「Nothing」と一致するもの

Vilod - ele-king

 トニー・アレン参加で話題をよんだモーリッツ・フォン・オズワルド・トリオの新譜『サウンディング・ラインズ』から間髪をいれず、同グループのマックス・ローダバウアーと、同作にミックスで参加したリカルド・ヴィラロボスのユニット、ヴィロッド のアルバムがリリースされた。
 
 ヴィロッド名義としてはホアン・アトキンスやネナ・チェリーのリミックスを発表しているし、連名表記ではアルバム『Re:ECM』をリリースしているのだが、『Re:ECM』は事実上ECM音源を使ったミックスCDのような作品だったので、本作がオリジナル・トラックによるファースト・アルバムである。
 全編、ヴィラロボス特有のシンコペーションするビートが横溢し、ストレンジかつエレガントなローダバウアーのシンセが絶妙にアクセントを添える。いわば『サウンディング・ラインズ』以降のアフリカン・リズム・テクノの発展形だ……と冷静に書き連ねているが、このアルバム、かなりの傑作なのである。

 1曲め“モダン・ヒット・ミジェット”、その最初の数秒がはじまった瞬間に誰もがそう確信するはずだ。女性のポエトリー・リーディングに合わせて、ほんの一瞬、速いテンポでキックが刻まれ、次の刹那、何事もなかったかのように、ゆったりしたルーズなビートが鳴りはじめる。この見事さ!
 そして、この最初に刻まれた速いテンポのビートが、「鳴っていないリズム」として記憶の中でループしつづけるため、トラック全体のビート/リズムが意識の上では多層化する。さらにベースライン上で自在に刻まれるスネア、柔らかなハイハット、ローダバウアーのシンセなどがリズムを絶妙に「揺らして」いくのだ。これによりリズムやテンポがミニマルな反復性を維持しまま伸縮する。

 このリズムの「多層性」と「揺れ」こそが、本作全曲を貫く最大の魅惑であろう。一定のミニマルな拍子の中で、リズムが自在に「揺れる」こと。マイルス・ディヴィス『オン・ザ・コーナー』に匹敵するリズムの魔法が、このアルバムにはある(とは言い過ぎか?)。
 緊張と融和。反復とズレ。雑踏の多様な猥雑さ。ミニマル・ミュージックの清潔さ。リズムの伸縮と揺らぎ。聴き手の身体の緊張を解きほぐすマッサージのようなビート。まさしく2015年の最新型リズム/ビート・ミュージックであり、ミニマル・テクノ/ミニマル・ダブの領域を拡張する驚異的な作品だ。

SAKANA - ele-king

いつでも聴きたい元気が出る曲。

年代ジャンル問わず、いつになっても好きな曲、アガる曲を10曲選んでみました。
賑やかな曲ばかりですが、何よりラップものと女性ボーカルものにとにかく弱いです。

<Profile>
ダブステップ、グライム、ジューク、トラップを軸にベース・ミュージックを包括したパーティRAGEHELLを、2012年にK.W.A, YTGLSと共に始動。並行して、NODA、Zatoと「T.R Radio」開始。月に1度、ツイスト気味なDJミックスをライブ配信中。考えるより感じることに重きを置き、音楽と接する。
Soundcloud » https://soundcloud.com/sakanasakana
RAGEHELL » https://www.facebook.com/Ragehelltokyo
T.R Radio » https://mixlr.com/tr–2/

<出演情報>
KAHN & NEEKがブリストルより初来日いたします。是非遊びに来てください!
https://www.ele-king.net/news/004545/

2015/07/24 (FRI)
BS0 1KN
KAHN & NEEK Japan Tour in Tokyo
会場:
Star Lounge (渋谷)
時間:
Open/Start: 24:30
Act:
KAHN & NEEK / GORGON SOUND from Bristol
Bim One Production (Roots/Dancehall Set)
Soi Production (Jungle Set)
100mado 〈Back To Chill〉(Dubstep&100bpm)
SAKANA 〈Ragehell/T.R Radio〉(Weightless Set)
Host MC:Ja-ge
Sound System:eastaudio SOUND SYSTEM
料金:
advance: 3000yen (ドリンク代別途500yen)Limited 150!!!
door: 4000yen (ドリンク代別途500yen)
チケット情報:
https://bs-zero.tumblr.com/ticket
Web: https://bs-zero.tumblr.com/
TW: https://twitter.com/_b_s_0_
FB: https://facebook.com/BS0TOKYO
YouTube: https://bit.ly/BS0YouTube

Super Furry Animals - ele-king

 『リングス・アラウンド・ザ・ワールド』とは、なんて予見的なタイトルだったんだろう。世界じゅうの大多数の人間が、同じ企業が売っている電話を持つことになるとは当時は思っていなかったし……いや、じつはみんな知っていたのかもしれない、そんな未来/現在が来ることを。「リン、リン! リン、リン! リングス・アラウンド・ザ・ワールド!」と繰り返すことで誰もを心躍らせるポップ・チューンは、そんな世界がやって来ることへの高揚と恐怖、その両義性を示しているようにいま聴くと思えてならない――「遅かれ早かれ、僕たちは溶け合ってしまうんだよ」。

 同作はグローバリズムにジェントルに、しかし屹然と抗してみせたスーパー・ファーリー・アニマルズにとっての最高傑作だが、今年デラックス・エディションとして〈ドミノ〉から再発されたのはそのひとつ前の、ディスコグラフィのなかでは少し埋もれがちなフォーク・アルバム『ムーング』だ(2000年、通産4作め)。なぜこのアルバムなのか? そこには15周記念とか、廃盤になっていたからとか、いろいろ現実的な事情もあるだろうが、しかし、ある理由によって時代が召喚したのだと僕は思いこんでしまいたい──このアルバムは全編ウェールズ語で歌われているのだ。

 国内盤のライナーノーツに寄せられたフロントマンのグリフ・リスのインタヴューでの発言によると、古くからウェールズ語を話すコミュニティが不動産業界の介入もあって破壊されつつあるそうだ。制作当時『ムーング』には政治的な動機はさしてなかったそうだが、時が経つとともにその意義はますます重みを増している。いまや消えつつある共同体の、そこに住んだ労働者たちが話した、いまや消えつつある言語――その言葉を使ってバンドは、わたしたちには何を言っているかぜんぜんわからない、だけどその体温は確実に伝わってくるフォーク・ソングを鳴らしている。

 デラックス・エディションというような類のものに僕は正直それほど惹かれることはないのだけれど、ピール・セッションでのライヴが収録されていることは本作のひとつのトピックだ。少しばかりくだけていて、とても親密な録音はこのアルバムの楽曲にフィットしていて、ファンはぜひ聴いておきたいものだ。と同時に、このウェールズ出身のモダン・サイケ・バンドを聴いたことのない90年代以降生まれにも親しみやすい作品であるだろう。というのは、ここでのアシッド・フォークともチェンバー・フォークとも言える楽曲群は、USインディ(・フォーク)で起こったことを5年ほど先取りしているようにも聞こえるからだ(じっさいこの再発とともに、アメリカのリスナーにバンドのディスコグラフィが再発見されているようだ)。厚みがあって陶酔的なコーラスや生々しい録音のアコースティック・ギター、哀愁を帯びたブラスの旋律。それはグリフが発するウェールズ語のミステリアスな響きとも相まって、聴き手たるわたしたちを霧が立ち込める森へと連れて行ってしまう。そこでは人びとが知らない言葉を話しながら生活をしている……。けれどもそこではときに、時空がねじ曲がったかのようなおかしなウェスト・コースト・ポップ、サーフ・ロックも演奏されて、共同体の人びとはとても楽しそうだ。

 僕たちはもちろん、世界を壊していくグローバリズムに誰よりも自分たちが加担していることを知っている。いっぽうではマシュー・ハーバートのようなアーティストをリスペクトしながら、もういっぽうでは日々の消費活動を通して何よりも自分たちを傷つけている。その積み重ねとともに15年を経て、ますます格差は広がり、それでも『ムーング』から響いてくる優しさは変わらない。本編ラスト・トラック“Gwreiddiau Dwfn / Mawrth Oer Ar Y Blaned Neifion”の、荒れる心をなだめるように響くブラスとギター、そして何を言っているか全然わからないグリフの穏やかな歌。訳を見るとここでもまた、電話のモチーフが見受けられる。「落ち着くんだ 電話が鳴り響く/それは真っ暗な孤独を反映している」……世界はますますひとつになって、なのに僕たちは孤立していくばかりなんだろうか? だがそんな不安と悲しみに、この歌たちはありったけの思いやりでもっていまも寄り添ってくれる。

R.I.P. 横田進 - ele-king

 テクノ/ハウス/エレクトロニカのプロデューサーとして国内外に多くのファンを持つ横田進が、3月27日、長い病気療養のすえ永眠したことが最近わかった。音楽関係者との接点を持たなかったご遺族が、先日、遺品整理中に見つけた関係者からの手紙を頼りに報告があった。54歳だった。

 横田進は、ハウス・ミュージックに触発されて、90年代初頭から本格的な音楽活動をはじめている。初期の作品、1993年にドイツの〈ハートハウス〉からリリースされたFrankfurt-Tokio-Connection名義の12インチ・シングルは、都内の輸入盤店でも話題になった。当時勢いのあったジャーマン・トランスの重要レーベルからのリリースだったということもある。が、何よりも、無名の日本人がいきなり海外のレーベルから作品を出すことがまだ珍しかった時代のことだった。いまや音楽は世界に開かれている──そんなオプティミスティックな気配がアンダーグラウンドなシーンでは広まりつつあったころの、象徴的な出来事だった。横田進は、当時のレイヴ・カルチャーのグローバルなうねりに与した最初の日本人アーティストのひとりだった。
 そして、この20年以上のあいだ、横田進の音楽は国内外で高く評価されることになる。とくに90年代末から00年代初頭にかけての横田人気はすごかった。ぼくは、あるイギリス人ライターから「自分が取材したいのはDJクラッシュとススム・ヨコタ」と言われたことがあったし、海外メディアに「レディオヘッドを聴いてなぜヨコタを聴かない」と皮肉られたこともあった。

 横田進は、90年代は主に〈サブライム〉レーベル、90年代末からは自身のレーベル〈スキントーン〉とロンドンの〈LOレコーディングス〉といったインディ・レーベルを拠点に活動を続けていたが、2006年はハリウッド映画の『バベル』に楽曲を提供するなど大きな舞台でも活躍している。そして、結局のところ彼は、およそ22年間の音楽生活のなかで、35枚以上のアルバムと30枚以上のシングルを残した。2012年の『Dreamer』が遺作となったので、より正確に言えば、20年間にアルバムとシングル合わせて70タイトル近くも出したことになる。ひたすら音楽を作り続けていたとも言えるだろう。

 ぼくが横田さんと初めて会ったのは、1993年の初頭だったと思う。場所は麻布か青山あたりのクラブで、知り合いに紹介された。その日、(当時のクラブ・カルチャーがそうだったように)閉店までいた連中みんなで青山デニーズに行って話し込んだりしたが、そのときは横田さんとは挨拶程度しかしなかった。
 2回目に会ったのは1993年の12月末の、麻布イエローでのUR初来日ライヴのフロントアクトを横田さんが務めたときだった。ステージ上にはTR909と2台のTB303ほか数台のアナログ機材が並んで、それらを操作する横田さんの隣ではマコトさんという、これまた実に存在感のある人が長髪を振り乱し、一心不乱に踊っていた。まさに“あの時代”のひとこまだ。
 他にも、いろんな場面を思い出す。1994年7月ラヴ・パレード期間中には、ベルリンのトレゾアというクラブで会った。横田さんは、名誉ある、日本人としては最初のラヴ・パレード出演者だった。
 もしセカンド・サマー・オブ・ラヴなるものが日本にも上陸して、風景をひっくり返すような勢いで、あり得ないほどの狂騒と信じられないくらいの恍惚を伝播させながら、それを体験した人たちの生き方や音楽に関する考えを変えてしまったとしたら、のちに自己否定することになるとはいえ、横田さんは間違いなくそのひとりだった。1994年に発表した『アシッド・マウント・フジ』は、わずか2年で日本にレイヴ・カルチャーが根付き、そしてシーンが生まれたことの証明だ。(そして、そのアルバムが出たばかりの頃、横田さんにサインをねだった19歳の美少年こそ、後に〈メトロジュース〉を始動させる塚本朋樹だった)

 横田さんには名作がいっぱいある。90年代で言えば、デトロイト・テクノに傾倒したころのプリズム名義の『メトロノーム・メロディ』はクラシックだし、トリップ・ホップを取り入れた『キャット、マウス&ミー』やフレンチ・タッチに共振した『1998』も忘れがたい。



 1997年の秋、ぼくは取材のため、初めて横田さんの家に行った。池尻大橋の古い木造一軒家の二階に住んでいた頃で、909や303はもうなかった。「そういうものを所有していると前に進めないから売ってしまった」と彼は言った。
 ほかに印象に残っている言葉を抜き出してみる。「この環境が貧乏な自分にはぴったり」「堕天使のイメージに憑かれている」「もうクラブ・シーンや業界のしがらみが嫌になって、ほんとど人に会わず、公園にいったり、猫としゃっべたりしている」「散歩とプールと図書館が日課」「昔はよかったんなんて言ってもしようがない」「スピリチュアルなものにも興味がない」「ジョイ・ディヴィジョンばかり聞いている」
 そのとき横田さんはこんなことも言った。「ぼくは将来、粉になりたい。粉はふっと吹いただけでバラバラになって、もう元のカタチには戻れない。ぼくは死ぬ直前に白い粉になりたい。いまは粉になるためのプロセスだと思っている」(以上、『ele-king vol.16』より)
 すごいことを言う人だなと思った。そして、このころから横田さんの作風も確実に変わっていった。
 この取材以降、ぼくと横田さんは打ち解けて、会話するようになった。なんどか飲みに行ったこともある。いちどある飲み会で、ぼくが席を立ったとき思わずビールをこぼしていまい、近くに座っていた女性(たしかモデルかなんかだったな)の洋服に思い切りかけてしまったことがあった。それで、ぼくがただただ狼狽しているときも、「ヨコタはいっさい表情を変えなかった」と同席したイギリス人が感心したものだった。
 青山通り沿いのギャラリーで、横田さんのヴィジュアル作品を集めた個展が開かれたこともあった。自身のレーベル〈スキントーン〉をスタートしたころで、彼の最高傑作の1枚であろう、アルバム『SAKURA』(2000年)がとくに海外で大きな評判となっていたころだった。



 90年代末から、ぼくはわりとコンスタントに──といっても1年に1回ぐらいだが──横田さんと会っていたような気がする。
 初めて横田さんの立川のご実家を訪ねたのは、2004年だったと思う。以来、ぼくは2009年までのあいだ1年に1回は横田さんの家に行って、缶ビールを飲みながら横田さんの話を聞いた。

 横田さんの創作活動は、経済面で言えば、ある程度は恵まれていたと言えるだろう。彼のCDは、とくに00年代以降は、作ればほぼ確実に海外に流通していたし、それなりの数が売れていたはずだ。音楽だけでやっていけるだけの稼ぎはあったと思う。海外からもライヴのオファーは毎年のように来ていたし、ビジネスクラスさえ用意されていた。それでも、すでに体調を崩されていた横田さんは、すべてのオファーを断っていた(ぼくはそれを聞いて、いつも「もったいない」とぼやいていたのである)。

 横田さんはある意味頑固者ではあったけれど、裏表のない正直な性格の人で、いつもありのままの自分でいる人だった。高尚な話からわりと他愛もない話までいろいろ話してくれたけれど、ぼくにはどうしても踏み込めないところもあった。それはひと言で言えば、彼の美学に関することだった。
 横田さんはいわゆるアーティスト肌の人で、ロマンティストだった。彼には自分の生きるべき世界があった。生活のにおいのしない人だったし、人付き合いが下手で、べたべたした人間関係を好む人でもなかった。ダンス・カルチャーという、むせかえるほどの人ばかりの世界に、横田さんみたいな人がよくいたものだとあらためて思う。シーンとの接触を持たせなかったこの10年の作品には、クラブ・ミュージックとしての機能性はなく、そしてその代わりに横田さんの美しいと感じるものすべてが詰め込まれているが、最後の最後まで彼がダンス・ビートを捨てることはなかった。 

 ぼくは横田さんと同じ時間を過ごせたことを誇りに思う。繰り返す。セカンド・サマー・オブ・ラヴなるものがもし日本にあったのなら、横田さんは、その時代を代表するひとりだった。そして、数年後には自己否定したように、その終わりの象徴的な人でもあったのだ。彼が言ったように、それは粉となって風にさらされ、もう元のカタチには戻れない。そのはかなさのようなものが、横田さんの音楽にはたしかにある。ハウスをやろうがアンビエントをやろうが、あるいはトランスをやろうが。



Statement

It is with great sadness that we announce the death of Susumu Yokota who passed away on 27th March, 2015 at the age of 54 after a long period of medical treatment.

We are deeply thankful to the people who listened to and supported Susumu's music during his lifetime.

Please accept our sincere apologies for the delay in this announcement, as we were until recently unacquainted with Susumu's music industry contacts.

14 July, 2015
Susumu Yokota's family

Please contact Yokota’s family and close friends on:
yokota4ever@gmail.com
*English mails are accepted.

 

訃報

2015年7月14日

アーティスト、横田進はかねてから病気療養中のところ、2015年3月27日、54歳にて永眠いたしました。
生前、進の音楽を聴いて下さった方々に深謝するとともに、私ども遺族に進の音楽関係の方々とのご面識がなかったがため、このようにご報告が大変遅れてしまったことを深くお詫び申し上げます。

横田進 姉

遺族・関係者へのご連絡は、メールにて以下のアドレスにお問い合わせください。
yokota4ever@gmail.com
Please note that English mails are accepted.

Prayers - ele-king

 さて、今日は最新のダサい西海岸サブカルチャーでも紹介しようじゃないか。サンディエゴのダーク・ウェイヴ・デュオ、プレイヤーズ(Prayers)が掲げる新たなるムーヴメント、「チョロ・ゴス(Cholo Goth)」っていったいなんだよ! ……って読んで字のごとくメキシカン・ギャングスタ+メキシカン・ゴス、サブカルチャーとサブカルチャーが交錯する複合的サブカルチャーである。

 プレイヤーズのラファエルは幼少期に家族とともにメキシコのミチョアカンからサンディエゴへ不法入国し、10代の頃に地元マーケットの小ぜり合いから父を守るためシャーマン・グラント・ヒル・パーク27・ギャングに入団する。高校卒業後、父とともにサンディエゴで初のヴィーガン/ベジタリアン・メキシカン・レストランを開業し、父が亡くなるまでの18年間をレストランの経営に勤しんだ。2010年に第二級殺人罪でムショへブチ込まれ、新たな人生観に目覚めたラファエルは、塀の中でギャング/グラフィティ生活を題材とした自伝的小説、『リヴィング・デンジャラスリー』を執筆した。出所後、著書のプロモーションと自身のアートワークの展示を兼ねてLAを訪れ、成功を収めた。新たな表現を求め、ヴァンパイア(Vampire)やバプティズム・オブ・シーヴス(Baptism of Thieves)などでのバンド活動を開始し、それぞれの解散後にティワナ出身のデイヴとともにプレイヤーズを結成した。ミニマル/ダークウェイヴ・サウンドにギャングスタライフのリリックがのる「チョロ・ゴス」の誕生である。2013年にファースト・アルバム『SD KILLWAVE』をリリース後、一躍話題を呼び、翌年にはカルト(Cult)のツアー・オープニング・アクトとして抜擢される。

 僕が初めてLAを訪れたときからずっと思っているLAメキシカン・ゴス・カルチャーの根強さとはいったいなんであろうか。市内にはそういった連中が集まるバーやクラブがいくつも点在している。彼らが愛してやまないニュー・オーダー、ペットショップ・ボーイズにデペッシュ・モード、バウハウスといったバンドは暴力に支配されたラファエルの生活の中の救いであったようだ。「俺らはメキシカン・ギャングの暴力性の裏にある悲しみや哀れみ、ハートブレーキングを歌っているのさ」なるほどね。

 今年はじめにLAにてラファエルらがおこなったエキシビジョン、『ダーク・プログレッシヴィズム,メトロポリス・ライジング(Dark Progressivism, Metropolis Rising)』では、こういった南カリフォルニアでのユニークなカルチャーであるチカーノ/チョロとゴスが融合するストリート・アートを国際的にアピールし、地元からの絶大な支持をほしいままにしながら本作『ヤング・ゴッズ(Young Gods)』をリリース。

 どう? 僕にはもう何が何だかよくわからないけどもとりあえず歌下手だなぁー。

 ……というのは、現場の人にはいまさらの言葉らしいのですが、ワタクシ野田は、このところ、尊敬する赤塚不二夫先生の生誕80周年(9月14日)に合わせた出版物のために、60代後半から70代にかけての大先輩方の貴重なお話しを聴いてまわり、それを原稿にまとめているのです。それは、この国の70年代サブカルチャーの重要な局面の話です。
 で、その最中に、隣の隣の席にいる橋元が、「ワイキキ・ビート(平均年齢21)はすごいっすよ!」とか、「ワイキキ・ビートがわからないようじゃ、マズいっすよ!」とか、しゃらくさいことを言いやがるわけですよ、これが。
 ぼくは洋楽ファンだけれど、なにもかもが舶来趣味というのには大いに抵抗があります。若いスターが日本のシーンから登場することは、健全だと思います。ところが、ことインディ・ロック・シーンにおいてここ数年気になっていたのは、やれピッチフォークで紹介されたとか、いわゆる「本場のお墨付き」ばかりを気にする向きが目に付くことです。それこそマズいです。相倉久人さんの1950年代の秋吉敏子さんへの厳しさを復習しましょう。
 欧米と日本との差は、耳の差と言うよりも、(世代や商業性やいろいろ越えた)包容力の差です。そんなわけで、ぼくも橋元に負けじと、90年代生まれの子たちの音を聴いてみました。そのなかで、「格好いい」と思ったバンドをここではふたつ紹介しましょう。


RIKI HIDAKA & jan
Double Happpiness In Lonesome China

STEREO RECORDS

D.A.N.
D.A.N. EP

P-VINE

Amazon

 まず、広島のSTEREO RECORDSから気合いの12インチ・レコードでリリースされたRIKI HIDAKA & jan『Double Happpiness In Lonesome China』。若いふたりの才能の結晶といいますか、これ、とんでもなくサイケデリックな世界が展開されます。表向きにはゆるくて恍惚としたギター・サウンドなのですが、曲のなかには底知れぬトリップが待っているのです。とにかく、素晴らしい名盤が誕生しました。ライヴ見たいです。

 もうひとつ、今回紹介したいのは、D.A.Nというバンドです。人気イラストレーターにしてカタコトのリーダー、ドラゴンくんがPVを作っていますが、彼らの音は……本当にモダンです。敢えてたとえるなら、チルウェイヴとジェイミーXXの溝を埋めるバンドです。こちらもまだシングル「D.A.N. EP」を出したばかりですが、そうとう期待が持てそうな人たちです。

 冒頭にて報告した仕事のなかで、高名なジャズ・ピアニストの山下洋輔さんにもお会いできました。山下さんの最初のエッセイ集にはこんな言葉があります。「ジャズの現場で、音を発する側に参加している者がそこで聴いてもらいたいのは『音』であって、どんな言葉でもない」(『風雲ジャズ帖』)
 若き日本のインディ・ロックも、もはや「言葉(意味)」よりも音なのかもしれないなと、ぼくは思ったのです。いや、あるいはスタイルのみあれば他いらないとでも言うのでしょうか、橋元さん。うん、それもひとつの更新のされ方ですよね。あるいは、そこからほかに何か導き出せるのでしょうか……注目したいと思います。

Congo Natty×Caspa来日ツアー2015 - ele-king

 コンゴ・ナッティの去年の来日公演は素晴らしいイベントでした。DJマッドの技巧派ダブステップ・セットのあとに、レベルMCとコンゴ・ダブスがステージに現れ、ボブ・マーリーの“スリー・リトル・バーズ”が流れ、ジャングルで揺れ、戦士たちの歴史が語られ……。あの日のフロアはいつも以上に国際色豊で、若者とベテランが入り交じっていました。ジャングルの持つ求心力はすごいです。あの光景が今年も見られますよ!

 しかも今回はダブステップの王様、キャスパが登場します。彼の曲でダブステップを聴きはじめたという方は多いのではないでしょうか? キャスパのレーベル〈ダブ・ポリス〉からはいくつものクラシックが生まれました。キャスパの重低音を操る力は今日も健在。先日発表されたニュー・アルバム『500』は、全体を凶器のようなドラムとベースが貫いています。アルバムのミックスの展開もすさまじい! イギリスでもなかなか見られない組み合わせが実現するdbsのステージですが、この日もその歴史を更新することでしょう。

 クラナカa.k.a 1945やパート2スタイル・サウンドといった、ラガをキーワードにジャングルとダブステップをつなぐアツい日本勢にも期待大。おそらく当日はレベルMCとともにライターを灯すことになるので、おひとつ持参することをおすすめします!

【東京公演】
UNIT 11th ANNIVERSARY
DBS "JUNGLE BASS SESSIONS"
CONGO NATTY x CASPA

2015.07.18 (SAT) @ UNIT
open/start 23:30
adv.¥3,300 door ¥3,800

feat.
CONGO NATTY a.k.a REBEL MC & DJ CONGO DUBZ
CASPA

with:
KURANAKA a.k.a 1945
PART2STYLE SOUND
JUNGLIST YOUTHS
DJ DON
JUNGLE ROCK

saloon:
KAN TAKAHIKO
NESSILL
HELKTRAM
SHINTARO

info. 03.5459.8630 UNIT
Ticket outlets:6/6 ON SALE!
PIA (0570-02-9999/P-code: 266-620)
LAWSON (L-code: 72753)、
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia/https://www.clubberia.com/store/

渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)
TECHNIQUE(5458-4143)
GANBAN(3477-5701)
代官山/UNIT (5459-8630)
Bonjour Records (5458-6020)
原宿/GLOCAL RECORDS (090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)
JET SET TOKYO (5452-2262)、
disk union CLUB MUSIC SHOP (5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)
Dub Store Record Mart (3364-5251)
吉祥寺/Jar-Beat Record (0422-42-4877)
disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)

info. 03.5459.8630
UNIT >>> www.unit-tokyo.com
DBS >>> www.dbs-tokyo.com

【大阪公演】
7/19(SUN/祝前日)
出演:CONGO NATTY a.k.a REBEL MC & DJ CONGO DUBZ
CASPA
And more..
OPEN:23:00~
ADV:3,000yen DOOR:3,500yen
チケット情報
Peattix https://ptix.co/1ImJiDm
チケットぴあ P-CODE(267765)
ローソンチケット
イープラス https://eplus.jp/

会場:CIRCUS
〒542-0086 大阪府大阪市中央区西心斎橋 1-8-16 中西ビル 2F
TEL:06-6241-3822
https://circus-osaka.com

■ CONGO NATTY a.k.a REBEL MC (Congo Natty Recordings, UK)

ルーツ・レゲエを根底にヒップホップ、ラガの影響下に育ったレベルMCは、'80年代後半からスカとハウスのミックス等、斬新なブレイクビートサウンドで注目を集め、『BLACK MEANING GOOD』('91)、『WORD, SOUND AND POWER』('92)でジャングルの青写真を描く。また92年にボブ・マーリーの"Exodus"のリミックスを手掛ける。Tribal Bass、X-Projectレーベルを経て、JJフロスト、DJロンと共にCONQUERING LION名義で活動、ラガ・ジャングルの中核をなす。'94年にジャングルの総本山となるCongo Nattyを設立、自らもコンゴ・ナッティを称す。『A TRIBUTE TO HAILE SELASSIE I』 を始め、数多くのリリースを重ね、'02年にはMCテナー・フライをフィーチャーした『12 YEARS OF JUNGLE』を発表、初来日を果たす。'05年は足跡を伝える『BORN AGAIN』、'08年には入手困難なシングルをコンパイルした『MOST WANTED VOL.1』をリリースし、レベル自らDJとして新たなパフォーマンス活動に乗り出す。近年は息子のDJコンゴ・ダブス、ヴォーカルのナンシー&フェーベらファミリーも広がり、Glastonbury、Womad、Outlook等のフェスに出演。'13年にBig Dadaからアルバム『JUNGLE REVOLUTION』をリリースし、ルーツ・レゲエとジャングルのヴィジョンを深く追求する。レーベル名の"CONGO"はアフリカの民族音楽の太鼓、"NATTY"はラスタファリアンに由来し、彼らの音楽のインスピレーションは主にこの2つの要素から来ており、真のアイデンティティーはもちろんJAH RASTAFARIである。
https://congonatty.com/
https://www.facebook.com/CongoNattyOfficial
https://twitter.com/CongoNattyRebel

 

■ CASPA (Dub Police / Sub Soldiers, UK)

西ロンドン出身のキャスパはジャングル、ヒップホップを聞き育ち、UKガラージに触発され、DJを開始、トラック制作にも着手する。04年に自身のレーベル、Storming Productionsを立ち上げ、Rinse FMでのラジオショーも始まる。05年にはダブステップに特化したレーベル、Dub Policeを設立、自身の作品やNタイプ、ラスコ等のリリースでダブステップ・シーンの一翼をになう。07年にはラスコと共にロンドンのクラブ/レーベル、Fabricに迎えられ、DJ Mixシリーズ『FABRICLIVE.37』を手掛け、さらには新レーベル、Sub Soldiersからも精力的なリリースを展開する。08年にはGlastonbury, Global Gathering, Big Chill, Glade等のビッグフェスに出演した他、北米、ヨーロッパ各国をツアー。09年、1st.アルバム『EVERYBODY'S TALKING, NOBODY'S LISTENING!』をFabricからリリース、ダイナマイトMCらのラッパーをフィーチャーしたドープ&ファンクネスな世界を築く。12年にはザ・プロディジーのキース・フリントをフィーチャーしたシングル、"War" が大反響を呼び、13年に同曲を含む2nd.アルバム『ALPHA OMEGA』をDub Policeから発表する。その後も勢いは留まらずDub Policeのリリースは100タイトルを越し、キャスパ自身は新たなるヴィジョンとムーヴメントを生むべく制作を重ね、15年6月に待望の3rd.アルバム『500』がリリースされる。
https://caspa500.com/
https://www.dubpolice.com/
https://www.facebook.com/caspadubstep
https://twitter.com/Caspadubstep
https://soundcloud.com/caspaofficial


GODFLESHが再結成後2度めの来日! - ele-king

 マスター・マインド・オブ・インダストリアル・メタル、ゴッドフレッシュ(GODFLESH)が再結成後2度めの来日を果たそうとしている。ゴッドフレッシュが2010年にジャスティンKブロードリック、G.Cグリーンのデュオ編成での再結成、2014年にEP「Decline & Fall」を、そして完全新録アルバム「A World Lit Only By Fire」を発表、驚愕も冷めやらぬ約3年振りの来日公演をおこなう。

 エクストリーム・ミュージックに留まらないボーダレスな活動をおこなう東京が誇るデュオニュソス主義者ども、エンドン(ENDON)が今回のツアーの全サポートをおこなうだけでなく、東京公演ではレベル・ファミリア(REBEL FAMILIA)や、JK FLESHのワン・オフ・ショウではゴス・トラッド(GOTH-TRAD)が出演するなど、ゴッドフレッシュの存在がさまざまなシーンにおいて多大な影響を与えてきたことを物語る内容となっている。

 それはゴッドフレッシュはもちろんのこと、ヘッド・オブ・デイヴィッド(Head of David)にフォール・オブ・ビコーズ(Fall of Because)をはじめ、アイス(ICE)やテクノ・アニマル(Techno Animal)とジャスティンとグリーンがこれまで手掛けてきたプロジェクトがインダストリアル・ミュージック・シーンにとっていかに重要な存在であったのか、2015年現在われわれが目撃することのできる数少ないチャンスでもあるということだ。

■GODFLESH Japan tour 2015
with direct support:ENDON

**shows**

07/17(金)東京:代官山Unit w/ REBEL FAMILIA
open 18:00 / start 19:00
前売 6,000yen / 当日 未定 (ドリンク代別)
問い合わせ: Unit 03-5459-8630

07/18(土)愛知:名古屋今池Huck Finn
open 18:00 / start 19:00
前売 5,500yen / 当日 未定 (ドリンク代別)
問い合わせ: Huck Finn 052-733-8347 / Jailhouse 052-936-6041

07/19(水)大阪:東心斎橋Conpass
open 18:00 / start 19:00
前売 5,500yen / 当日 未定 (ドリンク代別)
問い合わせ: Conpass 06-6243-1666

**ticket**
4/18(土)より下記にて発売
東京: ぴあ(P:261-396)、ローソン(L:76756)、e+、会場
名古屋: ぴあ(P:261-317)、ローソン(L:47027)、e+、会場
大阪: ぴあ(P:262-227)、ローソン(L:55434)、e+、会場

■JK FLESH one-off show in Tokyo 2015
07/21(火)東京:渋谷O-nest w/ GOTH-TRAD, DREAMPV$HER
open 18:30 / start 19:00
前売 4,000yen (ドリンク代別)
問い合わせ: O-nest 03-3462-4420

**ticket**
05/02(土)より下記にて発売
東京: ぴあ(P:261-556)、ローソン(L:76926)、e+、会場


OG from Militant B - ele-king

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interview with Holly Herndon - ele-king


Holly Herndon
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 エレクトロニック・ポップ・ミュージックの最先端としてのたたずまい、そして谷口暁彦氏やスペンサー・ロンゴといった同時代のミュージック・シーンと同調するメディア・アーティストとの見事なコラボレーションによって、ホーリー・ハーンダンの存在はポスト・インターネット時代のPCミュージックにおける多様性のひとつを提示してみせている。2012年に発表された彼女のソロ・デビュー・アルバム『ムーヴメント』での単独制作から、多くの作家がコラボレーターとして参加する今作『プラットフォーム』へ。それはアーティストとオーディエンスのヴィジョンや思考がインターネットを介して渾然一体と化した、スーパーフラットな音源作品として仕上がっている。

 ただし、残念ながら著者はホーリー・ハーンダンのライヴ・パフォーマンスは未見なので、果たしてそれがメディア・アートして如何ほどの強度を有しているのか気になるところである。近年、彼女のプロジェクトはオランダのデザイン・スタジオ、〈メタヘヴン(Metaheaven)〉のマット・ドライハーストとの共同制作として主に展開中であり、ひとりのエレクトロニック・ポップ・アーティストからアート・コレクティヴへと拡張され、そしてSNSを利用したオーディエンス巻き込み型のライヴ・パフォーマンスの噂などから想像を膨らませてみれば、彼女はヴァーチャル・アイコンとして自身の分身を増殖させているとみて間違いなさそうだ。さて、このインタヴューに答えてくれたホーリー・ハーンダンとは一体どの彼女なのだろうか。

テネシー州生まれ。10代の頃にダンス/テクノ・シーン の中心地ベルリンで数年を過ごし、アメリカに帰国。カリフォルニアにあるミルズ・カレッジにてエレクトロ・ミュージックとレコーディング・メディアの博士号を取得、またエリザベス・ミルズ・クローザーズ・アウォードの最優秀作曲賞を受賞。2012年に〈RVNG〉からデビュー・アルバム『ムーヴメント』をリリース。米名門スタンフォード大学の博士課程においてMax/MSPやその他幾多のプログラムを使用し、さらにエクスペリメンタル・ミュージックの可能性を追求。日本人アーティスト谷口暁彦やMat Dryhurstらとのコラボレーション経験を経て、2015年に〈4AD〉より新作『プラットフォーム』を発表する。

私は「1980年以降の実験音楽と録音メディアにおける美学」っていう新設のクラスのカリキュラム作りをしたの。

Max/MSPによる制作を主体としているそうですが、具体的にどういったプログラムやプロセシングを用いているのですか? 差しつかえなければお聞かせください。

ホーリー・ハーダン(以下HH):そのときによって変わるわ。いくつかの特定のプロセスや楽器にはMax/MSPを使っていて、そのほかにたくさんのフォーリー・サウンド(効果音)を自分で録音してプロセスしている。アレンジや実験をするのにはAbleton Liveを使って、自分の声をいろいろな形でのインプットとして使ってもいる。Maxはパワフルなツールだけど、ときにはそれ以上に万能なツールが自分の身体だったりするわ。

では何を研究しているのですか?

HH:いままでのところ、わたしがスタンフォードで過ごした時間は、基本的にコースを受けることが中心になっているわ。私は「The Aesthetics of Experimental Music and Recording Media since 1980 (1980年以降の実験音楽と録音メディアにおける美学)」っていう新設のクラスのカリキュラム作りをしたの。クラスメイトのヴィクトリア・チャンといっしょにこのクラスを作るのはとても楽しかったわ、音楽のプログラムで現代のエレクトロニック・ミュージックを分析するっていうのはよくあることじゃないから。
いまはちょうどアドバイザーたちといっしょに私の研究テーマを絞り込んでいるところだけど、まだ最終段階まで達していないから、完全にかたちになるまでその話をするのは避けておきたいわ。
(センターは)ジョン・チャウニングがFMシンセサイザーを発見したあとに創設されたの。彼はアーティストとして自分自身のテクニックを試行錯誤する中でこの発見をしたから、センター自体の指針も人々がそれぞれの好奇心を追求することができるようにするためのサポートをするってことで、そういうものを奨励するということが、とても深い美意識と技術的な結果をもたらすことができるという信念があるの。ものすごく特別な場所よ。

ヴェイパー・ウェーヴ・ムーヴメントをどのように捉えていますか?

HH:正直に言ってあまりよく知らないの、ときどきそれが私自身の音楽に関連があるって書かれているのを読むくらいで。いろいろなミュージシャンたちが焦点を当てているものの中の、類似する特徴をまとめて呼ぶための言葉なのかもしれないけれど、もしもそれがムーヴメントなのであれば、私はその一部ではないと明言できるわ。私は自分の音楽がなにか特定のムーヴメントに属しているとは思っていないし、私自身の好奇心を追い求めることがいままでずっと私の目標でありつづけてきたの。

どのプロジェクトもそれぞれまったく違った重要な会話だと思っている。

これまで谷口暁彦(Akihiko Taniguchi)氏やMetahavenによるヴィデオクリップでインターネットやデジタル情報を介したメタ空間があなたの音楽のヴィジュアル・イメージとして強く推しだされていますね。彼らの映像作品とあなたの音楽制作において共有するコンセプトとは何でしょうか? また彼らとの過去の共作を経て、あなたの制作に変化を及ぼした部分があれば教えてください。

HH:コラボレーションによってちがうわ。アキヒコ(Akihiko Taniguchi)とのコラボレーションは素晴らしくて、彼の美意識と触覚的なDIYテクノロジーへの興味、そして身近なものへの美的感覚にはとても共感を覚えているの。私も家の中などの環境でたくさんレコーディングをするし、それが彼の作品にとてもぴったりだと思う。私がプライバシーや親密さについてよく考えていたとき、彼の個人用デスクの環境に重点を置いた表現はそれらのテーマを美しく詩的に補完してくれるように感じた。
Metahavenはそれとはまったくちがったコラボレーションのプロセスよ。私は彼らが作品に新しいデジタルな美的感覚を取り入れることや、私自身も自分の作品でやろうとしている、政治的な話題の中にデザイン性を組み込むやりかたを見つけることへのこだわりに、とても刺激を受けた。私たちは『プラットフォーム(Platform)』のコンセプトの基礎になる部分の多くで緊密に協力したし、ビデオやその他のプロジェクトではアーティストのマット・ドライハーストも参加してコラボレーションしたわ。彼らのことは素晴らしい仲間としてみているし、どのプロジェクトもそれぞれまったく違った重要な会話だと思っている。
これらの要素は単なる音楽の飾りではなくて、どれも作品の必要不可欠なパーツだって理解することが大事なの。“コーラス”のヴィデオは曲と切り離せないものだし、“ホーム”もそれは同じ。これら(のビデオ)は単純に機能的なプロジェクトや、宣伝のためのプロジェクト以上のものなの。

『プラットフォーム』ではスペンサー・ロンゴ(Spencer Longo)との共同制作を行なったそうですが、具体的にどのようなものでしょうか?

HH:スペンサーは付き合いの長い友人で、私は彼のツイッターアカウント(@chinesewifi)で彼がはじめた「ワード・スカルプチャー」にインスピレーションを受けた。それが示唆しているものはシンプルで、もしも彼がアート作品を140文字で説明できて、それが私たちの心の中に存在することができるなら、それを実際に物体として作る必要はあるのか? っていうことなの。彼の説明文はすごく鮮烈で、それらの作品をそれ以上発展させる必要があるのか、という概念に対する挑戦になっていた。私たちは2013年12月にロサンゼルスで会って、彼は大量のテキストを作り、私はそれに合わせる曲を書いたの。楽しくてスピーディーなプロセスだったわ。
彼がその曲のために書いたテキストは、インターネット上のプライベートな瞬間、たとえば深夜にオンラインで靴下を見ながら「購入」ボタンの上で逡巡しているときのような、ブラウジングを収益化するために研究されることの多い瞬間にインスパイアされているの。あなたに「購入」をクリックさせる完璧なデザインをするために、誰かが多大な努力を払っている。彼はある意味でそういった瞬間を取り戻しているようなものね。

“ロンリー・アット・ザ・トップ”は世界の上位1パーセントの富裕層に向けて書かれたクリティカル・ASMRよ。

ASMRに触発されたトラックが収録されているとききました。どのような部分に共感されたのでしょうか?

HH:ASMRは人々がインターネットを介した、身体的な刺激を伴う親密性に関与するということのとても興味深い例になっている。海を越えて、誰かが他の誰かの身体にチクリとした感覚を与えられるかもしれない、なんてなかなか美しいアイデアだと思うし、そういったアイデアを中心として、それらのコミュニティがいかに調和がとれて、支え合うようなものになっていったかを見てとても力づけられた。去年の夏にクレア・トランと会って、私たちは「クリティカル・ASMR」を書いてみるっていうアイデアを思いついたの──このテクニックを使って、アクティヴィスト的なメッセージを身体に伝えることができるんじゃないかっていうことに対する考察としてね。“ロンリー・アット・ザ・トップ”は世界の上位1パーセントの富裕層に向けて書かれたクリティカル・ASMRよ。

「ホーリー・ハーダン」という名義はあなた個人のプロジェクトから、ある種複合的なプロジェクトに変容していっているのでしょうか?

HH:それこそが『プラットフォーム』の背景にあるアイデアなの。これは私の活動で、私がこれらすべてのプロジェクトを指揮しているんだけど、刺激を与えてくれる人々をどんどん巻き込むために、活動を拡大させていっている。それが私自身の作品をよりよいものにするのと同時に、音楽産業の仕組みの、より透明性が高くて正直な姿を映し出すことにもつながっていると思う。あまねくアルバムというものは、多大なコラボレーションと他の人たちからのインスピレーションを含んでいるんだし、私はそれを祝福することを選んでいるだけよ。他の人たちからのインスピレーションを認めたり、自分の活動を他の人たちに対して開いても、これが私自身の作品であることに変わりはないと思う。私はただ、自分ひとりでコンピューターに向かって曲を作ることが少し刺激に欠けるように感じはじめただけなの。

あまねくアルバムというものは、多大なコラボレーションと他の人たちからのインスピレーションを含んでいるんだし、私はそれを祝福することを選んでいるだけよ。

「プラットフォーム」の中にあなたの過去の人生経験や体験、宗教観や哲学などのパーソナリティが反映しているものがあれば具体的に教えてください。

HH:答えるのが難しい質問ね。私は特定の宗教に属してはいないし、特異な哲学的傾向を持っていて、それはもちろん自分の体験から生まれたものでもある。私は物事に対してオープンな方で、それは私がアメリカの南部出身で、大人になってからのほとんどの年月を教育の機会を求めて旅して回って過ごしてきたことを象徴していると思うし、私が自分のプロセスをできる限り透明性の高いものにすることにこだわってきたことにもそれが表れていると思う。透明性を支持することは、私が体現する基本的な哲学上の立場だと思うし、それが私が子どもの頃から抱いてきた楽観的な感覚をもたらしていると思う。物事はよりよくなることができるし、それはとくに私たちが世界の中で学んで行動することに対してオープンでいるならなおさらよ。

残念ながら僕は未だにあなたのライヴ・パフォーマンスを観れておりません。ライヴではリアルタイムのヴィジュアル・プロセシングはおこなっていますか? またあなたが目指すライヴ・パフォーマンスとはどのようなものでしょうか。

HH:私のいまのショウはリアルタイムのビジュアル・プロセシングを組み合わせたもので、アキヒコ・タニグチが開発した、3D空間の部屋の中でオブジェクトや不思議なものの集まりを作ることのできるシステムを使っているの。とてもパフォーマンス性の高いシステムよ。それがハイテクな面で、ローテクな面はマット・ドライハーストによるもので、彼のやることはすべてデータ・マイニングを基礎にしている。彼はソーシャルメディアのツールを使って誰がその場に来るかを予測して、テキスト・エディットを使って観客の中の人々についてのストーリーを書くの。これはコミュニケーションのプロセスを、時には居心地の悪いほど、そして時にはユーモラスなほどダイレクトなものにしている。アキヒコのプロセスもマットのプロセスも、10年前には不可能だったと確信を持って言えるし、どちらも最新のテクノロジーを極端に異なった方法で使っていて、興味深いわ。

アキヒコのプロセスもマットのプロセスも、10年前には不可能だったと確信を持って言えるし、どちらも最新のテクノロジーを極端に異なった方法で使っていて、興味深いわ。

ホーリー・ハーンダンとして今後、レコードやCDフォーマット以外の作品、たとえばウェブ・コンテンツやインスタレーションなどを発表する予定はありますか?

HH:ええ、私は過去にもたくさんのアート作品を作ったことがあるし、この夏にはハンブルクにある博物館のためのインスタレーションに取り組んでいて、その他に2つほどのウェブ・プロジェクトにも参加している。レコードは私の活動のひとつの重要な側面だけれど、私にとっては異なる分野の間で自分のあらゆる好奇心を追求するために時間を費やすことが大切なの。それが私を自分の作品に対してエキサイトしつづけさせてくれるわ。

フィジカル・インストゥルメントによる電子音楽は陳腐だと思いますか?

HH:場合によるわ。時にはそうだと言えるし、ほかの場合にはそんなことはない。ケース・バイ・ケースね。私は厳格主義者じゃないの。長い間、ラップトップでパフォーマンスをするのはダサいこととして扱われていたから(幸いなことにそれは変化しつつあるけど)、私はラップトップ・ミュージックを弁護しなければならなかったけど、だからといってフィジカル・インストゥルメントに否定的なバイアスを持っているわけではないの。何であれ、最良の作品を作るために必要なものを使うっていうだけのことよ。

私にとっては、それを作った年について語る作品を作る方が、なにか「タイムレス」なものを作るために気を揉むよりもはるかにいい。そういうのってシニカルで無難なやり方をしなければ、意識的に到達できない目標だと思うの。

現在の自分の作品が10年後にどのように評価されるか考えることはありますか?

HH:そういうことは考えたことがないわ。私は一時的な作品を作ることを恐れてはいないの。私にとっては、それを作った年について語る作品を作る方が、なにか「タイムレス」なものを作るために気を揉むよりもはるかにいい。そういうのってシニカルで無難なやり方をしなければ、意識的に到達できない目標だと思うの。もちろん、あとから振り返って私が何か価値のあるものに貢献したと思えたらそれはいいことだと思うけれど、それが起きるチャンスは、こういうことに神経を使うことで制限されてしまうと思う。私たちには10年後に何が問題になるかなんてわからないし、だからこそいま作る必要があると感じる作品を作るという選択肢しかないわ。

過去の音楽活動を振り返って、自身がローカル・ミュージック・シーンに属していたと思える時期と場所はありますか? もしありましたら、それはどんなものだったでしょうか? またなければ、あなたにとってそういったシーンとの距離とはどのようなものだったでしょうか?

HH:私は2000年代後半頃にベルリンのDIYノイズ/インプロ・シーンに属していたことがあったんだけど、そのシーンは現代音楽にとって多大な形成的影響を与えたと思う。いまはまったくちがう作品を作っているたくさんの素晴らしいミュージシャンたちが、その頃ノイズ・レーベルからテープをリリースすることで活動をはじめたの。オークランドとサンフランシスコではインダストリアル/エクスペリメンタル・ミュージック・シーンの一部であると強く感じたし、いくつものバンドで演奏した。いまはそういうことははるかに減ったわ、私には尊敬する仲間たちがたくさんいるけど、多少私自身のスペースに場所を移したと思いたいな。たくさんのミュージシャンたちがエクスペリメンタルの分野からクラブへと移っていったけど、私たちはみんなそれぞれ音としてはとてもちがっているし、とてもちがった方向へと進んでいる。リスペクトはあるけど、必ずしもそれをシーンとして認識はしていないの。

Are you still clubbing ?

HH:それほどしていないわ。よくクラブで演奏するからクラブで過ごす時間は長いけれど、かなり忙しくなってきて、自由な時間のほとんどは、読書か新しい作品作りに費やしているの。この夏は多少クラブに行けるといいと思っているわ、四六時中仕事しすぎてしまいそうで心配だし。

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