「Nothing」と一致するもの

Babyshambles - ele-king

 言うべきことはとくにない。というか、われわれにとって用があるのはベイビーシャンブルズやそのn番めのアルバムではなく、ピート・ドハーティその人ではないだろうか。彼、彼のありかた、彼の物語。われわれが欲するのはそういうものであり、そういうものを提供できることが、彼をポップ・スターにしている条件だ。そしてそのひとつひとつを類なき歌と音楽に変えられるというところが彼の業である。下津光史やガールズのクリストファー・オウエンスと比較すればわかりやすいかもしれない(下津にはおそらく直接的な影響があるだろう)。それは削り節のように生身から歌(あり方・生き方)を剥がしていく行為であって、もう10年以上も肉を剥がしつづけ、なお求められるピート・ドハーティという人は、よっぽどの削り節である。彼があるところに歌がある。歌が服を着て歩いている。慈善でも身過ぎ世過ぎでもない、あるがままそのように生きている彼を、われわれは2013年も見つめている。

 あるがままに在るという自由さ。それはあるがままにしか在ることができないという不自由さでもある......この統合されることのない自由のパラドクスが、ピート・ドハーティに魅力的な影を加えている。彼が動くさまを見ていると、筆者のごとき並の人間には自由も不自由もないのだと思われてくる。本来それらは、並の生には触れることのできないような、とても激しく過酷な言葉なのではないかと。絶え間なく供給されるゴシップ記事、積み重なる逮捕歴、解散再結成をめぐるドタバタ劇。彼の自由と不自由が引き寄せる悲喜交々は、だからこそ多くの人々にドラマを分け与えてきた。ひとつひとつの事件が持つ派手さのためではなく、その苛烈な自由さのために。
 ジェイク・バグが「冷静」であり(野田)、アークティック・モンキーズがわざわざロカビリーっぽいスタイルをキメて21世紀におけるロックンロールの可能性と不可能性をクリティカルにあぶり出している傍らでは、もしかするとそれはずいぶんと古くさく、滑稽なことに映るかもしれない。しかし2000年代を通じて、何かを好きになったり共感したりするたびに「それは○○の縮小版焼き直しだ」と言われつづけてきたわれわれにとって、ドハーティの存在には度外れの忘れがたさがある。『リバティーンズ革命』でカール・バラーに支えられてやっと立っていたあの写真に胸を打たれるとき、われわれは一見彼がどんなに記号的なロック・レジェンドのクリシェに見えようとも、縮小版や焼き直しの時間を生きているわけではないということを知る。彼しか彼を自由にできない。彼しか彼の生を真似ることができない。誰もドハーティのように生き、歌うことはできない。彼にはなれなくてもそれはわれわれの個別的な生を勇気づける。

 ベイビー・シャンブルズの、6年ぶりのフル・アルバム『シークエル・トゥ・ザ・プリクエル』がリリースされた。そういうわけだからもちろん世相もシーンの変遷も関係のない作品で、ただただ頭から尾まで削り節のようにピート・ドハーティである。彼のいるところに彼の音楽あり。ゆえに彼が歌うたびに彼の音楽は新しく生まれなおす。その意味ではふるいも新しいも、進化も後退もない。千鳥足のフォーク・ナンバーからパンク、レゲエ、スカ、ひと揃いあるが、とりたててジャンルを研磨・更新するようなものでもない。個人的にはリバティーンズのようにガレージ感をラフでソリッドに切り出すプロダクションが好みだけれども、必須条件ではない。はじまったらただその歌に耳を傾ければよい、というシンプルな音楽だ。

 ただし、タイトル曲"シークエル・トゥ・ザ・プリクエル"において彼は「俺達にはセリフがもう一行必要だ」と付け加える。そして、いまは「その前編の続編」だとも。あくまで歌の一節だから、逐一彼の生き方に結びつけて語ることはできないけれども、その「もう一行のセリフ」というやつが見つかったときにおそらく彼の物語は完結するのだろう。というか、われわれもみなその「もう一行のセリフ」を補うべく生きているのかもしれない。ドハーティの生をわれわれの生につなぐ、強い普遍性を持った言葉である。そしていまはその半分。彼が完結させられないでいるものというのは、もしかするとリバティーンズのことかもしれない。それを終わらせる前編としてのベイビーシャンブルズ、6年をあけてのその後半。......図式的にすぎるだろうか? しかしさらにこの後に後半戦をイメージしているとすれば、まだまだ長い旅になりそうだ。ピート・ドハーティがその決定的な一行を得るときが、彼が擦り切れてしまうときでなければいいと思う。

CHICANO BATMAN JAPAN TOUR - ele-king

 "ラ・サモアーナ"という曲がたまらない。「この間、アパートで彼女を見かけた。この間、見かけた彼女にボーッとなっちまった。熱いハートでアイロンかけて、熱いハートでスープを作っていた。褐色の肌が愛しくてたまらない......(省略)......きれいなサモアの彼女にハートが熱くなってるから、きれいなサモアの彼女がソンを歌っていたから」(アルバム『チカーノ・バットマン』から。歌詞対訳:霜村由美子)
 チカーノ・バットマンは4人の移民の2世らが中心になってロサンゼルスで結成されたロック・バンドだ。バリオと呼ばれるラティーノたちのコミュニティのなかで活動を開始。コンボ・オルガンを多用した昔のガレージ・ロック風サウンドと、スペイン語で歌われる耽美的な歌詞の組み合わせは、民族・文化に対して高い意識をもつイースト・ロサンゼルスの住人たちのハートにじわじわと浸透していった。ここ数カ月は、そんな噂がバリオの外にも溢れだして、有名なカルチャー系メディアにもしばしば登場するようになってきた。あの『WAX POETICS』電子版でのロング・インタヴュー掲載、またロサンゼルス最大の独立TV局、KCETでも映像が流れた。ロサンゼルス中のヴェニューやイベントからも引っ張りだこで、去る10月5日には、あのパンク・ロック界の伝説、マイク・ワッツのバンドとの共演イベントまで実現させてしまった。いまやロサンゼルスでバットマンと言えば、彼らのことなのだ。
 しかし、そんなことに驚いていては、ロサンゼルスで現実に起きていることへの無知を曝け出すようなことになる。なぜなら、彼の地の人口の半分は、いまやメキシコ系を多数とするラティーノたち。中南米系というエスニシティは、もはやマジョリティを意味しているのである。英語世代のラティーノ系バンドのプレゼンスは、いまや爆発寸前なのだ。しかし、その出自は余りに複雑で、エスニシティのなかに、さらに多様なエスニシティが創成されている。メキシコ系なのか、他の中米出身なのか。アメリカ生まれなのか、移住してきたのか。バイリンガルなのか、英語だけなのか......などなど。80年代までは、ロサンゼルスの郊外に小さく散らばっていたバリオは一気に増殖、いつの間にか街全体がラティーノたちの住宅地になったような地域も沢山出現している。21年前にLA暴動で破壊されたサウス・セントラルも、いまやスペイン語が溢れるラテン・ゲットーだ。

 そんなカオスのような状況のなかで、敢えてチカーノという言葉を持ち出してきた彼らは相当の確信犯でもある。チカーノとは、メキシコ系アメリカ人を自己肯定的に捉えた言葉であるが、もとともと60~70年代の公民権運動の体験のなかで、民族の誇りとともに使われはじめた政治的な意味合いを強くもつ。しかし、時代の経過のなかで、チカーノという言葉に対するコミュニティ全体の感覚も随分と薄弱になってしまった。そんな言葉を持ち出さなくても、いまのロサンゼルスでは普通に暮らしていけるようになったのだ。
 彼らのアイコンも見て欲しい。逆三角形のマークは、チカーノ公民権運動の旗手でもあるセッサル・チャベス率いた農業労働者組合であるUFWのマークを模倣したもの。バリオで長年暮らしてきた年配者には熱き時代を喚起させる政治的なアイコンでもある。バットマンのイメージとシリアスな政治アイコンを融合させた毒とユーモアは、彼らのレイドバックしたレトロ風のサウンドにも当然通底している。
 長尺のスロー・テンポで展開される前述の"ラ・サモアーナ"は、メンバーの父親が経験した実話を題材にしているという。メキシコから移民して来た男が、同じアパートで暮らすサモア人の女の子に惚れるというストーリーだ。舞台は、ロサンゼルス郊外にある安アパート。遂にデートへと出掛けたふたりはバーでダンスに興じようとする。歌詞がそこまでを綴ると、歌は引っ込んで、古いワルツのようなリズムとファジーなエレキ・ギターの哀愁を帯びたメロディが流れ出す。ふたりが踊るシーンをファンタジーに描く美しい間奏。聴く度にグッとくる。
 彼らの音に夢中になる新世代の若者たちは、そんな世界をどこかおぼろげに憶えているに違いない。移民が急増し始めた70~80年代のロサンゼルスの郊外に広がるバリオの日常風景。ガレージ・ロック風と書いたコンボ・オルガンが鳴るサウンドも、実は当時の移民者たちを夢中にさせていたグルペーラと呼ばれるメキシコ~南米のグループ・サウンズを忠実に現代に甦らせたものだ。ロス・ブッキス、ロス・アンヘロス・ネグロス、ロス・ヨニックス......こうしたバンドは、決してメインストリームには出てこなかったが、バリオで必死にアメリカン・ドリームを追う移民者たちのバックグラウンド・ミュージックだった。しかし、英語世代の若いチカーノたちからは殊更に評判が悪かった。それは国境の南側から移民者たちが持ち込んできたメキシコそのものだったのだ。
 あれから30年近くの時が過ぎ、ロサンゼルスに現れたチカーノ・バットマンは、オールド・スクールのタキシード・シャツと古のサウンドを持ち出して、もう一度チカーノたちの体験を音楽で語りはじめた。メンバーは全員80年代生まれ。インターネットと南米への旅の経験のなかで、ブラジルのカエターノ・ベローゾなどトロピカリーア運動の音や、自らのルーツのひとつであるコロンビアの土臭いクンビアなどと衝撃的な出会いを続けながら、バリオの中と外でのロサンゼルスの経験をエディットした上で、グルペーラという音楽の世界観に、ひとつの魅力を見出したのだ。実は、そんな体験そのものが、今のチカーノということなのだ。
 パンク、ファンク、ブラジル、グルペーラ、クンビア......複雑怪奇な音楽体験とバリオの日常を重ねるギミック溢れる音像の向こうに、未来のロサンゼルスが見えてくる。チカーノ・バットマンの来日(https://www.m-camp.net/chicanobatman.html )は間もなくだ。(宮田 信)

「ラ・サモアーナ」


「ホベン・ナビガンテ」


CHICANO BATMAN JAPAN TOUR 2013 SCHEDULE

Nov.8 (Fri) モーション・ブルー・ヨコハマ(横浜)
open 6:00pm / showtime 8:00pm
CHICANO BATMAN
DJ PaCo[TEARDROP ENT.]、DJ 七福[サケフェスプロジェクト、NEKIRIKI PRODUCTION]
TALK BOX:MK THE CiGAR[TEARDROP ENT.]DJ Shin Miyata[Barrio Gold Records]
自由席:4,000 BOX席:16,000+シートチャージ ¥6,000(4名様までご利用可能)
予約受付中
TEL: 045-226-1919
https://www.motionblue.co.jp/artists/chicano_batman/

Nov.9 (Sat) LIVE SALOON WANNABE'S(千葉)
start 7:30pm
LIVE : CHICANO BATMAN, YAWATA TRECE, SOLDIER
DJ : DADDY, HAMMER, SHIN MIYATA[Barrio Gold Records]
前売:3,500 当日:4,000 (1drink付)
予約受付中
TEL:043-248-7770 e-mail:info@wbsswapmeet.com
https://livesaloon.com/

Nov.11 (Mon) 月見ル君想フ(青山)
open 6:00pm / showtime 8:00pm
CHICANO BATMAN
Dance: Nourah, HAYATI / DJ: ヤマベケイジ[LOS APSON?]、ケペル木村
前売:3500 当日:4000 (1drink付)
予約受付中
TEL: 03-5474-8115
https://www.moonromantic.com/?p=16557
※こちらの公演のチケットは下記でも販売しております。
LOS APSON? TEL:03-6276-2508 https://www.losapson.net/
nifunifa TEL:03-6407-9920 https://nifunifa.jp/
大麻堂 TEL:03-5454-5880 https://www.taimado.com/
TRASMUNDO TEL:03-3324-1216

Nov.12 (Tue) LIVE SPACE CONPASS(大阪)
open 7:00pm / start 8:00pm
LIVE : CHICANO BATMAN、デグルチーニ
DJ: N.O.B.[Q-VO! RECORDS]、NAMBAMAN[TOMBOLA]
FOOD : CANTINA RIMA
前売:3000 当日:3500  (drink別) 
予約受付中
TEL: 06-6243-1666
https://conpass.jp/4658.html

Nov.13 (Wed) Boogie Man's Cafe POLEPOLE(福山)
open 6:30pm / start 7:30pm
前売:4500 当日:5000 (drink別)
予約受付中
チケット予約: TEL: 084-925-5004  e-mail: cafe_polepole@ybb.ne.jp
https://www.cafe-polepole.com/

チケット予約は各会場へお問い合わせください。
TOUR INFORMATION: https://www.m-camp.net/chicanobatman.html
ツアーに関するお問い合わせ:MUSIC CAMP, Inc.
TEL: 042-498-7531  e-mail: info@m-camp.net (担当:宮田)


CHICANO BATMAN DISCOGRAPHY

1st Album
"CHICANO BATMAN"(2009)
BG-5115
詳細→https://www.m-camp.net/

EP
"JOVEN NAVEGANTE" (2012)
BG-5129
詳細→https://www.m-camp.net/

Distributed by MUSIC CAMP, Inc. www.m-camp


Mazzy Star - ele-king

 駄作だろうと秀作だろうと作品さえ出れば聴く、そういうアーティストは稀にいるが、マジー・スターはそのひとつ。ホープ・サンドヴァルの声があり、デイヴィッド・ロバックのギターがある。まあ、筆者にとってはホープ・サンドヴァルの声さえあればいいのだが、ロバックのチョーキングとビブラート、そしてアコースティック・ギターの音色は、なんかもうマンネリというより、ひとつのトレードマークにもなっている。
 マジー・スターのデビューは1990年、UKではセカンド・サマー・オブ・ラヴの余韻が充分にあって、同年ストーン・ローゼズがスパイクアイランドでライヴをやったときは「サード・サマー・オブ・ラヴ」などとメディアが囃し立てたり、とにかくそんな太陽と愛とダンスの季節である。
 そして、ファースト・サマー・オブ・ラヴでは賑わったであろうアメリカ西海岸の彼らの孤独と影は、ダンスから離れ、実にかったるそうな曲調とともに時代のなかで異質な光沢を帯びていた。バンドは3枚の美しいアルバムを残して活動休止しているが、その後ジーザス&メリー・チェインやケミカル・ブラザースの作品にヴォーカリストとして招かれたサンドヴァルは、2001年に素晴らしいソロ・アルバムを発表している。
 ペンタングルのオリジナル・メンバーだったバート・ヤンシュ(ジミー・ペイジも影響されたスコットランドのギタリスト)が参加したそのアルバム『バーバリアン・フルート・ブレッド』を筆者はいちばん好んでいる。当時のフォーク・リヴァイヴァルというよりも、ライ・クーダーをさらにもう一段ストーンさせたような、青白い美しさはいまでもまったく色あせていない。何にもやる気のでない日に聴いたら最高の1枚だし、何にもやる気のでないことを肯定する音楽としてはずいぶんエレガントだ。バックの演奏も良いが、サンドヴァルの歌声が他に類を見ないほど魅力的だからである。
 サンドヴァルは、それからデス・イン・ヴェガスやマッシヴ・アタックの作品にも参加している。人気は衰えるどころかじわじわゆっくり上昇し、寡作であるのにかかわらず年々ファンを増やしているように思う。2009年には2枚目のソロ・アルバムを地味~に出しているが、商売っ気のなさは彼女のヴォーカリゼーションの気怠さの品性を補完している。勝ち気でガツガツしているサンドヴァルなど想像できないし、かつてはその美貌っぷりでも知られた彼女だが、すでに隠者の風格すら感じる。
 『シーズンズ・オブ・ユア・デイ』は、マジー・スターとしては17年ぶりの通算4枚目のアルバムで、またもやバート・ヤンシュをはじめとする数人のギタリストが参加している。何も変わっていない。サッカーには「勝っているときには変えるな」という格言があるが、彼らも変わらなくていいのだ。マジー・スターは最初から最高だったし、最初から怠惰な日々の輝ける栄光だった。甘美さも変わっちゃいないが、ロバックのギターが研磨されている気がする。アコースティックの度合いは増して、"低く飛ぶ"という、いかにマジー・スターらしい曲名の最後のブルース・ナンバーにおけるスライドギターは聴き所のひとつとなっている。まあ、筆者にとってはサンドヴァルの声さえあればいいのだが。
 何にもやる気が出ないのは、夢を見れないからではない。マジー・スターはどう考えても、静かに夢見る音楽なのである。日々こんなにもドリーミーでいいんでしょうか。かつてトム・ヴァーレインはこう歌った。「夢は夢見る者を夢見る」と。ビーチハウスの3枚目のアルバムが好きな人は聴いて損はない。

Kelela - ele-king

 いわく「チルウェイヴとソウルとの出会い」......チル&ビー、フューチャーR&B、エーテルR&B、インディR&B(ライはメジャーだが)、エクスペリメンタルR&B......等々、呼び名はいろいろあれど、猫も杓子もR&Bなご時世であることに間違いはない。アリーヤとティバランドの遺産は、今日、ドレイクを経由して、ウィークエンド、フランク・オーシャン、ハウ・トゥ・ドレス・ウェル、オウト・ヌ・ヴ~へと受け継がれ、更新され、拡張されている。クラムス・カジノはザ・ウィークエンドに曲を提供し、〈ハイパーダブ〉もR&Bに着手する。
 で、ポスト・アリーヤの座にいまもっとも近いのが、先日〈フェイド・トゥ・マインド〉のパーティで来日したケレラである。本サイトのインクのインタヴューでも彼女の名前は出ているが、キングダム"Bank Head"でフックアップされている彼女のデビュー・ミックステープには、Nguzunguzuからジャム・シティ、ボクボクにガール・ユニットなど、〈ナイト・スラッグス〉一派の錚々たる顔ぶれが揃っている。ダウンロード・イット!

 アリーヤとティバランドは実験的な態度で作品に臨みながら、しかしバカ売れしている。先日〈ハイパーダブ〉からデビュー・アルバムを出したジェシー・ランザも、カリブーのレーベルから作品を出しているジェレミー・グリースパンのトラックで歌っているポスト・アリーヤのひとりだ。彼女がインディR&Bという言葉を好まないのは、それがR&Bの可能性を限定しているからに他ならない。アリーヤは大メジャーだった。ケレラもジェシー・ランザも精鋭的なトラックメイカーを起用しながら、ポップスとしてのR&Bに挑戦している。〈フェイド・トゥ・マインド〉のパーティに橋元を強引に連れて行った甲斐があったというものだ。
 ケレラやジェレミー・グリースパンだではない。オッド・フューチャーのシド・ザ・キッドにも注目だし、他にもLAのキッドA、オークランドのフロ・フィニスター、RZAをもじったSZAといった新人にも注目が集まっている。

Sound Patrol - ele-king

FKA twigs - Water Me


 顔が似ているからだろう、明らかにツィギーを縮めたネーミングで、セカンド・シングルからは「旧」を表すFKA(=Formelly known as)という3文字が加わった。基本的にはマッシヴ・アタックやポーティスヘッドを受け継ぐ存在と言われ、大半の曲は確かにそうなんだけど、Bサイドに収録されていた"ウォーター・ミー"が別な意味でとにかく素晴らしい。ユーチューブの再生回数も他の曲を遥かに上回っている。これは、穿って言えば、メデリン・マーキーの試みをコマーシャルなモードへと移し変えたもので、実際に『セント』を聴いてインスパイアされたものではないだろうか(共同プロデューサーのアーカは過去にアンビエント・タイプのヒップ・ホップ・アルバムをリリースしているので、独自にたどり着いた可能性も高い→https://www.youtube.com/watch?v=1FLFnmv1wWI)。東京オリンピックのこともあるし、亡くなられた木村恒久氏が奥さんのことを「ツィギー」と呼んでいたことを思い出す(マリー・クァントをモチーフにしたらしきヴィデオは視聴制限がかかっている)。DLコードを印刷したインナーのデザインがまたオシャレ。

R&B

Jameszoo - The Clumtwins - Water Me


 アムステルダムから脱力系グリッチ・ホップの4作目。ダブステップ以降のTTCというか、ギャグが決まらないエイフェックス・ツインというか、いつも真剣にフザけていて、テンションが上がれば上がるほど悲しみが滲み出るタイプ。あるいは笑いと悲しみが極端に分離したかと思うと、一気に融合したりして、外れも多いけど、面白いときはホントに面白いので、ついつい、追っかけてしまい......。とはいえ、ジャズを扱うセンスも充分にあったりして、なにもかもが複雑すぎるので、こういう人は絶対に売れないと思っていたら、昨年末にフライング・ロータスと意気投合したようで......(どうなるんでしょう?)。

AbstractDubstep

Curt Crackrach - Alice Dee feat. Nikhil Singh and Carmen Incarnadine


 ナッティマリの変名によるデビュー・アルバムから12分を越すダブ・ヴァージョンを。春ぐらいにジェシー・ルインズがチャートでアルバム・ヴァージョンを紹介していましたけど(https://www.youtube.com/watch?v=pVz1HSBUU6w)、いや、しかし、ここまでやるかというほどトリップさせてくれる。それに関してはまったく妥協がない。といっても、最初に目を引くのは映像で、ふらふらと街をうろつくアリスが心配で、結果がわかってからも何度も観てしまいました(基本的には音が気持ちいいからだけど)。いつもクラブで友だちの介抱役になってしまう人ほど楽しめるのか、それとも、その逆なのか。ドラッグ・カルチャーって友だちとの距離感を再認識させてくれますよねw。これは、しかし、12インチでリリースされないのかなー。

Dub

E + E - Elysian Dream


 工藤キキがNYから「この人は最高!」とリポートしていた〈フェイド・トゥ・マインド〉のDJ、トータル・フリーダムが昨年末に(新曲だけで)コンパイルした『ブラスティング・ヴォイス』(ティーンエイジ・ティアドロップ)で、最もユニークだと感じられた曲(トータル・フリーダム自身はドラム・ソロ!)。ドローンとR&Bが過不足なく接点を探ったような曲で、E + E ことイーライジャ・クランプトンはサウンドクラウドも抹消してしまったようで、現代音楽かと思えばクンビアと、まったく正体がつかめません。この1曲を聴くだけです。......それにしても、これはなんなんだろう? リクレイム・ザ・ストリートの仲間?→https://www.youtube.com/watch?v=9IUA3FbHBlY

ExperimentalDroneRnB

Jar Moff - Tziaitzomanasou


 経済が逼迫したからか、それとも、その危機感を脱したからか、大挙して様々なジャンルのミュージシャンが飛び出してきたギリシャからアンディ・ストットへのアンサー。エッジがキレいに処理され、鉄鎚感にもストレートには訴えないインダストリアルの変り種はケイヒンにも倉本くんにも支持されないだろうが、マシュウデイヴィッドの〈リーヴィング〉を経て〈パン〉からリリースされたミニ・アルバム『コマーシャル・マウス』では松村くん好みのレコメン系スキルが種々雑多に取り入れられ、聴き応えがあるなんてものじゃない完成度。日本でも黒沢清が浮上してきたのは不況がどん底と言われた時期だったし、経済危機にもなってみるものかも。

industrial

Wrekmeister Harmonies - You've Always Meant So Much To Me


 〈スリル・ジョッキー〉がドゥーム・メタル! それだけで聴きたくなりましたよね。探してみたらユーチューブにフル・アルバムで上がってるし。もうちょっと短いやつは意味がさっぱりわからなかった......→https://www.youtube.com/watch?v=5OcTy05Gn18

Doom Metal

Andy Kolwes - Walk To The moon


まー、最後はまったりとディープ・ハウスで。

Deep House

interview with SEINO EIICHI - ele-king


清野-栄一
ブラック・ダラー

双葉社

Amazon

 ハイボールと向精神薬を飲みながら、レゲエが聞こえるガーナの海岸に佇む日本人医師を想像しよう。アメリカでは金融危機が起きて、投機マネーがサハラ砂漠を渡る。Eメールは傍受され、情報は無限に拡散する。20年前に東南アジアの海辺のレイヴや欧州のフェスを巡ったバックパッカーは、いまウィキリークスよろしく国際金融資本の闇について話しはじめる。清野栄一は、有閑マダムと早熟な高校生が溜まっている世田谷区の昼下がりのファミレスで、大きな声で口を休めることなく、投機マネーやマネー・ロンダリングの説明を続ける。利益と金とコカイン。それは誰もが勝ち目のないゲームに駆り出された世界の寓話のようだ。
 彼の処女作である『レイヴ・トラヴェラー』は、ちょうど日本でトランスや野外レイヴが加速的に拡大した時期に刊行されたこともあって、多くの読者にレイヴの3文字を叩き込み、多くの読者をバックパッカーに変えている。いまだに夏になると売れているというが、考えてみれば、初版からすでに16年の歳月が流れているのだ。レイヴに人生を変えられた人たちも等しく16年経っている。
 清野栄一の新作『ブラック・ダラー』は、アフリカのガーナを舞台としながら、その海辺とサウンドシステムを描写しつつ、しかし、訪れたひとりの日本人青年が不条理な運命に巻き込まれる恐怖を描いている。新自由主義とネットの普及以降の、複数のレイヤーに渡って変わりゆくこの世界で、ボブ・マーリーやストゥージズの音楽はいまもリアルに響くのだろうか。福島出身の小説家は、昼間からハイボールを手にして彼の経済への興味やアフリカ体験について、『レイヴ・トラヴェラー』と対をなすかのような『ブラック・ダラー』について語ってくれた。

震災後の反原発運動には、どこか違和感があって。福島でデモなんて見たことないもの。この先数百年ぐらいはたぶんどうしようもない。でも、うちの親父なんか逃げるつもりなどハナからないし、自営業の友だちもたくさんいる。それは、不条理極まりない日常を生きてくということだから。

よく練られたプロットで、びっくりしたよ(笑)。

清野:でも、わりとするっと読めるでしょ?

いやいや、これは俺の教養の問題として、国際金融とか陰謀論とかアンダーグラウンド・ビジネスに関する知識があまりに欠如しているので、前半は読むのに苦労したんだけど、後半はいっきに読めたかな。

清野:後半は物語のスピードも上がるから。

面白かったし、いろいろと思うところがあったんだけど、清野栄一がこれを書いたことが、まずは興味深いよね。

清野:けっこうそう言われますね。

クライム・ノベルと謳ってはいるものの......、小説読む前にさ、清野さんと会うと、「アフリカ行って来たぞ」ってうるさかったからさ(笑)。「レイヴ・トラヴェラーがアフリカに行く」みたいなね、そんな簡単なイメージで考えていたんだけど。

清野:たしかに、そういう面もありますよ。

でも、実際はもっと多層的だよね。いろんなトピックがあって。

清野:『レイヴ・トラヴェラー』も『ブラック・ダラー』も、大きい枠で言えば、いまの世の中がどうなのかってことだから。

いくつかトピックがあって、アフリカ、国際金融、ファンド、闇社会、インターネット、それからドラッグ(笑)......そうそう、とくに面白かったことのひとつというか、今回の重要なトリックとして、パスポートとドラッグのトリップを重ねているところあがあるじゃん。あれ、良かったね。日本を離れて海外居住者となったときのアイデンティティの問題があってさ、あれは見事だった。

清野:それで最後に主人公が下手打つんですけどね(笑)。

はははは。

清野:日本は二重国籍を認めていない国なんですよ。でも、実際にはたくさんいて、持っててもバレなければいい。日本国籍は難易度高いんで、捨てずに持ってる人が多いみたい。

で、偽装パスポートというのが面白いメタファーになってるんだけど、いろいろありながら、『ブラック・ダラー』が描いているのは恐怖じゃない。あのくそロマンティックな『レイヴ・トラヴェラー』の対極だよね(笑)。

清野:言われてみればたしかに、陰と陽みたいな感じかな。

その恐怖にリアリティがあるっていうところがね。

清野:トラヴェラーにとっていちばん大事な持ち物って、パスポートでしょ(笑)。クレジットカードはどうとでもなるけど、パスポートがない! 再発行も偽造も無理だ! となったら、自分のアイデンティティや居場所を失うぐらいの大問題ですよ。

そもそも、なんで、ガーナを舞台にした、こんなバッド・トリップ小説を描きたいと思ったの? 『レイヴ・トラヴェラー』がグッド・トリップだとしたらこちらはバッドでしょ。装丁のこの黒さが仄めかしているよね。やっぱ、清野さんの読者の多くはさ、あのくそロマンティックな『レイヴ・トラヴェラー』から入ってるじゃない? ものすごくそこが知りたいところだと思うよ。ヒッピーな島生活じゃなく、このえげつないマネー・ロンダリングがおこなわれているハードなアフリカを選んだ理由をさ。

清野:国際金融資本の問題とか、ウィキリークス的なこととか?

ウィキリークス的な内容だよね。

清野:四年前に『テクノフォビア』っていう小説を書いたんですが、カネと情報の問題って、アベノミクスの日本でもアメリカでもアフリカでも同じですよね。いま送ったメールが傍受されているかもしれないとか、三沢基地がアメリカのエシュロン(全世界盗聴システム)の拠点だったとか......パスポートの話もそうだけど、自分たちが常に晒されている問題だから。

レイヴからそこまで飛躍したっていうのがね。

清野:パーティも、フライヤーやネットという情報と、カネがないと無理じゃないですか。北京でガルニエのパーティに行ったら、エントランスの料金とか同じだったな。DJツアーも、金曜日が日本で、土曜日が中国や東南アジアとかあるらしいし。中国の経済もシャドウ・バンキング問題で崩壊寸前か、みたいに言われてるけど、ここはディズニーランドか! みたいなすごいところでガルニエがまわしてて(笑)。

おそらく『レイヴ・トラヴェラー』に感化された人は自分探しのほうに行ってしまうと思うよ。

清野:『ブラック・ダラー』の主人公も、最初は自分探しのためにガーナへ行くんですけが。

しかし、内省に惑溺することを許さない現実を叩きつけているじゃない。

清野:そうですね。自分を探そうとするほど、いかんともし難い現実に引きずり込まれていく。

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ブラックホール的な、ケオティックなアフリカ。ビジネスで荒稼ぎしてるのは外国人が多いみたいだしね。「パイナップルで一発あてた」とか(笑)。そこに金とダイヤモンドがあって、石油まで出たとなったら、詐欺師もマフィアも集まってくるでしょう。ODAの受け皿は日本のゼネコンだし。


清野-栄一
ブラック・ダラー

双葉社

Amazon

レイヴ・トラヴェラーを名乗った男が、いかんともしがたい現実を書きたいと思った所以は?

清野:四年前に交通事故に遭ったのも大きいかな。月に2回も(笑)。示談も進まないし、仕事もできないし、加害者には何も言えないし。そんなことしてる間に、実家の福島で原発どっか~んでしょ。小説って、他者について書くんだけど、現実には他者どころか自分でさえ思いのままにならないわけで。まして、世のなかをコントロールするなんて無理だと思うから。震災後の反原発運動には、どこか違和感があって。イラク戦争のときはトラック乗ってデモやってたけど(笑)。「じゃあ、実際、福島に行ってこいよ」というか。福島でデモなんて見たことないもの。この先数百年ぐらいはたぶんどうしようもない。でも、うちの親父なんか逃げるつもりなどハナからないし、自営業の友だちもたくさんいる。それは、不条理極まりない日常を生きてくということだから。震災後何度も福島と東京を往復してるけど、未来感メチャありますよ。

ちなみに主人公の岡崎は福島出身の医者ですからね。

清野:そもそもは、ブラック・ダラーの話を聞いて、これはただの詐欺話じゃないな、と思ったんです。そして調べていったら、マネー・ロンダリングに行き着いた。野口英世の死にまつわる謎や、ODAやAIDSウイルスの話も興味深かった。アメリカの市場に出回っている額と同じ額のドルが、アングラマネーとして流通してるとFRBは推測してて。毎年数えてるらしいんです。IMFによると、世界のGDPの2~5%にあたるカネがマネーロンダリングされてて。一国のGDP並みの規模ですよ。

IMFといえば、80年代は中南米にアプローチにしているし。ドラッグ戦争も起きているしね。

清野:ガーナにもIMFや日本のODAが投入さてますね。それで、面白そうだからとりあえず行ってみようと(笑)。たまたま日本人の友だちがいたっていうのもあるんですが。実際に行ってみたら、こら大変なところだなと(笑)。空港に着いたら真っ暗だし。

そこは小説と同じなんだね。

清野:そうそう。日本人の友だちから「夜なんで空港から絶対に出ないで待っててください」と言われて。彼はビーチハウスやってて、そういう知り合いがいたから良かったけど、まず泊まるところが、数百ドルの高級ホテルか、数ドルの売春宿みたいなところしかない。中間がほとんどないんですよ。普通の旅行っていうか、バックパッカーは無理ですね。

なるほどね。命知らずか金持ちしか行けないよね。

清野:そこまでじゃないけど(笑)。それで、ビーチに行ったら、どっかんどっかんサウンドシステムが鳴ってるわけ(笑)。友だちに聞いたら、ボブ・マーリーの妻のリタ・マーリーが近くに住んでて、地元の名士ですね。

アフリカン・ヘッドチャージも住んでいるって書いているね。

清野:行くまでまったく知らなくて。繁華街はクラックだらけだし。

コカインは小説で重要だけど、ガンジャに関する記述はないじゃない。

清野:「ヤーマン!」って挨拶で通じるかなと(笑)

ハハハハ。でも、『レイヴ・トラヴェラー』にとってのMDMAが『ブラック・ダラー』ではコカインとヘロインになっているじゃない。そこも時代を感じるよね。

清野:主人公が医者だし(笑)。後で調べたら、ヨーロッパで流通してるコカインの60~70%がガーナ経由らしく、コロンビア革命軍とイスラム系武装組織が手を結んだと報道されてて。

音楽的には繋がっているよね。アフリカで、キューバなどのラテン音楽って人気あるから。

清野:逆輸入みたいな感じですよね。ボブ・マーレーがなんでガーナに来たかというと、最初エチオピアに行って、そのあとアフリカ公演をして、ガーナにスタジオを作ったんですよ。政情や経済が安定してたってのもあるのかな。いちばん最初に独立した国だし、経済もそこそこしっかりしているし。

ナイジェリアは?

清野:行ったことないけど、ヤバイそうでしょ(笑)。モロッコとか北アフリカは何回かあるけど、あの辺は地中海諸国だから。サブサハラっていう、サハラ砂漠より南のアフリカに行くのはじめてで。この本書いてなかったら、行く機会もなかったと思う。

カルチャー・ショックだった?

清野:社会の構造がね、二重構造、三重構造というか。西アフリカでは数少ない議会制民主主義の国なのはたしかだけど、伝統的な部族社会も根強くて、土地はチーフが管理してたりする。いまだに大統領が決まると、チーフに会いに行くらしいし。そういうところにいると、ガーナに限らないけど、物事の基準がよくわからなくなってくるんですよ。詐欺にしろ音楽にしろ、日本でも起きていることが、もっと肥大化されて展開しているわけです。

アフリカはあくまで舞台として描かれているんだよね。アフリカへの甘いファンタジーのようなものは抑制されているでしょ。

清野:舞台というか、そこはあえて突き放して書きたかったので。実際には、ゲットーとか、面白かったですけどね(笑)。

「ヤーマン」なわけでしょ?

清野:もう、そこらじゅう(笑)。

レゲエの曲名を見出しに使っているけど、あれ、必要だった?

清野:実際に、それが日常だから。繁華街だけじゃなくて、ゲットーの小さなバーでも必ずスピーカーがあって、通りまでがんがんにレゲエとかダブ鳴をらしてる。

じゃあ、恐怖じゃなくて「ヤーマン」の話でも書けたわけだ(笑)。

清野:何十回かは出てくるんじゃないかな。ヤーマン(笑)。恐怖っていうより、チョイスかな。旅って、どこで食って寝てどこへ移動するかっていう、常にチョイスの連続じゃないですか。でも、チョイスがない状況っていうのが現実には多々あるわけで。昔、テルアビブの空港で、ヨルダンから陸路で入国したのがばれて、イスタンブール行きの飛行機に乗せてもらえなかったことがあって。「一回EUを経由しろ」と。まあ、いま考えるとそれなりの理由はあるんだけどね。カメラのレンズの中まで調べられるわ、大使館にも連絡できないわで、最終的には「カネがない」と開き直ったら、スイス・エアーのチケットくれたけど(笑)。いままで自分が書いてきた小説はチョイスがあるかないかってところが大きかったんだけど、今回は、チョイスなんてものがなくなった、その先の話を書きたかったんですよ。それは、恐怖だし、それでも生きてるってことだから。

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『レイヴ・トラヴェラー』からはじまった、ロード・ノベルって名付けたんですが、旅する小説ってヤツはこれで打ち止めかな。『ブラック・ダラー』には20世紀のダメなところが全部出ていると思うんだけど(笑)、石油、資源、金融、情報システム......。


清野-栄一
ブラック・ダラー

双葉社

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野口英世はなんで出したの?

清野:出てこないほうがへんでしょ(笑)。当時ノーベル賞候補だった野口は「黄熱秒は病原体でウイルスではない」という自説を証明するためにガーナへ行くんです。そして600頭もサルを解剖して、帰国する船の予約まで済ませた後に、黄熱病で亡くなった。「わたしにはわからない」という言葉を残して。黄熱病を患ったことがある野口は、病原体ならば黄熱病にかからないはずだと思っていたのか、自分の説を身をもって証明しようとしたのか、いろんな説があるけど、かなり追い詰められていたのは間違いない。その生き様の幻影として、主人公の父親像が浮かんできた。実際に、60年代末には福島医大がガーナに研究所を作って、ODA資金で野口研究所が設立さたんです。80年代にはアフリカで新種のHIVウィルスを発見して世界の注目を集めるんですが、「HIVの起源はアフリカだ」という通説に反するのは、いまでもタブーらしいんです。エイズには人種問題や同性愛問題が絡んでいるから。一方で、先進国の製薬会社が「医療援助」といいながらアフリカで新薬の治験をやってきたのは明かで、映画にもなってる。

そういうアフリカだよね、カオスというか。

清野:ですね。ブラックホール的な、ケオティックなアフリカ。でも、ガーナ人は保守的というか、ビジネスで荒稼ぎしてる外国人も多いしね。「パイナップルで一発あてた」とか(笑)。そこに金とダイヤモンドがあって、石油まで出たとなったら、詐欺師もマフィアも集まってくるでしょう。バブル時代のODAの受け皿は日本のゼネコンだったし。ガーナに限らず、ODA資金の1割から2割ぐらいは日本に環流されてるっていう報道もあるけど、どうなんだろう? でもまあ、ガーナは安定してるほうじゃないのかな。インフレが年間2億%とか、選挙の度にジェノサイドが起きるとか、とんでもない国もあるから。ガーナは二大政党制で、選挙は毎回接戦なんだけど、8年おきに大統領が入れ替わるところが、逆に不自然だけどね(笑)。

そのあたりは小説のなかにも出てくるよね。

清野:怪しい銀行とか(笑)。日本には投資銀行って法律上ないらしいんだけど、金融危機で破綻したリーマン・ブラザーズも、いわゆる普通の貯蓄銀行じゃなくて投資銀行ですよね。ヘッジファンドとかオフショアっていうと、海に囲まれた小さな島、みたいなイメージしかなかったけど、キャッシュフローでみたら、世界最大のオフショアはアメリカとロンドンのシティだという人もいて。アメリカの金融危機は、投資銀行が普通の貯蓄銀行を脅かすほど巨大になったのが原因だとも言われてるけど、ギリシャの財政破綻も、アベノミクスも、それは同じでしょう。

それで世界経済もダメージ受けるという。

清野:一国の経済を潰すほど巨額のカネが、複雑怪奇な金融システムを通じて、国境なしに世界を動きまわっている。それがいまの市場経済じゃないのかな。こんなに不安定な市場経済のシステムがこれほど長続きしてるのは、人間自身がそもそも、好んで損をするような不安定な生き物だからだと思って。だからって、それを否定できないどころか、自分もそのひとりだから。

やっぱ世界経済は今回のテーマのひとつなんだね。

清野:だって、そのまま毎日の生活に関わってくる話じゃないですか。こないだLA行ったら、スーパーでビール買ったりガソリン入れたりしながら、1ドル120円の頃は旅行も楽だったな、とか思いうわけですよ(笑)。

ハハハハ。ウォール街のデモとも通底する話ってことだよね。

清野:全然そういう意味で書いてるんですけど。ウォール街や反グロが表の経済だとしたら、裏の経済も当然巨大化や国際化してるわけで。マネー・ロンダリングっていうのはそもそも、現金、つまり足のついてないカネを、企業や個人の資産にするってことですよね。その第一段階が、金融システムへの「組入れ」で、今時銀行にいきなり大金預けたりしたらすぐにばれるから、辺鄙な国の銀行が使われるようになった。二段階目は二段階目は「分散」で、海外送金やトレードを繰り返す。三段階目が「回収」で、分散していたカネをまとまった資産としてベンチャー・キャピタルやヘッジファンドが投資する。これが最近の典型的なマネー・ロンダリングの手法らしいです。

ホント、今日は勉強になるよ。

清野:というか、普通の企業に似てるというか。ギリシャなんかは、国家ぐるみでヘッジファンドに注ぎ込んでたわけで(笑)。そういえば、ケニアのショッピングモールが襲われた事件があったけど、あそこも外国人がよく行くショッピングモールなわけじゃないですか。そうした、世のなかの基本になってる経済の歪みがいちばん出ているのがアフリカで、しかも最後の市場とまで言われているから。

えー、そうなの?

清野:それはそうでしょ。世界の企業にとっては、中国の急成長も終わったから、次はアフリカっだって。ガーナにも去年か一昨年にトヨタの工場ができたし。これから中間所得層ががっと増えると見込んでる。さっき、中間がないって言ったけど、セキュリティを確保して、普通に生活しようと思ったら、メチャカネがかかるんですよ。2週間以上いたけど、バックパッカーとは一度も会わなかったな。いるんだろうけど。

格差というか、ふたつの別の世界があるような。

清野:子供が日本の大学に行ってるガーナ人の親に、「卒業したらどっちの国で就職させるの」って訊いたら、「ガーナに決まっているでしょう。だって給料が全然高いから」って。でも、それはほんの一握りで、ゲットー暮らしは月百ドルぐらいだから。

なるほどねー。ところで、岡崎や大道にはモデルがいるの?

清野:岡崎はどちらかと言えば、僕に近いかも。大道はね......、たとえアンダーグラウンドの住人だろうが、そこにはアンダーグラウンドなりの一線というものがあって、表の社会でもマトモに生きていたりする。そういう意味では、悪人じゃない。極悪人のように描かれてるけど、言ってることは案外マトモだし、最終的には盗みも強請りもしていない。岡崎はロシアンルーレットの最後のひとりだから、これはもうノー・ウェイ・アウト(笑)。

はははは。どつぼはめられているよね(笑)。大道はいわゆる筋を通す人だけど、古いタイプの日本人をここで出したのは?

清野:それはたぶん、こういう人がいないからかな。アウトサイダーだけど、言ってることは正しいなっていうか。勝手に生きてるようだけど、筋を通すことを重んじるとか。ガキの頃にはそういう大人が近所に誰かいたと思うんですよね。ところが、民主党なんかはまさにそれが足りなかったというか、言ってることがブレまくって自爆したわけだから。

そういうところこにも清野栄一の批評があるんだね。では、コカインに関しては? これも現代を象徴するドラッグだよね。ドラッグを今回はすごくドライに描いているでしょ。冒頭にウィリアム・バロウズの引用があるけど、バロウズもドラッグを反ロマンティックに描いているわけだけど、『ブラック・ダラー』におけるドラッグの描き方も、そういう突き放した感じをだしているよね。それは何故?

清野:バロウズの引用は別な意味なんだけど......それで人生をダメにする人もいっぱいいるからね。

それを清野栄一が言うことは重要だよ。

清野:死ぬ人までいる。

だから、80年代から続いてきた快楽主義......、僕や清野さんの世代はもろにそれを受けてきているんだけど、そこにある意味では釘を刺しているところが良いなと思ったんだよね。

清野:釘を刺すというか......アイロニーですかね。アングラ・マネーと武装組織がうごめくブラックホールから流通してきたもので、舞い上がってパラダイスになってるという。

それから、岡崎が心療内科の医者っていうのも面白いよね。

清野:そうじゃないと、物語が進まないし(笑)。ある読者から、「心療内科の医者は執刀しないと思いますけど」と指摘されたけど。

たしかに(笑)。でも、そこは、向精神薬とうつ病というのも、今回の物語では要素のひとつだからね。

清野:それも今時身近なものじゃないのかな。タッピング療法とかもやってるから。

ああ、物語で重要な役目を果たしている。

清野:あれは本当にある心理療法を真似てるんですよ。

とにかく『ブラック・ダラー』は、アムスとアフリカを舞台にしながら、ストイックだよね。

清野:苛酷だけど、面白いところですよ。ビーチで爆音だし(笑)。ピースでフレンドリーな感じだし。ただし、その対極にあるものもすごいんですが。

ジェイムズ・エルロイの影響?

清野:いや、そこまでじゃないかな。ソリッドな文章にはしたかったですね。

見事な三部構成じゃないですか。

清野:連載当時はもっと長かったんですよ。単行本にするにあたって、かなり削除したんです。ただ、アフリカのビート感、まったりしてるけど抜け目ないような、独特のビート感は出てると思う。ボブ・マーレーのガーナというのは、まあ、みんな入りやすいというか、道を歩けばレゲエがなってるわけで(笑)。その裏で何かがうごめいている感じ。雑誌のほうのエレキングには、ハイライフからはじまるガーナ音楽のことを書いたけど、イギリス的なヒップホップの流れの音楽がけっこう熱いですね。

南アフリカはアメリカのギャングスタ・ラップが人気なんだけど、ひとつ問題なのは、アメリカではある種のギャグとして言っている銃や女の歌詞が、南アフリカでは言葉はわかっても言葉の背景までわからないから、それをギャグではなく本気で受けてしまっている、なんていう記事を昔『ガーディアン』で読んだんだけど。

清野:ガーナのヒップライフとかアゾントは、ギャングスタなノリじゃないですね。イギリスが旧宗主国だったってのもあるのかな。斧とか槍は飛んでも、ガンは出てこないかも(笑)。

『ブラック・ダラー』はゲットーのギャングじゃなくて、そこを植民地化しようとしているギャングを描いているとも言えるからね。

清野:石油が出てから銀行とホテルが乱立して、「怪しい人がめちゃ増えた」と友だちが言ってたけど、採掘はじまったのはつい最近だから。まあ、夜中にひとりでタクシー乗ったら、それは危ないけど、昼間は普通な感じですよ。

今日、話を聞いてあらため思ったのは、たしかに『レイヴ・トラヴェラー』とは裏表の関係なのかなというか、『レイヴ・トラヴェラー』世代がそのまま大人になった内容になっているんじゃないかと。

清野:対になってるところはありますね。

物語の最初は、ボブ・マーレーやレゲエの曲名ではじまっているのに、最後のほう......

清野:最後は"サーチ&デストロイ"! パンクになって終わっているという(笑)。そういや、『レイブ・トラヴェラー』のはじまりも、ロンドンのフィンズベリーパークにセックス・ピストルズの再結成ライヴだったわ。

はははは。そこは自分の趣味でしょ!

清野:そんな夢はいつまでも続かないんだ。どんなあざやかな記憶でも、薄れてしまうかもしれないなんて......っていうことでリアルな世界に入っていくんだけど。出てくる人物は、誰一人純真無垢じゃない。しかも、全員ちぐはぐなことをやっている。気づいた時にはロシアンルーレットの一人になって......。

ネタバレになっちゃうから、このへんにして。次に書きたいことは何?

清野:『レイヴ・トラヴェラー』からはじまった、ロード・ノベルって名付けたんですが、一連の旅する物語ってヤツはこれでいったん打ち止めかな。『ブラック・ダラー』には20世紀のダメなところが全部出ていると思うんだけど(笑)。石油、医療、金融、情報システム......人類が劇的に増えて技術が進歩したというけど、目の前に空間が存在することすらまだ証明できてない。人間はまったく進化してないどころか、むしろ退化しても生き残ってきた。そんな生きものって、他にいないんじゃないのかな。扱いきれないとわかってる原発作ってみたり、およそろくなもんじゃない。でも、過去のこと考えてみたり、未来にどんな世界があるのかって想像するのも、たぶん人間ぐらいだと思うんです。それがどんな世界だろうが、あがったりさがったりしてるほうが面白いに決まってるでしょ(笑)。そんな意味でも、『レイヴ・トラヴェラー』を読んだことがある読者にこそ、『ブラック・ダラー』を読んで欲しいなと思っています。

清野栄一:1966年福島生まれ。出版社勤務後、20代前半から世界各地を旅し、写真家を経て文筆業へ。小説、旅行記、ルポルタージュなどを執筆。『RAVE TRAVELLER 踊る旅人』(1997年)、『デッドエンド・スカイ』(2001年)、『テクノフォビア』(2005年)など。

- ele-king

DJ Yogurt (Upset Recordings) - ele-king

DJ Schedule
10/5(Sat.)@新宿・風林会館
10/6(Sun.)@山梨・野外・@地球大使館
10/12(Sat.)@大阪・Circus
10/14(Mon.)@代官山・AIR
10/14(Mon.)@渋谷・After The Camp@渋谷・J-Pop-Cafe
10/18(Fri.)@新宿・音
10/19(Sat.)@米子・Hasta Latina
10/20(Sun.)@渋谷・O-NEST
10/25(Fri.)@博多・ブラックアウト
10/26(Sat.)@小倉・ロックアロウズ
11/2(Sat.)@新潟
11/3(Sun.)@恵比寿・Liquid Room
11/9(Sat.)@名古屋・Vio

HP : https://www.djyogurt.com/
Twitter : https://twitter.com/YOGURTFROMUPSET
Facebook : https://www.facebook.com/djyogurtofficial

2012年から2013年にかけて自分が小箱でDJする時に頻繁にDJプレイした10曲で、大箱や野外PartyではほとんどDJプレイする機会の無い曲揃いでもあるという今回のTop10 Chart。Downbeatとか、Lowbeatとか、BarealicとかCosmidとか......なんて呼んだらイイのかわからない、ジャンル分けが難しい「遅くて、気持ちイイ曲」ばかり。全て12inch(10曲目のみ10inch)。


1
Tornado Wallace - Thinking Allowed - ESP Institute
12inchで収録曲全曲がロービートでイイ感じの出来の事は珍しいけど、この12inchは珍しくイイ感じのロービートが3曲。生音と電子音の組み合わせ方がNice。
その中でもCloud Country (Original Mix)は特に好き。
https://youtu.be/S2xR2xxRH2o

2
Rocco Raimundo - Love Grow - House Of Discorecords
A-2"Love Glow"というタイトルのThe Pendletons"Waiting On You"のEditが最高過ぎ。オリジナル以上の高揚感をもたらす仕上がりで、こういうEditを聴くとまだまだ新作Editもののチェックは止められないと思う。
https://mox.tv/video/rocco-raimundo-love-glow

3
Philipp Matalla - Lack Of Loss - Kann Records
A-1"Lack Of Loss"のみをDJプレイ。これこそ「何のジャンルかわからないけど、やたら心に残る曲」な気も。いちおうJazz Abstruct Ethnic Low beatとかなんとか形容してみたり。
https://soundcloud.com/kann/philipp-matalla-lack-of-loss

4
Donald Trumpet - Down For The Fourth Time - Better Days Records Inc
こういうEditに自分はホントにヨワイ。2012年末に12inchで出たけど、よくDJプレイしたのは冬ではなくて2013年夏。小箱でDJする時に特によくかけてた。Joey NegroのEditは音質も良くて、DJの時に使いやすいのも好み。
https://soundcloud.com/joeynegro/donald-trumpet-down-for-the

5
Detroit Urban Gardening Ensemble - Take Root - OHA
どこかPatrick Palsingerがやっていたイカしたユニット"Sluts'n'Strings & 909"を思い起こさせる、Funkyかつ少しだけJazzyでもある、Electric Low Beat。Groove感がお約束なノリではなくヒネりが効いている上に、使っている音が刺激的。それにしてもこのレーベルは次にどんな曲をリリースしてくるか、全く読めない......。
https://soundcloud.com/daverendle/the-detroit-urban-gardening-ensemble-take-root

6
Mermaids - Run With The Night - Foto Records
U.K.のGlasgowのLabelから出たコンピ12inchの中のB-1。じわ~っといい塩梅に仕上がっている、フィルター使いが目立つDisco声ネタを散りばめつつ進行していき、歌が始まるのは5分以後......そこまでLong Mixで引っ張りたいところ。
https://www.youtube.com/watch?v=gp7bksr1qS8

7
Suonho - Bara Limpa - Suonho In Brazil Vol.1
2012年にリリースされた12inchながら、2013年もDJプレイし続けている、Barra Limpa (suonho Natural Latinjazz Touch)をB-1に収録。イタリアのSuonhoによるEditで、他のEditはベタ過ぎるキライもあって全然DJプレイしていないけど、このB-1は別格。原曲の良さを引き出している傑作Edit。
https://soundcloud.com/suonho/barra-limpa-suonho-natural

8
Frank Booker - Synchro System - KAT
ナイジェリアの大スターだったKing Sunny Adeが1983年にIslandからReleaseしたヒットシングルのEdit。原曲の出来がイイだけに、あれ以上の出来に仕上げるのは難しいけれど、Dubbyなエフェクトを加え、リズムの低音を強化することで、原曲よりもDJがクラブ等でかけやすい仕上がりになっていて、2013年に自分がよくかけたEditの一つに。

9
Sad City - What I Talk About - Phonica Records
U.K.で長年Record Shopとして営業しているPhonicaのLabelから。Washed outをさらにDubbyに、Trippyに仕上げた感じもあるような、DJプレイしやすい曲ではないけど、たまにかけたくなる曲。
https://soundcloud.com/phonicarecords/sad-city-what-i-talk-about

10
Todd Terje - Snooze 4 Love version - Running Back
この曲は厳密にはLowbeatじゃなくて、BPMは120あるけど、キック等の低音がほとんど無いAmbient仕様。70年代後半のAsh Ra Templeの曲のような気持ちイイ浮遊感が味わえる、電子音がMinimalに柔らかく鳴り続ける曲。あまりDJプレイする機会が無いけど好きな曲で、今年は恵比寿のTime Out Cafeで真夜中にAmbient度の高い選曲でDJした時にプレイ。
https://www.youtube.com/watch?v=m9MLMt0f3XE

The Celebrate Music Synthesizer Group - ele-king

 サン・アロー(Sun Araw)ことキャメロン・スタローンと、待望の再来日のアナウンスで話題のアクロン・ファミリー(Akron Family)やワーム・クライメイト(Warm Climate)でも活動するゲド・ゲングラスはコンゴスとのコラボレーション・アルバム『アイコン・ギヴ・サンク』をブッチー・フーゴー(Butchy Fuego)の協力のもと、2012年で最もチルなレコードに仕上げた。

 その舞台裏@〈グリーン・マシン・スタジオLA〉にて一見、ボングを片手にカウチに沈みこんで弛緩していた僕はその実、彼等のダブ・ミックスにかける情熱とひたむきさに感動していた。一見すると単にストーンしているアホに見えたかもしれんがね。

 ......と同時に彼等の制作の進行ペースのスロ~~~~~ウっぷりにも驚嘆した。当時のゲドの言い訳曰く、そもそもジャマイカにておこなったレコーディングが、コンゴスの連中によってLAに送られてくる過程までがジャマイカ的時間感覚で進行したらしく、そのミックス処理を彼等がLA的時間感覚で作業するとなれば、それはまさしく彼等が放つクオンタイズされないビートとグルーヴの如きズッコケ・スクリュード進行ペースとなるのは必然であろう。

 CMSG(セレブレイト・ミュージック・シンセサイザー・グループ)はそんな"アイコン・ギヴス・サンク"の裏番組とも呼べる豪華なプロジェクト・バンドだ。キャメロンとゲドを一身に浴びるブッチーは、最近ではボアダムズのコラボレーターと言った方が通りがいいが、ピット・エル・パット(Pit Er Pat)のブレインであり、またLAのイケてる楽器屋〈フューチャー・ミュージック〉で働く。そのスーパー・チルな人柄や自らのクリエイティヴィティーによる尽力を惜しまない地元愛ゆえ、ローカル・ミュージシャンからの厚い人望を得ている。

 アイコン~での共同制作にはじまった彼等のジャム。そのゲドとブッチーによる偏執的なシンセジスと職人芸のマスタリングにお馴染みとなったキャメロンのズッコケ感覚がフィーチャーされるサウンドは、決して彼等のファンを裏切ることはないだろう。......というか、ぶっちゃけテクノ盤サン・アローです。

 これ、ぜひ見に来て欲しいです! ラップとロックとユーモア......21世紀の東京に忽然と現れた現代版ポップ・ウィル・イート・イットセルフ、トラブル・ファンクの隠し子、またの名をカタコト。ele-king presents 「ANTI GEEK HEROES vol.2」は、ゲストにSeihoとLUVRAW & BTBを迎え、10月27日(日曜日)下北沢スリーにて開催です!! 何気に良いメンツでしょう。
 カタコトのTシャツ、前回は1時間ぐらいで売れ切れたので、来る人は早めに来て下さいね。セイホーのDJも聴けるからね。7時からのデイ・イベントなので、ふだんクラブに入れない未成年の方でも入れますよ。では待ってマース。

ele-king presents "ANTI GEEK HEROES vol.2 -CASUALS UTOPIA-"
10.27 (sun) 下北沢 THREE
OPEN 18:30 / START 19:00
ADV 2,300 yen / DOOR 2,800 yen (+ drink fee)
LIVE: Seiho / LUVRAW & BTB / カタコト
*公演の前売りチケット予約は希望公演前日までevent@ele-king.netでも受け付けております。お名前・電話番号・希望枚数をお知らせください。当日、会場受付にてご精算/ご入場とさせていただきます。
INFO: THREE 03-5486-8804 https://www.toos.co.jp/3

■Seiho
1987年生。ビートメイカー、DJ、VJ と音楽や映像など媒体の垣根を越え表現をし続けるマルチアーティスト。既に各地で話題となっている注目の新レーベル〈Day Tripper Records〉を立ち上げ、1st album「MERCURY」を発表。最先端電子音楽を発信するネットレーベル「+MUS」からもEPを発表するなど活動は現場、ネットに限らない。

天才的な楽曲センスでHip Hopからポスト・ダブステップ、チル、音響系等あらゆるビートを駆使しながら畳み掛ける彼のLIVEは必見。日本人では初となるSonar Sound Tokyo2012,2013へ2年連続出演、Gold Panda /Matthewdavid /Star Slingerなど世界的アーティストとの共演、MTV2013年注目の若手プロデューサー7人に選ばれるなど "今"の音を刻む数少ないアーティストの1人。

HP: https://daytripperrecords.com/
Twitter: https://twitter.com/seiho777


■LUVRAW & BTB (Pan Pacific Playa)
フロム・ヨコハマの特殊プレイヤー集団、パンパシフィックプレイヤ(通称PPP)所属。アーバンメロウ、ペイサイドディスコ感覚のサウンドを基調としたツイントークボックスデュオの決定版。チューブを咥えた二体のロボ声ハーモニー。バックDJのMr.MELODY、司会のヒューヒューBOY、たまにギターのKashif、ダンサーのTANiSHQと共に、全国各地、時間場所を選ばずナイスなパーティーやホットなイベントで、チョットおとなのライブを展開中。(レイドバックした素敵な夜にドハマリ!)イナたいながらも何処かスムースなハデさがありますので、大物ゲストの前座にもまぁまぁ適しております。(So Sweet Breaze!でございます)

これから貴方が訪れる全ての海岸や、お気に入りの夜の風景、そして誰かと過ごすサンセットタイム。そこでL&Bのトラックが貴方の心に触れること、、そんな妄想をヌルりと詰め込んだ音楽CD/Vinyl/mp3を製作して発売中。全作品のジャケットは菱沼彩子氏が担当。最高のコピー -夏はやっぱりチューブでしょ?- の1stアルバム「ヨコハマシティブリーズ/2010」は初期クラシック集に、冷やし中華風の、-夏のおもいで はじめました-がムーディーさを誘う2ndアルバム「HOTEL PACIFICA/2011」を中心に、様々なアーティストの客演/楽曲提供/REMIX作品等も好評頂いております。

近作では「seiho+LUVRAW&BTB / Lady are you Lady」(free download )、

「サイプレス上野とロベルト吉野/ヨコハマシカfeatOZROSAURUS」、「七尾旅人/サーカスナイト(Seaside Magic of L&B REMIX)」、一十三十一のアルバム「SurfbankSocialClub」への参加 etc...

PPP主催のパーティーやWebにて突如発表される音源集、メンバーそれぞれの多岐にわたる活動等も諸々活発に行っておりますので、最新情報はコチラへCheck淫☆

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いつも愛の一点張りで、もしかしてエンドレス?な、レイドバック前戯(おイタ)をどうぞお試しあ〜れ〜〜◎

そして今夜も、、、甘く切なくやるせない。


■カタコト
メンバーは、 RESQUE D(MC)、MARUCOM(Guitar)、YANOSHIT(MC)、K.K.C(Bass)、FISH EYE(Drum)という謎の5人。蟹と犬が大好きで、動物とは大体仲が良い。野田努曰く、「トラブル・ファンクとPWEIの隠し子でありビースティー・ボーイズの『チェック・ユア・ヘッド』」「日本のブラテストホープ、ナンバー・ワンであることは間違いない!」等など。ラップあり、ローファイ・ロックあり、ファンクあり、パンクあり、弾き語りあり、涙も笑いもなんでもあり!
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