「Nothing」と一致するもの

Ju sei & Utah Kawasaki - ele-king

 歌い手である sei から田中淳一郎によって引き出されたあらゆる声が、楽曲の体裁を保ちつつもつねにその枠組みから逸脱しつづけることで、凡百の歌ものデュオとは一風変わった音楽を生み出しているユニット ju sei 。水道橋にあるCDショップ兼イヴェント・スペース〈Ftarri〉におけるライヴ(2013年6月15日)を収録した、2枚組のアルバム『ゆはゆたのゆ』がリリースされた。これは先頃8年ぶりにソロ名義のアルバムを出したことで話題にもなったシンセサイザー奏者、ユタカワサキとともに行ったものだ。ju sei が披露する持ち歌にユタカワサキの電子音が絡み合っていく本盤は、6つの楽曲が8トラックに分かれてディスク1に、ひとつの楽曲が3トラックに分かれてディスク2に収められているものの、「始まりから終わりまで間断なく続く」とクレジットにもあるように、実際はひとつらなりの演奏がそれぞれのディスクに収められたものとなっている。とはいえそうした長い時間であっても、即興音楽の醍醐味とも言えるはりつめた空気をたたえながら、その緊迫感を断ち切るようにして随所にあらわれるユーモアが、聴き手に飽きることを忘れさせる作品ともなっている。

 たとえば、「排出される」という言葉が印象的な冒頭の楽曲──ju sei のファースト・フル・アルバム『コーンソロ』においては、管楽器奏者の中尾勘二がゲストプレイヤーとして加わることでジュゼッピ・ローガンばりのフリージャズが繰り広げられ、そこに sei のあどけなさと艶やかさを自在に行き来する歌声が駆け巡っていた──は、本盤では田中淳一郎が出すギターのハウリングのような音とユタカワサキによる微かなノイズが、笙を思わせる静謐な響きをもたらすところからはじまっている。そして、ものの擦れる音の一つひとつが際立つような空間が整えられたとき、突如、そうした音場を裏切るように4つ打ちのリズム・トラックが流れはじめる。それは楽曲にあらかじめ備えつけられた構成ではあるが、ユタカワサキとともに試みられたこの演奏の後にくることで、思わず聴き手に笑いをもたらす。または、“六人でスキャン”という曲。同じく『コーンソロ』においては、「六人でスキャン」という言葉をひたすら引き延ばすことによって、意味を剥ぎ取られた言葉の音の肌理細かさを聴くことができたこの楽曲だが、本盤では長いしりとりの終着点として、「六人でスキャン」という言葉は一瞬で吐き出される。しかしこのしりとりは、3人めが必ず最後に「ん」がつく言葉を発することによって、つねに失敗しつづけ、あるいは3人が言葉を順番に発しながらも、まるで2人しかいないかのように進められていく。このナンセンスなやりとりと、かまわず奏でられるユタカワサキの電子音との落差が引き起こす笑い。

 ユタカワサキが ju sei にかまうことなく演奏するのは、なにもこの楽曲に限ったことではない。むしろ終始一貫して「独奏」しているとも言える。だから ju sei の音楽を彩り装飾するというよりも、別々の作業が平行して行われ、それが同じ場所で出会うことによって共振する、といったほうが正確かもしれない。そしてこのユタカワサキの自律性は、本盤の本質ともいえる要素、すなわち音楽がはじまりそして終わるとはいかなる事態であるのかという問いに対するひとつの答えにもなっている。霧に包まれたような楽曲の輪郭と、そこにまた別の楽曲が被せられるような工夫もあって「間断なく続く」このアルバムにおいては、楽曲というものは音楽のはじまりと終わりを示すものではあり得ないだろう。たしかに、録音物としての輪郭は確固たるものとしてある。しかしユタカワサキが ju sei の音楽とは別の領域において奏でられつつも ju sei の音楽と関わりつづけるように、わたしたちはこのアルバムを聴くときに、別の領域にいながらも関わりつづけるなにものかを聴いているはずである。それはユタカワサキの存在が ju sei の楽曲を解体するきっかけとなったように、録音物に裂け目を生み出す契機とはならないだろうか。

interview with JAPONICA SONG SUN BUNCH - ele-king


JAPONICA SONG SUN BUNCH
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 BREEZEが心の中を通り抜ける。というよりは、血沸き肉踊るような熱く飛び跳ねる色とりどりの多彩なリズムが、いちど聴いたらすぐに忘れさせてはくれないグッド・メロディが、ひとときに身体を絡めとって離さない。色気たっぷりの歌ときらめくスティールパンが舞い踊る。ファンキーでラテン・ミュージック・オリエンテッド、トロピカルにカラッと乾いていてスムースでジャジー、クールだけれどとってもホット――それにエロティック。

 月にいちど新宿歌舞伎町の地下、〈新宿LOFT〉で催される、1000円で2時間飲み放題という狂騒の〈ロフト飲み会〉において熱気が地上に噴き出してしまいそうなパワフルな演奏を「余興」として繰り広げてきたジャポニカソングサンバンチ。藤原亮(フジロッ久(仮))の脱退、という残念なニュースはあったものの、“クライマックス cw/恋のから騒ぎ”の7インチ・シングルの発表を経てとうとう彼/彼女らのデビュー・アルバムが完成した! 分厚いホーン・セクションを塗り重ね、老若男女が歌って踊れる歌謡ダンス・ミュージックが鳴らされる現場の模様を見事な鮮度で音盤化した快作である。

 ここには先の2曲はもちろんのこと“かわいいベイビー”や“踊り明かすよ”などなど、笑っちゃうほどポップで開放的な楽曲も収められている。2014年の『泰安洋行』、なんて呼ぶにはこの『Japonica Song Sun Bunch』は軽やかにすぎるし色気がありすぎる。

 バンドのソングライターにしてセクシーなヴォーカリストである千秋藤田(でぶコーネリアスのフロント・マンでもある)を中心に、トロピカル・ダンディーことスガナミユウと鍵盤奏者しいねはるか(もちろん両者ともGORO GOLOのメンバー)を交えて話をきいた。あなたのハートかっさらう歌謡舞踏音楽一味、ジャポニカソングサンバンチのインタヴューを、どうぞ!

■ジャポニカソングサンバンチ
メンバーは千秋藤田(Vocal & Sax)、きむらかずみ(Steel Pan)、 キムラヨシヒロ(Bass)、 しいねはるか(Piano & Keyboard)、太田忠志(Drum)、スガナミユウ(Direction & Guitar)。でぶコーネリアスのフロント・マンとしても輝かしい作品を発表しているジャマイカ生まれのアーティスト、千秋藤田を中心に、〈音楽前夜社〉の面々がバック・バンドを務める話題の音楽プロジェクト。毎月1 回、〈新宿ロフト〉のバー・スペースにて、夜20 時から2 時間1000 円ポッキリで飲み放題の「ロフト飲み会」をショウパブ・スタイルで開催。


『ビートマニア』世代なので。あれをやっているとジャンルが切り取られて、ジャンルがゲームのなかで確立されるんですよ。あれはイケないツールですね。人間が逆にシーケンスされてるっていうか(笑)。 (千秋)

まず、ジャポニカソングサンバンチ(以下「ジャポニカ」)がどういうふうにはじまったのかを教えてください。

スガナミ:ジャポニカをはじめたのは2011年の夏です。

千秋:その前に別のバンドでジャポニカの曲をすでに演奏していたんですが、あまり形になっていなくて。〈音楽前夜社〉という凄腕たちと出会って、彼らが「千秋の歌、やってみようか」と言ってくれたので、〈音楽前夜社〉といっしょにジャポニカをはじめました。

スガナミさんないし〈音楽前夜社〉と千秋くんの出会いはどういうきっかけだったの?

千秋:俺はGORO GOLOのファンだったんです。GORO GOLOは一度解散をしたんですけど、2010年頃に復活したときによくライヴを観に行っていました。そしたらGORO GOLOのメンバーの方たちに俺を紹介してくれて。それから(スガナミ)ユウくんが俺の曲を聴いてくれて、「千秋の曲を理想の形に近づけたい。千秋の曲をやりたい」と言ってくれたので、俺も「〈音楽前夜社〉とやりたい」と相思相愛の形でジャポニカソングサンバンチとしての活動をはじめました。

千秋くんのやりたかった音楽というのはジャポニカでかなり形になっている?

千秋:うん。

たとえば、ファンクとかラテンのリズムがジャポニカの音楽にはすごく入っていると思うんだよね。千秋くんはでぶコーネリアスというパンク・バンドでデビューしているわけだけど、そういう音楽は昔から好きだったの?

千秋:それは昔から好きでした。そこはでぶコーネリアスよりはやりやすくなった。バランスなんですよ。(ジャポニカはファンクやラテンのリズムを)もっと前に出せるようなメンバーでもあるから、すごくやりやすくなったんです。

でぶコーネリアスの『SUPER PLAY』(2009年)っていうアルバムではファンキーなこともやっていたよね。だからそこからジャポニカへつながっているのかな、と思っていた。

千秋:それもありますね。比重というかバランスなんですけど、そこ(でぶコーネリアス)で遊びでやっていた部分を、こっち(ジャポニカ)で思いっきしやるというのはあるのかもしれないです。

スガナミ:ハードコア・マナーでやっていた部分をもっとラテンとかに寄せた。

千秋:(ジャポニカは)歌もあるので別次元でやりたいな、と思って。

千秋くんはジャマイカ生まれだけど、レゲエはやらないの?

千秋:レゲエはやらないっす(笑)。レゲエできるのかなあ?

アルバムを聴いて意外だなって思ったんですよね。1曲はレゲエが入ってくるんじゃないかと思って。サルサとかカリプソっぽい曲はあるけど。

千秋:レゲエ、難しいんですよね。でも最近、レゲエっぽいことをスタジオでやっています。でもレゲエにはしないと思う(笑)。ソカとかそういう音楽のほうへいこうかなって思っています。

そういう中南米系の音楽はいつ頃から聴いているの?

千秋:『ビートマニア』(コナミ、1997年)世代なので(笑)。あれをやっているとジャンルが切り取られて、ジャンルがゲームのなかで確立されるんですよ。

それはすごい話だね(笑)。

千秋:あれはかなり影響力があります。ゲームに合わせて(パッドを)指で叩くじゃないですか。それが小学4年生ぐらいのときかな、めっちゃ流行ったんすよ。ゲーセンでずーっとやってて。

『ビートマニア』でいろいろなリズムが叩きこまれたんだね(笑)。

千秋:そうそう。ボサノヴァとかジャングル・ビートとか。ハウスもあったしレゲエもあったしヒップホップもあったし。あれはイケないツールですね(笑)。人間が逆にシーケンスされてるっていうか(笑)。

機械から人間がシーケンスされている(笑)。

千秋:それはゲームとしてやっていたから、意識的なことではないんですけど。

でもそれが原体験として血肉化されている。

千秋:あと『ダンスダンスレボリューション』(コナミ、1998年)もあったし!

はははは! 『ダンレボ』だ。

千秋:「ワン・トゥー」が入ってるんすよねー。

スガナミ:スペシャルズの“リトル・ビッチ”?

僕、やったことないんだよね。

千秋:おもしろいですよ。小学生の頃、(『ダンスダンスレボリューション』)専用のコントローラーが買えなくて、段ボールで作って……。

(一同爆笑)

千秋:授業中、それを叩いたりこすったりして、真似事をしてたんですよね。

しいね:DIYの歴史があるんだね(笑)。

千秋:1プレイ100円って、小学生にとってはけっこう高いので。

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「バンチ」っていうのは、「グループ」「一味」っていう意味で。「sun bunch」と「三番地」でダブル・ミーニングになるのかな(笑)。  (千秋)


JAPONICA SONG SUN BUNCH
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ジャポニカソングサンバンチっていうバンド名はすごくいいなと思う。

千秋:ありがとうございます。

「バンチ」っていうのは英語の「bunch」なわけじゃん?

千秋:そうですね。

日本語の「番地」ともかかってる。「bunch」って「集団」とか「仲間」とかいろいろと訳があって、いちばんおもしろかったのが「一味」っていう訳。

(一同笑)

スガナミ:「一味」いいね。

「一味」っぽさがジャポニカにはあるのかなって。

千秋:手分けしてものを盗んでそうっすね(笑)。

ワイルド・バンチって実在の窃盗団がアメリカにいて、サム・ペキンパー監督の『ワイルドバンチ』っていう映画もあるんですけど。あと、マッシヴ・アタックの前身のグループがワイルド・バンチ。

一同:へー!

そういう不良っぽさがジャポニカにはある。というか、千秋くんにあるなあと(笑)。バンド名はどうやって決めたの?

千秋:(バンド名を)どうしようかな、みんなで決めようってなってて。最初は「デラベッピン」とかすごくいなたい名前になりそうになって、これはマズいと思って(笑)。

スガナミ:「ジャポニカリズム○○」みたいなのもあったよね?

千秋:そうですね。友だちと富士サファリパークへ行った帰りに、「ジャポニカソングサンバンチ」にしよう、と思いついて。

「バンチ」っていうのはもちろんそういう意味で使ってるんだよね?

千秋:うん。「グループ」「一味」っていう意味で。「sun bunch」と「三番地」でダブル・ミーニングになるのかな(笑)。

千秋くんのスター感、アイドル感がジャポニカの魅力になっているかなって、ライヴを観ていて思うんだよね。昔、でぶコーネリアスのライヴを観たとき、千秋くんが光GENJIみたいな格好をしていて……頭に長いピンクの鉢巻を巻いていた。

千秋:ふふふ(笑)。

あれはいまもやってるの?

千秋:いまはもうやっていないですね。いまはTOKIOになりつつあるので(笑)。

そうなんだ(笑)。その千秋くんのパフォーマンスっていうのはそういう昔のアイドルとかにロールモデルがあるのかなと思って。

千秋:パフォーマンスは自分で飽きないように、毎回ちがうことをしておもしろくしよう、というのがつねにあるので。でぶコーネリアスと主軸は変わっていないと思うんですけど。毎回ステージに出てきて同じことをして帰るんじゃなくて、自分でもびっくりするようなことがしたい。

ハプニング?

千秋:ハプニングっすね。それが毎回、起きちゃうっていうか。なんかあるんすよね。自分では意識してないんですけど。〈(CLUB)QUATTRO〉の上、登ったらめっちゃ怒られましたね。

(一同笑)

ジャポニカとでぶコーネリアスで意識的に変えていることはある?

千秋:まず「歌を歌う」っていうのがあるから、そこかなあと思います。でぶコーネリアスは「べつに歌なんて歌わなくてもいいかなあ」っていう感じなので(笑)。

千秋くんの歌はすごく色気があるよね。節回しを工夫しているのを感じる。そこがジャポニカの歌謡曲感につながっていると思う。一聴してラテン歌謡の感じがジャポニカにはあって。アイドル・ソングや、フォーク、歌謡曲のすべてに共通するようなグルーヴや雰囲気があった頃の時代が、ジャポニカのグルーヴからは香ってくるというか。千秋くんはもともとどういうところを目指して曲を書いていたの?

千秋:もともと遊びで歌を作っていたんですよ。ライヴでやらなくてもいいから、作ったものを音源にしてただひとりで楽しむみたいな、それぐらいのレベルだったんです。そういう感じだったんですけど、これは外でやろうということになって。そこからやっていくうちにこうしていこうというのは見えてきたんですけど。もっとキッズたちに聴かせたいとか(笑)。

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ジャポニカにバラードがなくて。俺は“上を向いて歩こう”がすごく好きなんだよね。それの現代版というか、自分なりの落とし込みかたとして“愛を夢を”を作った。 (スガナミ)


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スガナミ:アルバムの曲でいちばん最初に作った曲ってなんだっけ?

千秋:“天晴れいど”じゃないですか? BGM的なノリですけどね。

スガナミ:イージー・リスニング的な。

千秋:ゲームのセレクト画面でずっと鳴ってる、みたいな(笑)。それはけっこう「パレード」に近いものがあって。延々と繰り返すメロディはどういうものなのか、って考えていたんですけど。最初に作ったのは“天晴れいど”じゃなくて“クライマックス”かな? 他の曲とはちょっと毛色がちがうと思うんですけど、“クライマックス”は完全にふざけて作っていたんですよ。もともとは「アイドルっぽいやつを作ろう」と言っていて。たとえばトシちゃんが歌うような、そういう感じのノリで作ったんです。ジャポニカでやったらぜんぜんちがう形になったんですけど。

やっぱりそういう、80年代のアイドル・ポップスがすごく好きなのかなあって感じる。

千秋:好きですね。

それはどうして聴いてたの? トシちゃんとか、光GENJIとか。

千秋:中学生のときに昭和歌謡の復刻がたくさんあって。

スガナミ:コンピレーションが出てたよね。

しいね:出てたね。「青春○○年鑑」みたいな。

千秋:べつに懐古主義ではないですけど、中学生にはすごく新鮮に聴こえるじゃないですか。あと『ルパン三世』が好きだった、ってのもあるんですけど。サントラやリミックスが出てたりして。

ああ、小西康陽さんの(『PUNCH THE MONKEY!』、1998年)。

千秋:あのシリーズが完結したぐらいの年だったんですよ。それはたぶん、意識していない刷り込みっていうか。

昭和歌謡という点でスガナミさんにお訊きしたいんですけど、“愛を夢を”は唯一スガナミさんが書いた曲ですよね。これはどういう歌なんですか? すごく昭和感が出てる(笑)。

スガナミ:ジャポニカにバラードがなくて。俺は“上を向いて歩こう”がすごく好きなんだよね。それの現代版というか、自分なりの落とし込みかたとして“愛を夢を”を作った。だから、出だしの歌詞で「滲んだ星を数えてみた」とあるのはそれを意識してみたんだよね。テンポをどうしようか悩んでいたんですけど、千秋が「“上を向いて歩こう”と同じぐらいのテンポでやってみたらどうですか」とアイディアをくれて、やれたっていう感じかな。

そうなんですね。

千秋:中村八大です。

スガナミ:そう、中村八大(笑)。

千秋:中村八大は俺の地元の市歌を作っている人なんです。だからゴミ収集車が中村八大のメロディを流しながらゴミ収集するんですよ。

(一同笑)

スガナミ:当時、中村八大の話はよくしてたよね。

そっか。中村八大がジャポニカのアルバムに影を落としているわけですね。

千秋:(“愛を夢を”は)詩もまたいいんすよね。俺、そういう気持ちにさせちゃったかなあ、と思って(笑)。

スガナミ:やっぱり千秋の歌詞があって、どういうのを書くかっていうのを考えながら書いたところはある。

スガナミさん自身ではなく千秋くんが歌うから、というのもある?

スガナミ:それもあるね。

その前に入っている“想い影”っていう曲の歌詞がすごくおもしろい。歌詞の「鳴き虫通り」って、「なき」っていう漢字が最後は「亡き」になっているんだけど。

千秋:それは字のとおりですね。もちろん裏に「泣き」があるんですが。

この曲の歌詞はどうやって思いついたの?

千秋:もともと作曲のキム(ラヨシヒロ)が以前やっていたclassic fiveっていうグループのインストの曲だったんですよ。これにメロディを乗っけて、歌詞をつけて、ジャポニカでやってみようってなって。ぜんぶ同じコードなんですよね。

スガナミ:そうだね。ずーっと4つのコードで。

千秋:それにAメロ、Bメロ、サビをつけて、間奏をつけました。実験的な、自分でも挑戦的な感じになったんですけど。

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俺はラップができないから、そこで5・7・5という言葉の配列、リズム、テンポの川柳をいきなりかましてみようと(笑)。  (千秋)


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他の曲とぜんぜんちがう作り方?

千秋:そうですね。

スガナミ:千秋のメロディですごくいい抑揚のついた曲になったよね。

しいね:ずっと繰り返しなのにね。〈(音楽)前夜社〉でやるともう少し単調になるよね。豊かだよね。

スガナミ:川柳パートがすごく斬新なんだよね。間奏の部分の歌詞はぜんぶ5・7・5になっていて。

しいね:いきなり決めてきたんだよね(笑)。

千秋:あはは!

スガナミ:こういうユーモアの投げ方って新鮮。

千秋:俺はラップができないから、そこで5・7・5という言葉の配列、リズム、テンポの川柳をいきなりかましてみようと(笑)。

スガナミ:原始な言葉遊びを(笑)。

しいね:でもさ、25歳でラップができないから川柳ってなかなかないよね(笑)。

(一同笑)

スガナミ:ヒップなスムース・ジャズみたいな曲だからラップは合うんだけどね。

千秋:もしかしたらラップっぽく聞こえるかもしれないんですけど。

5と7の言葉のリズムだと、やっぱりすごく日本っぽくなって、歌謡感がすごく出ると思う。秋元康の歌詞って、けっこう5と7のリズムだったりするんですよ。だからちょっと歌謡曲っぽさがある。ジャポニカの歌詞って、言葉をさらっと流さないというか。言葉をはっきりと区切っていて、歌詞がそのまま歌として伝わってくる、スッと入ってくるよね。もちろん言葉の選択もすごく工夫しているからだと思うんだけど。ジャポニカの歌詞はどういうふうに書くの?

千秋:素の気持ちで、音、リズムといっしょに(書く)。

曲が先にあるんだよね?

千秋:曲が先なんですけど。「こういうテーマで書いてみよう」っていうのはあります。このテーマだからこういうリズムで、こういう言葉で、こういうフックで、みたいなものをざっくり決めてやっていますね。

初期にできた“クライマックス”は歌詞がすごくいいよね。こういう言い方は千秋くんは嫌かもしれないけれど、コピーライター的なひっかかり方がある言葉の選択になっていると思う。「レモンの刺激」と韻を踏んでいるのが「胸に霹靂」とか。直接的な言葉なんだけど、もっと膨らみがあるというか。言葉がスッと入ってきつつも、もっといろいろな意味が喚起される。「眩しい 街中 色彩 パニック」という単語を4つ並べているところもすごくいいと思う。フレーズ、フレーズで勝負している感じがある。

千秋:ありますね。そこはグッと寄って……グッと抱きしめて(笑)。

スガナミ:パンチ力?

千秋:そうですね。どの部分を切り取ってもパンチ力が(あってほしい)、っていう性格なんですよね。BメロでもしっかりBメロとして立つようにしようとか、そういう感じですね。

好きな作詞家っている?

千秋:安井かずみ先生。

あー。僕もすごく好きだな。僕は加藤和彦がすごく好きなんだ。

千秋:いいですね。あの(加藤和彦と安井かずみの)タッグがすごく好きで。松山猛さんも好きなんですけど。松山猛さんはもっとおしゃれっていうか、雑誌感、ファッション感があるんですけど。安井かずみ先生は、テーマが小さくて、かつ広いな、と思うんです。あとは……松本(隆)先生かな。松本先生は偉大すぎる。あの人はカッコよすぎる。キザすぎる感じがあるかもしれない(笑)。

でもジャポニカの歌詞もキザだよね。

千秋:マジっすか?

そんなことない? ロマンティックだと思う。

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1000円で2時間飲み放題というのは新宿歌舞伎町ではありえない設定だと思うんですけど。ジャポニカをやるときに「酒の場でやりたいですね」と。キャバレーじゃないですけど。 (千秋)


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千秋くんが書いてきた曲をジャポニカでどういうふうに形にしていくの?

千秋:このメロディをいれたいとか、こういうリズムをやりたい、ドラムはこのパターン、というざっくりしたアレンジの「骨」をメンバーに渡すんですよ。そこでパッとやって、そこから自分たちの味つけをしてもらう、っていう感じかな。メンバーにとっては(曲は)「お題」ですよね。かつ「このフレーズをいれてくれ」という指示があるなかで、この演奏をしている人に対してこの演奏をして反応を示そう、という積み重ねがあって(曲が)できると思います。完璧に「これがこれで」と1個ずつやってはいられないので、そんなに細かい指示出しはしてないです。

でもそれだけ千秋くんに主導権があるというか、千秋くんのバンドだなあ、っていうのはすごく感じる。〈音楽前夜社〉だからスガナミさんがやたら存在感あるけれど。スガナミさんはこのバンドではどういう立ち位置なの?

千秋:えーっと、スタジオ予約係です。

あはははは!

千秋:嘘です(笑)。マネージャーじゃないですけど、つねに横にいる存在です。ギターも弾いてますけど。俺と〈音楽前夜社〉のメンバーとの間にも入ってくれてます。「千秋どう?」「こんな感じですけど、どうっすか? いいっすか?」みたいにお互い聞き合う感じですね。

ご意見番みたいな感じで。

千秋:あんまアテになんないっすよね。ははは!

そうなんだ(笑)。

千秋:俺がいいようにしてくれます。「これはこうしたほうがいい」みたいなアドヴァイスは、時たまあります。ちゃんと意見を言ってくれます。サウンド面にはあんまり口出ししないようにしてると思う。

千秋くんの意見や考えを優先してくれるんだね。そうなんだ。どういうふうな関係性でジャポニカが成り立っているのかなあってすごく不思議だったので。

千秋:不思議ですよねー。(アルバムでは)1曲しかギター弾いてないのにすごい存在感がある。

ジャポニカは〈ロフト飲み会〉で毎回演奏しているよね。ジャポニカは〈ロフト飲み会〉っていう特定の場所、特定の時間と密接に結びついている。その「箱バン」的なあり方や場所性がジャポニカが普通のバンドとちがうところだと思っていて。〈ロフト飲み会〉が最初にはじまったのはいつ?

千秋:2年前の4月頃ですね。最初はGORO GOLOとかが出ていて、そこからゲストを呼んでいった。「1000円で飲み放題」っていうルールは崩さないように。かれこれ2年ですかね。1000円で2時間飲み放題というのは新宿歌舞伎町ではありえない設定だと思うんですけど。ジャポニカをやるときに「酒の場でやりたいですね」と。キャバレーじゃないですけど。

ナイトクラブ。

千秋:うん。お客さんには、会議しているバンドマンもいれば、若い子が来て踊ったりしてるし、ナンパして口説いてるやつもいると。そういう遊び場を作れたらなあと思っていたんです。幹事はユウくんなんですけど、裏で「この人がいいなあ」って言うのが俺の役目です。

ジャポニカの曲とそういう場とは合っていると思う?

千秋:うん。合ってるかな。聞きやすいというか。DJに負けたくないな、っていうのがありますね。ライヴでもつねにDJのような勢いでやらないと。ちゃんとインプットされる曲ってなんなんだろうって考えるようになって。

DJがかける超有名な曲と渡り合う、みたいな?

千秋:そうっすね。そういう曲がどういう原理でできているのかな、と思ったら、意外と単純で原始的であるってことがわかって。これは今後の自分の課題でもあるんですけど。どれだけ原始的にできるかな、と。言葉もそうだし。飲みの席でもあるし、難しいことなんかいらないと思うんで。

シンプルだからこそすごく普遍的というか、大衆的な響きがある。難しいことはぜんぜん言ってないんだよね。

千秋:俺はあんまり難しいことは考えられないので(笑)。横文字はわかんない、みたいな(笑)。正直な気持ちで(曲を)書けているのかな。

ジャポニカってこれまでCDを出してないよね。リリースしているのはマッチ(『火の元EP』)や勿忘草の種(『WASURENAGUSA EP』)にダウンロード・コードをつけたものと、“クライマックス”の7インチ。このフィジカルのアイディアは千秋くん?

千秋:そうですね。レコードを出したかったんですけど、レコードを出すために資金をどうやって作るか、と。

レコードが目標としてあって。

千秋:もともと出すならレコードがいいなあ、っていうのがあったんです。シングルを3枚切ってアルバムを録ろう、みたいな。でも、いきなりそれは無理だっていうことになって(笑)。まだバンドをはじめたばかりで名刺代わりになるものをどうしましょう、という話になりました。レコードは作れないし、CD-Rだとお粗末でダメかなあと思って。そのときダウンロード・コードが流行っていたので、これをどうにかしようと思って。ダウンロード・コードがいまメインで主流の新技術だとしたら、いちばん古い技術をくっつけて売っちゃおう、と。「火を点ける」っていう意味もあって、人間が発明した新しいものと古いものをくっつけた。

なるほどね。

千秋:ジャポニカのコンセプトにもそういうところがあるのかなあとも思ったりするので。新しいものと古いものと。それを出した半年か1年後ぐらいに、〈less than TV〉が骨(ThePOPS『BONE EP』)を出すんですよね(笑)。骨にダウンロード・コードをつける。これはヤバいなと。パッケージングとして極まってるもんな、と思って(笑)。

だって最近、ビニール袋にCDを入れてたよね(FOLK SHOCK FUCKERSの『FOLK SHOCK FUCKERS ③』)。

千秋:ダウンロード・コードとのつきあいかたがおもしろいですよね。〈less than TV〉の骨を受けて、そのあと種を出したんです。あっちはハードコア・パンクならではの「死」だけど、こっちは「リヴィング」「生きていくぞ」と対比になるものを。

ジャポニカはそういうふうに方向性がはっきりとしていて、フィジカル・リリースに対してちゃんと裏付けがあって、その一貫性がすごくいいと思う。

千秋:レコードの代わりというか、天秤にかけてレコードと同じくらいの重さのものを作ろうって考えてできたのがマッチと種ですね。本当はレコードが出したかったけど、それがダメならどうするか、と。そういう感じですね。

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言葉や音選びで「なにを持って出かけよう?」と。なるべく手ぶらがいいと思うんですけど。なにを持って出かけるかをすごく慎重に選んでいるかもしれないですね。 (千秋)


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千秋くんはアートワークも手がけていてすごいな、と思う。

千秋:アルバム・ジャケットは中東っぽいところが売りですね。

細野晴臣さんの『泰安洋行』とか『トロピカル・ダンディー』っぽいよね。音楽的にも、2014年の『泰安洋行』。

千秋:あっ、いいっすね。

『トロピカル・ダンディー』感あるよね、スガナミさんが(笑)。

千秋:「クロコダイル・ダンディー」かもしれないですよ(笑)。

絵は昔から描いているの?

千秋:そうですね。落描き程度にひそかに描いていました。

デザインは勉強してない?

千秋:勉強はしてないですね。ぜんぜん学校も行かなかった。

自己流なんだ。

千秋:1年ぐらい、女性のヌードとファッションのデッサンはしました。お絵かき教室みたいなところは行っていました。

千秋くんってJ-POPについてどう思う? 聴く?

千秋:ここ最近のですか? 聞きますよ。(中田)ヤスタカ先生はすごいな、と思います。Perfumeはすごい。最近のPerfumeときゃりー(ぱみゅぱみゅ)は歌詞もおもしろいと思います。ああいう音楽が平然とメインのシーンというか、お茶の間に出ているのがすごい。

いちばんメジャーなところで実験をやっているようなものだからね。先鋭的だもんね。

千秋:あとはブルーノ・マーズが好きっすね(笑)。

ブルーノ・マーズ!?

千秋:ダフト・パンクも相当すごいですよね。ダフト・パンクってシブい大人からナンパなヤングまで聴けるじゃないですか。あんなにシブいアルバムを出したのに、『EDM 2013』みたいなコンピにも入ってる。その幅の広さが恐ろしいと思って。ダフト・パンクさすがだわー、と。J-POPじゃないですね。

なんでJ-POPについて訊いたのかというと――ジャポニカってJ-POPというよりは歌謡曲に近いと思うんだよね。いまのJ-POPって歌謡曲的なものはすごく少ない。歌謡性をジャポニカは表現していると僕は勝手に思っているんだけど、ジャポニカが歌謡性を持ったポップスをやるっていうのは、アンダーグラウンドからのJ-POPへの揺さぶりかけのように思う。

千秋:あるかもしれないですね……。自分たちはいちおうJ-POPとしてやっているつもりなので。最近のJ-POPはその人が歌っているのかコンピュータが歌っているのかわからないようなものが多いじゃないですか。(ジャポニカは)そういうものとは真逆のやりかたでやっているのかな、と思う。もちろんジャポニカでチャートを狙う勢いで今後やっていきたいと思うんです。

それは絶対に狙えると思うんだよね。

千秋:目に入ってくるし、耳に入ってくるし、そこ(J-POP)を無視しているわけではないので。「ああ、こういうのが売れるんだ」と(笑)。疎外感はちょっとありますけどね。そういうアプローチのバンドは……。

あまり周囲にはいない?

千秋:そうですね。シンプルで原始的な形で残すってどんな感じなんだろう? と。いまはまだ勉強中なんですけど。いまは飛び道具的だったりとか、消費的だったりとか、そういうものがメインじゃないですか。まだそこには到達していないんですけど、いずれはゴリゴリのEDMサウンドがジャポニカソングサンバンチでできたらいいんじゃないですかね(笑)。やらないと思うけど(笑)。

ジャポニカの曲のメロディ・センスはオーヴァー・グラウンドに行けるようなものだと思う。でも、千秋くんが歌謡曲をリアルタイムで聴いていたわけではないということが関係していると思うんだけど、ジャポニカの歌謡性はぜんぜん懐古的じゃなくて、もっと未来に向いているよいうな、推進力になっていると思う。

千秋:「なにを持って出かけよう?」という感じはあるのかもしれないですね。

どういうこと?

千秋:たとえば、言葉や音選びで「なにを持って出かけよう?」と。なるべく手ぶらがいいと思うんですけど。なにを持って出かけるかをすごく慎重に選んでいるかもしれないですね。それが表現のひとつになっているのかもしれないです。

Teebs - ele-king

 勤労意欲を奪う音楽は、この世界でもっとも危険なものだ。何しろ「働きたくなくなる」のだから。「働きたくなくなる」。それは何かに反抗、また抵抗する以前の状態である。つまりは世界に対して無為。自己完結。世界そのものを積極的に必要としていない状態。つまりは午睡のように。

 だからといって世界と完全に断絶もしていない。午睡のまどろみで、半開きの瞳に染み込む光は、世界と個人との理想的な関係ではないか。なぜなら、お互いに無関係だからだ。こっちは寝ている。そっちは勝手に光っている。そして、その二つは単に存在している。それだけだ。しかしそれでも、寝ている私はその光を、とても心地よく感じている。なんという理想的な関係か。
 勤労意欲を奪う音楽とはいわばそのようなものだ。ただ鳴っている。ただ聴いている。ただ心地良い。完璧な休暇の午後の、完全な午睡のまどろみのような音。
 ティーブスの音楽は、まさにそんな音である。そこには彼が暮らすLAの光や空気が反映されている、と言うのは簡単だが、日本の東京の片隅で鉛色の疲労を背負いながら生きている自分には現実に存在する世界と思えないほどである。まさにファンタジー=理想郷。いや、だからこそ私は、このアーティストの音楽を愛するのだ。

 ティーブスはペインティング・アーティストでもある。このアルバムのリリースに合わせる形で東京での展覧会も開かれた。その色彩はサイケデリックであり、感覚をゆるやかに拡張する。彼の作り出すトラックは、まるで彼の色彩に溢れたペインティングのようだと評される。が、正直に言えば絵と音楽の関係性などは、私にはわからない。もしかすると彼のペインティングがあって、そのイメージを音の方に反射しているだけかもしれないし、ゆえに、それはモノゴトの理解の順序を都合よく取り違えただけの安易な比較かもしれないからだ。

 だが、ティーブスの音楽を聴いていると、そんなふうに何が正しいとか何が間違っているかなど、本当のところ、どうでもよくなってくる。陽光のような音のアトモスフィア。それは人をひたすらに穏やかにさせる。いや、無責任にさせるというべきか。もはや、すべてがどうでもいい。というか、どうでもいいことすらどうでもいい。そんな過激なまでの「穏やかさへのアディクト」が、ティーブスのトラックにはある。彼のサウンドを摂取していると、現実など取るに足りたないあれやこれやの蛇足でしかない。

 ティーブスの生い立ちなどは編集長の野田努氏による素晴らしいインタビュー記事「サイケデリック・ヒップホップ in U.S.A」を参考にして頂くとして、ここでは簡単に彼のディスコグラフィのみを振り返っておこう。
 ティーブスは、2010年に未だ多くの人に愛されるファースト・アルバム『アーダー』を、フライング・ロータスのレーベル 〈ブレイン・フィーダー〉からリリースした。2011年にはスケッチ的小品を纏めた『コレクション 01』を発表。そして2013年にはかねてから親交のあったプレフューズ73とサンズ・オブ・ザ・モーニングというユニットでミニ・アルバムを制作・発表した。このアルバムは、南国的な音の桃源郷を、00年代的なエレクトロニカ、あるいはグリッチ・ポップ的な手法で組み上げた傑作だ。そして本年。ついにリリースされた彼の2枚目のアルバムには、これまで以上の天国的/桃源郷的なサウンド・レイヤー/アトモスフィアが光のように横溢している。柔らかい肌理のような繊細なサウンドと、暖かい空気のようなビート、多層的に重ねられた音のレイヤーがもたらす陽光の感覚が、認識の遠近法を次第に崩していくのだ。60年代的なピースフルな音楽ソースが、00年代以降のエレクトロニカ的な快楽で鳴らされている、とでもいうべきか。そこにビート・ミュージックの現在を聴き取ることは困難ではない。

 ビート・ミュージックのコンテクストを考えるとき、90年代の〈モ・ワックス〉などが牽引したアブストラクト・ヒップホップを源泉として、そこから世界各国に分岐していった、さまざまな流れを考え直してみるのは、あながち不必要なこととも思えない。たしかに、まだ若い(1987年生まれ)のティーブスにはマッドリブなどの〈ストーンズ・スロウ〉の存在が大きいはずだが、ビート・ミュージックがラップを抜きにしたままアートフォームとして成立した点については、90年代の〈モ・ワックス〉の影響力は大きい。それは世代を超えて(半ば無意識に?)受け継がれているはずだ。
 現在進行形のエレクトロニクス・ミュージック/ビート・ミュージック潮流を考え直してみても、〈モ・ワックス〉的なサウンドは、ダーク/アートな側面がイギリスの〈モダン・ラヴ〉などに、〈ストーンズ・スロウ〉以降のビート・ミュージックには、そのビート・サンプリング・スポーツ/ペインティング的な側面が受け継がれているように思える。フライング・ロータスの〈ブレイン・フィーダー〉も同様だ(ここにプレフューズ73によってもたらされたエレクトロニカの音響工作の導入を入れてもいい)。
 前者のサウンドソースは、80年代のインダストリアルやノイズと00年代以降の電子音響、後者の源流は60年代のソフトロック/サイケ、ソウル、ジャズなどであり、そこに00年代以降のエレクトロニカの技法を用いてトラックを組み上げている。
 そして、ティーブスのサウンドには、そんな60年代のソフトロック/サイケと、90年代以降のヒップホップ(ゆえにジャズ)と、00年代以降のエレクトロニカの技法が、まるで最初からそこにあった音楽フォームのように、とても自然に鳴らされているのだ。それはあまりにも自然なので、ビートですらもサウンドの万華鏡の中に溶け込んでいってしまいそうなほどである。
 そう、ティーブスのサウンドは、もう少しでドローン化してしまいそうなほどに、蕩けるような心地よさに満ちているのだ。彼がペインティングで描く、あの色彩が溢れる花のように、である(ゆえに彼の音楽は音楽の文脈すら溶かしてしまうのだ)。

 その蕩けるような音の快楽は、ビートレスの1曲め“ジ・エンドレス”においてすでに象徴されている。緩やかな波のようにつづく音の持続、そして最後に水の音……。これこそアルバムのOPトラック的な位置づけであると同時に、『エスターラ』全体を象徴する音楽性が圧縮されたトラックに思える。そしてアルバムは聴き手を桃源郷の世界へと連れ出していく。
 2曲め“ヴュー・ポイント”においては、特徴的な拍のビートに、ダビーに強調されたハイハットが鳴り、甘くサイケデリックなサウンド・スケープが耳をくすぐる。その視点をズラすような音の連鎖。そして3曲め“ホリデイ”。ジョンティの歌声とビートとサウンドが休日を祝福するようにやさしく囁くだろう。これぞまさに脱勤労意欲サウンドの極地だ。
 さらに4曲め“シュウス・ララバイ(Shoouss Lullaby)”ではカラカラと乾いた音が転がり、淡いキックの音が微かにかさなる。そこにミニマルなフレーズが次第にレイヤーされ音の風景がどんどん広がる。そして中盤からは、重くファットな、しかし乾いたビートが鳴り響くのだ。じつに見事な構成!

 と、このままだと全曲解説をしてしまいそうなのでこれ以上は控えるが、以降もポピュラス、プレフューズ73、ラーシュ・ホーントヴェットなどの個性的なゲストを招きながらも、そのサウンドは万華鏡のように展開していく。聴くべきポイントは、ビートだけではない。花開くように用いられる淡いピアノの音の素晴らしさや、 アルバム全体に優しいザワメキのように鳴り響く絶妙なノイズにも、ぜひ耳を傾けて聴いていただきたい。
 そう、ひと言でまとめれば、本作においてビートとサウンドは同等なのだ。ビートはリズム・キープであると同時にサウンドの色彩を彩るエレメントのようにコラージュされているし、サウンドは音響的効果や和声感覚を維持したままリズムを生み出している。その乾いた音やまろやかな音が、多層的にレイヤーされていくことで、聴き手に、永遠の夏の記憶、南国的なイマジネーション、眩く、暖かく、光に満ちた世界を想起させていくことになるのだ。

 そして、その音を聴く悦びは、いっそ現世の煩わしさなど捨て去っても構わないと思えるほどの「過激な怠惰さ」を醸し出す。かつてフライング・ロータスはティーブスの音楽を評して「アバターに出てくる島で過ごす休暇のようだ。」と語っていた。まさにそのとおりだ。彼の音楽を聴くこと。それは、存在しない真の理想郷への休暇=逃避である。私はその危険な誘惑から逃げることはできない。何度も何度もこのアルバムを再生し、鉛色の日本で天国の陽光を夢想し、ただ、ただ午睡=逃避をつづけるだろう。

将軍 (RAZOR SHARP / MAZE / 返杯) - ele-king

<将軍 DJ スケジュール>
5/4(sun) INDI PENDULUM DAY@ Kalakuta Disco (名古屋)
5/5(mon) RAZOR SHARP@ club Mago(名古屋)
5/31(sat) IF…x RAZOR SHARP@ Kalakuta Disco(名古屋)
6/7(sat) @ Kalakuta Disco(名古屋)


Marginal Recoreds | PIGEON RECORDS

<web>
https://fluid-nagoya.com<br /> https://razorsharp-nagoya.info/

ここ最近リリースしたものなかからベースミュージック~テクノ~ハウス~エクスペリメンタルな10枚を選んでみました(2014/4/4)


1
Sam KDC - Survive Exit EP - Samurai Red Seal

2
ENA - Bacterum EP - Samurai Horo

3
Djram - DAM Remixes - 2nd Drop

4
Asusu - Velez (A Made Up Sound Remix) - Livity Sound

5
Pinch & Mundance - Turbo Mitzi/Whiplash - Tectonic

6
Gantz - Spry Sinister - Deep Medi

7
Vioces From The Lake - Velo Di Maya Ep - The Bunker New York

8
Dasha Rush - Timid Ocean Drawings - Deep Sound Channel

9
DJ Spider & Marshallito - Propagandas For The Devil EP - Subbass Sound System

10
Florian Kupfer - This Society - L.I.E.S.

interview with The Horrors - ele-king

 ザ・ホラーズが3年ぶりとなる4枚めのアルバム『ルミナス』をリリースした。2005年に結成され、ダークなガレージ・パンクと徹底してゴス的なヴィジュアルでセンセーショナルにデビューした彼らだが、そのイメージに留まることなくアルバムごとにさまざまな音楽的探究を行い、取り入れた知識をサウンドとして具現化し、変化しつづけてきた。彼らにとって初期のイメージはコントロールできなかった若気の至りでもあり、いまとなっては少し恥ずかしさも感じているようだ。しかし、ここまでのキャリアにおいては周囲に流されたり時流に迎合したり安易にルックス面で路線変更したりしたわけではけっしてない。20才前後からレコードの収集やDJをしたりしながらマイペースに吸収してきた知識、そこから自然発生した興味を資本とし、何より持ち前のセンスで独自のホラーズのサウンドを作り出しているのだから、その変遷はどれも輝かしい〈白歴史〉になっている。


The Horrors - Luminous

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 今作『ルミナス』は、ダンス・アルバムだ。グルーヴ感のあるビートとサイケデリックなサウンドが全編を覆い、ファリス・バドワンのヴォーカルもいつになく甘く、気怠く、ポジティヴだ。現在は世界のフェスティヴァルでもヘッドライナーを務めるほどの存在になった彼らだが、この、暗がりできらめくような密室感のあるダンサブルな作品によって、よりオーディエンスとの距離を縮めるはずだ。変わりつづける彼らの2014年の現状を切り取ったこの作品もまた、ホラーズの「白歴史」として更新されていくだろう。

 今回インタヴューに答えてくれたのは、ファリス・バドワン(Vo)とリース・ウェッブ(B)。インタヴューがはじまる前、レコード・コレクター/DJとしても名を馳せる音楽博士のようなリースはわたしがプレゼントしたガレージの7インチ・ディスク・ガイドに目を輝かせて熱心に読みふけったり、アートスクール出身で絵の個展を開いたこともあるファリスは自分のお気に入りの極細のボールペンでひたすら緻密なイラストを描いていたりと、両者とも穏やかで落ち着いたなかに好きなものへ寄せる真摯な熱意が感じられた。インタヴューでもさまざまに表現を変えたりしながら、伝えたいことをとても丁寧に考えて答えてくれた印象だった。ザ・ホラーズが日本にもファン・ベースを根強く持ち、その人気を一過性ではなくじわじわと増しているのも、そういうところに理由があるのかもしれない。

ただの仲良しが集まっただけのギャング──そういうバンドだったし、いまもじつはそうだしね。(リース・ウェブ)

個人的にはザ・ホラーズはデビュー当時から大ファンで、これ私物なんですけど……(デビュー当時にザ・ホラーズが表紙を飾った『NME』を見せながら)いまこれを見てどう思います?

リース・ウェッブ(以下R):この写真撮らなきゃよかった……(笑)。7年前だね。

この時といまと、音楽に向かう気持ちに変化はありましたか?

ファリス・バドワン(以下F):物事の進め方っていう意味では何も変わってない気がするよ。熱意とか熱さとか、それが僕らには大事だから。最初のアルバムの当時は自分たちもライヴをやることに一生懸命でそのやり方を模索していたところがあると思う。ライヴをやりながら発展していったようなところがあって、そのやり方ってじつはいまも変わっていない。表現力が増したとか、腕が上がったことでよりやりたいことに近づけるようになったという部分、根っこにある気持ちは変わってないと思う。ファースト・アルバムの頃からとにかくやりたいアイデアがいっぱいあって、それをどんどん実験してみたいという意欲があって、それに突き動かされていたというところはまったく変わらないし、でもあのアルバムではなかなか実現しきれなかった部分もあるけど、でもそこをふまえて次があるという点ではすごく意味のある作品だったなと思うよ。

でもちょっと写真だけは恥ずかしいと。

F:いやいや、べつに恥じるところはないんだけど(笑)、自分たちが思っていた自分たちとはちがう形で表現されている写真が一部あるなと。とくに小綺麗な形で出ちゃっているのが多い気がして。というのも、ライヴにおける当時の僕らって、初歩的でアグレッシヴでヴァイオレントですらあるようなバンドだったんだけど、一部のカメラマンの手にかかるとそれが小綺麗にまとめられちゃって、作り込まれているようなイメージになってしまっているものがあったりするんだよね。実際とちがったところがあると思うよ。もっと自分たちはラフなはずだったのにってね。

R:自分たちもまだわかってなかったんだよね。当時の自分たちのステージでのあり方と写真のイメージがちがうのを、自分たちでもどうすればいいかわかっていなかったかもしれないから。

当時の写真も初期衝動的で素敵ですけどね。

R:僕らもこういう写真は嫌いじゃないし、イメージ的にいいなと思うところもあるんだけど、当時の自分たちの表現として正確さにおいては欠けるのかなと思うんだよね……。

メディアに作られてしまっているなという感じはあったんですか?

R:作られてしまったというよりは、一部誤解されるかなって。スタイリッシュでお膳立てされたような印象を与える写真が一部あって、でもそれは本来の僕らの姿とはちょっとちがって、僕らの音を聴いたことがなかったり会ったことがない人が見たら誤解するのかなって。そういう意味で見せ方として不正確だった部分はあると思うな。ファッション的なバンドとか服装にこだわるバンドみたいなイメージを与えそうな写真に対して僕らはそういう印象を持ったことはたしかだよ。 ただの仲良しが集まっただけのギャング──そういうバンドだったし、いまもじつはそうだしね。ただ、ときとともに人間は変化するから、いまの僕らだったらさすがにあれは無理だと思うし、まったく意味をなさないと思うけど、当時の僕らはああいう部分があったっていう点ではリアルさもあるだろうね。だから、そこまでの抵抗感はないよ。昔とすっかり距離を置いているということではなくて、あれはあれで重要な時期だったと思うし、あの頃だって実際にショーに足を運んでくれる人たちには実際の僕らの姿は伝わっていたわけだし。あの頃を否定するつもりも忘れようとしているつもりでもない。単純にいまの僕らはちがうなって思うよ。

では話が変わりますが、リミックス・アルバム『ハイヤー』(2012年)をはさみ前作『スカイング』(2011年)から3年ほどありましたがその間は何をしていましたか?

R:そのうちの2年間はほぼツアーでとられていたよ。フェスもあったりとか……。詳細は省くとして(笑)、いったんレコーディングに入ったあとにまたフェスも入ったりして、3年の間で事実上18ヶ月はツアーに出ていたよ。で、やっとスタジオに入れたなと思ったら夏フェスのシーズンが来てしまってまた外に出るっていう感じで、けっこう途切れ途切れだったんだよね。ライヴに忙しかったからなかなかフォーカスを絞ってレコーディングに専念することができなくて、3年はあっという間だったよ。基本的に自分たちが完全に納得するものができるまではレコードを世に出さないっていう僕らの姿勢があるから、長い時間はかかったけど、べつに焦る必要もなかったから納得がいくまで時間をかけようというスタンスでできたよ。

『ハイヤー』のリミキサーの人選は自分たちで行ったのですか?

R:うん、そうだよ。

個人的にはピーキング・ライツ(Peaking Lights)の起用が興味深かったです。そのあたりのシーンにも興味があるんですね?

R:そうだね。そういったシーンにはつねに目を光らせているし、ピーキング・ライツは最近のアーティストのなかでは僕たちのフェイヴァリットかな。サウンド的にもすごくおもしろいことをやっているし、ダブの影響を取り込んで、ホーム・スタジオを持っていて……たぶん結婚はしてないと思うけどカップルなんだよね? そのスタジオで手作りのシンセサイザーを作ったりテープに録音したり、そういうやり方も興味深いよ。他のリミキサーに関しては、普通のリミキサーとはちょっとちがうメンツになっているよね。ピーキング・ライツもバンドとしてライヴ活動をしている人たちでミキサーではないし、コナン・モカシン(Connan Mockasin)もいわゆるアーティストだし、ちょっと毛色のちがう人を選んだんだよ。

では最新作『ルミナス』についてなんですが、まず、このタイトルにした理由は?

F:(ずっと『NME』を読んでいたファリスが)いやあ……。それにしても、これを見てたら、いまはずいぶんいなくなっちゃったバンドが多いなあと思って。僕らもそんなに長くやっているつもりはなかったけど、考えてみれば9年でしょ。でもなあ、その9年の間にずいぶんバンドが現れては消えたもんだなあと思いながら読んだよ。
 で、『ルミナス』に関してだけど、曲作りのプロセスそのものなんじゃないかなと思うよ。エネルギーが発散されて、そのときに光が放たれるっていう感覚、僕らの曲作りは昔からそうだけど、とにかく自分たちを表現したいって。有機的な作業を経て最終的な形まで、曲が自然に発展していくそのプロセスを表現した言葉かな。

アルバムの発売を一度延ばし、ミックスにじっくりと時間をかけたようですが、こだわった部分、意識した部分は?

F:じつは延期した理由はミキシングのためにということではなかったんだ。というのも、僕らの制作って同時進行なんだよね。とくに“フォーリング・スター”とかはミキシングをしながらもまだレコーディングして、録ってはまたミキシングして、という形で。そのふたつを分けて考えていないから、ミキシングに入ってもなお曲が発展して、徐々に曲が完成していくっていうやり方なので、ミキシングのために延ばしたっていうわけではなかったんだよ。

今作では、非常にダンサブルに仕上がっていると感じましたが、そのように意識したんですか?

R:僕らがあらかじめこういう方向に、って座って話し合ったわけではなくて、まずは作業をはじめてみて、それがどこに向かっているかを見極めていったんだけど、最初の段階ではまったく何もなくて白紙のキャンバスがそこにあっただけど、その中から自分たちが何にエキサイトできるかなと探っていったんだけど、わりと早い段階で気がついてみたら自分たちがエネルギーの発散とか動きたくなる感覚とかに傾倒していることに気がついて、それを追求していくことになったんだ。いわゆる踊れるレコードになったのがその結果なんだけど、フェスティヴァルの会場でやるのも想定しているけど、今回はナイトクラブとかダンスフロアで聴いても楽しめるような音が頭の中にあったから、その点では意識的だったと言えると思うよ。最初は無意識だったけど、だんだんと曲作りの焦点になっていった。

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それにしても、これを見てたら、いまはずいぶんいなくなっちゃったバンドが多いなあと思って。(ファリス・バッドワン)

7年前ですらいたバンドがいなくなっちゃってることを考えると、そのさらに前にもいい音楽がたくさんあったっていうことを知らせるのは大事かなと思っているよ。(リース・ウェブ)

〈ザ・フライ・アワーズ〉でサーストン・ムーアと共演したようですが、いきさつは?ソニック・ユースをはじめとする彼の音楽についてそれまでどう思っていましたか?

R:とくにジョシュ(G)がソニック・ユースの大ファンで、たぶん彼にとっていちばん好きなバンドなんじゃないかな。ついこの間もジョシュとそういう話をしていたんだけど、ギターをはじめたきっかけがソニック・ユースだったって言ってたよ。ああいう、当たり前のギターではなくて、ペダルを噛ませたりノイズを鳴らしたりチューニングを変えてみたりっていうところで、一般的なギターの認識とはがらりと違うことをやったバンドだってね。ああいうバンドを聴いたのははじめてだったんだって。
 〈ザ・フライ・アワーズ〉の授賞式ではお互い演奏することがわかっていたから、まずはそのステージでいっしょに共演しようかっていう話と、レコードにも参加してくれないかって話を持ちかけたんだ。それまで会ったことなかったんだけど、言ってみたら気さくにいいよって言ってくれたんだ。実際に、ギター一本ぶらさげてスタジオに来てくれたんだよ。サーストンは、ゆっくりゆっくり準備するんだよね(笑)。こんなことがあってさー、とか話しながらね。2回やればじゅうぶんかなって思ったんだけど、せっかくだからって3回通しで弾いてもらって。で、そのあとお酒飲みに行って。飲みながらNYのいろんなバンドの話をしてもらったりしながらね。すごく楽しかったよ!

〈オール・トゥモロウズ・パーティーズ〉や〈オースティン・サイケ・フェス〉などのフェスティヴァルへの参加で受ける刺激はありますか? わたしは以前、ザ・ホラーズがデビューの年に〈SXSW〉へ行ったことがあるのですが、あなたたちが熱心にいろいろなバンドのライヴを観てまわっていたのを見かけましたよ。

R:今年も〈オースティン・サイケ・フェス〉がすごく楽しみなんだよ。週末にフェスに行くとだいたい自分たちの出番が終わったら帰ってきてしまうことも多かったり観たいバンドの出る日が違ったりして、なかなか他のバンドを見ることができないままだったりするんだけど、〈オースティン・サイケ・フェス〉はラインナップもいつも充実しているし、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとかブライアン・ジョーンズタウン・マサカーとかそういうバンドがばーっと出ているところに行ったらもうとにかく見たいよね。ロンドンでももちろん音楽シーンは充実しているしライヴもたくさん観れるけど、フェスに行ったら一気に観られるからね。僕らは相変わらずライヴを観に行くのが大好きなバンドだから、ああいう機会にはどんどん観るようにしているよ。

フェイスブックで、連載のようにしてお気に入りの曲のユーチューブ・リンクをあげて紹介していたり、レギュラーのDJイヴェントをずっと続けていたりして、たくさんの音楽を聴いて紹介しつづけているのもとても素晴らしいと思います。ホラーズを好きな若いファンたちも、あなた方のルーツであったりインスピレーションを受けた音楽を聴いて興味を広げていくでしょう。そのようによい音楽を紹介しつづけることには使命のようなものを感じているのでしょうか?

R:僕らが紹介しているものは、ホラーズに直接関係があるものとは限らないんだけどね。好きだと思うもの、聴いているものをみんなとシェアしたくてやっているよ。指一本でいろいろなものが聴けてしまう時代だけど、それでも聴き逃してしまういいバンドとかいい曲はたくさんあると思うので、それをぜひ紹介したいなと思うよ。僕らに直接影響を与えているかというとちょっとちがうものもあるけど、僕らのようなバンドに興味を持ってくれる趣味のいい人たちなら気に入ってくれるだろう、というものを紹介しているよ。さっきもファリスが言ってたけど、7年前ですらいたバンドがいなくなっちゃってることを考えると、そのさらに前にもいい音楽がたくさんあったっていうことを知らせるのは大事かなと思っているよ。使命というほどではないけどね。

いまでもレコードは買いつづけていると思いますが、ロンドンでお気に入りの店は? また、フィジカルな録音物へのこだわりはありますか?

R:最近ロンドンのお気に入りのレコード・ショップは閉まっちゃったんだよね……。イントキシカ(Intoxica)とか……。

F:マイナス・ゼロ(Minus Zero)とかね。

R:世界のどこに行ってもレコード店は減っちゃっていて残念だね。

F:ボストンのあの地下のところも……、なんだっけね。

R:リリースに関して言うと、アートワークも含めてアナログのそんざい可能性を僕は信じているよ。流通形態がみんなMP3とかダウンロードとかになっているのはわかっているんだけど、売上のごくわずかだとわかっていても、アナログの存在感は僕は強く感じているし大事にしたいね。

R.I.P. DJ Rashad - ele-king

 シカゴのジューク/フットワーク──更新されるゲットー・ハウス──のプロデューサー、Rashad Harden=DJラシャドが去る4月26日、シカゴのウエストサイドにて死体で発見されたという。

 DJラシャドは、シーンの勢いを象徴するようなひとりだった。彼は、2013年の春、まったく素晴らしい12インチ2枚組の「Rollin」を発表、秋にはジュークとベース・ミュージックとヒップホップとを結びつけるような野心作『Double Cup』もリリースしている。今年に入ってからは初来日もしているし、ちょうど彼の新しいシングル「We On 1」のリリースも控えていたところだった。
 あまりにも早すぎる死に、どうにも感情がついていかないが、ジューク/フットワークという、もっともフレッシュで、もっともエネルギッシュなダンス・シーンにおいて、DJラシャドの作る鮮烈な作品は、ひとつのシーンを越えて、より広く愛されていた。これからが期待されていた人なだけに本当に残念でならない。多くの人が彼をリスペクトしているし、彼の音楽をもっと聴きたかっただろう。(野田努)
 


BAUS Theatre - ele-king

 バウスシアターが閉じるウワサはしばらく前からあったがそれがウワサでないと知ったのは灰野さんのミックスCDをいただくかわりに自分のバンドのCDを灰野さんにさしあげることになったのだが手元になかったのでボイドの樋口さんにもらいにいったらバウスの西村さんがおられた。
 西村さんに聞いた細かい理由は書かないし書いても詮ないが街の風景の一角ともいえる場所がなくなるのは、言葉でいう以前にそれがじっさいそうなり視覚から喪われてはじめて言葉にならない欠落とも感じない違和感をおぼえる。バウスシアターに足繁く通った映画ファンだけでない。食材を買いこむお母さん、学校に通う学生、レコードを買いに来たひとライヴハウスに訪れたひと、古着や古書を物色する方々、井の頭公園は反対側だがそこにデートに行くカップルでさえ喪失感を抱かないはずはなく、せっかく水をいれかえた池でボートに乗ったらかならずや別れることになるだろう。しかしそのまえに2014年6月にバウスシアターと私たちにも長いお別れは訪れる。私は吉祥寺が住みたい街ランキングの1位から陥落するのは時間の問題だと思うが、私はすくなくともこのイベントが終わるまではバウスシアターに住みたいくらいだ。
 爆音映画祭はいまから6年前当地で産声をあげた。映画館の音響ではなくライヴハウス仕様で映画を観るとともに「聴く」体験はサウンドトラックだけでなく人声と物音までふくむ音を視覚表現と対等に、映画という時間のなかにしかうまれない世界を感覚のすべてに訴えるものだった。私はこれを機に映画は過去のものであっても回顧の軛から逃れ、ちょうどDJカルチャーにおいて音楽の再生にプレイとリバースが二重写しになったような映画の観方を提示した。その意義はゼロ年代以降のシステムに地殻変動を起こした映画のシーンでけっして小さいものではなくバウスシアターはその主戦場であった。爆音映画際はこれからもつづけていくにちがいないがバウスシアターでの爆音はこれで見おさめである。
 期間は4月26日から5月いっぱい。プログラムは公式ホームページのご覧になるなりしてたしかめていただきたいが90本を数える上演作品にはバウスシアターや吉祥寺になじみぶかい「バウスを巡る映画たち」と題したもの、よりすぐりの爆音上映には当ページ読者にもぴったりの音楽映画も多数ふくむ。まだご覧になっていない方はぜひとも、何度か来られた方にもまたちがった映画体験が待ち受けているはずである。私なぞクストリッツァの『アンダーグラウンド』を前回の爆音で観たとき、冒頭のジプシーが高らかとラッパを吹き鳴らすシーンでイスがビリビリ震え、さすが爆音だと唸ったがそれは地震(震度3)のせいだとのちに知ったほど、予期せぬできごとが起こるのが爆音上映の醍醐味なのである。
 また爆音映画際の期間中は上映だけでなく、ライヴイベントとも予定しているという。大友良英による大編成ノイズ・プロジェクト「コア・アノード」、気鋭の映像作家、牧野貴による『Phantom Nebula』生演奏付き上映、このイベントのためにだけにニューヨークからやって来るマーク・リボーが『紐育の波止場』と『キッド』(当初『街の灯』の予定だったのを変更)に音をつけ、井上誠率いるゴジラ伝説LIVE 2014も襲来するのである。5月17日には、僭越ながら湯浅湾祭と題してヘア・スタイリスティックスの無声映画への劇伴ライヴ、カーネーションの直枝政広のソロ・ライヴにもちろん私ども湯浅湾のライヴもございます。一所懸命練習します、明日から。6月に入ってからの10日間は「ラスト・バウス/ラスト・ライヴ」と題し、かつて映画だけでなくコンサートや演劇も催すハコだったのをしのばせる充実のラインナップでのライヴ週間も待っている。かえすがえす閉じるまでバウスに住みたいくらいだ。閉じてもスクウォットしてもいいくらいだ。


磯部涼と九龍ジョー。
音楽やそれを取り巻く風俗を現場の皮膚感覚から言葉にし、時代を動かすアンダーグラウンド・カルチャーをつぶさに眺めてきた人気ライター2人が、これからの音楽の10年を考える連続対談集。
2010年代に、音楽はどのような場所で鳴っているのか、それは政治や社会とどのように関係しているのか……。
過剰な情報に取り巻かれながら、いまいる場所に希望を生むための、音楽のはなし。 

●まるで問題集──考えるためのヒントがぎっしり!
日々おびただしい音源とニュースが行き交う音楽シーン。しかし、「話題」はあふれていても、「問題」はぼんやりとそのなかに埋もれてしまっているもの。小さなシーンやコミュニティの豊かなあり方から、隣国韓国インディの現在や風営法や原発をめぐる運動、あるいはシティ・ポップ再評価を通した東京と都市の考察まで、インターネット上も含めたさまざまな「現場」を軸として、見えない問いに色をつける4つの対話を収録。もっともっと考えたくなる、音楽カルチャーのいま。

interview with Wild Beasts - ele-king

 ワイルド・ビースツ。UKはケンダル出身の4人組。現体制ではや8年にも及ぶ活動をつづけている彼らは、ポップ・シーンの異端として各メディアからの称賛を得た『リンボ・パント』(2008年)以降、翌年の『トゥー・ダンサーズ』のマーキュリープライズへのノミネートなどを経て、『スマザー』(2011年)でその人気と評価を揺るがぬものにしたかに見える。


Wild Beasts -
Present Tense

Domino / Hostess

Tower HMV Amazon iTunes

 その後の初のリリースとなる新作『プレゼント・テンス』について、「彼らの確信がその野心に見合うものになった」と評していたのは『ガーディアン』誌だ。同誌の『トゥー・ダンサーズ』(2009年)のレヴューは「近年ヘイデン(・ソープ ※本バンドのメインのヴォーカル)ほどの驚きをもたらしたロック・ヴォーカリストは他に思いつかない」という文章からはじまっているが、それは、当初彼らがシーンに対して投げかけた「驚き」が、少なからず奇異の感やとまどいぶくみのものだったことを思い出させ、同時に、いつしかそれが堂々たる称賛へと変化していたことを実感させる。気に障るあいつは、気になるあいつになり、オンリー・ワンな存在へと変わった──「野心と確信が見合うようになった」というのは、そういうことだろう。

 何が気になるのか、それは彼らの音楽、そしてヴォーカルを耳にしたことのある人ならすぐにわかるはずだ。デヴィッド・バーンやクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーのアレック・オウンスワース、あるいはモリッシーを思い浮かべもする。ヘイデン・ソープのヴォーカリゼーションはスノッブで演劇的だと評されることもあるが、起伏が大きく、耳馴染みのよいとはいえないそれはしかし非常に精神的であり、ポップスというひとつの予定調和性との間に摩擦を起こす。そして、その摩擦そのものがひりひりと音楽を高める──その点、オート・ヌ・ヴのアーサー・エイシンとは、性格は異なれど、性的なモチーフへの強いこだわりや、R&Bを意識する点においてより共通性があるかもしれない。ブラック・ユーモアやエグみのある題材は、トラッドな音楽フォームに彼ら一流の解釈と屈折を加えた楽曲と相俟って、誰も真似のできないかたちをなし、近年作においてはエレクトロニックな方法や発想と結びつきながら洗練の度合いを深めてきた。なんというか、彼らの音楽はけっして「ミュータント」なのではなく、知性と確信とが磨き上げた不屈の皮肉であり批評でありパフォーマンスなのだ。そんなものが堂々とすぐれたポップスとして受け入れられ、称賛を浴びていることがとても心強い。
 インタヴューにはそのヘイデンの歌に穏やかな対照を与え、彼らの音楽性を一層深めているもうひとりのヴォーカル、トム・フレミングが応じてくれた。

■ワイルド・ビースツ(Wild Beasts)
英ケンダル出身のヘイデン・ソープ (V/G)、ベン・リトル (G)、トム・フレミング (V/B)、クリス・タルボルト (Dr)の4人組ロックバンド。08年のアルバム・デビューから現在までに3枚のアルバムを発表。09年、2作目『トゥー・ダンサーズ』が英国最高峰音楽賞マーキュリープライズにノミネート。11年3作目『スマザー』が全英17位を獲得。世界中で賞賛を受け、数々の年間ベストアルバムに選出された。14年、ニュー・アルバム『プレゼント・テンス』をリリース。さまざまなメディアが大絶賛し、全英チャートトップ10入りを記録した。


性っていうのは見れば見るほどわかってくるものなんだ。

“ワンダーラスト”などの性的なモチーフは、あなた方の音楽全体にも重要なインパクトを与えていると思いますが、あなたがたの音楽自体は必ずしも肉体的ではなく、むしろ精神性が勝っているように感じます。ワイルド・ビースツにとってのセクシュアリティとはどのようなものなのでしょうか?

トム:性には間違いなく興味を持っているね。君が言うように、精神性や人間性を性から完璧にかけ離そうとはしていない。その方がいろんな意味でおもしろいと思うんだよね、そうだろ? 音楽はまず体で感じるものだし、イギリス人のミュージシャンはそこまでそれが得意じゃないんだよね。性っていうのは見れば見るほどわかってくるものなんだ。

たとえば、音楽のフォームとして、R&Bは意識されていますか?

トム:R&Bは間違いなくよく聴くジャンルだよ。音を一つ一つどう繋げていくか、ちょっと外れている音をどう音楽に取り入れているか、ヴォーカルがどう鳴り響いているか、外れているリズムの技なんかに興味があるんだ。意識しているからなのかはわからないけど、雨がよく降る小さな島に住む子どもたちが動き回れるように、スペースを作り出しているようなイメージが湧くんだよね。4つ打ちのロック・ミュージックよりはしっくりくるんだと思う。

曲は歌のメロディから先に発想されるのですか?

トム:曲によるね。最初にリリックかタイトルが浮かびあがってきて、それをもとに曲の中心となるアイディアが生まれるんだ。そこからどんどん音楽ができあがっていく感じだね。まとめると、普段メロディがいちばん最後に作り上げられるんだ。

歌がとても強く繊細で、多くの曲はリニアにかたちづくられているように思います。そんななかで”ワンダーラスト”の吃音のようなタイム感やビートが必要だったのはなぜでしょうか。

トム:とてもシンプルなリズムだよ。だけど4/4のはずが3/4が聞こえるから何かが「抜けている」ように感じて、リズムに落ち着きがないように感じるんだよね。僕たちの音楽においてはドラムがいちばん大事な要素だと思ってる。4/4とか8/8よりは3/4、6/8に当てはまるんだ。フォーク・ミュージックの影響を受けてるんじゃないかな。

音楽を媒介するSNSなどの普及によって、音楽はより身近なところで完結的・効率的に流通するようになり、もはやポップ・ミュージックが人々の思いや時代の気分といった大きなサイズの共同性を代弁する必要がなくなったように見えます。あなたがこれまで受けたポップ・ミュージックからの恩恵について、教えてもらえますか?

トム:そうだね、いまはどこでも何でも手に入るからね。情報で溢れているんだ。それに対して興味深いレスポンスがさまざまな楽曲の制作。教会・クラシカルなバックグラウンドを持った幼い僕と、いま僕が作っている音楽との架け橋はポップ・ミュージックだったんだ。ボーイズ・II・メンやハダウェイを長波ラジオで聴くのが僕の音楽の学業において大きな役割を果たしたんだ。小さい頃はそれのありがたみに気づけてなかったけどね。

そんななかで、あなたがたは依然として「大きな」ポップ・ミュージックを引き受け、牽引する存在であるように思います。シーンにおいて、あるいは広くアートの営みの上において、自分たちの役割を意識することはありますか?

トム:そんなにいろいろ考えてたら気がおかしくなると思うよ。何よりも大事なのはとにかく打ちこむこと。おもしろみのあるものを作り出すこと。素直でいること。もちろん観客はほしいし、必要ではあるけど、誰も作れない音楽を作り出さなくちゃいけないんだ。そうするためのいちばんの手段は机に向かってひたすら打ち込むこと。僕たちの役割は何かを言う権限を持つことなんだ。だから、いわば、僕たちが言ったりアクションを起こさない限り起きないことを実現させることかな。

イギリスにはザ・スミスという素晴らしいバンドが存在しましたが、あなた方からは彼らがどのように見えますか?

トム:正直なところ、僕たち結成当初、ザ・スミスに多大なる影響を受けたんだ。彼らがいっしょに演奏するさま、マーティン・カーシーのブリティッシュ・フォークのギター・スタイルを取り入れるジョニー・マー、モリッシーの歌詞の組み方、北のブラック・ユーモア……全部健在なんだ。

イギリスの音楽の歴史を考えるときに、もっとも意識するのはどんなアーティストですか?

トム:とにかくたくさんいるよ。パイオニアであることを第一として考えるけど、スロッビング・グリッスル、エイフェックス・ツイン、ペンタングル、レッド・ツェッペリン。一日中話していられるよ。

では、アメリカのバンドやイギリス以外のミュージシャンで意識する人たちはいますか?

トム:数え切れないほどいるよ。その中から名前を挙げるとすればディーズ・ニュー・ピューリタンズ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ザ・ナショナル、ジ・アントラーズ、フォールズ、スワンズ……。

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古風なコラボレーターなんだよ、僕たち。




Wild Beasts -
Present Tense

Domino / Hostess

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みなさんは小さいころからの仲間だそうですね。ケンダルで青春期を送ることは、たとえばロンドンでのそれと大きく異なるものなのですか?

トム:まあ田舎の小さな町だからね。ちがいは大きいと思うよ。中心からかけ離れた存在感を持っているっていうことを自覚するようになったし、周りのヤツらと世界観を共有するようになった。バンドをやっていて狂いそうなときもある。だけど地に足がついているのはケンダルで育ったからなんじゃないかな。

プロデューサーとして加わっているレックス(Lexxx)の影響や、あるいはレオ・アブラハムス(Leo Abrahams)の影響は、それぞれ今作のどのような部分に反映されていると思いますか?

トム:彼らは才能を持った人たちだよ。レックスは音響の面で制作に関わっていて、レオは作曲やヴォーカルをどう届けるかにおいて制作に関わっていたんだ。僕たちが何を欲していて、どこに向かっているのかちゃんと理解していて、彼らどちらともこのアルバムを一人で作り上げることはできたと思ってる。大きく響くシンセの音だったり、引き締まった楽曲の作りは彼らの影響だね。

リチャード・フォーンビー(Richard Formby)の起用は予定されていましたか?

トム:リチャードにはいままでにも多大なる影響を受けてきたんだ。だけど今回は何か新しいことをしようって決めてね。彼と仕事するのは大好きだから今回はいっしょに制作に取り組めなくて辛かったけど、またきっと機会があると思うよ。彼とは2作をともに制作したし、僕たちはただバンドとして進化していきたかっただけなんだ。

ツアーを一旦休止してアルバム制作に専念したということですが、みなで寝泊まりをして臨んだのですか? その流れや模様を教えてください。

トム:アルバムはほとんどロンドンでレコーディングされたんだ。夜おうちに帰って、朝戻ってきてた。他のアルバムは一つの場所で集中した期間を設けて書いてたんだけどね。今回の方が考える時間も大幅に設けられたし、物事を正しくこなせたんじゃないかな。ロンドンは費用がかさむから、狭い、ちょっと窮屈な場所を使ってたよ。ほとんどの楽曲制作にソフトウェアを使ってたのはそのせいでもあるんだ。アルバムを書き始める前に休養をとったのは、ただただ盲目に取り組むんじゃなくて、自分たちがちゃんと欲してるアルバムを作ってることが確かであって欲しかったから。バンド外にもみんな個々の人生があったから、それがあってこそのアルバムなんじゃないかな。世界を見なきゃならないんだ。

基本的にはヴォーカルをとる方がソングライティングを行っているということになりますか? その場合、相手の入ってくるパートは相手の声や表現で歌われることを想像して作られるのでしょうか?

トム:ほとんどはヘイデンと僕が、それぞれ自分が歌う部分を書いてるね。だけどもちろんお互いのために書く部分もあるよ。お互いの声がどういったポテンシャルを持っているのかも熟知しているし、僕たちの声がお互いの声と自然と溶け込むこともわかってるからね。誰がどこを担当するか、誰が何を曲に与えられるかっていうことはよく考えるところだよ。古風なコラボレーターなんだよ、僕たち。だけどアルバムが完成するまでに、楽曲は4人全員の影響を吸収するんだ。

「アート・ロック」と呼ばれることについてどう思います?

トム:まあ、言われるがままにだね(笑)。いいんじゃない? もっとひどい言い回しはあると思うし。構わないよ。

ジャケットのアートワークとしてコラージュされている図像はそれぞれ意味を持っているのでしょうか? ビルの角はどこなのでしょう?

トム:どの楽曲もじつはイメージを持っていて、それが楽曲のアイディアに結びつくようになっている。コラージュにしたのは毎日僕たちが「理解しろ」と与えられる大量の情報を表している。君が指してるのはおそらく西ロンドンに位置する古いビンゴ・ホールだと思うんだけど、正直なところどの建物の写真を最終的に選んだか覚えてないんだよね。

口当たりのよい言葉や元気のよい掛け声をかけないポップ・アルバムを作りあげることは、かなり勇気のいることだと思いますが、本作はその点、4枚目の作品としてのあなたがたの自信や、音楽制作における確信を表すものだと考えてよいでしょうか。

トム:ありがとう。いままで書いてきたアルバムはここに至るまでに必要不可欠だったと思ってる。このアルバムは他に比べてもっと真っすぐだし、意味合いを表現するという分には素直だよ。この時点で僕たちは自信を持っているし、自分たちという存在を確立できたと思っている。過去のアルバム、過去のライヴから学んできたことをこのアルバムを通して抽出しているっていってもいいと思う。だって、何かを学んできたことを証明しなきゃだめだろ……!

 クリスチャン・フェネス、久々に〈Editions Mego〉からのリリースとなる新譜『ベーチュ』がいよいよ来週登場する。ele-kingでももちろんインタヴューを敢行! 後日の公開を待たれたし! だがそのまえに、音響とポップスの境界で取り組みをつづける日本の重要アーティストたち、小山田圭吾、坂本龍一、デイヴィッド・シルヴィアン、高橋幸宏、各氏のコメントが発表されているのでご紹介しよう。

クリスチャン、アルバム完成おめでとう。
美しいノイズのシャワーがいい気持ち! 小山田圭吾

ロマンティックやなあ! 坂本龍一

クリスチャン・フェネスの新しいアルバムには圧倒的な美しさがある。『エンドレス・サマー』の残響がこだまする、陽光が降り注ぐようなオープニング曲「Static King」、容赦なく無慈悲な「The Liar」、すばらしく壮大な「Liminality」、この3曲だけを取っても、『ベーチュ』はクリスチャンのこれまででもっとも力強い作品だといえる。

クリスチャンの作品は、うらやましいほど幅広い層に届いているようだ。そのラディカルな音の実験ゆえに、もしくは、それとは裏腹に、彼が手がけるほぼすべての作品における、パワフルに感情をかき立てる高潔さに魅了されるオーディエンスは増えるばかりだ。彼が用いるしばしば対立的な音の間の表面上の二分は寛容な心と結びつき、彼がソロやその他の作品の制作過程で取り除く感情の激しさについて何の弁解もせずに、彼をその先駆的な美的感覚に多様なコンテクストを見出すことのできる無二のアーティストたらしめている。まさに、彼の信奉者の多くが映画やダンス、演劇、ソフトウェア・デザイン、そしてもちろん、オーディオといった、横断的な芸術分野に存在しているように。

個人としては、クリスチャンは謙虚で物静かだがユーモアがあり、心の広い人間である。 表現者としての彼は、刺激的にダイナミックで、リスクをいとわない。彼の作品に通底する誠実さはもちろん、彼自身の中に存在するものなのだ。 デイヴィッド・シルヴィアン

フェネスを知ったのは、教授と彼との一連の仕事からだったと思う。しかしその音自体はYMOのライヴでの共演時に初めて、「あ、これがフェネスの音なんだ」と実感するまでよくわかっていなかったかもしれない。ただ実験的な音をだすギタリストと言ってしまうとかなりイメージが違うだろう。その複雑で静かな激しさと繊細さ等々…は、本当に彼独自のものだと思う。
このフェネスの新譜は、そんな音達がひっそりとしかし力強く溢れる、まさにアーティスト、フェネスの世界。
あのプレイ中の長身のたたずまい、愁い顔とよくマッチするなぁ……。(これは余談ですけどね……) 高橋幸宏

*コメントの無断転用を禁止します。


ついにクリスチャン・フェネス、2008年の『ブラック・シー』以来となるニュー・アルバム! フェネスの名を決定的なものにしたあのエポックメイキング作『エンドレス・サマー』(2001年)の流れを汲む、かつ同作をもしのぐあまりにも感動的な大傑作!!

HMV Tower
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FENNESZ 『Bécs』
フェネス/ベーチュ

¥2,500 + tax
14.04.28 in stores
解説付
日本盤のみのボーナス・トラック1曲収録

Tracklist:
1. Static Kings
2. The Liar
3. Liminality
4. Pallas Athene
5. Bécs
6. Sav
7. Paroles
8. Around The World*
*Bonus Track


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