「Nothing」と一致するもの

夏の! ele-king booksフェア - ele-king

 いつもele-king booksをご愛顧いただきましてありがとうございます! 今週よりタワーレコードさんにて「ele-king books フェア」がはじまります。刊行点数もいつのまにか30冊に届こうかというele-king booksシリーズ、夏休暇にぜひ1冊お手に取ってみてください。お買い上げいただいた方には「ele-king ロゴ入りボールペン」をプレゼント! 赤と緑のうち緑がレアらしいとの噂ですよ。
 好評のディスクガイド「ディフィニティヴ・シリーズ」をはじめ、コラムも絶好調のブレイディみかこさんや、粉川哲夫さんと三田格さんの往復書簡本(隠れ名作!)、めでたく重版となりました磯部涼さん×九龍ジョーさんの音楽対談、リリース・ラッシュの佐々木敦さんのジョン・ケージ本などなど、車中やフライト、あるいはベッドルームのひとときを音楽旅行に変えてくれる本をたくさんご紹介いたします。

タワーレコード フェア詳細ページ
https://sale.towerrecords.jp/article/campaign/2014/08/06/01

タワーレコード×ele-king
夏の! ele-king booksフェア


*特典がなくなり次第、キャンペーン終了となりますのでお早めに!
対象商品をお買い上げでele-king ロゴ入り特製ボールペンをプレゼント!(先着)

■開催期間:
8/6( 水)~ 9/19( 金)

■対象店舗:
タワーオンライン、新宿店、渋谷店、横浜ビブレ店
名古屋近鉄パッセ店、梅田マルビル店、難波店、静岡店

■対象作品:
ISBN 9784906700356 河村要助 / 河村要助の真実
ISBN 9784906700622 三田格+野田努 / TECHNO definitive 1963 - 2013
ISBN 9784906700707 二木信 / しくじるなよ、ルーディー
ISBN 9784906700639 湯浅学 / アナログ・ミステリー・ツアー
ISBN 9784906700738 粉川哲夫+三田格 / 無縁のメディア
ISBN 9784907276010 巻紗葉 / 街のものがたり
ISBN 9784907276034 三田格 / AMBIENT definitive 1958-2013
ISBN 9784907276041 ビル・ドラモンド / 45
ISBN 9784907276065 ブレイディみかこ / アナキズム・イン・ザ・UK
ISBN 9784907276072 久保憲司 / loaded
ISBN 9784907276096 西村公輝+三田格 / HOUSE definitive 1974-2014
ISBN 9784907276119 磯部涼+九龍ジョー / 遊びつかれた朝に
ISBN 9784907276133 佐々木敦 /「 4 分33 秒」論
ISBN 9784907276171 小柳カヲル / クラウトロック大全
ISBN 9784907276164 山本精一 / ギンガ
ISBN 9784907276157 山本精一 / イマユラ
ISBN 9784907276188 萩原健太 / ボブ・ディランは何を歌ってきたのか
ISBN 9784944124442 ele-king vol.1
ISBN 9784944124466 ele-king vol.2
ISBN 9784944124497 ele-king vol.3
ISBN 9784944124503 ele-king vol.4
ISBN 9784906700295 ele-king vol.5
ISBN 9784906700417 ele-king Vol.6
ISBN 9784906700585 ele-king vol.7
ISBN 9784906700691 ele-king vol.8
ISBN 9784907276003 ele-king vol.9
ISBN 9784907276027 ele-king vol.10
ISBN 9784907276058 ele-king vol.11
ISBN 9784907276089 ele-king vol.12
ISBN 9784907276126 ele-king vol.13


Traxman - ele-king

 やっぱ、いいね~、このルーピング、このサンプリング、そしてこのグルーヴ。シカゴ・ハウスだわ~。
 週末に来日DJを披露するトラックスマンだが、インタヴューで彼自身が喋っているように、彼はCorky Strongという名義でハウス・プロジェクトも手がけている。今回の来日会場で、アルバムを先行発売することになった。タイトルは、シンプルに『Corky Srrong Show Vol.1』。ブラック・ミュージックの光沢をビシビシと感じます。
 週末は、ちょっと涼しくなるかもしれないし、どうせこの暑さでは頭がまわらないし、ジュークで爆発しましょうね。それがいいす。

SOMETHINN 6 - DA MIND OF TRAXMAN VOL.2 RELEASE TOUR -

■8.8 (FRI) @ Circus Osaka
OPEN / START 22:00 -
ADV ¥2,500 / Door ¥3,000
*別途1ドリンク代500円

Guest:
Traxman (Planet Mu / Lit City / Dance Mania / GETO DJ'Z / TEKLIFE / TEK DJ'Z)

DJs:
Kihira Naoki (Social Infection)
D.J.Fulltono (Booty Tune / SLIDE)
Metome
Keita Kawakami (Kool Switch Works)
DjKaoru Nakano
Hiroki Yamamura aka HRΔNY (Future Nova)

More Info: https://circus-osaka.com/events/traxman-release-tour/

TRAXMAN JAPAN TOUR 2014

■8.9 (SAT) @ Unit & Saloon Tokyo
OPEN / START 23:00 -
ADV ¥3,000 *150人限定 / Door ¥3,500

DJs:
Traxman (Planet Mu / Lit City / Dance Mania / GETO DJ'Z / TEKLIFE / TEK DJ'Z)

DJ Quietstorm
D.J.Fulltono (Booty Tune)
D.J.April (Booty Tune)

Live Acts:
CRZKNY
Technoman

Saloon:
JUKE 夏の甲子園 <日本全JUKE連> 開催!

DJs:
D.J.Kuroki Kouichi (Booty Tune, Tokyo)
Kent Alexander (PPP/Paislery Parks, Kanagawa)
naaaaaoooo (KOKLIFE, Fukuoka)

Live Acts:
Boogie Mann(Shinkaron, Tokyo)
Rap Brains (Tokyo)
隼人6号 (Booty Tune, Shizuoka)
Skip Club Orchestra (Dubriminal Bounce, Hiroshima)
Subsjorgren (Booty Tune, God Land)

More Info:
https://www.unit-tokyo.com/schedule/2014/08/09/140809_traxman.php 


ボブ・ディランとは何者なのか、彼は何を歌ってきたのか、いったい何がすごいのか
50年以上にもおよぶ活動の歩みをディスコグラフィ形式で綴る、渾身の書き下ろし!

すべての「ボブ・ディラン本」へのアンサー。約50枚におよぶディスコグラフィを丹念にたどった、著者自身が代表作と語るボブ・ディラン論の決定版。

萩原健太の『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』は、1962年のデビュー・アルバム『ボブ・ディラン』から2012年の『テンペスト』までの、約50枚にもおよぶディスコグラフィーであり、萩原健太によるボブ・ディラン論でもある。長年、ディランを研究し続けてきた著者の、作品ごとの詳細な解説をしながら「現在」までのディランを丹念に描いた、渾身の書き下ろしだ。60年代の黄金期を繰り返すことなく、なおも「現役」であり続ける巨匠の姿がいま、はっきりと立ち上がる。

Sleaford Mods - ele-king

 スリーフォード・モッズのサウンドとヴォーカルを形容するたとえにスーサイド、ザ・フォール、ジョン・クーパー・クラーク、ジョン・ライドン、ポール・ウェラー、ザ・ストリーツなどが挙げられることが多いが、ここにアナーコ・パンクの雄=クラスのヴォーカリスト、スティーヴ・イグノラントも加えたい。そして、金太郎飴状態の簡素なリズムとベースライン、味つけ程度のエレクトロニクスが(逆に)暴力的なまでの空虚さを伴ってスタコラひた走るさまは、その方法論のみを拡大解釈し、パブで飲んだくれて四方八方にくだを巻く、暴徒化したヤング・マーブル・ジャイアンツと言ってもいいかもしれない。そう、つまり、ひどく悪意があり、ひどく滑稽なのである(彼らの直近2作品が、ザ・ニュー・ブロッケーダーズ、スメグマ、ラムレーらをリリースするUKの〈ハービンジャー・サウンド〉からリリースされていることからも、その特異さを察してもらえるだろう)。さらにつけ加えると、性急に言葉を詰めこみ、ツバを飛ばしまくりながら攻撃的にがなり立てるヴォーカルなんて(アルバム中の1/3は「ファック!」や「シット!」やらの悪態で満たされている)喉にタンがからまろうがおかまいなし、突然「おいっ! ダンカンっ!」とか叫びはじめても違和感がなかったりして、だんだんそのくぐもった声のアジテーションがビートたけしに聞こえてきたりするから笑える。

 ふてぶてしい反骨精神とその語感だけでやけに士気を煽る英国なまりを武器に、とことん鋭利なぼやきを担当するジェイソン・ウィリアムソン(ヴォーカル/ラップ/スポークンワード)。そして、機材(主にパソコン)の再生ボタンを押し、その後はアルコール片手にふらふらと所在なさげに踊っているだけのアンドリュー・ファーン(ビート/ベースライン)によるこのスリーフォード・モッズ。2006年よりノッティンガムを拠点に活動を始め、じつは最初のリリースから7年は経っているというからなかなかのベテランである。そんな地に足が着いているはずのおっさん2人が打ち鳴らすローファイ・エレクトロ・ヒップホップ・パンク。40越えたおっさん2人が、考える前にやってしまうささくれ立ったパンクの刹那と、永遠に完成形に到達しないまま進行するポストパンクの焦燥を携え、ベッドルームからストリートに飛び出して、酔いどれて、おぼつかない足取りながらも無骨に、そして正確に、クソまみれの日常に対してアイロニーを塗りこめたカウンターパンチを打ち込む。こいつがじわじわ効いてじつに小気味よい。

 彼らの単純明快にして誰にもマネできない「ミニマルぼやき芸」が確立した前作『オースタリティ・ドッグス』から1年。せっぱ詰まって袋小路から抜け出せずにいる「壊れた英国」において、市井の力強い支持だけでなく、いまやお高くとまったお偉方連中のスノビズムまでもくすぐる存在となりつつあるスリーフォード・モッズ(しかし、日本での反応はいまいち。これはザ・フォールの英国流皮肉と諧謔が日本では理解されにくく、知名度のわりにそれほど聴かれていない状況と似ているのかも)。だけど、彼らは攻撃の手をゆるめない。本作1曲め“エア・コンディショニング”〜“”タイド・アップ・イン・ノッツ”では過剰にディストートされて振りきれたベースラインと、マーク・E・スミスからインテリジェンスを抜いたようなジェイソンのぼやきが、いつになく力強い煽動力をもってあたりを挑発する。そして、スポークン・ワードのキレ味もネチこい巻き舌ももちろん良好なのだが、アンドリューが仕込んだトラックの勢いと厚み、立体感が幾分増していて(ミニマムなベースラインがマキシマムにかっこいい!)、これまで少し気になっていたサウンドののっぺり感もまったくなし。もうこれは愉快! 痛快! イントロでゲップをかます“ア・リトル・ディティ”、世の中すべてをおちょくるように、ビートの上に「バウ! ワウ!」とコーギーの吠え声をかぶせる“コーギー”、まるでミック・ジョーンズのギターが入っていないザ・クラッシュのような“ティスワズ”、(サー!)ポール・スミスを揶揄する“スミシー”、怒りのテンションが頂点に達する“ミドル・メン”など、手法は極めてシンプルながらもヴァリエーションに富んだミニマル・パンクが連続し、その畳み掛け、その心意気にイントロだけでふつふつと闘争心を駆り立てられる。

 かつて、1977年に「英国の見る夢に/未来なんてない」と絶叫したジョン・ライドン。しかし、26年後、MOSTを率いるPhew(彼女はオリジナル・パンクをロンドンでリアルタイムに体験している)が“パンク魂2003”のなかで叫んだように「NO FUTUREなんて嘘っぱち/未来はいやでも必ずやってくる」のだ。この突き放すのではなく、突きつけられる未来(現実)の重たさよ……。でも、しかし、末期症状を迎えた「英国の夢」の成れの果てに、インダストリアルでもダーク・アンビエントでもなく、かろうじでロックのフォーマットを維持した生活の臭いがするエレクトロ・パンクが現れ、ベッドルームとストリートの垣根を越えてどなり散らすさまに希望を感じずにはいられない。
 この偉大なるゴミ溜めモッズ野郎たちにミッドライフ・クライシス(中年の危機)なんて関係ない。この怒れる中年たちは、呼吸のタイミングを忘れるほどに全速力で造反し、怒りをこめてふり返る。過去のスローガンなんてもういらない。「Only trust over 40」——わたしは40歳以上だけを信じる!

 やれやれ、編集部に怪文書が届いてしまった。
 薄気味悪くもどこかやんちゃな頼もしさをのぞかせるこの謎文体の声明文(……告知……なのか?)を、仕方がないから全文掲載いたしましょう! 四の五のいわずにパーティに来い、盤を買え、俺たちのパーティは最高だと、つまりはそういうことが書かれているようだ。先日はついに七尾旅人まで登場し、「最高のパーティのかたち」を模索して展開をつづけているジューク・パーティ〈SHIN-JUKE〉、今秋には同イヴェントのコンピレーション・アルバムもリリースされるようだ。大人とメディアが褒めるのを彼らはいやがるだろうから、ちやほやは致しません! テニヲハは直しておいてやったぜ。

 RAW LIFEの熱狂から何年経つのだろうか。

 目つきの悪い細身の男は言った。
「ついに俺たちに挑戦権が回ってきたわけだ。派手に暴れてやろうぜ」

 恰幅のいい金髪の男は言った。
「いまの東京のバンドなんて100組中100組はクソだ」

 同じく恰幅のいいモジャ毛の男は言った。
「ライヴハウスは全部エントランス・フリー/チャージ・フリーにすればいい」

 目つきの悪い男がつけ加える。
「自作のゴリラステップというダンスを見てくれ」

──彼らこそは、今秋リリースされる、ある刺激的なオムニバス・アルバムの監修者である。

 恰幅のいい金髪の男は、新宿ロフトの副店主・望月慎之輔。
──東京のJUKE/BASSシーンを牽引するパーティー〈SHIN-JUKE〉を主催。

 恰幅のいいモジャ毛の男は、〈音楽前夜社〉主宰・スガナミユウ。
──新宿〈ロフト〉にて行っている完全無料のフリー・パーティー〈歌舞伎町Forever Free!!!〉の首謀者。

 そして目つきの悪い細身の男は、Have a nice day! のリーダー・浅見北斗。
──オルタナティヴとHIP HOP・BASSミュージックをつなぐ〈SCUM PARK〉というオルタナティヴ・パーティを主催。

 先達へのコンプレックスなんて捨てて、俺たちのモッシュピットの中に真実を見つけようぜ。そう誓い合った3人は、さるレコード・レーベルに話を持ちかけた。

 このコンピレーションには、ビッグネームも大金も、大人たちによる思惑は何も収められていないけれど、LIVE SCENE・CLUB SCENE・NET CULTUREの、まさに東京のいまの空気が閉じ込められている。

 いいパーティーの条件って何だろう?
話題のアーティストが出ていること? 人がいっぱい入っていること? ドリンクがいっぱい出ていること?
 ――そのどれもが正しいようで、本質は別にある。話題のアーティストがいなかろうが、人が入っていなかろうが、最高のパーティってあるよ。
 ヴェルヴェッツの初期のライヴには人が入らなかったみたいだけど、その場に居合わせた客のほとんどが音楽をはじめたというように、記録として残らないだけで、多くの歴史は毎夜いろんな場所で生まれている。
 最高にスカムでトラッシー、その一瞬のために駆ける星のごとく輝きを放ちながら、表舞台にいっさい出ることなく活動を終えるアーティストを俺たちは知っている。パーティの最中はいつだって夢中で、あとになってあの日は特別だったんだと気づかされることばかりだ。

 FRESH EVIL DEAD、
 新鮮な死霊のはらわた。
 新しい血を巡らそう、俺たちは生まれ変わった新鮮なゾンビラーさ。

 目つきの悪い細身の男は今日も言う、
「ついに挑戦権が回ってきたわけだ。俺たちのパーティーをはじめようぜ」



NATURE DANGER GANG、SOCCERBOY、§✝§(サス)などを収録した「テン年代の新しいミュージックシーン・パーティーのいま」を捉えるオムニバス、『FRESH EVIL DEAD』が9/17に発売。8/3には七尾旅人を迎えSHIN-JUKEを開催!

■アルバム情報

V.A.
『FRESH EVIL DEAD』
2014年9月17日発売
全21曲/2000円(税抜)
P-VINE RECORDS
PCD-20345

トラックリスト
1. Laugh Song (Laugh Gorge Laugh Song by Takaakirah Ishii with Gorge Clooney) / Fat Fox Fanclub

2. Legacy Horns (JINNIKUMAN JUKE EDIT) by Nature Danger Gang / DJ Torch

3. Dentapride / §✝§

4. super sale out (double price hihgtension remix) / mirrorball inferno

5. 聖リY音ND愛FEEる/ MMEEGG!!!

6. It's Hot to See Your Face / GORO GOLO

7. Sunctuary / RAP BRAINS

8. Dive to The Bass (remix) feat. Y.I.M & Have a Nice Day! / Gnyonpix

9. BIG BOOTY BITCH / NATURE DANGER GANG

10. J.E.F.F. / Harley&Quin

11. skit

12. わんにゃんパーク / チミドロ

13. CASCADE (pro.poivre) / ALchinBond

14. Message in a Battle (DJ MAYAKU Remix) / SOCCERBOY

15. Kill Me Tonight Remix (Feat. EQ Why) / Have A Nice Day!

16. Burning Up / Ascalypso & MC RyN (Glocal Pussys)

17. Big Hip (Dubb Parade mix) / Fat Fox Fanclub

18. 干す取り込む / Y.I.M

19. フォーエバーヤング / Have A Nice Day!

20. SUMMER HITS Boogie Mann Remix / GORO GOLO

21. outro


■LIVE情報

2014年8月25日(月)
『歌舞伎町Forever Free!!!』
新宿LOFT
19:00-24:00
完全無料!!!!!

Have a nice day!
GORO GOLO
NATURE DANGER GANG
脳性麻痺号
GLOCAL PUSSYS
Y.I.M
BOOL
D.J.APRIL
DJ ののの


Bob Dylan's Songs - ele-king

 なぜ、なぜボブ・ディランなのか。
 ジェイク・バグが登場したとき、彼は「公営団地のボブ・ディラン」という言葉で賞賛された。UKのメディアにとって、「ボブ・ディラン」とは最高の褒め言葉だ。ジョン・レノンでもエルヴィス・プレスリーでもなくボブ・ディラン……あるいは、ときにサンプリング・ネタを「revisited」という言葉で表すのも、“追憶のハイウェイ61”の原題から来ているのだろうし……
 僕は、UKの音楽に関する本を読んでいた。ラフトレードを創設したジェフ・トラヴィスのエピソードが描かれていた。彼は高校時代、クラスメートが夢中になっているのはせいぜいドノヴァンで、自分のように『ジョン・ウェズリー・ハーディング』を聴いているような人は他にいなかったと言う。なかば自慢げな回想だ。
 そして、思春期に『ジョン・ウェズリー・ハーディング』に夢中になった感性が、やがてザ・スミスというバンドを見いだすわけだから、ブレイディみかこがモリッシーの新作を聴いて「ボブ・ディラン」という言葉を用いるのは的を得ている。
 
 2012年には『テンペスト』があり、昨年は湯浅学の『ボブ・ディラン――ロックの精霊』があった。ルー・リードは「ボブ・ディランに次いでロック文化に歌詞マニアを生んだ人」と言われている。松村正人はボブ・ディランの来日ライヴに行った。木津毅は、こともあろうかOPNの来日ライヴ中にコーエン兄弟の新作について大声で話してきた。誰かが振り向いて話に加わった。
 そもそも、ボブ・ディランは何が偉いのか? ボブ・ディランとは何なのか? ボブ・ディランは何を歌ってきたのか? つまり、ボブ・ディランとの長年の格闘の末に萩原健太が見たモノとは何なのか? 以上の設問のひとつにでも興味のある人は、8月6日発売の『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』のページをめくること。重苦しい時代に、しかし、重苦しさだけに目を奪われないためにも。
 
 予定のページ数よりも大幅に増えてしまった。本書の「メイキング〜」に関しては、場所をあらためて三田格が話すかもしれない。とにかく、『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』は、萩原健太、渾身の力作だ。ボブ・ディランを聴く人のガイドラインであり、また、「アメリカ音楽」が日本でどのように享受されてきたのか、どのように愛されてきたのかという物語でもある。そして、僕としては、ディラン的な「自由」をいまいちど噛みしめたい。ちなみに、表紙のイラストは、カタコトのドラゴン。(野田)

萩原健太
1956年2月10日生まれ。音楽評論家。1978年3月 早稲田大学法学部卒業。同年4月 早川書房入社。1981年6月 早川書房退社。その後フリーとして活躍。 執筆活動、TV出演などを通じて音楽評論を行なう。 他、音楽プロデュースも手がける。著作に『はっぴいえんど伝説』(シンコー・ミュージック)、『ポップス・イン・ジャパン』(新潮社)等がある。

ボブ・ディランは何を歌ってきたのか
978-4-907276-18-8
四六判 384ページ
本体1,800円+税

Amazon

■8月はボブ・ディラン月間!
 8月27日にはソニーミュージックジャパンインターナショナルより、ボブ・ディランの全43作品をリニューアル復刻していくプロジェクト“ディラン究極の「神」ジャケ復刻プロジェクト”の第3弾として80 年代に発表された9タイトルがリリース!

詳細はこちら
https://www.sonymusic.co.jp/Music/International/
Special/bobdylan/140326/sono2/


interview with Traxman - ele-king


Traxman
Da Mind Of Traxman Vol.2

Planet Mu/Melting Bot

FootworkJukeGhetto

Amazon iTunes

 本当に暑い。夏の真っ直中だ。少しでも身体が動けば汗が噴き出る。え? フットワークだと? 
 人生に「たら」「れば」はないが、自分がいま20歳ぐらいだったら「シカゴのフットワーク以外に何を聴けばいい!?」ぐらいのことを言っていただろう。そして、DJラシャドが逝去したとき、本気でシーンの行く末を案じたに違いない。DJラシャドは、衝動的とも言えるこの音楽に多様な作品性を与えた重要なひとりだった。
 DJラシャドの他界の前には、シカゴ・ハウスのパイオニア、フランキー・ナックルズの悲報もあった。シカゴはふたりの大物を失った。
 で、しばらくするとトラックスマンの『Da Mind Of Traxman Vol.2』がリリースされた。
 以下のインタヴューで本人が言っているように、前作『Vol.1』と同じ時期に作られたものだそうだが、マイク・パラディナスの選曲だった『Vol.1』に対して、今作『Vol.2』は自身が手がけている。ヨーロッパからの眼差しをもってパッケージしたのが前作で、シカゴ好みが全面に出ているのが今作だと言えよう。どうりで……
 豪快な作品である。笑えるほどの大胆なサンプリング使いとユニークで力強いビートは、この音楽の勢いが衰えていないことの証左でもある。圧倒的なまでにファンキーだ。
 しかも……この猛暑のなか、トラックスマンは来日する。くれぐれも充分に水分を取ってから、ギグに向かおうじゃないか。

“ゲットー”は心理状態や人格だ。住んでいる場所や経済状況ではない。ゲットー・エリアに住んでいた奴がゲットーな街を出て行っても、そいつはゲットーなままだ。ネガティヴな意味で使われがちだけど、俺はポジティヴな意味で使う。ハングリーさとかそういうメンタリティを表しているからな。


海法:〈Juke Fest〉はどうでしたか? 今回は〈Booty Tune〉のD.J.AprilとD.J.Fulltono、あとダンサーのWeezy (SHINKARON) もいました。日本人がシカゴの現地のシーンへ訪問することをどう受け止めていますか?

トラックスマン:〈Juke Fest〉は最高だったよ。日本でジューク/フットワーク・シーンを広めてるDJやダンサーがジュークのメッカ、シカゴに来てくれた事は物凄く意義があったと感じている。シーンの現状を見せることが出来たし、彼らをシーンのパイオニアであるJammin' GeraldやDJ Deeon、X-Rayとか若手のSpinnやK.Locke、ダンサー集団のThe Eraに紹介することも出来たし、双方にとって素晴らしい機会になった。〈Dance Mania〉の本社にも連れて行ったよ。

DJラシャドの死についてまずはコメントをください。彼を失ったことはジューク/フットワークのシーンにおいて、どのような意味を持っているのだと思いますか?

トラックスマン:ラシャドの死についてコメントするのは本当に難しいな……。シカゴにはラシャドをDJとしてだけでなく、個人的に親しくしていた人もたくさんいたから彼の死はとても衝撃的だった。実際に会って話をして、彼を『DJ Rashad』ではなくひとりの人間として接すると、本当に素晴らしい人間だということがすぐにわかるし、そういう人たちにとってのショックは計り知れない。彼を失ったことは非常に残念だけど、彼がこの世を去った後もシカゴのプロデューサーやダンサーはかならずこのシーンをさらに世界中に広めようと心に誓っている。

少し前にフランキー・ナックルズが亡くなり、DJラシャドまで亡くなるというのは、シカゴ・ハウスの歴史を知るあなたにとって重い出来事だったと思います。

トラックスマン:そのふたりが亡くなったのは1か月も離れていないんだ。ラシャドとは17〜8年の付き合いだったので、本当の親友を失ったと感じているよ。フランキーの死に関しては、シカゴ全体がショックを受けたニュースだった。ハウス・シーンを最初期から見ている古い世代がもっともショックを受けていると思う。もちろんそれはシカゴに限ったことではなくて、世界中のハウス・ミュージック好きにショックを与えた出来事さ。いい出来事も、悪い出来事も、受け入れなくてはならない。

いまはジューク/フットワークのシーンは日本にも広がっているときだったので、彼の死はとても残念でした。とくにDJラシャドは音楽的な才能に恵まれた人だったし、あなたとはもう古い付き合いだったと思います。ぜひ、彼と出会った頃の話を聞かせてください。

トラックスマン:日本にジューク/フットワーク・シーンがここまで広まったのは本当に素晴らしいことだ。今度の来日も出来る事なら1ヶ月くらい滞在したいよ。
 ラシャドに出会ったのは、1997年か98年のことだな、あるパーティでRP Booに紹介されて初めて会った。その後しばらく会わない時期があったけれど、仲が悪かったわけでは決してなくて、DJでお互いの曲をプレイしていたりもした。2004年に再開して、そこからは完全に意気投合して、シカゴのウェストサイドで「K-Town 2 Da 100'z」というミックステープを俺とラシャド、スピンの3人でリリースしたりもした。その頃ラシャドとスピンはDJ Clentの〈Beat Down〉クルーに所属していたんだけど、それを抜けて俺を含めた3人で〈Ghettoteknitianz〉クルーを始動させた。そこから新しい時代が幕を開けたと言っても過言ではない。もちろん当時は俺らのやってる音楽がここまで大きなものになるなんて誰も予想すらしていなかったけどね。

あなたは子供の頃からディスコ、初期ハウス、ガラージ・ハウスを知っているし、そしてロン・ハーディのDJも知っています。そして、シカゴ・ハウスがミニマルでクレイジーな方向、ビート主体で、テンポも速いゲットー・ハウスへと展開していった過程も知っていますよね。先ほども言いましたが、シカゴの歴史を知っているひとりですが、まずはあなたにハウスを定義してもらいましょう。ハウスとは……何でしょう?

トラックスマン:ロン・ハーディをもの凄くリスペクトしているし、フランキー・ナックルズも尊敬してる。だが、彼らがシカゴのクラブでプレイしていた1983〜85年くらいの時期は、まだ俺は10歳くらいの子供で、クラブに行くことすら出来なかった。音楽の情報源はもっぱらラジオだった。ロンやフランキーのプレイを見ることが出来るようになったのはもう少し歳をとってからだ。
 これは本当に世に知られてないことだけど、俺らの世代のDJはみんなWBMXというラジオ局を聴いて、ハウス・ミュージックの洗礼を受けたのさ。俺は当時WBMXでDJをしていたKenny Jammin Jason、Scott Smokin Silz、そしてFarley Jackmaster Funkのプレイを聞いてハウスを学んだんだ。彼らのことは本当に死ぬほど愛しているし感謝しているよ。彼らラジオDJの存在がなければ、いまのシカゴにここまで多くのDJやプロデューサーがいる状況は生まれていなかっただろう。
 俺より上のロンやフランキーの時代にクラブに行ってた世代は、クラブで流れる曲に注目しただけで、DJのスキルやミックスのテクニックに注目はしていなかった。だがラジオDJは違った。例えば1曲かけるだけでも最初にインストゥルメンタルをかけて、じょじょにヴォーカル入りのヴァージョンにミックスして、そのあとダブミックスのブレイク部分をかけるなどして、ミキシングで展開を作った。俺らはそのスタイルにとても影響を受けている。
 ハウス・ミュージックの歴史に関しては、ラジオDJが後の世代にいかに大きな影響を与えたかなどの重要な情報は、シカゴの街から外に出ることは無かった。ハウス・ミュージックは70年代後半に生まれたと言う人もいるけど、現在も受け継がれているハウス・ミュージックのスタイルが誕生した本当のスタートは、1985年だ。その年にChip Eがリリースしたレコードに"House"(85年発表の「Itz House」)、そして"Jack"(同じく85年の「Time to Jack」)という言葉が初めて使われた。ちなみにChip Eは、十数年前に日本に引っ越して、いまも住んでいるよ。シカゴに戻りたくなくなったのかもね(笑)。
 俺にとってハウスは、キックとスネア、サンプルで構成されたとてもシンプルなもの。それのスタート、そして現在のハウスのスタイルの元となったものの誕生が1985年、とても重要な年だ。俺はハウス・ミュージックについての正しい知識と知識を広めるのが宿命だと思っている。そのためにCorky Strongという名義でも活動している。昔のことを知らないで、良い方向で未来に向かって行くことは難しいからね。
 シカゴは昔から、それこそアル・カポネの時代からとても閉鎖的で、隔離されていて、それでいて自分たちのテリトリーを重要視する街なんだ。ゲットー・ハウスもジュークもフットワークもシカゴではまったくリスペクトされていないのが実際のところで、地元で力のある多くのベテランDJやラジオ、テレビはまったくピックアップしない。インターネット上で盛り上がってるだけだ。これは本当に根深く大きな問題だ。自分たちの街で、自分たちに当てられるべきスポットライトが当たった試しがない。インターネットは比較的最近の媒体で、いまだに多くの人びとはラジオやテレビで新しい音楽と出会っている。なのにそれらのメディアが取り上げてくれないと広がりようがない。俺たちの作った音楽がいつの間にか海を渡って、日本やその他の国で愛されていることを知ったのもつい最近のことだ。いつも海外での評価の方が地元の評価より高いのさ、例えばジミ・ヘンドリクスがアメリカを出てヨーロッパで評価されるまでは、アメリカでまったくと言っていいほど評価されていなかった。それと似た感じだな。このあいだ日本のフットワーカーのWeezyがシカゴに来たとき、ゲットーのレストランでフットワークを披露したんだけど、地元の人間は本当に驚いた。フットワークのダンス・カルチャーが世界に広がってるなんて想像もしていないかったからね。


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俺より上のロンやフランキーの時代にクラブに行ってた世代は、クラブで流れる曲に注目しただけで、DJのスキルやミックスのテクニックに注目はしていなかった。だがラジオDJは違った。例えば1曲かけるだけでも最初にインストゥルメンタルをかけて、じょじょにヴォーカル入りのヴァージョンにミックスして、そのあとダブミックスのブレイク部分をかけるなどして、ミキシングで展開を作った。


あなたがハウスにハマった理由について教えて下さい。

トラックスマン:いい質問だな。最初にChip Eの「Itz House」を聞いたときは全然好きになれなかったんだ。いまは大好きだけどね。同時期にChip Eが発表した「Time to Jack」がハウスにハマった大きなきっかけのひとつだな。電子的なシーケンス・パターンに完全にやられたよ。
 その前年にJesse Saundersが「On and On」を発表して、リズムマシンを使ってファンクを表現するスタイルを確立した。初期のハウスはTR-808リズムマシンのサウンドが多く使われていたんだけど、808のドラム・サウンドに本当に虜になった。その後1987年にハウス・ミュージックのサウンドに変化が見えはじめた。TB-303を用いたアシッド・ハウスが登場して、そのサウンドにも夢中にさせられたね。当時ちょうどティーンネイジャーだった俺は、ロン・ハーディらがDJしていた〈ファクトリー〉に遊びに行きだした。いまでも仲がいいHouseboyって友人とよく一緒に遊びに行っていたよ。〈ファクトリー〉はシカゴのウエストサイドにあったティーンのクラブで、Jammin Geraldとかがプレイしていた。
 あるとき〈ファクトリー〉で遊んだ帰り、夜中の2時くらいにHouseboyが「サウスサイドのクラブに行ってみよう」と誘ってきて行ってみたんだ。そこではロン・ハーディがDJしていて、初めてドラッグ・クイーンとかゲイのパーティ・ピープルを見て衝撃受けた。ロン・ハーディーは選曲のセンスはパワフルで人を引き付ける物があった。だけどDJとしてのテクニックはいまひとつだと感じたのを覚えてる。そのサウスサイドのクラブで流れていたのは、メロディやハーモニーが重視されたキレイ目な楽曲が多かった。いっぽうウエストサイドではビート重視でリズムマシンが多用された電子的な、さっき出たChip Eの楽曲のようなスタイルが好まれた。同じハウス・ミュージックでも、サウスがハウス・クラウド(客)、ウエストがビート・クラウドという風に言われていて、同じ市内でもビート系とハウス系ではまったく違うシーンだったよ。俺はもちろんビート・クラウドさ。

どうしてあなたは、ゲットー・ハウスの流れの方に進んだのでしょうか? たとえばディープ・ハウスではなく、ゲットー・ハウスの側に惹かれた理由を教えて下さい。

トラックスマン:最大の要因はまわりの人間だな。俺がいまでも住んでいるウエストサイドの人間、みんなビート系ハウスの流れを組んだゲットー・ハウスが好きだった。もちろん自分でも好きだったけど、パーティに遊びにくる人たちも、まわりのDJもみんなゲットー・ハウス好きだった。まわりの人たちを喜ばせるためにもゲットー・ハウスに進んだのは自然な流れだったね。80年台後半から90年代初頭にはハウス・ミュージックはシカゴでは落ち着いてしまって、ヒップホップの時代に突入した。そのかわりハウスは、世界中に波及して、当時シカゴを盛り上げていた尊敬していた先輩DJはイギリスやヨーロッパの国々に行ってしまった。
 ヒップホップが勢いを増すなか、シカゴに残ったプロデューサー、Armando、Steve Poindexter、Robert Armani、Slugo、Deeon、そして俺なんかは、ラジオでもすっかりプレイされなくなってしまったハウス・ミュージックを作り続けていた。つまり、ハウスはストリートに戻ったってことさ。その頃は400〜500ドルくらいの少額な契約金でレコード契約を地元レーベルと結んでいた、何より作品を発表し続けたかったからね。その頃から考えるといまの現状は考えられないね。

Traxmanを名乗ったのも、〈TRAX〉ものが好きだったからですよね?

トラックスマン:良くわったね。その通りだよ。〈TRAX〉レーベルから出ていた楽曲は的を得ていたというか、何か俺に語りかけているような魅力があったんだ。DJをやりだした頃はDJ Corky Blastっていう名前で、そのあと90年頃からDJ Jazzyっていう名前だったな、Jazzy Jeffが好きだったからね。93年頃にTRAXMANと名乗りだしたんだ。93年ごろにPaul Johnsonと知り合った。彼は銃で背中を撃たれた直後で車いす生活を余儀なくされたばかりだった。同時期にTraxmenメンバーのEric Martinと親しくなり同じくTraxmenのメンバーとして活動していたGant-manを紹介された、当時まだ13〜4歳の子供だったよ。仲間が増えてきた矢先に、俺たちの活動の場だったウェストサイドの〈ファクトリー〉が火事で焼失してしまい、〈ファクトリー〉の歴史は急に終わってしまった。その直後からJammin Gerald、DJ FUNK、Paul Johnsonなどがレコードをリリースしはじめて、その流れに乗って俺もリリースをはじめた。
 同時期にサウスサイドのDJ/プロデューサーの噂が耳に入るようになってきた。DJ Deeon、Slugo、Miltonとかだ、サウンドを聞いたら彼らは最高にイケてたよ。ちょうどこの時期が85年以降のハウスのオリジネーターとゲットー・ハウス世代の世代交代の時期だったな。その頃はギャング抗争がもの凄く激しくて、ストリートはとても危険だった。俺たちは音楽に救われていた、音楽にハマっていなかったらギャング抗争に巻き込まれて、殺されていてもおかしくなかったからな。実際に殺されてしまった友人もたくさんいる。音楽が俺を救ってくれたから、いまシカゴでくだらない争いに巻き込まれている若いヤツらだって、音楽に救われることが出来るんだということを伝えていきたいと本気で思っている。

DJとして活動するのは何年からですか?

トラックスマン:1981年だね。

DJ以外の仕事はしたことがありますか?

トラックスマン:それもいい質問だ。むかし、1989年から1年ちょっとのあいだ地元のトイザラスで働いて、それ以外の仕事は全部音楽に携わる仕事さ。レコード屋で働いたり、〈Dance Mania〉のディストリビューションの手伝いをしたりしてた。

あなたが〈Dance Mania〉からデビュー・シングルを発表するのは、1996年ですが、自分でトラックを作るようになったきっかけは何だったのでしょうか?

トラックスマン:俺の原点ともいえる初期のハウス・ミュージックに大きく影響されている。アシッド・ハウスも好きだったけど、ビートやシーケンスが強調されたスタイルがやはり好きで、作曲に関してはそれにもっとも影響を受けているな。〈ファクトリー〉でJammin Geraldがプレイしていたり、ラジオで流れていたSleazy Dの“Lost Control"を聴いて、俺もトラックを作ってみようと決めた。Adonisの“No Way Back"っていう曲もかなり影響を受けたな。
 当時は近所にリズムマシンを持っている人が本当に少なくて、87年か88年ごろにSlick Rick Da Masterと知り合い、彼がチャック(=DJ FUNK)を紹介してくれた。リズムマシンを持っていたのは、そのふたりだった。Fast Eddieも割と近所に居たけど、彼はヒップ・ハウスが流行ってきて忙しくなってきた頃だから全然会えなかった。当時はレコードはたくさん持っていたけど、リズムマシンは持っていなかったんだ。DJ Raindeerっていう仲間がいたんだけど、そいつは逮捕されしまって今度はそいつの弟とよく遊ぶようになって、ある日「俺、実はリズムマシンもターンテーブルも持ってるよ」と言ってきたんだ。その頃、DJ FUNKも近所に越してきていて、俺のターンテーブルとFUNKのカシオRZ-1を交換した。ついに機材が揃ったから曲作りが出来るようになった。そこからは夢中になって、トラック制作に取り組んだね。DeeonとかGantmanとかサウスサイドの連中ともどんどん仲良くなって、ゲットー・ハウスシーンが広がっていった。

「Westside Boogie Traxs - Vol I」を出してから、「vol.2」はいつ出たんですか?

トラックスマン:Vol.2はフランスの〈Booty Call〉から2012年に発表したよ。1と3は〈Dance Mania〉だね。

90年代末から2000年代の最初の10年前、あなたはとくに目立った作品のリリースはしていませんが、それは何故でしょうか?

トラックスマン:コンスタントに曲は作っていたんだけど、〈Dance Mania〉も止まってしまい、発表の場が無くなった。デトロイトのDJ Godfatherがそのあいだの時期にシカゴのアーティストの作品をリリースしていたが、俺は彼とはあまり繋がっていなかったからな。それからじょじょにフランスの〈Moveltraxx〉みたいなレーベルから声がかかるようになって、自分の作品を発表する場が出来てきた。

ゲットー・ハウスがどんどん発展して、音楽的に独創的になり、ジュークが世界的に認知されるまでのあいだ、シカゴのシーンはどんな感じだったのでしょうか?

トラックスマン:シーンはあったんだけど、前後の時期ほど盛り上がってはいなかったね。なんとなく続いていた感じかな。

ちなみにシカゴでは、いつぐらいからヴァイナルではなくファイルへと変わっていったのでしょう?

トラックスマン:それは他の連中がPCでDJをはじめて時期と一緒くらいだよ。2000年代半ば頃から、ちらほら増えだしたな。俺は筋金入りのヴァイナル・フリークでターンテーブリストだけど、昔からテクノロジーも好きだから、いまはPCも使っているよ。PCDJを否定する連中もいるけど、彼らはテクノロジーをどこか恐れている部分がある気がする。


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初期のハウス・ミュージックに大きく影響されている。アシッド・ハウスも好きだったけど、ビートやシーケンスが強調されたスタイルがやはり好だ。Sleazy Dの“Lost Control"を聴いて、俺もトラックを作ってみようと決めた。Adonisの“No Way Back"にもかなり影響を受けたな。


Traxman
Da Mind Of Traxman Vol.2

Planet Mu/Melting Bot

FootworkJukeGhetto

Amazon iTunes

2012年の『Da Mind Of Traxman』以来のセカンド・アルバム、『Da Mind Of Traxman vol.2』は、相変わらず勢いのある作品で、ビートがさらにユニークになっているし、カットアップもより大胆になっているように感じました。

トラックスマン:実は『Vol.2』も『Vol.1』も収録楽曲はほぼ同時期に作られている。もちろん新しい曲も収録されているけどね。いちばんの違いは、前作は〈Planet Mu〉が楽曲をチョイスした楽曲しているが、今作のほとんどは俺が選曲したってことだ。もちろん前作も気に入っているけど、今作の方が実験的な曲を収録出来たし、気にっているよ。

ジャングルからの影響はありますか? 15曲目の“Your Just Movin”など聴くとそう思うのですが。

トラックスマン:言われてみればそう聞こえるかもな。良いところをついてくるな。とくにジャングルを意識して作ったわけではないよ。さっきも言ったように、今作は本当に実験的なアルバムだから、かなり珍しいサンプルとか、変わったネタ使いをしているというだけ。

ジューク/フットワークはダンスのための音楽なわけですが、あなたはアルバムというものをどのように考えていますか?

トラックスマン:アルバムは俺の子供みたいなものだ、1曲1曲に俺の好きなアイディアを詰め込んであるし、自分の子供たちを世に送り出すような感覚だね。

よりテンポを落として、ハウスやテクノとミックスしやすいようにしようとは考えませんか?

トラックスマン:それは別名義のCorky Storngでやっているよ。トラックスマンはジューク/フットワークの名義だ。それにDJをやるときは160BPMからはじめることはまずない。いきなり160から入ったら、あまりに窮屈だからね。最初は比較的ゆっくり、128BPMくらいからはじめて、じょじょに上げていくのが俺の基本スタイルかな。

クイーン、クラフトワークなど、大ネタを使っていますが、サンプリングのネタはどのようにして探しているのですか?

トラックスマン:サンプルは俺の家にある音源と親友のX-Rayのレコード・コレクションから選んでいる。X-Rayは本当に凄いコレクターで、彼のコレクションはまさに“Mind of Traxman"だよ。使うサンプルを探してるときはいろいろなレコードを聴いて、気に入るサンプルを見つけるまでひたすらアイディアを巡らせている。気に入った部分を見つけたら部分的に保存しておいて貯金するようにためておくんだ。

あなたにとって「getto」とは、どんな意味が込められていますか? 人はそれをネガティヴな意味で使いますが、あなたはこの言葉をなかば前向きに使っているように感じます。

トラックスマン:gettoは心理状態や人格だ。住んでいる場所とか経済状況ではない。ゲットー・エリアに住んでる奴がいるとして、そいつがゲットーな街から引っ越して出て行っても、そいつはゲットーなままだ。ネガティヴな意味で使われがちだけど、俺はポジティヴな意味で使う。ハングリーさとかそういうメンタリティを表している。ちなみに俺はG.E.T.O. DJzっていうDJクルーに入っているんだけどそれは"Greatest Enterprise Taking Over"(制圧する最高の企業)の略だ。

ゲットー・ハウスは、このままワイルドなスタイルを貫くのでしょうか? それとも音楽的に成熟する方向を目指すのでしょうか? あなたは未来についてどう考えていますか?

トラックスマン:俺たちシカゴの人間、そして世界中のゲットー・ハウス、ジューク/フットワークのプロューサーがいる限り、音楽のスタイルは変わらない。進化は続けるけれど本質が変わることはないよ。

海法:まもなく日本でのツアーが始まりますがその意気込みをきかせて下さい。

トラックスマン:日本にまた行けるのを本当に楽しみにしている! 嬉しくて、フットワークが踊れたらこの場で踊ってしまいたいくらいだ! 前回よりも絶対に最高の内容になるのは保障する! 是非見に来てくれ!



Da Mind Of Traxman Vol.2 Release Tour 2014 In Japan




数多くの逸話を残した衝撃の初来日から2年。80年代シカゴ・ハウス、90年代ゲットー・ハウス、そして00年代ジューク、シカゴ・ゲットーの歴史と共に30年以上のキャリアを誇るシカゴ・マスター、 Cornelius Ferguson (コーネリアス・ファーグソン)こと Traxman (トラックスマン) aka Corky Strong (コーキー ・ストロング)が最新アルバム『Da Mind Of Traxman Vol.2』を携えて待望の帰還!

ツアー会場先行 & 限定特価でTraxmanのハウス名義Corky Strongでの日本限定来日記念盤CDのリリースやオリジナルのTシャツの物販も要チェック!

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SOMETHINN 6 - DA MIND OF TRAXMAN VOL.2 RELEASE TOUR -
■8.8 (FRI) @ Circus Osaka
OPEN / START 22:00 - ADV ¥2,500 / Door ¥3,000 *別途1ドリンク代500円

Guest:
Traxman (Planet Mu / Lit City / Dance Mania / GETO DJ'Z / TEKLIFE / TEK DJ'Z)

DJs:
Kihira Naoki (Social Infection)
D.J.Fulltono (Booty Tune / SLIDE)
Metome
Keita Kawakami (Kool Switch Works)
DjKaoru Nakano
Hiroki Yamamura aka HRΔNY (Future Nova)

More Info: https://circus-osaka.com/events/traxman-release-tour/

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TRAXMAN JAPAN TOUR 2014
■8.9 (SAT) @ Unit & Saloon Tokyo
OPEN / START 23:00 - ADV ¥3,000 *150人限定 / Door ¥3,500

DJs:
Traxman (Planet Mu / Lit City / Dance Mania / GETO DJ'Z / TEKLIFE / TEK DJ'Z)

DJ Quietstorm
D.J.Fulltono (Booty Tune)
D.J.April (Booty Tune)

Live Acts:
CRZKNY
Technoman

Saloon:
JUKE 夏の甲子園 <日本全JUKE連> 開催!

DJs:
D.J.Kuroki Kouichi (Booty Tune, Tokyo)
Kent Alexander (PPP/Paislery Parks, Kanagawa)
naaaaaoooo (KOKLIFE, Fukuoka)

Live Acts:
Boogie Mann(Shinkaron, Tokyo)
Rap Brains (Tokyo)
隼人6号 (Booty Tune, Shizuoka)
Skip Club Orchestra (Dubriminal Bounce, Hiroshima)
Subsjorgren (Booty Tune, God Land)

More Info:
https://www.unit-tokyo.com/schedule/2014/08/09/140809_traxman.php

 仕事帰りにバス停に立っていると、見覚えのある中年女性が車椅子に乗っていた。車椅子を押しているのは、いつの時代の少女だよ。と思うような恰好をしたティーン。バレエのチュチュを鋏でギタギタに切ったものがスカート代わりで、上半身には自分で描いたらしいニナ・ハーゲンの似顔絵のTシャツ。いや、おばはんも極東国で16歳の頃まったく同じ恰好をしてましたよ。と目を細めつつそのペアを見ていると、先方もこちらをじっと見ている。
 「あなたは慈善施設の託児所ででわたしの面倒を見ていたことがありますね」と、ニナ(・ハーゲンのTシャツの子)が言った。
 「あ。そうだと思う。いっやー、大きくなったね。I love your T-shrit!」とわたしが言うと、車椅子に乗った女性が「おおおおおお」と鈍い低音で笑う。
 顔の半分はうまく笑えていない。麻痺しているように見えた。
 「母は具合が悪いんです」とニナは言った。
 わたしはようやく彼女たちが誰なのか思い出していた。

              **********

 トレイシー・ソーンが雑誌にヴィヴ・アルバータインの自伝の書評を書いていた。ヴィヴ・アルバータインとは、女子パンクのパイオニア、ザ・スリッツでギターを務めていた人だ。
 1976年、21歳のときにヴィヴは祖母の遺産分けで貰った200ポンドでギターを買う。「ディオンヌ・ワーウィックのレコードをぶった切っているようなギターの音を出したかった」そうだ。ヴィヴは、ミック・ジョーンズの恋人で、シド・ヴィシャスの親友だった。そしてそのギターを抱えてアリ・アップ、テッサ・ポリット、パルモリヴのザ・スリッツに加わる。
 『服、服、服、ミュージック、ミュージック、ミュージック、ボーイズ、ボーイズ、ボーイズ』というのが自伝の題名だが、これはヴィヴの母親が当時の娘を表現した言葉だったらしい。この題名だけ聞けばロンドン・パンクの青春回顧録かと思う。たしかに前半はそうだ。が、後半は世界が一変する。ザ・スリッツ解散後のヴィヴの人生は、リアリティという重い鉛の玉を足首に巻かれてゆっくりと沈んでいくようだ。中絶、流産、IVF、子宮頸癌。と進む後半部からは、女の赤黒い血の匂いがする。エアロビの先生になったり、映画製作者になったりするが、キャリアもパッとせず、男たちは彼女を失望させる。「ほとんどの自伝は(そしてほとんどの人生は)前半のほうが楽しい」とトレイシー・ソーンも評している通り。

           **********

 車椅子に乗っていたのはKだった。
 底辺生活者サポート該施設にいたアンダークラスのアナキストの一人。高学歴のお嬢様が道を踏み外し、恋人たちの子供を産み続けているうちに階級を這い上がって行けなったタイプのシングルマザーだった。子供は4人か5人いたと思う。みんな普通なら学校に行く年齢だった。普通なら、というのは、彼女もアナキストなので政府の出先である学校など信じておらず、ホームエデュケーションを行っていたからだ。
 が、そのホームエデュケーションがまともに行われていないとして、福祉が介入してきた。ニナ(・ハーゲンのTシャツの子)は、当時10歳ぐらいだったと思う。妹や弟の手を引いて、底辺託児所に来ていた。彼らは全員フォスターファミリーに預けられる方向で話が進んでいた。

 が、Kは土俵際で鮮やかなうっちゃりをかました。
 お洒落なミドルクラスの親たちが子女を通わすことで有名な私立校、シュタイナー・スクールの校長に自らの状況を話し、「自分が無報酬で教員アシスタントとして働くから、子供たちを学費無料で学校に受け入れてくれ」と直訴して、それが受け入れられたのである。
 アナキストな母親たちはシュタイナー校にはこっそり憧れていることが多かった。所謂オルタナティヴ教育と呼ばれるシュタイナー・メソッドは、芸術に重きを置く点や、エコっぽい点でも彼女たちの趣味趣向に合致する。「金持ちだったらシュタイナーに子供を通わす」と言っていたアナキストを何人も知っている。
 ホーム・エデュケーションが理由で子供を取り上げられそうになったKは、子供を学校に通わせねばならなかった。だから自分が子供を通わせたい唯一の学校に背水の陣で乗り込んで行ったのである。
 「高学歴の人はいいね」「コネだろ」という子持ちアナキストたちの羨望を尻目に、Kと子供たちは一緒にシュタイナーに通い始めた。ソーシャルワーカーも、シュタイナー校に子供たちが通い始めたとなると文句は言えない。K一家の話は、底辺サポート施設関係者で一番のサクセス・ストーリーだった。英国というのは、普通はあり得ない話が現実になる国だとわたしも感心したのを覚えている。

 そのKが、4年後には車椅子に乗っていた。
 顔だけでなく、体半分が麻痺しているようだ。脳卒中か何かの後遺症にも見えた。
 ニナ(・ハーゲンのTシャツの子)が、汗で額に張り付いた母親の前髪をかき上げると、Kは顔を緊張させ、ふわりと歪める。
 それは不快そうにも嬉しそうにも、もうどうでもいいようにも見えた。

             *******

 ヴィヴは子宮頸癌にかかったが、アリ・アップも乳癌という女の癌にかかった。が、ラスタファリアンだったアリは一切の治療を拒否して48歳で他界する。
 一方、癌治療で生き残ったヴィヴは、再びギターを弾き始める。「過去の栄光を台無しにするのはやめろ」と言った夫と別れ、ミドルクラスの主婦という椅子から立ち上がり、57歳で初のソロアルバムを発表する。
 「ヴィヴはサヴァイヴァーだ」とトレイシー・ソーンは書く。
 が、サヴァイヴするということは必ずしも幸運なことではない。
 生き残ったら、また生きて行かねばならないからだ。

 ここからはちょっと不謹慎な話。
 少し前に東京で焼身自殺を試みた人のことは英国でもテレビや新聞で報道された。
 「『君、死に給うことなかれ』という有名な詩の一節を言って、自殺を図ったらしい」
 ある英国人にそう言ったら、先方はきまり悪そうに頬を緩めて口元に手を当てた。
 「ごめん。でもなんかそれ、モンティ・パイソンみたい」
 たしかに、「お前、死ぬなよ」と言って死のうとした、という事実だけを客観的に見るとそうだと思った。
 
 戦争とか自決とか、ウヨク用語はだいたい「死」に向かっているので、右傾化というのは死にたい人が増えているということかと思っていたが、左翼も「命をかける」という話になればもう右も左もみんなスーサイダル・テンデンシーだ。
 が、どれだけ社会がスーサイダルになろうと、世の中はスカッと終わったりしないし、戦争だってそう簡単に始まるものではない。人というものは残念ながら、なかなか死なないのだ。
 
 70年代のパンク・ガールズは往来でよくウヨクに襲われたそうだ。実際、アリは娼婦のような恰好をしているとして道端で何回も刺されている。
 それは危険でも楽しい時代だったろう。衝突は狂熱を生む。が、狂熱はそう長くは続かない。それじゃ寂しいってんで、ずっと衝突を探して拳を上げ続ける人もいる。が、時代の流れに任せて淡々とした日常にまみれる人もいる。
 「自伝を読んでヴィヴを称賛する気にはならない。一緒に座って紅茶が飲みたくなる」
トレイシー・ソーンはそう書いている。
 サヴァイヴするということは、闘争やファンファーレじゃない。一杯のカップ・オブ・ティーなのだ。

              *******

 バスが停車すると、ニナは慣れた手つきで昇降口から車椅子用スロープを下ろした。
 Kはわたしのほうを見て、「がっらー」と言った。ように聞こえた。
 意味不明だったが、呼びかけに応えて「See you. God bless」と言おうとして、なんとなく後半部分は言うのをやめた。
 
 そしてわたしも別のバスに乗り込み、座席に座ってから、ふと、「がっらー」ってのは「Good luck」だったのだろうか。と思った。
「Good luck」
「God bless」
と普通に続けとけば良かったと思った。
 
 サヴァイヴするのは必ずしも幸運なことではない。
 だからこそ、別れ際に交わす挨拶は幸運を祈る言葉なのかもしれない。

V.A. - ele-king

 幼少時にヴァイオリンを習っていた。最初は子どもでも弾けるモーツァルトやシューベルトの小品をあてがわれ、ピアノ伴奏に合わせて発表会などで演奏したものだったが、次第にバロック時代の作品、わけてもバッハに興味を持つようになっていった。小学生低学年の頃の話だ。なぜなら、音楽室にズラリと並べられていた作曲家たちの肖像画のもっとも先頭部分にバッハが鎮座していたからである。もしかしたらヘンデルが先頭だったかもしれないが、なんにせよピンときたのだろう。バッハはチェンバロやオルガンを用いた器楽曲の方を音楽の時間でも先に聴かされていたが、その後、『ドカベン』を愛読するようになっていたことも奏功し、G線だけで弾ける曲ならすぐに弾けるようになるのではないかと、どうしても「G線上のアリア」を弾いてみたくなりヴァオリン教室の先生に頼んでトライをしてみたのだ。だが、本作では12曲めでダニエル・ホープがとりあげているこの曲、無論のことながら、テクニックがあれば何とかなるような、譜面通りに弾いて形になるような曲ではなかった。まあ、なんだってそうではあるのだが、余韻とか情緒とか行間とか、そういう目に見えぬ何かがなければどうにもならないわけで、けんもほろろにバッハの壁に跳ね返されてしまったのだった。

 さて、その“G線上のアリア”、一般的にバッハでもっとも知られた曲とされているわけだが、元はといえば、“管弦楽組曲第3番BMV1068エア”(BMV~というのはバッハ作品を整理するための記号番号)として作られたもの。その後、1800年代にアウグスト・ウィルヘルミというヴァイオリニストによって、G線1本で演奏可能にするべくニ長調からハ長調へと移調されてこのタイトルになった。つまり、今日われわれが“G線上のアリア”として聴いているのは「ウィルヘルミ編曲版」という次第。バッハ死後に後続の演奏者や作曲家たちによって改題、アレンジされていった曲はこの他にも多く(本作でとりあげられている“アヴェ・マリア”もそうだ)、言ってみればフーガを初めとするバッハの作品における対位法などは時代とともにさまざまなジャンルの中で取り入れられることとなっている。ブルーズのペンタトニック・スケールや、ロックンロールの3コード・スタイルがいまなお応用されているのと同様に、じつはバッハの作曲技法は確実にポピュラー音楽の中にも消化されていると言えるのだ。その最たる例がグレン・グールドによる“ゴルトベルク変奏曲”だろう。
 そうした観点から本作を紐解いてみると、たしかにこれはエイズ・ベネフィットでお馴染みのレッド・ホット・シリーズの、長い歴史の中でも異色のクラシック作曲者をとりあげた作品であることに疑いはない。クロノス・クァルテットやフランチェスコ・トリスターノ、ダニエル・ホープのように、現代音楽とクラシック音楽を股にかけているアーティストが要所要所をしめているし、あからさまなロック・アーティストも参加していない。だが、マックス・リヒター、ロブ・ムース、ミア・ドイ・トッド、シャラ・ウォーデン(マイ・ブライテスト・ダイアモンド)、アミーナ、ジュリアナ・バーウィック、ガブリエル・カハーンといったアーティストたちのここでの解釈を聴いてハッと気づかされたのは、彼らの多くはすでにそれぞれの作品でバッハに倣った和声による対位法をとりいれているではないか、ということだ。アミーナの4人に取材をしたとき、クラシックの有名曲をガラスのコップなどで音階を辿り解析したがあると話してくれたことがあるが、もしかするとそうした経験を他の本作参加アーティストも多かれ少なかれやってきたからこそ、本作ではまるでカヴァーというよりバッハの技法を生かしたオリジナル曲を集めたもののように聴こえるのではないだろうか。
 そうした解体をダイナミックに堪能できるのが、ジェフ・ミルズとクロノス・クァルテットの邂逅による“コントラプンクトゥスII”から、クロノス・クァルテットだけによる弦クァルの“コントラプンクトゥスII”という流れ。間違いなく本作のハイライトと呼べるものだが、これを聴けば、2本のヴァイオリンの他に、通奏低音としてチェロ、弦バス、チェンバロなどが用いられていた“G線上のアリア”改題前のオリジナル演奏がうっすらと透けて聴こえてくる。そして、思うのは、このフォルムこそは、よくあるバンド・フォーマットにも通じはしまいか、と。2本のギター、ベース、ドラム、鍵盤……。

 よって、本作はいわゆるポスト・クラシカルの作品などではない。ポピュラー音楽の変遷の中でいかにバッハの技法が大きなファクターとなって大きな道筋をつけてきたかに気づかされる一枚だ。レッド・ホット・シリーズ、またしても良い仕事をしてくれた。次はアーサー・ラッセル編が届くのを心待ちにしていよう。

ICHI-LOW (Caribbean Dandy) - ele-king

9/11 原宿UCでA-1 LOUNGEに出ます。

来日間近のMORGAN HERITAGE 関連のフェイバリット


1
Perfect Lave Song - MORGAN HERITAGE

2
Jah Seed - MORGAN HERITAGE

3
Call to Me - MORGAN HERITAGE

4
DOWN BY THE RIVER - MORGAN HERITAGE

5
SWEET WATA - PETER MORGAN

6
Let it Fly - IRIE LOVE ft. PETER MORGAN

7
She's Still Loving Me - MORGAN HERITAGE

8
WASH THE TEARS - GRAMPS MORGAN

9
Rescue Me - Duane Stephenson and Gramps Morgan

10
One In A Million - GRAMPS MORGAN


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