「Nothing」と一致するもの


Jim O’Rourke Simple Songs
Drag City / Pヴァイン

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 サイト・トップをジャックしたあの「ヘンな」告知動画、いかがでしたか。なかなか全貌が明らかにならないジム・オルーク(Jim O'Rourke)13年振りとなるヴォーカル・アルバム『シンプル・ソングズ(Simple Songs)』、本日はジャケ写が公開になった模様。5月15日には日本先行発売となる。また新たなアー写も公開されている。長らくおなじみだったカヒミ・カリィ氏による写真も素敵だったが、廃棄物のようになっているジム・オルークもロマンチックだ。

 また、アルバムと同日発売を予定している『別冊ele-king ジム・オルーク完全読本 ~All About Jim O'Rourke~』の初刷版には、なんと!? 今年、赤塚不二夫・生誕80周年イヤーとしてさまざまな企画を展開するフジオプロとのコラボが実現!! (こっちが本題なのだ!?)

 ジム・オルークが赤塚キャラ化された特別描き下ろしのイラスト・ポストカードが綴じ込みで付いてくるぞ。

 今回はそのシルエット画像のみ特別に公開。以前より赤塚不二夫作品に親しんできたジム・オルークだが、これはファンならずとも大注目のイラストになるだろう。
 初版分のみですので、ぜひぜひご予約ください。


フジオプロ×ジム・オルーク シルエットなのだ!?

新たに公開されたアーティスト写真

■別冊ele-king  ジム・オルーク完全読本 ~All About Jim O'Rourke~

編集:松村正人
判型:菊判 / 160頁 *予定
ISBN:978-4-907276-32-4
価格:本体1,700円+税 *予価
発売:2015年5月15日

本人監修の“世界でもっとも完全に近い”ディスコグラフィも収録! 全キャリアとともに90年代~2000年代の時代精神までもを振り返る

1999年にリリースした『Eureka(ユリイカ)』は先鋭化と細分化きわまった90年代音楽の粋を集めた作品であっただけでなく、その実験とポップの相克のなかにつづく2000~2010年代のヒントを散りばめた、まさに世紀を劃す大傑作だった。
このアルバムでジム・オルークはシーンの中央に躍り出た。多面的なソロワーク、秀逸なプロデュースワークに他バンドへの参加、映画音楽にゆるがない実験性を披露した電子音楽の傑作群、さらに2006年来日して以降の石橋英子や前野健太とのコラボレーション――以降の活躍はだれもが知るとおりだ。
そして2014年5月、ジム・オルークは個人名義の「歌ものアルバム」を発表する。そこには『ユリイカ』以後の年月に磨かれた何かが凝縮しているにちがいない。
それについて訊きたいことは山ほどある、というより、このアルバムを聴き尽くすこと、ジム・オルークを多面的に知ることは音楽の現在地を知ることにほからない、のみならず、おしきせの90年代回顧を覆す問題意識さえあきらかになるはずだ。

■ジム・オルーク、新作『シンプル・ソングス』を語り尽くす~超ロング・インタビュー
気鋭の批評家たちによる新作大合評
■石橋英子、山本達久はじめ、バンドメンバーおよび関係者が語るジム・オルーク
■どこまで行けるか! ジム・オルーク「完全」ディスコグラフィ
■ジム・オルークを多面的に考察する論考集
■ジム・オルークを語った過去記事の再録も

一冊まるごと、ジム・オルークづくし!


interview with QN - ele-king


QN
New Country

SUMMIT

Hip Hop

Tower HMV Amazon iTunes

 以下に掲載するのは、紙版『ele-king Vol.7』(2012年10月20日発行)のQN(現・菊地一谷)のロング・インタヴューの後編、あるいは番外編である。雑誌のほうでは、自身がリーダーを務めていたヒップホップ・ポッセ、シミラボからの脱退の真相やノリキヨとのビーフ、これまでの彼自身の歴史といったディープな話を赤裸々に語ってくれている。

 そういうこともあって、ここに掲載するインタヴュー記事は音楽的な話題に絞ることができた。新しい作品を作るたび、変化と成長を楽しむようにフレッシュなサウンドに挑戦しつづける、ラッパー/プロデューサー、QN/菊地一谷。当時21歳だった若き音楽家が語った言葉は、過去・現在の彼の音楽をより深く聴くための手助けになるのではないだろうか。

 デート・コース・ロイヤル・ペンタゴン・ガーデン(以下、DCPRG)が2012年に発表した『セカンド・リポート・フロム・アイアン・マウンテン・USA』へのゲスト参加や彼らとのライヴ、同年6月に発表したサード・アルバム『New Country』やラウ・デフとのニュー・プロジェクト〈ミュータンテイナーズ〉の興味深いコンセプトについて語ってくれている。最新インタヴューとあわせて楽しんでほしい。

■菊地一谷 / きくちかずや
またの名をQN。2012年までヒップホップ・クルーSIMI LABに在籍。数多くのストリート・ネームを持ち、楽曲も多数手掛けてきた異才にして、理解され難い行動や言動でも記憶されるプロデューサー/ラッパー。前作『DQN忠臣蔵~どっきゅんペチンス海物語~』リリース後、菊地成孔プロデュースによる女優・菊地凛子の「Rinbjö」名義でのデビュー・アルバム『戒厳令』へも参加。2015年、音楽活動を再スタートさせることを宣言し、客演にSEEDA、菊地成孔、NORIKIYO、MARIA、RAU DEF、GIVVN(from LowPass)、田我流、菊丸、高島、北島などを迎えてのアルバム『CONCRETE CLEAN 千秋楽』をリリースした。

きっかけはトロ・イ・モワでしたね。あそこから、アニマル・コレクティヴとかムーとかヤー・ヤー・ヤーズを聴くようになって。あと、ジ・エックス・エックスとか。


DCPRGの『セカンド・リポート・フロム・アイアン・マウンテン・USA』のなかの2曲に、シミラボはゲスト参加してますね。“UNCOMMON UNREMIX”、あれはラップを録り直してますよね?

QN:あれは録り直してますね。

DCPRGは、70年代初期のエレクトリック・マイルスに強く影響を受けているバンドですよね。QNくんやシミラボのラッパーの柔軟なリズム感がDCPRGのポリリズミックなリズムとハマってて、すごいカッコイイですよね。実際やってみて興奮しました?

QN:すげぇ興奮したっすね。〈ageha〉のライヴ(2012年4月12日に行われたDCPRGのアルバムの発売記念ライヴ)も良かったですね。 “UNCOMMON UNREMIX” と“マイクロフォン・タイソン”はもちろんやったんですけど、最後にアンコールで、“Mirror Balls”の生演奏に“The Blues”のラップを乗っけたのがとにかく記憶に残ってますね。あれは、テンション上がったっすね。

それは菊地さんのアイデアだったんですか?

QN:そうっすね。

菊地さんから録音やライヴのときに、「こうやってほしい」みたいなディレクションはありました?

QN:いや、とくに何も指示されてないっす。すげぇ自由にやらせてくれたっすね。「もう好きにやって」みたいな。

オファーのときに、シミラボへの熱いメッセージはなかったんですか?

QN:それはもちろんあったっすね。でも、ちょっと覚えてないっす(笑)。とにかく、シミラボをすごい気に入っていて、応援してるっていうのは言ってくれてましたね。で、オレらもなんとなくイヤな気がしなかったんです(笑)。直感ですね。

菊地さんのことは知ってました?

QN:いや、ぜんぜん知らなくて。

はははは。そうなんだ。シミラボの他のメンバーも?

QN:知らなかったですね。

じゃあ、DCPRGの音楽を聴いて、やろうと決めた感じですか?

QN:そうですね。音を聴いて、これだったらおもしろいものができるなって。ただ、個人的にはもうちょっとできたかなとは思いますね。

なるほど。ところで、『New Country』はこれまでの作品に比べて、ベースとビートが強調されて、よりグルーヴィになった印象を受けました。すごくいいアルバムだなって感じましたし、はっきりと音楽的飛躍がありますよね。

QN:そうですね。まぁ、シリアスなアルバムだとは思いますけど。なんて言うか、ヘイトしているわけじゃないんですけど、ヒップホップがすごい好きだったぶん、それ以外の音楽にもっと触れたくて、去年はずっとロック系の音楽を聴いてました。最近のロックは普通にMPCが使われていたりするから、それは自然な流れでしたね。チルウェイヴとかオルタナティヴ・ロックとかを聴くようになったんです。きっかけはトロ・イ・モワでしたね。あそこから、アニマル・コレクティヴとかムーとかヤー・ヤー・ヤーズを聴くようになって。あと、ベタですけど、ジ・エックス・エックスとか。ヒップホップだと、キッド・カディですね。すごいいいですよね。こういうやり方もあるのかって、影響受けましたね。キッド・カディはヒップホップだけど、なにかちょっと他の音楽も入ってる感覚があって。

キッド・カディはオルタナティヴ・ロックとかサイケデリックの要素もありますもんね。あと、歌詞が内省的ですよね。

QN:そうっすね。かなり内省的ですね。そうやっていろんな音楽を聴いていたのもあって、ネタ掘りが変わってきたんです。有名どころですけど、マイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』にもハマって。『エクソシスト』の主題歌の原曲を弾いてるイカれてる人ですよね。あと、カンとかキャプテン・ビーフハートとか。オカモトズのレイジと彼の友だちの副島ショーゴっていうまじ熱いDJといろいろ情報交換してたんですよね。そのDJはオレの1コ下でとにかくヒップホップが詳しくて、オレはその頃ロックに興味持ってたんで。


結果的に、トーキング・ヘッズにたどりついて。

それは、前作『Deadman Walking 1.9.9.0』を制作しているぐらいの時期ですか?

QN:そうすね。で、結果的に、トーキング・ヘッズにたどりついて。

トーキング・ヘッズ! どのアルバムですか?

QN:アルバムはひととおり持ってるんですけど、衝撃だったのは、『ストップ・メイキング・センス』っていうDVDでした。あれを観て、「わおー!」って思って。とくに好きな曲は“ジス・マスト・ビー・ザ・プレイス (ナイーヴ・メロディ)”ですね。わかります?

いや、その曲、わからないです。

QN:あとはトム・トム・クラブとかにやられましたね。『New Country』を作るきっかけは、わりとトーキング・ヘッズにありますね。

それは興味深い話ですね。トーキング・ヘッズのどこに魅力を感じました? ファンクとロックを融合した音とか、いち早くアフリカ音楽にアプローチしているところか、いろんな側面がありますよね。

QN:そうっすね。いろいろありますけど、これはもうヒップホップだなって思ったんです。だから『New Country』は、オレの勝手なイメージですけど、質感的には、トーキング・ヘッズを意識したんです。そういうのもあって、バンド編成みたいなニュアンスでトラックを作ろうって考えたんです。

Talking Heads “This must be the place (Live: Stop Making Sense)”


『Deadman Walking 1.9.9.0』にもコーラスの女性ヴォーカルや、ヴァイオリン奏者、ギタリストが参加していますよね。シンセを弾いてるサドラーズ・ウェルズっていうのは、たぶんQNくん本人じゃないですか?

QN:あれはオレですね。サンプリングで作っている以上は、要はある意味で、他人の音楽をパクッてるのに近いじゃないですか。これまでは、まあ、盗むっていう発想だったんです。『New Country』は、ギター、ドラム、シンセ、ベースがいて、ラッパーのオレが前に出ているっていう大体5人組ぐらいのバンド編成のつもりで作ったんすよ。そこに、フィーチャリングでたまにホーンが入ってきたりするっていう。でも、基本的にはギター、ドラム、シンセ、ベースをイメージしてサンプラーをいじってましたね。あとちょっと、オレのひねくれが出ちゃって、昔のドラム・マシーンみたいな荒れてる音にしたりもしてますね。


ヒップホップから離れようと思ったら、逆にヒップホップでありたいと思ったというか。

トーキング・ヘッズをはじめ、いろんな音楽に耳を傾けたのが大きかったんですね。ジ・XXを聴いてるってことは、UKのベース・ミュージックも聴いてました?

QN:それは大きかったっすね。去年はもうUKに行こうかなぐらいでしたよ。

そこまでだったんだ。UKのベース・ミュージックのどこに魅力を感じました?

QN:「踊れるなー」ってとこがデカかったっすね。

でも、『New Country』はそこまで思いっきりダンサンブルでもないよね。

QN:まぁ、そうっすよね。1、2、3曲めまでは踊れる感じだとは思いますけど。ヒップホップから離れようと思ったら、逆にヒップホップでありたいと思ったというか。いざ離れてみたら、やっぱヒップホップだなっていう感じになって。『New Country』はバンド編成のイメージといっても、すげぇヒップホップに向き合いましたね。向き合ったって言うと堅苦しいんですけど、思い出して作ったっていう感じですかね。1年間、ロックばっか聴いてきたぶん、なんかちょっと振り返るじゃないですけど。

『New Country』は全曲、QNくんがプロデュースしてトラックを作っていますよね。これははじめてのことで、ひとつの変化ですよね。理由はあったんですか?

QN:そうっすね。シンプルに考えて、必要だと思ってる人だけを呼びましたね。いろんなラッパーに参加してもらってますけど、ビートは全部自分で作りたかったんです。コンセプトが自分の中に強くあったのと、自分の等身大のアルバムを作りたかったので。

QNくんはほんとにハイペースで作品を発表しつづけてますけど、『New Country』はいつから作りはじめたんですか?

QN:『Deadman Walking 1.9.9.0』のリリースが去年の12月だから、『New Country』のビートは12月から4月ぐらいまでに作りましたね。マスタリングの日までレコーディングしてて、超やばかったっす(笑)。『Deadman Walking 1.9.9.0』を作ったあと、思った以上にイメージがわいてきて、リリースする予定はなかったんですけど、1月の段階で7曲ぐらいできちゃったんです。なんかすげぇミニマルっていうか、音数が少ないものができてきて。

音数が少ない、ミニマルというので思い出したんですけど、『New Country』のいくつかの曲を聴いて連想したのは、バスタ・ライムスの“プット・ユア・ハンズ・ホウェア・マイ・アイズ・キャン・シー”だったんですよね。

QN:あー、なんとなくわかります。

Busta Rhymes “Put Your Hands Where My Eyes Can See”

あと、古くて新しい音の質感とかちょっとひねくれたサンプリングのセンスとか、RZAのソロ作の『バース・オブ・ア・プリンス』とかRZAの変名のボビー・デジタルに近いものがあるなぁと。

QN:もしかしたら、それは近いっぽいっすね。わりと。そうかもしれないっすね。『ボビー・デジタル・イン・ステレオ』はたまたま聴いてたっすね。フランス語かなんかのスキットがすげぇ好きで。

『New Country』にはこれまでの作品に比べて、ファンクを強く感じたんですよね。個人的に僕はいままでのQNくんのアルバムでいちばん好きです。本人的にはどうですか?

QN:ほんとっすか。うれしいっすね。ただ、ファンクももちろん好きっすけど、でも意外とファンクっていう気持ちはなかったかな。うれしいことなんですけど。


オレは大人にはならないんで。それはもう考えないようにしてる。

ところで、QNくんはこれまで大人なることを拒絶するような態度をラップで表現してきたと思うんですけど、いまはどうですか? “Better”でも「まだ自分はクソガキだ」ってラップしてますけど。

QN:ああ、『Deadman Walking 1.9.9.0』までは、もう大人になんのか、なっちゃうのか、みたいな感じだったんですけど、『New Country』ではもう開き直ってますよね。“DaRaDaRa”でも「誰がオレをこんなにした? 誰がオレをこんなにアホにした?」とか言い出しちゃってますし(笑)。けっこう開き直ってるんすよ。

QNくんにとって大人になるっていうのはどういうことですか?(笑)

QN:いやー、難しいっすねー(笑)。オレは大人にはならないんで。それはもう考えないようにしてる。

大人になるというのは、QNくんにとってネガティヴな意味合いがあります?

QN:いや、ぜんぜんネガティヴだとは思ってないっすけど。

でも、大人に対する反発心みたいのを強く感じますけどね。

QN:それは、自分にウソをつきたくないっていうのがいちばん近い感覚かもしんないっすね。もちろん尊敬できる大人もたくさんいるんですけど。いままでは、普通や常識をいちおう見て知っておかないと自分がいい方向に行かないんじゃないかって思ってたんですよ。でも、シミラボを辞めるタイミングあたりで、「それは違うよな」って思ったんです。ありのままの自分を認めていかないと、どうすることもできないなって。だから、オレはいまヒップホップもすげぇわかりやすいものが好きですね。自分が好きな90年代のヒップホップがあらためてフィードバックしてきてる感じがありますね。


これまでの自分は何かを演じていないと自分を維持できないタイプの人間だったのかなーって思うんです。でも、このアルバムあたりから、普通に自分のいろんなものを認めてやれるようになった気がしますね。

それと、『New Country』のクライマックスの、“Better”“船出~New Country~”“Flava”の3曲がとくにそうかもしれないけれど、リリックも明瞭に聴き取れて、言葉を伝えようという意識を感じました。

QN:自分の言葉でラップするというのを意識して、それができたのかなとは思います。やっと自分の言葉に消化して表現することができはじめてきたかなって。まだまだ煮詰められるとは思いますけど。『New Country』は、ほんとにすっげー勢いで作ったんですよ。朝から夜まで1日で3曲とか作って。ほんと余計なことを考えなかったっていうことっすね。

勢いもあるんでしょうけど、コンセプチュアルなアルバムでもありますよね。

QN:ほんとそうだと思うんす。でも、ぶっちゃけ後付けですけどね。というか、後付けもなにも、2、3ヶ月の間に自分に起きた現象が全部の曲に自然とはまったんです。それはじつは自分でもけっこうびっくりしてるっていうか。それだけ歌詞がたぶんスマートに出てきたってことだと思いますね。

アルバムのタイトルを直訳すると、“新しい国”ですよね。この言葉が意味するところはなんですか? QNくんのなかにイメージとかあったりします?

QN:そうっすね。どうなんだろ? タイトルどおり、自分の理想郷の話っすね。「ほんとはこうだったらいいのに」みたいな話でもありますね。ただ、『New Country』は、自分で言うのもなんですけど、ほんとにヒップホップのアルバムだと思ってて。ラップもフッド・ミュージックに近づいたっていうか。ラップのフロウの取り方も雑って言えばすごい雑で、細かいって言えば細かいっていう。そういう感じとか、ちゃんとオリジナルのヒップホップに近づいたのかなっていう気はしてますね。いちばん自分らしいアルバムになったんじゃないかなって。これは超イルな発言なんですけど、これまでの自分は何かを演じていないと自分を維持できないタイプの人間だったのかなーって思うんです。でも、このアルバムあたりから、普通に自分のいろんなものを認めてやれるようになった気がしますね。大げさなこともたぶん言ってないし、自分の中にあるもので表現できたかなって。

なるほど。

QN:あと、『New Country』を制作してるあいだ、人との関係とかいろいろシャットアウトしてたっていうか。それぐらいの気持ちになっちゃって。他の音楽とかぜんぜん聴かなくなって。そうじゃないと自分がもたないぐらいの現象が起きてて。とにかくアルバムを作ることしか考えられなかったですね。しかも、自分が作ったものに納得できなかったりもして。まあ、生々しい感じでした。


もう変えてますね(笑)。ヘルメスって名前に。でも、もう変えないっすね。次の名前で終わりっす。それを末永く使おうかと。

ところで、QNって名前を変えるって話を聞いたんですけど、ほんと?

QN:いや、もう変えてますね(笑)。ヘルメスって名前に。でも、もう変えないっすね。次の名前で終わりっす。それを末永く使おうかと。でも、なんかいま、女の子に訊くと、たいがい「QNの方がいいよ」って言われるんですよ。「ヘルメスっていうのヘルペスみたい」って。

はははは。じゃあ、変えないほうがいいよ。名前を変えると、せっかくQNで有名になったのにもったいないよ。

QN:そうですよね。だから次で最後かなって。名前を変えたら、ツイッターのフォロワー200人ぐらい減っちゃって(笑)。

このタイミングで普通はQNって名前は捨てないですよね。

QN:そうっすよね。でも、オレが新しい動きをして、それについて来れなかった人だけがたぶんフォロー外してるんだろうから、それはそれでいいかなって。完全強気っす。

強気だなぁ。

QN:はい。あと、オレら界隈でいま、ミュータントっていう言葉が流行ってるんですよ。シミラボも最初は街に黒いシミができて、その黒い液体が人の形になって、音楽を作りはじめるっていうストーリーがあったんです。要はSFなんすよね。ミュータントって突然変異体って意味ですけど、もともとは差別用語だったと思うんです。奇形児とかをミュータントって呼んだりして。べつにオレはハードな環境で育ったわけじゃないけれど、社会不適合者っていう意味ではミュータントなんじゃないかなって。でも、社会不適合者とかミュータントは特別な能力を持ってる人たちなんじゃないのかなって。

なるほどー。

QN:で、ミュータントとエンターテイナーを掛け合わせて〈ミュータンテイナーズ〉ってレーベルを立ち上げたんです。俺とラウ・デフがまとめたグループ名でもあるんです。いまはその新しいプロジェクトでアルバムを制作中っていう感じですね。


REMI (ROUNDHOUSE / DAWD) - ele-king

All time favorite BOOTLEG KILLER HOUSE tracks

MORE INFO
AIRでシカゴハウスパーティ「ROUNDHOUSE」やってます。次回は4月17日金曜日にシカゴのゴッドファーザー「Marshall Jefferson」をゲストDJに開催します。
https://www.air-tokyo.com/schedule/2013.html

DJスケジュール等はこちらで。
https://acidbabyjam.blogspot.jp/
https://twitter.com/theacidbaby
https://www.facebook.com/remi.yamaguchi.3

出版不況があたりまえのこととなり、ベストセラーとそうではない本の二極化が進むなか、それでも書店には本を特集した、本のための本が多く見受けられるのは、消えつつあるものへのノスタルジーなのでしょうか?

この本はそうは思いません。本という「メディア」がつねに再考されるのは読者の動機をこえる「体験」を「読む」ことがもたらすことにあります。
本書ではまずもってそのような本を探し求めます。一見してカタログ風ですが、この本は利便性だけを追究するものではありません。

2015年を映しながら、しかしことさら現在にこだわらないことによって過去より現在を腑分けする「読む」こころみを、ぜひ本書を開いて探してください。

〈目次〉
第1章
■小説■
音楽と本の関係 高城昌平(cero)インタビュー 聞き手:磯部涼
タルホ座流星群ふたたび 増村和彦(森は生きている)インタヴュー 聞き手:野田努
世界の外に立たない思考 保坂和志 インタヴュー
小島信夫の6冊あまり 松村正人
メタフィクションの功罪とパラフィクションの現在 佐々木敦インタヴュー
アンケート 私の3冊 湯川潮音
21世紀の国内文学10 矢野利裕
小説のマジカルタッチ ラテンアメリカ文学の世界 寺尾隆吉インタヴュー
21世紀の海外文学 石井千湖
終わりから70年目の戦争の4冊 松村正人
1990年代の6冊 矢野利裕

第2章
■政治、思想、批評と教育■
いまだ表現の自由は可能か!? 対談:五野井郁夫×水越真紀 松村正人
アンケート 私の3冊 寺尾紗穂
古典と歴史 その読み方 石川忠司
強制と自発のアレンジメント 転向論を読み直す 矢野利裕
「学校では教えてくれない」が意味すること 若尾裕
実践により「社会」を読むための5冊

第3章
■詩と詩人たち■
21世紀の短歌研究 世界の底の13歌集13首 永井祐
渇きを癒す書物 満員電車を見送る方法 友川カズキインタヴュー
詩写真 Making Time 辺口芳典

第4章
■サブ/カルチャー■
貫読のススメ 画竜点睛を欠くことの心得 湯浅学インタヴュー
結末は最後まではわからない 染谷将太インタヴュー
オラリティー(声)とリテラシー(文字)の相克 三田格
読書というポップ 山崎晴美を作った本 山崎晴美インタヴュー
意味もなく内側のスリルだけを頂くための20冊 山崎晴美
矛盾体が生み出す言葉 失われた音楽書を求めて 大谷能生
ロックの“夢見る力”は無限大 シーナ『YOU MAY DREAM』を再読する モブ・ノリオ
映画を観る筋肉 いま発見すべき映画本 樋口泰人

写真:菊池良助 小原泰広

Sonny And The Sunsets - ele-king

 今年1月にホームシェイクスとマック・デマルコが、2月にはトップスが……と、関係的にも近いところにいるバンドが相次いで来日した。それに先立ってこのソニー&ザ・サンセッツの首謀者である、ソニー・スミスが昨年末にやってきたこともまだ記憶に新しいところで、私も含めて、それらいわゆる新世代のロウ・ファイ・アーティストの台頭に昨今胸を躍らせている人も少なくないだろう。

 しかしながら、ライヴなどで彼らのバックボーンにある音楽性が伝わってくればくるほど、単なるハイファイからの揺り戻しなどではなく、ブラック・ミュージック再解釈、ブルーアイド・ソウルの新境地のひとつの動きであることに気づかされる。たとえば、トップスのジャパン・ツアーの金沢公演となるイヴェントにDJとして参加した際、私がかけた曲でフロアにいた彼らがもっとも喜んだのはダン・ペンだった。そんな彼らのステージは想像以上にグルーヴを伴っておりヴォーカルもソウルフル、終演後話をした彼らの口から出てくる名前の中にはアル・グリーンやスタイリスティックスなんてのもあったほどだ。そういや、先日『コーチェラ』のネット中継で見たマック・デマルコは1月の来日時より遥かにファンク度を増していた。「サウンドは70年代のニール・ヤングが理想。でも、それをアップデイトして現代的にするにはブラック・ミュージックの持つリズム感、肉体性が絶対に必要」と来日時に筆者との取材で言いきったマックの本領がいよいよ本格的に発揮されつつあるようにも見受けられた。

 ソニー・スミス率いるこのソニー・アンド・ザ・サンセッツの新作も、一聴するとゆるいギター・ポップと捉えられがちだが、ポップスの原点は結局のところブラック・ミュージックに行きつく、ということをそれとなく伝えるような曲が揃っていて興味深い。1曲め“ジ・アプリケーション(The Application)”の冒頭のハーモニーなどはビーチ・ボーイズ~ブライアン・ウィルソンというよりも、ドゥー・ワップのそれで、つまり、ビーチ・ボーイズの根っこにはドゥー・ワップがあることがわかる、という仕組み(?)。6曲め“ハッピー・キャロット・ヘルス・フード・ストア(Happy Carrot Health Food Store)”も展開が変わる三連のBメロはやはりドゥー・ワップの構成を意識したものだろう。フルートのリフにはじまる2曲めのベース・ラインはスティーリー・ダンやドナルド・フェイゲンあたりの作品で感じさせるR&Bの手法に倣ったかのようだ。もちろんすべての曲がそうだとは言えないし、意識的にドゥー・ワップやR&Bの要素を抽出させようとしてこうした構造の曲を作ったのかどうかはわからない。〈ポリヴァイナル〉に移籍しての作品だが音は相変わらずチープだし、あからさまな引用もないようだ。だが、彼らが丹念にポップスに向き合っているプロセスの中からブラック・ミュージックに行き着いただろうことは、細やかなアレンジや曲展開に触れればわかること。6月に来日するオブ・モントリオールが、ある時期から急速にソウル、R&B色を強め、〈エレファント6〉時代、初期のハンドメイド感から遠ざかったような胎動が、いまのこうした世代の連中にも起こっているということなのかもしれない。

頑津 雲天 - ele-king

 『世界のレイヴの歩き方』──ページをめくれば出てくるわ出てくるわ、世界各地のいかれた連中、色とりどりのいかれた場面……ああ、懐かしい。いや、これは現代の光景だぞ。
 レイヴの本といえば日本では清野栄一の『レイヴ・トラヴェラー』が有名だが、先日刊行された『世界のレイヴの歩き方』には紀行文的な、情緒的な要素はいっさいない。ガイド&紹介に徹している。実用性を重んじているわけだ。
 欧州、東欧、北欧、アメリカ、南米、アフリカ、オーストラリア、東南アジア、東アジア、日本……世界中のレイヴ/野外フェスが紹介されている。評判の良いもの、そして、オーガナイズのしっかりしたものを選んでいるのだろう。ホームページのアドレス、開催期間、入場料、アクセスといった基本情報をはじめ、音楽の傾向、トイレやシャワー、気候対策、水が飲めるかどうか、ドリンクの値段、場所によっては買い出しの仕方や食事のことまで紹介している。その心得や準備について触れながら、野外で虫対策や盗難対策にも言及。筆者が現役レイヴ・トラヴェラーだけあって、経験に基づいた実践的な情報/アドバイスが載っているわけだ。これはありがたい。
 
 しっかし、高いですな、いまどきのレイヴは。NYのEDM系のレイヴなんて3日で4万円。マイアミのEDMは5万円。ビールがは1000円弱。で、水が600円だとよ。入場料が高いレイヴとは、高級な立ち食いそば、値がいい発泡酒……ぐらいに矛盾してみえるが、これまた、時代は変わったということだろう。
 もちろんそんな高級レイヴは、ほんの一握りなのかもしれない。ハンガリーの、見るからに牧歌的な村で1週間にわたって開かれるフェスは、入場料は2万円弱。開催期間を考えれば、安い。会場内には食品や日用品も売られている。携帯の充電の施設まである。ここまで充実していればだいぶ安心。アウトドアを甘く見ていると本当に酷い目に遭うし、我慢比べをするわけではないので、最初はやっぱ、施設がしっかりしているところのほうが気が楽だ。
 台湾のレイヴのように、まだ小規模ながら、目を引くものもある。解説を読んで写真を見ている限りはロケーションもヴァイブもかなり良さそうだ。あるいは、ブラジルの海辺の会場で開かれるレイヴは、みんな上半身裸だし、見るからにラテンのりで、いかにも激しそうで、ちょっと自分には合わないかなと思ったり。いまや欧州のパーティ文化の拠点となったクロアチアのレイヴはふたつ紹介されている。日本のアンダー・グラウンドなレイヴもいくつか、それぞれのコンセプトとともに紹介されている。

 本書のあとがきで筆者はこう書いている。少し長いが、筆者のスタンスがわかる文章なので引用しよう。
 「レイヴァーたちがもっとも嫌うのは商業主義だ。レイヴガイドブックをうたう本書で、企業のバックアップを受けたEDMフェスを紹介していることに首をひねった方も多いだろう。だが、あえてそうしたのは、今、野外パーティ自体がかつてない大きな過渡期にあるからだった。客と一緒に砂ぼこりにまみれて回すDJがいる一方で、何千万という高額ギャラを要求するDJがヘッドライナーに名を連ねる現実。ダンス・ミュージックもまた、格差社会の波に洗われている。だが、そうした状況も長くは続かないだろう。実際、スーパースターDJたちはユース・カルチャーのシーンから閉め出され、アメリカに拠点を移すなど、二極化が進み始めているともいう。ダンス・ミュージックとは本来、アンダーグラウンドなものである」

 そもそもレイヴ・カルチャーとは、高い入場料のライヴ・コンサートや敷居の高いディスコに白けた連中が、だったら自分らで集まって、好きなレコードをかけて踊ったほうがよほど楽しいと思ってはじまったパーティの規模が大きくなったものだ。ハウス・ミュージックのなかのヒッピー的な要素が拡大されたものだった。無料でやるのが本物だと思って、警察に止められるまで無料でやり続けた連中もいたな。パーティが終わってもその場に残って、あらたな人生をはじめた連中もいた。レイヴによって、どれほどの人間の人生が狂ったことか……。まあ、みんなが赤ちゃんだった時代の話だけど。
 そんな風にうぶだったレイヴ・カルチャーも今ではすっかりグローバルな娯楽産業となったようだ。だがね、この動きは、興行師がシーンに関わるようになった90年代の前半からはじまっている。レイヴには、アンダーグラウンドな理想主義と平行して、どうしようもない下世話さもあった。いかがわしい連中もいた。アホも多いし、そんなキラキラしているものじゃない。だいたいがラフだったし、僕は下世話なところも含め、まあ、面白がったわけだ。
 レイヴとはその場限りのコミューンだ。あらかじめ終わりが決められた、刹那的な共同体。だから良かったんだろう。永遠の共同体ではないことが最初からわかっていたから。あれが永遠に続いたら……やばいよな(笑)。
 そして、レイヴ・カルチャーとは経験だ。エクスペリエンス。経験しなければわからない。どんな経験も終わったとき、良かったと思った。絶対に、どんなことがあっても忘れるものか。この景色を目に焼き付けておこう。そう思ったよ。ほとんど忘れてしまうんだけどね。

 初心者は経験者と一緒に行ったほうがいい。行けるうちに行ったほうがいいんじゃないかな。命短しレイヴせよ若者だ。僕はずいぶんと行った。いろいろ経験済みだ。恐い思いもしたけど、もしまた行けるなら、もちろん行くさ。だって、本当に面白いもん。大勢の人間とひと晩の経験を共有するのはいいものだよ。でも、くれぐれも気をつけてな。

※著者の頑津雲天さんが、ele-kingのために最新レイヴ画像/最新のいかれ連中画像を提供してくれました。どうぞ現代のレイヴの場面をお楽しみ下さい。


■磯部涼+九龍ジョー・著
『遊びつかれた朝に
──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』

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 『遊びつかれた朝に──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』の名コンビが、今度は噂のみなとみらい〈BUKATSUDO〉に登場! 音楽はもちろん、それ取り巻くさまざまなコンテンツや文化、風俗を、現場の皮膚感覚から言葉にしてきた人気ライター、九龍ジョー、磯部涼。両者による「音楽ライター編集講座」がこの5月末から開講されるようだ。コミットしてきた場所はそれぞれに異なるが、彼らが足を使ってつぶさに眺めてきたもの、つないできたもの、そのやり方を知ることは、いま何かを考え、行動を起こしたいと思う人にとって大きなヒントとなり勇気となるだろう。そこにはただの“書きかた”に終わるはずのない──音楽文化を「つづる」だけではなく「つくる」ための発想が充填されているはず。ともあれシラバスだけでも刺激的だ。詰まりまくった全6回、参加してみてはいかがだろうか!

■「音楽文化のつづり方 〜どう聴くか、どう書くか、どう編むか〜」
講師:九龍ジョー×磯部涼
全6回

詳細
ライターあるいは編集者として雑誌、単行本ほか各種媒体で活躍する講師ふたりが、音楽についてどう書くか、どう編むかを教える〈音楽ライター編集講座〉です。
音楽ライターや編集者を仕事にするのであれば、いわゆる「レビュー」や「インタビュー」の技術だけではなく(もちろんそれらの“粋”も伝授しますが)、数々の現場や音楽から派生する周辺文化も含め、そこに「どう関わるか」までを視野に入れる必要があるという認識のもと、講師自身の経験や古今東西の音楽批評、ジャーナリズム論、雑誌論、ライター論、現場論なども踏まえながら、いまに“使える”ポイントを実践的に解説します。

【スケジュール】
第1回 ガイダンス
5/30(土) 14:00〜17:00
講義全体のイントロダクションのほか、取材の方法、原稿の執筆、その他ライターや編集者の基本テクニックを伝えます

第2回 批評の歴史と実践について 
6/13(土) 14:00〜17:00
過去の音楽批評を参照しながら、現在の音楽をとりまく状況について書く際に、それをどう活かすかを考えます

第3回 他ジャンルとの関係について
6/27(土) 14:00〜17:00
映画、演劇、文学、コミックなど隣接する他ジャンルとの関わりの中で
音楽について書くことの意義と方法を考えます

第4回 ケーススタディ 
7/11(土) 14:00〜17:00
実際に音楽に関わる現場に出かけ、取材のワークショップを行います

第5回(最終回) まとめ
7/25(土) 14:00〜17:00
講義全体のまとめを行うとともに、音楽文化をつづることをどう仕事にしていくのかを、具体的に伝授します

【講師】
九龍ジョー(くーろん・じょー)

1976年生まれ。いくつかの職種を経て、20代半ばで出版業界入り。編集者、ライターとしてポップカルチャーを中心に、原稿執筆や雑誌、単行本編集を行う。編集近刊に坂口恭平『幻年時代』(幻冬舎)、『MY BEST FRIENDS どついたるねん写真集』(SPACE SHOWER BOOKs)など。著書に『メモリースティック ポップカルチャーと社会をつなぐやり方』(DU BOOKS)、共著に磯部涼との『遊びつかれた朝に――10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』(ele-king books/Pヴァイン)などがある。


磯部涼(いそべ・りょう)

78年生まれ。90年末より音楽ライターとして活動を開始。主に日本のマイナー音楽と社会の関わりについてのテキストを執筆し、04年に単著『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』(太田出版)、11年に『音楽が終わって、人生が始まる』(アスペクト)を刊行。その他、編著に風営法とクラブの問題を扱った『踊ってはいけない国、日本』とその続編『踊ってはいけない国で、踊り続けるために』(共に河出書房新社)、歌詞がテーマのインタヴュー集『新しい音楽とことば――13人の音楽家が語る作詞術と歌詞論』(SPACE SHOWER BOOKS)、共著に九龍ジョーとの『遊びつかれた朝に――10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』(ele-king books/Pヴァイン)等がある。

【定員】25名様
【料金】全5回 28,000円(税込)
【場所】BUKATSUDO

申し込み
https://music-writer1.peatix.com/

BUKATSUDO公式サイト
https://www.bukatsu-do.jp/

GNOD - ele-king

 デビュー以来のグノド(GNOD)・ファンを自負する自分的にはこりゃ待望の新作。スプリットや変名での名義を除けば正式なグノド・“コレクティヴ”としてはかなり久方ぶりのフル・アルバムとなる。しかもヴァイナル盤は3枚組でCDは2枚組、余裕で15分オーバーの曲が5曲入っているというとんでもないヴォリュームである。リリース元の〈ロケット・レコーディングス(Rocket Recordings)〉からの直売は予約で即完売、いやはやすさまじい人気である。

2007年の結成以来、マンチェスターはサルフォードのイスリントン・ミルを中心に、のべ30人以上のメンバーが出入りしていた、バンドというよりもまさしく“コレクティヴ”であるグノド、初期のジャムには16人ものメンバーでジャムっているものもある。

儀式的様相を呈した大所帯クラウト・ジャム・バンドとして出発した彼らは当時のサイケ・リヴァイヴァルも後押しし、瞬く間に話題のバンドとなった。グノドのブレーンとも呼べるメンバーのパディ・シャインは当時を振り返りながらこのように語っている。

「2012年の〈ロードバーン・フェスティヴァル〉(オランダで恒例のサイケ/ストーナー・ロックの祭典)でプレイしたとき、この表現方法での限界を感じたんだ。その後、ジャムのマンネリ化を脱却するために僕らはショボいシンセなんかを持ち寄ってピロピロしはじめたんだよ」

このとき、同じくバンドの重要メンバーであるクリス・ハスラムがMPCをゲットし、MPCを脳みそとして各メンバーが持ち寄るガジェットを束ねて、グノド独自のサウンドシステムを構築するアイデアが生まれたという。時期を同じくしてパディはドラス(Druss)、クリスはドウェリングス(Dwellings)としてインダストリアル・テクノ・プロジェクトをそれぞれ始動させている。ふたりを全面的にフィーチャーした〈トレンスマット(Trensmat)〉からの2013年度作品『グノド・プレゼンツ・ドウェリングス&ドラス(Gnod Presents Dwellings & Druss)』はそれまでのバンド活動のシーンを越え、多くのテクノ/電子音楽リスナーに彼らの名を知らしめることとなった。

現在、グノドの主要メンバーはクリス・ハスラム、パディ・シャイン、マーレーン・リベルト、アレックス・マカルテ、アンディ・ブランデルといった編成となっているようだ。クリス・ハスラムとパディ・シャインによるDIYレーベル、〈テスラ・テープス(Tesla Tapes)〉のリリースも25を越え、装い新たに〈オノ・テスラ(Ono Tesla)〉としてDIYディストリビューション・ネットワークを拡大させている。飛ぶ鳥を落とす勢いとはこのことだ。

『インフィナイト・マシーン(Infinite Machine)』はクラウト・コレクティヴとしてのグノドへの原点回帰と再定義である。シンセやサンプラーにドラムマシン、ギターにドラム、サックスにパーカッションなどなどすべての道具がシャーマンのごときメンバーの間を行き来し、彼らの布陣で描かれる魔法陣の中心へすべてのエネルギーが集約、聴者はそこからインナー・スペース・トリップの奈落を──その圧巻のヴィジョンを目の当たりにしながら降りつづけるだろう。IN GNOD WE TRUST !!!!


ADRIAN SHERWOOD - ele-king

 いや、実際に震えたんですよね。芝浦のGOLDっていう伝説的なクラブにエイドリアン・シャーウッドが来たとき、もう、どんな風に彼がDJしたのかと言えば、カセットテープを使ってて。マッサージのように、音が床から全身に響く。その低域の迫力たるや、さすがだと思いました。
 俺はエイドリアン・シャーウッドになりたい。こう言ったのはアンドリュー・ウェザオールでしたが、UKのDJ/プロデューサーにとってシャーウッドはヒーローです。彼はジャマイカで生まれたダブの技法を、ロック、ヒップホップ、インダストリアル、テクノ、ベース・ミュージックに応用して、道無き場所に道をつくりました。最近では、ピンチと組んで、ダブステップとUKダブとの華麗な結合に成功しました(https://www.ele-king.net/interviews/004243/)。
 4月18日(土)、代官山ユニットにて、エイドリアン・シャーウッドの生ミックス・ショーがあります。クラシック・セット(DJ)、最新セット(マルチトラック)、そしてにせんねんもんだいのライヴを生ダブ・ミックスという3本立てです。
 今週末は、エイドリアン・シャーウッドのライヴ・ミキシングに震えろ!

ADRIAN SHERWOOD
"AT THE CONTROLS" X 3

4/18 (Sat) @ 代官山 UNIT
Open / Start 18:00 Ticket : 前売 ¥4,500 当日 ¥5,000

MIX 1:’79 ~ ’89 クラシック DJ Set !
MIX 2:対決!Nisennenmondai 生DUBミックス!
MIX 3:マルチ・トラック最新セット!

UNIT: https://www.unit-tokyo.com

OSAKA
4/16(Thu) @ CONPASS
more info: www.conpass.jp

NAGOYA
4/17(Fri) @ CLUB MAGO
more info: club-mago.co.jp

katsuhiro chiba - ele-king

 美しい音とは何か。主観的な相違などがあるかもしれないが、しかしそこに客観を持ち込んで判断できるものでもあるまい。だからあえて断言してしまおう。美しさとは「透明さ」のことである。
 美しさの領域においては、残響であっても(いや、それこそ)いっさいの妥協は許されないはずだ。光の反射のようにクリスタルに交錯していなければならない。それは、われわれがデジタルに求める思想に限りなく近い。では、その思想とはいかなるものか。これも断言しよう。未来へのピュアな希求であり希望である、と。
 
 カツヒロ・チバ(katsuhiro chiba)の4年ぶりのフィジカル・リリース・アルバムにして、セカンド・アルバム『キコエル』(KICOEL)は、まさに、いっさいの濁りのないクリアでピュアなエレクトロニック・ミュージックである。ここには彼が追い求めた響きのみがある。まるで仮想現実の夏の夜に高解像度に輝く星空のような音の粒と連鎖。そこに煌めく純度の高いポップネス。私はこのアルバムを聴いて、新しい時代のポップ電子音楽を感じた。

 まずカツヒロ・チバの経歴を簡単に振り返っておこう。2011年にファースト・アルバム『サイレント・リバーブ(Silent Reverb)』を〈トーン・オン・トーン(tone on tone)〉から発表し、翌2012年にEP『パーク.EP(PERC.EP)』を、〈Hz-レコーズ〉からフリー・ダウンロードでリリースした。これらのアルバムには、本作へと至る電子音とポップネスのエレメントがあり、まずは必聴である。
 そして、カツヒロ・チバは音楽プログラミング言語Max/MSPのスペシャリストとしても知られている。2003年に、サンプル・ループを主体とするラップトップ・インプロヴィゼーション用ソフトウェア「cyan/n」を発表し(現在はフリーウェアとして公開されている→ https://audiooo.com/cyann)している。このシステムを用いたライヴ・パフォーマンスも展開した。
 また、彼はアイ・フォーン・アプリの「hibiku」の開発者でもある。このアプリはデジタル合成技術によって、特別なイヤフォンやマイクを用いることなく、美しい残響音を生成するというものだ。本アプリはリリース時、大きな話題を呼び、2013年リリース時にはApp有料アプリ・ランキング1位を獲得したほど。そのほか専門誌への寄稿・連載なども行っており、まさに電子音のスペシャリストといってもいいだろう。まさに一流のプログラマーなのである。
 じじつ、彼の出す音はすべてコンピューターから生成されている。それは本作でも同様だ。シンセサイザーやサンプリングやフィールド・レコーディング音などをいっさい使わず、すべての音を「Cycling'74 Max」を中心としたプログラミング技術によって生成しているのだ。本作の大きな魅力でもある残響も独自のアルゴリズム・リヴァーブ「Chiverb」によって生まれているという。まさに一流のプログラマーによって生まれたサウンドなのだ。

 しかし、私が注目したいのは、その数学的/工学的ともいえる知性から生まれた音は、たしかに明晰な数式のようにクリアであるにも関わらず、誰もが楽しめるポップネスを獲得している点なのである。エクスペリメンタルな過激さよりも、深い叙情すら兼ね備えた音楽とでもいうべきか。完璧にクリアな電子音によって鳴らされるポップネスは、私たちの感情の奥深い場所を刺激する。それは懐かしさといってもいいかもしれない。
 電子音楽にノスタルジア? だが、それは不思議なことではない。本作に横溢しているドリーミーな感覚は、まるで夢をみている感覚に近いからだ。それも幸福な夢、幼少期の夢だ。それを実現させるためにカツヒロ・チバは自分が追いとめる音色だけを追求しているのだ。この知性とポエティックな感覚の共存にこそ、作曲家カツヒロ・チバの真骨頂がある。本作は、ノスタルジック・ポップネスが前2作よりも、よりいっそう追求されているのだ。

 1曲め“クラフツマン(Craftsman)”の冒頭、透明な持続音からすべての雰囲気は決まる。キラキラと煌く電子音たちは、どれも耳に優しくも聴きやすいのだが、しかし徹底的に磨き上げられている。まるで工芸品のようなコンピュータ・ミュージックだ。
 2曲め“パーフェクト・マン(Perfect World)”の軽やかな電子音のアルペジオと軽やかに耳をくすぐるハイハットやビートの音色が、私たちを音の旅へと一気に連れていく。まるで47分のファンタジー・トラヴェル。そうして行き着いたラスト曲“ザ・ランプ(The Ramp)”はひと時の旅の終わりを告げる曲だ。まるでオルゴール的な音色と光のカーテンを思わせる電子音で、アルバムは静かに夢の終わりを告げるように優しく幕を下ろすだろう。どこか宮沢賢治的な電子音楽。いわば「銀河鉄道の夜2015」か(本作を細野晴臣氏に聴いてほしいものだ)。マンガ家タナカカツキによるアートワークも本作の雰囲気をとてもよく捉えている。もちろん、これまでのカツヒロ・チバ作品に共通する深い青/緑の色彩も健在だ。

 私は本作を聴きながら、子どものころに遊んだコンピュータ・ゲームを思い出した。むろん30年前のゲームなのでテクノロジー的には拙いものだ。だが大切なのは技術の問題「ではない」。そのテクノロジーを用いて、夢というイマジネーションを生みだしているのか、という点こそ重要なのである。
 テクノロジーが描く未来の世界と、懐かしい世界の創造。現代最先端の音楽プログラマーであるカツヒロ・チバの音楽に純粋なポエジーが満ち溢れているのは、ミライへの夢とノスタルジアへの想いに一点の濁りもないからではないか。
 仮想現実が見せてくれた美しい星空の饗宴がここにある。テクノポップならぬ「テクノロジー・ポップ」の誕生だ。

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