「Nothing」と一致するもの

 日本のフットボールクラブのサポーターが「Japanese Only」と書かれた横断幕をスタジアムに掲げて問題になったという。
 日韓共同開催W杯のときに日本に行った英国人にその話をすると、「あのときも日本の飲食店には『Japanese Only』と書いた紙を貼っている店があった」という。あの「Japanese Only」も、当時UKではちょっとした話題になった。日本人の排外主義は甚だしいと憤った人もいた。が、実際には日本の飲食店には英語を喋れる店員が少なく、海外発行のクレジットカードやデビッドカードが使えないから、会計時に揉め事になるとややこしいと思った飲食店主たちが「Japanese Only」の札を掲げていた。という日本側の理由が説明されると、なんとなく辺境の国ふしぎ話になって終わった。
 が、今回の「Japanese Only」はちょっと違う。そもそも、Jリーグなんてのは、発足当時を知るばばあから言わせてもらえば「Japanese Only」だったら成立しなかったのだ。ジーコやリトバルスキー、「日本で何もせずに大金を稼いできた」と今でも本国でジョークのネタにされているリネカーなど、著名な外国人選手が来たからこそ客が入るビジネスとして成立するようになったのだ。それがいつの間にか「Japanese Only」の横断幕がかかるようになったとは、なかなか感慨深いものがある。
 「ブライトンの柔道教室に『English Only』って書いた札を下げてるようなもんだよな」
 フットボールの母国イングランドのある男性はそう言って笑った。
 とは言え、ある国に余所者が入ってくると排外的リアクションが出るのは当然だ。が、昨今のUKでは、排外ではなく、排内主義の問題が深刻化している。

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 隣家の息子が失業保険を打ち切られてやむなく社会復帰を果たし、たいへん非人道的な会社に入った。というのは以前も書いた話だ
 「おめえの会社、ヒューマンライツはどうなってんの?」
 隣家の息子が仕事の話をするたびにうちの連合いはそう言うが、「仕事があるだけでもありがたいと思え」な時代に、溺れる若者が掴むのは人権の藁ではない。
 「だって、ヒューマンライツじゃ食えないもん」
 暗い目をしてため息をつく隣家の息子は、最近、気になることを言い出した。
 「俺、UKIP支持に回るかも」
 UKIP(英国独立党)とは、ゴリゴリの右翼政党である。が、この政党が不気味に支持を伸ばしているため、保守党政権が著しく右に傾いているとも言われている。「アンチ移民」ポリシーを掲げるUKIPに隣家の息子が共感しているというのは、十代の頃から彼を知っている移民の隣人としては聞き捨てならない。
 彼が最近、ポーランド人の同僚たちに不満を感じているのは知っていた。彼やうちの連合いが働いているダンプの運ちゃん業界でも、近年は外国人労働者の台頭が著しい。公営住宅地で育った隣家の息子がUKIPに走るのはよくあるルートだ。が、しかし彼の場合は、わたしと酒を飲みながら折り紙を折ったり、柿ピーとおにぎりせんべいのうまさについて熱く語り合ったりして、異人や異文化にはオープンだった筈である。
 「外国人の同僚が増えると、中にはムカつく奴もいるだろうから、PCなことばかりは言ってられないだろうけど」
 わたしが言うと、隣家の息子は言った。
 「っていうか、雇用主が英国人を切って外国人を雇うのがムカつく」
 話を聞いてみれば、平素から上司に対して「これは雇用法違反ではないか」みたいなことを言うタイプの英国人青年が、業務上の些細なミステイクを理由に解雇され、代わりにポーランド人労働者たち(みんな身内らしい)が連れて来た運転手が雇用されたという。
 「あいつら、ファミリー&フレンズのグループでがーっと来て、違法だろうが滅茶苦茶な時給だろうが黙って働くんだよ。そら雇用主にとっては一番便利だよね。で、あいつらはみんなで一時的に家を借りて雑魚寝してて、金を貯めたら国に帰るからいいだろうけど、彼らと同じ時給じゃ、英国人が英国で生活していけない」
 過重労働でめっきり痩せて老け込んだ隣家の息子はいう。
 たしかに、映画『This Is England』の時代の移民と、現代の出稼ぎ移民とは、異なる性質のものだ。EUのおかげで自由に行き来できるようになった移民には、昔のように「この国で生きる」みたいな決意はない。どれだけ時給が安かろうと、それが自国でそれなりの収入になれば、がんがん働いて国に帰るだけだ。「英国で生きる」どころか、現代の移民の多くは「こんなに物価が高くて治安の悪い国に根を下ろすのはまっぴらご免だ」とさえ考えており、その構図はさながら田舎ののんびりした場所に家を持ちながら、都会に通勤する人びとにも似ている。

 サッチャーが製造業を破壊する前、全国各地の工場は労働者階級の人びとの職場だった。で、90年代にそれに代わる新ワーキング・クラスの職場と言われたのはコールセンターだった。しかしコールセンターも今ではインドなどの人件費の安い国(先日、PCが壊れてメーカーに電話したら、マジでエジプトに繋がれた)に拠点を移している。それに加え、国内に残された仕事までも外国人たちに占領されたら、英国のワーキング・クラス民には働く場所がなくなる。
 「英国人の若者は下層の仕事はしたがらない」というのは一昔前の話で、失業保険や生活保護打ち切りの時代には、彼らは社会復帰しようとしている。しなきゃ食えないからだ。そんな切羽詰った貧民たちと外国人労働者が競争して下層職を取り合えば、時給はどんどん下がる+待遇は悪くなるの一方で、これが「インディヴィジュアルの競争に任せる」キャピタリズムの有り様ならば、この競争に勝てる者は「黙って雇用主に蹂躙されることができる者」ということになる。市場競争の掟とは「コストを下げ、利潤を上げる」ことだが、人件費というコストは有機物だ。そこには労働を提供する人間の命や生活がかかってくる。
 英国の人件費を押し下げている外国人と、賃金が下がって貧困している英国人労働者。
 UKIPが支持を伸ばすのも道理だが、問題の本質は、下層で低賃金の仕事を取り合っている外国人と英国人の衝突ではなく、非人道的なまでに人件費コストを抑えて競争に勝とうとしている上層のキャピタリスト魂だろう。

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 Obscenely Richという表現が英語にはある。
 Obscenelyをマニュアルどおりに「不愉快なほど」と訳せばどうということはない表現だが、Obsceneは本来、「猥褻」を意味する。「淫らなほど金持ち」とは日本語では言わないので、何処から来た表現なんだろうと考えていた。
 「ソーシャリズムの発端はキリスト教の誕生まで遡る」と言った学者の話は以前も書いたが、実際、新約聖書の時代と現代社会は似ている。貧困者や病人、障碍者が切り捨てられ、「神の怒りに触れた者たち」と見殺しにされた社会と、敗者が切り捨てられ、「自主責任」というキャピタリズム信仰のもとに見殺しにされている現代。世の中は、2000年の時を隔ても相変わらず野蛮だ。
 「それじゃいかん」と反旗を翻したダイハードなソーシャリストがキリスト(実際、聖書を読むと彼はしょっちゅうキレている)であり、彼の種々の言葉が西洋思想のベースにあるとすれば、「淫らなほど金持ち」という表現の出所はそこら辺なのかとも思う。
 英国では、社会がキャピタリズムに傾き過ぎると、必ず反対側に戻そうとする動きが出て来るそうだが、それも「Obscenely Rich」という表現を現代まで絶やすことなく使い続けてきた文化を持つ国だからなのかもしれない。

 ハッピー・マンデーズのべズが来年の総選挙への出馬を表明した。
 労働党候補として出馬する彼は、富の再配分を公約に掲げている。彼が出馬するサルフォードは、英国でもっとも家庭の貧困率の高いマンチェスターでもとくに貧しいこどもが多い地域だ。
 最近、やたらとこういう話を耳にするようになってきた。
 何かの兆しのようなものが、ほのかに表出をはじめたのかもしれない。

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 さて、日本は?

SIMI LAB - ele-king

 シミ・ラボの3年ぶりのセカンド・アルバム、『Page2 : MIND OVERMATTER』は素晴らしい作品だ。ラップ、リリック、トラックのどれもクオリティが高い。たとえば、2003年のMSC『マタドール』、2007年のNORIKIYO『OUTLET BLUES』、2011年のERA『3 WORDS MY WORLD』のように、先鋭的なトラックとリアルな言葉、ラップのエネルギーが調和した、この先も記憶されるべきマスターピースだ。

 トラックのベースは、OMSBによって作られている。よって、本作は彼のソロ・アルバム『Mr. "All Bad" Jordan』の発展型だとも言える。『ele-king vol.13』でのOMSBのインタヴューを読んでなるほどと思ったのは、影響を受けたトラックメイカーについて「RZAとプリモ(DJプレミア)ってでかくて。あとはJ・ディラ、カニエも大きい」と発言していたことだった。なんという、幅の広さ……。そしてヒップホップへのこだわり。ベスト・ソングとして挙げたい“Come To The Throne”──この曲は微妙にブレたビートの上に激しいサックスのブロウのサンプリングを複雑にかぶせたナンバーで、絶え間ない編集作業のなかから生まれた──をはじめ、OMSBのヒップホップへの情熱が具現化されている。

 新作には、OMSB、DyyPRIDE、QN、MARIAを中心にしたファースト・アルバムと比べて、参加ラッパーの人数が圧倒的に多い。それぞれの楽曲にテーマを据えて、各メンバーが大喜利的にストーリーテリングするさまはそれだけでも刺激なのだが、ブロークンなトラックの上で披露される“Karma”はとくに強烈だった。1ヴァースめを担当するOMSBは、ビートを無視しつつもさり気なく韻を踏んでいく。それに対して、2ヴァースめのUSOWAはがっつりビートに合わせて韻を踏んでいく。こうした構成上の工夫が作品の随所にある。スリリングで、聴いていて楽しい。

 とにかく、のびのびとやっているのだが、前述の通り、1曲でひとつのテーマを複数視点で展開しているので、ヴァースごとにメンバーの個性が如実に表れている。「Worth Life」では、冒頭でUSOWAが「今日の繰り返しがほら 来たるべき明日さ 回すKey Chain」と冷めた人生観を披露すると、JUMAは「難しい事は言えないけど太陽に手かざして血潮が見えれば life goes on !」とおおらかに歌う。さらにトリのDyyPRIDEは「不甲斐無え過去のてめえとおさらば」と現在の自分を讃え、明日への活力をみなぎらせる。ライムも言葉も十人十色で、若者たちの人生の縮図がそれぞれの曲に描かれているようだ。

 最近の日本のヒップホップ・シーンにはスターがいないと言われるが、そんなことはない。SIMI LABはもちろん、5lack、PUNPEE、サイプレス上野とロベルト吉野、AKLO、SALU、田我流、SEEDA、NORIKIYO、KOHH、MSC、ERA、Fla$hBackS……、彼らはストリートのスターである。『Page2: MIND OVER MATTER』を聴いていて、AKLOの「ダサいものと戦うのが俺のREBELだ」という発言をあらためて思い出した。ヒップホップへの情熱によって生まれたこのアルバムは、今日の日本のストリート・カルチャーの豊かさを証明するものであり、ヒップホップのリスナー以外にも聴いてほしい傑作である。

Ø(Mika vainio) - ele-king

 ミカ・ヴァイニオ。ミカ・ヴァイニオ。その言葉を何度も繰り返して発してみる。とても不思議なリズムの言葉。まるで彼が生み出す音やリズムのようだ。非反復的な持続と接続。 彼の生まれはフィンランドなのだから、この名も、この言葉も、その土地の名であり、言葉なのだろう。そう、土地の名、名。わたしは、この新譜を聴いて、彼の生まれ育った土地のことを、行ったこともない未知の土地のことを想像した……。

 ミカ・ヴァイニオ。いうまでもなく、彼はあの伝説の接触不良電子テクノイズ・ユニット、元パン・ソニックの元メンバーである。さらには現在最高峰のエクスペリメンタル・サウンド・アーティストのひとりひとりでもある。フィンランド出身のミカは、90年代から00年代にかけて、同じく同郷のイルポ・ヴァイサネンとともにパン・ソニックとして活動した(初期は3人組)。彼らが繰り出すバキバキガキガキと律動するノイズとビートの横溢・奔流・震動に、世界中のテクノイズ・マニアの耳は強烈にアディクトさせられた。接触不良なノイズの快楽と、マシンビートの交錯。そして彼らは、2010年に傑作『グラヴィトニ』(ブラスト・ファースト・ペティ)をリリースし、その長年の活動を停止した。しかしミカの旺盛な活動意欲はとどまることを知らない。ソロ・アーティストとして、ソロ名義、コラボレーション、ライヴなど、多方面で活躍を続けている。

 とくに昨年のリリース・ラッシュは凄まじいものだった。ソロ名義(『キロ』)や、ヨアヒム・ノードヴァルとのコラボレーション作『モンストランス』(〈タッチ〉)、スティーブン・オマリーとのユニットÄÄNIPÄÄの『スルー・ア・プレ・メモリー』(〈エディションズ・メゴ〉)など傑作を矢継ぎ早にリリースした。続く本年もパン・ソニックのライヴ盤やアルネ・ディフォースとのコラボレーション作品が発表される。

 本作は、そんなミカ・ヴァイニオのØ名義の新譜である。彼はパン・ソニック時代からソロ作品もリリースしてきたが、Øはミカ活動初期から続いている名義だ。これはソロ名義よりも先にスタートしていたプロジェクトで、最初のリリースは1994年(『メトリ』)。つまりパン・ソニックのファースト・アルバム『ヴァキオ』(1995年)以前のことなのだ。これだけ長く続けているということは、ミカ本人にとっても、定点観測的な重要な仕事ではないのかとも思える。事実、このØ名義の音は、彼のどの作品とも違う。テクノという形式に、ミカ特有の非反復的なリズムが導入され、そこでノイズやアンビエントな感覚が密やかに鳴り響いている。パン・ソニックからノイズ成分を大幅に抜き取り、静寂なサウンド・スケープにテクノのコンテクストへ接続してみせた、とでもいうべきか。

 今回リリースされた新作『Konstellaatio』は、Ø名義作品としては2011年のEP『Heijastuva』から数えて3年ぶり、アルバムとしては2008年の『Øleva』より6年ぶりの作品である。本作も、Øらしく、これまでの路線を受け継ぐサウンド・スケープが展開されている。テクノを基調とした冷たくクールな質感、横溢する音の連なり。そこではソロやコラボレーション作品とはまったく違う透明な音が鳴り響いている。ノイズよりも、つるんとしたガラス細工のようなクリスタルなサウンドが主体なのだ。そして、そのガラス細工のような音の芯には、ミカの極めて個人的な響きが深く鳴り響いているように思えるのだ。そう、Øにおいて、ミカは自分の内面や人生を振り返るようなサウンドを出しているのではないか(たとえば2008年の『Øleva』ではピンク・フロイドのカヴァー・トラックが収録されていた)。そして、テクノというフォームを内側からずらしていくコンストラクション/コンポジションには、彼の個人性(リズム感や音響への感性)を強烈に感じることができるのだ。

 本作にもまた、そのアルバム・タイトルやアートワークを見てもわかるように、ミカ・ヴァイニオというフィンランドに生まれたアーティストの記憶やノスタルジアが圧縮されているように思える。まるで幼年期に見上げた星空の記憶が、クリスタルかつ非反復的な電子音によって鳴らされるような──煌くような連なりを持ったサウンド・テクスチュア。それほどまでに、このアルバムにはどこかノスタルジックな空気と時間が充満している。パン・ソニック的な壮絶なノイズの炸裂とは違う、静謐で繊細、クリアなサウンド。深く淡く響くダヴィな低音。その非連続的な音響/リズムの持続と切断。地に響くような低音と星空に煌くような高音。重力と上昇。これらにミカ・ヴァイニオというアーティスト/音楽家の本質が静かに息づいている。そう、本作は、大地と空を繋ぐ電子=音(響)楽であり、たとえるならば、密室から星空を見上げるような垂直性が表現されているように思えるのだ。

 このアルバムは、インダストリアル/テクノが人気のシーンに距離を置きつつも、同時に、北欧の土地だからこそ生まれたインダストリアル感覚を基調に、テクノと、アンビエントと、ミュージック・コンクレートが交信することによって、まるで個人史と電子音楽の歴史が(結果として)重なり合うような音楽/音響に仕上がっているのだ。ベルナール・パルメジャーニ、ピエール・アンリ、リュック・フェラーリなどのフランス電子音楽の大家たちが作り出した音響空間を密やかにのみこみ、そして俳句を彷彿させるような静謐な音……。

 個人史と音楽史が、ミカ・ヴァイニオの記憶の中で、必然/偶然に結びついているのだ。ベンヤミンの『ベルリンの幼年時代』のように、彼自身の記憶と人生が、断章的/包括的に鳴っているとでもいうべきか。その音響空間は記憶の中で煌くオーロラである。静寂で、非連続的で、密室的でもあり垂直的であり、時間が圧縮された記憶の結晶。そして、その郷愁には湿った感傷などまるでない。硬質なマシニック・ノスタルジア! このアルバムを、エクスペリメンタルな電子音楽を愛するすべての人に聴いてほしいと思う。そんな愛すべき作品である。

Gay Disco/House - ele-king

 ハウス、ハウス、ハウス……。これだけイーヴン・キックが鳴らされる時代なら、ゲイ・カルチャー界隈が盛り上がるに決まっているのです。というわけで、アンドロジニックなダンス・トラックをいくつか紹介。

Annie feat. Bjarne Melgaard / Russian Kiss



 コラムでも書いたけれども、それはまさにいま、たったいま起こっているのだ。僕はアメリカ大統領選があった2012年ごろがピークだろうなーと思っていたけれど、先日のソチ五輪をきっかけにして、おもに欧米のLGBT活動家がロシアのアンチゲイ法(「伝統的ではない関係性」を促進するのを禁じるとする法律で、「ホモセクシャリティの助長」が罰せられる)に対抗して、ゲイ・ライツを高らかに訴えている。たぶん、LGBTの歴史上でも最大の波が来ていると言っても過言ではないと思う。
 ノルウェーのエレポップ・アイコン、アニーはホモセクシュアル・アートも手がけてきた現代アート畑のビャーネ・メルガードを呼んで、なかなかラディカルなヴィデオとともにシンセ・ポップとしてプロテスト・ソングをドロップ。「ロシアのキスのために拳を振れ」。けれどもハーヴェイ・ミルクの70年代サンフランシスコの政治活動がそうだったように、この闘いには愛が溢れていて、それはゲイだけではなくあらゆるはみ出し者に捧げられている。「Show your love for the lovers, the others, the fighters, outsiders, people like you」。そう、あなたのようなひとたちのために。ポップでセクシーで、そして決意に満ちたダンス。

Pet Shop Boys feat. Panti Bliss / The Best Gay Possible - Oppressive Dance
Mix



 ペット・ショップ・ボーイズがここまでダイレクトに政治的な振る舞いをするのは珍しいのではないか? しかも、楽曲の上で、だ。アイルランドのドラァグ・クィーンのパンティ・ブリスによるホモフォビアについてのスピーチ(こちら、日本語字幕あり)にハウス・ビートをつけたトラックで、どこか切なげでフワフワしたヴォーカルはなるほどPSB。パンティ・ブリスの発言も非常にわかりやすくていいけれども、その上でどうしてもダンスせねばならないところにゲイ・カルチャーの底力を覚える。というか、PSBがそれを堂々と背負う日がついに来たのかと思うと感慨深い。

Hercules & Love Affair / Do You Feel the Same?



 そして真打登場。さあ、四半世紀前の薄暗いダンスフロアにタイムスリップしよう。そこにはセックスとドラッグの匂いが充満している。この先行シングルでは、得意のディスコのグルーヴで耳元に囁く……「あなたもそう思うでしょ?」
 もちろんだとも!! 新たなゲイ・アイコンの座へと登りつめたジョン・グラントも参加するアルバムは5月。すべての機運が熟している。

Friendly Fires & The Asphodells - ele-king

 夢見るロック・バンド、フレンドリー・ファイアーズ、そしてUKテクノ番長所属のジ・アスフォデルス(アンドリュー・ウェザオール+ティモシー・J・フェアプレイ)の共作が出ます。3月31日、フレンドリー・ファイアーズの自主レーベル〈Telophase〉からそのシングル「Before Your Eyes/Velo」が限定リリースされます!
 レコーディングはウェザオールのショーディッチにあるスタジオとフレンドリー・ファイアーズのフロントマン、エドのファリンドンのスタジオでおこなわれ……、そしてミキシングにはコニー・プランク(クラウトロックの父)がかつて所有したデスクを使用するという懲りよう。
 インディ・ロックとDJカルチャーの溝を埋めるというのは、エレキングのテーマでもあるので、実に興味深く、嬉しいニュースです。
 なお、フレンドリー・ファイアーズは2011年のセカンド・アルバム『パラ』に続くニュー・アルバムを現在制作中だそうです。


「Before Your Eyes」試聴:

Marii (S/LTD) - ele-king

女3人でパーティ「S」をオーガナイズしています。
次回は3/29(sat)、ゲストにKABUTO(CABARET/LAIR)を迎えて開催します!

DJスケジュール
29th Mar 2014 S@KOARA
25th Apr 2014 JACARANDA@M

Sblog :https://ameblo.jp/s-3djs/

Soundcloud : https://soundcloud.com/mariiabe

むいしきにダンシングできる10曲を選んでみました。
のどに詰まった魚の骨、満員電車でひっかかった私のカバン、よく覚えていないけど気になるアノヒト。
地面におちてゆくID。すべてむいしきの仕業。今夜はどこかへ遊びに行こう、そんなときに踊りたい10曲。
(順不同)

むいしき10トラック


1
Cola&Jimmu - Enigmatic - Herakles Records

2
French Fries - Smoke Wine(Goldffinch Remix) - Dirtybird

3
A Man Called Adam - Que Tal America?(Robert Mello's Filter Edit) - Other Records

4
Jon Kwest - That's Love(Love Movements) - ?

5
Guillaume&The Coutu Dumonts - Indigo Shower - Oslo

6
Point G - Braka - Point G

7
Madteo - Insider - Morphine Records

8
Beat Freak feat.Maria - Loop Trick Original Mix - King Street Sounds

9
Enrico Mantini - Dont't Think About It - Traxx Underground

10
Thomas Schumacher - You got me(Onno Remix) - Get Physical Music

『いじわる全集』 - ele-king

 柴田聡子のセカンド・アルバムは、本人によるレーベルからのリリース。録音も自らが行っており、弾き語りのスタイルは変わらないものの、〈浅草橋天才算数塾〉から生まれたデビュー・フル『しばたさとこ島』(2012年)以降、彼女が何を歌い何を感じてきたのかということがしっくりと盤として落とし込まれている。タイトルは『いじわる全集』。〈レコード・ストア・デイ〉に際し、限定7インチもリリースとなるようだ。ele-kingは〈レコード・ストア・デイ〉を応援します!

柴田聡子『いじわる全集』

■柴田聡子『いじわる全集』
初回限定プレスのみ豪華紙ジャケット仕様
レーベル:柴田聡子
発売日:2014年5月21日
金額:2,300円+税
曲目:
01.部屋を買おう
02.おまつりの夜
03.ベンツの歌
04.しんけんなひとり
05.はやいスピード
06.緊張のあいだ
07.(わたしが)ほんとうになったら
08.いきすぎた友達
09.ふしぎね
10.とさだより
11.三つの屋根
12.責めるな!
13.会いに行きたい
14.お別れの夜
15.いじわる全集
16.ストレートな糸

全曲 作詞・作曲・演奏・録音:柴田聡子
ゲスト:植野隆司(e.guitar M.4.16)
マスタリング:大城真

■先行シングル「いきすぎた友達」(7”)
RECORD STORE DAY限定アイテム
発売日:2014年4月19日
金額:1,500円+税
B面収録曲:アルバム未収録曲として、昨年惜しくも解散したいまや伝説のバンド“MAHOΩ”の代表曲“しかけの恋”のカヴァーを収録。
オマケとして同内容音源を収録した8センチCDを同封。
曲目:いきすぎた友達/しかけの恋(MAHOΩカバー曲)
演奏・録音:柴田聡子
マスタリング:大城真

■RECORD STORE DAY
https://www.recordstoreday.com/
https://www.recordstoreday.jp/

■柴田聡子コメント
このアルバムを録ろうと思って、家でひとりでデモを録ったのが、2012年の12月30日。
年をまたぐ頃、デモが完成。今回参加していただいた植野隆司さんをはじめ、何人かにこれを渡す。その後、途中、何回か録音したけれど失敗したりする。一年間、ライブでこれらの曲をずっとやって、偶然にも、2013年の12月30日にもう一度、録音開始。録音は自分ですることにした。神保町試聴室をお借りした。植野さんにお願いして、ギターを弾いて頂いたり、音を聴いて頂く。集中力が無いので、一日の録音時間はきっと短かった。2014年1月2日、録音終了。植野さんがこの録音の音源を大城真さんに聴かせたところ、マスタリングを依頼することが出来た。1月21日、マスタリング。1曲削った以外は、一年前とほとんど同じ曲順だった。(デモは17曲あった。)タイトルも、一回考え直して、これだ、となったけれど、やっぱりやめてしまい、迷っていた。三沢洋紀さんのところに音源を渡しに行った時、タイトルが決まっていない、というはなしをしたら、曲目の中から「いじわる全集」を選んで、これかな、とおっしゃった。すっかり忘れていたけど、それは一年前に思ったタイトルのそれだったので、納得がいった。
こういう経緯で、できました「いじわる全集」というアルバム、お手に取って聴いていただけると、とても嬉しいです。

■プロフィール
1986年札幌市生まれ。2010年より都内を中心に活動を始める。2011年、夏と冬に2枚のデモCD(計20曲)を発表。東京芸術大学大学院映像研究科2011年度修了制作展「MediaPractice11-12」のテーマソングにボーカルで参加。2012年6月、1stアルバム「しばたさとこ島」を浅草橋天才算数塾より発表。2012年11月には同アルバムの10インチ・アナログレコードをなりすレコードより発売。2013年8月、12インチ・アナログレコードシングル「海へ行こうかEP」をなりすレコードより発売。また山本精一と岡田徹(ムーンライダーズ)のユニットya-to-iの12年ぶりの新作『Shadow Sculpture』にゲスト・ボーカルとして全面参加。2014年5月、2ndアルバム「いじわる全集」発売予定。

■オフィシャル・ウェブサイト sbtstk.tumblr.com


talking with downy & Fragment - ele-king


downy - 第五作品集『無題』リミックスアルバム
Felicity

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 昨年11月に、活動休止期間を経て9年ぶりの新作アルバムを発表した“ポストロック”・バンド、downy。これまでと同じように無題で発表されたこの第五作品集は、しかし、名をもたず語らないことのうちに含みこんだ情報や熱やスキルを大きく増幅させている。音は緊張感に満ち、同時に、生活と音楽とをより広く長いスパンから見直す時間を経たことで迫力のある余裕や深みさえ生まれている。
 今月、その第五作品集がリミックス・アルバムとなってリリースされた。〈術ノ穴〉主宰のFragmentをホストとし、セルフ・リミックスも加えれば14組もの豪華な顔ぶれが参加、それぞれのdowny解釈を発展させている。
 〈術ノ穴〉はご存知のとおりヒップホップからロックまで、またアイドルやアートにまたがる仕事も多数手掛け、アンダーグラウンドをフリーフォームにつないでいるレーベルだ。彼らとdownyとの邂逅を人によっては少し意外に感じるかもしれない。だが、以下の対談をお読みいただければその思いも氷解するだろう。downyのファンとしてリスペクト全開に本作を語るFragment──その言葉は、かつて彼らが夢中になったというdownyの活動とともに、そこに広がっていたジャンルレスなシーンをも浮かび上がらせた。このリミックス盤の価値はその点にもあるといえるだろう。「GOTH-TRADといっしょにやっていたりとかLITTLE TEMPOとか、THA BLUE HERBとの2マンとか、54-71とか、あのあたりの感じとDJ KRUSHとかも僕らには同じように見えていたんですよ」(Kussy)。それは2000年代初頭のクラブ・シーンの一端を思い起こさせるリアルな証言であり記憶。彼らが受けたインパクトまでがまざまざと伝わってくる。本作は、そうした記憶がなぞられ、敬意をこめて再構成されることで、単なるリミックス・アルバムという域を超える存在感を生んでいる。downyの表面をなでるのではなく、その存在や来し方を愛をもって掘り起し、自分たちの現在をミックスしていく──とても幸福な作品であり、リミックスということの意義自体までもを考えさせる逸盤ではないだろうか。
 それでは蛇足ながら、頭から尾まで、単体でも愛聴すべき素晴らしいトラックが並んでいるということを申し添えつつ、以下の対話へのリードとしたい。3月某日、小春日和の下北沢にて、暖気を引き連れて東京入りしたdownyの青木ロビン、そして彼を迎えるFragmentのkussy、deii、各氏に話をきいた。

とにかく僕らのほうはdownyのファンだったわけで。(kussy)

(この日上がってきたばかりのサンプル盤を手に取りながら)

青木:やったね。

kussy:うれしいなー。

青木:デザインもいいよね、この赤がいい。

中には歌詞なんかも記載されているんですか?

青木:“十六月”だけ入っていますね。──これは9年前にできているんだよ。9年前にすでにあったメロと歌詞。

deii:そうなんですか!

kussy:へえー!

アルバムの方には収録されていないですもんね。そうしたことも追々うかがっていきたいんですが、まずはどうしてこの新作(第五作品集、2013年リリース)のリミックス・アルバムの企画が生まれたのか、Fragmentのおふたりと組むことになったのはどうしてなのか、というところからお訊きしたいと思います。

青木:俺から話そうか。まず、ふたりとは沖縄で会ったんです。ライヴがあって。自分としては、また音楽をはじめようかどうしようかというタイミングだったかな……どうだったっけ、俺、音楽やるって言っていたっけ?

kussy:噂的なものはあった、という感じですかね(笑)。3年くらい前になりますか?

青木:そうだね。

deii:震災の頃かな。

青木:うん、その年だね。彼らのライヴがあって、そのオーガナイザーが僕の知り合いだったんです。で、その方を通して、彼らから会ってみたいという連絡があったので、「行く行く」と(笑)。ボロボロの居酒屋でね。

kussy:飲んだっすね(笑)。とにかく僕らのほうはdownyのファンだったわけで、全盛期にはライヴも行きまくっていたし、音源もすごく聴いていて。ツイッターとかでも、ことあるごとに「downyのフレーズ、やっぱかっこいいわー」みたいなことをつぶやいていたんです。そしたらオーガナイザーのキムさんがロビンさんと仲のいい方で、ロビンさんをこっそり誘っていてくださって……。

青木:あれは、こっそりなんだ?

kussy:そうですよ。まさか、ロビンさんに会えるなんて思ってもみないですし。沖縄に住んでいらっしゃるらしいということは知っていましたけど、あれは本っ当に焦りましたね……!

ははは! では、ステージじゃないところでの青木さんの印象はどうでしたか?

kussy:いやもう、俺らは固まってたし、酔っ払ったりもして、ただただ当時の熱い思いを伝える一方でしたね(笑)。

青木:はははは。

kussy:どれだけ好きかっていう。

青木:それで仲良くなって、翌日ライヴを見せてもらって、何か機会があったらいっしょにやりましょうという話をしたんだよね。

kussy:機会があればリミックスとかやらせてくださいよ、みたいなことをこちらから一方的に言っていたんです。

青木:そして、いざ、ということではじまったね。

なるほどー。でも、好きであればあるほど、リミックスという行為への責任というかプレッシャーは甚大なものになるんじゃないですか?

kussy:ははは、たしかにね(笑)。


曲作りってリミックスに近くない? (青木)

最初に、こんなふうにしたいというような構想はありました?

kussy:そうですね、とくにプレッシャーのようなものがあったわけでもなくて、いつもどおりにやればいいと思っていました。とにかく、愛はあるんで。それだけわかってもらえればいいなというところでしたね。……(自身らによるリミックスが)実現すると思っていなかった部分もありますし。

青木:有言実行だから。

ははは!

kussy:なんか、断れなくなるほど強く売り込んでしまったかもしれないですけど(笑)。

その「愛」の部分はこの盤のどんなところに反映されていると思います? リミキサーの選定なり段取りなり、あるいはコンセプトの部分ですとか、感じるところがありますか?

青木:愛はちょっとわかんないですけど、リミックスというのはやったことがなかったので、とにかくアドヴァイザーとしていろいろな相談に乗ってくれたのはありがたかったです。それこそ、どんな頼み方をすればいいのかといったことから、曲順とか、音の渡し方とか、逐一訊いて実行に移すという流れがありましたね。忙しいなか、親身によくやってもらえました。

曲順というお話が出ましたが、アルバムとはぜんぜん違っていて、完全に再構築されていますよね。アタマの“十六月”も未収録曲です。これは、どこかにリミックス以前の「オリジナル」が存在しているわけですよね?

青木:そうです。

それ自体はどういったかたちで世に出るのでしょうか。

青木:それは出ないですね。アルバムからあぶれた曲なんですよ。それで、手法を変えて組み直したんです。

オリジナルがあってリミックスがあるわけですが、オリジナルが聴けない場合、「リミックス」と「別テイク」との差は何なのか。そのへん何か意識されていたことはありますか?

青木:なんでしょうね、曲作りってリミックスに近くない? 俺たちはまたけっこう特殊な作り方をするので、何とも言えないんですが。「これで出す」って決めた瞬間に、はじめて尺もふくめて曲が確定するという感じなんです。レコーディング中はひたすら変わりつづけるというか、頭がサビになったりとかね。

kussy:たしかにdownyはそこが他のバンドと大きく違うかもしれないですね。このまえ裕(青木裕)さんと話したんですけど、そのときに曲の作り方なんかをいろいろ訊いたんですが、「ぜんぜん変えてしまう」というようなことを聞きました。

青木:もらった音は俺もすごく変えちゃうからね。

kussy:ですよね。それはかなり特殊なんじゃないかなと思いました。

青木:変えるというかやり直すというか。もともとのトラックにエフェクトをかけて音程が変わって、むしろそれをギターでやり直すとか。いいノイズが乗っているのをハットでやるとか。

kussy:ははは。


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着地点の予想がつくものにはしたくなかったんですよね。 (kussy)


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Felicity

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青木:だから、つねに自分たちの曲をリミックスしている感覚はあるね。“十六月”はその継続のなかで形作られたもので、だからオリジナルといえばオリジナルかもしれません。CDとして出すタイミングがひとつのリミットになっているというか。

kussy:俺らも途中経過に参加している感じでしたよね。どれがオリジナルかということはあまり意識しない状態から作りました。あくまで素材として接していて。

青木:うん。ほぼ素材だけで渡していたからね。

なるほど。ちなみに“十六月”というイメージや意味をめぐってはどうですか?

青木:意味は……ないっすよ。

ええっ(笑)、ないんですか。

kussy:俺らもないっすね(笑)。音だけというか。

ははは。ビートにはずいぶんと隙間を持たせていますよね。ちょっとジャジーに仕上がっていて。

kussy:すごくヒップホップにしようと思って。

青木:かっこいいよね!

kussy:着地点の予想がつくものにはしたくなかったんですよね。声の使い方にしても、スクラッチしてみるのがいいかなって。ロビンさんの声こすったらおもしろいなというふうには思いました。それくらい、素材として使わせてもらう感覚でしたね。

downyの音世界には、すべてが心象風景として立ち上がってくるような、インナーな圧力をものすごく感じるんですが、Fragmentのリミックスはそれを文字どおり脱構築するというか。「素材」という視点の、ある意味でのドライさがすごく特徴的だと思います。

青木:お願いしたかったことが具現化されていましたね。たしかに、解釈もヒップホップだし。

そのあたりでは、olive oilさんだったり、やけのはらさんだったりの参加も目を引きますね。やけのはらさんのあの本当に元のグルーヴやテンションを脱臼させる手つきとか。

kussy:あれもよかったですよね。

青木:オリーブくんも完全にオリーブくん節だよね。

kussy:そうですね。リミキサーをどうするかという話のときも、僕がオリーブくんを提案しようとしたら「もう頼んである」って言われたんですよ。

青木:〈zezeco〉で同じイヴェントでライヴをしたり、あとはMission Possible(olive oil×ILL-BOSSTINO×B.I.G.JOE)。来沖した際に紹介してもらったりというつながりがあったりもしたんだけど、downyとして何かをお願いするのは初めてですね。

kussy:本当に「olive oil」でしたね。

青木:もはやオリジナルだよね(笑)。

人選にあたっては、シーンを見渡してというようなバランス感覚も働いているんでしょうか。それともより感覚的な部分を優先されたのでしょうか。

kussy:たとえばオリーブくんに関して言えば、彼のスタンスというか、あのブレなさに、完全にdownyと近いものを感じてました。勝手にですけど。音としてもそうですね。俺らからしてみればDownyのことも好きだし、olive oilのことも好きだし、尊敬しているし、迷いないところです。

青木:素晴らしい。

kussy:はい(笑)。いろんなトラックメイカーがいて、いい人もたくさん出てきているんですけど、そういうことよりはdownyに愛がある人選がいいんじゃないかなと思っていましたね。「売る」ということを考えたら、もう少しいろいろあるんでしょうけど。


あの曲のドラムがすげぇなっていう話をしていて。 (deii)
リミックスとなるとどうしても変拍子は厳しいんですけど、チャレンジしてみたいなと思った。 (kussy)

Fragmentさんは“十六月”の他に“㬢ヲ見ヨ!”にも取り組まれていますが、どうして“㬢”だったんです?

deii:あの曲のドラムがすげぇなっていう話をしていて、そこを俺らなりにどう崩せるかな、という思いがあったんですよね。ちょっと挑戦してみたいなと。

kussy:リミックスとなるとどうしても変拍子は厳しいんですけど、チャレンジしてみたいなと思っちゃったことがいちばんの理由ですね。オリジナルのなかでもいちばんすごい曲だと思ったし、「やってみたい」って言ったら「いいよ」ということにもなって。

青木:なんか、挙手制だったよね(笑)。

kussy:ロビンさんも、最初は「カブってもいいじゃん」って言っていましたよね。最終的にうまく収まりましたよね。

青木:よく選んだなって思ったよ(笑)。あれ(“㬢ヲ見ヨ!”)はみんな選ばないだろうなっていう曲だったから。

といいますと?

青木:本当に難しいと思うし、うわずみだけ取って四つ打ちにするというようなイージーすぎるやり方だと成立しないだろうし、あのぐしゃぐしゃした感じも残さなきゃいけないだろうしね。

グルーヴを削いでハーシュノイズを注ぎ込んで、むしろあの曲の内側に渦巻いていたものを外に出したというような印象を受けました。

kussy:そこを汲み取るというよりも、いかにロビンさんに「おっ」って言ってもらえるかということを考えていたように思いますね。好奇心というか。

なるほど! それはいちばんのモチヴェーションかもしれませんね。ちなみに「㬢」って漢字読めました?

kussy:いや、読めなかったですね。

──私もです(笑)。あのリミックスはまさに、読みを知らない状態のあの字をビートとノイズで組み直したらこうなるのかよ、みたいな仕上がりだと思いました。

kussy:そう言えばよかった(笑)。いや、オリジナルが本当に熱すぎるから。

青木:いやいや、出来上がったの聴いてすぐ電話したよ。「超かっけえ!」って。

kussy:僕らはロビンさんの電話がくるまで、マジで緊張しましたけどね……。

ああ、それは緊張するでしょうね……。あとは、「ア」音を大事にされているなとも思って。ヴォーカルのなかから、あの部分を抜いたのはどうしてです?

青木:あ、それ俺も訊きたい。「兄弟」とかもね。

そうそう! そこも気になりました。「兄弟」って言葉が鮮やかに切り取られていて。

青木:ヤバイよね(笑)。なんでそこやったんや!? って。

(一同笑)

deii:両方ともいちばん耳に残る部分ではありましたから。

kussy:音としておもしろいかどうかというところの判断ですよね。

青木:まあ、ちゃんと歌詞が聞き取れる部分があのへんしかないということもあるよね(笑)。だいたいが何を言っているかわからないからさ。

そんな(笑)。わたしには、このジャケットのアートワークの赤も、あの「ア」のイメージで感じられますけどね。「㬢」の「ア」の。

kussy:ああ……。

青木:ジャケ、かっこいいよね。あのリミックスは、僕らが“十六月”をやらないなら、ぜひ1曲目にしたいと思っていたくらいなんですけどね。僕らはバンドでやっているんで、途中に入れ込むと音が引っ込んじゃうというか。そういうこともあったので、まあ、オープニングというようなところで、最初に入れましょうということになったんです。


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普通のリミックス・コンペとはちょっとちがう空気感でしたね。 (kussy)


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なるほど。そのあとはちょっとニカ寄りなセクションといいますか、アンビエントな流れが続きますね。AmetsubさんやGeskiaさんも、他の人にはできない仕事をされていて、downyの旋律的な素晴らしさというような部分もとてもロマンチックに引き出されていると思いました。このあたりも印象深いです。曲の配置についてはどんなやりとりがあったんでしょうか?

青木:いったん僕がタタキを出しました。オリジナルの曲順でもいいんじゃないかって思ったんですけど、流れを考えるとこうなりましたね。みんなそれぞれにインパクトを持っているので、それを消したくなかったです。よかったんじゃないかな。

kussy:そこはロビンさんに言われたまま、変わってないですね。もうコレでしょうという感じで。話の蒸し返しになりますけど、“十六月”をどこにもってくるかということだけでしたね、協議したのは。

青木:リミックス・アルバムを謳っているわけだから、ケツがいいんじゃないかと思ったんですよね、最初は。なんか自分たちが一発目というのもおこがましいなと(笑)。

kussy:いや、絶対アタマでよかったですね。

いちリスナーとしてもそう思います。ところで、今回は「コンペ」という枠も取られていますよね。このアイディアは誰の提案によるものなんですか?

青木:どうだろう、やったことのない取り組みではあって。

kussy:僕らをつないでくれた沖縄のキムさんが、沖縄にもいいビートメイカーがたくさんいるとおっしゃっていて……

青木:あ、そうだね。キム側から言われたのかも。沖縄でリミックス・コンペをやってみたいというようなオファーがあったんだけど、まあ沖縄だけというのもないだろうということで〈felicity〉に相談したんだよね。それでやってみようということになった。

おもしろいですよね。それでBO NINGENのタイゲンさんが大賞ということになったわけですが、選考理由などを教えていただけますか?

青木:全部で120くらい応募があったんですよ。上がるたびにちょこちょこ聴いてはいたんですが、なかには同じ人が3つくらい送ってくれていたりもして……

kussy:普通のリミックス・コンペとはちょっとちがう空気感でしたね。これだけ同業者が反応するっていうのもめずらしいと思いますし。

青木:結果、プロばっかりが残ってしまったんですが。

kussy:こんなにプロばっかりが応募するというのもなかなかないことだと思うんですよね。そこが本当にすごいなあって。

青木:プロっていうかね。外国の人もけっこういたなあ。でも、裸で素材を渡すっていうのは、けっこう恥ずかしいことでもあるんですよ。

deii:ははは!

青木:ネタバレするしね(笑)。そういうことで応募してくれたりもしたのかな。音だけ聴こうということで。

kussy:あんなバラで聴けることはないですからね。

そう考えるとたしかにレアな機会でもありますよね。で、プロデューサー・タイプの方が多いなか、タイゲンさんは普段けっこう重心低めなサイケ・ロックをやっている方でもあるわけで、その意味では曲に対する理解やアプローチが他の方と異なっていたりするのかなと思われるんですが、そのへんも大きいのでしょうか。

kussy:たしかに、バンドの人のリミックスだと感じましたね。

青木:正直なところ、まったく選べないくらいのレベルでたくさんの素晴らしい応募があったんですよね。もう誰が何点というような世界ではなかった。でも、やっぱり受賞者を決めなければいけないという立場からすると、インパクトのあるものを持ってこなければならなくなるんですよ。音圧なんかもふくめて。最終的に15曲くらいに絞っていったんですが、インパクトのあるものは選考の対象にしやすいです。どうしても。レーベルの人なんかも入れてそれぞれ3~4選を持ち寄ったんですが、タイゲンくんは全員が挙げていましたね。ロックだし単純にものすごくかっこよかったです。

kussy:そうですね。

青木:僕、面識は一度もないんですよ。


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僕らの思うクラブ・ミュージックへのリスペクトを、リミックスというかたちで表現できたらいいなということが出発点にはあります。 (kussy)


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インパクトはすごくありましたよね。インダストリアルな感じで。一方で次点といいますか、特別賞がふたつありますね。

青木:本当は大賞だけを音源化するつもりだったんです。だけど、本当にもう、誰が入っても遜色ないというくらいに接戦で。可能なかぎり入れるとして、あと2曲選べるならどうするかというところで選ばせてもらいました。みんなに聴いてほしいですね。

他の収録者と違うなと思う点なんですが、やはり公募というだけあって、すごく攻めている2曲ですよね。

青木:そうですよね。やっぱり攻めているものが残りやすいかもしれないです。

deii:アピールしようという気持ちがあるもの、ですよね。

munnraiさんなんかも、LAビート・シーン的な、すごく錯綜した構築物という感じで。

kussy:結果として自分たちですでにリリースのある人たちが残っていますよね。べつにわざわざそういう人をプッシュしたわけではないんです。

GuruConnectさんも徹底的にミニマルで。

kussy:あれもかっこよかったですよねー。

青木:ここをこう取ってくるんだ、っていう驚きがあったよね。よくもわるくも素材をそのまま残しすぎている人が多かったなか、際立っていました。俺はそんなふうにツイートもしましたからね。もっともっとぶっ壊してほしい、って。でも、リミックスってなんぞやというところをそれぞれが出してくれているので、そこは見てもらいたいですね。

リミックスとは何か、と。

kussy:僕らからすれば、オリジナル・アルバムを聴いてもらうためのひとつの手段というところもありますね。とっかかりというか。もしかしたらolive oilが好きで、でもdownyは知らなかったという人もいるかもしれないじゃないですか。……こういう言い方は、ちょっとアレかな。俺たちは原曲がいちばんかっこいいと思っているから、それを壊したり別の魅力を引き出したりできたらいいなというところはあるんですけど、最終的にはオリジナルをちゃんと聴いてねという気持ちです。

青木:僕はクラブ・ミュージックに影響を受けているので、そのことも伝えたいし、そういう人たちがバンドとしての僕らの音に触れる機会が増えればいいな、ということも思います。僕なんかがシーンを云々するという大きなことはできませんけど、いろんな音楽があるということを伝えられたらなと。
僕らは、活動を休止する前はクラブでのライヴが多かったんですよ。映像を使ったりすることをふくめていまは珍しいことではないんでしょうけど、本当に、半分はライヴハウスじゃないところにいた。だから僕らの思うクラブ・ミュージックへのリスペクトを、リミックスというかたちで表現できたらいいなということが出発点にはあります。Fragmentのふたりに会ったこともビビッとくるものだったし。
あとは、ハラカミ(レイ・ハラカミ)さんが言ってくれたんですよ。このリミックスという話をもっとずっと巻き戻していくと、ハラカミさんの言葉があります。亡くなった直後にふたりに会ったのかな。

kussy:ハラカミさんが亡くなる1週間前にちょうどイヴェントでお会いしていて。ロビンさんのお店でライヴをされていたんですよね。

青木:そのときにハッパをかけられたんですよ。いい加減にアルバム出せやって。俺も出すからと(笑)。それで、「出したら何か得があるんですかね」って返したら、「俺がリミックスしてやるよ」と言ってくれて、ああ、そういうやり方もあるのかと思ったんです。まあ、今回の話とは関係ないんですが、リミックスという方法を意識したのはそのときが初めてでしたね。

kussy:それ、聴いてみたかったですね……。


あの当時は本当にワクワクして。少しでも何かを吸収しにいこうという気持ちでしたよ。 (kussy)

踊れるということも大事だけど、「やべぇ」がもっと大事っていう時代だったよね。 (青木)

今回はタイゲンさんが大賞を獲られたわけですが、素朴に、バンドというスタイルについてはどんなふうに思われていますか? この10年ほどはプロデューサーの時代だったと思いますし、downyも奇しくも活動を休止しておられました。

青木:レーベルからバンドの音源はリリースしているんだよね?

kussy:そうですね。もともと俺らは楽器もできなくて、そういうところからサンプリングへ入っていくわけなんですけど、バンドへのコンプレックスやあこがれはありますね。バンドが好きだし、もう、ただファンだというだけです。ヘッズなんで。バンドもたくさん聴いてきたし、downyのライヴだって、GOTH-TRADといっしょにやっていたりとかLITTLE TEMPOとか、THA BLUE HERBとの2マンとか、54-71とか、あのあたりの感じとDJ KRUSHとかも僕らには同じように見えていたんですよ。だからバンドがとくにどうというよりは、あの思春期に体験したアンダーグラウンドへの思いですかね……。

青木:いい時代だったよね。いまがどうだという意味ではなくて。

kussy:インターネット前というか。もちろんインターネットはあったんですけど、いまのような状況ではなくて。あの……空気感ですね。なんというか、説明できないんですけど(笑)。とにかくあこがれたし。

〈術の穴〉での活動というのは、その時代のポストを担うものでもあるんでしょうか。

kussy:もっとポップなものも、好きなんですけどね。そういうものもやっていきたいし。

deii:音楽を作りはじめたころがその時代だったんで、いまkussyが言っていたようなシーンや空気をいちばん吸収した世代なんですよ。

kussy:その影響を受けたやつら、聴いていた世代がこのコンピに入っているんですよね。たとえばtofubeatsくらいの若い世代だと、失礼だけどdownyを知らないということもあると思います。いや、彼は知っているかもしれませんけど──

ポスト・インターネット世代、というあたりの人々が物心つく前の話だと。

kussy:このコンピに関しては、僕らと同じように影響を受けて、downyに対する愛を持った人が集まったほうがいいかなと思ったんです。アンダーグラウンドなクラブ・シーンにいれば、少なからずdownyとかBLUE HERBとかDJ KRUSHなんかにはダイレクトに影響を受けているわけで。彼らを知らない世代についてどうこう言うわけではないんですけどね。

アンダーグラウンドなシーンについてのタテの流れはたしかに感じます。歴史性というか。いまは圧倒的にヨコになりますから。

kussy:そうですね。新宿〈Liquid〉の感じとか。

青木:〈Organ Bar〉とか行ってね。ちゃんとお客さんがいたんだよね。

kussy:あの当時は本当にワクワクして。少しでも何かを吸収しにいこうという気持ちでしたよ。

青木:踊れるということも大事だけど、「やべぇ」がもっと大事っていう時代だったよね。

kussy:そうですね(笑)。いま思い出してもすごくワクワクする。downyはあの頃俺らが好きだったものの本当に中心にいたんで……。ライヴにVJがいることはいまは当然のようにもなっていますけど、俺らの映像とか今回のジャケも担当してくれているlenoは、それこそdownyのお客さんが3人とかの時代にそのひとりだったわけで(笑)、そういう流れはすごくありますね。だってskillkills(GuruConnect)とかBO NINGENとか、一般公募で参加してくれないですよ、普通。

そのお話が聞けてよかったです。

kussy:俺ら、10年間レーベルをやっているんですけど、もともとはFragmentだけを出していくつもりが、bugficsっていうバンドなんかもリリースするようになって、じつはラッパーとかの前にトラックメイカーとバンドしかいないっていうような時期があったんです。だから、ジャンルということでの線引きはほとんどなかったですね。


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リスペクトしあっているからこそ、勝ちたいというか、あっちの度肝を抜くものを作りたいと思うんだよね。その繰り返しでしかないという感じはしますけどね、人柄うんぬんと音楽というのは。 (青木)


downy - 第五作品集『無題』リミックスアルバム
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〈術ノ穴〉は狭い意味での音楽的共通性で成立しているわけではないですよね。こんな機会ですし、青木さんからFragmentの活動に対して、あらためて一言いただけませんか?

青木:ええ(笑)、一言ですか! 僕はとにかく、いまもう一度ミュージシャンに戻ろうとしている最中なので、偉そうなことは言えないですね。ただ、ジャンルとかの垣根を超えていくところを見たいとは思います。いいものが見たい。レーベルをやっていれば、お金を出して宣伝すれば売れるということもあるだろうし、素晴らしいのにあぶれさせているアーティストもいるだろうし、いろんなことに気づくんじゃないかと思います。そのあたり、いいツールがあったらいいですよね。レーベルがそのひとつのきっかけになっていけば最高だし。ライヴァルであり戦友というかね。
 コラボレーション自体も自分にとってははじめての経験だったんです。それもひとつの財産だなと思いますよ。昔だったら絶対にやっていないだろうな……。

Deii:ああー。

kussy:ははは!

青木:「はあ? リミックスってなんや」みたいな(笑)。

以前のインタヴューでも、音楽を離れて生活を見直すなかで、あらためて見えてくる音楽のかたちがあったというようなことをお話しされていましたよね。それがすごく印象深かったんです。そうした時間、9年の時間を経たいま、逆に青木さんのことは当時に比べてどのように見えるんですか?

青木:あ、それは訊いてみたい。

kussy:俺らとしては、めっちゃ作り上げているわけじゃないですか、青木ロビン像を(笑)。あのステージの上の青木ロビンしか知らないわけなんですよ。その後初めて目にするのがあの居酒屋でだったという衝撃。

青木:しかも、俺にはとんでもないヒゲもじゃの仲間がいるんですけど、その方といっしょのときでしたからね。だいぶ出来上がっていたし(笑)。

kussy:いやほんと、こんなに気さくに話してくれるのかって思いましたしね。

青木:よく言われるよ。

kussy:ライヴでもほとんど話されないし……

青木:MCはしたことないかも、というレベルですね。

kussy:ちょっと怖い人なのかな、とか。孤高の存在というふうに勝手に作り上げていたんですよね。あのときに比べたら、そりゃ「ロビンさんも人間じゃん」ってふうに思っちゃいますよ! 当時は、みんなでワイワイ飲むっていうようなことをしてたんですか?

青木:お酒は好きだったけどね。

kussy:でも、ピリピリしているような空気感がライヴからは感じられましたからね。

青木:ピリピリはしてたね。でも自分ではフランクな方だと思っていたけどなあ。そうじゃないと、ライヴとかに呼ばれないよ(笑)。

kussy:はははは!

コミュニケーションは取れなきゃ、という(笑)。

青木:うん。ただ、まあ感覚は変わったんだろうね。他人に委ねてよくなるようなところは委ねようと思ったし。

そういえば、音楽を離れてメールの書き方から学んだんだ、とおっしゃっていましたよね。社会というものにあらためて一から向き合ったというお話が心に残って。

青木:みんな、ほんとにちゃんとしたメールをくれるんだよ。すごいなって。同じ、音楽で飯食ってるのに、俺はそういうことをやっていなかったなと思ってね。

そういうところなんでしょうかね、「ピリピリ」しなくなったというのは。

青木:でも、だからって絵文字とか送られてもいやだよね(笑)。

kussy:ロビンさんが!? はははは!

(一同笑)

kussy:裕さんが絵文字にはまっているらしいですけどね(笑)。でもこの前、裕さんと話していたんですけど、当時はメンバー間でもピリピリしていたって聞きました。

青木:でも、よくしゃべるし、仲はよかったんだけどね。裕さんもずっと笑いを絶やさないというか、移動中なんかも、車中がずっと笑いに包まれている……、ただ、リハとか、楽器を持つタイミングではそれが変化するかもしれない。お互いがもっと音楽をよくしようとして緊張するというか。そういうピリピリはあったと思います。対バン相手でもそう。呼んでくれてありがとうって思うし、リスペクトしているんだけど、ある意味での勝ち負けは気にしたいというか。それはたぶん、これからも同じなんじゃないかと思いますけどね。まだ再始動後に対バンをしていないだけで、きっとスイッチが入る瞬間があると思うから。いい緊張感を残しつつやれればいいでしょうね。


いざ聴いたらいままででいちばん尖ってる作品だった。 (kussy)

本当に、そのとおりだと思います。10年の変化というところでおうかがいしたんですが、『第五作品集』そのものは、作品単位としてどのように聴かれましたか?

kussy:俺は本当に全作を聴いてきているんですよ。そしてこの9年の間に、実際に会わせていただいたりもしているわけで、人柄という点ではある意味で「丸くなった」部分があるんだろうなということも知っていました。だから、新しいアルバムについては、正直なところこわくもあったんですよね。……すげえピースになってたらどうしよう、みたいな。「あの頃」のまま、好きだったdownyでいてほしいなという勝手なファン心理もあるわけで。

青木:うん。

kussy:それで、いざ聴いたらいままででいちばん尖ってる作品だったという。もっとさらに緊張感のある作品をブランク後に出してくるということに本当に度肝を抜かれましたね。

青木:プレッシャーはあったからね。ハードルが上がっちゃっている。

kussy:そうですよね。だから……。……ただただ、かっこいいっすっていう思いです。そうだよね?

deii:うん。

青木:ミュージシャンはみんなそうだよ。コミュニケーションだからさ。人間と人間、ミュージシャンとミュージシャンだから、こっちが「オイッ」って居丈高にしていてもどうしようもない。リスペクトしあっているからこそ、勝ちたいというか、あっちの度肝を抜くものを作りたいと思うんだよね。その繰り返しでしかないという感じはしますけどね、人柄うんぬんと音楽というのは。

kussy:うん。そうですね。

青木:だから、Fragmentもいままで通りこっちを驚かせるものを作ってほしい。
それと、時間がなくてみんなの名前を挙げられなかったのがとても気になっているんだけど、参加いただいた方、みな本当に素晴らしかったです。それを最後に言っておきたいと思います。


downy - 曦ヲ見ヨ!Fragment remix

森は生きている - ele-king

 23:00、渋谷。昨年初めて見たときもたしかに良いバンドだとは思った、が、今回は正直……「正直、こみ上げてくるものがありましたね」と、一緒に行ったDJのGONNOくんは帰り道で言った。

 ラヴ&ピースの感覚がよみがえる。はっぴぃえんど×ザ・バンド×1970年頃のピンク・フロイド×初期カンタベリー×70年代のA&M×……などと、固有名詞を記号的にかけあわせたからといって、暗く冷たいインダストリアルな音響に耽っていた男の混沌とした内面から、いまさらラヴ&ピースなどという、こっぱずかしい言葉は出てこない。
 A&M系ソフト・ロックといえば20年前の渋谷系アイテムのひとつだったが、あの時代のセンスを競った消費のされ方とは明白に違っているのだ。情報としてアーカイヴされているという感じではない。この若いバンドには、ポスト・サイケデリック期のロックの素朴な叙情性が内面化されているように感じる。60年代を水で薄めたMORを弄んでいるというのではなく、彼らがいま持ち出すその平和的な響きは、冷酷な社会への彼らの態度表明にも思えるのだ。
 ライヴの余韻は、あり得ないほどピースだった。ファースト・アルバムが10だとしたらこの日のライヴは100だと言ってさしつかえないだろう。アンコールの、あの美しいアルペジオからはじまる“ロンド”も良かったが、なんといっても新曲が良かった。そう、いいじゃないか、彼女が幸せな気分に満たされているなら。

 森は生きているは現実逃避でも娯楽でもない。それは、我々は夢見ることを通してでしか前に進めないということだ。彼らの音楽から滲み出る一種の旅心、ボヘミアニズムが足を軽くする。そして無性に音楽が聴きたくなる。家に帰ったら何を聴こう。僕は電車に乗って、GONNO君は午前4時のDJのためにクラブへと向かった。

Cossato (LifeForce) - ele-king

Life Force - Flower War - 2014.3.29.Sat @ Sad Cafe STUDIO (Harajuku)

これからリリースされる曲と最近リリースされたお気に入りの10曲を挙げてみました。順不同。それからチャートに挙げてますがAsusu(Livity Sound)が3月末初来日です。

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