「俺は絶対にダフト・パンクもディスクロージャーもかけない」と胸を張ったのはブラウザだった。彼も関わっているレーベル〈My Love Is Underground〉の名付け親は、DJディープだそうだ。90年代末のフレンチ・タッチ(90年代末にポップの表舞台に躍り出た、ダフト・パンクやエールなどのフランス勢の総称)とは意識的に距離を置いたベテランDJで、僕はパリで彼と会ったことがあるのだが、この男、自分が知っているDJのなかでも3本の指に入る反骨精神の持ち主だ。まさに信念の人といった感じで、誇り高きアンダーグラウンドの住人とでも言えばいいのか。
そんな彼のやってきたことが新しい世代に受け継がれていることは歴史を知る者にとってかなり感動的な話なのだが、君にとっても喜ばしいことだと思う。“キャン・ユー・フィール・イット”でも「アトモスフィアEP」でも〈Prescription〉時代のロン・トレントでも、その手の音楽がかかっているとき、あり得ないほど優しい気持ちにはなれても、無理なナンパをしたり、暴力的な気持ちにはならないだろう。重要なのは音楽であり、人だ。
アンダーグラウンド・パリスやブラウザをはじめ、ディープ・ハウスへの世間の注目を加速させたのは、ザ・XXやジョイ・オービソンらベース・ミュージック世代のハウスへのアプローチと90年代リヴァイヴァルであることは、ブラウザ本人もわかっている。5年前、ハウスはほぼ死んでいたと彼も言った。あの頃はベルリンのミニマルばかりが騒がれ、ディープ・ハウスなんざぁ誰も見向きもしなかったけどな……と愚痴りたくもなろう。しかし、好むと好まざるとに関わらず、ディープ・ハウスは90年代リヴァイヴァルという流行のなかで蘇った。ベルリンのテクノと拮抗するかのように、パリがまた重要な役割を果たしそうなところも興味深い。
スターDJがいて、だーっと大量の客が入って、がーっと踊って、わーっと騒いで、だーっと家に帰ると。あれ、それって財布の中身と体力を消耗しただけで、なんか違うんじゃない? それはカタルシスなのか? はっきり言って空しい……などと思った方々が「バック・トゥ・ベーシック」をスローガンに、もう一回小さいところから仕切り直そうぜとおっぱじめたのが、90年代なかばのディープ・ハウスだった。俺らが求めていたのは、水商売でもないし、ナンパでもない。音楽だろう、ロン・トレントだろう、ノーザン・ソウルだろう、last night DJ saved my lifeだろう。これがいまふたたび起きている。いや、ずっと起きているのだが、急速に見えやすくなったディープ・ハウスなるシーンである。
アントン・ザップはロシアのDJ/プロデューサーで、NYのディープ・ハウス・シーンのキーパーソンのひとり、Jus-Edの〈Underground Quality〉から多くの作品を出してる。本作は〈R&S〉傘下の〈アポロ〉からリリースされた2枚組の12インチである。
〈アポロ〉らしく、ひと昔前ならアンビエント・ハウスなどと呼ばれていたであろう、ゆったり目のBPMに、ハウスのビート、アンビエントなループと音響が重なっている……って、あれ? これって何年の作品? 1991年のエイフェックス・ツインの変名じゃない? 淡い残響のなか、電子音の優しいさざ波が打ち寄せる1曲目の“Water”を聴いていると、『アンビエント・ワークス』の頃にエイフェックス・ツインにあまりにも似すぎていて……。要するに、ここにはIDMやテクノのセンスが注がれているのだ。個人的には無茶苦茶好みの音だけれど、やっぱりまだ大手を振って喜びきれないなぁ。しかし、期待はしたい。僕が知っているディープ・ハウスのシーンは、(主役となる音楽はUS産だが)いわばヨーロッパ型の、コミュニティありきのシーンだった。小さいシーンがいろんな場所にたくさんあるイメージで、そこは明らかに都市の避難所だった。
アントン・ザップを、今日のディープ・ハウス・シーンのキーパーソンのひとりだったと言ったのはブラウザ、彼のインタヴュー記事は、次号の紙エレキングに掲載します。
「Nothingã€ã¨ä¸€è‡´ã™ã‚‹ã‚‚ã®
年末に向けて一度は覗いて欲しいお店ばかりを列挙しました!どこへ行っても良いDJや良い仲間と近い距離で知り合えるはずです!
順位に特別意味はありません。まだまだいいお店一杯あるのでpt2へと続く予定です!
風営法にもマケズ、近所の苦情にもマケズ、良質な音とハートを提供してくれるDJとお客さんの最前線なお店ばかりです。
都内じゃなかったりCLUB形態のお店は割愛しました。
以下で近況や良いPARTYをつぶやいたりつぶやかなかったり
Luv&Dub Paradise:https://www.luvdub.jp/
Luv&Dub TW:https://twitter.com/Info_Luv_Dub
DJ_Hakka_K:https://twitter.com/DJ_Hakka_K
求めればソウルメイトと必ず会える都内のDJ BAR&小箱10選 pt.1
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東高円寺GRASSROOTS 先日16周年を迎えたばかり。説明不要都内の小箱の代表!の割には狂った人が多数よく来る! https://www.grassrootstribe.com/ |
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原宿bonobo 名物店主「SEIさんと愉快な仲間達」なお店。ハイエンドオーディオの研究にも熱心!アホばかり集まる割には内装はシャレオツ! https://bonobo.jp/ |
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吉祥寺bar Cheeky ジャニ顔のミュージックラバー「アビー」を中心にジャンルレスで吉祥寺界隈の強者共が集う店 https://twitter.com/barCheeky |
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三茶bar Orbit Chillな感じでゆったり音を楽しめるナイスな内装!靴を脱いで自宅感覚で音にハマれる! https://bar-orbit.com/ |
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渋谷re:love いかがわしいエリアのいかがわしい場所にあるいかがわしいお店。底抜けにアホな連中ばかりが時を忘れに集まる魔窟。 https://www.facebook.com/shibuya.relove?ref=ts&fref=ts |
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青山BAR OATH ありえない立地にあり得ない音量で勝負するとんでもない店。外タレを連れてくと「これが東京か?」とみんな感動する! https://bar-oath.com/ |
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三茶天狗食堂 三茶の妖精ことDJ INAHOとドスコイ感満載のダーチーが運営する「THE 場末」。レジデントの関ヒデキヨのDJは必聴! https://tengushokudo.com/ |
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下北沢MORE 内装は80年代カフェバーを想わせるアーバン感満載だがブッキングも内容も狂人ばかりが集ってる!! https://smktmore.com/ |
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神泉メスカリート いかがわしいエリアをちょっと抜けるとあるいかがわしいお店。re:loveと同じく底抜けにアホな連中ばかりが時を忘れに集まるやっぱり魔窟。 URL等情報ソースなし、、、 |
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渋谷DJ BAR KOARA 小箱には珍しく真っ暗闇でハマれるので要注意。バーテンの作る酒の上手さは常に上位クラス! https://www.koara-tokyo.com/ |
DJ Schedule
11/22(Fri.)@中野・Heavy Sick Zero
11/24(Sun.)@新木場・Studio Coast(Rovo and System7 Live/Opening DJを午後4時から)
11/30(Fri.)@三軒茶屋・Cocoon
12/4(Wed.)@渋谷・En-Sof
12/7(Fri.)@新宿・Be-Wave(19時-24時開催)
12/13(Fri.)@代官山・Unit
12/19(Thu.)@笹塚ボウル(りんご音楽祭・忘年会。19時-23時開催)
12/20(Fri.)@渋谷・Sundaland Cafe(19時-24時開催)
12/26(Thu.)@原宿/千駄ヶ谷・Bonobo
12/29(Sun.)@代官山・Unit
1/10(Fri.)@神戸
1/11(Sat.)@大阪
1/12(Sun.)@京都
1/18(Sat.)@高円寺・CAVE
HP : https://www.djyogurt.com/
Twitter : https://twitter.com/YOGURTFROMUPSET
Facebook : https://www.facebook.com/djyogurtofficial
2013年11月4日、5日の二日連続で恵比寿Liquid Roomで開催されたElectronic Music Of Art Festival Tokyo・・・
略してEMAF TOKYO 2013で自分はオープニングで50分間DJした後、その後のlive actが交代する間の「転換タイム」にもDJして、結局夕方4時から夜10時の間に計6回のDJをやりました。
このイベントはその名のとおり、基本的には電子音楽が流れ続けるイベントで、自分もこのイベント出演の為に選曲を色々と考えて、普段の週末のクラブプレイとは一味違う、「4つ打ち以外の曲だけをDJプレイする」コンセプトでDJしました。
これが自分でも新鮮で、一部のお客さん達の間でも好評だったので、当日に実際にかけた曲の中から、かけた順に10曲選んでコメント付きで公開します。
読みながら、音を聴いてもらって、当日の雰囲気が少しでも伝わったら・・・!
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Synkro - Disappear - Apollo お客さんが少しずつダンスフロアに来始めたPM4時半頃にPlay。 2013年に12inch2枚組"Acceptance EP"の1枚目B-1としてReleaseされた、Acoustic GuitarとElectricな音をセンス良く融合させた曲で、打ち込みだけどオーガニックな雰囲気も感じさせて、メロウなところもある曲。 R&S傘下のAmbient/Electronic Label、Apolloのここ数年のReleaseは気になる曲、興味深い曲が多い印象があり、自分にとって、Releaseする曲はなるべく一度は聴いてみたいLabelのひとつ。 https://youtu.be/-IvMw2DqP1Q |
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Lord Of The Isles - Nustron - Little Strong 2013年Release、"Galaxy Near You Part1"12inchのB-2に収録の"Nustron"は、前半は美しいAmbient、中盤にGroove感が強まって踊れそうなリズムに変化しながらも、後半は再びAmbientに戻る構成も面白く、この日は早い時間からお客さんが来つつあったので、フロアがやや賑やかになってきた時間にAmbientとAmbientの間に挟んで、ちょっと刺激を加える感じでPlay。 https://youtu.be/7BjLQovXkdY |
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Bola - Glink - SKAM Autechre に作曲方法を教えたとも伝えられているDARRELL FITTONのユニット=Bolaが、Autechreと関係の深いマンチェスターのレーベルSKAMから1998年にReleaseした1stアルバム"Soup"の1曲目。自分はこの曲は90's electronicaを代表する名曲の一つと思ってて、Bolaの曲の中で一番好きな曲でもあったり。 https://youtu.be/pbtfx0h4pnc |
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Four Tet - Sun Drums And Gamelan - Domino 2005年にU.K.の人気レーベルの一つDominoからReleaseされた12inchのB-2に収録。 強烈にFunkyなDrum BreakbeatsのGroove上を、ガムランや笛等がミニマルに響く、ワールドミュージックとクラブミュージックの融合が産んだ傑作。 EMAF初日は自分の2度目のDJ時に既にダンスフロアがほぼ満員で、フロアのテンションが予想していたよりも高い印象を受け、Aoki TakamasaさんのliveもかなりDance Grooveを打ち出したliveになるのでは、と考えて、早い時間からテンションを上げていきました。 https://youtu.be/P7VuxbQB8bw |
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2562 - Intermission - When In Doubt 2011 年に12inch2枚組"Fever"の1枚目B-1に収録。PM4時に自分のDJで始まったEMAF2013も、3度目のDJを始める頃にはPM6時半 に。このあたりでDanceを念頭に置いた選曲でDJを始め、Aoki Takamasaさんのlive後、自分のDJ一発目にこの2562のDub Stepを。 https://youtu.be/aC2BzXUi1Ic |
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Beaumont - Rendez-Vous - Hot Flush Recordings 2012年にReleaseされたPost Dub Step良作。 MellowでJazzyな感覚も漂いつつ、リズムはDub Stepを通過した鋭さを感じさせるGrooveが心地良い。 自分にとっては多くのDub Stepがあまりにもメロデイーを軽視している気が多少していたので、この曲のようなメロディーが美しいDub Stepは待ってました、という感じ。 Hot Flushは他にもメロウな感覚が漂うPost?Dub StepをReleaseしていて、この数年すっかり注目のレーベルに。World's End Girlfriendのlive前、4度目のDJではDub Step~Post Dub Step多めな選曲でDJ。 https://youtu.be/qTn76STVKgQ |
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Throwing Snow - Clamor - Snowfall Records 1分22秒以後のメロデイーとリズムの絡みが生み出す高揚感がとてもカッコよく、2分36秒以後にはバイオリンのメロディーもミニマルに入ってきて、フツーのDub Stepとは二味違う豊穣な音楽性を感じさせるPost Dub Stepの良曲。 https://youtu.be/OAvbyO5q-hs |
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Lapalux - Close Call / Chop Cuts - Brainfeeder World's End Girlfriendのlive直前に自分がDJ Playしたのがこの曲。 Ninja Tuneのサブレーベルから2012年冬に出た12inch"Some Other Time"のB-2に収録。 これが最新型の歌ものPOPSの理想形と思ったりすることもあるほど好きな、一応「歌もの」曲。エフェクトの使い方が強烈。 https://youtu.be/NIiRPmNmSLg |
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Divine Styler - Directrix(Indopepsychics Remix) - Mo'Wax EMAF2013を主催したPROGRESSIVE FOrM主宰のnikさんは、以前にはDJ KENSEIさん、D.O.I.さんと3人で"Indopepsychics"という音楽制作ユニットを組んでいて、この2000年作は彼らがノリに乗っていた頃の傑作Remix。 自分がDJ光君と出会った2003年~2004年頃に、光君がよくDJ Playしていた「光クラシック」の1曲。2013年に聴いてもカッコいいと思う。 https://youtu.be/nkJIKH1GW7Y |
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Hauschka - PING(Vainqueur Remix) - Fat Cat いよいよ大トリのCarsten Nicolai(Alva Noto)のlive直前、自分の6度目のDJの最後にかけたのが、Fat Catから2012年にReleaseされた12inchのAA面に収録の、Dubby Abstruct Electronic Grooveの傑作。 Basic Channelフォロワーの中で一番Basic Channelの感覚を理解しているんじゃないかと思う事もある、Vainquerの最近作をLiquid Roomのメインフロアで爆音で鳴らして、Carstein Nicolaiの登場へ・・・ https://youtu.be/YP7LclEsMWs |
イタリアから戻って来た翌日のことである。
出勤前にマクドナルドで朝飯を食っていると、見るからにアンダークラス&チャヴな青年がベビーカーを押しながら入って来た。
いやー。英国に戻って来たな。と思っていると、店内音楽がオアシスに切り替わる。と、くだんの若い兄ちゃんが、ベビーカーをゆらゆらさせて赤ん坊をあやしながら、メイビーーーー、ユーゴナビーザワンザットセイヴズミーーー、アンドアフタアアーオーーーーーールとリアム・ギャラガーと一緒に歌いはじめた。
いやー。英国の公営住宅地に戻って来たな。と思った。
*********
米国の大物プロデューサー、リック・ルーベン所有のマリブのスタジオの名前をタイトルに掲げたジェイク・バグのセカンドには、英国メディアは賛否両論のリアクションを見せている。もろ手を挙げて大絶賛だった前作とは違う。
『NME』は、オアシスが遺した穴に自分をすっぽり入れようとする時のジェイク・バグの楽曲はまったくつまらないが、ファースト同様のボブ・ディランエスクな音を奏でる時は素晴らしいと書いた。『ガーディアン』紙は、バーバリーのファッション・イヴェントでギグをおこない、スーパーモデルと浮名を流す身分になったジェイク・バグが、いまさら公営住宅地を歌うのは偽善だろう。英国のボブ・ディランになるかと思われた若者の音楽は、もはやリチャード・アシュクロフトや後期オアシスにしか聞こえない。と書いた。
英国のアーティストは全部ダメで、ボブ・ディランならクール。という論調には、英国人のコンプレックスを見るような気もするが、実はわたしも1年前、「公営住宅地のボブ・ディラン」とジェイクを形容した人間である。で、セカンドを一聴した感想は、あれ? であった。
アルバム・ジャケットの如く、今回はモノクロじゃない。カラーなのである。サウンド(楽曲ではなく、音の処理という意味で)にアナログ・レコードのように聞こえる細工や歪みが施されていないので、ずっと現代的に聞こえる。ブリット・ポップみたいじゃねえか。と大人たちが言うのも道理だ。一見シンプルに聞こえていた前作のほうが、実はサウンドのイメージ構築(レトロ化)には凝っていたようで、いろいろやってる感じの今回のほうが逆説的にシンプルというか、普通のロックに聞こえる。
が、半信半疑で2回、3回と聞き込むにつれて、あることに気づいた。
それはジェイク・バグが非常に優れたメロディー・メイカーであるということであり、即ち優れたアンセム・メイカーだということだ。これは前作では十分に発揮されていなかった資質だろう。
アンセム。というのは小バカにされがちな言葉だが、その語源は英国国教会の祈祷合唱曲であり、言葉(スローガン)とメロディーが耳と心の両方で聞き取りやすく、万人に歌うことができ、何よりも祈祷者(歌う者)の魂を鼓舞する唱歌のことだ。英国国教会の賛美歌のジャンルが語源になっているだけにUKの人びとはアンセム作りが得意で、もっとも優れたもののひとつにはナショナル・アンセム(国歌)の“God Save The Queen”があるし、その裏ヴァージョンを歌ったジョン・ライドンなんかもアンセム作りの天才である。
わたしは1996年から英国に住んでいるが、この国の貧民街にいまほどアンセムが必要とされていたことはなかったと思う。公園で人が喧嘩して刺されたり、オーバードーズで若者が病院に運ばれたりしてサイレンの音が頻繁に聞こえている世界では、人は知らず知らずのうちに祈祷するからだ。祈祷の方法というのが単に流行歌を歌うことだとしても、人はなんとか魂を高揚させて生きていこうとする。
もう末期としか言いようのない保守党政権下で締め付けられ、荒廃した暗い社会が、その終焉を切望していた90年代前半にアンセミックなブリット・ポップが生まれた。というのは拙著にも書いたところだが、やはり今という時代はあの時代とよく似ている。
「電灯は打ち割られ
街の通りは封鎖されている
誰もうろつこうなんて思わない場所だ
ずっと前に俺たちは切り捨てられた 見込みはないって
聞こえるのは風の音だけ ストーンドしようぜ」(“Messed Up Kids”)
嘘くさ。
とかいうシニカルな批評は、彼のファーストを聴いて勝手にうっとりしていた中年文化人たちに任せておけば良い。
同世代の若者たちの耳や心にリアルに響く限り、それは10点中8点だの9点だの採点されるブリリアントなだけの楽曲を超えて、時代を象徴するアンセムになるのだから。
“Seen It All(すべて見てきた)”と言ってシーンに登場した少年のしんと醒めた瞳は、最近ではある種のふてぶてしさすら帯びて来た。
ジェイク・バグはきっと自分の進むべき道を知っている。
今年、『止まらない子供たちが轢かれてゆく』で第1回せんだい短編戯曲賞を受賞した若き劇作家・綾門優季が、受賞後初の公演を来年早々に行う。
21歳での戯曲賞受賞はタイミングとしてかなりはやいそうだ。しかも賛否両論どころか逆選をほしいままにしながらの受賞という印象が強く、なかなかにやんちゃな存在感を放っている。シャープな批評性、ぶっちぎりのネガティヴィティ、仰々しい文語的セリフまわしなどが注目されるが、そんな彼が発表する新作のテーマは、SNS時代のコミュニケーションと自意識(というふうに紹介文からは読めるけれども違っているだろうか?)。「情報量過多」とも評される作風の綾門が、「SNS疲れ」という問題にどう向かい合うのか、豪華なゲストによるアフター・トークとともに楽しみたい。
チケットの発売は今週末から。
無隣館若手自主企画 vol.2 綾門企画
『天啓を浴びながら卒倒せよ』
作・演出:綾門優季
2014年1月16日(木)- 19日(日)
会場:アトリエ春風舎
『止まらない子供たちが轢かれてゆく』は、小学校のときに巻き込まれた学級崩壊の体験を、わりとそのまま注ぎ込みました。これ以降、日常生活の実感をそのまま注ぎ込む、ということに興味をそそられています。
いま、僕の世代でいちばん切実な問題は、SNS疲れ、と断言できます。twitterのフォロワー数やfacebookにアップする楽しそうな写真やLINEの返答の速さで、人間の価値が決まるわけではありません。僕は僕の周りにみえる邪悪な触手を、ぶっちぎって走りぬきたい。綾門優季
■公演日程
2014年1月16日(木)~1月19日(日)
1月16日(木)19:00※
17日(金)19:00※
18日(土)14:00※/19:00※
19日(日)13:00/17:00
※マークは終演後にアフタートーク開催
受付開始は開演の30分前 開場は開演の20分前
【アフタートークゲスト】
16日(木)佐々木敦氏(批評家/HEADZ代表)
17日(金)山本充氏(『ユリイカ』編集長)
18日(土)14:00の回 豊崎由美氏(書評家)
19:00の回 渡邉大輔氏(映画批評家)
公演詳細
https://s.seinendan.org/link/2013/10/3211
■綾門優季(あやとゆうき)
1991年生まれ、富山県出身。劇作家・演出家・Cui?主宰。
2011年、専属の俳優を持たない、プロデュース・ユニットとして「Cui?」を旗揚げ。
2013年、『止まらない子供たちが轢かれてゆく』で第1回せんだい短編戯曲賞を受賞。
短歌や批評等、演劇外の活動も多岐にわたる。
■Cui?
2011年、綾門優季を主宰として旗揚げ。専属の俳優を持たない、プロデュース・ユニットとして活動を開始。どうしようもなく避けられなかった鋭利な言葉、釈然としない事態、忘れたくても忘れられないしこりを残す出来事など、だれもがいつの日か抱えるかもしれない、あらがいようのないざらざらとしたものに、焦点をあてた芝居を展開する。
Cui?公式サイト https://d.hatena.ne.jp/ayaayattottotto/
客層のまったく読めない客席だった。〈Bunkamuraオーチャードホール〉にここまで異なる人種が集まること自体かなり珍しいのではないだろうか? わたしの右隣のおじさんは小難しい評論集を紐解きながら、連れのおじさんと、最近のチェルフィッチュは迷走しているように思えるね、『三月の5日間』から『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』までは若者特有の切実さが保たれていたんだよ、しかしその主題から離れて以降は……うんちゃらかんちゃら、と自説を開陳している一方で、わたしの左隣のお姉さんは全身、初音ミクそのもの(かつらではなくあれは地毛をこの日のために緑色に染めたのだろう)。この落差。どこで知ってだれを観に来たのか、という質問を投げかければとてつもなくばらばらの答えが返って来るに違いない。それほどまでに多くの要素を含んだ公演だった。客席にたどり着くまでに否応なく目に入るような位置に展示されていた、〈ルイ・ヴィトン〉のコスチュームに身を包んだ初音ミクの等身大フィギュアがその点では一種の踏絵と化していて、さかんに撮影する者と完全に素通りする者とに、人種がはっきりとわかれていたことを余談として付け加えておく。
2013年5月23日、24日の二日間、〈Bunkamuraオーチャードホール〉にて行われたボーカロイド・オペラ『THE END』は、2012年12月の〈山口情報芸術センター(YCAM)〉での初演時からすでに話題にはなっていたが、8トンという客席そのものが震えるほどの音響機材が投入されたり、ラスト・シーンに大幅な変更が施されたりと、もはや再演というにはアップデートされすぎた東京公演は、注目の的となっていた。
そもそも『THE END』とはいかなる公演なのか? 通常、オペラといえば、舞台上で衣装を着けた出演者が、演技や台詞だけではなく、大半の部分を歌手による歌唱で進める演劇のことを意味する。しかし、『THE END』の際立った特徴としては、人間の歌手もオーケストラも登場しないことが挙げられる。電子音響と立体映像によって構成された、世界初のボーカロイド・オペラ・プロジェクト。渋谷慶一郎と岡田利規と初音ミク、という発表されるまで想像したこともなかった組み合わせ。「どういういきさつでこの三者が一堂に会することに?」はじめて知ったときには耳を疑い、思わず首をひねったものである。
ここで音響機材の重さをもう一度確認しておこう。8トン。想像の埒外にある重さ。無用な心配だとは承知しながら、カバンに耳栓を忍ばせていった臆病者がここにいることを告白しておく。そのあまりにも付け焼き刃的な対策は、正直に言ってまったくの杞憂に過ぎなかった。もちろん最初から最後まで客席は大音量で震えていた。しかしながら音響スタッフの行き届いた配慮のなせる業であろう、どれだけの轟音が届いたとしても、耳にじんわりと痛みが走るどころか、不快さを抱くことさえないままだった。
オペラということで華々しいものを期待していた観客は面食らったのではないだろうか。いや、確かに圧巻の映像は華々しい、けれども、語られるあらゆることが、拭いようのない陰鬱さを帯びていた。
初音ミクは一貫して正体不明の不安に苛まれていた。もちろん、いくつかの原因らしきものは物語のなかに存在する。髪も色も似せようとした、しかし全然似ていない初音ミクの劣化コピーが自分のほうへ向かってくること。いままで考えたこともないだろうけれど人間と同様にあなたも死ぬ運命にある、と突然告げられて動揺すること。記憶が曖昧であるいは嘘で、知らない場所か来たことのある場所かの区別もつかないこと。何かを与えられないと、動くことも話すこともここにいることもできない、常に「短く死んでいる」存在であることに気づくこと。それらのすべては不安の原因らしきものだが、原因ではない。
不安を煽る初音ミクの劣化コピーに惑わされるけれど、注意しておきたいのは、初音ミクは最初から正体不明の不安に苛まれていた、ということだ。ここに原因と結果は存在しない。物事と物事が繋がっていって、結末が導き出されたわけではない。初音ミクは登場時からすでに、コンセプトの段階で、そのような病を抱えなければならない存在だった。蜂の巣を突っつかれただけで、はじめから大量の蜂が巣のなかを飛び回っていたのだ。
無限に増幅する不安、という病。
この病をどのように受けとめればいいのだろう?
いまさら『THE END』についてわたしには何も語れない。21世紀にオペラがボーカロイドで行われることの意義、各界から噴出した過剰なまでの反発、旧来の初音ミク像をぶち壊したともアップデートしたともいえるデザインとその映像美、どれも言い尽くされてしまった。半年もたてばあらゆる要素は言い尽くされ、検索をかければ簡単に全体像が浮き上がってくる。というわけでここでは、ともすれば「はあ?」とあっけにとられてしまうような、一見なんの関係もなさそうなものを無理矢理ぶつけてみることで、『THE END』像をぶち壊したりアップデートしたりしてみたい。ただの劣化コピーに終わらなければいいけれど。
『THE END』のラストシーンを目にしたとき、真っ先に脳裏によぎったのは中澤系だった。中澤系はディストピア的なシステム社会に疑義を唱える作風の歌人で、今回の物語の根幹にかかわる問題意識と深いところで響きあっていた。特に関係のありそうな短歌を引用しておこう。
終わらない だからだれかが口笛を嫌でも吹かなきゃならないんだよ
サンプルのない永遠に永遠に続く模倣のあとにあるもの
ぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわ
中澤系『uta_0001.txt』(雁書館 2004年)所収
もちろん渋谷慶一郎と岡田利規が知っていたとは当然思えないが、これらの歌は、初音ミクの劣化コピーが初音ミクを責め苛み、ラスト・シーン間近に「終わりはくりか」という「終わりはくりかえす」という字幕の途中で「くりか」が消去され、あらためて「終わりはいくつある?」と打ち直されるこの趣向に、不思議と寄り添ってはいないだろうか?
わたしは口笛を無意識に吹いてしまう悪癖がある。もちろんひんしゅくを買うような公共の場ではなるべく慎むように努めているけれど、感銘を受けたライヴのあとにはついつい先ほどの心の震えを取り戻そうと悪あがきを試みるかのように、耳に焼き付いたメロディを口元で復唱してしまうのだ。今回もやった。渋谷駅まで渋谷慶一郎+東浩紀 feat.初音ミク“イニシエーション”の口笛を吹き続けたのである。
帰りの電車の中でふと“イニシエーション”でイニシエーションをしていたことに気がついた。
わたしは無意識に、いましがた目撃したばかりの初音ミクの劣化コピーになろうとしていた。
イニシエーションとは、いうまでもなく通過儀礼のことだ。観客は『THE END』という一種の通過儀礼を経て、初音ミクの劣化コピーを体内に受精させていた。終わりは繰り返さない。終わりは交尾する。終わりは繁殖する。終わりは感染する。終わりは永遠に模倣され、歌のなかに宿る。模倣された歌がわたしに歌われた瞬間だけ、初音ミクは壊れるまえの表情を取り戻す。どれが劣化コピーか見分けがつかなくなるほどに大量の劣化コピーが、わたしを容赦なく蝕む。
わたしは蝕まれることを愛おしく思う。終わりがいくつもいくつもいくつも、数えきれないくらいの終わりがわたしを包囲することを疎ましくは思わずに愛おしく思いたい。劣化コピーの影に常に怯えなければならない21世紀の宿痾を慈しみたい衝動を、誰かに糾弾される筋合いはない。糾弾もいずれ劣化する。
膨大な『THE END』のレヴュー、その劣化コピーのレヴュー、その劣化コピーのレヴューの劣化コピーのレヴュー、その劣化コピーのレヴューの劣化コピーのレヴューの劣化コピーのレヴュー、その先にあるものに未来を託したいわたしの思考回路はすでに終わっているのかもしれない。いくつかあるうちの終わりのひとつがいま、ここにある。
『THE END』
渋谷慶一郎+初音ミク
発売日 11月27日(水)
■完全生産限定盤
8500円(税抜) MHCL2400〜2403
・20世紀記録メディア仕様:
LPサイズBOX、EPサイズブックレット(写真、図版多数)、カセットサイズ・ブック(オペラ台本完全版)、オペラ全曲を収録したCD2枚組、「死のアリア」など3曲のミュージック・ビデオと制作風景の記録DVDを所収。スペシャル・ブック:ジャン=リュック・ショプラン(パリ・シャトレ座支配人)、茂木健一郎×池上高志対談、蜷川実花、高橋健太郎、鈴木哲也(honeyee.com)ほか豪華執筆陣によるオリジナル・テクスト、渋谷慶一郎による全曲徹底解説など120ページを収録。
押井守や北野武が描くアウトサイダーはたいていの場合、組織に属している。いわゆる「お荷物」とか「不良社員」といったやつである。泥棒やドラッグ・ディーラーを主役にして反社会的行為を色とりどりに描く洋画や香港映画に較べて、そのような「アウトサイダー」には当然のことながら「悪いこと」には一定のラインがあり、最終的に主役が手にするものは「美学」ばかりである。実を取る気配すらないし、間違っても生活感などは漂わせない。
不出来もいいところだった林海象監督『キャッツ・アイ』は論外として、最近だと内田けんじ監督『鍵泥棒のメソッド』や伊藤匡史監督『カラスの親指』でようやく日本の映画でも組織に属していない悪党たちがコン・ゲームを繰り広げはじめたと思ったら(以下、ネタばれ)「どこにも悪人はいなかった」という価値観に終始し、ストーリーの妙もそのような結論から演繹されるものばかりだった。バカバカしい。たかがエンターテイメントだけに、事態は余計に深刻な気がしてくる。犬童一心監督『のぼうの城』でも金子文紀監督『大奥~永遠~』でも権力者の内面に同調させる映画作りは得意なのに、持たざるものからの視点はタブーなのかと思ったり。
「組織に属するアウトサイダー」は、しかし、新自由主義があっさりと過去のものにしてしまった面もなくはない。 原田眞人監督『金融腐食列島・呪縛』や本広克行監督『踊る大捜査線』以降、「はみ出し者」のレッテルはどちらかというと組織の周縁ではなく、組織を内部から改革しようとする者に貼られるようになり、以後、ストーリー的には「敵は頭の上」という図式がデフォルトと化してしまった感もある。佐藤嗣麻子監督『アンフェア』といい、堤幸彦監督『スペック』といい、警察上層部が悪くない例を探し出す方が最近は難しいし、改革=正義を行うという意識ととらえれば、このことは『沈黙の艦隊』や『デス・ノート』から連綿と続いてきた感覚であり、ゼロ年代よりもさらに強化されていると言える(クエンティン・タランティーノ監督『レザボア・ドッグス』は無意味な殺し合いを描いたものだったのに対し、『ジャンゴ』では人を殺す時に「正義」が持ち出されるという驚くべき変化があった)。
こうした変化は押井モデルや北野モデルのアウトサイダーを組織内には居ずらくさせ、自主退社を迫られるものにしてきた。『鍵泥棒のメソッド』や『カラスの親指』だけでなく、吉田大八監督『クヒオ大佐』や、国家単位で考えた時には木村祐一監督『ニセ札』が美学の路頭に迷ったアウトサイダーたちを暫定的に詐欺師ものにトランスフォームさせたとも考えられるし、それはそのまま正社員が非正規(=ノンキャリ)にずり落ち、ついにはオレオレ詐欺に手を染めるしか生き延びる方法がなかった時代の写し絵とも見えなくはない(『クヒオ大佐』にはアレックス・コックスばりの政治的センスがあり、『ニセ札』には民衆側の視点というものがあった)。
さらには「ソーシャル」というキーワードが無条件で是とされ、「自由」に振舞うことが迷惑行為と同義語のようになってくると、「アウトサイダー」は単なる自己愛パーソナリティ障害か時代の変化に気づいていない人にしか見えなくなってくる。松本人志監督『大日本人』は戦闘少女に救える地球はあっても、旧型の男性ヒーローには救ってもらいたい人もいないというカリカチュアとしては有効に思えたし、同時に押井守や北野武の美学が笑われているようなセンスもあった。このような時期に押見修造『悪の華』は意外なほど反社会的行為をストレートに描き、しかも、「受けまくった」。ここには押井モデルのような屈折もなく、同時多発テロ以降、題材にしにくかったテロリズムを心情的に理解させながら話を進めていくことにも成功し、『殺し屋1』のように動機は捏造だったというようなトリックもない。それこそイスラムもないしw、強いていえば思春期原理主義というようなものかもしれないけれど、これに中2病のバイブルというような表現で時代性にフタをしてしまうと、見失しなわれてしまうことも出てくるはずであう。社会が常に変化しているならば、「反社会」も一定ではないはずだし、作者が参考にしたという『太陽を盗んだ男』だけが繰り返し上映されていれば、ほかはいらないということになってしまうし。
とはいえ、『悪の華』には「反社会」を内面化する決定的なプロセスがない。最も肝心な部分は主人公の外側からやってくる。教室で誰とも口を利かない女子生徒がいわば「反社会」の源泉のように描かれ、主人公はそれに染まるだけである。要するに少年マンガにありがちな「女の子は天使」とか、戦闘美少女と同じく、なぜか絶対なものとして描かれるものが、とくにこれといって位置関係を変えることなく男子生徒に影響を及ぼしているだけで、その女性徒が反社会的なパーソナリティになった理由はまったく明らかにされていない(少なくとも第1部では)。これではレールを踏み出したものがひとりいれば、後はつられて踏み外してもオッケーみたいな感覚に思えてくるし、逆にいえば、ひとりも踏み外す者がいなければ誰も踏み外さないということにはならないだろうか。最初のひとりはどうして反社会へと振り切れたのか。それが描かれていなければ、「反社会」を規定できるのはどの部分なのか、あまりにもわかりづらい。
ヤマシタトモコがいつもとは作風を変えた『ひばりの朝』が、そして、そのアンサーになっていると思えた。同作は3人の女性がそれぞれに社会と距離を感じていくプロセスが克明に描かれ、その気持ちが何度も上塗りされていくという残酷な作品である(全2巻)。彼女たちにつられて、同じように距離を表現する男性はひとりも出てこない(=だから、『悪の華』のようなテロリストは育たない)。男性たちはむしろ、彼女たちに距離を感じさせる原因でしかなく、ある種の男性たちに対する作者の怒りはみしみしと伝わってくる。彼女がここで描いている女性たちの何人かは、キャラクターをそのままにして男性化させれば吉田秋生の描いたアッシュやヒースと、そうは変わらないものになるだろう(……そう、ヤマシタトモコには、近い将来、吉田秋生の後継といえるような作品を生み出すのではないかとドキドキさせてくれるものがある)。『ひばりの朝』が、そして、とんでもないのは、『悪の華』ではひとりだった反社会的な女性のパターンが3倍になっているだけでなく、それらがさらに憎悪やネグレクトとして絡み合い、女性同士が必ずしも連帯しないという構図にもなっていることだろう。「反社会」性は、そして、なんらかの行動として実行されるものではなく、孤独へと跳ね返ってくるだけで、3種3様の諦めや逃避が描かれる。そして、周辺にいる登場人物たちは反社会に染まるどころか、近づくことさえできないものになっていく。
「息をとめていたので平気でした」
「人に興味を持たなければ 傷つかず 良心も痛まない」。
こうなってくると、もはや「アウトサイダー」という立場が成立していたことさえ奇妙なことに思えてくる。三池崇史監督『悪の経典』のように、一切の理由も正義も省かれている方が納得はできてしまうし、じとーッと『ひばりの朝』を読んでいると、一方では、きっと何も変わっていなかったのだろうと思わせるものがあり、それを普遍性と呼ぶならば、そのように呼べること自体が諦念と結びついているとも考えられる。吉田秋生でいえば『吉祥天女』のようでいて、どれだけ映画化されても悲惨な結果しか生まない(のに、懲りずに映画化される)『桜の園』に近い作品ではないだろうか。「社会」という言葉をもっと分解して考えなければ、ここではこれ以上は先に進めない。
安直に比較してしまったけれど、『悪の華』と『ひばりの朝』は主題も違うし、読者も効果も何も重ならないに違いない。強いていえば、『ひばりの朝』で克明に描かれているようなプロセスが省略されているにもかかわらず、『悪の華』がこれだけの読者を得たということは、理由もなく、反社会的な行動に駆り立てられている人が少なからずいるということにはならないだろうか。それは、もしかすると新自由主義が生み出したアウトサイダーの変貌がタイムリミットを迎えているのかもしれないし、小泉政権以降、組織に組み込まれなかった人たちが増えすぎて、情緒の受け皿が必要になっているということなのだろう。
(参考)
ヘア・スタイリスティックス=中原昌也のビート集、ビート・ミュージックだ。僕はこの27曲65分にも及ぶ、ビート集を聴いて、心の底から愉快な気持ちになった。発売から2ヵ月以上経つが、いまだによく聴いている。いま、日本でもビートメイカーのレヴェルはぐんぐん上がっていて、彼らは海外のムーヴメントのフォロワーとは異なるオリジナリティを獲得している(という物言いそのものが古臭い!)。コンピレーションとしてまとまっている、『Lazy Replay』や『Sunrise Choir - Japan Rap&Beat』は、日本のビートメイカーのいまを知るためのひとつの参考になるだろう。とはいうものの、良し悪しの問題ではなく、やはりLAのビート・ミュージックや、SoundCloudやbandcampにおける世界的なモードは大きな影響力があり、日本のビートメイカーの多くもその時代の空気のなかにいる。
ヘア・スタイリスティックスのビート・ミュージックからはそのような空気と同じ匂いがするが、それは中原昌也が90年代の暴力温泉芸者の頃からずーっとやってきたことがたまたまいまの時代の空気にフィットしただけだとも言える。おそらく、このビート集がもう5年早くリリースされていたら、中原昌也のコアなリスナーには届いたとしても、鎮座ドープネスをフィーチャーした曲(“This Neon World Is No Future”)が収録されるには至らなかったのではないだろうか。3年前から制作がはじまったというこの作品が、2013年に世に出たというのは素晴らしいタイミングだ。いや、タイミングではなく、『Dynamic Hate』が素晴らしいのだ。
好き嫌いといった趣味はあるにせよ、多くのビートメイカーやビート・ミュージック・フリークは、この作品を聴いて考え込むのではないだろうか。「いま“新しい”と言われているビート・ミュージックが果たして本当に“新しい”のか」と。『Dynamic Hate』は、“ビート・ミュージック”という既存の土俵に揺さぶりをかけるビート・ミュージック集だ。中原昌也自身はそんな大それたことを意図していないだろうが、そのような問題提起を孕んだ作品でもある。例えば、アルカの『&&&&&』はたしかに面白いと思うし、いまの時代に支持される理由もわかる。ただ、インターネットの大海原には、アルカに匹敵する才能はゴロゴロ転がっている。僕なんかよりも、SoundCloudやbandcampで日夜ビート・ミュージックをディグっているビート・フリークの諸氏がそのことをよく知っているだろう。カニエ・ウェストが『イーザス』で大抜擢しなければ、アルカがこれほど脚光を浴びることはなかっただろうし、もっと言えば、アルカの分裂的な手法は子供騙しと表裏一体でもある。
中原昌也は、紙版『ele-king vol.11』のインタヴュー「いよいよ脈打つヘイト」で、「ビート=黒人のものっていう図式もなくなってきたじゃないですか。黒人だからいいビートをつくれるわけじゃない。そういった状況は後押しするものがあったかもしれない」と語っている。さらに、「昔はブギ・ダウン・プロダクションズとマイナーなノイズをいっしょに買うと気ちがい呼ばわりされたものです。僕の頭のなかで常に共存はしていましたけど、そういうことを共有できる友だちはいなかったですよね」とも言う。興味深い発言だ。ラス・Gの『Back On The Planet』の土臭くコズミックなビート、アートワークに接すると、やはりいまだアフロ・アメリカンの音楽家には、拠り所にすることのできるルーツや、アフロ・フューチャリズムのような思想が脈打っているのだなと思う。 “ビート=黒人”という図式があったのかは議論を差し挟む余地があると思うけれど、ビートをグルーヴと言い換えれば、たしかに“グルーヴ=黒人”という図式はあったと思うし、いまだに根強く存在すると思う。
僕が『Dynamic Hate』を面白いと思った最大の理由は、いち音いち音の音色のヴァラエティとコンビネーションが耳を楽しませてくれるところにある。耳のチャンネルが面白いように次々に切り替わっていくのだ。資料に拠れば、本作は「Ensoniq SP1200、AKAI MPC3000などのサンプラー、ROLAND TR-808などのリズムマシン、ARP2600などのシンセサイザーなど、数々のヴィンテージ・アナログ機材を使っ」て制作し、カセットデッキに録音しDATに起こしたというから、その音色は想像できるだろう。
一応断っておくと、僕はなにもローファイなサウンドに拘ることが、音への誠実な態度であると言いたいわけではない。グルーヴィーなビートもあれば、グルーヴをあえて否定しているようなビートもある。それが不思議で、興味深くて、何度も聴いてしまう。中原昌也流の諧謔精神ももちろんあるが、そのような態度よりも、とにかくビートのユニークさに耳がぐいぐい惹きつけられる。そして、中原昌也流の分裂的な手法もある。というか、『Dynamic Hate』を聴けば、先ほどのブギ・ダウン・プロダクションとノイズの話ではないが、それが実は分裂でもなんでもなかったことがわかるし、僕自身もいまだからこそその感覚を実感できる。10年前は頭では理解しているつもりでも、実感としてそのことがわからなかった。マントロニクス流のエレクトロ・ファンクとウェルドン・アーヴィンのジャズ・ファンクの名曲“We Getting` Down”をミックスしたような“Empire of Plesure”があり、“No Funk (Tk1)”というタイトルなのに、ベースとキーボートがシンコペーションしているファンキーなビートがある。エキゾ・ブレイクビーツとでも言いたくなる“Music For The Murder Festa”と、シンセサイザーがうなりを上げ、ノイズを撒き散らし、シンプルなビートがズンドコ叩きつけられるタイトル曲からは、中原昌也の気合いと激情が溢れ出しているように思う。手を叩いて大笑いしながらでも、難しい顔をして議論しながらでも聴ける作品だが、いまビート・ミュージックを追っているのであれば、無視できない作品だ。
Mark E Japanツアー
11.22(金) 名古屋 @ Club JB’S
Info: Club JB’S https://www.club-jbs.jp
名古屋市中区栄4-3-15 丸美観光ビルB1F TEL 052-241-2234
11.23(土/祝) 東京 @ AIR
Info: AIR https://www.air-tokyo.com
東京都渋谷区猿楽町2-11 氷川ビルBF TEL 03-5784-3386
Running BackからBlack Country RootsというEPが先日リリースされました。
https://www.juno.co.uk/products/mark-e-black-country-roots/506311-01/
Merk Music:
https://mercmusic.net
https://twitter.com/mark_e_merc
https://www.facebook.com/pages/MERC/124366710936688
THE BLACK COUNTRY ROOTS CHART
![]() 1 |
Tony G - Simple Dreams - infinite juju |
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![]() 2 |
Glbr & Sotofett - Foliage - Versatile |
![]() 3 |
Young Marco - In the Wind - Rush Hour |
![]() 4 |
KDJ - Imotional Content - TP Deep remix - JDRecords |
![]() 5 |
Mount Kimbie - You took your time - Warp |
![]() 6 |
Roc & Kato - Jungle Kisses -eLegal |
![]() 7 |
Mark E - Black Country Roots - Runningback |
![]() 8 |
Pat Methany - Are you going with me - GU remix - white |
![]() 9 |
Black Rox 1 - Black Rox |
![]() 10 |
Frak - Matador |
11月に発売されるTBPRの新作DVD LENZ IIの宮原聖美パートの為に1曲制作しました。
PONCHI (OPSB)にguitarで参加してもらった曲です。DVDは2013/12/14発売でサントラもTBPRから発売予定です。
LENZ IIのデッキはEvisenより発売中。今回は思いつきで好きなスケートの映像10個リストしました。
DJ SCHEDULE
11/15 fri @幡ヶ谷Forest limit
11/23 sat @代官山Air "MARK E JAPAN TOUR"
11/30 sat @渋谷Koara
12/28 sat @静岡eight&ten
12/29 sun @代官山Unit "MOVEMENTS ONENESS MEETING"
12/30 mon @中野heavysick zero "HOLE AND HOLLAND & OPSB presents『UP↑ 』year's end special"
every 4th tuesday "Sun Hum" @神宮前bonobo
https://hole-and-holland.com/
https://soundcloud.com/holeandholland
10 skate clips.
![]() 1 |
Haruka Katagata - Pick Up - VHSmag https://www.vhsmag.com/pickups/haruka-katagata/ soundtrack by YO.AN |
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DESHI - NIGHT PROWLER - Katsumi Minami https://www.youtube.com/watch?v=aIN7a-A84G4 soundtrack by BALKAN BEAT BOX |
![]() 3 |
Sunshine60dub - AKIOCHAM.com https://www.youtube.com/watch?v=xTcu1LA0BHY |
![]() 4 |
Zerosen (Shintaro Maruyama) - Underground Broadcasting - FESN https://www.youtube.com/watch?v=ixrkuRAMkZI soundtrack by HIDEYUKI DOI a.k.a. Taikoman |
![]() 5 |
Takahiro Morita - ON THE BROAD - FESN https://www.youtube.com/watch?v=g_QvqevXqBs soundtrack by Kouta Andou |
![]() 6 |
AARON HERRINGTON - BLOOD WIZARD https://www.youtube.com/watch?v=XcgYCU5E8qQ |
![]() 7 |
Greg Hunt -Tincan Folklore - Stereo Skateboards https://www.youtube.com/watch?v=TaA7jqP8pKo soundtrack by TORTOISE |
![]() 8 |
este ó este 2 - HOLE AND HOLLAND https://www.youtube.com/watch?v=lzmLL8WMIhg soundtrack by KPK (kujitakuya) |
![]() 9 |
TRES TRILL - PALACE SKATEBOARDS https://www.youtube.com/watch?v=oXi0ucVsqFk |
![]() 10 |
Mark Gonzales - Kicked Out Of Everywhere - Real Skateboards https://www.youtube.com/watch?v=GI4YJs3Xmqs soundtrack by Hiroshi Fujiwara |