「Nothing」と一致するもの

Helm - ele-king

 最近誰の家に遊びに行ってもレコード棚にPANの音源がチラ見できることにヘソを曲げている僕は、その都度持ち主に対して「なんでみんな2~30ドルも出してPANの12インチ買うのかなー』等と嫌味を言っている。だって正直僕も好きだから。アートワークにアーティストのピックアップ、リスナーへの裏切り加減、と悪い印象がない。それでいてレーベルの実態もはっきりしない。そりゃあ気になるよ。

 バーズ・オブ・ディレイ(Birds of Delay)は2000年代後半にロンドンを拠点としながら精力的に活動をおこなっていたハーシュ・ノイズ・ユニットだ。彼らのサウンド、また活動範囲やリスナーはかなりUSノイズ・シーンに食い込んだものであったと言える。どことなくスカルフラワーを彷彿させ、サイケデリックとも感じられるハーシュの嵐は、多くのUSノイズ・ファンを恍惚とさせた。しかし当時からポップなセンスを兼ね添えたユニットであったといまさらながら思う。

 片割れのスティーヴン・ワーウィックはバーズ・オブ・ディレイ時代とまったくほぼ同じセットアップ、具体的にはクソ・カシオトーンとループペダル、そしてなぜかマラカスによる人力ハウスを展開するヒートシック(Heatsick)にてサンフランシスコを拠点にブレイクしている。先日、LAにて行われた〈ノット・ノット・ファン〉10周年イヴェントのトリもおおいに盛り上がり、ひと一倍盛り上がる汗ダクのブリット・ブラウンを見ながら爆笑していた。そしてスティーヴンがバーズ・オブ・ディレイにおける光であったとすればヘルム(Helm)のルーク・ヤンガーは影だ。

 ヘルムは聴者に強烈な印象を残すサウンドではない。それでいて異常なまで中毒性が高い。同じく〈PAN〉からの前作『サイレンサー(Silencer)』そして本作『ホロウ・オルガン(Hollow Organ)』どちらも僕にとってBGMとして針を落とす頻度の高いレコードだ。サンプリングとモジュラー・シンセによる漆黒のマテリアルが剃刀の上に見事なコンポジションを成している。昨今のノイズ上がりの(クソ)テクノと一線を画すのはそのサウンドが破壊的ではなく圧倒的に繊細かつ空虚だからだ。トライバルなパーカッションに金属音、ミニマルなシンセサイズにノイズと、トレンドな素材を用いつつも誰よりも器用に展開し、緊張感をもって扱っている。いままでのグラハム・ランキン(Graham Lamkin)によるアートワークを考えれば、それはUSノン・ミュージックからの影響とも捉えられるし、いずれにせよドローン化するテクノ、ゴスやEBM、コンテンポラリー、ノイズの絶妙な着地点を計算しつつもそれが嫌味に聴こえないのが不思議だ。
 サウンドシステムが劣悪な状況での記憶だが、ライヴでの退屈さには改良の余地はあれど、この手のサウンドではもっとも洗練された部類であることは間違いない。

The Men - ele-king

 僕はザ・メンが大好きだ。クラウド・ナッシングスよりも好きです。クラウド・ナッシングスのディラン・バルディはライヴ終わりに話しかけてきたお客さんに年齢を訊かれて「22歳」と言ったら、「22歳に見えない」と言われてすごい落ち込んでいて可愛かったですが。
 ザ・メンのギターをジャングリングしている感じが好きなんです。僕は元パンクなので、ジャングリングするな、ストラミング(ストラマー)しろ、なんてふうに思っていたのですが、いまはジャングリングが大好きです。趣味がギターを弾くことになったからでしょうか。昔はダイナソーJRやティーンエイジ・ファンクラブのよさがいっこうにわからなかったんですが(この頃は、正確にビートを打ち込んでくれ! というふうに思っていたのでしょう)、いまはジャングリングしてよ、ニール・ヤングしてよ、という感じです。

 ザ・メンの音楽を聴いているとギターを楽しく弾いて、歌いたいなという気になってきます。これはけっこう不思議な感じなんですよね。ダイナソーJRを聴いていてもあんまりギターを弾きたい、歌いたいという感じにはならなかったのですが、ザ・メンはもっとシンプルだということでしょうか。でも、そのシンプルさがすごくいいと思うんだな。そんなザ・メンの新作『トゥモロウズ・ヒッツ』は、前作『ニュー・ムーン』(2013年)、さらにその前作『オープン・ユア・ハート』(2012年)のサイケデリックな混沌とした感じが抑えられ、テレヴィジョンな感じも出てきて、僕はますますいいんじゃないのと思ってしまいした(前作のタイトルは『ニュー・ムーン』ですけどね)。なんでも、約40曲もあるデモ音源から選りすぐったものを、時間をかけて仕上げたそうで、作曲能力もグンと上がったような気がします。ホーン・セクションなんかも加わっていますね。

 でも、ザ・メンを聴いていると、やっぱりいっしょに歌いたいな、ギターを弾きたいなと思えてきて、そういう魅力は健在です。ただ単にシンプルという部分に惹かれていたのではないのかもしれません。きっと、彼らの音楽に対するアテチュードにやられていたんですね。いまどき、こんなストレートで豪快なバンドをやるということがすごいことですよね。イギリスなんかを見ても、いまはなかなかこの手のバンドで目立つ存在がいないんじゃないかな。
 頑張れ、ザ・メン。僕は応援します。

GEZAN USツアー日記 2/21〜3/13 - ele-king


下山(GEZAN)
凸-DECO-

ツクモガミ/BounDEE by SSNW

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 紙エレキングにて、下津光史(踊ってばかりの国)とマヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)との対談をやったのが2月18日、そのときにマヒトゥは、「明後日からUSツアーに行ってくるんすよねー」と言った。「本当に行けるかはまだわからないんですけどね」と付け加えた。え? それってどういうこと? と思っていたら、ものすごい強引な速度で物事を進めたらしく、バンドはまんまと海を渡ったのだった。以下、GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーのツアー日記である。彼の見てきたアメリカをある程度は共有できるほど、とても面白いエッセイなので、ぜひ読んでください。(野田)

※GEZAN YOUTUBE
https://www.youtube.com/user/GEZAN13threcords

■2/21(fri)空港

3週間にわたるアメリカツアーに向けて韓国で乗り継ぎ、NEW YORKをめざす。1週間前の北海道でのライヴの際、航空券を光の速さでおとしたので今回はパスポートごと破れるほどの握力で握りしめている。にん
機内で韓国のぼっちゃんがきゃんきゃんわめいてる。キムヨナがフィギュアで金メダルをとれなかったというコリアンショックが永久歯一本もない彼の神経系全般を鋭利に駆り立てているのだろう。
窓から太平洋にいびつな銀色の斑点をみた。くらげの大群だろうか、真っ黒な夜の海にできた水疱瘡の深夜3時。

13時間後、到着
税関でギターのイーグルが七味唐辛子の説明を身振り手振りつたない英語で説明していた。あやしいものでは無いと小指につけて舐めてみせる。まったく伝わっていない。「what's this?」とビッグダディはイーグルの瞳をのぞきこむ。戦え、デコ助。

ぼくは歯磨き粉をとられた。
そんなこんなでアメリカにきたのだ。

■2/22(sat) NY

GEZAN USツアー日記

レンタカー屋まで我々を運ぶインド人タクシーの運転手は100%ランチにカレー食べたのだろう。車内にプーーンと匂いが充満している。

当然のことだけど、たくさんの人種がNYにはいる。日本では日常のなかなか感じることは少ないけど、アメリカでは当然のように生活の中に"ちがい"が組み込まれていた。
差別も自由もこういった感覚からはじまるのだなー。みとめたり、はじいたり。

この日、空き日に飛び込みでライヴをさせてくれる箱に直接かけあいに夜のNYの市街にでた。
当初20本あったライヴが3本に減ってしまったからだ。
しかも泊まる場所も決めずにとりあえずNEW YORKにきてしまっただよ。なんも予定がないからっていってぐだぐだ鼻くそほじってるほど牧歌的になれないのでとりあえず週末のクラブへ。

踊りたくてはちきれそうなヤンキーの欲望が渦巻くNYのludlowストリートへ、ポリスの乗っている馬がたらす糞を後始末をせず道路の真ん中を闊歩していく。
街中がネタ臭いのに、何を取り締まっているのだろう?
馬にのって人より高い位置から星の数を数えているのだろうか。

■2/23(sun) NY @pianos

NYのpianosは流行に敏感なだけの若者が集まり、流行りの四つ打ちで腰をくねらすNYのライヴbarといった印象。
ここが下山のアメリカ初ライヴの地となる。
ピーランダーゼットというアメリカ在住の日本人バンドのフロントマンイエローさんがスケジュールに穴のあいた下山のために急遽ねじこんでくれたイベントだった。
対バンは、才能のないビョークが勘違いをこじらせたようなシューゲイザーと、全員下をむいたいじめられっこ更生目的バンドと、顔だけパティ・スミスのおっさん弾き語りなど、涙が出るほどダサかった。バンドってなんてカッコワルイのだろう。
昼間、楽器屋にもいったが、腕に炎の刺青で脇毛まで金髪のハードロック親父がピーナッツ食いながら接客してくれて、チーム下山は苦笑いしながら店内を物色した。NYはそれを強く感じさせるシャープな空気をまとっていた。

ロックがワルくて尖っていた時代なんて思い出だよと言われんばかりに、打ち込みに群がるヤンキーの尻をみながら、かつてCBGBでこすれあったRAMONESやTELEVISION、JOAN JETの涙が蒸発する音をきいた。

別に名前や形なんてどうでもいいから狂いたいやつだけこいとわたしはおもったのでした。そして、そのまま皮膚づたいに共振する夢をみた。
そこに国境はみえなかった。みえないものはないものとおなじだ。
体温だけ信じよう。ぷーぱ

■2/24(mon) 無題

GEZAN USツアー日記

何もすることがない日があると天上ばかりみて、その染みが顔にみえてくるあたりからパズルのピースが変形してくる。それはそのままこころのかたち。
この日泊まったホテルはインド人が夜な夜なパーティをしているヘンテコな場所で、壁づたいに聞こえる音楽はブラストビートに呪文が乗っかったような、とても常人のきくものとは思えない。廊下や階段を埋めつくすカレーの匂いでぼくら、太古の彼方までぶっ飛んだ。
逃げ出すようにテラスにでて空をみたらカモメがみゃーととんでいる。どこの空もたいしてかわらないが、NYの空は雲までラッセンの書く絵のようにはっきりとした輪郭と影で描かれている。食のようにここまで大味にされるとゲンナリしてくる。

ぼくのワビとサビをカエシテ。

GEZAN USツアー日記

■2/25(tue)Brooklyn NY@don pedro

2/25日は夕方にごそごそと起き出してブルックリンの街てくてく歩いた。若いやつが街ごとジャックして好き勝手遊んでるかんじ。壁にしきつめられたグラフティがしのぎあって、その絵ずらだけでも体温2、3度あがる。てかもう描くとこないんじゃない?なんて思うけど。
DIYのライヴスペースには看板もなにもなく、パーティの音は倉庫の奥からどこどこと、無許可に街中が震えてる。風営法と戦う暇があれば抜け道みつけて命がけで遊べよと日本で思っていたけど、それをまるごと体現したような街なみだった。にゃーご
無意味な遊びにたましいを売ってる人ってなんだかピタっとグルーヴがあったりする。グラフティやってる友達、じぶんにも何人かいるけど、アートなのか? 落書きなのか? なんて議論入り込む隙間なんかないのよね。
壁の保有者に捕まったら、警察か、言い値でどんだけもふっかけれられるギリギリのリスクのところにいながら、顔を露出させるわけでもなく、金にかえれるわけでもなく、淡々と火花を散らす街遊びにはオトコノコのロマンがある。
ロマンが理由なら倫理はあっても、法律なんか一切関係ないのよねー。

そのブルックリンのDON PEDROで飛び込みでライヴがきまった。2時間後にだって。にゃー。低体温に寝ぼけていた細胞が逆立ってくのがわかる。音楽よりまえに動物には瞬発力があった。ぼくが怖いのは速度だし、憧れるのも速度だ。
その中に真っ白い国をつくりたい。0.1秒の世界に国をつくりたい。各々が血と精液とセメントで各々の王冠をつくって、家来ひとりもいなくとも王様として、昨日というコトバと未来というコトバを忘れた国家をつくりたい。

ライヴかましたら次の日もブルックリンの別の店GRAND VICTORYでライヴきまった。このかんじ。意志や個人ではない。ただの石になって転がるだけのこのかんじー。
いちばんいらないジブンという勘違い。

■2/26(wed)Brooklyn@grand victory

この日は飛び込みでライヴが決まったgrand victoryへ、前日告知にも関わらず、important recordの声がけやPee lander ZのYELLOWさんの呼び込みでわりとフロアがうまっていた。中にはDEER HOOHのさとみさんや、RAMONESのジャケットをかいていたジョン・ホルムストルムも来ていた。

箱PAとやや揉めながらもライヴ終了。
さとみさんとイベンターのemiはこの後もクラブに踊りにいくそうだ。水曜の23時からのこのフットワークの軽さがこの街の、欲望に貪欲でクールな音楽シーンを支えている気がした。というか、スタートが9時、10時は当たり前。ライヴハウスで働いてるニンゲンのための遊び場なのなー。
一緒にいきたかったが、ground stのタコス屋でいかれたインド人とギターウルフの話で盛り上がってしまっていけなかった。それもまた出会い。
この日、別の箱でDEERHOOFのグレッグが、次の日、BLACKDICEのラストライヴがあるらしい。こちらもライヴでいけないが、高揚感がうずまいた街のその中で溺れるのがただただ気持ちよかった。

このブルックリンも金持ちに建物ごと買われたりと少しづつ遊び場を侵食さへているようだ。
別に場所を守るなんていう発想はなく、追われたら場所をかえながらパーティをつづけるだってー。
別に文化でも芸術でもなく、もっと野蛮でただぶっ飛んでいたいだけの欲望の金粉が、ブルックリンのナイトクルーザーの目からは溢れていた。キラキラしてた。
それはそれは眩しくてなんだかうれしくなった。

■2/27(thu)Brooklyn @don pedro

GEZAN USツアー日記

ステイ先のシェアハウスのレゲエ好き三姉妹と遊んでたら1がおわった。ライヴもしたらしいけど、記憶が ナイ。

GEZAN USツアー日記

■2/28(fri) New Blanswick

NYから車で2時間半、New Blanswick NJのCANDY BARRELへ。
田舎町の突き抜けた高い空が車窓からみえる。歩く若者も一気にファッションが無頓着に、ださくなった印象。充満したいなたさが民家の地下に流れ込み、ぞろぞろと人が集まってくる。
NYのおしゃれ風から一変した、ナードなオタク臭と音楽愛がとても心地よかった。
10人でシェアしているらしい家の地下にステージを組んだだけなので、音漏れもひどいが、道行く人は誰も気にしていない。
下山のステージもフロアモッシュの嵐で荒れた。時代や流行りなんか知ったことかと、反応するこの街のフラストレーションがロックのすべてだった。2時間ばかり離れただけなのに、ひとつの街にある、独立したひとつの表情があった。昔、ネットがはりめぐらされる前の日本がそうだったように、田舎独特の文化と匂い。この街はださい。最高にださい。
ぼくにはとても健康的に思えた。
BARをはしごした後、プロモーターのパットの家でパーティは朝までつづく。
BLACK FLAGやALLなど、好きなのレコードを聞かせあって、合唱!ぶち上がってるキッズやおっさんたち、アルコールは一瞬も途切れない。日本もアメリカもかわらない。最高な音楽の前ではノーボーダーでそこでは皆こどもだった。
寝不足のまま、街をでる。

さよならまたくるよと別れる。その後、車の中に静寂がつづいたのはみんなさみしかったからだろう。

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■3/1(sat) Pensylvania

この日はNBからさらに車で2時間、ペンシルバニアにむかう。空腹に耐えきれずケンタッキーでフライドチキンをたらふく食べたあと、到着したhouse venueのガレージでのフードコートの家庭的なやさしい味に、チーム下山は満腹の限界ラインをはるかに更新し、爆発的な大和スマイルをママにぶちかました。家庭料理がいちばんおいしいです。
お水くれっていったら水道水をパッと渡してきた。飲んでみたらおいしくて、そうか日本て飲めないよなーなんて久しぶりに母国のおかれた不幸を思った。
NB同様、一軒家の地下にある、排水管などがむきだしになった場所にステージを組んだベースメントスタイルで、お客さんは家の玄関でお金を払ってぞろぞろと地下に集まってくる。これに集まってくるヒトたちがまたNBよりさらにいなたい空気をだしていて、地下の暗がりには掃き溜めハードコアの匂いでぷんぷん充満していた。やることなくて暇なんだろうな。
14、15才くらいのキッズが1バンド目から客席で喧嘩しだして、下山もギラギラピカーーん、緊張が絡み合うステージだった。物販も飛ぶように売れる。助かる。うれしー。
夜は、GHOSTSTARSというErese erataやAIDS WOLF直系のいかれたNEW WAVEバンドのDEVのヒッピー・コミューンのようなうちにお邪魔した。
「おい、このバンドは知ってるか?」「このバンドはどうなんだ?」と溢れんばかりに音楽を放り込んでくるKIDSの音楽愛にはやはり胸が熱くなる。ぞろぞろとルームメイトが集まり、卑猥な匂いのするパーティへなだれこむ。音楽を聞かせあってベッドの上で跳ねまわるのは、それは、まだおれがギターを触ったこともない頃からチーム下山でやってきたことなんだ。
聞かせたものの中では54-71やskillkillsへの反応がよかった。部屋にはられたアメリカ国旗が逆をむいている。こういうアンチキッズはバカっぽくておもしろい。
朝はまわりの教会にひとりで散歩にいって、霧をのんで、昼は大切なひとのお墓まいりをした。
GHOSTSTARSとのさよならがまたさみしい。別れの言葉は短い方がいい。二日酔いのゆるやかな眩暈がすでにこの毎日を懐かしくさせた。また、あおー。

■3/2(sun) NEWWARK mojomain

GEZAN USツアー日記

NEW WARKという街のMOJO MAINについて、BARの扉をあける。五秒後に「米は好きか?おれのつくる米を食え!」イタリアのシェフ、ガス(58)からGUMBOがたらふくだされる。スピード感がすごい。それがまたたまらなくおいしくて、今回のツアーの中で断トツにおいしい米料理だった。DR JHONのGUMBOのはなしなどをしながらガスの米への愛をきく。うんうん。伝わったよGOD FATHER。

ライヴはFUGAZIやNIRVANA直系のUS オルタナなメンツで正直古臭かった。でもみんなキモチのいい奴らだった。
Tシャツをライヴがはじまる前から対バンがぞろぞろと買いにきてくれて、きょうという日をいい日にしようという挨拶なのか、ツアーバンドへの応援なのかわからないが、清々しいキモチになった。
モノにお金を払うという敬意の表し方があることデータ社会になっても忘れてはいけないようにおもう。ひとにおもいをつたえるのはそんなに簡単なことじゃない。うまくあつらえたコトバなんかクソだぜ。痛みをともなったコミュニケーションしましょう。恋みたいだ。

夜はとても冷たい雪がまわりをつつみだし、寒波が流れ込んできたことをガスにきく。
本日二食目のGUMBOをご馳走になり、店をでる。ここから次なる目的地、アトランタまでは車をとばして13時間、雪道なら20時間はかかるという。
6日連続でライヴしてきて、宿無しの窮屈な箱詰め車内の20時間ドライヴにチーム下山は白目で泡をふいた。

■3/3(tue) 無題

ひたすらまっすぐの雪道。窮屈な車内で窓から葉のない木々が流れていくのを永遠にみた。
20時間のドライヴは過酷だ。
白目も水銀色。
デリで買った毒々しい色のグミがこれでもかと外れ、殺気だつ。

■3/4(tue) Louisuvile @modern cult record

ケンタッキー州のルイスビル、街にはいるなりシルバニアファミリーのような家々と雑貨屋や本屋がならぶかわいい街だった。学生が多いのかも。
「HATE ケンタッキー love ルイスビル」とかかれたTシャツを着た店員さんのいる店でガンボをたべる。ケンタッキーの中だが他の場所と一緒にするなという街の自己主張なのかなあ。大阪をおもう、京都にあるような。
その一角にあるmoderncult recordでのライヴ。店内には世界各国のサイケ、ノイズ系のLPがならぶセレクトショップで風通しがよかった。下山のも何枚か納品する。acid mothers templeやBORISのLPは中でも目立つ。
ライヴにはWILKOやジム・オルークバンドなどで叩くTIM BARNESさんがきてくれて、この街のはなしをした。田舎町ではあるが、もともとSLINTをはじめDRAG CITY RECORDまわりのバンドなどを多く輩出した街で、近年元気がなかったが、NYからTIMさんが住みだしてから活気が出てきたと現地の日本人から聞いた。
パニック・スマイルやナンバー・ガール、モーサム・トーベンダーを輩出した福岡のように、かくじつに強力な個性を打ち出していく独特の筋をもった印象があった。こういった地方がスターをちゃんと生み出せる地盤があるアメリカは懐が深くもなる。変化こそあれど大きくみると、未だ東京に進出しなきゃどうにもならない日本の盲目さにはげんなりする。

ライヴ終えて、みんなが寝たあと、ぼくはDAVID PAJOのみていた空をみながら街を夜道をてくてく散歩した。とおくまで歩きすぎたのか、通りを越えると急にゲットーな匂いと鋭い目つきをかんじる。後に出会った友人にきくと、どんなハートフルな街にも治安の悪い地域があって、そこにはディーラーの売買が盛んに行われてるそうで、銃声の聞こえない日はないそうだ。
人種や生活クラスが多用すぎて自由を認めなきゃ窮屈なんだろうな。この国は。

■3/5(wed) Atlant @GA

車で8時間、アトランタは出会った人びとから一番治安悪いから気をつけろといわれてきた街で、今回のパーティの主催はKIDSのラリークラークとのコンビでも知られるハーモニー・コリン監督の『spring breakers』で3日連続双子でセックスするという狂った役を演じたATL TWINS だった。
気温もあたたかく、街自体はロック好き、タトゥー好きといった感じでボインで活気があって良かったが、パーティピーポーの楽屋の荒れ方はなかなかジャンクだった。泡吹いてるやついたし。すぐに二人組でトイレに消えてくし。
ライヴはDARK SISTERというM.I.A直径を思わせる2人組がよかった。楽屋にはGROUPHOMEのタグなんかをかいてるライターがいてイーグルがぶちあがってた。
おれはこういうスカしたパーティ野郎が嫌いなので、陰気なイタリア女と木のしたでうどんのおいしさを説いて1日を終えた。

■3/6(thu) 無題

GEZAN USツアー日記

この日は2日前に「ギグするか?」と連絡がきたので時間にして13時間。熱意にこたえるべく一晩でぶっ飛ばすことになった。しんどいわ!
つくなり日本のことをわんわん聞いてくる、話をきくとアニヲタだった。下山の音に反応して連絡きたんちゃうんかい!というキモチが拭えず、ライヴブチかました後はマザコンの引きこもり黒人ラッパーと携帯の恥ずかしい画像を無言でみせあって一日をおえた。

■3/7(fri) NewBedford @no problemo

GEZAN USツアー日記

街につく、ラジオをやっているベイリーという男の企画でbarでのライヴだった、らしい。
頭が沸騰していてこの日はほとんど何も覚えておらず。
ブログあきてきた。

■3/8(sat) Roadiland providence@ the parlor

この街はLightning boltがいることで知っていた。
lightning boltは街の廃墟を占拠してはパーティを組んで、警察や金持ちの買収や圧力があっては場所をかえ、パーティをつづけてきたDIYの王様で、プロビデンスの皆が誇りにおもってる感じがぷんぷん伝わってきた。町おこしの立役者的側面も。
なっるほどー、そういうわけで日本でライヴする時もドラムやアンプだけでかくメインのスピーカーまで持ち込むのか。昔、梅田シャングリラであふりらんぽやマゾンナ、ボガルタと対バンをみたが、フロアで箱のシステムを全く使わず、他のバンドよりだいぶ小さな音でアホみたいに叩きたくってたあの謎を思い出す。謎とけた!どこでやっているときも彼らにとっては廃墟と同じDIYセットでやりたいのだなー。敬意がぐぃいーんとあがる。

街をあるく。らんらん歩く。
ラヴクラフトという作家のお墓があるときいていたので、お墓まで案内してもらう。インスマウスの影のはなしを思いだしながらお墓の前でお昼寝した。
他の下山のメンバーはTシャツが売り切れたのでフリマで1ドルで手に入れたマドンナのTシャツにGEZANとタギングしているみたい。
ぼんやりと薄い月をみながら、アメリカではじめての深呼吸をした。キレイな街だった。
ゆっくりと月が三次元を手にいれて、霧がはれたところで目が覚めて皆の元にもどる。

■3/9(sun) 無題

一度NEWYORKを経由してテキサスオースティンへむかう。ツアー最後のSXSWへ。
我慢しきれなくなって、ゴーゴーカレーNY支店でカレーを胃にぶちこみ、空の旅へ。
24時、テキサスについたが宿がない。とりあえず空港の自販機の裏でチーム下山、ミノムシのように固まって眠った。
でっかい掃除機の低音で目をさます。

最悪の目覚め。

■3/10(mon) Austin SXSW

GEZAN USツアー日記

オースティンはとにかく暖かい。27度もあるそうでみーんな半袖だった。
リストバンド交換所で長い行列を並びながら、YOSHIKI(CHIBA JAPAN)もここを並ぶのかと想像していた。いや、YOSHIKIならヘリで皆の頭の上を飛び越えていくんだろうなー。どこかにヘリおちてないかな。ほしいな。
とりあえず宿がないので、受け付けに誰か紹介しろとダメ元でいったら黒髪ロングを気に入ってくれたのか、マダムな友人を紹介してくれた。
いってみたら豪邸で、オースティンの山々の景色をハンモックにゆられながらバカンス気分爆発、胃袋破裂しそうなくらいピザを食べて、死んだように眠った。
それにしてもロックのうまれた国だからなのか、空港や街のいたるところにサイケ調のギターのモニュメントがあって、ロックを誇りに思っているんだなあとしみじみ感じた。そんな街ぐるみのイベントの公式フライヤーにFUCKin MUSICだなんてコトバがのるくらいだから、エネルギーにたいして敬意がある。
無菌国家・日本じゃとうていあり得ないだろうなあー。踊らせるものへの敬意なんて、このダサい国には。

■3/11(tue) Austin SXSW @liberty

GEZAN USツアー日記

街のいたるところでベースがなっている。水着一枚のおねーちゃん、ドレッド、ラスタマンなにーちゃん、ブリーフ一丁のおじいちゃん、歯のないボインのニューハーフ、様々な人種の様々なファッションが入り乱れた祭りが、BARで、屋上で、野外のテントで、360度サラウンドに鳴っている。共通しているのはとにかく楽しんでやろうというギラギラしたエネルギーだ。
道を歩いていたらBo Ningenの一団にあった。お互い初のアメリカでのライヴね。ここで会えたのはなんだかうれしい。
比較的バンドが多そう通りにあるthe LIBERTYという場所でライヴをする。街中が洗濯機のように流動する中で、足をとめ、フロアがいっぱいになっていく。アメリカのそのフィーリングと速度感はアドレナリンリン・心地いい。
本日二本目のQUANTUMにいくとGEZANの名前がないと言われた。「NO WAY!! ふざけんなよ」とかけあったら明日でした。12日のAM12時と表記されてるのを11日の24時にいってしまったのだ。てへ☆
ぼくたちバカだネって話ししてたら横でひったくり犯が取り押さえられボコすかやられてた。こっちのひとらは加害者に容赦ないのう。顔からケチャップがぴゅーぴゅーでてた。
気分をかえて、クラブが連立する一角で黒い音にまみれ気が遠くなるくらいヒップホップをのんだ。
家に帰って吐いたゲロが七色をしていた。これがオースティンの色だ。

GEZAN USツアー日記

■3/12(wed) Austin SXSW@liberty ,QUANTUM

前日よりさらに人がわちゃっと増え、カフェからどこんどこん鳴らされる低音に音漏れなんてコトバは似合わない。もはや街自体を鳴らしてる。テキサスのコンクリートの床もボロボロの壁も、いきた音を浴びてうれしそう。土の中でテキサス育ちのジャニスジョップリンも白骨顔でにっこり。
呼吸しない街は朽ちていくだけ。人もモノも同じ。磨いてるだけじゃ表面のメッキが光沢するだけだもの。

the LIBERTYの野外テラスでライヴ、テキサスロックシティの波にのまれて歪んだな夢をみた。
QUANTUMに移動してレゲエシステムのようなつくりの黒い箱でやりきった下山、アメリカツアー最後のライヴ。どこもわりとそうだったけど物販の売れ方が気持ちえかった。
思えば出発前、3本に減ってしまっていたライヴは飛び込み含め17本にまでふえた。ここでは書けないようなこともいっぱいおきた、し、おこした凸凹ツアー、まあなんだか生きてる感じでした。ナムナム

手刷りDIYTシャツも完売して荷物も軽くなったところで踊りにいく。
3週間分のつかれは、狂った夜のさらさらと流れる静脈にまぜて、ライターで火をつけて、低音の肌触りとともに喧騒にながした。
渦の中で溺れる、溺れながら呼吸の仕方をおもいだす。魚だったころみていた夢はきっとこんな泡だらけのプリズムした夢だったのだろう。


下山(GEZAN)
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■3/13(thu) Austin SXSW

SXSW3日目の今日は音楽散策だけ。
the MAINでの LOU REED tributeのショーケースでblack lipsをみる。ジャンクでポンコツなビートルズみてるみたいで笑ってもうた。いつか対バンするな。きっと。
LOU REEDの“run run run”をカバーしてた。もはや当たり前のことだけど、改めてLOUの存在の大きさを現行のバンドのその影響をみていておもう。
踊ってばかりの国の下津が騒いでたのでChristopher Owensをチラッとみる。わー、下津好きそう。曲はいいけど、うたが痩せっぽっちで個人的な好みではなかった。前日に下山の前に出てたオーストラリアのMT WARNINGの方が人間力がズシンと残ってる。
FAT POSSUMから出してるfelice brothersをred7で。最高にグッドアメリカンで、身体いっぱいに喜びをあびる。好奇心と実験心をうたうボブディラン。SXSWベストアクト! というかFAT POSSUMはほんとうにアメリカの良心だな。愛してまーす。

あんまり期待してなかった分、逆に満足して、チキンを食らって飛行機にのった。SXSW、世界最大のショーケースでいくつかのステキに出会えたのは嬉しかった。お客さんより関係者のためのフェスという感は否めないけどね。
垣根をこえて、世界中の好奇心が渦になればいい。オワリ

interview with Liars (Angus Andrew) - ele-king


Liars - Mess
Mute / Traffic

Tower HMV iTunes

 ライアーズは嘘をつかない。いや、言い直そう。ライアーズは自らのネーミングがものするように、嘘をつくことを認めている、という意味で嘘をつかない。
 アルバムごとにそのサウンドを目まぐるしく変化させ、つねにシーンのど真ん中のはずれで野蛮な実験を繰り返すライアーズ。それは意識的なようでいて、じつに原始的で、クールなようでいて、たまらなくホットで、いつも目的からずるずるズレて、ズレてズレて……気がつけば誰もいない荒野の先端でひとり奮闘している。なんて素敵なんだ。彼らが持つほとんど野生のカンともいえる実験本能。それをライアーズの性(さが)と呼べばいいのだろうか。
 そんなライアーズが2年ぶりに7枚めとなるアルバム『メス』をリリースした。ここにあるのは、彼らがレッテルを貼られ続けたポストパンクでもエレクトロクラッシュでもなく、また、カオスの渦でもトライバルなクラウトロックでもない。そう、大きくモード・チェンジした前作『WIXIW』のサウンドを引き継ぎつつも、よりダークに、よりミニマルに、ときに大味なエレクトリック・サウンドがダンス中枢をくすぐりまくるライアーズの新境地——まっさらなテクノ・サウンドだ。シンプルなビートに合わせて駆動する野太いシーケンス。ゴスな装飾を薄くまとったシンセのフレーズ。そんなダークなムードにカラフルな色を添えてはじけるポップなエレクトロニクスたち。ライアーズの新たなマスター・ピースの誕生だ。
 まずは、先行公開された“メス・オン・ザ・ミション”の抜きん出たブレイクスルー感を体感してみてほしい。身長2メートルを超える大男アンガス・アンドリューのボーカルもいつになく脂が乗っていて、低いところからファルセットまで縦横無尽に声色を変えてはしなやかに吠えまくる。容赦なし。遠慮なし。その鮮烈すぎる突破口から無辺に広がる「歌って踊れるエクスペリメンタル・ミュージック」。外は冷たいのに中は熱い。まるでアイスの天ぷらをあべこべにしたようなストレンジな昂揚に、われわれの体温もぐいぐい上がりっ放しだ。
 あらためて。ライアーズは嘘をつかない。いや、言い直そう。ライアーズは嘘をつかないが意表をつく。騙されたと思って最高の新作『メス』を聴いてほしい。彼らの嘘は本物だから。

アイデアと実際にでき上がったものにはそんなに大差はなかったよ。すべてはあっという間に起こってね。

2年ぶりのアルバム『メス』の完成おめでとうございます。まずはいまの心境を聞かせてください。

AA:早朝のロサンゼルスでスッキリした気持ちだね。

この2年間はどのように過ごしていたのですか?

AA:前作『WIXIW』ではたくさんのツアーをしたよ。それが終わってからオフを取って、生まれ故郷のフィリピンに行ったんだ。

ライアーズはこれまでほぼ2年に1枚のペースでアルバムをリリースしていますが、このペースが自分たちにいちばん合っているのですか?

AA:それはつまりこういうことだと思うんだ。僕らは大体1年にわたってツアーを行い、それからは当然のように、再びいらつきながら制作に入っていく時間になる。ときには音楽やアートに関してもっと時間をかけようと思ったりするんだけど、自然に任せてやりたいようにやるとそのタイミングになるんだと思う。

デビューから14年ですが、『メス』の制作を経て、ライアーズとして新たに発見したことはありますか?

AA:「アルバム制作は楽しみながらしないとダメだ」ということをあらためて思ったよ。過去のいくつかの作品に関しては、制作過程でシリアスになり過ぎたり、頭を使い過ぎちゃったりもしたけど、まずは「アルバムを作りたい!」という思いを楽しむこと。それを忘れていたような気がする。

アルバムごとに作風をガラリと変えてきたライアーズですが、今作は『WIXIW』で大きくモードチェンジしたエレクトリック路線を引き継ぎつつも、さらにダークでミニマルな世界を追求しているように感じました。前作との関連性を教えてください。

AA:前作『WIXIW』を作ったとき、僕らはすべての電子楽器やソフトウェアを新しくしたんだ。文字どおり、ユーザーマニュアルを開きながら曲作りをやっていたんだ。でも、『メス』に関してはこの点がクリアされていたので、自分の思いついたアイデアをきちんと演奏に反映できるようになっていたんだ。それと、制作過程もすごくスピーディーにしてみた。最初にトライしたことをすぐ曲に反映させていったらすべてがフレッシュなままの作品に仕上がったよ。

前作には〈ミュート〉のオーナー、ダニエル・ミラーがプロダクションで参加していましたが、今作にもクレジットされているのですか? また彼との長きにわたる仕事で得たものは何ですか?

AA:『WIXIW』を制作しているとき、エレクトロの世界は僕らにとってすごく新鮮で、ダニエルにありとあらゆる質問をして確かめていたよ。彼はその界隈では有名な先駆者だからね。技術的なものや機材的なアドヴァイスの面ですごく助かったよ。『メス』に関してはその点がクリアされていたから、彼のクレジットはないんだ。もちろん僕らが音楽をやる上で彼はいちばん大切な人だけど、制作的なことで言えば、いまは僕ら自身で実行しているよ。

『メス』というタイトルどおり、混沌として多彩なビートとディスコ・サウンドが収められながらも、アルバム全体にはライアーズらしい「暗さ」と「野蛮さ」と「冷めた熱」がしっかりと根底に漂っているのを感じました。アルバム・タイトルに『メス』を選んだ意図を教えてください。

AA:『メス』とつけたのはすごく主観的なものなんだ。ある人はあるものを見て、それが何であるかをきちんと考える。一方で、別の人は同じものを見ながら、それを「まったくはちゃめちゃ」と言ったりする。すべては見る人の見方によるんだよね。僕にとってこの考えってすごくおもしろいんだ……というのは僕らが作っている音楽にからめて考えても、それは自然なことだからね。

制作中の試行錯誤には、はかり知れないものがあったと思いますが、制作前のイメージと完成した作品に大きな変化はありましたか?

AA:アイデアと実際にでき上がったものにはそんなに大差はなかったよ。すべてはあっという間に起こってね。アイデアが出てくるとすぐにそれをまとめてアルバムにしたからすごく楽しかったよ。

先行で公開された“メス・オン・ア・ミッション”を聴いたとき、最近のライアーズらしいストレンジでグルーヴィーなシンセポップに舞い上がるとともに、計算されつくしていた印象の前作『WIXIW』よりも直感的/本能的な勢いを感じました。ファルセット全開のサビの昂揚なんてライヴで盛り上がること間違いなしですね。曲作りの段階でライヴでのイメージを想定しているのですか?

AA:それはないね。スタジオで曲を書くときに「ライヴを前提に」とかの制限はつけたくないんだ。さまざまな楽器を使ったりするのもそうだし、いつも曲そのものが向かいたい方向に進められるように考えているんだ。いつかはそういった縛りで曲作りをやってみてもおもしろおもしろいかもね。自分たちで持ちこめる楽器だけを飛行機に載せてツアーすることができたら、相当クールだと思うんだけど。でも結局は、アルバム音源をライヴ用にまた作り直してやった方がずっと簡単なんだけどね。

“ダークサイド”〜“ボーイゾーン”の金属的なエレクトロニクス、呪術的なヴォーカルにはインダストリアル・ノイズの影響を聴くことができると同時に、『果てしなきドラム』(2006年)の頃のサウンドがエレクトロ化したような、ライアーズの新しい側面を感じました。昨今のインダストリアル・テクノではなく、70年代後期~80年代の〈ミュート〉が鳴らしていたオリジナルなエレクトリック・ミュージックの香りというか。そのあたりの影響は受けているのですか?

AA:それはそのとおり。僕らのお気に入りですごくよく聴いている作品のひとつに『ミュート・オーディオ・ドキュメンツ(MUTE AUDIO DOCUMENTS)』(2007年にリリースされた〈ミュート〉の初期シングル&レア音源を集めた10枚組ボックス)があるんだ。あれを聴くたびにすごく勇気づけられる。DAF、ファド・ガジェットらエレクトロのアーティストにはすごく影響を受けているよ。

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そうだな、個人的には太鼓(タイコ・ドラミング)だけのアルバムを作ってみたいとずっと思っているよ。もしかしたら八丈島に移住して、そこでアルバムを作っているかもしれないな(笑)。

ライアーズはいつも時代の先端に寄り添っているように見えて、じつは誰よりも勇敢に誰も知らないところに向かって猛進しているように思えます。進行形のシーンに対して意識的な部分はあるのですか?

AA:人がどんなシーンに興味を持っているかを聞くのは楽しいんだけど、だからといってそれが僕らの意思決定には影響しないよ。本当に自分たちが聴いたことのないような音楽を作りたいし、それがライアーズにとってもっともエキサイティングなことなんだ。

アートワークにあしらわれているカラフルにもつれ合う毛糸についてお聞きします。ライアーズのTumblrでさまざまなシチュエーションにおける毛糸の画像が公開されていたり、本物の毛糸が真空パックされた500枚限定のデラックス・ヴァイナル・エディションをリリースしたりと、本作におけるアートワークへのこだわりを強く感じさせますね。

AA:今回のアートワークに関しては、このアルバムの持つ「遊び心」や「自然」な感じを出したかったんだ。カラフルな毛糸はそのことを表していて、加えて「WHAT IS A MESS ?」(混乱ってなに?)ってことを具体化したものでもあるんだよ。

なるほど。そんなアートワークだけでなく音についてもですが、実験的な要素とリスナーに受け入れられるポピュラリティーのバランスはどのように考えていますか?

AA:うーん、べつにポピュラーになることなんて考えたこともないけどね。僕らにとって音楽やアートを作るってことは、僕らが本当に人とコミュニケートしたい、って考えの発露なわけで、期待されているものを指図されて作っているわけではないんだ。いつもやることなすことが実験につぐ実験の繰り返しだと思う。たとえ僕らがいわゆる「ポップソング」にトライすることになったとしても、それはすごく実験的なプロセスをたどることになるよ。それってある意味おもしろいけどね。

残念なことにあなたたちの変化に追いつこうともせず、いまだにライアーズのことを「ポストパンク・リヴァイヴァル」の一部として認識している人もいますが、ライアーズにとって2000年代初頭のあのシーンはどのようなものでしたか? またその渦中にいるという意識はあったのですか?

AA:当時のニューヨークに住んでいたのはすごくよかったよね。素晴らしいことをしているヤツらとずいぶん知り合いになれたし、本当にそれぞれ違ったことをしていたし。でも、僕らも含めて誰もが「ポストパンク的なもの」の一部と呼ばれたがってはいないと思うよ。僕らは自身の思うことをやっているし、何かを復活させているつもりもないんだ。ただ、これらの考え方のなかで意識的なのは、9.11の悲劇に関する部分だよ。自分がニューヨークに住んでいるということをまざまざと実感させられた。まさしく歴史的にも重要な場所で、世界中に向かって発信しなければいけない場所に住んでいるんだ、ってね。

ブルックリンのシーンから登場し、ニュージャージー、ベルリン、ロサンゼルスと拠点を変えてきたライアーズですが、ここ3作はロサンゼルスでのレコーディングとなっていますね。お気に入りの土地なのですか? 

AA:ロサンゼルスがいまいちばんいちばん好きな場所かというと、そうとは言えないな。ある意味、便利な場所ではあるけど。ロサンゼルスで生活したり制作したりするのはいい感じだよ。おもしろいことをやっていたり、刺激を受けたりする友達もいるしね。でも、僕に関して言えば、たえず動いていたいタイプなので、ほかの都市や国にも行きたいと思っているよ。

最後の曲“レフト・スピーカー・ブラウン”におけるミニマルなベース音、神妙な歌、声のサンプリング、きめ細かな電子音、ドローンのようなストリングスに早くもライアーズのネクスト・ステップを予見して、期待を引きずったままアルバムを聴き終えました。恐れることなく変化を受け入れるライアーズですが、次作のヴィジョン、もしくは今後チャレンジしたいことなどがあれば教えてください。

AA:うーん、僕が次作に関して言えるのは、「どういうものになりそうか、まだアイデアがない」と言う以外には、「ライアーズとして続けていることがベスト」っていうことかな。前進することが良いわけでも悪いわけでもないと思っているので。そうだな、個人的には太鼓(タイコ・ドラミング)だけのアルバムを作ってみたいとずっと思っているよ。もしかしたら八丈島に移住して、そこでアルバムを作っているかもしれないな(笑)。

最後に、新作『メス』を一言で表現するとすれば、ズバリ?

AA:自然。自発的。自由意志。このなかから選んでもらえればありがたいよ。「他からの介入なく自律的に動いて行くさま」を表しているんだ。

 春の宵、アンビエントに身を委ねましょう。イルハ、オピトープの伊達トモヨシが、3月末から4月にかけてツアーをします。東京、京都、鎌倉と、全9公演が予定されています。ちなみに京都では旅館、鎌倉では光明寺で開催されます。電子音楽、とくにそれがダンスを志向しないもの、アンビエントなものであるならば、ゆったりとした環境で楽しみたいものですが、この公演はうってつけです。ちょっとの冒険心があれば、きっと、素晴らしい音楽体験を得られます。
 テイラー・デュプリー──〈12K〉という今日のアンビエント・ミュージックのシーンでもっとも重要なレーベルのひとつを主宰する男、そしてみんな大好きステファン・マシュー──信頼すべきドイツの音響アーティストも同行します。会場によっては、Asuna、Toshimaru Nakamura 、Tetuzi Akiyamaなどなど、ユニークなアーティストも多数出演。下のスケジュール表を見て下さい。そして、ぜひ、この機会にどうぞ!

 来る2014年3月末、4月に初来日となるStephan Mathieu, Federico Durand,そして盟友 Taylor Deupreeを迎えて、東京・鎌倉・京都ツアーがついに実現!!

 ドローン/アンビエントミュージックシーンの最重要人物たちとともに、日本からはILLUHAをはじめ、まさにシーンのド真ん中に位置するミュージシャン達が勢揃い!!
 今回で第六回目となる「Kualauk Table」主催による、お寺で荘厳音響に包まれる音楽イベントも、今回は規模拡大につきド級の会場とサウンドシステムでお出迎えします!!

 ツアー中はどの会場ともそれぞれ異なったコンセプトで開催され、どれも見逃せないイベントになること間違いなし!!!

■ツアー日程■

3/28 (金) 東京 青山 CAY (主催:CAY)
予約 4000円+1drink / 当日 4500円+1drink
詳細・予約:https://www.spiral.co.jp/e_schedule/detail_1052.html
open 19:30 start 20:00 close 22:00
出演
Melodia(Tomoyoshi Date + Federico Durand)
Ichiko Aoba
プラネタリウム演出:大平貴之

3/29 (土) 東京 水道橋 Ftarri
予約 2300円 / 当日 3000円 限定30名
https://www.ftarri.com/suidobashi/
open 19:00 start 19:30 close 22:00
出演
Melodia(Tomoyoshi Date + Federico Durand)
ILLUHA
Asuna + Opitope

3/30 (日) 吉祥寺 Tone (主催:flau)
料金:3,000円(ダンディゾンのパン + ドリンク付き)
詳細・予約:https://www.flau.jp/events/crosss6.html
Open 19:00 Start: 19:30
出演
Grand Slavo
Federico Durand

4/2 (水) 東京 水道橋 Ftarri
予約 2500円 / 当日 3000円 限定30名
https://www.ftarri.com/suidobashi/
open 19:00 start 19:30 close 22:30
出演
Toshimaru Nakamura + Ken Ikeda + Tomoyoshi Date
Federico Durand + hofli
Makoto Ohshiro + Satoshi Yashiro

4/5 (土) 京都 きんせ旅館
予約 4000円 / 当日 5000円 / 翌日との2日通し券 7000円 限定60名
https://www.kinse-kyoto.com/
open 16:00 start 16:30 close 19:00
出演
Stephan Mathieu + Taylor Deupree
Federico Durand
ILLUHA
Live PA:sonihouse

4/6 (日) 京都 きんせ旅館 〜Day 2〜
予約 4000円 / 当日 5000円 / 前日との2日通し券 7000円 限定60名
https://www.kinse-kyoto.com/
open 16:00 start 16:30 close 19:00
出演
Stephan Mathieu + Federico Durand
Taylor Deupree + ILLUHA
Stephan Mathieu solo
Live PA:sonihouse

4/10 (木) 東京 青山CAY 〜the Scent of Legend〜
予約 3800円+1drink / 当日 4500円+1drink 限定200名
https://www.spiral.co.jp/shop_restaurant/cay/
open 19:00 start 19:30 close 22:00
出演
Stephan Mathieu + Taylor Deupree
Federico Durand + Opitope
ILLUHA
照明演出:渡辺敬之

4/12 (土) 鎌倉 光明寺 〜Live at 光明寺 Fes〜
予約 3800円 / 当日 4500円
https://park16.wakwak.com/~komyo-ji/html/keidai.html
open 12:00 start 13:00 close 18:00
出演
Stephen Mathieu + Taylor Deupree + ILLUHA
Toshimaru Nakamura + Tetuzi Akiyama
Ken Ikeda + sawako
Melodia + Tetsuro Yasunaga
Tsutomu Satachi + Yusuke Date
Live PA:Flysound

4/13(日) 東京 中目黒 みどり荘 〜SPEKK Party〜
予約 3200円 / 当日 4000円 限定35名
https://midori.so
open 12:30 start 13:30 close 19:30
出演
Stephan Mathieu + Toshimaru Nakamura
Taylor Deupree + Federico Durand + ILLUHA
Tetuzi Akiyama + Ken Ikeda + Chihei Hatakeyama
Minoru Sato (m/s, SASW) + ASUNA


■来日アーティストプロフィール■

<Stephan Mathieu>

https://www.bitsteam.de/

 独ザールブリュッケン在住の音楽家、美術講師。90年代にはSTOLのインプロドラマーとしてKITTYYO等からリリース。その後、ソロ活動に専念、Hapna, Headz, Ritornell, Lucky Kitchen, Fallt, Orthlorng Musork, Cronicaなど世界中のレーベルから リリース。またEkkhard EhlersやJohn Hudakともコラボレーション作品を発表。とりわけFULL SWING名義でOrthlorng Musorkからリリースした「Full Swing Edits」(2001年)は、彼のドラムをDSP処理でリアルタイム加工し断片化させたもので、当時画期的なその手法は高い評価を得た。さらに最新作の短波ラジオのリアルタイム・プロセッシングをテーマにした” RADIOLAND”(Die Schachtel)は、英国の名門ショップBOOMKATが選ぶ2008年のトップ 100レコードの栄えある第一位に選ばれる。2008年からはVirginalシリーズという偉大な 現代音楽家に敬意を表し、彼らの楽曲をVirginalというルネッサンス時代のキーボード、グラモフォンで演奏している。

試聴:https://soundcloud.com/schwebung/maison


<Taylor Deupree>

https://www.taylordeupree.com

 テイラー・デュプリーは1971年生まれ、ニューヨーク、ブルックリン在住で、サウンド・アーティスト、グラフィック・デザイナー、写真家として活動。1997年1月1日、彼は、デジタルミニマリズムと現代様式に焦点をあてた音楽レーベル「12k」を設立。
 2000年9月には協力者のリチャード・シャルティエと12kのサブレーベルとして、コンセプチュアルかつウルトラミニマルな電子音響、そして音と静寂とリスニングアートとの関係性を探究するレーベル、LINEを設立。
 デュプリーは、Prototype 909, SETI, Human Mesh Dance,Futique(1992-1996)など過去のテクノ・アンビエントのプロジェクトを含め、多くの評論的賞賛と評価を得ており、数多くのレコーディング実績と確かなディスコグラフィを持っている。また、彼のデザインワークは世界中のレーベルの多くの作品で見ることができ、日本やイギリスで多くのデザインブックも出版されている。

試聴:https://soundcloud.com/12k/dreams-of-stairs


<Federico Durand>

https://federicodurand.blogspot.jp

 マレーシアのmu-nestコンピに参加後、SPEKKからのファースト・アルバムが全世界で大ヒット。英Home NormalやルクセンブルクのOwn Records,米Desire Path Recordingなど世界中のレーベルから矢継ぎ早に新作をリリースする傍ら、OptiopeのTomoyoshi DateとのMelodia、Nicholas SzczepanikとのEvery Hidden Colorなど注目アーティストとコラボレーションも活発に行っている。
 基本は電子音楽ながら、日常や山で採取したフィールド・レコーディングやギターなどの楽器音をさりげなく取り込む作風で常に有機的で温かい質感を有している。アルゼンチンのアーティストに多く見受けられる、その情調感をもった楽曲はここ日本でも人気が高く、アールグレーの紅茶が大好きと語る素朴な人柄同様、どこかキュートで優しい味わいが特徴である。

試聴:https://soundcloud.com/federicodurand/adormidera-preview


DJ Tomoharu - ele-king

3月中頃~4月にかけて、DJ NORIさんを迎えてのPropeller17周年記念WarmRoomをはじめ、大阪からMOLE MUSICミツキくんを迎えてのMoLe×MOLE、HIKARUさんYOGURTさんを迎えてのIVYIZM 7th ANNIVERSARY PARTYと素晴らしいDJの方達が福井でプレイするPartyが盛沢山です。よろしくお願いします。

2014/03/22(SAT) "Propeller 17th Anniversary" WarmRoom @Propeller Guest/ DJ NORI
2014/03/26(WED) MoLe×MOLE @Church Guest/ DJ Mitsuki (MOLE MUSIC)
2014/04/12(SAT) IVYIZM 7th ANNIVERSARY PARTY @Propeller GUEST/ DJ HIKARU, YOGURT
2014/04/19(SAT) @Propeller
2014/04/26(SAT) D&D @Casa
2014/05/05(MON) @Creme

2014.03 recent favorites


1
Ensemble Skalectrik - Trainwrekz - Editions Mego

2
Pierre Bastien - Pop - Rephlex

3
Charles Hayward - Smell Of Metal - Kemal

4
Valentin Stip - Sigh - Other People

5
Counter Silence - Knowing the Right Question to Ask - Subexotic

6
Afterhours - Lowlife - Not Not Fun

7
Skymark - Primeiras Impressoes - Modern Sun

8
O1O - Futurespective - Further

9
Rainer Veil - New Brutalism - Modern Love

10
Untold - Black Light Spiral - Hemlock

ele-king vol.13  - ele-king

〈大特集〉SIMI LAB メンバー総登場のロング・インタヴュー
〈第2特集〉ワールドカップ
〈強力連載陣〉
保坂和志×湯浅学、ブレイディみかこ、山本精一、金田淳子   他
電子書籍版へのアクセスキーがついています

Sick Team - ele-king

 この2か月、ハウスばかりを聴いていたせいだろうか、ヒップホップ・ビートが心地よく感じる。そう、街を歩けばファレル・ウィリアムスの“ハッピー”が聞こえる春先、である。え? ハッピー? 春が来たって何になろ、こちとらまったく上がっちゃいない。ネオリベ・ポップ(出典:TMT)はいつだって強いのだ。が、最高級のサングラスをかけなくても人は幸せになれる。
 そして、最高級のサングラスをかけなくても幸せにならなくてはならない。ブルー・ハーブ/シンゴ2以降の日本のアンダーグラウンド・ヒップホップは、成功以上の価値を音楽のなかに見ようとした。誰かを批判したくなるという誘惑を抱えながら、結果として前向きに、がっつりとオーディエンスをつかんできたと言える。シック・チームも大きく見ればその系譜にいるのだろう。
 もしそうだとしても、彼らは、ときに(5lackによる)例外はあるものの、基本、大きなことは言わないし、self-deification(自己神格化)とは対極にある(……オレ=神という現象には、個人的には好奇心を掻き立てられるものがあるのだが)。
 とまれ。シック・チームは、まったく淡々としている。クライマックスに向けてぐぁーっと上がることを避け、ミニマリズムを受け入れているのだ。このストイックな感覚はアンダーグラウンド・ミニマリズムとも共通する。また、この愛想のなさはオウガ・ユー・アスホールにも通じる。(なので、そういう感覚に慣れている人には聴きやすいし、人生論を聴きたい人には向かない)

 2011年にはじまった冒険の2作目にあたる『Sick Team II』は、新曲+既発曲のリミックス・ヴァージョンで構成されている。既発曲でもラップの取り直しもあるものの、新曲が3曲しかないのは寂しい限りだ。が、このアルバムは、まずはシック・チーム監修のビート集として楽しめばいい。ファーストもそうだったが、シック・チームは、良くも悪くも言葉より音が耳に入ってくる。その音の舵を取るのは、Budamunkのようだ。今回はとくに彼の趣味/方向性が、よく表れている。
 USから多くのアーティストが参加して、彼らの世界を拡張しているが、そのフィーリングには一貫性があり、ブレることはない。客演やリミキサーに関しては、Budamunkと16FLIPがタワーレコードのサイトで詳しく解説しているので、そちらを参照されたし。アルB・スムーヴやクライシスをはじめ、ロック・マルシアーノ(エヴィデンスとともにファースト・アルバムにも参加している)、カザール・オーガニズムといったUSヒップホップ・シーンの注目株に混じって、個人的にはデトロイトのDJデズ(ハウス・リスナーのあいだではアンドレスの名前で知られている)のクレジットに反応したわけだが、彼のリミックスは、デトロイト・ソウルを惜しみなく注いだものだった。まあ、1曲目のアルB・スムーヴのリミックスによる“My Shit”からしてなるほど格好いいし、エヴィデンスが参加した“Turn It Up”の16FLIPによるリミックスもぐっと来る。ムーディーマン周辺を好んで聴いている人にも、このアルバムのストーンした感覚は共有できるだろう。
 Budamunkのトラックは、ストイックではあるものの、リスナーに夢を見せる。古いレコード、古いドーナッツ盤がころがっている。ビールを飲んで一息ついたところに音楽が入ってくる。咳き込むほど煙たく薄暗いクラブだとしても、トラックが雨の夜に相応しいメランコリックなものだとしても、ドリンクをもう一杯喉に流し込む。そして、シック・チームのすべて新曲によるアルバムを我慢強く待とう。リミックスも面白いが、新曲の3曲──ムーディーな“空がクライ”、冷たいシャワーを浴びさせるような“OKINA”、実験的とも言えるダビーな“Addiction”がそう思わせる。

シャムキャッツ - ele-king

物語のない、あったとしてもその語り手を持たない場所に生きる、名もなき若者たちの姿。ブルーにこんがらがったベッドルームを抜け、社会に出ていったかつての少年少女たちの、それぞれのアフター・アワーズ。そう、シャムキャッツの新作『AFTER HOURS』は、そんなどこにでもいる若者たちの生活の断片を、あるいは群像劇とも呼べないくらいに細かく微分された日常のムードを、批判も祝福もなくただそこに集めることによって成り立つある種のドキュメンタリーだ。
 ベスト・ソングはやはり、先行シングルにもなった“MODELS”だろう。ここで描かれるのは、郊外に暮らす若きトラック運転手の男の子と、京葉線を使って勤務先に急ぐ女の子の、なんでもない一日のスナップ。男の子は、夜の高速を走り終え、グッタリしながら、とっくに冷めてしまった缶コーヒーの残りをもったいなさそうにすする。女の子は、安定した恋人との関係に安心しつつも、ランチの時間になれば「食費抑えて、オシャレもしないとなあ」などと思ったりしている。そんな、本当にどこにでもいそうなふたりは、何の記念性もない一日の終わりに、少しだけ将来の話をするために、会う。惜しみないツイン・ギターとゴキゲンなベース・ラインは、約束の時間に急ぐふたりとともに転がっていく。べつにドラマティックなことなんて何もない。出会ったころのようなトキメキもない。それでも、ふたりは会うのだ。心拍の安定値を少し超えるくらいのBPMがその雰囲気をさらに煽る。サラッとした三人称、ポンと使われる固有名詞、「君と僕」の戯れ合いを越えて、バンドは間違いなく新しい季節を迎えている。

 こうした変化の兆しが見えたのは、おそらくターンテーブル・フィルムズとのスプリットという形で発表された“FOOTLOOSE”だった。個人的には当初、リリックの言葉選びがやや花鳥風月に頼り過ぎているように思え、初期の代表曲“渚”をさらにブラッシュアップしたような演奏とはまた別のレベルで、どこに視点を置いて入っていけばいいのかわからない感があったのだが、いま聴くとその視点の落ち着かなさは、『AFTER HOURS』の全体像を予告したトレーラーでもあったのだと気づく。
本作がユニークなのは、カメラを花鳥風月ではなく他者へと向け、現状を肯定するでも否定するでもなく生きている人たちの姿を、あくまでもその生活を介しながら、しかし淡々と描いている点だろう。アルバムに通底するのは、そんな「彼ら」が、とくに大きな不満や危機感を抱えることもなく人生を進めていく姿だが、これはおそらく――たとえば、かつて日常の終わらなさに真剣に悩んでいた世代がいたことを考えれば――不幸なことではない。映画『イントゥ・ザ・ワイルド』で描かれた、後期消費社会と縁を切るためにアラスカの大地で野宿をはじめるしかなかった青年や、映画『ゴーストワールド』で描かれた、「ここではないどこか」へ不恰好に憧れ続けた少女に比べれば、彼らはよっぽど「うまく」やっている。
しかしシャムキャッツは、夏目知幸は、彼らの平穏さを点描することによって、むしろそこに隠されたブルーのフィーリングを浮かび上がらせる。大人になった「俺」が、少年の日の自分にじっと見つめられる構図のようにも解釈できるハードロック風の“FENCE”。翌日の仕事のことを無視して平日の夜遊びを終えたにも関わらず、むしろ不満感を噛みしめるハメになるサラリーマンを描くミドル・バラードの“AFTER HOURS”。転勤の辞令を断って無期休暇に入り、引っ越ししたばかりの部屋で新しい生活を想像する一方、このくらいのことでしか自由を感じられない自分になんとなく悲しくなってしまう“LAY DOWN”や、日常を変質させるためのサイケデリック・ソングとしても聴ける“SWEET DREAMS”では、シンセ/キーボードのあたたかい音色が空間を満たすが、後味はビター。テムズビート周辺のUKバンドがラモーンズをカバーしたような“PEARL MAN”では、もっとも熱かった恋を忘れられないだらしのない男を、ラストの“MALUS”では団地の公園でささやかに繰り広げられるボーイ・ミーツ・ガールを描いて、アルバムは終わる。その爽やかさとの距離を聴き手に見せつけるかのように。

それでいて後味が不思議と悪くならないのは、やはり作詞の研究を含むポップスとしての完成度と、ビートの追求の賜物だろう。いっそのこと“MODELS”くらいの分量で、何気ない固有名詞がどの曲にも散りばめられていたらまた違ったおもしろさがあったかもしれないが、そんな風にして時代と簡単に寝ることを拒んだかわりに、地方や郊外に与えられた画一的な記号や、ある種のテンプレ化された物語を引き受けることのない普遍的な作品に仕上がった。音数は厳選されているが、その展開は多彩。10曲が10曲の個性を持っている。アルバムとしての完成度は、まず間違いなくこれまでの中でベストだ。東京でくすぶる若者、というよりは、変化に乏しい場所に暮らし、もしかしたらかつて持っていた理想を少しずつ失ってしまっているような人にこそ届いてほしいと思う。いつか本当に音楽が終わって、人生が始まってしまうときのために。「TOKYO-INDIE」なる枠は、シャムキャッツにはすでに小さすぎる。

Inner Science - ele-king

Inner Scienceの新アルバム「Self Figment」の発売を4月9日に控え絶賛プロモーション期間中、と言う事で今回のチャートではInner Scienceとして制作&共作をして来たインスト/CD/(ミニ)アルバムがなんとちょうど10枚!という強引なこじつけをしつつ、これまでの作品を新しいものから順にご紹介させて下さい。

https://www.masuminishimura.com

Discography 2014/3/14


1
Inner Science - Self Figment (2014) - Plain Music
https://www.plainmusic.jp/catalog/plcd-1002.html

2
U-zhaan+Inner Science - 大宮エリー『思いを伝えるといういうこと展』- O.S.T (2012) - No Label
https://www.parco-art.com/web/museum/exhibition.php?id=451

3
Inner Science - Elegant Confections (2011) - Plain Music
https://www.plainmusic.jp/catalog/plcd-1001.html

4
Azzurro/Inner Science - Attributions (2009) - Hydra
https://www.hydraworld.jp/label/03.html

5
Inner Science - Birthday - O.S.T (2009) - Musicmine
https://www.miraikan.jst.go.jp/dometheater/birthday.html

6
Disc System meets Inner Science - S/T (2007) - Romz
https://www.amazon.co.jp/dp/B000WZO7K2

7
Inner Science - Forms (2007) - Soup-Disk
https://corde.co.jp/release/index001.php?id=13&ra=AWQVJK684

8
Inner Science - Material (2004) - Soup-Disk
https://corde.co.jp/release/index001.php?id=35&ra=AWQVJK684

9
Inner Science - No Name,No Place. (2002) - P-vine
https://www.amazon.co.jp/dp/B00007K4U0

10
Inner Science - 10 Track Sampler (2001) - Oneowner
https://www.wenod.com/?pid=38151813
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