「Nothing」と一致するもの

dagshenma - ele-king

 脳内を蠢きまわる音の群れ、その持続と切断と生成......。"dagshenma"は京都市在住higuchi eitaroによるプロジェクトである。80年代的なインダストリアルなノイズ&ピザールな音響と、90年代的なジャンクな音の坩堝を、ゼロ年代以降のエレクトロニカ/電子音響的なステレオフォニックな音響によって再生成していく「実験」がアルバムに一枚に見事に凝縮されている。精密かつ最先端のプログラミングと、ジャンクでスカムな音の運動の共存/融合。そして、その「実験」は、純粋な耳の快楽のためにあるようにも思えた。レーベル再活発化、最初のリリース作品。

ダークサイド・エレクトロニカの新鋭による、 21世紀型インダストリアル・ミュージック。

dagshenma(ダグシェンマ)は樋口鋭太朗による電子音楽プロジェクト。アーティストとしてだけでなく、ノイズ専門レーベルUNNOISELESSを共同運営し、2012年に全58曲入りのノイズ・コンピレーションをリリース。京都のライブハウスBlue Eyesで電子音楽イベントPARANOIAを不定期的に開催するなど、一貫してアヴァンギャルド・スピリットに根差した活動を行っている。
dagshenma名義での初CDリリースとなる本作では、フランスのMlada FlontaやイギリスのNurse With Woundといった、インダストリアルの流れを汲むヨーロッパの前衛たちにルーツをみるような退廃的エレクトロニカを展開。デカダンなイメージと、アルバム全体を通して鳴り響く高周波、デジタル独自のザラついたノイズがサウンドの個性を形作っている。 ハイライトは重厚なマシン・ビートが脈打つ"offthelight"、カットアップされた弦楽器の旋律が生み出す病的なドラマティシズムが印象的な"cream"(PsysExとの共作)、チベットの宗教儀式をサンプリングした"hIll"(dagshenmaは宗教色の強い素材をしばしば引用する)。 なお "zaumi2012"はドイツの電子音楽レーベルelectrotonから発表したCD-R作品『zaumi』に収録されたタイトル曲の続編的楽曲となっている。 dagshenmaはhiguchi eitaro名義でもshrine.jpからアルバムをリリースしている。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

Hakobune - ele-king

 トーマス・ケナーを彷彿させるアンビエント・ドローンだが、作品には、ボーズ・オブ・カナダのような、温かい郷愁が広がっている。そして、クラウトロックが好きなリスナーにも聴かせたくなるような、電子音に対するある種のフェティッシュな感性もあるように感じる。最後の曲では、パルス音めいたビートが入っている。異次元から飛来したようなこのミニマルがまた良い。2007から膨大な作品を出し続けているTakahiro Yorifujiによるハコブネによる4作目。

澄み切った夜明けの空気を連想させる、ジオメトリックな持続音。
大らかに広がっていく美しいドローン。


Hakobuneは兵庫出身、東京在住のTakahiro Yorifujiによるソロ・プロジェクト(活動を始めた頃は京都を拠点としていた)。ラップトップやギターを用い、様々な手法でドローン作品を制作している。多作家であり、これまでに世界各国のレーベルから30タイトルを超える作品を発表している。またレーベルTobira Recordsを主宰し、京都を拠点とするドローン・アーティストNobuto Sudaの作品などをリリース。ライブ活動も積極的に行っており、2011年には北米ツアーを敢行した。 本作は2008年にTobira Recordsより少部数でリリースされた、同名カセットテープ作品(現在では廃盤)に、未発表音源2曲を加えたアルバム。未発表音源のうち1曲はキャリア初のミニマル・ビートを用いた楽曲となっている。 プロセッシングされたアタック音のないギターの持続音のみで全体を構成しており、ジオメトリックな持続音が広がっていくイメージは、澄み切った仄白い夜明けの空気を連想させる。2011年にhibernate recordingsからリリースされた『Away From The Lunar Waters』のような、ドローンにギターのフレーズを重ねた作品に比べ、より純粋なドローン作品に仕上がっている。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

Nomura Kenji - ele-king

 普段こういった音楽をほとんど聴かない小生は、先ほどから頭を内部から爪でカリカリされている気がしてならない。各サウンドのテクスチャーとその間を駆け巡る旋律は驚くほど色鮮やかな展開を見せている。それはあたかもモノクロームの写真作品で構成されるジャケットに写されていない色彩を聴者というそれぞれのパレットを用いて彩色するべくうながされているような感覚である。

水と光が織りなす情景をイメージさせる、 内省的なエレクトロニカ。

Nomura Kenjiは京都出身、大阪在住のアーティスト。これまで関西を中心にイラスト、造形、絵画、写真などの分野で創作活動を行ってきた。2011年よりrace tone tortoise名義で音楽制作を開始、本作がキャリア初リリースとなる。 水面に落ちる水滴のような澄んだピアノのハイトーンが印象的な"Rythmic Canal"、夜の湖に映る街灯りを連想させる"Blue Jay"、波の音と鳥のさえずりがサンプリングされた"Teach"など、水と光が織りなす情景をイメージさせる美しい楽曲が並ぶ。"Teach"ではアフリカン・パーカッション、"Just"ではエチュード風のピアノ、"Rain Drop"では金属打楽器の音が楽曲の最後に配置されているが、環境音、楽器の音色、電子音が調和する中、あえて違和感の残るレイアウトを選択する手法も作曲の特長となっている。 全体を内省的な印象が覆っているが、アルバムを制作する際には室内や、自然を歩きながらのリスニングを想定し、一曲一曲をコンパクトに仕上げたという。また全トラックに共通する独特の間は、京都の街から受けたインスピレーションが反映されているそうだ。 アートワークは野村本人のモノクロ写真作品を採用。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

 先日僕は、テレビの前で、録画放送でACミランとバルセロナの試合を複雑な思いで見ていた。試合は、ACミランが、いかにもイタリアらしいカテナッチオで、とにかくひたすら守って守って、そして相手のミスから幸運な1点(明らかにミランの選手のハンドだった)、後半にもショート・カウンターでもう1点追加と、UEFAチャンピンズ・リーグのベスト16のファーストレグをモノにした。試合中には、ベルルスコーニ名誉会長と現チーム・オーナーであるその娘の姿も映し出された。
 試合自体はそれなりに見応えのあるものだったが、ACミランへの投資がベルルスコーニの支持率アップに繋がったと聞けば、いっぽうでは醒めた自分がいたのもたしかだ。別に僕はバルセロのファンではないが、このときばかりは応援した。イギリスの有名な言葉で、「女房は変えられても好きなチームは変えられない」というのがあるが、これはもう、理屈で考えれば、洒落にもならないのだろう。が、しかし......、もし自分がミラニスタだったら、どうだったろう。かのアントニオ・ネグリでさえ、それがわかっていながらミラニスタであることを止めなかったのだから......(彼はその政治的矛盾を受け入れたのである)。

 311は、我々をずいぶんと慎重にさせた。僕は、かねてから自分をノンポリだと自覚していたものだが(自分ごときが政治的だとは言えない)、結局のところ、納税者として暮らし、現代の消費社会を生きているということが、実は否応なしに政治的な行為であるということを思い知っている。こと大企業の商品を買うとき(ないしは銀行への預金など)には気をつけたほうがいい。自分ががんばって働いて稼いだ金が、人殺しの道具開発のために使われているなんてことは珍しいことではないのだ。
 逆に言えば、世界を変えることは日常的な行為を慎重すれば可能だとも言える。マティルド・セレルの『コンバ』は、そうした日々の政治的なおこないに関する最新の金言集だと言っていい。

 マティルド・セレルは、パリのラジオ・ノヴァで朝の10時に番組を持っている女性だというが、ラジオ・ノヴァといえば、『リベラシオン』紙の系譜であり、我々音楽ファンには、フランスで最初にハウス・ミュージックを紹介して、そしてまだ若いロラン・ガルニエにチャンスを与えたラジオ局として知られている。
 それにしても、朝の10時から、ラジオで、シャンゼリゼ通りの広告への落書きや職場での昼寝、バイコット(不買)運動を賞揚し、昨晩の吸い残し大麻の寄付を勧めたかと思えば、どの企業が真面目に環境問題に取り組んでいるのかのランキングを発表するフランスという国は......コンピュータからメディアの常套句の削除の呼びかけ、家庭平和のための職場での罵り合いの奨励、反抗を表明するキーボードの打ち方まで、彼女は短い文章で簡潔に小気味よく、愉快な反抗のアイデアを話しかける。ラジカルなことを言っていても、洒落が効いているので、政治アレルギーの人も楽しめるだろう。
 テヘランのイスラム教導師カゼム・セディーギの「薄着を来た女性のために男を道を踏み外し、地震を引き起こす」という声明に抵抗するためにアメリカの女性生物学者が呼びかけた実験──敢えてみんなでセクシーな服装をする呼びかけ運動の紹介、あるいは女性のマスターベーションについて、あるいはマグロの漁獲高の数値とその繁殖力を比較しての「分別あるスシの食べ方」、路上のパーキングスペースに金を払って自由に私有化する話、同性愛カップルのキスの仕方などなど......本書は、今日的な問題提起を──環境問題、フェミニズム、そして新自由主義とゲイ問題──、洒落た言葉で解説して、それらに抗する実践の方法を紹介していく。僕が気に入った話のひとつは......というか、自分で実践しているのは、エスカレーターの話。あんなものに電力を使い、健康を気にするくらいなら、5~6階の階段は歩いたほうが良いに決まっている。

 訳者の鈴木孝弥は、信頼できるレゲエ評論家のひとりとして知られているが、彼はまた、デモ隊で打楽器を鳴らし、あるいはまた都内で暮らしながらラジオ・ノヴァを愛聴している珍しい人である。彼は、フランス語の言葉遊びの激しいこのエッセイ集に詳細な注釈を付けているが、なにげにそのなかに自分の意見まで入れてしまうところもフランスらしい。世界を見渡したとき、とにかく働かない国民はフランス人、次にカナダ人だそうだが、カナダには多くのフランス人が移住しているので、結局、「働かない遺伝子」の根源はここ、市民革命を実現した国の首都にあるのだろう。
 だいたい、シャンゼリゼ通りの広告板に落書きして、それが裁判所で「表現の自由」として犯罪にならなかったというのは、なんともフランスらしい良いエピソードだ......が、しかし、これを「フランスらしい」で終わらせるにはあまりにも面白い話なので、鈴木孝弥もがんばって日本語に変換したのだろう。たしかにこの本、面白いわ。笑った。笑いは健康に良い。

5lack×Olive Oil - ele-king

 下高井戸のトラスムンドの浜崎店長に頼んで、まず最初に、巷で話題のFLA$HBACKSの『FL$8KS』、その次にスラックとオリーヴ・オイルによる『50』を聴かせてもらって、結局、僕は財布の都合で、後者を買った。FLA$HBACKSに関して言えば、いろんな人たちが惜しみない賛辞を送るのもわかる。たしかに格好いい。90年代生まれによる90年代再解釈の、実にフレッシュで、エネルギッシュな(なにせ19歳だ)、そして前向きで、しかもスタイリッシュな1枚だし、これがいまそれなりの数売れているということは、シーンは健全で、元気いっぱいなのだ。
 素晴らしいことである。才能と情熱を持った新世代が次々と登場することで、トラスムンドはモノが売れないと言われる2月を忙しくしているのだ。それでも、疲れている僕は、唯物論的に『FL$8KS』の価値を理解できても......などと言っている時点で自分が疲れているのがわかる。そして、僕のように疲れている人間は、いまは『50』を聴いたほうがいいかもしれない。

 オリーヴ・オイルのトラックがまず良いのだ。それが買った理由のかなり多くを占めている。BUNのような、ここ数年のあいだに注目を集め、国際的な支持を得ている日本のビートメイカーたちの軌跡を追っていくと、彼らの多くがオリーヴ・オイルと関わっていることがわかる、と話してくれたのは三田格だったが、彼がいま重要人物なのは、フライロー以降の耳にはとくに納得のいく話ではないだろうか。
 とにかく僕は、繊細にして大胆、実験的にして郷愁的な、チルアウトでありながらビートがしっかりした、そしてドライでありながら叙情性のあるオリーヴ・オイルのトラックに惹きつけられたのだ。〈クロックワイズ〉の加藤由紀さんに教えてもらったことだが、彼は「南の国に楽園を作るのが夢」だと公言しているそうで、(これも、まさにいま話題の)沖縄のRITTOのデビュー・アルバム『AKEBONO』にも参加している。

 さて、『50』の1曲目は(正確には2曲目だが)、"愛しの福岡"である。スラックは作品を通じて、東京を離れ、福岡を発見したことに喜びを感じ、その感情を表しているわけだが、故郷ないしは仲間からひとりで離れていく様は、彼の"That's Me"における「ひとり」を具現化していると言える。別離することそのものに意味があったのだろう。そして、「別離」ならびに「出会い」がアルバムの主題だとしたら、オリーヴ・オイルの孤独を仄めかしつつも陶酔するビートは、その最高のパートナーだった。スラックのフロウは春の夜風のように、ビートの合間を滑らかに抜けていく。
 仙人掌とISSUGIのライムもお目見えする前半の、なかば憤怒の籠もった刺々しい感覚も良いが、後半の、ピアノが美しい2曲、"鼓動"~"I LIKEDARK CHOKOL"以降のメロウな展開は鳥肌モノ。よろめきながら前に歩く旅人さながらの"DRIVE ON MY LIFE"~"HUSSHSARD/50"~"AMADEVIL"の展開は、最盛期のクルーダー&ドーフマイスターをも彷彿させる。つまり、ピースで、そして最大限に恍惚としている。僕は缶ビールを3缶飲んで、帰り際に花田清輝3冊を千円にまけてもらって、トラスムンドを後にした。

Chart - JET SET 2013.02.25 - ele-king

Shop Chart


1

Crystal - Vanish Into Light (Crue-l)
新次元を切り開いたシューゲイズ・ピアノ・ハウス傑作との呼び声の高かった前作に続き送る本作では、キーボーディスト高野勳を迎えた高揚感と飛翔感がソリッドかつドリーミーに同居させた、シューゲイズ・バレアリック・ハウス大傑作!

2

Crue-l Grand Orchestra Vs Tbd - Barbarella's Disco (Crue-l)
Justin Van Der VolgenとKenji Takimi本人は勿論、Dj Harveyや、Eric Duncan、Dj Kent、Dj Hikaruなどが軒並みパワー・プレイすることで絶大なリアクションを獲得する話題作が遂にリリース!

3

Videotapemusic - Slumber Party Girl's Diary (Rose)
2012年リリースの1st.アルバム『7泊8日』に収録された大本命曲が、なんとRose Recordsより7インチ・シングルとして登場。

4

Inc. - No World (4ad)
昨年ヒットしたEp盤「3」も最高だった、4adが送り出すL.a.の兄弟ユニット、Inc.。これぞ、2013年モードなインディ・シンセ・メロウ・ヤング・ソウル全11曲!

5

Autre Ne Veut - Anxiety (Software)
Oled English Spelling Beeからのデビュー・アルバム、Hippos In Tanksからの12インチもヒットしたブルックリンのソロ・ユニット、Autre Ne Veutの傑作セカンド・アルバム!

6

Falty Dl - Straight & Arrow - Four Tet Remix (Ninja Tune)
ご存じNinja Tune/Planet Muが誇るNy在住の美麗Ukベース人気者Falty Dlがジャズ薫るコードワークを散りばめて完成させた、Swindle越えアーバン・ベース名曲が限定で再リリース!!

7

八代亜紀 - 夜のアルバム (Universal)
デビューから42年目を迎えた今年、ルーツであるクラブ・シンガー時代に思いを馳せ、ジャズ・スタンダードや歌謡曲等の「流行歌」をジャズ・アレンジでカヴァー。演歌の八代亜紀とは一味もふた味も異なるスタイルを披露します。

8

Eddie C - Country City Country (Endless Flight)
リードシングル"La Palette"でも幅広い音楽知識~造形の片鱗をみせつけ、次世代ハウスシーンを担うべく好手としての貫禄を見せつけるEddie Cによる渾身のフルアルバムが国内名門"Endless Flight"より待望のリリース!

9

Maxmillion Dunbar - House Of Woo (Rvng Intl.)
Future Timesからのリリースでも絶大な人気を誇るAndrew Field-pickeringによるプロジェクトとしてお馴染みMaxmillion Dunbarによるフルアルバムが、Tim Sweeney主宰"Rvng Intl."より堂々の登場!

10

V.a. - Desmo Presents A L.a.s. (Desmo)
南米フォルクローレ・カヴァー音源を多彩なモダン・クラブ・サウンドでリミックス!!Mo' Horizons、Flevans、Jon Kennedy、Up, Bustle And Out、Orbなど超豪華リミキサーによる3枚組!!

PolySick - ele-king

 ただでさえ平均水準を遥かに下回る生活を送っていた僕は悪いことに昨年頃からユーロラック・モジュラー・シンセ熱に完全に浮かされてしまい、さらなるドロ沼最底辺の生活を絶賛急降下中である......ことが僕がいまレコードを買えない主たる理由である。しかしながら何か書かねばなるまいと自宅にて頭を悩ませているフリをしていた矢先、友人のウォーター(Wouter Vanhaelemeesch)から激しく寄せられていた彼自身のレーベルである〈オーディオマー(audioMER)〉を紹介するに思い至った。
 本誌の特集にて幾度となく僕が企画を提示せど、当然のごとく部数の売り上げへの貢献が皆無であるがゆえ、永久に採用されることがないベルギー、ゲントを中心とするエクスペリメンタル/アヴァン・シーン、その中核で活動するウォーターは非常に才能豊かなイラストレーター/レーベル・オーナー/ミュージシャンである。同郷のヒエロニムス・ボッシュを想起させる奇怪かつ愉快なイラストレーションは彼のレーベルのパッケージングは勿論のこと国内外の様々なアーティストのレコード・カバーで見受けられるであろう。同郷のシルヴェスター・アンファング II(Sylvester Anfang II)やイグナツ(Ignatz)に代表されるようなズブズブ系サイケデリック・ミュージックへの並々ならぬ愛情は〈オーディオマー〉の過去のリリース群や、ここで紹介している彼自身の怨恨系フォークロア・プロジェクト、ウルプフ・ランゼにて存分に伺い知ることができるが、次のリリースは......ポリシック!?

 ポリシックと言えば日本でも〈モアムー〉や〈ビッグ・ラヴ〉からのリリースや、アマンダ嬢の100%シルクからのリリースでお馴染みのペラッペラ・ディスコである。エクスペリメンタル・フォークロアのドープネスをひたすら追求してきたレーベルからの突然の危険球。もちろん同郷のクラーク(KRAAK)は古くからコーン(Kohn)等の実験電子音楽を手掛けていて、この地には不思議と水面下におけるボーダレスなシーンの土壌があるのかもしれない......が、ここまでかけ離れてはいない。

 橋元嬢のポリシックの昨年の非常に真面目なレコ評、そのロマンを完全にブチ壊しかねないが、完全に渦中に巻き込まれ、振り回されている僕から見れば、それまでエレクトロやビートと無縁の生活を送っていたミュージシャンの多くが単にどいつもコイツも電子楽器に夢中なのだ。事の発端が果たしてエメラルズにあるのかはいまでは定かではないけれども......故に彼等や僕にとってはベターなアシッド・パターンと4つ打ちですら新鮮であり、何かを間違えながら再構築しているのだ。ポリシックもまたしかり。初期ミー・アミからアイタルへの変遷はそれの最たる成功例ではなかろうか。

 ミー・アミと共に古くから多くのツアーを通じて交流を重ねてきたローブ・ドア(Robedoor)のドラムを叩いていたゲド・ゲングラス(Ged Gengras)は彼等のエレクトロニクスに魅了され、よりモジュラー・シンセに傾倒し、それと暮らしていた僕もそれに夢中になる。気がつくとかつてアイオワの伝説バンド、のラクーン(Raccoo-oo-oon)のメンバーであり、現在はドリップ・ハウス(Drip House)として活動するダレン・ホー(Daren Ho)はNYでコントロールというヒップなシンセ屋をオープンし、消費を加速させる。レコードを買う金は残らない。

 僕はウォーターから送られてきたポリシックのレコードに飛び火するシンセジスの波の強大さを感じずにはいられない。しかし、このウルプフ・ランゼの新作は硬派だ。イグナツなジャック・ローズに代表されるラーガ・フォークロアの系譜にあれど、経験とともに確実に進化している。レーベル・オーナーとして常にオープンな耳を持ちながらもミュージシャンとしてのブレない探求を継続している。それまでの路線を捨ててアッサリとシフトしてしまいがちな印象があるUSシーンと比べ、そのあたりが国民性の違いなのだろうか。

interview with Hotel Mexico - ele-king

 昨年の紙エレキングにおける(筆者は参加していない)ヤング・チームの座談会において、「ヨウガク耳」と題された項目を興味深く読んだ。奇しくも、老害チームの座談会でも紙面には字数の都合でならなかったが、洋楽を聴く若者が減ってきているという話題が出ていたからだ。「若者の洋楽離れ」をおじさんリスナーが危惧するなか、海外の音楽を聴いている20代のリアリティが余すことなく詰められたインディ・ポップが一定の成果をあげているのだとすれば、それはシーンで起こっていることこそが状況を軽やかに刷新していることを示唆しているのではないかと思う。


Hotel Mexico
Her Decorated Post Love

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 だから、ホテル・メキシコがはじめ鳴らしていた無邪気にインディ然としたシンセ・ポップを、僕は戦略的なものではないかと感じていた。ゼロ年代終盤からのディスコ・リヴァイヴァル~チルウェイヴ、あるいはローファイという流れに見事に同調して現れたバンドは、ポップの現在地点がネットを介してシェアされるいまを意識的に射抜いているのだろう、と。だが、実際に会ってみた彼らは、あくまで自分たちの現在を音に反映することでこの音を鳴らしているのだという。この、フェミニンで、スウィートで、夢想的な音を。
 ホテル・メキシコのセカンド・フルとなる『Her Decorated Post Love』は、チルウェイヴ以降拡散していくインディ・ポップのひとつの見事な回答例を出している。ギター・サウンドをより前に出し、80年代ギター・ポップやいまっぽいAOR感をまぶしながら、甘ったるい恍惚はより純度を増しているように聞こえる。メンバー間でのキーワードは「ロマンティック」だったそうだが、訊けばそれもイノセントな感覚だったそうである。自覚と無自覚の狭間でファンタジーを浮かび上がらせるホテル・メキシコは、ポップ・ミュージックのいまを愛することのリアリティを、ごくナチュラルに体現し、謳歌している。

当時の〈イタリアンズ・ドゥ・イット・ベター〉なんかをすごくよく聴いてて、なんかああいうのができればと思って。(石神)

では自己紹介ということで、お名前と生まれ年と、あと去年のベスト・アルバムを教えてください。

菊池:菊池史です。84年生まれです。去年のベスト・アルバムは、たぶんブラックブラックのLPがすごく好きだったので、それかなと思います。

石神:石神龍遊です。84年6月生まれです。ベスト・アルバムは......なにがあったっけ?(笑) あ、トップスのLPがすごく良かったですね。

伊藤:伊東海です。生まれ年は83年。ベスト・アルバムは......えっと、ないですね(笑)。

(笑)メンバー同士でそういう話はあまりされないですか?

伊藤:いまこれを聴いてるとかって話はするんですけど。とくに僕は遅れて聴くことが多いので、いつ出たって話はあまりしないですね。

なるほど。去年のベスト・アルバムを訊いたのは、ホテル・メキシコってリアルタイムのリスナー感覚が音に反映されるバンドなのかなって思うので。ちなみに僕が84年生まれなので、リスナーとして通ってきたところも近いと思うんですね。基本的なことから訊こうと思うんですが、結成が2009年ですか?

石神:2009年ですね。

そのときからメンバーの音楽的なテイストって共通していたんですか?

石神:いや、もうまったくバラバラですね。もともと同じサークルで、バンド活動みたいなことをしているような子たちもいて。メインになってバンドを起こしたのは菊池とかで、「こういう音楽をやりたいな」ってなったときにメンバーを自然に集めていった感じですね。比較的仲のいい子たちで集まって。

当初音楽的な方向性っていうのはあったんですか?

石神:方向性を決めてやってたわけじゃなくて、当時の〈イタリアンズ・ドゥ・イット・ベター〉なんかをすごくよく聴いてて、なんかああいうのができればと思って。いっしょのものをやりたいわけじゃなかったんですけど。

2008年、2009年ってディスコ・リヴァイヴァルがあったりとか、シンセ・ポップが賑わったりって頃でしたね。その同時代の音をやりたいっていう?

石神:そうなんですよ。そこにかなり引っ張られて。

なるほど。その後デビューされたとき、すごく「チルウェイヴ」って単語で説明されましたよね。「日本からのチルウェイヴへの返答」というような。そこに抵抗はなかったですか?

伊藤:抵抗っていうか、「違うよね」っていう話はしていましたね。そこら辺の音は聴いてましたし、反映はされてるとは思うんですけど。自分たちがそれっていうのは、なんか違うよねって言っていました。

その違いがあるとしたら、ポイントはどこにあると思いましたか?

石神:チルウェイヴの定義っていうのがよくわかんなかったですよね(笑)。

菊池:でもたぶん、”イッツ・トゥインクル”を聴いてくれたひとが、チルウェイヴっていうのに当てはめてくれたんだと思うんですけど。ファースト・アルバム全体で言ったら、チルウェイヴ感っていうのはないのかなって。

実際、ウォッシュト・アウトなんかはどうでしたか? メンバーでは人気はありました?

石神:めちゃめちゃ聴いてましたね。

じゃあパンダ・ベアは?

菊池:パンダ・ベアはそんなに聴いてなかったかもしれない。

じゃあ、メンバーの間で当時いちばん盛り上がっていたのは〈イタリアンズ・ドゥ・イット・ベター〉あたりのディスコ?

石神:そのあたりの、暗い感じで踊れるものを聴いてましたね。

なるほど。バックグラウンドはみなさんではバラバラなんですか?

伊藤:そこがほんとにバラバラですね。

菊池:僕は日本の音楽から入って、YMOなんかから買い始めた感じだったんで。洋楽を聴きはじめたのは高校の後半とか、大学入って周りがみんな聴いてたから、影響されて聴き始めたんです。

高校あたりのインディ・ロックですか?

菊池:ほんとストロークスとか。

ですよね。

石神:僕は中学校のときはメタルばっかり聴いてて(笑)。地元のCD屋さんではメタリカとかニルヴァーナとかしか置いてなくて、その後に「これじゃいかんな」とポスト・パンクとかニューウェーヴとかを聴き出して、で、ネオアコとか浅く広く通ってきた感じです。

伊藤:僕はそれこそ、高校だったらJロック育ちですよね。その後ガレージ・リヴァイヴァルを通って、スーパー・ファーリー・アニマルズに会ってからは、自分はポップなものが好きなんだなと気づいて。それからはジャンルを問わずに自分がポップだと思うものを聴いていました。

そのバックグラウンドがバラバラななかで、ホテル・メキシコっていうバンドにはこの音がハマったなって感覚はありましたか?

石神:なんだろうな。当初曲作りそのものはみんなでやるって感じではなくて。個人が作ってきたのを聴いて「いいね」みたいな。音的なものでハマったっていうのは、それこそローファイ的な音色だったりとか。

ヒントになったアーティストっています?

石神:さっき出たウォッシュト・アウトとか。音的なもので言うと。

するとウォッシュト・アウトのEPですよね? 『ライフ・オブ・レジャー』。ウォッシュト・アウトのデビュー・アルバムと、ホテル・メキシコのデビュー・アルバムがほぼ同時に出てるのは面白いですね。じゃあ、ここ数年でメンバー間で共通項としてあったものってどのあたりになりますか?

石神:それはアーティストですか?

アーティストでもシーンでも、あるいはフィーリングみたいなものでもいいんですが。

石神:フィーリングは、ロマンティック。たとえば、僕が今回アルバム作るときに聴いていたのはプリファブ・スプラウトで。新譜だったらキング・クルーとか、ああいうギター・サウンドというか、ロマンティックなイメージがあるものを意識して作りましたね。それはたぶんみんなも共有してたし、作る前に話し合ったりもしましたね。

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いまのシーンがどんなだっていうのは見てますけど、でも今回に関しては「いま」っていう意識ではそんなに作ってない。むしろ「何がいまなのかわからん」って話をしてたぐらいで(笑)。(伊東)

今回はギターが前より出てるなと思ったんですけど、そこに何かポイントはあったんですか?

菊池:単純に曲の作り方が変わったっていうか、前はシンセで作ってたのが多くて、今回ギターを中心に作るのが多くなって、そういうのが集まってきた感じですね。

ちょっと80年代のギター・サウンド的なニュアンスが目立つかなと思ったんですが。

石神:それはあると思いますね。

80s感で言えば、いまだったら、たとえばワイルド・ナッシングスとかどうですか?

石神:好きですね。

いまこの音になるのは「わかるぜ」って感じですか?

石神:ああー。共感できるところもあるけど、彼らは狙ってやってるから。自分たちが取り立てて80sをやるバンドっていう風に思ったりはしないですね。

ホテル・メキシコって同時代の音楽とすごくナチュラルにシンクロしていますよね。それは狙ってやっているんじゃなくて、自分たちのモードとしてやっているとそうなったって感じですか?

伊藤:いまのシーンがどんなだっていうのは見てますけど、でも今回に関しては「いま」っていう意識ではそんなに作ってない。

石神:ほとんど意識してない。

伊藤:むしろ「何がいまなのかわからん」って話をしてたぐらいで(笑)。

石神:たとえば80年代にやってたひとたちって、いまやっているひとたちに比べてハンデがあると思っていて。いまやっているひとたちっていうのは昔の音楽を参照してやれるけど、当時のひとたちは過去を知らずに作っていて。僕らもその感覚に通じているところがあるのかなと。そういう意味では素直に、あまり狙わずに作りましたね。

じゃあ、さっきおっしゃったプリファブ・スプラウト以外に何か参照点があったわけでもない?

石神:うーん。今回はこれを参考にして作ろう、みたいなものはあんまりなかったかなって感じですね。

なるほど。ちなみに前作では?

石神:うーん、前回もなかったかも。最初の入り口は「こういうものがやりたい」っていうのがあったんですけど、最終的に出来上がるときにはまったく違うことを考えながらやっているっていう。

じゃあ、ほんとにシーン的なものは気にしてないんですね。今回、AOR感もあって、それもいまっぽいなと思いましたけどね。

石神:最初、AOR感が欲しいって話をちょっとしたりはしましたけどね。それがたぶんちょっと入ってるんでしょうね。

日本の同世代で、共感するバンドやシーンはありますか?

石神:東京の〈コズ・ミー・ペイン〉というレーベルですね。

ああ、なるほど。それはどういったポイントで?

石神:まあ単純に好きなものがいっしょだったりとか、あと〈コズ・ミー・ペイン〉は海外に対する意識みたいなものが強いですね。そういうところも話していて楽しいし。

日本のインディ・シーンも盛り上がってる印象もあるんですけど、そのシーンの一部にいるっていう意識はありますか?

一同:ないです。

石神:僕はまったくないですね。

伊藤:(日本のインディは)まだ括れるほどはっきりしたものじゃないんじゃないかな、と思いますけどね。

なるほど。同時代のものとリンクしているって感じもあまりない?

伊藤:ないですね。いまは〈コズ・ミー・ペイン〉と仲良くやっていけてるし、お互い好きだし、それでいいやと思ってますけど。最初はいっしょにやるバンドがいなくて困ってたぐらいだし、リンクしている感覚はないですね。

ふむ。じゃあ、アルバムの話に戻ろうと思うんですけど。コード進行とか、音色がフェティッシュな感じがするんですよね。やっぱりすごく、甘いじゃないですか。1曲目の“スーサイド・オブ・ポップス”の最初のコードが聴こえてきたときに「これだ」って思うわけですけど、あれを1曲目にしたのはどうしてなんですか?


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石神:理由はね......ないです(笑)。

あ、そうなんですか?(笑)

石神:僕らアルバムの流れを意識してアルバムを作ってなくって。とくに曲順とか流れは考えていなくて。「これ一発目じゃないな」っていう消去法でいって、あれが残ったっていう感じが強いですね。

あの曲の最初のビートがLCDサウンドシステムの“ルージング・マイ・エッジ”のイントロと似てるじゃないですか。で、そこにあのチルウェイヴ以降を思わせる甘いコードが入ってくるっていうのが、リスナー遍歴を表しているのかな、って勝手に思ったんですけど(笑)。

石神:(笑)そういう風に聴くんだ。そういう想像するのが楽しいんだと思いますけどね(笑)。

そういうのも、自然に出ているんですね。

石神:そうですね。狙ってはなかったですね。

メンバーのバックグラウンドがバラバラななかでも、出るフィーリングっていうのは甘いポップスになるわけじゃないですか。バンドとしてそういう音をやるんだっていうメンバー間でこだわりっていうものがあるんですか?

一同:うーん......。

少なくとも、マッチョな感じはない音じゃないですか。シンセ・ポップ・リヴァイヴァルが出てきたときに、マッチョな音に対する違和感を表現しているって言われたりもしたんですけど。その感じにリンクするというか。根っこにはメタルもあるひとたちなのに(笑)、ホテル・メキシコっていうバンドでやるときに非マッチョな音になるのはどうしてでしょう?

石神:うーん、どうなんだろう。考えたことないな。

じゃあ、ホテル・メキシコっていうバンドは、ストーリーや場景っていう具体的なものよりも、曖昧なフィーリングを鳴らしているんでしょうか?

伊藤:フィーリングなんじゃないですかね。

石神:でもたとえば、こっちがストーリーを作ったとしても、聴いたひとがどういう解釈をしてくれても全然よくって。想像力を刺激できるような音だったり展開だったりっていうのには気を遣っているつもりですね。

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それぞれのロマンティックを持って来いみたいな感じになって。僕の意見では、先ほど言ったみたいに逃避的なものがすごくロマンティックだったりもするし。攻めてるだけが音楽じゃないって思うし。そこに埋もれたものの受け皿みたいなものがあってもいいなって思うし。(石神)

たとえば、多くのJポップにあるような、共感をベースにした歌詞や物語からは遠いところにあるんでしょうか?

石神:でも個人的には、遠くはないとは思うんですよ。そういうものがないと面白くないと思うし。Jポップとの違いで言うと、あれはオリジナリティがないっていうか。

では、歌詞やフィーリングは自分たちに起こっていることですか? それともフィクションが多いですか?

石神:完全にフィクションですね。

それはどうしてなんでしょうか?

伊藤:「普段起こっていることを歌うのはやめとこう」って思わないくらい、そういう実際起こっていることを歌にしようっていう意識はないですね。最初からそれは考えにないです。曲のフィーリングは普段の考えからぱっと出てくるのかもしれないですけど、具体的なことを歌おうっていう考えはないですね。

では、ホテル・メキシコの音楽がドリーミーだって言われることに抵抗はありますか?

石神:まったくないですね。ドリーミーな音楽だと思ってくれたらいいですね。

「逃避的だ」って言われるのは?

石神:それはそれで、逃避したいひとが聴いてくれれば(笑)。

(一同笑)

みなさん自身はどうですか? 逃避的な音楽をやっているっていう意識はありますか?

菊池:そういう部分もあるんじゃないですか?

石神:客観的に見たらそうかもしれないですけど、主観的にはそういう感覚は全然ないんですけど。世間から見たらそうなのかなーって(笑)。

では、少しいやらしい訊き方ですけど、震災以降、音楽に限らずシリアスな表現が増えましたよね。具体的な状況を織り込んで、それに対するステートメントを表明するものが。そんななかで、ホテル・メキシコがやっている音楽はただ逃避的なだけじゃないかっていう批判があったとしたら、それに対する反論はありますか?

伊藤:反論というか(笑)、それに対する反論をする必要があるのかって感じですね。

菊池:そういうひともいますよ、と。

伊藤:そもそも、そのひとがどうして逃避的なものをそこまで否定するのかがまずわからないです。

たとえば、チルウェイヴなんかもすごく議論の対象になって。現実に対する抵抗としての逃避ではなくて、何となくの逃避ではないかっていう意見もあったぐらいで。それだったら、どちらに近いんでしょう?

石神:それは何となくの逃避でしょうね。とくに意識してやってるわけでもないし。それを意識しだすとフィーリングじゃなくなるので。

伊藤:何かをあえて意識してやるっていうのはないですね。

アルバムを作っているときのゴールっていうのは何かあったんですか?

石神:うーん......期日。日程。スケジュール(笑)。

(一同笑)

石神:限られた時間のなかで、どこまでやれるかってことですね。自分たちの目標は立てたわけではなくて、むしろ間に合うかなっていう感じで。

その期日が限られているなかで、いちばん重視したポイントっていうのは?

伊藤:作品全体としてのバランスですね。

菊池:今回はアルバム全体として聴けるものを作りたいっていうのがあったんで。全体的なまとまりを目指しましたね。

石神:トータルして言うと、抽象的だけどやっぱりロマンティックさですね。細かいんだけど、コーラスひとつのエフェクトにしても、1時間かけたりとか、ずーっとやってたりとかして。そのどれが正解っていうのはないんですけど、ギターの音なんかにしても、自分が納得するまでやるっていうのはありましたね。

ロマンティックさにこだわったのはどうしてなんですか?

石神:うーん、気分ですね(笑)。

(笑)でも、そこにメンバーが同調しないとまとまらないじゃないですか。バンドでロマンティックな気分になっていたのは何か理由は思い当たりますか?

伊藤:うーん、でも最初にその話をしたときに異論も出ませんでしたね。僕らも「あ、じゃあそれで行こう」と。すんなりと。

菊池:たしかに、誰も何も言わなかったね(笑)。

じゃあそのロマンティックっていうもののイメージのモデルはあったんですか?

石神:そこについては話し合わなかったですね。

気分として共有しているものだと?

石神:それぞれのロマンティックを持って来いみたいな感じになって。僕の意見では、先ほど言ったみたいに逃避的なものがすごくロマンティックだったりもするし。攻めてるだけが音楽じゃないって思うし。そこに埋もれたものの受け皿みたいなものがあってもいいなって思うし。それぞれが持っているものなんですよね、ロマンティックに対してのイメージっていうのは。そういう意味では、英語のロマンティックに当てはまらないものなのかもしれないですね。

なるほど。ただ、それぞれのロマンティック持ち寄るって言ったときに、メンバー間でそれがバラけることはなかったですか?

石神:うーん、でも意識的なものではなく、かなり漠然としたものなので。そこで乱れるっていうことはなかったですね。

じゃあ、アルバムを作っていくなかで、「この方向性で間違ってないな」って感じた瞬間はあったんですか?

石神:最初に出来た曲が6曲目の“ア・パーム・ハウス・イン・ザ・スカイ”っていうインストなんですけど。それは8月ぐらいから作りはじめていて。むしろ、この曲からロマンティックっていうテーマをインスパイアされた感じも少しあって。そのときにみんな、何となく感じるものがあったっていうか。

それで方向性が出来たんですか?

石神:1曲1曲のモチヴェーションが違うんですけど、共有という意味では、きっかけとしてはこの曲だったかなと。

菊池:軸になった感じはしますね。

その軸が、言葉がない曲だっていうのが面白いですね。

石神:そうなんですよ。

歌詞に、曲ごとのテーマは設けるんですか?

石神:いやそれも、かなり感覚と、デモを作る段階で英語っぽく歌ってるやつを英語に直して、リズム感を重視して。

英語である理由は何なんですか?

石神:それもよく訊かれるんですけど、とくにないですね。

日本語になると意味の部分が大きくなってしまって、フィーリングの部分が削がれるからっていうところもありますか?

石神:それもありますかね。

伊藤:うーん、でも僕が英語詞を作るんですけど。曲のイメージを作ったひとにもらうんですよ。で、さっき龍遊が言ったみたいに、語感であったりイントネーションだったり言葉のリズムだったり、っていうのを考えて仮歌を入れてるんで、それをいちばん大事にして言葉を入れていくんですけど。そのイメージをもらうときに、日本語詞でもらうこともあるので、べつに日本語詞になったからってフィーリングが削がれることはない。

石神:英語のほうがカッコいいからってだけですね。

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作ってるときに水辺の映像を作ったりもしていたので、そういうイメージが強いですね。そういう部分を聴いてほしい。(菊池)


Hotel Mexico
Her Decorated Post Love

BounDEE by SSNW

Amazon iTunes

なるほど。1曲目が“スーサイド・オブ・ポップス”っていう、けっこう意味深なタイトルなんですけど。これはどこから出てきたんですか?

伊藤:これはたぶん、「スーサイド」って言葉を入れたかっただけじゃないかな。

石神:僕らの曲って作り終わったあとにタイトルを決めることが多いんですけど、この曲はすごく暗いなと思って、自分で(笑)。で、僕アイドルがすごく嫌いなんですけど、そういう、表面的にもポップが死んでるみたいなイメージもあったし。アルバム全体のイメージとして、女の子が持つ世界観みたいなものを出したくて。すごくミーハーなものに対しての、アンチまで行かないけど、ちょっと......。そういうのを最後まで結論出さずに、「ま、これでいっか」みたいな(笑)。

(一同笑)

石神:すいません(笑)。

いやいや(笑)。アルバム・タイトルに「ハー(Her)」ってついてるのはその女の子感を出したかったっていうのがあるんですか? 前作(『ヒズ・ジュエルド・レター・ボックス』)との対比っていうのももちろんあると思うんですけど。

伊藤:フェイスブックのホテル・メキシコのページを最初作ったときに、ジャンルに「世界中の女の子を幸せにするような音楽」って書いていたんですよ。ジャンルって縛れないから、そういうふうに書いたんです。女の子が楽しんでいるような感じ、何かしら女の子に行き着くようなイメージっていうのはもともと持っていますね。

その女の子に向けてっていうところにこだわる理由は?

菊池:単純に、PVとか観ててかわいい女の子が出てるといいよね、っていうのはありますよね(笑)。

(笑)でも、重要なところじゃないですか。誰に聴かせるかっていうのは。

石神:女の子ってやっぱ、未知数だと思うんですよね。メンバー全員男だし、女の子の気持ちなんかわからないじゃないですか。でも、女の子目線で作ったらなんか面白いっていう(笑)。その未知数の部分を、僕らはたぶん間違えてると思うんですよ、全部。

イメージとしての女の子っていう?

石神:第三者から見たらそうなんだけど、でもやっぱやってるときは、もちろん女の子になったつもりで。

(一同笑)

石神:女の子の気持ちを最大限に汲み取ろうと(笑)。同じレンズから、こう。

でもそれ、すごく大事なところですね。フィーリングとしては、自分の男じゃない部分を出しているってことですよね。

石神:でも結果としては、男の目線になってしまうというか。

前作で“ガール”って曲があるじゃないですか。で、今回“ボーイ”っていう曲がある。少年少女っていうことに対しての、思い入れはあるんですか?

石神:思い入れはないですね。

菊池:思い入れは(笑)。

いやいや、たとえば思春期的なものであるとか。

石神:ああ。少年少女が持つような、キラキラしたものっていうか、衝動みたいなものの感じ。それはいいなって。

菊池:惹かれるものはあるね。

なるほど。じゃあ、アルバム全体が醸すフィーリングっていうのは? ロマンティックでもいろいろあるわけですが。

石神:そこについてもとくに話し合ってないんですけど、個人的には、ミーハーな女の子が見ている世界みたいなイメージで僕はこのアルバムを聴きますね。

伊藤:僕がこのアルバムに対して抱いているロマンティック感は、出来上がってから感じてるものなんですけど、退廃的なものっていうか。

石神:はははは(笑)。

伊藤:なんて言うんですか、ロマンティックなんですけど、純愛の絶頂期とかは過ぎてますよね、たぶん。

石神:たしかに。それはある。

伊藤:酸いも甘いも経てからの、ロマンティックのような気がしてます。

石神:はじめて知った(笑)。酸いも甘いも経た上でのピュアさ(笑)。

なるほど。それぞれの勝手な女性像が出た結果みたいな(笑)

(一同笑)

では、バンドとしては、不特定多数に向けて音楽を作っているという意識ですか? それとも、ある特定のリスナー層を想定している?

伊藤:でも逆に言えば、不特定多数のひとがどうして聴かないんだろうぐらいの気持ちでやってますけどね。好きでやってますし。でもやっぱり、こういう音楽を聴くひとたちの耳に届かないと意味がないなとは思ってますね。

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何がロマンティックかっていうことを意味づけするのは難しいと思うんですけどね。ただ、目に見える現実だけがすべてじゃないと思ってるんで。その化粧をしているときに、たとえば鏡が喋ったりするとロマンティックになるわけじゃないですか。そういうことがいつ起こるかわからないよっていうか。(石神)

自分たちのリスナーってある程度見えていますか?

石神:いや、正直まったく見えてないです。

たとえばライヴに来ている客層とか。

石神:ライヴの客層はかなり不特定のほうに入ると思いますね。たぶんやけど。

もらったリアクションで面白いものはありますか?

石神:たとえば、ミスチルが好きっていうギャルが、ホテル・メキシコが好きとか(笑)。

ほう!

菊池:そんなのいた?(笑)

石神:いるいる。よくいるよ。

菊池:あとライヴ終わったときに、50歳ぐらいのおっさんから「苦労してんな」って言われました(笑)。

(一同笑)

菊池:「そんな音出ーへんぞ、ふつう」みたいな(笑)。

じゃあ、自分たちみたいに洋楽を聴いている層に向けているっていう意識もない?

石神:まあもちろん、海外にも向けていきたいっていうのはありますけど――。

菊池:まず自分たちが作りたいものっていうものが先にありますね。

石神:とくに誰に聴いてほしいっていうのは考えてないですね。

では、リスナーにどういうときに聴いてほしいアルバムですか? もちろん自由っていうのが前提だとして。

石神:高速で車がパンクしたときに聴いてほしいですね。

それはなぜ?(笑)

石神:なんかこう、イメージとして広い景色を見ながら聴いてほしいかなと。狭いところで壁向いたまま聴くんじゃなくて。

菊池:それはなんかわかる。

石神:開放的な感じで聴いたら、すごく気持ちいいんじゃないかなと思って。でも何でもそうか。

伊藤:ははははは! けっこう共感してたのに(笑)。

菊池:僕もでもけっこう広い景色っていうのはあって。作ってるときに水辺の映像を作ったりもしていたので、そういうイメージが強いですね。そういう部分を聴いてほしい。

伊藤:僕は空いてる電車のなかで聴いてほしい。僕は電車に乗ってるときに音楽を聴くのが好きなので。空いてるほうがいいんじゃないかなと。

そのココロは?

伊藤:単純にイメージしたときに混んでる画が出てこなかったですね。けっこうガラガラぐらいの電車のほうが思い浮かびましたね。

石神:このアルバムを、みんなで聴いてるイメージってなくないですか?

伊藤:それはあるね。一人称だね。

石神:やんなあ。

パーソナルなイメージ?

石神:できれば、かわいい女の子が聴いている感じ。

かわいい女の子が恋をしているとき?

伊藤:いや、恋してるときは――(笑)。

石神:恋しているときは、聴いちゃダメ(笑)。恋が終わったあとですね。

それはなぜ終わった恋なんですか?

伊藤:いや、してるときじゃないと思うんですよね。終わったときか、してないときなんじゃないかなあ。

たとえばロックンロールは基本的には恋のはじまりの歌ですよね。それとは違うものだと?

石神:そうですね。どっちかと言うと、僕ははじまる前ですね。デートする前の家で化粧してるときとか(笑)。そういうときでいい。会ったら聴くなと(笑)。

でも家で化粧してるときだったらすごくワクワク感があるじゃないですか。

石神:まあそうですね。でも――。

伊藤:だから家で戦略を立ててるときじゃなくて?

石神:いやだからね、僕の想像している女の子はね、ギャルとかじゃないよね。娼婦かな。

じゃあ化粧は武装としての化粧なんですか?

石神:いや、武装っていうかね、本人もたぶんわかってない。

(一同笑)

することになってるから(笑)。

石神:することになってるから、やってるだけであって。そういう戦略なんかも考えない、女の子に聴いてほしいなと。

それは面白いですね(笑)。恋愛の最中でないフィーリングをロマンティックと呼ぶのは。複雑な回路が出来てるなと思って。

伊藤:ロマンティックって言っても、恋愛に対して盛り上がってるっていうのではなく。恋にがっつこうとか、盛り上がってるっていうものではないですね。だから僕のイメージだと酸いも甘いも経てしまっているひとのイメージなので、どちらにしても、最中じゃない感じはしますね。

なるほど。じゃあ恋愛の最中のひとが聴くと言うよりは――。

石神:いや、最中でも大丈夫(笑)。でも、このCDを買うひとはたぶん恋愛できない。

(一同笑)

菊池:失礼やな(笑)!

石神:たしかに何がロマンティックかっていうことを意味づけするのは難しいと思うんですけどね。ただ、目に見える現実だけがすべてじゃないと思ってるんで。その化粧をしているときに、たとえば鏡が喋ったりするとロマンティックになるわけじゃないですか。そういうことがいつ起こるかわからないよっていうか。そういう、どこにでもあるものだと思うので。心の美しさみたいなものは。

ファンタジーみたいなもの?

伊藤:それはあると思います。

石神:そういう方向に持っていければいいかなと(笑)。

(笑)なるほど、わかりました。では最後に、バンドとしての野望があれば聞かせてください。

伊藤:そうですね、7インチは去年の春に海外レーベルから出せたんですけど、LPはまだ出せてないので、次は海外からLPを出せるように頑張っていきたいです。

■ライヴ情報

*2013年3月8日(金)

「HOTEL MEXICO "shows in California"」
会場:Insight Los Angels store (LA)
LIVE:HOTEL MEXICO
and premiering new surfing documentary video KILL THE MATADOR
https://killthematador.com/
info : https://www.facebook.com/insightlosangelesstore

*2013年3月9日(土)

「HOTEL MEXICO "shows in California"」
会場:Detroit Bar (Costa Mesa)
LIVE:HOTEL MEXICO / BRONCHO / THE BLANK TAPES
adv : $7
ticket : https://ticketf.ly/Wktl4P

*2013年3月15日(金)

「SECOND ROYAL」
会場:京都METRO
開場:21:00
前売:1,800円 / 当日:2,000円(1ドリンク付)
LIVE:HOTEL MEXICO ※Special Long Set
Guest:OZ Crew (zico / O.T.A. / Yusuke Sadaoka / RIE / nobuyo)
DJ:HALFBY / Handsomeboy Technique / kikuchi(HOTEL MEXICO) / 小野真 / 小山内信介
お問い合わせ:METRO(075-752-4765)

*2013年3月23日(土)

「CUZ ME PAIN × HOTEL MEXICO」
会場:下北沢 THREE
開場:24:00
当日:2,000円(1ドリンク付)
LIVE:THE BEAUTY / HOTEL MEXICO / JESSE RUINS
DJ:YYOKKE(WHITE WEAR/JESSE RUINS) / NOBUYUKI SAKUMA(JESSE RUINS) / TSKKA(MASCULiN) / ODA(THE BEAUTY) / APU(NALIZA MOO) / COZZY(OHIO PRISONER) / ANARUSHIN and more
お問い合わせ:THREE(03-5486-8804 ※16時以降)

SónarSound Tokyo 2013、出演情報第3弾が発表 - ele-king

 エイドリアン・シャーウッドとピンチという大御所から、ロンドン・オリンピック開会式においてもあらためて大きな存在感を見せつけたカール・ハイド、そしてアクトレスやニコラスジャー、ダークスターといった俊英までをきっちり押さえるソナー・サウンド・トーキョー2013。第3弾となる今回の出演者発表ではLFOやジョン・タラボットに加え、日本勢においてもトーフビーツやサファイア・スロウズらが名前を連ね、じつにかゆいところに手の届いたラインナップを見せつけてくれている。今後も映像上映や展示、トークショーなど続報が段階的に発表されるとのことだ。目が離せない!

SónarSound Tokyo 2013 :: 4/6 & 4/7 ::
at ageHa | Studio Coast

ミュージック+アート+テクノロジーの祭典、
SónarSound Tokyo 2013 第3弾出演者発表!

LFO、Shiro Takatani、John Talabot、Toe... 一挙16組の追加アーティストを発表!
そしてRed Bull Music Academyがキュレーションする"SonarDôme"の出演者も明らかに!
そして大阪公演『A Taste of Sonar』開催決定!

一昨年、昨年と二年連続で入場制限までかかるほどの大人気を博した" SonarDôme "今年もRed Bull Music Academyがキュレーションを務めることが決定!

今回もRed Bull Music Academyの卒業後も確実に実力と可能性を拡げながら、精力的に世界中で活躍しているアーティストたちをラインアップ。

日本からは、アキコ・キヤマ、ダイスケ・タナベ、ヒロアキ・オオバ、sauce81、ヨシ・ホリカワが出演。さらに、現在ベルリンを拠点に活動し、サイケでムーディでベースへヴィーなビートミュージックで知られ、昨年<Ninja Tune>との契約が話題となったテクノ・プロデューサー、イルム・スフィア、ロンドンで活動するエレクトロニック・ミュージックのプロデューサー/DJ、OM Unit、UKよりエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーxxxy、そしてアカデミーが縁で生まれたダイスケ・タナベとのユニット、キッドスケより、UKのキッドカネヴィルが来日。世界で4,000通を超える応募者の中から狭き門をくぐりアカデミーへと選ばれた才能が、SonarDômeで炸裂します。Red Bull Music Academyが誇る、最先端の音楽を堪能してください。また、追加ラインナップ等も近日発表しますので、ご期待ください。

*Red Bull Music Academyより特典として、SonarDômeに出演するキッドスケのエクスクルーシブ・トラック「Mighty」が以下URLよりフリーダウンロード!
【2月22日(金) 日本時間 19時より】
https://www.redbullmusicacademy.com/magazine/kidsuke-mighty-premiere


今後も驚くべきハイクオリティなラインナップを続々発表予定。
また映像上映や、メディア・アート作品の展示、トーク・セッションなどなど、今後の発表にも注目!

SónarSound Tokyo 2012 の初日はソールドアウトし、残念ながら会場に行けなかった方もおりますので、お早めにチケットをお買い求め下さい!

■日時
4/6 sat
Open/Start 21:00
LFO NEW
Sherwood & Pinch
Boys Noize DJ Set
Actress
John Talabot NEW
Submerse NEW
Sapphire Slows NEW
and much more...
4/7 sun
Open/Start 14:00
Karl Hyde
Nicolas Jaar
Darkstar
Shiro Takatani:CHROMA NEW
Toe NEW
Green Butter NEW
Tofubeats NEW
and much more...
Red Bull Music Academy presents SonarDôme NEW
Akiko Kiyama, Hiroaki OBA, ILLUM SPHERE, Kidsuke, Om Unit, sauce81, xxxy, Yosi Horikawa and more...

Produced by: Advanced Music / Beatink


■チケット詳細

[前売チケット]
1Day チケット: ¥7,750
2Day チケット: ¥14,500

[当日チケット]
1 Day チケット: ¥8,500

*2DAY チケットは、BEATINKオフィシャルショップとe+、チケットぴあのみでの販売。
*4月6日(土)の1DAYチケット及び2DAYチケットは、20歳以上の方のみ購入可

■前売チケット取扱い
BEATINK On-line Shop “beatkart” (shop.beatink.com)
チケットぴあ(P:189-692) t.pia.jp, ローソンチケット(L:74641) l-tike.com, e+ (eplus.jp),
イベントアテンド (atnd.org) *Eチケット

■注意事項
4月6日(土)は、20歳未満入場不可となり、入場時に年齢確認のためのIDチェックを行います。運転免許証・パスポート・顔写真付き住基カード・外国人登録証のいずれか(全てコピー不可)を ご持参ください。
You Must Be Over 20 Years Old With Photo ID To Enter for 6 Apr (sat) show!

■MoreInformation
BEATINK www.beatink.com 03-5768-1277
www.sonarsound.jp www.sonar.es


■大阪公演決定!!!
バルセロナ発、今や世界的に高い評価を集める最先端のフェスが遂に大阪に上陸!そして2日間のイベントとして開催が決定!日本初となる今回のA Taste of Sónarは、SónarSound Tokyo 2013の出演アーティストの中から特に強力なラインナップを選出し、二つの異なる会場で行われる。
1日目はニコラス・ジャー、シャーウッド&ピンチ、アクトレスはじめ、過去ソナーに出演経験のある日本人アーティスト達が出演。
2日目は、ソロ・アルバムをリリースすることで話題のアンダーワールドのカール・ハイドがバンドと共に出演する他、ダークスター、日本からはアルツが出演。

A Taste of Sónar in Osaka
Day1 4/5 Fri

Universe
open/start 18:00 ticket: tbc
Nicolas Jaar
Sherwood & Pinch
Actress
and more...
Day2 4/8 Mon
Umeda Club Quattro
open/start 18:00 ticket: ¥5,800 Adv.
Karl Hyde
Darkstar
ALTZ

A Taste of Sónar
ソナーのサテライト・イベントとして、これまでロンドンなどでも開催されてきたA Taste of Sónar(テイスト・オブ・ソナー)。本家ソナーのDNAを受け継ぐイベントは、今回の大阪開催が日本初となる。



Fragment - ele-king

 昨年は、キャリア10年にして初のインストゥルメンタル・アルバムをリリースしたフラグメントによる6作目。ブレイクビーツを軸にヒップホップとエレクトロニカを繋ぐ「架け橋」になろうとしているアルバムだろう......か。それは雑多な傾向のミュージシャンを一同に集めたササクレ・フェスティヴァルにも通じている。そして、ササクレ・フェスティヴァルが彼らの趣旨をもうひとつ誰にでも理解できるようなコンテキストに落としこめたとはいえないように、このアルバムもどのような価値観でジャンルを横断しようとしているのか、直観的に把握できるコンテキストは見えてこない。フラグメントというユニット名が示す通り、どこか「断片的」なのである。

 いいところはたくさんある。しかし、なかなか腑に落ちなかったので、この1ヵ月、何度か聴き返しているうちに、ふと逆から聴いてみることを思いついた。そして、「あッ」と思うほどアルバムの表情が変わってしまったのである(すでに持っているという人は一度、お試しあれ)。厳密にいうと、M12、M11、M10、M9、M8、M5、M7,M6、M4、M3、M2、M1の順かな(似たようなことは、過去にパフィのアルバムを聴いていた時にもあった。逆から聴いたら、言いたいことが急にはっきりしたような気がしたのである。フィッシュマンズ『空中キャンプ』でも最初と最後はそのままにして、ほかの曲順をいじくってみるとかなり発見があります。とくに"ベイビー・ブルー"を最後から2曲目に置くととんでもないですから!)。

 ひと言でいえば、フラグメントの考えた構成は内省的な面を隠すような曲順になっている。逆から聴くと、それが剥き出しになる。たまたま、僕も5月にリリースされるホワイ・シープ?『リアル・タイムス』の曲順を考えるはめになり、同じ問題にぶつかっていたので、ここはよくわかるところなんだけれど、少しでも東北大震災や福島原発に触れる部分がある場合、それとは相反する部分から誘っていって、そこに導こうとするよりも、現状はすでに内省や後悔に満たされているんだから、そこから入って違う世界へと導いた方が、自分たちがどう考えているかということが伝わるのではないかと思うのである。『感覚として。+ササクレ』には福島に住む狐火が福島の日常を淡々とラップしている曲があり、これが良くも悪くも重みがあり、それまでの流れを一変させてしまう。現在の曲順では、そうなると、それまでの曲がなかったことのようになってしまう。悪くすると、それまでの陽気さに反省さえ促しているとも受け取れない。

 最初にキャッチーな曲を置くという強迫観念があるのではないかと思う。これは、なにもフラグメントに限ったことではない。リスナーに対する期待値が低くなるのは仕方がないと思える音楽産業の低迷ぶりではあるし、サーヴィスがそれ以上の意味を持ってしまった現状では、ごく当たり前のことがリスクに思えてくるのだろう。しかし、最後のところでリスナーを信じなければ音楽をつくっている意味がどこかに行ってしまうんじゃないだろうか。その通り、僕は少しフラグメントを見失いかけた。それが言いすぎならば、新作で何を伝えたいのか、すぐにはわからなかった。そして、リリースから1ヶ月が経っていた。

 逆から聴いてみる。

 とても優しい雰囲気ではじまる。落ち着いて暖かい気持ちになれる。このまま1時間ぐらい続いてもいいと思っていたのに、急にドアの閉まる音。前の曲の余韻を受けて少しばかり身を引き締めるビート・ナンバーへ。気分が大きく変わることはない。物悲しさが増し、それを待っていたかのように新人の泉まくらをフィーチャーしたM10"このきもち"へ続く。ドアを開けて、しばらく歩いていたら、泉まくらに出会ったような感じ。その日、初めて会った人がこの人でよかったというか。そのことを反芻しているようなインスト曲に続いて、2人目が狐火。いつもなら、どこかでムダな抵抗をわめいているようにしか聴こえない狐火のフロウは、福島の日常を淡々と語ることで、それまではみ出していた部分が整理されたように聴こえ、不思議なほど静かなものに感じられる。冒頭で感じられた優しさがとても残酷なものを内包していたようにも思えてくる。2曲とばしてM5"Individuality?"へ。知らず知らずのうちにのしかかっていた重さから逃れるために、無理のない気分転換を試み、この曲ならそれが可能になる。余韻を打ち消してしまうわけではない。この微妙なニュアンスからM7"Rat Race"へ戻り、まったく意味のないSEをしばらく受け止め損ねていると、なにもかもをひっくり返すようなM6"調整"へ。躍動感に満ちたMacka-chinのラップはすべてを台無しにするほどは振り切れず、むしろデリカシーが狐火との連続性を保障してくれる(でも、少し、暴力的に感じられる人もいるかもしれない)。M4"Sharpens Pendulum"でスラップスティックに笑い転げ、M3"香車"で疾走モード、さらにM2"豚の頭"と、調子にのって飛ばすだけである。難しいのはM1"Rebel Rhythm"の置きどころ。フラグメントらしい曲なので、もったいないけど、外してしまうのも可かな。でも、それじゃ物足りないか......。

 久しぶりに原稿を書いたらレヴューにならなかった。「静かな生活から騒がしい場所へ出てきて、ツラい話でも人の話を聞いたことで、むしろその次に進むことができた」という構成案です。ということは、現在の曲順で聴くと、その逆の展開になるということです。大騒ぎしてたら、やがて、いたたまれなくなって、ひとりで......(すいません)。

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