「Nothing」と一致するもの

Lucrecia Dalt - ele-king

 きわめて感性的な表現を論理的に解題しようとする。その瞬間に、論理だと錯覚されたものが感性として解ける。自立的で意識の高い、アーティスティックで「進歩的」な女性アーティストのもっともエロティックな瞬間だ。ローレル・ヘイローなどにもそれを感じる。もしかするとちょっと意地悪な見方なのかもしれないが、その途端に一気に彼女らの世界にアクセスしやすくなるということがある。これには筆者自身の投影があるのかもしれない。こうしたタイプではなくとも、ジュリア・ホルターやエラ・オーリンズ、メデリン・マーキー、マリア・ミネルヴァ、グルーパー、U.S.ガールズ......女性アーティストの表現における「ロジック」のあり方は、男性のそれよりもずっと細かく彼女たちの魅力を彫り出すものであるように思う。

 そしてルクレシア・ダルトに感じるのはやはり論理のかたちをした感性。彼女らの多くが既存のジャンルによって名状し難いスタイルを持っているのも、そもそも音楽をジャンルとして認識し、受け止めていないからだろう。「(音楽の)スタイルについては考えないの。録音をはじめるときは、ある状態、ある空気のなかに到るための道筋について考えるの。」よって部分的にはミュージック・コンクレート的であり、音響的であり、ポスト・パンク的であり、ノイズ・ポップ的であり、本人が公言するようにグトルン・グートからの強い影響を聴きとることもできる。〈モニカ〉を心からリスペクトしているらしく、同レーベルの女性コンピ・シリーズ『4ウィメン・ノー・クライ』への思い入れも大きいようだ。Vol.3には自らも参加の栄誉を得ている。音は優雅な手弱女(たおやめ)ぶりであっても、それぞれに主張を感じさせるこの「男まさりな」コンピレーションは、まさにダルトが活躍する舞台としてふさわしい。

 アートワークとして用いられている写真は、本作の内容やコンセプトに深く関わっている。家々をのむ恐ろしい砂嵐は合成やグラフィックスではない。1930年代にグレートプレーンズを襲った最悪のダスト・ストーム。黄砂だ黄砂ではないと騒いだ先月の異様な天候など比較にも値しない、まさに悪夢のような光景である。第一次世界大戦が直接的な引き金となり、ぎりぎりまで農地開拓が進められた結果、大地を覆っていた草がむしりとられてしまった。そのために嵐が大量の砂を巻き込むようになった。やがてフランクリン・ルーズベルトによってそうした環境を修復すべく特別なプログラムが政府によって発表されるにいたるのだが、ほとんど10年のあいだ、土地の人々はこれに苦しめられることになり、大量の移住者を生み出した......そうした歴史的な災害を記録するフォトグラフである。土地とコミュニティのあり方を根本から引っ掻き回したこの出来事を題材として用い、ダルトはアルバムのタイトルを『コモタス』としている。ラテン語のようだが、意味は「扇動」「覚醒」「動乱」。苦痛や悲しみの記憶としてではなく、物事を揺り動かす契機とするようにこの写真を解釈するのはなかなか剛毅な態度である。そして本作は勇ましい音遣いなどではなく、粗く汚れたような色合いの音響とさまざまなサウンド・コラージュ、深くリヴァーブのかけられたヴォーカル、そして特徴的なベースによって静かに、繊細に、まさに砂地が持つ熱のように表現する。

 構築物というよりはもう少し気まぐれに寄せ集められた音がゆらゆらと揺曳するなかを、すっきりとしたベースが舵をとって進んでいく。ラテン風の旋律をゆったりと、どこか不穏な調子で奏でながら、耳ざわりのよいコーラスをのせて、いつ終わるとも知れない旅路をゆくような佇まいを見せている。"シレンシオ"ではジュリア・ホルターがハーモニウムで参加。大真面目でとぼけるような、柔らかくて人のいい、肉厚な情感が彼女らしいが、この荒涼とした世界観においてはどこかミスマッチで、それがまた異様な魅力を付け加えている。「ゴーストと生命の間で凍結した音楽」。そうした半死半生の世界を描いたというのは本人の弁である。

 リリースは〈ヒューマン・イヤー・ミュージック〉。主宰はアリエル・ピンク周辺の人物でもあり、ジュリア・ホルターの彼氏だという話については確かなことは知らないが、ダルとはこうした人脈図と〈モニカ〉とがクロスする地点に浮かび上がる今日的な宅録女子の例として、興味深いアーティストである。現在はスペインに住んでいるようだが、生地コロンビアを離れて異国に住まうなかで、土地を離れて生きる魂のモチーフを見つけたのかもしれない。

interview with Jesse Ruins - ele-king


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

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 「日本人ということはわかっているが、 女の子か男の子かは定かではない。ただ、彼らの音楽は圧倒的に素晴らしい」──『ガーディアン』はジェシー・ルインズのデビューにそのような賛辞を送っている。同紙いわく「性のサインを持たない、不定形で、中性的な音楽」、ゆらめくジェンダー、そのドリーム・ポップは、想像癖のあるリスナーの関心を集めている。
 顔の見えない男女の写真もミステリアスなイメージを膨らませた。彼らは東京にこだわってはいるが、トゥーマッチな情報世界からは静かに身を引いている。いまごろはモノレールに揺られながら夕日を眺めていることだろう。ちょっとしたファンタジーだ。言葉を主張しない歌が、黄昏に響く。

 以下のインタヴューを読めば、チルウェイヴとは何だったのかがよくわかる。その正体、その真の姿、それはブロガー文化が最初に純粋な高まりを見せた2009年の、ほとんど瞬間的に成立したデジタル民主主義がもたらしたひとつの成果だった。ジェシー・ルインズはその恩恵を受けた日本人のひとりである。
 僕がジェシー・ルインズを好きな理由のひとつは、彼らがインディ・シーンの動きに敏感で、自分たちでもDIYでやっているところにある。
 彼らは、とくにUSのインディ・シーンに触発されている。3年前はチルウェイヴにどっぷりハマって、そしていまがある。彼らはそういう自分たちの経験や気持ちを決して隠さず、いつでもざっくばらんに話してくれる。ジェシー・ルインズが生まれる土台となった〈コズ・ミー・ペイン〉は、カセットテープとアナログ盤しか出さない。日本では、おそらくその手では、唯一のレーベルだ。

 ジェシー・ルインズは、2011年に〈コズ・ミー・ペイン〉からカセット作品を出すと、2011年12月、ロンドンの〈ダブル・デニム〉から7インチ、2012年にはブルックリンの〈キャプチャード・トラックス〉からミニ・アルバム「ドリーム・アナライシス」をリリースしている。
 このたび、西海岸の〈レフス〉から出る『ア・フィルム』が正式なファースト・アルバムというわけだ。バンドのメンバーはサクマ(Nobuyuki Sakuma)、ヨッケ(YYOKKE)、ナー(Nah)の3人だが、ほとんどはサクマがコントロールしている。

 3人は、物静かで、シャイだが、わりと気さくな人たちである。週末の夜、下北沢のレコード店で待ち合わせをした我々は、店を出ると人通りの少ない通りの、若者で賑わっている値段の安いカフェに入った。生ビールを注文して、それからスパゲッティー、フラインドポテト......。

「Gorilla vs Bear」という『ピッチフォーク』の次ぐらいに影響力があったサイトでしたね。最初は〈フォレスト・ファミリー〉から連絡がありましたね。「すぐに出したい」って。多いときは毎週違うレーベルからオファーが来てました。毎日違う話が来るので、ジェシー・ルインズのメールアドレスを載せるのは止めましたね。

ジェシー・ルインズはどうやって結成されたの?

ヨッケ:もともとは完全に佐久間君のソロでしたね。〈コズ・ミー・ペイン〉を立ち上げたときに、ファロン・スクエア(Faron Square)、エープス(AAPS)、そして、佐久間君のナイツ(Nites)があったんですね。最初はその3組でスプリットを作ろうと思ったんですけど、それでは面白くないからコンピレーションにしようと。でも、コンピレーションを作るには曲数が足りない。で、それぞれがソロを作れば2倍になるから、なんとかなるだろうと(笑)。

はははは、その話憶えているよ。

ヨッケ:そのときに佐久間がジェシー・ルインズという名義を作ったんです。そのときは......、なんて言うんだろう、アンビエント、ドローンじゃないけど、ディスコ・パンクも混じって、雑多なものでしたね。

いま流行のインダストリアル調な感じもあったよね。

サクマ:最初は、別名義の名前を考えただけで、インダストリアルもそんなに意識してないけど、作ったらあんな感じなったんです。

"If Your Funk"という曲ですね。

サクマ:メロディもなにもない曲ですよね。

サクマ君のなかには新しいアイデアがあったの?

サクマ:いや、何もない。ただ、コンピのために名前を作っただけ。どちらの曲もナイツ名義で良かったんです。コンピのときは、名前を考えただけです。

『CUZ ME PAIN COMPILATION #1』だよね。

サクマ:はい。2010年ですね。

ヨッケ:6月? 8月? 夏ぐらいだったよね。

サクマ:2010年の年末に、ザ・ビューティとスプリットでカセットを出そうとなって、「じゃあ、ジェシー・ルインズでやろうかな」と。ザ・ビューティにとってもそのときのメインは、ファロン・スクエアだったんですね。その次にアトラス・ヤング名義でもやってて......ややこしいんですけど、ザ・ビューティという名義は優先順位で言えば、いちばん下だったんですよね。僕は、ナイツ名義だったから。だから、自分たちのメインではない名義で何かをやろうという、単純な発想ですね。俺はその頃は、DJやるのもナイツ名義だったし。

なるほど。

サクマ:で、そのカセットを出したのが2011年の1月だったんです。それを瀧見(憲司)さんが買って、そこからザ・ビューティが出てくる。そのあと、僕も、春ぐらいかな、"ドリーム・アナライシス"という曲を作って、それが「Gorilla vs Bear」とか、海外のサイトに載って、そこからですね、海外のレーベルからオファーがやたらたくさん来るようになったのは。

どうして載ったんですか?

サクマ:僕が送ったんです。「Gorilla vs Bear」に。mp3のサイトで、〈フォレスト・ファミリー〉というレーベルもやっているんですけど、そのときは『ピッチフォーク』の次ぐらいに影響力があったサイトでしたね。テニスを発掘したのもそのレーベルでした。最初は、〈フォレスト・ファミリー〉から連絡がありましたね。「すぐに出したい」って。それから、多いときは毎週違うレーベルからオファーが来てました。

それはすごいね(笑)。

サクマ:すごかったですね。毎日違う話が来るので、ジェシー・ルインズのメールアドレスを載せるのは止めましたね。それで、〈レフス(Lefse)〉からアルバムを出したいというオファーをもらったんですけど、曲数がぜんぜんなかったので、「いますぐに出せない」と言ったら「マネジメントをやりたい」と言われて。海外事情もわからないので、手助けしてもらえたら嬉しいということで、マネジメント契約を交わしました。UKの〈ダブル・デニム〉から7インチを出すのはそのあとですね。

そのEP、「A Bookshelf Sinks Into The Sand / In Icarus」が出たのは?

サクマ:2011年の12月です。

そのときに『ガーディアン』が新人コーナーで取りあげたんだ。

サクマ:ちょうどリリースのときですね。〈ダブル・デニム〉の人から「来週ぐらいに『ガーディアン』に載るから」って言われて。

あれはびっくりしたよね。あのアー写が良かった。NAHちゃんも格好良かったよ。

ナー:梅ヶ丘で撮ったヤツ(笑)?

顔が写ってないの。あれは想像力を掻き立てられるものがあったと思うよ。

サクマ:そこまで考えていないけど、そのときは顔は出さないほうが良いなとは思った。何人だってわからないほうが面白いだろうし、受け手に勝手に想像してほしかった。

ジェシー・ルインズという名前が良かったよね。音楽と合っているというか。女の子の名前でしょう?

サクマ:男の子の名前です。

ナー:女の子は、JESSIEなんです。

ああ、そうか。海外からのメールって、オファー以外ではどんなメールがあった?

ヨッケ:amazingが多かったよね。

サクマ:あとは、brilliantとか。そういう単純な感想ですね。でも、やっぱ、そういう感想よりも、業者みたいな人から「ツアーを組みたい」とか、「曲を使いたい」とか、それが異様に多かった。

ヨッケ:個人ブログへの掲載許可みたいな内容のメールも多かったよね。

それそれ、それがまさにチルウェイヴというムーヴメントの正体だよね。インディ・ミュージックをブログで紹介するということのピークがチルウェイヴだったんだよね。

サクマ:そうですよね。

ヨッケ:それは無茶苦茶あったと思います。

だから、コズ・ミー・ペインが日本のチルウェイヴの代表みたいな言い方は当たっているんだけど、それはどういう意味かと言うと、そうした、2010年ぐらいのインディとブログ文化との連動にアクセスしていたっていう意味で、チルウェイヴなんだよね。音楽性で言えば、ウォッシュト・アウトとコズ・ミー・ペインがそこまで重なっているとは思えないし......。そもそもサクマ君の音楽的なルーツって何なの?

サクマ:ハードコアや、ポスト・ロック。

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とにかく退廃的で、ずっと夕方みたいな感じの音楽をやろうと思ったんです。だから、描きたいのは、雰囲気ですね。


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

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自分の音楽制作に影響を与えたものってある?

サクマ:いまでも昔の音楽に影響を受けているわけではないんですよね。常に新しい音楽のほうが好きなんで、新しい音楽に影響受けてます。

音楽を意識的に聴きはじめた当時の影響は?

ヨッケ:それ、俺も知りたい(笑)。

サクマ:とくに何かひとつのアーティストがすごい好きだったという感じではないんですよね。あー、ジョン・オブ・アークは好きだった。シカゴ音響派は好きでした。20歳とか、大学時代でしたね。でも、いまもハードコアは聴いてます。高校生のときは好きだったから。

ヨッケ:コズ・ミー・ペインはみんな趣味がバラバラなんですよ。僕はアヴァランチーズが好きだった。レモン・ジェリーとか。サンプリング・ミュージックが好きでしたね。

ナー:私は、2004年~5年にイギリスに留学してたんですよね。

ま、まさかリバティーンズ・ギャルだった!?

ナー:その世代の後のもっとアングラなバンドばかり観ていました。ただ、私は、UKロックからの影響のほうが大きかったですね。日本に帰ってきたらは、どんどん古いほうに興味がいって、ゴシック・パンクとか、ポジパンとか......ヴァージン・プルーンズとか、80年代の音を探したり。

すごい(笑)!?

ナー:クリスチャン・デスとか。

はははは。

ヨッケ:ホント、みんな趣味が違っているんですよね。

UKから帰ってくると、何かやらなきゃっていう気になるよね(笑)。

ナー:ホントにそう。私も、帰ってすぐにイヴェントはじめた(笑)。

はははは。ところで、〈ダブル・デニム〉から出たときには、ジェシー・ルインズの音楽の方向性は固まっていたの?

サクマ:「Gorilla vs Bear」に音源を送ったときには、もう「これだ」という感触はありましたね。

〈ダブル・デニム〉の次は、2012年2月の〈キャプチャード・トラックス〉からの12インチ『ドリーム・アナライシス』だよね。

サクマ:〈ダブル・デニム〉からのリリース前に、〈キャプチャード・トラックス〉からオファーがあったんです。同時に3つのオファーがあったんですよね。そのなかで〈キャプチャード・トラックス〉はインディのレコードを買ってる人間からしたら特別なレーベルだったんです。

『ドリーム・アナライシス』のときはもう3人だった?

サクマ:ライヴは3人でした。ただ、ヨッケはまだサポートだったので、メンバーは最初は2人でしたけど。ライヴをやりたかったんですよね。

ナー:コズ・ミー・ペインが梅ヶ丘でやっていたパーティに友だちに連れて行かれたんですよね。それで知り合って。

サクマ:ナーは僕がこういう人がいいなって考えてた理想像に近い人だった。あと、メンバーにするなら、もともと友だちじゃないほうが良いなというのもあったんです。コズ・ミー・ペインの周辺じゃないところにいる人が良いと思っていた。

共通する趣味は何だったんですか?

サクマ:わからなかったですね。2~3回会ってから、誘った。

ヨッケ:2011年の夏前ぐらいだったね。

サクマ:初ライヴは2011年の12月でしたね。〈ダブル・デニム〉からシングルが出て、すぐぐらいでしたね。渋谷のラッシュというところでした。夏前から半年弱くらい3人でスタジオ入ってひたすら練習してました。

ヨッケはドラム経験者?

ヨッケ:いや、それが初めてでした(笑)。

サクマ:俺もぜんぜんバンド経験がなかったし、彼もドラム経験ないし、彼女だけがバンド経験があった。でも、彼女もヴォーカルは初めてだった。だからもう、素人バンド(笑)。

サクマ君とナーちゃんの2人で録音した最初の曲は何だったんですか?

ヨッケ:『CUZ ME PAIN compilation #2』の曲(Hera)じゃない?

サクマ:基本的には僕が曲を作っているんですが、一緒に作っているってことはないですね。曲を作って、ヴォーカルを入れてもらう。だから......これは言っていいのかな......。

ナー:はははは。

ヨッケ:ああ、そういうことか。

ええ、意味ありげな、なにが「そういうことか?」なの(笑)?

サクマ:どうしようかな......。

ナー:はははは。

サクマ:正直に話すと、彼女のヴォーカルを入れたのは今回のアルバムが初めてです。〈ダブル・デニム〉や〈キャプチャード・トラックス〉からの音源は、実は僕が曲も作ってヴォーカルをやって完パケまでやっている。女の人の声になっていますが、実は僕の声を加工して、編集したものなんです。ただ、そこをずっと隠していたんです。あたかも彼女が歌っているように。

『ガーディアン』でも「androgynous(中性的)」とか、「we have no idea whether Jesse Ruins is a boy or a girl(ジェシー・ルインズが男の子なのか女の子なのは我々は知らないが)」って紹介されていて、やっぱそこは、すごく引っかかるところだったんでしょうね。

サクマ:まあ、わかる人にはわかったと思いますけどね。ただ、その編集した声と、実際の彼女の声が似ているんですね。すごい偶然なんですけど。だから、ライヴを聴いている人には、本当に彼女が歌っていたんだと思っている人もいたと思います。

へー、面白い話だね。それでは、今回の『ア・フィルム』は3人のジェシー・ルインズにとっての最初の作品でもあるんだね。

ヨッケ:とはいえ、ほとんどがサクマ君が作っていますけどね。僕は録音を手伝ったり、1曲だけアレンジを担当して、マスタリングを手伝った。

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ぜんぜんバンド経験がなかったし、彼もドラム経験ないし、彼女だけがバンド経験があった。でも、彼女もヴォーカルは初めてだった。だからもう、素人バンド(笑)。


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

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ジェシー・ルインズが描きたいものは何でしょう? 何らかのムードやアトモスフィアを描きたいのかなと思っているんだけど。

サクマ:海外のサイトでは、よくM83と比較されるんですけど、好きですけど、ぜんぜん意識したことない。モデルにしているようなアーティストがいるわけでもないんです。最初のイメージとしてあったのは、ソフィア・コッポラの映画と『ツイン・ピークス』の雰囲気が混ざった感じでしたね。

ヨッケ:ソフィア・コッポラは音楽の使い方がうまいですからね。ニュー・オーダーとかストロークスとか。

エールとか?

サクマ:『ヴァージン・スーサイド』ってよく言われるけど、『ロスト・イン・トレンスレーション』です。「Gorilla vs Bear」に送った音源は、あの斜陽な感じと、それから『ツイン・ピークス』のダークな感じを出したくて作りましたね。

ヨッケ:インダストリアルなM83みたいなことを言われたんですけど、ニュー・オーダーの影響を受けているのがM83なんで。

ああ、そうか、ニュー・オーダーって映画から知っているんだね。

サクマ:とにかく退廃的で、ずっと夕方みたいな感じの音楽をやろうと思ったんです。

はははは。

サクマ:だから、描きたいのは、雰囲気ですね。

そうだよね。歌はあっても、言葉がないもんね。そこはすごく徹底しているというか。

ナー:ライヴをやっているときも、自分でも無茶苦茶エフェクトをかけていますからね。

アルバム最後の曲なんかは、ヴェルヴェットみたいだけど、もっと抽象的だよね。ああいう文学性はないしね。

サクマ:もともと歌い上げている音楽は好きじゃないんで。歌が中心にある音楽が好きじゃない。音が部分としてあるほう好きなんで。シンセと歌メロは同じなんです。

声も楽器のひとつという言い方は昔からあるんだけど、それとも違っているかなーと思うんだけど。あと、8ビートじゃない。ほとんど8ビートだよね。

サクマ:そこは気にしていない。わからないから。僕がそれしかできないってだけなんです。打ち込み能力がないんです(笑)。ただ、もし能力があったとしても複雑なことはやらないかと思いますね。

ニュー・オーダーの"ブルー・マンデー"よりもジョイ・ディヴィジョンのほうが好きなんでしょ?

サクマ:ああ、そうですね。僕はジョイ・ディヴィジョンのほうが好きです。意識してなかったけど。

ヨッケ:8ビートだから僕が叩けたっていうのもあるね(笑)。

はははは。

サクマ:中学生用のバンドスコアですね。

いま日本のロック・バンドって、なんであんなにみんなうまいの?

ヨッケ:真面目なんだと思います(笑)。ドラムは過去にやったことがまったくなくて、YMOの"CUE"という曲があるんですけど、最初はあの曲の坂本龍一の叩くストイックなドラムのコピーからはいりました(笑)。

ナー:初めて知りました(笑)。

はははは、練習した?

ヨッケ:練習はしませんでしたが、研究はしました。

サクマ:うまくなくても良いんですよ、僕は。自分たちがスタジオ・ミュージシャンみたいにうまかったら、面白くないと思うんです。

『ア・フィルム』というタイトルにしたのは?

サクマ:収録曲が、映画のタイトルや登場人物の役目などを文字って付けているんですよ。完全に自己満足の世界ですね(笑)。最初は、タイトルは「ジェシー・ルインズ」でいこうと思っていたんですけど。

それいいじゃん!

サクマ:でも、『ア・フィルム』のほうがリスナーが勝手に想像できるかなと。曲もそんな作り込んでないんです。もう、ばーっと作った感じ。作り込んでしまうのが嫌なんです。

ヨッケ:2ヶ月以内でぜんぶ作ってましたからね。

海外ツアーの予定は?

サクマ:今年はそれが目標ですね。『ドリーム・アナライシス』のとき、ツアーの話は2回くらいあったんですけど、中止になりましたから。アルバムが出るんで、今年はやりたいな。日本国内のツアーはします。

ライヴはいまのところ何本くらいやってるの

ヨッケ:20本ぐらいかな。多いときは月に2回はやっています。

サクマ:次のライヴでは4人組になるかもしれないね。

新メンバーが?

ヨッケ:ドラマーが入って、僕がギターその他を担当するっていう。

レーベル的には新しい動きはある?

ヨッケ:コズ・ミー・ペインの新しいコンピレーション、『#3』を出します。

良いですね。コズ・ミー・ペインは、さっきのチルウェイヴの話じゃないけど、ブログ文化で支えられながら、フィジカルではアナログ盤とカセットのみという、そこもチルウェイヴの人たちと同じだったよね。

ヨッケ:そこは自分もひとりのリスナーとして、そうでないと嬉しくないというか、残るものにしていというのがありましたね。ネット・レーベルが全盛ですけど、僕らがそれやったらすぐ終わっちゃう気がするんですよね(笑)。やっぱ、アナログやカセットみたいに、手間暇かけてやるからこそ、続ける気になるというか。そういうのが単純に好きなんです。

サクマ:お金ないんですけど(笑)。

ヨッケ:お金ないんですけど(笑)。

 サクマは、コールド・ネーム名義でも最近、カセット・レーベルの〈Living Tapes〉から作品を出したばかり。また、ジェシー・ルインズの視聴はココ→https://soundcloud.com/lefse-records/jesse-ruins-laura-is-fading

■5月26日『ア・フィルム』リリース記念のパーティがあります!5/26(sun) at 渋谷Home
Cuz Me Pain
-Jesse Ruins "A Film" Release Party-

OPEN 18:00予定

Live
Jesse Ruins
Naliza Moo
and more...

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DJ MASA a.k.a conomark - ele-king

これからもずっと好きであろうアルバムあげてみました。2013年もどうぞよろしくです!
twitter ID:conomark
Facebook ID:Masatake conomark Koike

all times best


1
Chico Hamilton - The Dealer - Impulse!

2
The Tony Williams Lifetime - Turn It Over - Polydor

3
Niagara - Niagara - Mig

4
Art Blakey - Holiday For Skins - Blue Note

5
V.A - The Garage Years - 99 Records

6
NEU! - NEU! - Gronland

7
Herbie Hancock - Dedication - CBS/SONY

8
The Watts 103rd Street Rhythm Band - In The Jungle Babe - Warner Bros

9
WAR - Young Blood - UA

10
Donny Hathaway - Live - Atco

DJ KAMATAN (PANGAEA) - ele-king

DJ schedule
4/6(土) @名古屋KalakutaDisco
4/13(土) @神戸 Bapple
5/3(祝) @仙台PANGAEA with Universal Indiann
5/25(土) @仙台PANGAEA with 山仁
6/5(水) @仙台 ADD
6/6(木) @江ノ島OPPA-LA with ラビラビ
6/8(土) @仙台 ADD
6/14(金) @仙台PANGAEA with DJ 光
6/29(土) @仙台PANGAEA with ラビラビ&ALTZ

仙台PANGAEA
https://pangaea-sendai.com
https://twitter.com/KAMATAN6
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本日のレコードバッグ(順不同)


 
Seekers International - The Call From Below - Digitalis

 
Ivano Tetelepta & Roger Gerressen - Floating Ep - Fasten Musique

 
Abdulla Rashim - Semien Terara - Abdulla Rashim Records

 
The Soft Walls - The Soft Walls - Tough Love

 
Lando Kal - Let You In The Sky - Icee Hot

 
Paul Woolford - Can't Do Without - Phonica

 
To Rococo Rot - He Loves Me(Four Tet Remix) - City Slang

 
Beat Conductor - I Can't Go For That - Spicy

 
Behling & Simpson - Where The Oh's - Apple Pips

 
Hollie Cook - Prince Fatty Presents Hollie Cook In Dub - Mr Bongo

Lapalux - ele-king

 音や声の構成の多様性に耳を奪われる。
 国分純平のライナーノーツによれば、ラパラックス(スチュワート・ハワード)はカセット・テープとともに育ってきた。「いつだってカセットの音が好き」な人らしい。このアルバムもカセット・テープの早回し音のイントロではじまり、早回しではないがテープのアウトロで終わる。
 カセット・テープといえば、近年はダンス・ミュージックやヒップホップのミックス・テープの文脈で語られることが多い。しかしこのアルバムの音楽は「まずビートありき」ではない。
 制作テクノロジーをヒップホップ、ハウス、その他のダンス・ミュージックと共有しており、音楽的にそういう要素も使われていないわけではないが、ビート以上に音や(歌)声が思いがけないタイミングや色彩で入ってくるのがおもしろい。
 全体の見取図が先にあるのか、手作業を積み上げてこういう音楽になってくるのか、いずれにせよ凝った編曲は、クラブ/ダンス・カルチャー以前の音楽とのつながりを強く感じさせる。
 アルバム・タイトルはノスタルジー+シックの意味。意識して音楽と向き合いはじめたのが世紀の変わり目のころという今年25歳のアーティストのノスタルジーが、いくつもの時代にまたがっているところが、重層的な情報の中で生きざるをえない今の音楽らしさだろう。
 女性の歌声や男性のファルセットがフィーチャーされているが、いずれもさまざまな形に加工されている。カセット・ダビングをくりかえして劣化したような、深夜のラジオから遠い国の電波に乗って聞こえてくるような声や音が、人間関係が間接化されていくことへのおそれと同時に安堵をも感じさせる。
 せつないアルバムだ。

interview with Tatsuhiko Nakahara - ele-king

 さて、今回の主役はアーティストではない。イヴェンターである。いっぷう変わったスタイルで注目を集めるライヴ・イヴェント〈月刊ウォンブ!〉(https://gekkanwomb.com/index.html)の企画者、仲原達彦氏に話をきかせてもらった。
 音楽産業の昨今をめぐっては、CDなどのフィジカル・リリースが苦戦をつづけるのに対し、大型ライヴ・イヴェントへの動員が増えているといった話が好んで取りあげられるが、仲原はそうした産業構造の変化を捉え颯爽とイヴェント業界に新規参入を果たした風雲児......とかではない。彼が活動するのは、もっと地味で、もっと儲からないフィールドだ。しかもその規模については、当人が明確に「自分の目の届く範囲」という限定を加えている。筆者がおもしろいと思ったのはこの独特の尺度である。

 仲原が企画するイヴェントは、アーティストありきの公演スタイルではなく、そこにひとつの場所性を生むことを優先するものであるように見える。たとえば〈月刊ウォンブ!〉は月1開催・12回完結という異色のライヴ・サーキットだが、この連続性のなかで〈ウォンブ〉はまるで場所のように機能しはじめる。毎月そこに行く。行くとこのイヴェントのコンセプトをゆるやかに共有した他のリスナーがいる。「○○が出るから観にいく」というよりも〈ウォンブ〉に行く、という感覚が芽生えはじめている印象だ。趣味のコミュニティのような雰囲気に近いかもしれないが、もちろん会員制などではないし、どんな動機で観にいってもかまわない、かつ出演者のタイプも多彩だから、ほどよい流動性と距離が保たれる。それぞれにとっての「行きつけ」となる可能性が入口に横たわっている。

 また、そこに集まる客とアーティストとオーガナイザーという三角形のなかで、やりたいことや金や充実感などがストレスなく回るような、三方一両得なシステムが模索されているようにも感じられる。詳しくは以下のインタヴューを読んでいただきたい。アートや音楽とそのマネタイズにまつわる問題は根深いが、それぞれに理想的な状態や条件を捨てずに運営できるサイズと方法が、たとえば〈ファクトリー〉のころには無理でも、いまならあるかもしれない。(こうしたことに異なった立場と方法で取り組んでいるひとりには、たとえば〈マルチネ〉のtomad氏などがいる。※ele-king vol.7参照)

 ......等々ということがらが、仲原の言う「自分の目の届く範囲」においてなら可能なのではないか。もちろん、仲間内のサークル活動ならば同様の動機によって発想されたものがほとんどだろう。しかし、商業的なイヴェントにこの単位を持ち込むのは難しい。両者は背反する原理を持っている。そのフィールドのなかで「自分の目の届く範囲」だからこそ守り、豊かにすることのできるものを、仲原ははっきりとつかまえている。そしてそうしたものが大切にされていること自体が、じつにいまらしい価値観であると感じられる。大規模イヴェントひとつの価値に、こうしたイヴェントひとつの価値が劣るということはない。むろんどちらにもそれぞれの楽しみがあり、欠点もあるだろう。単純に比べることはできないのだが、音楽イヴェントが提供できるもののなかで、音楽以外の部分が持っているたくさんの可能性について、彼らの活動はまだまだ多くを示唆している。

 仲原は大学在学中から複数のイヴェントを形にし、年若くして企画力も行動力も持ち、何よりも活動の根本にはっきりとコンセプトや理念を据えている青年だ。東京では毎夜たくさんの音楽イヴェントが開かれていて、そこにはさまざまなイヴェンターの思いや苦闘や工夫が、同じだけさまざまな形態と規模をもって展開されているわけだが、その一隅で芽吹きはじめた彼と彼らの活動に注目してみたい。

 では長くなりましたが、どうぞ本文を。収録は〈ウォンブ〉の第2回が行われた2月末。すでに第3回が行われた後のタイミングになってしまって恐縮だが、印象は変わらない。フロアにひとりとして知り合いはいないが、オオルタイチのノイズのカーテンを「やってる?」とくぐることができた。

月1開催・12回完結。〈月刊ウォンブ!〉とは?

僕は企業にいるわけでもないんで、ずっとつながっていてくれる人たちや環境があるというのはありがたいですね。

第1回めってシャムキャッツの印象も強かったためか、華やかでフレッシュな、ロック・バンドらしいバンド・サウンドをメインにした夜、という印象がありました。新しくて勢いのある存在をフック・アップしようという。

仲原:若くて男くさい感じですよね(笑)。初回は元気をつけたいなと思って。

あ、やっぱり「連続もののなかの初回」という意識があったんですね。それに対して第2回はシンガー・ソングライターの系譜を軸にしつつ、もっとじっくり歌とかムードを楽しんでもらおうというディレクションがなされていたと思います。実際にはブッキングについてどんな狙いや意図があったんでしょう?

仲原:そうですね、〈月刊ウォンブ!〉は12回あるわけじゃないですか。なので同じ傾向でずっとやっていくと、そこから外れることに不安が生じてくると思ったんです。変化させることが難しくなるといやなので、まずは最初の2~3回でできるだけいろいろなことをやろうと。試行錯誤の途上ですね。

3月はオオルタイチさんから柴田聡子さんまで、またヴァリエーションが広がりましたね。

仲原:はい。でも振り幅をさらに広げても大丈夫だという自信が生まれてきましたね。

実際すごくしっかり考えられてますよね、イヴェントの構想として。いい悪いは別として、イメージやヴィジョンを持たない企画も多いわけじゃないですか。

仲原:しっかり考えないとバレちゃいますから。何も考えてないなって。ただ集客が期待できそうだから組む、というのでは飽きられるし、僕自身がやってて楽しくないですね。スタッフ含め全員が楽しい状態でやりたいんですよ。

まさに次に訊きたかったことなんですが、〈月刊ウォンブ!〉って全12回完結ですよね。長いサーキットなわけです。そんなふうにあらかじめ回数が決まってたりとか、会場をリングに見立てる演出があったり等々、イヴェントありきではなくて、イヴェントをやる意義そのものを問い直そうというような気概を感じるんですよね。そもそもこのイヴェントの構想がどんなふうに生まれてきたのか、そのなかに何を見ているのか、教えていただきたいです。

仲原:本当にはじめのことからお話しすることになるんですが、僕が去年、一昨年とやっていた〈プチロックフェスティバル〉からはじまると思います。〈TOIROCK FES〉というのもやっていました。どちらも普段ライヴをやるような場所ではないので、ゼロからイヴェントを作っていました。〈プチロック〉は日芸(日本大学藝術学部)の学園祭でやるフェスで、学校の力を借りず個人で企画してました。〈TOIROCK〉のほうはさいたまスーパーアリーナにTOIROってスペースができて、そこのオープニングで5日間何かやれないかということで生まれたイヴェントです。
(2012年)12月の〈TOIROCK〉をWOMBのなかのライヴ事業をやっている部署のかたが観に来てくれていて、こういうイヴェントができないかという相談を受けたんです。
僕自身、既存のライヴハウスでやることにはそんなに興味がなかったのですが、熱心にWOMBのスタッフの方が声をかけてくれて。12月の中頃に下見に行って、「もしかしたら変なことできるかもなあ」って思って、そこから現実的に考えはじめました。1回だけのイヴェントだとテンション上がらないな、と思ったので、やるなら1月から毎月、1年間やるのはどうだろう、という話をして。WOMBで毎月ライヴ・イヴェントは誰もやってないことなんじゃないかなと思って、徐々にやる気がでてきました。
WOMB(ウーム)って最初は読めない人が多いと思うんです。実際僕もそうでした。なので読み間違いである「ウォンブ」というイヴェント名をつけました。

さらに「ウォンブ」と『週刊少年ジャンプ』って似てるし、響きもいいなというところから〈月刊ウォンブ〉に。どうせならフライヤーもマンガにしたいと思って、『シティライツ』等の作者、大橋裕之さんにお願いしました。友人のイラストレーター、ゴロゥちゃんにお願いして、『ジャンプ』みたいなウォンブ・ロゴも作ってもらって。そういった作業が全部面白かったですね。
イヴェントのフライヤーって、イヴェントが終わると価値がなくなるじゃないですか。かわいければ取っておくけど、大抵捨てられちゃう。でもマンガになっていると捨てるどころか、わざわざ遡って集めてくれる人までいるんですよ。次も欲しくなるし。こういうフライヤーって無かったなと思います。
あと、これは初めて言うんですが、12ヶ月分のフライヤーを綴じる「表紙」を12月の月刊ウォンブでご来場者全員に配布します。このマンガにだけ興味あって集めてる人もいるかと思うんですが、いつかイヴェントにも来てくれるとうれしいですね。

なるほどー。そうやってお訊きしたあとからこじつけるわけではないんですが、極端に言えばライヴというかたちを通したひとつのインスタレーションというかね、終幕とともに表紙をそれぞれが綴じるという、参加する側の行為によって完結するリレーション・アートみたいな側面があると思うんですよ。演者を観せとく、っていうものとは根本のところが違うと思うんですね。そういえば、日芸のご出身なんですか? なにか日芸コネクションというか、大学で会った仲間や知り合いが活動の母体になってたりします?

仲原:いや、あんまりいないんですよね。日芸の映画学科なんですけど。脚本コースってところがけっこうヒマで、よくライヴに行ったんです。そこでU-zhaanさんとかと仲良くなって、ライヴのお手伝いをするようになって、音楽の仲間も増えていきました。それで〈プチロック〉につながっていくんですが、そこで集まってもらったチームとほとんど変わっていませんね。アイディアを出してくれたり、発想や嗜好が近い人たちに集まってもらいました。仕事ができるというのはもちろんですが、おもしろがってくれる人を大事にしたいと思って。この3年間でだいぶチームとしてできあがってきたし、さらに今年の12回でまとまりも強くなっていくだろうなと感じています。〈プチロック〉で募集した学生のボランティアの人たちは十数人残ってくれてますし、すごく助けられてます。

イヴェントってスタッフと協力体制がとっても重要でしょうからね。

仲原:僕は企業にいるわけでもないんで、なおさらですね。ずっとつながっていてくれる人たちや環境があるというのはありがたいですね。

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〈roji〉というキー・ワード

〈roji〉は結構ゆるくて適当で、つながりを強要されずに自然にみんなが集まってくる場所なのがいいですね。

わたし自身、日本や東京のインディ・シーンに詳しいわけではないのですが、〈阿佐ヶ谷Roji〉ってひとつのキーワードになっているのかなと感じることがしばしばあるんですね。〈月刊ウォンブ!〉もフードの提供が〈Roji〉ってしっかり明記されてるんですけど、このイヴェントの本質をある部分から照らす存在なんじゃないかと思うんです。それについても後ほどうかがいたいんですが、まず〈Roji〉について紹介してもらってもいいですか?

仲原:ああ、なるほど。〈Roji〉っていうのは、ceroの高城くん(vo.)とお母さんのルミさんがやっているお店ですね。高城くんって、僕の大学の先輩なんですよ。時期はかぶってはいないんですけどね。大学1年生のときからceroのライヴによく行くようになって、〈Roji〉にもよく行くようになって、2011年の6月くらいに声がかかって週1で入ることになりました。〈Roji〉はシャムキャッツの夏目くんとか、王舟とか、他にもたくさんのミュージシャンが集まってくる店でもあるので、その界隈のミュージシャンと仲良くなりました。〈Roji〉で働くようになってから知ったミュージシャンも多いです。結構ゆるくて適当で、つながりを強要されずに自然にみんなが集まってくる場所なのがいいですね。
2月の〈ウォンブ〉のフードのことも、「火曜メシ出さない?」って店長のルミさんにきいたら「いいよー」ってふたつ返事で決まって、そんなくらいの気負わない店なんですよ。だから、僕にとっても大切な場所だけど、何か組織として機能している場所って感じではぜんぜんないですね。生活の一部くらいな感じです。

ああ、なるほど。その生活の一部だっていうような感じで、表には見えなくてもコンセプトの底の方に隠れてるものなんじゃないかなって思ったりしたんです。ひとつのカフェやバーという場所を起点にしてゆるやかに音楽コミュニティが形成されているっていうこと、しかもそれがいくつかのアーティストの成功によってそこそこ大きいかたちでシーンのなかに存在感を示しはじめている、そういうのはいまどき珍しいなと感じるんですよね。この数年はとくにネット・レーベルとかネット上のプラットフォームを利用して、様々なコミュニティとか刺激的な表現が生まれてきてると思うんですが、そういうものに比較して、地域性やリアル空間でのコミュニケーションに根ざして生まれてきているシーンを、仲原さんはどのように見ていらっしゃるんでしょう?

仲原:なんだろうなあ。〈Roji〉だけじゃなくて、阿佐ヶ谷ってベッドタウンみたいなところなので、わざわざ遊びに行くというよりは帰りに一杯飲んで帰る、みたいな雰囲気は良いですよね。ミュージシャンばっかりじゃなくて、ライヴ好きな若い音楽ファンも多くて、さらにお互いの距離が近い感じはあります。はたからみたらコミュニティだけど、内部ではそこまで意識してるわけではなくて、趣味の近い人が集まってるって感じですね。今回こんなふうに指摘されて、そういうこともあるなと気づいたくらいで。
ただ、たしかにイヴェントには〈Roji〉のお客さんも多いんですよね。べつに特に意識して呼びかけたわけじゃないんですけど。あとは〈TOIROCK〉〈プチロック〉もネットでしかチケットは買えなかったんですけど、唯一リアルな場所で買えるのは〈Roji〉だったりはしましたね。それも僕がバイトしてるから売りやすいってだけだったんですけど、もしかすると、無意識に〈Roji〉という場所の作用が働いていたりするのかもしれないですね。

〈ウォンブ〉が12回完結になることには様々な偶然や条件も働いたわけですけれども、やっぱり持続する場所性――1回きりじゃなくて、そこが「場所」であるということがどこかで意識されているんじゃないか、その意識の底には〈Roji〉みたいなものが原型としてあるのではないか、そんなことを感じるんですよ。

仲原:それは僕が2月のイヴェントを終えたときにすごく感じたことのひとつですね。すごくいい場所になったなあと思っていて。1回目じゃわかんなかったんですけど、2回目は「あ、この人前回も来てくれてたな」っていうのがあったし、「また来月ね」みたいなやりとりとかも聞こえたり、そういう人たちがまた新しい人を連れてきてくれたりっていうことを感じました。毎月1回の、みんなの決まった用事、みたいなことっていままでなかったなって。

ああー。

仲原:それはすごくうれしい言葉だし、こちらが強要するわけでなく、また来月ここに集まろうねっていう場所を作れているのならいいなって思います。来月の出演者に興味がなくても来てくれるとか。「場所」を作ったなっていうのは、ちょうど昨日ライヴが終わって感じたことですね。ツイッターとかを見てもそう思いました。「前より音よくなってるじゃん!」とか。前との変化をみんなが楽しんでくれて感想を言ってくれるのはすごくうれしいことでした。「ステージのかたち変わってたじゃん」「今回煽りVTRないの?」とか(笑)。

○○が出るから、というのではない動機が生まれている。

仲原:そうです。だんだんそうなっていけばなって思ってたのに、2回目からみんながそれを意識してくれている。僕以上に。だからけっこうびっくりしてますね。そうして場所っぽくなることに。

わたし職業的に問題がありますけど、ライヴって得意ではないんですよ。そこにいるだけで気が散ったり緊張してしまうし、演奏だけ観たい。ましてアーティストのMCに笑うとかそんな余裕がない。けど〈ウォンブ〉ってわりとつられて笑ったりできるんですよね。だから内輪かそうでないかギリギリのところで、でも排外的じゃない感じのインティメットな空気が流れていて、けっこう居心地がいいんです。それはやっぱりうまく場所を作れているということなんじゃないですかね。出演アーティストの種類だけで作れるものではない。

仲原:そうですね、僕だけでも作れませんしね。あそこの雰囲気を作っているのはお客さんがいちばんかなと思います。僕らが楽しんでいるということも大事なんでしょうけど、お客さんの感じがいいです。みんなずっと楽しそう。特定アーティストのときだけ観る、という感じじゃないですしね。〈プチロック〉も〈TOIROCK〉もそうで、本当に音楽が好きなお客さんたちなんだなって。それに毎回助けられています。

金と人間関係。すべてのコミュニティはかなしく滅びる!?

このまま続けて、結果を出したいと思ってます。このやり方で誰もが大丈夫っていう状態をつくれてはじめてイヴェントだというか......。とりあえずまだ諦められないですね。

あえて悪くきこえるかもしれない質問なんですが、ネットと違って、いまいったような「場所」の維持ってけっこうなコストがかかると思うんですよね。それは経済的にもそうだし、人間関係においても出てきたりするものではないか、一般的には。多くの音楽コミュニティやそれを母体にしたレーベルも、わりと悲しい歴史をたどっていたりしますよね。いくらマーケット・システムに、音楽や人間関係といった貴重な財を絡め取られないようにってがんばっても、たとえば〈クリエイション〉のアラン・マッギーとかも苦闘しつつレーベルを潰すわけだし、「アーティストに最大限のバックを」って考えてたトニー・ウィルソンの〈ファクトリー〉なんかも同様で、そういう顛末はみんなすでに物語になってるくらいです。そういった歴史に鑑みて、なかなか音楽コミュニティの永続というのは難しい。わたしは〈ウォンブ〉に12回という縛り、時限が設けられているのを興味深く思っているんですが、どこかでコミュニティとその限界みたいなものについての嗅覚が働いていたりするんでしょうか? 経済的な部分について、また人間関係的な部分について、お考えがきければなと思います。

仲原:いや、経済的なところはほんとにいろいろありますよ。お客さんや演者にはなるべくそこは意識させないようにって思っています。隠すという意味ではなくてね。この12回もいろいろ大変だっていうところはもちろん見えているわけで、正直そこはもう少しどうにかしなければいけないという意識があります。スタッフにも還元したいですしね。それはやる側のモチヴェーションにもつながる大事な話です。
 ではたとえば入場料を上げるのか? 3000円にすれば簡単なことではあるんです。けれどそれをやるとせっかくの「場所」をつくるという部分が損なわれてしまう。節約できる部分だってあるでしょうね。たとえばリングを特注していますが、あれにもすごくお金がかかっている。でも12回のイヴェントのそもそもの根本を考えて、必要だと判断しているわけです。ここはほんとに難しくって......。

いや、でもそこに挟まって苦闘されている話をこそききたいというか、それによって勇気づけられる人もいるでしょうし、たとえばここで仲原さんが斃(たお)れても、それを越えていく人のための大事な礎になると思うんですよ。音楽とかイヴェントにとって一種の理想主義はとっても重要なものですし、それがどのように達成され、あるいは失敗してしまうのか......達成してほしいですし、提示された音楽性とはまた別の部分で、この行く末って注目したいところです。

仲原:やっぱり、正直なところ経済的な部分は見せたくないって面もありますよ。普通のお客さんなら気にしないところだとは思いますけど。

じゃあ極端ですけど、究極的には貧乏しても理想を通したい? それとも儲からなければ理想も意味ない?

仲原:僕は、理想を通して儲からないかなって思ってます(笑)。

ああ、偉いですね。

仲原:このまま続けて、結果を出したいと思ってます。12回あるわけだからこのなかでどうにかしていきたい。僕はこれに賭けているという部分もあるので、〈ウォンブ〉がうまくいくかいかないかというのはとても重要です。おもしろいと思ってくれている人がいても、結果が出なかったり、誰かが過度に苦労したり、スタッフが困ってしまうような状況になったとすれば、それは続けないほうがいいんだと思ってます。このやり方で誰もが大丈夫っていう状態をつくれてはじめてイヴェントだというか......。とりあえずまだ諦められないですね。

うーん、応援したいです。一方で、イヴェントのもうひとつの柱である音楽的な方向性についてなんですが、やっぱり、〈ウォンブ〉も演奏を観せるだけではなくて、新しいアーティストや音を紹介していく場を兼ねてもいるわけじゃないですか。「こんなシーンがある」っていうのは、アーティストたちがそう名乗るわけじゃなくて、われわれメディアやイヴェントやファン・コミュニティなんかが歴史にしていくわけですよね。

仲原:そうですね。いまはピンときてないんですが、いつか「こんなシーンがあった」って語ってもらえたらうれしいなとは思います。

ぼくらに最適なサイズとは?

僕にとっては、僕自身の手の届く範囲のなかでやりたいということがいちばん大きいです。自分の手の届ききらないものになってしまったら、たぶんやめちゃうと思います。

ところで、またちょっとあえてネガめの質問なんですけど、このイヴェントが大きくなっていく未来があったとして、大きくなることは、ある意味で異物を巻き込んでいくことでもあると思うんですね。もしかするとわたしだってそうかもしれないですが、もっと無責任に参加してきて、悪意のある非難をする人も出てくるかもしれない。ステージの規模を上げるっていうのは、そういう危険を呼び込む可能性も高くなるということです。どうでしょう? それでも大きくなっていくべきなのか、そうなったときに守りたいものが何なのか、それにおいては規模を上げる必要もないということなのか。

仲原:うーん、異物を排除していきたいという気持ちはないです。実際に大きくならないとわからない部分はあるんですが、でも、うーん......あんまり気にしてないですかね(笑)。でも、僕にとっては、僕自身の手の届く範囲のなかでやりたいということがいちばん大きいです。自分の手の届ききらないものになってしまったら、たぶんやめちゃうと思います。顔が見える範囲でやっているのが楽しいし、大きくなっちゃったとしてもたぶんそのレベルが変わらないところまでというか。それに、このまま大きくなっていけるのかもしれないし。

そうか、そうですね。それは確かにいま考えることではないですから。でも「手の届く範囲」というすごくシンプルな、でも根本的なものさしを意識されているというのが印象的でした。その範囲においては問題というかブレは起こらないと。

仲原:そうですね。今回のイヴェントだって批判をする人はいるでしょうし、もちろんそれは受け入れていきます。ただそれに引っ張られるわけではなくて、僕はやっぱり、やりたいことをやりながら、いつかその人たちにも納得してもらえるようなものを目指していきたいですね。

やっていることも方法も違いますけれども、たとえば〈マルチネ〉のtomadさんたちなんかも、やりたいこととお金の問題と、それをどうアーティストやまわりに還元していくかということに対してとても繊細な工夫と挑戦をされていて感心するんですよ。イヴェントとレーベルでは役割も活動するレイヤーも違いますけど、そのへんの音楽とお金の構造をめぐっては、ぜひ妥協せずに実験なさってほしいなと思います。でかいビジネスにするんじゃなくて、アーティストにもスタッフにもユーザーにも理想的な状態や条件を捨てずに続けられるサイズと方法が、〈ファクトリー〉のころには無理でも、いまはあるかもしれない。それは音楽にとってもいいことのはずです。

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入場料とは何か

イヴェントを楽しめる/楽しめないということは料金設定にも関係しますから。モトが取れた感覚があると楽しい。

仲原:アーティストへの還元は僕も悩みながらいろいろ考えているところで。今回はチケット代をちょっと安めにして、そのかわりフードとか物販を大きくしたんですよ。物販ってその場でダイレクトにアーティストにお金がいく場所なので、けっこう重要だし、そこでひとつの還元が可能になるんです。CDショップだとそうでもないかもしれないけど、お客さんからしてもライヴ会場の物販でお金を払うときって、アーティストに直で渡してる感覚が強いと思うんですね。ライヴ・チケットが3000円だとすると、1000円のものを買うのに躊躇しちゃうけど、2000円だったら1000円くらいは財布のひもも緩む。だからその意味でも僕のイヴェントはできるかぎり入場を安く抑えようと思ってるんです。
 〈プチロック〉の入場料は1500円なので、ほんとに物販がすごく売れるんですよ。たくさん持ってきた物販が全部なくなってるとかってことが結構あって。お客さんの意識が高いのもありますが、これはすごいなって思います。来て、何か買うっていうスタイルがスタンダードになってほしいですね。CDだけだと見に来ないかもしれないけど、フードやフリマがいっしょに並んでると、ちょっと物販のぞこうかなという気にもなる。あまりたくさん出演料をお渡しできるイヴェントではないので、そのあたりの工夫でアーティストに少しでも還元したいです。

ああ、それは新鮮ですね。ストレートに入場料からではなく、物販への誘導という別ルートから還元のシステムをつくる。みんなやってることなんですか? オリジナルなアイディア?

仲原:どうなんでしょう。わざわざそういう話をしあうということはないんですが、僕には経験的な体感としてあったんですよ。入場料1500円なら確実に物販が売れる、っていうのは。それから、〈トイロック〉は2000円ですけど、そのうち1000円分はフード・ドリンク・チケットにしたんですよ。3000円でライヴだけだと、「3000円分ライヴ楽しまなくちゃ」って思っちゃうけど、その分何か付いてるとちょっと違ってくる。「あれ? 俺たちほとんどメシ食いにきただけじゃん?」っていうのもいいと思うんですよね。

チケット代のなかに入場以外のサーヴィス代も含まれていると感じられれば、楽しみ方も変わってくると。USとかだと、ライヴハウスがただのレストランみたいなところだったりして、出てるのが誰か知らなくても食べに来て音を聴くっていいますしね。

仲原:何か手本があってはじめたわけではなくて、ほんとに実感からはじめたことなんです。でもお金ってほんとに微妙で繊細なものでもあって、もし入場料で3000円とってたら、もっとイヴェントへの批判もあったかもしれませんね(笑)。そういうものだと思います。イヴェントを楽しめる/楽しめないということは料金設定にも関係しますから。モトが取れた感覚があると楽しい。

なるほど(笑)。もちろん、音楽だけでもそれは可能だと思うんですが、イヴェントというものの別のあり方をとても意識していらっしゃる、とくにそれが、音楽を聴く場であることを超えた居場所となることを考えておられるから出てくる発想だと思うんですよね。

仲原:だからといって、フリー・イヴェントが成功するということでもない。そこは自分がやることになったとしても、お客さんの目線でどうやって楽しめるものにするか考えます。

小規模ながら「フリマ」があるのも楽しかったですよ。文化祭みたいな手作り感で入りやすいし、かといって閉じた感じもなかったですね。物販っていう制度を押し付けられるわけでもなくて、参加型というか。やる側と観る側とスタッフの三角形のなかで、どうやって快適さとお金を回していくのか、まだ未完成なんでしょうが、そういう大きめのヴィジョンが感じられました。

仲原:フリマは基本的に僕の知り合いにお願いして出展してもらってるんですが、僕も当日まで何が出るとか把握しなくて、毎回すごく楽しみなんですよ。ライヴの転換中にフリマのフロアが賑わってるのを見るのもすごくうれしいし、楽しい。もしかしたらこういうのをいろんな制度とか、型にはめてやっちゃうと楽しくなくなるのかもしれないですね。

リングが可視化するもの

(リングに)ロープもつけてセッティングしたときに興奮しましたね。あれはまだまだアップグレードできるし、僕はお金をかけていくところだと思ってるんです。

仲原:あとはプロレスのリングのことですね。あれは単に、今年の1月4日に新日本プロレスの〈1.4〉に連れて行かれて、めちゃくちゃ感動したのがきっかけなんです。東京ドームだったんですけど、すごく興奮して。 格闘技は好きだったんですけど、WOMBでイヴェントやるってなったときに、真ん中にステージ置きたいなって思ってたのもあって、つながりましたね。次の日には僕の知り合いにプロレスの衣装を作っている人がいるので、その人に相談しました。その人の奥さんは内装のデザイナーみたいなことをされていたので、3人で話して、リングを特注しようということになりました。

えー。すでに本番2~3週前じゃないですか?

仲原:実際に話を進めたのは1週間前からで(笑)。制作期間は4日間で、当日の朝仕上がりました。もうどんなんができてるんだ!? って状態です。1本1本はただの鉄の棒なので、迫力もないし、大丈夫かなって。でもロープもつけてセッティングしたときに興奮しましたね。あれはまだまだアップグレードできるし、僕はお金をかけていくところだと思ってるんです。

へえー! そこですか(笑)。

仲原:もっと進化させます。誰も期待してない進化ですけどね(笑)。音響とかは僕もすごく意識して、よくなるように取り組んでますけど、映像とかリングとかって誰も進化することを想定してないと思うんですね。そこをよくしていくと「あ、変わった」っていう反応がくると思うんです。

これは意図したところではないかもしれないですけど、やっぱりライヴってステージという線があるかないかで別のものに変化すると感じました。観る側がステージというものを意識すると、どうしてもアーティストにこうべを垂れるというかたちになる。もちろんその構図はぜんぜん悪いものではないです。ですけど、そこにあの一本のロープが張られることで、あっちは見せ物だぞという感じが強調されると思うんですよね。極端な話、観客がゼロでも成立するのが音楽です。でもあのロープは、観てるやつがいないと成立しないぞ、ということを意識させる。客が優位になって、前のめりな参加ができる。

仲原:ちょっと喧嘩腰ですよね(笑)。

野次がいい感じに飛んでますよね。

仲原:そうですね、盛り上がるところで盛り上がってもらえるようになったなというか。そういう感じはありますね。

そうそう、音楽にとってそれが最良の聴かれ方だという意味ではなくて、イヴェントの魅せ方、楽しませ方としてやっぱり斬新なものはあると思うんです。

仲原:最初にミツメの映像が流れたとき、みんなポカーンとなったと思うんです。何だこれ? みたいな。でもビーサン(Alfred Beach Sandal)が悪役として出てきて、最後にシャムキャッツが現れたときには、異様なヒーロー感が出てたんですよね。それぞれが何かを残したわけではなくて、ああ、これプロレスを真似てんだなってお客さんが理解してくれるなかで、勝手にそういう見え方ができていくというか。シャムキャッツのときには花道に行ってハイタッチしてる人たちもいましたから(笑)。お客さんが楽しみ方を見つけてくれるということを感じて、すごくうれしかったし、あの仕掛けはそういうものなんだなって思いました。カメラマンがリングサイドからカメラでぐいってのぞき込んで撮ってるのも、そのまんまプロレスじゃねえかよ! って感じで楽しかった。

きっとリングは最初に思っていたこと以上の効果を持っていると思いますよ。

仲原:そうですね。きっかけはただプロレス観に行ったというだけだったんですけどね。不思議な気持ちがします。あんなに機能するとは思ってなくて。リングだけじゃなくて、WOMBっていう会場の力に助けられている所もたくさんあります。映像を大きく映せるので、SphinkSさんとmitchelさんに協力してもらってリアルタイムVJを投影してます。めちゃくちゃカッコいいですよね。あと全フロア、普段のWOMBではあり得ないくらい照明を明るくしていて、そのおかげか未来都市みたいな、不思議な雰囲気になりました。フロアが多いのもWOMBの魅力なので、そういった良さは全て活かしたいです。あと毎月、来月のウォンブのチケットを会場内に隠していて。WOMBを隅々までじっくり見て欲しくて(笑)。

なるほどー。ではちょっとインタヴュー・ドキュメンタリーみたいなシメになるんですが......そう儲かるわけでもない、苦労も多い、いってみれば裏方でもあるこんな取り組みを続けているのはなぜなんでしょうか?

仲原:これがいまやれることだから、ですかね......。僕が少しでも求められてるなって感じる場所でもあるし、同年代で同じようなことをしている人もいないから、やるべきことなんだろうなという気がする。12月までウォンブを続けるのは、そうスケジュールを決めちゃったから、というだけですね。なんかしまらないなあ(笑)。

ele-king vol.9  - ele-king

〈特集1〉「新工業主義――ニュー・インダストリアル!――」
現エレクトロニカのちょっぴり危険な新傾向を探る。
〈特集2〉花田清輝     他

Takako Minekawa & Dustin Wong - ele-king

「エフェクターの魔術師」なる『インフィニット・ラヴ』(2010)の秀逸な国内盤帯文を、多くの方が記憶しているのではないだろうか。元ポニーテールのダスティン・ウォングと、彼がファンであることを公言する嶺川貴子とのコラボ作品をご紹介しよう。カラフルで表情豊かな音色を持つウォングのギターと、透明感ある嶺川のヴォーカルが見事にはまったハッピー・エクスペリメンタル・ポップ。音といい世界観といい、コラボ作というにはあまりに息の合ったアーティスト同士であることがこのPVからも感じられる。ポニーテールの音色を穏やかにくすませたような内面的な響きは、ここに出てくる淡い色調にもよく反映されている。
 ふたりはこの5月に共作『トロピカル・サークル』をリリースするが、ジャケット等に使用されている絵も共作、このPVも彼らの手作りだという。嶺川のアルバム・リリースは『Maxi On』以来じつに13年ぶり。ウォングの繊細にして大胆な演奏のなかに嶺川の自然な呼吸が感じ取られる、新緑の季節にちょうど似つかわしい作品だ。

■リリース詳細
https://www.artuniongroup.co.jp/plancha/top/takako-dustin-toropical-circle/

Sam Lee - ele-king

 貧民街の公園というのは単なる空き地であることが多いため、ジプシーやトラヴェラーと呼ばれるキャラヴァン生活者の滞在地になりやすく、年に数回、うちの近所の公園もパイキーと呼ばれるアイリッシュ・トラヴェラーの方々に占拠される。
 で、数年前のクリスマスのことだ。ちょうどその時期、パイキーの方々が近所の公園に滞在しておられ、降誕祭の朝、カトリック教会のミサに大挙してやってきたのである。それでなくとも子沢山で大家族の彼らが一堂にやって来られたものだから、教会の椅子は足りない&彼らが貧民街在住者ですら気後れするようなタフでラフな雰囲気を漂わせておられるため、博愛なはずの教会でも明らかに歓迎されている風ではなかったが、彼らの方でもそれに慣れきっている様子で、ぞろりと教会後方の床の上に座っておられた。
 カトリックのミサには答唱詩篇という聖歌を歌う部分があり、それは平坦なメロディで何度も同じ祈りの文句を歌い倒す、というものなのだが、そこにさしかかったとき、聖堂の後方からこぶしの回ったバリトンで歌いあげるパイキーの男性たちの声が響いてきた。  
 あの大地の底から沸き上がってくるような答唱詩篇は、クラシック系の声で歌われる聖歌とはまったく別ものであった。一曲の聖歌の中で、クラシックとフォークがせめぎ合っているかのようだった。クラシック風の歌唱法をしているのが前方に座っている貧民街在住者たちで、後方から野太い民族歌謡の声を聞かせているのがトラヴェラーズ。という構図も面白かった。

           ************

 サム・リーは、英国内のイングリッシュ、アイリッシュ、スコティッシュ、ルーマニア系トラヴェラーのコミュニティに伝承されているバラッドのコレクターである。彼が自分の足でトラヴェラーの滞在地に出向いて行って、そこで代々歌い継がれて来た歌を学び、新たなアレンジを施して録音したものが『Ground of Its Own』だ。わたしはそれがとても好きだったので、昨年末、紙エレキングで個人的な2012年ベスト10アルバムを選んだとき、3位に入れた。で、そのアルバムが3月に日本でも発売されたというので、こうして再びしゃしゃり出て来たわけだが、このアルバムを初めて聴いたとき、これはマムフォード&サンズのアンチテーゼだと思った。昨今流行のポップなネオ・フォークに対する、「どうせやるならここまでやってみろ」という力強いステイトメントに聴こえたからだ。

 トラヴェラーズ。という英国社会における明らかな被差別対象の人びとが伝承してきた歌を集めてアルバムを作った、などというと、ちょっとプロテスト・ソングのかほりもするが、サム・リーはそんな直情的な意思は微塵も感じさせないほどアーティーでミニマルな民族音楽の世界を展開している。そもそも、フォークのくせにギターが使われていない。サム・リーは、ギター・ベースのフォークには探求できるものはもうほとんどないと考えているそうで、"TUNED TANK DRUM"とリストに書かれている打楽器や、ジューイッシュ・ハープ(彼はユダヤ系である)、フィドル、トランペット、電子楽器などを使用しており、ギグで日本の琴を使っているのを見たこともある。クラウトロックやアンビエントと比較されるようなアレンジが施された曲もあり("The Tan Yard Slide"の「電子と土とのせめぎ合い」みたいな静かな緊迫感と迫力は特筆に値する)、ジャズとジプシーの伝承音楽を融合させようとしているような曲もある("On Yonder Hill")。

 とはいえ、それらのインストルメンツやアレンジメントは、単なる脇役に過ぎない。
 ロンドン北部の裕福なユダヤ系家庭に生まれ、名門プライベート・スクールに通い、チェルシー・カレッジ・オブ・アートに進学した彼は、芸術系お坊ちゃまのルートを辿りながら、野生環境でのサヴァイヴァル術を教える講師となり、バーレスク・ダンサーとしても働いていたという。「乳首にタッセルを装着している女の子たちに囲まれ、楽屋のテーブルの下で昔の羊飼いたちが歌った曲を覚えていた」と『ガーディアン』紙に語った彼は、伝承歌を教わったというルーマニア系ジプシーの85歳の老女と共にインタヴューに応じており、老女が『Ground of Its Own』を「あなたの音楽」と呼ぶのを聞いて、「いや、あれは君たちの音楽だよ」と言い直している。
 人びとに避けられ、忌み嫌われてきたコミュニティの音楽が、ひとりのミドルクラスの青年の手によって蘇る。ということは、通常、この国のソシオ階級的なものを踏まえれば、あり得ないほど特異な話だ。しかし、それを可能にしたのは双方の音楽への情熱だろうし、その階級を超えたパッションこそが、このアルバムの真の主役だとわたしは思う。

Cosmopolis - ele-king

 アリエル・ピンクも大好きなデイヴィッド・クローネンバーグ監督の新作『コズモポリス』が面白い。今作はニューヨークはブロンクス生まれの小説家ドン・デリーロが、まるでその後起こる「リーマンショック」を予言していたかのように、2003年に発表した同名小説の映画化。デイヴィッド・クローネンバーグはこの原作に惚れ込み、わずか6日で脚本を書き上げたという。

 ロバート・パティンソン演じる主人公エリック・パッカーは、FXや株の投資で巨万の財を築いた人物。しかし、ある日突然世界的な金融恐慌が起こり、彼の持っているすべての資産は紙屑同然となってしまう。そんななか、それまでの因果が彼を襲い、数奇なエピソードが折り重なっていくなかでの主人公の葛藤が冷徹に重く描かれている。第65回カンヌ国際映画祭のコンペディション部門でパルムドールを最後まで競った作品だというのもうなづける。

 資本主義や格差に対する警鐘であり、また、その映像美も見事だが、私はもうひとつ別の観点からも面白かった。主人公は生活のほとんどが超高級リムジンのなかで完結する。仕事の指令からはじまり、睡眠、食事、排便、彼女とのSEX、医者の健康診断すらもすべてそのなかでおこなわれる。主人公のエリック・パッカーが何故そのような生活スタイルを選んだのか......。
 ヒキコモリや部屋から出ない若者が増えていると聞くが、クラブ人間としては、コミュニケーション文化に関する問題提起としても興味深い作品なのだ。いまクラブ・カルチャーは、オンラインの生活に慣れ親しんでる近年の若者にどんな「リア充」を提供することができるのだろう......。

 尚4月8日DOMMUNEにて『コズモポリス』封切り直前特別番組が決定。Broad DJには東京アンダーグランドを代表してMASA a.k.a. Conomarkが満を持してDOMMUNEに初登場。この日は3時間SETでタップリお届けします。
(五十嵐慎太郎)


『コズモポリス』
4/13(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショー!
(C)2012 COSMOPOLIS PRODUCTIONS INC. / ALFAMA FILMS PRODUCTION / FRANCE 2 CINEMA

監督・脚色:デイヴィッド・クローネンバーグ
原作:ドン・デリーロ「コズモポリス」(新潮文庫刊)
出演:ロバート・パティンソン、ジュリエット・ビノシュ、サラ・ガドン、マチュー・アマルリック、サマンサ・モートン、ポール・ジアマッティ

2012年/フランス=カナダ/カラー/ビスタサイズ/DCP/5.1ch/110分
原題:COSMOPOLIS/日本語字幕:松浦美奈/R?15
配給:ショウゲート/協力:松竹
配給協力・宣伝:ミラクルヴォイス
https://cosmopolis.jp/


4月8日 19:00~「コズモポリス」封切り直前特別配信 at DOMMUNE
「クローネンバーグが描く現代社会の末路」

TALK LIVE
柳下毅一郎/高橋ヨシキ/Ackky/DJ Hakka-K
Broad DJ
MASA a.k.a. Conomark (3 HOUR SET)
https://www.dommune.com/



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