「Nothing」と一致するもの

ビル・ドラモンド『45』刊行! - ele-king

 僕が子供の頃は「ロックとは生き方だ」というクリシェがあった。それはセックスしまくって、ドラッグきめて、暴れて、アウトサイダーを気取ることを意味しない。髪型や服装でもない。重要なのはスタイルではなくコンセプトなのだ。「ロックとは生き方だ」とは、「カウンター・カルチャーとしてのロックとは"創造的な"生き方だ」という意味だと、子供の僕は片岡義男の本なんかを読んで解釈した。人生はどんな風にでも生きられるだろう。屋根に登って落書きすることも、金を燃やすことだってできる。失敗もあろう。笑いものにもなろう。口座から金もなくなろう。腹も減ろう。女にも出ていかれよう。音楽をいっさい聴かない自由だってある。が、基本的にそれはわくわくする冒険である。エルヴィス・プレスリーとビート・ジェネレーションとビートルズを結びつけたのはこれだ。
 とはいえ、「ロックとは生き方だ」は、いまとなっては空しい言葉だ。あの犬のように、飼い慣らされたほうが楽なのだ。よって、地球のてっぺんである北極にエルヴィスの銅像を建てなければいけない。地球をよりよくするためには。こうした妄想と、そしてノエル・ギャラガーが『ビー・ヒア・ナウ』発売日前に「地球上のすべてのバンドをなぎ倒す」とラジオで豪語する話からビル・ドラモンドの『45』ははじまる。「地球上のすべてのバンドをなぎ倒す」──なんと珍妙な野心だろう。それが「ロックとは生き方だ」なのだろうか。そして、そのいっぽうでは再結成にいそしむロックのリジェンドたちがいる。ホワット・ザ・ファック・イズ・ゴーイン・オン? ビル・ドラモンドはウッドストックに銃を持っていかなければならないと空想する。そして、バスで図書館に通って、「トリックスター」の意味を調べる。「トリックスターという概念は双子の英雄と関係し、片方、または両方がそれを体現している。変幻自在な存在、トリックスターは創造者だが、同時にずる賢く、時には悪意ある行動を起こし、狡猾すぎるとされることもある。(略)トリックスターの役割は策士であることが多いが、彼は創造神である時もジョーカーである」
 エコー・アンド・ザ・バニーメンとはトリックスターになるはずだった。バンド名はドラムマシンの名前とウサギ男たちという意味ではなく、トリックスターと関わるものであるはずだった。メンバーは意味を間違えている。それでもロンドンの音楽メディアはエコー・アンド・ザ・バニーメンとティアドロップ・エクスプローズを絶賛した。ビル・ドラモンドは自分が思い描いていた「ロック」の不在を、自分の夢想でもって穴埋めする。「惑星間レイラインのせいだよ。宇宙から伸びてきてるこのラインは、地球ではまずアイスランドにぶつかって、そこからウナギみたいにねじ上がり、リヴァプールのマシュー通りに降りてくる。キャバーン・クラブ──後のエリックス──があるところにね。そしてまた戻って、地上をよじれ、曲がりながら進むと、今度はニューギニアの未開の高地に辿り着く。そこからまた宇宙へと帰るんだ。宇宙の果てへ。レイラインのことは知ってるよね? ヒッピーが夢中になってた古代英国を横切る想像上のパワーラインで......(略)」


ビル・ドラモンド・著
『45 ─ザ・KLF伝』

萩原麻理・訳
(8月30日発売予定)

Amazon

 本書『45 ザ・KLF伝』は、1953年生まれのビル・ドラモンドが45歳になったその日から1年にわたって自分の半生を綴った本である。言うなれば一時代を築いた元ポップスターの回想録。ビートルズとパンク・ロック(そしてヒップホップとアシッド・ハウス)をリアルタイムで経験している世代に属するこのスコットランド人は、学校をドロップアウトして、牛乳配達から大工などさまざまな職業を転々としながら、70年代末にエコー・アンド・ザ・バニーメンのマネージャーとして、86年からはザ・JAMS、ザ・KLFのメンバーとして活動を通して経済的な成功を収めている。ブリットアワーズという音楽業界からの大きな賞に選ばれると潔く引退&全作品を廃盤にして、稼いだ大金を燃やしたことでも知られている。金を燃やすことは、新自由主義の脅威が差し迫っている今日において大いなる反対声明にも思える。
 ビル・ドラモンドは、「ロックとは生き方だ」の実践者だと言えよう。トニー・ブレア政権誕生に音楽業界までもが興奮状態となったとき、権力にすり寄る文化人を嫌悪したのもドラモンドだった。金を燃やしたことの自分への祝いものとして自分が好きだった有名な作家のアート作品を買い、そして買った金額でその作品を売りに出すことも、彼が知っているロックンロールに関わる行為だと思える。何を馬鹿な、もういい加減にしろ、という自分の内なるもうひとつの声を聞きながら、ドラモンドは夢見ることを止めない。

 編集者には、自分がどうしても出したい本というものがある。『45』は僕にとってそうしたものの一冊だ。ロックンロールの散文詩のようなこの自叙伝は、「我々がどこから来たのか」について考える契機を与えるだろう。どうか読んで欲しい。45歳になった人も、これから45歳になる人も。ブレイディみかこさんはマルコム・マクラレンを希代のロマンティストと形容しているが、マクラレンが惜しみない賞賛を寄せたのが、ビル・ドラモンドである。(野田努)

GOLDIE x DEGO - ele-king

 ゴールディとディーゴと言えば、泣く子も黙るドラムンベース界の2大巨匠。シカゴ・ハウスで言えば、マーシャル・ジェファーソンとラリー・ハード、NYハウスで言えばフランキー・ナックルズとフランソワ・ケヴォーキアン、デトロイト・テクノで言えばホアン・アトキンスとデリック・メイが一緒に来るようなもの。あまりにでっっっっっかいブッキングだ。とくにディーゴはいま何を回すのだろう? すっっっっっっごく興味あるんですけど......。では、9月21日、代官山ユニット。待ってるぜ。


DBS presents
"GOLDIE x DEGO (2000Black/4hero)"
W Birthday bash!
2013.09.21 (SAT) @ UNIT

feat.
GOLDIE (Metalheadz)

with:
DX
DJ MIYU
DJ ICHI a.k.a DIGITAL ONE

vj/laser:
SO IN THE HOUSE

Painting : The Spilt Ink.

saloon:
DEGO (2000Black/4hero)

Yoshihiro Okino (Kyoto Jazz Massive)
Yukari BB (Juno Records)
Toshimitsu "Tiger" Takagi
OKA (DESTINATION)
SAYURI (DESTINATION)
ZuKaRoHi (ブロークンビーツ酒場)
Shimoda

open/start 23:30

adv.¥3,300 door ¥3,800

info. 03.5459.8630 UNIT

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Ticket outlets:NOW ON SALE!
PIA (0570-02-9999/P-code: 208-636)、 LAWSON (L-code: 70076)、
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia https://www.clubberia.com/store/

渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)、TECHNIQUE(5458-4143)、GANBAN(3477-5701)
代官山/UNIT (5459-8630)、Bonjour Records (5458-6020)
原宿/GLOCAL RECORDS (090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、JET SET TOKYO (5452-2262)、
disk union CLUB MUSIC SHOP (5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)、Dub Store Record Mart (3364-5251)
吉祥寺/Jar-Beat Record (0422-42-4877)、disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)

★90年代初頭ロンドンのアンダーグラウンドから勃発したUKブレイクビーツ革命はジャングル/ドラム&ベースから今日のベースミュージックの潮流を生んだ。そんなシーンのパイオニアはゴールディー、そして4ヒーロー/ディーゴに他ならない。20数年前、活動を共にして以来、それぞれの音楽を追求して行ったゴールディーとディーゴが9/21(土) 代官山UNIT&SALOONで再会する。GOLDIE x DEGOのW Birthday bash!!!! 奇跡の一夜!伝説を見逃すな!

GOLDIE (aka RUFIGE KRU, Metalheadz, UK)
"KING OF DRUM & BASS"、ゴールディー。80年代にUK屈指のグラフィティ・アーティストとして名を馳せ、92年に4ヒーローのReinforcedからRUFIGE KRU名義でリリースを開始、ダークコアと呼ばれたハードコア・ブレイクビーツの新潮流を築く。94年にはレーベル、Metalheadzを始動。自身は95年にFFRRから1st.アルバム『TIMELESS』を発表、ドラム&ベースの金字塔となる。98年の『SATURNZ RETURN』はKRSワン、ノエル・ギャラガーらをゲストに迎え、ヒップホップ、ロックとのクロスオーヴァーを示す。その後はレーベル運営、DJ活動、俳優業に多忙を極めるが07年、RUFIGE KRU名義で『MALICE IN WONDERLAND』をMetalheadzから発表、08年に自伝的映画のサウンドトラックとなるアルバム『SINE TEMPUS』を配信で発表。09年にはRUFIGE KRU名義の『MEMOIRS OF AN AFTERLIFE』をリリース、またアートの分野でも個展を開催する等、英国が生んだ現代希有のアーティストとして精力的な活動を続けている。12年、Metalheadzの通算100リリースに渾身のシングル"Freedom"を発表。13年3月には新曲"Single Petal Of A Rose"を含む初のコンピレーション『THE ALCHEMIST: THE BEST OF 1992-2012』がCD3枚組でリリースされ、まさにアルケミストなゴールディーの不朽の音楽性を再認識させる。
https://www.goldie.co.uk/
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https://www.facebook.com/Goldie
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DEGO (2000Black/4hero, UK)
 ロンドンに生まれたDEGOはサウンドシステムや海賊放送でのDJ活動を経て90年にReinforced Recordsの設立に参加、4HEROの一員として実験的なハードコア/ブレイクビーツ・トラックのリリースを開始。やがて4HEROはDEGOとMARC MACの双頭ユニットとなり、タイムストレッチング等、画期的な手法を編み出し、ドラム&ベースのパイオニアとなる。傑作『PARALLEL UNIVERSE』(94年)、『TWO PAGES』(98年)以降、4HEROはD&Bのフォーマットを捨て、『CREATING PATTERNS』(01年)、『PLAY WITH THE CHANGES』(07年)で豊潤なクロスオーヴァーサウンドを打ち出す。DEGOはTEK9名義でダウンテンポを追求する等、オープンマインドかつ実験的な制作活動は多岐に及び、98年に自己のレーベル、2000Blackを始動し、革新的な音楽共同体としてのネットワークを拡張、ブロークンビーツ/ニュージャズの潮流を生む。KAIDI TATHAMらBUGZ IN THE ATTIC周辺と密に交流し、dkd、SILHOUETTE BROWN、2000BLACK名義のアルバムを制作。11年には満を持してDEGO名義の初アルバム『A WHA' HIM DEH PON?』を発表、ジャズ、ファンク、ソウルetcへの深い愛情を反映した傑作となる。その後も精力的な活動を続け、12年に『TATHAM,MENSAH,LORD & RANKS』を発表している。
https://www.2000black.com/
https://mrgoodgood.com/
https://www.facebook.com/2000blackrecords
https://twitter.com/2000black_dego

〈UNIT〉
Za HOUSE BLD. 1-34-17 EBISU-NISHI, SHIBUYA-KU, TOKYO
tel.03-5459-8630
www.unit-tokyo.com

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〈GOLDIE JAPAN TOUR 2013〉
9/20(金) 高知 X-pt. GOLDIExDEGO (問)088-885-2626
9/21(土) 東京 UNIT GOLDIExDEGO (問)03-5459-8630
9/22(日) 広島 cafe Jamaica (問)082-240-0505
9/23(月) 札幌 DUCE (問)011-596-8386

〈DEGO JAPAN TOUR 2013〉
9/20(金) 高知 X-pt. GOLDIExDEGO(問)088-885-2626
9/21(土) 東京 UNIT GOLDIExDEGO(問)03-5459-8630
9/22(日) 大阪CIRCUS ---(問)06-6241-3822


MARIA - ele-king

 三田格は『街のものがたり』を読んで真っ先に聴きたくなったのがマリアだというが、その気持ちは理解できる。何を隠そう、橋元と僕もくだんの本を編集しているとき、マリアの章のゲラを読んで涙腺が緩くなったものだ。
 シミラボのライヴで見る彼女はたいてい道化ている。売れっ子ライターの二木信的に表現するならファンキーというのか、彼女はOMSBからのいじりさえも自分を笑う成分に利用する。マリアは、反抗的だがご機嫌なシミラボのステージの華であり、最高の道化師でもある。
 ところが、『街のものがたり』で語られる彼女のエピソードは、軽く笑い流せやしない重たさがある。これはOMSBにも言えることで、敷居が低く、そしてファンキーなシミラボのライヴの背後には、がちにハードなものが秘められている。『街のものがたり』を読んだ多くの読者がマリアに反応するのは、「ええ、こういう人だったんだ」という、ある種の驚きを覚えるからだろう......などと言ったら失礼だろうか、「普通って何? 常識って何?」「そんなもんガソリンぶっかけ火を付けちまえ」と繰り返したシミラボは、ハイブリッドであるがゆえの疎外者の集まりかもしれないが、マイノリティとしての自分たちの人生を売りのタタキにはしていないのだ。

 何にせよ、本作『Detox』はマリアの最初のソロ・アルバムだ。素晴らしい。それ自体に意味がある。〈BLACK SMOKER〉から出た『LA NINA』でも、日本のジュークのコンピレーション『160OR80』でも、彼女は圧倒的な存在感を見せている。日本のヒップホップの新しいミューズへのリスペクトの表れだろう、『Detox』には多くのビートメイカーやラッパーが参加している。シミラボのOMSB(WAH NAH MICHEAL)やUSOWA、LowPassのGIVVN、C.O.S.A.、Earth No Mad、MUJO情、DIRTY-D、Cherry Brown、TAKUMA THE GREAT、DIRTY-DやISSUE、JUGG等々。
 米軍基地は保守派にとってはある種の必要悪、リベラル派にとってはとにかくけしからんものとして、あり続けている。軍人と日本人との間に生まれた子供の居場所は彼らの対立のなかにはなかったが、ヒップホップにはあった。『Detox』から聞こえる希望は、もちろんすべてとは言わないけれど良くも悪くもこと地方では街のちんぴら予備軍の音楽として広まったヒップホップが、あまりにも純粋なモラルを説いていることにある。それはニーナ・シモンから忌野清志郎にいたるまでの、過去の素晴らしいポップスが表してきた地面から見える愛(性愛)に関係している。

 『Detox』には、マリアがいま思っていることすべてが詰め込まれているようだ。男の視線を釘付けにするPVの"Helpless Hoe"では女の狡猾さを攻撃、ねっちこくもグルーヴィーな"Movement"では人びとへ蜂起をうながし、"Depress"では彼女が経験した人種差別を語る。彼女の女性性も表現されている。"Sand Castle"や"Your Place"などいくつかの曲ではその魅力的な声を聞かせる。ナイトライフがあり、国家への不信感、友情や恋心が繰り広げられる。
 僕はマリアのような女性を何人か知っている。女であることを隠さない女、女であることを無理に抑えつけない女は、アメリカからのR&Bの波とともに日本にも定着しているわけだが、『Detox』はジェシー・ウェアやアデルなんかよりもエイミー・ワインハウスに近い。
 しかし、性はすべてを支配しない。クローザー・トラックの"Bon Voyage"は、本能的でありながらも理性的でもあろうとするマリアの内的世界の、見事な叙情詩として、アルバムの核心をまとめ上げる。「大波小波へのへのもへじがあたしのダーリン」「出会いと別れ繰り返すだけ/でもあたしはできない平和ボケ/てめぇの悩みなんてほざけクソくらえ」「わかってもいてもわからないふり/バカ演じてんのがぴったり/ってよりぶっちゃけすげー楽」......(略)
 マリアの純情なソウルこそ、たったいま聴いたほうがいい。愛に向き合ったこのアルバムに僕はがつんと食らった。こういう表現を謙虚な彼女は嫌がるだろうけれど、敢えて言おう。彼女の言っていることはまったく正しい。「この国のアビレージに踊らされるな/君のステップを踏んで行けば/世界はゆれる/地球はまわる」"Never To Late"

- ele-king

Eccy - ele-king

Eccyです、久々のチャートっす。
相変わらず曲作ったり写真撮ったりしてます。
最近は下北沢moreでVERTIGO PLUSというPartyをやっております。
次回は多分10月です。遊びに来てください!

https://twitter.com/_Eccy_
https://soundcloud.com/eccyprodukt
https://yusukekiyono.tumblr.com/

Chart


1
Chvrches - Recover (Cid Rim Remix) - Glassnote

2
Tinashe - Boss (Ryan Hemsworth Remix) - Free DL

3
Eccy - BLSPK - Forthcoming NTB

4
Purity Ring - Lofticries - 4AD

5
TOKiMONSTA - Go With It (feat.MNDR) - Ultra

6
Eccy - Fantasia - Unreleased

7
Eccy - Sketchbook - Forthcoming NTB

8
Rustie - Slasherr (Flume Edit) - Free DL

9
AlunaGeorge - Your Drums, Your Love (Friendly Fires Remix) - Tri Angle

10
Zomby - White Smoke - 4AD

第12回:インディオのグァテマラ - ele-king

 ロック。という音楽は、米国で白人に奴隷として使われていた黒人たちが夜な夜な歌い踊っていた音楽と、ジャガイモ飢饉で大挙して米国に渡り、やはり白人階級の中では最下級の存在として労働していたアイルランド人が歌い踊っていた音楽が、19世紀後半に何かの拍子で出遭い、混ざり合って出来た音楽だという説がある。
 つまり、この説でいえば、ロックとは、虐げられた黒人と白人の音楽が混合して出来上がった下層のハイブリッド・ミュージックだったわけである。
 この説に並々ならぬロマンを感じていたのがセックス・ピストルズのマネージャーだった故マルコム・マクラレンだ。彼は、この説を叩き台にした映画を撮る企画を熱っぽく英紙に語ったことがあった(米国で異人種の音楽が出遭うきっかけを作るのが何故かオスカー・ワイルド。という、いかにも彼らしい設定だったらしい)が、結局はその夢を果たせないまま他界した。

 この野望を語るマルコムのインタヴュー記事を読んだ時、わたしが最初に思い出したのは、英国のミュージシャンでも、米国のミュージシャンでもなく、山口冨士夫だった。
 十代の頃からの友人が、村八分に参加していたことのある男性と同棲していたという事情もあり、友人とわたしは年上のその男性に連れられ、東京で何度かティアドロップスのギグを見に行った。それはわたしが英国とアイルランドと日本を行ったり来たりする若い娘だった時代の話だが、山口冨士夫という人のバンドは、マーキーやダブリンのトリニティ・カレッジのホールで見るロック・バンドと比較しても遜色ないと思っていた。
 友人の恋人から村八分時代の冨士夫やチャー坊の逸話を聞かされたわたしは、日本のロックというのは、村八分のことである。という主張を抱いて来た。わたしは福岡出身の人間なのでサンハウスも聴いたし、柴山俊之や鮎川誠の長距離ランナーとしての凄みや、博多の人間らしい芸人根性もわかる。
 が、ロック。というのは、芸人や音楽家として優れていることとはちょっと違う。
 黒人の血を引く日本人として生まれ、ひどい差別を受けながら施設で育ったという、戦後日本の矛盾や浅ましさを全身で受けとめながら生きて来たような冨士夫のギターには、芸事の巧さや楽曲の出来云々では語れない(おそらく今どきの人々に言わせれば音楽のクールさとは全く無関係な)スピリッツとか、アティテュードとかいうようなものの轟きが宿っていた。
 マルコム・マクラレンという希代のロマンティストがそう信じたように、ロックの起源が虐げられた者たちの異人種交合ミュージックであったとするなら、山口冨士夫は日本のロックのオリジンだったとも言えるのではないか。

             *******

 『街のものがたり──新世代ラッパーたちの証言』を読んでいて、OMSBやMARIAのインタヴューの箇所でふと思い出していたのも冨士夫のことだった。日本における混血の子供たちのストーリーは、昔も今も、一貫して存在しているのである。
 数年前、ブライトンから福岡に帰省した時に、バスの中で3歳の息子が泣いたことがあった。「みんなからジロジロ見られるのが怖い」という。あのジロジロは確かに日本独特のものだと思う。英国なら、目が合えばにこっと笑ったり、とりあえず何か言ったりする。相手に喧嘩を売っているわけでもなければ、無言で誰かを凝視するというようなことはしない。
 「なんでみんな僕を見ているの?」
 と尋ねてきた息子にわたしは言った。
 「他の人たちと違うからだよ」
 「?」
 「例えば、イングランドのバスだって、誰かが犬を連れて乗ってきたら、みんな一斉に犬を見るじゃん。あれと同じ」
 と答えると、息子が「僕は犬じゃない」と言って余計ぎゃんぎゃん泣きはじめたので、しまった。と反省したことがあったが、しかし、要するにあれは犬だからなのである。わたしの祖国には、日本人離れしたものを妙に崇める風潮がある一方で、本当に身近に存在する日本人離れしたものは凝視し、排他する傾向がある。

 英国で、「No Blacks, No Dogs, No Irish」(北部では「No Blacks, No Gypsies, No Irish」だったらしい)が罷り通ったのも、子供の頃の冨士夫が日本で差別されていたのと同じ時代だ。
 英国で黒人やアイルランド人をもっとも激しく差別したのは、実はワーキング・クラスの人びとだった。というように、戦後の日本でも、貧しい人々の歪んだ憂さ晴らしの矛先が下層の混血に向けられたのは容易に想像がつく。
 ひどい時代に弱者が一つになる。というのは、あれはわりと幻想で、ひどい時代ほどひどい目にあっている者がさらに弱い立場の人間に対してひどいことをする。しかし、そうした人間の本性が剥き出しになっている時代は、虐げられている者たちの怒りやせつなさが表現として噴出する時代でもあろう。
 が、わたしの祖国の場合には、その後、「国民みんなそれなりにお金持ち」のスローガンと共に、政府と国民が共謀して下層の存在を隠蔽した時代がやって来て、虐げられている者。などというコンセプトじたいがどうしようもなくダサくてアナクロで、「やっだー、いまどき何言ってんのー」と笑われる時代がやってきた。
 英国の場合、サッチャーの時代までは下層の叫びはロックのテーマになり得たが、トニー・ブレアが登場すると、日本の「みんなお金持ち」時代と似たようなアゲアゲ系のムード重視政治の時代が到来し、やはり虐げられた者はコメディのネタになってしまった。
 が、UKでは保守党が政権を奪回し、再びサッチャー時代ばりにひどい時代がやって来てしまったので、昨年はジェイク・バグのような人がチャート1位になるという現象も起き、数年前なら余裕でアイコンになっていただろうトム・オデールのような人が「クソMORの焼き直し」とこき下ろされるような風潮になっているが、日本は、どうなのだろう。
 と思っていた矢先に、日本のロックのオリジンである山口冨士夫が逝った。

               ************

 冨士夫の死を知らされた日、勤務先の保育園の庭でティアドロップスをかけていた。
 職場には音楽好きの保育士が何人かいるので、裏庭で子供を遊ばせるときに、およそ保育園らしからぬ音楽がかかっていることがたまにあるが、わたしがかけたティアドロップスでも子供たちはノリノリで踊っていた(ちなみに、彼らはボガンボスも大好きだ)。

 "いきなりサンシャイン"で4歳児がギターを抱えているふりをしてがんがん掻き毟るような仕草をしたときには、ああ、やっぱりこれを聴くと、万国共通、みんな冨士夫になるんだよ。と、つい目頭が熱くなったが、英語を母国語(または第二母国語)とする子供たちにはこの曲が一番発音しやすかったのか、キャッチーで覚えやすかったのか、そのうちぽつぽつと子供たちが歌いはじめた。

 グァテマラのインディオ インディオのグァテマラ

 白い肌や黒い肌、茶色い肌、黄色い肌、それらの色が混ざり合ってもはや何色なんだか判然としなくなった肌、をした子供たちが山口冨士夫と一緒に歌っていた。

 グァテマラのインディオ インディオのグァテマラ

 冨士夫がこれを見たら、何と言っただろう。と思った。
 英国の夏の空は、珍しく真っ青に晴れ渡っていた。
 あの日は終戦記念日だった。が、インドが英国から独立した日でもあることをお迎えに来た父兄の一人が教えてくれた。

Pete Swanson - ele-king

 踊った。というか跳ねた。ベッドルーム・ポップに繚乱と彩られたこの6~7年に象徴されるように、メディテーショナルでドリーミーでサイケデリックなムードにとっぷりと浸かってきたインディ・シーンはいま、その長い長い眠りを、壁を蹴破られるようにして覚まされつつある。まるで『進撃の巨人』だ。ベッドルーム(=壁の中)の安寧は、破られた穴から流入するおびただしいノイズ(=巨人)によって乱れ、緊迫し、覚醒させられるだろう。巨人たちの名は、もちろん「インダストリアル」である。

 昨年末の『ele-king vol.8』に収録された座談会内ですでに指摘されていたこの兆候は、つづく『ele-king vol.9』において特集となり、約半年をかけて誰の目にも著きものとなった。筆者がいまもレコ屋の店員だったならば、売りたい新譜のポップにはたとえ間違っていたとしても「インダストリアル」の文字を滑り込ませただろう。定義も曖昧で振れ幅の大きいこのマジック・ワードは、だからこそ広い射程を持った新しい価値観としてリニューアルされ、ベッドルーム・ポップの思わぬ細部へと浸透している。サファイア・スロウズや禁断の多数決のほうのきらが昨年の年間ベストのなかにアンディ・ストットを挙げたりするのはその顕著な例だろうし、当のアンディ・ストット自身も両者の境界点に結像する存在である。

 いろんな側面があるが、ズシン、ガシャンという、倉本諒言うところの「鉄槌感」は、その重要な要素のひとつだ。自意識の延長ともいえるベッドルーム空間を、容赦なく壊してくれるノイズやビート、あるいはミニマリズムを、われわれはおそれつつも、いつしか欲するようになっていた......"パンク・オーソリティ"は、この間隙に途方もない力で入り込んできて、気持ちよいほど血を沸かせ、身体を叫ばせる。興奮した意識にはベッドルームはいかにも手狭だが、狭い壁のなかで、頭のなかはむしろ澄み渡っていくような気がする。

 と書くと、情感や内面性を排した身体的な音楽だと思われるかもしれないが、そういうわけでもないところがピート・スワンソンの素晴らしいところであるし、筆者とてべつに「外の世界に出よ」などと言いたいのではない。基本、出たくない。"パンク・オーソリティ"では、鉄槌感がそのままメロディのように機能して、あるエモーションを立ち上げていくのだ。
 各トラックが層状に重なっているのではなくて、一枚に溶けているようなノイズ・コラージュ。どの部分も、たとえばポップスのように安定した構造を持っていたり、それに沿って聴く体験を支えてくれない。どの音もチリチリ、ビリビリと震え、ふいに発火しそうな細かい電流をた走らせている。ただ、低音が裏拍を強調しながらリズムのパターンを形成しはじめると、曲(あえてトラックとは書かない)の相は一気に色合いを変え、鉄槌感とともに、感情を揺さぶり、そこに訴えかけてくる力が生まれる。それでダンスを知らないこの体も飛び跳ねることになったのだ。

 繰り返しになるが、ピート・スワンソンにおいてズシン、ガシャンはメロディであり、エモーションである。"パンク・オーソリティ"は、彼が2000年代初期から続けてきたイエロー・スワンズの、パッショネートなギター・ドローン、凝縮されたノイズ、心を打つ旋律性、そういったものの延長にあるのだろう。ビートが意識的に取り出されたのは、ほんの最近のこと――『マン・ウィズ・ポテンシャル』(2011)で、テクノ的なバックグランドを初めて大々的に解放したというスワンソンだが、そこにいたる約10年には、膨大なノイズ・ロックのアーカイヴがあったわけだ。筆者はそのほんの数箇所しか摘んでいないけれども、『パンク・オーソリティ』を親しく感じるのは、そのイエロー・スワンズの名の下に錬成された内面性やエモーションのためなのだろう。やわくも脆くもなるものを、彼はつよく美しく音によって鍛えることを知っている。『進撃~』で言えば彼は「奇行種」なのであり、人間なのだ。

 今年もっとも繰り返し聴いた作品だ。かけるたびに部屋のなかで躍り、部屋のなかで部屋を破り、身体に流れる血の温度を感じている。眠気はなくなった。国内盤には5曲ものボーナス・トラックが収録されている。すごい、どうしよう。でもやっぱり"パンク・オーソリティ"がいちばん素晴らしい。

カセット・ストア・デイ - ele-king

 よう、ニュース太郎だ。何かニュースはないのかな......っと、そうだ、「カセット・ストア・デイ」ってどう思う? 

https://cassettestoreday.com/

レコード・ストア・デイ」はぼちぼち定着してきたよな。今年はあれのカセット版がはじまるらしいんだよねー。来月あたまの9月7日。目前だ。運営は同じじゃないように見えるけど、実際そのへんはどうなのかな? レコード・ストア・デイは、中小レコード屋にみんなが足を運ぶようにって狙いもあったわけで、そもそもはアーティストが大手チェーンやネットでは買えないエクスクルーシヴな音源(レコード)を作って、該当規模の店だけに販売を許可、「それ売ってちょっとだけでも潤ってくれよな!」っていう、まあ平たく言えばアナログ盤文化活性化&レコ屋救済イヴェントだった。もちろん、アナログのおもしろさを改めて楽しんだり、「レコ屋」って場所で生まれるコミュニケーションを途絶えさせたくないっていう意図が中心にあるわけで、年々その規模を拡大しているところはリスペクトに値するよな。

 付帯するイヴェントも海外ではたくさん企画されているし、何より、誰でも勝手に「レコード・ストア・デイ限定」って銘打って作品のリリースができるところがいい。みんな、どうせCD-Rでデモとか自主盤とか出すんだったら、どんどん「ストア・デイ限定」を売り文句にしたり、それ用にシングルを作ったりすればいいんじゃないかなあ。その許可は誰に取る必要もないもんね? 利用しない手も楽しまない手もないんだよ。

 年々少しずつ規模を大きくして、いまではビートルズのニュー・リミックス音源とか、企画仕様盤の類は常連、ニール・ヤングやジョーン・バエズからブルース・スプリングスティーン、デヴィッド・ボウイ、T・レックス、ザ・クラッシュ、ポール・ウェラーからトロ・イ・モワやセント・ヴィンセント、ウィルコまで何でもある。「ストア・デイものに今年は何が出る?」ということ自体が楽しい話題を提供していて(一部の人間は血眼になって予約を入れまくる......)、春と秋の風物詩のように感じている人もいるんじゃないかな。

 カセット・ストア・デイの方はどうなるのか。公式に「詳細教えてよ」ってメールしたんだけどナシのつぶてでさ。サイトには趣旨や理念についての説明がほとんどないんだけど、参加店舗名や参加アーティスト名がズラッと並んで、イヴェント情報も載っているから、レコード・ストア・デイの目指すところと大体同じなんだろうと思う。カセット自体のおもしろさの伝道、というだけではなくて、それを売る「場所」とカルチャーを盛り上げていこう、っていうね。でも、すごいよね、そうそうたるレーベルがすでに名前を連ねている。〈4AD〉〈ドミノ〉〈ウィチタ〉〈トランスグレッシヴ〉〈ファット・キャット〉〈ジャグ・ジャグ・ウォー〉等々......あれ? カセット出してたっけ? みたいなレーベルのアーティストがどんどん参加してるんだよ。それに、アット・ザ・ドライヴ・インとかフレーミング・リップスとかカセットあったら普通にアガるよな! グッズ感覚でさ。

 まあ、ニュース太郎はそんな感じで素朴かつカジュアルにこの祭を楽しむけどさ、〈ナイト・ピープル〉とかガチのテープ・レーベルの参加がいまひとつ薄いところは気になるよね。実質的にシーンを築いてきた人たちはどう思っているんだろうか。メジャーなプレイヤーたちが宣伝塔になるのはいいことだとして、祭が祭で終わっちゃって、あとに何も残らなかったりするとさびしい。とくに、クルマのオーディオ環境がいまだカセット・デッキ主流だっていうUSと、カセットの生産自体が終わりつつある日本との間には差が大きいよね。カセットがより「トクベツなモノ」に感じられる日本では、それこそいっとき珍しがられて終わってしまうことだって考えられる。カセット文化を定着させる必要なんて、べつにないといえばないんだけど。

 あと、公式ホームページのライヴ・スケジュールの「東京」の欄がずっと未定なまま最近消えてたことも気になる。東京でも何かやりたかったんだね......。誰か、何か知ってたらele-king info宛に教えてくれよな! いや、教えてくださいませ。ツイッターでもいいぜ。あと、どう思うかっていうオピニオンでもかまわねえ。テープの時代なんてほんとにくるんですかい!?

interview with Clark - ele-king


Clark
Feast / Beast

Warp/ビート

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 まず、アートワークが秀逸だ。シュールなユーモア、そこはかとない猟奇性、しかしどこか飄々とした表情......そして何より、彼の「手」は分裂して、増殖している。来る日も来る日も休まずに、カッ飛んだトラックを作りまくっているクラークの作品にぴったりである。

 いままで出ていなかったのが不思議なぐらいだが、多作な彼による数多くのリミックスのなかから厳選した初のリミックス集である(それでも2枚組30曲の大ヴォリュームだが)。初期の繊細なエレクトロニカ/IDMから、ボディ・ミュージックやエレクトロを飲み込んでエクストリームな方向に振り切った中期、そして最近作『イラデルフィック』でアコースティックな要素を大きく取り込みまた新たな方向に進もうとしているクラークだが、本作はそんな彼の多面性がよく伝わる内容になっている。しかしまた、たんにリミックスのコレクションではなくひとつの流れがある「作品」にしたかったと以下のインタヴューで本人が何度も強調しているが、そうして聴くと不思議と一貫性も見出せる。『フィースト』は電子音が美しいメロディを奏でるテクノやエレクトロニカ、アンビエントが中心を占め、『ビースト』はマッシヴなビートが暴れるクラブ・トラックが並んでいるが、そのどちらも制御装置が故障しているような、明るい壊れ方をしている。マッシヴ・アタックからDMスティス、マキシモ・パークからバトルスにヘルスまで......みんなブッ飛んでいる。そういう意味では、リミックス集とはいえ、自身の土俵で堂々と取り組んだ、立派なクラークの作品である。

 おそらく、本作を契機に音としてはまた違うステージに進もうとしているのだろう。エイフェックス・ツインの長い不在の間、彼と比べられ続けたクラークはしかし、「手」を止めなかった。休まずに素早く動かした......と言うよりは、増殖しているようにしか思えないのだ、やっぱり。

「Feast」は散歩しながら聴いたり、座っているときに聴く音楽。だから「Feast(=ごちそう)」と名づけた。座って、比較的、落ち着いて楽しめるもの。それに比べ「Beast(=野獣)」はより攻撃的なクラブ・ミュージックだ。

ここのところハイ・ペースなリリースが続いていますが、なぜこのタイミングでリミックス盤を出そうと思ったのですか?

クラーク:今年はリミックスのオファーがたくさん来て、そのうちの多くが実現した。2枚組のアルバムをリリースするにしてもこれ以上曲を収録できないから、このリミックス集をまとめたんだ。今後はもうリミックスはやらないと思う。僕のキャリアにおいてリミックスをする時期は終わりを迎えた気がする。

今年中に作ったものでないのもありますよね?

クラーク:うん、なかには10年以上前のものもあるよ。

『フィースト/ビースト』というタイトルの由来と、「Feast」と「Beast」に分けた基準を教えてください。

クラーク:「Feast」は散歩しながら聴いたり、座っているときに聴く音楽。だから「Feast(=ごちそう)」と名づけた。座って、比較的、落ち着いて楽しめるもの。それに比べ「Beast(=野獣)」はより攻撃的なクラブ・ミュージックだ。ふたつの言葉は韻を踏んでいて、互いによく合う言葉だと思う。「Beast」はよりクラブ向けの音楽で、もうひとつの方はアコースティックギターが入っていたりして、よりソフトな感じの音楽だ。

かなりの曲数ではありますが、それでもここに収録された以外にもあなたには膨大なリミックス・ワークがありますよね。権利の関係で収録できなかったものもあるとは思うのですけれども、それ以外に、このリミックス集の収録の基準としたところはありましたか?

クラーク:このコンピレーションに合わないと感じた曲もあり、それらは収録しなかった。このアルバムに入れるにはしっくりこないと感じたから入れなかった。とにかくリミックスならなんでも入れてしまおう、とは考えなかった。このアルバムに入っているのは、数多くのリミックスのなかから選んだ優れたリミックスだ。

ということは、このアルバムに合うかどうかという基準で選んだということでしょうか?

クラーク:そのとおり。作品をアルバムのように仕上げたかった。単なるコンピレーションではなく、一連のプレイリストとして良いものであるような作品を作りたかった。

あなたのリミックスだけでなく、あなたの曲をほかのアーティストがリミックスしたトラックも挟まっていますよね。アルバムの流れで聴くといいアクセントになっているんですけど、どうして自分のリミックスだけにせず、収録しようと思ったのですか?

クラーク:じつはビビオからあの曲のリミックスを出せって、長い間せがまれていたんだ。ネイサン(・フェイク)からもしつこく言われていた。だからようやくリリースできたというところだ。ネイサンのリミックスは、以前12インチでリリースを試みたんだけど実現しなかった。"グロウルス・ガーデン"、あの曲はとても気に入っている。嵐のようなクラブ・トラックだ。
 でもほかにもアルバムには、友人のバンドのベージュ・レザースのような、まだレーベル未契約のアーティストなども収録してある。彼らのアンビエント・トラックをリミックスした。アルバムの最初のトラックだよ。だからこのアルバムには、まだリスナーが聴いたことのない音楽もけっこう入っているんだ。

そもそも、リミックスは依頼があればけっこうすんなり引き受けている感じですか? それとも、けっこう慎重に選ぶほうですか?

クラーク:けっこう慎重なほうだよ。その決断が難しいときもある。時間がないときは、とにかくできない。だから忙しいときは断ってしまうね。リミックスにおいては大体の場合、友人の曲をリミックスするのは楽しい。ある意味、ビッグなバンドの曲をリミックスするよりも楽しい。だから友人の曲をリミックスするほうが断然好きだね。

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属しているという意識はあまりない。このアルバムにはアコースティックな要素も結構入っているから、アルバムを通してさまざまなスタイルが聞こえてくると思う。だからどこかに属しているという感じはとくにないね。


Clark
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アルバムとして通して聴くと非常にあなたの色が強く、率直に言ってクラークのオリジナル・アルバムと言われれば信じてしまいそうです。かなり自由に原曲を触っているように思うんですけれども、どうでしょう? そうではなくて、逆に、ひとのトラックであることで制約を設けることはありますか?

クラーク:自由はある。原曲の要素を全く入れずにリミックスと称している作品は好きじゃないけれど、僕がよくやるのは、曲のヴォーカル・ラインだけを取り、曲を変形させてしまう方法だ。だから僕にとっては、ヴォーカルを扱うことがリミックスの一番良い点だと考えているんだ。ヘルスの曲はヴォーカルしか使ってないし、DMスティスの曲もそう。僕がリミックスをやる上で一番好きなことはそれなんだ。ヴォーカル・ラインを取って、それを違ったテクスチャーやメロディに載せてみる。

では、逆に制約を設けることはありますか?

クラーク:いやあまりない。それはしないようにしている。

オリジナルのトラックを作るときと、リミックス・ワークの最大の違いはどこにありますか? さきほどの質問とは逆に、リミックスだからできることってありますか?

クラーク:リミックスの方がずっと解放的になれる。アルバムに取り組むほど真剣に取り組まなくていいからね。普段だったら探求しようとしないようなアイディアを、リミックスで探求することができる。だけど、リミックスは大抵1週間くらいの締め切りがあるから、早く仕上げなければいけないというプレッシャーもある。

そんなに早いんですか。

クラーク:そう。だから自分の腕を試す良い試験のようなものだよ。アルバムの音楽を作っているときは、その制作活動を続けていればいい。それがどれだけかかってもいい......何年かかってもいいんだ。だからタイトな締め切りがあるのも良いことだと思う。だけど、マッシヴ・アタックのリミックスにはとても時間がかかって結局仕上げるまで3カ月かかった。とにかく時間がかかったんだ。なぜかはわからないけど。トラックはシンプルなんだけど、バージョンが5つくらいできてしまって、そこからが大変だった。

さきほどの質問とは逆に、リミックスだからできることってありますか?

クラーク:あるよ。リミックスする曲には他のアーティストの声が入っている。それを扱うことができるんだ。あと、原曲をどのようにして自分のサウンドにしていくか。どのように自分の音の特徴を加えるか、という醍醐味がある。ここに収録されているリミックス曲からも僕のスタイルを聴き取ることができると思う。

とくに印象に残っているトラックがあれば教えてください。

クラーク:1枚目に入っているDMスティスの曲はとても気に入っている。彼は素晴らしい声の持ち主だと思う。僕は彼のヴォーカルをいじったり、いろいろ操作するのに何時間も費やしたよ。彼とはリミックスについていい話もできたし、彼もこのアイディアに賛成してくれた。よい経験だったよ。とても楽しくリミックスができた。

リミックスをやってみたいアーティストはいますか?

クラーク:いつかビビオのリミックスをやってみたいね。彼には借りがある気がするしね。ネイサンも同様。あ、でもネイサンのリミックスはアルバムに入ってるね。あれは結構前にリミックスしたものだ。ほかにはレディオヘッド、モグワイなどやったら面白いと思う。

じつにさまざまなジャンルの、ヴァラエティ豊かなラインアップになっていることで、あなたの自由な立ち位置が表れていると思うのですが、あなた自身はどこかに属しているという意識はありますか?

クラーク:属しているという意識はあまりない。このアルバムにはアコースティックな要素も結構入っているから、アルバムを通してさまざまなスタイルが聞こえてくると思う。だからどこかに属しているという感じはとくにないね。

では、共感できるアーティストはいますか?

クラーク:もちろん。オープンな考え方で音楽に取り組めるひと。そういうひとだったら誰でも共感できる。特定のことを求めるのではなく、オープンな考えを持って音楽に取り組んでいるひと。

アートワークが面白いですけど、あれはどういったところから出てきたアイディアなのでしょう?

クラーク:僕がガールフレンドとオーストラリアから帰る途中に、彼女が雑誌を買ったんだ。その雑誌にアルマ・ヘイサという写真家の作品が載っていた。でも、フランクフルトから電車で帰るという経路をもう少しで選ばないところだったんだ。別のフライトで帰ろうと思っていた。だから、駅であの雑誌を買っていなければ、このアートワークは実現していなかっただろうね。だから偶然だった。そして、マネージャーに彼女に連絡を取ってもらった。
 彼女の作品は本当に素晴らしいと思う。画質がブリーチされたというかフラットな感じがする。とても好きだ。それから折り紙のようなイメージ。僕の音楽に対するアプローチにとても合っている気がする。複雑で何重もの層になっているところなんかがね。アルマはドイツ人の写真家だ。いま、住んでいるのはロンドンかな。

ここ数年では、やはり『イラデルフィック』が大きな分岐点であったと思うのですが、このリミックス集を出したことが、今後のあなたのキャリアや作品に影響することはありそうですか?

クラーク:これからはバンドとのコラボレーションをたくさんやっていきたいと思っている。リミックスは、ある意味、コラボレーションの機会を増やすための扉を開けてくれるようなものだと思っている。リミックスができるということは、ほかのひととも仕事ができるという意味だから。今後はバンドとたくさん仕事をしていきたい。だからこのリリースは、その方向に向けての第一歩と言えるかもしれない。

もっとアコースティックというか生演奏の音楽と関わっていきたいということでしょうか?

クラーク:そのとおり。リミックスをするのは、それに向けての第一歩のようなものだ。

恐らくここに収められたリミックス・トラックも例に漏れず、あなたはとにかく作曲をし続けていることで知られていますが、その原動力はいったいどこからやって来るのでしょうか?

クラーク:何かを作っていないと落ち着かない、ソワソワした感じと、自分を前へ進めて制作するという気持ちがつねにあるんだ。はっきりとはよく分からない。でも僕にとって創作活動とは自然にそういう風になっている。

では、つねにアイディアで溢れているという感じですか?

クラーク:まあ、そうだね。だけどそのアイディアは常により良いものへと進化させていかなければならない。だから同時にたくさんのアイディアを捨てるということもしている。すべてが良いものとは限らないから。アイディアはつねに更新され発展され続けなければいけない。だから修正作業がたくさんある。修正の繰り返しだよ。

Iron & Wine - ele-king

 今年の爆音映画祭はメインがマイケル・チミノ特集であったから、中学生のときの僕のヒーローだったロバート・デ・ニーロが若々しい『ディア・ハンター』をはじめて映画館で観ることができた。むろん映画は素晴らしかった、が、それとは別のところで妙に感慨深かったのは、そこで描かれているような鹿狩りをする男たちがいまだにアメリカの田舎にはたくさん......とまではいかなくても、一定数いることに気づかされたことだった。そう言えばボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンはコネティカット州での銃乱射事件のあと、遺憾の意を示しながらも、自分は自分が属する狩猟文化を、そのコミュニティを捨てられないともこぼしていた。『ディア・ハンター』はヴェトナム戦争によって瓦解する男たちの絆とそのコミュニティを描いていたが、しかしそこで描かれていたような70年代やそれ以前の続きをいまも生きている人びともたしかにいるのだ。
 アイアン&ワインもまた音楽的な意味において、あるいは表現する風景においても、70年代の続きのアメリカを生きているようだ。彼、サム・ビームの歌う歌には生きた動物が登場し、月と星が空にかかり、草が生い茂り風がそよいでいる。古きよき、と言うよりは時代の変化すら飲み込んでそこに厳然と残り続ける自然と、それを前にした叙情を見つめ続けている。

 サム・ビームのように生きられたら......『ele-king vol.10』の部屋聴きチルアウトのディスクを選びながら、僕はぼんやりと考えていた。チルアウトのためにフォーク・アルバムを探していたのは、せわしい毎日を忘れさせるような行ったことのない雄大な風景を幻視したいからだ。考えてみてほしい......あごヒゲをあんなにも生やしたビジネスマンがどこにいるだろう。そう、彼はボヘミアンだ。妻と5人の娘に囲まれながら、ギターを弾き、絵を描き、詩を書いて、優しく歌っている。あんな風に生きられたら、と思うのはもちろん前提としてそれができない現実の日々が目の前にあるからだが、だけど、それが絶対に不可能だなんてどうして言い切れるのだろう。アイアン&ワインの音楽のどこかあっけらかんとした「漂泊感」は、いつだってそこに行けるのではないかと思わせるような風通しの良さがある。

 5作目となる『ゴースト・オン・ゴースト』はアコースティック・ギターによるフォーク・ミュージックと言うよりは、もはやジャズ・アルバムであり、前作の方向性を推し進めた極めてアダルトな内容となっている。上品にエッセンスになるAORや70sソウル。"ザ・デザート・バブラー"や"ニュー・メキシコズ・ノー・ブリーズ"の涼風のようなコーラスとストリング・アレンジの洗練はどうだろう。もしくは、"ラヴァーズ・レヴォリューション"のアーバンなジャズ・インプロヴィゼーション。たしかに出世作『アワ・エンドレスナンバード・デイズ』のようにそこはかとなく漂う危うさはもうないし、すっかり落ち着いてしまったと感じるファンもいるにはいるだろう。

 けれども、根本的なところで彼は何も変わっていないのではないか、とも思う。いや、たしかにモチーフとして年を重ねていくことの責任がより目立つようになっていて、それが音の変化に表れたとも読み取れるかもしれない。ラスト・トラックの得意のスウィートなバラード"ベイビー・センター・ステージ"は明らかに、子どもたちやを家族を守りながら生きていく決意についての歌だ。だが、その相手は社会システムでも時代でもなく、ハリケーンなのだ。この自然のなかで生きていくこと。物悲しいメロディを持ち、「12月の雪のミルウォーキー」を歌う"ウィンターズ・プレイヤーズ"も出色だが、ベストは甘く切ないコーラスが空間を満たすジャジー・ソウル"グラス・ウィドウズ"だろうか。「僕らは木々の間で風に吹かれてお互いを見つけたんだ/欠けてゆく月は海に飲み込まれたがっていたよね/まるでようやくこの世界の色を目にしたように」......。

 アイアン&ワインの歌にはスマートフォンの小さい画面もなく、インターネットもSNSもない。その時代錯誤感が、いいことなのか悪いことなのかは僕にはわからない。けっして「現代的」ではないだろう、が、この歌は遠い場所の美しい風景を目の前に出現させる。それはひょっとしたら、この窮屈な毎日からふっと抜け出すヒントになるのかもしれない。
 春に出たアルバムだが、この夏の終わりにこそ情感豊かに染み入ってくる。

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