「Nothing」と一致するもの

OPNはどこからきたのか? - ele-king

 電子実験音楽家、ひとまずはそう呼ぶとして、もはやその存在をどう位置づけていいかわからないほど鋭く時代と交差するこのプロデューサーについて、興味深いリイシューが3作届けられた。

 ジャネット・ジャクソンにルトスワフスキにナイン・インチ・ネイルズ、ソフィア・コッポラにANOHNIにFKAツイッグス……一つ一つの作品には緻密に詰められたコンセプトがあるものの、コラボもカヴァーも交友も、多彩にして解釈のつけにくい軌跡を描くOPNは、その旧作のカタログにおいてもかなりの整理しづらさを見せている。しかしそれもふくめて『Garden Of Delete』(2015年)――削除のあとに楽園があるのだと言われれば、なんとも居心地悪く笑うしかないが、この感覚はOPNを聴く感覚でもあるだろう。ともあれその複雑さを整理する上で、今回のリイシューは無視できない3枚である。

それでは簡単にそれぞれの内容説明を。

ライナーがどれもすばらしくおもしろいので、お買い上げになるのがよろしいかと思います。

 〈ワープ〉からリリースされ、ワールドワイドな出世作となった2013年の『R Plus Seven』、その同年に制作された『The Fall Into Time』は、初期のエッセンスが抽出されたものとして注目だ。

これは、2009年当時のシングルやライヴ音源などを含めたアンソロジー的内容の5枚組LPボックス作品『Rifts』を構成する1枚であり、コンパクトなアンソロという意味でも、また、純粋にノスタルジックなアンビエント作品を楽しむという意味合いでも、手にしておきたい再発である。

 じつは、その初期集成『Rifts』を構成する5枚のうち、3枚はそれぞれ独立した作品としてすでにリリースされている(『Betrayed In The Octagon』『Zones Without People』『Russian Mind』)。今回は先ほどの『The Fall Into Time』に加え、残りの『Drawn and Quartered』もリリース、これで5枚すべてがバラで買えるかたちとなった。これには“Transmat Memories”といった曲なども収録され、彼のやって来た道がほの見えるとともに、OPNによる「テクノの源流へと遡る旅」(ライナーより)とさえ言えるかもしれない。

 そして、今回の再発の中ではもっとも馴染みの方が多いであろう『Replica』。歯医者で聴こえるの摩擦音にTVゲームにイージーリスニングなど、雑多で儚いマテリアルを幽霊のように拾うプレ・ヴェイパーウェイヴ――いまやOPNの特徴のひとつとしてよく知られるようになった音が生まれた作品だ。

 リイシュー作品一挙3タイトル同時リリースを記念し、特典CDや〈Software〉のエコ・バッグがもらえるスペシャル・キャンペーンも開催される。特典CDの内容は下記をチェック!


Oneohtrix Point Never
The Fall Into Time

Software / ビート

■amazon
https://goo.gl/LjxosM

収録内容
1.Blue Drive
2.The Trouble With Being Born
3.Sand Partina
4.Melancholy Descriptions Of Simple 3D Environments
5.Memory Vague
6.KGB Nights



Oneohtrix Point Never
Drawn and Quartered

Software / ビート

■amazon
https://goo.gl/KIiaMu

収録内容
1.Lovergirls Precinct
2.Ships Without Meaning
3.Terminator Lake
4.Transmat Memories
5.A Pact Between Strangers
6.When I Get Back From New York
7.I Know It's Taking Pictures From Another Plane (Inside Your Sun)




Oneohtrix Point Never
Replica

Software / ビート

■amazon
https://goo.gl/oKcY6F

収録内容
1.Andro
2.Power Of Persuasion
3.Sleep Dealer
4.Remember
5.Replica
6.Nassau
7.Submersible
8.Up
9.Child Soldier
10.Explain


特典CD内容

1.Replica [ft. Limpe Fuchs] (Matmos Edit) (Bonus Track For Japan)
2.Replica [ft. Roger Robinson] (OPN Edit) (Bonus Track For Japan)
3.Remember (Surgeon Remix) (Bonus Track For Japan)
4.Nassau (Richard Youngs Remix) (Bonus Track For Japan)
5.Replica [ft. Roger Robinson] (Falty DL Remix) (Bonus Track For Japan)

Leftfield Groove 3 - ele-king

 クラブに遊びにいき、大音量で延々と紡がれるグルーヴに身を任せていると、時間感覚が麻痺することがある。酩酊と陶酔が増してくる深い時間帯に特有の状態だ。ただ音楽に没頭していると、自分の意志で体を動かしているのかどうかさえ曖昧になり、意識と体が蛇行運転しているかのような気分になる。
 ずっと聴き続けていられるループとでも呼べそうな、展開の少ないミニマルなトラックをそうした酩酊状態で聴くと、暗がりのダンスフロアに轟く反復グルーヴの中に意識が深く浸透していき、数十秒を数分間のように感じることがあるのだ。
 そんなとき、トラックに起こるちょっとした展開が劇的な音楽体験をもたらすことがある。特に派手な展開は必要ない。モノトーンなビートに切れのいいハイハットやクラップが加えられるだけで、黙々と揺れ動く人々で埋め尽くされたフロアから絶叫が上がる、そんな光景を目にしてきた人は少なくないはずだ。そこで今回は前回までの流れをくんだうえで、深い時間に聴くと映えそうな陶酔性溢れる個性的なグルーヴの5曲をピックアップした。

MGUN – NVR (Don't Be Afraid)

うねる低音、大きく間を取ったキック、そして、少し歪んだスネアとハイハットからなる殺伐としたイントロ部を経て、不穏なパッドがじわじわと空間を侵食していくワルい1曲。カウベルの挿入と同時にキックのシーケンスが変化する2分30秒あたりの展開がたまらない。

Unknown Artist - Spirit 1 (Booma Collective)

スザー(Szare)のトラックを音数少なくアレンジしたようなミニマルな1曲。虫の音のように細やかに揺れ動く電子音が輪郭のハッキリとした金属音へ移行していく様子に意識が引きつけられる。シンコペートするビートが厚みを増していく後半部も深い時間に合う。

A Sagittariun - The Naming Of The Names (Elastic Dreams)

中盤に薄っすらとしたパッドを使ったブレイクがあるが、えぐるようなキックとベースで組まれたUKガラージ風ビートは使い勝手がいい。16分刻みのハイハットが音場を縦にも横にも動き回るので、大きな展開がなくても飽きがこない。

A Made Up Sound - I Repeat (Delsin)

これまでに“テイク・ザ・プランジ”など素晴らしい変化球の数々を編み出してきたア・メイド・アップ・サウンドがまたしてもやってくれました。1拍目のキックと最深部に激震する低域を軸にパーカッションフレーズが抜き差しされる中、パッドが全体を包み込んでいくドリーミーなトラック。

ASOK - Side Scrolling (Creme Organization)

ひび割れたシンセのゆるやかな起伏とざらついたドラムマシンによるファンクネスが絡み合うことで生まれる静かな熱狂と退廃的なムード。ハマりにハマりまくったパーティーの終盤ではこんなトラックも映えそうだ。

We are alive - ele-king

 2015年の6月、SNSのアイコンがレインボウに染まってから――全米で同性結婚が合法化されてから――、アメリカにおいて性の多様性を受容することはコモン・センスとしてすっかり定着したのだと思い込んでいた。プライド・パレードで踊る曲はエクソダスを夢想する“ゴー・ウェスト”ではなくて、「自分はこう生きる」と強く宣言するレディ・ガガの“ボーン・ディス・ウェイ”のほうが、まあ時代には合っているんだろうな、と。僕などはむしろLGBTイシューに関してポリティカル・コレクトネスが強くなりすぎているようにも感じられたし、「もっと不謹慎なことをやるひとがいてもいいのに、正しいものばかりじゃなくても……」とこぼしていたぐらいだ。が、それはあまりにも呑気だったと言わざるを得ない……バックラッシュは思ったよりも早くやってきた。

 今年3月には「同性カップルの結婚式などを宗教的な理由で拒むことを認める」とする法律がジョージア州で可決され、大きなニュースとなる。それは著名人や企業の反発もあって知事が拒否権を発動することとなったが、急進したものに対する強い反発のムードが漂ってきているのは事実だ。現在問題となっているノース・カロライナ州で可決された法律「HB2」は出生証明書と同じ性別の公衆トイレの使用を求めるもので、これは明らかにトランスジェンダーの人びとに精神的苦痛を与えるものだ。こういうときに持ち出されるのは必ず子どもで、要するにトランスジェンダーの振りをした人間が子どもに性的虐待をする可能性があると法の賛成派は主張するのだが、セクシュアル・マイノリティ・イシューと性犯罪を安易に結びつけることの差別がそこにあることが見落とされている(あるいは、意図的なのだろうか……)。
 だから、このことに猛反発し、あろうことかノース・カロラナイナ公演をドタキャンしたのがブルース・スプリングスティーンだということは、彼がたんなる大物ミュージシャンでないことを証明するものだった。彼が負っているのはアメリカのロック音楽が目指すべき民主主義であることが、そこでは強調されている。もちろんブライアン・アダムスやパール・ジャム、リンゴ・スターなども公演キャンセルを表明したし、シンディ・ローパーなどは公演を行った上で利益を「HB2」撤廃のために寄付するというやり方を取っている。だがこの件に関しては、明らかにアイコンになっているのはスプリングスティーンだ。彼は「ロック・ショウよりも大切なものがある」と言い、そしてステートメントを発表した
 ひとつ興味深いのは今回キャンセルされたのが、昨年35周年記念でリイシューされた『ザ・リバー』のツアー公演だったことである。アメリカの内部で苦しみとともに生きる人びとを描き、ロックンロールのメロドラマと叙情性を彼らの物語に仮託したその作品がいま、マイノリティたちが生きるための権利運動と結びつくことに何か因縁めいたものを感じるのである。ノース・カロライナ公演のチケットを買ったひとのなかにはたんに『ザ・リバー』を懐かしく思った中高年もたくさんいただろうし、スプリングスティーンの政治的立場に賛同する者ばかりでもなかっただろう。ましてやLGBTイシューに意識的なひとばかりではないはずである。だが、ボスは自分のリスナーをそのことに巻き込むのである。
 それは「怒り」を巡るスプリングスティーンからの問いかけだ。相次ぐコンサートのキャンセルにすでに反発の声も挙がっているそうだが、そうして感情を揺さぶりながら「いまこの国で苦しんでいるのは誰だろうか?」と訴えるのである。僕たちは「We」であることができるだろうか、怒るべきものなのは何か、と。

 日本でLGBTイシューが後れを取っているのは、アウトしている当事者が少ない(社会がカミングアウトを受け入れていない)ということとともに、アライ(支援者)である非当事者の顔も見えにくいからと言われている。だから、ある種のパフォーマンスとして自らの立場を明確にしたスプリングスティーンの姿にはどうしたって――海を超えて、勇気づけられるものがある。コンサートを急遽キャンセルしたときにどれだけの損害が出るか考えると、彼の周りにいるスタッフも含めて負ったリスクは計り知れないだろう。
 いま政治に燃えるアメリカのなかで、決して若くはないミュージシャンもまたその最前線にいること。大統領選がエンターテインメントとして過熱するなか、そのことを見落とさないようにしたいと思う。そして僕は『ザ・リバー』を……いや、『レッキング・ボール』を聴く。そこには「We」からはじまる曲が2曲収められていて、そのタイトルは、「We take care of our own」と「We are alive」である。

Beyoncé - ele-king

それに、わたしと同じようにいつもひとりでいる人間がいつの日か全員、川に集まるのよ。みんなで夕陽が沈むのを眺めるの。そして暗闇のなかでわたしたちはきっと真実を知るのだわ。アリス・ウォーカー『メリディアン』高橋芽香子訳

 ビヨンセは「文化現象になった」と英ガーディアンは報じている。ぼくはジェームス・ブレイクが参加していることがまず嬉しかった。ざまあみろだ。数年前、黒人音楽の専門家からジェームス・ブレイクを評価するなんてわかってないねーというおしかりを受けていたから。なぁんてことを書くと、ここだけリツィートする人が出てくるんだろうなぁ……だが、そんな小さい話ではない。スーパーボールで披露した“Formation”という、黒豹党/blacklivesmatterへの共感を露わにしたあとのアルバムに、英国の内気な白人青年との共作──彼は後半にも出てくるが、ブレイクは本作においてディプロと並んで重要な役割を担っている──を持ってくるところが、すでに作品の大きさが象徴されている。
 ポスト・オバマ・ワールドにおけるひとつの性急な意見として、所詮、黒人と白人を同じ国に住めないというのがあったが、意外なところではエズラ・クーニング(ヴァンパイア・ウィークエンド)やパンダ・ベア、ファーザー・ジョン・ミスティもザ・ウィークエンドも……(ほか大勢)も参加した『レモネード』からは、ビヨンセの音楽的探求心とその成果、異議申し立て、そしてパワフルな、とてつもなくパワフルな理想主義が立ち上がる。

 以下、自分のことを高い棚に上げて書こう。アルバムにはジェイ・Zをはじめとする、昔ながらの男社会への怒りと女性の苦しみが描かれているという。台所で、居間で、旦那の帰りを待っている女性の痛み(ぼくは午前3時の男ではないので、少しほっとしたり)、いつまでも変わらない男社会。映像にはニーナ・シモンの『シルク&ソウル』のジャケが写される。そしてはじまるその曲、“Sandcastles”でのビヨンセの歌は、かくじつに胸をえぐる。
 映像には、南部の美しい風景がたびたび出てくる。『レモネード』は、ビリー・ホリデーからアリス・ウォーカー、あるいは詩人ニッキ・ジョヴァンニにいたるまでの、長い歴史におけるアフリカ系アメリカ人女性たちの抵抗の魂の連続性のなかにある。「女を怒らせたら恐いよ」と、7歳の娘は、この1年ぼくに繰り返し言う。恐い……わかっている。男にとって己の愚かさに直面せざるえないという恐怖もあり、しかもビヨンセはジェイ・Zよりも器の大きいところを見せつけてもいる。『レモネード』はその最後を“Formation”でしめているように、怒っていて、寛大で、諦めていない。恨み節など優に超えるものであり、ポップ・アルバムとしての完成度がとにかく高いのである。
 ここ数年EDMにどっぷりのディプロだが、曲をまとめる腕は錆びていない。彼のプロダクションは重たいテーマの本作において、陽気なリズムで耳を楽しませる。2曲目が“Hold Up”だからこそ、これはすごい作品かもしれないと思えた。エレクトロ・タッチの“Sorry”も来たるべく後半戦に備えてほどよいウォームアップになる。ジャズとカリブ海がミックスされる“Daddy Lessons”は洒落ているし、ベース・ミュージックを咀嚼した“Love Drought”もキャッチーでじつに良い。痛みを和らげるようだ。
 
 “Sandcastles”のあとに続くのがジェームス・ブレイクと一緒に歌う“Forward”だ。次にケンドリック・ラマーをフィーチャーした“Freedom”、そしてディプロの感動的な“All Night”、クロージング・ナンバーの“Formation”へと展開するわけだが、これら後半3曲の力強さには心底しびれる。
 人種問題、女と男、理解し合うことの困難さという一点においては、同じように、ほんとうに困難だ。うわべだけの理想主義なんかでは通用しない。だからいっそうのこと、一緒に居るのは無理なんだという主張も大いに説得力を持つ。そうすれば誰も傷つかなくて済むという現代の日本でも散見するその建設的な考えをどうしたら覆せようか。
 メリディアンは「正しいこと」と「間違っていないこと」の違いが長いことわからなかったとトルマーンに打ち明ける。「正しいこと」とは殺さないこと。「間違っていないこと」とは必要とあれば殺すこと。メリディアンはある日そう確信する。『レモネード』は「間違っていないこと」ではない。
 あら探しをすることもできるだろう。完璧すぎるとか、良い子ちゃんだとか、とくに新しくはないとか、M.I.A.のように「アラブのことは入ってないじゃん」と高をくくることだってできる。だが、ぼくはとてもケチをつける気にはなれない。この音楽が自分の人生にも影響与えることを願う。ぼくは間違っていた。たしかにポップ・ミュージックは趣味によって細分化され、聴き方も産業によって大きく変化している。しかし、ここには変わることのない、寛容で、大胆に時代を切り拓くポップ・ミュージック/ソウル・ミュージックがある。

FORESTLIMIT 6th Anniversary - ele-king

 東京は渋谷区、幡ヶ谷にあるアンダーグラウンド実験スペースForestlimit。質の高い音響システムを用いた音楽イベントだけではなく、ライヴ・ペインティングから古着店の移動販売に至るまで、東京のあらゆる文化の交差点兼発信地として重要な役割を果たしている場所だ。
 今年で6周年を迎えるForestlimitが、海外より豪華なアーティストを招きアニヴァーサリー・パーティを数日に渡って開催する。ピンチが主宰する、〈Tectonic〉から昨年に発表したアルバムが好調の、今回初来日を果たすマンチェスターの若手最重要プレイヤー、Acre(エイカー)。前回の来日公演が記憶に新しい、〈PAN〉のなかでもよりレフトフィールドに属するロンドンのHelm(ヘルム)。どちらも昨今のシーンにおいて無視することはできない存在だ。
 もちろん、東京のローカル・シーンで活躍する1-Drink、CARRE、DJ Soybeans、S-Leeらもプレイ。東京の地下が世界と繋がる瞬間を見届けよう。今週の28日木曜日には、AcreとHelmはForestlimitクルーらと共にDommuneにも出演する予定。

■ACRE (Codes / Tectonic from Manchester)

イングランド北部最大の都市、マンチェスターを拠点に活動するプロデューサー。ピンチ主宰の〈Tectonic〉や〈PAN〉のサブレーベル〈Code〉からのリリースや、マンチェスターを拠点の集団、Project13の創設メンバーとして活動。プロフィール写真のほとんどで顔を隠し、ネットには情報がほとんど上がっていなかったため、謎のプロデューサーとして知られていた。グライム、ジャングル、テクノを横断しつつも、そのどれにも固着しないサウンドは、UKアンダーグラウンドの多面性を反映していると言えるだろう。2015年に〈Tectonic〉よりリリースされたファースト・アルバム『Better Strangers』からは、彼が目指す漆黒の未来音響世界が垣間見られる。最近では、Project13のクルーとはじめたイングランドの人気ネットラジオ番組、NTSでのレギュラー番組が話題を呼んでいる。

■HELM (PAN / Alter from London)

ロンドンを拠点とする電子音楽作家ルーク・ヤンガーによるソロ・プロジェクト。ハードコア・バンド等様々な経歴を経て、2008年にソロ・デビュー以来、フィールド・レコーディング、エレクトロアコースティック、エレクトロニクスを織り交ぜたサンプリングを主体の多種多様なアンビエント/ドローン作品を〈PAN〉を軸に音響/インディ・レーベルから発表。2010年に立ち上げた自身のレーベル〈Alter〉ではHieroglyphic Being、Bass Clef、Basic House、Lumisokeaといったインダストリアル〜ポスト・パンク〜クラブ/ダンス・ミュージックにまで連なった実験的な作品を次々とリリース。ここ数年はよりノイジーでメタリックなインダストリアルな趣へと傾倒し、〈PAN〉からの6枚目となる最新作『Olympic Mess』(2015)ではオリンピックで解体されていく都市部の情景を映し出すような、退廃的な閉塞感と開放感が共存したリズミックなループ・ベースのアンビエント/ドローン作品を発表。昨年にはデンマークのポスト・パンク/ハードコア・バンドIceageのツアーとの帯同を果たし、アートや実験電子音楽シーンの枠を超えインディともクロスオーバーしながらを着実に注目を集めている。

【Acre Japan Tour】

■東京公演
Isn't it? x Forest Limit 6th Anniversary
日時:4月30日 土曜日 23:00-Open/Start
会場:幡ヶ谷Forest Limit
料金:Door 1500yen +1Drink
出演 :
Acre (Codes,Tectonic) from Manchester
1-Drink
THE KLO
TUM(VOID)
S-Lee(Riddim Noir)
DJ Soybeans

info: https://forestlimit.com/fl/?page_id=11019

■大阪公演
-merde-
日時:4.29 FRI Open/Start
会場:Socorefactory 19:00
料金:Door 2500yen
出演:
Acre(Tectonic/PAN×Codes/Project13)
ALUCA(FACTORY)
satinko(Cm3)
YOUNG ANIMAL(merde)
ECIV_TAKIZUMI(merde)

info: https://socorefactory.com

【Helm Japan Tour】

■東京公演
Forest Limit 6th Anniversary
日時:4月29日金曜日 OPEN / START : 18:00
料金:DOOR Only : ¥2,500 + 1D
出演 :
HELM [PAN / from London]
CARRE
CVN
7e
Dirty Dirt

more info : https://forestlimit.com/fl/?page_id=11019

■新潟公演
experimental room #22
日時:4.30 sat OPEN 17:00 / START 17:30
会場:砂丘館 (Sakyu-Kan)
料金:ADV ¥3,000 | DOOR ¥3,500 Ouside Niigata ¥2,500 | FREE Under 18
出演:
HELM [PAN from London]
食品まつり a.k.a foodman
PAL
JACOB

チケット・メール予約 : info@experimentalrooms.com
※件名を「4/30チケット予約」としてお名前とご希望の枚数をご連絡下さい。
more info : https://www.experimentalrooms.com/events/22.html

■大阪公演
BFF #002 HELM Japan Showcase
日時:5.2 mon OPEN : 19:00 START : 19:30
会場:Conpass Osaka
料金:ADV ¥2,800 DOOR¥3,000 Falus Sticker¥2,500
出演 :
HELM [PAN / Alter from London]
bonanzas
行松陽介
Falus

more info : https://birdfriendfalus.tumblr.com/

復刊! 『ロック画報』 - ele-king

 2000年に「はっぴいえんど特集」で創刊となり、2006年の「裸のラリーズ特集」までじつに全25巻を数えて幕を引いた『ロック画報』が、このたび復刊する。
 復刊号の目玉となるのは「はちみつぱい特集」。はっぴいえんど同様、日本のロックのルーツにして、昨今、年長世代からはもちろん、インディ/メジャーを問わず若いアーティストからもふたたびの注目を集める存在だ。編集には小川真一と平澤直孝、そして表紙は本秀康とまさにこの上ないメンバー、詳細は追っての発表となる。

2000年「はっぴいえんど特集」で創刊、2006年の「裸のラリーズ特集」等、全25巻で幕となった『ロック画報』が「はちみつぱい特集」でセンチメンタル通りから蘇ります!

 のちにムーンライダーズを結成する鈴木慶一、かしぶち哲郎、武川雅寛、岡田徹、椎名和夫が在籍し、はっぴいえんどと並んで日本語ロックの先駆的存在として知られるはちみつぱい。
 昨年の鈴木慶一の45周年記念ライヴで蘇り、今年5月にはビルボード・ライブ(東京 / 大阪)で奇跡の“Re:Again”と、その活動はヒートアップ!

 本書はその脅威にして錚々たるメンバーの協力を得て、滋養強壮に富む『ロック画報』ならではの内容となるのはたしか。編集人は小川真一と平澤直孝、そして表紙は本秀康、とこの上ないメンバーで!

■商品情報

タイトル:
『復刊 ロック画報 はつみつぱい特集』

発売日:
2016年7月20日発売予定

価格:
お宝CD付き ¥2,200+税

仕様:
A5判 約200ページ

予定内容:
・(グラビア)はちみつぱい お宝グッズ/秘蔵写真
・はちみつぱいストーリー
・はちみつぱいから見た日本のロック
  羽田から響いた日本語ロックの雄叫び
・全アルバム/シングル・詳細レヴュー
※内容は一部予告なく変更する場合がございます

AHAU - ele-king

最近聴いていた音楽の中から

PJ Harvey - ele-king

 それはいつだって彼女自身の問題である。イングランドの血なまぐさい歴史を掘り起こすことで視線が外界に鮮やかに開かれた前作『レット・イングランド・シェイク』が彼女の内側に宿る愛国心への問いかけだったように、『ザ・ホープ・シックス・デモリッション・プロジェクト』では世界でいま起こっていることを自身が知るためにコソボ、アフガニスタン、ワシントンDCを渡る旅――現代アメリカにおける帝国主義を巡る問い――を記録する。90年代、NMEの表紙をトップレスで飾ったポーリーの痛ましさは完全に過去のものになったが、かつて自身の荒れる内面を無視できなかったように、現在の荒れる世界から目を逸らすことができなかったのだろう。近作2作は端的に連作であり、彼女がまさにいま見聞きしたもののドキュメントとして、戦争と紛争の現場を「フィールド・レコーディング」する。
 すでに伝えられている通り、戦争カメラマンのシェイマス・マーフィーが本作のガイド役になっており、先述の旅はマーフィーと共にしたものだ。彼の写真と彼女の詩のコラボ―レションは本にもなっている。アルバムはそれをぐっとポーリーのほうに寄せる作業だったようで、フラッドとジョン・パリッシュという馴染みのプロデューサーを迎え、そして、前作よりもさらに温かみを増した彼女の歌声が聴ける。ミック・ハーヴェイは相変わらずキーボードやギターで傍らにいる。このアルバムの作り自体が、ここに集った人びとで彼女の2010年代を祝福するかのようだ――戦争を無視することができないPJの現在を。

 だからオープニングの“ザ・コミュニティ・オブ・ホープ”において、再生ボタンを押せば、テーマのシリアスさに身構えていた聴き手を解きほぐすようなリラックスしたギターが飛び込んでくるのにはじんとするものがある。朗らかに4分音符を叩くスネアと鍵盤。ワシントンD.C.近くの地域における荒廃をテーマにしたこの曲では政府が90年代から取り組んだ住宅再開発政策「ホープVI」が批判されているそうで(これはアルバム・タイトルになっている)、「希望のコミュニティ」というタイトルにはもちろん痛烈な皮肉が込められている。いきなり紛争地帯の場面から始まらず、アメリカ内部の事情から描かれるのも示唆的だ。が、アウトロで「やつらはここにウォルマートを立てるだろう」とアップリフティングなコーラスで繰り返されるとき、それは両義的な表現として立ちあがってくる。すなわち、それがどんなにひどく、悲惨で、荒廃したものだったとしても、世界の現実を知るのは彼女と彼女の音楽にとって痛みであると同時に喜びなのである。それが本作のはっきりとした魅力になっている。

 前作がコンセプチュアルにブリティッシュ・フォーク、トラッドを引用していたのに対して、“ザ・ミニストリー・オブ・ディフェンス”や“ザ・ウィール”のようにわりとストレートなギター・ロック・サウンドが戻ってきているアルバムと言えるだろう。が、全体として本作を特徴づけているのは管楽器と多くの人間の声であり、すなわち「息づかい」が感じられるものになっている。「どうやって殺人を止める?」というフレーズではじまる“ア・ライン・イン・ザ・サンド”では軽快に弾むリズムの上でバス・クラリネットがふくよかな音を出し、男声コーラスを従えながらポーリーが歌うのはチャーミングに響くし、サックスが低音で重々しく下のほうを這う“チェイン・オブ・キーズ”は彼女の透明感のある声とのコントラストが鮮やかだ。興味深いのは“リヴァー・アナコスティア”で、ゆるく張られたドラムが柔らかい打音を鳴らしつつ、ゴスペル“ウェイド・イン・ザ・ウォーター”を引用する。それは過去のアメリカの大地から聞こえてくるようで……広く言えば、アメリカのフォークやゴスペルを参照した21世紀のアメリカの若い音楽家たちと共振しているだろう。“ザ・ミニストリー・オブ・ソーシャル・アフェアズ”ではそして、あくまで異邦人としてブルーズをサンプリングしながらテリー・エドワーズとPJ自身によるサックスの烈しい演奏の応酬で渦を巻く。作品のテーマに沿う形で、そこにいる人間たちの呼吸が生々しく感じられる音楽となっている。

 “チェイン・オブ・キーズ“では奇しくも「how can it mean such hopelessness?」と呟かれるが、アノーニがその名も『ホープレスネス』で戦争とアメリカの愚行を描いていることと見事にシンクロしている。彼女たちの作品がこのオバマ時代の終わりにリリースされたことは偶然ではないだろう。ただ、アノーニがはっきりと怒りをこめて声を出しているのに対し、ポーリーはアメリカとそこに関与した国々の暴力を遠景に置きつつ、彼女自身はそれがまさに起こっている地点にまず立とうとする。何か明確な主義主張があるわけでもないし、写実的に描かれる風景は断片的だ。都市の汚染と荒廃、空爆が繰り広げられた土地、貧困、資本主義が引き起こし続ける悲劇……。シェイマス・マーフィーがアフガニスタンのカブールで録音した雑踏の音からはじまる“ダラー、ダラー”では、聴き手もまさにその場所――子どもが金銭をせびってくる最中に導かれる。だがその歌はあくまでも穏やかで、優しく、何かをなだめるように響いている。ゆっくりと叩かれる太鼓、静かな情熱を湛えたサックスのソロ、オルガンとともにゴスペルのように立ち上がる歌、鳴らされるクラクション……。
 このアルバムを聴いていると、「怯むな」と言われているように思える。世界で起こっている苦しみを見ることを恐れるな、まずはそこに行けばいい、自分の目と耳を試してみろ、と。なぜならここには、知ることの喜び、そのたしかな高揚があるからだ。『ザ・ホープ・シックス・デモリッション・プロジェクト』はPJハーヴェイのまっすぐな勇敢さに貫かれた作品であり、それは相変わらず彼女が現在の自分を偽らずに晒すことで差し出されている。

Tim Hecker - ele-king

 ティム・ヘッカーの音楽を、ひとまずは通例に倣って「アンビエント/ドローン」というカテゴリーに分類することは可能だろうが(むろん、それ自体への是非はさておき)、彼の楽曲に内包された音楽的な情報量は、じつは多種多様であり(単なる音の持続ではない)、いわばティム・ヘッカーというコンポーザー/サウンドメイカーの音楽的なレファレンスの幅広さを物語っているように思える。

 そう、彼の楽曲にはシューゲイザー的なアンビエント/ノイズから、ドビュッシー以降の近代印象派音楽、ラ・モンテ・ヤング的な永遠のドローンから、ブライアン・イーノが提唱した環境音楽(アンビエント・ミュージック)、ダーク・アンビエントから、ロマンティック・エレクトロニカ、00年代的なグリッチから、10年的シンセ・ドローンなどなど、時代と歴史を越境するような多様な音楽的エレメントが、アンビエント・サウンドの中に溶け合い、幽玄に鳴り響いているのだ。

 それは時代も歴史もジャンルもフラット化したゼロ年代以降の音そのもののようでもありながら、同時に西欧的な叙情性や崇高性を感じさせるものであった。作曲家的なコンポジションといってもいい。ティム・ヘッカーが、ほかのアンビエント/ドローンの音楽家と一線を画するのは、もしかすると、この作曲家的な「個」ではないか。

 そのような「個=コンポーザー」の表出は、〈ミル・プラトー〉からリリースされたセカンド・アルバム『レディオ・アモーレ』(2003)から変わらないものであり、00年代中期以降の〈クランキー〉から発表された『ハーモニー・イン・アルトラヴァイオレット』(2006)、『アン・イマジナリー・カントリー』(2009)、『レイヴデス、1972』(2011)まで通低し、深化されてきたものともいえよう。

 それら創作の結晶が、2013年に〈クランキー〉から送り出された『ヴァージンズ』であった。その音楽性は近年のモダン・クラシカル的なものとも呼応しつつ、氷の宮殿のような幽玄な音響世界が展開されていた。傑作といっていい。この作品には
『レイヴデス、1972』にも参加していたベン・フロスト、
ポール・コーリーがエンジニアを担当し、演奏者にはいまをときめく(?)カラ・リズ・カバーデールも名を連ねている。

 先にティム・ヘッカーは作曲家としての「個」が強いと書いたが、同時に彼はコラボレーション作品でも転機となる仕事を残している点を忘れてはならない。2008年にリリースしたエイダン・ベイカーとの『ファンタズマ・パラステイシー』も良作だが、なにより2012年にリリースされたワン・オートリックス・ポイント・ネヴァー=ダニエル・ロパティンとの『インストゥルメンタル・ツーリスト』が重要で、このアルバムによって、ティム・ヘッカーは近年のシンセ・アンビエント的な潮流に合流することができたと思う。彼はコラボレーションの名手でもあるのだ。

 そして前作より3年ぶりのリリースとなる本作は、彼のキャリアの中でも、さらに高い完成度の楽曲が収録されている。リリースは〈クランキー〉を離れ、名門〈4AD〉から。それゆえの力の入れようかと思いきや、本作も前作を引き継ぐ形で、エンジニア・プロデュースにベン・フロスト、
ミックスにポール・コーリー、キーボードにカラ・リズ・カバーデールらが参加しており、一聴すると『ヴァージンズ』からの延長線上にあるサウンドに聴こえるだろう。

 しかし、「声」と「リズム」という要素を大胆に導入している点に強い意思を感じるのだ。むろん、リズムといってもいわゆるビートではなく、1曲め“オブシディアン・カウンターポイント”の冒頭で聴かれるシーケンスフレーズや“ライブ・リーク・インストゥルメンタル”で展開される鼓動のようなアトモスフィアを感じさせるリズムであるし、何より、カラ・リズ・カバーデールのキーボードによる旋律は強いリズム性を導入しているように聴こえる。

 そして「声」もまた旋律というよりは、バロック的な宗教曲の歌唱を拡張したようなサウンドのひとつとして、楽曲全体のアンビエンスを形成していく。たとえば2曲め“ミュージック・オブ・ジ・エア”の楽曲の宗教曲/宗教歌のような響きには、カラ・リズ・カバーデールの西欧音楽的/神話的なアンビエント的音楽性が強く作用しているように聴こえるし(ちなみに本アルバム全体のコラールのアレンジは、あのヨハン・ヨハンソンが担当している!)、また、最終曲“ブラック・フェイズ”のアンビエント・レクイエム的な響きには、ティム・ヘッカーとカラ・リズ・カバーデールの音楽性の交錯に、そこにヨハン・ヨハンソン、ベン・フロストらの個性が見事に融合していった結果に思えるのだ。この楽曲の白昼夢のような儚い美しさは筆舌に尽くし難く、まるでヒトの世界の終わりで鳴り響くレクイエムのようである。

 私は本作を聴きながら、不意にハロルド・バッドが1978年にブライアン・イーノの〈オブスキュア〉からリリースした『ザ・パヴィリオン・ドリームス』を思い出した(〈4AD〉リリースなのでコクトー・ツインズとハロルド・バッドのコラボレーション作品と比べたくもなるが、作風がやや違う)。このアルバムはイーノによるプロデュースで、宗教的/神話的/西欧的なクラシカルな音楽性が、とにかく美しい作品である。とくに声とキーボード、ギター、管楽器などの器楽・楽器の演奏/層が独自の空間性を生成している点に、『ラブ・ストリームス』との不思議な共通点を聴き取ってしまった。

 イーノは、このアルバム以降は、あの環境音楽=アンビエント・ミュージックへと「進化」していくわけだが、しかし、現代のティム・ヘッカーはイーノ以降の環境である「アンビエント/ドローン」からはじまり、しかしアンビエント以前の〈オブスキュア〉レーベルとの親和性を示し、崇高性へと「深化」していく点が現代的に思える。進化ではなく深化への希求?
この2作品を続けて聴くと、どちらが、どちらかわからなくなる瞬間もあるほどであり、私には、この(歴史的な)「進化」と「深化」の「対比」の感覚がことさらに興味深いものに感じられた。

メガネ - ele-king

 映画でアンニュイな女性像を観たのは『もう頬づえはつかない』(79)が最初だった。桃井かおり演じる人生に対してつねにいぶかしんで、これでもかと気だるげな女性像はそれまでのステロタイプだった若者のイメージを覆し、いまから思えばプレ・パンク的なムードを漂わせていた。芳村真理演じるタレント・マネージャーが「社会を動かせると思った」と口ばしる吉田喜重監督『血は渇いてる』(60)や加賀まりこがアゲ嬢のはしりを演じる中平康監督『月曜日のユカ』(64)など時代とともに積極的でアグレッシヴになっていった女性像が伊藤俊也監督『女囚701号さそり』(72)による梶芽衣子を最後に完全に方向転換してしまった瞬間とも言える。そして、80年代以後、脱力キャラはスタンダードな表現と化し、最近では安藤桃子監督『0.5ミリ』(14)によってけっこうな洗練が加えられていた。

 メガネもその系譜にいる。ごくごく日常的な題材が大半を占め、“夏バテ”では「暑〜い」「だる〜い」とまったく感情を波立たせることなく、たどたどしいラップがどこまでも続く。ミックスがそのように心掛けているからだろうけれど、言葉がすべてクリアにわかるのがよく、「気」が抜けているわりに「気持ち」はむしろ過剰なほど伝わってくる。押し付けてくるものがまったくなく、引くだけ引いているにもかかわらず、それこそ『もう頬づえはつかない』同様、主役が隠せば隠すほど感情が剥き出しになってくるかのような転倒も起こってくる。また、ミニマルに徹するのかと思えば気の抜けたラップはそのままにいきなり宇宙に思いを馳せたり、“優しさ”では人間論にも接近したりと、パースペクティヴが固定されていないのもいい。“生きる”ではタイトル通りの葛藤がそれと感じさせることなく述べられていく。

 プロデューサーの力量なんだろうか、驚くのはプロデューサーが13人も参加しているにもかかわらずトータル感がまったく損なわれていないことで、前半は穏やかに脱力感を増幅させつつ、Ryuei Kotogeによる“夏の終わり”ではダブとウエイトレスが交錯したような独特の展開がまずは耳を引く。7曲めとなるScibattlonの“お好み焼きはダンスホール”からは多方面に向かって実験的な様相を呈しはじめ、食品まつりによる“夜に溶ける”はノイジーなボディ・ミュージック仕立てで相変わらずセンスがいい。それ以外のプロデューサー名を羅列すると、Bestseller、Gnyonpix、Franz Snake、クラーク佐藤、Uncle Texx、石井タカアキラ、エスケー、Xem、Indus Bonze、Ucc3lli、フィーチャリングMCはMC Dovasa、ペリカン、MC松島、Dizと、全曲、じつによくできている。

 メガネは普段、名古屋のOLだそうで、脱力というのが感情労働の放棄だとしたら、Charisma.comは対照的にここ3年ほどあからさまな怒りと罵倒で注目を集めてきた東京のOLデュオ(映画の女性像でいえば吉田大八監督『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(07)やタナダユキ監督 『百万円と苦虫女』(08)からまっすぐに来た感じでしょうか)。正直、ワーナーに移籍してからはやや手が伸びなくなっていたところ、新作のジャケット・デザインがデビュー作『アイアイシンドローム』と同じ発想だったので、まあ、どれだけ煮詰まっているかを確認してみるかと。初めて“HATE”や「飾りじゃないのよ 中指は」といったウィットのある歌詞を聴いたときの驚きはもちろんあるわけはなく、こちらも刺激には麻痺しているので、どうしても新機軸を求めてしまいますけれど、罵倒と表裏一体をなしていた皮肉がそれだけで成り立つフォーマットを構築しきれていないので、やはりまとまった作品としては物足りなさが残る(同じ発想の繰り返しだけに、視線を逸らしているジャケット・デザインが『アイアイシンドローム』のように確信を持っていないことを曝け出しているともいえる)。メジャーに行かなければよかったのに……という結果だけは避けてほしいです。

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