「Nothing」と一致するもの

Grimes - ele-king

 グライムス、彼女もある意味では「KAWAii」の体現者だと言えるかもしれない。本人がそう言及しているかどうかはわからないが、“フレッシュ・ウィズアウト・ブラッド”のPVなどにうかがわれるふんだんな「青文字」系衣装に意匠、きわどい色や東洋モチーフのコミック風ジャケ……日本においては2次元カルチャーと原宿的なものとの間には截然たる線引きがあるが、海外においてはそのあたりざっくりと一括りにされる印象だから、まさに国際化され拡散された「KAWAii」の片鱗がそこかしこにのぞいている。

 なにも、そこにきゃりーぱみゅぱみゅの影響がある・ないというようなことを言いたいわけではなくて、由来が何であれ、グライムスはれっきとしたサブカルチャーの発信者であるということだ。その意味で、彼女はただミュージシャンであるという以上に、時代性やそれにくっついたさまざまなノイズを巻き込んでいる。この点では大文字のアートから身を剥がせなくなったビョークは古びて見える。

 そして、KAWAiiが、異性を惹きつけるよりも同性間での共感に強く影響されるものであるように、本作タイトルの「アート・エンジェルズ」というのは、おそらくは彼女が彼女「たち」自身の眩しさに対して抱く憧れであり、彼女の自己像でもあり、その両者をあわせての矜持にほかならない。「彼女たち」とは誰か。それは、聴けば瞭然、本作にとっての先達であり共感者たち──たとえば本作にも参加しているジャネール・モネイなど同世代のエッジイな女性シンガー/プロデューサーであり、あるいは彼女が私淑するクリスティーナ・アギレラやカイリー・ミノーグやマライア・キャリーといったきらびやかなディーヴァ、ケシャなど自立したパフォーマンスを行うソングライター、そして彼女たちに対して同じ憧れと共感を抱いて生きる女性たちすべてである。有名無名を問わず、そうした存在へのリスペクトを込めた呼び名が「アート・エンジェルズ」なのだろう。

 グライムスことクレール・ブーシェは、そもそものキャリアのスタートをカナダのインディ・コミュニティに発する、まさにD.I.Yなスタイルの宅録プロデューサーだった。チルウェイヴのブームを追い風としたドリーム・ポップの一大機運に同機し、ローファイかつ実験精神旺盛なスタイルで独自のシンセ・ポップを試み、「消費されない」女性プロデューサーたちの存在をあらためて印象づけた。折しもグルーパーやジュリア・ホルターなど、新しい方法を持った女性アーティストが続々と現れたタイミングでもあったが、ブーシェはその中で際立ってポップな存在感を放っていて、たとえばゴスからハードコアにもつながる『ヴィジョンズ』のアートワークなどからは、その極端さがクールなバランスをとって表れているのがわかる。それもまたKAWAiiに通じる感性であったかもしれない。

 そうしたポップ・シーンをゆくインディ・マインドが、今作『アート・エンジェルズ』においては超メジャーな音楽性として表出しているのがおもしろい。今回は本当にカイリー・ミノーグでありケシャなのであって、プロダクションから曲の発想までまるでちがう(冒頭の“ラフィング・アンド・ノット・ビーイング・ノーマル”こそ元ゴス少女の面目躍如たる中世や教会音楽のモチーフが引かれた奇妙なトラックではあるが)。一瞬、「そっちに行ってしまったのか……」と街頭やお茶の間で耳にしかねないトラックの列に驚きながらも、しかし、その中にレジスタンスのように“スクリーム”や“イージリー”や“ライフ・イン・ザ・ヴィヴィッド・ドリーム”などが現われて、やっぱりグライムスだなと──アートなりカルチャーの力によってシーンの釘調整を成し得る才ではないかと期待させてくれる。ドレスを血に可愛らしく染めながら、ヒットチャート様のR&Bやヒップホップを旺盛に奔放に取り込んで、歌い、踊り、遊んでいる彼女は本当にキュートで魅力的だ。こんなふうに、インディかどうかという垣根をついついと設定して聴いてしまっているわが身を恥じ入らせる輝きである。

 じつにさまざまなヴァリエーションがあり、工夫が凝らされているけれど、台湾のラッパー、アリストパネスをフィーチャーして愛らしくも禍々しい怪ラップを聴かせる“スクリーム”、そしてジャネール・モネイとの“ヴィーナス・フライ”などがもっとも多彩な音楽性をそなえつつ、いきいきと本作を象徴しているだろうか。歌う主体であると同時に歌わせる側にもなれるというブーシェ自身の幅を感じさせるとともに、なにより「アート・エンジェルたち」との交歓でありコラボレーションのエネルギーが充満している。音楽がスタイルを提案できずに、半ば退却的にグッド・ミュージック礼賛志向を強めるなか、エンジェルたちのファイティング・ポーズには勇気をかきたてられる。

 ウェブで取り上げきれていない本年重要作は、絶賛発売中の『ele-king vol.17』通称「年間ベスト号」にて。

UKオヤジロックの逆襲、2 - ele-king

 2月に掲載された『UKオヤジロックの逆襲』というニュースを覚えている方もいると思いますが、どうやら2016年も逆襲はまだまだ続きそうな気配です。ライドのフジロックはほんとに素晴らしかったし、ニュー・オーダーのアルバムは高評価、しかもシングルのリミキサーにはアンディー・ウェザオールと石野卓球が参加! メリー・チェインの来日延期は残念だけど、延期公演の会場は大きくなったので2月が楽しみ。

 そこでいま現在発表されている2016年のニュースは以下の通り。

 つい先日終了したハッピー・マンデーズの『ピルズン・スリル・アンド・ベリーエイク』の25周年再現ライヴの評判が本国イギリスですこぶる良いらしく、僕がキャッチしたインサイダーによる未確認情報によると、この勢いでニュー・アルバムのレコーディングに突入するらしい。ちなみに現在マンデイズのマネージャーはアラン・マッギーがやっている。

 もちろん2016年最大のトピックはローゼズのスタジアム・ツアー、なぜかユナイテッド・ファンのかれらがオールド・トラフォードではなくライバルの本拠地エティハド・スタジアムなのかはわからないけれどその直前には日本に! たぶん新譜もあるのでは……。
そして5月にはラッシュ(LUSH)の再結成ライヴ、ミキ&エマの現在を見るのは怖くもあるけど。

 同じく5月にはマニック・ストリート・プリーチャーズは地元ウェールズのスウォンジー・スタジアムで『エヴリシング・マスト・ゴー』の再現ライヴ。もちろんプライマル・スクリームのニュー・アルバムにも注目、どうやら今回は『スクリーマデリカ』的なクロスオーヴァー・サウンドらしい。

 最後に、まだ詳細をお伝えすることができないのですがエレキング読者の方々にとって注目すべきビッグ・ニュースがひとつ。2016年の7月にロンドンの伝説のパーティ・チームがその30周年を祝う野外パーティを計画中! こちらは年明けには発表されます。

 そんな2015年の終わり、MADCHESTER NIGHTが開催されます! 当時からのマンチェ・ファンも当時を知らない若者もオープンからラストまであの時代の名曲を楽しみませんか? 

12月29日 23:00 start
The Stone Roses来日決定緊急開催!
MANCHESTER NIGHT
下北沢MORE
https://smktmore.com
DJ:YODA
1,000 1D inc


RIDEが来日し、NEW ORDERが新譜をリリースした2015年の最後の月、ついにStone Rosesの単独来日が発表になりました。Jesus & Mary Chainの公演は延期だったけどあの時代の特別な曲の数々はいまだ輝いてる。
2016年は確実にアルバムを発表するでであろうStone Roses、その来日決定を一足先に祝いましょう! (与田太郎)


Smurphy - ele-king

 今年は、どうも「ロウ」な音の質感が気になっていた。10年代前半のハイレゾリューションな音の横溢から、ザラついたロウな音へのモード・チェンジ。たとえばジェニー・ヴァルのアルバムで聴かれたようなザラついたファットなビートを思い出してもらいたい。もしくは〈アントラクト〉が送り出すイマジナリー・フォーシスなどのアーティストたちの音の質感。または〈ウモール・レックス〉のジェイムス・プレイスのアルバムの淡いノイズ。さらには〈フラウ〉からアルバムをリリースした日本のマッドエッグの壊れゆくビート。そして、〈リーヴィング〉から今年リリースされて作品たち。

 もはや説明不要だが〈リーヴィング〉は、OPN以降のアーティストともいえるサリヴァ、新時代のポップ・スターにすらなりつつあるジュリア・ホルター、インターネット以降の世界への嘲笑を一気に引き受けたかのようなD/P/I、モジュラー・シンセ使いで一躍人気のゲド・ゲングラス、ノイズ、ビートの多幸性みなぎるマシューデイヴィッドなど人気アーティストたちを送りだしたできたテン年代の「モダン・ニューエイジ」の潮流を代表するレーベルである。が、本年においては、どこか「ロウ」な質感/気分を持ったアーティストの作品を送り出しているように思えるのだ。とくにディーントーニ・パークスの『テクノセルフ』は、ザラついた質感のロウな激シブなテクノ/ビート・トラックで、まさに2016年のモードを先取り(?)したかのような素晴らしいアルバムであった。

 今回取り上げるスマーフィーのアルバムも同様だ。すでに彼女のアルバムは、海外メディア勢の年間ベストにも取り上げられていることからもわかるように、2015年以降のサウンド・アトモスフィアを湛えた傑作といってもよい。メキシコ人である彼女の音は、かの地の空気独特のザラついた質感と蒼穹の青空のような不思議な透明感を持っているように聴こえてくる。
 そこに内包された音楽はじつに多種多用である。ジューク以降のリズム感。ザラついたヒップホップなビート。電子音響的なノイズ。空間を自由に伸縮させるような彼女の「声」。まさに音の坩堝といった趣だが、情報過多の暑苦しさはまるでない。トライバルなリズム、ファットなビート、チリチリしたノイズや綺麗なカーテンのようなアンビエントが、彼女の「声」の周辺に空気の粒子のように舞い踊っていくかのような印象を聴き手に与えてくれるからだ。

 1曲め“ミッシング2MyBB”で透明なスクリーンの向こうから聴こえてくるような声とトライバルなリズムの交錯が素晴らしい。まるでポスト・インターネット時代のブリジット・フォンテーヌか。シームレスにつながっていく2曲め“サンセット”は、曲名とは裏腹に、リズムと時間が逆回転しながら深海に沈み込んでいるような白昼夢的なインタールード・トラック。つづく3曲め“アクエリアス・リジン”では、砂埃が絡みついたようなビートに亡霊のようなヴォーカリゼーションを聴かせてくれる。そして、分解したビートが再度溶け合うような4曲め“ジャルダン”を経て、5曲め“ウィケッド”では、サウンドの霧の中で美しいメロディラインを歌う(この曲、少しだけ90年代終わりの嶺川貴子を思わせる?)。以降も楽曲もリズムとビートとノイズとヴォイスが舞い踊るように表出しては消えていく。ビートにはジューク以降ともいえる分割感があるが、しかしそれすらもサウンドのレイヤーの中に溶け合っているのだ。ハイレゾでもローファイでもない。美しくも埃っぽい「ロウ」な音の中で……。

 そう、ここには「ハイレゾな10年代前半からロウ・サウンドなテン年代へ」という時代のモード・チェンジがたしかにある。本年ギリギリに届いた〈アントラクト〉からリリースされたイゾルデ・タッチのアルバムとともに、2016年にむけての新しい音の蠢きがここにある。

ライター募集! - ele-king

 ele-kingはアルバム評、書評、映画評のライターを募集します。
 info@ele-king.net 「ライター募集係」まで。
 お名前(ペンネーム可)と年齢をお書きの上、新譜、旧譜、映画、本、なんでもいいので、レヴューを3本/各800wで書いてメールしてください。
 音楽に関してはとくにジャンルはこだわりません。面白いものなら何でも取りあげるメディアではありませんが、面白い原稿なら何でも取りあげます。我こそはと思う方は、この機会にぜひご応募ください。採用された原稿には規定の原稿料をお支払いします。
 それでは情熱のこもった原稿を待っています!

『ele-king vol.17』 - ele-king

インディ・ミュージックの2015年
僕たちは1枚を決める──のか! ?

特集:2015年の音楽、:政治の季節「2016年の歩き方」

【2015年間ベスト・アルバム20】
2015年は時代の占い棒としての音楽が健在であることを証明した。
USではケンドリック・ラマーやディ・アンジェロ、UKではヤング・ファーザーズやジャム・シティ、日本では寺尾紗穂やKOHHがそうしたものの代表だ。
そして、ジェイミーXXの若いロマン主義は冷えた心を温めた。
しかし、2015年に欠けているものはユーモアだった。
年間ベスト・アルバム20枚。

【特集:政治の季節「2016年の歩き方」】
音楽は逃避的なサーカスであり、夢のシェルターだ。
が、ものによってはリアリズムに目覚めさせもする。
いまや現実が騒がしくて夢見る暇もないって?
時代を描こうと思ってピンで留めても、時代はつねに動いている。
私たちが思っている以上に、激しく。
日本ではSEALDsがあって、アメリカでは#BlackLivesMatterがある。そ
れらは音楽文化ともどこかで結びついている。
政治の季節2015年から2016年へ、私たちはどのように歩いていけるののだろうか。

【目次】
写真 Jun Tsunoda

interview OPN(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー) 三田格+坂本麻里子

2015・年間ベスト・アルバム20枚(泉智、木津毅、北沢夏音、高橋勇人、デンシノオト、野田努、橋元優歩、ブレイディみかこ、三田格、矢野利裕)
ラフトレードNYの2015年 文・沢井陽子+George Flanagan
映画ベスト10(木津毅、野田努、水越真紀、三田格)
2015年私談 文・増村和彦

特集:政治の季節「2016年の歩き方」
interview 奥田愛基(SEALDs)、牛田悦正(SEALDs)泉智+水越真紀+小原泰広
ケンドリック・ラマーと戦後70年の夏 泉智
UKミュージックの救いの妖精、マーガレット・サッチャー 文・ブレイディみかこ
「ワン・スローガン、メニー・メソッド」──#BlackLivesMatter 文・三田格
20代がクラブに行かないワケ──ダブステップとグライムから考える マイク・スンダ×高橋勇人×野田努
大学に文学部はいらない? 坂本麻里子×三田格
ダンシング・イン・ザ・ストリート──2016年のための路上の政治学 五野井郁夫×水越真紀

REGULARS
初音ミクの現在・過去・未来(中編) 文・ヴィジュアル 佐々木渉
ハテナ・フランセ 第4回 戦争よりも愛のカンケイを 文・写真 山田容子
音楽と政治 第7回 ストレイト・アウタ・サムウェア 文 磯部涼
アナキズム・イン・ザ・UK 外伝 第8回 恋愛とPC 文 ブレイディみかこ
ピーポー&メー 人々と私 第8回 故ロリータ順子(前編) 文 戸川純

interview 渡辺信一郎 橋元優歩+野田努+小原泰広

interview KODE 9 高橋勇人+青木絵美

gallery 横山純

13年の幕間──2015年のジム・オルーク 松村正人+菊地良助

interview with Phew - ele-king

 説明不要だろう。本媒体にも何度か登場したPhewはいうまでもなく、伝説的なパンクロック・バンド、アーント・サリーでデビューし、80年には坂本龍一のプロデュースによるPASSからの「終曲/うらはら」でソロに転じて以降もながらく、この国の音楽の先鋭的な部分を支えるつづけるヴォーカリストである、と書くことで私はPhewがこのインタヴュー後半でいう禁忌を何重にもおかしていることになるかもしれないとおそれもするが、そのPhewがやぶからぼうにアナログ・シンセサイザーの弾き語りをはじめるにいたったのはいくらか説明を要することかもしれない。2010年の『ファイヴ・フィンガー・ディスカウント〜万引き』で他者の楽曲を歌いきったPhewは小林エリカとのProject UNDARKで震災以後の原発――というより「核」と記したほうがよりニュアンスはちかい――問題を、電子音響と声(語り)で俎上に乗せ、それをひとつの境に機材を担ぎ、単独で声と音響のライヴを本格化することになる。およそ2年前から、彼女のライヴではこの形態が中心となり、私は何度かライヴを拝見しましたが、それは毎回、可変的な表情をみせる、すぐれて即興的でありながら、Phewという個体に固有の磁力がすべてを覆う音の場を体験する得がたい機会だった。この状態のこれが音盤に定着するのを私は願い、やがてそれは3枚のCDRに素描として輪郭がのこった。


Phew
ニューワールド

felicity

Post-PunkElectronicExperimental

Amazon

 『ニューワールド(A New World)』のあるところはその延長線上にあるが、それだけではない広さがこの新しい世界にはある。科学技術が約束する“ニューワールド”を冒頭に、唱歌としてよく知られる“浜辺の歌”を終曲に位置づけたことで、あいだの7曲は、“終曲2015”にせよジョニー・サンダースのハートブレイカーズのカヴァーである“チャイニーズ・ロックス”にせよ、超新星爆発の光が何万年ものときを経て網膜に届くような気の遠くなる時差がなぜか未来的な色彩を帯びてしまう奇妙な倒錯さえ感じさせる。未聴あるいは既聴の錯誤。「あした浜辺」でしのばれるもの。もちろんこれは何度目かに聴いた私の感想であり、明日変わってしまうものかもしれないし、朝な夕なに変わるものかもしれない。該博な読者なら楽しみは倍加するにちがいない。けれども、はじめて聴くひとも遠ざけないポップな煌めきもスパークしている。
 ようこそニューワールドへ、と〆るべきかもしれないが、私たちの住む世界がもうニューワールドである。


私にとって音楽は逃げる場所だったんです。でも今年に入って音楽をつくっていたら、音楽が避難場所ではなくなっていると気づきました。「これからどうなっていくんだろう」という気分が、80年代のはじめに感じていた個人的な閉塞感とすごく似ている。だけど当時とは決定的に変わってしまった――そういうことを表現したかったんです。


ソロでのシンセ弾き語りは2年くらい前からですよね。

Phew(以下、P):最初は2013年の6月。UTAWAS(ウタワズ)というイベントがSuperDeluxであって、そこで山本精一さんとやりました。山本さんと私といったら、昔のあのアルバムのイメージがあるんじゃないかと思って、わざと「歌わない」というタイトルにしたんです。

『幸福のすみか』ですね。あのアルバムは名盤ですが、「歌わない」とはいえ、急にシンセサイザーで演奏できるわけではないですよね。もともと電子音楽に興味はあったんですか。

P:電子音楽はずっと好きでしたけど、自分でやるとは考えたことはありませんでした。最初にリズムボックスをすごく安く買ったのがはじまりです。Whippany社の「Rhythm Master」というヴィンテージのリズムボックスを1万円ちょっとで手に入れたんですね。
 私は80年代に入ってからテクノポップとか、そう呼ばれていた音がダメだったんですね。なにがダメってリズムボックスの音色がダメ。80年代はRolandの「コンピュ・リズム」が主流だったと思うんですが、その音質がイヤでした。60年代、70年代のリズムボックスの音は大好きなのに。もう音が全然ちがう。それを実際に手に入れたことが大きかった。それまでは、ヴィンテージあつかいで10万円近くしていてとても手が出なかった。それが震災後に円高になったこともあって、そういう機材がeBayで安く海外から買えたんです。それが2011年の春。「がんばろうニッポン」的なかけ声のウラで、私はeBayに張りついていた。

電子音を演奏するにあたって、ドラムの音を決めるのが先決だった?

P:リズムの音色が私にはすごく大きいんです。バンドでもドラムの音色が重要なんですね。ドラマーの場合は基本的なノリもそこにはいってきますが。

そこからご自分の電子音楽の世界を広げていったということですね。

P:そのあとにね、アナログ・ヘヴンっていうアナログ機材を扱っているサイトがあって、そのページを毎日見ていたんですよ。あと、オタクが集まるシンセサイザーのフォーラムなんかをずーっと眺めているうちに「Drone Commander」という機材を見つけたんですね。それはその名前の通り、ドローンを鳴らせる機材で「これに合わせて歌を歌うことができる」と思い、「Drone Commander」とリズムボックスとテープ・エコーでベーシックな音をつくりました。

あくまでライヴが前提だったということですね。

P:当時はライヴしか発表する場所がなかったですからね。

このセッティングにしてから、けっこうライヴをやりましたよね。私もかなり見た気がします。

P: 2013年から月2、3回くらいのペースでやっていましたから多いですよね。

どんどん機材が増えていった気がします。

P:最初は機材が並んでいるだけでうれしかった(笑)。全部鳴っていなくてもよかったんです。

それがいまはちょっとスリムになってきていませんか?

P:ライヴを何度かやるうちに、必要な機材を選択できるようになってきました。子どもが転びながら歩くことをおぼえるように、経験を重ねていかないと私は物事をおぼえていけない。

ライヴでも失敗することもある?

P:たくさんあります。でも私には歌があるからそれでごまかせる(笑)。基本は歌にあるっていうかね。電子音の鳴らし方も、歌を中心に考えます。アナログだと毎回どこかしら音がちがうのがおもしろかったりもします。デジタルだとピッチも安定しているんですけどね。歌はそのときの体調で声が変わるじゃないですか? アナログシンセもそういうところがあって、場所や天候で音が変わります。それに、アナログの機材には自分の指先からつながっている感じもあるんですね。ハウってピーピーいったりするんですけど、最初の1年は原因がまったくわかりませんでした(笑)。

聴くほうは、そういうものかと思って訊いていましたけどね(笑)。動じる素振りも見せないし。

P:けっこう大変なことになっているんですけど。動じないっていうのは経験じゃないかな(笑)。

それでもソロの場合、ひとりで問題を解決しなければならないわけですからたいへんですよね。

P:それは全然ちがいますね。ひとりでやっていたほうが自由度は高いんです。不安といえば、私はバンドでやっているほうが不安なことが多いですよ(笑)。

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80年は、中曽根とレーガンの時代で、徴兵制が復活するぞとかなんとか、そういう意見があったんです。当時、私はロンドンにいて、そのときの『Time Out』の表紙をはっきりと憶えているんですよ。家族写真が載っていて、その3分の2が燃えていて、世界の3分の2が第三次世界大戦を考えていると見出しにありました。私にとって80年はそういう時代なんですけど、2015年にも共通するものがあります。


さきほどの話に戻ると、歌を中心に電子音を考えるということでしたが、Phewさんのような記銘性の高いヴォイスと電子音を電子音を同居させるにあたり、方法論をあらかじめ考えましたか? それともやりながら見出していったのでしょうか。

P:やりながらですね。あらかじめ考えていることもあったんですけど、その通りにしようと思ったら、(アナログ機材の)知識も必要になってきますからね。声にかんしては思っていることがそのままできるんですよ。身体をシンセサイザーに喩えると、どこがオシレーターで、どこでフィルターがかかって、どこをいじればLFOがかかるというか、そういうことが自分の身体ではできる。それは技術でもあるんですが、デジタル的な気分もあるんです。逆に、いま使っているアナログの機材についてはそこまではない。バンドをはじめたころの新鮮さみたいなものを感じています。

すごくメカニカルというか機械的な身体感覚ですよね。Phewさんは声をもちいるヴォーカリストですけど、以前からそういった人間観がある気がしますね。

P:そうかもしれない。ヴォーカリストですけど、思いを伝えるとか、そういうタイプじゃなかったですからね。

以前から、といって思い出しましたが、『ニューワールド』には“終曲2015”と題した曲が入っています。“終曲”は坂本龍一さんがプロデュースしたPhewさんのデビュー・シングルのタイトルですね。

P:“終曲”は1981年に出たんですけど、あの時代というのは私個人は苦しんでいたんですよ。閉塞感があったというか……。80年代という新しい時代のはじまりがほんとうに大っ嫌いでした。パンクは終わってしまった。世の中は浮かれている。だけどメジャーなレコード会社とかはヘヴィメタ・ブームが再燃していて、ムリヤリつくったニューウェイヴを業界レベルでもりあげていく。ものすごく敗北感がありました。それで2、3年くらいはひきこもりみたいな生活だった。
 2015年になってから、1980年には個人で感じていた閉塞感が世間にも広がっている感じがしました。1980年当時には、音楽という逃げ場があった。私にとって音楽は逃げる場所だったんです。でも今年に入って音楽をつくっていたら、音楽が避難場所ではなくなっていると気づきました。「これからどうなっていくんだろう」という気分が、80年代のはじめに感じていた個人的な閉塞感とすごく似ている。だけど当時とは決定的に変わってしまった――そういうことを表現したかったんです。

今回のアルバムの前に自主でCDRを3枚出されています。その一枚目は“アンテナ”という曲からはじまっています。いまの話をうかがって、それは外から、情報でもニュースでもいいですが、そういったものを受信することの暗喩ではないかと思いました。

P:それはね、電子音をはじめたというのが大きいんですよ。電気と遊んでいるような感じなんですよ。無意識のレベルで現実が侵入してきてみたいなのは、作りながらわかったことですね。

あの3枚のCDRは、私は愛聴しているんですが、Phewさんのなかでどういった位置づけあんですか?

P:あれはまだ音楽に閉じこもれた時期のものですね(笑)。

『ニューワールド』への助走みたいなもの?

P:あれこそシンセサイザーでこんな音が出ちゃったっていうくらいの、メモみたいなもので、アルバムとはほとんどつながりはないんですけどね。

でもあそこで実験的な試みをおこなったことで、『ニューワールド』にポップ――という語弊があるかもしれませんが、そういう側面が生まれたのだと思うんですが。より噛み砕いた作品な気がします。

P:たしかに『ニューワールド』は噛み砕いていると思いますよ。サウンド・デザインをDOWSERの長嶌寛幸さんにお願いしたのがすごく大きいと思います。私がメモ代わりに録音した、わけのわからない混沌とした塊を、聴きやすく整理できたのは彼のお陰です。あかじめ曲の構成を考えて、好きなようにどんどん録っていった音源を長嶌さんに渡して、編集とミックスをやってもらう。ただし、 “スパーク”のリズムとシンセはDOWSERのものですね。

あの曲はつくり込み具合が突出していますもんね。Phewさんと長嶌さんというとビッグ・ピクチャーを思い出しもするんですが、あのときと今回はちがいますか?

P:ビッグ・ピクチャーはサンプラーを弾き語りするということで、サンプルには既存の音源がわりあててあって、それを私がいじっていくようなものだったので、演奏という感じではなかったですね。

小林エリカさんやメビウスさんとのProject UNDARKでの活動からの影響はありますか?

P:多少あるかもしれないですね。あのプロジェクトで私は歌と声しかやっていないんですけれども、いろんな方にゲストに来てもらって、電子音の音質によって、声の出し方を変えるやり方を勉強する機会になりました。

『ニューワールド』に収録した曲はいつごろからつくりはじめたんですか?

P: 2013年にこの形態でライヴをはじめたんですが、アルバムの収録曲は、録音直前につくりました。ライヴの内容は、毎回、考えます。40分間で物語をつくったり、絵を描いたりするような感覚です。DJに似ているかもしれませんね。

先日「ライヴみたいなやり方はイヤだ」とおっしゃっていませんでしたっけ?

P:むいてないんですよ。

(笑)もう何年もやっているじゃないですか。

P:ライヴハウスで演奏するのはいいんだけど、私がやることはちょっとショーにはむかないんじゃないかと。お客さんを楽しませる芸がないからね。

それよりは音楽だけ聴いてもらえればいい?

P:クラブってそういうところでしょう? 私、子どもが小さいあいだは夜遊びができなかったから、クラブが一番元気だったころに行けなかったんですよ。それで、この前ひさしぶりにオールナイトに行ったとき、「ああ、そうか。クラブがあったか」と(笑)。音楽をやる場もわかれてしまったというのは、やっていて感じるんですよ。MCでお客さんを湧かせるというのは、ここ10年くらいの傾向じゃないかな。一方的で強いものは受けないと気づいたのは90年代なかばでしたけどね。歌はフワフワしているにこしたことはない(笑)。2000年代を過ぎてからは、低音もいらなくなってきた。ベースがないバンドがすごく増えましたよね。それで空気感というか浮遊感が生まれてるんですよ。

その傾向が生まれた90年代なかば以降、Phewさんは波をうまく乗りきれました?

P:私は──音楽どころじゃなかった(笑)。

『秘密のナイフ』は95年ですよね。

P:その年に子どもができたんです。だからそのへんは音楽もあまり聴いてないですね。渋谷系のときかな。カヒミ・カリィさんは聴きましたけど。

ソロ名義のオリジナル・アルバムとなるとそれ以来ということになりますよ。

P:『ニューワールド』は2年間つづけてきたソロのライヴでやったことをアルバムのかたちにのこしたかったということなんです。あと、SuperDeluxでライヴする機会が多かったのも影響していると思うんですね。毎回六本木ヒルズを横目に、SuperDeluxの地下に降りていくと気分がバットマンになるのね(笑)。それから自分の音楽を世の中に出したいと思うようになりました。

理由はさておき(笑)、かたちになったのはよかったです。ライヴを拝見するたびにCDにすればいいのにと思っていましたから。

P:出し方にもいろいろあるじゃないですか? 閉じた場所、例えば、CDRをライヴ会場で販売するだけとか。私はそれでもいいと思っているんですが、やっぱりヒルズが存在するあいだは音楽を世の中に出していきたい(笑)。

であればもっと実験的な、ライヴをパッケージしたような内容も考えられたと思いますが。

P:でもバットマンだってさ、娯楽映画だし(笑)、できるだけ多くのひとの聴いてもらいたい意識はありますよ。

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パンク電子ロック音楽かなあ。クラシックのひとと話していると私はロックだなと思いますけどね。大部分のロック好きじゃないんですけど。パンクって言われるとちょっとムキになりますね。「まずはあなたのパンクを定義してください」というところから話をはじめないといけない。一番近いのはパンクなのだとしても、精神としてのパンクっていわれるのはちょっとイヤかなぁ。なんかパンク精神ってごまかしっぽいじゃないですか(笑)。

アルバムは9曲収録していますが、全体の構成は最初から決まっていたんですか?

P:それを頭のなかで考えていた時間がすっごく長かった。“チャイニーズ・ロックス”をカヴァーして、“浜辺の歌”を最後もってくるのは最初から決まっていたんですよ。それから“ニューワールド”の歌詞が出てきた。

“浜辺の歌”を最後にもってきたのにはどのような意図が?

P:メロディと歌詞が昔から好きな歌で、一度ライヴでもやったことがあります。あと高峰秀子さんの『二十四の瞳』で最後に“浜辺の歌”が流れます。原作では"荒城の月"なんですが、“浜辺の歌”に変えることで、いい意味で軽い印象がしました。あの明るい哀しさを表現したかった。

Phewさんの“浜辺の歌”を聴いて“うらはら”を思い出すんですよ。「あした 浜辺を」の「あした」に“うらはら”の「朝ならば夜を頼むな」を重ねてしまいます。

P: 80年は、中曽根とレーガンの時代で、徴兵制が復活するぞとかなんとか、そういう意見があったんです。当時、私はロンドンにいて、そのときの『Time Out』の表紙をはっきりと憶えているんですよ。家族写真が載っていて、その3分の2が燃えていて、世界の3分の2が第三次世界大戦を考えていると見出しにありました。私にとって80年はそういう時代なんですけど、2015年にも共通するものがあります。でも決定的なちがいもある。20世紀と21世紀のちがいというか、もう戻れない場所にいて、それを確認したかったというところはありますよ。

ハートブレイカーズの“チャイニーズ・ロックス”をカヴァーされた理由は?

P:大好きなんですよ。私は80年代という時代がホントにイヤで!

そんな何回もいわなくても(笑)。

P:あの浮かれた感じが嫌いで、当時ジョニー・サンダースの歌を聴いていて、とくに“チャイニーズ・ロックス”が大好きだったんですよね。ザ・ハートブレイカーズの『L.A.M.F.』は77年ですけど、パンクが終わっちゃって業界色になっていくなかで、すごくしっくりきた。ジャンキーの曲ですけど、気分的にそれがスッと入ってきた(笑)、それが私の80年。決してニューウェイヴではありません。

パンクではロンドンよりニューヨークのほうが好きだったんですか?

P:いや、ピストルズも大好きでしたよ。でも80年代になったら、スリッツがソニーと契約したりしちゃって。契約したってかまわないんですけど、私はいっしょに浮かれることができなかった。
 1980年に30歳とか、10代なかばとかだったらよろこんでいたかもしれないですが、自分たちでおもしろいことをやってやろうとしていた若者たちが、大人たちに搦めとられていくのをまのあたりにしてガックリしちゃったんです。90年代はじめに、ロンドンでミュート・レコードのダニエル・ミラーと話をする機会があったんですが、彼も同じことをいっていました。

当時、Phewさんのまわりにその感覚を共有できるひとはいましたか?

P:日本にはいなかったですね。

流されてしまった?

P:流されたというより、そうなっていくのがうれしかったんじゃないんですか? ツバキハウスのようなファッションになっていくのが楽しくて仕方ない。でも私はそこにもはいっていけなかった。

そこにもゴッサム・シティ的ななにかを感じていたんですか。

P:東京というすごく小さな場所で起こっていることだと思っていました。ゴッサムみたいにグローバルではない(笑)。

あれもひとつの都市ですよ(笑)。架空ですが。

P:学校に喩えると、ちがうグループが好きじゃないことをやってるとか、その程度の感覚ですよ。そりゃ、ゴッサムとはやっぱりちがいます(笑)。好きではないけど悪ではない。

わかりました(笑)。ではインターネット時代のネットワークのあり方とそれは通じるものはありませんか?

P:それは全然ちがいます。テクノロジーにかんしていえば、70年代から80年代にかけて、それに対する私個人の信仰はすごく強かったんですよ。過去につながっていない現在は、憧れでした。デジタルというだけですごく夢が膨らむ。機材にかぎらず、すべてにかんしてです。『夜のヒットスタジオ』とかでコンピュータのテープが回っているのを見るのが子どもの頃は好きでしたし、『2001年宇宙の旅』のスーパー・コンピュータのハルの歌に心を奪われました。とにかくコンピュータに対する夢がありましたね。それで21世紀の現在がこれなわけです(笑)。音楽も、機材もどんどん変わっていく。デジタルの音が好きじゃないのも、21世紀になってみて夢に描いていたデジタルがこれだったのかという落胆に近いものかもしれないですね(笑)。それはデジタルだけではなくて核技術もそう。当時の核開発の技術者は、それが夢の技術だと考えていたはずなんです。

であれば、文明批評的な側面も『ニューワールド』にはあるということですね。

P:そこまでは大きくはないですけれど、個人的には感じています。

となると、望むような進み方をしなかった現在においてどのような表現をするというのが、別の問題として出てくるような気もします。

P:その点にかんしては、私は歌から音楽を始めてほんとうによかったと思います。基本は自分の身体から出てくるもの、機材が変わろうがなくなろうが、音楽はできますから。

『ニューワールド』にあえてジャンル名をつけるとするとどうなりますか? 電子音楽、ロック、パンクといういい方もあると思いますが。

P:パンク電子ロック音楽かなあ。クラシックのひとと話していると私はロックだなと思いますけどね。大部分のロック好きじゃないんですけど。パンクって言われるとちょっとムキになりますね。「まずはあなたのパンクを定義してください」というところから話をはじめないといけない。一番近いのはパンクなのだとしても、精神としてのパンクっていわれるのはちょっとイヤかなぁ。なんかパンク精神ってごまかしっぽいじゃないですか(笑)。「歌」もそうです。「音楽的」というのといっしょでね。その定義から話さないと。とくに他ジャンルの、美術系のひとたちはよく「音楽的」といいますよね。まあ私も「映像的」とか使っちゃうから似たようなものかもしれませんが。だから、対等の立場で音楽と演劇とか映像とか、いっしょにやることは難しいと思いますよ。対等にぶつかり合って新しいものが生まれるのは奇跡的なことなんだなと思います。

サウンドアートや音楽劇のような様式はむかしからありますし、とくに後者のような試みはさかんになされている気もしますが。

P:演劇っていうのは徹底してことばの表現だと思うんです。だから音楽とは相容れないと感じました。私は逆に映像と音楽と組み合わせに可能性がまだある気がします。

Phewさんは以前、自作の映像を映写してライヴされたことがありましたよね。あれはすごく印象にのこっています。

P:それもやりたいことなんですけど、あと何年生きられるかわからないので、それだったら音楽をまだちゃんとやったほうがいいかなと思うんですよね。

それくらいの時間はあるんじゃないですか(笑)。

P:映像をちゃんとやるには、映像編集に適した高いパソコンを買わないといけないんですよ。そっちにするか音楽の機材を買うかだと、私は機材を買っちゃうかな。まだまだほしいのがたくさんあるから。

さらにシステムをブラッシュアップしたい?

P:というよりは、やっぱり機材が好きなのかなあ。いい音ってやっぱり金なんですよ。

そんなミもフタもない。まあでもそうなんですよね。

P:知識と経験と技術があればやすいデジタル機材でもいい音が出せると思うんですけど、私はそこまでできない。感性だけでやれるのは2、3年ですよ。歌だってそうです。

歌については「終曲/うらはら」、そのまえのアーント・サリーからの積み上げがありますからね。

P:それはそうです。80年代は歌の練習をしていたようなものです(笑)。転んだ経験というか。私の場合、声にかんしては身体でおぼえていくんですよね。喉というよりも、喉の空気の通り道を細くする太くするのを意識する。高い声が昔は出せなかったんですけど、あるとき感覚を掴んだら出るようになりしました。

『ニューワールド』がここ2年の集大成だとしたら、このアルバムを出して、次の構想はなにかありますか?

P:ちょうどディスクユニオン用の特典を家でつくっていて、次やりたいのはこういうことだなと思いました。インストなんですが、歌わなければ現実と遮断できることに気づきました。それは5、6分の曲で、構成もちゃんとあるんですよ。

歌が現実とリンクしてしまうのはことばだからですか?

P:意味的なことではなくて、身体が影響を受けてしまうんだと思います。その曲は音の世界だけでいけた気がしたんですよ。そういう感じでアルバムをつくりたいとは思います。

最後に、タイトルはいわずもがなですが、『ニューワールド』というタイトルはご自身の新しい世界を指していますか?

P:「新しい」というよりも「別の」世界のほうがちかいかな。想像力だけの世界のつもりだったんですけど、そこには現実が侵入してきています。つくっていたときに、80年代の記憶が蘇ってきたりもしました。私、80年頃にオルダス・ハクスリーの『すばらしき新世界』を読んだんですね。物語としては絶望的な終わり方で、いまはそれを超えるような現実になっているように見えるんです。もう希望とか絶望とかもなくて、物語性が失われちゃったみたいな意味合いもあるかもしれない。あの小説も頭のなかにありました。若いころ読んだときは登場人物の苦悩が理解できたんですけど、内容はよく憶えていなかったので、この前読み返してみたら、すごく軽い物語に感じたんです。この苦悩を私は理解できるけれど、私の子どもは理解できないだろうな、というような。ハクスリー自身もいっていましたが、喜劇になるかもしれない。それがいいとか悪いでなくて、受け入れるということですね。

ele-king vol.17 - ele-king

 わずか1年前というのは、感覚的には、つい数ヶ月前のような気がする。しかし2015年の場合は、2015年1月を生きた自分といま2015年12月を生きている自分とでは、明らかに何かが違って見える。それは何なのだろう? そして音楽はこの1年、世界をどのように見ていたのだろう? つまりリスクを持って、この危うい世界に挑んでいたのは誰なのだろうか? 「1ドルの真の代価とは?/いやな問いだな、思考が麻痺してくる」(by ケンドリック・ラマー)
 エレキングの年間ベスト号、22日発売です。ベスト・アルバム20、ベスト映画10本、そして政治特集「2016年の歩き方」。
 どうぞ注目してください。

【2015年間ベスト・アルバム20】
2015年は時代の占い棒としての音楽が健在であることを証明した。USではケンドリック・ラマーやディ・アンジェロ、UKではヤング・ファーザーズやジャム・シティ、日本では寺尾紗穂やKOHHがそうしたものの代表だ。そして、ジェイミーXXの若いロマン主義は冷えた心を温めた。しかし、2015年に欠けているものはユーモアだった。それでは年間ベスト・アルバム20枚。どうぞご覧下さいませ。

【特集:政治の季節「2016年の歩き方」】
音楽は逃避的なサーカスであり、夢のシェルターだ。が、ものによってはリアリズムに目覚めさせもする。いまや現実が騒がしくて夢見る暇もないって? 時代を描こうと思ってピンで留めても、時代はつねに動いている。私たちが思っている以上に、激しく。日本ではSEALDsがあって、アメリカでは#BlackLivesMatterがある。それらは音楽文化ともどこかで結びついている。政治の季節2015年から2016年へ、私たちはどのように歩いていけるののだろうか。

【目次】

002 Jun Tsunoda

012 interview OPN(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー) 三田格+坂本麻里子
026 2015・年間ベスト・アルバム20枚(泉智、木津毅、北沢夏音、高橋勇人、デンシノオト、野田努、橋元優歩、ブレイディみかこ、三田格、矢野利裕)
050 ラフトレードNYの2015年 文・沢井陽子+George Flanagan
052 映画ベスト10(木津毅、野田努、水越真紀、三田格)
060 2015年私談  文・増村和彦
064 特集:政治の季節「2016年の歩き方」
 066 interview 奥田愛基(SEALDs)、牛田悦正(SEALDs)泉智+水越真紀+小原泰広
 080 ケンドリック・ラマーと戦後70年の夏  泉智
 083 UKミュージックの救いの妖精、マーガレット・サッチャー  文・ブレイディみかこ
 086 「ワン・スローガン、メニー・メソッド」──#BlackLivesMatter 文・三田格
 128 20代がクラブに行かないワケ──ダブステップとグライムから考える マイク・スンダ×高橋勇人×野田努
 134 大学に文学部はいらない?  坂本麻里子×三田格
 138 ダンシング・イン・ザ・ストリート──2016年のための路上の政治学  五野井郁夫×水越真紀

 

101 REGULARS
102 初音ミクの現在・過去・未来(中編)  文・ヴィジュアル 佐々木渉
104 ハテナ・フランセ 第4回 戦争よりも愛のカンケイを  文・写真 山田容子
106 音楽と政治 第7回 ストレイト・アウタ・サムウェア  文 磯部涼
108 アナキズム・イン・ザ・UK 外伝 第8回 恋愛とPC  文 ブレイディみかこ
110 ピーポー&メー 人々と私  第8回 故ロリータ順子(前編)  文 戸川純

088 interview 渡辺信一郎  橋元優歩+野田努+小原泰広
118 interview KODE 9 高橋勇人+青木絵美

138 gallery 横山純

158  13年の幕間──2015年のジム・オルーク  松村正人+菊地良助


Archy Marshall - ele-king

 キング・クルールは16歳でデビューしたが、ギターをかき鳴らしながら喚く皺がれて調子外れの歌声、シンプルなロックンロールを軸にブルースやフォークの香り漂うサウンドから、イアン・デューリー、トム・ウェイツといったアーティストを思い浮かべた人は多い。デューリーは身体障害者ということをさらけ出し、体を捩ってツバを吐きながらパフォーマンスした。ウェイツもアル中で浮浪者のような風体だけれど、そんなやさぐれたところが味だ。キング・クルールの歌はティーンエイジャーならではのナイフのような鋭さ、ガラスのような脆さを感じさせる一方、彼らのような汚いオッサンに通じる不格好さ、人生を諦観したような雰囲気があった。ウェイツとも親交が深かった酔いどれ詩人・作家、故チャールズ・ブコウスキーの作品を愛読するこの赤毛でソバカスだらけの青年は、その外見やサウンド、歌声からできるだけ装飾を排し、人間のいびつさやだらしなさ、弱さ、人生の不条理さを綴っているようだった。

 キング・クルールことアーチー・マーシャルは、最初はズー・キッドやDJ JDスポーツといった名義を使い、その後キング・クルール名義で2011年にEP、2013年にファースト・アルバム『月から6フィート下(6 Feet Beneath The Moon)』を発表してきた。ジーン・ヴィンセントのようなロックンロール、ジョー・ストラマー(ザ・クラッシュ)、モリッシー(ザ・スミス)のようなパンク~ポスト・パンク、ジョイ・ディヴィジョン、コクトー・ツインズのようなニュー・ウェイヴ~ダーク・ウェイヴ、ジョン・ルーリー(ラウンジ・リザーズ)、ジェイムズ・ホワイト&ザ・コントーションズのようなパンク・ジャズ~ノー・ウェイヴ、ギャングスターにJ・ディラをはじめとしたヒップホップ、ルーツ・マヌーヴァからワイリーと連なるUKのラップ~グライム、さらにチェット・ベイカー、フェラ・クティからペンギン・カフェ・オーケストラなどいろいろな音楽の影響を受け、そのダウナーなサウンドにはトリッキーのようなブリストル・サウンド、ブリアルのようなダブステップも透けて見える。『月から6フィート下』はジェイミーXX、ジェイムズ・ブレイクら同時代のアーティストの作品と同じ土俵に並べられ、「新世代のビート詩人」というような評価を得た。そして、セカンド・アルバムとなる本作では初めて本名のアーチー・マーシャルを使っている。

 本作は少し変わった体裁で、いままでもキング・クルール作品のアートワークを手掛けた実兄のジャック・マーシャルとの共同制作による208ページに及ぶアートブックが付けられ、そこに散りばめられたイラスト、写真、詩などから南ロンドンでの彼らの日常風景を垣間見ることができる。音楽はそれに対する一種のサウンド・トラックという位置づけだ(いまのところリリースはデジタル配信のみ)。SEやTVから取ってきたようなナレーションを随所に挟み、きっちりと作り込んだ楽曲集というより、いろいろな素材の断片を繋ぎ合わせたミックステープという色合いが強い。『月から6フィート下』は根本的にはシンガー・ソングライター的な資質を打ち出したロック・アルバムだったと思うが、本作のサウンドはよりダビーでエクスペリメンタルな傾向が強まり、“ダル・ボーイズ”などはディーン・ブラントの作品のようでもあるし、場面によってはアンディ・ストット、シャクルトンあたりを彷彿とさせるところもある。“アライズ・ディア・ブラザー”“アイズ・ドリフト”“エンプティ・ヴェッセルズ”のようにヒップホップ的なビート感覚がより前に出ている点も特徴だし、“ザ・シー・ライナー・MK1”のようにポスト・ダブステップ色が濃厚な曲もある。たしかに『月から6フィート下』にもそうした彼のサウンドの下地を匂わせる部分もあったが、それよりも前面に出た歌の強烈さが勝っていた印象だ。もちろん本作でもその独特の歌声は大きな要素となるが、それよりもちょっとしたノイズやSE、音響も含めたサウンド全体のコマのひとつとして表現する傾向が強い。そんな違いもあって、今回はキング・クルールではなくアーチー・マーシャルの名前で発表し、キング・クルールとしてはまた別の形でアルバムを作っていくのだろう。そう考えると、キング・クルールとはあるひとつの人格を借りて表現したプロジェクトであり、じつは本作の方がアーチーの素の部分が出ているという見方もできるが、果たしてどうだろうか。

 バンクシーが発表したグラフィティーがまた話題になった。
 それはフランスのカレイにある移民・難民キャンプの壁に登場した、スティーヴ・ジョブズが難民になってアップルのコンピュータを片手に歩いている絵だ。
 ジョブズの実の父親は政治的理由でシリアから米国に渡った移動民だった。
 で、皮肉だと指摘されているのは、現在の欧州への移民・難民の大移動をもたらせた原因の一端はi phoneに代表されるスマートフォンにあると言われていることだ。移民・難民は皆スマートフォンで情報を入手し、連絡を取り合う。

 「綺麗でクール」と観光者が言う英国に、見捨てられ、荒廃したアンダークラスの街がポケットのように存在しているように、世界にもずず暗いポケットがある。その紛争や暴力が終わらない地域の若者たちが、ネットを介して世界にはもっと豊かで平和で自分が能力を発揮できそうな場所があることを知る。そして大移動が起こる。難民になって移動しているジョブズの絵は、まるで「だよね。僕でもそうするよ」と言っているようだ。

 例えばUKの大衆音楽である。ビートルズ、セックス・ピストルズ、ザ・スミス、オアシス。英国ロックのレジェント、これぞブリティッシュ、と思われているバンドはすべてアイルランド移民の子供たちが率いたバンドである。ジョン・レノンも、ジョン・ライドンも、モリッシーも、ノエル・ギャラガーも、経済移民がいなければUKには生まれなかった。

 人道の側面から難民受け入れは大事、とか、少子高齢化社会の労働力を補うために移民が必要、とか言われているようだが、わが祖国ではもっとも肝要な点が議論されていないと思う。
 厳粛なファクトとして、移民は一国の文化や思想や経済や技術開発に国内の人間にはないDNAや考え方を吹き込んで、その国を進化させる。
 閉塞感、閉塞感と何十年も言い続けている国は、治安の良さと引き換えにスティーヴ・ジョブズやビートルズを生み出すチャンスを捨てている。

                ******


 話は変わるが、ジュリー・バーチルという女性ライターがいる。
 17歳でNMEの名物ライターになり(『Never Mind The Bollocks』の伝説の新譜レヴューは彼女のものだ)、その後は数々の高級紙・雑誌で政治、文化、ファッションなど広範な分野でコラムを書き続け、英国の女性ライターで最高の執筆料を誇る書き手になった人でもある。
 この言いたい放題、やりたい放題のビッチ系フェミニストは、2度結婚して2人の子供をそれぞれの父親のもとに残して離婚した。「英国最低の母親」を自ら名乗るバイセクのアナキーなライターだが、根底には古き良き時代の英国のワーキングクラス・スピリットがある。というのが、わたしが2冊の拙著で書いたところだった。

 が、今年、そんなバーチルの人生に異変が起きた。
 彼女の息子が、6月に自殺したのだ。
 「英国最低の母親」は、次男ジャックの死後、The Stateman誌にコラムを発表した。
 二番目の夫との離婚は、彼と一緒に立ち上げた会社の女性社員とバーチルが恋に落ちたのが原因だったため、夫はそのことを裁判で強調し、バーチルは「母親失格者」の烙印を押されて息子の親権を夫に奪われた。「子供を産んでは捨てる女」と呼ばれてきたバーチルは、実は親権争いで戦って負けたのだった。
 が、週末や学校の休みには息子に会うことを許されていたそうで、バーチルは、故郷ブリストルの近くにあるリドに息子を連れて行ったらしい。
 英国のリドとは屋外プールのことだ。イタリアの湖畔のリゾートに憧れてもそう簡単には行けなかった時代の英国の人々がそれっぽい雰囲気を味わうために作ったレジャー施設である。1930年代には英国各地に多くのリドが作られ、戦後も労働者階級の憩いの場として愛されたが、時代の流れと共に廃れ、閉鎖が続いた。

 バンクシーが今夏ディズマランドを開いたのも、そんな老朽化したリドの一つだった。
 そこには「パンチ&ジュディー」をもじった「パンチ&ジュリー」という展示物があった。これはジュリー・バーチルに捧げられた展示物であり、バンクシーから協力を要請されたとき、彼からバーチルに送られてきたメールにはこう書かれていたそうだ。
 「あなたは、僕にブリストル出身だということを誇りに思わせた最初の人物です」

 バーチルは息子が自殺した3カ月後、ディズマランドを見に行った。
 その場所こそが、実は彼女が幼い頃の息子を連れて来ていたブリストル近郊のリドだった。
 バーチルはこう書いている。
「一つ一つアトラクションを見て回った。死にかけたおとぎ話のプリンセスからカモメに攻撃される日光浴中の人々まで。私の現代版「パンチ&ジュディー」(バンクシーはそれを「パンチ&ジュリー」と呼んでいた)では、パンチが、ソロモンの審判のグロテスク・ヴァージョンのように自分たちの赤ん坊を真っ二つにちょん切ってやろうと提案していた。本当に、そこは私の夢を現実にしたような場所だった。こうして私の人生の夏は終わった」

 バーチルは、サンデー・タイムズに寄稿した記事で、息子が十年ほど前からメンタルヘルスの問題を抱え、うつ病と薬物依存症と闘っていたということを明かした。そしてブライトンで息子と一緒に暮らしていた時期もあったことを明かし、こう書いている。
 「メンタルヘルスの問題を抱えた人間のケアは、足を骨折した人の世話をするのと同じではない。足の骨が折れた人の世話をしたからと言って、自分の足も折れることはない。だが、メンタルヘルスにはリスクが伴う。自分もそれを貰ってしまうのだ」
 「生涯を通じて彼のライフ・コーチであり、キャッシュマシーンであり、専属メイドであり続けることに私はもう耐えられなかった。ついに私は、自分自身を守るために、溺れそうな人間が自分にしがみついている指を剥ぎ取った。彼が自殺を選んだ時、私は彼にはもう何年も会っていなかった」

 バーチルは自分の息子について、7年前に「私には2人の息子がいます。1人とは交流はありませんが、もう1人とは一緒に住んでいます。ジャックといいます。彼は私のよろこびであり、アキレス腱です」とインタヴューで語ったことがあった。

 少しでも物を書く人なら知っているだろう。
 自分の生活をすべて晒して書いているように見える物書きにも、絶対に書かないことがあり、実は本人にはそれが一番大きなことだったりする。自分を本当に圧迫していることは、勇ましくキーを叩くネタにはならない。

 バーチルがそれを書けるようになったのは、それが終わったからだろう。
 彼女の人生が秋に突入したというのは、そういうことだ。

              ******

 2015年は秋も終わり、冬が来て、もうすぐ終わろうとしている。
 わたしの世界は老いているのだということを、亡くなったあの人とこの人にも今年はクリスマスカードを書く必要はないのだと気づくとき、思い知らされる。
 それに、わたしの世界もいよいよ病んできた。が、これはたぶんわたしだけではない。今どきの先進国に生きて、メンタルヘルスの問題で溺れそうな人間がしがみついてくる指の1本や2本、引き剥がしたことのない人のほうが珍しい筈だ。

 今年、緊縮託児所(ex底辺託児所)の子供たちを見ていて痛切に思ったことがある。
 今ではマイノリティーになった地元の英国人の子供たちより、マジョリティーになった移民・難民の子供たちのほうが生き生きとして伸びやかなのだ。
 同じ貧乏人でも、移民の子のほうが精神的にも家庭環境的にも健康で、地元の貧民街の子供のように病んだ部分がなく、明るく溌剌としている。彼らは明日を信じている。

 オックスフォード大学の人口統計学の教授によれば、2066年までには英国人は英国におけるマイノリティーになっているそうだ。
 老いて、病んで、減って行く人々と、若々しく、エネルギーに溢れ、増えて行く人々。
 その数のバランスが大きく変動している時なのだから、2015年がしっちゃかめっちゃかだったのも道理である。

 2016年は「UNCERTAINTY」の年だとジャーナリストがニュース番組で予測していた。
 つまり、さらにしっちゃかめっちゃかということである。アナキー・イン・ザ・UKどころか、アナキー・イン・ザ・ワールドだ。確実とか平穏とか秩序とか、そんなものはもう戻って来ない。

              ******

 大空をたゆたう雲よりも、わたしは地に根を張る草になりたい。

G.RINA × Dam-Funk - ele-king

アメリカ西海岸/LAが誇るモダン・ファンク・シーン最強アーティスト、デイム・ファンクが6年振りとなるフル・アルバム『Invite The Light』をリリース。2年ぶりのJAPANツアーがおこなわれ話題を呼ぶなか、5年ぶりとなるフル・アルバム『Lotta Love』を発表したG.RINAとのスペシャル対談が実現。どうぞ、お楽しみ下さい。

ベッドルームスタジオはある意味、最善の方法だと思ってる

G.RINA「Lotta Love」ダイジェストMV


G.RINA
Lotta Love

TOWER RECORDS

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Dam-Funk
Invite the Light

Stones Throw

Amazon

G.RINA(以下、RINA):G.RINAです、はじめまして。これはわたしのアルバムなんですが、話している間アルバムを聴いてもらえますか?

DaM FUNK(以下、D):もちろん、どんなスタイルなの?

RINA:ファンク、ディスコ、ヒップホップの要素があって、そしてわたしなりのソウル音楽です。

D:いいね、聴いてみよう。日本生まれなの?

RINA:はい。

D:『Lotta Love』G.RINAね。プロデューサーも日本のひとなの?

RINA:あ、これはわたし自身がプロデュースしてるんです。

D:そうか、いいね! 聴こう聴こう。リリースしてどれくらい経つの?

RINA:1ヶ月前にリリースしたんです。

D:曲も作ってるの?

RINA:はい、曲を書いてプログラミングもしています。

D:音を最大にしよう。……クールだね。演奏もしているの?

RINA:はい、バンド・メンバーと一緒に。

D:ドープ! そしてすばらしいね。

RINA:わたしはディスコ・ファンクやソウルやヒップホップが大好きでしたが、その影響を自分のやり方で消化するのにとても時間がかかりました。自分自身のファンク・ミュージックをつくるときにとくにどういう部分に気を遣っていますか?

D:ハートだよ。自分に対して誠実に、心をこめてやるってことが大事なんだ。それに尽きる。俺は夜中の12時から制作を始めるんだ。キーボードに向かって、自分のヴァイブスを探していくんだよ。……この曲いいね、なんていう曲?

RINA:「音に抱かれて」……なんて言ったらいいかな、Music Embrace Us……?

D:へえ、いいね。ところでこのアルバム一枚もらえるかな?

RINA:もちろんです。

D:ありがとう。好きだなこの曲。……このコードがいいね。間違いないコード感だ。ときどき自分の作った曲で、自分であんまり良くないって思うものもあるんだ。ハハハ。でもこれはいいね。

RINA:またまた(笑)

D:ブギー、ファンク、ディスコ、ハウス、ヒップホップいろんな要素があるね。

RINA:ありがとうございます。いろんなジャンルの音楽をチェックしてるんですよね?レコードで?

D:そうだよ、ロック、ソウル、ニューウェイヴ……あらゆる音楽だよ。ファンクだけじゃなくてね。プリファブスプラウトにもハマってる。知ってる?

RINA:知っていますよ。

D:え、ホントに知ってるの? 彼らの音楽こそ俺のお気に入りだよ!

RINA:幅広さがわかりますね!
ところで、今回のアルバムはどの曲も好きですが、なかでも「Surveilance Escape」がとくにすきです。

D:ありがとう。すべて自分のベッドルームで録音したんだよ。

RINA:あのアルバムは一発録りですか?

D:いや、たしかに普段一発録りもよくやっているんだけど、実はこのアルバムの録音には4年かかったんだ。でも全ての音をベッドルームで録音したよ。ベッドルーム・スタジオさ。

RINA:今回の収録曲は全部ベッドルーム・スタジオで録音したんですか?

D:そうだよ。

RINA:わたしもそうですよ!

D:クールだね、それがある意味で最善の方法だと考えてるよ。でも次回はスタジオに入りたいと思ってる。グランド・ピアノやストリングス、そういうものを録音したいからね。

RINA:ピアノもご自分で弾くんですね?

D:うん、生の感触を入れたいんだ。ライヴ感のある作品さ。だけどその前にアンビエントアルバムも出したいと思ってる、インターネットで公開するような形でね。いま進行中だよ。……このアルバム・ジャケットの足はきみの足? なかには顔写真もあるの?

RINA:はい、あります。

D:いいね、あとでまたゆっくりチェックさせてもらうよ。

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自分のスタイルを追い求めて自分を信じて、こだわりから手を放さなかったんだ

DâM-FunK ”We Continue” from『Invite The Light』

RINA:数年前にJzBratでライヴをされていましたね、あれが日本で最初のライヴでしたか?

D:〈ストーンズ・スロウ〉のパーティだとしたら、そうだよ。

RINA:そのときわたしも観に行ったんですが、初めてあなたのライヴを観たとき、あなたのスタイルに新しさを感じました。そしてそれにとても勇気づけられたんです。そこから、わたしも自分が影響を受けたこういった音楽の要素を自分の作曲のなかに活かす方法をじっくり考えるようになったんです。

D:それはうれしいね。そしてそれはうまくいっていると思うよ。その調子でがんばって良い曲を作ってほしいね。

RINA:ありがとうございます。あなたはモダン・ファンクのシーンの開拓者として大きな存在で、同時にとてもユニークな存在でもあると思うんです。アメリカにはおそらく良いプレイヤーはたくさんいると思うんですが、そんななかで自分が他のプレイヤーたちと異なっていたのはどんな部分だと感じていますか?

D:俺は本当にやりたいことだけをやってきた。自分のスタイルを追い求めて自分を信じて、こだわりから手を放さなかったんだ。いろんなスタイルに手を出さずに、なんでも屋みたいにならないようにね。ひたすら自分に正直でいたことで、サヴァイヴしてこれたんだと思う。

RINA:普段はいろんな音楽を聴くんですよね。それでも自分で作るものはファンクにこだわってきた。

D:そう、なぜならこどもの頃からそういった音楽に助けられてきたからさ。プリンス、ジョージ・クリントン、エムトゥーメイ、チェンジ、スレイヴからルースエンズ……そういった音楽に助けられてきたし、良い思い出が沢山あるんだ。いろんな音楽がすきだけど、そのなかでもファンクは俺の血液みたいなものなんだよ。

RINA:わたしにとっても好きなアーティストたちばかりです。とくに影響を受けたといえるのは? プリンスですか?

D:そうだね、ただし1989年まで。それ以降はそうでもないね。サルソウル、プレリュード、影響を受けたレーベルもたくさんあるね。

RINA:では音楽に限らなければ?

D:人生に影響を与えているもの? 夕陽、うつくしい夕陽を眺めることだよ。

RINA:ロマンティックですね!

D:それ以外では年代ものの車で近所をドライヴすること、ファッションそしてインターネットだよ。

RINA:インターネットといえば、あなたのインスタグラムをフォローしていますが、ポジティヴなフレーズやメッセージを写真とあわせて発信していますね。ほぼ毎日されているので、どんな考えでそうしているのか聞いてみたかったんです。

D:そうだね、それはできるだけやりたいことなんだ。俺は他人にしてもらって良かったことを、自分もしていきたいと思ってる。スマートフォンを眺めてたくさんの情報に触れるとき、せっかくなら誰かをインスパイアするようなことばを、諦めるなっていうようなメッセージを発していきたい。

RINA:そういうことに対して強い信念があるのを感じます。

D:俺たちはただの人間だろう、自分が発するメッセージが誰かをひどく傷つけたり人生を壊してしまうことさえある、そんなことをするかわりに、ポジティヴな影響を与えたいんだ。そしてその良いエネルギーがきっとまた自分に返ってくる。もちろん俺だってパーフェクトじゃないし、馬鹿なこともするさ。だけどお互いに影響を与えあう時、良いエネルギーこそが必要とされてると俺は感じてるんだよ。

RINA:その通りですね、そしてそれはあなたの音楽の中にもあらわれていると思います。

D:ありがとう。そうだといいね。

RINA:最後に、短いことばで自分のことをあらわすとしたら?

D:ファンクスタだね。それと同時に良い人生を送りたいと思ってるひとりの人間さ。

RINA:今日はお話しできてよかったです、ありがとうございました。


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