「Nothing」と一致するもの

SGROOVE SMOOVE (SPECTA / FLOWER RECORDS) - ele-king

DJスケジュール
7月5日(金) URABANITE @ 頭バー
7月13日(土),音音(NEON) @ CREAM (熊本)
7月20日(土),NOUVEAU @ CLUB BALL
FACEBOOK
https://www.facebook.com/suguru.miyazaki.9

7月に聞きたい雑多な大人HOUSE10曲


1
The Secret Life Of Us - Feat Donna Gardier & Diane Charlemagne(Director's Cut Signature MIx) - The Sunburst Band

2
My Moody Life(Original Mix) - Kerri Chandler - Suss

3
Fantom Finger - Masanori Ikeda - Flower Records

4
Warm(Original Mix) - Loaded Dice - Defected

5
Choice(Original Full Version) - Specta - Flower Records

6
The Ride(Original Mix) - Lovebirds - Knee Deep Recordings

7
Sugar(Joey Negro Mix) - Roy Ayers - Rapster Records

8
Your Body(Louie Vega EOL Mix) - Josh Milan - Honeycomb Music

9
Talia Feat Stering Ensemble(Main Mix) - Sterling Ensemble,Aaron Ross - Restless Soul Music House

10
Love Love Love(Main12) - Those Guys - Basement Boys Records

DJ Yogurt (Upset Recordings) - ele-king

2013年前半に自分がクラブなどで頻繁にDJ PlayしたTechnoやTech House系の12inchレコード収録曲を10曲選びました。ダンスフロアを熱くした記憶が生々しい曲ばかり。毎週レコード店に行き、計100枚前後の新譜を数時間かけて聴き、その中から選んで購入しています。

HP : https://www.djyogurt.com/
Twitter : https://twitter.com/YOGURTFROMUPSET
Facebook : https://www.facebook.com/djyogurtofficial

DJ Schedule
7/5(Fri.) @中目黒・Solfa
7/6(Sat.) @福島・会津Birdland
7/14(Sun.) @渋谷・AMRAX
7/16(Tue.) @腰越海岸・KURA
7/19(Fri.) @渋谷・SECO
7/27(Sat.) @名古屋・VIO
7/28(Sun.) @岡崎・Ragslow

8/9(Fri.) @原宿・Bonobo
8/10(Sat.) @渋谷・AMRAX
8/13(Mon.) @千葉・中滝アートヴィレッジ
8/16(Fri.) @吉祥寺・Cheeky
8/17(Sat.) @青山・Oath
8/23(Fri.) @沖縄・コザ・音洞
8/24(Sat.) @沖縄・那覇・Loveball
8/31(Sat.) @山梨・野外・Sense Of Wonder

9/6(Fri.) @徳島・Barチャラパルタ
9/7(Sat.) @高知
9/14(Fri.) @松本・りんご音楽祭
9/22(Sun.) @長野・東御市・湯ノ丸高原スキー場
9/28(Sat.) @江の島
9/29(Sun.) @渋谷・カフェアプレミディ

2013/06


1
Par Grindvik - Biome - Stockholm:Limited
https://www.youtube.com/watch?v=RLFhA_i5uL8

2
Casbah 73 - Ain't No Sunshine (Casbah 73 Rework) - KAT
https://soundcloud.com/kat-records/casbah-73-edits-low-bit

3
Ben Sims - Love and Hurt (Gary Beck Remix) - Hardgroove

4
Yotam Avni - A Song For Danny (Orlando Voorn Remix) - Soul Research
https://youtu.be/E61YKdJzOw0

5
Sycorax - The Pond - New Jersey
https://youtu.be/JV8PBO1_HQw

6
Teersom - Orb - Keys of Life
https://youtu.be/IM-Q5IaLs0Y

7
Cab Drivers - Beatnight 77 - Cab Drivers

8
Mathy K. & The Funky Punch - Ohh. K! (Live In New York) - 2DIY
https://youtu.be/5sAX2o4i7xg

9
Italoboyz feat. Blind Minded - Sti Drumsy - Superfiction
https://youtu.be/5zvzc1v5dKc

10
YO&KO - Power To The People(126Bpm No Break Version) - Yo&Ko

Various Artists - ele-king

 リヴァイヴァリストたちの命は「ダサくなるまで」。なぜそれをいま参照するのか、という批評性にリヴァイヴァルの意義があるのだから、当然だ。シーンがおそらく周期的なものとしてエイティーズ再評価の機運に巡りあわせようとしていた2007年、〈イタリアンズ・ドゥー・イット・ベター〉が鮮やかに提示してみせたエイティーズ・レトロスペクティヴは、ヴィジュアルやコンセプトの徹底的なコントロールの下に成立したひとつのアートとして、際立った存在感を残した。コピーアート風にアレンジされたネオンやファーのスタイリッシュなイメージは、彼らのやりたい音を明確にガイドしたし、イタリア人がうまくやるというセクシャルな「ソレ」にイタロ・ディスコを掛けた秀逸なレーベル名も、彼らが蘇らせようとするヴィンテージなエレクトロ・ディスコをよく物語った。

しかし、だからこそ彼らの「ソレ」(=セックス=ディスコ)は、肉体のレベルではなくコンセプチュアルな次元においてより発揮される。その年リリースされたレーベル・コンピ『アフターダーク』は、一見リッチでグラマラスなボディを持ったダンス・アルバムであるようにみえて、その実スキニーな身体による知的なリスニング・アルバムだった。絶妙につめたく、絶対に間違えない。イタロ・ディスコのベタな模倣では、「ダサかっこいい」ネタ消費の対象として終わっていたことだろう。そして、彼らがあれから6年もの時をまたいでなお間違えないのは、リヴァイヴするものに対するしなやかにして強靭な、「細身」のコンセプトを持っていたことの証である。

......そう、なんと、『アフターダーク』のvol.2がリリースされた。世間はすでにディスコ・リヴァイヴァルな気分でもないというのに、彼らは何をやろうというのだろう、という意表を突くタイミングだったが、まったく危なげない。メンツも変わらず、やっていることも変わらず、ただ、さらに締まっている。パンクやニューウェーヴのスキニーさ、アート・ムーヴメントとしての側面が正しくなぞられているようにも思われた。2007年当初はキマリすぎで鼻持ちならないと敬遠された部分もあったかもしれないが、時間が経つことで等身サイズの評価が見えてくる。

 ミラージュが本当に相変わらずなヴォコーダー使いで展開する"レッツ・キス"はミディアム・スローなディスコ・ナンバー。これを前回と変わらぬ〈イタリアンズ~〉の基準として他を比較してみると、まずグラス・キャンディやクロマティックスからブラス・アンサンブルやファンキーなビートが姿を消していることに気づく。かわりにコズミックで瞑想性を上げた"ポゼスト"や"レッドヘッズ・フィール・モア・ペイン"などがこの第二弾コンピの特徴をかたち作っている。シンメトリーの"ハート・オブ・ダークネス"も硬質でタイト。インダストリアル・ミニマル的なニュアンスをわずかに感じさせ、ひたひたとナインティーズの波がくるぶしを濡らしているシーンの状況を反映するかに見える。ツイステッド・ワイヤーズも同様だ。エメラルズやジャム・シティ後に鳴るべき音として彼らなりに時代と向かい合った、好ましい変化を感じさせる。主宰のマイク・シモネッティはさすがというべきか、1曲だけでそうした今回のコンピのキャラを立てている。
 異色なのはファラー。前回から一貫して、どこかレインコーツなどポストパンクの女流の雰囲気を漂わせているが、今回の抑えめなトーンと機械的なサウンド構築がきれいにハマった。グラス・キャンディやクロマティックスその他にも関わるジョニー・ジュエルのプロデュースが、彼女をふくめた全体に統一感を与えていることを忘れてはならない。

interview with Savages - ele-king

目を覚ましたとき、男の顔が見えた
誰だかしらないけど、その人には目がなかった
彼の存在は心地の悪いものだった
彼の存在は、なんだか心地が悪かった
"ハズバンズ"


Savages
Silence Yourself

Matador/ホステス

Review Amazon iTunes

 取材した人に、「どんな話が盛り上がった?」と探りを入れたところ、「とにかくジョイ・ディヴィジョンについて訊いちゃダメ」と言われたが、さきほどgoogleに日本語で「サヴェージズ」と入れたら、「ジョイ・ディヴィジョンと比較される」という枕詞がだーーーーーと出てきた。
 サヴェージズに関しては、このreviewを読んで下さい。『サイレンス・ユアセルフ』が今年上半期のベストな1枚なのは間違いないし、以下の取材でも話題に出ている"ハズバンズ"は、最高のパンク・ソングの1曲。
 この勇ましい熱が日本にどこまで伝播するか楽しみだ。答えてくれたのはジェニー・ベス、バンドのヴォーカリストである。

年上の女性が年下の女性を支配しようとしているのよね。それが見ててとても印象的でね。そして"シャット・アップ"っていう曲でも新しい世代の誕生のことにういて歌っていたわけ。それは若い世代が知らず知らずいろんなことから制限されているっていうアイディアが埋め込まれているの。

サヴェージズはどのようにはじまったんですか? みなさんそれ以前から活動していますよね。

ジェニー・べス(JB):そうよ。このバンドを組む前からみんなミュージシャンだったの。私はジョニー・ホスタイルとジョン・アンド・ジェンっていうバンドをやっていたし、ジェマ(サヴェージズのギタリスト)もその頃一緒にプレイしてくれてた。ジェマとアイセ(ベース)はその前から一緒にバンドを組んでいたことがあったの。みんなロンドンでそれぞれのプロジェクトをやっていたってこと。ジェマはまたアイセとバンドをしたいと思っていて、サヴェージズのコンセプトを持っていたの。そこに私が入って、フェイ(ドラム)を見つけたの。すごく自然な感じだったわ。

音楽にのめり込んだ経緯について教えて下さい。最初に夢中になった音楽、バンドをやるきっかけになったようなこととか、音楽に何を感じて、見出して自分でも表現しようと思ったのかなど。

JB:私が真剣に音楽を作り始めたのはジョニー・ホスタイルに会ってから。だから7、8年前かな。その前はあまりシリアスには音楽を作っていなかったの。ジョン・アンド・ジェンをやりはじめていろいろ学んでいったんだと思う。本当にゼロから積み上げていったわ。ロンドンに引っ越して、良いライヴもクソみたいなライヴもやって、アルバムを2枚リリースしたのが私にとってとても貴重な経験になったの。

サヴェージズというバンド名は、ウィリアム・ゴールディングの小説『蝿の王』(Lord of the Flies)に出てくる蛮族(Savage)取ったと聞きました。アイロニカルで、ディストピックなネーミングを選んだのは何故でしょう?

JB:その本だけじゃなく、色んな文学から影響されたんだと思う。バンド名はジェマが思いついたの。あの頃彼女はJG・バラードやフィリップ・ K ・ディックのディストピック(暗黒郷的)なサイ・ファイ小説を読んでいたの。そこで『蝿の王』や、それ以外のさまざまな文学と出会ったんだと思うわ。彼女が求めていた意味合いは、人間はみんな進化を経ても、野蛮な面をいまだ持ち続けているということ。それはふとした瞬間に露になるもの──そういったアイディアを伝えていきかったの。サヴェージズのサウンドが生まれる前に、もう名前とそのコンセプトは生み出されていたわ。

女性だけでバンドを組むことは、サヴェージズにとって重要なコンセプトですか?

JB:もともとそういうアイディアがあったわけじゃなくてね。ガールズ・バンドを組もう、と言ってたわけじゃないの。ジェマははじめ、男のヴォーカルが頭にあったの。でも私がアイサとジェマと曲を書きはじめてから、女性ドラマーでバンド構成を完成させようと決めたんだ。

サウンド面でどんなところに気を遣っているのでしょう? 

JB:正しくは、「集中している」よ。えーと、次の質問。

アンディ・ストットやブラッケスト・エヴァー・ブラックには共感がありますか? "Dead Nature"のような曲からは似た感覚を感じたので。

JB:聴いたことないわ。聴いてみたいわ! その曲はスタジオにつるしてあったギターで書いた曲で、その様子は動画にも収めてあるの。けっこう面白いわよ。だからスタジオにつるしてあるギターがいろんなエフェクトやループをしててね。そしてメンバーがそれぞれ入ってきて、いろんな叩き方をしたりしてね。だから死んだ動物がスタジオにつるされていて、それが変な音を生み出しているイメージが湧いてきたの。だから"デッド・ネイチャー"って名付けたの。

デビュー曲の"Flying To Berlin"はベルリンのどんなことについて歌っているのですか?

JB:それは飛行機でベルリンへ向かっていたとき書いた曲なの。飛ぶことに対しての恐怖、死に対しての恐怖、そういったことについてかな。もし飛行機に乗っているとき何かあったら、即死するわ。最後に思うことは何?その瞬間何を思う? ベルリンに向かっていた時、そんなことを考えていた。ベルリンではもう何回か演奏していて、とても魅力的な場所だと思っているの。観客も最高だし、いつもプレイしにいくのが楽しみなの。

アルバムの冒頭の「How old are you?」という言葉が実に印象的ですが、この言葉からはじめた理由を教えて下さい。

JB:それはジョン・カサヴェテスが監督だした映画、『オープニング・ナイト』から引用したものなの。もともとジョニー・ホスタイルが考え付いたもので、ぴったりだったのね。ジョン・カサベテスには多大なる影響を受けているの。彼の作品はもちろんのこと、彼がハリウッドの端っこでインディペンデントに働き続ける意志を持っていたのはとても尊敬するわ。彼の自由奔放な取り組み方、そして彼の映画がとても意味深いものであることはそれが真実だから。どうでもいいことを言って、くだらないものを作っていないのよ。
 このシーンは特にいいの。年上の女性と年下の女性とのあいだの会話中のもので、年上の女性が年下の女性を支配しようとしているのよね。それが見ててとても印象的でね。そして"シャット・アップ"っていう曲でも新しい世代の誕生のことにういて歌っていたわけ。それは若い世代が知らず知らずいろんなことから制限されているっていうアイディアが埋め込まれているの。そこに繋がるのよね。だから彼女は"How old are you?(あなたはいくつ?)"と尋ねてるの。

『サイレンス・ユアセルフ』という題名が興味深いのですが、なぜ「Silence」という言葉が出てきたのでしょう。

JB:映画からとったセリフなの。タイトルの意味が知りたかったら、アルバムの冒頭にあるイントロダクションを読むことをおすすめするわ。そこに全部記されてるの。

日本の現在を言い当てているような、「街は女々しく可愛い愛でいっぱい(city's full of sissy pretty love)」という言葉は何を指しているんでしょう? 

JB:あまりはっきりとした説明はあげたくないの。個人の思いを持って聴いて欲しいし、そうすることが素敵だと思うから。だけど言うとすれば、自分のことを知ろうとせず、何が自分に合ってるか、自分が何に対して喜びを感じるか、自然に自分がそう感じられるものは何か、そしてそれらをちゃんと選べているか。とくに若い人はそれがわかっていない気がして、残念だわ。愛は簡単じゃないっていうことは残念なこと。

"No Face"で歌われているのは、インターネット社会にへの苛立ちでしょう?

JB:全然関係ないわ。だけどそのアイディアは好きよ。そういう意味合いは含んでいないけど、興味深いと思うわ(笑)。

"Husbands"のような曲を歌うと、やはり女性は喜ぶのでしょうか?

JB:そんなことないわ! 女性に限らずみんなに聴いてもらいたい! ロスで演奏したときに、ゲイのカップルふたりが前列にいて、"Husbands" のコーラスを顔を合わせながら一緒に歌っていて、キスしはじめたの。その瞬間気づいたの。彼らにはこの曲は意味があるものだってね。だって彼らはお互いの"Husband"なんだもの。だからとくに誰かにあてた曲じゃないし、私たちの曲はどれもとくに性別ごとにあてられてるものじゃない。それに意味を感じないから。それは違うでしょ(笑)。

同世代のバンドで共感しているバンドやシンガーがいたら、教えて下さい。

JB:ジョニー・ホスタイルが私たちの7月の米ツアーのサポート・アクトよ。あとは私たちのアルバムのギターを担当してくれたデューク・ガーウッド。彼はとても面白いアヴァンギャルド・ブルース・ミュージシャン。あとは日本のバンド、Bo-Ningen。私たち一緒に曲を書いたの。できれば日本で7月か、年の後半に披露しようと思うわ。曲名は"Words To The Blind"で、ドラマ―ふたり、ギター3人、ベースふたり、そしてヴォーカルふたりで演奏する予定よ。ダダイストのアイディアに基づいているもので、同時に語られる詩とバンド同士の戦いについて書いたの。私たちを成長させてくれた曲だったから、とても面白かったわ。

セックス・ピストルズでいちばん好きな曲はなんですか?

JB:セックス・ピストルズが好きかって? けっこうな歳よね? わからないわ。実はつい最近ジョン・ライドンの自伝を読んで、それは興味深いと思ったけどね。

寺尾紗穂 - ele-king

 寺尾紗穂からは、どこからしら不機嫌さを感じる。僕には、そこが良い。彼女の気高い音楽の背後には、この社会に対するやり切れない思い、憤りが隠れているのだろう。音楽的に言えばピアノ弾き語りの、目新しさのない、オーソドックスな、真っ当なSSWだ。この人の内面にある言葉は、荒れ狂う波のように思えるときがある。わかりやすい音楽スタイルによってある種の制約でも与えない限り、放っておいたら何を言い出すかわからない、だからなんじゃないだろうか。理性的でいるためにも。
 この夜、東京はどしゃぶりの雨だった。靴下が濡れているのもよくわかる。クアトロに到着すると、テニス・コーツがライヴをやっていた。ライヴの最後に寺尾紗穂も加わって、セッションがあった。
 寺尾紗穂のライヴは、新曲が中心だった。吉田美奈子のカヴァーをテニス・コーツと一緒にやった。ステージの上の彼女は堂々としたもので、何かもう風格すら感じられた。曲間の喋りで、ケプラーの楕円宇宙について話した。そして、楕円を美しいと言った、花田清輝についても触れた。ライヴ中の、自己言及的なMCは、たいていは、息抜きかかけ声か、ファンの気持ちを満足させるためのリップ・サーヴィスみたいなものだが、彼女は、大きな謎かけをする。それにしてもこんなところで花田の名前が......と嬉しい驚きだ。
 そればかりではなかった。ライヴの最後には、彼女は、ホームレス支援の『ビッグイシュー』を応援している「りんりんふぇす」なるイヴェントをやっているそうで、『ビッグイシュー』を通じて知り合った4人のおじさんによるダンサー・チーム、ソケリッサを紹介した。80年代のエルヴィス・コステロのように、生活保護のおじさんについて歌い、生活保護のおじさんたちはステージや客席で踊った。フェリーニの映画のようだった。甘く優しい歌声のコンサートの夜は唐突に、大転換される。テニス・コーツのふたりも出てきて、サーカス団のようになった。ホワット・ザ・ファック・イズ・ゴーイング・オオオオオオーン? 
 昨年、クアトロでのライヴを見たときも、寺尾紗穂は井の頭公園で歌っているおじさんを舞台に上げていたが、彼女が何を訴えたいのかは言わずもがなだろう。人はそこにいるのだ、あなたと同じように。日中の渋谷の大通りの交差点でバイクが横転した。人が倒れて動けないでいる。が、信号が変われば何台もの車はその人を通過する。道路のど真ん中だが、目に入ってこない。

 数日後、写真家の小原泰広と会った。「そういえば、寺尾さんのライヴに行ったんですけど......」「え、小原君、いたの!?」「いや、素晴らしかったですね」「いや、ホントにね」、本当に素晴らしかった。寺尾紗穂は次作でどんな楕円を見せるのだろうね。しかし僕はただ、彼女がいままでのように作品を作り、不機嫌さを秘めながら、孤独なピアノの、甘く切ない歌を歌ってくれれば良いのだ。

「ギリシア人は単純な調和を愛したから、円をうつくしいと感じたでもあろうが、矛盾しているにも拘わらず調和している、楕円の複雑な調和のほうが、我々にとっては、いっそう、うつくしい筈ではなかろうか」花田清輝

Fat Freddy's Drop - ele-king

 今日は天気が良い。7人編成の大所帯、ファット・フレディーズ・ドロップの音楽からは酒場の活気、さもなければ太陽と土の匂いがするのだが、バンド名はメンバーが揃って摂取したLSDの絵柄から取られている。90年代初頭のレイヴの時代によくあった話だ。紙切れひとつで惑星の軌道に乗って宇宙を彷徨う。冷静に考えて、そんなことは長く続くものじゃない。最近ファット・フレディーズ・ドロップは彼らの母国ニュージーランドでワイン巡りのツアーをやったそうだが、僕もワインのほうが良い。
 彼らはヨーロッパのフェスティヴァルの人気者だそうだ。ヨーロッパのフェスティヴァルといえば、僕の記憶は、どこに行こうが鼻をつく強いハーブの香りと芸術的なまで汚いトイレ、日本と比較して圧倒的にリラックスしているオーディエンスの姿を思い出す。リラックスというか、そこら中でごろごろ寝転んでいる印象だ。いまはどうかわからないが、90年代はそうだったし、ファット・フレディーズ・ドロップはあの怠惰な夏にはぴったりだ。
 グラストンベリー・フェスティヴァルにだってジャズ・ステージがある。クラブ・ジャズ系のバンドも、埃と汗のなかで演奏する。ロック雑誌の表紙を飾るようなインディ・ロック・バンドが他のエリアで演奏している傍らで、せっかくの解放感ある野外にいるというのにわざわざ満員電車のなかに突っ込むようなマネはしたくないと考える連中が、ジャズ系のステージに集まる。ブライトンのフェスティヴァルに行ったときもそうだったし、フランスでもそうだった。そこに行けば、ファット・フレディーズ・ドロップのようなバンドが演奏している。僕は彼らがいることに感謝した。

 『ブラックバード』は、90年代末、ニュージーランドのウェリントンのクラブを拠点に誕生した彼らの、3枚目のスタジオ録音盤だ。ニュージーランドといえばデトロイトから彼の地に越したリクルーズ(デトロイト・テクノのプロデューサー)だろうと取材で訊いたら、メンバーの近所に住んでいるとのこと。彼らはしかも、デトロイト・テクノからの影響を受けていると主張する。言われてみれば、随所にケニー・ディクソン・ジュニア風のねっちこいファンク、デリック・メイやカール・クレイグ風のリズムを見つけることができる。だが、勇ましいブラス隊の音とソウル・ヴォーカル、エレクトリック・ギターやパーカッションが工業都市の冷たさを別のモノに書き換える。
 インナースリーヴには、使っている楽器が写っている。5本のギター、ドラム、ヤマハとコルグのシンセサイザー、ベース、アカイのサンプラー、トランペット、ディレイ、エコーマシン、フェンダーのアンプ......。その裏側では、7人の野郎がそれぞれの楽器を持ってポーズを決めている。写真を見ているだけで、音が聞こえるぞ。ソウルやダブ、ファンクを呑み込んだ、いわゆるエクレクティックなサウンドが。テクノやP-ファンクからの影響があるし、クルーダー&ドーフマイスターのダウンテンポにも似ている。あるいは、ニュージーランドにはよほど美味しいワインがあるのだろう。一杯呑んだら聴覚のバランスに影響を及ぶすような......おっと、これも90年代初頭によくあった話だ。それにいまは90年代リヴァイヴァルだった。

The Knife - ele-king

 レオス・カラックス監督の13年ぶりとなる長編作品『ホーリー・モーターズ』(2012)で、主人公のオスカー(ドニ・ラヴァン)は厳密な時間管理のもと、リムジンの車内で衣装やメイクによって自身を作り変え、異なる人生を次々と演じていく。この映画の始点には、「自分自身でいることの疲労、自分自身であり続けることの疲れ」と「新たに自分を作り出す必要」というふたつの感情があったことを、カラックスは明らかにしている(https://www.outsideintokyo.jp/j/interview/leoscarax/index.html)。そしてまた、映画監督としての自分、あるいは夫や父としての自分など、相手や置かれた立場によって役割を演じ変えることについても語っている。「それらは人生の演技の一部なのだと思います。しかしそうした演技を止めたとき、いちばん疲労感を持つのではないかと思うのです。映画なのか恋愛なのか分かりませんが、どこかそこに行けば、自分自身が何なのかを見つけることができるとされている場所があるはずです。ですからすべての人々がこのように演技をしているときと、そして自分自身が誰なのかを知ろうと努力をしているときとの間を、旅しつづけているのではないでしょうか」。オスカーが思春期の娘を持つ父を演じるシーンにおいて、彼が娘に言い放つ「お前の罰は、お前がお前自身として生きることだ」という台詞は、カラックスのアイデンティティに対するそういった複雑な感情が書かせたものだろう。そしてこの台詞は、『ホーリー・モーターズ』の核心のひとつに迫っている、非常に重要な言葉でもある。

 スウェーデン、ストックホルム出身のカリン・ドレイヤーとオラフ・ドレイヤーの姉弟からなるエレクトロ・デュオ、ザ・ナイフも、「アイデンティティ」というアイディアに対して慎重な距離を保っている。それが極端に表れているのは、彼/彼女たち自身のヴィジュアル・イメージの扱い方だろう。ザ・ナイフは自分たちのイメージを慎重に取り扱っているようにも、巧妙に取り繕っているようにも、あるいは弄んでいるようにも見える。前作『サイレント・シャウト』(2006)のリリースに伴う取材に際して、2人は真っ黒い仮面(長いくちばしを持った鳥のような形状をしている)を決して外さなかったという。そして、7年ぶりとなるフル・アルバム『シェイキング・ザ・ハビチュアル』のリリースに際しては、対面での取材をまったく行なっていない。代わりにメディアにばらまかれたのは、ふたりの顔が判然としない写真や、体操選手とそのコーチのようなコスプレをしたイメージ、パーカーのフードを被り、京劇の化粧を簡素にしたような白塗りの上に黒いマスクをした写真など、てんでバラバラなイメージばかりである。スカイプを介して行われたガーディアン紙のインタビューで、カリンは「異なる役柄を試してみることは常に楽しいことよ」と語っている。彼女はジュディス・バトラーの「わたしたちは常に女装している」という言葉を引用しながら問いかけている。「それは"真正性"に関係しているわ。自分が本当の自分自身である時間なんて本当にあるのかしら? 私たちはつねにすでに、何かしらの役割を演じているの。ギターを持って自分の感情について歌っている男たちだって、"そういうことをする"人間の役柄を演じているんだわ」。

 ザ・ナイフの試みてきたことは、オロフによればクィア理論の実践であり、人々が「真正」だと感じる音と正反対の音――すなわち、どこから来たのかわからない、出自を知りえないような音の探求であった。そして、その音とはシンセサイズドされた音や声なのではないか、と。ジェンダーやセクシュアリティの問題へと直截に切り込んでいる、多分に政治的なこの『シェイキング・ザ・ハビチュアル』というダブル・アルバムは、彼らの作品のなかでももっともとっちらかった作品であるとともに、ザ・ナイフが試みてきたそういった音の実験のひとつの到達点であるように思える。"ア・トゥース・フォー・アン・アイ"や"ウィズアウト・ユー・マイ・ライフ・ウッド・ビー・ボアリング"、"レイジング・ラング"では、どこのものとも知れぬトライバルなパーカッションが鳴り響く一方で、19分にも及ぶ"オールド・ドリームズ・ウェイティング・フォー・リアライズド"や約10分の"フラッキング・フルーイド・インジェクション"においては、声や電子音による長大でおどろおどろしいドローンが展開される。8分以上の曲が6曲もある一方で、1分にも満たない曲もある。全編にわたってカリンのヴォーカルは奇妙に捻じ曲げられ、ピッチは激しく上下にシフトさせられ、ビートを構成するキックやパーカッション、ベースの音は気味悪く歪んでいる。まるで、『サイレント・シャウト』のゴシックでインダストリアルな感覚が増幅されすぎたために引き起こされたフィードバック・ノイズが通奏低音として鳴っているかのようだ。『シェイキング・ザ・ハビチュアル』の不快とも言えるおどろおどろしく歪んだ電子音に95分間どっぷりと浸かっていると、次第に感覚が麻痺しだし、快い忘我と陶酔に襲われる。そこでは、この音楽が"真性"かどうか、ザ・ナイフのふたりがいったいどんな容姿をしているのかは問題ではなくなってくる。快と不快、美醜、真贋といった価値づけは混乱し、転倒をきたす。

 先のインタヴューでオロフは「音楽の歴史は特権的な白人男性が書いてきた」とまで言っている。ザ・ナイフはそうした音楽の「正史」に対し、はっきりと反旗を翻している(ちなみに、オロフは出演者のうち、男性が半数以上を占める夜間のイヴェントやフェスには出演しない)。男装する老女や緊縛されるクィアが登場するヴィデオが衝撃的な"フル・オブ・ファイア"で、つんのめるようなビートがループするなか、カリンは歪んだ声で問いかける。「ときどき、わたしは解決が困難な問題(problem)を抱える/あなたのストーリーはどんなもの?/それが私の意見/問題(question)と回答には長大な時間がかかりうる/ストーリーはここに/あなたの意見はなに?」「全ての男たちと、男のお偉方は誤ったストーリーを語っている」「さあ、ジェンダーについて話そう、ベイビー/私とあなたについて話そう」と。
 "慣習を揺さぶること"と題されたこの作品においてザ・ナイフは、シンセイサイズドされたダークなエレクトロニック・サウンドによって、"自分が自分自身として生きる罰"を科す運命論者たちに果敢に挑戦し、旧弊な慣習を切り裂いている。それはじつに痛烈な一撃である。

ele-king presents
PARAKEET Japan Tour 2013
- ele-king

【PARAKEET】

 2011 年にリリースされたデビュー・アルバムがここ日本でも大きなヒットを記録した、UK のロック・バンド、ヤックのメンバーである日本人ベーシスト、マリコ・ドイが、同じくUK で活動し、今年リリースのデビュー・アルバムが絶賛を浴びる若手注目バンドザ・ヒストリー・オブ・アップル・パイのジェームス・トーマスと結成した新バンド、パラキートが待望の初来日ツアーを敢行! 両バンドの持つ音楽性を受け継ぎならも、ピクシーズやスパークルホース、ポルヴォなどを彷彿とさせるような、ポップかつユニークなギター・バンド・サウンド! 日本語歌詞も織り交ぜたヴォーカル、印象的なベース・リフとタイトなドラムが疾走するそのサウンドは、インディー・ロック・ファン感涙必至!  これまで、UK本国で7ich シングルと、EP(デジタルと限定カセットのみ) をリリースし、ここ日本でもその活動が大きな話題となるなか、そのEP収録曲やシングル収録曲、ハスカー・ドゥやガムボールなどの要注目カヴァー・トラックを収めたCDも遂に7/3にリリース!


【THE GIRL】

 日暮愛葉(ex Seagull screaming kiss her kiss her etc...)とその友人のベーシスト林束紗(scarlet / hinto)とドラマーおかもとなおこ(つばき)からなる三人組ガールズ・ロックバンドとして2010年より活動開始。Seagull screaming kiss her kiss herを思わせるシンプルでキッチュなガレージ・ロックンロールが全開。スリー・ピース編成ならではの必要最小限に削ぎ落とされた音数、エッジの効いた音像に愛葉節とも言えるニューウェイヴな風情は健在。またメンバー全員コーラスを取れるのがこのバンドのチャームポイントで、シャープなサウンドにポップで華やかな彩りを添えます。今年2月リリース・パーティーを最後にベーシスト林束紗が脱退。THE GIRLは新体制、日暮愛葉(Vo,G)とおかもとなおこ(Dr.cho)ふたりでリスタート!


【toddle】

 2002年に田渕ひさ子(NUMBER GIRL、bloodthirsty butchers)がバンドを作ろうと考え出す。日々のイメージトレーニングが始まり、高知出身の荒くれ者、安岡秀樹に思い詰めて参加のお願い電話をする。そしてtoddleの原型完成。是非かわいこちゃんの女子をメンバーにしたいと思い詰めた田渕が、友達であり好みのタイプ、小林愛(swarm's arm)を誘う。そして3人に。「ベース入れてやってみようか?」と、話が盛り上がり、福岡県筑後市出身の江崎典利(RUMTAG、AMON)に「ちょっとベース弾いてよ。」と電話。そして4人でライブを行う。「ちょっと、今日、良かったよー。また弾いてよー。」3人は味をしめメンバーへと引きずり込む。安岡が高知への引越に伴い脱退し、いつの間にか内野正登(moools)が加入。現在に至る。最新アルバムは2011年リリースの『The Shimmer』。

【TADZIO】

 リーダー(g, vo)と部長(ds, vo)から成る爆音ハードコア・ポップ・バンド、TADZIO(タッジオ)。 2010 年に活動を開始。2011年、1stアルバム発売。ロック、メタル、ハードコア、ガレージ等々、さまざまな要素が入り混じった独創的なオリジナル全11曲をすべて一発録り。ゆらゆら帝国やギターウルフなどを手掛けてきた中村宗一郎(ピースミュージック)のマスタリングにより、凶暴であ りながらも小気味よく、繰り返し聴きたくなるサウンドに仕上がっている。UKのSPINE TVでの特集や、イタリアのFAR EAST FILM FESTIVALに出演など、海外のフォロワーも急増中。現在、2ndアルバムを制作中。



【uri gagarn】

 威文橋(イブンキョウ)が中心となり結成。2004年に1st『(無題)』を初恋の嵐やSPARTA LOCALSなどを輩出したMule Recordsよりリリース。翌年2nd『no.1 oracle』を自主レーベルaLPs(アルプス)よりリリース後、メンバーが脱退。2009年にex-nhhmbaseの英(ba)、カワムラ(dr)が加入し活動を再開。2013年1月、実に8年ぶりとなる3rd『my favorite skin』をaLPsよりリリース。エンジニアに君島結(Tsubame Studio)を迎え、オープンリールテープを用いてダイナミズム溢れるバンドサウンドを録音。マスタリングはSonic Youth、Jawbreaker、Primus、Superchunk等との仕事で知られるJohn Goldenが担当し、さらに爆発力の増した一枚に仕上がっている。現在、次の作品に向け制作準備中。



ele-king presents
PARAKEET Japan Tour 2013
special guest : THE GIRL

9/5 (木) 渋谷O-nest (03-3462-4420)
PARAKEET / THE GIRL
special guest : uri gagarn
adv ¥3,800 door ¥4,300 (+1drink)
open 18:30 start 19:00
チケットぴあ(Pコード:205-168)
ローソンチケット(Lコード:74729)
e+

9/6 (金) 名古屋APOLLO THEATER (052-261-5308)
PARAKEET / THE GIRL
adv ¥3,800 door ¥4,300 (+1drink)
open 19:00 start 19:30
チケットぴあ(Pコード:205-387)
ローソンチケット(Lコード:42027)
e+

9/7 (土) 心斎橋CONPASS (06-6243-1666)
PARAKEET / THE GIRL
adv ¥3,800 door ¥4,300 (+1drink)
open 18:30 start 19:00
チケットぴあ(Pコード:205-168)
ローソンチケット(Lコード:56704)
e+

9/8 (日)「BON VOYAGE ! 〜渡る渡船は音楽ばかり〜」
尾道JOHN burger & cafe(0848-25-2688)、 福本渡船渡場沖船上
PARAKEET / THE GIRL / NAGAN SERVER with 韻シスト BAND / ウサギバニーボーイ他
adv ¥3,500 door ¥4,000 (渡船1day pass付 / +1drink)
open / start 12:00
ローソンチケット(Lコード:66873)*7/6よりチケット発売
主催:二◯一四(にせんじゅうよん)
共催:Buono!Musica!実行委員会
後援:尾道市、世羅町、尾道観光協会、世羅町観光協会、ひろしまジン大学、三原テレビ放送、中国放送
協力:福本渡船、ユニオン音楽事務所
INFO : 二◯一四(にせんじゅうよん)080-4559-6880
www.bon-voyage.jp


new! 【追加公演】
9/10 (火) 渋谷O-nest (03-3462-4420)
PARAKEET / toddle / TADZIO (この日のTHE GIRLの出演はございません)
adv ¥3,800 door ¥4,300 (+1drink)
open 18:30 start 19:00
チケットぴあ(Pコード:209-089)
ローソンチケット(Lコード:71161)
e+


*尾道公演を除く各公演のチケット予約は希望公演前日までevent@ele-king.netでも受け付けております。お名前・電話番号・希望枚数をメールにてお知らせください。当日、会場受付にて予約(前売り)料金でのご精算/ご入場とさせていただきます。


主催・制作:ele-king / P-VINE RECORDS
協力:シブヤテレビジョン ジェイルハウス 二◯一四(にせんじゅうよん)
TOTAL INFO:ele-king 03-5766-1335
event@ele-king.net
www.ele-king.net

PARAKEET / PARAKEET

PCD-18746
定価¥1,995
Release:2013.7.3
歌詞・解説付
解説:佐藤一道(Monchicon!)

Amazon

01. Tomorrow
02. Toumono
03. Bananafish
04. Shonen Hearts
05. Paper, Scissors, Stone
06. Hiccups
07. She Wants To Eat Meat
08. Darumasanga
09. Campaign Against Torpidity (No Wings Fins or Fuselage カヴァー)
10. Restless (Gumball カヴァー)
11. Don't Want To Know If You Are Lonely (Hüsker Dü カヴァー)

ele-king book 新刊 - ele-king

  本を読み進むにつれて、彼らのはっきりした物言いにどんどん引き込まれる。日本のラッパーたちは自分の意見を言える。これは意外と、お茶を濁すのが好きな日本文化では珍しい。そして......ページをめくり、OMSBの話を読むながら、この本のポテンシャルに震えた。

 ele-king booksから新刊のお知らせです。これは宣伝文、売らんがための文章だ。ゆえに控えめに言おう。僕は本書のゲラを読みながら、自分の内側から熱いモノが湧きあがって仕方がなかった。
 OMSB、THE OTOGIBANASHI'S、PUNPEE、AKLO、MARIA、田我流、ERAといったテン年代のラッパーたちの言葉(リリック)に焦点を絞りつつ、大先輩である宇多丸とMummy-Dが日本語ラップの現在について語る──それが本書の主旨だった......が、ラッパーたちの言葉が、本書をそれ以上のものにした。
 著者である巻紗葉は黒子に徹して、彼らの言葉を引き出すことに集中している。そして、彼らは「生き方」についての自分たちの考えをはっきりと話すのだ。はっきりモノを言わないのが日本人だったじゃないのか......しかし、アメリカの影響下で生まれ、日本で育ったこのジャンルは、ずけずけと物言う文化へと成長している。

 勇気づけられる話ばかりだ。とくにOMSB、MARIA、田我流の3つは最高だ。彼らの音楽を知らない人、いや、知らない人こそ読むべきだ。たとえば、OMSBとMARIAを読めば、ヘイトがいかにいじめに直結しているのかがわかる。自分たちが経験した差別を正直に語り、それでもひたむきさと寛容さを忘れず、人生に前向きさを見いだしている彼らの言葉を心強く思う。反原発への複雑な思いを正直に話す田我流の思慮深さ、その一方でバカみたいに選挙に行こうと呼びかける態度(残念だが、そのメッセージは広く届いていない)にも僕は好感が持てるし、PUNPEEの「何も背負いたくない」という発言にも「うんうん」とうなずける。彼らには自分たちの足下を見ながら話している感覚があって、そこがすごく良いと思う。
 「ポップ・フィールド」にいるふたりのベテランの志の高さ、その揺るぎのなさも気持ちがよい。お茶の間にも行けるような人たちが『ダーティーサイエンス』のようなアルバムを出せることは、明らかにこのシーンの強さの証明だ。
 わずか9人のラッパーの証言だが、計らずとも日本のラップが、──本書の主旨にはそもそもなかったことなのに──、結果、3.11以後のリアリティを直視している話となった。僕はラップ専門の人間ではないが、本書を読んで彼らのことが好きになった。MARIAの話に涙した。田我流の最後のエピソードは、今日の日本の、とっておきの美しい生き方の一篇である。(野田 努)


■街のものがたり
著者:巻紗葉
判型:四六判/256ページ
価格:税抜き1900円
発売日:2013年6月28日
ISBN:978-4-907276-01-0

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Mac Miller - ele-king

 インディで活動しながらもファースト・アルバム『ブルー・スライド・パーク』でいきなりビルボード200制覇を成し遂げた奇跡の21歳、マック・ミラー。その輝かしい経歴とは裏腹に、ここ日本ではいまいち知名度が低い。そんな彼が先ごろセカンド・アルバム『ウォッチング・ムーヴィーズ・ウィズ・ザ・サウンド・オフ』を発表した。しかしJ・コールの『ボーン・シナー』とカニエ・ウェストの『イーザス』と同週発売ということもあり、前作同様話題にならないような予感......。

 まずマック・ミラーとはどのようなアーティストか? それを知るには彼が18歳のとき、2010年に発表したミックステープ『K.I.D.S』を聴く必要がある。タイトルからもわかるとおり、この作品はラリー・クラーク監督、ハーモニー・コリン脚本による同名映画にインスパイアされて制作されている。ここからわかることは、彼が90年代のスケーター・カルチャーをバックグラウンドに持っているということ。そして同作からのヴィデオ・クリップ"シニア・スキップ・デイ""ノック・ノック""クール・エイド&フローズン・ピッツァ"などを観れば、彼(や取り巻く人々)の尋常ならざるセンスの良さを感じることができるだろう。

 さらにマック・ミラーの強みは、メロディ・センスの高さだ。彼は2012年にラリー・ラヴシュタイン&ザ・ヴェルヴェット・リヴァイヴァル名義でミックステープ『ユー』を発表しているが、この作品ではラップではなくジャズ・ヴォーカルを披露。『ユー』という作品がどこまで本気なのかはさておき、今作でもフライング・ロータスやファレル、クラムス・カジノらが手がける曲でメロディメイカーとしての力量を発揮している。またラリー・フィッシャーマン名義のセルフ・プロデュース曲"リメンバー"では、ジ・XX"スウェプト・アウェイ"をサンプリングしているあたりも非常に興味深いところだ。

 前述のような面々がサウンドをクリエイトしている場合、高い確率でコンシャスな作品に仕上がるものだが、客演のメンツを眺めているとなかなかどうして一筋縄ではいかないラッパーたちが名を連ねており、コンシャスというよりはどうしても『K.I.D.S』を想像してしまう。その『K.I.D.S』つながりでは、OFWGKTAからアール・スエットシャツとタイラー・ザ・クリエイター(ボーナストラックのみ)、さらに米『XXL』誌企画による「フレッシュマン・クラス2013」に選出されたスクールボーイ・Qやアクション・ブロンソン、Ab-ソウルといった注目株も参加している。黒人のプロップスも高いユダヤ教徒の白人ということで、ビースティ・ボーイズの面影を彼にみるのはわたしだけではないはず。

 ここまでつらつらと書いてきたが、つまるところ言いたいのはマック・ミラーの新作は前作同様、非常にイケているということだ。アメリカではJ・コールとカニエ、そしてこのアルバムが同日発売されたそうだが、その事実に「常に供給過多」という異常事態を維持しつづける本場のヒップホップ・ゲームの凄みを感じずにはいられない。しかもマック・ミラーは21歳、THE OTOGIBANASHI'Sの1コ上なのだ。


巻紗葉 編著『街のものがたり』 本日発売!

■2010年代のヒップホップ・アーティスト9人のインタヴュー集。
ルードでも閉鎖的でも教条的でもない、自由で新しいフィーリングを持ったラッパーたちが、いまのびのびとヒップホップの歴史を塗り替えようとしている!

★収録アーティスト
・OMSB
・THE OTOGIBANASHI'S
・PUNPEE
・AKLO
・MARIA
・田我流
・ERA
・宇多丸
・Mummy-D
3.11以降、若いラッパーたちは何を思い、何を感じたのか......。

生活のこと、これまでのこと、未来のこと、じっくりと語りおろした珠玉のインタヴュー9編。街のリアリティから生まれる力強いメッセージがここにある。

■街のものがたり
著者:巻紗葉
判型:四六判/256ページ
価格:税抜き1900円
発売日:2013年6月28日
ISBN:978-4-907276-01-0

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