「Nothing」と一致するもの

〈キツネ〉2013! - ele-king

 さて、〈キツネ〉は過去か? 2002年の設立以来、エレクトロ・シーンとインディ・ロック・シーンとを軽やかなフットワークで往復し、ファッションとともにそれらを牽引してきた同レーベル。コンピレーション・シリーズ『キツネ・メゾン』を欠かさずチェックしていた方も多いことだろう。クラクソンズやブロック・パーティ、フェニックスにホット・チップ......しかし時代の移り変わりはどんなシーンにもやってくる。10年をこえて存続するレーベルがつねに新しくあるというのは大変なことだ。だが、その判断は『イズ・トロピカル』の新譜を聴いてみてからにしよう。
 ゲイリー・バーバー、サイモン・ミルナー、ドミニク・アパからなるこのロンドン3人組は、2009年に鮮やかなデビュー・シングルとともに現れ("When O' When"〈ヒット・クラブ〉)、2011年のフル・アルバムでもみずみずしいロマンチシズムをシンセ・ポップに溶け込ませていた。そしてセカンドとなる今作ではソング・ライティングに磨きをかけ、ポップスとしての爽やかな解をストレートに導き出している。愛らしく質の高いポップ・ミュージックとして洗練されることで、彼らのキャリアと〈キツネ〉のイメージを成長させていくような好盤だ。プロデューサーはフォールズやデペッシュ・モードを手がけてきた才人=ルーク・スミス。

■商品情報
アーティスト名:Is Tropical
タイトル:I'm Leaving
仕様:帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤]
品番:TRCP119
価格:2,100円(税込)
発売日:2013.5.15
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70年代初期のサイケとブリット・ポップをテーマにロマンティックなエレポップ、疾走するロックンロール、さらに甘いメロディーを織り交ぜた新機軸サウンド!! 〈Kitsune〉発のスリー・ピース・バンド、イズ・トロピカル待望の2ndアルバム!!

・フォールズやデペッシュ・モードを手がけてきた才人=ルーク・スミスがプロデュース。
・ 先行シングル『Yellow Teeth』にはEllie Fletcherがヴォーカル参加。

クラクソンズ好きも必聴!! カラフルでポップな楽曲を散りばめた彼らの最高傑作!!

デビュー前から雑誌『Dazed & Confusion』の表紙を飾り、破格の新人として『NME』でも大絶賛された〈Kitsune〉発ロンドン出身の覆面スリー・ピース・バンド、イズ・トロピカル。日本でも〈BRITISH ANTHEMS〉に代わる新進気鋭のニューカマーを紹介するイベント〈RADARS〉(レイダース)や〈Kitsune〉レーベル10周年記念イヴェント〈KITSUNE CLUB NIGHT〉で来日するなど根強いファンを持つ彼らが、トレード・マークでもある覆面を脱ぎ捨て、約2年振りとなる最新作を発表! 2ndアルバムとなる今作はフォールズ、デペッシュ・モードまでをも手掛けるルーク・スミスをプロデューサーに迎え、70年代初期のサイケとブリット・ポップをテーマに制作。トゥー・ドア・シネマ・クラブ同様、確かなソングライティングに加え、若き日のデーモン・アルバーンを彷彿させる歌声とスーパー・ファーリー・アニマルズ、ステレオラブ、ティーンエイジ・ファンクラブ、〈Creation Records〉好きにはたまらない甘酸っぱいギター・ポップやロマンティックで切ないエレクトロ・ポップとエッジの効いたダンサブルなトラックまでをも織り交ぜた新機軸サウンドを展開。JKデザインを彷彿させるカラフルな楽曲を散りばめた彼らの最高傑作と言えるアルバムです!

Major Lazer - ele-king

 カリブ海の音楽といえば、椰子の浜辺のリゾートの涼風やこんがり灼けた美女が反射的に浮かぶようにわれわれは洗脳されている。
 気持ちのいいイメージを思い浮かべることに反対する理由は何もないのだが、ジャマイカ生まれのダンスホールやそれがスペイン語圏の島々の音楽と結びついたレゲトンは、その光景にとどまらない部分も持っている。それらの音楽はカリブ海のストリート/アンダーワールドに深く根ざす一方、ヒップホップやマイアミ・ベースやイギリスのダブステップやブラジルのバイリ・ファンキなど世界各地のエレクトロニックなダンス・ミュージックとも通底しているからだ。
 地すべり的なその現象を象徴的に物語っているのがレゲトンの人気者ドン・オマール・フィーチャリング・ルセンゾの"ダンサ・クドゥロ"だろう。映画『ワイルド・スピードMEGAMAX』に使われたこの曲は、アンゴラのダンス・ミュージック、クドゥロをもとにしてポルトガル人DJルセンゾが放ったヒットのリメイクで、YouTubeでの視聴が4億4千万回を越えている。

 さて、バイリ・ファンキの支持者でもあるDJディプロが主宰するメジャー・レイザーは、ダンスホールを基調にしているが、ビートは通常のダンスホールより多様で越境的。ウェブの『IMDb』に引用されている、ディプロにプロデュースを依頼したのは「音楽の根拠地を持たない感覚が自分と似ているので、ふたりが組めば根拠地のなさを根拠地にできると思ったから」という意味のM.I.A.の言葉(引用出典は不明)もなるほどという感じだ。
 この4年ぶりの2作目では、前作でチームを組んでいたスウィッチが去り、新しいDJたちとチームを組んでいるらしい。今回フィーチャーされているのはエレファント・マン、シャギー、ワイクリフ・ジョンといった有名どころから、ロック系のブルーノ・マーズ、ダーティ・プロジェクターズ、ヴァンパイア・ウィークエンドまでと幅広い。
 ときには尖鋭的に、ときにはロックぽく、ときには下世話に、柔軟にビートを切りかえながらアルバムは進んでいく。ディープなヒップホップを聴いた後にブラック・アイド・ピーズに出会ったときのような親しみやすさもおぼえる。
 ミシシッピ生まれでアメリカ南部を転々として育ったディプロには、まだまだ隠している音楽の引き出しがありそうだが。

 4月29日から5月5日までの1週間は、〈ぺン・ワールド・ヴォイシィズ・フェスティバル・オブ・インターナショナル・リタラチャーズ〉というフェスティバルがあった。今年で9回めを迎え、この期間は、ハイチ、ビルマ、パレスチナ、南アフリカ、ヨーロッパなど、世界各地からジャーナリストや関係者が集まる。著者がよく行く〈SXSW〉や〈CMJ〉などの音楽コンベンションや〈トライベッカ・フィルム・フェスティバル〉のライター版とも言えるが、アメリカ人とインターナショナル・ライターとの社交イベント、政治や個人生活、アートについてのトーク、フィクション講義、出版や翻訳の細部、図書館ツアー、キャバレー&ミュージック・ショー他、さまざまな視点からジャーナリズムの世界をショーケースしている。

 筆者は、柴田元幸が指揮を執る、日本の新しい文学を紹介する雑誌『モンキー・ビジネス』に参加させていただくことになり、このフェスティバルを知った。


イヴェントのポスター

主催するのは世界的に有名なライター、民主主義、表現の自由などの問題を掲げるサルマン・ラシュディー。彼のパネルは早くにソールド・アウト。オープニング・パーティーでも「ラシュディがいる!」と彼と話したい人でまわりに列が出できていた。4月28日付けNYタイムスに、精神的勇気(whither moral courage)に関する彼の記事が載っているので参考までに。
https://www.nytimes.com/2013/04/28/opinion/sunday/whither-moral-courage.html?smid=tw-share&_r=1&

スポンサーには、スタンダード・ホテル、コスモポリタン、アマゾンなどのメディアの他、さまざまな公共機関の名前が並び、平均的なチケットは$15~35だが、なかには$1000(3コース・ディナーとワイン付き)というパネルもあった。実際払って行く人がいるのだろうか。

ザ・スーザン
ザ・スーザン

『モンキー・ビジネス』のメイン・ショーケース(キャバレーw/パブリック・スペース)は、歌人の石川美南、『さよならギャングスター』で知られる作家の高橋源一郎、リトルロック出身の作家、ケヴィン・ブロックメイヤーらによるリーディング。主宰の柴田は、新しく出版された村上春樹の作品の最初の部分を読んでいた(このショーケースには、村上春樹が来ると噂されていた)。オープニングに、ニューヨーク・ベースの日本人バンド、ネオブルース巻き、ラストにザ・スーザンが出演した。

テッド・ゴスマンと柴田元幸
テッド・ゴスマンと柴田元幸

『モンキー・ビジネス』週末のトーク・イヴェントは、アジア・ソサエティで。ポエトリーのチャールス・シュミックと石川美南、作家のポール・オースターと高橋源一郎、この2組に加え、モデレーターとしてテッド・ゴスマンと柴田元幸。

チャールス・シュミックと石川美南は、お互いの詩に対して質問。石川美南は、「ウラシマ」という短歌シリーズの説明(ベースは日本のおとぎ話の浦島太郎)、チャールス・シュミックは、彼の作品に何度も登場する出てくるコフィン(棺)について、お互い「箱」をテーマに語りあった。

高橋源一郎
高橋源一郎

ポール・オースターと高橋源一郎のコンビでは、スタートから、Kindleでリーディングする高橋氏を見てオースターが「電子リーディングを見るのははじめて」だとびっくりしたり、高橋氏が、オースターの作品『シティ・オブ・グラス』を読んで感動し、翻訳話を出版社にしたら、すでに柴田元幸さんに決まっていると言われた、など、笑いをいれながら進んでいった。オースターが、何をリーディングするのか期待していると、「自分の昔の作品に飽き飽きしているんだ。妻以外は誰も読んだことないんだけど」と前置きし、なんと、現在書いている新しい作品(『フィガソン』)を初リーディングした。柴田氏とオースターの関係だからあり得るのだろうが、またもや新作が待ち遠しい。オーディエンスからの質問も入れ、予定を30分ほど越え終了。いつまででも聞いていられるトークで、会場にいた人も、名残惜しいのか、なかなか帰らなかった。

『モンキー・ビジネス』週末のトーク・イヴェントの模様
『モンキー・ビジネス』週末のトーク・イヴェントの模様

最後の夜は、ペン主催のパーティへ。各国からさまざまな人が来ているので、お互いの文化や状況について質問しあい、自身を再確認し、ライティングという共通点での夢や希望、ビジネスなどを交換しあった中身の濃い国際交流週間となった。17日にはもう一本、『モンキービジネス』関連イヴェントがブルックリンであります(@dassara 7 pm)。お近くの方はぜひ。

interview with Vampire Weekend - ele-king


Vampire Weekend
Modern Vampires of the City

XL / ホステス

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 1曲ごとにわあっと歓声があがる。「アレだ!」という高揚がある。今年2月、〈ホステス・クラブ・ウィークエンダー〉でのショウを眺めていて、『ヴァンパイア・ウィークエンド(吸血鬼大集合!)』はよく聴かれた作品なのだなあと、しみじみと感じた。「ヨウガクの共通体験」なんていうものがますます希薄になる昨今、彼らのようなちょっとややこしい音楽が多くのリスナーにしっくりと受け止められている様子には、やっぱり胸が熱くなる。

 ヴァンパイア・ウィークエンドは本当に素晴らしい。ちゃんとマジでドキドキ、ワクワクがある。ヒリヒリもある。アルバム一枚のなかに、走り、歌い、高揚し、泣き、切なくなって、飛び跳ね、愛し、虚無的になって、笑って、というようなことがひと揃い収まっている。この種のことは嘘っぽかったり安っぽかったりするとすぐに見破られてしまうから、エズラという人はよっぽど並み外れて広いエモーションの幅を持っているに違いない。並み外れて感じ、そして並み外れてそれをうまく音楽に変える。彼らのアフロ・ビートは輸入物ではない。いまそこで、彼らがありありと感じている生きた感情そのものだ。

 くだらないティーンの日常などはのぞきたくないという人も安心してほしい。ポロを着て、ちょっといい大学に通う、ソフトにやんちゃな若者たち......ミドル・クラスの余裕と、その日常への軽やかな批評を漂わせながら、アフロ・ポップに新鮮な血液を送り込んだ彼らは、同じ理由のために揶揄もされたとはいえ、それを跳ね返しておつりが戻るほどクレバーなインディ・ロック・バンドである。デヴィッド・バーンの系譜に数えることもできるだろうが、アフリカン・ミュージック原理主義に陥ることなく、あくまで彼らのリアリティを発火させているところが素晴らしいのだ。だからヴァンパイア・ウィークエンドは、2008年のデビュー作からこのサード・アルバムまでのあいだに、「地元のヒーロー」からワールド・クラスのポップ・アーティストへとステージを上げた。彼らのドキドキ、ワクワク、ヒリヒリには、とくに私小説的な湿り気もドラマも説教もないけれども、はっきりと同じ時代の空気を吸っている人間の心の躍動が感じられる。そして、世代を超えてさまざまな人々にリーチできる音楽的な強度がある。

 2008年。彼らは明るく、天使のように自由で、歴史性に足を絡めとられなどしないように見えた。そして彼らのうしろには、そうした空気を自然に吸うことのできる世代がジャンルを問わず登場してきている気配を感じた。表現ということに対して、何か無限のメタ認識と自己弁明を強いられるような90年代後半~2000年代初頭の息苦しさから突如解放され、あけすけに武装解除をはじめた才能たちを、筆者はとてもまばゆい思いで見つめていたのを覚えている。音は違えど、たとえばチルウェイヴのアルカイックな微笑みがぽつぽつと見えはじめてきたのもこの時期だ。だからこのバンドには万感の思いがあったのだが、ごく短い時間でのインタヴューで、なかなかうまく奥へと踏み込めなかったのは少々心残りだった。

 けれど、ややストレートなロック・アルバムになった印象のこの3枚め『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』にも、やっぱり説得されてしまう。エズラが声を裏返すとき、途方もない力でわれわれのなかにメロディを押し込んでくるとき、ロスタムのシンセがまさに彼らでしかありえないフィーリングを鳴らすとき、筆者は2008年という初心に返る。ノスタルジーではない。何度でもやり直して前に進むための新しい原点、「モダン・ヴァンパイアズ」たちの「モダン」なマナーである。

僕らは、トライバルなサウンドというものは意識して避けていた。ただ、抽象的なリズムを採り入れるということは好きだったよ。(エズラ)

新しいアルバムは、(このインタヴュー収録時点の2月では)まだ4曲しか聴けていないのですが、ひとつの変化としてリズムを挙げることができるのではないかと思います。アフロ・ポップのエッセンスは残りながらも、かなりストレートな8ビートが聴けますね。こうしたストレートめなロックのアイディアはどのようなところから生まれてきたのでしょう?

ロスタム:よりストレートなリズムを打ち出すというのは目標ではあったかな。でもそれと同時にユニークなものも作りたかった。シンプルだけどいろんな要素を取り込んでおもしろくしていきたかったんだ。"ドント・ライ"って曲に関してはほんとにロックっぽいものを考えていたんだよね。でもキック・ドラムで16ノーツ、これを繰り返すことでロックだけどアン・ロックなものにできたと思うよ。ちょっとヒップホップ調の、ドラム・マシンで出すような音を目指してみたんだ。今回のアルバム全体が目指したのは、オーガニックな音、だけれどもユニークなもの、ってところかな。

そもそもダーティ・プロジェクターズとかアニマル・コレクティヴとか、ギャング・ギャング・ダンスとか、あなたがたのファースト・アルバムが出た2008年当時はニューヨークの多くのバンドが、ファッションやリズムにおいてもトライバリズムというものを志向していました。そうしたムードをどのように見ていましたか?

エズラ:僕らは、トライバルなサウンドというものは意識して避けていた。ただ、抽象的なリズムを採り入れるということは好きだったよ。なぜ、こうしたバンドたちが同時に同じような音を出しはじめたのかということはわからないけれど、いま自分たちにとって新鮮に感じられるものは、当時の彼らが感じていたものとは違うだろうね。

ヴァンパイア・ウィークエンドのアフロ・ポップって、たとえばカリンバをフィーチャーするとか、現地でフィールド・レコーディングをしたりとか、民俗衣装を着けたりってことをしなかったところが素晴らしくもあると思うんですね。ラルフ・ローレンを着て、世界の中心たるニューヨークで、軽やかにアフロのリズムをはじき出した......そこにわれわれはしびれたわけです。こういうスタイルの選択は何か意識的なものがあったのではないかと思うのですが、どうですか?

エズラ:うん。プランはつねに立ててるんだ。けれどそれが意識的である場合もあれば無意識である場合もある。ミュージシャンとして、アーティストとして、自分が惹かれるものに対して素直にそれを取り入れていくべきだと思っているよ。ステージの上でいろんな格好をするっていうのは、それに惹かれているってことだから、そういう人たちはそれでいいんじゃないかな。

なるほど、ファッションって点で気になるものもあるんですか?

ロスタム:ジュンヤワタナベが好きだよ。僕らが作る曲と、彼の服には何か共通したものを感じるな。アフリカン・ビートだったり60年代ポップスだったり、クラシックだったり、僕らは既存の音楽に共感して取り入れているんだ。ジュンヤワタナベの服も、そうした過去のもの、伝統的なものに共感して作られているという感じがするな。

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キック・ドラムで16ノーツ、これを繰り返すことでロックだけどアン・ロックなものにできたと思うよ。今回のアルバム全体が目指したのは、オーガニックな音、だけれどもユニークなもの、ってところかな。(ロスタム)


Vampire Weekend
Modern Vampires of the City

XL / ホステス

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かつてデビュー作がリリースされた頃の『ガーディアン』なんかを読みますと、みなさんのことは「ローカル・ヒーロー」というふうに呼んでいるんですけど、一昨日のライヴ(ホステス・クラブ・ウィークエンダー)を拝見して思ったのは、大きいバンドになったんだなということなんです。ヒット・ナンバーを中心にステージ構成をしていくような、メジャーなバンドになったんだなと。この数年で、自分たちが引き受けるべき役割への意識に変化はありましたか?

エズラ:最初はかなり高いゴールを設定していたんだ。キャッチーでありながらも深さがあって、より複雑な構成で、というような曲をね。いま自分たちの音楽が世界やシーンのなかのどのあたりに当てはまるのかということを答えるのは難しいけど、自分たちが作った曲が人々に届いて、人々とたしかにつながっているということは感じているよ。自分たちの存在をあらためて確認できている、という感じかな。

ヴァンパイア・ウィークエンドのサウンド・イメージにおいて、ロスタムさんのキーボードの音色が生んでいるユーフォリックなムードはとっても大きな役割を果たしていると思います。たとえば"Aパンク"とか、"オックスフォード・コマ"とか。あの音はもともとあなたのなかにあったものなのですか? それともバンドをやる上で試行錯誤して生まれてきたものなんでしょうか?

ロスタム:大学でクラシックを学んでいたんだけれど、自分の奏でるハーモニーが曲全体に与えるパワーっていうものに魅力を感じていて。弾き語りでもなんでも、そうしたパワーにはつねに意識を置いているよ。

ここのところ80年代風のシンセ・ポップなんかがすごく流行しましたけど、そういう一種通俗的な、ギラギラとした音ではなくて、もっとあたたかくてクリーンで、どことなく新しい感じがする音だと思うんですね。もうちょっと音作りについて教えてもらえませんか?

ロスタム:空間をあけることを意識してるよ。スペース。最小限のもので曲を作るということを意識しているんだ。ただ、そのぶんどの楽器をどのように演奏するかということが重要になってくる。同じメロディ、同じ部分をいろんなパターンで作ってみて、みんなに聴いてもらうんだ。実験することが好きだし、自分がやっていなかったことに挑戦するのも好きだから、"Aパンク"だって、ああいう音はあの時点ではじめてだったんだよ。スペースの話に戻ると、キーボードが抜けてギターが入ってくるときに低音にスペースが生まれるんだ。そこにベースとドラムが入る。そんなふうに作っているんだよね。メロディがどうやってできるかというと、まずは即興、それを聴き直してどんどん形を整えていく、その繰り返しだよ。そのときも考えながらバランスをとっているんだ。

何か別のインタヴューを読んでいて、エズラさんが次の作品は「darker & more organic」になるというようなことを話されていたと思うんですが、「darker」ってどのようなことを指しているんでしょう?

エズラ:今回のアルバムは全体的に同じだけの緊張感を保つようにしたんだ。メジャー・キーの曲が多いにもかかわらず、なんとなく霧が漂うように暗い感じ。それはハーモニーでもメロディでも歌詞でもいっしょなんだけど、僕がダークだと思っているのはそういう緊張感のことだよ。オーガニックということに関しては、部屋のなかでドラムを鳴らすことだね。ウッディな感じ。すべての曲、すべての楽器に、ウッディさを持たせたかった。呼吸をしているような感じというのかな。

なるほど。"フィンガー・バック"なんかは、あなたがたのルーツにファンクもあるんだなってことがストレートに出ている曲かと思いますが、こういうようなアイディアや傾向には、プロデューサーのアリエルさんが関係してたりもするのでしょうか?

ロスタム:メロディや歌詞をエズラが考えて、それに対して僕がドラムを加えていったんだ。50'sロック、ファンク、アフリカン、そのあたりは意識したけど、アリエルとの作業をはじめたときにはリズムはできあがっていたんだ。そこからどのようなドラムのサウンドを曲に反映させていくか。その時点でアリエルの意見は反映させたんだけどね。リズムは僕らのなかにあったものだよ。

Akron/Family - ele-king

 自由になれ......でも、何から? その質問を、バンドはいったん無効にする。アクロン/ファミリーといえば、『セッテム・ワイルド、セッテム・フリー』のときに掲げられたデタラメな星条旗だ。それは彼らの雑食的にデタラメな音楽の表象であり、そして、デタラメに生きることの提案を暗示しているように思える。デタラメに生きること......そう口にしてみたところで、それを具体的にイメージできる人間は日本には少ないだろう。アクロン/ファミリーが日本でも人気が出たきっかけはあの祭のようなライヴで、僕もその熱狂に浮かされた人間のひとりだが、そのとき強烈に感じたのは彼らが誰よりもデタラメに生きることを実践し謳歌しているように見えたからだ。『ピッチフォーク』はそんな彼らがまとうものを「アーバン・ヒッピー・オーラ」だと書いているが、なかなか気の効いた表現だと思う。アーバン・ヒッピー。都会でボヘミアンとして漂泊する人びと......ライヴで彼らは、じつに能天気なやり方でそのコミュニティに勧誘しているようであった。厳密さに欠いていてもいい、というか、むしろそんな大雑把さでこそ得られる奔放さというものがあるのだろう。それは伝聞での60年代の記憶によるものかもしれないし、彼らのアンダーグラウンドへの思慕によるものなのかもしれない。

 トライバルというよりは呪術的なイントロではじまる"ホーリー・ボアダム"(聖なる退屈)、あるいはアッパーで大らかなノイズ・ミュージック"サンド・タイム"などによく表れているが、アクロン/ファミリーの通算7枚目となる『サブ・ヴァーシズ』は、彼らがアンダーグラウンド・シーンに置くシンパシーを素朴に抽出したアルバムだ。情報としては、プロデューサーがサンO)))やアース、ボリスらを手がけたランダル・ダンであり、ジャケットのデザインを担当しているのがサンO)))のスティーヴン・オマリーだということで、なるほどたしかにドゥーム・メタル人脈の影響がそこここに出現しているとも言える。ただ、ここにはそれ以上に雑多なジャンルが相変わらず渦巻いており、サイケデリック・ロック、フリージャズ、フォークにブルーズ、アフロにファンク......そういったものが整頓されずに、しかし熱をこめて投入されている。ただ言えるのは、ノイズ・ミュージックからの影響がこれまでよりも強く出ており、彼らの出自である〈ヤング・ゴッド〉のオーナーのマイケル・ジラの名前を連想させる。スワンズの昨年のアルバム『ザ・シア』と並べて聴いてみると見えてくるものがあるだろう。アクロン/ファミリーがかつて分類されていたフリー・フォークやブルックリンといった記号はもはや完全に過去のものになりつつ、同時に彼らのいち部となりその血に流れている。
 いっぽうで"アンティル・モーニング"や"ウェン・アイ・ワズ・ヤング"では、彼ららしい朴訥で美しいメロディやハーモニーが聴ける。僕が思うに、アクロン/ファミリーの音楽では野外のキャンプで演奏されるようなコミューナルでスウィートな瞬間というものが絶対に欠かせない要素になっていて、そこがハードコアな実験主義者たちとアティテュードを緩やかに画するところである。本作でもスピリチュアリティを思わせる言葉は随所に並び、そしてそれこそが一貫して彼らの表現のコアとなっている。"サムライ・ソング"でアルバムはドリーミーに、サイケデリックに終わっていくが、そこで歌われる精神世界は持たざる者が抱くポリシーのようなものだ。「財産がなければ 僕の運命が財産となった/何も持っていなければ 死が僕の運命となった」......何も彼らはモノを全部捨ててヒッピーになれと言っているわけではない、が、お前の精神が自由になれる場所を探せとずっと言い続けている。そしてそれを、分かち合うことを忘れない。
 だから"ホーリー・ボアダム"はライヴでめいっぱいアンセミックに演奏されるだろう。「怒りさえすれば 僕らは叫ぶことができる/大きな声で もっと大きな声で/好き勝手にやるために!」......それは、アクロン/ファミリーの音楽において押しつけがましい教条ではなく、純粋に僕たちの快哉である。

Ord - ele-king

 ストーリーを覚えていない映画の記憶が、いや、そもそもまったく観たことすらない映画の記憶が、なぜかフラッシュ・バックのようによみがえる。映像すら霞むようなスクリーンの眩い光が瞬間、脳裏に再生する。しかし、その瞬間の映像には音はない。サイレント=イメージ。だが、それはその抽象性ゆえ、どこか音楽のようでもある......。

 京都〈シュラインドットジェイピー〉の最新作ord『w』を聴きながら、そんな記憶が想起されていく。優しく牧歌的で、儚く幻想的で、そして澄んだ空気のように清潔な音。その質感が生み出す記憶。その記憶=音の向こうにある静寂。さまざまな音楽フォームを見事に昇華したポップで瀟洒なエレクトロニカ/エレクトロニクス・ミュージックでありながら、同時に、サイレンス/サイレントな世界を希求する音楽に思えたのだ。

 そんな空想じみた結論らしきものへと先に急ぐ前に、アルバムについて簡単な説明をしておこう。ordは甲田達也とMihoyoのユニットだ。甲田は〈涼音堂茶舗〉から作品をリリースしていたheprcamの元メンバーである。彼らのアルバム『COHCOX』は涼音堂茶舗を知る人ならば記憶に残っているだろう。heprcamはドラマー/パーカッショニストの青木淳一とのデュオだが、ordはヴォーカリストMihoyoとのユニットである。ここにおいては「声」が、00年代以降のエレクトロニカのサウンド・フォームのなかで見事にエディットされている。たとえばプレフューズ73のヴォーカル・チョップとボーカロイドが00年代のエレクトロニクス・ミュージックにおける「声」の扱いという意味で、ふたつの解答を用意しているように、本作もまた声とエレクトロニクスの交錯を、とても繊細な手法で実現しているように思えたのだ(ちなみに、声とエレクトロニクスという意味ではATOM TMの最新作『HD』のエディットも重要であろう)。

 とはいえ、ヴォーカル・トラックは主に3曲であり、全8曲のトラックはヴァリエーションに富んでいる。アルバム1曲め"Koko"は、レコードのスクラッチ・ノイズに、ミニマルなサティのようなピアノのフレーズとフランス語による会話(映画からのサンプリング?)が重なっていくトラックだ。この瀟洒なトラックにおいては、ピアノと言葉のミニマルな反復が時折、絶妙にグリッチし、まるで壊れた記憶のような音像が生み出されていく。2曲めはMihoyoによるボーカル曲"Eriel"だ。メロディに対してトラックは極めてミニマルである。だがそのミニマルなトラックの隙間から、鳴っていない弦の音が聴こえてくるような不思議な感覚を味わうことができる。続く1分20秒ほどのギターをメインとした"Moyo"を経て、テープ反転の音からノイズが鳴り響くエレクトロニカ・シューゲイズ"Kugeuka"に。アコースティックからノイズへの世界の反転=暗転。そして、クリッキーなビート、そこに突如クラシカルなピアノ、ジャズのブラシワークのようなリズムなどがエディット/交錯する"Irena"へ。シンセウェイブ的なアンビエント・トラック"2006"を経て、ヴォーカル/ヴォイストラックであり、本アルバムの代表曲といってもいい"Msimu"に行き着く。独特のリズムとMihoyoのボーカルとサウンドが微細にエディットされ、聴き手の聴覚を軽やかに刺激する見事なトラックに仕上がっている。ラスト"Lala"においては、ギターのミニマルなフレーズに、微かな環境音がレイヤーされ、00年代初頭のフォークトロニカ(例えば、2002年に〈カーパーク〉からリリースされたグレッグ・デイヴィス『アルボール』など)が現在の音響的精度で再生したような曲でアルバムは静かに幕を閉じる。同時にこのラスト・トラックの響きは、冒頭"KoKo"のピアノの響きへと繋がっていくだろう。

 そう、あらゆる時間が円環するように、このアルバムもまた最初の時間へと円環するのだ。2000年代のエレクトロニカを最良の音楽性がいち枚の作品に内包されているかのようなアルバムである。だが、ゴッタ煮的な騒がしさは全くない。アルバムの音は、ひとつのトーンできちんと統一され、音楽は記憶の残像のように展開する(糸魚健一の丁寧なマスタリングも、作品の本質を引き出しているように思える)。

 ここでアートワークを見てみよう。写真もまた甲田達也自身の作品だという。表面は、白地に宙を舞う鳥の瞬間を捉えており、対する裏面は黒のイメージ。ケースを開くと、青い空に強烈な光を放つ太陽の写真イメージ。「朝」と「夜」が、「昼」の瞬間の光を挟み込んでいるのだ。強烈な光の記憶。その記憶がもたらすサイレンスな朝と夜。その無音の記憶。その無音に向けての音楽。このアルバムは実にバリエーションに満ちた音楽を収録しながらも、ある種の静寂さのアトモスフィアを生成している。いわば本作は、エレクトロニクス/ポップによって、そんなサイレント/サイレンスの世界を繋いでいるように思えるのである。それはとても繊細な創作だと思う。

 なぜ、人が不意に映画のワン・カットを想起するとき、そこには音はないのか。映像と音響の乖離。だが、その瞬間の記憶に音をつけることはできるだろう。本作は、エレクトロニクス/ポップによって、そんなサイレント/サイレンスの世界を繋いでいるように思えた。それはとても繊細な創作であり、また同時に「聴くこと」が「無音の記憶のトレース」であることをも想起できる仕事のようにも思える。

 それにしても、〈シュラインドットジェイピー〉から相次いでリリースされる作品は、どれも日本の電子音楽の最先端を語る上で欠かせない重要な作品ばかりだ。近作A.N.R.i.『All Noises Regenerates Interaction』もエレクトロニカとミュージック・コンクレートを極めてポップな質感で実現した傑作であった。本作もまた、日本の電子音楽の最良のカタチを、密やかに、優雅に、セカイの耳に向けてプレゼンテーションしているように思えた。

interview with Youth Lagoon - ele-king


Youth Lagoon - Wondrous Bughouse
Fat Possum / ホステス

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 なるほど、彼はベッドルームで録音などしたことがないのだそうだ。てっきりテレコで部屋録りした素材を大事に作り直しているのだとばかり思っていたが、それはベッドルーム・ポップと呼ばれるものへのひとつの偏見だったかもしれない。「音がアイデアのはじまり」と語るユース・ラグーンことトレヴァー・パワーズは、制作環境ではなく、めぐらせた音によって彼自身のパーソナルなスペースを築いている。けっして陰険な音楽でも人嫌いなタイプでもないが、〈ウッジスト〉や〈キャプチャード・トラックス〉にも連なるようなリヴァーブ感は、心地よい遮蔽感覚を与えてくれるだろう。いい具合の隙間にすっぽりと入り込んで、外に陽のあたたかさを感じながら、膝を抱えて眠り込んでしまうような感覚。そこにはうっすらと狂気のにじんだドリーミー・ヴァイブが満たされている。ジャケットの絵が薬物中毒患者の手になるものだというのは、本作のサウンド・スケープをぴたりと象徴するものだ。
 2011年、ドリーム・ポップに活気づくインディ・シーンの追い風も受けながら、彼のデビュー作『ザ・イヤー・オブ・ハイバーネイション』は高評価をもって迎えられた。その時点では、流行や数多の才能のなかにやや埋もれがちな印象もあったが、ときをおいて、いま、彼本来のシンガー・ソングライター的な佇まいがようやくくっきり見えてきたように感じられる。遠景にパンダ・ベアをかすませて、イディオット・グルーやザ・ウォー・オン・ドラッグスやMGMTの間を縫いながら、まるでポスト・チルウェイヴ世代のダニエル・ジョンストンといったような楽曲が並ぶ。プロデューサーは、アニマル・コレクティヴやディアハンターでもお馴染みのベン・アレンだ。ドリーミー・サイケはお手のもの。もちろん時代性やモードに比較するよりも、彼個人の本当にパーソナルな表現だととらえるほうが、本作は輝くだろう。そのような遠近法がとれるようになった、よいタイミングでの快作である。ダニエル・ジョンストンもジャド・フェアも知らないというのは驚きだったけれども......。


自分の心が妙なはたらき方をするっていう事実を受け止めるのに少し時間がかかったんだ。その間に、不安だらけで心配性みたいな、間違った僕の人物像ができてしまったけど、実際の僕はそうじゃないよ。

あなたが活動をはじめた2010年前後から、音楽シーンも少しずつ変化しました。アニマル・コレクティヴが2000年代半ばに示したような新しいサイケデリック・ミュージックも、あなたのような才能を産みながらいろいろな方向へと拡散しています。いまあなたがこのアルバムを “スルー・マインド・アンド・バック”というメディテーショナルなノイズ・アンビエントからはじめたのはなぜでしょう?

パワーズ:アルバムへのイントロダクションになるものが欲しくて、あの曲がそれにぴったりだったんだ。あの曲自体が完成したのはアルバムに入っている曲のなかでも最後の方だったんだけど、出来上がったとき「この曲は冒頭に入れたら上手くいくんじゃないか」って思ったのさ。

“スルー・マインド・アンド・バック”の「バック」とは何ですか?

パワーズ:これはある意味で転換点みたいなトラックなんだ。僕がこの曲を書いていたとき、まるでどこか別の、何もかもつじつまの合っている世界へと連れて行かれたような感じがした。そして書き終わった途端に、また元の世界に「戻って」来たような感じがしたんだよ。

今作はプロダクションも整理されて、しかしあなたの音楽のシンセの丸みや太さ、ノイズ感やえぐみといったものはきちんと残されていますね。プロデューサーのベン・アレンとは相性も合うのではないかと思いますが、録音はいかがでしたか?

パワーズ:ありがとう。このアルバムの録音のプロセスはかなり綿密なものだったよ。ベンと僕は2ヶ月近くもの間、毎日レコーディングし続けた。インターンやエンジニアから成るベンのチームもみなすばらしい人たちだったよ。とても健全な感じのするプロセスだったね。僕が目指していたようなものを引き出しやすい雰囲気だった。

あなたの方からプロダクションについて要望したことはありますか?

パワーズ:レコーディングのためにアトランタに行く前から、ベンとはしばらく電話で話をしていたんだ。彼とは最終的なゴールについてしっかり話し合って意見を一致させておきたかったからさ。そしてそれってどんどん変わっていくものなんだ、ある曲やアルバムについて特定のヴィジョンを持っていたとしても、実際の制作が始まると、そこからまったく違ったものへと変化してしまったりする。それぞれの曲が意志を持って動きはじめるんだよ。今回のプロダクションでは、それぞれの曲が発したがっている音をそのまま出せるようなものにしたかったから、ベンと僕との間には良い意味での緊張感があった。彼の見方が僕の見方と違っていることはあっても、目指しているゴールは同じだったのさ。

ファースト・アルバムは大きく注目され、高い評価をもって迎えられました。このことがその後の音楽制作上の足枷になっているようなことはありませんか?

パワーズ:唯一気にかかるのは、前のアルバムと同じものを期待している人たちがいるってことだね。僕自身が音楽でエキサイティングだと思うことは、予測の出来なさなんだ。同じことを2度はやらないよ。だからそういうのを期待している人たちには、何もあげられるものがないね。

ファースト・アルバムには「不安の克服」というモチーフがあったという記事を読みました。今作にはより穏やかであたたかいムード(“ミュート” などは力強くすらあります)があると思うのですが、「不安の克服」はその後今作にいたるまでの間に形を変えたと思いますか?

パワーズ:とくに不安の克服っていうテーマを意識していたわけじゃないよ。自分の心が妙なはたらき方をするっていう事実を受け止めるのに少し時間がかかったんだ。その間に、不安だらけで心配性みたいな、間違った僕の人物像ができてしまったけど、実際の僕はそうじゃないよ。

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基本的には、無理をしたところのない音楽に共感するね。何か「これをしなきゃいけない」っていう特定の方針みたいなものを持っているバンドだったり、無理をした感じのする音楽が多いけどさ。正直で純粋なものって、聴けばすぐにわかるんだ。


Youth Lagoon - Wondrous Bughouse
Fat Possum / Hostess

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ジャケットのアートワークはあなたの絵ですか? 生命の輪廻の模様が暖色で描かれていますね。これは今作のテーマのひとつでもあるのでしょうか?

パワーズ:僕も絵を描くのがうまかったらよかったんだけど、あのジャケットの絵はマルシア・ブレーズル(Marcia Blaessle)っていう女の人が描いたものだよ。まだアルバムのレコーディングをはじめる前に、たまたまドイツで出版された『ラウシュ・イム・ビルト(Rausch Im Bild)』っていう、70年代の薬物中毒患者についての研究と、彼らの作ったアートについての本を見つけたんだ。そしてその作品のうちのひとつに無性に心が惹かれて、僕のマネージャーにお願いしてその絵の著作権について調べるのを手伝ってもらった。その本のもともとの出版社はすでに無くなっていて、他の出版社に権利が渡っていたから、それを見つけるのに何ヶ月もかかったよ。マルシアももう既に亡くなっているみたいで、彼女についての情報もほとんど見あたらなかったしね。最終的にやっとあの絵の現在の権利者である出版社が見つかって、僕がレコーディングをはじめる頃には絵を使用する許可も全部クリアできた。

曲作りにおいては、歌メロからできることが多いですか? あなたが言葉の上で影響を受けていると感じる作品などがあれば教えてください。

パワーズ:いつも音を作るところからはじめるよ。大抵は強くエフェクトをかけたギターやキーボードの音とかで、そういうふうに実験しながらサウンド面でのインスピレーションを受けていくことが多いんだ。最初に歌詞が出てくることはないよ。僕の場合、歌詞を付けるには、まず先に音楽的な骨組みがなきゃダメなんだ。

ピアノや鍵盤楽器が発想や作曲の中心になるのでしょうか?

パワーズ:そのときどきで違うけど、だいたいギターかピアノだね。まずひとつのアイデアからはじめて、そこから組み立てていくんだ。

あなたは、たとえばダニエル・ジョンストンやジャド・フェアのような我が道をゆく吟遊詩人と、ギャラクシー500や〈エレファント6〉周辺で活躍するようなインディ・バンドのどちらによりシンパシーを覚えますか?

パワーズ:ここに挙げられているアーティストどれもあんまり聴いたことがないよ。基本的には、無理をしたところのない音楽に共感するね。何か「これをしなきゃいけない」っていう特定の方針みたいなものを持っているバンドだったり、無理をした感じのする音楽が多いけどさ。正直で純粋なものって、聴けばすぐにわかるんだ。それがアヴァン・ギャルドなものであれ、ストレートでわかりやすいものであれね。そういうものに惹かれるんだ。

イクイップメントについて教えてください。やはりアナログ機材にこだわっているのでしょうか?

パワーズ:僕はアナログもデジタルも両方使うけど、やっぱり好きなのはアナログだね。温かみを感じるからさ。

ライヴと録音作業ではどちらが好きですか? 宅録に限界を感じることはありますか? 

パワーズ:どちらもそれぞれ独特のものだし、まったく違った体験だよ。でもどちらかを選ぶなら、レコーディングの方が好きと言えると思う。僕にとっては、アイデアがはじまるところだからね。宅録についていえば、僕は自分のベッドルームとかでレコーディングはしないし、したこともないよ。デモのほとんどはカセットテープで録音したけど、それはカセットだと屋外でもアイデアをすぐにレコーディングできるからで、そういうアイデアは大抵外にいるときにできるんだ。『ザ・イヤー・オブ・ハイバネーション』は僕の家の近くのスタジオでレコーディングしたんだよ。

Tim Hecker - ele-king

 まさに待望の初来日だ。ティム・ヘッカー......日本でもいまだ信者の多い『ピッチフォーク』をはじめ、イギリスの『ワイアー』まで、みんな大絶賛の、ここ10年のエレクトロニック・ミュージックにおいては超重要人物ですよ。
 以下、今回の来日に関して、三田格が寄せた文章です。

 ミル・プラトーからリリースされた『レイディオ・アモーレ』(2003年)がはじまりだった。
 テクノ/エレクトロニカはこの時、初めてゼロ年代のアンダーグラウンドを席巻したドローンと接点を持つことになった。
 ひたすら気持ちよければよかったアンビエントはとくにそのセールス・ポイントを失い、耳を覆いたくなるような瞬間を経験しながらもアンビエント・ドローンとして新たなタームを歩みはじめる。ティム・ヘッカー自身もアンビエントやノイズを呑み込んだドローンの多様性にこだわり、その裾野を1作ごとに広げていく。
 〈クランキー〉からリリースされた『ハーモニー・イン・アルトラヴァイオレット』(2006年)はそのひとつの集大成であり、アイスランドの教会で取り組んだオルガン・ドローンの 『レイヴデス、1972』(2011年)は新たな方向性を示すものとなった。
 昨年はOPNと組んだ『インストゥルメンタル・ツーリスト』も話題になった。日本でつくられるアンビエントはいまだに90年代マナーのものがほとんどである。それらがすべて古く聴こえてしまうのは間違いなくティモシー・ヘッカーのせいである。(三田格)

WWW presents Tim Hecker Japan Tour 2013

<東京公演>
日  程:2013年6月7日(金)
会  場:渋谷WWW
時  間:OPEN 19:00 / START 20:30
料  金:前売¥4,000 (ドリンク代別 / オールスタンディング)
問合わせ:WWW 03-5458-7685 

<京都公演>
日  程:2013年6月8日(土)
会  場:京都METRO
時  間:OPEN 17:00 / START 17:30
料  金:前売¥2,800 (ドリンク代別 / オールスタンディング)
問合わせ:METRO 075-752-2787 / WWW 03-5458-7685 

<チケット情報>※2公演共通
先行予約:3月29日(金)19:00 ~ 4月7日(日)23:59
受付URL https://eplus.jp/timhecker
一般発売:4月13日(土)
チケットぴあ[P:197-955]、 ローソンチケット[L:75645]、e+ (https://eplus.jp/timhecker)、
WWW・シネマライズ店頭(東京公演のみ)にて発売。
     
主催:渋谷WWW
協力:京都METRO / p*dis / melting bot

東京イベント詳細URL→ https://www-shibuya.jp/schedule/1306/003742.html
京都公演URL → https://www.metro.ne.jp/


風薫るお寺イヴェント第5弾 - ele-king

 彼を通して「ポスト・クラシカル」に触れることになったかたも多いかもしれない。デペッシュモードやスモッグのカヴァー・アルバムでも知られるピアノ・ミニマルの重要アクト、シルヴァン・ショヴォが来日! 今回はソロとアンサンブルに加え、Marihiko Hara、ILLUHAのステージを楽しむことができる。千駄木・養源寺などを舞台に絶妙なキュレートを行ってきたILLUHAによる音と空間のイヴェントを、気候もうららかなこの機会にぜひ体験してみよう。

Live at Ennoji/ライブアット圓能寺
Sylvain Chauveau & O 来日ツアー東京公演

特設サイト:https://live-ennoji.tumblr.com/

「妨害なき相互浸透」をテーマに、大田区大森にあるお寺「成田山 圓能寺」にて荘厳な音響空間の中、畳の上で全身に音を感じられるイベント第5弾! 今回はフランスより、人気作曲家Sylvain Chauveauが待望の再来日、東京公演! Sylvainソロ演奏に加え、新たに結成されたコレクティブ「0」もともに公演決定! 京都よりMarihiko Hara、東京よりilluhaと音響界の話題アーティストを交え開催。

■開催・日時・場所■
2013年5月4日(土)開場13:30 開演14:00
入場料:前売 3000円 / 当日 3500円
Facebook内イベントページ:https://www.facebook.com/events/448938585186555/
※限定130席。予約完売時、当日券の販売はいたしません。ご予約はお早めに。
会場:大田区大森 成田山圓能寺

住所:東京都大田区山王1丁目6-30
 JR京浜東北線大森駅北口(山王口)より徒歩3分
ホームページ https://ennoji.or.jp/index.html 
(当イベントについて圓能寺へのお問い合わせはお控えください)
お問い合わせ:kualauk at gmail.com
予約方法:特設サイト内予約フォームよりおねがいします。

This is the 5th live event under the theme "nonobstructive and interpenetrating". The venue, Ennoji Temple at Omori will provide you solemn atmosphere of sound and you will feel it over the entire body on tatami mats.

Performers: Sylvain Chauveau, 0 (Sylvain Chauveau、Joël Merah、Stéphane Garin), illuha, Marihiko Hara. Please Email early as seating is limited to 130.

出演者プロフィール

〈Sylvain Chauveau〉
シルヴァン・ショヴォは、1971年フランス生まれのミュージシャン。 90年代から本格的に音楽活動を始め、2000年頃からフランス期待のミュージシャンとして頭角を現す。これまでTypeやFatCatといったレーベルから、ソロ作品9枚をリリース、世界中でライヴを行うとともに、映画やダンス作品にも楽曲を提供してきた。ピアノ、ギタ−、ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、電子音などを自在に用いて繊細に音楽を表現し、近年では自らボーカルを務める。またSylvain Chauveauとしてのソロ名義の他に「Arca」,「O」「ON」 等のプロジェクトでも勢力的に活動する彼の音楽は、エレクトロニカ、音響、 実験音楽、ポストクラシカルなど様々な文脈で語られており、ここ日本でも大きな人気を誇っている。
近作は、flauよりリミックス集『Abstractions』、FatCatよりサウンドトラック集『Simple』、Stephan MatheiuとのコラボレーションによるSmogのカバー・アルバム『Palimpsest』など。
https://www.sylvainchauveau.com/

〈O〉
O(ゼロ)は2004年にJoël Merah(acoustic guitar)、Stéphane Garin(percussion, glockenspiel)、Sylvain Chauveau(glockenspiel,acoustic guitar)によって結成されたアンサンブル。フランス南西部のバイヨンヌ/ベルギーのブリュッセルを中心に活動している。これまでにヨーロッパ各地での様々な音楽祭やホールで公演、自身の作品演奏に限らず、Steve Reich, Morton Feldman, 杉本拓, John Cage, Eric Satie, Gavin Bryarsらの作品も演奏し、アンサンブルの持つ未知なる可能性を追求している。
https://youtu.be/K6Kn6UPC1Nk
https://0sound.tumblr.com/

member profile
ステファヌ・ガリン(Stéphane Garin)
パリ管弦楽団、アンサンブル・アンテルコンタンポラン、レ・シエクル室内管弦楽団に参加。ピエル・ブーレーズ、デイヴィッド・ロバートソン、レオン・フライシャー、フランソワ=グザヴィエ・ロト、フェサル・カルイ等の指揮のもとに演奏。
パスカル・コムラード、ミッシェル・ドネダ、ドゥニク・ラズロ、ピエル=イブ・マセ、ティエリー・マディオ、マーク ペロンヌ、ドミニク・レペコ等と共演。ヨーロッパやアメリカやアジア等で公演。

ジョエル・メラ(Joël Merah)
2003年度武満徹作曲賞の第1位。
作曲家として東京フィルハーモニー交響楽団やコート・バスク・バイヨンヌ地方の国立音楽院オーケストラ、オイアッソ・ノヴィスやアンサンブル・ケーン、インジ、ロクテゥオル・ア・ヴァン(L'octuor a vent)などのアンサンブル、Opiyo Okach(ダンサー)と様々なアーティストに作品を提供。 これまでにベルナール・リュバ、ベニャ・アチアリ、ドミニク・レペコ、ティエリー・マディオ、ラウル・バルボザ、Michel Etchecopar(ミシェル・エチェコパル)、Saïd Nissia(サイード・ニッシア)と共演している。

〈ILLUHA〉
アメリカ生まれ日本育ちのCoreyFullerとブラジル生まれ日本育ちの伊達ジュリアーノ伯欣はお互いの音楽を通じて2006年に出会い、 2007年にアメリカ北部ベリングハムにある古教会での録音を元に4年の歳月を経て完成された1stアルバム『Shizuku』がN.Y.の12Kより発売。雑誌WIREなどに掲載され1ヶ月で完売となり、幻の1stアルバムとなる。これまでに日本やアメリカ西海岸ツアーを行い、ライブバンドとしての評価が高い。この夏にはライブ盤アルバムの発売が予定されており、7月26日には山口県YCAMにて坂本龍一+TaylorDeupreeと共演する。Coreyは現在日本へ移住し、オーディオエンジニアおよび映像作家、ディレクターとして活動中。TomoyoshiDateはソロ作品やOpitope、Melodiaとしてもリリースを重ねる一方、西洋医学と東洋医学を用いる医師でもあり、自然と文明の関わり方を医療と音楽の側面から考察している。
illuha.com

〈原 摩利彦 / Marihiko Hara〉
音楽家。京都大学教育学部卒業。静けさの中の強さをテーマに、質感を追求した作曲活動を展開している。これまでにアルバム『Credo』(Home Normal)、『FAUNA』(shrine.jp)等をリリース。舞台や映像の音楽も手がけ、ダムタイプ高谷史郎氏のプロジェクトや伊勢谷友介監督『セイジ 陸の魚』のサウンドトラックに参加。「Shiro Takatani : CHROMA concert version」としてSonar Sound Tokyo 2013に出演。音楽を手がけた短編アニメーション『COLUMBOS』(監督:カワイオカムラ)はロカルノ国際映画祭やロッテルダム国際映画祭など海外主要映画祭 にて上映された。2013年4月に新作『Flora』(night cruising / Drone Sweet Drone)を発表。
www.marihikohara.com



opitope RELEASE PARTY

サイト:https://www.super-deluxe.com/room/3398/

opitope(ChiheiHataleyama+TomoyoshiDate)が6年ぶりのニューアルバム『a colony of kuala mute geeks』をWhite Paddy Mountainから発売! アルバム参加アーティストを含めた超豪華なゲスト11人とopitopeが怒濤の5ステージ!

■開催・日時・場所■
2013年5月12日 (日)
Open 17:00 / Start 17:30
Ad:2,000 +1d Door:2,500 +1d
Tokyo @ SuperDeluxe (Nishiazabu)

LIVE
aus, 秋山徹次, 大城真, Carl Stone, Christophe Charles,
Sawako, 杉本佳一, Tamaru, 中村としまる, 安永哲郎, yui onodera,
opitope

17:30~18:00 Sawako + Tamaru + opitope
18:10~18:40 秋山徹次 + 安永哲郎 + opitope
18:50~19:20 大城真 + 中村としまる + opitope
19:40~20:10 aus + 杉本佳一 + .opitope
20:20~20:50 Carl Stone + Christophe Charles + Yui Onodera + opitope

主催者情報
主催:Kualauk Table https://www.kualauktable.com/(Twitter:@kualauk)

共催:flau  https://www.flau.jp/
後援:HIGASHI TOKYO LABORATORY https://www.higashitokyolab.com/


上野俊哉 - ele-king

 鶴見俊輔、花田清輝、きだみのる、安部公房の四人。戦中・戦後の混乱期、転形期のなかで培われた思想が「不良」とここでは捉えられている。その思想は決断主義によらず「転回と倒錯」というとらえどころの難しい精神性をもっていたし、また共同制作、つまり無名性を運動論として持っていたからヘゲモニーをとることはなかった。しかし、その不良性は途絶えたのではなく、現在まで命脈をつないできているのだ。上野俊哉の久しぶりのこの本では、その彼らの思想を丹念に掘り起こし、そして現在周りで起こっているさまざまなパーティーやデモとつなげて考えられている。

 新日本文学という文学集団のなかで花田清輝の薫陶を受けた小沢信夫さんは、その半生を振り返った『小沢信夫さん、あなたはどうやって食ってきましたか』という本のなかで、文学の無名性ということについてこんなことを言っている。
 「だから、鶴見(俊輔)さんはすごいな。長谷川四郎の文章は、無名の文章だと。自分の文章のなかに、墨子みたいな古典を平気で入れてくる。つまり、文章が共有なんだよ。そこを鶴見さんはちゃんと指摘するね。そういわれりゃ、そうだ。
 いまどきの詩人というのはさ、詩のなかに誰かの一行を入れて、後ろに注をつけて、この言葉は誰それさんの詩集からっ、て......けっ。まったくちっぽけな。せまっこさ。おれは長谷川四郎派だ、と思いますけどね。」
 そして花田清輝は『復興期の精神』の書き方についてこう述べている。
「文献や年代記を拒否し、虚偽以上の虚偽だけに私の視野を限るということが、冒頭において私の宣言した方法であった。この方法は、あくまでつらぬかれなければならない」
 こうしたやり方は誰にとっても受け入れられることではないかもしれないが、そうでなくては受け取ることができない表現でもある。少なくともぼくにとってはそうだ。シュール・レアリズムがやはり戦争という非常事態を経て生まれたように、彼らのどこか過剰な表現も戦争を契機として生まれ、その後の世代、たとえば書いているうちに対象が憑依してしまい、「オレがコルトレーンだ」と本人になりきって評伝を書いた平岡正明さんなどに受け継がれ、そして現在までつながってきたのだと思う。

 「気をつけなくてはならないが、カーニバルやパーティーの媒体となる「ハーメルンの笛」は「革命」や「運動」のためのプロパガンダの道具や拡声器ではない。笛や拍子にノッて、人が踊ること、我を忘れて陶酔することのなかに、システムから降りる、「世間」から離脱するヴァイブスとグルーヴがある。次の社会、未来の制度を準備するイデオロギーや主義、政策ではなく、拍子(ビート)と舞(ダンス)のなかに宿る精神、あるいは情動こそ、本当に権力が恐れる非暴力、暴力よりもねばり強い非暴力のコアなのではないか」
 こうした認識は、現在その渦中にいる人たちには当然のことなのかもしれない。けれどもさらに本書では、サイケデリック、ニューエイジ、スピリチュアリズムまでをも含めて、それらを肯定的に対抗文化として捉えている。そうした視点は著者のこの十年の実践から導きだされたものなのだろうか。花田清輝のすべてを俯瞰し飲み込んでいく思想には実際めまいを覚えることがある。戦争さえもスペクタクルなのだと花田清輝が考えていたとこの本で読んだが、正直ぼくはいまだそこまで行き着かない。この十年ほど著者の文章をほとんど見なかったけれども、それならやはりその実践の方も読んでみたいと思う。
 
 岩波書店というカタイ版元から出ているからわざわざいうけれど、最終章の「砂漠のカップル」という文章は少しでも多くのひとに読んでほしい。幾何学的でとらえどころのない砂粒の運動は、現在の大衆論としても読めるし、とくに「無名性」ということにかかわる美しい文章だ。今現在の運動論としても読めるし、それ以上に1948年に書かれた「砂漠について」という花田清輝の文章を読んだであろうたくさんの知らない人たちを想起することができる。たとえば先日読んだブレイディみかこさんの文章に出てきた算数教師のような、自分だけの表現をしながら生きる人たち、そのような知らない人たちのことを思い返すことのできる、パースペクティヴが広がる多層的な文章だ。

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