「Nothing」と一致するもの

THE HELIOCENTRICS - ele-king

 ジ・エックス(The Ex)といえば、ポストパンク時代のオランダから登場した前衛パンク・ジャズ・バンドとして知られる。中心メンバーのテリー・エックスは、数年前には〈スモールタウン〉からオリジナル・サイレンス(ジム・オルークやサーストン・ムーアもいる)としても2枚のアルバムを出しているので、ご存じの方も少なくないはず。何にせよ、そんな、ノイジーで、フリーキーなバンドが最近エチオピア・ジャズの巨匠ゲタチュウ・メクリヤとのコラボ作品を出したのだが、これがその組み合わせ自体が興味深くもあり、そして、実際、素晴らしい作品でもある。エチオピア・ジャズ独特の旋律とパンク・ジャズとの見事な邂逅というか。マーク・エルネストゥスがプロデュースしたジェリ・ジェリに並んで、ヨーロッパとアフリカの美しい出会いである。
 さて、エチオピア・ジャズといえばムラトゥ・アスタケで、そして、この巨匠の存在をより広くアピールしたのが、2009年に〈Strut〉が企画した『Inspiration Information』シリーズにおける〈ストーンズ・スロウ〉傘下の〈ナウ・アゲイン〉からデビューした英国のジャズ・ファンク・バンド、ザ・ヘリオセントリクスとの共演盤。この作品をきっかけに、翌年に同レーベルからリリースされたロイド・ミラー&ザ・ヘリオセントリクスによる魔法のようなアルバムにまで手を出した人も少なくないと思うが、エチオピアン・ジャズにも接触しながら拡大したコズミックな感性を表舞台で捉えていたのがフライング・ロータスだったようにも思う。何にせよ、ジャズはこうして、いま来ている。
 ザ・ヘリオセントリクスが来日する。これは行かねば。8月10の代官山ユニットでは、USディープ・ハウスの実力者、AybeeのDJプレイもある。


■FRUE ~Space Is the Place~
2013.8.10(Sat)@UNIT
Open / Start : 23:00

UNIT
Live :THE HELIOCENTRICS (Now Again / Stones Throw / UK)
DJ :Aybee (Deepblak / Oakland)
OSG

SALOON
Shhhhh
Wata Igarashi ( Drone )
MAMAZU (HOLE AND HOLLAND)
PECO ( R20 )
7e (Romanescos )

CHARGE : ADV 3,800yen/DOOR 4,300yen ( 26:00 ~ 2,500yen )
・ローソン[Lコード:77763]

■FRUE ~Space Is the Place~
2013.8.11(Sun) @ Aoyama Cay
Open / Start : 16:00

Live :THE HELIOCENTRICS (Now Again / Stones Throw / UK)
And more tba

CHARGE : ADV 5,000yen/DOOR 5,500yen
・ローソン[Lコード:79261]


vol.52:NYサマータイム・ブルース - ele-king

 夏、NYの野外活動は拡大する。サマーコンサート、サマーフィルムが毎日何処かで開催される。夏のショーは、ビッグネームでもインディ・バンドでも、フリーで野外ということも多いが、先週までのNYは天候が不安定で、コニーアイランドのチープトリックも(最高!)、リバーロックスのジェネレーショナルも、サマースクリーンも雨模様だったが、今週に入ると、マーサ&ザ・ヴァンデラスさながらヒート・ウェイヴが押し寄せ日中は98°F(=37℃)超え! 週末はみんなビーチに出かけ、夜からようやく外に出はじめる。普段ビーチに行かない著者も、先週はロングアイランドに行って、水に浸ってきた。そのままボードゲームにはまり、帰りの電車のなかまで続ける有様......


野外映画を観ている人たち。

 NYの夏の、野外映画も素晴らしい。ブライアント・パーク、イースト・リバー・パーク、ハドソン・リバーパークなどの公園で上映、日没になると人が集まりだす。知らない人たちが一同に同じ映画を見るのは可笑しいが、大体は、映画は関係なく飲んだり食べたりのんびり状態。なかには折り畳みいす持参で徹底的に楽しむ上級者もいる。子供向け、ファミリー向け、公園によって映画は違うが、『L・マガジン』が、毎夏ブルックリン、グリーンポイントのマカレンパークで開催するサマースクリーンが、インディ音楽ファンの心をついている。映画の前には、いまNYでホットなニュー・バンドがプレイするし、キュレーションはNYのアンダーグラウンド・ブッキングを代表するトッド・P。彼には去年、ブルックリンのインディ・シーンについてのインタビューしているので、未読の方はどうぞ

 参考までにサマースクリーン、今年2013年のラインナップ:

Wednesday, July 10
映画:キャント・ハードリー・ウェイト
音楽:SILENT BARN presents: Jeffrey Lewis and the Sunny Skies、Weed Hounds、Ganjatronics

Wednesday, July 17
映画:ピーウィーの大冒険
音楽:JMC AGGREGATE presents: Oberhofer, Lodro and Bueno

Wednesday, July 24
映画:ザ・クラフト
音楽:285 KENT AVE + AD HOC present: La Misma, Potty Mouth, Divorce Money (Dustin of Beach Fossils, Ren of Herzog Rising, Alex of Dream Diary)

Wednesday, July 31
映画:グーニーズ
音楽:DEATH BY AUDIO + ENTERTAINMENT 4 EVERY 1 present: Hector's Pets, The Numerators, Juniper Rising

Wednesday, August 7
映画:スピード
音楽:SHEA STADIUM presents: Hubble (member of The Men, Zs and Pygmy Shrews), GDFX (member of Liturgy, Man Forever and Guardian Alien)

Wednesday, August 14
映画:オーディエンス・ピック(オーディエンスの投票で映画が決まる)
音楽:MARKET HOTEL presents: Aa (aka Big A Little A), Amen Dunes

 トッド・Pのウェブ・サイトにもリンクが張られている、DIYブッカーたちがバンドをピックする。バンドはまだ若く日本ではほとんど知られていないが、このなかでは、Aa(ビッグエー・リトルエー)が大御所。彼らはライトニング・ボルトやライアーズあたりと良くプレイしている。映画もバンドも偏ってはいるが、このラインナップには少しチージー(良い意味で)な、現在のブルックリンが表されていると思う。ただ、最近のブルックリンは選択肢が多すぎて、結局どれにも行かないという人が増えている(著者の周辺情報)。
 たしかに、インターネットで音楽も聴け映像も見れると、バンドを知った気になってしまう。著者の場合、音楽業界周辺からの口コミや、普段の何気ない会話から生まれるサプライズに託しているが、ライヴに行きたいと思わせるバンド、それをオーガナイズするブッカーがやはり大事だ。そこで、DIYブッカーとしては少し規模が大きくなるが、NYとサンフランシスコにオフィスを持つパナシェがある。パナシェは、その名があるというだけで「見に行こう」と思える数少ないブッカーで、何十年も同じスタンスでいる。彼らがスペシャルでいれる理由は、所属バンドの質と、パナシェだったらという信頼、パナシェ・チームが考える人とのつながり。
 そこで、代表のミシェルに、パナシェ、NY、ブッキング他、彼女が興味のあることまで、ランダムに語ってもらった。彼女のパーソナリティにも注目してほしい。

ミシェル (パナシェ・ブッキング)インタヴュー

取材に応えてくれたパナシェ・ブッキングのミシェルさん。
取材に応えてくれたパナシェ・ブッキングのミシェルさん。

自己紹介をお願いします。NYの音楽業界で働いてどれくらいになるのでしょうか。

ミシェル(M):私はミシェル・ケーブルです。北アメリカのおよそ120バンドのブッキングを扱うタレント・エージェンシーのパナシェ・ブッキングを経営しています。オフィスはブルックリンとサンフランシスコにあり、音楽業界で働いて15年になります。パナシェはファンジンとしてはじまり、私は地元のカリフォルニア、ユリイカのプロモーターになり、1年で約100本のショーをブックしました。最終的に私が尊敬するアーティストのツアーをブッキングすることになり、パナシェ・ブッキングを設立しました。

NYには何年、どこに住んでいますか? NYに住むこと、近所を紹介してください。

M:ブルックリンのグリーンポイントに6年住んでいます。マンハッタンに行くL線とクイーンズとサウスブルックリンに行くG線が走るふた駅へは数ブロックです。近辺はポーランドとイタリア人が住んでいて、家族的な雰囲気で、バーやレコード屋、ライヴハウスがたくさんある、ウィリアムスバーグにも面しています。このエリアは数年で、大きく変わりました。私はNYが好きで、6年経ったいまでも、毎日が映画のようにインスパイアされる瞬間でいっぱいです。その角に何があるか、普通の人びとに驚かされたりと予想がつきません。人は都市の脈で、24時間エネルギーを感じます。ここで強く支持のあるコミュニティを発見し、素晴らしいコラボレーションに繋がって行きました。

いまパナシェでブックしているメインのバンドは?

M:タイ・シーガル、ジ・オーシーズ、マック・デマルコ、ザ・メン、ブリーチド、クール・キース、DJジョナサン・トゥビン、ミカル・クロニンなどです。

どれぐらいの割合でショーに行きますか? 最近で面白かったショーは? 人びとは昔に比べて音楽を見に出かけていると思いますか?

M:時期やツアー時もよりますが、週に2、3回。最近の良かったショーは、NYのリンカンセンターでの、$100を賞金としたダンス・コンテスト、DJジョナサン・トゥビン・ソウル・クラップ&ダンス・オフです。R&Bシンガーのヤング・ジェシーがオープニングで、観客が、7インチのソウル・レコードをヘッドフォンで聴く、初の無音ディスコ・ソウル・クラップでした。歴史的な会場のリンカン・センターなので、老若男女が音楽に合わせてお尻を振っていました。ヘッドフォンをとったら、人が音のないリズムで踊っているのでかなり面白かったです。ライヴ音楽はもちろん、私はダンスとふたつの世界を繋げるのが好きなので、人びとのつながりを強くするこういうイヴェントをもっとやりたいです。人は、まだよく出かけていると思いますが、大多数の人は、小さなインディショーに行くより、フェスティヴァルなどの大きなショーに行くのを好むと思います。

NYで好きな会場はありますか?

M:ブルックリンのディス・バィ・オーディオはまだホームを感じます。200人ぐらい収容できるウィリアムスバーグの真んなかにあるDIYクラブで、壁がカラフルなアートワークで覆われていて、スタッフも家族みたいです。この地上げ地域で、生き残っている数少ないアンダーグラウンド会場で、いつでも良いショーがあると信頼出来るし、音設備も上々で、毎回ショーのレコーディングをしています。他の会場では、ブルックリン・ボウル、マーキュリー・ラウンジ、ユニオン・プールなどです。

どのようにパナシェでブックするバンドを見つけるのですか?

M:大体は、他のバンドを通してか、一緒に働いている人からの推薦です。たまにCMJ、SXSWなどの国際フェスティバルで発見することもあります。

前と比べて、今年のNYの音楽シーンはどう変わっていますか? 注目の会場があれば教えてください。

M:NYのDIYやアンダーグラウンドの会場は閉まったり、立ち退きを強要され、リーズナブルな場所に引っ越しています。いろんな新しい場所ができていますが、NYは大きいので、まだ自分が楽しんで仕事ができる会場があると感じます。

情報を交換したりなど、音楽業界の人と遊んだりしますか?

M:NYの良いところは、アートや音楽において、刺激を受ける人たちに囲まれていることです。回転ドアのように、入れ替わり人がやってきて、Eメールで話していた人に簡単に会え、関係を発展させたり、コラボレートするには良いところです。たくさんのことがはじまっては終わり、いつでも素晴らしいアイディアが生まれています。私は、レーベル、ブッカー、PRの友だちがたくさんいるし、NYに住んでいるバンド、ザ・メン、ティーンガール・ファンタジー、マーニー・ステーン、マック・デマルコ、ジュリアナ・バーウィック、ジョナサン・トゥビンなどと仕事をしているので、NYに住むことはエージェンシーの軌道を早めてくれます。

過去にDMBQ、あふりらんぽなどをブックしていましたが、日本の音楽シーンはどう見ていますか? 新しい日本のバンドでブックしたいバンドはいますか?

M:エージェンシーをはじめたとき、半分が日本のバンドでした。サンフランシスコに住んでいたときに、DMBQ、 あふりらんぽ、ワツシ・ゾンビ、キング・ブラザーズ、ハイドロ・グル、ルインズなどの日本のバンドに会いました。DMBQは、9~10年前のSXSWで、関係を発展させ、自分でニッチェなブッキングの世界を作り、日本のサイケやノイズ・バンドを北アメリカに連れてきました。日本にはDMBQのツアーで2回行き、ある日本のバンドの北アメリカでのツアー・マネージャーもしました。いまはDMBQ、キング・ブラザーズ、そして少年ナイフやバッファロー・ドーターと仕事をしています。

最近、著者が発見する面白いバンド(ソフト・ムーン、ソニー・アンド・ザ・サンセッツ、リトル・ウィング)は、西海岸のバンドが多く、NYは少ないのですが、どう思いますか?

M:ザ・メン、ジュリアンナ・バーウィック、マーニー・ステーンなど、NYにもまだまだ良いアーティストやバンドがいますよ。私は、そのなかの最高のバンドと仕事できることを幸運に思っています。いま、パナシェに所属するバンドは、タイ・シーガル、オーシーズ、ホワイト・フェンスなど、西海岸のバンドが多いです。そこは、明らかにエキサイティングなことが起こっていると思えますが、NYは面白いバンドが来るまでの、凪状態にあると思います。しばらくのあいだは、オーディエンスをインスパイアできる面白く楽しいイベントをキュレートしようと思ってます。

パナシェのこれからの予定を教えてください。音楽以外の事柄や付け加える事があれば是非お願いします。

M:パナシェはあっという間に大きくなりましたが、これからも、オーガニックに行きたいと思います。選ぶバンドは特別で、量より質に集中しています。LAにオフィスを構えたり、オーストラリア、中国、日本、南アメリカなど、海外でのブッキングも考えています。パナシェがはじめた、ブルーズ・クルーズ・フェスティヴァルなどのフェスティヴァルも、もっとキュレートしていきたいです。その他、何人かのミュージシャンの管理もはじめました。アートショーをキュレートしたり、音楽業界代表として、海外のスピーキング・ツアーに参加したり、NYUなどの大学で講義をホストしたりもしています。
 音楽以外では、1年に1回トロピカルなビーチを見つけるようにしています。旅は、私にとって別の情熱なので、音楽に関係なく、最低でも1年に1回は休暇を取るようにしています。次は、この冬にジョシュア・ツリーに行く予定です。
 もうひとつ付け加えたいのは、何年か前にNYで、悲劇の車の事故で亡くなってしまった、DMBQと少年ナイフのドラマーで、私の最愛の友だち、チャイナへ。彼女は、私が見たなかで、最高の素晴らしいドラマーで、最高に美しく、親切で、ゴージャスで、知り合いになれたことを光栄に思っています。チャイナ、あなたがいなくて寂しいです。

 パナシェ・ブッキング:www.panacherock.com

Felix K - ele-king

 5月末から『アンビエント・ディフィニティヴ』の編集に突入してしまったので......2ヶ月遅れの紹介です。ベルリンからドローンも取り混ぜたドラムン・ベースの新展開で、〈ハード・ワックス〉傘下に設けられた〈ヒドゥン・ハワイ〉を共同で運営するフェリックス・Kのデビュー・トリプル・パック(アナログはグレー・ヴァイナル)。先行した〈アルファカット〉やDブリッジの〈イグジット〉と同じくビートを強調せず、オフを多用し、ダブとして聴かせる要素が強いあたりはクルーダー&ドーフマイスターを思わせるものの、全体的にはもっとストイックで、さりげなくインダストリアル・ドローンへと流れていく部分はやはり旧来のものとは一線を画している。ベーシック・チャンネルとドラムン・ベースの融合は意外な広がりを見せているというか。

 〈ヒドゥン・ハワイ〉からは、もっと過激にドローンだかドラムン・ベースだかわからないほど融合しているものもリリースはされているけれど(ドローン・ベース?)、『フラワーズ・オブ・ディストラクション』ではそこは行ったり来たりの範疇にとどめられていて、いわばドローンはダンス・アルバムにおけるアンビエント・パートのような役割を果たしている。そこで煽られる雰囲気は不穏でありながらも、それに疎外されるようなものではなく、まるで沼から這い上がるかのようにしてダンス・ビートが立ち上がったかと思えば、再び、それが当然であるかのようにして暗く沈んだドローンへと戻っていく。曲名は"フラワーズ・オブ・ディストラクション1"から"フラワーズ・オブ・ディストラクション14"と続き、最後が"フラワー・オブ・ホープ"。しかし、これも、けっして明るい曲ではない。何かに耐えているような響きに終始する。

 エレキング9号のインダストリアル特集で、僕は同傾向のフィズ『ザ・コモンズ』を指して「踊れるスロッビン・グリッスル」というようなことを書いてしまった。しかし、その表現は『フラワーズ・オブ・ディストラクション』が世に出るまで控えておくべきだったかもしれない。90年代のドラムン・ベースが持っていた楽観性や高揚感はここには微塵もなく、個人的な閉塞感だけが宙を舞う。内向性と攻撃性が共存し、何度聴いてもヨーロッパの暗闇に引きずりこまれるだけである。ラース・フォン・トリーアーの磁場に。底なしのメランコリアに。ずぶずぶずぶずぶと......。

 あるいは、最後のところでリズムがもうひとつ納得がいかなかったけれど、やはりイグジットからリリースされたダン・ハーバーナムによるアンビエント・ドラムン・ベースの試み、『フロム・ザ・ノウン』にもかなり興味深いものがあり、ベーシック・チャンネルとドラムン・ベースの融合にはさらなるポテンシャルが感じられることも確か。ダブステップとドローンが境界線を失ったブリストルのエンプティセットやローリー・ポーターらとの共振も期待しつつ、行く末を気にしてみたい。

 似たようなテイストなので、さらに2ヶ月遡ってマイルス(・ウィッテイカー)名義のファースト・ソロも。デムダイク・ステアとして先に知名度を上げているものの、それ以前にミル&アンドリーとしてアンディ・ストットと共にダブステップのプロジェクトをやっていたウィッテイカーがストットのテクノ路線に刺激されたものかと思ったけれど、『ラグジュアリー・プロブレムズ』のようなソリッドでインダストリアルな仕上げにはこだわらず、トランスを思わせる生暖かいアンビエントまであって(現シーホークスのジョン・タイがやっていたMLOなどを思い出す)、『フラワーズ・オブ・ディストラクション』よりは柔軟性のある世界観を押し広げている。暗く波打つようなビートもどこかにファニーさがあり、全体に「夜は墓場で運動会」といったところだろうか(『君に届け』の肝試しみたいな?)。『フェイント・ハーティッド(=ぼんやりとした心)』にはデリック・メイが見え隠れするような曲まであって、それはそれで驚くというか。


interview with Soggy Cheerios - ele-king


ソギー・チェリオス
1959

Pヴァイン

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 「Soggy Cheerios(ソギー・チェリオス)」チェリオスとはアメリカ産のシリアルで、形容詞「ソギー(ふやけた)」が頭に乗っかるとまさにいま食べられようとしているかのようだが、彼らがなぜ新バンドにそんな名前をつけたのかを、頭のふやけた私は残念ながら訊きそびれてしまった。もちろんわからなくはない。どころかいくつかの暗喩さえよみとれる。いや、これはむしろ、音楽を何度も聴き、何倍も愉しみ、深く考えるとともに彼らに併走するための入り口のひとつであるにすぎない。彼らとは鈴木惣一朗と直枝政広である。ワールド・スタンダードとしてインストゥルメンタル主体の汎音楽を長年追求し、文筆家として『モンド・ミュージック』で音楽の間口を広げ、プロデューサーとしても後進に影響を与えつづけけた才人、鈴木惣一朗。かくいう私も彼の音楽と文章から多くを学び、前職の『スタジオ・ボイス』時代は私にとって彼の仕事はサブカルチャーの文脈で音楽を語るためのひとつの指標でもあったが、会うのは今回がはじめてだった。と書いて自分でもびっくりしたが出会いにおそすぎることはない。それは鈴木惣一朗ともうひとりのソギー・チェリオス、カーネーションの直枝政広、ともに1959年、亥年生まれの彼らが2013年のいま、はじめていっしょに音楽をつくりはじめたのと似ている。たがいに30年のキャリアすべてを背負ってつくりあげた『1959』の言葉と音のみならず、そこかしこから聞こえる唸り、軋み、擦れ、それをひっくるめた馥郁たる(という形容こそがふさわしい)空気には時間の厚みを感じないわけにいかない。音はアコースティックに比重を置いたシンプルなものだが、マチズモな音楽の常套句である「骨太」が骨粗鬆症にみえるほど、中身がしっかり詰まっている。つまりはロックだが通り一遍のそれではない。だって「お餅」や「お麩」、「イノシシ」を歌った歌なんかあるんだから。


「いまいえよ、いまいったほうがいいよ」という声がどこからか聞こえてきて(笑)、「今度音楽やろうよ」と声をかけたの。(直枝)



片づけして帰ろうとしたら、何気なくポンといわれて。非常にさわやかに僕には聞こえたんですよ。(鈴木)


直枝:京都に行ったらいつも行く護王神社ってのがあるんだけど、そこはイノシシの神社なんですよ。そこには水晶でできた亥の牙の形のキーホルダーがあってそれを買うんだけど、その牙すぐに取れちゃうんだよね(笑)。

鈴木:それミサンガと同じなんじゃない。取れたときに願いごとが叶う。

直枝:たしかに、ソギーのレコーディングが終わったときに取れたんだよ。

鈴木:成就したんだ。

そのレコーディングはいつはじまったんですか?

鈴木:録音は3~4月で、5月頭には終わったかな。

直枝:実質2週間ちょっとでできたんじゃなかったかな。

そういえば、ちょうど3月くらい、紙の『ele-king』の前号で湯浅さんと直枝さんに対談していただいたとき、惣一朗さんといっしょにレコード屋にいったら、「もう買わなくていいんじゃない」といわれたとおっしゃっていましたよね。

直枝:『サージェント・ペパー』ね(笑)。欲しいなと思って見ていたら、押し戻されたって話ね。

鈴木:だって直枝くん、オデオン盤の『サージェント・ペパー』をまだ買おうとするんだよ。直枝くんがそんなもん買ったら、僕はどうすればいいのよって話ですよ。

なるほど。僕らはこれ以上音楽聴かなくていいじゃない、ってことではなかったんですね。

直枝:そうじゃない。そうじゃないよね?

鈴木:『サージェント・ペパー』はもういいじゃないかって。

直枝:俺は何度でも繰り返し聴きたい。『サージェント・ペパー』から何度でもはじめたいんだよ。くすんで見えるかもしれないけど、いまにはいまの響きがあるんだ。そのためにいま、ステレオをアップグレードして接続を変えたり針を掃除したりしているわけでしょ。それで輝きが出てきたりするんだよ。

よいものも悪いものも含め、いまの耳で聴かないといけないってことですね。

直枝:買わないとダメですね。

おふたりとも音楽を聴くことでは人後に落ちないと思うんですが。

鈴木:人後に落ちないどころか聴きすぎです(笑)。前にレコードを売るならそれ以上買えって教えられたことがあって。

直枝:誰にそんなこと教えられるのよ(笑)?

鈴木:Hがつくひと(笑)、細野さん。それはそうだなって思ったんですね。とにかくいっぱい聴いて、それを自分のなかで濾過するというかね。

惣一朗さんのそのスタンスが『モンド・ミュージック』などを通じて、私たちの世代を影響して、ひとつの価値観をつくったと思いますよ。

鈴木:聴き方は匠みたいなものだから、直枝くんは直枝くんで『サージェント・ペパー』をいまの耳で聴くんだろうし、それはもういいんじゃないかとも思いもするけど(笑)、何度も聴けるほどロック・カルチャーはタフなものだとあらためて思うようになってきたというのはありますね。去年、一昨年くらいからかな。リマスタ盤とか出尽くして買うものもなくなってきちゃって、アナログを聴き直すようになったんです。とくに震災以降。最初はシンガー・ソングライターやジャズのアルバムを買っていくなかで、もう一回ふれあっていくわけですよ。ビーチ・ボーイズでもなんでも。さすがに『スマイル』は僕にはもういい。でも『フレンズ』はやっぱりもう一回聴きたいアルバムかな。直枝くんだったら『オランダ』かもしれない。それをもう一度アナログ盤で聴くようになってきて、そのなかに(僕は)今までロック・カルチャーをやってこなかったなという伏線があった。そんなとき、直枝くんと会って刺激されたところはありますね。


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惣一朗くんのドラムは音が小さいんだけど、ふたりの世界にすごく合っていて、演奏をみていたら星が降ってくるような感じがしたの。それが音楽の不思議、ひとがプレイすることのすばらしさを感じた最初かもしれないですね。(直枝)


ソギー・チェリオスの話は直枝さんからですか?

直枝:そうそう。

どういうきっかけで?

直枝:僕たちひとの音楽が好きで――

鈴木:語り部的にね(笑)。

直枝:そうそう。よく対談とかするわけ。ポール・マッカートニーのマニアックな話とかになるとかならず話が来るんだけど、そんなことが何度が続いたんですよ。惣一朗くんと対談したある日、ちょうど僕は一週間、あまり寝てなくて頭おかしかったのかもしれないけど、「いまいえよ、いまいったほうがいいよ」という声がどこからか聞こえてきて(笑)、「今度音楽やろうよ」と声をかけたの。

鈴木:片づけして帰ろうとしたら、何気なくポンといわれて。非常にさわやかに僕には聞こえたんですよ。

学校の放課後にクラス・メイトにいわれた感じですね。

鈴木:そうそう。その言葉がスパンって僕のこころに入ってきたの。僕は「やろうよ」といってプロデュースしてきたから、逆にひとにいわれることはあまりなかったわけ。直枝くんがどうしてそういってくれたのか、その後、僕は一週間ほど咀嚼したんだけど、ああいってくれるなら本気で考えてみようかなと思ったの。この音楽業界に入ってからの直枝くんと僕の30年。さっきいっていた、ロック・カルチャーをわかったっていうんじゃなくて、もう一回対峙してみたいなという気持ち、ビートルズやポールをこれだけ楽しく聴いているんだから、ザ・バンドにももう一度対峙できるだろうし、わかったふりでいる気はさらさらないし、聴けば聴くほど発見があるということ、ロック・カルチャーの歴史はたかだか50年ほどだけど、それをわかったふうにはしたくなかった。そういったいろんなものが直枝くんの言葉でつながった感じはありましたね。

直枝:僕は理屈じゃなかったんだな。82年くらいにすきすきスウィッチのおっかけやっていたんですよ。

直枝さん、影響受けたっておっしゃっていましたもんね。

直枝:パンゴとかすきすきとかが好きで、あと「天国注射の昼」なんかも観にいっていたクチなんで。その82年くらいのすきすきのドラマーが惣一朗くんだったの。そのとき僕は鈴木惣一朗くんというひとは知らないけれども、横浜のとてつもない小さいバーというかライヴハウスで聴いて、そのときの影響で"夜の煙突"をつくることができた。すべて佐藤幸雄さんと惣一朗くんのおかげなんですよ。惣一朗くんのドラムは音が小さいんだけど、ふたりの世界にすごく合っていて、演奏をみていたらライヴハウスに星が降ってくるような感じがしたの。それが音楽の不思議、ひとがプレイすることのすばらしさを感じた最初かもしれないですね。

鈴木:そんなのを観てくれているとは思わなかったからね。

直枝:あそこにいたんだよ(笑)。

鈴木:ついでにいうと、すきすきスウィッチのキーパーソンである佐藤幸雄に去年の夏僕は再会したのね。

活動を再開したんですよね?

鈴木:レコーディングもしていて、ディスク・ユニオンから8月に出るんですよ。3枚同時リリース(註:『それでもはじめて』『ここへきてはじめて』『ライヴ・レコーディング・アット・ラストワルツ』)で40曲録ったかな。

それはソノシートじゃないですよね(笑)?(註:すきすきスウィッチの『忘れてもいいよ』はソノシート5枚組だった)

鈴木:今度はCDです(笑)。彼と再会していくこと、直枝くんと会っていくこと、去年で僕はワールド・スタンダードの活動を止めたので、休んでもいいかなとも思っていた。でもそういった出会いがこういうふうにまわって、いっしょに音楽をやることが自然なことのように思えるようになった。直枝くんに、いっしょに音楽をやらないかといわれて、今度は佐藤くんに僕のほうからいっしょにやらないかと声をかけた。それは僕が直枝くんに声をかけてもらったことで刺激されたのかもしれないですね。

いっしょに音楽をやることに惣一朗さんが驚いたのは、お互い違う場所で音楽をやっているという認識があったからでしょうか?

鈴木:直枝くんは確固たるものを持っている男だから。

お互いそうだと思いますよ。

鈴木:僕はあまりひとのコンサートは観に行かないんだけど、カーネーションは何度か観に行ったことがある。で、びっくりしちゃうわけよ。このレコーディングに入る前にも渋谷の〈WWW〉で観て、もうびっくりして飛んで帰っちゃった。

私も拝見しましたけど濃密でしたよね。

鈴木:理屈じゃないよね。身体から発せられる光みたいなもので。それが同い年で2013年にやっている。確固たるものがあるひとといっしょに音楽ができるだろうかという不安が僕にもあったし、でもやってみようかなと思ったのは、非常にさわやかに「惣一朗くんいっしょにやろうよ」って中学生みたいな感じでほんとうにいってくれたのが、彼の人柄だろうけれども、そんなふうにいえるひとは素敵だなと思ったし、もっと覗いてみたかったんですよ。

直枝:ほんとうに上から「いえ」って聞こえてきたんだ。それは俺、節目節目によくあるんだよ。あと、エブリシング・プレイというバンドを惣一朗くんがやっていたとき、『ポッシュ』ってアルバムが発売中止になったんですけど、そうなる前のテスト盤をうちの最初のマネージャーが彼からもらって、そのカセット・コピーを僕は聴いていたことがあったの。89年かな。それを聴いたときは同い年でこんなに音楽的に成熟したヤツがいるのかと思ったんだよね。僕にないものばかりもっていた。そのとき僕は、作品をつくってきて、批評の部分であれ、歌詞のつくり方であれサウンドであれ、ロック・バンド特有の悩みを抱えていたときだったんだけど、そんなときにエブリシング・プレイはここまで想像力豊かな、それも内省を怖がらないサウンド志向の音楽をつくっていた。しかも同世代。それはすごいと思った。ニューエスト・モデルとか岡村靖幸とか、自分にはない何かをもっているひとたちを僕はそのころつねに意識していて、それでようやく自分で納得いくものがつくれたのが92年の『天国と地獄』というアルバムで、これだったら惣一朗くんたちにも聴かせられるクオリティだと思ったんだよ。

自分にないものをもっているひとを意識するのは、ミュージシャンであるとともにいちリスナーであるということだと思うんですよ。

鈴木:成熟したクリエイターは本来いちばんいいリスナーでもあるはずなんです。いっぱいアルバムを聴いたらいいクリエイターになれるし、逆もあるんですね。だから、よくあるけど、自分の音楽しか聴かないアーティスト、周辺しか聴かないひと、洋楽を全然聴かない邦人アーティストはほんと悔しいよね。

そういうひとにかぎってオリジナリティを云々しますからね。

鈴木:ジェームス・テイラーは知っていますとか。でもあとは自分の音楽ばっかりとか(笑)。もっといろんな世界があるわけで、なぜそこに触手が伸びないのかな、とは思いますね。根本的なかけちがいというか、ものをつくるとか音楽のあり方のかけちがいがあるんですよ。直枝くんと僕が似ているのは、そこは健康的に思春期に育ったっていうのがあるんだと思う。それが1959年生まれの特徴というか、ビートルズはすでにいなくて、スタートから終わっているんだけど、終わっているということは出そろっているということでもある。ジミ・ヘンドリクスは死んでいたけど、ほかはまだ生きていたわけだし。

直枝:あの当時は独特な疲労感をもったロックが出てきた時期だったんだよね。

鈴木:アーリー70Sには倦怠期があったよね。

直枝:同世代にはヘヴィ・メタル好きが多いんですよ。ツェッペリンが初来日したころですね。あとデヴィッド・ボウイが来日したし、いくつか分かれ道があるんですよ。バングラディシュのコンサートもあって。

鈴木:そっちだ(笑)!

直枝:俺たちはそっちなの(笑)。いっこ上の兄ちゃんたちは「おまえ、レッド・ツェッペリン聴かないでどうすんだよ!」っていうんだけど、でも俺は「ボブ・ディラン聴いているから」って断ったことあるもん(笑)。大学入るとそういうひとばかり。ブラック・サバスとか。そういうなかで俺らはオリジナルの曲をつくっていたりしたんだけどね。


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ふたりでザ・バンドのセカンドみたいな、あのべードラの軋み、床鳴り感がほしいというのははじめからいっていたね。それが音楽だから。(鈴木)


ソギー・チェリオス
1959

Pヴァイン

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おふたりが原風景として共有しているものは当然ありますよね。

直枝:あるある。新築の家の棟上げ式にみんなで行って、上から投げたお菓子とかお餅を拾うとかね。

鈴木:それが1曲目("ロックンロールが空から降ってきた日")の「空から紅白の餅が降ってきた」なんだよね。

あの一節はレトリックではなくて、棟上げ式なんですね(笑)。

鈴木:なんで棟上げ式の話を直枝くんとしたのかは憶えてないんですけど(笑)。

直枝:でも僕がお餅好きだというのを彼は気に入ってね。

鈴木:お正月にさ、50個くらい食べたって話を聞いて。

直枝:そんなに食べたら死んじゃうよ(笑)。12個くらいだよ。一食でね。

それもすごいですね(笑)。

鈴木:次の日も食べるんだってさ、12個。さすが大食漢と思ったんだけど、僕はお麩が好きだよ、と言ったの。お味噌汁にしみじみになっているやつがね。それで「お麩」と「お餅」みたいな言葉が歌詞に入るんですね。

直枝:今回、ふたりでつくるにあたって、まず詞のやりとりからはじめたんです。

鈴木:全部詞先なんです。

そうなんですね! 楽曲のクレジットが気になったんですけど。

鈴木:みんなそういうね(笑)。

直枝:共作です。共作にしたんですね。

全曲ですか?

直枝:自分が投げたアイデア、キーワードを受けたひとが曲をつくるというふうに決めたの。

鈴木:レノン=マッカートニーですよね。詳しいひとが聴いたらどっちに主導権があるかわかるかもしれないけど、クリエイティヴの部分でほんとうに僕と直枝くんは共作したので、クレジットとしてはソギー・チェリオスで正しいということですね。印税も山分けだ!(笑)。

ナマナマしい話ですね。

鈴木:ハハハハ。

直枝:投げられた歌詞のアイデアをもとに楽曲をまとめたほうが歌う。

カラーはあると思いますけど、共作なんですね。

直枝:共作にすることの色を出したいんですよ。

その作業はいうは易しですけどけっこうめんどくさい気がしますね。

直枝:最初はとまどいましたよ。メールのやりとりで、あえてスタッフの横尾さんにもCCを入れるんですよ。

客観性を出すために。

鈴木:M的な気持ちだよね。

直枝:そうしたら、惣一朗くんが猪の歌を書いてきたりして。俺、猪の歌なんてどうやってつくればいいのよって思った。

鈴木:「ネーウシトラウータツミー」で、おもしろい歌をつくってくれよと思ってメールするんだけど、直枝くん真面目だから。

直枝:「タツミー」だけじゃ曲になんねえなって、「Touch Me」を加えたのは俺だよ。

鈴木:ザ・フーの「See Me Feel Me Touch Me」("We're Not Gonna Take It")みたいなね。

直枝:それでロックになるんだよ。

鈴木:ちょっと切ない曲になって、僕が思っていたのはちがったけど、それは化学変化が起きたってことだからね。

こういう感じの曲をつくろうという参照のようなものは――

鈴木:それだとおもしくないから固有名は話さないようにしたの。曲調が明るいとか暗いとかも話してない。だからそれがどうなるのかわからない。

直枝:惣一朗くんはまっさきに4曲あげちゃったんだけど、俺のもらったお題は餅とかお麩とか猪とか、とんでもないものばかりだったからね。

惣一朗さんはすぐに書き終わったんですか?

鈴木:すぐ! テレビみながら(笑)。ものすごく不真面目にやっていたの。不真面目っていうとなんだけど、構えたりしないようにしていた。みんな僕が直枝くんとやるとなると、すごく凝った、ニッチなポップ、『ペット・サウンズ』みたいなのつくるのかなって思われるじゃない?

そう思うのが普通ですよね。

鈴木:最初に直枝くんといっていたのは、すごくシンプルにやるということだったんです。いい曲を書きたい気持ちも捨てたいって、僕たしか最初の段階でいったんだよ。だからテレビみながら歌詞を書いたり、直枝くんがみたら怒りそうなつくり方をした。

直枝:怒るよ(笑)。

最初にアイデアを投げかけるほうは勇気が要る気がしますね。

直枝:惣一朗くんが最初に投げてくれたから助かったんだけどね。

鈴木:ただ信頼関係がないとそんなことできないし、(歌詞を)変えてもいいよ、と直枝くんにいってもらって。詞先だと一文字でも変えるとブーイングが出るひともいるし、リミックスみたいにシャッフルしたりなかなかできないんですけど、それもアリにしたんですよ。それはこの年齢とスキルがあったからできたといまは思えるし、もし10年若かったらもっとぶつかったと思う。「ああおもしろいね」とお互いいえるまで30年が必要だったかもしれない。そう考えると、これはいいタイミングでいっしょにやったんだなと思った。いくらでもこれまでやる機会はあったけど、2013年だからこういう内容になったし、こういう共作のスタイルになったんだと思う。

レコーディングはどんな感じで進めたんですか?

直枝:スタジオに入って、いきなりドラムをセットして「じゃあやろうか」って。

スタジオはどちらだったんですか?

鈴木:目黒倉庫っていう武蔵小山にあるスタジオで上が葬儀屋で、その下のスナックを改装したスタジオですね。

直枝:地下でブースが一個しかない。

鈴木:そこは、アノニマスっていうグループがあるんですけど、そのバンドの山本哲也くん所有のスタジオなんですよ。

直枝:アップライトが置いてあってね。

鈴木:それとパールのボロボロのドラムが置いてあるだけであとは何もないの。そこに機材をもっていった。で、アコギを弾きながらドラム叩いたり、クリックとアコギを入れたり、まずそういうトラックを最初に録って。

直枝:それでベーシック録ったら、「直枝くん、ベース弾いて」って言うわけ。俺人前でベース弾かないんだけど(笑)。なんだろうなこいつと思いましたね。

鈴木:ガンガン弾いてほしかったのよ。直枝くん、おもしろいベース弾くからさ。ギターみたいに弾くから、ポール系なんですよ。ベースをチョーキングするんだもん。

直枝:いいじゃん(笑)。

鈴木:それで4リズム、ピアノ、ベース、ドラム、ギターと歌ができて、そこにコーラスを乗せた......だけのすごくシンプルなつくりなんだけど、聴いたらすごく完成されたものにきこえたんですよ。僕は80トラックとか積むプロダクションをすることもあるし、静かな音でも比較的(トラックを)積む方なんだけど、今回は12トラックくらいでけっこうできちゃっているんですよね。それで夕方にはお蕎麦屋さんに行っていた。

ちゃきちゃち録っていったんですね。

直枝:早いんだもん。この人休まないのよ。

鈴木:で、休めって怒るわけよ。働いていて怒られたのはじめだよ(笑)。

直枝:プレイバックも聴かないんだもん。

なぜ聴かないんですか?

鈴木:わかっているからですよ。僕はプレイバックはここ10年くらい聴かないし、録っているときにOKだってわかっているから。みんなプレイバックで確認するけど、あれ時間のムダですよ。


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(ヤイリは)中学生のころから弾いているから僕のなかでヴィンテージになっているんですよ(笑)。40年くらい経っているから。はじめて買ったギターで中学時代に戻ってみようと気持ちもあったんだけど――(鈴木)

音がすごくいいですよね。ここしばらくローファイな音楽がもてはやされていましたが、そういった音楽ともちがうローファイさがあっていいと思いました。

鈴木:季節もね、楽器がちょうど乾いている時期で。

直枝:いい時期だったね。ふたりでザ・バンドのセカンドみたいな、あのべードラの軋み、床鳴り感がほしいというのははじめからいっていたね。それが音楽だから。

鈴木:直枝くんはいつも革靴履いていて、ギブソン弾くときにものすごくタップするわけ。それがすごい入ってますよ。1曲目からタップの音が。

弦のグリスの音とか、楽音以外の音がふんだんに入っていますよね。

鈴木:別に示し合わせたわけじゃなくて、直枝くんはギブソンのJ-50、いわゆる名器をもってきたんですけど、僕はヤイリの井上陽水モデルっていうウェットなヤツをもってきたんですよ。

なぜヤイリだったんですか?

鈴木:中学生のころから弾いているから僕のなかでヴィンテージになっているんですよ(笑)。40年くらい経っているから。はじめて買ったギターで中学時代に戻ってみようと気持ちもあったんだけど――

直枝:コンセプチュアルだね(笑)。

鈴木:後づけだよ(笑)。直枝くんはアコギをエレキのように弾いたり、ベースをエレキのように弾くじゃない。

直枝さんは乱暴ですからね。それが恰好いいんだけど。

直枝:俺、乱暴なの(笑)?

ワイルドということです(笑)。

鈴木:僕は直枝くんはもっとエレキを弾くのかなと思ったんだけど、アンプつなげないといけないし、アコギだったらパッとできるでしょう。

"君がいない"のイントロの最後の音の減衰の仕方が奇妙だったんですが、あれは何か操作しているんですか?

鈴木:あれはトゥールズ上でエディット・リサイジングしているから。そんなところまでよく聴いてますね。

直枝:俺がいないところでそういうことやっているのよ。それがショックなのよ。「この男!」みたいな(笑)。

鈴木:ちょっと早くしたりもしていますよ。もちろんキーはいっしょですが。直枝くんがいると何かいわれるから。

直枝:そりゃいうよ(笑)! 俺はもういいっぱなしだから。「なんできみひとりで決める」というと落ち込むんだよ(笑)。

鈴木:またこの話する? 僕は"知らない町"をつくっている途中で落ち込んだんですよ。

直枝:絶対こっちのほうがいいよっていうアレンジがあったんですよ。

鈴木:曲がどんどんペンタングルみたいになっていくんですよ。それは僕の最初のイメージとはちがった。それを理解するのに一週間ほどかかったんですけど、その間落ちちゃった。自分はなんて無力なんだと思った。

直枝:自意識強すぎ(笑)。

鈴木:そうかもしれないけど、直枝くんは歌だって上手いし、直枝くんは僕の歌も上手いって褒めてくれたけど――

直枝:ドノヴァンみたいな声だよね。

鈴木:でも自分では「いやー」と思うんだよ。で、すごいオケができちゃって、僕のなかにはないメタファーだからそれを受け入れるのに時間がかかったんですよ。そのとき「惣一朗くん、これはバンドなんだからさ」っていわれてハッとしたの。それで「友だちになってください」ってメールを、こういうふうにいっちゃうとギャグみたいだけど、そのときは真剣に書いたんですよ。

直枝:ほんとに。そういったメールが来たんだよ。

鈴木:バンドつくったつもりだったけど、途中でバンドになった、というかね。

直枝:俺は最初からそのつもりだったんだけど、だからいいたいこともいうし、それがお互いやっている意味があるということだから。

鈴木:でもいい方がキツイの。僕がヘラヘラしていると、「何ヘラヘラしてんだよ」って。50過ぎてそういわれると辛いですよ(笑)。あと譜面をろくすっぽ書いてなかったら、「何でちゃんと譜面書かないんだよ」っていうんだよ。たしかにその通りなんだけど、もうちょっといい方ってもんが、ひととしてあるじゃないですか、ねえ? 横尾さん! みたいなね(笑)。

なんで横尾さんが引き合いに出されるんですか(笑)。

鈴木:そんなことで帰宅して落ち込んでいたりすると、朝4時くらいにメールが来るわけ。「惣一朗くん、ごめんなさい」って。「ごめんなさい」って、なんてこのひとまたスパンというんだ。その素直さ。これは本気で僕に接してくれるんだろうし、そんなふうにメールをくれるなら、やっていけるなって、そこではじめてバンドになったっていうか。

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バンドつくったつもりだったけど、途中でバンドになった、というかね。(鈴木)


ソギー・チェリオス
1959

Pヴァイン

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おふたりにとってバンドというのはどういうものですか?

鈴木:それはすごくいい質問だ。いい質問すぎて答えようがないくらい(笑)。

直枝:バンドっていうのは運命的なことなんですよ。ひとが集まって音楽をやるってことは。だからそれは、やるとなった以上、ひととしてやらなきゃならないことなんです。適当なことはできない。捨て曲もあってはならないし、そんな気持ちではできない。

鈴木:僕よく思うんだけど、仕事をいっしょにしながら、これが友だちだったら最高だなと思うときがあるの。普通に学生のころの友だちでいっしょに音楽はつくっていないじゃないですか。友だちで仕事をいっしょにするなんて、最高なわけよ。ジョンとポールがやり合いながら最後まで信頼関係が壊れなかったのをみると、それが友だち、それがバンドなんだって思う。けれど、ザ・バンドでは、ロビー・ロバートソンとリヴォン・ヘルムはけっして仲良くはなかった。でもそれがよい緊張感を生んでいいアルバムにつながっていった。

直枝:バンドそれぞれに育ち方もあるんだけどね。たまたま俺は余計な、考えなくてもいいことを考えてきたタイプなのかもしれないですけど。

直枝さんはバンドマンだという意識は強いですか?

直枝:その言葉は重くてイヤなこともあるんだけど、それが運命だと思えば、受け入れるという意味でバンドマンかもしれない。セッションに呼ばれて、このように弾いてくださいって、僕はあまり頼まれないということを考えると、もしかして僕はバンドのなかで成り立つ音楽をやっているのかもしれない。でも僕を必要としてくれるひとはどこかにいると思うから、一所懸命やるしかない。それしかないんだよね。

ソギー・チェリオスはこれからどうしたいというのはあるんですか?

鈴木:まずはライヴやんなきゃいけない。インストア・イヴェントとか。先々のことを含めると、まだまだ続けたいですね。でもこのひと忙しいからね。

直枝:惣一朗くんだってそうじゃない。

鈴木:曲づくりはちょうど乗ってきたとこなんですよ。『1959』はフォーマットをつくった、最初の一枚だとも思っているので。あと僕にとっては別の命題として歌を歌うというのがあるからね。いままでやってこなかったことが直枝くんとならやっていけると思うんだよ。

惣一朗さんのヴォーカルは味がありますよね。

鈴木:ありがとうございます(笑)。直枝くんは褒めてくれるんですよ。「名人芸だ」っていわれたことがあった。

どこのパートですか?

直枝:(モノマネ入りで)「時間は薄切りの~」("きみがいない")ってとこですよ(笑)。

たしかに印象に残りますね。惣一朗さんはヴォーカリストとして参照にしたひとはいましたか?

鈴木:70年代の拓郎さんとかをよく聴いていたんですよ。

直枝:好きだよね、俺ら。

鈴木:はっぴいえんどとかはちみつぱいはもちろん入っているけど、吉田拓郎さんのことをここ近年考えていたんですよ。大病されたりしたじゃないですか、そういうこともあって、直枝くんにも『つま恋』のCDが出たねって話をしていたんですよ。ようするに、これだけ洋楽を聴いてきた上でドメスティックなフォークをどういうふうに消化するというとなんだけどね。

直枝:その意味でも完全に中学生だったんだよ。だから俺はたまにいったの。それあまりにもドメスティックすぎるんじゃないかなあ......って(笑)。

鈴木:"曇天 夕闇 フェリー"とかね。

直枝:あれはコードを一回解体してつくり直したんですよ。

もうちょっとフォーキーだったんですね。

鈴木:フォーキーだったらジェシー・ハリスみたいなもんだけど、フォークだったの(笑)。

直枝:ライ・クーダーがとりあげるトラディショナル・フォークだったらまだいいんだけど、「どフォーク」だったんだよ(笑)。どうしようと思ったんだけど、いいムードのメロディだから現場で解体して、シンプルに重くしたんですよね。でも彼に重くしたいっていうと、進んで弾いてくれるんだよ。「じゃあこうしたらいいのかな」って。「ああ、それいい」って、コードを弾いたら「それ繰り返せばいいじゃん」ってそういうこっち側のジャッジの仕方でやっていくと、惣一朗くんは無意識をいじられるからすごくイヤなんだろうね。

鈴木:分析されてるなあ(笑)。

直枝:でもバンド組むってことはそのイヤがる部分をなくすことなんだよ。それがイヤなのは、プロデューサーで俯瞰した視点で指示ばっかりしていたからだよ(笑)。

鈴木:すごいプロデュースされた気がするんだよね。

直枝:でもそこに乗ってくれたじゃない。乗ってくれて「いい」っていうんだけど、後で落ちこむんだよこの人(笑)。

さっき惣一朗さんがはっぴいえんどとかはちみつぱいとおっしゃいましたが、最後の"とんかつの唄"に細野さんと鈴木慶一さんが参加しているのは、おふたりの来歴を考えてのことですか?

直枝:そうだし、半年前から俺らはミーティングを重ねてきたんだけど、惣一朗くんのなかには細野さんと慶一さんに歌ってもらうというアイデアは最初からあったんだよね。

鈴木:最初は僕らのオリジナルで歌ってもらって、僕らが後ろでニヤニヤしているっていうのを考えたんだけど、結局カヴァーになったね。

直枝:でも惣一朗くんはきっと曲はつくれなかったと思うよ、気を遣っちゃって。

鈴木:"夏なんです"みたいな曲書いたりしてね。

直枝:こういうひとだから。怒られるようなことしないから。それにじっさい怒られたらよくないわけで。

鈴木:その通り。

直枝:惣一朗くんは制作ノートをつけていて、そこにいつもメモしているんですよ。「お餅」「お麩」とか、54歳と54歳で足したら108歳とかね。そのころには彼はもう、このプロジェクトのことで、細野さんにお伺いを立てていたんですよ、個人的に。

細野さんに、直枝さんとやると伝えたんですね。

鈴木:それで直枝くんには、細野さんを気にし過ぎても仕方ない、といわれて、ああこれは卒業式でもあり入学式でもあるんだな、と思った。細野さんと慶一さんにはオマージュとかリスペクトはいくらでもあるけど、そうしたアルバムをつくってもふたりとも満足しないのはわかりきっていますから。吹っ切っていこうと(笑)。そのくらいの勢いで行こうと直枝くんにいわれたとき、身震いするくらい「そうだな」って思ったんです。

 一気に夏になったブライトンで、わたしの週末を支配しているのが、息子の友だちのバースデイ・パーティ・ラッシュである。
 夏のあいだに誕生日を迎える子供たちの親が、学期中にパーティを終わらせようとするので、土曜の朝はこっちのパーティ、午後はあそこのパーティで日曜もまたパーティ。といった按配だ。英国人のパーティ文化は、幼少の頃のバースデイ・パーティではじまる。わたしの周囲でいまいちばんパーティ・アニマルなのは、ゲイの同僚とうちの6歳の息子だ。

 しかし、このパーティにしろ、すべての子供たちが開くわけではない。息子の学校は、富裕区と貧民区とのふたつの教区合併の形で作られたカトリック校であり、公立校にしては子供たちの家庭の階級に幅がある。とはいえ、日曜毎に教会に通っているようなカトリック信者は、裕福な教区の方が絶対的に多いので、ポッシュ派がマジョリティだ。で、趣向を凝らしたパーティを開くのはこの層の方々になるわけだが、ついに不況の波が彼らにも及んでいるのか、クラス全員を招待した大きなパーティというのは今年は稀だ。
 つまり、子供たちが、「君は招かれているのに、僕は招かれていない」という残酷なリアリティを直視しなければならなくなった。で、小学生のパーティ・シーンを見ていて気づくのは、招待者のセレクションには決まったパターンがあるということである。
 ペアレンツたちの階級や肌色、趣味趣向(聴いていそうな音楽とか)により、招かれている子供たちのメンツが違う。社会的にリスペクタブルなミドルクラスの子供たちのパーティには白人の金持ちの子供が中心に招かれているし、ミドルクラスでもちょっとボヘミアンというか、芸術家とか作家とかそういう仕事をしておられる人びとや、鼻にピアスした弁護士なんかの子供のパーティでは、外国人や貧民の子供の割合が増える。ワーキング・クラスの親は大人数のパーティは開かないので、近所に住む同じ階級の子供たちしか招かれておらず、ここもさらにふたつのグループに分かれるのだが、聖ジョージの旗を1年中掲げているようなお宅ではやはり英国人の子供の集まりになるし、なんか若い頃に妙な音楽でも聴いて道を踏み外したのかな、というようなリベラルな貧民の家庭は外国人の子供も招く。この年齢では、まだ親が幅をきかせているので、子供というより親のセレクションになるのである。
 子供たちが自分の人種や親の収入、交際すべき人びとといったソシオエコノミックな自分の家庭のポジショニングをリアルに理解しはじめるのは、こういったソーシャル・イヴェントを通してかもしれない。学校ではみな平等が理念だったとしても、いったん家庭に戻れば、巷は階級だの人種だのといった醜いイシューにまみれている。

 例えば、うちの息子のクラスにTというヴェトナム人の少年がいる。大変に勤勉な彼の両親は、15年前にはロンドンの中華料理屋で働いていたそうだが、今ではお父さんはICTコンサルタント会社の経営者、お母さんは金融街シティの大手会計事務所勤務という、絵に描いたようなソーシャル・クライマーの家庭である。
 うちのような保育士とダンプの運ちゃんの家庭は労働者階級スルー&スルーだし、ソーシャル・クライミングどころか、どちらかと言えば年々下降気味なのだが、わたしが東洋人のせいか、このヴェトナム人のご夫婦は富裕層のわりにはよく話しかけてくる。
 とくに、学芸会か何かでお会いしたときに、うちの連合いが、「うちの子は半分イエローだから、いじめられるときが必ず来る。そのときに自分の身を防御できるよう、日本のマーシャル・アートを習わせている」と言ったときは、ご夫婦で真剣に聞き入っておられ、いまではTもうちの息子と同じ道場に通っている。
 そんな風だから、やはりレイシズム問題には敏感でいらっしゃるのだろうが、このご夫婦が先週末、Tのバースデイ・パーティを開いた。久しぶりに、クラス全員が招待されたビッグな催しだ。普通は欠席する子が何人かいるのが当たり前なのだが、この日は全員勢ぞろいのようだった。息子を迎えに行くと、ちょうど記念撮影をしているところだったのだが、ふと、ひとりだけ不在の少年がいることに気づいた。
 
 「なんでRは来てなかったの? 具合でも悪かったの?」
 帰り道で聞くと、息子は黙っている。
 「ロンドンの叔母さんとこにでも行ったのかな?」
 息子は俯いたまま、ぼっそりと言った。
 「Rは招待されなかったんだ」
 「えっ。でも、クラスの子、全員いたじゃん」
 「Rだけ、招待されなかった」
 「そんな筈ないよー。招待されたけど、来れなかったんでしょ」
 「......Rの引き出しにだけ招待状が入ってなかったんだ。僕、Rと仲いいから、Tに訊いたんだよ。『入れ忘れたんじゃない?』って。そしたら、Tは急にもじもじして、『お母さんが決めたことだから』って」

 そういう発想はしたくない。
 そういう思考回路を持つわたしこそが、レイシストなのかもしれない。
 が、最初に思ったのは、Rはクラスで唯一のブラックだということだった。
 で、学芸会だ、サマー・フェアだ、と学校での催し物がある度に、ヴェトナム人のTの両親が、アフロカリビアンであるRの両親をあからさまにシカトしているのではないかと思える場面があったということである。
 「Rは、なぜか外国人の子のパーティには招待されないんだよね」
と息子は言った。
 「Tもそうだし、ポーランド人のMも。メキシコ人のVもそうだった。外国人って、Rが嫌いなの?」
 と言われたときには、返す言葉を失った。
 昔、無職者が集まる慈善施設で働いていた頃は、さまざまな肌色をした底辺外国人の「対イングリッシュ」みたいな団結力が強固で、それはそれでホスタイル過ぎて鬱陶しくなることもあったが、ちょっと階級を昇ったりすると、外国人こそが最も積極的に外国人を排他する人びとになるというのは、あまりにリアルでサッドだ。
 「そんなことないよ。母ちゃんは外国人だけど、Rと彼のファミリーが大好きだ。Rの父ちゃんはユース・ワーカーだし、母ちゃんはソーシャル・ワーカーだ。アフリカから来て、この国の子供たちをサポートしている彼らは、本当に素晴らしい仕事をしている」
 とわたしは言ったが、Rの親友である息子は黙って下を向いていた。

 Tのパーティがあった週末明けの月曜日、いつものように息子を学校まで送って行くと、学校の正面玄関にたむろしている親たちは、みな口々にTのパーティを誉めそやし、Tの母親にサンクスを言っていた。
 それらの親たちと目を合わさないように、Rの父親は、ひっそりとRを玄関の脇に残して去って行く。クラス全員が招かれているのに、ひとりだけ招かれなかったという子供の気持ちも悲しいが、親の気持ちも辛い。と思った。
 Rの父親と目が合ったので手を振ると、何とも居心地の悪そうな、こちらが胸苦しくなるような笑顔で親指を突き上げて見せる。
 どうして人間というものは、こんなに残酷でアホくさいことができるのだろう。
 階級を昇って行くことが、上層の人びとの悪癖を模倣することであれば、それは高みではなく、低みに向かって昇って行くことだ。
 エリート・ホワイトの輪に入るために、自ら進んで有色人を排他する有色人。移民の多い国のレイシズムは、巨大な食物連鎖のようだ。フード・チェインではなく、ヘイト・チェイン。そのチェインに子供たちを組み入れるのは、大人たちだ。

 ぴかぴかの黒い革靴を履いた白い子供たちに囲まれて、同じような靴を履いたヴェトナム人の少年が楽しそうに談笑しながら廊下を歩いて行く。
 Asdaの安い靴を履いたRは、少年たちの群れからわざと遅れるようにして、とぼとぼとひとりで歩いていた。Rと同じAsda靴を履いたうちの息子が、Rに追いついて、ぽんと肩を叩く。その背後から、鼻ピアスの社会派弁護士の息子がふたりのあいだに割って入る。この子は生粋のイングリッシュでぴかぴかの革靴を履いているが、野蛮にもRに頭突きをかまし、「ワッツ・アップ・メーン」などと言ってげらげら笑っている。
 晴れやかに教室の中に消えて行く大グループと、遅れて歩く小グループの少年たち。
 イングランドの未来をつくるのは、この子たちだ。

              ********

 君たちの道程にサクセスあれ
 君たちの道程にサクセスあれ

 俺は間違っているかもしれない 俺は正しいかもしれない
 俺はブラックかもしれない 俺はホワイトかもしれない
 俺は正しいかもしれない 俺は間違っているかもしれない
 俺はホワイトかもしれない 俺はブラックかもしれない

 そういえば最近、フィンズベリー・パークでそう熱唱していたおっさんがいたな。と思う。
 RISE。という言葉には、出世、昇進のほか、怒り、蜂起の意味もある。

Illuha - ele-king

 来週26日に書店に並ぶ『AMBIENT definitive 1958-2013』では、その年々にリリースされた代表作に選定された1枚だけが大きく扱われているのだが、2011年度のそれは、伊達伯欣の『Otoha』だ。同じく2011年には、伊達伯欣+コーリー・フラーによるイルハのデビュー・アルバム『Shizuku』も〈12k〉から出ているので、そちらにするべきだったかもしれないが、こういう選択は監修者(=三田格)に委ねられる。
 『Shizuku』は、リリース当時は欧米ではいきなり評判となった作品で、いまではダウンロードでしか聴けないのが残念と言えるほど、いわゆる非日常的なサイケデリックではない側のアンビエントとしての質が高い。『ミュージック・フォー・エアポーツ』が好きな人が好む作品だろう。まる1ヶ月、アンビエントを聴いて書くために部屋に籠もっていた三田格も舌を巻いたように、イルハは何か持っている。何を持っているのだろう......。僕が彼らの音楽に触れたのは、2012年4月21日の養源寺だったが、たしかに印象に残っている。最初の音が鳴ったその瞬間から、何の説明もなく、音は聴き手の気持ちを押し広げる。すると、イルハの音響を特徴付ける多彩な音の断片(ピアノ、チェロ、ギター、あるいは自然音や具体音等々)が、まさに音の「しずく」となって、いろんな角度から聴こえるのだ。

 『Shizuku』は、米国北部ベリングハムの古教会での録音を東京で編集した作品で、チェロの生演奏を活かし、モダン・クラシカルな感性が東洋的な間の宇宙に注がれている、最高に美しいアルバムだったが、それは「音楽が聴こえる」「音が鳴っている」というよりも、具体音やフィールド・レコーディングを効果的に使った、「音のしずくが舞っている」感じなのだ。『Interstices』には、僕が本堂の畳の上で聴いたライヴの前日の演奏が1曲目に収録されている。『Shizuku』のクライマックスとなっている、和歌を詠む"聖夜"は2曲目に収録。それぞれ長尺の全3曲はライヴ演奏ならではの......というか、イルハのライヴならではの、細かい音々が、心地よい夜風に吹かれながら、散りゆく花びらのように舞っているのである。七尾旅人はかつて「ゆれている/ゆれている」と歌ったが、音は舞い、景色はゆれて、現実世界が官能的に見える、こんな気分にさせる音楽はなかなかない。彼らの新しいアルバムが楽しみだ。

PROM (AVERY ALAN + SEM KAI) - ele-king

2012年に設立されたアーティストコレクティブPROM。国内外のシーンの繋がりを目標に、東京を軸に様々な企画を手がけている。PROM主宰のパーティ「PROM NITE」ではこれまでにNEON INDIAN、LE1F、HEEMS (DAS RACIST)などのアーティストを召還。次の「PROM NITE」は8/2に代官山ユニットでLAのレーベル〈FADE TO MIND〉よりR&BシンガーKELELAとDJ、TOTAL FREEDOMを招いて開催決定。

■PROMオフィシャルWEB 
https://www.tokyoprom.com

■ele-king内関連ページ
https://www.ele-king.net/interviews/003100/
https://www.ele-king.net/news/003201/



Ynfynyt Scroll - Butch Queen (AiR DJ Remix) -#FEELINGS
Baauer - Harlem Shake (MikeQ x Jay R Neutron QB Remix) - Queen Beat
Rihanna - Diamonds (Dj Sliink Remix)
Destiny's CVNT - Nuclear (Cmore Edit by CUNT TR4XXX)
Tempa T - Next Hype (50 Carrot's A Day Keeps The Doctor Away Remix)
Bok Bok - Silo Pass - Night Slugs
Rabit - So Clean (Drippin' Remix) - #FEELINGS
Mike Jones feat. Slim Thug and Paul Wall - Still Tippin' - Swishahouse
Marcus Price & Carli - Flaska & Bas (Ben Aqua Remix) - #FEELINGS
Rizzla - Church - Fade To Mind
Fatima Al Qadiri - Hip Hop Spa (Nguzunguzu Remix) - UNO NYC
Usher - There goes my baby (Chopped & Screwed by Dj Michael 5000 Watts & Swishahouse) - Swishahouse
Hint - Lock The Door (feat. Zed Bias) - Tru Thoughts Records
Lil Silva - Venture - White Label
French Fries - Space & Smoke (Justin Martin Remix) - DIRTYBIRD
Jam City - Her - Night Slugs
Tony Quattro & Doctor Jeep - Forth & Seek (feat B. Ames) - Trouble & Bass Recordings
KW Griff - Bring in the Katz (feat. Pork Chop) - Night Slugs
Cakes Da Killa - Rapid Fire (feat. Dai Burger) - DTM Records

Factory Floor - ele-king

 UKのインディ・ロック界は、すっかりハウスに染まっている。ジェイムス・ブレイクの今回のライヴの後半が、完璧にハウスだったそうで、観に行った人たちは気持ち良く踊って帰ってきたというから、僕がリキッドルームで観たときの彼らとはもう方向性が違っているのだ。エアヘッドが取材で言っていたように、彼らは本気でハウスに向かっている。ザ・XXのライヴもハウスに染まっていると聞くし、UKでバカ売れしているディスクロージャーのアルバムがハウスである。EDMと一緒にされたくないという思いからだろう、ダフト・パンクがディスコ・クラシックを再現したアルバムは日本でも売れているが、インディ・ロックのハウス現象の顕在化にも、ダンス・ミュージックってものには品性が必要なのだと言っているようだ。最近、90年代のディープ・ハウスものの再発もやたら多いし......。
 ところで、ダフト・パンクにアルバムで喋らされたジョルジオ・モロダーの、メトロノーミックで、くらくらする16シーケンスが、ポストパンクに影響を与えたという話は有名だ。そして現代では、冷酷なインダストリアル・サウンドにモロダーを落とし込んでいるのがロンドンの3人組、ファクトリー・フロアというわけである。ハウスでもディスコでもない。これはディスコ・パンクである。
 かねてから「こいつら格好いい」と評判だったファクトリー・フロアだが、レーベルも〈DFA〉にがっつり移籍して、満を持してのアルバムが9月11日にリリースされる。これが前評判に偽りなく、本気で格好いい。とりあえず、今年の春にリリースされた先行シングル「Fall Back」のPVをご覧あれ。アルバムの内容はまさにこんな感じ。

Cuushe / Airy Me, goat / NEW GAMES - ele-king

Cuushe - Airy Me

Video directed by 久野遥子

 この夏4年ぶりのアルバムのリリースを控えている京都出身のクーシー、ゆらめく電子音と美しい歌が織りなす最高のメランコリーを作っている、注目すべき女性アーティストだ。グルーパーとジュリアン・ホルターの溝を埋めるとでも形容したらいいのか......、昨年発表したEP『Girl you know that I am here but the dream』(ミニCD3枚組という変則リリース)ではジュリア・ホルターやティーン・デイズらがリミキサーとして参加、デムダイク・ステアのマイルスがマスタリングしているが、これも瞬く間に完売。新作は間違いなく、より幅広く聴かれるであろう。
 そんな彼女が2009年のデビュー・アルバム『Red Rocket Telepathy』収録の"Airy Me"のヴィデオを発表した。映像は、久野遥子が約2年の歳月をかけて手描きで完成させたという渾身の作品で(このために3000画を描いたという)、まあ、どうぞご覧下さい。まったく素晴らしいです。

goat - NEW GAMES (live)


 7月17日にアルバム『NEW GAMES』を〈UNKNOWNMIX〉から発表したばかりの、関西のバンド、ゴート。佐々木敦が「このクールに発狂するグルーヴを聴け!」と興奮しているが、たしかにおしゃっる通り、作品はとんでもなく良い。通のあいだでは東の空間現代、西のゴートと呼ばれているらしいが、これも一種のポストパンク的なるもののひとつなのだろう。
 あるいは、コニー・プランクを彷彿させるかのようなアフリカへのアプローチとでも言ったらいいのか、ジャズとテクノの往復のなかで展開されるポリリズムは圧倒的で、このグルーヴはシャックルトン、もしくはマーク・エルネストゥスのジェリ・ジェリ(あるいはZ's、あるいはリップ・リグ&パニックの再評価など)にも通底している。recommend!!


Pet Shop Boys - Vocal


 最後にこれは......20年前は若かった方と現在若い方へ、です。

Smith Westerns - ele-king

 それにしてもスミス・ウェスタンズはいつまで夢を見つづけるつもりなのだろう?
 ガールズは2枚のアルバムを僕らに残して解散してしまったし、ザ・ドラムスの鳴らした夏も過ぎ去ったように見える。海辺で昔の音楽と戯れていたザ・モーニング・ベンダースもポップ・エトセトラになって海からは遠く離れた場所に行ってしまった。もうあの青春はゆっくりと終わったと思っていた。

 でもスミス・ウェスタンズはまだ青春を鳴らしつづけていた。いまも変わらぬ純度でもって。
 おそらく彼らは大人になろうとはしていないないし、まったく現実なんてみるつもりもない。彼らの音楽からは「いま」が見えない。新しく公開された"アイドル"のヴィデオを見ればわかる。あたかもそれが地つづきのリアルであるかのように飄々としている。

 しかし改めて言うまでもなく彼らの音楽は本当に輝いている。これだけいろんなものに溢れた世界だからこそ、それははっきりと浮き彫りになる。本当に好きなものだけを純粋に追っている。ちっともふざけてないし、真剣である。ザ・モーニング・ベンダースのようなフットワークの軽さも感じない。正真正銘のルーザーだ。
 初めて"ウィークエンド"のミュージック・ヴィデオを観たときには、それがすぐに特別なものだとわかった。あまりにも完璧な曲だった。
 今作でもその輝きはまったく色褪せることなく、10曲40分で異常なまでのポップスへのこだわりを全編にわたって響かせて終わる。そこには現実の入り込むわずかな隙間さえない。しかし突き抜けすぎたスミス・ウェスタンズの音楽は、その反対側にやるせない現実があることを逆に僕らに告げるようでもある。
 "3AM・スピリチュアル"は新たな名曲だ。中盤では甘ったるい泣きのギター・ソロが炸裂する。彼らがいつの時代に対する憧憬を鳴らしているのかが窺い知れるようだ。4曲めの"XXIII"は、鍵盤の音ではじまりメランコリックに曲が展開されて、再び鍵盤の音で終わるインスト・ナンバー。曲名はローマ数字で「23」。これが彼らの年齢を示しているのだとすれば、そこにあった溢れんばかりの若さだけを手に「オール・ダイ・ヤング」と歌っていた前作との違いは大きい。
 クロージング・トラックの"ヴァーシティ"で切なさは頂点に達する。
 僕らがスミス・ウェスタンズと夢を見ていられるのもそう長くはないかもしれない。そんなことを思ってしまった。いつかは終わりが来る。

 ちなみに今作のアナログ盤には同じ内容のCDが付いている、もしあなたがレコードを買ったなら、CDを誰か特別な人や友だちにあげてみてほしい。他の誰かとこの音楽から得る輝きを共有できれば、それは素敵なことだ。もちろん部屋でひとりきりで聴くことはもっともっと素敵なことであるけれども。

 すべての大人になりたくない人たちのための音楽。『ソフト・ウィル』はそんなあなたのものだ。せめて、レコードの両面を聴き終わるまでは夢を見つづけさせて。それは僕の、そしてあなたの切なる願いでもある。

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