「Nothing」と一致するもの

今日は帰りにタワレコ渋谷店だね! - ele-king


loaded
久保憲司写真集

Amazon Tower HMV

 レコ屋行ってますか? フィジカルはもう買っていないという人も、たまには店頭で試聴→購入体験、いかがですか。店頭の楽しさって思ったほど消えていないなあと最近感じます。お店の方もすごく考えて工夫されているんでしょうね!
 さて、今日はタワーレコード渋谷店さんにて、先月発売となりました久保憲司さんの写真集出版を記念してトークショーが開催されます。お相手を務めますのは野田努。本書収録のアーティストたちについて貴重な思い出やお話が聞けるはず。10代で飛び込んだロンドンの街並み、レイヴやフェスの熱気、一時代を築いたDJたち、ブリットポップやグランジの記憶――ロックだけではない“クボケン”を解体します!
 タワーレコード店頭にてご購入いただいた方には「サイン会参加券」もつきます。店内をぷらっと歩いて、トークを眺めれば、帰りには欲しい音源が増えていますよ!

『loaded久保憲司写真集』リリース記念トーク&サイン会

 90年代のロックシーンを収めた久保憲司写真集『loaded』発売を記念して渋谷店にてele-king野田努とのトーク・イベントを開催! 写真とともに当時のアーティストたちの思い出を語っていただきます! ※橋元優歩の出演は無くなりました

■開催日時
2014年01月24日(金) 20:00
■場所
渋谷店 5F イベントスペース
■参加方法
久保憲司/「loaded」 久保憲司 写真集をご購入のお客様にサイン会参加券をお付けいたします。
トークイベントの観覧はフリーとなっております。

■対象店舗
渋谷店 ・新宿店

■対象商品
久保憲司/「loaded」 久保憲司 写真集(9784907276072)¥2,940
・対象商品のご購入は対象店舗の店頭でのみお受けしています。
・対象商品のお取り置きはお電話、インターネット取り置きにてお受けしています。
・イベント券の配布は定員に達し次第終了いたします。終了後にご予約/ご購入いただいてもイベント券はつきませんのでご注意ください (イベントにより券の名称は異なります)。
・イベント券を紛失/盗難/破損された場合、再発行はいたしませんのでご注意ください。
・イベント券が必要なイベントにおいて、小学生以上のお客様はイベント券が必要になります。
・イベント中は、いかなる機材においても録音/録画/撮影は禁止となっております。
・会場内にロッカーやクロークはございません。手荷物の管理は自己責任にてお願いいたします。
・会場周辺での徹夜等の行為は、固くお断りしております。
・店内での飲食は禁止となっております。
・都合によりイベントの内容変更や中止がある場合がございます。あらかじめご了承ください。


Sons Of The Morning - ele-king

 00年代エレクトロニカの記憶と技法は、いま、どのように伝承されているのだろうか。

 1990年代末から2000年代初頭、ハードの飛躍的な向上によって、PC内での音色の徹底的なエディットが可能になり、それまでの機材では不可能であった音色のエディットや運動感覚の生成、音響デザイン(それらのエラーの活用も含めて)が行えるようになったとき、いわゆる、ポスト・デジタル・ミュージック=初期エレクトロニカのフォームは完成したといえるのだが、同時に、音色や音響の運動に対する聴き手の聴覚もまた大幅に拡張させていった。ミュージック・コンクレートや電子音楽など現代音楽のフィールドに属するアカデミズム内ではなく、クラブ・ミュージック/テクノ・フィールドから派生したからこそ、よりポピュラーな形で聴き手の聴覚を更新させたのだろう。キム・カスコーンの語る「失敗の美学」が作り手と聴き手の間に一気に浸透していったのだ。

 そして、00年代初頭には、90年代末期の「実験」の成果を踏まえて、よりポップでありながらも、グリッチなどのソフト・ノイズを活用したミニマルな和声進行の瀟洒な電子音で織り成す応用型エレクトロニカが一世を風靡したわけだが、2000年代末期~2010年代初頭のドローン/アンビエント・ブーム以降(しかし、これは「音楽」への回帰でもあったと思う)、そういったエレクトロニカは、わずかな例外を除いて音の海に溶けていった。

 だが、昨年あたりからだろうか、大きな変化の兆候を感じるのである。まるで音の海に溶けていた音響が再び形を取り戻してきたかのように。たとえば日本のエレクトロニカ・シーンにおいて、00年代初頭のエレクトロニカ・ムーヴメントからの影響を受けた(間接的であっても。たとえば2003年のスケッチショウ『ループホール』以降の環境とも)音楽家たちが、極めて高品質な作品を相次いでリリースしている。〈プログレッシブフォーム〉からリリースされたポウン/ヒデキ・ウメザワ『ポートレイト・リ:スケッチ』(2013)などは必聴だ。

 では、海外はどうか。確かに近年のエレクトロニクス・ミュージックのトレンドは、インダストリアル/ノイズとの交錯であったり、ミニマル・ダブであったり、ジュークであったりするなど、00年代的なソフト・グリッチなエレクトロニカはシーンの中心にいるわけではない。だが、〈ラスター・ノートン〉は未だ健在だし、多くのアーティストが作品のリリースを続けていることを見逃してはならない。

 ビート・シーンからエレクトロニカ・ムーヴメントの交錯を実現したプレフューズ73ことギルモア・スコット・ヘレンもその一人である。デジタル・エディットだからこそ可能なボーカル・チョップの手法でシーンにその名を知らしめた彼は、トレンドとなったその手法に固執することなく、音楽的にも音響的にも作風を拡張してきた。彼は9枚のオリジナル・アルバムをリリースし、さらにはピアノ・オーヴァーロード、アーマッド・ザボ、サヴァス&サヴァラス、クラウド・ミレヤなどの別名義・別グループなどで大量の作品を生み出しきた。連名コラボレーション作品としてはザ・ブックスとのEP『プレフューズ 73 リーズ・ザ・ブックス E.P』(2005)もある。2012年には、突如、ピアノ・オーヴァーロード名義のアルバムをリリースし、われわれを驚かせたものだ。

 本作『スピーク・スーン Vol.1』は、ギルモア・スコット・ヘレンと写真家エンジェル・サバリョスによって設立された新レーベル〈イエロー・イヤー・レコーズ〉からのリリース第一作であり、LAビート・シーンの俊英ティーブスとのコラボレーションである。ティーブスといえば、2010年にリリースされたファースト・アルバム『Ardour』は未だ多くのリスナーに愛されている名盤だ。そのロマンティックな音響とクリッキーなビートを聴いていると、桃源郷へと連れていかれるような気分になる。画家でもある彼のトラックには、聴くペインティングとも形容したい色彩感を感じるのだ。フライング・ロータス以降、注目すべきビートメイカーの一人といえよう。

 プレフューズとティーブス。そんな二人のコラボレーション作品となれば、どれほどの作品に仕上がるのかと聴き手は思わず身構えてしまいそうになるが、本作は、そんな聴き手の想像などを軽やかにかわしたリラクシンなアルバムであった。まるで初夏の空気のように柔らかく、同時に夏の終わりのようなを淡い記憶を刺激するノスタルジアが緩やかにゆれる。何度聴いても聴き飽きない、何年先も聴けるような普遍的な作品である。

 同時に私は、先に書いたような00年代エレクトロニカの技法が、極めて自然な形で鳴っていることにも驚いてしまった。LAビート・シーンとエレクトロニカ? 確かに戸惑うだろうが、前述したプレフューズ以降(そしてフライング・ロータス以降)、エレクトロクスの使用方法において共通する点も多い。過度に圧縮された軽やかに蠢く電子音のエディットと、細やかな動き。それらがステレオに配置(デザイン)されていくことで耳をくすぐり、時にムード・ミュージックのように甘くドリーミーな和声感覚も鳴り響き、細やかなビートが絡むのだ。

 そもそも90年代のアブストラクト・ヒップホップの流れを受ける彼らが、00年代的エレクトロニカと交錯するのも極めて当然であった。00年代のエレクトロニカ的音響とは、サンプリング・ミュージック以降、もっとも大きなサウンド・テクノロジーの進化であるのだから。全7曲、どのトラックも、00年代的なデジタル・コンプレッションが多用された音が、デザインされ、軽やかに鳴っている。甘いコード。ソフトなグリッチ・ノイズ。大きな円環を描くようなクリッキーなビート。時に断片的なギターが鳴り響き、時にアンビエント/ドローンが持続する。あらゆるものからフローティングしているデジタル・サウンドがもたらす音の運動と色彩をめぐる音の快楽。ミニマルなスタイルと、適度にセンチメンタルで、ポップな音。夏の終わりの記憶を刺激する白昼の夢のようなサイケデリア。それらが日常の片隅で不意に鳴り続けること。

 このコラボレーションには、そんな00年代的音響の最良の部分が鳴っている。デジタル・サウンドに封じ込められた夏の終わりの記憶に、グリッチ・ノイズやサウンドが介入する。それが、私たちの、21世紀の音楽である。エンドレス・サマーは終わっていないし、終わらないのだ。現在と過去はノイズとデジタルと音楽/音響の狭間に、並列に、ある。00年代エレクトロニカ/音響は、いまも、これからも私たちの耳元で、波の記憶とデジタルなソフト・ノイズと共に鳴り続けるだろう。

オンリー・ゴッド - ele-king

 虚無的なLAの街に流れていたのはシンセ・ポップだった。それは、寡黙で暴力的な男が主役のクライム・ムーヴィーにはまるで不釣合いなほど甘ったるく、しかし同時に、どこか幼さを残すライアン・ゴズリングの不器用な恋心を代弁するのにはそれ以上の音楽はないように響いた。世界に野心的な監督の才能を発見させたニコラス・ウィンディング・レフンの前作『ドライヴ』の成功は、あの画面をシンセ・ポップで満たそうとしたセンスだったといまでも思う。台詞による言葉よりも、映像と俳優の佇まいと音でドラマティックな瞬間を示そうとするウィンディング・レフンはいまどき貴重なほど映画に奉仕するシネアストであり、一種古風で典型的な映画作法を用いながらもしかし新しい領域を模索せんとする探求者だ。快楽的でありながら、同時にまだ見ぬ可能性の香りがこのひとの映画にはある。

 バンコクというよりはLAに見える虚飾が煌く街を舞台に、ライアン・ゴズリングが画面のなかで押し黙っているレフンの新作『オンリー・ゴッド』は『ドライヴ』からの連続性を強く感じさせるがしかし、あのシンセ・ポップのような甘いひとときは皆無だ。少女をレイプし殺害した兄がその父親に惨殺され、そのさらなる復讐を犯罪組織のボスでもある母親に命じられるプロットの上で、過激と言うにはドライなあまり美しくすら思える暴力描写が次々に続く。『ドライヴ』が一種典型的な犯罪映画を下敷きにしていたように、本作もわたしたちのギャング映画や西部劇の記憶をかすめるが、それがギリシア神話や格闘技映画と接続されることで何か奇妙な手触りを残す。
 古風なようでいて、しかしどういうわけかこれは見たことのないものだと直感させられてしまうレフンの現代性はどこにあるのだろう? 『オンリー・ゴッド』においてそのヒントは、クリスティン・スコット・トーマス演じる(怪演!)絶対権力者である母親が、ゴズリングに「お前は自分よりもペニスの大きい兄に嫉妬してた」と、よりによって会食の席で口にする台詞にあるように思える。『ドライヴ』でのセックスの欠落はドライバーの恋の初々しさを示すものでもあったが、本作においてのそれは主人公ジュリアンが性的に未熟であることをほのめかしているようだ(母が溺愛する兄は「すごいペニス」を持っていて、そして少女をレイプするような男である)。レフンはそのフィルモグラフィで暴力的な男たちを溢れさせてきたがしかし、あどけなさを残すゴズリングという格好の被写体を得て、旧来のマッチョイズムには回収されない含みを漂わせる。男の出来損ないとしてのヴァイオレンス……映画における、性のステレオタイプの揺らぎが示唆されているのではないか。

 そして復讐劇であったはずの映画は、信仰の問題に分け入っていく。ゴズリングは『ドライヴ』同様にここでも孤独な存在で、母親の絶対的な支配から逃れるようにして別の「神」を求めていく。これまでに暴力描写においてギャスパー・ノエの映画を参考にしたというレフンだが、ノエが『エンター・ザ・ボイド』において(よくも悪くも)スピリチュアルな領域に入り込んでいたのをここで思い起こさせる。ただ、本作はほとんど感傷を介在させていない点でレフンのほうが一枚上手であるように僕には思える。ジャンル映画を接続し、ミニマルな様式でそのじつ多くのことを(語るのではなく)ほのめかす、なるほどこれから先の映画を切り拓いていくだろう才能による勝負作である。
 最後に音のことに触れておくと、クリフ・マルチネスによるオリジナル・スコアはインダストリルな感触のエレクトロニック・ミュージックだ。その辺りのセンスにも、やはりゾクゾクさせられる。

予告編

interview with Warpaint (Jenny Lee Lindberg) - ele-king

 「世界は複雑な場所だ」と唱えることでむしろ世界を単純化しがちなわたしたちは、ウォーペイントの寡黙な力強さを通して、ふたたびその複雑さに触れる。美しい容姿の女性4人組バンドだと紹介すれば華やかだが、実際のウォーペイントに感じるものは実直なミュージシャンシップと、トレンドに頓着しない揺るぎなさだ。曲名も“ハイ”とか“ビギー”とか“ドライヴ”といった素っ気ないものが多いが、音に触れたときに流れ込んでくるものが、そのくらいのシンプルな言葉でなければ受け止められないような渦を持っていると感じられる。
 デビューEP『エクスクイジット・コルプス』(2009年)は彼女らに惚れ込んだジョン・フルシアンテによってミックスが施された。その後老舗〈ラフ・トレード〉からリリースされたフル・アルバムも大きな賛辞とともに受け入れられた。そしてクリス・カニンガムまでが急接近し、今回リリースとなるセカンド・フルのアートワークは、ヴィデオをふくめ彼とじっくり組む形となった。彼女たちのキャリアはいまさらなる飛躍のタイミングを迎えている。2010年前後においては、彼女らの〈4AD〉の幽玄に通じるサイケデリアとドリーム感、あるいはポカホーンテッドらに神話するわずかにダビーなプロダクションにはたしかに注目されてしかるべき同時代性があったが、それにしてもこのように大柄な「オルタナティヴ・ロック」が、これほど素晴らしく聴こえるというのは特筆すべきことだ。


Warpaint / Warpaint
ホステス / Rough Trade

Tower HMV iTunes

 今作はジョシュア・トゥリーで録音されたということだが、奇岩と砂漠が広がる乾燥地帯は、彼女たちのあの虚飾を拒むような音をよく象徴している。カントリー色こそないが、彼女たちの根元にロックがあることを感じさせる。それはスタイルではなく価値観であり、カルチャーではなく実存だ。フラッドやナイジェル・ゴドリッチの参加は、そのなかに旋毛のようにたくしこまれている繊細さを無重力的に立ち上がらせたと言えるかもしれない。レクトロニックに奥行を構築された本作は、トリップホップからインダストリアルな要素まで垣間見せながら、あくまでそれを自分たちの血とし肉として鳴らしている。

「力強さ」を強調するように書いてしまったが、それは彼女たちの持つ「ミステリアス」に安直なニュアンスを与えたくなかったからだ。ウォーペイントの沈み込むような文学性や、透明でありながらもどこか諦念や倦怠を感じさせる曲調は、今作によりディープに引き継がれている。こうした性格はドラムのステラの加入によって強められたともいうが、ソングライターを軸に曲ができていくというよりも、おそらくはセッションから曲の要素を取り出している彼女たちの方法がしのばれる話だ。インタヴュー中、ヴォーカルのリンドバーグは一貫して「We」で回答しており、あくまでバンドとしての自身らの矜持を語っているように感じられた。歌詞については「全体的に共通して「愛」を題材にしている」そうだ。4人それぞれの愛の観念が、岩とヨシュア・トゥリーの間を彷徨し、風のように唱和する──どろりとしたものと乾いたものとが、バンドというダイナミズムのなかで静かにせめぎ合う、そのなかでふと世界に触れてしまう、本当にまれにみる傑作だ。

これまで10年ものあいだ、テレサとエミリーと3人でやってきて、ひとつの集合体として育ってきたけど、それと同時に歳を重ねることで個々がはっきりしてもきた。今回の作品では、なによりその「個」の部分を失わずにひとつにまとめることができたと思うの。

セルフタイトルのアルバムとなりましたが、印象的な変拍子をはじめとして、リズムが少し戦闘的というかアグレッシヴになったと思います。“ハイ”などの16ビートもとても新鮮でした。今回は何らかのかたちでダンス・ミュージックが意識されていたのでしょうか?

曲作りのためにスタジオに入ったとき、特定のコンセプトやアイデアを事前に考えて臨んだりせず、それぞれがそのとき思いついた、自然に生まれたものをまとめようとしたの。いまやりたい音楽、いま聴きたいと思える音楽をね。

“ハイ”などのいわゆるトリップホップ的なムード、あるいはインダストリアル的な音の世界観は、とくに際立った特徴ではないかと思います。こうした音楽性を取り入れていくようになったきっかけのようなものはありますか?

これも自然な成り行きでできあがった曲で、テレサの家でわたしが思いついたベースラインにテレサがギターを弾きはじめて歌ったものが土台になってるの。マジカルにすべてがうまく自然に重なり合ってできた曲ね。

ジョン・フルシアンテからの影響や彼との仕事も素晴らしかったですが、今作はフラッドやナイジェル・ゴドリッチといった人々の手も活きていて、ウォーペイントはとてもブリリアントに90年代の音楽を再解釈しているようにも思われます。その頃の音楽が原体験にあるからでしょうか? どのような音楽に親しんできましたか?

うーん、わたしにはお手本になったバンドとか、「こうなりたい」と思う特定のバンドやアーティストはいなかったし、わたしたちは互いに幅広くいろんなジャンルの音楽を聴いて育っていると思う。だからわたしたち自身も、どのジャンルと特定するのか難しいくらいバンドとしてヴァラエティに富んでいる音を出していると思うわ。

フラッドやナイジェルは、あなたがたのバンド・サウンドのダイナミズムを損ねずに、エレクトロニックな展開やダンス・ビートへとつなげていると感じました。彼らに対してバンド側からの要望は何かありましたか?

ナイジェルはアルバムの中の2曲でミックスを手掛けているの。当初はとくにいっしょにやりたいと思える人が思い浮かばなくて、すべてセルフ・プロデュースにしようと考えていたんだけど、フラッドのことがふと思い浮かんで。彼を第一希望にしたわ。だから彼が引き受けてくれたのはうれしかった。彼は制作の最初からわたしたちといっしょにいてくれて、とくにわたしたちに方向性を押し付けたりこれまでのイメージを強調しようともしなかった。彼はすばらしいエンジニアでもあるし、何より彼にはより突き詰めるということの大事さを教えてもらったわ。たとえばわたしたちが「これで曲は完成!」って思って彼に聴かせると「よし、じゃあもうちょっと深いところまで行ってみよう」と、もっともっと深いところまでわたしたちの背中を押してくれて。結果的に自分たちだけでは到達できなかったであろう地点まで突き詰めることができたと思うわ。

一方、それとは対照的に、あなたがたのサウンド自体にはヒプノティックな雰囲気や、〈4AD〉を思わせるような幽玄がありますね。その中で“ラヴ・イズ・トゥ・ダイ”というような、文学的でヘヴィな認識が歌われるわけですが、自分たちに近い世界観を表現していると感じるアーティストや作家などはいますか?

特定のアーティストや作家というよりも、さっき言ったようにステラの加入が大きい部分ではあると思う。歌詞に関しては全体的に共通して「愛」を題材にしているということはあって、4人それぞれの現在思う愛のかたち、経験を歌っていることで作品全体の雰囲気を形成しているとは思うけど。

“Go In”などに顕著ですが、全体にダビーな手法が用いられていますね。ダブに憧れがあったりしますか?

もちろんダブは好きよ。あの曲はジョシュア・ツリーにいるときにできた曲ね。

クリス・カニンガムが今回は全面的にアートワークを手がけているようですが、彼が撮り彼が映像化したものを通して、あらたに発見した自分たちの姿や性質はありますか?

彼とはジョシュア・ツリーにデモを作りに行く前に出会ったんだけど、同行してバンドといっしょに過ごすことになったの。そうしていくうちにお互いをよく知ることができた。だから、彼の作ったものは必ずしもわたしたちだけでは思い浮かばないものだったりするんだけど、不思議とバンドとマッチしたと思う。これまで10年ものあいだ、テレサとエミリーと3人でやってきて、ひとつの集合体として育ってきたけど、それと同時に歳を重ねることで個々がはっきりしてもきた。今回の作品では、なによりその「個」の部分を失わずにひとつにまとめることができたと思うの。これまでももちろん、お互いを受け入れながらやってきたんだけど、今回はそれをより高めることができた。アートワークにはこれまでの私たちのいろんな映像が含まれているんだけど、まさしくそういう紆余曲折を経た後の「いまのわたしたち」がちゃんと捉えられていると思うわ。

彼は2年ほどバンドの姿を撮ってきたということですが、何か思い出深いエピソードはありますか? また彼の作品で惹かれるところがあればどんなところか教えてください。

彼は非常に器用で幅広いし、自分の気持ちにとても忠実なアーティストね。ある瞬間ロボットを扱っているかと思ったら次には草原を走り抜ける少年や動物を追っていたり、とにかくいま自分が感じていることに対して正直で、どのような領域でも誠実に自分の作品として扱うところが本当にすばらしいと思うの。自分の想像力に対し忠実であり誠実。でもとっても気さくで繊細で、いつもジョークを絶やさないおもしろい人。とにかくいつも驚かせてくれる人で、あの頭の中では何が起っているのかわからないけど、不思議なことに必ず誰もがおもしろいと思えるものを作り上げてしまうの。彼の作品はどれひとつつまらないと思うものがない。それが本当にすごいと思うわ。

まだあの頃は言いたいこともたくさんあったし、「Less is more」の精神がわからなかったのよ。

録音や音楽制作はアメリカで行っているのですか? 今回の録音に関してはどのような環境で行われたのでしょう?

2年前の2月頃からジョシュア・ツリーでデモを作りはじめて、それからレコーディングをLAのスタジオで行って、最終的なミックスはロンドンでやったわ。時間がかなりかかったように聞こえるけど、プロデューサーのフラッドのスケジュールに合わせるのがとても大変で、でもそのおかげで4人だけの時間もできてかなり細かく曲作りに打ち込めたからよかったわ。

セルフ・タイトルとなった理由はどんなことでしょう?

これまで2枚の作品を出しているけど、わたしたちの中ではこれがウォーペイントとしての初めての作品のような気がするの。ステラが加入して最初の作品でもあるし、この中には彼女が加入する前から書かれた曲もあったけど、彼女はそうした曲にも自分の色をちゃんと加えていて、この4人の作品として完成させることができたからセルフ・タイトルにする意味があると思ったの。

1曲めなどは、かなりロウなかたちで、あなたがたのセッションが生々しく感じられる録音になっていますが、全体としては、アルバムはアルバムとして別のプロダクションが目指されていると感じます。ライヴの音をCDで再現したいという思いはあまりないのでしょうか?

たしかにレコーディング開始当初はわたしもそこで迷ったんだけど、フラッドから「後のことは気にせず、いいアルバムを作ろう」と言われて吹っ切ることができたの。ライヴ用にアレンジすることはいくらでもできるし、音源とまったく同じでもおもしろくないし。むしろその方がライヴをよりエキサイティングなものできるし、音源とちがう表現にはなるけど、それはこれまでにもやってきているし、自分たちの得意としているところでもあると思うの。この作品ではライヴで演奏したときのマジカルな瞬間を捉えることもできていると思うし、先日行ったライヴですでにアルバムから4曲新曲をプレイしたんだけど、むしろ音源よりヘヴィなアレンジになったから何も心配はしていないわ。

いま思い返してみると『フールズ』はどのような作品でしたか?

もうリリースしてからはずいぶん長いこと聴いていない。もちろんライヴでは演奏するけどちゃんと音源として盤を聴いてはいないし、手元に持ってすらいないわ。ちょうど1年くらい前に聴き直す機会があったんだけど、そのときの印象は、とにかく好きな音源ではないということ。プロデュースされすぎて生々しさに欠けているし、間違いなくライヴ・バンドとしてのわたしたちを捉えていないし、とにかく気に入らなかったんだけど、最近はもうそれも乗り越えて客観的に聴けるようになって、思っていたほど悪くないなと思えるようになったの。もう過ぎてしまったことだし。ただあの音源をライヴでやるにはいろんな音を削ぎ落とさなければならなくて、それが今回のアルバムの教訓になっているの。レコーディングでは「これを上げて、これを下げて」ってバランスを取れるけど、ライヴではすべての音を鳴らせるわけじゃない。『フールズ』では本当は削りたくない音まで削ることになっちゃったから、今回のアルバムではそうならないようになるべく音数を増やさないように心がけたの。まだあの頃は言いたいこともたくさんあったし、「Less is more」の精神がわからなかったのよ。

Hyperdub 10 - ele-king

 なにせローレル・ヘイローのライヴを見れるんだぜ、それだけでも充分なのに、DJラシャドのDJで踊れる。エレクトロニック・ミュージックないしはダンス・ミュージックが好きで、いま海外で起きている、ちょっと尖ったことに少なからず興味がある人なら、こ、こ、これは、真面目な話、なんとしても行かねば……ですよ! DJフルトノもプレイするしな。先着順の特典も欲しいので、オレは開場時間に行こっと。

 出演者のプロフィールなど、細かい話はココを見てくださいね。
 ↓
 https://www.beatink.com/Events/Hyperdub10/

●来場者先着特典有り!

2014/1/31 代官山UNIT
OPEN/START 23:00  TICKET: 前売3,800YEN / 当日4,500YEN
※20歳未満入場不可。入場時にIDチェック有り。必ず写真付き身分証をご持参ください。
You must be 20 and over with photo ID.
企画制作/INFO:BEATINK 03-5768-1277(www.beatink.com
主催:シブヤテレビジョン

前売TICKET詳細:
BEATINK (shop.beatink.com
ローソンチケット - https://l-tike.com(Lコード70328)、
イープラス e+ - https://eplus.jp
tixee (スマートフォン用eチケット) - https://tixee.tv/event/detail/eventId/3725
clubberia (eチケット) - https://www.clubberia.com/ja/store/product/382-Hyperdub-10-E/ :1/31(FRI)14:00まで販売。

店頭販売(1/31(金) 各店閉店まで販売):
TOWER RECORDS(新宿店、秋葉原店)
disk union (渋谷Club Music Shop / 新宿Club Music Shop / 下北沢Club Music Shop / お茶の水駅前店 / 吉祥寺店)
disc shop zero
JET SET TOKYO

地方公演:レーベルの豪華精鋭4組が一挙に4都市を巡る激圧JAPANツアー!
2014/2/1(SAT) 名古屋CLUB MAGO
INFO: CLUB MAGO 052-243-1818[ https://club-mago.co.jp ]
2014/2/2 (SUN) 金沢MANIER
INFO: MANIER 076-263-3913[ https://www.manier.co.jp ]
2014/2/3 (MON) 大阪CONPASS
INFO: CONPASS 06-6243-1666[ https://conpass.jp ]


T.B.Brothers - ele-king

Bing Ji Ling - ele-king

 昨年末の超満員のリキッドルームでモダン・ラヴァーズの“エジプシャン・レゲエ”をカヴァー(というかフレーズを引用)したのはオウガ・ユー・アスホールだった。そして、パティ・スミスがリアーナの“ステイ”をカヴァーしていると教えてくれたのは三田格だった。どちらも意外と言えば意外で、いや、オウガはアリか……、しかし後者は意外でしょう。かねてよりカヴァーを好み、歌詞マニアとして高名なパティ・スミスでさえもリアーナを認めるのか! と嬉しい驚きである。

 カヴァーは、商業音楽における常套手段だ。多くの人の耳に馴染んだヒット曲をオリジナルとは違ったアレンジで再現することは、アレンジの妙技を伝え、売れる可能性も追求する。多くのカヴァーにおいては、より洗練されたアレンジが求められる。たとえばレジンデンツの嫌味な“サティスファクション”ではより売れなくなり、リンダ・ロンシュタットが“アリソン”を歌えばエルヴィス・コステロの原曲より大衆受けする。カーペンターズがビートルズをカヴァーすればビートルズを聴かない層にもアピールする。
 それはAORへと繋がる。それは口当たりの良いMORへと繋がる。不思議なもので、バート・バカラックの“クロース・トゥ・ユー”をジャマイカのフィリス・ディオンがカヴァーすればルードボーイが涙し、北欧のジャズ・シンガーが歌えばオヤジの外車で再生される。マイルス・デイヴィスがシンディ・ローパーの“タイム・アフター・タイム”をカヴァーすれば誰もが微笑む。カヴァーは、聴き手を選び、原曲の方向性を変えることもできる。たいていの場合、我々音楽ファンを楽しませてくれる。

 Bing Ji Ling(冰淇淋)とは、中国語でアイスクリームを意味するそうだ。上海に1年住んだことのあるという彼は、トミー・ゲレロのバンドのメンバーとして紹介されることが多いようだが、調べると、西海岸のタッスルの元メンバー(ジ・アルプスのメンバーでもある)なんかともいろいろなプロジェクトをやっていたことがわかる。ノルウェーの〈スモールタウン・スーパーサウンド〉、サンフランシスコの〈ロング・ミュージック〉、ニューヨークの〈DFA〉といったクラブ系のレーベルから作品を出している。ディスコ・バンド、フェノメナル・ハンドクラップ・バンドのメンバーとしての活動も知られているが、ソロとしてのキャリアも10年ほどある。日本では、2009年に〈RUSH! PRODUCTION〉から出た『So Natural』が話題になったが、同年のシングル「ホーム」はクラブ・ヒットもしている。
 彼のユニークなところは、彼の経歴からもわかるように、アコースティック・ギターとソウル・ヴォーカルの組み合わせ──いわばSSWの弾き語りスタイル──をクラブ・ミュージックのコンテクストと接合した点にある。言うなればチルアウトなソウル歌手だ。

 ビン・ジ・リンの新作は、全曲カヴァーで、プリンス、シャーデー、ドナ・サマー、リル・ルイス、ティアーズ・フォー・フィアーズといった有名どころから、80年代に活躍したロンドンの洒落たラテン/ソウル/ジャズ・バンド、ルーズ・エンズ、スイスのシンセポップ、ジャズのスタンダードなんかの曲も試みている。ちなみにドナ・サマーの曲は、超有名な“ラヴ・トゥ・ラヴ・ユー・ベイビー”。他は、リル・ルイスの“クラブ・ロンリー”、プリンスの『パレード』収録の“アナザー・ラヴァー”、シャーデーの『ラヴ・デラックス』収録の“キス・オブ・ライフ”など、80年代なかばから90年代初頭にかけての曲が多い。
 アイスクリームを名乗るくらいだから、実に口当たりの良い、洗練されたアレンジと歌をビン・ジ・リンはやる。軽いボサノヴァや無害なジャズに混じって高級車やカフェでかかっていることも充分にあり得るだろうし、うちの母親だって聴け……るってことはないだろう。居酒屋でかかるって感じではない。が、とにかく、それほどぱっと聴きは、清潔感に満ちた、青く透明に広がるMORなのだが、しかし“ラヴ・トゥ・ラヴ・ユー・ベイビー”や“クラブ・ロンリー”の歌詞を思えば、これはエロさを隠し持った清潔感なのである。しかも、アルバムはチルアウトな感性で見事に統一されている。録音のクオリティも高く、マンキューソに評価されるのもうなずける。
 このアルバムにはシュギー・オーティス(ソウルに電子音を注いだ先人)からの影響も見受けられる。エレクトロニクス(電子音からギターのループなど)と適度なパーカッションは、目立たないけれど、あまたのアコギ+歌モノとは一線を画すべく、ユニークな響きを引き出している。マーク・マッガイアがアコギでバート・バカラックのカヴァーを歌っていると言ったら大げさだけれど、というか、そのレヴェルの面白さを誰か追求して欲しいものだが、タッスル~ジ・アルプスとの共作という過去とも、言われてみれば繋がるなとは思う。また、本作は最近のネオアコな気分とも同期している、と言えなくもないか。

ピンクの三角形とこの痛みを胸に - ele-king

「自分の人生を生きたいだけ 知る限りのいちばんいいやり方で/だけどあいつらは言い続けるんだ お前にそれは許されていないと」

 僕は本当に迂闊な人間なので、そんな言葉で始まるジョン・グラントのピアノ・バラッド──昨年の素晴らしいアルバムのクロージングを飾る美しい一曲──が、ゲイたちの人生に向けて歌われていることに、年が明けて発表されたこのヴィデオを観るまで気がつかなかった。そこでは、おそらく1930年代辺りから現代に至るまでのLGBT()の愛と闘いの歴史が、膨大な映像や写真をコラージュ的に詰め込むことで8分に凝縮されていたのだ。そのヴィデオを観たのはグラントが自身のHPで素っ気無く紹介していたからだが、僕はPCの画面の前で完全に打ちのめされてしまった。

 はじめのヴァースでは第二次大戦前後における同性愛のアイデンティティの目覚めと迫害の歴史が映し出される(恋愛関係にあったのかもしれない兵士たち、病だと「科学的」に喧伝される同性愛、『オズの魔法使い』)。現代から見るとそこで映し出される「彼ら」が同性愛者なのかはわかりにくいし、年代も判然としないものが多いのだが、ナチスのイメージがどうしてここで引用されるかはわかる。同性愛者たちはホロコーストで強制収容されていた事実があるのだ(小学生のときに習った覚えはないが)。”But this pain,”……その映像を背景にして、コーラスでグラントの声が響く。

 だけどこの痛みは、
 きみに向かっていく氷河
 貴重なミネラルや他のものを蓄えながら
 深い谷を彫り刻み 壮大な風景を創りあげていく
 だから恐怖を麻痺させてみたらどうだろう、
 状況がとりわけつらく思えるときには

 ひとつはっきりと言えるのは、このヴィデオがたんに歴史的事件を機械的に羅列しただけのものではないということだ。ヴェトナム時代を迎えてカラーの映像が多くなったあと2度目のコーラスで”this pain”とグラントが歌う瞬間、その日付ははっきりとわかる。1969年6月28日、ストーンウォールの反乱だ! そして西海岸ではハーヴェイ・ミルクが登場し、同性愛者たちの権利運動(と、警察との闘い)は過熱していく……が、3度目の”this pain”では1978年11月、銃殺されたミルクの通夜を、そこに集まった数千人の人びとの悲しみを映し出す。穏やかだが熱のこもったメロディと寄り添うように掲げられる無数のキャンドルたち……。ひどくエモーショナルで、センチメンタルですらあるその映像の続きでしかし、わたしたちはまだまだひとが死ぬことを知っている。80年代がやってくるからだ。正確に言えばあの忌々しいロナルド・レーガン時代、エイズの炎が燃え盛った季節の到来だ……。

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ジョン アーヴィング
(小竹 由美子 訳)
ひとりの体で

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 偶然にも、このヴィデオとまったく同じことを書いた小説をまったく同じ時期に僕は読んでいた。ジョン・アーヴィングの新刊『ひとりの体で』(小竹由美子訳、新潮社)である。だけど、大きく、奇妙で、可笑しく、そして間違いなく魅力的なこの作品をどこから説明すればいいのだろう? ……迷ったときは1ページ目を開いてみよう。そこにはこんな文章が書いてある。「私が作家になったのは十五歳という成長期にチャールズ・ディケンズのとある小説を読んだからだと誰にでも話しているのだが、」……。アーヴィングといえば(ジョイスなどの)ポストモダン文学をこき下ろし、ディケンズに由来するような物語の復権を訴えた作家として有名だが、それとてずいぶん昔の話だ。つまり、じゅうぶんに文学者としての地位を築き上げた大家が、いま紡ぎ上げたかった「物語」こそが本作だ。
 『ひとりの体で』では、70を目前とした老作家が10代の頃からの自分の人生を振り返る文章が綴られるのだが、一人称の主であるウィリアム・アボット──愛称でビリー、ビル──はバイセクシュアルであることで、性の揺らぎに翻弄される人生を歩んでいく。一見、半自伝的な体裁を取っているようで(物語の背景や舞台はアーヴィングの個人史と合致する部分も多い)そうではなく、著者いわく「もし十代の私が幼少期の衝動に従って行動していたらどうなっていたか、という想像」(本作帯より抜粋)であるという。そして本作では、そのでっちあげの歴史が、性のはぐれ者たちの見落とされた歴史と接続される。
 アーヴィングの生まれ年によるところもあるが、年代設定が巧みだ。回想の形を取っているので時系列も空間も行ったり来たりするのだが、上巻ではおもに10代のビリー青年がみずからの性の確固たるアイデンティティを獲得するまでが描かれる。それが1960年まで。下巻では、彼が故郷を離れて世界のさまざまなところで経験するさまざまな人間との性の探求がスピーディに展開するが、そこには当然、現代に至るまでの激動のセクシャル・マイノリティの歴史が詰め込まれており(すなわち、60年代からエイズ禍へと至る壮絶な年月も)、個人史は同時にすべての同性愛者たちの人生を浮かび上がらせていく。アーヴィングは本作をはっきりと「政治的」だと説明している(ちなみにアーヴィングの末の息子はゲイだと公言している)。
 が、もちろん、これは「物語」だ。それは“グレイシャー”と同じように、時折ひどくエモーショナルで、センチメンタルですらある。たくさんの面倒くさくて愛おしい人間たちが登場し、そしてたまらなく印象的で叙情的な場面が次々に訪れる(お気に入りの場面はたくさんあるが、僕はビリーが老いたレスリング・コーチにある「技」を教えられる、どこか滑稽でとても切ないくだりを挙げたい)。

 レーガン時代に戻ろう。小説が70年代も終わりに近づく頃、もうすぐたくさんひとが死ぬだろう予感が漂い始める。しかし気づいたときにはすでに遅し、物語の前半で登場したたくさんの人間たち──同級生や友人、かつての恋人たち──がバタバタとエイズでこの世から消えていく。メル・シェレンの自伝の下巻においてエイズ時代到来以降に友人たちや恋人たちが次々と死んでいくのをしくしく泣きながら僕は読んだものだが、『ひとりの体で』の下巻におけるエイズ時代を僕はやっぱりしくしく泣きながら読むしかなかった。だがそこはアーヴィングだ、それでも不意にこぼれるユーモアに、僕は同時に笑ってさえいた!(そしてそれは、ジョン・グラントがもっともヘヴィなテーマの楽曲にかぎって皮肉に満ちたユーモアを用いることを僕に思い起こさせた。)
 ソダーバーグの『恋するリベラーチェ』にしても、もうすぐ公開されるジャン・マルク=ヴァレ監督『ダラス・バイヤーズクラブ』にしてもそうだが、いまさかんにエイズ禍が回顧されているのは偶然ではない。ゲイ・ライツ運動が沸く現在という時間の前にどんな地獄があったか、どんな闘いがあったのか、どんな愛が、どんな痛みがあったのか……「わたしたち」の前史を思い起こすためだ。数え切れない死者を出しつつ、あるいは、あの時代を生き残ってしまった者たちは消えない罪悪感を抱えつつ、しかし『ひとりの体で』のビリーも“グレイシャー”で映されるゲイたちも力強く現代へと向かっていく。

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 “グレイシャー”のヴィデオは、ピアノとストリングスが華麗に壮大に歌い上げるアウトロで90年代から現在へと猛烈な勢いで進んでいくが、そこではおもに同性愛を描いた映像作品と社会運動がピックアップされる。『マイ・プライベート・アイダホ』、ヘイト・クライムの被害者たちと加害者たち、『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』、提案8号、『トランスアメリカ』、『エンジェルス・イン・アメリカ』、「神はオカマを嫌ってる」のプラカード、『ブロークバック・マウンテン』、『モンスター』、もちろん『ミルク』、ブッシュ政権からオバマ政権へ、同性結婚デモとゲイの結婚式、数々のゲイ・プライド、プッシー・ライオット、『アデル、ブルーは熱い色』、そしてフランク・オーシャン。嵐のように吹き荒れる大量の映像に圧倒されるがしかし、ディス・イズ・ハプニング、身体と脳が反射して、これはまさに「いま」起こっていることなんだと意識に入り込んでくる。
 ヴィデオは暗闇に煌く無数のピンクの三角形を映して終わるが、レインボー・カラーよりもピンク・トライアングルを選ぶところがジョン・グラントらしい。ラベンダー・ピンクの三角形は先述のホロコーストで同性愛者を識別するために彼らの胸につけられたものであり、そして現在はLGBTの権利運動のシンボルとなっている。いま愛と権利を訴えることは同時に、迫害の歴史を、たくさんの友人たちと恋人たちの死を思い起こすことだと三角形はわたしたちに訴える。ジョン・グラントは同性結婚をして都会的な暮らしをして、養子を迎えるようなゲイの幸福を体現することはなかったが、むしろそこから離れたところで──HIVポジティヴを公言し、自らの惨めさを隠さず、徹底して孤独であることを歌うことで、僕たちゲイの希望の星となった。なぜならば彼は誰よりも独りだが、彼は「この痛み」が自分だけのものでないと知っているからだ。

 「この国は遅れている」などと、ブツクサ文句を言うのはもうやめにしたほうがいいのだろう。だって、これは、たったいま起こっているんだから! わたしたちは、彼らと彼女らと彼でも彼女でもない、たくさんの性の逸脱者たちとともにいる。それに、たくさんの幽霊たちもついている。この痛みが壮大な風景を創りあげるまで、わたしたちは何度だって、その愛おしいひとたちのことを思い出すことができる。

※LGBT……レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの総称。本稿ではゲイであるジョン・グラントを中心としているのでゲイという表記が多くなっていますが、とくに男性同性愛者に限定する意ではありません。また、『ひとりの体で』の作中にもありますが、最近ではLGBTQ(Qはクィアもしくはクエスチョニング(未確定))、など様々なヴァリエーション

踊ってばかりの国 - ele-king

 現世に属さない者たちのうた。天国も地獄も満員で、神さまの見習いが作ったようなこの出来損ないの世界を漂泊する、本当はここにいない者たちのうた。踊ってばかりの国は、最初、そんな風に聴こえた。『Good-bye, Girlfriend』のころの話だ。
 それは陽気で、浮世離れしていて、サイケデリックで、夢心地で、ちゃらんぽらんで、ゆったりとしていて、ヘラヘラで、牧歌的でありながらもアシッディで、ダーティで……同時に、手が付けられないほど醒めてもいた。斜に構える、というレベルの話ではない。僕はもう、この世の住人ではありません。ですから、あなた方、世俗のイザコザとはいっさいの関係を持ちません。僕は風であり、花です。まるでそんな風に聴こえた。もっとも素晴らしかった頃のデヴェンドラ・バンハートがそうであったように。

 実際、「あの日」を境に、現実の世界に引き寄せられていく彼らだが、驚くべきことに、そのどこまでも陽気な曲調・発声という点において、彼らはあの震災の影響を受けることがなかった。少なくとも表面的には、そう思われた。2011年の11月にリリースされた傑作『世界が見たい』は、『カメラ・トーク』に喩えられたほどだ。彼らはいつもの、あの底抜けに陽気な調子で、死について、神さまについて、愛について、あるいは続くEP『FLOWER』では放射能や、戦争のことを歌った(“話はない”は、デヴェンドラの反戦歌“Heard Somebody Say”へのアンサーだろう)。
 とてもシンプルで、簡単なことが、どうしても理解できない人たちと共に暮らさなければならない痛みの傍らで、なにもシリアスになることだけが抵抗ではない──リリックの額面以上に、下津はそんな風に歌っているように思えた。彼らのレパートリーには“ルル”という宝石のような1曲があるが、一匹の犬のためにこんなにも美しく歌ってやれるシンガーを僕は他に知らないし、もちろん、そんな人間があの日以降の一連の出来事に何も感じないわけがない。だからこそ、一度は「世界が見たい」という形で表現された切なる願いが、すぐに「別に話はない」に反転してしまうわけだが、その黙秘に込められた怒りに僕は震えも泣きもした。

 そして、東京──。踊ってばかりの国は、下津光史は、2014年という時代をあなたと共有すべく、現世に降り立った。行き先はしかも、東京駅前。よりによって、丸の内の小奇麗なオフィス街だ(https://www.youtube.com/watch?v=__gLp_GImtA)。そのバックには、跳ねるように軽快なスネア、ご機嫌なベースライン、抑制の利いたギター・ソロといった、およそ不釣合いな音楽が流れている。そう、活動休止期間と、メンバーの交代がどれほど影響したかはわからないが、これまで以上にルーツ・ベースドで(ブルースからの影響がより大きくなったかもしれない)、新体制での基本的なアンサンブルを噛みしめるかのごとく、驚くほどシンプルなロックンロールがごく淡々と鳴っている、あるいはとてもダンサブルに。
 しかも、下津が“東京”で歌う「東京」は、なんら象徴味を帯びることがない。どこにでもある没個性的な労働都市として、その街を突き放して見せる(実際、下津の声は素面で、どこか素っ気ない)。これは正直、ステレオタイプな描写と言えなくもない……が、それもおそらくは「あなたたち、何も変わらなかったね」という皮肉に違いない。おまけに途中、「横断歩道に4人で」という、ウンザリするほど使い古されたあの構図が採用されているのだが、4人はそこで歩きもしなければ笑いもしない。やがて、下津だけが風にさらわれるようにして消える。何を言い残すこともなく。そこにはいささかの感傷もない。

 アルバムには、おそらくバンド史上もっともシンプルで、ポップな楽曲がずっしり詰まっている(“風と共に去りぬ”、“正直な唄”、“サイケデリアレディ”……)。が、注目はやはり、風営法の規制強化に言及した“踊ってはいけない国”だろうか。この曲は、例えば磯部涼の一連の編著に集められた文化人・知識人の知的反骨心と呼ぶべきロジックの強靭さとはまったく異なる位相で、ある種の言い方をすれば、とても無責任に鳴っている。そもそも、『踊ってはいけない国、日本』(河出書房新社)というタイトルからして、これは法解釈の厳密さを欠いたミスリードに取られる可能性があるとして、磯部涼自身が何度も牽制球を投げていたものだったハズだ(事業者への一定の規制はどんな分野にだってある)。
 それが、ふはははは、2014年というこのタイミングで、下津は「踊ってはいけない/そんな国がほらあるよ」「踊ってはいけない/そんな法律があるよ」と、なんの予防線を張らずにひとまずは歌い切ってしまう。「ここにはクソな国がほらあるよ/クソな法律があるよ」と。この大胆さこそが彼らの魅力だとは理解しながら、すでに重ねられた具体的な議論をまったく無視したようなこうした表現には、違和感がないでもない。もちろん、下津はもともと多くの言葉を持つタイプの歌い手ではない。彼の口から飛び出すのは、ただ花に見とれ、星を数え、風のうたに耳を澄ませている人間の言葉だ。
 しかし、だからこそ、おこがましくも蛇足しよう。個人的にこの法律が気に食わないのは、「善良の風俗と清浄な風俗環境の保持/少年の健全な育成」という目的、かつての警察官僚が真剣な顔で掲げたのであろう、この大義名分、法律の根っこのほうだ。彼らが対峙すべきは、もしかしたらこちらではなかったか。ロックンローラーとして生まれた人間がこんな時代にもいるのだな、ということを、彼らはただそれだけで示してきたのだから。ちなみにこの“踊ってはいけない国”という曲には続きがあって、12インチのEPでDJ YOGURTによるアシッド・リミックスに生まれ変わる予定、ということがすでに報じられている。つまり、まあ、とりあえずは「そういうこと」なのだろう。踊ろう!

ANYWHERE STOREにてCabaret Voltaire× Sk8ightTing - ele-king


ANYWHERE STORE
https://www.ele-king.net/anywherestore/

名盤3タイトルのリイシューが大好評だったキャブスからリイシュー企画第二弾登場!

‘85年に発売されたCabaret Voltaire、4曲入りEPのリマスター音源(CD)と、入手困難だったインダストリアル映像のバイブルとしても名高い(DVD)の2枚組が発売!!

さらに、今回Sk8ightTing(スケートシング)とのコラボレーションが実現!
C.EのTシャツ付限定盤をANYWHERE STOREで販売開始しました。
ホワイトカラーが手に入るのはANYWHERE STOREだけです!!

ジャスト・ファッシネイション(まさに魅惑)
──『ザ・クラックダウン』に収録された彼らのヒット曲の曲名の通りです。

Cabret Voltaire x C.E T-shirts SET
定価:6,825円(税込)
Mサイズ:着丈69/身幅52/袖丈20
Lサイズ:着丈73/身幅55/袖丈22

  

※サイズには個体差があります
※洗濯後縮みます
※乾燥機の使用不可

[CD]

85年に発売された4曲入りEPのリマスター音源。
(収録時間約33分)

【Drinking Gasoline】
1 Kino 8:28
2 Sleepwalking 8:27
3 Big Funk 8:10
4 Ghost Talk 7:59


[DVD]
85年に発売されたウルトラ・クールなインダストリアル映像作品”Gasoline in Your Eye。この映像作品は、彼らの音楽同様、今でも最も先鋭的な作品だ。今回リリースするにあたりDVD Extra映像として4曲のミュージック・ヴィデオを追加収録された。
監督は、自身とピーター・ケア(デペッシュ・モード、R.E.M., ニュー・オーダー、P.I.L.等のMVを手掛けた映像作家。UK, 旧東西ドイツ、日本、US等で撮影された映像を元に制作された。
(総再生時間:約82分)

【Gasoline In Your Eye】
Introduction 3:45
Crackdown 8:28
Diffusion 8:04
Sleepwalking 8:23
Slow Boat To Thassos 6:17
Sensoria 7:50
Automotivation 6:20
Big Funk 8:12
Kino 8:39
Ghostalk 8:08
Fadeout 7:04

Directed by Cabaret Voltaire and Pter Care

【DVD Extras】
Just Fascination 7” Mix 3:06
Sensoria 7” Mix 4:05
I Want You 7” Mix 4:03


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