「Nothing」と一致するもの

TodaysArt - ele-king

 今月22日から24日の3連休。天王洲アイルの寺⽥田倉庫の施設にて、オランダ生まれの──アート・テクノロジー・音楽のフリー・フェスティヴァル「TodaysArt.jp Edition Zero 2014」が開催される! フリー・フェスなので、入場料はない。
 詳細はホームページを参照していただくとして、このフェスにおいて、なんと、URによるタイムライン・プロジェクトがライヴを演奏するから困ったものである。困るというのは、はっきり言って、この時期、仕事の忙しさが最高潮を極めているからだ。なんでこんな時期に!! というのは、個人的な事情に過ぎずに、よい子のみなさんは、久しぶりにタイムライン来日、親分の来日でもあり、しかも今回はチケット無料、見に行きたければ、このページから申し込めば良いという神戸のUNDERGROUND GALLERYの石崎さんの粋な企画でもある。
 2014年は、ジェフ・ミルズが若い世代のなかで完全に再燃して、ことX-102の“タイタン”がベース世代のなかで再評価されるという年でもあり、きっといま、タイムラインを聴きたい人は、若い世代にも多いはず。早く、チケット申し込んだ方が良いよ。


TodaysArt.jp Edition Zero 2014
@天王洲アイル 寺田倉庫関連施設(東京都品川区東品川)
2014年年11月22日(土)~2014年年11月24日(月・祝)
https://www.todaysart.jp/

Veronique Vincent & Aksak Maboul - ele-king

 夏頃だろうか。突然、アクサク・マブールの新作が出る! なんて噂を耳にしてそわそわしてしまったのだけど、それがヴェロニク・ヴィンセント(元ハネムーン・キラーズの紅一点ヴォーカル)&アクサク・マブール名義のものと知り、「……ていうか、これってアクサク・マブールというよりもハネムーン・キラーズでしょう?」と考えこんでみたのもつかの間、名義の後ろにしっかり「with ザ・ハネムーン・キラーズ」と書かれていて納得。そもそも、アクサク・マブールの頭脳であり〈クラムド・ディスク〉首謀者でもあるマーク・ホランダーは、同時にハネムーン・キラーズのメンバーでもあるんだから、そんなことはどうでもいいのだ。そして、内容のほうはというと、新録ではなく1980〜83年に録音されていたもので、本来ならアクサク・マブールの3枚めとしてリリースされる予定だったはずが、何がどうしたのやら完成を待たずにお蔵入りになってしまったブツで、30年越しに陽の目をみるというんだからもう……おもしろくないなんて言わないよぜったい!

 出身はベルギーなのに、母がポーランド人、父がドイツ人。生まれがスイスで幼少期をイスラエルで過ごす、というホランダーの特殊な生い立ちが影響しているとしか思えないキッチュでストレンジでプログレッシヴなコスモポリタン・ポップが炸裂するファースト『偏頭痛のための11のダンス療法』(1977)。フレッド・フリス、クリス・カトラー、カトリーヌ・ジョニオーらレコメン系の精鋭たちとの必然的出会いが産み落としたチェンバー・ロックの最高峰であるセカンド『無頼の徒』(1980)──NWWリストにも掲載されていて、いまや泣く子も黙るアヴァンギャルド古典2枚を残して消滅したアクサク・マブールのその後を知るにはうれしすぎる作品が世に出たわけだが、これがじつに肩ひじ張らないゆかいつ〜かいエレポップな仕上がりでびっくり!

 トレードマークともいえる、ぽんつくぽんつく拍子を刻むリズム・ボックスを土台に、光輝くエキゾチックなシンセ/キーボードのフレーズが次から次へと飛び出し、まるでテクノ歌謡のごときノスタルジアにかられるかと思いきや、東西ヨーロッパを横断するオリエンタル急行のようにパンクでロマンチックな疾走感をもったナンバーがピコピコ駆け抜ける。しかも、ホランダーによるヘンテコなアレンジが随所に仕掛けられているので、ドタバタ蛇行しながら全力疾走を強いられたりして異様にスリリングなのだ。ホランダーと同じくアクサク・マブールの創設メンバーであり、ハネムーン・キラーズにも在籍していたヴィンセント・ケニスやファミリー・フォッダーのアリグ・フォッダーらが参加しているのもうれしいけど、やっぱり結局のところ、そこにホランダーの妻でありモデルでもあるヴェロニク嬢のフレンチロリータ風イエイエ・コケティッシュ・ヴォーカルがのるんだからたまらない。エレガントなくせに舌ったらずで憎いぜこのヤロー! 聞き惚れるぜこんチキショー!!

 楽曲のどれもがダンサブルでキヤッチーなフックをあわせもち、さらにヴェロニク・ヴィンセントの存在感ありまくりのヴォーカルがフィーチャーされているがゆえに、ハネムーン・キラーズ寄りの作風に思われるこの作品。しかし、チャルメラ風のシンセリフ、トロピカルなギター、奇妙なダブ処理のほか、アコーディオン、クラリネット、シロフォン、サックスなどの音も聞こえてきたりして、一曲のなかにさまざまなアイデアを放りこんで巧みに楽しむワケのわからなさはアクサク・マブールの実験室内楽そのもの。ボーナス・トラックに収録された、一段上のレベルをいく異様にエネルギッシュなライヴ演奏を聴いてほしい。いまの耳で聴いても辺境最先端をいく、緻密にして野蛮でエスプリの効いたあざやかなグルーヴが魔法のように紡がれて──そこにはるか昔という感慨はない──まるで、ついさっきの出来事のようなけざやかさに度肝をぬかれてブチのめされるはずだ。

 それぞれ小説家と音楽評論家として活躍する同学年のふたりが、おもに70~80年代のロック、ポップス、歌謡曲までを語り明かす、紙『ele-king』の同名人気連載がついに単行本化! 音楽論にして文学論であるばかりか、時代論で人生論。他の記事とは圧倒的に流れる時間の異なるこのゆったり対談は、このスピードでしか拾えない宝物のような言葉と発見とにあふれています。毎度紙幅の都合で泣く泣くカットする部分もありますが、本書はそんな部分もばっちり収録のディレクターズカット版。保坂氏ゆかりの山梨での出張対談を含め、8時間におよぶ追加対談を含めた充実の内容。
このふたりにしか出せないグルーヴを堪能してください!

大学生になったらジャズ聴かなきゃみたいなのがあって(笑)、偶然75年だか76年だかにギル・エヴァンスが来日して── (保坂)

俺、ずっと大瀧(詠一)さんのラジオ番組にハガキを出していたんだよね。 (湯浅)

■『音楽談義 Music Conversations』

保坂和志、湯浅学 著

ISBN 978-4-907276-19-5

発売日:2014年11月28日(金)

価格:本体1,800円+税(予定)

仕様:四六判、ソフトカバー、全256頁

レコードへの偏愛を語り、風景が立ち上がる。
小説家、保坂和志。音楽評論家、湯浅学。同学年のふたりが語るフォーク、ロック、ジャズ。音楽メディアでも文芸誌でも絶対に読めない、自由奔放な音楽談義!

保坂和志82年最初期原稿(雑誌「サーフィンライフ」誌掲載)もお蔵出し!
村上春樹『羊をめぐる冒険』の書評も!?

 保坂和志──小説家。1956年10月15日山梨県生まれ。
 湯浅学──音楽評論家。1957年1月4日神奈川県生まれ。
 同学年のふたりは、のちに保坂氏が鎌倉に移ることで同じ時代にそう遠くない場所で育つことになります。

「音楽がいどろる人の世を考える」

 小説と音楽批評、それぞれのフィールドで独自の歩みを進めてきたふたりの対話は、するどい音楽論であるとともに書くことを考える文学論であるばかりか、音楽の背後に覗くものを語る、時代論、人生論の様相を帯びてきます。

 本書は雑誌『ele-king』に好評連載中の同名タイトル対談をベースにして、掲載時に紙幅の都合で割愛せざるをえなかった部分を大幅に増補し、さらに本書のための特別対談を収録したディレクターズ・カット版にして決定版。

 中学生だった70年代のフォーク・ブーム、そしてロックと出会いジャズに耳を傾けた十代後半から現在まで、大瀧詠一もいればギル・エヴァンスもいる、ボブ・ディランに頭をひねるのみならず、ラジオやレコードのへ偏愛を述べ、語りのなかで当時の風景をたちあげる、音楽誌や文芸誌では絶対読めない対話の数々。
 枠のない音楽のように自由な、それでいながら底流にはしっかりした共有の視座をもつ自由奔放な音楽談義をたっぷりお送りします。

 その他、保坂さんゆかりの山梨での出張対談や、オクラ出し記事なども加え、このふたりにしか出せないグルーヴを堪能できる一冊になりました!
 師走の慌ただしさをしばし忘れ、または新年をゆっくりと過ごすかたわらに、本書『音楽談義 Music Conversations』を。

▼著者略歴

保坂和志(ほさか・かずし)
1956年山梨県生まれ。90年『プレーンソング』でデビュー。93年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、95年『この人の閾(いき)』で芥川賞、97年『季節の記憶』で谷崎潤一郎賞、平林たい子文学賞を受賞。著書に『カンバセーション・ピース』『小説修業』(小島信夫との共著)『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』『小説、世界の奏でる音楽』『カフカ式練習帳』『考える練習』など。2013年『未明の闘争』で野間文芸賞受賞。近刊に『朝露通信』。

湯浅学(ゆあさ・まなぶ)
1957年神奈川県生まれ。著書に『音海』『音山』『人情山脈の逆襲』『嗚呼、名盤』『あなのかなたに』『音楽が降りてくる』『音楽を迎えにゆく』『アナログ・ミステリー・ツアー 世界のビートルズ1962-1966』『~1967-1970』『ボブ・ディラン ロックの精霊』(岩波新書)など。「幻の名盤解放同盟」常務。バンド「湯浅湾」リーダーとして『港』『砂潮』など。近刊に『ミュージック・マガジン』誌の連載をまとめた『てなもんやSUN RA伝 音盤でたどる土星から来たジャズ偉人の歩み』(ele-king books)がある。


Scott Walker + Sunn O))) - ele-king

SCOTTO))) なる筋書き
Side:Sunn O)))倉本諒

 今年の春頃に「SCOTTO)))」とロゴのみのヴァイラル効果を狙ったウェブ・ページが〈4AD〉から表れ、音楽メディアを騒がせた。サンによる毎度スキャンダラスなコラボレーションは今回も大きな波紋を呼ぶのだろうか?
 その時どきの時代性を射抜く先駆的なコラボレーションを企ててきたサンは、もちろんドローン・メタル/パワー・アンビエントのバンドであるわけだが、僕はそれ以上に彼らをある種のカルチャー・ムーヴメントの立役者として捉えてきた。

 ヘヴィ、またはラウドと呼ばれるような音作りにおいて、その筋から絶大な信頼がおかれているアンプ──サン(sunn)だ──によって壁を築き、そのいまはなきメーカー・ロゴをそのままバンド名に冠し、カルトな垂れ流しドローン・ロック・バンド、アースへのトリビュートを謳うパロディ・バンドであったサン。彼らをはじめてコンテンポラリーな存在に仕立てたのは、2003年に発表したアルバム『White 1』でのジュリアン・コープとのコラボレーションだ。
 バーニング・ウィッチ(Burning Witch)、ソーズ・ハンマー(Thorr's Hammer)等で、ひったすらに重い、遅いメタルやハードコアを追求してきたスティーヴン・オマリーとグレッグ・アンダーソンがたどりついた、「スピードは死に、それでも地を這うメタル・リフとフィードバッグが延々とアンプから垂れ流される」という境地をカンテラの明かりで照らすようなジュリアンの朗読が冴える“マイ・ウォール”はいまも秀逸な響きを放っている。

 今回のスコット・ウォーカーとのコラボレーション『サウスト』を聴きながら、これまでのサンのコラボレーションに思いをめぐらせ、10年以上も前のジュリアンとの曲を振り返り見えてくるバンドの原点、それは舞台装置としてのサンだ。

 圧倒的な数のヴィンテージ真空管アンプとスピーカーの壁から放射される、まさに振動としての音波、やりすぎなスモーク、全身に纏うローブ、ギター・ミュージックの究極形にあるアンビエント化したロック・サウンド。舞台装置としてのサンのコンセプトは完成されている。それは文字通りショウとしての、エンターテイメント/見世物としてのロック史の、黒いパロディのようでもある。
 今回その舞台で披露された演目は、スコットとの、さながら『ファントム・オブ・パラダイス』のような悪夢のロック・オペラだ。フランスの舞台演出/美術家、『こうしておまえは消え去る』のジゼル・ヴィエンヌによるビデオ・クリップも発表され、ゴシックな舞台を彩っている。そもそもスティーヴンとピタによるKTLは当初ジゼルの演劇作品『キンダートーテンライダー(Kindertotenlieder)』の舞台音楽としてキャリアをスタートさせているわけだし、どうにも彼らはこういう方向性に強いようだ。
 10年以上前の“マイ・ウォール”でジュリアンがスティーヴンとグレッグの紹介を読み上げるセリフから、今回のスコットとのコラボレーションまでが、サンによる壮大なバンド活動計画の脚本のうち、とすら思われてしまうほど説得力を感じてしまう。

 過去のさまざまなアーティストたちとのコラボレーション同様、この作品が音楽のみならず、映画やファッション、現代美術など異なるフィールドを振動させてくれるのが楽しみである。

倉本諒

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ホラーと笑いのロック・オペラ
Side:Scott Walkerブレイディみかこ

 お。ポップになったじゃん。
 という表現が適切かどうかは不明だが、サンO )))と組んで聴きやすくなるアーティストというのもスコット・ウォーカー以外にそうはいないだろう。
 異色のコラボと言われるが、UKでは「すごくわかる組み合わせ」「もう音が想像できる」みたいなことが何カ月も前から言われてきた。思えば、スコットの前作『ビッシュ・ボッシュ』にもへヴィでオカルトなメタルっぽい音色はあったし、でも肉切り包丁を擦り合わせてきーきー言わせてた音がギターの音に変わったのだから、それはやはりポップになったのだ。が、だからと言ってスコット・ウォーカーとサンO )))のコラボに、ルー・リードとメタリカの『Lulu』のようなものを期待してはいけない。本作に比べれば『Lulu』はワン・ダイレクションのベスト盤のようなものである。
 わたしはだいたい音楽と名のつくものは何でも好きだが、一つだけどうしても駄目なのがメタルであり、のべつ幕無しギャーギャーわめくものが嫌い。という性格的なものだろうが、サンO)))の場合はわめくというより、唸ったり轟いたり歯ぎしりしたりという幅広い表現を追求しているのでスコットの声とは絶妙に合う。60年代には低音の魅力で売ったスコットも、前衛音楽に移行してからは妙な緊迫感のあるテノールを前面に出しており、本作は冒頭からまさにロック・オペラのようだ。
 スコットの音楽は映画的とも言われるが、たとえば、彼の『ティルト』以降のアルバムがタルコフスキー的だとすれば、本作はケン・ラッセルのロック・オペラ『トミー』だ。あれももともとはザ・フーのアルバムだったのに、ケン・ラッセルが映画化した途端にイロモノになったというか変なことになったが、スコット・ウォーカーもサンO)))と組んだ途端に変なことになった。ここでの彼は難解で崇高な芸術家ではなく、いい感じに力が抜けてイロモノ化している。

 歌詞にもそれは表れている。ああ見えて彼は以前からこっそり歌詞で笑わせることで知られていたが、『サウスト』ではそれが炸裂している。‟ブル”のソニック・ホラー風の緊迫した曲調でいきなり「leapin’ like a river dancer’s nuts(リバー・ダンスの踊り手の睾丸のように跳ね回っている)」などと歌われると、ぴょんぴょん跳ねながらアイリッシュ・ダンスを踊っている白タイツの男性を想像して吹きそうになったのはわたしだけではないだろうし、マーロン・ブランドが題材という‟バンド”でバシッ、バシッと鞭のパーカッションを使いながら「A beating will do me a world of good(ぶってくれたらとても僕のためになるのだけれど)」と劇的に歌い上げるのもナイスである。スコットは2008年にサンO)))からコラボの申し入れがあったときには断ったが、しっかりそれを覚えていてコラボ用の曲を書き溜めていたというのだから、きっとやりたくてウズウズしていたんだろう。

 2012年の『ビッシュ・ボッシュ』のレヴューを読み返していて、「スコット・ウォーカーはコードとディスコードの間にあるもやもやとした部分を追求している。この未知の領域は人間を不安にさせる。この不安に比べると、恐怖はまだいい。ポップだからだ」と自分で書いていたことに気づいたが、まさに『サウスト』の彼は、さらなる「不安」の探究を休み、よりポップな「恐怖」をやっているように思える。きっと彼はサンO)))という、それを形にする最高のパートナーを見つけたのだ。

 こうなってくると、気になることがある。それは、デヴィッド・ボウイやブライアン・イーノを羨望させたレジェンドが、このノリでつるっとステージに立ったりするのではないかということだ。そういうことを期待させるぐらい、本作のスコットは弾けている。そしてタルコフスキーよりケン・ラッセルのほうが100倍ぐらい好きなわたしにとり、本作は今年もっともチャーミングなアルバムだったと言ってもいいほど怖くておかしい。

ブレイディみかこ

ひらきつづける渋家(シブハウス) - ele-king


今年の注目書『遊びつかれた朝に』。表紙の写真は〈渋家〉内部を撮影したものだ。

Amazon

 今年の夏ごろにメールマガジンのサービスもはじまったが、〈渋家〉の活動がいっそう活発になってきているようだ。いまは乱暴に「シェアハウス」と混同されることも少なくなったのではないだろうか。渋谷の一軒家を拠点に現在50人のメンバーが活動するアートプロジェクト、〈渋家(シブハウス)〉。当初はアート・プロジェクトという性質がここまではっきりと打ち出されていたわけではなかったが、広報部などが整えられ、また、発起人である斎藤桂太や現代表のちゃんもも◎、かつての住人や周辺アーティストたちの活躍のステージが広がっていくことに比例するかのように、積極的に社会へ向けた発信・提案を生み出している印象だ。他にほとんど例をみない形態での活動を行っている当事者として、自身らが引き受けるべき役割や、それに対してどう責任をとっていくのかといったことにまで自覚的であるような、ユニークな取り組みが次々と発表されている。

 おそらくはこうしたイヴェントのシリーズも、その一端を示す好例なのではないだろうか。〈渋家アートカンファレンス〉が、12月6日(土)に開催される。

■渋家アートカンファレンス Vol.2
表現の自由と権力、その付き合い方
- Mix well with art and power -

川田淳 (アーティスト) / 塚田有那 (編集者) / 林道郎 (美術評論家) / 藤森純 (弁護士)
2014年12月6日 (土) 19:00 - 22:00

 「渋家アートカンファレンス」は、渋家が、昨年、森美術館による「全国のディスカーシブ・プラットホーム」に選出されたことなどを受け、アートを生み出し発表する場としての機能をより緻密に構成すために企画され、今年3月に東京国立近代美術館美術課長・蔵屋美香、美術評論家・林道郎を招き、「今、私たちを収蔵できますか? - アーティストとアーカイブ -」と題したテーマで第1回が開催された。

 第2回となる今回は、アーティスト・川田淳、編集者・塚田有那、美術評論家・林道郎、弁護士・藤森純というアートにかかわりながらも様々な立場にある方々をゲストに迎え「表現の自由と権力、その付き合い方 - Mix well with art and power - 」と題したテーマで開催される。

 表現規制を思わせるニュースが立て続けに報道され、そのコメントがSNSを賑わせる昨今、一方では、検閲に抗う、新たな表現の形を模索する果敢な展示も行われはじめているが、そういった果敢な展示も、その性質上、一過性のものとなってしまう危険性を孕んでいる。このまま、まさに「忘却の海」になってしまう前に、この状況を批評し、解釈し、そして展開して行く為に、様々な作品の提示の方法、本質、そしてそれぞれの暴力性についてを話し、忘却に抗う場にするという。

 渋家は、渋谷の一軒家を拠点とし、家を24時間365日解放しておくことで新たな関係性を生み出し、自由なコミュニケーションからさまざまなコンテンツ生み出している。現在、約50人が参加しており、メンバーは年齢や職業を問わず、生活や活動も固定されない。現在の代表は、ファッション誌での連載や、モデル、DJのほか、「バンドじゃないもん!」のメンバーとして活動する、ちゃんもも◎。

 近年の主な活動実績としては、日本最大のアート見本市「アートフェア東京 2013」に作品「Owner Change」を2億5千万円で出品、「ニッポンのジレンマ」(NHK) に渋家発起人・斎藤桂太が出演、森美術館「六本木クロッシング展」関連プログラム「全国のディスカーシブ・プラットホーム」選出、「第17 回 文化庁メディア芸術祭」審査委員会推薦作品選出、「平成26年度メディア芸術クリエイター育成支援事業」選出などがある。

 今回のカンファレンスが開催されることで、渋家というプロジェクトからどのようなコンテンツが生み出されるのかにも注目したい。

■申し込み

・事前予約
メールのタイトルを「カンファレンス予約」とし、本文に「氏名 / メールアドレス / 参加人数」を明記したメールを右記のアドレス [ shibuhouseinfo@gmail.com ] までお送りください。24時間以内にこちらから予約確認のメールをお送りいたします。予約をキャンセルされる場合は事前にご連絡ください。

・当日参加について
予約受付を告知していなければ可能です。お気軽にお越しください。予約確認のメールをお送りできないことがありますが、会場の準備などがありますので、お知らせいただけると助かります。ご協力よろしくお願いいたします。

■開催概要

・日時 : 2014年12月6日 (土) 19:00~22:00
      18:30 受付開始・開場
      19:00 カンファレンス開始
      21:00 来場者を交えた質疑応答
・参加費 : 1,000円
・場所 : 渋家 (東京都渋谷区 ※ 住所情報は上記申し込みの返信に記載致します)
・ゲスト : 川田淳 (アーティスト) / 塚田有那 (編集者) / 林道郎 (美術評論家) / 藤森純 (弁護士)
・運営・進行 : 金藤みなみ / 稲葉あみ
・ウェブサイト : https://www.facebook.com/events/389294321226206/

※ 後日、記録小冊子を発行します。それに伴い、当日冊子発行の支援募金を受け付けております。当日、ヴィデオ及び音声等を記録します。前半のみツイ-トキャスティングを導入し、リアルタイム配信をします。

■ゲストプロフィール

川田 淳 (かわだ じゅん)
アーティスト
埼玉県生まれ。2007年 武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。2006年-2008年 四谷アート・ステュディウム在籍。主な個展に 「ケンナイ」(広島芸術センター / 広島 / 2013年) 、「まなざしの忘却」(22:00画廊 / 東京 / 2012年) 。グループ展に「アラフド アート アニュアル 2014」(旧いますや旅館 / 福島 / 2014年) 、「前橋映像際 2014」(旧安田銀行担保倉庫 / 群馬 / 2014年) 、「Screen 川田淳× 高川和也」(HIGURE 17-15cas / 東京 / 2014年) 、「書を捨てよ、町へ出よう」(黄金町芸術センター高架下スタジオA / 神奈川 / 2013年) 、「ヒロシマ・オー ヒロシマフクシマ」(旧日本銀行広島支店 / 広島 / 2012年) 、「中之条ビエンナーレ 2011」(旧五反田学校 / 群馬 / 2011年) など。

塚田 有那 (つかだ ありな)
編集者
早稲田大学第二文学部卒業。企画、執筆、PR、キュレーションなどを行いながら、領域横断型のプロジェクトに幅広く携わる。2010年、科学を異分野とつなぐプロジェクト「SYNAPSE」を若手研究者と共に始動。2012年から、東京エレクトロン「solaé art gallery project」のアートキュレーターを務める。現在、アジア・クリエイティブ・ネットワークのメンバーとして「ASIAN CREATIVE AWARDS」を主催。

林 道郎 (はやし みちお)
美術評論家
函館生まれ。上智大学国際教養学部教授。1999年 コロンビア大学大学院美術史学科博士号取得。2003年より現職。専門は美術史および美術批評。主な著作に『絵画は二度死ぬ、あるいは死なない』(全7冊、ART TRACEより刊行中) 。「零度の絵画—RRの呟き」(ロバート・ライマン—至福の絵画展、2004年)、「光跡に目を澄まして—宮本隆司論」(宮本隆司写真展、2004年)。共編書に『From Postwar to Postmodern: Art in Japan 1945-1989』(New York: The Museum of Modern Art, 2012) などがある。「アジアのキュビスム」展 (東京国立近代美術館、2005年) には、キュレーターとして参加。

藤森 純 (ふじもり じゅん)
弁護士
東京都生まれ、東京都在住。弁護士法人品川CS法律事務所共同代表。早稲田大学卒。民事事件、刑事事件いずれも手掛けているが、特に力を入れているのは不動産に関係する紛争案件、アート・エンターテインメント法務。クラブとクラブカルチャーを守る会のメンバーとして風営法改正のロビー活動にも携わっている。『クリエイターの渡世術』(共著) 。


このうえなくコミカルで、このうえなくヒップホップな夜 矢野利裕

 ヒップホップの醍醐味のひとつは演劇性にある、とつねづね思っている。エミネムが「Slim Shady」というオルター・エゴを持つように、ラッパーとしての表現は、ある部分においてはキャラクターを仮構することで獲得されている。
僕は、自覚があるかどうかはともかく、しっかりと演劇的に振る舞ってくれるラッパーが好きである。ハードコアな姿勢すらもコントとして捉えるような、強い演劇性を持ったラッパーに惹かれる。田我流を初めて聴いたのは『作品集 JUST』だったが、シリアスで強いメッセージ性を感じさせる一方で、どこかユーモアがあるところがとても気に入った。「墓場のDIGGER」のMVにおける田我流とBig Benは、まるで「B級映画のように」演劇性を発揮していた。さらにその後、「やべ~勢いですげー盛り上がる」のMVが最高だった。

 『死んだらどうなる』が発売される直前、stillichimiyaのライヴを初めて観た。山梨でマキタスポーツ(マキタ学級)とのツーマンだった。同郷ということで企画されたものだったが、音楽性とノベルティ性を高い水準で両立する者同士の対バンがとても楽しみだった。こういう組み合わせは、なかなかないのだ。そのライヴで、「生でどう?」の、あの往年の石橋貴明のような振付を観て、stillichimiyaから目が離せない、と思った。そして、発売された『死んだらどうなる』は、ノベルティ性も音楽性も期待を超えて高かった。けっこう感動した。BOSEとアニが、ザ・ドリフターズのように「ニンニキニキニキ」(“Get Up And Dance”)とラップした20年後、『死んだらどうなる』でstillichimiyaは、“ズンドコ節”のラップ・ヴァージョンを披露した。日本語ラップの側から、コミックソングへしっかりとアンサーをし、コミックソングとしての系譜を紡いだことは、とても重要なことだ。スチャダラパーの面々が『死んだらどうなる』にコメントを寄せていたことは、だから、とても感慨深いことであった。

 長々と書いてしまったが、ようするにstillichimiyaのコント仕立てのステージングが素晴らしかった、ということを言いたいのだ。エンタテイメントとしても素晴らしいし、音楽史的にも素晴らしい。10月5日、渋谷〈WWW〉でおこなわれたツアー・ファイナルは、Big Benが死後の世界に迷い込んだようなオープニング映像(スタジオ石制作)からはじまった。ヒップホップのライヴも、芸能の場所と考えれば、死者と生者が交歓する場所なのかもしれない。やはり、stillichimiyaはひとつの芸人集団なのだ。“うぇるかむ”に続く“Hell Train”のファンキーなトラックで、客も一気に異世界に持ってかれた。僕はほぼ最前列にいたが、冒頭からつづくテンションの高いパフォーマンスに客席は早くも興奮しており、“やべ~勢いですげー盛り上がる”でモッシュが起きた。前半数曲で、すでにへとへとだ。

 それにしても、Mr.麿という才能には惚れ惚れする。とくに、“やべ~勢いですげー盛り上がる”と“竹の子”の曲振りとなる一人コントは出色だった。あれだけ見事に、妄想の女性と踊ることができる人がいるだろうか。軽やかな身のこなし、表情の豊かさ、声のメリハリ――ラッパーというよりも舞台人としての身体性に、本当に目を奪われる。アンコールでは、なんとEXPOの曲まで披露してくれた。同じくアンコールの“莫逆の家族”で響かせた歌声も忘れがたい。
 ライヴが舞台演劇という側面を持つ以上、Mr.麿のような存在の重要性は疑うべくもない。いや、Mr.麿に限らずstillichimiyaは、誰もが舞台人としての魅力に富んでいる。これは、音盤では気づきにくい。Big Benは、ときには黒柳徹子に、ときには猫に扮してコミカルに振る舞う。すらりとしたMMMがラップをはじめると、(おもに女子の)歓声があがり気圧配置が変わる。Young-Gは、DJとラッパーの一人二役を伸び伸びとこなす。そして、田我流の華やかなラップ・スターぶり。この個性溢れる5人が横一列に並んで歌う“ズンドコ節”は、最高にヒップなコミック・ソングであった。ヒップホップに抱え込まれた芸能性が、このうえなく発揮されている。かつてノベルティ・ソングを歌った原田喜照も、だからこそstillichimiyaのライヴに召喚される。そういえば、MC時の、原田をからかうstillichimiyaとstillichimiyaに振り回される原田という構図は、完全にザ・ドリフターズといかりや長介の構図ではないか! 途中、原田の動きにYoung-Gが変な効果音を当てていたが、これも完全にコミック・バンドの文法である。この晩のハイライトは、やはり“土偶サンバ”か。サンバを器用に踊るMr.麿やMMMをわきに、ヒップホップ・ライヴの醍醐味ともいえるコール&レスポンスを煽る田我流。このうえなくコミック・バンドで、このうえなくヒップホップな、stillichimiyaの魅力が凝縮されていたようだった(“土偶サンバ”は事情により2回披露されることになったのだが、これはこれでstillichimiyaのノリがかいま見ることができて可笑しかった)。

 コミカルな面を強調したが、もちろんシリアスな面も変わらず存在している。というより、コミカルな面とシリアスな面を矛盾なく共存させることができるのが、ヒップホップの魅力でありstillichimiyaの魅力なのだ。田我流は、「土偶サンバ」に際して、現在の日本が抱える問題を語り、DIYの重要性を説いていた。たしかに田我流のリリックには、Back To Basic的なメッセージ性を感じる。しかし、一方でMr.麿は、『死んだらどうなる』について「メッセージ性ないからね」と発言している。メッセージ性は聴き手がそれぞれ受け取るとして、たとえば“だっちもねぇこんいっちょし”(原田喜照)から“You Must Learn”(KRS-ONE)まで、どんな内容でも放り込めてしまえるのがヒップホップの良さである。つまり、許容量が大きいのだ。stillichimiyaのライヴは、そんなヒップホップの許容量の大きさを存分に味わわせてくれるライヴだった。コミカルかつシリアス。ライヴ前は、DJ KENSEIによるstillichimiya関連のDJミックスが披露された。KENSEIらしく、アブストラクトなトラックと中毒的なフロウを引き立たせるような、選曲と2枚使いだった。そういえば、stillichimiyaはドープな曲も多いよね。なんせstillichimiyaは、幅広い魅力を持っているのだ。コミカルかつシリアスかつドープな夜で、おおいに満足した。まさか、「死んだらどうなる?」の答えが「土偶になる」だったとはなあ。

文:矢野利裕

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WWWの村祭 二木信

 僕は「生でどう。」ツアーの初っ端のライヴを甲府で観た。そして、stillichimiyaの地元ノリ全開の、歓待の精神にあふれたアフターパーティで遊んで、朝方に温泉まで行って、絶対にツアーファイナルも観てやろうと決めた。stillichimiyaの地元グルーヴが渋谷の〈WWW〉で爆発するところが観たかった。

 ええい、結論から言ってしまうぞ。stillichimiyaのライヴの素晴らしさは、大衆文化と土着パワーの融合によって、身内ノリを破壊力のあるエンターテイメントにまで昇華してしまうところにある。この日のライヴ後、ツイッターをながめていると、彼らのライヴをライムスターやスチャダラパーと比較しているツイートを見かけたが、この両者になくて、stillichimiyaにあるものは、土着のパワーだ。田舎もんの底力だ。この日の序盤に、会場を巻き込んではちゃめちゃな盛り上がりを演出した、お馴染みの“やべ~勢いですげー盛り上がる”は、サウス・ヒップホップだった。とにかく、いなたい。

 いまや日本のラップ界のミュージック・ヴィデオ制作に引っ張りだこの、ライヴでも重要な役割を果たしていた〈スタジオ石〉の映像を例に挙げるまでもなく、じつはセンスがいいのに、彼らのライヴや作品は少しダサくて、マヌケで、いなたい。そして、そこがすごくいい。甲府のライヴのときと同じ、おそろいの黒のスーツに身を包んだ田我流、MMM、YOUNG-G、Mr.麿、BIG BENの5人は、バブル華やかなりしころのブラコン(サングラスをかけたMMMは鈴木雅之にそっくりだ)やドリフ(“ズンドコ節”のラップ・ヴァージョン)、スキャットマン・ジョンの高速スキャットやリック・ジェームスのベースといった、一歩間違えれば(いや、間違えなくても)きわどいネタを土着のパワーでむちゃくちゃに結合させていた。もうなんでもありだ。着物とバンダナというファンキーなファッションで登場した元祖・甲州弁ラッパーの原田喜照との執拗な掛け合いがあり、Mr.麿の恋バナ漫談が会場の笑いと涙を誘う。お客さんはすべてにがっつりついていく。人、人、人で身動きの取れないパンパンの〈WWW〉のフロアは、どこか村祭りのような雰囲気さえあった。

 僕は、stillichimiyaのライヴを観て彼らに接すると、三上寛のインタヴューでの発言を思い出す。「土着のパワーなんですね。というのは音楽っていうのは元々作物ですから。やっぱり土地がないと生まれないんですよ。音楽って大根と同じですよ。それがいちばん顕著なのが声質でしょ。これは田舎の声なんですよ、わたしの声は。ジョンはね、アイリッシュとかケルトとか、あの声なんですよ」。そうだ、音楽は大根だ。いや、山梨県一宮町出身のstillichimiyaは桃だ。この日のアンコールで彼らがここぞとばかりに披露したのは、地元の一宮町について歌った“桃畑”という2009年の曲だった。

 ライヴの冒頭、「きゃあー!」「いえー!」「うおおおおー!」という嬌声や歓声が、5人が舞台に姿をあらわす前からフロアに響き渡る光景を目の当たりにしたときは、「アイドル・グループのコンサートか!?」という錯覚を覚えた。が、“桃畑”を歌う5人を観ながら、stillichimiyaは結成の2004年から何も変わっていないんだなと思った。いや、30人だったオーディエンスが300人になったかもしれない。彼らはアイドルになった。素晴らしいことだ。さらに、素晴らしいのは、快活で、爽快で、純朴な一宮の幼馴染の兄ちゃんたちがそれをやってのけていることだ。“うぇるかむ”ではじまったライヴはいちど“うぇるかむ”で幕を閉じ、最後はサンバのリズムで大団円を迎えたのだった。

うぇるかむ トンネル抜けたなら
うぇるかむ 俺の住んでる町
うぇるかむ お前が来てくれて
うぇるかむ 一緒にいてくれや
うぇるかむ ようこそ というよりも 
うぇるかむ 大空より高く
うぇるかむ 夢をあきらめないで
うぇるかむ むしろ逆に うぇるかむ stillichimiya “うぇるかむ”

文:二木信

KEIHIN (Prowler) - ele-king

2014/11/8

SOUPで体験したRyo君のLIVEが凄すぎたんで、思わず入れてしまいました。
それ以外は割りと最近の音源で選んでみたので、チェックしてみて下さい。
11/14(fri)に千葉muiで新パーティー始めます!
12/27(sat)は故郷GRASSROOTSでOPEN~LASTやります!
https://green.ap.teacup.com/grassrootstribe/

KEIHIN Twitter
https://twitter.com/KEIHIN_

Ecovillage - ele-king

 エコヴィレッジはエミール・ホームストロムとピーター・ヴィクストレームによるスウェーデンのシューゲイズ風味のエレクトロニカ・デュオである。

 彼らのデビュー・アルバム『フェニックス・アステロイド』(2009)は、アメリカのレーベル〈ダーラ〉からリリースされたことでも知られている。このアルバムは、多幸感に満ちたサウンドが魅力的で、海外メディアの評価も高かったと記憶している。同作は、日本のレーベル〈クインス・レコード〉からもリリースされたので聴かれた方も多いのではないか。
 その作風はただしく「00年代的なエレクトロニカ経由のシューゲイズ・サウンド」であった。夢見心地な電子音とギターサウンドが交錯するサイケデリック・エレクトロニカ。そう、ウルリッヒ・シュナウスに代表されるあの音。個人的にはマニュアルあたりも連想した(どうやら二人とも『フェニックス・アステロイド』を絶賛したらしい)。そのトラックは、ありがちな雰囲気ものではなく、しっかりと作り込まれた見事なもので、音楽の制作・構築に対して誠実に向き合っているという印象を持った。

 2011年には、フランスのレーベル〈ベコ・DSL〉から、シングル「ロンダ・デ・サント・ペレ」を配信。2年後の2013年には、イギリスの〈パララックス・サウンド〉からセカンド・アルバム『ウィズ・フラジャイル・ウィングス・ウィ・リーチ・ザ・サン』を配信オンリーでリリースした。
 そして本年2014年、サード・アルバム『ワン・ステップ・アヴァーヴ』がリリースされる。しっかりと作りこまれたポップ・サイケデリックなエレクトロニック・アンビエント・アルバムだ。アンビエント? そう、『ワン・ステップ・アヴァーヴ』は、これまでの彼らのアルバムに比べ、ヴォーカルが大幅に減少し、まるでマニュエル・ゲッチングのエレクトロニカ版とでも形容したい桃源郷の音世界が展開しているのである。この変化に最初こそ驚いたものの、いままでもシューゲイズの霧のむこうにアンビエントな音世界が展開していたのだから、むしろ必然的な進化といえよう。ヴォーカルは音の層の中に溶け込んでいったのだから(声はドローン的な音響となってレイヤーされている)。
 さらに注目すべきは、緻密にしてダイナミックビートのプログラミングである。曲によってはヒップホップ的なブレイク・ビーツ感も醸し出されており、それが楽曲全体にポップネスを与えているようにも思えた。
 緻密なサウンド・メイクはビートだけではない。上モノの太陽の光のようなアンビエンス/アンビエントな層も、太陽のように眩いギター・フレーズも、ビートとともにボトムを支える多彩なベース・ラインも、ひとつひとつがじっくりと旋律や音色が選ばれているように感じた。登山のように山頂を目指して一歩一歩、時間をかけて制作されたアルバムともいえるだろう。

 だからといって堅苦しい音楽ではけっしてない。どの曲も陽光のような心地よさを放つサイケデリック・エレクトロニクス・アンビエント・ミュージックだ。
 1曲め“ユー・ゴッド・ミー”は、マニュエル・ゲッチングからマーク・マクガイアを思わせるミニマル/サイケデリックなギターの音からはじまり、聴き手をこの上ない多幸感へと誘う。やがて深いキックのビートが加わり、トラックは、さらにダイナミックに。上モノはギターに加え、柔らかいシンセ音も鳴り、まるで自然の陽光のような眩さを放つ。
 つづく2曲め“エターナル・サンライズ”は、ブレイク・ビーツ風のビートに、シンセのアンビエンス、エレピのような軽やかな音が重なり耳をくすぐる。3曲め“イット・ウィンド・エンド・イン・テアーズ”では、スローなダウンテンポなトラックが展開され、4曲め“ウィンズ・オブ・ザ・モーニング”では、オールドスクールなシンセベース音に、リヴァーブの効いたキック&スネア、ダイナミック/サイケデリックな電子音が交錯していく。
 以降の楽曲も、ビート、アンビエント、サイケデリック感が交錯し、天国へと上昇するような、もしくは睡眠の底へと潜るような快楽を与えてくれる。そして、ラスト10曲めアンビエント・トラック“モメンツ・オブ・ディヴァイン・ハーモニー”にたどりつく頃には深い安息の中にいるだろう。そして、さらなるリピートへ……。

 このアルバムには、何度も聴きたくなる魅力がある。心地よいエレクトロニクス・アンビエントだからという理由もあるが、何よりも緻密に丁寧に、まるで工芸品を磨き上げるように作られた楽曲群だからではないかと思う。エコヴィレッジは「アルバムを作る」ということに非常に誠実に向き合っている。そのアルバム制作への誠実さは、一曲、一曲すべてに行き届いた細やかな音への気配りに、しっかりと現れているように思える。だからこそ聴き手は、彼らの作り出す音のシェルター(決してネガティブな意味ではない)に安心して入り込んでいけるのではないか。

 エコヴィレッジ。彼らはエレクトロニカ時代の自然主義だ。その「自然」はエレクトロニクスよって生まれた人工的なものかも知れないが、とても安心できる自然=音楽空間なのである。いわばシェルターとしての人工的な自然感覚。私はこれからも何度も本作をリピートするだろう。この天国的な音の横溢を耳に注入し、騒がしい世界から(ひとときの)離脱をするために……。

Sugiurumn - ele-king

 スギウラム、ワイルドで、情熱的な、ベテランDJ……。ハウス、トランス、ロック、ブレイクビート、ミニマル、この男にジャンルがあるとしたら、ダンス・ミュージックってことのみ。踊れるってことがもっとも重要なんだよ。
 スギウラムは、90年代初頭に活躍した日本のインディ・ロック・バンド、エレクトリック・グラス・バルーンのメンバーとしてシーンで頭角をあらわすと、インディ・ダンスのDJとしての活動をおっぱじめて、ずーっとDJであり続けている。ハッピー・マンデイズのベズが彼のトラックで歌ったこともあるし、イビサではパチャのメイン・フロアを沸かせたこともある、京都では24時間ぶっ通しでプレイした。電気グルーヴのリミックスも手がけている。ほんとにいろんなことをやってきた。
 スギウラムが主宰する〈BASS WORKS RECORDINGS〉がレーベル初となるオリジナル・アルバムをリリースする。
 実は〈BASS WORKS RECORDINGS〉は、2013年の4月から、毎週水曜日に新曲をリリースするという、週刊リリースを続けている。この11月、週刊リリースが前人未踏の80週を超えた。配信だからできることだが、しかし、個人でここまでオーガナイズするのは並大抵のことじゃない。
 この1年半のあいだにリリースした楽曲数は250曲以上。アーティスト、リミキサーなどの顔ぶれをみれば、ハウス、テクノ、若手、ベテラン、アンダーグラウンドなどなど、ジャンルや世代を超えて数多くの人たちが参加していることがわかるが、こんなバレアリックな離れ業ができるのもスギウラムだからだろう。

 スギウラムが満を持してレーベル初のオリジナル・アルバムとして、自身の作品『20xx』をリリースする。初のフィジカルCDリリースだ。研ぎ澄まされたテック・ハウス満載で、彼自身がDJブースとダンスフロアから学び取ってきたスピリットの結晶である。この20年、日本のパーティ・シーンをつっぱしてきた男のソウルを聴こうじゃないか!

https://bass-works-recordings.com

SUGIURUMN / Seventy-Seven



SUGIURUMN - 20xx
BASS WORKS RECORDINGS

 先日はele-kingでも合評を掲載! ディアフーフが結成20周年と新作リリースを記念して大ツアーを敢行する。12月2日の代官山〈UNIT〉を皮切りに全国11都市にて13公演。20年経ってもいまだリアルなシーンに緊張感を生み、古びない音と世界観を提示しつづけている彼らは、今回も必ずや記憶に残るライヴを披露してくれるだろう。

 新作『La Isla Bonita』から公開中の“Mirror Monster”MVを再生しながらチェックしよう!




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