だ、と言わんばかりにフロアに問いただす。最後に登場したDEXPISTOLSは、なんとレゲエ・ネタで応戦し、エレクトロの先駆者が異文化であるクラッシュへの参戦表明を見せつけたことで、このサウンドクラッシュがいままでのどのサウンドクラッシュとも違う、斬新なものであるかがわかっただろう。今回のサウンドクラッシュの見どころとして、ヒップホップやエレクトロの文化やレゲエの文化などが、カードの組み合わせによって異種格闘技戦となっていることも、おもしろい試みだ。
 肩慣らしともいえる第1ラウンドを終え、いよいよ本番、ガチンコ対決となる第2ラウンドへと続く。トップバッターはDEXPISTOLSだ。第1ラウンドのときとは、やはり気合いの入り方が違い、ダブプレートには自身たちの曲にも参加している、ZeebraJON-Eがエレクトロのビート上で声をあげ、DEXPISTOLSがDEXPISTOLSであることをオーディエンスに見せつけた。
 続くはHABANERO POSSE。ムーンバートン・ビートにのるラップの声の持ち主に耳を疑った。なんと、Zeebraのダブ・プレートである。まずは「ベース好きなヤツは手を叩け!」と、"公開処刑"、そしてビートがエレクトロへと急激にピッチが上がり、DEXPISTOLS自身がZeebraをフィーチャーした"FIRE"のダブへと展開し、DEXPISTOLSへ向けたレクイエムを送る。逆回転のスピンの音が少し短くて、思ったことがあった。「あれはもしかして、レコードかもしれない......。」その盤はアセテート盤と呼ばれる、アナログレコードをわざわざカットして鳴らされたものであるのも、block.fmで放送された後日談にて確認できた。HABANERO POSSEは、ぬかりのない綿密な作戦と、業が成せる完璧な仕事を僕らに見せつけたのだ。
 ラストのジャングル・ロックは、アーメンブレイクと呼ばれるジャングル・ビートに、猛りまくったMCで問う。「さっきも、V.I.Pクルーがかかってたけど、V.I.Pクルーって言ったらこの人だろ!?」と、BOY-KENがうたう様々なクラッシュ・チューンでレゲエの底力を見せつけた。
 ファイナルラウンドに駒を進めたのは、HABANERO POSSEとJUNGLE ROCKの2組だ。本気の真剣勝負の結果である。誰もそこに異論を唱える者はいなかったと思うし、オーディエンスの反応にも間違いなく現れていた。戦うセンスと実力だけがものをいう、音と音のぶつかり合い。それがサウンドクラッシュという音楽の対話だ。
 ファイナルラウンド、先行はJUNGLE ROCKだ。「おれがこのダブとるのに、いくら使ったと思ってんだよ!」と意気込みを叫び、ダブを投下した。鎮座ドープネスリップ・スライムからはPESとRYO-Zという、豪華なメンツにフロアは沸きに沸いた。そして後攻にHABANERO POSSE。なんとその場のゲストMCにSEX山口を迎え、マイクでフロアに物申す。「おれらの敵はJUNGLE ROCKでも、DEXPISTOLSでもない。本当の敵は、風営法だ!」なんと、YOU THE ROCKがラップする"Hoo! Ei! Ho!"のダブだった。



 優勝は満場一致で、HABANERO POSSEが受賞した。展開の読み、選曲、音像、すべてにおいて郡を抜く存在だった。本当に、普段から音の鳴りを研究した努力の賜物だったと思うし、あの時間にあのダブ・プレートを聴いた時の、ドラマのような展開に感動した。近年、風営法を利用した警察が、文化を発信している場所となるクラブを摘発していることへの、強烈なアンチテーゼを意味するメッセージでもあった。クラバーたちの真の戦いとなる風営法を、サウンドクラッシュという戦のなかで伝え、勝利という名の栄光を掴んだ、真のチャンピオン誕生の瞬間だった。

 この頃には酔いもできあがってしまって、BUNBUN the MCのライヴではPart2Styleのメンバー、DJ 1TA-RAWがカット(バックDJ)をやっているにも関わらず、大阪のオジキの大舞台を応援したい気持ちで僕もDJブースにノリこんでカットをやるが、酔った手がCDJの盤面に当たってしまい、ズレなくてもいいリズムがズレてしまって、「WHEEL UP!Selecta!」とすぐにお声がかかり、ネクストチューンへ。大変、お邪魔いたしました。。もちろん、ライヴはいつにも増して、大盛況であった。酔いも深まる中、タカラダミチノブのジャーゲジョージをフィーチャーしたDJにシビれ、朝を迎えた。

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 2日目はひどい2日酔いのなか、昨日が夢のような1日だったため、目が覚めてもまどろみ状態がなかなか覚めなかった。そんな状態で、酒を飲む気分になれなかったので、この日はレッド・ブルだけを飲んで過ごした。
 会場に到着して、ブランチに虎子食堂のごはんを食べようと、真っ先にフードブースへ足が進む。フェジョアーダという黒豆ごはんを注文し、知人と一緒に「初めて食べる味ですねー」なんて話しながら、美味しくいただく。ふと、ブースの方へ向くと、Soi Productions(ソイ・プロダクションズ)がスタートダッシュのドラムンベースをブンブン鳴らしていた。会場の音も、昨日よりも開始直後からよく鳴っている印象だった。考えたら昼の2時だ。鳴らせる時間には鳴らさないと、サウンドシステムがもったいない。目もスッキリ覚めるほどのベースを浴びて、2日目がはじまったことを改めて確認した。

 バー・スペースではDJ DONがクンビアを気持ちよくかけている。今日はどうやって過ごそうかな? とタイムテーブルを見ながら周りを見渡す。ここは〈DUB STORE RECORDS〉や〈DISC SHOP ZERO〉がレコードを販売しているフロアでもある。ふと見ると、E-JIMA氏がレコードをクリーニングするサービスなんてのもあって、もしレコードをもってきてたら、超重低音でプレイする前にキレイにしたくなるだろうな、と思ったりした。

 入り口付近のグラス・ルームではKAN TAKAHIKOがダブステップのベースの鳴りをしっかりとたしかめるように、自作曲も交えながらプレイしていたり、2階へ行くと、DJ YOGURTがスモーキーで渋いラガ・ジャングルをかけていて、最高音響で聴くアーメン・ブレイクは体にスッと馴染みやすく刺さってくることを確認したり、NOOLIO氏との久々の再会がグローカル・アリーナで太陽を浴びながら聴くグローカルなハウスだったり、ホワイト・アリーナに戻っては、G.RINAの生で聴く初めてのDJにテンションが上がってしまい、BUNBUN氏とふたりしてかっこええわ~なんて言いながら楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 グラス・ルームでワイワイと楽しそうにやってたNEO TOKYO BASSの姿は、誤解を招くのも承知で書くと、やんちゃな子どもたちが はしゃいでいるようにも見えて、その楽しそうな姿に、ついついこっちまで指がガンショットの形になってしまった。クボタタケシのクンビア・ムーンバートンを交えたセットも素晴らしかった。この時にかかっていたKAN TAKAHIKOの"TOUR OF JAMAICA"のエディットはこのパーティ中に最も聴いたチューンのひとつだ。

 Tribal Connection(トライバル・コネクション)の1曲目は、ジャングル・ロックの昨日の決勝戦のチューンだった。昨日のバトルの雰囲気とはうってかわって、パーティ・チューンに聴こえたのもセレクター、DJとしてかける意味がかわって聴こえたりもして、趣が深かった。悔しそうに、そして楽しそうに。深いジャングルの時間だった。続くJxJxはグラス・ルームをファンキーに彩るムーンバートンで、大都会の夕暮れの時間を鮮やかに彩った。

 そうこうしている内にはじまったPart2Style Soundが、確実にメインフロアを唸らす。興奮もピークに近づいてきたところで、やってきたのはCharlie P(チャーリー・P)だ。まだ若いらしいが、堂々としたステージはベテランのようで、スムーシーに唄うその声は、ときに激しく、ときにまとわりつくように耳から脳へとスルリと入ってくる。続いて登場したSolo Banton(ソロ・バントン)は先日、大阪で見た時よりもキレがあり、"Kung Fu Master"や"MUSIC ADDICT"など、堂々としたステージングでオーディエンスをグイグイ引き寄せる。そして時には、ソロとチャーリーが交互に歌ったり、お互いの声質が異なることによるスペシャルなブレンド・ライヴを展開した。かなりマイクを回しあっただろう。時間が終盤に近づくにつれ、グルグルと回るマイクをもっと回せと口火をきったのはRUMIだ。"Breath for SPEAKER"の「揺らせ! スピーカー!」のフレーズで、正にスピーカーとフロアを存分に揺らした。すかさずソロがたたみかけるようにうたう、すると今度はなんと、CHUCK MORIS(チャック・モリス)が出てきては「まんまんなかなか、まんまんなかなか、ド真ん中!」と、すごい勢いで登場し、「たまりにたまった うさばらし! Outlookでおお騒ぎ!」と、けしかけては、「ハイ! 次! ソロー!」とソロ・バントンにマイクを煽る。ソロがすかさず歌い返すも、Pull UP! ちょっと待ったと、いきなり現れた二人のMCに たまったもんじゃないソロはなんと、ダディ・フレディの名を呼んだ。「ジーザス、クライスト!」とダディフレディが一言、そこからのトースティングは即座にフロアを頂点へとのし上げた!!! ダディ・フレディは会場に集まった皆と、Part2Styleに感謝を述べ、よし、マイクリレーしよう!と閃き、なんとスペシャルなことか、ダディ・フレディとソロ・バントンとチャーリー・P、3人の怒涛のマイクリレーがはじまった。これにはフロアもガンショットの嵐!! 最高のスペシャルプレゼントステージだった。Nisi-pが「もう一度、3人に大きな拍手を!!」と叫ぶと、会場は拍手大喝采に見舞われた。



 SKYFISHがクンタ・キンテのフレーズを流したのはその直後だ。ラスコの"Jahova"にチャック・モリスが歌う、"BASS LINE ADDICT"。続くRUMIのアンサーソング"BAD BWOY ADDICT"と、さすが、UK勢にも引けをとらないふたりのコンビネーションがフロアをぶちかました。今回のフェスで誰が一番のアクトだったかなんてことは、到底決められないけども、個人的にBASSを浴びる、いや、BASSをくらったのはNEO TOKYO BASSのときだ。腹にかなり直撃で受けてしまい、なんというかお腹のなかで内臓が揺れているのだ。いや、いま思い返せばそれが本当だったかはわからない。しかし、記憶していることは、体のなかが、なかごと、ようするに全身震えていたのだ。音が凶器にも感じた瞬間だった。ずっとフロアで聴いていたから低音には慣れているはずなのに、NEO TOKYO BASSがエグる、BASSの塊に完全にKOされてしまった。
 メインフロアを出た後、グラス・ルームでは、KEN2D-SPECIALが"EL CONDOR PASA"を演奏していた。どうやらラスト・チューンだったらしく、もっと見たかったが、そこで久しぶりの友だちと会い、話をしながらINSIDEMAN aka Qのかけるディープなトラックに癒された。少し外で休憩した後はクタクタだったのもあり、グローカル・エリアの帽子屋チロリンにて少し談笑したりした。すぐ隣にあるグローカル・エリアで見た1TA-RAWから大石始への流れはトロピカル・ベース~ムーンバートン~クンビア~民謡と、自然に流れるダイナミクスへと昇華され、僕が見たグローカル・エリアでは一番のパーティ・ショットだった。そして最後に見たのは、OBRIGARRD(オブリガード)だ。ハウスのビートから徐々にブレイクビーツ、クンビアへとビートダウンしてく"Largebeats"~"Ground Cumbia"の流れは素晴らしく、個人的にエンディング・テーマを聴いているような、寂しく、狂おしい瞬間だった。

 僕の〈Outlook Festival 2012 Japan〉Launch Partyは、こうして幕を閉じた。
 いまになって思い返してみても、なんて素晴らしく、楽しい体験だったのだ。体験したすべての人たちが、それぞれの形で、記憶に残る2日間になったと思う。そして日本のベース・ミュージックにとっても、キーポイントとなるような歴史的な2日間だったのではないか。
 出演していた あるアーティストに「今回出演できて、本当に良かった。もし、出演できていなかったら、自分がいままでベース・ミュージックを頑張ってきたことはなんだったんだろう? と、思っていたかもしれない」という話を聞いた。もちろん、自分も「出たいか?」と問われたら、即答で「出たい」と答えるだろう。それほどまでに、魅力溢れるパーティだ。個人的に思う〈Outlook Festival 2012 Japan Launch Party〉が残した大きな功績は、アーティストやDJたちが「次も出演したい」と、または「次は必ず出演したい」と、いわば、「目標」を主宰たちが知らず知らずのうちに創ったことだろう。その目標を叶えるためにも、来年、再来年と、また日本で〈Outlook Festival〉が開催されることを、切実に願っている。

 Part2Styleとイーストオーディオ・サウンドシステム、会えた方々、関係者の方々、そして体験する機会を与えてくれた「ele-king」の松村正人さんとモブさんに最大級の感謝をここに記します。

追記
 そしてこの夏、Part2Style Soundが2011年に引き続き、本場はクロアチアで開催される〈Outlook Festival 2012〉に出演する。本場のベース・ミュージック フェスティヴァアルに2年連続で出演し、何万人といった海外のオーディエンスを熱狂させることを思うと、同じ日本人としてとても誇らしい気分にさせてくれる。
 きっと彼らはまた素晴らしい音楽体験を得た後、その景色を少しでも日本へと、形を変えて伝えようとしてくれるだろう。
 進化し続ける「ベース・ミュージック」。未来のベース・ミュージックはどんな音が鳴っているのだろうか。
 僕はその進化し続ける音楽を体感して追っていきたい。

KABUTO (LAIR/CABARET) - ele-king

SCHEDULE
8/24 @grassroots
8/30 minimood label night@ oath
9/1 barrier@module
9/22 ERR@だるま山キャンプ場
9/28 @Cave246
9/29 @Eleven
10/6 CABARET feat Daniel bell@UNIT/SALOON

https://twitter.com/Kabutooo

2012.8.CHART


1
MORITZ VON OSWALD TRIO - FETCH - Honest Jons

2
BRETT DANCER - EUPHONIC MOODS EP - TRACKMODE

3
MAKAM - DREAMS OF TOMORROW - SUSHITECH

4
DANIEL KYO - HYPNOTIZED (Kelvin K Remix) -LOST MY DOG

5
DEWALTA & MIKE SHANNON - THE ADVENTURES OF SAINT JACK DE SMOOVE - MEANDER

6
OPUSWERK - WIRED CONNECTIONS - PLAK

7
ANDRES ZACCO - POMPAK - ESPERANZA

8
CHRIS MITCHELL - PHRENETIC EP - Vanguard Sound

9
J ANTONI - NO SLEEP (Thoms Krome mix) - UES

10
GRIMES ADHESIF - pa'am shlishit glida - naif

ICHI-LOW (Caribbean Dandy) - ele-king

偶数月第二月曜@The ROOM、奇数月第四火曜@虎子食堂等々のレギュラーでCaribbean Dandyはプレイ中。その他個人活動はTwitterの@ICHILOWをチェックしてください。

8/30映画『ボブ・マーリー/ルーツ・オブ・レジェンド』公開記念配信DOMMUNEに出演します!

映画『ボブ・マーリー/ルーツ・オブ・レジェンド』公開に乗っかって
自分的ボブがらみソングベスト10


1
ETANA - LOVE MYSELF - CANNON

2
LUCIANO - JAH LIVE - CANNON

3
BOB MARLEY & THE WAILERS - COULD YOU BE LOVED 12mix - ISLAND

4
Luciano, Louie Culture, Terror Fabulous - IN THIS TOGETHER - Xterminator

5
BOB MARLEY & THE WAILERS - EXODUS - TUFF GONG

6
DAMIAN "JR.GONG" MARLEY - Welcome to Jamrock - GHETTO YOUTHS / Universal

7
Lauryn Hill & Bob Marley - Turn Your Lights Down Low - ISLAND

8
BOB MARLEY & THE WAILERS - NO WOMAN NO CRY - ISLAND

9
PETER TOSH - BUSH DOCTOR - Rolling Stones

10
Dean Fraser - Redemption Song - Joe Gibbs Music

vol.1 NHK大河ドラマ『平清盛』 - ele-king

■はじめに 『平清盛』でゆく修行の旅

 わたしは普段、ドラマをあまり観ない。というのも、3次元(実写)の人間を認識する能力が根っから低いので、キャスト(≒登場人物)を見わけるのが不得意だからだ。似た系統の顔の俳優・女優を間違えるなどしょっちゅうだし、中年の刑事が崖っぷちで犯人を追いつめていたら、まあ船越英一郎氏だろうと断定してしまう。「たくさんドラマを見て、キャストの芸歴、演技力もわかったうえで語っていますよ」という説得力に欠けるのは、申し訳ない。歴史ものが好きなので、唯一、NHK大河ドラマだけはこの10年ほど、それなりに観てきたのだが、キャストをちゃんと把握できていたかはあやしい。
 さて、今年の大河ドラマはご存じ『平清盛』。清盛の義父役の中井貴一氏を、わりと長いあいだ舘ひろし氏だと思い込んでいたなどの個人的トラブルはあったものの、主役の松山ケンイチ氏がわたしにとってかなり見わけやすい顔なので、なかなかいいすべり出しだった。さらに、第14話あたりからは山本耕史氏演じる美しき藤原頼長が、史実を地で行く男色無双ぶりを見せてくれたことに狂喜した。興奮のあまり、崇徳上皇も顔負けの床ローリング(横転)をしそうになったが、家族に叱られるのでこらえた。

 しかしこのドラマ、巷ではしばしば「わかりにくい」といわれる。なるほど、わたしもときどき、「おいィ?」と思うことがある。これは決して「そうきたか!」「なるほど!」という瞬間ではなく、「えっなにこれ」という偽らざる「違和感」である。しかし違和感もたび重なると、逆に気になって目が離せなくなるもので、ついがんばって観てしまうわけだが、そうするとこれはいわゆるB級というやつとも、どうやらちょっと違う。よくよくみていくと、筋が通っているのだ。そしていつしか、「違和感がある(ように見える)物語を、むしろおもしろいものとして読み解く文法」が自分のなかに形成されていたのだった。どこか宗教とか洗脳じみた出だしで申し訳ないが、事実だから仕方ない。こうして他人に説明しだすぐらいだから、わたしもようやく「清盛文法」初級ていどの腕前だろうか。
 こうした境地に至るまでには、あるていど根気強く視聴することが必要なので、『平清盛』はあまり初心者向けのドラマではないかもしれない。しかしドラマに限らず、未知のコンテンツを、違和感や雑音として切り捨てるのではなく、意味のある音色として楽しめるようなリテラシーを得るまでには、おおむねどんなジャンルでも、そういう修行が必要なのだろう。その点、『ele-king』を読むような方々は、ディープな洋楽を好んで摂取する日常との噂だから、難解なものほど萌える、燃えるといった剛の者ぞろいであろう。そんな人々にこそ、『平清盛』をお薦めしてみたいのである。いまなら、まだまだ先が長いので、どんなびっくりどっきり映像が飛び出すか、毎週わくわくしながら待てる、というお得感もある。
 ちなみに、ニコニコ動画の生放送番組「オタク女子文化研究所」(2012月6月号)で『平清盛』を扱ったさい、わたしは、頼まれてもいないのに、第25話までのあらすじの紙芝居を自作した。この場を借りて、紙芝居をアップさせていただくくことになったので、『平清盛』をまったく未見という方は、参考にしてほしい。あわせて生放送番組のほうも、本郷和人氏(『平清盛』時代考証、東京大学史料編纂所教授)もご出演、という超豪華版なので、いまからでもタイムシフト視聴していただけると幸いである。

紙芝居は後日アップ予定です! お楽しみに!!
紙芝居をアップしました!

ニコニコ生放送
オタク女子文化研究所「いまから『平清盛』」
~「オタ女」的大河ドラマの愉しみ方~


■清盛文法その壱 反復・変奏されるキーワード

 ではいよいよ本題だが、『平清盛』の違和感の正体とは何か? それらの違和を腑に落ちさせ、むしろ味わい深くさせる「清盛文法」とはどういった技か? かなり凝ったドラマなので、これに対する回答はいくつも考えつくのだが、本稿ではふたつだけ挙げることにしよう。
 ひとつには、同じ台詞(キーワード)が、別の人物により、別の場面で繰り返し用いられることだ。このキーワードも1個だけではないからややこしいのだが、その中でも、「我が子」という言葉に注目して説明しよう。ドラマの中では、父親が息子に呼びかけるとき、ここぞという時に限って固有名詞でなく、「我が子よ」という感じになるわけだが、これがまあ、なかなかの違和感である。わたしも最初は、深く考えず流し見していたものだから、「普通に名前で呼べよ」と思ったものだ。
 しかし実は「我が子」という同じ言葉を、いろんな登場人物が使うことがミソ。そのつど普通に名前で呼んでいたら、人物Aが人物Bに呼びかける場面、という印象になって、「父が自分の息子に呼びかけている場面」であるという共通点が伝わりにくい。だから、ここぞという場面では「我が子」という、違和感のある言葉をあえて使う。そうすれば「父・息子のテーマ」が視聴者の心に引っかかって浮かび上がってくる。そういう仕掛けになっている。このように、「我が子」がキーになっていることが読み解けると、息子から父への言葉である「父上」もまた、特別な言葉として際立ってくる。視聴者の方が、ほかにも違和感のある台詞を見つけたら、脚本にケチをつける前に、まずはこういう仕掛けになっているのではないかと疑ったほうがいい。
 このドラマ内の設定では、平清盛は平氏一門の子ではなく、白河法皇の子ということになっており、この因縁を原動力として物語が始まる。主人公に限らず、「父・息子関係」はこのドラマにとって根幹的な主題であり、白河法皇と平清盛、平忠盛と平清盛、鳥羽法皇と崇徳上皇、源為義と源義朝、藤原忠実と藤原頼長、平清盛と息子たち......といった様々な父・息子関係に変奏されていく。いうなれば、「父・息子」という基調的フレーズを、さまざまな二者がそれぞれの音色で奏でていくという、長編の楽曲のようなつくりになっているのだ。

 ところで、このドラマが「わかりにくい」といわれる原因のひとつは、あきらかに登場人物が多いせいだと思う。これは歴史ものの宿命とも言えるが、世間的に知名度が低めの時代であるうえ、上皇や法皇が何人いるんだよ! とか、名前に「盛」のついたやつ多すぎだろ!(いわゆる「盛盛」問題)といった要素も加味され、わかりにくさが倍増している。正直にいえば、わたしもいまだに苦労させられている。登場人物が多い・名前が似ている、という2要素に加え、さらにわたしの場合は、キャストを見分けにくいという三重苦であるから、自慢ではないが、並み以上の苦労を強いられていると思う。
 しかし、このうじゃうじゃ出てくる登場人物、「父・息子関係」という軸で見ただけで、かなり整理され、ドラマの見通しが良くなる。「父・息子関係」とひと口に言うが、似たような関係が繰り返されるのではなく、このドラマの中ではいくつかの音色に描き分けられているのだ。
 最初に奏でられるのは、父が冷酷無比なモンスターとして君臨し、無力な息子はその因縁からいかに逃走するか、はたまた絡めとられて自らもモンスターと化すかという、ホラー的な二者関係だ(白河法皇と平清盛、白河法皇と崇徳上皇、鳥羽上皇と崇徳上皇)。『平清盛』には内容面にも数々の斬新なポイントがあるが、理想化されがちな父・息子関係を、このような恐ろしい関係として描いてしまうところが、まず新しい。続いては、衝突を繰り返しつつも、最終的に父の志を息子が継承するという、エディプス的ロマンチシズムあふれる二者関係(平忠盛と平清盛、源為義と源義朝)。さらに、父がごく穏当に息子へと権力の継承を図るが、紆余曲折の末、息子が先に倒れるという、悲劇的な二者関係(藤原忠実と藤原頼長、崇徳上皇と重仁親王)。さながら「父・息子関係カタログ」とでも呼びたいような、いくつもの関係が丹念に描かれ、それぞれのクライマックスで、「我が子」(または「父上」)が飛び出す。その言葉が、相手に届く場合もあれば、届かない場合もあるというのが、また心憎い。

 そうなのだ。父・息子関係にまつわる「我が子」という言葉に着目していくと、このドラマでは、その言葉が相手に「届く」よりも「届かない」場面のほうが多いことに気づかされる。父と息子のあいだで、言葉など、届けようとすればいつでも届くものだという素朴な信頼関係が、ここでは断たれている。たとえば、藤原忠実と藤原頼長である。未見の方は絶対にオンデマンドなどで見てほしいのだが、第22話で、頼長の父への呼びかけが、直接は届かず、鸚鵡の口真似を介して伝えられる、というくだりは切なさ炸裂だ。また頼長の死後に発せられる、父の「我が子よー!」という絶叫も、息子にはもう届かない。
 『平清盛』の根っこにあるテーマは、主題歌にも見られるとおり、「人生は賽の目(博打)のようなものである」ということであろう。博打だから努力しても無駄だ、あるいは、博打だからこそ楽しく遊ぼう、どちらともとれる両義的なテーマだ。そして父・息子の関係性は、まさしく人生最大の博打のひとつであろう。第6話の、息子をめぐって博打が行われる場面もまさに象徴的だった。生まれるも博打、育てるも博打、相手に言葉が届くか届かないかも博打。ここで「我が子」(および「父上」)というキーワードが、もうひとつのキーワード「博打」とリンクする。「博打」はさらに、「面白う」というキーワードにつながっていく。受験書ならばこのあたりは赤マーカーで目立たせてほしいところだ。
 数々のキーワードの連関によって織りなされる、多様な人間関係。たびたび違和感があったり、断片的な描写に見えたりする場面も、こうして見てくると、実は筋が通っている。それがわかれば、「えっなにこれ」という当惑が、「そうきたか!」という快感の瞬間に変わるまで、あと一歩だ。

(「そうきたか!」の快感へのカギは、「清盛空間」の発生にある......らしいぞ! 疾風怒濤の後編へつづく!!)

金田淳子謹製!
紙芝居『平清盛』(第25話まで)※紙芝居の番号と放送回は一致していません

これで大学に受かった! 彼女ができた! という喜びの声もたくさん寄せられておりますので、最後までお楽しみください。
さて、ご存知、松山ケンイチさん演じる平清盛という人物は、武士として力をつけてきていた一門、平氏の子として生を受けました。ところが......


1.明かされた真実
じつは清盛は、ときの最高権力者・白河法皇の落とし胤であったのです。少年期にそれを知った清盛は、実の父・白河法皇、育ての父・平忠盛とのあいだで心が千々に乱れるのでした。


2.名状しがたき王家
清盛の実の父であり、ときの権力者でもある白河法皇とはどのような人物だったのでしょうか。白河法皇は、院政という新しい政治のしくみを開始して権力を掌握し、人びとから「もののけ」とおそれられる存在でした。あと、伊東家としてもおそれられておりました。白河法皇の孫にあたる鳥羽上皇には璋子(たまこ/檀れい)という女御がおり、ふたりのあいだに生まれたとされているのが崇徳上皇でございます。しかし、鳥羽上皇の子でなく白河法皇と檀れいとの間の子でありました。つまり世にいうNTRでございます。そう、奇しくも鳥羽、崇徳、清盛は白河法皇というひとりのおそろしき男の血を引いているというさだめを背負っていたのでございます。


3.強敵(とも)との出会い
複雑すぎる家庭環境に耐えかね、盗んだバイクで走り出さんとする清盛でしたが、そんな清盛を叱咤し励ましたのはこのイケメン、玉木宏さん。平氏とならぶ一門、源氏の若武者・源義朝でありました。義朝との勝負を経てふたりはたがいに「強敵」と書いて「とも」、ズッ強敵(ずっとも)として認めあうのでした。


4.そのころの親父ーズ
そのころ清盛の父・忠盛、義朝の父・為義、それぞれに平氏と源氏の棟梁であるこのふたりもまた、たがいによきライバルとして認めあっておりました。父親たちもズッ強敵(ずっとも)だったのでございます。


5.女の戦い(一方的)
さて宮中では、もののけこと白河法皇が亡くなり、鳥羽法皇の世となっておりました。ときに1129年、年号の覚え方は「いい肉三上鳥羽院政」でございます。鳥羽法皇は、金麦で待っている妖しき美女(待賢門院)璋子のことを、NTRと知り憎みつつも愛さずにはおられず、名目上の息子である崇徳上皇を疎み、おめーの席ねーから、と遠ざけておりました。そんな鳥羽法皇に入内した得子(なりこ)は、璋子に激しいライバル心を燃やし、鳥羽法皇の寝所を夜な夜な訪れ、交尾をせまるのでございました。


6.悪左府登場
さて宮中でうごめいていたのは王家だけではございません。貴族、とりわけ藤原氏の力は一時期ほどではないものの、まだまだ強大なものでした。トップ・オブ・貴族、藤原氏のさらにトップとして華麗に花ひらいたのが藤原頼長さまでございます。ときに、その厳格さでのちに「風紀委員キャラ」「悪左府」とも呼ばれ、おそれられる頼長さまは、さっそく清盛のフリーダムな生き様に目をつけ、追い落とそうと謀ります。しかしエスパータイプ貴族・信西によって阻まれるのでございました。


7.矢鳥羽事件
折から祇園闘乱事件にはじまる一連の騒乱、のちの世に矢鳥羽事件と呼ばれるスペクタクルが世を揺るがします。王家そのものの象徴ともいえる神輿(しんよ)に、清盛が矢を放ち、清盛はその罪により警察に拘留され、沙汰を待っておりました。頼長さまは厳しき処罰を求めましたが、ときの権力者・鳥羽法皇は、みずから清盛のもとを訪れ、清盛のエア弓矢をその身に受けることにより、白河法皇というもののけの血が洗い流されたと、その幻想がぶち殺された(そげぶ)と、激しく感じ入り、落涙するのでした。


8.平家BOY
無罪放免となった清盛に対し、わたしたちのアイドル藤原頼長さまは、はげしい敵意を抱くのでございました。折から清盛の弟・家盛は、母を想うあまり血のつながらぬ兄・清盛に反感を抱いておりました。その不満と、いい身体に目をつけた藤原頼長さまは、「こ↑こ↓」と屋敷に家盛を招き入れ、そなたもアイスティーを飲むがよい、まこと世にきらめくべきはそなたじゃ、そうおもいしらせてやろう、と口説き落としたのでした。


9.しんでしまうとはなさけない
家盛勃起、もとい、家盛決起により、平家一門は分裂の危機を迎えます。しかしながらなぜかここで藤原頼長さまは、おちゃめにも、思ってることを口に出してしまい、利用されただけだと知った家盛は病に倒れ、はかなくなったのでした。


10.雨降って地固まる
弟・家盛の病死、父・忠盛の死に揺れる清盛。さらに前の妻を愛するがあまり今の妻に心なき言葉を投げかけてしまった清。悩みぬいた清盛は、宮中の歌会にてお題を無視し、家族の大切さを堂々と歌いあげるのでした。


11.ローリング崇徳
清盛がスッキリしていたころ、影の薄い時の天皇・近衛帝が病に伏せ、次の天皇は決まっておりませんでした。いよいよ鳥羽法皇を押しのけ、崇徳上皇のターンがはじまるのではないかと大いに揺れる王家、世にいうローリング崇徳でございました。ここにいたり鳥羽法皇は、崇徳上皇へのこれまでの冷たき仕打ちを深く反省し、謝罪をいたしますが、つらいいじめを受けてきた崇徳上皇の心の氷は溶けることがなかったのでございます。そのころ、崇徳上皇の弟にあたる雅仁親王は俺関係ねーしとばかりに遊興に明け暮れ、人気アイドル歌手・松田聖子から今様を習っていたのでございました。


12.番狂わせ
仁平3年、帝位とは無縁と思われていた雅仁親王・29才無職が新天皇に即位いたしました。後白河天皇の誕生でございます。その裏には政界のフィクサー・信西のおそろしきたくらみがございました。俺のターンがまたしても飛ばされた崇徳上皇のお嘆きは尋常でなく、そのお姿には清盛も、テラカワイソスと大いに同情するのでございました。折からわたくしたちの頼長さまは実の兄によって謀りごとにかけられ、失脚の憂き目にありました。崇徳上皇と藤原頼長さま、美しすぎるふたりが手を結んだのはこのときでありました。


13.いい頃(1156)だから保元の乱
1156年、ここに内戦が勃発いたします。王家、源氏、平氏のそれぞれが真っ二つに別れて切り結んだのでございます。頼長さまは王家の戦いにふさわしくないと『孫子』を引用して夜討ち案を退けましたが、信西は『孫子』の同じ文章を引用し、夜討ちを進言するのでございました。こうして後白河方の夜討ちにはじまったこの戦は、なんか狭い路地で馬を降りての一騎討ちなど、謎の展開も見せつつ、後白河方の勝利に終わったのでした。


14.悲しいけど、これ・・・
戦に破れた崇徳上皇はついに出家を決意、なにひとつ思いどおりにならぬ人生を嘆くのでございました。わたしたちの頼長さまは首に矢を受けてしまい、父のもとを頼りますが、藤原一門を守ろうとする父はこれを拒絶。頼長さまは悲しみのあまり舌を噛んで亡くなられたのでございます。崇徳上皇方についていた平忠正・源為義は、それぞれ一族のためと、いい笑顔で「斬れ」と命じ、あっぱれな最期でございました。


15.クーデター前後←今ここ
保元の乱でひとたびはおさまったかに見えたこの国でございますが、源義朝は、昇進を重ねる平氏に対し、源氏は冷遇されているのではないかと不満を募らせるのでございました。折から後白河天皇から御あさましきほどのご寵愛を受ける藤原信頼は、政治を司る信西を疎ましく思い、信西の首を取れと義朝にせまるのでした。信西もまた「遣唐使を数年のうちに出せる」などという死亡フラグを立てていたのでございます。

ズッ強敵(ずっとも)であった源義朝と平清盛の戦いの行方は!?
後白河天皇はライアーゲームを勝ち残るのか!?
そして義朝の子・源頼朝は何を思うのか・・・
次回いよいよ平治の乱!
清盛の冒険、双六あそびはまだ始まったばかり!!

紙芝居の続きをアップしました!

The Flaming Lips - ele-king

 ドロップアウトの夢......水越真紀氏が書いているように、この国からもうそんなものは死滅しようとしているだろう。ドロップアウトは何かしらの美学やポリシーを伴った選択肢としてではなく、単に目の前にある危機としてそこにある問題になってしまったからだ。もしくはクラブが街から消されている事実からも、多様な生き方をしている人間たちが集まる場所が(とりわけ若い世代から)なるべく隠されようとしている力が働いていることが窺える......「生産的でない」生き方を。
 そこで自分がふと思い出しのは、アン・リーがエリオット・ダイバーの回顧録を映画化した『ウッドストックがやってくる!』のことだ。映画があっけらかんとした好作になっていたのは、あの時代の特別さを殊更強調することなく、ひとりのゲイ青年が多様な人びとに触れて自分を少し開放するという(だけの)個人的な成長譚として描いた監督の判断によるものだろうと思う。主人公のエリオット青年は取り立ててイデオロギーに入れ込んでいるようにも見えず、ドラッグ体験やセックスやヒッピーたちとのだらだらしたやり取りを経て素直に自分自身に好きに生きることを許している。

 映画のなかで前衛を気取る演劇集団が出てきて、その役者たちが突然全裸になって観客をぎょっとさせるという、まあちょっとした場面があるのだが、いまのザ・フレーミング・リップスがやろうとしているのはこのもっともフレンドリーなヴァージョンだろうと思われる。前作『エンブリオニック』の収録曲の公式ヴィデオで、ファンを募って森のなかで集団で全裸で騒いでいたのはまさにそれ。6時間で1曲の曲を出したのも、自分の血を使ってライヴのポスターを作ったのも、ハロウィンに集団で骸骨に扮して町を練り歩いたのも、ギネスに挑戦するため24時間で8本のライヴを行ったのも、それを言うなら毎回過剰にデコレートされるライヴも......ゼロ年代後半頃からの彼らは、かなり意識的にあらゆる活動を通して「クレイジーなこと」を思いつきで実行しているように見える。ポップの史学で言えばリップスの最重要作はいまも99年の『ザ・ソフト・ブレティン』だが、役割意識からかやや停滞していたゼロ年代前半を経て、現在の彼らの奔放な価値観はアメリカのインディ全土をアメーバ状にだらりと広がり、支持されているようだ。それを証明するのがこのコラボレーション・アルバムだ。
 今年のレコード・ストア・デイの目玉企画のひとつでもあったアルバムだが、コラボレイターたちの音楽の最良の部分が生かされているわけでない、ということこそが本作『ザ・フレーミング・リップスと愉快な仲間たち』の価値である。ここで重要であるのは、共演者の音楽ジャンルの幅が広いこと(インディ・フォークからチルウェイヴ、エレクトロニカからノイズ、ヒップホップまで)、そして参加した彼らが音楽的には雑多でも一様にサイケデリアにまどろんでいる、ということだ。
 ボン・イヴェールの切ないメロディと声がノイジーなシンセと例によってウェイン・コインのヘロヘロの声でわざわざ台無しにされる"浮遊する灰"はクセになる味わいで、マイ・モーニング・ジャケットのジム・ジェームスが参加した"僕のトリップじゃないよ"ではあまり頭の良くなさそうなハード・ロックが前に出る。酔っ払ったままクラウトロックをやっているような演奏の上でオノ・ヨーコが「やれ! やれ!」とひたすら扇情したかと思えば、"お前、人間か?"と題された曲でニック・ケイヴがバンドのドリーミーにイカれたディストーションとセクシーに絡まってみせる。プレフューズ73の"スーパームーンと尿意"は支離滅裂なボアダムスのようで、ライトニング・ボルトの"アシッドを食らったNASA局員"――これらのタイトルをもちろん僕はわざと邦題で引用している――はアシッド・フォークとハードコアのまとまらない衝突だ。
 敢えてベストを挙げるとするならば、リップスならではの甘いメロディがマッチしたネオン・インディアンとの"さらばデヴィッド・ボウイ"だろうか。だがそれも、このファンシーなトリップのコレクションのひとつにすぎず、ここではケシャもエリカ・バドゥもテイム・インパラも、フレーミング・リップスを軸足としながらフラフラと気持ち良さそうにしている。これは音楽作品でありながらも、バンドが言うところの「フリーク・アウト」を丸ごと一枚通して、多様なミュージシャンを巻き込んで実行したパフォーマンスのようなものだ。
 ザ・フレーミング・リップスは支持され人気を集めていく過程と矛盾させることなく、進んで逸脱者であることを選んできた。彼らが好んでサイケデリック・カルチャーを参照するとき、そこではもちろん奇を衒っているのだが、このバンドの場合そのことに対する戦略が前に出てくることはない。彼らはウィアードであることをきっと心から謳歌している。「わかるかい? きみの知っている人間はみんな死ぬんだ」と実存についての問いをしていたウェイン・コインはいまや、好きなように生きることを誰よりも体現しようとする。その姿は窮屈な島国に住む若者たちにも、勇気を与えることだろうと僕は思う。

 ちなみに、本作は超限定で「共演者の血液サンプルつき」のヴァイナルでも発売された。案の定僕は手に入れることはできなかったが......ジャスティン・ヴァーノンの血が欲しかったのだが......よくそんなこと思いつくな、と。アメリカン・モダン・サイケの人気者はCDが売れない時代も楽しんでいるようだ。

Gary War - ele-king

「セレブ」という言い回しは英語圏だと少しバカにしたニュアンスを含んでいるので、社会に影響力があると認められつつも、そこには様々な留保もつけられている。米フォーブス誌が今年のベスト・セレブに選んだのもジェニファー・ロペスだったし、アンジェリーナ・ジョリーやジョージ・クルーニーがそれほど高すぎない位置にいたのも、彼らの政治活動に対する評価があってのことだろう(3位にジャスティン・ビーバー、8位にケイティ・ペリーw)。そして、100位以内にけっこうな数を占めていたのが右派のディスク・ジョッキーで、なるほど、アメリカにはみのもんたがわんさかいるんだなーと(ボブキャット・ゴールドスウェイト監督『ゴッド・ブレス・アメリカ』に現代のボニー&クライドを気取るふたりがついでのように右派のTV司会者を撃ち殺すシーンがあった)。とはいえ、ラジオの強さは、欧米社会でははよく言われることで、クリア・チャンネル以後の音楽プログラムはともかく、ディスク・ジョッキーの地位が低下したという事実はないらしい。つまり、バグルスは間違っていた! 『ラジオ・スターの悲劇』でもなんでもなかった!(MTVが開局して最初に流した曲もこれでしたが)

 バグルスとしてのリリースが絶えてからも(解散はしていない)、アート・オブ・ノイズやイエスのメンバーになるなど、ミュージシャンとしての活動も諦めたわけではなかったトレヴァー・ホーンが31年ぶりに新たなポップ・グループを結成した。元デル・エイミトリのアシュリー・ソーンやロル・クリーム(元10cc)らと組んだプロデューサーズがそれで、それこそ非の打ち所のないポップスのオン・パレードである。どこかにまだ未来が残っているかのような屈託のなさと、それだけで前に進んでいたともいえる80年代を正確に再現した職人仕事。ポーズだけの苦悩や「感性」という言葉で人を差別できた過去があまりにも懐かしく蘇ってくる。50年代のアメリカ映画が極端に明暗を分けていたように、80年代のアンダーグラウンドにはそのすべてを疑う視点が広く偏在していた。しかし、メジャーはどこ吹く風で、ひたすら耳に優しいメロディを量産し、消費することが善だった。それに反発するのではなく、むしろ、アンダーグラウンドに引き入れたとき、レイヴ・カルチャーが急浮上したとも考えられる。だって、ここに再現されているような「屈託のなさ」を拒む理由はなかったから。1986年のクラブ・カルチャーを評して「それはマインドレスだった」という告発が僕の頭から離れたことがない。アンダーグラウンドがいつも正しいとは限らない。いまは......どうなんだろうか。

 現在進行形で同じように屈託のないポップ・アルバムをつくれるのは、おそらくエアリアル・ピンクしかいない。彼にはシッツ・アンド・ギグルズのような裏の顔があることも知っているだけに、なおさらその韜晦性と職人ぶりには驚かされる。『フェアウェル・アメリカン・プリミティヴ』改め『メイチュア・テーマ』(邦題表記は『マチュア・シームス』。エアリアルをアリエルと記すなら「メイチュア」を「マチュア」はわかるけど、「テーマ」だけはなぜ「シームス」と原音に忠実になるのか。教えてアエロスミス!)では「ピンク・スライム」のような社会問題も、それこそトレヴァー・ホーンを思わせる甘いメロディにのせて歌われていく(どんな神経なんだ......)。そして、エアリアル・ピンクのバックから独立したゲイリー・ウォーことグレッグ・ダルトンが(サンバーンド・ハンド・オブ・ザ・マンのテイラー・リチャードスンと結成したヒューマン・ティーネイジャーとしてのデビュー作に続いて)リリースしたソロ3作目もポップ・アルバムの歴史に名を連ねようとするスノッブなヴァリエイションである。

 前作『ホリブルズ・パレード』がエアリアル・ピンクをそのまま宇宙に連れ出したようなヴァージョンであったことを踏襲しつつ、かなり一本調子だったそれに強弱や変化をつけ、遊園地を駆け回っていくような音世界を構築していく。スピード感あふれるアレンジの連打はエアリアル・ピンクの磁場から飛び出そうともがいているかのようであり、エレクトロのリズムに新境地を見出している部分は〈ノット・ノット・ファン〉との共振も予感させる。ここでもいい意味で屈託のなさが功を奏している。リバーブではなく、単純なエコーが冴えているというか(底辺にはいささかクラウトロックが透けて見える)。ダルトンの屈託のなさは、アメリカにモーグ・シンセサイザーのブームが吹き荒れた60年代にも通じ、トム・ディッセルヴェルトブルース・ハークがこのところ活発に再発されていることとも符号は合っている。現実逃避するなら、これぐらい遠くまで行ってしまえよということなのだろうか。ズンズンタッタ、ズンズンタッタと機械的に刻まれるベースはとにかく先へ進むことしか考えていない。そう、アメリカのあさってに向かって......(いままでデタラメだったアートワークもようやく内容と一致してきた。クレジットを見てびっくりだったけど!)。

Fiona Apple - ele-king

 楽しみにはしていたけれど、そのわりに期待はしていなかったフィオナ・アップルの新作『アイドラー・ホイール』がすばらしくてびっくりしている。いまになってフィオナからこれだけの傑作が出てくるなんて、意外。
 フィオナがアメリカの新人シンガー・ソングライターとして18歳でデビューしたのが96年。その『タイダル』は、ファーストにして彼女のピークをとらえた傑作だった。当時は、まだ18歳の女の子なのに、こんなに老成したアルバムが作れるなんて! と騒がれていたようで、確かに、苦味走ったハスキー・ヴォイスと、キリキリした痛みに満ちた楽曲というフィオナの個性は、デビュー盤にしてすでに完成していた。ライナーでは「デビュー盤で輪廻の世界を歌ったローラ・ニーロ」に例えられていたのを覚えている。それも含めて、とにかく小娘の音楽とは思えない! というのがフィオナへのおもな賛辞だったはず。
 ただ、フィオナはローラのようにはなれなかった。セカンド『ホエン・ザ・ポーン...』での彼女は、歌もソングライティングも腕を上げているのにもかかわらず、アルバム自体はなぜか良質な女性シンガーの佳作といった印象で、『タイダル』の衝撃を超えられなかったし、それから7年後(!)に出た『エクストラオーディナリー・マシーン』にはもはやなんの輝きもなく、そこにあるのは出がらしの味わいだった。アルバムを出すごとにテンションが下がっていくフィオナに一発屋の評価を下すのは、結構的確なのかもしれない。

 たぶん、『タイダル』は、18歳という若いフィオナ「だから」作れたアルバムであって、18歳「なのに」作れたアルバムではなかったのではないかと思う。実際、あのアルバムを支配しているのは、いかにも内向的な若者だなあというナイーブな感受性であって、それはいま聴きかえすとヒステリックでさえある。若さゆえの過剰な自意識を歌に昇華するのがフィオナの魅力だったわけだから、その後、坂を転がるようにアルバムがつまらなくなっていったのは、当然と言えば当然だった。大抵の人は、大人になった後も子供の感性を持ち続けられないからだ。肉体や精神の成長が音楽的な面白さに直結しない例は珍しくないが、フィオナを見ているとその典型だと思えてしまって仕方がなかった。
 そんなわけで、ファーストに思い入れがあるので楽しみはしていたけれど、いまさらびっくりするような傑作をフィオナが出してくるはずがないという理由で、新作にも大した期待はしていなかった、という冒頭に戻る。しかし、この『アイドラー・ホイール』、なんと彼女の最高傑作に仕上がっていたからびっくり。これはもう、今年いちばんの衝撃的事件(いまのところ)。

 ピアノを軸にしたサウンドは従来の路線をひとまず踏襲しているが、とにかく、彼女の声の表現力がものすごいことになっている。ぶっきらぼうに吐き捨てたかと思えば、ひそやかに囁き、ときには切々と搾り出し、感情が高まれば絶叫をかます。その語り口は変幻自在と言ってもいい。それはもちろん彼女の激しいエモーションの表現に他ならないが、いままでのフィオナや他の女性シンガーと明らかに異なる点は、このアルバムでのフィオナは、楽曲やフレーズが求める声の表情を熟知しているところだろう。一部の白人女性シンガー・ソングライターたち、たとえばフィオナがデビューする土壌を作ったアラニス・モリセットなんかが、演奏上の効果など考えずに叫び散らしがちなのに対し、フィオナの感情表現には必然性がある。
 例えば、"リグレット"では壮絶なシャウトが響いているが、深々としたピアノ、もたったようなリズムのパーカッションをバックに、囁き、唸り、フレージングを操り、テンションを徐々にクレッシェンドさせながら、クライマックスの絶叫へと楽曲を持っていっている。そこにはクライマックスの絶叫に至るまでの必然性があって、やみくもに咆哮しているわけでは決してない。声にシンクロするかのように、和音を打ち鳴らすごとにニュアンスを変えるピアノもまた、ヴォーカルと一体になっている。"レフト・アローン"ではジャズっぽい演奏に乗って、フィオナはとびきりスウィンギーなパフォーマンスを繰り広げている。ドラムが激しく叩かれるにつれ、フィオナの声にもどんどん高揚感が増し、高音まで昇り詰めると、ほとんど歓喜の叫びのようになる。必死で声を搾り出す"エヴリィ・シングル・ナイト"など、3分33秒がひと筆書きのようで、フレーズに切れ目を感じさせない。その声が伝える感情の豊かさと伸縮自在のフレージングには、ただただ魅了されることしかできない。
 フィオナの歌とピアノを中心にして、パーカッションがグルーヴを産んでいるような演奏は、過去のアルバムとそんなに大きな変化はないものの、いままで以上にグッとシンプルにはなっている。そのたっぷりととられたスペースは、フィオナの声が大きく呼吸するために存在している。変幻自在なパーカッションのリズムやビートはめまいがするように多彩だが、それはフィオナの歌を刺激はしても、圧倒してしまうようなことはない。このアルバムは、あくまでフィオナの感情とそれを伝える声のために全てがある。

 喉のかすかな震えが彼女の内面を深く映し出し、ビートが躍動したかと思えばフィオナも敏感に反応する。彼女はすべての要素に意味を持たせながら歌う。そして、ひとつひとつのフレーズの動きを自らの心象と直結させることにより、フィオナ特有の心の痛みはますますくっきりと浮き上がるようになった。歌わなければ死んでしまうといわんばかりの切実さは、過去の3枚と比べても明らかに強くなっている。激しい感情表現とはすべての要素が有機的に結びつけられてはじめて可能になるのだということを、いまのフィオナは証明している。だから、このアルバムは、「魂の叫び」と称してのべつ幕なしに絶叫したり、あるいは気取った発声で音楽の輪郭をぼやかしてきた、いままでの多くの歌手へのアンチテーゼとしてさえ機能する。
 そしてそれは偉大なソウル・シンガーの数人に通じるところがあって、細かく震える喉は全盛期のニーナ・シモンのようだし、ブルー・アイドということでなら、ダスティ・スプリングフィールドの繊細な語り口を少し思わせるところがある。いまだったらアデルと比較できそうなフィオナではあるけれど、フィオナにはアデルにはなかった深いブルースの感情が滲んでいて、より味わいが濃密だ。この熟れた感覚をフィオナからもらえるとは思っていなかった。7年の間に何があったのかはちょっとわからないが、このアルバムで、彼女は大人のアーティストになったんじゃないか(本人は前作の時点でそう宣言していたが)。大人になるために、たとえ彼女が再び心の傷をグリグリと広げているとしても。
 この『アイドラー・ホイール』、いままでとはちがい、歌い手、作曲家としての成熟と、音楽の仕上がりが結びついた最初のアルバムだという意味で、新生フィオナのデビュー盤とも言える。昔のように自意識に埋没するわけではなく、大人の女性として自身の痛みや歓喜を思いきり歌いきったこの新作、個人的にはフィオナのベスト。すばらしい。

Chart JET SET - ele-king

Shop Chart


1

Lindstrom - De Javu / No Release (Smalltown Supersound) /
Lindstromが今年の頭にリリースしたフルアルバム『Six Cups Of Rebel』からのリミックス・カット第2弾作品!アルバム中で最も強烈な存在感を放っていた"Deja Vu"をRub-N-Tugが更なる高みを望むアシッド・ディスコ・ダンサーへと昇華させた卒倒覚悟の衝撃作品!

2

J Rocc - Minimal Wave Edits Vol.2 (Stones Throw) /
Nyブルックリンのカルト・エレクトロ発掘レーベルMinimal Waveの音源をP.B.W.が監修した、例のコンピ・シリーズから派生したリミックス・シングル第2弾。

3

Onra - Deep In The Night (Fool's Gold) /
デジタルでの先行配信で既に盛り上がりを見せていたブツが、UsのFool's Goldより待望の12"リリース! 誰もが待ち望んでいた路線だけにファンならずとも要チェック!

4

Trinity (Sadat X, Ag & Dj Jab) - Sunshine (Fat Beats) /
これまに数々のクラシックを残してきたレジェンド=SadatxとA.G.、プロデューサー/DjのDj Jabの三つ巴ユニットがこのTrinity Project! とりあえずタイトル曲がヤバすぎます!

5

Teengirl Fantasy - Tracer (R&S) /
脱臼ベース鬼才Actressリミックスを搭載した前12"『Motif』で好調のベルジャン老舗R&Sへと電撃を果たしたレフトフィールド・ポップ・デュオがヘッズも驚愕の強力アルバムを完成です!!

6

Funkineven & Fatima - Phoneline (Eglo) /
『Follow You』も当店メガヒットしたスウェーデン出身のソウルSsw、Fatimaと、漆黒のドファンキー鬼才Funkinevenがガッツリ手を組みました! 極上のエレクトロ・フューチャー・ソウル!

7

Chris Coco - Freedom Street (Melodica) /
ロンドンのチルアウト職人Chris Cocoによる超絶品アルバム!!ゆったり柔らかいオーガニック・ダブ・サウンドに多彩なヴォーカルをフィーチャー。何もかもトロける特大傑作です!!

8

Adrian Sherwood - Survival & Resistance (On-U Sound) /
ソロとしては6年ぶりとなる3作目。ダブ~レゲエを下敷きに、ジャズやブラジル音楽、エレクトロニカの要素も取り込んだ極上のチルアウト・ベース・ミュージックが完成です!

9

Mala - Cuba Electronic (Brownswood) /
ダブステップのパイオニアDigital MystikzのMalaが、Gilles Petersonと共にキューバで制作した話題の新作『Mala In Cuba』からの先行12インチ・カット!!

10

Roland Tings - Milky Way (100% Silk) /
既に大変な反響を呼んでいる新鋭Roland TingsのデビューEp。100% Silkど真ん中のアーリー~アシッド・ハウス通過ベッドルーム・フロア・サウンド!!

DJ KAZUSHI (DUB FRONTIER) - ele-king

1983年福島県浪江町生まれ。
2011年から拠点を仙台に移し、DJ YA△MA DJ MONGOOSE DJ CMTなど第一線で活躍するアーティストを招集し仙台CLUBシーンに一石を投じる。2012.8月に祈りを込めたMIX CD [living stone MIX]をTHE BRAVE NEW RECORDS.よりRelease!

DJ KAZUSHI Blog : https://djkazushi.blogspot.jp/

まだまだ現状は何も変わっていない。復興への祈りを込めた10選


1
Miles Davis - In A Silent Way - COLUMBIA

2
The orb - star 6 & 7 8 9 - BIG LIFE

3
kinetic - golden girls - R&S RECORDS

4
The irresistible Force - nepalese bliss(DJ Food remix) - Ninja tune

5
Global Communication - 9:25 - Dedicated records

6
Coco / Joe Thomas

7
From Silence fall into the silent mix / TYCOON TOSH

8
Orbital - BELFAST - FFRR Records

9
DR.BUZZARD'S ORIGINAL SAVANNAH BAND - Sunshower - RCA Records

10
KLF - DOWN TOWN - The Jams the sound of mu(sic)
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