「Nothing」と一致するもの

 90年代から現在までを通じて、もっとも幅広いシーンで愛されてきたといえるエレクトロニック・アクト、アンダーワールド。来月には6年ぶりにフル・アルバム『イフ・ラー』が発表される予定で、2012年にロンドンオリンピック開会式の音楽監督を務めて以来だという新曲“アイ・エグゼイル(I Exhale)”も公開され話題を集めている。
 そして今回は緊急来日の情報が解禁となった。抽選で一夜限りのスペシャル・ライヴ(彼ら推奨のハイファイヘッドフォンを使用)を体験できるほか、2次会場にて360度映像のライヴ・ストリーミングも楽しめるようだ。なお、この企画はの一環であり、本展ではカール・ハイドとリック・スミスによるペインティングと音のインスタレーションも見られるとのこと。それぞれ日程や詳細は以下のとおりだ。

アンダーワールドが緊急来日! ライヴで渋谷をジャック!
世界的デザイン集団「TOMATO」結成25周年記念大型企画展に登場!

3月16日に6年ぶり7作目となる最新スタジオ・アルバム『バーバラ・バーバラ・ウィ・フェイス・ア・シャイニング・フューチャー』をリリースするアンダーワールドの緊急来日が発表された。3月12日から4月3日に渡って、Parcoが東京・渋谷から世界に向けて開催する、世界的デザイン集団Tomato (www.tomato.co.uk) の結成25周年記念エキシビション「THE TOMATO PROJECT 25TH ANNIVERSARY EXHIBITION “O”」 のハイライトとしての来日となり、エキシビション初日に「Underworld Live: Shibuya Shibuya, we face shining future」と題したパフォーマンスで華を添える。

Tomatoの創立メンバーでもあるアンダーワールドのカール・ハイドとリック・スミスは、3月12日渋谷某所で、抽選に当選された幸運な200名のオーディエンスに向け、彼らが推奨するBowers & Wilkins 社製P5 ハイファイヘッドフォンを 使った一夜限りの「SUPER-HIGH-QUALITY-LIVE-TO-HEADPHONE」ライヴを行う。

さらに、今回のライヴは、この春開局する「渋谷のラジオ」(87.6MHz FM)とのコラボレーションで、ラジオ電波を通じて、渋谷の街へ生放送。最新アルバム「Barbara Barbara, we face a shining future」に収められた楽曲も初披露される。(詳細後日発表)

また、このライヴでは、「Galaxy」プロデュースによるライヴストリーミングを2次会場にて開催予定。「Gear VR」とともに360度映像で楽しめるかつてない体験をお届けし、さらに本企画に協力する「Galaxy」と「Bowers & Wilkins」がよりその空間を盛り上げます。(詳細後日発表)

この他、エキシビション本展への参加としてKarl Hydeによるペインティング作品と、Rick Smithによるサウンド演出からなるアートインスタレーションも展示される予定。(Gallery X: 渋谷パルコ・パート1 B1F)

詳細はコチラ >>> www.parco-art.com

また先日ブリストルで開催された6ミュージック・フェスティバルから、不朽の名曲「Cowgirl」と新曲「I Exhale」のパフォーマンス映像も公開されている。

「Cowgirl」 https://youtu.be/BmpBbnPSOTI
「I Exhale」>>> https://youtu.be/l2wOC1JIP1o

8月にはSUMMER SONIC 2016にも初出演を果たすアンダーワールドの6年ぶり7作目となる最新スタジオ・アルバム『バーバラ・バーバラ・ウィ・フェイス・ア・シャイニング・フューチャー』は3月16日にリリース。 日本盤CD限定のスペシャル・フォーマットとして、Tomatoがデザインを手がけたTシャツ付セットも限定数販売される。なお、2月29日(月) までに対象店舗(※オンラインストアは除く)で、日本盤CDを予約すると、オリジナル・A4クリアファイルがアルバム購入時にプレゼントされる。

Labels: Smith Hyde Productions / Beat Records
artist: UNDERWORLD(アンダーワールド)
title: Barbara Barbara, we face a shining future
『バーバラ・バーバラ・ ウィ・フェイス・ア・シャイニング・フューチャー』
release date: 2016/03/16 WED ON SALE
price: ¥2,450+tax
商品情報はこちら:https://www.beatink.com/Labels/Underworld/BRC-500/

Vol.81:Random access NY - ele-king

 今年もまたこの時期がやってきた。あー、アメリカにいるなー、と思える瞬間。スーパーボウルである。アメリカのプロフットボール「NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)」の優勝決定戦。アメリカで感謝祭の次に多くの食料が消費される日。

 アメリカでは、プロ・アメリカンフットボールが国民的にいちばん人気のあるスポーツ(33%)で、次が野球(15%)、その次が大学アメリカンフットボール(10%)である(ハリス・インタラクティブ2015年12月調べ)。プロと大学を合計した場合は43%で、2人に1人のアメリカ人はアメリカン・フットボール好き、というほど人気ぶり。アメリカの国技になっている。

 筆者は去年まで、スーパーボウルにも、ハーフタイム・ショーにもまったく興味はなかったが、たまたま去年、スーパーボウル時にいたバーで、ゲームを大きな画面で上映していた。周りはやんややんやの大盛り上がりで、ルールのわからない私には、まったく「???」だったのだが、そこまでアメリカ人を惹き付けるスーパーボウルとは何ぞや、と興味を持った。ルールは、実際きちんとは把握できていないのだが、4回の攻撃権で10ヤード進むと得点を入れることができる。まわりの友だちが、「いまのは……」とプレイごとに説明してくれるのだが、すぐに次のプレイに進み、「お~、ぎゃ~、ダメ~!!」など大声で野次を飛ばすので、ルールはいつまでも理解できないまま。詳しくはこのリンクを参照(https://www.nfljapan.com/guide/rule/)。

 観るほうも、自分の人生をかけるように真剣で、私はまわりの人の反応を見るほうがおもしろかった。

 ゲームの前に、真っ赤なパンツ・スーツと真っ赤なアイシャドウのレディ・ガガがナショナル・アンセム(国家)を独唱。グランドピアノ一台とガガのみで、後ろには、巨大なアメリカ国旗が広げられ、選手、オーディエンス、会場が一つになり、皆が胸に手を当て敬意を払う。その前では手話で国歌を通訳している女性がいたり、中継で海軍が敬礼している様子が写されたり、あらためて国家的行事なんだなと。ガガは堂々と落ち着き払い、その様子はオペラ歌手のようにもみえる。そしてお決まりの飛行機が飛ばされ、ゲームはスタート。

 ゲーム内容は割愛するが、スーパーボウルはCMの祭典といわれるほど、流されるCMにも気合が入っている。バドワイザー、T Mobile、アマゾン、コルゲートなど、ここで流すCMは500万円を超えるとか。私が好きだったのは、ケチャップのヘインズ。

 ホットドッグになったダックスフンドがヘインズ・ソース・ファミリーに向かって、パタパタ走っている。「かわいいー」と周りの反応も○。緊張感あるゲームの間、ひととき癒される。スーパーボウルのCMはどれも気合が入っているので見る価値ありだが、オーディエンスのダイレクトな反応もわかりやすい。いけてるユーモアを入れると反応するが、さじ加減がちがうと×なのだ。受けると思って作るとだめらしい。

 ハーフタイムショーには、今年はコールドプレイ、ビヨンセ、ブルーノ・マーズが出演。演奏者、ダンサー、チアリーダー、エキストラ、たくさんの人を巻き込み、豪華絢爛に会場を一つにする。

 コールドプレイがメインアクトなのだが、まずフィールドで歌うクリス・マーティンの後ろをたくさんのファンが走り抜ける。ステージは虹色に飾り付けられ、マーチング・バンドや応援団が登場、虹色の花傘を振りまわし、フィールドがお花畑のようになる。彼らが3曲歌った後にブルーノ・マーズが登場。そこで雰囲気ががらりと変わり、その後のビヨンセで、観客の心をガツーンと鷲づかみにした感がある。ビヨンセはこの一日前にニュー・シングル“Formation”をリリースしたばかりで、その曲を披露。ブラックパンサー党を彷彿させる、黒人女性ダンサーを何十人も従え、娯楽の場に政治的意味を盛り込み、ハーフタイムショーの主役を軽く持って行った。その後にコールドプレイが“Clocks”を演奏しはじめると、いままでのハーフタイムショーの映像が映し出され(ポール・マッカートニー、マイケル・ジャクソン、U2など)、3人がいっしょに登場し、“Fix You”、“Up&Up”と続く。最後は、観客席が「BELIEVE IN LOVE」と文字になって映し出され、まわりがすべて虹色に染まる。

 このショーだけでジーンと来るし元気を100倍ぐらいもらった気がする。これだけアメリカが一つになる日ってあるのでしょうか。 今年は、大統領選もあり、すでにドナルド・トランプとヒラリー・クリントン、バーニー・サンダースあたりの話題で持ちきりだが、皆アメリカにプライドを持っているし熱い! いろんな暗い話もあるが、これを観ると万事OK。スーパーボウルへの情熱は、アメリカを象徴している気がする。この国から生まれる音楽がタフなわけである。

Setlist:

Coldplay“Viva La Vida”
Coldplay“Paradise”
Coldplay“Adventure of a Lifetime”
Mark Ronson and Bruno Mars“Uptown Funk”
Beyonce“Formation”
Coldplay“Clocks”“Fix You”“Up&Up”

(参考リンク)
https://pitchfork.com/news/63378-beyonce-mark-ronson-bruno-mars-join-coldplay-for-super-bowl-halftime-show/

Celer & duenn - ele-king

 九州・福岡を拠点とする〈ダエン〉は、オヴァル(マーカス・ポップ)、リョウ・アライ、イクエ・モリ、メルツバウ、ショータ・ヒラマ、マッドエッグ、ニャントラ(中村弘二)、食品まつりなど、個性的な音楽家たちのアンビエント/電子音楽作品などを相次いでリリースし、マニアたちの耳を日々震わせつづけている日本有数のカセット・テープ・レーベルである。
 独自のキュレーション・センスによるラインナップは数ある国内レーベルの中でも異彩を放っており、海外のカセット・カルチャーに日本人ならではの審美眼で対応している、ほとんど随一の存在といっていいだろう。

 その〈ダエン〉から、カリフォルニア出身・横浜在住のアンビエント・アーティストとして知られるセラーと、レーベル・オーナーでもあるダエンのアルバムがリリースされた。A面にセラーによる2曲、B面にダエンによる2曲を収録するスプリット・アルバムである。
 セラーの2曲は、まるでブライアン・イーノ『ディスクリート・ミュージック』(1975)の思わせる交響曲の美しい瞬間をループしたかのような静謐な楽曲に仕上がっている。絹のような感触の音響が反復し、そして変化し、時間の流れをゆったりと変化させていくサウンドに仕上がっている。まさに2010年代的なアンビエントの秀作である。
 つづくダエンによる2曲は、霞んだダーク・ノイズを生成/接続させていくミュージック・コンクレート的なアンビエントである。そのダークでロウな質感は、イブ・ドゥ・メイやローリー・ポーターの新譜とも共鳴するインダストリアル/アンビエントといえよう。酸性雨に濡れた『ブレードランナー』的な世界に、淡く鳴り響くようなディストピアなムードが堪らない。

 セラーとダエン、対照的な二人の楽曲を一本のカセットに収めた本作は、しかし、ある共通の世界観を形成しているように感じられた。それは何か。本作はアンビエント・ミュージックといっても、ポスト・クラシカル的なアンビエントではない。かといって、ラ・モンテ・ヤング的に永遠に鳴り続けるようなインスタレーション的音響というわけでもない。そうではなくて、カセット・テープという限定された時間だからこそ可能となる「日常の空白に浸透する音響=アンビエンスを生成している」点こそが重要なのだ。
 1978年にブライアン・イーノが掲げたアンビエントという概念に何周か回って戻ってきたかと思いきや、事はそう単純ではない。00年代以降の「いま」、アンビエント・ミュージックは空白と没入が常に反転可能な領域に突入している。つまり、音が不意に切れる瞬間に、音響と日常の関係が反転してしまうような、そんな呆然とした感覚も含めてアンビエンスを形成する時代になったと思えてならないのだ。その意味で、本作においてはA面とB面のリバースに生ずる空白ですらも重要な時間である。日常にアンビエントが浸食していく感覚、とでもいおうか。

 そもそもインターネット以降、わたしたちが生きる環境には、さまざまな音楽が侵食しきっている。ツイッターのRTでまわってくる新曲・新譜情報、そのティ―ザ―映像、そこからユーチューブ内でリンクされるまた別の音楽、そしてサウンドクラウド上のミックス音源やバンドキャンプ上の新譜は毎秒ごとに増殖しているといっても過言ではない。
 だからこそ、その状況からあえて逃避し、音楽の侵食を浮遊させてしまう感覚がいまのアンビエントには必要とされている、とはいえないか。そう、情報に塗れた日常に、ブラックホールのようなすき間をつくるようなアンビエント・ミュージック。本作『シンボルズ』にはそのような環境を作り出す力があるように思えた。
 未聴の方は、ぜひとも『シンボルズ』を入手して何度も繰り返し聴いていただきたい。あなたの日常の時間の速度を「遅くさせる」快楽がここにある。多くのアンビエント・マニアの耳に届いてほしい音の逸品だ。

interview with Mark Stewart & Gareth Sager - ele-king

 マーク・スチュワートにとって音楽とは、ひとつには、政治的声明を表すものだろう。それが革命運動の扇動者のように見えるのは、彼のヴォーカリゼーションに怒りで煮えたぎったものがあるからだ。激しく、ふつふつと燃える炎のような正義感がUSブラック・ファンクとフリー・ジャズ、ジャマイカのダブ──彼らはファンカデリックをコピーして、『オン・ザ・コーナー』とサン・ラーとプリンス・ファーライに心酔した──、そしてUKのパンクとの融合のなかで醸成される。1979年、ザ・ポップ・グループという名前で彼らが世界に登場したときのインパクトは相当なものだった。


The Pop Group
For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?

ビクターエンタテインメント

Post-PunkFunkDub

Amazon

 『ハウ・マッチ・ロンガー』は、ザ・ポップ・グループの『Y』に続くセカンド・アルバムで、『Y』と同様に必聴盤だ。ここには──For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?(我々はいつまで大量殺戮を見過ごすのか?)、We Are All Prostitutes (我々は売春婦)などなど、より挑発的な強い言葉が並べられている。アートワークは新聞のコラージュで、冷戦時代の核戦争への不安が露わにされている。サウンドは、『Y』のファンクがよりアグレッシヴに研ぎ済まれている。
 この度、このアルバムがリマスタリングによって再発される。近年、ブリストルへの注目──ピンチからヤング・エコーまで──がまたもや高まっているということもあるだろう。マーク・スチュワートの精力的なソロ活動の成果もあるだろう。もちろん、再結成したザ・ポップ・グループのライヴの評判の良さもあるだろう。そして、この音楽がいまだエッジを失わない、リズミックな躍動に満ちたダンサブルな音楽だからでもあるだろう。
 マーク・スチュワートは最近の作品で、現代人を、魂の抜かれたゾンビだと表現している。電車に乗っていると、車両に乗っている人の半分以上が、スマホに目も耳も首も手も、魂(ソウル)も、そして生きる世界までも支配されているように見える。『ハウ・マッチ・ロンガー』は、インドネシアのバリ島の合唱、ケチャのループからはじまるが、それは当時もいまも、世界における倫理を伴わないテクノロジーの更新への警鐘として機能する。挿入されるベース&ドラム、ギターと声は、戦いの狼煙のようだ。が……、しかし、取材の部屋で喋っているマーク・スチュワートとギタリストのギャレス・セイガー(ザ・ポップ・グループ~リップ・リグ&パニック)は、大声でバカ笑いをする、いたってファンキーなオジサンたちだった。

イギリスのコービンやアメリカのサンダースやギリシアのチプラスは、とくに若者たちの関心を政治へ向けさせている。それこそ『ハウ・マッチ・ロンガー』を作っていたときにザ・ポップ・グループがやっていたことだよ。

『ハウ・マッチ・ロンガー(For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?)』をリリースしてから35年の年月を経てからのリマスター盤のリリースとなるわけですが、オリジナル盤とはどこがどう違うのでしょうか?

ギャレス・セイガー(Gareth Sager、以下GS):新しいやつの方が音が抜群に良い。実はマスタリングの出来が最初はパッとしなかったんだ。リマスターによって音にパンチが出たし、現代的な感じになったよな。とくに歌詞の聞こえも良くなったと思う。まるでつい昨日書かれたみたいだぜ(笑)。

オリジナル・ヴァージョンの聞こえもいいと思いますよ。

GS:きゃははは。

『ハウ・マッチ・ロンガー』はジャケのインパクトもあったので、目と耳の両方に来ましたけど、とにかく最初のドラムとベースが入った瞬間にぶっ飛びました。

GS:サウンド自体は変わっていないから安心しろな。

マーク・スチュワート(Mark Stewart、以下MS):ああ、サウンドは変わっていないぜ。俺たちがやったのはリミックスじゃなくてリマスターだからな。俺たちは何時間も何時間もかけて、ライヴ感を出すために細かいところまでいじった。テクノロジーが進歩したおかげで、当時のサウンドが損なわれることがなくてよかったよ。

『ハウ・マッチ・ロンガー』においてとくに重要な曲はなんだと思いますか?

GS:毎日変わる(笑)。

MS:そのときの気分でも変わるよな。最近になってこのアルバムについて気づいたことがある。俺たちは何年も『ハウ・マッチ・ロンガー』に入ってる曲を演奏してこなかったんだが、これを作った当時の自分が曲のなかにいて、何かアドヴァイスをしているように感じるんだ。妙な気分だよ。若い頃の自分と隣り合わせなんて映画みたいだろ? 
 このアルバムには14歳ぐらいのときに実家のベッドルームで書いた歌詞も入っている。まさかその歌詞がいまになって社会情勢的な意味を持つなんてな。俺たちがまたいっしょにバンドをやるようになってから、ヨーロッパや中東ではヤバいことが起きるようになった。そういうことを35年前の俺の歌詞は訴えていて、似たような出来事がニュースから流れてくる。ファック……。恐ろしいことだ。

いま、9.11以降に生まれた歪みがものすごく恐ろしいものとして露わらになってきているし、また、ヨーロッパでは難民問題も大きいですよね。こうした情況も今回のリイシューに関係しているんですか?

GS:偶然だな。

MS:その通り。この前、ブライアン・ウィルソンの『ペットサウンズ』のドキュメンタリーを見ていたんだが、彼も似たようなことを言っていた。「昔書いていたことが、現実になりつつある」だったかな。俺たちは当時、バリ島のモンキーチャント(注:バリ島で行われる男声合唱。別名はケチャ)みたいなことをやっていた。音楽と芸術のシャーマン的な用法というのかな。存在する並行宇宙を音楽という儀式を通して覗き込んでいた。世界をツアーをしていてわかったんだが、俺たちのライヴはまるで教会みたいなんだ。いまではその状態のことを自分は「チャーチ・オブ・ウィンドウ(church of window)」と呼んでいる。音楽に合わせてひとびとが自身を解放すると、強い力に触れることができるというか……。前に俺たちがサマー・ソニックに出たときの演奏を見たんだが、ガレスが即興をやっているとき、俺は何もしないでぼーっと突っ立っているだけ。まるでステージの上に俺の「実存」があるようだった。エネルギーの球体がステージ上に浮かんでいる感じだ。

『ハウ・マッチ・ロンガー』の時代は、マーガレット・サッチャーという倒すべき敵がはっきりしていましたが、現在はいかがでしょか。そういえば、スコットランドの独立を求めるSNP(スコットランド国民党)が、先日の総選挙でイングランドの左派勢力からも高い得票率を得ていましたね。

GS:サッチャーは右傾化のはじまりだったな。SNPは政策的にはまっとうな左派だから、かつては労働党に投票していたイングランドの左派層からの得票率を上げたわけだ。

そして、労働党の党首にはベテランのジェレミー・コービンが就きましたよね。

MS:彼はずっとレフトと呼ばれてきた。彼のことばには希望のメッセージがあるから、支持政党を持っていない普通の人間からも支持を得られる。いまのイングランドには、バカなエリートが多い。そいつらは民衆は洗脳して、ひとびとから人生の舵を奪ってしまう。自分たちで何も考えられないゾンビを量産しようとしているってわけだ。でも、イギリスのコービンやアメリカのサンダースやギリシアのチプラスは、とくに若者たちの関心を政治へ向けさせている。それこそ『ハウ・マッチ・ロンガー』を作っていたときに自分たちがやっていたことだよ。
 俺は政治とは人生の活力だと思って積極的に政治に関わるようにしていた。核兵器撲滅デモにも協力したし、いろんな集会でもライヴをやった。そのひとつのトラファルガー広場での集会には、核兵器に反対するために50万人が集まった。若者たちは自分に政治と未来を変える力があると感じることができたんだ。詩人として俺はこう思う。ひとびとが世界について知れば知るほど、その情報が伝播していき、最終的には自分たちを取り巻いている幻想を壊すことができるとね。それではじめて、お互いの考えを交わすことが可能になるはずだ。

GS:俺にとって『ハウ・マッチ・ロンガー』は特定の政党の考えを代弁するものではないな。そういったものに固執せずに、マークの歌詞は様々な状況をどんどん告発していくだろ? そしてひとびとの目をグローバリゼーションや飢餓へと向かわせる。

MS:笑えるんだが、その数年後にバンド・エイドがはじまった(笑)。俺が“フィード・ザ・ハングリー”を歌った後だ。俺はジャーナリストのジョン・ピルジャー(John Pilger)のカンボジアに関するレポートに刺激されたんだけど、そのあとにマイケル・バーク(Michael Buerk)という別のジャーナリストがやったアフリカの飢餓報道がバンド・エイドに繋がったんだ。

ところで、『ハウ・マッチ・ロンガー』を作っているとき、バンドは解散寸前だったというのは本当ですか?

MS:そんなことが言われているのか。初耳だぜ。

バンド内で何か摩擦があったとか?

GS:そんなのいつものことだぜ(笑)。摩擦がなきゃ集団で良いものなんて作れっこないよ。

MS:仲が良くなかったらそれは全部ギャレスのせいだな(笑)。

GS:ぎゃははは。

マークのメッセージのラディカルさは、ギャレスにはいき過ぎているように見えませんでしたか?

GS:それはない。言ってしまえば全員ラディカルだからな。ブリストルは小さい街だから、みんな同じ本屋にいって、同じ本に影響を受けていたりした。メンバーで共有していた情報は同じだったんだ。ま。パラノイアの集団だったよな。ぎゃははは!

MS:ぎゃははは! いまは違うけどな(笑)。当時はいろんなものに飢えていた。エクストリームな音楽、クレイジーなアイディア……、自分の頭を肥やすためにいろんなものが欲しかった。狂ったコンクリート・ポエトリー、フリー・ジャズ、実験的な電子音楽……。シーンの裏側にあるあらゆるものを見ようと心がけていた。このアルバムは日本に大きな影響を与えたって聞いたんだけど、実際そうなのか?

ファーストもセカンドも同じように影響を与えましたよ。

MS:ケーケー・ヌル(KK NUL)がセカンドに影響を受けたって言ってたな。

実際どこまで影響受けたのかわからないけど、音楽を通して政治や社会を考える契機にはなったと思います。そういえば、当時、このアルバムが出た頃のUKのロックは、ただ単に音楽活動をするんじゃなくて、さっきマークが言ったように積極的に社会運動に関わっていましたよね?

MS:俺がポップ・グループをやめた理由のひとつは、バンドが嫌だったからではなくて、世界に存在する不平等を見つめることが難しくなったからだ。「芸術に何ができるのか?」、こんな質問を自分によくぶつけていたよ。この前、イギリスのジャーナリストに「最近恥ずかしかったのはいつ?」という質問をされた。子どもに見つめられたとき、その子どもの未来がどうなるのかを考えると思う。世界をこのままにしておくことはすごく恥ずかしいことだ。もし自分が何もしないゾンビだったら、子どもたちの未来は明るいものではないだろう。“ウィ・アー・オール・プロスティチューツ”では、他人を責めるのは偽善だと言ってる。だから『ハウ・マッチ・ロンガー』は俺にとってファーストの『Y』よりもパーソナルなものだ。ひとに説教を垂れるのではなく、自分の感じる苦悩を歌っているんだからな。

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マーク:あとさ……、スタジオには栽培中のマッシュルームがあったんだよな。
ギャレス:ああ、いまでもよく覚えているよ。空がきれいで流れ星がたくさん見えたことをな。あれはマジカルな体験だった。

どうして今回のリマスター盤でラスト・ポエッツとの“ワン・アウト・オブ・マネー”と“ウィ・アー・オール・プロスティチューツ”を入れ替えたんですか?

GS:“ウィ・アー・オール・プロスティチューツ”は、もともと入る予定だったんだよ。当時、急いで作業を進めていてマスタリングしたものが届かなかったから、ラスト・ポエッツとの曲を入れた。だからライセンスの問題で入れ替えたわけではない。

ちなみに、2014年に公開されたイギリス映画『プライド』はご覧になりましたか?

MS:マイナー・ストライキについて映画だろ? 見たよ。俺たちが若かったころを映している映画だ。マイナー・ストライキは1984年だから、ポップ・グループよりもちょっと後だけどね。ただね、ロンドンに比べて、ブリストルには階級の問題はそこまでなかったんだ。当時、ロンドンの労働者階級のひとびとのなかには、北部へ出稼ぎに行く者もいた。でもイングランドの地方都市だと規模が小さいから、階級のバリアは大して意味をなさなかった。当時、ブリストルにはナイト・クラブが一軒しかなかったから、いろんな階級や人種が1カ所に集まっていたよ。

なるほど。『ハウ・マッチ・ロンガー』制作時で、ふたりがよく覚えていることを教えてください。

MS:俺たちがこのアルバムを録音した場所は、ウェールズのド田舎だ。イギリスで『ザ・ヤング・ワンズ(The Young Ones)』というコメディ番組がやってたんだけど、たしか5人の登場人物が海に行く回があって、俺たちのノリはまさにそんな感じだった(笑)。ギャレスはいつも歯磨き粉を持ってくるのを忘れててさ(笑)。ダニエルのママは靴下にいつもアイロンをかけてくれた。俺はそれまで靴下にアイロンをかけるヤツがいるなんて思いもしなかったよ(笑)。

GS:ぎゃはは! 

MS:あとさ……、ふふふふ(笑)、スタジオには栽培中のマッシュルームがあったんだよな。

GS:ああ、いまでもよく覚えているよ。空がきれいで流れ星がたくさん見えたことをな。あれはマジカルな体験だった。

つまりあの作品にはマッシュルームが関係していると?

一同:ぎゃっっはははは!(大笑)

(ここで、マークは席を立って筆者にハイタッチ)

MS:サイケデリックな体験だったぜ(笑)!

それであの音響だったんですね……。

GS:いや、俺はマッシュルームを使わなかったぜ(笑)。

なるほど、あのミキシングは、本当にパーフェクトだと思いました。

一同:ぎゃっっはははは!(大笑)

MS:ありがとうよ。ふふふふ。

おところで、互いのどんなところが好きですか?

GS:ガハハハハ! こいつに好きなところなんかなんもないぜ(笑)!

はははは(笑)!

MS:当たり前だろ、俺たちはファッキンなバンクスだからな(笑)。イングランドのパンクスは成長してクラブへ行くようになると、他にアホなガキがいないか探しまわってケンカするんだよ。フーリガンやギャングは違う。ギャング同士が近所に住んでいても、決してケンカしたりはしないんだ。

はははは。ギャレスから見てマークはどんな人物ですか?

MS:おいおい、いつまで女性誌みたいな質問を続けるんだよ。

一同:ぎゃはははは!(大笑)

MS:次は俺の好きな食べ物を訊くんだろ(笑)!

はははは、いや、ギャレスから見てマーク・スチュワートはどんなアーティストなんでしょうか?

GS:『ハウ・マッチ・ロンガー』の歌詞がマークを表していると思うよ。メンバー全員が考えていた政治的な事柄や時事問題を代弁してくれてもいる。

ギャレスがとくに好きな歌詞はどれですか?

GS:“ウィ・アー・オール・プロスティチューツ”だね。

とくにどの部分ですか?

GS:どの母音の使い方が良いとか、どの発音が好きとかそういうことか(笑)? 

一同:ぎゃっはははは!

GS:いや、マジメに答えよう。「子どもたちは俺たちに刃向かい立ち上がるだろう(Our children shall rise up against us)」というフレーズを選ぶよ。

なるほど。今日はどうもありがとうございました。



UCD(Bullshit) - ele-king

ストレイト・アウタ・コンプトン - ele-king

「以前、淡谷のり子が『80歳越してごらんなさい、1時間は10分ぐらいよ』と言っていた。 ものすごい説得力であった」
ナンシー関『ナンシー関の顔面手帖』(1991)

 #OscarsSoWhite(アカデミー賞は白人ばかり)の典型的なサンプルとして挙げられたりもした『ストレイト・アウタ・コンプトン』が日本で公開されたのは冬もいい加減寒い時期で、画面の中でギラつくカリフォルニアの陽射しと何とも間抜けにズレる感じはするものの、4ヶ月遅れでも何でも公開されただけでも善し、としなくてはならない。それはこの作品が(リアルタイムで追いかけていた人を除く)日本人の「ラップ」への誤解を力強く解きほぐしてくれる作品だからで、ええとアメリカの黒人のチンピラがやってる音楽のようなもの、という認識は30年経っても大して変わっちゃいないのではないか、と自分を省みながらも気が付けば「R&B/Soul」と「HipHop/Rap」の境界線が済し崩し的に曖昧になって久しい中、そもそも「ギャングスタ・ラップ」はどういった土壌から立ち上がって来たのか、をN.W.A.(Niggaz Wit Attitudes)という一つのグループの始まりから終わりまでを中心に据えて、映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』は彼らの周辺に流れていた時代の空気を召喚する。

 ロイ・エアーズの“Everybody Loves The Sunshine”がうっとりと流れる中、タイルのようにレコードが敷き詰められた部屋に寝っ転がる(駆け出し時代の)ドクター・ドレー登場シーンが象徴するように、例え「アメリカで最も危険な地域」にも音楽の喜びはあり、当然ながら日々の生活もあり、家族の問題もあり、そして黒人の若者は路上に立っていただけで警察に後ろ手に縛り上げられる現実もある、というのがひと続きの流れとして入ってこないと「ラップ」はいつまでたっても「不良の与太話」以上のものにはならないわけで、日本に住んでいて漫然と見聞きする情報の中で一番リアリティを欠いていたのはこの「生活」部分だったのかも知れない。

 恐らく自分たちが予想できる以上に売れてしまった彼らが「金、酒、女、薬」をてんこ盛りにした「生活」の果てにエイズで死ぬ人があり、世界有数の富豪になる人があり、生き残った人の息子は映画の中で実父を演じる、などなど30年の間に育ったものと逝ったものが交錯する現在も「金、酒、女」という表象がスタイルとしてだけ残り、何故いまだ飽きもせずプールサイドでビキニの女の子が大挙してくねってるミュージック・ヴィデオが量産されるのか? と考えれば、スラム街という煉獄の中から一瞬の幸福な火花を散らしながら成金地獄に突っ込んで結構そのまんま(今に至る)、な現状を示すためにもこの映画はあるのではないかと思えてくる(もちろんN.W.A.のクロニクルなので「その後のサクセス」が描かれないのは妥当ではあるけれども、そこから2015年に至るまでの20年間をダイレクトに接続するのを慎重に避けている感じもある)。

 米アカデミー会員に80代以上の人がどのくらい居るのかは知りませんが、もし淡谷のり子が言ったように「1時間は10分ぐらい」であるならば、30年はまあ5年で20年などは3年3ヶ月、アカデミー賞の中の人にとってはこないだ生まれた孫が小学校に上がった、くらいなもんでその間に起こった大体のことはかすりもしない。かつて「アカデミー賞」にも活き活きとしていた時代はあったのでしょうし、ギャングスタ・ラップが最も活きの良かった時代もとっくに過ぎ、中身が萎んだり流れだしたりしてがらんどうになった殿堂が残ったとき、そこに水を与えて蘇生させるのか、または全く別の何かで満たすのか、はたまた放棄するのか(どうすんだ?)、は今を生きる人間の前に投げ出されている──クリス・ブラウンが愛娘を抱いたジャケットの新作を発表した2015年の、その翌年の日本にも。

 【追記】そういえばこの映画、「男が女に引っぱたかれる」シーン及び「男同士の乱闘」はありましたが「男が女を殴る」シーンはついぞありませんでした。でしたが反面「オカマ」といった蔑称は(当時の曲の歌詞としてではありますが「時代的背景と作品の価値とにかんがみ」と言う感じなのか)別に避けずに出してきたのでこれが今のアティテュードなのかなあ、と漠然としたラインも見えました。

Fennesz - ele-king

 本作は、フェネスがグスタフ・マーラーの交響曲をリ・コンポジションしたアルバムである。もともとは2014年にフェネス自身のバンドキャンプからデータ配信されたアルバムだが、2016年になり、フェネスの『ヴェニス』(2004)や『ブラック・シー』(2009)などもリリースしている英国の老舗音響レーベル〈タッチ〉からダブル・ヴァイナル/データとしてリ・リリースされた。
 収録された音源自体は、2011年5月にウィーンのラジオ・クルトゥール・ハウスで行われたライヴ録音である(当日はベルリンのヴィジュアル・アーティスト・リレヴァンの映像とともに公演)。この「マーラー・リミックス」のプロジェクトはその後も継続され、ニューヨークのカーネギー・ホール、イスタンブール・ボルサン・アート・センターで公演・演奏された。また、2014年の新作アルバム『ベーチュ』収録曲“リミナリティ”のプロトタイプがすでにプレイされていることも聴き逃せないポイントといえよう。

 それにしても、フェネスの音楽は、いつも濃密なロマンティシズムに満ちている。ときにグリッチ・ノイズの向こう側に。ときにエレクトリック・ギターのコードの中に。それらは夏の夕暮れのような濃厚な芳香のような、もしくは真冬の凍てつく雪景色のようなサウンドなのである。
 その「響き」の源泉はどこにあるのだろうか。ひとつは、彼のルーツのひとつといえるプログレッシブ・ロックなどのロック・ミュージックとは容易に想像がつく(フェネスはピンク・フロイドの『狂気』をフェイヴァリット・アルバムに上げていたこともある)。しかし、いわゆる「クラシック音楽」由来のそれではないはずだ。では、このロマンティシズムの正体は何だろうか。私には、彼が生まれ育ったウィーンの地の影響が大きい気がするのだが……。
 ともあれ、彼の音楽は、たしかに「エレクトロニカ/電子音響時代の後期ロマン派」とでも形容したいほどの黄昏色の情感が鳴り響いている。まるでブラームスの「間奏曲集」のように。もしくはマーラーの交響曲の穏やかな部分のように。その意味で、この『マーラー・リミックス』プロジェクトは、フェネスの音楽性から考えれば、もはや必然ですらあったのだろう。

 もっとも、テクノやエレクトロニカ・電子音響・ポストクラシカルのアーティスト/音楽家とクラシック音楽(の演奏家など)とのコラボレーションは、マシュー・ハーバードやカール・クレイグ&モーリッツ・フォン・オズワルド 、マックス・リヒターやオーラヴル・アルナルズの例を振り返るまでもなく、現在まで活発に行われているプロジェクトであり珍しいことではない。
 しかし、本作は、そのどれとも趣が違っている。既存の音源のサンプルを用いてはいるのだが、交響曲などが丸ごと使われることはなく、演奏の中で断片的にサンプリングされ、音色も変化させられ、フェネス的なグリッチや演奏の中に溶け合うように存在しているのだ。フェネス的な音響の向こう側で、マーラーの黄昏色の響きが、ノイズまみれの記憶の層の中で不意に再生される音のように鳴り響く……。
 
 アルバムは、全曲“マーラー・リミックス”という曲名で統一され、全4曲が収録されている(曲ごとに1、2、3、4とナンバーがふられている)。どの曲もフェネス自身の演奏や楽曲もところどころに表出し、淡い音響の中で溶け合っていく構造になっている。とくに“マーラー・リミックス3”以降の淡い音響の連鎖は、フェネス×マーラーの個性・音楽が完全に融合し切っており、穏やかな音響ながら音楽のもっとも深い深遠へとたどり着いているように思えた。“マーラー・リミックス3の”終盤近くで展開するノイズと霧の中に解けたような交響曲の響き!
 そう、本作は、クラシック音楽の再解釈的演奏でも編曲でもない。マーラーとフェネスのロマンティックな響きが互いの境界線を溶かすように交じり合う「サウンドの再生成」なのである。「マーラーをリミックスすること」と「マーラーとリミックスされること」の実践とでもいうべきか。まさに「時空間を越境するコラボレーション」に思えてならない。
 同時に、2000年代末期以降、エレクトロニカがアンビエント/ドローン化していく中で、それらに内包されていたロマン派的な響きへの偏愛を、意識的にコンポジションした(ほとんど)唯一の成功例にも思えた。

 最後に私見をもうひとつ。2014年に〈エディションズ・メゴ〉からリリースされた『ベーチュ』がアフター『エンドレス・サマー』の系譜を継ぐ「豊穣な夏の記憶」とするなら、自主配信を経て〈タッチ〉からリリースされた本作こそ、アフター『ブラック・シー』とでもいうべき「冬の音響」の系譜を継ぐ作品ではないか。なにより『ブラック・シー』は彼のアルバム中、もっとも「ロマン派」的な作品であったのだから……。

Anderson .Paak - ele-king

 ここ数年、全米では注目すべきシンガー・ソングライター/ラッパーのひとりに数えられてきたアンダーソン・パーク。このセカンド・アルバム『マリブ』は、もはや彼が注目の対象ではなく、スターの座へ駆け上がったことを示す作品ではないだろうか。ロサンゼルス近郊出身のブランドン・パーク・アンダーソンは母親が韓国系で、ミドルネームは「朴」からきている(パーク、パックとも表記されるが、発音的にはパクが近いようだ)。同じ韓国系のトキモンスタとも親交があり、以前はブリージー・ラヴジョイ名義でミックステープを出したり、シャフィーク・フセイン(サー・ラー・クリエイティヴ・パートナーズ)の作品参加などで実績を上げていく。その頃に発表したファースト・アルバム『ヴェニス』(2014年)は、トキモンスタ、ロー・デフ、タク(Ta-Ku)など若手世代のビートメイカーたちとの制作が中心で、チルウェイヴやジュークを通過したトラップからハウス~シンセ・ポップ調のナンバーまで幅広く収録していた。ドレイクのようにシンガーとしての高い資質を持つラッパーであり(比重としてはラッパーよりもシンガー寄りだろう)、『ヴェニス』がジ・インターネットやフランク・オーシャン、ミゲル、ザ・ウィークエンドなどオルタナR&Bに近似する部分を感じさせたのは、若かりし頃のボビー・ウーマックを思わせるようなソウルフルな歌声と、ポップなセンスを感じさせるメロディによるところが大きい。

 そうして注目を集めるようになった彼は、ドクター・ドレーやDJプレミアにも目をかけられ、ドレーの復帰作『コンプトン』では大々的にフィーチャーされた。そのほかザ・ゲームの『ザ・ドキュメンタリー 2』にも参加するなど、次第にメジャーな存在となっていく。こうしたアンダーグラウンドとメジャーを自在に行き来する立ち位置は、同じ西海岸出身でひとつ年下のケンドリック・ラマーにも重なるところがある。また、直近ではノレッジ(Knxwledge)とノー・ウォーリーズ(Nxworries)というユニットを組んで〈ストーンズ・スロー〉からデビューするなど、ますます動きが活発になっていたところだ。そして、『ヴェニス』から2年、満を持して発表したのが『マリブ』である。この『マリブ』の感触には、ケンドリックの出世作『グッド・キッド、マッド・シティ』を聴いたときに抱いた感想に近いものがあり、それでアンダーソン・パークがケンドリックに並ぶスターになる日もそう遠くはないだろう、と確信したのである。

 今回はゲストや参加アーティストが豊富で、ザ・ゲーム、マッドリブ、ナインス・ワンダー、タリブ・クウェリ、ハイ・テック、スクールボーイ・Q、BJ・ザ・シカゴ・キッド、ラプソディ、ケイトラナーダから、ロバート・グラスパー、クリス・デイヴと幅広い。特にグラスパーとクリス・デイヴの参加が目を引くが、テラス・マーティンやケンドリック・ラマーの例に見られるように、最近の西海岸のヒップホップ/R&B勢はミュージシャンとのコラボが盛んだ。本作もそうした流れを裏付ける作品であり、“ウォーターフォール”や“ザ・バード”などジャズやソウルの香り高い曲が多い。メロウネスに富むフューチャリスティック・ソウルの“ハート・ドント・スタンド・ア・チャンス”は、バンド・サウンドへと変化していったジ・インターネットに通じる。BJ・ザ・シカゴ・キッドと掛け合いの“ザ・ウォーターズ”から“ザ・シーズン/キャリー・ミー”と続く展開は、LAビート・シーンのエッセンスにディアンジェロを融合したような世界だ。“プット・ミー・スルー”や“シリコン・ヴァレー”を聴くと、もはやヒップホップではなく、ソウル/ファンクのシンガーとしてアンダーソン・パックを評価すべきではないかと思う。“セレブレート”は往年のスタックス・サウンドのようでさえある。アンダーソン・パークはもともとドラマーとしてツアー・ミュージシャンをやっており、いまも実際にドラム演奏を曲作りに取り入れている。ライヴやツアーもギタリストらを交えたバンド・スタイルで行っている。だから、そうしたミュージシャンシップが自然と楽曲に表れてくるわけだ。

 ポモが手掛けるブギー・ディスコ調のトラックに乗せた“アム・アイ・ロング”は、スクールボーイ・Qとの掛け合いがドラマティックに展開していくパーティー・チューン。ダフト・パンク、ファレル、タキシードといった流れに呼応した1曲で、このあたりがメジャーにも食い入るアンダーソン・パークのセンスの良さの表れだろう。そんなセンスの良さ、感覚の敏感さは、ナインス・ワンダーと組んだ“ウィズアウト・ユー”でハイエイタス・カイヨーテの“モラッセス”をサンプリングしているところにも表れている(もはや一種のアンサーソングに近い曲だ)。ケイトラナーダと組んだ四つ打ちの“ライト・ウェイト”から、ザ・ゲームをフィーチャーしたジャジーなヒップホップの“ルーム・イン・ヒア”、そして前述のヴィンテージ感溢れるソウル/ファンク・チューンと様々なタイプの楽曲を入れつつ、アルバム全体としての空気感や統一感を損なっていない点は、プロデューサーとしての才覚や総合力が優れているからだろう。

 バレアリック感覚に満ちた“パーキング・ロット”がアルバムの中で異色と言えば異色だが、この曲もAORの現代的な解釈と位置付けられ、そこには現在のUS西海岸に流れるムードが表れているのではないだろうか。ちなみに、アルバム・タイトルは前作が『ヴェニス』、今作が『マリブ』と地名が続いている。どちらも風光明媚なLA屈指のビーチだ(ヴェニスはイタリアのヴェネチアを指しているのではない)。“パーキング・ロット”で仄かに漂うマリン・フレーヴァーは、こうしたリゾート地にピッタリとくるイメージだ。“シリコン・ヴァレー”も西海岸らしい曲名だが、アンダーソン・パークが『マリブ』の中で描く西海岸はどうも明るいイメージに映る。先にイーグルスのグレン・フライが亡くなったが、イーグルスが『ホテル・カリフォルニア』で描いた西海岸の気怠く退廃的な光景から、今年でもう40年経つことを思い出した。

酒井隆史 - ele-king

 ドラッグ中毒者というのは、なにか手に負えない危害を与えているのでなければ、基本、欧米では悪人ではなく病人として認識される。そして人が病人にならないためにも、まずはそれに関する知識の共有をうながそうとする。それがジャーナリズムというもので、日本はいつまで経ってももっとも重要であるはずの情報の共有を拒んでいる。これと同じように、ただ暴力を拒み、いっぽう的に暴力/反暴力という二元論でしか見れないうちは暴力はなくならないと、酒井隆史の『暴力の哲学』は勇気を持ってきわどい主題に切り込んでいく。2004年に刊行された本だが、去る1月に文庫化された。数年ぶりに読み返してみると、とくに前半が面白い。せっかくなので、そのいくつかについて書いてみる。
 暴力と括られるものの内側から、著者は、マーティン・ルーサー・キング牧師、フランツ・ファノン、マルコムX、ブラック・パンサー党らの思想の断片を並べながら、反暴力を導き出そうとする。まずはその手始めに、トゥパック主演のギャングスタ映画『Juice』(1992年)とパリ郊外の移民を描いた『憎しみ』(1996年)──あるいは『シティ・オブ・ゴッド』(2003年)──を紹介する。これら「アンダークラスの若者をめぐる暴力の物語」すなわちゲットーにおいてエスカレートする暴力の物語の背景には、もちろん90年代以降のネオリベラルなグローバリゼージョンがあるわけだが、『Juice』と『憎しみ』に共通して描かれているのは、「単純に道徳的に暴力を拒絶」するのではなく、「むしろ暴力をぎりぎりにまで内在して」「そのうえで暴力的な状況をなんとか乗り越え」ようとすることである。
 『Juice』の結末でトゥパック演じる主人公ビショップに対抗するQが、銃こそ放棄するものの、しかし本質的な意味において戦いを放棄してはいない、いや、それどころかギャング同士の殺し合い、ある種の「エディプス的ゲーム」を終わらせ、やられたら同じようにやり返せではない、そしてなにか別の次元の戦いへと移行させようとするのではないか……という指摘はじつに興味深く、それはなぜ直接行動やデモが必要なのかという根源的な問いに対するキング牧師の次の回答へと連なっていく。

  なぜ交渉というもっと良い手段があるのに、直接行動やデモをするのか、こうした問いに対してキング牧師は「非暴力的直接行動のねらいは、話し合いを絶えず拒んできた地域社会に、どうでも争点と対決せざるえないような危機感と緊張をつくりだそうとする」ものであり、「もはや無視できないように、争点を劇的に盛り上げようとするもの」だと答えている。     ──マーティン・ルーサー・キング(本書より)

 もちろん暴力は、ときにナルシスティックに陶酔できるものでもあり、短絡的にまとめてしまうことはリスキーこのうえない。そもそも本書は初版が刊行されたときから、実際さまざまな反論や疑問を喚起してきてもいる。〝暴力〟と言われただけで、敬遠してしまう人もいるだろう。ぼくも正直、マッチョな文化は得意ではない。あるいはまた、ブラック・ミュージックのメロウなところだけをすくい上げるのも悪くはない。
 だがしかし、大著『通天閣』において、町の猥雑なパワーをみごとに描いた著者の思索は、音楽ではケンドリック・ラマー、政治的なムーヴメントとしては#BlackLivesMatterに注目が集まる今日においては、ある意味では時代の空気感をともなってに入ってくる。また、ブラック・パンサー党の成功したこと/失敗したことのおさらいなど、社会運動とは何かを考えるうえでも、共有すべき知識が詰まっている(たとえば黒豹党が、なぜあんなクールなベレー帽を被ってあんなスタイリッシュな出で立ちで、あんなにフォトジェニックに登場したのか……などなど)。
 また、著者が文庫本の後書きで述べているように、今日の社会は、10年前よりもさらに露骨に暴力に囲まれた社会だ。そういう意味では、本書は予見的でもあった。

Anarchy in Japan !? - ele-king

 ブライトンから来日中のBradyみかこが、今週の日曜日(2/14)に新宿2丁目で、平井玄氏のトークショーに出演することが急遽決まった。〝生〟Bradyみかこの話を聞きたい人には、マストなイベントです!


▶Anarchy in Japan !?
 Bradyみかこ goes to ラバンデリア!
 with 平井玄
 
 2016年2月14日(日)17:30 open 18:00 start
 カフェ・ラバンデリア@新宿2丁目
 入場無料、投げ銭

ブリティッシュ・パンク&ビンボー・シーンからいきなり現れたBradyみかこさん。
その低い目線から怒りと笑いに満ちた言葉が炸裂する。
ブライトンのアンダークラス保育所では、生まれた瞬間からハードコアな女の子が
黒白黄色な餓鬼どもをかたっぱしから張り倒す。
こんなイギリス、見たことも聞いたこともない!
だから電気音楽が大好き。
極東のへたれな男も女もBradyさんと話そう。


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