「Nothing」と一致するもの

 90年代のドラムンベース・シーンが生んだスター、ゴールディー。彼のレーベル〈メタルヘッズ〉は今年で20年を迎える(1994年は、ドラムンベースが最初に爆発した年でもあった)。ワックス・ドクター、ディリンジャ、ドック・スコット、アレックス・リース、フォーテックなどなど、ハードコア〜ドラムンベース〜ダークコア/アートコア……、レイヴ・ミュージックをより音楽的に洗練させたこのレーベル(そして4ヒーローの〈リーンフォースト〉)があればこそ、今日のUKベース・ミュージックがあると言っても過言ではない。マーラ、アントールド、アコードなども〈メタルヘッズ〉からの影響を認めている。
 今週末、ゴールディーは盟友ドック・スコットと共に東京でプレイ。彼らがどのようなプレイをするのか是非体感してほしい。日本からはマコトやDX、テツジ・タナカなど、国内のドラムンベース・シーンの第一線で活躍するDJたちも出演。

DBS 18th Anniversary
"METALHEADZ HISTORY SESSIONS"

2014年12月20日
@代官山ユニット

OPEN/START 23:30
CHARGE:ADV 3,300YEN  DOOR 3,800YEN

feat.
GOLDIE x DOC SCOTT

with.
MAKOTO
TENDAI
MC CARDZ
MC LUCID

vj/laser: SO IN THE HOUSE
live painting: The Spilt Ink

SALOON:
DX x JUN
TETSUJI TANAKA x DJ MIYU
STITCH x PRETTY BWOY
DJ DON x JUNGLE ROCK
DUBTRO x HELKTRAM

info. 03.5459.8630 UNIT
www.unit-tokyo.com
https://www.dbs-tokyo.com

<UNIT>
Za HOUSE BLD. 1-34-17 EBISU-NISHI, SHIBUYA-KU, TOKYO
tel.03-5459-8630
www.unit-tokyo.com

Ticket outlets:NOW ON SALE!
PIA (0570-02-9999/P-code: 246-233)、 LAWSON (L-code: 78221)、
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia/https://www.clubberia.com/store/

渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)、TECHNIQUE(5458-4143)、GANBAN(3477-5701)
代官山/UNIT (5459-8630)、Bonjour Records (5458-6020)
原宿/GLOCAL RECORDS (090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、JET SET TOKYO (5452-2262)、
disk union CLUB MUSIC SHOP (5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)、Dub Store Record Mart (3364-5251)
吉祥寺/Jar-Beat Record (0422-42-4877)、disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)

GOLDIE (aka RUFIGE KRU, Metalheadz, UK)
"KING OF DRUM & BASS"、ゴールディー。80年代にUK屈指のグラフィティ・アーティストとして名を馳せ、92年に4ヒーローのReinforcedからRUFIGE KRU名義でリリースを開始、ダークコアと呼ばれたハードコア・ブレイクビーツの新潮流を築く。94年にはレーベル、Metalheadzを始動。自身は95年にFFRRから1st.アルバム『TIMELESS』を発表、ドラム&ベースの金字塔となる。98年の『SATURNZ RETURN』はKRSワン、ノエル・ギャラガーらをゲストに迎え、ヒップホップ、ロックとのクロスオーヴァーを示す。その後はレーベル運営、DJ活動、俳優業に多忙を極めるが07年、RUFIGE KRU名義で『MALICE IN WONDERLAND』をMetalheadzから発表、08年に自伝的映画のサウンドトラックとなるアルバム『SINE TEMPUS』を配信で発表。09年にはRUFIGE KRU名義の『MEMOIRS OF AN AFTERLIFE』をリリース、またアートの分野でも個展を開催する等、英国が生んだ現代希有のアーティストとして精力的な活動を続けている。12年、Metalheadzの通算100リリースに渾身のシングル"Freedom"を発表。13年には新曲を含む初のコンピレーション『THE ALCHEMIST: THE BEST OF 1992-2012』をCD3枚組でリリース。そして今年7月、ロンドンの名門クラブ、Ministry of SoundからのヴィンテージMIXシリーズ『MASTERPIECE』の3枚組CDを発表している。
https://www.goldie.co.uk/
https://www.metalheadz.co.uk/
https://www.facebook.com/Goldie
https://twitter.com/MRGOLDIE

DOC SCOTT (aka NASTY HABITS, 31/Metalheadz, UK)
"King of the Rollers"と称される至高のDJ、ドック・スコットはダークコア、テックステップ、リキッドファンク等の潮流を生む革命的トラックの数々でドラム&ベース・シーンの頂点に君臨する最重要アーティストの一人である。14歳よりヒップホップDJを開始。その後、デトロイト・テクノ/シカゴ・アシッドハウスに触発され'91年から制作を始め、第1作"Surgery"がグルーヴライダーの支持で大ヒット、ハードコア・テクノ/レイヴ・シーンに頭角を現わす。華やかなレイヴ時代の終焉と暗い現代社会を反映したダークかつハードなサウンド、ダークコアを先駆けた彼は、ドック・スコット及びナスティ・ハビッツの名義で"Drumz"、"Dark Angel"、"Last Action Hero"等の傑作をReinforced、Metalheadzから送り出し、ドラム&ベースの革新に貢献する。'95年には自己のレーベル、31を設立し、"Shadow Boxing"に代表されるテックステップと呼ばれるサイバー・サウンドの急先鋒となり、オプティカル、ペンデュラムらの才能を逸早く見いだした。DJとしては伝説のMetalheadz Sunday Sessionsのレジデントをつとめ、シャープなミキシングと独自のプログラミング・スキルでクラウドを絶頂へ誘う、シーンの至宝である。実に7年ぶり、待望のDBS帰還!
https://www.facebook.com/DOCSCOTTOFFICIAL
https://twitter.com/docscott31
https://soundcloud.com/docscott31


デンシノオト - ele-king

2014年 年間ベスト・アルバム

Sound Patrol - ele-king

 萩原健太さんはオソロしい。何日も何日もぶっ続けで『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』を書きつづけ、ということは、その間も繰り返しボブ・ディランを聴きつづけ、ほぼ400ページを書き終えたと思ったら、「じゃー、ボブ・ディランでも聴くかな」と、実際に聴いたそうなのである。信じられない。僕はといえば、今年は1月2日から『ハウス・ディフィニティヴ』のために何万曲というハウス・ミュージックを聴きつづけ、2ヵ月を過ぎた頃にはハウスが嫌いになってきて、3月もなかばになると、憎しみさえ芽生えつつあったというのに。時間に追われながら、来る日も来る日もトントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントンヘイヘイホートントントントントントントントントントントントントントントン……(足立正生『幽閉者 テロリスト』参照)。もう、とにかくほかのリズムが聴きたかった。ハウスというより、4つ打ちのリズムが拷問だった。そのときは何を聴いたのか忘れてしまったけれど、ようやく『ele-king Vol.15』の編集作業から解放され、特集と関係ないものが聴けるようになったら……以下のようなものに埋没しているわけですね。細かく調べるのは面倒くさいので、正確なことが知りたい人は竹内正太郎のツイッターをフォローしてくださいね(間違っていたら、きっと彼が調べてくれる……)。校了してから聴きはじめたので、ここに挙げたものは年末号には載っていません!


felicita / Mmmhm


 フェリチータ。イタリア語で「幸せ」。思わずミニ・アルバムを買ってしまいましたが、「幸せ」というのにはあまりにアヴァンギャルド。ロンドンに住むアジア系の女性だそうです。ケロ・ケロ・ボニトに対するマウス・オン・マースからのアンサーか。

Night & Tickets / August Morning In My City

 フィッシュマンズをドローン化させたような1曲。これも思わずカセットを買ってしまいましたが、こういうのはコレだけでした。アルバム・タイトルは『本当に夏が嫌いなんだよ(actually i really hate summer)で、どうやらロシアの人らしい。

Rabit / Sun Dragon


 何が起きているのか考えたくないグライムの新星。ロティック(Lotic)とかテキ・ラテックス(TTC)とかロクな人がミックスに使ってません。スラック(Slackk)といい、2015年はグライムですね(希望的観測)。

Raaskalbomfukkerz


 アムステルダムでスクォッテイングをしている人たちだそうです。ノイエ・ドイッチェ・ヴェレをちょっとヒネッた感じ。手術前の患者の体を使って演奏するとか、スウェーデンの『サウンド・オブ・ノイズ』という映画と発想が似てるのかな。

Vince Staples / Blue Suede


 これはもうあちこちで騒がれてます。西海岸のラッパーです。ジェイ・ミルズ“フー”を悲しいモードに切り替えた感じ?

Gypsy Mamba / BLESS THA RATCHET


 西海岸からまた変り種。ルーマニア系だそうです。あったようななかったような。EPには入ってなかった。

Nederlandse Maatschappij Ontwikkeling / Full Spectrum Intercourse


 アムステルダムの2人組。ひとりはジャズ系のようで、タイコたたきまくりのちょっと変わったミニマル。

Russo / Purple Earth


 トーン・ホークのレーベルからデビューしたアリ・ルッソのデビュー・シングル。この人もニューヨークの映像作家だそうです。

NxxxxxS / Vaporlove


 デビュー・アルバムも出ましたが、これはそれ以前の曲。渋谷のスクラッブル交差点を映せば、なんでもヴェイパーウェイヴになると思ってるだろー。「エヌ・ファイヴ・エックシーズ」と読むみたい。パリから。

One Circle / Transparency


 コード9が持ち上げていたイタリアのダブステップ、ヴァーゲ・ステーレことダニエル・マナがセーラーかんな子のDJチャートでもおなじみスターゲイトことロレンツォ・センニらと組んだグライムの変り種。

(おまけ)

Dinner Music / Blood Quantum 2013


DJ WADA (Dirreta, Sublime) - ele-king

12月Dirretaより2枚目のアナログEP 「Flax, SaivoA13」発売されました。
皆様よろしくお願いします!
https://www.facebook.com/beetbeat?ref=hl
https://www.facebook.com/beetbeat/app_109770245765922
https://soundcloud.com/dj_wada

 

Powell - ele-king

 90年代のエレキングに寄稿していたイギリス人から「パウウェルを紹介しなきゃまずいだろ」と言われたので、聴いた。なるほど面白い。とくにリズムに個性がある。
 『11 - 14』は、アンダーグラウンドでの名声をたしかなものにした5枚のシングルの編集盤。2011年に自身の〈Diagonal〉からデビューした彼は、少ないリリースでリスナーの心掴み、自分のレーベルからはデス・コメット・クルー(ラメルジーが在籍したことで知られる)やラッセル・ハズウェル(メゴからの作品や秋田昌美との共作で知られる)といったアンダーグラウンドの大御所の作品まで出してファンの信頼をたしかなものにしている。〈ミュート〉傘下の〈Liberation Technologies〉(ローレル・ヘイローの新ユニットやマーク・フェルもソロを出している)からも作品を出し、〈The Death Of Rave〉からのシングルも話題になった。

 リズムが面白いといっても、パウウェルは、アフリカ直系のリズムではない。巷では、「インダストリル」という言葉で形容されているようだが、パウウェルのリズムは、ポリリズムを好むデリック・メイというよりは、スリーフォード・モッズのほうに似ている。ポストパンクめいているのだ。機能的なミニマル・テクノと違って、あるいは闇雲にドープなインダストリアルよりも明らかにパンキッシュで、たとえば6曲目の“Rider”などは現代版「デス・ディスコ」というか、PiLやフォールを、8曲目の“Grand Street”はザ・スリッツを、11曲目の“So We Went Electric”はワイヤーを、さらに骨組みだけに削ぎ落としたように思える。
 こう書いていると10年前のポストパンク・リヴァイヴァルを思い出す人もいるだろうけれど、パウウェルにはノスタルジーやディスコめいた感覚はないし、〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉ほどヴィジュアル重視でもない。アクトレスの1曲目をポストパンクに変換したというか、そういう意味で2014年は、アクトレスにはじまりアクトレスに終わったとも言えるのか……パンクが好きな人なら14曲目の“Fizz”なんか身体を動かさずにはいられないだろう。

 グローバリゼーションに牙をむく地方のちんぴらオヤジの最新パンク(しかもメンバーのひとりは元々はIDM系という考えさせられる経歴……以下、紙エレキングvol.15参照)と、ちょっとインテリジェントなロンドンのテクノ・ミュージックと同じ扱いにするには無理があるのかもしれないけれど、しかし、リズム感というのは本人の自覚が無くても何かを物語っていることが多い。
 

Phew - ele-king

 いつだったか、Phewがツイッターで「後衛を期待した前衛なんて、くそくらえだ」とつぶやいているのを目にしてすこぶる気分が高まったりもしたのだが、近年の彼女のあまりにも独創的な声とエレクトロニクス、そして、いつになく活動的でひたすら攻めまくる一挙手一投足からはまったくもって目と耳が離せない。はらはらどきどき、というか、おっかなびっくり、というか。わくわくする、というか、ぶるぶるする、というか。背筋が伸びる、というか、背筋が凍る、というか。個人的な話になるけど、学生時代に後追いながらもニューウェイヴに出会い、とりわけキャバレー・ヴォルテール、レインコーツ、レッド・クレイオラ、ヤング・マーブル・ジャイアンツ、ディス・ヒートら〈ラフ・トレード〉周辺の音楽や〈ノイエ・ドイチェ・ヴェレ〉のあれこれに夢中になっていた頃の発見の連続、そんなスリルとテンションを思い出させてくれる。

 2010年にソロ名義としては15年ぶりの全編カヴァー・アルバム『ファイヴ・フィンガー・ディスカウント〜万引き』(寺山修司、永六輔/中村八大、加藤和彦/フォーク・クルセダーズ、坂本龍一からエルヴィス・プレスリーまで取りあげている)をリリースして以降、声というよりも(古いカヴァーであるがゆえに、逆にいまの時代と向き合った)歌を前面に押し出した活動が続いていたが、漫画家・小林エリカとのユニット=プロジェクト・アンダーク(音楽はクラスターのディーター・メビウスが担当)を始動したあたりから、Phewの表現方法がより意識的になり、さらなる広がりと鋭さを増したような気がする。第一次大戦後、ニュージャージー州のラジウム工場での夜光塗料の塗装作業中に被爆したラジウム・ガールたちを、悲劇的にではなく、古き良きフラッパーの時代に目いっぱいオシャレした、高給取りの華やいだ女性として描いたラジウム・オペラは、Phewと小林によるテキスト&リーディングがメビウスのエレクトロニクスと融け合って妖しくも美しく蛍光緑に発光していた。

 そんなプロジェクト・アンダークを経て(3.11以降と言ってもいいだろう)たどり着いたPhewの新しいライフワークとでも呼びたくなる宅録エレクトロニクス作品が、3種類のCD-Rという形で自主リリースされた。当初はライヴ会場のみで販売されていたものだが、現在は通販サイトからも入手可能となっているので、機を逃して、もしくは彼女の気まぐれで生産終了にならないうちに手に入れておきたいところだ(https://phew.stores.jp/)。これは、今年リリースされた電子音響作品のなかでも抜きんでて刺激的な作品だから。

 自ら「電気弾き語り」と呼ぶこの作品。冒頭でも述べたように、筆者が知るかぎりデビュー以来(79年にアーント・サリーでデビューしているから数えて35年!)もっとも活動的なPhewの「現在進行形」をもれなく真空パックしたもので、わんさか出てくる彼女にまつわる歴史的音楽事象──それは日本最初期のパンクだったり、坂本龍一とのコラボだったり、ドイツの重鎮たちとの交流だったり、ゴールデン・パロミノス周辺とのからみだったり、ノヴォ・トノだったり、ビッグ・ピクチャーだったり、モストだったり、ラジウム・ガールズだったり──とつながっているようでどれとも違う、もう一つ向こう側にあるまっさらな境地を拓いたものである。信じられないけど、Phewの新しいデビュー作を聴いているようなのだ!

 卓上に所せましと並べられた数々のアナログ機材を駆使して鳴らされる発振音。時に重厚に、時に柔らかく。軋むノイズから忘我の一瞬を永遠に引き延ばすかのようなドローンまで。そこに不意に差しこまれるヴィンテージのリズムマシンのビートが、まるでコニー・プランクの霊が宿っているかのように、鋭敏にして温もりのある唐突な存在感をもって立体的に立ち上がる。この質感。ビリビリくる。『01』の曲名に“アンテナ”“ドローン”“ニュー・ワールド”とあるように、まさに電波の新世界。また、『02』の1曲めに無線通信における一括呼び出しの略符号「CQ」をタイトルに掲げた“CQ トーキョー”なんて曲があるように、もはや彼女そのものが電子の一つと化したような、いやちがうな、まるで呼吸をするように極めて自然に電子と手を取り合うPhew(なんと日本のオリジナル・パンクロッカーは電信士の資格をもっている!)の音がある。そんな電子の波に身を任せるように大きく身体と頭を揺らしながら発せられる声。抑揚のなさが抑揚となり、冷めた言葉が抽象的な電子音響に熱を与える。ぽつぽつとした呟き、ざわざわとした囁き、詰めこまれる早口な言葉の羅列にぞくぞくする絶叫。また、時おり、それらの声が変調され、テープ・エコーが仕掛けられたりして、あちこち飛び交ったりするのだからもう、目の前は一瞬にしてはるか彼方。ずっと向こうの果てにまで響く声と電子音は、まだ認識されていない「ニュー・ワールド」の扉をこじ開けてどこまでもどこまでもこだまして……やがてどこかに消えていく……。

 『ファイヴ・フィンガー・ディスカウント』でのカヴァーもしかり、プロジェクト・アンダークでのラジウム・ガールズもしかり、本CD-R作品で使用されている多くのヴィンテージ機材もしかり。近年のPhewは運命的ともいえるタイミングで過去のアイデアを引き寄せ、強い探究心でそこに新しい光沢を与える。そして、そのアイデアに重きを置くのではなく、ただそれを追憶するのでもなく、いまとしっかり線でつながりながらも、過去にあった点からは遠く遠く離れたところにある聴点にピントを合わせた電子エクスペリエンスをさらりと差し出してくれる。
 3枚の作品のなかのハイライトともいえる『03』に収録された“Mata Aimasyou”が圧巻だ。初期衝動とも熟練の技ともまったくちがう、急進的で、反骨的で、この世ならぬ音を繰り出すPhew。

また あいましょう
どこかで いつか また
あえるでしょう
そのうちに きっと また
あえるでしょう

 コンクリートのように寒ざむとしたドローンノイズを背景に、ぬっと立ち現れる声と口笛。凛とした姿勢をくずさず、折り目正しくいながらも、語りかけるように、危ういトーンで、がらんどうのような未来をつつつとつむぐ。静寂な死のにおいも漂わせる、異様な緊張感に包まれた声の震えが空気を伝わりこちらの耳に届くとき、じりじりと迫るもの恐ろしい感覚。同時におとずれる得体の知れない感動……この気高いユーモア、香り立つDIY精神には、ただもう畏まるしかない。

保坂和志 - ele-king

 「たびたびあなたに話してきたことだが僕は鎌倉が好きだ」この書き出しはヴィクトル・ユーゴーの『ライン河幻想紀行』から借用した、とそれこそ保坂さんはたびたび語っておられる。先日の『朝露通信』の刊行記念のトークでもいっていた。そうやってはじまる『朝露通信』は読売新聞夕刊紙連載の新聞小説で、単行本化にあたり、連載1回分をひと見開きに、2013年11月から今年6月までの185回をおさめたこの本は、『未明の闘争』以後であらたな領域にはいった保坂和志の『未明の闘争』以後の、こういってよければ、いくらか凪いだてざわりの中編である。

 物語は冒頭のとおり鎌倉と、3歳まで暮らした山梨の情景と記憶が錯綜するというより、入れ子状になったというより、まるでパズルのピースがちりぢりになりながら、関係するその全体が動いていくたたずまいをみせる。保坂和志は同じくトークで、2枚強(800字とちょっと)の文字数のなかで、右から左へ読みすすめるうちに右に書いてあったことを忘れる書き方をこころみたといっている。それは小説の制度と形式にたいする保坂和志のデビューから一貫する違和というより恒常的な思考の再帰であり、『未明の闘争』という大仕事を終えたあとであっても、その問題意識にはいささかのゆらぎもない。いやゆらぎはなくはない、水面は凪いでいても明鏡止水の状態などではなく、三千世界を映しだす朝露は静的なようでいながらふるふるふるえ、次の瞬間には蓮の葉から流れ落ちる、そのようなゆらぎ方で『朝露通信』はせわしなく過去をゆききする。

 幼稚園に小学校、そのころ流行った遊びにテレビに音楽にマンガ、1956年生まれの作者にとっての子ども時代だから1960年代を中心とした記憶のピースが散りばめられる。奈緒子姉に英樹と清人の兄、過去作品にも登場した人物がここにもひょっこり顔を出し、『カンバセイション・ピース』の舞台となった山梨の実家を鎌倉に移った高志は休みのたびに何度もおとずれる。私は発売中の『音楽談義』の取材で今年8月21日そこをおとずれた。甲州街道は調布をすぎ相模湖をかすめるあたりからどんどん山深くなり、トンネルを抜け甲府盆地にはいり、笛吹川と釜無川の合流する富士川にかかった橋をこえたとき、『朝露通信』にあるようにたしかにのぼり勾配になっている感触を車内でも感じた。保坂さんの母方のご実家におじゃますると、『カンバセイション・ピース』で描写されたとおりの間取りがそこにほんとうにあっていたく感激した。東西に縦に長い建物で、玄関からの二間つづく部屋の縁側がL字型にとりまき、階段は吹き抜けになって東の窓から陽がさしている、そこからの写真は『音楽談義』の187ページに載っているのでぜひ手にとってみてください。

 とはいえ『朝露通信』は『カンバセイション・ピース』のように稠密な細部を読み風景をたちあげるのではなく、家から外へ、ひととひとのかかわりが育む生活のなかへ思いを遊ばせていく。そのうち、冒頭の二人称であったはずの「あなた」は作中に回収され、現在時の作者とともに東北を旅することになるだろう。すると北上川(またしても川だ)をわたる前の平坦なまっすぐな道を郵便配達のオートバイが猛スピードで走っていく。この場面(28回)はとても印象深い。そのすこし前にはこうある。「郵便配達夫というとどうしてもシュヴァルのことを書かなくてはいられない」
 ここでいうシュヴァルとは「シュヴァルの理想宮」のシュヴァルである。
 保坂和志はおりにふれシュヴァルのことを書いてきたが、私は1990年の夏、壁がなくなった後のベルリンを見たいと、ドイツ在住の叔母を頼って渡独したついでに理想宮にもいったのは叔母の夫であるドイツ人のピーター(ドイツ語では「ペーター」)に、マサト(ドイツ語では「マザトゥ」)、おまえのオヤジは郵便屋らしいなと訊かれ、私は「ヤー」といった。
 「祖父も曾祖父もポストオフィサーだった」私の答えにピーターは「?」といったふうに首を傾げながらも「だったらなおさらだ。シュヴァルの理想宮にいったらどうだ。パリで美術館をめぐりするより価値がある、なにせ郵便屋がひとりでつくったものだからな」とつづけた。
 叔母は大学だか短大だか、それとも学校とは関係なく当時奄美のひとたちにとっての東京である大阪(横浜にあたるのが尼崎)に出てきて、どういうめぐりあわせか知らないがジャズ喫茶をはじめたのはいいがある日突然店をたたみ、メールスのジャズ祭にいくといったきり日本に戻らず、向こうで所帯をかまえた、その連れ合いがピーターなのだが、彼は船の設計の仕事をしていたものの、そのときは勤め先を告発したかどでクビになりかつての雇い主と係争中の変わり者だと私の母はいっていた。私はシュヴァルなんて聞いたこともなかったが、そういったピーターの窄まった真剣な目つきはよく憶えていて、数ヶ月欧州大陸をうろついたあげく、イギリスからフランスに戻り、パリから電車とバスの本数がすくなかったのでヒッチハイクで私は理想宮にたどりついた。その偉容は思ったより小ぶりなせいでかえって異様さを増し、浜際の隆起珊瑚がなにかを象っているように見えるのに似ているものの、自然の造形よりはあたりまえだが人工的――なのに構造物が自己増殖するようないまだ途上の不安定さと、なにかが発生することが根源的にもつ構築への意思のようなものを同時に、というより一挙に感じさせた。あらゆる様式の元がある建築の「胚」みたいだった。私はそのときはバルセロナにはいかなかったので、ガウディ建築は目にしなかったのだけど、サグラダ・ファミリアを見てもきっと理想宮に含まれていると思ったにちがいない。

 といったとりとめのないことを『朝露通信』は思い起こさせる。しかしそれだけではない。

 たとえば95回はこんな一文ではじまる。
「僕はもしあと十年遅く生まれていたら小説を書いてないで音楽をやっていたと自分で確信する、僕は音感は楽譜的に悪いというか学校で習う音楽的に悪いというか、とにかくろくなもんじゃないから音楽をやっていたとしてもきっと成功しなかっただろう、でもそんなこと関係ない、「そんなこと関係ない」という生き方の証明と実践こそが僕にとっての音楽だ、」
 私はこれを読んで胸が熱くなった。これこそロックの原点だ。私はあと10年遅く生まれたなら音楽にかかわっていただろうか。その仮定は検証できないから意味はない、と看破することはしかし悪い大人のいい方でしかない。ましてやノスタルジーなどでもない。そしてこの一文は『朝露通信』のまさに10年後の世界である70年代を(おもに)語った『音楽談義』ともたぶんに響きあっている。『朝露通信』と『音楽談義』との関係は、保坂さんは前者を書いていた裏で湯浅さんと後者をしゃべっていたからだけではない。音楽から、虚構や批評、もっといえば歴史と私たちひとりひとりの記憶にいたるまで、放っておけば奥行きを失いがちなものへ、同学年のふたりが記憶をもちよることで光をあてなおす作業だったかもしれない、余白を埋めながらあたらしい余白をつくりだしたのかもしれない、というようなことをあさってのトークではお話しするかもしれませんし、あさっての方向にいくかもしれませんが、ともあれ、みなさん、12月14日は万障お繰り合わせのうえ、青山ブックセンター本店へぜひおこしください!

■『音楽談義 Music Conversations』(Pヴァイン)刊行記念
保坂和志×湯浅学 トークイベント

 それぞれ小説家と音楽評論家として活躍する同学年のふたりが、おもに70~80年代のロック、ポップス、歌謡曲までを語り明かす、紙『ele-king』の同名人気連載が『音楽談義 Music Conversations』としてついに単行本化! 音楽論にして文学論であるばかりか、時代論で人生論。他の記事とは圧倒的に流れる時間の異なるこのゆったり対談は、このスピードでしか拾えない宝物のような言葉と発見とにあふれています。今回はその番外出張版トークイヴェント! 雑誌のほうでは毎度紙幅の都合で泣く泣くカットする部分もありますが、
イヴェントとこの新刊(保坂氏ゆかりの山梨での出張対談を含め、8時間におよぶ追加対談を含めた充実の内容!)はそんな部分もばっちり収録のディレクターズカット版。
このふたりにしか出せないグルーヴを堪能してください!

■概要
日時 2014年 12月 14日 (日)
開場 14:30~
開始 15:00~
料金 1,080円(税込)
定員 110名様
会場 本店 大教室
お問合せ先 青山ブックセンター 本店
03-5485-5511 (10:00~22:00)
ウェブサイト https://www.aoyamabc.jp/event/hosaka-yuasa/

■著者紹介
保坂和志(ほさか・かずし)
1956年山梨県生まれ。90年『プレーンソング』でデビュー。93年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、95年『この人の閾(いき)』で芥川賞、97年『季節の記憶』で谷崎潤一郎賞、平林たい子文学賞を受賞。著書に『カンバセーション・ピース』『小説修業』(小島信夫との共著)『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』『小説、世界の奏でる音楽』『カフカ式練習帳』『考える練習』など。2013年『未明の闘争』で野間文芸賞受賞。近刊に『朝露通信』。
湯浅学(ゆあさ・まなぶ)
1957年神奈川県生まれ。著書に『音海』『音山』『人情山脈の逆襲』『嗚呼、名盤』『あなのかなたに』『音楽が降りてくる』『音楽を迎えにゆく』『アナログ・ミステリー・ツアー 世界のビートルズ1962-1966』『~1967-1970』『ボブ・ディラン ロックの精霊』(岩波新書)など。「幻の名盤解放同盟」常務。バンド「湯浅湾」リーダーとして『港』『砂潮』など。近刊に『ミュージック・マガジン』誌の連載をまとめた『てなもんやSUN RA伝 音盤でたどる土星から来たジャズ偉人の歩み』(ele-king books)がある。

■書籍情報

Amazon

『音楽談義 Music Conversations』
70年代、僕たちは何を聴いていただろう。
ボブ・ディラン、レッド・ツェッペリンから、歌謡曲、フォーク、ジャズまで! 保坂和志と湯浅学が語りつくす。
レコードへの偏愛を語り、風景が立ち上がる。
小説家、保坂和志。音楽評論家、湯浅学。同学年のふたりが語るフォーク、ロック、ジャズ。音楽メディアでも文芸誌でも絶対に読めない、自由奔放な音楽談義。
著:保坂和志・湯浅学
発売日:2014年11月28日
四六判、ソフトカバー、全256頁
定価:本体1,800円(税別)


ゴーン・ガール - ele-king

 尋ねる人間を間違っているとしか思えないのだが、ごく稀に「デートにオススメの映画ってある?」と質問されることがあり、面倒なので「映画とは基本的にひとりで観るものであって、デートに“使える”ものではありません」と答えるようにしている。すると相手は訊く人間を間違えたという顔をするのだが(だから間違ってるんだってば!)、困ったことに今年はこのクリスマス・シーズン、僕のイチオシのデート映画がある……それがデヴィッド・フィンチャーの新作『ゴーン・ガール』で、なぜならこれは一種のロマンティック・コメディになっているからだ。

 原作は女性作家ギリアン・フリンの同名小説。ミズーリ州の子どものいないある夫婦の妻が、5年めの結婚記念日の朝に失踪する。現場となった自宅には争った跡があり、そして大量に血を拭きとった反応が出てきており、さて……というところから物語は始まる。原作を読むにしても映画を観るにしても、これ以上中身について知らないほうが楽しめることは間違いないので、できるだけ前情報を入れずに劇場に足を運んでほしいと思う。犯人は誰なのか? トリックは? などと普通のミステリーの観方をしていると、ド肝抜かれること間違いなしだ。
 だから以下の文章は余計な情報に過ぎない。が、ひとつ言いたいのは、これは世間を覆うミソジニーに対するブラック・コメディになっているということである。原作もけっこう笑いながら読んだけれども、映画は相当笑いながら観た。ベン・アフレックによる呆けた顔の鈍感なハンサムくんがあまりにもピッタリ過ぎて、ロザムンド・パイク(『ワールズ・エンド』のヒロインのイギリス人女優です)演じる「手に負えない女」の見事さと相まって、2人のベスト・カップルぶりを見ているだけで愉しい。ここで描かれるような女が怖い男(たち)と、そのことにひるまない女(たち)の闘いはたぶん、今日も世界のあらゆるところで繰り広げられている。思えば、『セブン』、『ファイト・クラブ』、『ゾディアック』、『ソーシャル・ネットワーク』と、その代表作において基本的に「男どもの映画」を撮ってきたフィンチャーは、前作にあたる『ドラゴン・タトゥーの女』と本作では、かつて『エイリアン3』や『パニック・ルーム』でやろうとしていた(そしてあまりうまくいっていなかった)闘う女についての映画にあらためて取り組もうとしているのではないか。その意味では本作の脚本を原作者のフリンが手掛けていることは奏功しており、ここで「男の手に負えない女」であるエイミーは何やら新時代のヒーローのようにも見えてくる。女性から見るとどうなのだろう。

 では、やっぱり女と男はわかり合えないのだというシニカルな映画かと言えば、そんなことはないように僕は思うのだ。物語は想定外の展開を見せながらやがて、不思議な「共闘」体制へとなだれ込んでいく。それを皮肉と見なすかは意見のわかれるところだろうけど……僕には強烈にロマンティックなものに感じられる。絶対に相容れないものをお互い抱えながら、しかしそれすらのみ込んでいく夫婦という不条理。それが149分たっぷりエンターテイメントしており、フィンチャーのベストではないにしても余裕たっぷりの充実作だ。
 ちなみに、スタイリッシュなサウンドトラックはすっかりフィンチャー組となったトレント・レズナー&アッティカ・ロス。

予告編

原作
https://www.amazon.co.jp/dp/4094087923


Ariel Pink Parade! - ele-king

 アニマル・コレクティヴに見出だされたサイケデリック奇人にして、現USインディ最高峰のソングライターであるアリエル・ピンクが、ソロ名義では初となるフル・アルバム『ポン・ポン』をリリース。
 サン・ローランのキャンペーン・モデルに抜擢されるなど近年その存在感をセレブかつアーティに変化させた彼だが、本作においては憧れのキム・フォーリーとの共作を果たし、自らの揺るぎないバックボーンと彼独自の世界をあらためて示している。
 この一見しただけでは到底うかがい知ることのできない『ポン・ポン』の魅力を、ヴィジュアル、レヴュー、インタヴューの3本立て“パレード”でお伝えしよう。


1/14

2/14

3/14

4/14

5/14

6/14

7/14

8/14

9/14

10/14

11/14

12/14

13/14

14/14

Dayzed Inn Daydreams
──アリエル・ピンクと『ポン・ポン』に寄せる9つのイメージ
デザイナー西村浩平の手掛けるブランド〈DIGAWEL(ディガウェル)〉制作のヴィジュアルを公開

Albun Review
Ariel Pink - Pom Pom
4AD / ホステス

ケヴィン・エアーズ? ピーター・アイヴァース? 言葉をすりぬけて踊る怪作ポップ・アルバムを吉田ヨウヘイと松村正人がつかまえにいく

interview
完熟サイケデリック!
──アリエル・ピンク、インタヴュー

キム・フォーリーと「ジェロー」の関係から日本人女性の結婚問題まで。人生をめぐってユーモアとアイロニーが半ばしもつれる、アリエル・ピンクの舌好調トーク

interview with Ariel Pink - ele-king

 アニマル・コレクティヴが見出したサイケデリック奇人(アニコレに自作音源を渡すところから彼のキャリアははじまる──)にして、とくに〈4AD〉移籍前後の2000年代末からは有無をいわさぬバンド・フォームで現在形インディ・ロック最良の瞬間を紡ぎ出してきたソングライター、アリエル・ピンク。この秋、彼はその「ホーンテッド・グラフィティ」ではなく、自身のソロ名義として初となるフル・アルバム『ポン・ポン』をリリースした。


Ariel Pink - Pom Pom
4AD / ホステス

Indie RockPsychedelicPunk

Tower HMV Amazon iTunes Review

 活動初期──8トラックのカセット・レコーダーで録音された、落ち着きなくスキゾフレニックな楽曲(の断片)群を、おっかなびっくりR.スティーヴィー・ムーアなどと比較しながら追っていた頃からはや10年にもなるだろうか。その途上、〈4AD〉からのリリースとなった2作『ビフォア・トゥデイ』(2010年)『マチュア・シームス』(2012年)は、彼のキャリアに大きな曲り角を築いた。とくに前者は、整ったバンド・アンサンブルやAOR的なロジックによってそれまでの彼の音にポップスとしての肉付けを与え、「またとなく洗練されたキワモノ」として畏怖と喝采とともにシーンに迎えいれられた。かつ、そのことがむしろ、彼と彼の音楽のエキセントリックな佇まいの奥に偏屈さとともにぎちぎちに詰まっていた、サイケデリックやプログレッシヴ・ロック、あるいはパンクのアーカイヴをふとぶとと解放したかにも見えた。その2作が素晴らしかったのは、なにも彼が折からのエイティーズ・ブームに乗ってダサい懐メロをクールに鳴らすアーティストになったからではなくて、彼自身のサイケデリックのアウトプットをいきいきと市場と時代感覚につなげたからだ。

 そして、その2枚の「成功」は、たとえば彼をサン・ローランのキャンペーン・モデルに抜擢するまでに、その存在感をセレブかつアーティに変化させもした。しかし変わったのは存在「感」であって、彼自身はむしろ音同様に、変わらないばかりかそのコアをずん胴のようにぶっとくしている。今作で自身憧れのキム・フォーリーとの共作を果たし、自らの揺るぎないバックボーンを示してみせたのはその象徴ともいえるだろう。

 よって今作は前2作よりは未整理で、しかし『ウォーン・コピー』(2003年)や『ザ・ドルドラムス』(2004年)など初期作品よりはきめ細かい、まさにいまの彼の立ち位置だからこそ放出できる、おいしさ剥き出しのアルバムになっている。この、微分積分では肉薄できず、さりとて天然や薄っぺらなエキセントリックではありえない怪作は、まさに「かえるの王様」のごとく気味わるくキュートで、高貴だ。アイロニーとユーモアが半ばしもつれ、それはそのまま彼の生全体をも照らしだしている。そう、このインタヴューと作品からは、「30代がいちばん楽しい」とうそぶくアリエル・ピンクの人生観と人間論にも触れてほしい。未熟と老いのあいだに、彼は彼一流のつかみどころのなさでもってその完熟ボディを差し出している。

■Ariel Pink / アリエル・ピンク
LA出身のアーティスト、アリエル・ピンクことアリエル・マーカス・ローゼンバーグ。10代の頃から音楽活動をはじめ、アニマル・コレクティヴの〈ポー・トラックス〉などから数多くの音源をリリース。2010年に〈4AD〉より4人組ロック・バンド、アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティ名義で『ビフォー・トゥデイ』を発表。「ピッチフォーク」で9/10点を獲得し、同年の年間ベストではリード・シングル「ラウンド・アンド・ラウンド」が100曲中の1位を獲得、NMEで8/10点を獲得するなど2010年度の国内外年間ベストアルバムを総なめにした。2012年のセカンド・フル『マチュア・シームス』リリースを経て、今年2014年、ソロ名義では初のアルバムとなる『ポン・ポン』を発表し、さらなる期待を集める。

たしかに僕はジェローそのものだけど(笑)。

さっそくですが、“ゴス・ボム(Goth Bomb)”では「なんで書くとカクカクになっちゃうんだろ?」と歌っていますね。それに対して「pom pom」というのは書いてもカクカクにならない言葉や感覚だと思いますし、あなたの音楽自体、カクカクにならない──つまり何かの型にはめられることなくあなた自身の心のかたちを表していると思います。
 それはそうとして「pom pom」とは何でしょう?

アリエル・ピンク(以下AP):おもしろい質問だな(笑)。「pom pom」が何かなんて初めて訊かれたよ。いままでの中でいちばん変な質問(笑)。何だろう……いざ聴かれるとわかんないな(笑)。中国語の文字とか?

そうなんですか(笑)。

AP:なんとなくね。いま感じたのはそれ(笑)。意味はないけど。

今作には制作年代の古い曲が混じっていますか?

AP:入ってないよ。曲の一部には前に思いついたものとかもあるけど、曲自体はすべてだいたい2~3ヶ月で書いてるから。

では、何かしらのコンセプトのもとにまとまりをもって制作されたものでしょうか?

AP:いや、コンセプトはない。僕のこれまでのレコードの中でコンセプトをもとに書かれたものは一枚もないんだ。曲を書いている期間や場所が曲に関係してくるっていうのはあるけど、それはコンセプトではない。作ってレコーディングしていくという過程で曲のコレクションができて、そこからアルバムという固まりを作っていく。それだけがアルバム制作におけるルールなんだ。
 みんなには、それをアルバムというひとつのまとまりとして聴いてもらってもいいし、デジタルで1曲ずつを楽しんでもらってもいい。どう楽しむかはリスナー次第だからね。僕はただ、その楽しみ方のオプションができるだけたくさんできるように、なるだけ多くの時間を費やして最高の作品を作るだけ。みんなが、CD、ヴァイナル、iTunesのどれにおいてもその作品を楽しめるようにね。

“ジェロー(Jell-O)”の、子どもたちと録音された映像が印象的でした。非常に楽しそうですし、子どものなかに混じると、ますますあなたの存在が際立ちます。アリエル・ピンクは父でも母でも叔父でも兄でもなく、大人でも子どもでもない。まるでジェロそのもののようです。ジェロにはシンパシーがありますか?

AP:はは。おもしろいコメントだね。たしかに僕はジェローそのものだけど(笑)。この質問、何を答えたらいいのかな(笑)。ジェローはゼラチンで、ビル・コスビーがCMのキャラクターで……彼らは新しいマスコットが必要なんだろうな。ビル・コスビーに対してちょっとした論議があったから、今度は僕を起用すれば安心かも(笑)。いや、ダメだろうな。僕も問題になりそう。日本とアメリカはちがうかもしれないけど、アメリカでは僕はあまり好かれてないから(笑)。

そうなんですか? ジェローにシンパシーはあります?
AP:あるよ。その理由は、キム・フォーリーが食べてるから。歯がポロポロとれてしまうかもしれないから、彼は柔らかい食べ物を食べないといけないんだ。人生の最期には、ジェローばっかり食べてるかもしれないね。実際そうなるかはわかんないけど。

キムはまさに天才。大先輩だし、心から尊敬してるよ。彼のことはアートみたいに保存したほうがいいと思う。最近の世の中、あまり人を尊敬して評価するってことが減ってきているけど、僕はそれくらい彼を尊敬してるんだ。

いま、キムの名前が出ましたね。たとえばランナウェイズには、背後に仕掛け人としてのプロデューサーがいて、それによって商品として仕立てられた女の子たち、というイメージもあったと思います。あなたは「ポップ」という概念についてさまざまな意見と感情をお持ちの方だと思うのですが、キム・フォーリーはその意味ではあなたにとってどのような存在ですか?

AP:キムはまさに天才。大先輩だし、心から尊敬してるよ。彼はいろいろなことを乗り切って、いまだに彼なりのやり方で生き抜いてる。ちがう時代に創られたアートを見ているようだよ。神殿みたいな。彼のことはそういうアートみたいに保存したほうがいいと思う。最近の世の中、あまり人を尊敬して評価するってことが減ってきているけど、僕はそれくらい彼を尊敬してるんだ。

ランナウェイズとキムに関しては?

AP:商品っていうのはその通りだと思う。世の中の多くは商品、製品だからね。人間みなそうさ。両親がセックスして作られるもの。だから製品なんだし、しかも消費されるものだからね。みんな一生生きるわけじゃない。希望や夢を持った商品。それでいいんじゃない?

ランナウェイズには特別リスペクトする気持ちがあるのですか? パティ・スミスは嫌い(と、前回のインタヴューで答えてくださいました)で、ランナウェイズは好きという理由をおうかがいしたいです。

AP:好きだよ。ランナウェイズはいい。彼女たちって、女だけど好きなんだよね(笑)。

女だとダメなんですか(笑)。

AP:僕が女嫌いっていうのは周知の事実さ(笑)。

わたしも女性なんですが……。

AP:そうなの!? じゃあもうこれ以上話せないね、ははは。

パティ・スミスも女性だから嫌いなんですか?

AP:パティ・スミスは好きじゃない。これは逆に、彼女が男っぽすぎるから。僕は男も嫌いなんだ(笑)。彼女は男性的すぎるんだよね。ずっとキッチンにいたほうがいいと思う。お茶を入れてさ。もうたくさんいいレコードを出してるから、今度はたくさんのおいしいパウンドケーキを作って、僕にジェローを作るべきだね(笑)。ウケるな(笑)。

ランウェイズに対するリスペクトに関してはどうでしょう?

AP:もちろん尊敬してるよ。ランナウェイズは……彼女たちを尊敬してるかって質問はお門違い。なぜなら、僕は人生の中で出会うすべての人をリスペクトしてるし、パティだって嫌いだけど尊敬はしてる。ただ、彼女の作品を好きで聴くかって言われたら答えがノーだけどね。それはただの一人の人間の意見であって、彼女が一生懸命活動していることに関してはもちろん尊敬の念がある。子どもを産む人もリスペクトするし、しかもそれはもっと大変なことだろうしね。
 ランナウェイズは出産をしているメンバーもそうでないメンバーもいるけど、彼女たちを尊敬しているのは、やっぱりキムの存在。彼に才能があるのと、やっぱりLAのプロデューサーが関わっていると、この街(LA)との深い繋がりを感じることができるんだ。ローカルな感じがいい。僕が好きな感じにプロデュースされてるから好き。パティはニューヨークだろ? ニューヨークのプロデューサーたちはあまり好きじゃないんだ。でもラモーンズは超好きだけど。やっぱりそこも、ビーチ・ボーイズの影響があるからかな。

60年代、70年代、80年代、それぞれのキム・フォーリーの仕事の中で好きなものを挙げてもらえないでしょうか?

AP:"モーター・ボート(Motor Boat)"や60年代の"ザ・トリップ(The Trip)"なんかが好きだけど……答えられないよ。たくさんありすぎるし、僕が好きなのは、キムが書く音楽だけじゃなくて、彼の生き方や人生すべてだからね。
 彼はレーベルや業界のアウトサイダーだから。最初はかなりインサイダーな立場だったけど、彼はそこから自分自身になろうとしてきた。ストリートで才能があると思う人間を見つけて、その人のために曲を書いたり。しかも、彼はそこからヒットを作り出してきた。最近は、ヒットを作ろうとすることや成功を目指すことがよくないともされているけど、キムには成功したいという熱意がつねにあったんだ。その熱意がないと、成功ははじまらない。それを知っておかないと、人間どこにも進めないと思うんだ。失敗があるからこそ成功もあるわけで。みんな、それを乗り越えないとね。

彼になくて自分にあるものは何だと思いますか? 何かひとつ挙げるとすれば。

AP:時間。僕には時間がある。いや、わからないね。僕も今夜死ぬかもしれないし、キムといっしょにこの世を去るかもしれない。彼に残された時間は短いけど、キムはまったく仕事量を減らしてないんだ。病床で未だに活動してるよ。人が休めといってもきかないんだ。そこも彼の好きなところだし、影響されてる。

[[SplitPage]]

30代を満喫してる。10代の後、20代を飛ばして30代に入りたかったくらいさ。


Ariel Pink - Pom Pom
4AD / ホステス

Indie RockPsychedelicPunk

Tower HMV Amazon iTunes Review

以前インタヴューで誕生日を数えないとおっしゃっていましたが、あなたの感覚ですと、あなたはいまいくつくらいなのでしょう?

AP:何だって? 年齢は誰にだって言ってるけど(笑)。ネットで見てみなよ。wikipediaとか、そこらじゅうに載ってるから隠せない。マネージャーもいないから、何かを隠して良いイメージを作るとか、そういうことはできないんだよな。もしできるんだったら、もっと前からやってたけど。もしそうしてたら、批判されることなく素晴らしい愉快な人間で通ってただろうね(笑)。

実年齢関係なく、あなたの感覚では何歳ですか?

AP:無限。不変だよ。

そうきましたか(笑)。

AP:実際は36だけど(笑)。君は?

わたしは32です。

AP:日本って独身の女性がたくさんいるだろ? 来日したときに感じたんだ。すっごい変な感じがした。日本って、僕の中ではいちばんおかしな場所なんだ。文化って意味でね。日本の女性って、果たしてパーティーにいったりバーにいったりして男性と知り合ったり惹かれ合ったりすることがあるのかな? って思った。道で女性同士で固まって、高い声でいっしょに笑い合ったりしてるのは見かけたんだけど、一方で男性側は一人でヘッドフォンを付けて一人で歩いてる。どうやって男女出会って結婚するんだろう? って思ったね。結婚が想像できなかったんだ。2005年の話だから、いまはちょっと変わってるかな? みんなデヴィッド・ボウイみたいな派手な格好をしてたのを覚えてるよ。とくに大阪。髪型もいろいろだし、超デヴィッドだった(笑)。クールだったね。

たしかに、固まって行動することはアメリカより多いかもしれませんね。飲み屋も個室が多いし。

AP:じつは似てる人が多いなと思った。みんな個性的に見えるけど、同時に同じようにも見えるんだ。日本を批判してるわけじゃけっしてないよ。僕だって変だし。でも僕はどんな格好したとしても、人から何を言われるかは気にしない。でも日本では、みんなが人からの判断を恐れているように感じたんだ。クジャクみたいにいろいろな表現はできるけど、何かを気にしてる、みたいな。32歳で日本がそういう状況なら、いまみたいにこうやって電話で話してる相手とデートしてみるのもいいかもね(笑)。空港で待っててくれる? ははは。その前に来日が実現しないとね。日本にはまたぜひ行きたいと思ってるんだ。


日本って独身の女性がたくさんいるだろ? 来日したときに感じたんだ。すっごい変な感じがした。日本って、僕の中ではいちばんおかしな場所なんだ。文化って意味でね。1

“ピクチャー・ミー・ゴーン”はとても美しい曲ですね。MVも、人生後半の苦さとともに、若さのもつ永遠性を抒情的に表現する素晴らしいものでした。ここで歌われている題材は、年齢など外部的な要素からすれば、いちばんあなたの「等身大」ともいえるものですが、あなたは自分が老い、また死ぬことについてどのようなヴィジョンをもっていますか?

AP:おもしろい意見だね。僕自身は、年を取って、もうすぐ死ぬかもしれない父親のアングルでこの曲を書いたんだ。彼には息子がいて、でも自分が死んでしまうと、息子は彼の背景を知らないままになってしまう。だから、彼がどういうふうな人生を歩んできたのかを息子に伝えるメッセージを残すんだ。ヴィデオやYouTube、iCloudにアクセスしたりダウンロードしてそれを見ることができるって伝えてる。息子が興味を持つ年齢になったら、父親のことを知れるようにね。いまの時代って家族アルバムがないだろ? だから、インターネットやコンピューターにアクセスして、そこで歴史をしるしかないんだ。

自分自身が老いること、死ぬことに関してはどう思いますか?

AP:ぜんぜん怖くもないし、歳をとることはいいことだと思う。ここ2年の自分を見ても、よりよい選択ができるようになっていると思うし、いま起こっている何かは、その先の何かにつながっていると思うから。次や先の何かの道しるべなんだよ。

20代に戻りたい、と思うことは?

AP:まったくないね。30代を満喫してる。10代の後、20代を飛ばして30代に入りたかったくらいさ。

グランジと呼ばれた音楽にはどのような感想がありますか? 詞にカート・コバーンが出てきますね。

AP:どうだろう……いくつか好きなのもある。サウンド・ガーデンの初期の作品とか。あと、メルヴィンズもよかったな。ビッグ・ビジネスも好き。グランジっていうムーヴメント自体には……どうだろう……。

グランジをわりと聴いたりはします?

AP:聴かないね。てか、僕は音楽を聴かないから。

カート・コバーンに関しては?

AP:彼は好きじゃなかったけど、亡くなってから好きになった。ひどいと思うかもしれないけど、彼はヘビメタの命を奪ったからね。それにはがっかりだったんだ。僕はヘビメタが大好きだったから。カード・コバーンは長髪の人間全員をズタズタにしたんだよ(笑)。

では、スパークスは意識しますか?

AP:イエス。彼らの音楽には影響されてるよ。アレンジがララララララ(ドミソドソミドの音程で歌う)みたいな感じで……これ、どう説明していいかわからないけど、とにかく彼らはジャンルとジャンルの間にいるような存在だと思うんだ。パワーポップやサイケでありながら、エクスペリメンタル・バンドでもありコメディ・バンドでもある。そこが好きなんだよね。

曲作りのときに意識したりは?

AP:いや、それはないね。曲を書くときに他のバンドやアーティストのことを頭に置きながら書くことはまずないから。できてみて、あ、コレ聴いたことあるなっていうパターンはあるけど。

アニマル・コレクティヴはエイヴィ・テアとパンダ・ベアという色の異なる柱によって成り立っていますが、その両者ではどちらにより音楽的なシンパシーを感じますか?

AP:どちらとも言えない。彼らは彼らで個性的なことをやってるから、つながりを感じることはないね。あるとしても、2人とはそれぞれちがうつながり方をしてるし、どちらがっていうのはないよ。

そのつながり方とは? それぞれの何に対してつながりを感じますか?

AP:エイヴィは、人にはわからないテリトリーがある。彼にはチャレンジ精神があって、ソングライティングに対してもリスクを取るんだ。未知のテリトリーに入るんだよ。ソングライティングや方向性で、いろいろと挑戦するんだ。パンダ・ベアには彼の特徴的なスタイルがあるし、彼の音楽は感情に訴える。そこかな。

なるほど! ありがとうございました。

AP:ありがとう! いい一日を!

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972