「Nothing」と一致するもの

Godspeed You! Black Emperor - ele-king

それは、我々が生き、共有し、抵抗し、拒絶し、解体し、良い方向へ変えていこうとしていることばかりの、虚無的までに悲しい物語を証明し、伝え、変容させる音楽だ。
(レーベルのホームページ/日本盤の訳文より抜粋)

我々の町の美と苦痛、悪臭をふくむ風、警官の異常発生、我々の夢、偶然見つける港の不快な臭い、凝視する野次馬。
(アルバムのバック・カヴァーより)

 2003年、『Yanqui U.X.O.』を出した翌年、モントリオールのGY!BEは2010年の年末までのおよそ8年のあいだ活動を休止している。2010年、ATPのために再結成すると、2011年は東京でもライヴを披露した。GY!BEは思想を持ったバンドで、その行動は絶望に基づいている。世界を楽しく見せようと努めれば努めるほど、虚無はふくらむ。そういうシステムのなかに生きていることを暴こうとしたのがGY!BEの『F♯ A♯ ∞』(1997)だったが、楽しい世界はこの10年でより巧妙な姿へと再編されている。
 先日、快速東京のライヴに行ったとき、三田格から問題提起として観れば面白いからと激しく説明され、『バットマン ダークナイト ライジング』を観たが、たしかに、アイロニカルな意味で面白かった。
 (以下、ネタバレあり)格差社会の貧困と絶望を生きたある人物は、上流階級であり資産家であるバットマンの関わる企業が投資したクリーン・エネルギー原子炉を核爆弾とし、市民に呼びかけ、貧困層の反乱を試みるが、それをバットマンが阻止するといった、GY!BEが間違いなく憤慨する内容で、たしかに反面教師として世界の見方を考えさせられる話だった。裕福な人たちが裕福のままでいなければ秩序は保たれないという、今日の社会の特徴を捉えていて、それがNYをモデルにしたゴッサムシティ(しかもウォール街)を舞台にしているところにもリアリティがあるのだけれど、GY!BEは、バットマンと戦う側にいるバンドなのだ。『タイニー・ミックス・テープス』は、スラヴォイ・ジジェクの"pure negativity"というタームを使ってGY!BEの音楽を説明しているが、僕のような哲学の素人にも、アメリカの音楽ライターにそう書かせる力がGY!BEにあることはわかる。
 メンバーは初期からほとんど替わっていないそうだが、音楽的には、若干の変化がある。『アレルヤー! ドント・ベンド! アセンド!』の1曲目は、いままでないほどクラウトロックめいていて、ノイ!からラ・デュッセルドルフへと展開する頃をロング・セットで再現しているようだ。途中、変拍子が入ってくるところはプログレ風で、GY!BE特有のフォルティッシモがたたみかけられる。
 ハードコア・ノイズとヴァイオリンの音色が錯綜しながら、悲しみのどん底にいる人たちを鼓舞するようにシンフォニーが展開される。その重厚さは彼らのコミュニティ感覚を表しているようだ。いまの自分の好みの音というわけではないのだけれど、執拗なクレッシェンドの果てに立ち現れる崇高さに気持ちの震えを覚える。
 「怯えながら興奮して、悦びのノイズを演奏しているんだ」と、GY!BEは昨年『ガーディアン』の取材に答えている。彼らはこの世界を「数百万人が飢えているあいだ、果物が(分け与えられることなく)腐っていく」という言葉に喩えている。「そのミルクが毒だとわかっていながら飲み続ける。(略)政治は政治家のためにある。彼らは自分の死臭を隠すために、香水とコロンをつけて、カラフルなネクタイを着用する。私たちはその悪臭からできる限り離れて生きていたいと思っている」
 計4曲収録されているうちの、3曲目の"ウィ・ドリフト・ライク・ウォリード・ファイヤー(我々は、悩める烈火のごとく漂流する)"も、GY!BEらしく、「悦びのノイズ」がゆっくりと時間をかけて、そして上昇していく曲だ。彼らは、いたずらに高揚しているわけではない。注意深く世界を見渡している。見開きジャケットを開くと、車に轢かれた鳥の無残な死骸の写真がある。この10年、町はすっかり姿を変え、小綺麗になった。おそらく元には戻れないだろう。僕もいまはこんな風にぬけぬけとオンライン・マガジンで原稿を書いているけれど、デジタル空間に邪悪な力が流れ込み、橋元優歩の履歴から何までもが筒抜けになってしまう世界が来ないとは限らない。デリック・メイが予言するように、我々の子供の世代が机の上のPCを粉々に踏みつぶすようなときが......。
 こんな世界のなかで、GY!BEはどんなつもりでいるのだろう。彼らは自分たちが何をやるべきかよくわかっている。

 そういったシンプルな信条と目標を提唱することは、控えめに言っても、10年を経たいま、よりいっそう維持し、成立することが難しくなっている。あらゆるコンテンツと非コンテンツ──あらゆる"満足"──で溢れかえる現代の文化的な時間において、あからさまな露出を回避するという考えや、メディアの力を緩めようとしたり、アイデンティティ・マネジメントをすること自体が奇妙で、陳腐なのかもしれない。(中略)
 反戦略が戦略としてタグ付けされるリスクを伴うこと、ノン・マーケティングがその反対に枠組みされる昨今だとよくわかっていながら、彼らが健全であるために根底をなすものと考えている理念を、単なる別の形の戦略と捉えかねないが、深く維持していたいのだ。
(レーベルのホームページ/日本盤の訳文より抜粋)

Fidlar - ele-king

 去年、アメリカのサンタナにあるライヴハウスの、〈バーガー・レコーズ〉主催のイヴェント、「バーガーアマ」に行った僕は、オープニング・アクトを飾ったひとつのバンドにぶっ飛ばされた。
  小柄なメキシコ系のヴォーカルは、へったくそなギターをひたすらかき鳴らし、「起きたら! キメて! スケート!」なんて絶叫してる。他のメンバーもバカみたいなテンションでステージ上をのけぞり回り、シャウト! 曲が終わるとヴォーカルは中指を立てながら「お前ら全員ファックだ!」と言って、小さな笑みをこぼした。「さ、最高だ......!!!」   
 僕はやりきれない思いに塗れたアメリカの典型的なキッズたちが鳴らす、フラストレーションをヤケクソな勢いで爆発させたような、ジャンク・ガレージ・パンク・ポップにただただ興奮していた。当日のお目当てはトリを務めるウェイヴスだってのに(他にもタイ・セガール、キング・タフ、オフ!なども出演)、最初のバンドでピークを迎えてしまいそうな僕は、飲めないビールをすかさず一気飲みし、地元のやんちゃそうな連中に混じってひたすらモッシュ! 会場のキッズたちは120%のテンションでダイヴを繰り返し、こう叫び続けていた。「フィドラー(くそったれ! 人生は賭けだ)!!!!!!!!!!!!!!!」 

 どうしようもない4人の負け犬で結成された、LA出身のフィドラーは、ギター・ヴォーカルのザック、リード・ギターのエルヴィス、ベースのブランドン、ドラムのマックスの4ピース・バンド。ファースト・アルバム『フィドラー』では、ニルヴァーナとピクシーズ、そしてブラック・リップスに大きな影響を受けたという、キャッチーで弾みの良いガレージ・サウンドが、ウェイヴスやベスト・コーストにも通じるごきげんな西海岸特有のテンションで、最後の曲"コカイン"までひたすら鳴り響いている。
 ほとんどの歌詞の内容は"ドラッグ、スケート、アルコール"。マジでバカ全快で、アホ丸出しだが、そこが良い。

 彼らは現地のキッズにもに人気だった。演奏が終わると、キッズたちはぞろぞろと物販に移動し、Tシャツやレコードを夢中になって買っていた。そんな光景を見ていた僕は、自分が中学生の頃、ザ・ヴァインズのアルバムをスキップしながらCDショップに買いに行った時代を思い出し、胸が熱くなっていたが、そんな僕の横ではウェイヴスのネイサン・ウィリアムスがひたすらハッパを(合法的に)吸っていた。
 イヴェントが終わり、僕はフィドラーのヴォーカルのザックに恐る恐る先ほど買ったレコードにサインを求めると、彼は気さくにそれに応じてくれた。「俺、じつは昔、静岡にちょっと滞在してたんだ。コンニチハ! だろ? へへ。日本には本当に行きたいんだ。いまそんな話もしてるんだぜ? だからちょっと待っててよ」
 この言葉の通り、2月、ホステス・クラブ・ウィークエンダーでフィドラーは来日する。

Holly Herndon - ele-king

 ジュアナ・バーウィックとフェネスあたりとの溝を埋めるのが、ブルックリンの〈リヴェンジ〉レーベルから昨年末にデビュー・アルバム『ムーヴメント』を発表した、女性プロデューサー、ホリー・ハードンだ。彼女の「声」ネタのアルバムは、いろいろな意味で、──サイバー・フェミニズムの点からも「声」ネタの点からもアンビエント/ドローンの点かも──面白い。グルーパーとローレル・ヘイローとメデリン・マーキーの3人が好きな人にはぜひ聴いてもらいたいアルバムだ。
 さて、ホリー・ハードンの『ムーヴメント』からこの度シングルが切られることになったのだが、そのリミキサーがNHK'Koyxenときた。ふたりはロンドンで知り合ったそうだが、NHKは最近の彼の作風のように、ダンス・ミュージックへと再構築している。ゆがんだルーピングと不規則な反復を活かした展開に惹かれる。
 〈リヴェンジ〉も不思議なレーベルで、昨年のサン・アロウとコンゴスの共作が記憶に新しいが、最近はマルコム・ムーニー(CANのオリジナル・ヴォーカリスト)のソロを出したかと思えば、もうすぐリリースされるであろうマックスミリオン・ダンバー(Maxmillion Dunbar)は、初期のデリック・メイよろしく透き通ったデトロイティッシュ・サウンドだったりする。
 このレーベルの独創性というか、ジュリア・ホルターやジュリアナ・バーウィックを出したかと思えば、ホアン・アトキンスをリミキサーに起用してみたり、ジェフ・ミルズやアンソニー・ムーア(スラップ・ハッピー)なんかまで出したりとか、そのリリースのセンスには非凡さを感じる。

Scott Walker - ele-king

 スコット・ウォーカーは、コード(和音)とディスコード(不協和音)の間にあるサウンドにオブセストしている人だという。
 刃物を研ぐ音だの、食肉をパンチしている音だのを音源としながら、和音と不協和音の間のもやもやとしたところを彷徨っているというのだから、それはある種の覚悟がなければ聴ける音楽ではない。和音=安心。不協和音=恐怖。と定義すれば、その間にあるものは、不安。だろう。フィジカルに言えば、痛いのはわりと耐えられるが、痒いのは耐え難いというのと同じで、精神的には不安が一番やばい。これに比べれば、恐怖はポップである。メンタルヘルス上でも、一番良くないのは「unstable」な状態らしい。
 音楽を生業とする人ならいいだろうが、地べたで労働している人間は、そんなところに連れて行かれる音楽はあまり聴きたくない。だから、スコット・ウォーカーは「過去の人」と呼ばれるようになった。が、リスナーをそんなところまで連れて行ける音楽家は稀有なため、彼はその道のプロたちのアイコンになる。錚々たる顔ぶれのUKアーティストが彼を絶賛するドキュメンタリーは『Scott Walker: 30 Century Man』というタイトルだが、彼は時間軸的な先をおこなっているわけではないと思う。
 別の次元に進んでいるのだ。

 当該ドキュメンタリーの製作総指揮はデヴィッド・ボウイだ。そのわりには、映像中で彼の曲を聴きながら、くくっと笑ってみたり、「彼が何を歌ってるかなんて興味ない」と言ってみたり、現代の日本語で言うならツンデレとでもいうような性格が見えて微笑ましいが、低音の魅力で歌い上げる痩身の美男。という点では、彼らは似ていた。いっぽうはロック歌手として、いっぽうはポップ歌手として一世を風靡し、ロック歌手は自らというスターをリプロデュースし続けて伝説となり、ポップ歌手は音楽を創造することに拘泥して隠匿した。ふたりは同じコインの裏と表のようだ。少なくとも、ボウイの方にはその認識はあるように思われる。

 そのボウイが「再び彼を意識したのは、このアルバム」と言うウォーカー・ブラザーズの最終アルバム『Nite Flights』は、ブライアン・イーノが「屈辱を感じる」と評するような名盤だが、〈4AD〉のサイトによれば、『Bish Bosch』は「1978年の『Nite Flights』から彼がはじめた探求の線上にある最新作」だそうだ。
 個人的に一番気に入ったのは"Epizootics!"と"Phrasing"だ。躍動する不安。とでもいうような、ねじ曲がった高揚感がある。前述の映像で最も印象的だったのは、このような音楽を作りながらも、スタジオの様子は妙に活気に溢れていたということだったが、これらの曲はその現場の風景を思い出させる。
 さらに、これを書いている時点での英国は雪に覆われているのだが、"The Day the "Conductor" Died(An Xmas Song)"があまりにも窓の外の光景にフィットして困っている。これにしろ、独裁者の処刑と臨終がテーマの一筋縄ではいかないクリスマス・ソングだが、この美しさは危ない。嵌っていると戻って来れなくなりそうなので、ぶつっと音を止めて立ち上がりたくなるほど、この世のものではない。
 思えば、スコット・ウォーカーの場合、歌になっているからやばいのだ。アンビエントでもインダストリアルでもノイズでも何でもいいが、こういうのをやろうとする人たちは、今どきの世界にはけっこういる。しかし、彼の場合は本質的に歌だというのが変なのだ。まるで異次元界のひずんだ(しかし、あちらの世界ではしごくまっとうな)流行歌みたいで、オペラみたいで、聖歌みたいで、それが人間の肉声だから、人間の肉体の一部である脳がずるっと持っていかれてしまう。

 もっと先へ。行けるところまで先へ。を志向する高齢アーティストを敬愛する。と以前書いたことがあるが、スコット・ウォーカーは、いったいどこまで行ってしまうんだろう。この人もまた、アラウンド・セヴンティの爺さんのひとりなんだが。
 (ボウイも新譜を出すようなので、コインの裏から先に聴いたようなもんだが、こうなってくると表も楽しみだ)

田中 THE RECORD - ele-king

1/26(土) mayim mayim @MORE(下北沢)
2/1  (金) リラ部 @relove
隔週金曜(奇数週)@mescalito

https://www.mixcloud.com/yoshiakitanaka585/night-after-ascension/

12年の私的ベスト10


1
Osunlade - Envision - Defected

2
Andrés - New For U - La Vida

3
Onur Engin - Expansions - OE Edits

4
Dump - NYC Tonight - Presspop Music

5
Free Magic & JKriv - Chant & Sing EP - Discovery Recordings

6
Andrew Emil - Caught The Feeling (Remixes) - Four Play Music

7
Boris - Looprider Remix - Catune

8
DJ Nature - Return Of The Savage - Golf Channel Recordings

9
Maxmillion Dunbar - Polo (Versions) - Live At Robert Johnson

10
Kim Brown - Volume Six - Spring Theory EP - Just Another Beat

Yo La Tengo - ele-king

 私が高校時代のUSインディのイメージってのはもう本当にダサいもんでして。土臭くて、眼鏡かけちゃって、天然パーマで、帰宅一直線で、ネルシャツとジーパンでしょ、パンパンすると埃出ちゃうような。......にくらべて、キュアとかスミスとかスタイル・カウンシルとかジーザス&メリー・チェインとかアズテック・カメラとか、まあ! 輝いてましたわ! これぞスター! 最先端! ビバ英国! だったわけです。
 結局その頃はアメリカのインディ・シーンの情報がまったく日本に入って来てなかっただけの話でして、実際にはソニック・ユースもスワンズもダイナソーJRも、さらにはバッド・ブレインズ、ブラック・フラッグ、マイナー・スレット、ミニットメンなどのハードコア勢も、その後訪れるオルタネイティヴ・ムーヴメントの源として地下でモシャモシャと動きはじめていたのですが、なのに地方のレコード屋で手に入る物と言ったらR,E.M.やらキャンパー・ヴァン・ベートーベンやらドリーム・シンジケートやらスミザリーンズやらレッツ・アクティヴや......って、もう! 全然前向きになんかなれない! 女の子にダビングするなんてこともちろん皆無だったわけです。そんなダメダメ・チームの若頭がヨ・ラ・テンゴでした。
 名前も損してましたねぇ。英語じゃないし、テンゴって何だよ......って感じで。もちろん完全無視だったわけですが、のちのオルタナ爆発によってUSインディの歴史とか奥深さを知っていくうちにとんでもないことが起こっていたんだと。地下でがっちり育って繋がっていたんだと。本当にヤバかったのは帰宅部チーム。「普通の顔、普通の格好した人がいちばん怖い」......誰だったかの名言ですが、まさに等身大の音で、そのまんまの格好で、リスクなんて考えずに己の素を全部さらけ出す。やりたいことをやる。裸になる。その潔さ、馬鹿正直さ、そして確実に勘違いからも生まれた奇跡のセンスに溢れまくったアメリカ人に完全にノックアウトされちゃったんですね。だから成人式にも出なかったッスよ。プロム・パーティに出なかったであろうパイセンたちに習って......。

 なーんてことを思い出しました。テンゴの新作を聴いてたら。あの頃のまんまー。全裸ですよ。4年ぶり14枚目の作品はジョン・マッケンタイア・プロデュースのソーマ・スタジオ録音。ロブ・マズレク、ジェフ・パーカーといったお馴染みのシカゴ勢も参加しており、ホーンとかストリングスが彩りを添えております。もちノイズ・ギターもガン! とかね。たしかにジョンマケっぽいなぁ〜と。質感はシー&ケイクとかアルミナム・グループとか、あとティーンエイジ・ファンクラブの『マン-メイド』とかね。透明感溢れながらタイト&クール。蒼い夜空から星屑がカリコリとぶつかりながら舞い降りては、優しく柔らかく足下に積もっていって。3人のハーモニーによるオープニング曲「ohm」だけでもうニンマリ。
 また、前作では15分を越えるナンバーも収められていましたが、今作は全体的にコンパクトな内容で(10曲45分!)、雰囲気は大好きな『アンド・ゼン・ナッシング・ターンド・イットセルフ・インサイド-アウト』に近いでしょうか。だからどっちかというと地味なサイドになるのかな。でももちろん彼らはそれらを意図的にやっているのでなくて、そのとき、その場の彼らにとっていちばんナチュラルな音、演りたい音、そして聴きたい音を作っているだけ。それが毎度のことなんだけれど、私たちはいつも新しい彼らの音楽、つまりは彼らがいま考えていること、楽しんでいること、感じていることを一緒に味わいたいと思っていると。テンゴは安定じゃなくて安心です。いまを一緒に呼吸しているだけでこんな素敵な気持ちになれちゃう。裸をさらけ出した続けた結果、なんとも奇妙でおかしなアーティストとリスナーの関係が生まれちゃったなァ〜とつくづく思って、嬉しくって、ねぇ。

 もう15年も前にインタヴューさせてもらったんですが、ジョージアはニヤニヤと赤ら顔でずっと缶ビールを手放さなくて、ありゃ、完全に帰ってくれない親戚のババアだな......とチョッと怖かったんですが、2年ほど前に会ったときもまったく同じでした。ちょっとシワは増えてたけど、それはこっちもおんなじ。これからもどうぞよろしくお願いします。私もフルチンでずっと御一緒します。

interview with Siamese Cats - ele-king

バンドは効率悪いなーとは思いますけどね。ぜんぜん、自分たちのお金になんないし。機材だって、ライヴハウスでやるんならいいけど基本的にはすごくかさばる。制作費もかさむ。でも、入ってくるお金は4等分。(夏目)


シャムキャッツ - たからじま
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 とにかくスカッとしないことだらけだ。現在、2013年日本における、もっともまっとうな気分があるとしたら、多分、こんな具合じゃないのかな。「いやー、どうしたもんかなー、正直わかんねーなー、いや、まいったなー」。正直な話。だが、そんな状態が長く続きすぎたりすると、「これこそが解答だ!」と思わず胸を高まらせてくれるような絶対的な表現が欲しくなってしまうもの。そんなもの、ありゃしないのにね。いや、わかってるんですよ。でもね。

 この『たからじま』という作品は、ダーティ・プロジェクターズに対する日本からの解答であり、ある意味、本家を凌駕してしまってると言っていい。と同時に、シャムキャッツというバンドが喜ばしき発展途上の過程にあることを示したアルバムだ。いたるところ、きらめく可能性の宝庫であり、「決定的な一言」はない――勿論、いい意味で。なぜなら、ここにあるのは、90年代ペイヴメントに端を発する、「自分自身が一瞬でも感じたことのある確信をエモーショナルに断言することは出来ない」という、ポストモダンな感性だからだ。勿論、こいつは危険といえば危険。そいつをこじらせてしまった場合、何も出来なくなってしまうからね。バートルビーよろしく一言も発することが出来なくなってしまう場合だってある。俺みたいに。

 だが、シャムキャッツの『たからじま』は、そうした下らない現代的な病いに対するリアクションとしては最良のひとつだ。間違いなく。何よりもグルーヴと呼んでいいものかどうか躊躇せずにはいられない、ぐらぐらと揺れまくるバンド・アンサンブルが素晴らしい。絶対的な「たったひとつの正解」を必死に模索しながら、躊躇に躊躇を重ねて、だが、ようやく辿り着いた「いま」に着地している。これでもない、あれでもない、そうか、これか、取りあえずこれか。それゆえ、時には歯切れが良くない場合だってある。だって、確信なんてないんだもん。だが、だからこそリアルだ、とさえ思う。

 一聴する限りでは、この42分51秒の時間軸には穏やかな空気が流れてはいるが、その底流にはどうにも隠しきれない苛立ちがある。思わず過剰にシリアスになったり、過剰にエモーショナルになってしまいそうな自身に対する照れやはぐらかしがあり、思わず取りあえずの正しさを主張してしまいそうな自分自身に対する戒めがある。だが、と同時にここには、そんな所在なさげな時代の感性を笑い飛ばせるだけの知性とユーモアがあって、そんな風に時代に足をからめとられずにはいられない不甲斐なさをそのままサウンドに全力で叩きつけるだけの無鉄砲さがある。そして、何よりも、時代とじっくりとのんびりと対峙していこうという、肝が据わったところがある。あまりに見事だと、溜飲を下げずにはいられない。

 なので、迷わず彼らに一票を投じたい。去年は生まれて初めて選挙に行くなんて、それほど本意ではないこともあったことだし。そして、「あんたもこいつらに賭けてみろよ」と無責任に言い放ちたい。本当の本当のことを言えば、そうは言えないのだけども、そう言いたくて言いたくてたまらない――こんな風に、どうにも面倒臭い気分にさせてしまう何かが、この『たからじま』にはある。それはきっと、とても素晴らしいことだ。

 ポップとは、何かしらのアイデアの提示であって、問いかけであって、正解ではない。焦んなよ。気楽に行こうぜ。なんだかやれそう、な気がしないでもない。

いま、これだけ音楽産業が変化しているなかで、いわゆるヒッツヴィル的な音楽ーーソングライターがいて、プロデューサーがいて、シンガーがいて、ミュージシャンがいて、っていうかたちで戦略的なポップ・マテリアルを作り出していくっていうスタイルは、産業的なモチヴェーションとしてすごく理解できる。だけど、そうじゃなくて、わざわざバンドを結成して、自らの表現というものをやる――ただ人に聴かせたいってだけじゃなくて、お金にもしなきゃならない――モチヴェーションって、あんまり想像つかないんだよね。いきなり失礼な話なんだけど(笑)。

(一同笑)

夏目:バンドは効率悪いなーとは思いますけどね。ぜんぜん、自分たちのお金になんないし。機材だって、ライヴハウスでやるんならいいけど基本的にはすごくかさばる。制作費もかさむ。でも、入ってくるお金は4等分。ロスがでかいですよね。食えないすよね、全然(笑)。

しかも、ヒッツヴィル音楽に比べて、作れるものも限られてくるでしょ。いい意味でも悪い意味でも、音楽的にやれることも限られてる。

菅原:あんま思わないかな......はじまりが4人だったから、それがあたりまえというか。逆にひとりになったら、ちょっとさびしくなっちゃうかな。

藤村:おもしろくないでしょ。

大塚:むしろ4人の方が広がるし、おもしろくなるってみんな思ってるんじゃないかな。

それは音楽的にということ? 音楽以外のおもしろさもある?

夏目:あると思います。でも、そのへんは重なる部分もあって、コミュニケーションとしてのおもしろさと、音楽的なおもしろさとはほとんど同じかな。曲作りでも、スタジオで誰かがなんか変なことをやりだしたりすると、「あ、ちょっとそれ続けてやってみてよ」、「いや、やっぱりボツ」とかってやりとりが生まれていくんですけど、そういうことの積み重ねがおもしろいですね。曲作りをひとりでコンプリートすることはできると思うんですけど、それだとおもしろくないんですよね。面倒くさいし。

菅原:見通しがついちゃうし。

夏目:みんなに(曲作りを)放り投げていったほうがいいかなって。

実際にはシャムキャッツのアンサンブルって、時おり、「これ、アンサンブルとして成り立ってるのかな?」っていうムチャなところもがあるじゃない。テンプレートになってるようなスタイル化されたアンサンブルじゃなくて、「いや、それ、ちょっと無理があるんじゃないかな?」みたいなさ(笑)。

(一同笑)

いちばん楽しいものを選び取ってるんだよな? たぶん。(夏目)
うん。それをやめないわけだからね。(菅原)

でも、それは、一般的なバンド・アンサンブルというのを理解していないとか、演奏力が追いついていってないとかってことではなくて、「あえて選び取っている」んだよね?

夏目:そうですね(笑)。いちばん楽しいものを選び取ってるんだよな? たぶん。

菅原:うん。それをやめないわけだからね。

大塚:夏目はわからないけど、他の3人は「自分たちの望むテイスト」みたいなものをそんなには持ってなくて、「何か望まないことが起きたらいいな」って思ってるかな。「自分たちの想像よりちょっと上のものができたら楽しいな」って。それが「アンサンブルじゃないアンサンブル」ってやつになってるのかもしれない。

菅原:「これは普通だからやめとこう」ってふうに避けてる作業っていうのはあるかもしれないよね、4人で合わせるなかで。まあ、でも基本的にできないんで。俺ら。ちゃんとできないっていう、単純に技術の問題なんですけど(笑)。

夏目:俺ら、最初から目標にしてるようなものってないんですよ。こうしたいって目指してるものの像がないから、軌道からズレてるって感覚もないですね。

ただ大方の場合、人って何かをはじめるときに、ロールモデルとするものがあったりするじゃないですか。でも、シャムキャッツの場合、バンドとして、アンサンブルとして、あるいは、楽曲の仕上がりとしてのロールモデルーーそういうものは持たないようにしてるの?

藤村:そういうのは複合的なものだよね。

夏目:うん。ひとつの曲に対して、自分たちの知ってる3~4バンドをミックスしたモンスターみたいなものを仮定して、それを目指していくって感じかな。

藤村:うん、そう。そういうモンスターみたいなものを作りたい。

菅原:でも、こういう意見の共有だって、大して機能してなかったりするんですよ。ふたりがこうして話している反対側で、「俺ら、わかんないねー」って言ってたりすることもあるし、そういうところがおもしろさかな。完全に4人の意見が一致して「これだ!」って言いながら作った曲はないね。

夏目:ないね。

藤村:真似るのがうまいミュージシャンは多いなって思います。ロールモデルがあって、それにかなり近い音を出すことができる。でも僕らはそういうことができない。

夏目:ああ、真似るのがうまくないね。真似られない。どう考えても、ストロークスみたいなのができないんですよ!

えっ、そんなの難しくないじゃん! ストロークスとかって、それぞれの楽器の役割がすごくはっきりしてるバンドじゃない。

夏目:うん、難しくないはずなんですけど......いや、どうやったらいいかっていうのはもう、わかってるんですよ。でもバンドとしてやったときに、たぶんできないですね。ロック・バンドをやりたいけど、やるならば何かに似たくないっていう思いが、バンドをはじめた当初はすごく強くて。だから、当時はほんとにわけのわからない曲ばっかりで、最近やっと「らしく」なってきたって感じですよ。ずっと「すべての音楽に対してカウンターたり得る音楽って何だろう?」って思ってたけど、それだと音楽にならない。でも音楽が好きなわけだからそれっぽいものができてくる。それで、「ああ、“ぽい”ものが......バンドっぽいものができてしまったなあ」とかって悩みながら進んできたバンドなんですよね。でも、やっと踏ん切りがついて、「こういう感じでいいかな」っていうのが最近はある。

というのが、まさにこのアルバム、ってことかな?

夏目:そうですね。

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ずっと「すべての音楽に対してカウンターたり得る音楽って何だろう?」って思ってたけど、それだと音楽にならない。でも音楽が好きなわけだからそれっぽいものができてくる。それで、「ああ、“ぽい”ものが......バンドっぽいものができてしまったなあ」とかって悩みながら進んできたバンドなんですよね。(夏目)


シャムキャッツ - たからじま
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それはわかりやすいね(笑)。じゃあ、教えて下さい。そもそもいちばん最初にあったっていう、「何ものにもなりたくない」「いまあるすべてのもののカウンターでいたい」っていうアティテュードはどこから出てきたの? そう思う人ももちろんいるけど、そう思わない人のほうが多いし、そう思う人にはそれなりの理由があると思う。それは何?

夏目:何なんだろうな......。

藤村:それは幼少時代からじゃないかな。

菅原:うん。幼少時代からそうでしたよ。なんだっけ、「君臨すれども統治せず」って夏目はよく言われてたじゃん(笑)。何かしらコミュニティがあれば必ずそこの長(おさ)になっちゃうんですよ。生徒会長とか、バレー部の部長とか。でもなんか、統治しない。なんなんだろうね? とりあえず一番になりたい、とか、モテたいとか?

夏目:「モテたい」はあんまりないかなー。うーん、どうだろう、そうじゃないとおもしろくないというか。いまだにすごく覚えてるのが、小学生のときにビートルズを聴いて、「すごいヘンテコだな」って思ったことですね。小学4~5年で、自分もまわりも、ミスチルとかスピッツとか奥田民生とか聴いてた頃ですけど、家にあったビートルズの編集盤を聴いて、「こんなにヘンテコなものが世界でいちばん有名なのか!」って思いました。絵がもともと好きで、よく見たりしてたんですが、絵の世界だとピカソとか、ゴッホとかもっとも不思議なものがいちばん有名だったりはするじゃないですか。けど、日本の音楽ってそういうことじゃない。「おもしろくないなー」って感じてました。だから、「何か突出した、曲がった部分や変な部分がないとオリジナルとは言えない」という、強迫観念のようなものが強いんですよね。

じゃあ、ビートルズに関しては、サウンドうんぬんではなくて、アティテュードとして、ポジショニングとして、スタンスとして、最初のロールモデルではあったわけだ。

藤村:かなりあったでしょ。

ただビートルズはとても幸福なバンドでもあって、活動が61~62年から69年まででしょ? 社会的な発展や変化もここ100年ではもっとも劇的だった時代。なおかつ、音楽においてもサウンドの進化、録音技術の進化、メディアの変化と、いろんな変化の渦中にあった時代なわけで、「変わること」にいちばん価値があったんだよね。ただ、2012年のいまは、もう出揃ってしまってるでしょ? 「新しい」という言葉はあまりいい意味では使われなかったりもするよね。そんな時代に新しさを標榜するのはどうなんだと思います?

夏目:「まだあるんじゃないかな」って気持ちがちょっとあるんですよね。「まだ出揃ってないぞ」っていう気がしてる。それを探してる途中ですかね。あと7枚くらいアルバム出さなきゃだめかもしれないけど(笑)。

じゃあ、その目的地というのは? こうしたら到達できたっていうような進化のベクトルはどういうものなの? 完成度ではないわけだよね?

夏目:どうなんだろうねえ。

藤村:考えたことがないね。

夏目:これまであまりストーリー性とか、脈絡を気にせずにアルバムを作ってきたんですけど、ちょっとそのあたりを整頓したアルバムを作りたいなという気にはなってきました。そうすれば到達点がどこかということは見えてくるかなと思いますね。こういうアンサンブル、こういうバンド感、こういう歌詞の世界が作れましたという結果を見えるかたちにできたらいいなという気持ちがあります。

では、そういうものの考え方、ものの見方、ものの進め方を、同じようにしているだろうアーティストやバンドは誰かいます? いま現在で。

夏目:古いものを崩して新しくしてるってことでは、ダーティ・プロジェクターズの3枚前くらいからのアルバムは、「あー、俺もこういうことやりたかったなー」とは思いました。「でも頭良さそうだし、無理かなー」とか(笑)。もうちょっと売れる感じの方がいいんだよ、俺ら、きっと(笑)。だから、「もっとブラーな感じのダーティ・プロジェクターズ」とか。あ、それやっちゃおうか。

(笑)いま話してくれたみたいなバンド組織論にしてもそうだけど、どんなものを作るのかってことに対して、すごく相対的な視線があるってことだよね。絶対的なイメージがあるわけじゃなくて、そのときどきの判断がある。「世の中が真っ黒になったから赤く染まってみる」とかさ。そういうジャッジの積み重ねってこと?

夏目:そうかもしれないですね。確かなのはこの4人でやるってことだけかもしんない。4人の判断だけですべてを決めるっていうルールだけははっきりあるかもしれないです。

菅原:4人そろって音出すと全然違うよね。

小学4~5年で、自分もまわりも、ミスチルとかスピッツとか奥田民生とか聴いてた頃ですけど、家にあったビートルズの編集盤を聴いて、「こんなにヘンテコなものが世界でいちばん有名なのか!」って思いました。(夏目)

相対的にそのときどきの判断で物事を決めていって、テンプレ的なものから逃れていくっていうのは、どういうことなんだろう? 何を嫌がっていて何を求めているのか......。

夏目:うーん、感動しないですもん。そのテンプレ的なやつっていうのは。

じゃあ、「今ある360度すべてに対するカウンターだ」というのは確かだと。

夏目:そこに出発点があるのは確かです。だって、すっごくヘコむんですよ。絶対に何かっぽくはなってしまうから。「ああ、○○っぽいとか言われるんだろうなあ」とか予想がつくし、そうなると「ああ、何ものにもなれてないわ」って、ほんとにヘコむんです。

菅原:4人でいることの4人らしさがなくなったりするといやかな、俺は。

藤村:新しさの種類も、この4人っていう絶対的なものがあった上での新しさというか。ただふつうに斬新だというだけの作品に、ヒューマニティを感じなかったりするけど、そういう「冷たい新しさ」みたいなものにはなりたくないです。

菅原:そういうのいちばんムカつくね。

じゃあ、例えば、アニマル・コレクティヴのアルバムって、1枚ごとにサウンドが違うじゃない? ただ、「今回はこれです」っていうディレクションが明確だよね。それぞれのアルバムが、どういうアイディア、サウンド、機材、メンバーの関係性のなかで作られたものかがよくわかる。で、シャムキャッツの場合、1枚目に関して言えば、そういった統一感があったと思う。でも、今回はやらなかったよね?

夏目:そう、今回はやらなかったんですよ。

それっていうのは、現時点でのバンドの考え方が、「ひとつのサウンドでひとつのアルバムを作る」ということではなくて、「1曲ごとにカジュアルな実験をしていく」っていうことにあったということ? 

夏目:今回は完全にそうでしたね。あと、「こうなったらまとまるな」っていうアイディアがあんまりなかったので。期間も短かったですしね。次はもっと、はっきりしたディレクションを持ってやりたいなという気持ちはあります。まあ、わかんないですけどね(笑)。

菅原:計画性はないね。

では、この『たからじま』というアルバムを作るにあたって、無意識的にでもいいので、不特定多数の人間の心をつかむためにこんな風にフォーカスした、という部分があれば教えてください。

大塚:歌を聴かせるアンサンブルですかね。いいメロディでいい歌ができたから、それをちゃんと届けられるようにって。

夏目:僕の場合、そこはプロデューサーの古里(おさむ)さんに投げちゃったかもしれないです。今回はとくに、そういうプロジェクトとして動いたんですよね、最初のミーティングから。ある程度いろいろなことができるようになってるけど、まだまだどんな引き出しがあるかわからないから、「とにかく曲ができたら投げてみてよ」っていう感じだったんですよ、古里さんは。なので、そのへんのジャッジはけっこう任せちゃいましたね。

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4人でいることの4人らしさがなくなったりするといやかな、俺は。(菅原)


シャムキャッツ - たからじま
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なるほど。じゃあ、できあがった曲を4人それぞれ客観的に見てみた上で、こういう質問に答えてください。このアルバムを、自分のCD棚にテイストで分けて入れるとしたら、両側に入るのは何と何?

メンバー一同:ええー!

夏目:うわー、もうさっき言っちゃったような気がするな。

藤村:ひとつは浮かびましたけどね。『名前をつけてやる』。

うん、スピッツの2ndアルバム。名盤ですね。

藤村:あのアルバムのフィーリングに近いものはあるんじゃないかと思います。歌詞にも変態的なものがあるかなと。そういうところが似ているかなと。

菅原:俺はやっぱり「2012年にCD屋に行って、買って......」って想像していくと、たぶん新譜になると思うので、そのなかで好きだったものですかね。だから、ダーティ・プロジェクターズの『スウィング・ロー・マゼラン』と、うーん、やっぱセロ(cero)とかになるかな。『マイ・ロスト・シティ』。

藤村:俺はセロで言うと1枚めかな。

夏目:セロ、かぶったらおもしろくないじゃん!(笑)。

菅原:俺はやっぱり、日本という場所でいっしょに生きていて、尊敬できる存在はセロかなあって。自分がシャムキャッツじゃなかったとしたら、チェックしてCD屋さんで買う2枚っていったら......昆虫キッズって言ったらかわいそうかなあ?

いや、大丈夫でしょ。

藤村:大丈夫。

夏目:大丈夫。

ただふつうに斬新だというだけの作品に、ヒューマニティを感じなかったりするけど、そういう「冷たい新しさ」みたいなものにはなりたくないです。(藤村)

ダーティ・プロジェクターズとセロを両側に置くとさ、両方とも彼らなりの完成形みたいなものが明確にあるよね。シャムキャッツはそことの違いがすごく特徴かなと思うけど。セロの場合、やっぱり、それぞれのタイミングでの自分たちの完成形っていうもののイメージが明確にあるじゃない?

藤村:でも1枚めはもうちょっと無骨な印象があって。だから1枚めのほうが好きですね。

大塚:俺の場合、全然ロックとか聴かなくて、ジャズとかしかわからないんで。うん......だから、シャムキャッツは絶対買わないね(笑)。でも、ちょっと無理やりかもしれないけど、マイルスとか、歌ものだったらジョニ・ミッチェルとか、ジャズ的な要素はシャムキャッツのなかに感じてて。即興だったりとか、完成形は見せないでライヴに持っていくっていうようなスタイルがあるのかもしれないとは思います。「音でコミュニケーションをとっているところをそのままパックする」っていうやり方は昔から好きで、そういうことを自分もプレイヤーとしてやりたいと思ってました。だから、たまたまジャズじゃなかったけど、この4人はそういうテイストが合ってるから、いっしょにやっているという感じです。
 だから、ほんと無理やり並べる感じにはなるかもしれないけど、エレクトリック期のマイルスとか、ジョニ・ミッチェルがジャズのミュージシャンたちといっしょにやってたときの感じに近いかなとは、なんとなくだけど思ってた。

いちおう選んどきましょう。エレクトリック・マイルスだと、どれ?

大塚:えー、マイルスだと、『オン・ザ・コーナー』。ジョニ・ミッチェルだったら、『ドン・ファン(のじゃじゃ馬娘)』とか。最近聴いてて、「あ、ダーティ・プロジェクターズっぽいな。源流にあるのかな」とか思ったりしました。

うん、なるほど。非常に綺麗な答えが出ましたね。

菅原:やばい! 俺、やり直したい。もっと自分のルーツ的なところで行きたい!

(一同笑)

藤村:あ、俺もう1枚わかった。ペイヴメントの『ブライトゥン・ザ・コーナー』。

菅原:ああ、ずりぃなあー!

じゃあ、シャムキャッツをして、よくペイヴメントって最初に比較されちゃうことについてはどうですか。どういうポイントにおいて「致し方なし」と思い、どこにおいて「うれしく」、どこにおいて「ちょっとノー・サンキュー」って感じますか?

夏目:ペイヴメントは好きだから、単純にそのレベルではオッケー。致し方なしと思うのは、バンドに取り込むスタイルとか、アンサンブルの崩壊の許容範囲とか。ペイヴメントも俺らも、人がグルーヴって思うところよりも遥かに大きい範囲をグルーヴって呼んでるんですよね、たぶん。そこは、致し方なし。

ノー・サンキューって思うところは?

夏目:ノー・サンキューって思うところは......「だって、全然違うよ?」ってとこ(笑)。「よく聴くと全然違うぜ」って。まあ、そう思ってくれてもいいけどさ。

まあ、夏目くんの声とか、歌い方とかね。コード・プログレッションとか、アンサンブルを聴けば接点ないんだけど、そういう部分で聴かれちゃうんだろうね。ヨレたグルーヴとひっくり返る寸前の声、っていう(笑)。

夏目:あー(笑)、そこか......。歌ってるとわかんないんだけど。で、えーと、俺の2枚はまず、ヴァインズのファースト(『ハイリー・イヴォルヴド』)。

ほう!

夏目:と、ビートルズの『4人はアイドル』。

ほう! そ、それは......いや、ちょっと文脈が見えないので、説明して下さい。

夏目:全体の印象ですけどね。例えば、いま名前の出たダーティ・プロジェクターズとか、セロとかは、時代的にはいっしょだし、音楽に対するアティテュードとかにも似たものがあるかもしれないけど、出てきた音にあまりにも差があると思って。俺だったら、そのラインでは同じ作品として並べない。たぶんもっとロックっぽいところに入れたい。で、「振れ幅がある方が入れがいがあるな」と思って。たぶん最近ので、こういういろんな曲の入った変なバランスのアルバムってそんなにないんじゃないか。わちゃわちゃとしてまとまってないな、けどなんか熱いなーっていうのが何かを考えたら、ヴァインズかなという答えが出ました。

なるほど。あのアルバムって、すごくアグレッシヴな曲もあるし、ちょっと謎のスカみたいなのもあれば、すごいフォーキーなバラッドもあればっていう振れ幅があるよね。

夏目:『4人はアイドル』は、ちょっとサントラっぽいなと思って。俺たちのは、わかりやすい1曲めがパーン! とあって、あとはドラマチックないろんなタイプな曲が入ってて、人生で起こるいろんなことを歌ってる。そういう、ロック・バンドでサントラっぽいのは何だろうなって思ったときに、『ヘルプ!』(『4人はアイドル』の邦題)かな、と。

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「音でコミュニケーションをとっているところをそのままパックする」っていうやり方は昔から好きで、そういうことを自分もプレイヤーとしてやりたいと思ってました。(大塚)


シャムキャッツ - たからじま
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なるほど、わかりました。じゃあ、ちょっと別の視点からの質問。さっきから、プレイヤー側から見て、「既存のものではないもの」への志向があるということはよくわかったんだけど、ただ、いわゆるリスナーからすると、いま話してたような聴き方は若干マニアックだと思うんだよね。アンサンブルを聴くとかさ、楽器の音色を聴くとか、構成を聴くとか、そういうふうに音楽に接しながらも、最終的に人間というのは、その音楽を喜怒哀楽なり、フィーリングなりで聴くところがあるでしょ? 「わくわくする」とか、「気持ちをカームしてくれると」か。そういう意味において、「シャムキャッツはどういうものをやろうとしているのか?」ということを尋ねたいんです。
で、どうでしょう、質問をちょっと絞らせてもらうと、いま一般的なポップスの流行を見ていると、すごいエモいじゃん? 「会いたい」「悲しい」「うれしい」であふれている。そういったところを潜在意識において、避けたりした部分があると思いますか?

夏目:うーん、避けてはいないですけどね。

じゃあ、夏目くんにとってこれはとてもエモーショナルなアルバムだと。

夏目:あ、そうか、そう言われるとエモーショナルではないかなー。こういう作品ができて、できたあと話してるわけだから、ちょっとエモーショナルなことを伝えたいモードに入ってきちゃってるかもしれない。いま。

藤村:マックスでエモーショナルなときってないよね。

夏目:マックスでエモーショナルなときって......ないね!

藤村:このバンドでエモーショナルなのは俺くらい。

夏目:ただ、ほんとに歌いたいことって、「会いたい」とか、そういうことなんですよね。全然間違ってないと思いますよ、それは。ただ、もうちょっとシャレたいよね。「シャレた感じに言えないかな、言えるんじゃないかな?」って気はしてて。それはちょっとやりたいですね。だから、曲によってはけっこうありますよ。「君のお腹ん中に入らせて」(“SUNNY”)とか、あ、おもしろいなって、おもしろがって作った部分はあります。でも、疲れますよね、エモーショナルっていうのは。

うん。聴く方もやる方も、感情的に入り込む作業だからね。

夏目:疲れたくないんですよね。

ただ、例えば、“渚”とそれ以外のアルバム収録曲を比べると、“渚”のほうがエモーショナルだし、センチメンタルだし、若干、欝っぽいところがあるでしょ。

夏目:うん(笑)、そう思います。

それに比べると、その後に作った曲は、もう少し自分の感じてるネガティヴなフィーリングに対して客観的になってるのかな、と感じました。楽観的というのではなくてね。ネガティヴなフィーリングを笑ってたりするところがあるのかな、と。まずそれは正解ですか。

夏目:正解です!

(笑)では、なぜそうなったのかということを分析することはできますか?

夏目:単純に、バンドの状況がよくなったというのはあるかなと思います。「なかなか自分が目指してるところに行けないな」とか、「けっこうおもしろいことやってるのに、全然有名にならないな」とか、そういうふうに気持ちが揺れ動いてたときの曲が“渚”で、バンドもあんまりうまくいってなかったし、「どうしよう?」っていう思いもすごくあって。けど、ああいう曲ができて、状況もどんどんよくなって、あんまり文句いうところがなくなってきたり、「よし、とにかくバンドってものをやればいいんだ」っていう気持ちになれたときにできた曲が多いんで、そのへんですかね。悩んでる面がちょっと変わったのかもしれない。

ただ、ほんとに歌いたいことって、「会いたい」とか、そういうことなんですよね。全然間違ってないと思いますよ、それは。ただ、もうちょっとシャレたいよね。(夏目)

実際のところ、“渚”に関しては、どういうフィーリングを捉えようとした曲なの? すごく乱暴に訊いちゃうんだけど。

夏目:混沌から......輝きが生まれる!――そういうところですかね(笑)。そこからじゃないと何もはじまらない。生命が海辺で誕生したっていうじゃないですか。雨が降り、海ができ、泡みたいなものができて、物質がつながりあって、生命が生まれた。ま、それで“渚”なんですけど。

それが、当時、自分たちが感じていたことと近い?

夏目:うん、うん。だからけっこう欝でしたね。疲れきってた、というか。

でも、結果的に、“渚”という曲は、シャムキャッツの名前をそれまでよりも広めることになったし、いまではバンドのトレードマークになる曲として捉えられるようになったわけですよね。当初、それをどう受け止めていましたか? 居心地の悪い部分もあった? 

夏目:最初はすごく居心地が悪かったですね。いまでこそ、「シャムキャッツらしい曲」って受け止められているかもしれないけど、それまで聴いてくれてた人とか、僕らにしてみたら、むしろちょっと「らしくない曲」としてできあがったと思うんですよね。ただ、昔から俺を知っている人にとっては、すごく俺らしいものが出てきてしまったというか(笑)。

ずっと避けてたけれども、という?

夏目:そう、避けてたんだけど。で、それを聴いてくれた人たちがけっこう感動してくれたりもして、プロデューサーについてくれてるおさむさんが、「これを出そう」、「これがいい」と言ってくれたもんだから、「じゃあ、出してみましょうか?」ということになったんです。でも、いざ蓋を開けてみたら売り切れたりして、「そういうもんかあ、ライヴでやらなきゃな」って最初は思ったりしてましたね。ライヴでやるとみんな楽しそうにしてくれるから、とりあえずやっとくか(笑)っていう。

でも、「本来の自分だからこそ出したくなかった」というのは、なぜ?

夏目:やっぱり恥ずかしいじゃないですか。ダサい、というか。そういう単純な気持ちです。

じゃあ、基本的にはやっぱりエモーショナルな表現に対する気恥ずかしさはあるんだ?

夏目:ありますねえ。

菅原:相当あるよね。

じゃあ、夏目君のヴォーカリゼーションの特徴――喜怒哀楽をかき混ぜようとしてるような、むしろ「笑い」に近いような歌い方っていうのも同じ理由によるもの?

夏目:おそらくそうですね。笑いってラクなんですよね。ライヴでも本当に前のめりになって気持ちを入れて歌ったりするのはちょっと恥ずかしいし、それならタケシみたいに着ぐるみを着て出て行っちゃうほうがラク。

なるほどね。ただ、さっきの「会いたい」の話みたいにね、そういうエモいものを全然否定はしてはいないんだ?

夏目:全然否定しないです! 昔、タナソーさんが大嫌いだって言ってた銀杏ボーイズ、僕は大好きですからね。ゴーイング・ステディが解散したときは、友だちとカラオケで4時間くらい歌いつづけてましたから。

でも、そこは好きだってはっきり言えるのに、自分的にはその照れ隠しヴァージョンみたいな態度を取ってしまうのは、なぜ?

夏目:似合わないと思ってるんじゃないですかね。好きだということと自分がやりたいということは違いますからね。自分のために歌っているときはいいと思うんですけど、人前に出ていちばん盛り上がることではないと思いますし。なんか、上がってきちゃいけないところに上がってきちゃいけない人が出てきた、みたいな感じになりませんか(笑)?

じゃあ、もし仮に「銀杏ボーイズが沈黙しているいま、夏目君がすべてを引き受けるべきだ。だって、君はもっとエモーショナルな姿を出せる人でしょう?」っていうリアクションがあったとしたら、どうです?

夏目:うーん、そんな風に思う人、いるかなあ(笑)?

藤村:いると思いますよ。

(笑)いるよね? ユーチューブで音源聴いただけの人とかだったらわかんないけど、ライヴを観て、MCを聞いて、一言二言話したりすれば、においがぷんぷんしてくると思うよ。

(一同笑)

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“渚”はいまでこそ、「シャムキャッツらしい曲」って受け止められているかもしれないけど、それまで聴いてくれてた人とか、僕らにしてみたら、むしろちょっと「らしくない曲」としてできあがったと思うんですよね。(夏目)


シャムキャッツ - たからじま
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では、夏目君だけじゃなくて、みんなの書くリリックって、具体的ではなくて曖昧だし、やっぱりシュール・リアリスティックだよね? センテンスごとに脈絡がなかったり、何かしらの飛躍やはぐらかしがある。それは、いま話してもらったことに近いですか?

菅原:いっしょだと思いますね。

夏目:ただ、いちばん自分がグッとくるように書いてますけどね。ただの文章じゃ自分が感動しないと思うから。音楽として流れてきてグッとくるように、自分なりに仕掛けはしています。

菅原:2曲め(“本当の人”)とかは僕が書いたんですけど、それはほんとに第三者(3人称)に完全に投げて、第三者に歌わせてる曲なんです。だから、詞なんかも、自分が思ってることとは全然違うけど、「この人はこう言いました」ってふうに淡々と綴ってますね。僕は歌詞より曲のほうが先にできるので、いまのところは「詞なんて面倒くせえな」って感じです。作業としては、ですけどね。おさむさんとも相談して、「夏目君とは違う手法で作ってみない?」っていうことになったので、考えてみたアイディアです。

でも、この曲のように、「本当」とか「嘘」とかって言葉が使われてたら、それをそのまますごくシリアスに捉えちゃうリスナーもいると思うんだよね。

菅原:そうですね、それはもちろん、「ドキッとさせたいな」とは思ってます。

なるほど。それがシリアスかそうでないかわかんないように撹乱させたい、と。

菅原:そうです。

夏目:僕は今回はいままで以上にわかりやすくしたという気持ちはあります。「もっと夏目君はわかりやすくていいよ」っていうプロデューサーの指示でもあるんですけどね。

実際に書いてみて、「ここはいちばんわかりやすくしたな」って思う部分と、逆に「ここはやっぱり照れてるし、ごまかしてるな」って思う部分を教えてください。

夏目:えー(笑)。でも、“なんだかやれそう”は全編通して、「わかりやすくしたなー!」って感じなんですけどね。ぱっとその場でわかるような。

それでもわかりにくいけどね(笑)。いや、ネガティヴな意味じゃなくて、「いろんな風に受け取れるようになってる」っていうことなんだけど。

夏目:それは、そうしたいですね。けど、そうじゃない歌詞を見たことがない気もします。銀杏ボーイズはわかりやすいけど、でも、わかりにくいよね?

菅原:まあ、そうだね。

夏目:歌詞で言ったら、いちばんスピッツが好きなんですよ。あと、わかりにくさってことでは、くるり、スーパーカー、ナンバガ(ナンバーガール)っていう俺が高校の頃いちばん聴いてたもの、つまり思春期とシーンがマッチした頃の音楽ですけど、どのバンドもまあ詞はわかりづらいですよね。でもあの人たちの歌詞がいちばん感動できた。わかりにくいと思ったことはいっさいなかったです。だから自分の歌詞もわかりにくいと思ったことはないんですよね。

ただ、自分がこうだろうと思ったことが本当に正解かどうかわからないバンドたちじゃないですか。いま挙げてくれたのは。それはかまわなかったんだ?

夏目:かまわない。「俺がこの曲をいちばんわかってるぜ」って思ってましたね。

なるほどね。でも、そこから一回転するってことはないんだ? あ、そうか、菅原君のは一回転させたのか。

菅原:僕はそうですね。一回転させました。古里さんに呼び出されて、「夏目君の行かないとこ、行ってみよう」って言われたんですよ。そういう話し合いのなかで生まれたものなんです。「本当の事が知りたい」(“本当の人”)って歌詞が入ってますけど、それとか、絶対に言いたくない言葉ですしね。

(一同笑)

菅原:最後にいちばん言いたいことを入れようって言われて......。

夏目:叫んでるもんね。

藤村:エモいもんね、最後は。

夏目:でも物語としてはわかりにくいよね。

菅原:そうそう。

じゃあ、最近の日本でいうと、あるひとつの傾向として、メイン・ストリームもアンダー・グラウンドも、ポップスもロック・バンドもヒップホップも、すごく自分自身が暮らしてる時代とかコミュニティとかをレペゼンする歌詞が主流じゃないですか。作り話とか、物語がすごく減っててね。そんな中で、シャムキャッツの歌詞には、時代や世代や自身のコミュニティをレペゼンするような部分――つまり、時代なり自分たちなりを代表してるっていうような部分は、何パーセントくらいあると思いますか?

夏目:ちょっと変なこと言うかもしれませんけど......0パーかもしれませんね。時代性とかを考えたことはあんまりないというか。「時代性とかをいっさい無視して排除していくほうが、作品としてはむしろいい出来になるんじゃないか?」って気がしてるんですよね。昔の歌でも、ずっと残っていくなかで時代によって意味が変わってきたりするじゃないですか。まあ、だからこそいまの時代に合わせて作っても大丈夫という面もあるかもしれないけれども。でも、これだけすべてが出揃ってるって言われてる時代なら、一回そこを無視するぐらいでいいかなって気もしてるんですよね。

でも、この作品に収められた12曲っていうのは、「2012年」、「日本」――もっと面倒くさいことを言えば、「311から1年半」、さらには、メンバーは30代でもなく10代でもなく、まさに20代だからこその表現っていう特徴が出てる気がするんだけど。

大塚:出さなくても勝手に出てる、っていうような部分ですかね。

夏目:0パーっていうのは、100パーの裏返しってことなのかな? 意味が1個じゃいやだから、自分でいくつかの仕掛けを作れてるって仮定できるとすごく充実するんですよ。で、その仕掛けのなかにはもしかすると時代性のようなものが入っちゃってるかな。こういうふうに思わせたら勝ちだな、とか考えてる部分はあります。

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くるり、スーパーカー、ナンバガ(ナンバーガール)っていう俺が高校の頃いちばん聴いてたもの、つまり思春期とシーンがマッチした頃の音楽(中略)あの人たちの歌詞がいちばん感動できた。わかりにくいと思ったことはいっさいなかったです。(夏目)


シャムキャッツ - たからじま
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じゃあ、ひとつだけ代表的なサンプルとして“なんだかやれそう”について細かく訊かせてもらっていいですか。 じゃあ、まず「なんだかやれそう」ってことは、歌ってるキャラクターの認識、もしくは、世間一般の認識として「やれないんじゃね?」っていうのが前提にあるってことだよね?

メンバー:はははは!

夏目:まあ、そうですね(笑)。

ということは、この歌は、乱暴に言うと、世の中全体に蔓延しているシニカルなムード、もしくは、本人のネガティヴなフィーリングを歌った曲ということになる。

メンバー:あははは!

夏目:(笑)半分イエスです。

だよね? にもかかわらず、この曲のキャラクターは「やれそう/なんとなくいけそう」と歌う。「やれる!」ではない、曖昧なニュアンスの言葉を使っているということは、この作詞者である夏目君という人は「やる/やれる」と言いたい心持ちはあるが、それをそのまま言葉にすることでは「やれる」フィーリングをかたちにできないと思った、ということだよね?

夏目:まさしく。

となると、この曲というのは、今日話してもらったようなバンドのアティテュードをわかりやすく象徴してるよね。これ、いちばんアグレッシヴだし、ポジティヴでしょ?

メンバー:うん。

にもかからわず、拍子が奇数だし、アンサンブルもいちばんギリギリだし(笑)。つまり、ストレートなようでいて、やっぱり一筋縄ではいかない。すごくカラーは出てるよね。

藤村:うん、出てると思います。だって、「全部やっちゃえ!」って言って作ってたもんね。

夏目:そうそう。“なんだかやれそう”のアイディアは藤村が言ったんですよ。レコーディングの1回めの期間が終わったときに「パンクが足りない!」ってことになったんです。「もっとドーン!ってやるバンドじゃなかったっけ、俺たち?」 って。「シンプルでわかりやすいやつが欲しいし、そういうのがカッコイイよね」ってふうにメンバー内で話し合って、アンダートーンズとか、ひと通り聴いたりして、「これをやろう」ってことになりました。自分たちにもまわりにもない音だったし、いいんじゃないかと。しかし、どうするんだ、こんな恥ずかしいやつ(笑)?

藤村:そう(笑)。

夏目:「でも、なんだかやれそうだね!」って(笑)。

藤村:バンドのムードを盛り上げるためによく言ってたんですけど、「なんだかやれそう」って。そしたら、プロデューサーが、「それだ!」って言って。

(一同笑)

夏目:よく覚えてるんですけど、そしたら、俺たちの担当の柴崎さんが「なんだかやれそうだなあって気分がアンセムになったら、新しい時代かもしれない」って言ったんですよ(笑)。「よくわからないけど、じゃあ、ちょっとそれに付き合ってみるか!」ってことになりました。で、「どうせやるんなら全部やっちゃおう」って思って、最初はもうコード一発。俺らは頭にスネアが入る曲がほとんどなかったので、それもやってみようと。

藤村:前からやりたいとは言ってたんですよ。

夏目:でも、4(拍子)じゃつまらないから、ここから3にしよう、とか。

菅原:4はちょっとダルいし、長い。

藤村:しかも3×4(小節)じゃなくて、3×3なんだよね。

夏目:ああ、そうか。そこまでのアイディアだけ生まれて、藤村とふたりでスタジオ入って、やってましたね。「サビは4にしたい。じゃ、つなぎはどうする? 5でいこう」みたいな。

藤村:しかも、最初の3も、基本はストレートな曲だから、俺は8で叩いてるんですよ。8プラス1で叩いてたりする。

時代はよくない。でも、「そういう状況でどう遊ぶか?」というのがいちばん大切なところです。「楽しそうに遊んでるところにはみんな寄ってくるはずだ」という気持ちがあって。だから、なるべく大胆に遊びたいとは思ってますね。(夏目)

はいはいはい。なるほど。じゃあ、今日はいろいろと話すなかで、普段よりも自分たちについて分析的で客観的になってもらったと思うんだけど、その上で、ではシャムキャッツというバンドや、この『たからじま』という作品は、この2012年の年末の日本のどういう状況や気分に対するリアクションであり、どういうかたちのカウンターになると思うか。それをできるだけ風呂敷を広げたかたちで、できるだけ細かく、教えてください。

夏目:なるほど(笑)。

菅原:難しいなー(笑)。

夏目:時代的なことで言えば、悪くないと思ってるんですよ。というか、時代はよくない。でも、おもしろいなとは思っていて。これだけいろいろなことがあって、これだけクソみたいな状態なのに、経済的には豊かな国ってないなと思って。社会的な問題にしろ、いろんな要素がありすぎて、むしろこんなときに20代を送れるのは恵まれてるなと思ったりもするんですよ。ただ、状況を変えていけるか、良くしていけるか、ということになると、全然ヴィジョンがない。「おそらくつぶれるだろう」と思ってますね。「でも、そういう状況でどう遊ぶか?」というのがいちばん大切なところです。「楽しそうに遊んでるところにはみんな寄ってくるはずだ」という気持ちがあって。だから、なるべく大胆に遊びたいとは思ってますね。その意味で、このアルバムは「遊んだなあ」と思います。その分、わかりにくくはなったけど。......って感じ、あるよね?

菅原:うん。あるね。

例えば、ここ最近、若い世代が久しぶりに公務員志向を強めた、とか言うじゃない? で、若者が出歩かない。遊ばない。酒を飲まない、とかね。

夏目:それ全部やってるな。もっと遊んだほうがいいですね。僕、昔から若者の仕事って遊ぶことだと思ってて。バカみたいに金使って。親から巻き上げてもなんでもいいから、金使って遊ぶっていうのが若者の役割だと思うんですよ。「どうやって遊ぼうかな、どうやって遊ぶ人を増やそうかな?」って感じはすごくあるしね。お金なくても、全然怖くないしね?

菅原:そう、なんかもっと、自由にみんな生きたらいいのになって思いますね。

ここ1~2年ですごく感じることなんだけど、自分の世代は、60年代後半の社会の動乱とか、そのなかで芽生えたものとかへの憧れがいちばんあった世代なわけ。だから、「自由」って言葉に対しても最上級の憧れがあったのね。面倒くさいしがらみ――地縁みたいなものもすごく強かった。特に俺なんて大阪の育ちだから。それに社会的な制約も大きかった。だから、自由ほどすばらしい概念はないって思ってたんだけど、ここ最近はさ、自由って言葉は状態じゃなくて、人の性質を表すような使われ方をするよね。「ごめんなさい! この子ほんと自由なんで!」みたいなさ。場を読まない、ものがわかってないってことを表す言葉になっちゃってる。それは多分にいまの社会のものの見方を反映していると思ってて。

夏目:たしかに。......でも、自由のほうがいいね。

メンバー一同:うん。

夏目:音楽のフィールドに関して言えば、エモーショナルなものとか、ジャンルに特化したものは、わかりやすいですよね。インディーズからメジャーに上がっていって、みんなが知るようになる。でも、そのヴァリエーションが少なすぎて――さっき言ってたみたいに、エモーショナルなものでいっぱいになってしまう。下からもたぶんそういうものしか上がってこないように見えてるかもしれないけど、「90年代のポップスの雰囲気を大きなフィールドでやれる可能性はあるぞ」と。そういうことはちょっとだけ見せられたかな、という気はします。それが希望だし、「なんだかやれそう」ってことですね。

藤村:僕個人としては、このコミュニティはけっこう理想に近いと思ってまして。「政治や他のコミュニティのあり方も、こうすればいいのにな」って。そういうことを伝えたい。

菅原:ふたりの話につながりますけど、俺は最近、この社会にあってすごく居心地が悪いですね。でも、4人でやってる楽しさを世に出していくってことをやりたい(笑)。

夏目:同じことを言ってる(笑)! 何だろうなあ。俺とかからすると、20歳を超えるまで、思春期の間、「この世は暗いんだぞ」っていうパンチをずっと食らい続けてきたっていうイメージがあって。サリン事件あり、阪神大震災あり、911あり、リーマンショックあり。音楽的にも大学ん時にレディオヘッドがあって。「うわ、暗いパンチ来たよ!」って感じだったよね。でも、昔に比べればよくなってると思うんですよ。高校くらいの頃とかは「日本ってあんまりおもしろくないな」って思ってたんですけど、いまはちょっとおもしろい。

藤村:内閣がどんどん変わりますよね。それ、ほんと変じゃない? あれがすごく変だなって感覚が僕らの世代にはあると思うんですよ。なんで一度リーダーを決めたら、そのリーダーをサポートしないのか? いろいろ難しいんだと思うんですけど、そうしないと何も進まない。バンドも同じで、みんなで船を漕ぐような姿を見せられればいいと思う。

夏目:何か価値観を提示したのかなあ? 『たからじま』ってアルバムってさ。

でも、『たからじま』っていうタイトルだけでも、明確なアティチュードがあると思うけど。「どこかに宝があるはずだ」「で、探すんだ」ってことなわけだから。だって、いまはみんな、『青い鳥』みたいな話が大好きじゃない。

夏目:でも、まあ、男の子4人揃ったらね、アドヴェンチャーしないとね(笑)。

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ライヴ情報

■2013.1.29(火)
“月刊ウォンブ! 創刊号・初めてのウォンブ!”
渋谷WOMB
開場19:00 / 開演19:30
前売2,000円(1ドリンク別) / 当日2,500円(1ドリンク別)
●出演
シャムキャッツ / Alfred Beach Sandal / ミツメ 他
DJ:BIOMAN / マイケルJフォクス
●問い合わせ
渋谷WOMB tel:03-5459-0039

■2013.2.3(土)
“節分のMEME TOKYO FESTIVAL 2013″
渋谷WWW
開場17:30 / 開演18:00
前売3,300円(1ドリンク別) / 当日3,800円(1ドリンク別)
●出演
シャムキャッツ / でんぱ組.inc / かせきさいだぁ /
スペシャルゲスト(※2/1発表) / AIZENN(オープニングアクト)
●チケット
e+, ローソン(77549)
※プレイガイドは1/19発売開始
●問い合わせ
渋谷WWW tel:03-5458-7685
※本公演ではチケットのメール予約は受け付けておりません。

■2013.2.9(土)
“シャムキャッツ NEW ALBUM『たからじま』リリースツアー in 埼玉”
埼玉 熊谷MORTAR RECORD 2F
開場18:30 / 開演19:00
SOLD OUT
●出演
シャムキャッツ / ミツメ / 平賀さち枝
●問い合わせ
埼玉 熊谷MORTAR RECORD tel:048-526-6869
Thank You Sold Out.
※本公演ではチケットのメール予約は受け付けておりません。

■2013.2.15(金)
“シャムキャッツ NEW ALBUM『たからじま』リリースツアー in 愛媛”
愛媛 松山Bar Caezar
前売2,500円(1ドリンク付) / 当日3,000円(1ドリンク付)
●出演
シャムキャッツ / Coelacanth 他
DJ : Nori(ROCK TRIBE) / KondoROCK TRIBE
●問い合わせ
松山Bar Caezar tel:089-932-7644
ライブの予約はこちらから!

■2013.2.16(土)
“シャムキャッツ NEW ALBUM『たからじま』リリースツアー in 福岡”
福岡 薬院Utero
開場18:00 / 開演18:30
前売2,000円(1ドリンク別) / 当日2,500円(1ドリンク別)
●出演
シャムキャッツ / H Mountains / ライスボウル 他
●問い合わせ
福岡 薬院Utero tel:092-201-0553
ライブの予約はこちらから!

■2013.2.17(日)
“シャムキャッツ NEW ALBUM『たからじま』リリースツアー in 熊本”
熊本NAVARO
開場20:00 / 開演20:30
前売1,800円(1ドリンク別) / 当日2,000円(1ドリンク別)
●出演
シャムキャッツ / H Mountains / Doit Science 他
●問い合わせ
熊本NAVARO tel:096-352-1200
ライブの予約はこちらから!

■2013.2.27(水)
“シャムキャッツ NEW ALBUM『たからじま』リリースツアー in 愛知”
愛知 鶴舞K.D ハポン
開場19:30 / 開演20:00
前売2,000円(1ドリンク別) / 当日2,300円(1ドリンク別)
●出演
シャムキャッツ (ワンマン)
●問い合わせ
愛知 鶴舞K.D ハポン tel:052-251-0324
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■2013.2.28(木)
“シャムキャッツ NEW ALBUM『たからじま』リリースツアー in 京都”
京都磔磔
開場18:00 / 開演19:00
前売2,500円(1ドリンク別) / 当日2,800円(1ドリンク別)
●出演
シャムキャッツ / Turntable Films
●チケット
ぴあ(190-931)
※当日の入場順はプレイガイド購入者→メール予約となります
●問い合わせ
京都磔磔 tel:075-351-1321
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■2013.3.1(金)
“シャムキャッツ NEW ALBUM『たからじま』リリースツアー in 大阪”
大阪 十三ファンダンゴ
開場18:00/開演18:30
前売2,500円(1ドリンク別) / 当日2,800円(1ドリンク別)
●出演
シャムキャッツ / 昆虫キッズ / The Cigavettes / どついたるねん
●チケット
e+, ローソン(53206)
※当日の入場順はプレイガイド購入者→メール予約となります
●問い合わせ
大阪 十三ファンダンゴ tel:06-6308-1621
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■2013.3.8(金)
“シャムキャッツ NEW ALBUM『たからじま』リリースツアーファイナル ワンマンライブ”
代官山UNIT
開場18:30 / 開演19:30
前売2,800円(1ドリンク別) / 当日未定
●出演
シャムキャッツ (ワンマン)
●チケット
e+, ローソン(76345)
※プレイガイドは1/11発売開始
※当日の入場順はプレイガイド購入者→メール予約となります
●問い合わせ
代官山UNIT tel:03-5459-8630

冷たき熱狂をともに - ele-king

 見ようによっては年の終盤に颯爽と現れて一年をさらっていったともいえる2012年の名盤のひとつ、『ラグジュアリー・プロブレムス』で彼を知った人も多いかもしれない。マンチェスターのDJ、2010年代に入ってからはミニマル・ダブからポスト・インダストリアル的な方向性を引き出し、デムダイク・ステアらの動きとも同調しながらシーンを鋭く刺激しつづけている。今回の来日は昨年作の余韻を引く、まさにこの上ないタイミングだ。

Andy Stott (Modern Love)

Basic Channelを源流とするミニマル・ダブ〜ディープ・テクノの無限の可能性を現在も拡張させ続けている超優良レーベルModern Loveを代表する最重要アーティストがAndy Stottである。
Claro Intelectoの紹介でModern Loveのレーベル・オーナーShlom Sviriと出会い、その才能を認められ2005年に「Ceramics」「Demon In The Attic EP」「Replace EP」の3作品をModern Loveよりリリース。ハード・テクノをスクリューしたようなノイジーなドローン、ロウビート、圧倒的な音響感のエクスペリメンタル・ビーツは一躍シーンの寵児として注目された。2006年、ファースト・アルバム『Merciless』をリリース。2008年、これまでリリースされたEPをまとめたコンピレーション・アルバム『Unknown Exception』をリリース。2011年、12インチ2枚組『We Stay Together』『Passed Me By』の2作品をリリース、これら2作品をCDにまとめた『We Stay Together / Passed Me By』もリリー ス。これらの作品で展開されたオリジナリティーに溢れるアヴァンギャルドかつエクスペリメンタルなダブ・テクノ・サウンドは、数多のBasic Channelのフォロワーを明らかに凌駕する新しいサウンドの斬新さに溢れている。2012年、約1年振りとなる最新アルバム 『Luxury Problems』をリリース。Pitchfork, Resident Advisor, FACT magazine, Rolling Stone, SPINなどレヴューでは軒並み高得点を獲得している。

■3.1 fri @ 東京 LIQUIDROOM
Live: Andy Stott (Modern Love, UK)
Guests: DJ KRUSH, Flying Rhythms, Numb, KEIHIN
Open/ Start 20:00-
¥3,500 (Advance) ¥4,000 (Door)
Information: 03-5464-0800 (LIQUIDROOM) www.liquidroom.net
Ticket Outlets: チケットぴあ (189-952), ローソンチケット (75037), e+ (eplus.jp), LIQUIDROOM, DISK UNION (新宿クラブミュージックショップ, 渋谷クラブミュージックショップ, 下北沢クラブミュージックショップ, 高田馬場店, お茶の水駅前店, 池袋店, 吉祥寺店, 町田店, 横浜西口店, 津田沼店, 千葉店, 柏店, 北浦和店, 中野店, 立川店), Lighthouse Records, LOS APSON?, TECHNIQUE, JAZZY SPORT MUSIC SHOP TOKYO, JET SET Tokyo, DISC SHOP ZERO

■3.2 sat @ 大阪 CLUB KARMA
Live: Andy Stott (Modern Love, UK)
AOKI takamasa, NHK (Koyxeи Matsunaga), kyoka DJ: SHINE (Torque), MONASHEE (AGILE)
Open/ Start 23:00-
¥2,500 (Advance), ¥3,000 (Door)
Information: 06-6344-6181 (CLUB KARMA) www.club-karma.com

2013: What The Fuck Is Going On? - ele-king

 『タイニー・ミックス・テープス』によれば、すべて廃盤となっていたザ・KLFのバックカタログが、1月17日、いっせいにiTunesやアマゾンで売り出されたというが、それが海賊盤であったため、間もなくいっせいに削除された、という。復活宣言か! などと騒がれたそうだが、結果、いち部の人たちのみが聴けただけのことだった。
 さて、ele-kingがここで言いたいのは、ことの顛末ではない。『TMT』の記事の秀逸さである。いわく「ザ・KLFがいなければ、バンクシーがブリストルを離れることはなかっただろう。M.I.A.がレコード会社の役員の息子と結婚することで、その莫大な財産を利用して、殺戮についてのヴィデオを作ることもなかった」
 1992年に音楽産業を去ったザ・KLFは、1987年から数年のあいだ、挑発的なゲリラ広告や街中のグラフィティ、二木信以上にバカげた逮捕劇を繰り返しながら、アシッド・ハウスを更新して、既存の音源のサンプリングで最高のチルアウト・アルバムを創造した。それから彼らは、1992年のあいだ英国でもっとも売れた音楽家となった(オリコンチャートのようなチャートで何回か1位となった)。アメリカには、特別な挑発を仕掛けた──「America: What Time Is Love? ]

 ザ・KLFは、『TMT』が言うように、バンクシーの青写真であり、そしてポップ・ミュージック史上、最高の喜劇の実践者でもあった。彼らが最後に逮捕されたのは自分たちの商業的な大成功で儲けた貨幣のうちの100万ポンドを燃やしたときだった。
 物語の発端はリバプールにある。80年代のマンチェスターの物語については我々ジャパニーズもよく知っている。しかしリバプールについては......数ヶ月後に、翻訳者様のがんばり次第では、その素晴らしい真実についてお伝えできるかもしれない。
 いったい、「何が起こってるっていうんだよ(What The Fuck Is Going On)?」

坂本慎太郎 - ele-king

 歌詞という点でいまいちばん共感できるのが坂本慎太郎の「まともがわからない」である。この曲の影響下で、僕は「わからない」という原稿を2本書いた。人間はわからないと安心できないので、本を読んでわかった気になるか、人によってはわからないものを否定したり、たたきつぶしたくなるようだが、坂本慎太郎ときたら......「まともがわからない/ああう~/まともがわからない/ぼくには今は」、そしてこう続ける。「また会いたい人たち また見たい あの場面/もどりたい場所など はたしてあったっけ?/今も」
 この美しい曲を聴いた夜、僕は、「もどりたい場所など はたしてあったっけ?」というところで、不覚にも涙腺がゆるんでしまった。いま日本の音楽で、これほど辛辣で、絶望的で、反抗的で、それがゆえに勇気づけられる言葉が他にあるのだろうか。あったとしても、これほどの潔さは滅多にないだろう。サッチャー時代にザ・スミスを心から聴いていた英国人のリスナーもこんな気持ちだったのかもしれないが、サッチャー時代のイギリスといまの日本の社会はあまりにも違っている。
 そもそもアートワークが、いままでの坂本慎太郎を思えば説明的過ぎる。テレビ、スマートフォン、そしてパソコン。今日の、わかりやすくノーマルな風景のようだ。しかしこのわかりやすさに、むしろ坂本慎太郎の軽快で柔らかい音楽の裏側に隠されている、メラメラとしたものの抑えがたさを僕は感じてしまうのだ。
 坂本慎太郎は、まともさを疑っているのではない。まともは、実はまともではないと思っている。ノーマルだと思っている世界は、ノーマルだと思い込まされ、思い込んでいる世界であることは言うまでもないが、刺激好きな人にとってこの世界は、いまのところ次から次へと刺激を与えてくれるから、依存症や中毒者のように、それが無感覚=ノーマルとなる。貧しい者のために富める者から税金を取ったオバマは貧乏人から批判され、アルバイト暮らしの貧乏人はグローバル企業の抱えたスポーツ・チームになけなしの金を払う。エコを推奨するオーガニック系のイヴェントの駐車場には高級車が止まって、アンダーグラウンドのレーベルは、無名の才能に夢見ることを止め、歴史的に評価の定まった権威を喜ぶ。

 坂本慎太郎は、いやったらしいほど、刺激のない音楽を追究している。EPに収録されたほかの2曲、"死者より"と"悲しみのない世界"も秀逸だ。"悲しみのない世界"は70年代の深夜番組でかかっていそうな甘ったるいMORだが、とにかくこれも言葉が面白い。「あなたの声が 聞こえない/もしかして今 ほかのとこどこか/ああ 見てたの?」というフレーズは、あなたが生きていると思っている人生は人生ではないと言われているようで、あー良かったと、気持ちが安らぐ。
 「まともがわからない」は、こうした、言葉に表象される逆説的な脱力感がメロウな音楽と見事に噛み合っているわけだが、彼の演じているソフト・ロックが成り行きで生まれたウブな代物ではないことは言うまでもない。これはコンセプチュアルに生まれたものだろうし、ゆえにクリストファー・オウェンスが歌詞を理解できないことが残念だ。アメリカ人にも、いや、アメリカ人にこそ聴いてほしい歌詞である。

 初回限定盤についている「まほろ駅前番外地」のサントラ盤が、特典とするにはあまりにも素晴らしすぎる出来で、40分弱のこのインスト+歌が聴けてEP1枚の値段で売られている点にも坂本慎太郎の、強い意志のようなものを感じる。

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