「Nothing」と一致するもの

interview with Plastikman - ele-king


Plastikman
EX

Mute/トラフィック

MinimalTechno

Amazon iTunes

 プラスティックマンが11年ぶりに新作を出すのは、何かそうさせる機運が、彼を後押しする気配がこの時代に潜んでいるからだろう。それは本人の知るところではないかもしれない。が、カイル・ホールが俄然大きく見えることとも、ピンチがテクノを手がけることとも、V/Vmが『レイヴの死』などという、20年前も聴いた言葉を繰り返し新作の題名に使うこととも無関係ではないのだろう。
 僕はプラスティックマンが1993年当時、いかに革新的で、いかに衝撃的で、しかも、それがいかにバカ受けたしたのかを伝えなければならない。が、ラマダンマンを聴いている世代に“スパスティック”を聴かせても、普通に良い曲/使えるトラックぐらいにしか思わないようだ……(そうなのか? 高橋君?)。
 たしかに最初、ミニマル・テクノで重要だったのは、ジェフ・ミルズ、ベーシック・チャンネル、プラスティックマンの3人だったが、我々はこの20年ものあいだ、「繰り返し」の音楽がひとつのスタイルとして確立され、四方八方へと拡散していくさまを見てきているし、多くのミニマリストによるこのジャンルの多様性を見てきている。「繰り返し」はトランスさせるし、トランスしたがっている人はつねに少なくないことも知っている。
 1993年から1998年までのプラスティックマンはすごかった。新作の『EX』が11年ぶりのリリースになってしまうのも無理はない。彼はすでに多くのことをやってきているのだ。

2004年から2008年はミニマル・テクノの当たり年で、ハイプ・トレンドになった年だ。僕はハイプ・トレンドになる前からミニマル・テクノをやっていた。ハイプ・トレンドのあいだもずっとミニマル・テクノをやっていた。ハイプ・トレンドが去った後も、変わらずにミニマル・テクノをやっている。

ベルリンにお住まいですか? 

リッチー・ホウティン:いま現在の僕はイビザにいてね、イビザに居つつ、ベルリンで過ごしたり、世界中を旅したり……、こうなるとどこに住んでいるとは特定しにくい状況なんだ。
 ベルリンはずいぶん変わってきたけれど、それは街が大きく変貌していってるだけで、そこに住む人たちは何も変わっていない。いまでも刺激的だし、インスパイアされる。それは10年前と何も変わっていない。むしろ良くなっているとも言える。人が増えたからそれだけ面白い人も増えた。クラブも増えたしね。アンダーグラウンド系、スクワッド、バー、いろいろあって面白い。ベルリンはいまでも、世界でもっとも面白い都市のひとつだと思うよ。

プラスティックマンは、あなたにとってメインのプロジェクトです。1993年、初めて“Spastik”が出たときには相当な衝撃がありました。『Consumed』も当時としては挑戦的な作品でした。あらためてプラスティックマンというプロジェクトのコンセプトについて話してください。

RH:プラスティックマンのコンセプトはイコール、リッチー・ホーティンのコンセプトだと思う。新しいアイディアを積極的に実現していく。だけどそれは、いまの時代にはどんどん難しいものになってきている。音楽を作って25年、エレクトロニック・ミュージック・シーンでずっとやってきて、この長い年月のあいだにほとんどのことはやり尽くされた感がある。何か新しいもの、自分らしい個性を見つけて爆発させるって簡単なことではなくなった。
 プラスティックマンのプロジェクトを10年ぶりに復活させた理由のひとつはそこにある。ここ数年実感していたんだけれど、いま、シーンにある既存の音楽、たくさんの音楽が溢れてるなかで、プラスティックマンの音楽性とは、他の何とも同じではないと思った。だからみんなにもっと聴いて欲しい。衝撃的だと言われたファースト・アルバムから連続性のある発展を遂げてきたものだから、それを5枚〜6枚と聴いて欲しい。と同時に、僕自身のサウンドは他の人たちがやってることと比較しても個性的で遜色ないものだと自負してるし。

〈M_nus〉からシングルは出していましたが、アルバムというと、2003年の『Closer』以来の11年ぶりとなります。今回の作品を発表するに当たっての、いちばんのモチベーションは何だったのでしょう?

RH:モチベーションはたくさんあった。ここ数年のあいだ、新しくて良い音楽がたくさん世に出てきていると思う。そのなかでプラスティックマンのサウンドというのは、テクスチャーがユニークだと思うし空気感が独特だと思う。それをさらに発展させて新しいものを作っていきたいと思った。

2007年、あなたは〈M_nus〉から“Spastik”のリミックスをリリースしました。また、2010年には過去の楽曲を集めた『Kompilation』、CD9枚組のボックスセットしても『プラスティックマン ‎– Arkives 1993 - 2010』もリリースしています。プラスティックマン名義での大がかりなライヴ・ショウも試みています。あなた自身がプラスティックマンの本格的な再活動に着手するにいたった経緯を教えてください。

RH:それはライヴ・ショウをやるのと同じ理由、プロセスだと思うんだ。2008年、2009年、2010年と、僕にとっては音楽活動20周年ということでいろんな企画があった。新しいリスナーがたくさん流入してる実感があるんだよね。新しいリッチー・ホーティンのファンがたくさん増えてると思う。新しいファンはリッチー・ホーティンの歴史をあまり知らない人も多いし、僕がいままでやってきたプロジェクトを全部知っているわけではない。それらのストーリー、歴史、僕の音楽にまつわるさまざまな情報を知らせるためには、プラスティックマンのアーカイヴは有用だった。僕がいままでやってきた事を理解してもらうのにとても役立つと思ったんだ。
 2010年、2011年のライヴでプラスティックマンのアーカイヴをプレイしたのもそれが理由だった。それに僕にとっても、ずいぶん昔に具現化したアイディアを再訪するのはとても楽しい行為だった。エレクトロニック・ミュージック・シーンて変化の速度はとても速い。基本的に過去を振り返るのは好きじゃないし、いままでやったことを忘れてしまうときさえある。だけどそういう、自分でも忘れていたことをあらためて見てみると、それがいい刺激になったりもする。過去の再訪、そして過去からの継続。つまりアーカイヴ・プロジェクトは再始動の序章だよ。それをきっかけとしてニュー・アルバム『EX』に繋がっていったんだ。

近年では、UKのポスト・ダブステップのラマダンマンのように、90年代のプラスティックマンの再解釈が見受けられましたが、ご存じでしたか?

RH:いや、意識したことはない。ただ、プラスティックマンはさまざまなところに影響を与えてるとは思う。長年かけてやってきてるから。君もさっき言ってたように、初期の作品はとくに影響力が強かったと思う。でも僕自身は、音楽を作っていくことを楽しんでるだけだ。誰かに影響を与えたいとか与えようなんて思ってない。いつも考えてるのはプラスティックマンイコール、リッチー・ホーティンのサウンドになるようにってことだけ。

[[SplitPage]]

たしかに『Sheet One』にはユーモアがあって『Consumed』には暗さがあった。そして、今回のアルバム『EX』は表現力があると思う。演奏がより際立っていて、僕が10年ぶりにスタジオでプラスティックマンのサウンドを爆発させようと思った、その航海なんだ。


Plastikman
EX

Mute/トラフィック

MinimalTechno

Amazon iTunes

『EX』は、昨年11月の、NYのグッゲンハイムでのライヴになりますが、これは作品としてリリースすることを前提でやったのですか?

RH:そういうわけでもなかった。前回のショウのオファーがあったとき、当初は既発の作品でやって欲しいという前提だった。しかし、それではつまらないと僕は思った。だから新曲を書こうと思ってね。それで1回のショウに足りる分くらいの曲を書こうと思って書きはじめた。それがいい感じにフロウしてきたら、ライティング・プロセスもレコーディングも楽しくてね。終わってみたら、これはすごく良いと確信したんだよ。だからリリースすると決断するのは至極当たり前の流れだった。

何故、ライヴ録音という手段を選んだのでしょう?

RH:もともとプラスティックマンのレコーディングというのは、プラスティックマンのライヴ・レコーディングと同じプロセスだからね。ライヴで人前でライヴ・レコーディングをするにしても、スタジオでレコーディングするにしても、結局僕ひとりでレコーディングするわけだから。マシンはずっと動かしっ放しだった。ちょっとアレンジしたり、コンピュータを動かしたり……。グッゲンハイムでのライヴは、普段のレコーディング・プロセスとほとんど同じだったよ。

90年代、テクノはヨーロッパでは受け入れられていましたが、アメリカは最初ヨーロッパほどこの音楽に積極的ではありませんでした。今回のアルバムがNYでのライヴということ、フランク・ロイド・ライトの建築物であるというは、あなたにとってどんな意味があったのですか?

RH:これはとても重要なポイントだった。エレクトロニック・ミュージックの現在は、北米ではこれまでにないほどとても支持されている。ただ、いまでも、やはりアートのひとつとしては捉えられていない。それが音楽史の一部として考えると面白いところでもあるんだけど。
 君の言うように、初期のエレクトロニック・ミュージックは北米ではあまり受け入れられていなかった。最近のエレクトロニック・ミュージックは、ほぼEDMと受け取られている。グッゲンハイムをプラスティックマンで再訪するというのは北米のマーケットに、エレクトロニック・ミュージックはレイヴ・ミュージックだけではない、EDMやダブ・ステップだけでもない、アーティストがいてDJがいて、世界中にあるものだと、世のなかに溢れているんだというね。
 エレクトロニック・ミュージックはさまざまな場所に溢れてる。ホールで、車のなかで、レイヴで、パーティで……。それだけではない美術館とか、そういった施設のなかでも流れてるものだからね。

スタジオでは、どの程度の手を加えたのでしょうか?

RH:ポスト・プロダクションは多少やったね。イマイチ気に入らなかった曲は1曲削除したし、全体のフロウをよくするために曲をちょっと短めに編集したりとか、そういった調整はした。ただ、ライヴ体験となるべく同じ状態でリリースしたかったから、そこは念頭において作業をした。だからちょっとしたミスやヴォリュームの問題なんかは、敢えていじらなかった。それは人間らしい息づかいを感じる部分というか、単なる機械に囲まれてるんではないという部分だから。

今年のソナーでも大がかりなライヴをやられていますし、いまやプロジェクトには、照明やヴィジュアルなどの、何人かのアーティストが関わっています。プラスティックマンというプロジェクトは、いわばチームとして再編され、総合的なアート、大きなプロジェクトに発展しているのですか?

RH:音楽的にはプラスティックマンはイコール、リッチー・ホーティンであり、僕自身なんだけど、ライヴではチームで動いている。とても親密な関係性を構築しているよ。僕の友だちのアリー・デメロール、日本人のイタル・ヤスダ、僕たちは一緒にヴィジュアルを作っている。チームワークでのクリエイティヴ・プロセスだよ。
 それは他のアーティストがやっているやり方とは違う。他のアーティストはそこに人間関係があるわけではない、よく知らないアーティストにヴィジュアル作品だけ依頼して作ってもらう。そういうやり方ではいいものは生まれないと思う。だけど僕たちはチームだ。僕たちがやってるのはひとつの家のなかで、お互いにアイディアを共有して音楽とヴィジュアルが融合したときにパワーを持つような、そういうものを作っている。ライヴで観たときにそれが体感できる何かである、ひとつの体験になるようなそういう作品を作っている。

あなたはデジタル・テクノロジーを積極的に取り入れていることでも知られていますが、とくに今回試みた新しい技術があったら教えてください。

RH:今回はプラスティックマンとしては、初めて、100%デジタルで作ったアルバムだ。303などのデジタル・プラグ・インを使ってるんだけど、そうすることでもっと自由度が増したと思う。全体の空気感がいままでよりも良い。メロディもよりメロディックなものが作れるようになったし、サウンドもより深みのあるものが生まれた。以前よりも広がりが生まれたと思う。音と音の空間もより広がった。

Sheet One』(1993年)にはユーモアがありました。『Consumed』(1998年)には暗さが反映されていました。そして、『EX』は、ライヴ演奏であり、曲名をすべて“EX”ではじまる単語に統一していますね。この意図するところは?

RH:たしかに『Sheet One』にはユーモアがあって『Consumed』には暗さがあった。そして、今回のアルバム『EX』は表現力があると思う。演奏がより際立っていて、僕が10年ぶりにスタジオでプラスティックマンのサウンドを爆発させようと思った、その航海なんだ。初期の頃のサウンドを思い出しながら、新しい領域へと踏み込んだ、その実験が最初から最後まで詰まっている。最初の曲は『Sheet One』に入っていてもおかしくないような関連性を感じる。その一方で、最後の曲は新しい領域、メロディックな領域に足を踏み入れている。それが僕の冒険であり、『EX』が辿った道筋だ。

あなたが今回のプロジェクトをやる上で、大いに参考になったことがあったら教えてください。

RH:このアルバムの重要な要素となってるのは、グッゲンハイムという建築物の傑作だね。それとインスピレーションになったのは僕のベルリンの家の暗いリビング・ルームだ。ベルリンの暗い夜に、ひとりで、部屋に座って曲を作ろうと思ったことだ。

[[SplitPage]]

エレクトロニック・ミュージックの成功と熱狂的に支持された理由のひとつは、ここ10年くらいで考えると、デジタル・ディストリビューションとデジタルDJテクノロジーが先行した部分にもあると思う。デジタル・ディストリビューションはエレクトロニック・ミュージックを活性化するひとつのアドヴァンテージだと思っている。

あなたがいままで経験した他のアーティストのライヴのなかで、とくに印象に残っているものがあったら教えてください。

RH:最近は、あまり他のアーティストとコラボレーションしていない。あまり興味がないんだ。プラスティックマンとしてのライヴで良かったのは、1995年のグラストンベリーかな。プラスティックマンの新しいサウンドにみんなが熱狂し、大きなインスピレーションを与えた。それとソナーやグッゲンハイムも素晴らしかった。2〜3年前のモントリオールのミューテック・フェスティヴァルでのショウも印象に残っている。僕の誕生日で、地元カナダだったから、友だちがたくさん集まってくれた。

ここ数年、アシッド・ハウスやテクノの需要が上昇していると思いますが、あなたは時代性とか、シーンの変化ということにどこまで意識的なのでしょう?

RH:全然意識していない。音楽シーンはすごいスピードで変化し続けている。だから僕は、DJとして音楽をプレイし続ける限りは自分が好きなように冒険していければいいと思っている。自分でこれが良いと思うものをやればいいと思っている。それがたまたまトレンドとして盛り上がったらそれはいいかもしれない。だけどわざわざトレンドに乗る必要はない。

ミニマル・テクノのスタイルの音楽がポピュラーなものとなり、かれこれ20年以上も人びとに求められている理由は何だと考えますか?

RH:ミニマル・テクノはトレンドからどんどん遠ざかっていると思う。ただ、ミニマル・テクノ、ミニマル・ハウス、ミニマル・ミュージックは、ほどほどのバランスを保って人びとの注目をある程度集められるくらいの情報量があって、それで熱心に聴いてる人たちがある程度いるということだと思う。だけど、熱心に聴いてる人はそんなに多くはいないと思うよ。みんなが熱心に聴く、そのときにトレンドが起こる。みんなが熱心に聴いて口コミが広がり、話題に上って……そうしてトレンドの隆盛が繰り返されていく。しかし、音楽というのは、そこに愛があって作られる。音楽とは、そうあるべきだと思うんだ。そういう音楽が僕は好きだし、そういう音楽を僕は追っている。

ミニマルは、この10年で東欧にも広がっています。興味深いレーベルやアーティストがたくさん出てきていますよね。

RH:たしかに2004年から2008年はミニマル・テクノの当たり年というか、ハイプ・トレンドになった年だと思う。もうそういうトレンドがやってこないとは言わないけれど、それ以降の年はトレンドとは逆の方向にいったと思う。だけど僕はハイプ・トレンドになる前からミニマル・テクノをやっていた。ハイプ・トレンドのあいだもずっとミニマル・テクノをやっていたんだ。ハイプ・トレンドが去った後も、変わらずにミニマル・テクノをやっている(笑)。それでいいと思う。それが僕だから。自分の個性を見つめながら少、しずつその個性を発展させていけばそれでいいんだよ。
 東欧のシーンは、他の欧州のシーンと同じように変わり続けている。発展し続けてると思うけど、ロシア、ウクライナはとくにエレクトロニック・ミュージックが浸透していってる気がする。だけどピンポイントでは語れないな……もっと広い目で見ると、こっちでは浸透していきつつ、こっちでは廃れているみたいな、ひとつのスタイルがこっちで人気になっていると思うと、あっちではそのスタイルが廃れていくみたいな……。波と同じで、行ったり来たりだ。満ち潮もあれば引き潮もある。太陽と同じで、昇ったり沈んだりしている。だから結局、自分の道を進むしかない。自分の道を進んでいくなかで同じ道を、同じ場所を共有する人に出会う。それでいいと思う。

〈M_nus〉では積極的に新人(もしくはあまり知名度のない)アーティストを紹介されていますが、彼らはどのような基準で選ばれているのですか?

RH:僕にとって面白くてインスパイアされるアーティストで、この先成長するだろうアーティストを少しでも手助けできたらと思っている。探してるのは、自分の個性を大事にしている人たち。デリック・メイみたいなサウンドとかリッチー・ホーティンみたいなサウンドを目指すんではなくて、自分のサウンドを大事にしている人たち。
 だけど、そういう音を探すのは難しいんだ、誰だって最初は誰かの模倣からはじまるから。だけど、そこから試行錯誤して、自分のアイデンティティを見つける。そこからだね、僕の出番は。そういう人たちと接するとすごく刺激を受けるよ。

〈M_nus〉の最近のシングル作品に関して、ヴァイナルでのリリースがなくなっていますが、それはアナログをカットする魅力/必要性を感じなく なったからでしょうか?

RH:そういうわけではない。より多くの人に届くには、どうすればいいかと考えるとデジタルになる。デジタルの方がディストリビューションがしやすいし、デジタルならどこでもダウンロードできる。
 エレクトロニック・ミュージックの成功と熱狂的に支持された理由のひとつは、ここ10年くらいで考えると、デジタル・ディストリビューションとデジタルDJテクノロジーが先行した部分にもあると思う。アナログみたいにNYのレコード屋に行かないと買えないってものではなく、iTunesでも買える。デジタル・ディストリビューションはエレクトロニック・ミュージックを活性化するひとつのアドヴァンテージだと思っている。ヴァイナルはいまでも支持してるし、いまでもヴァイナルでプレイするのが好きなDJはたくさんいるから、今後もなるべくリリースしていくつもりだよ。だけどそれ「だけ」ってわけにはいかない。CDだけとか、デジタルだけとか、ヴァイナルだけとか。すべてを駆使して少しでも多くの人に届くように、そして少しでも多くの人に楽しんでもらえるようにというのが本来の目標なんだから。

日本でもライヴの予定はありますか?

RH:実は10月にRedbull Music Academyで来日予定なんだ。京都や東京でもライヴができたらいいなと思ってる。

現在あなたとDEADMAU5とのコラボレーションが噂されており、意外な組み合わせだと思う人が多いと思います。それは偶然意気投合したの か、それともあなたのなかで以前からアイデアとしてあったものなのでしょうか?

RH:ジョーは同郷のカナダ人だから、もともと交流もあったし、去年のSXSWでも一緒にDJした。楽しかったから、また一緒に何かやりたいねって話をしている。ふたりの違うタイプのカナダ人が一緒に何かやったら楽しいだろう。彼も忙しいし、僕も忙しいから実現できるのかどうかよくわからないけど。でも、意外な組み合わせに見える人脈を見せるプロジェクトは良いと思う。積極的にやっていきたい。

そういう意味ではEDMには肯定的なんですね。

RH:EDMは良いと思うよ。ここ数年、人びとがEDMに注目することで、エレクトロニック・ミュージックに興味を持つ人が増えているんだから。作り手として、僕たちはいつも新しいものをシーンに持ち込んで、新しい人たちに門戸を開いて、僕たちのシーンに、僕たちのスタイルに呼び込んでいる。EDMのアーティストは新しいエレクトロニック・ミュージック・ファンを呼び込んでいる。そして彼らがドアを開けたら、僕は彼らとは別のドアを開く。そういうことなんだろう。

ele-king presents VINYL FOREVER series vol.III - ele-king

 いつの間にか夏かよー。ラジオ体操の季節、ダンス・ミュージックの季節である。そして、夏が終わっても10月2日には恵比寿リキッドルーム10周年企画のエレナイトがあることは忘れないように。ALTZの追加出演も決まったし……
 10月2日、オウガ・ユー・アスホールと対決する森は生きているですが、エレキングの12インチ・シリーズ「VINYL FOREVER」の第三弾が、森は生きているの“ロンド”、DJ GONNOによるリミックスです。
 “ロンド”は、ライヴでもクライマックスで演奏される1曲で、森は生きているのもっとも美しい曲のひとつですが、クリックなしの演奏で録音しているそうで、つまり、リミックスの難易度としては高い曲でもあります。あの印象的な反復するアルペジオやドラミングをGONNOがどのように再構築するのか、大いに注目するところだと思います。
 ぜひ、その結果を聴いてください。ウルトラ・バレアリック・ハウスになっていると思います。また、“ロンド”のメンバー自らによるオルタネイト・ミックスも収録されています。発売日は10月8日と、だいぶ先の話ですが、覚えておいてくださいね。 

森は生きている/ロンド EP feat. Gonno

品番:EKLP-003
12インチアナログ 45rpm
¥1,500+税

Release: 10.8
初回完全限定生産

<トラック・リスト>
side A ロンド(Alternate Mix)
side B ロンド remix by Gonno

interview with Jim-E Stack - ele-king


Jim-E Stack
Tell Me I Belong

Innovative Leisure/ビート

HouseBass MusicFuture Jazz

Amazon iTunes

 ディスクロージャーのハウス・ミュージックへのアプローチは、ダブステップ以降におけるソウルの復権運動として、いま振り返っても重要なものだったのは間違いないが、いつまでもディスクロージャーを連呼するのも野暮な話で、というのも、ハウス・ミュージックはいまも若い感性によって更新され続けているからだ。サンフランシスコ出身の若者、ジムイー・スタックはまさにそんなひとり。引き出しの多さとクオリティの高さゆえに、新人ながら、すでに欧米の主要メディアからは讃辞をもって紹介されている。NguzunguzuやA$AP Rockyのリミックスによって彼の名前を憶えている人も少なくないだろう。

 デビュー・アルバム『テル・ミー・アイ・ビロング』はベース・ミュージック/グライム以降のセンスをもって、ハウス・ミュージックを刷新する。ボルチモアからジャズまでと、幅広く吸収する雑食性の強いダンス・ミュージックで、いや、ハウス・ミュージックとはいまも前進しているのだと思い知らされる。ベース系独特のリズム感が残る“ラン”や“アウト・オブ・マインド”、“リアシュアリング”のジャジーな和音とスムースなヴォーカル、“ウィズアウト”のアフロ・テイストの入ったシンセ・ポップなどなど、すべての曲がエレガントでありながら若々しい。

 以下のインタヴューでも、ダブステップ、ジャズ、ヒップホップ、アンビエント、R&Bなどさまざまなジャンル、さらには〈フェイド・トゥ・マインド〉、〈ウィディドイット〉コレクティヴ、フォー・テット、ジェイミーXX、オマー・Sなどの固有名詞が出てくる。そのいずれとも少しずつ重なりながら、少しずつズレている絶妙なはみ出し方がジムイー・スタックの面白いところなのだろう。「テル・ミー・アイ・ビロング」、俺の居場所を教えてくれ。しかしユニークな才能がそうした狭間から現れることを、わたしたちは何度も経験しているはずだ。

彼らは俺のアルバムにたくさんソウルが詰まっていることに気づいてくれていた。本心で言ったのかわからないけど、俺にとってはソウルが詰まってるっていうのは大切な意見だった。他にもスペシャルな意見はあったけど、俺にとってソウルこそ一番の意見だったんだ。

はじめてのインタヴューとなるので、基本的なことからいくつか訊かせてください。バイオを拝見しますと、なかなか複雑な経歴をお持ちですよね。いまのあなたの音楽を聴くと少し意外にも思えます。最初にやっていたというジャズ・バンドはどのようなスタイルの音楽だったんでしょうか?

ジムイー・スタック:いろんなバンドにいたから、ひとつのスタイルじゃなかったんだよね。メインだったのは学校のビッグ・バンド。だから主にやっていたのは、ビバップ。ソニー・ロリンズなんかをプレイしてたね。あとは……いまちょっと思い出せない。高校のときはスウィングっぽいのもやってたし、パット・メセニーとかもやってたな。彼は本当にクールなギタリストだと思う。あとは、ジャズ・コンボも数人でやってたよ。でもビッグなスウィングがやっぱりメイン。マイルス・デイヴィスもやってたな。

あなた自身はどのような楽器を演奏するんでしょうか?

ジムイー:ドラムとパーカッションだけ。俺がずっとプレイしてるのはそれだけ。ピアノも興味あったんだけど、すぐに諦めてしまって(笑)。

10代の頃からクラブ・ミュージックに触れてはいたんですか?

ジム:いまやっと触れ出したとこ。子どものころは、やっぱり自分の周りの人間が聴いてる音楽を聴く。だから高校の時に聴いていたクラブ・ミュージックは、アメリカで当時流行ってたものだったね。ボルチモア・クラブ( ボルチモア・ビート)もたくさんあったな。あとはグライムとかダブステップ。当時流行った基本的なアメリカのクラブ・ミュージックだね。

通訳:あまりクラブ・ミュージックには関心はなかった?

ジムイー:全然だね。前はあまりエレクトロニック・ミュージックに関心がなかったから。でも15歳くらいに初めてダフト・パンクを聴いて、それがエレクトロニック・ミュージックにハマるスターティング・ポイントだったんだ。若いときはジャスティスとかマスタークラフトとかあの辺りを聴いてたね。そこからティーンが聴くレコードよりも深いものを探して聴くようになったんだ。

ヒップホップはどうでしょう? とくに好きだったタイプのヒップホップというとどんなものだったのですか?

ジムイー:ヒップホップは……場合によるんだよね。ハマったりハマらなかったり。若いときはみんなが聴くようなヒップホップを聴いてた。ランDMCとかそういうヒップホップ。そこからギャングスタ・ラップとかDJプレミアとかを聴くようになっていったかな。Jディラとかエリカ・バドゥも聴いてたし、あとはベイエリアのラップ/ヒップホップもたくさん聴いてたね。キーク・ダ・スニークとか。でも、そういうのは楽しいパーティ・ミュージックで、自分が音楽的に直接影響を受けたわけじゃない。10代のやつらがパーティでかける音楽、ローカル・ラッパーってだけだよ。

[[SplitPage]]

俺のフラストレーションは、クラブのために音楽を作ってる感があったことだった。DJがプレイしやすいようなイントロとか、ダンスフロアのための音楽。でも、俺はジャズ・バンドの経験もあるし、パンク・バンドでもプレイしてたし、アフリカン・ミュージックやエイフェックス・ツインなんかも聴いてた。

〈フェイド・トゥ・マインド〉のキングダムに強いインスピレーションを受けたそうですが、彼の音楽のどんなところが新鮮だったのでしょうか?

ジムイー:彼のDJプレイを最初に見に行ったとき、俺はまだエレクトロニック・ミュージックのリスナーとしてかなりの新人だったんだ。ディプロとかスウィッチ、シンデンとかを聴いてた。でもキングダムは……彼はそういうミュージシャンたちとは少し変わってたんだ。そこがインスピレーションだった。
 彼からめちゃくちゃインスピレーションを受けたかと聞かれると、それは正直わからない。でもとにかく、彼のDJセットを見たときにすごくびっくりしたんだ。新しい世界が開けた気がした。UKガレージ、グライム、ヤング・マニー、90年代のハウスとかのミックスだったんだけど、俺にとってはそれがクールだった。エレクトロニック・ミュージックのシーンでは、いったいいくつのジャンルが入り交じってるんだろうっていう驚きがあった。ハウスだけじゃなくて、R&Bやヒップホップ、グライムにもなりうるんだなっていうことがわかった。もちろんハウスでもあるし、とにかくすべてのミクスチャーがエレクトロニック・ミュージックなんだな、と。彼自身が俺に多大な影響を与えたかといえばそうじゃない。でも、彼のDJセットを見た経験っていうのが俺の最初のダンス・ミュージックの経験で、目を見開いたってこと。エレクトロニック・ミュージックってクールなんだ! と実感した(笑)。

ングズングズのリミックスであなたは話題になりましたが、彼らのような〈フェイド・トゥ・マインド〉周辺のアーティストやシーンにはいまもシンパシーを抱いていますか?

ジムイー:どうだろう。親密ってわけじゃないんだよね。たまに会うって感じ。ングズングズとか、トータル・フリーダムとか、キングダムとか……その3人がメインかな。でもシンパシーとかはわからない。評価しているのは、彼らの音楽の「ほかとズレてる」ところ。彼らとか〈ナイト・スラッグス〉とか。〈フェイド・トゥ・マインド〉がはじまる前からだけど、自分がはじめてハマったそういう「ズレた」音楽を演奏するアーティストたちが好きなんだ。音楽的にシンパシーを抱いてるかとか、何か共通するものがあるかとかはあまり重要じゃない。彼らはもっとクラブ寄りで、俺のはクラブから離れてるしね。でも彼らのやっていることは評価してるし、最初は本当に衝撃的だった。すごくハマったし。ングズングズはとくに。彼の最初のEPとかね。

〈ウィディドイット〉コレクティヴ(LA拠点のプロデューサー集団)とは親交があるそうですが、シュローモやライアン・ヘムズワースといったトラック・メイカーとあなた自身の共通点はあると思いますか?

ジムイー:シュローモには、自分のアルバムを書きはじめたときにすごくインスパイアされた。
 ニューヨークに引っ越してきたばかりのときは、アルバム用の音楽のプランやネタは何もなかった。すごく大変だったんだ。いろいろやってみないといけなかったから。でも、彼はすでにファースト・アルバムをリリースしていて、一歩先を行っていた。だから彼は、自分よりも経験のあるプロデューサーだった。彼は俺の哲学を変えた存在。「最初の音源を作るときはファンがいるわけでもないし、シーンにも属していないし、DJのことも気にしなくていいし、何も期待がかかっていない。だから自由なんだ。自分のしたいことをやれ」と言ってくれたのが彼。自分自身に正直な音楽を作れと言ってくれた。だから俺はそれを実行した。いまではそれは俺の哲学になってる。彼は、音楽制作に関する俺の考え方を変えてくれた人物なんだ。ライアンは特徴的なヴァイブを持ってるよね。でも音楽的に何か通じるものがあるかどうかはわからない。でも、聴く音楽は同じものが多いと思う。友だちでもあるし、彼のことは好きだよ。

拠点を西海岸からニューヨークに移した大きな理由は何だったんでしょう?

ジムイー:西海岸とニューヨークの間にニューオリンズがあるんだけど、サンフランシスコで高校を卒業してからすぐ、大学進学のためにニューオリンズに引っ越したんだ。そこで音楽プログラムを専攻してた。でも、技術とかプロダクション、エンジニアよりも演奏がしたくなって。ニューオリンズを自分のホームだと思えたことがなかったんだよね。あとは、音楽を勉強するっていうのがイヤだったんだ。自分で好きなようにいろいろやるほうがよかった。そっちのほうが自由だし。クラスを受講するのはあまり刺激的ではなくて。で、結局学校が嫌いになっちゃって(苦笑)、ニューヨークに運良く友だちや家族がいたし、そのあと何していいかもわからなかったから引っ越したんだ。

通訳:学校を退学したんですか?

ジムイー:退学っていうか転校だね。4年間のプログラムのうちの2年をニューオリンズで勉強して、ニューヨークのハンターカレッジに転校したんだ。いまは学校にパートタイムで行きながら活動してるよ。いまだにいろいろ模索中(笑)。

リリース元の〈イノヴェイティヴ・レジャー〉はライをヒットさせたりと最近話題が多いレーベルですが、あなたがサインした最大の理由は?

ジムイー:アルバムを書いたあと何人かに聴いてもらって、ひとからひとに渡って、そのなかで何人か興味を持ってくれたんだ。でも、〈イノヴェイティヴ・レジャー〉はいつも俺と組むことに興味を持ってくれていた。彼らと話したとき、彼らは俺のアルバムにたくさんソウルが詰まっていることに気づいてくれていたんだ。彼らが本心で言ったのかわからないけど、俺にとってはソウルが詰まってるっていうのは大切な意見だった。他にもたくさんスペシャルな意見はあったけど、俺にとってソウルっていう部分は個人的に一番の意見だった。だから、俺を理解してくれてるなと思ったんだよね。
 レーベルのアーティストはあまり知らなかったけど……ノサッジ・シングくらいしか。それよりも、彼らが俺の音楽を評価してくれたってことにぐっときて、そこからレーベルを知るようになったんだ。しかも彼らはアーティストを大切にするレーベル。ビジネスの仕方もうまいけど、アーティストを気にかけて、アーティストがハッピーかどうかを考えてくれるんだ。それは俺にとってすごく大切なこと。あと、彼らは結構年配なのにかなりの幅広い音楽ファンで、俺が興味を持ってるような音楽もすべて知ってるんだ。彼らはジャズも聴くし、DJプレミアやアフリカン・ミュージックも聴く。だから共通点もあるんだ。エレクトロニック・ミュージックだけを聴くとかだったら難しかったかもしれないけど。俺は、自分の音楽をエレクトロニック・ミュージックにしたいんじゃなくて音楽にしたいから。より広がりのある音楽を作ろうとしてるんだ。

では、アルバム『テル・ミー・アイ・ビロング』について訊かせてください。デビュー作離れした、じつに完成度の高いアルバムであると同時に、とてもフレッシュな作品だと感じました。非常にさまざまな要素があなたの音楽では共存しているように思います。いわゆるベース・ミュージックやテクノ、ハウス、アンビエント、ヒップホップにジャズ。はじめからこのような多くのジャンルをまたぐ作品をイメージしていたのでしょうか?

ジムイー::答えはイエスでもありノーでもある。アルバムには10曲くらいしか入ってないけど、25~30曲くらい書いた。で、そこからより良いものを選んで削ぎ取っていった。最初にシュローモに会ったときに、好きなものを作れって話をしてくれたって言ったよね? 当時、俺はレコード契約もなかったし、導いてくれるひともいなかった。それが逆によかった。自由だったから、ただ自然と頭に浮かんでくるものを曲にして、ダーっと30曲書いた。ヒップホップだったり、ボルチモア・クラブっぽいものだったり、ハウスだったり。いろいろと違うものをとにかく作ってみたんだ。自分がしっくりくるものを。
 でも、もちろんアルバムにするときはそこから意識して曲を選ぶ必要があった。そのときに意識したのは……アルバムをリリースする前の俺のフラストレーションは、クラブのために音楽を作ってる感があったことだった。個人的にはあまり自由を感じることが出来てなかったんだ。特定のものを作らないといけなかったからね。DJがプレイしやすいようなイントロとか、ダンスフロアのための音楽。でも、俺はジャズ・バンドの経験もあるし、パンク・バンドでもプレイしてたし、アフリカン・ミュージックやエイフェックス・ツインなんかも聴いてたから、ひとつの種類の音楽を作るっていうことに対してあまり良い気分がしなかった。だから、アルバムでは自分のもっと広い音楽テイストと愛を表現したくて、そういう音楽をまとめたんだ。

しかしなかでも、ハウス・ミュージックの要素が前に出ているように思います。あなたにとっての良いハウスとはどういったものでしょう? 

ジムイー:良いハウスには、すごく自由なヴァイブがある。ただただ聴いていて気持ちいいだけ。頭だけじゃなくて身体を動かしたくなるような良いヴァイブがある。脈がうずくような。だから、俺にとっての良いハウスは、ハードだけど落ち着いたヴァイブやグルーヴがあるもの。音楽のなかで迷いこんでしまうような。そういうのは大好きだね。歩いているときにステップを踏んでしまいそうな、フィーリングやヴァイブがビートの周りに漂ってる。アップリフティングなハウスか、ディープなハウスかは関係ない。その周りにどんなヴァイブが漂っているかが重要なんだ。

通訳:好きなハウス・ミュージックのアーティストはいますか?

ジムイー:誰だろうな……何聴いてるかちょっとチェックさせて……いま俺がハマってるのはヘッド・ハイ。知ってるかな? 彼の作品には昔のハウスのグルーヴがたくさん入ってる。ガレージっぽいグルーヴとか、トッド・テリーなどと似たグルーヴを持ってて、それを2014年の感覚とミックスしてるんだ。彼は最近のお気に入りだね。ヘッド・ハイの作品には本当にハードなグルーヴがある。俺、そういうのが好きなんだ。
 昔ので言えばロビンS。彼女がパーフェクトなハウス・アンセムへの愛を見せてくれたといっても過言じゃない。すごく感情的で、フィーリングが溢れてる。90年代のハウスって世界中の音楽のなかでも好きなものが多いんだよね。バウンスやヴァイブがあって、さっきも言ったみたいに迷い込めるような。あとはラズロ・ダンスホール。彼らも似たことをやってるから。

[[SplitPage]]

EDMはクソだ。できるだけ簡単に曲を作っている。何にも挑戦してないティーンのなかで作り上げられている新しいロック・スターみたいな存在がEDMのアーティストなんじゃない(笑)?

あなたの音楽のなかのハウス・ミュージックの要素は、どちらかと言うとイギリスやヨーロッパのアーティストとの接点があるようにもわたしには感じられます。たとえばフォー・テットやジェイミーXXなどヨーロッパのプロデューサーがハウス回帰していますが、彼らにシンパシーは感じますか?


Jim-E Stack
Tell Me I Belong

Innovative Leisure/ビート

HouseBass MusicFuture Jazz

Amazon iTunes

ジムイー:フォー・テットは不動のお気に入り。俺のサウンドに、ちょっとヨーロッパっぽさがあるのかもしれないね。クソみたいなハウスは全部アメリカで作られてるから(笑)。そういう音楽は作りたくないからね。やかましいゴミみたいな音楽。俺はそういうのが嫌いでたまらないんだ。ヨーロピアンに聴こえるっていうのはたぶんヴァイブだと思う。EDMとかはクソ。そういう意味ではフォー・テットにはシンパシーは感じるよ。
 ジェイミーXXも好きだよ。最近の作品はそこまでだけど。いくつかの作品はリスペクトしてるし、良い作品を作ってると思う。でも俺にとって大切なのは……俺はアメリカン・アーティストになりたいんだ。フォー・テットとかジェイミーみたいなヨーロピアンになろうとしてるわけじゃない。彼らがやってることは好きだけど、アメリカン・サウンドを作りたいとは思っている。アメリカの音楽を良い方向に前進させたいんだよね。クソEDMから抜け出させないと。

この作品はリスニングとしても楽しめる作品であり、同時にダンス・ミュージックとしてのパワフルです。あなたにとって、ダンス・ミュージックであることは重要ですか?

ジムイー:全然。偶然そうなったんだ。音楽を作りはじめた最初のころは、クラブ用の曲をたくさん作ってた。クラブ・ミュージックを聴いてもいたしね。だからアルバムにそういう音楽も含まれてはいるけど、そういうアルバムにしようとしたわけじゃない。今回は、ダンスフロアを意識せずに自由に音楽を作りたかった。アルバムを作ってるときは、ただ自分が作りたい音楽を作ってたんだ。何か特別なものを作りたかったわけじゃないし、ダンス・ミュージックみたいにしたいとか、したくないとかはなかった。プロセスは本当に自然だった。それがたまたまダンサブルになっただけ。ダンス・ミュージックとクラブ・ミュージックのいくつかは、自分が世界で一番好きな音楽のひとつでもある。良い作品はね。カリズマとかオマー・Sとか。だから、それが自然と反映されたんだろうね。

通訳:さっきEDMが嫌いとおっしゃってましたが、EDMに関してはどういう意見を持っていますか?

ジム:新しいサブ・ポップ・ジャンルみたいな……できるだけ簡単に曲を作ってるって感じ。リスナーのためだろうけど、何にも挑戦してないし、やりがいがない。キッズたちからデカいリアクションが来るには来るだろうけど……俺はそういうことは絶対にしないから。キッズたちも、そのうちそういう簡単な音楽以上なものを求めるようになるんじゃないかな。もっとやりがいがあったり、ソウルを感じられる音楽。ティーンのなかで作り上げられている新しいロック・スターみたいな存在がEDMのアーティストなんじゃない(笑)?

アルバムの制作にあたって、はじめからコンセプトやテーマはあったのでしょうか?

ジム:いや、なかったね。俺はただ、自然に出てくるものを作品にしただけだから。自分のために作ったし、そのときがたまたま自分のなかの変な時期だったっていうか……どこにも属してなくて、ちょっと迷ってた時期だった。だから、それが自然と表現のなかに出て来たんじゃないかな。でも意識はしていない。アルバムに収録されている曲は、すべてナチュラルなフィーリングで出来てるから。もしかしたら、それが知らないうちにテーマになったのかも。個人的に自分がいた立ち位置というか、自分自身のそのときの姿というか。

そういう意味で、『テル・ミー・アイ・ビロング』というアルバム・タイトル、オープニングの“サムホェア”という曲名が象徴的ですね。

ジム:アルバムを作っていた時期は、なんか外にいた感じがしてて。変な感じ。どこにも属していなかったんだ。周りの友だちはすでにサンフランシスコを出てたから自分もサンフランシスコを出て、で、ニューオリンズに行ってみてもあまりしっくりこなくて、ニューヨークもクレイジーな場所だから完全にホームだとは感じられない。それが曲に表れたんだと思う。俺が何を感じてたかが反映されたんだろうね。
 いま思うと、曲名にもそれが表れてる。高校のとき使ってたサンプルも使われてたりするし、それをニューオリンズでもまた違うヴァージョンに作り変えたり、ニューヨークでも作り直したりってしてたから。属していないとか、落ち着いてない感はたしかに含まれているのかも。

“イズ・イット・ミー”はミニマルで研ぎ澄まされたダンス・トラックですが、これもタイトルが印象的です。クラブ・ミュージックの曲名としては珍しい気がするというか。どうしてこのような、アイデンティティを問うような曲名にしたのでしょうか?

ジムイー:自分でもあまりわからないんだ。ときには2年間とか決まった期間の自分が表れている曲もあるし、昔の自分が表れている曲もあるし……答えはわからない。作ってるときによるんだよね。作ってるときは、自分の感じてることとか自分自身の姿がメインになって表れてくるから。

アルバムには様々なスタイルのトラックがありますが、なかでも“ウィズアウト”はちょっとアフロっぽいムードもあってとくに印象の異なる曲ですね。これはどういったインスピレーションから生まれたトラックなのでしょうか?

ジムイー:自分が作ったビートからはじまった曲。それをだんだん曲にしていった。作っていくうちにインストっぽく感じられなくなって、ヴォーカルを前面に持ってくることに決めた。アンドレア・マーティンが歌ってるんだけど、彼女は素晴らしいR&Bライターなんだ。彼女はエン・ヴォーグとかSWV、トニー・ブラクストンなんかに曲を書いてる。自分より年上で40歳くらいなんだけど、俺の作るような音楽も理解している素晴らしいライターなんだ。R&Bはつねに聴いてるし、彼女は本物の実力あるR&Bライター。だから彼女とコラボできて本当によかったよ。メロディの上から彼女が歌って自分に送ってきたものを、アレンジし直していまのヴァージョンの曲にしたんだ。

アートワークの覆面はあなた自身を表現しているのでしょうか? あるいは違う人物?

ジムイー:あれは俺(笑)。ニューヨークに引っ越してきたときに、パーティに行って気絶するくらいめちゃくちゃ酔ってたんだけど(笑)、その会場にフォトグラファーがいて、あの写真を撮ってくれた。で、アルバム用の写真をどうしようか考えていたとき、これがいいんじゃないかなと思って。わざわざ撮影したものじゃないし、素の自分の写真だったから、何かアルバムの音楽に共通するものがあるような気がして。気に入ってくれるといいけど(笑)。

いま、ミュージシャンとしてもっともトライしたいことを教えてください。

ジムイー:ミュージシャンって、ひとりで作業をする時間が必要だと思うんだ。たとえばジャズのセッションだって、みんないっしょに演奏する前にかなりの時間を個人練習に費やしてる。今回のアルバム作りを終えて、自分ひとりでかなりの時間作業するっていう経験を積めたと思うんだ。これからももちろんそうしていくし、曲も作り続けていくけど、その経験を経たことで、今後ほかのミュージシャンとコラボしていきたいなとも思ってる。俺はもともとバンドで演奏してきたから、そういう音楽もやっぱりやってみたいんだよね。それがいまトライしたいことだな。

dj sniff - ele-king

 オランダの電子音楽研究所STEIMは、ミシャ・メンゲルベルクやディック・ライマーカスら錚々たる顔ぶれによって電子楽器の開発施設として1969年に創設され、自主運営という形態をとりながらワークショップやライヴ・イベント、アーティストの住み込みでの創作活動の支援なども行う、実験的な音楽に携わる人々をつなぐ類稀な場所である。dj sniffはこの歴史ある研究所において長らくアーティスティック・ディレクターの任に就き、国際的な電子音楽祭を手がけるとともに、他方ではクリスチャン・マークレーに連なるターンテーブル奏者としても活動を続け、これまでに3枚のソロ名義のアルバムを世に送り出している。現在は香港に居を構えて活動する彼による新たなアルバムが、一部異なる楽曲が収録されたCDとレコードの両媒体で、〈ダウトミュージック〉からリリースされた。『dj sniff、ダウトミュージックを斬る。』という刺激的な題が冠された本作品は、どの音楽のどの部分を切り出そうともその作者の同一性へと回収されてしまうような強烈な個性を湛えているとも言える〈ダウトミュージック〉の過去作品に対して、dj sniffの緻密な解体/再構築の作業が冴えわたるものとなっている。

 それは素材を即物的に捉える透徹した眼差しから生まれているように思われる。たとえば“クチセサイザー”という楽曲。声に付随する多様なノイズを用いたヴォイス・パフォーマンスで知られる巻上公一の音楽がここでは素材となっている。dj sniffはまず、唇が開くときに出る音や舌を使ったクチュクチュいう音、吐息に伴う唸り声といったノイズの側面が強い素材を、非常に短い断片として取り出している。もともと物質的な音の響きを有するとはいえ、その特異なありようは巻上に固有のものである。しかしそうした素材を彼はつぎに、短いスパンで執拗に反復するような演奏で提示することによって、もはや人間が発した響きとは思えぬような音の肌理細やかさを際立たせるようにしている。そこへさらに声色にも似たシンセサイザーを被せることによって、声と声ならざるものが縺れ合うように鳴り響く。ここにはまるで巻上公一の姿は何もないかのようにみえる。だが特筆すべきは楽曲の前半にリップノイズを散りばめ、後半に声音が入った素材を持ってくることによって、聴き手がそれを人間の声ではなく、はじめから反復される音響として認識してしまうような仕掛けを施している点である。だから楽曲の終結部にあらわれる一度きりの歌声は、完全に巻上公一のものでありながら、構築された響きの終着点としても機能している。いわば素材の強度を保ちつつ、新たな音楽の創造にも成功しているのである。

 他の楽曲においても上で記したような態度を見出すことができる。それは素材とする音楽の固有性に敬意を表しながらも、同時に音具として扱うことによって創造の源泉とするような態度である。広い意味での楽器=発音体という音楽の根本とも言えるものから思考をはじめようとするSTEIMにも通じるそれから生み出された音楽によって聴き手の前に立ち現れるのは、だから強度をもった素材を自由に操るdj sniffの身振りである。その意味では〈ダウトミュージック〉を見事に切り刻み、このレーベルの前作で垣間見えた変化が決定的なかたちをもってあらわされていると言える。しかしながら全トラックに楽曲名が付され、完結した作品として提示されているCDに対して、レコードには素材となっている音のパターンも収められており、この音盤自体が斬られる対象としてレーベルのカタログに加わったことを宣言するような性格のものとなっている。音楽の生成の終わりなき連鎖は、レコードB面の最後のトラック、大友良英のギター・フィードバックが半永久的に再生可能なものとなっていることからも示唆されていよう。採算を度外視して、〈ダウトミュージック〉初の試みとなるレコード・リリースに踏み切ったことの意味を、なんとか汲み取りたいものである。

イマユラ - ele-king

ギターを持った幸田露伴、山本精一。
名著『ギンガ』『ゆん』に続く待ちに待った最新作、『イマユラ』遂に刊行! !

本作では異才を放つイラストも多く掲載。音楽や日常日々の洞察/ 観察力は、最早超人級、アルバムとの深い連動も皆無なのは山本精一ならでは?
音楽、絵画、写真、骨董、そして極めつけは文章! 特殊な才気で衝撃度もMAX!

『文學界』(文藝春秋社)に掲載されたエッセイ「兼好法師—不気味な怜悧さ」は日本文藝家協会の『ベストエッセイ2014』に選出された。

『エレキング』『DU』等での連載エッセイから芥川直木も蹴散らす摩訶不思議な小説まで、2014年レコ屋さんが選ぶイチオシ本。

ギンガ - ele-king

奇才山本精一、衝撃の初エッセイ集『ギンガ』の復刻版!
世界的な評価を得ている大阪のオルタナティヴ・ユニット、ボアダムスに中心メンバーとして1986年 - 2002年まで在籍。現在は、日本の人力トランス・バンドのパイオニアROVO、Phewとのミニマル・パンク・バンドMOST、ムーンライダースの岡田徹とのポップユニットYA-TO-Iなど、多くのユニットでおもに作曲、編曲を担当。ソロ作も高い評価と支持を受ける一方、文筆家としてもすでにゆるぎない存在感を放つ異形のアーティストによる初エッセイ集『ギンガ』が復刻。

イマユラ - ele-king

 ギターを持った幸田露伴、山本精一の名著『ギンガ』『ゆん』に続く待ちに待った最新作『イマユラ』が今週末ついにリリースとなる。紙『ele-king』の好評コラム連載でも、192ページの本誌に毎号深い切れ目のような痕を残していくあの異様の筆にふるえてしまうという方は少なくないだろう。『イマユラ』には、その連載「ナポレオン通信」からも収録されている。
 それにしても、本当に水際立った文体によってつづられた随筆で、音読すればたちまち韻文的な相貌もせりあがってくる。読みふけってふと我に返れば、自分のからだが沼とも谷ともいえる深淵のきわに立っているような錯覚にとらわれるだろう。この夏休みには、高校生の方だってこっそりと手をのばしてみてほしい。本書から音楽家・山本精一に出会うのも、音楽から文筆家・山本精一に出会うのも、どちらも素晴らしい体験だ。

 また、このタイミングで長らく品切れだった第一著書『ギンガ』の復刻版が再度蘇る。これは2009年に新たに32ページを加えて刊行された『ギンガ 増強版』と同内容だ。さらには、2011年の『ラプソディア』以来2年半ぶりとなるオリジナル・フル・アルバム『Falsetto』も完成。こちらも見逃せないリリースとなっている。

山本精一
イマユラ


発売:2014年7月23日
ISBN 978-4-907276-15-7
定価:本体2,000円+税

Tower HMV Amazon

山本精一
ギンガ 増強版


発売:2014年7月23日
ISBN 978-4-907276-16-4
定価:本体1,800円+税

Tower HMV Amazon

山本精一
ファルセット


発売:2014年7月23日
PCD-25167
定価:¥2,500+税

Tower HMV Amazon



 70年代生まれの私たちにとって、女子小学生の遊びといえば、リカちゃん人形をはじめとする着せ替え人形が定番でした。しかし現代の女児たちは、着せ替え遊びにあまり関心がなさそうです。長女が4~5歳の頃に夫からリカちゃん人形を買い与えられたとき、高いドレスをねだられないようにあわてて古着をリメイクしてリアルクローズな人形服をこしらえ、今後のリクエストに応えるべく裁縫材料を購入したものです。しかし彼女がリカちゃんで遊んだのはほんの一時期。落書きされた哀れなリカちゃんは、ビニールケースの中に無造作に突っ込まれたままです。

「もう着せ替え人形では遊ばないの?」
「友だち誰も遊んでないしー。みんな『アイカツ!』とかゲームとかのほうが好きだしー」

 たしかに娯楽が山ほどある現代において、服を着せたり脱がせたりするだけの遊びは退屈にちがいありません。というか、自分自身もなんでそんな退屈な作業をしていたのか、よくわからなくなってきました。狭い家で地味なお下がりを着るしかなかった当時の庶民女児の一人として、リカちゃんになにがしかの夢を託していたのでしょうか。一方、リカちゃんのドレスとさして変わらない値段でひらひらワンピースを買ってもらえるファストファッション時代の現代女児は、わざわざ着せ替え人形で夢を見る必要はなさそうです。事実、リカちゃん人形の売上は、ピーク時に比べて半分以下に下がっていると聞きました(ITmediaニュース)。

 そんな我が家に、なぜかやってきたのが、「起業家バービー」と「大統領バービー」。


左が「起業家バービー」、右が「大統領バービー」

私が「仕事つらい……」と愚痴っていたら、夫が「起業すれば?」と誕生日プレゼントとして注文してくれたのです。

  「起業家バービー(Entrepreneur Barbie)」は、今年6月にマテル社から発売された、バービーがいろいろな職業に挑戦する「Barbie I Can Be…」シリーズの最新作。髪色と肌の色が異なる4種類のラインナップで、アクセサリー小物はスマホにタブレット端末、ブリーフケースと、「おうちサロン」レベルではなさそうな本格的なキャリアウーマン風です。

 「Barbie I Can Be…」シリーズではこのほか、コンピュータ・エンジニア、歯科医、獣医、パイロット、ライフガード、レーサー、サッカー選手、スキー選手、女子アナ、北極レスキュー隊などに扮したバービーが発売されています。「大統領バービー」(U.S.A. President Barbie)もその一つ。ガチャピンにひけをとらないチャレンジぶりですが、同シリーズに限らずバービーの職業人としての歴史は意外にも長く、1960年代の時点で宇宙飛行士、会社役員、地理教師に、1970年代にはダウンヒル・スキーヤー、外科医にもなっています。フェミニズムがカルト思想扱いされている日本に住んでいる身からすると、うらやましいほどのポリティカルコレクトネス。

 そんなバービーですが、本国ではときに厳しいバッシングにさらされてきたのも事実。いわく、バービーで遊んでいた少女ほど、自分の身体イメージに自信が持てず、小学生の頃からダイエットに励む傾向にある。人種偏見を助長する。ジェンダーに対する固定的なイメージを植え付ける。「ご心配なくお母さんお父さん。バービーで遊んでもあなたの娘さんは拒食症になったり人種差別をしたり生涯年収が減ったりはしませんよ」──そんな保護者へのメッセージが、起業家バービーには込められていそうです。起業家バービーの発売に合わせて、公式サイトで実在の女性起業家10名をフィーチャーするBarbie Celebrates Women Entrepreneurs特設ページを設けているのも、フェミニズムを標準装備している保護者へのアピールの一つなのでしょう。またバービーオフィシャルのTumblr「THE BARBIE PROJECT」でも、少女手作りのバービーハウスやお手製メキシコ民族風衣装などのクリエイティヴな遊びの数々が紹介され、娘の知的発達を阻害したくない親心をくすぐってくれます。

 ところが、今年3月にオレゴン州立大学の研究者らが発表した調査は、こうした試みに水を差すようなものでした。バービーで遊ぶ女の子は、男の子よりも将来の職業の選択肢を少なくとらえており、それは従来のバービーで遊ぶ子もお医者さんバービーで遊ぶ子も変わらなかったそうです。職業の選択肢の数が男の子と変わらなかった女の子は、『トイ・ストーリー』のミセス・ポテトヘッドで遊んでいたグループだけ。


Amazon

ジェンダーフリーを推進する
じゃがいも「ミセス・ポテトヘッド」

 女子がセクシーであるべしという価値観を内面化してしまうと、必然的に職業の選択肢が減ってしまうということなのでしょうか。ごつくなったり忙しすぎて髭が生えそうな仕事は避けたいでしょうし……。それでも、建前ではあってもコンピュータ・エンジニアが女の子の職業として提示される環境は、率直に言ってうらやましいなと感じています。私は子どもの頃プログラミングや数学が大好きでしたが、女の自分がそれらを活かした道に進めるなんて夢にも思いませんでした。ロールモデルの代わりに与えられたのは、「女がそんなことに興味を持っても何にもならないのに」という、やはり性別ゆえに大学進学を諦めざるをえなかった母親の複雑そうな顔だけ。大人になってみて、女向けとされる仕事は若さや容姿が必須でキャリアを積みづらい職も少なくないことを実感しました。このことが男女間の格差を生んでいる一因であるようにも思われます。ロールモデル、超重要。

 ともあれ、バービーを一目見た長女は、執拗にねだりはじめました。

「リカちゃんでぜんぜん遊んでないじゃない。バービーならいいの?」
「バービーは背が高くてかっこいいからいいの。化粧が濃いのはちょっとイヤだけど。リカちゃんは……かわいい系かな」
「ピンクはもう嫌いになったって言ってなかったっけ。この人たち、どピンクですけど」
「(パステル)ピンクは子どもっぽいもん。でもこのピンクはかっこいいと思う」

 そういえばバービーたちのチェリーピンク×黒の取り合わせ、長女の最近のファッションに似ています。黒ジャージ下にチェリーピンクのトップスという、私からすると不思議なコーディネートは、「強そう」という理由でお気に入りらしい。

 彼女は2体のバービーを両手に持ち、着せ替えはせず(そもそも着替えは付いていないのですが)それぞれの声をアテレコしてごっこ遊びをはじめました。完全に起業家と大統領になりきっています。すごい、ロールモデルになっている。私は子どもの頃、リカちゃんをロールモデルとしてとらえたことはありませんでした。正直、どんな人なのかすらよくわかっていなかったのです。しかしリカちゃんだって時代に合わせた展開をしているはず。調べてみると……


リカちゃん
おしゃべりスマートハウス
ゆったりさん

Amazon

 リカちゃんハウスがスマートハウスになっていました。そっち方面に進化していたのか。小物類も、洗濯乾燥機、ルンバ風のロボット掃除機、電動自動車と、最新家電事情を反映しています。しかしこれ、女児は喜ぶのでしょうか。電動自転車で双子の送り迎えもラクラク! 太陽光発電なら電気代もオトクだし、洗濯乾燥機とルンバがあれば夫が非協力的でもどうにかなるワ~って、それ家事育児と仕事を一人で担うお母さんの願望なのでは? よくよくスマートハウスの商品写真を見てみると、台所でお菓子作りをしているお母さん&リカちゃんに、ダイニング・テーブルで新聞を読んでいるお父さんと、家は最新型でもジェンダー観は昭和のままです。写真まんがでは、リカちゃんのドジっ子ぶりも昭和風。あらたにおともだちに加わったキャラの将来の夢は、「ヘアスタイリスト」「トップモデル」「アイドル」「トリマー」「へアメイクアップアーティスト」と、ファッション系で占められています。夢に何を選ぼうが自由とはいえ、偏りすぎというか、リアル女児の夢ももう少しばらけているように思います。これでは起業家リカちゃんや大統領リカちゃんはもちろん、SEリカちゃんも地方議員リカちゃんも生まれそうにありません。家電をきわめてカツマーリカちゃんになれば、意識高いバービー勢に対抗できるかもしれませんが……。

 とはいえ、かの小保方さんがなぜあの論文とあのノートであの地位まで上り詰めたのか、と考えたときに、6歳児ですら嫌がるパステルピンクを積極的に取り入れ、昭和のドジっ子のような実験ノートの取り方をし、理詰めではなくうるうるの瞳で訴えるといった「リカちゃん好きの女児のまま大人になった感」が、大きく介在しているであろうことを思わずにはいられないのです。エライおじさんたちの判断力を奪うほどのピュアな女児力(プリンセス細胞!)。科学の世界だから問題になっただけで、文化系業界や実業界ならあのまま成功し続けただろう、とも感じます。日本の女の子が好きな道で成功するには、リカちゃんをロールモデルにするのが結果正解なのかも。そんなことをぐるぐる考えていたら、ごっこ遊び継続中の娘からこんな声が。

「私ね、29歳で大統領って言ったけど……あれはウソなの」
「実は私も、社長じゃないの」

 虚言癖バービーになっていました。まあそうですよね。身の回りに女性社長も、女性大統領もいないもの。『OECDジェンダー白書――今こそ男女格差解消に向けた取り組みを!』によれば、日本は子育てをしながら働く女性の、男性との給与格差が先進国で最大(男性の39%)なのだそうです。残業ができないために出産前までの職種に戻ることが難しく、パートタイム派遣に就いている私も、格差を構成する母たちの一人。そんな日本の母たちの姿を見ている女児が、人形だけでアメリカンドリームを抱けるはずもなく。やっぱり自分が起業するしかない……のかも。

Arne Deforce & Mika Vainio - ele-king

 現在活動休止中というフィンランドのテクノイズ・ユニット、パン・ソニック。彼らはテクノというコンテクストに、ノイズ/ミュージックを導入した偉大な先駆者である。

 そのパン・ソニックの(元?)メンバー、ミカ・ヴァイニオとイルポ・ヴァイネサンが、ほぼ同時期にノイズ/ドローン・アルバムをリリースした。ミカ・ヴァイニオはチェロ奏者アルネ・デフォルスとのコラボレーション・アルバム『ヘーパイストス』、イルポ・ヴァイネサンはディルク・ドレッセルハウス(シュナイダーTM)とのユニット、エンジェルの新作『テラ・ヌル.』を発表したのだ(両者ともレーベルは〈エディションズ・メゴ〉)。
 もっともふたりがソロ・ワークでドローン/ノイズ的なサウンドを聴かせるのは以前からのこと。特にミカはパン・ソニック的なビートとは違う非反復的なリズムをソロ作品で展開してきたのだからとくに目新しいことではない。だが、この2作品を聴き比べていくことで、ふたりのアーティストの個性があらためて浮き彫りにもなる。
 それほどまでにこの2作品は対照的だ。まず、『ヘーパイストス』において、ミカ・ヴァイニオはアルネ・デフォルスとのふたりだけで音を生成している。対してイルポ・ヴァイネサンのエンジェルは、ディルク・ドレッセルハウスとのユニットであるが、複数の音楽家がゲスト参加をしており、彼らとの共闘によって録音されたものである。
 さらには、ミカはソロ・別名義・コラボレーションと旺盛なソロ活動を展開しているが、イルポは寡作だ。エンジェルとしても2011年『26000』以来、約3年ぶりの新作リリースというのも対照的ともいえよう。
 
 それぞれの作品を検討してみよう。まず、ミカ・ヴァイニオとアルネ・デフォルスのアルバムは、チェロと電子音の極めて物質的な交錯による音響作品だ。チェロ奏者アルネ・デフォルスはヤニス・クセナキスやモートン・フェルドマンの難曲も弾きこなし、フランスの現代音楽・古楽レーベル〈イーオン〉からアルバムもリリースしている名演奏家だ。もはや「出せない音はない」とまでいわれている人である。
 『ヘーパイストス』においても、アルネはミカの繰り出す強烈な電気ノイズに真っ向から対峙し、弦が芯から震えるような強烈な音響=ノイズを鳴らしている。それはチェロという楽器の極限への挑戦のようである。さらにその轟音の狭間に不意にチェロ特有の繊細な美音をたおやかに奏でもするのだ。
そしてミカの発する電気ノイズも、アルネが鳴らす弦のハードコア・サウンドに呼応するように、マテリアルな電気雑音を放出していく。まさに電気と弦の物質的恍惚。ちなみに「ヘーパイストス」とは炎と鍛冶の神ということだが、炎をアルネ、鍛冶をミカと置き換えることも可能かも知れない。
 また、本作に通低するリズムは、ミカのほかのソロと同じく非反復的な感覚が濃厚だ。二人の音はぶつかりあい、衝突し、そこから新たな音が生まれていく。その意味で、本作は、ここ数年のミカ・ヴァイニオ作品の中でも、もっともハードコアな音響作品といえよう。ミカは現代音楽と電子音響以降のノイズ・ミュージックの融合/交錯に成功している。

 では、イルポ・ヴァイネサンとディルク・ドレッセルハウスによるエンジェルはどうか。このユニットも基本的にはノイズ/ドローンな音響を聴かせてくれる。とはいえ、2002年のファースト・アルバム『エンジェル』(〈ビップーホップ〉)にもディルクのギターはフィーチャーされており、2006年の『イン・トランスメディアーレ』(2005年にクラブ・トランスメディアーレでの録音)でも、チェロ奏者・作曲家ヒルドゥル・グズナドッティルをコラボレーターに迎えていることからもわかるように、そもそもこのユニットは活動当初から電子・電気ノイズと生楽器の融合を目的として活動していたといえる。〈エディションズ・メゴ〉より2008年にリリースされた『カルムイク』でも、ヒルドゥル・グズナドッティルはアルバム全編を通して演奏し圧倒的な存在感を示している。前作『26000』(2011)にもヒルドゥルは参加しており、もはや準メンバーといっていいほどだ(ちなみにこの『26000』には、BJ・ニルセンがエレクトロニクス、オーレン・アンバーチがギターで参加!)。
 そして最新作『テラ・ヌル.』においては、ヒルドゥル・グズナドッティルに加え、ミカとの競演経験もあるアルゼンチン出身のベテラン・インプロヴァイザー、ルチオ・カペーチェがソプラノ・サックスやクラリネットなどで参加しているのだ。なんという豪華さ。

 そんな『テラ・ヌル.』は、ディルク・ドレッセルハウスのどこか寂しげなギターからはじまる。やがて電子ノイズが絡まり、4者は音楽/音響を行き来しながら、ノイズ/ドローンの洪水を生み出していく。彼らは本作を「ダーウィン的な進化のドローン」と語っているようだが、ある種の生命の進化のように、互いに呼応しながら生成と淘汰を繰り返し、ある必然性を持って音響が生まれているように思える。とても演奏的なドローンだと思った。

 端的にいって、同じように楽器を導入したドローン/ノイズ作品でも、ミカ(たち)の作品は、マテリアル/マシニックな音響であり、対してイルポ(たち)のサウンドは、より音楽的な反復を聴きとることができるのだ。いわば「演奏」を感じるのである。そう、ふたつに分裂したパン・ソニックは、ドローン/ノイズという共通項を持ちつつも、非反復と反復、音響と音楽、放出と演奏、テクスチャアルとコンセプチュアルという両極でサウンドを発生しているといえる。

 まるでプラスとマイナスのように対極/対照的な音を生み出すミカとイルポの現在。その音は、90年代から現在の音響シーンを貫く貴重な存在である。ゆえにわれわれパン・ソニック・マニアは、いまも彼らの動向から目が離せないのだ。

あいつ呼ぼうぜ! - ele-king

 Aliveというサービスをご存じだろうか?

 立ち上がってまだ1年にも満たないというが、テレビや経済系のメディアなどでも紹介されているので、ご存知のかたもいらっしゃるかもしれない。
 Aliveとはいわば新しいスタイルの“呼び屋”システムだ。一般のユーザーから呼びたいアーティストのリクエストを受け、その実現が可能なレベルまで“支援”が集まれば、ライヴが開催される。“支援”とはチケット予約のこと。もちろん企画が実現されない場合は決済は行われない。イメージとしては、ライヴ・イヴェント限定のクラウドファンディング・プラットフォームといったところだろうか。

 しかし、ユーザーがリクエストと“支援”を行うだけ、という最小限の手間によって、効率的にニーズを集約できるのはすごい。まだサービス開始から数か月という短い期間でありながら、モントリオールのドリーム・ポップ・デュオ、ブルー・ハワイをはじめとして、シューゲイジンな人気ガレージ・バンド、クロコダイルズやUKのサマー・キャンプ、クラムス・カジノらと比較される年若きプロデューサーXXYYXXなど、さまざまなアーティストの招聘が現実化している。「自分は大好きなんだけど、こんなマイナーな人たちの来日なんて無理だよなあ……」というようなアーティストの顔をだれでもひとりやふたり思い当たるだろうが、Aliveにリクエストしてみれば、この広い世の中、同じように酔狂な人間が意外な数存在しているという幸福な事実にぶつかるかもしれない。

 ともあれ、公式サイトに飛べば詳しい説明や絶賛支援募集中のアーティストを見ることができる。もちろん諸事情あるだろうから、リクエストがただちに支援募集企画として立ち上がるわけではないが、投稿欄にはインディ・アーティストを中心にジャスティン・ティンバーレイクなどまでが上がっていておもしろい。ついつい発想がインディにかたよってしまったが、超ビッグネームが意外な抜け穴を通って来日することだってあり得るよね。

詳しくはこちら!
Aliveサイト:https://www.alive.mu/


  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972