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SOUL definitive 1956 - 2016 - ele-king

ブラック・カルチャーが燃え上がるいまだからこそ読みたい、
60年分のソウル/ファンク/R&Bのディスク・ガイド決定版!

サム・クックからビヨンセ、ジェイムズ・ブラウンからディアンジェロまで。
時代に応じてスタイルを変化させながら、これほど社会と密接した関係にあり、
そしてこれほど世界を魅了してきた大衆音楽はほかにない。

“definitive”シリーズ最新刊は、60年にもおよぶソウル/ファンク/R&B年代記。
黎明期から2016年の現在までを網羅した本書は、ソウルがどのように始まり、
どのように変化しながら現在に至っているかという流れをあぶり出す。
ブラック・カルチャーが燃え上がるいまだからこそ読みたい1冊。

監修・著者は、30年以上もブラック・ミュージックについて書き続けている、
ベテラン音楽ライターの河地依子。まさに「決定版」です!

初版のみ 電子版へのアクセスキー付き


第1章:1950年代~ ソウルの黎明期
p7 Sam Cook / p8 James Brown & The Famous Flames / p9 Ray Charles / p10 歌姫たち / p11 ドゥーワップの系譜 / p13 ニューオリンズ / p14 その他の先達

第2章:1960~ ソウルの躍進
p16 The MIracles / p17 デトロイト~Motown / p19 Stevie Wonder / p20 Marvin Gaye / p21 Supremes / p22 The Temptations / p23 For Tops / p26 The Jackson 5 / p27 Invicuts / p31 Chaimen Of The Board / p32 メンフィス~Stax / p33 Otis Redding / p37 その他の南部 / p38 Atlantic / p42 Wilson Pichett / p43 Aretha Franklin / p44 シカゴ~Chess / p46 Okeh / p47 その他 / p49 Ike & Tina Turner

第3章:1964~初期のファンク
p52 James Brown / p54 Sly & The Family Stone

第4章:1969~ファンクに火が点いた
p56 Sly & The Family Stone / p57 James Brown / The JB's / p58 P- Funk / p63 Ohio Playersおよび関連作 / p65 オハイオその他 / p67 The Isley Brothers / p68 Earth, Wind & Fireおよび関連作 / p71 東海岸(NY/NJ) / P73 西海岸 / p76 デトロイト / p78 Isaac Hayes / p79 The Bar-Kays / p80 The Meters / p81 Allen Toussaint および関連作 / p82 その他の地域 /

第5章:1971 ~ニュー・ソウル
p84 Marvin Gaye / p85 Curtis Mayfield / p87 Donny Hatherway / p88 Stevie Wonder / p92 番外編:「言葉」のアルバム

第6章:1972~ソウル百花繚乱
p94 Al Green / p95 メンフィス~Hi / p98 メンフィス~Stax / p101 Bobby Womack / p102 その他 / p104 Philadelphia International / p105 フィラデルフィア / p110 The Stylistics / p111 その他 / p112 Buddah / p113 ニューヨーク / p116 Brunswick/Dakar / p117 Barry White / p118 西海岸 / p121 西海岸~Motown / p124 デトロイト / p126 Prince / p127 その他

第7章:1979~ エレクトロ時代の洗練
p129 Michael Jackson / p130 Chicおよび関連作 / p132 Rick Jamesおよび関連作 / p134 Jazz→→→Funk / p135 ニューヨークその他 / p137 Zappおよび関連作 / p139 オハイオその他 / p140 Princeおよび関連作 / p142 Reggie Griffinおよび関連作 / p143 ミシガン / p145 Solar / p148 西海岸その他 / p150 その他の地域 / p152 Go-Go / p154 ニューオリンズ / p155 シンガーたち:旧世代 / p162 Luther Vandrossおよび関連作 / p163 シンガーたち:新世代 / p167 シンガーたち:英国 /

第8章:1988~ ニュー・ジャック・スウィング→ヒップホップ・ソウル→ビート革命
p171 Guy / p172 Teddy Rileyおよび関連作 / p174 Uptown / p174 Jam & Lewisプロデュース作、Perspective作品 / p178 LA & Babyfaceプロデュース作、Laface作品 / p181 New Editionおよび関連作 / p183 Foster & MacEloryプロデュース作 / p185 LeVertおよび関連作 / p186 Motown / p189 Def Jam/OBR / p191 Keith Sweatおよび関連作 / p192 R. Kellyおよび関連作 / p193 Dallas Austin関連作 / p194 セルフ・プロデュースの人々 / p196 Timbalandおよび関連作 / p199 その他 / p207 我が道を行く人々 / p209 英国バンド / p211 シンガーたち:英国

第9章:1995~ ネオ・ソウルとR&B(1)
p213 D'Angelo / p214 ネオ・ソウル / p219 R&B / P220 Destiny's Child / p223 ゴスペル /

第10章:2000~ネオ・フィリー
p226 Jill Scott / p227 ネオ・フィリー

第11章:2001~ネオ・ソウルとR&B(2)
p233 Alicia Keys / p234 R&B / p242 ネオ・ソウル / p244 Anthony Hamilton / p252 番外編:Bruno Marsおよび関連作 / p253 レトロ・ソウル / p257 全方位型 / p260 ゴスペル / p261 英国 /

第12章:2005~ エレクトロ~アンビエント~ドリーム
p264 Riahnna / p265 ダンス、ポップ / p267 アンビエント、ドリーム /

第13章:~2016 新世代プロテスト
p272 Beyonce / p273 新世代プロテスト


コラム
p35
「全盛期のレヴューのライヴ盤」
p90
「ブラックスプロイテーションのサントラ」
p100
「社会的な目的の慈善ライヴ」
p169
「反アパルトヘイト・アーティスト連合」
p224
コラム「ファンクの復活」
p230
「銀幕の中のアーティストたち」
p231
「ザ・ルーツの暗躍」
p258
「トリビュート盤」
p262
「相次ぐヴェテランの復活劇」

p274
索引

SOUL definitive 1956 - 2016 - ele-king

21番目の「笑っていた」で泣いてしまった。「あなたがアメリカの黒人だったら殺されるかもしれない23の状況(23 Ways You Could Be Killed If You Are Black in America)」という動画のことだ。合衆国で無抵抗の黒人が警官に殺害され続けていることに抗議するため、ビヨンセやリアーナ、アリシア・キーズといった錚々たる顔ぶれが集結し、それまでに殺害された23人が殺される直前に何をしていたかを淡々と語っていく動画である。21番目に登場する被害者は、単に「笑っていた」というだけで殺されてしまった。もう本当にどうしようもないくらい悲惨だ。
2016年はビヨンセの年である。黒人であることと女性であること、政治の問題と恋愛の問題を同時に気高く歌い上げる彼女の姿は、昨年のケンドリック・ラマーと同様、ポピュラー・ミュージックの歴史に深く刻み込まれることになるだろう。何がすごいって、元デスティニーズ・チャイルドだよ。90年代に誰がこんな姿の彼女を想像できただろうか。
だが落ち着いて考えてみると、いまの彼女の力強い姿は当然の帰結なのかもしれない。なぜなら彼女の背後では、われわれが想像するよりもはるかに大きな川がこれまで一度も途切れることなく脈々と流れ続けていたのだから。かつてアミリ・バラカ(リロイ・ジョーンズ)はその川を「変わっていく同じもの(the Changing Same)」と名付けた。
ブラック・ミュージックは刹那的で、うつろいやすいと言われる。そのときそのときで新しいスタイルが生み出され、聴衆はそれを次々と消費しては捨てていく。こう書くとただむなしいだけのように感じられるかもしれないが、それはつまり、ブラック・ミュージックが各々の時代の社会情勢と相互に作用し合っているということでもある。公民権運動があった。ヴェトナム戦争があった。LA暴動があった。イラク戦争があった。それらはみな一本の大きな本流へと注ぎ、2016年という河口まで流れ込んでいる。直接的なメッセージが歌われているかどうかだけが重要なのではない。楽器が、リズムが、音色が、歌声そのものが、20世紀後半の合衆国の歩みに呼応しているのだ。
サム・クックがいた。ジェイムズ・ブラウンがいた。ディアンジェロがいる。ビヨンセがいる。『ディフィニティヴ』シリーズ最新作は、「ソウル」である。

SOUL definitive 1956-2016
河地依子



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第1章:1950年代~ ソウルの黎明期
p7 Sam Cook / p8 James Brown & The Famous Flames / p9 Ray Charles / p10 歌姫たち / p11 ドゥーワップの系譜 / p13 ニューオリンズ / p14 その他の先達

第2章:1960~ ソウルの躍進
p16 The MIracles / p17 デトロイト~Motown / p19 Stevie Wonder / p20 Marvin Gaye / p21 Supremes / p22 The Temptations / p23 For Tops / p26 The Jackson 5 / p27 Invicuts / p31 Chaimen Of The Board / p32 メンフィス~Stax / p33 Otis Redding / p37 その他の南部 / p38 Atlantic / p42 Wilson Pichett / p43 Aretha Franklin / p44 シカゴ~Chess / p46 Okeh / p47 その他 / p49 Ike & Tina Turner

第3章:1964~初期のファンク
p52 James Brown / p54 Sly & The Family Stone

第4章:1969~ファンクに火が点いた
p56 Sly & The Family Stone / p57 James Brown / The JB's / p58 P- Funk / p63 Ohio Playersおよび関連作 / p65 オハイオその他 / p67 The Isley Brothers / p68 Earth, Wind & Fireおよび関連作 / p71 東海岸(NY/NJ) / P73 西海岸 / p76 デトロイト / p78 Isaac Hayes / p79 The Bar-Kays / p80 The Meters / p81 Allen Toussaint および関連作 / p82 その他の地域 /

第5章:1971 ~ニュー・ソウル
p84 Marvin Gaye / p85 Curtis Mayfield / p87 Donny Hatherway / p88 Stevie Wonder / p92 番外編:「言葉」のアルバム

第6章:1972~ソウル百花繚乱
p94 Al Green / p95 メンフィス~Hi / p98 メンフィス~Stax / p101 Bobby Womack / p102 その他 / p104 Philadelphia International / p105 フィラデルフィア / p110 The Stylistics / p111 その他 / p112 Buddah / p113 ニューヨーク / p116 Brunswick/Dakar / p117 Barry White / p118 西海岸 / p121 西海岸~Motown / p124 デトロイト / p126 Prince / p127 その他

第7章:1979~ エレクトロ時代の洗練
p129 Michael Jackson / p130 Chicおよび関連作 / p132 Rick Jamesおよび関連作 / p134 Jazz→→→Funk / p135 ニューヨークその他 / p137 Zappおよび関連作 / p139 オハイオその他 / p140 Princeおよび関連作 / p142 Reggie Griffinおよび関連作 / p143 ミシガン / p145 Solar / p148 西海岸その他 / p150 その他の地域 / p152 Go-Go / p154 ニューオリンズ / p155 シンガーたち:旧世代 / p162 Luther Vandrossおよび関連作 / p163 シンガーたち:新世代 / p167 シンガーたち:英国 /

第8章:1988~ ニュー・ジャック・スウィング→ヒップホップ・ソウル→ビート革命
p171 Guy / p172 Teddy Rileyおよび関連作 / p174 Uptown / p174 Jam & Lewisプロデュース作、Perspective作品 / p178 LA & Babyfaceプロデュース作、Laface作品 / p181 New Editionおよび関連作 / p183 Foster & MacEloryプロデュース作 / p185 LeVertおよび関連作 / p186 Motown / p189 Def Jam/OBR / p191 Keith Sweatおよび関連作 / p192 R. Kellyおよび関連作 / p193 Dallas Austin関連作 / p194 セルフ・プロデュースの人々 / p196 Timbalandおよび関連作 / p199 その他 / p207 我が道を行く人々 / p209 英国バンド / p211 シンガーたち:英国

第9章:1995~ ネオ・ソウルとR&B(1)
p213 D'Angelo / p214 ネオ・ソウル / p219 R&B / P220 Destiny's Child / p223 ゴスペル /

第10章:2000~ネオ・フィリー
p226 Jill Scott / p227 ネオ・フィリー

第11章:2001~ネオ・ソウルとR&B(2)
p233 Alicia Keys / p234 R&B / p242 ネオ・ソウル / p244 Anthony Hamilton / p252 番外編:Bruno Marsおよび関連作 / p253 レトロ・ソウル / p257 全方位型 / p260 ゴスペル / p261 英国 /

第12章:2005~ エレクトロ~アンビエント~ドリーム
p264 Riahnna / p265 ダンス、ポップ / p267 アンビエント、ドリーム /

第13章:~2016 新世代プロテスト
p272 Beyonce / p273 新世代プロテスト


コラム
p35 「全盛期のレヴューのライヴ盤」
p90 「ブラックスプロイテーションのサントラ」
p100 「社会的な目的の慈善ライヴ」
p169 「反アパルトヘイト・アーティスト連合」
p224 コラム「ファンクの復活」
p230 「銀幕の中のアーティストたち」
p231 「ザ・ルーツの暗躍」
p258 「トリビュート盤」
p262 「相次ぐヴェテランの復活劇」

p274 索引

Schoolboy Q - ele-king

 MCの多くが直面するであろう、ポジショニング≒キャラ立ちの問題。ワン・アンド・オンリーの個性とは、一体何か。Schoolboy Qもまた、この問題に意識的であるように見える。

 本アルバムのタイトルとなっている「Blank Face」。これは一体何を意味しているのだろうか。それは「うつろな顔」「無表情」といった意味を持つが、ファースト・シングルの“Groovy Tony”のMVやバージョン違いのアルバムのアートワークに登場するQ(もしくはジョーダンやトランプ)の顔面は、無表情といった生易しいものではない。その鼻や口はグロテスクなほどに平面に加工されており、サングラスをかけた「顔なし」のごとし。同曲の「Groovy Tony / no face killer」というラインからは、ウータン・クランのゴーストフェイス・キラーを連想させられる(ゴーストフェイスの別名はトニー・スタークスでもある)。思えばゴーストフェイスはウータン・クランが世に現れた当初、ストッキングを被り顔の露出を避けていた(Qも前作『Oxymoron』のジャケットで顔を隠している)。理由として、警察に追われているからといった憶測が囁かれたが、真相は定かではない。いずれにせよ、顔を見せられないという特殊な条件が彼の個性を際立たせ、僕たちの想像力を大いに煽ったのは間違いのない事実だった。

 いくつかに区切られたブロックから成るヴァースは、冒頭のかなり低いテンションで無表情に発音される「blank face」から始まり、徐々にテンションを上げ、その語り口を荒げてゆく。怒りと自己顕示欲が大部分を支配する声色が行き着く先は、MVのラストシーンで描かれる。そう、そこでは「顔なし」が首を吊る。まるでそのことによって逆に「顔」を取り戻すかのように。前作『Oxymoron』収録の“Prescription / Oxymoron”を思い出してみれば、彼の愛娘のJoyは、ドラッグによって「表情を失った=blank faceの」父親であるQを「どうしたの? 疲れてるの?」と気遣い「オーケー、愛してる」と声をかけ続けることで彼をこの世界に繋ぎ留めた。Qは現世で唯一の真正な「喜び=Joy」のためにドラッグを楽しむことからも、それを売り捌くことからも足を洗おうとするが、一方で、Joyとの生活のためにそれを売り捌いた金が必要なのも事実だった。この矛盾に引き裂かれながらも、「blank」でない「顔=表情」を取り戻すために彼はラップしているのだった。

 もうひとつ、“Groovy”が暗示するのは、Qの生まれ育ったカリフォルニアのHooverに1960年代から根差すギャングであるHoover Criminal Gangの前身である「Hoover Groovers」である。Hoover Criminal GangはQの生まれ育ったカリフォルニアのHooverに1960年代から根差すギャングであり、彼は12歳のときにその小集団のHoover Crips(52 Hoover Gangster Crips)に加入している。Hooverで「Schoolboy」としてコミュニティ・カレッジに通い、アメフトをプレイしていたQはしかし、フッドの現実に回収されてゆく。2009年にリリースした最初のミックステープのタイトルである『Schoolboy Turned Hustla』の文字通り、ごくごく自然に彼は先輩たちに従うままアメリカの二大ギャング組織のCrips(もう一方はBloods)の一員として、ドラッグ・ディーラーとしてハスリングするようになるのだ。

 Qの挑戦のひとつは、従来の硬直化した(=無表情な)ギャングスタ・ラップに新たな表情を付与することである。彼が従来の方法論を越え出ようとする理由のひとつは、やはりレーベルメイトでありQと共にBlack Hippyのメンバーであるケンドリック・ラマーの存在だろう。ケンドリックの大成功により、彼が描き直したコンプトンはスポットライトを浴びることになったが、Qはケンドリックが描く物語の登場人物のひとりであることを全く望んでいない。「Good Kid」だったケンドリックに対して、Qは純粋無垢な「Schoolboy」から「Hustla」に否応無しに転身した独特のポジショニングを強調する。彼はギャングスタとして、ハスラーとして、しかしオリジナルな立ち位置を模索する。

 アルバム収録曲のサウンド面を見ても、そのことは明らかだ。ゴールデンエイジを彷彿とさせるサンプリング・ライクな上モノとブレイクビーツが地を這うビート(“Kno Ya Wrong”前半や“Neva CHange”など)、トラップ以降の現在進行形のビート(カニエ・ウエストとの“THat Part”、“Overtime”など)、ケンドリックのアルバムのサウンド作りを牽引するSounwaveを迎え、その世界観を引き継ぐサウンド(“How Ya Deal”など)、ドッグ・パウンドとともにGファンクを更新すべく前作から引き続きのコラボとなるタイラー・ザ・クリエイターによる露悪的なユーモアを伴ったビート(“Big Body”)、そしてフライング・ロータス以降のLAビートと生楽器の融合(“TorcH”や“Kno Ya Wrong”後半など)、それら多種多様なビート群を乗りこなしながら、ギャングスタ・ラップの多様な表現の可能性を追求している。ビートのヴァリエーションが拡張されることで、ギャングスタ・ラップが描く世界観も転調を迫られる。個性的なビートの上で描かれるのは、少しだけ地軸が傾いているような世界であり、様々な色のセロファンを貼った眼鏡越しに観察される世界である。

 たとえば5曲目の“Kno Ya Wrong”を見てみよう。冒頭のチョップされたピアノ・フレーズの連打からスタートし、ピアノ、ベース、ドラムのサウンドがそれぞれ現代的ながらも全体として90年代のゴールデンエイジのイースト・コースト・サウンドを彷彿とさせる。当時多用されたディレイなどで飛ばされるホーンのサウンドは、ここでは生演奏されるが、それがもたらすビートへの彩色の効果は良く似ている。そしてQによる「oh……」という鼻歌のルーズ感は、まさに90年代的である(たとえばメソッドマン&レッドマンの“How High”の冒頭のような)。

 そしてビートの多様性にQのフロウも追従する。同曲の前半はケンドリックの“The Art of Peer Pressure”の冒頭のようなインタールードといった趣の小曲であるが、やがてエレピに導かれて後半のメイン・パートへ突入する。ここではダブリング処理した抑揚の大きなフロウを披露し、フリースタイル・フェローシップのMyka9やP.E.A.C.Eらを想起させられる(ケンドリックとフリースタイル・フェローシップの楽曲の間にも、しばしば見えざる影響関係を感じることがある。たとえばフリースタイル・フェローシップの目下の最新作『The Promise』(2011年)のオープニングを飾るギャラクティック・ジェット・ファンク“We Are”や、サンダーキャットも参加するラストチューン“Promise”とケンドリックの『To Pimp A Butterfly』の親和性!)。

 フリースタイル・フェローシップの母体ともいえるプロジェクト・ブロウドは、LAアンダーグラウンドを支配したオープンマイク集団だが、彼らが擁する多様なメンバーの中には、Ellay Khuleのようなギャングスタ・ラッパーも存在する。ギャングスタ・ラップとスキルの蜜月関係。90年代からこのプロジェクト・ブロウド周辺やボーン・サグスン・ハーモニー、ミスティカルらによって研磨されて来たスキルのサイエンスは、ここにも息づいている。Qは明らかなオンビートで速射フロウを誇示するタイプではないが、多様な声色のコントロールに基づく表現スキルは、これらの延長線上で語るに値するものだろう。そしてそのような多彩な語り口を持つフロウでギャングスタ・ライフが語られるとき、そのドラマの持つ抑揚はブーストされる。

 そして何よりも、Qはギャングスタ・ラップを、そしてギャングスタ・ラップを歌う自己をメタ視点から俯瞰している。そのことは「わたしのパパはギャングスタなの」という彼の愛娘Joyのセリフで幕を開ける前作『Oxymoron』のオープニング曲“Gangsta”を見れば明らかだ。同曲でQは、ギャングスタを称揚しながらも、あえてステレオタイプな紋切型のフレーズを連発することで、ギャングスタ・ラップをある種露悪的に提示している。彼がギャングスタ然としてガナリ声で自身の強さを誇示すればするほど、そこには空虚=blankが滲む。

 彼が前作でやったことは何だったのだろう。つまり、ギャングスタ・ラッパーとしてのアルバムを制作し、その冒頭に“Gangsta”という曲を配置するという意図がそこにはあったのだ。これがリアルなのかと問うならば、本物のギャングスタの所作ではない、という応答があるだろうし、そうかと言ってもちろんすべてがフィクションなわけでもない。アルバムで描かれている出来事は「本当のこと」に基づいているだろう。しかし「あえて」ギャングスタを前景化しているすべてのラインは、エンターテインメントとして回収されうる。そこでQにとってリアルであり、彼特有の立ち位置を担保するのは「blank face」を浮かべる彼を見守り支えとなって来たJoyの存在だろう。彼は愛娘Joyの視点を獲得したことで、ギャングスタのポジショニングを外側から眺め、あえて典型的なギャングスタ・ラップのクリシェを連発することで、その空虚さを浮き彫りにする。

 このような前作での試みを踏まえた上で、アルバム終盤の“Black THougHts”のメッセージ性に着目したい。同曲のフックで歌われるのは「黒い思想(=black thoughts)とマリファナ/それはカルマ」というラインだ。「CripsとBloodsの新旧の奴隷」として「名前を変えて」まで尽くすギャングのバイオレンス、Qのフッドが直面する貧困や犯罪にまつわる黒い思想と、それを癒すためのドラッグ。この決してポジティブとは言えないループをQとケンドリックは「カルマ」であると指摘するのだ。

 しかしこの「カルマ」から脱するルートが全く示されない訳ではない。同曲のヴァースではJoyとの関係性を最重視する彼ならではの想いが歌われる。「バンダナ(Cripsが青、Bloodsが赤をシンボルとする)を下ろして 俺たちの子供たちを育てよう/銃を下ろして スプリフ(≒ブラント)を掲げよう/今すぐにだ/「でも」や「もし」は無しだ」ここへ来てようやくQの本音が覗けたのだろうか。2パックのかつての言葉をも想起させるライン。ギャングスタ・ラッパーとしてポジショニングを固めつつある彼が、ある種の切実さを持ってこのような言葉に行き着いたことの意味は、決して小さなものではないだろう。

 さらにこの後に続くラインも印象的だ。「マジな話、すべての生命は大切だ(all lives matter)、両方とも(both sides)」。「both sides」とは黒人と白人を指し示し、またCripsとBloodsを指し示してもいる。一連の悲劇によってBlack Lives Matter運動がその切実さを増す一方に見える中、7月にはザ・ゲームとスヌープ・ドッグによって、各々が代表するCripsとBloodsの団結を表明するイベントが開催された。Qの無表情な「blank face」に、一瞬浮かぶ何とも言えない素の表情を、そしてその視線の先にあるものを、僕たちは見逃してはならない。

The fin. × DYGL - ele-king

 明け方目が覚めて、白んでいく空を見ていると、自分はなんでもできるんじゃないかと思えてくる。ぼくは意味もなくワクワクしている。この夢を君にもわかって欲しいんだ。夢を見るな? 詩を書くな? だったらぼくたちは何をすればいい。いまの日本で注目の若手バンド……なんて白々しい言葉にはうんざりしている君よ、ここに来い!

LIQUIDROOM 12th ANNIVERSARY
The fin. × DYGL

出演:The fin.、DYGL
日時:2016年8月31日(水曜日)開場/開演 19:00/20:00
会場名:リキッドルーム
前売券:3,000円[税込・1ドリンク代(500円)別途]
前売券取り扱い箇所:チケットぴあ[Pコード 306-784]、ローソンチケット[Lコード 74028]、イープラス<https://eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002198579P0030001>、ディスクユニオン(お茶の水駅前店/新宿BF日本のロック・インディーズ館/下北沢店/吉祥寺店/池袋店/渋谷中古センター)、リキッドルーム

問い合わせ先:リキッドルーム 03-5464-0800 https://www.liquidroom.net

▼The fin.
神戸出身、4人組ロックバンド。80~90年代のシンセポップ、シューゲイザーサウンドから、リアルタイムなUSインディーポップの影響や、チルウェーヴなどを経由したサウンドスケープは、ネット上で話題を呼び、日本のみならず海外からも問い合わせ殺到している。新人ながら「FUJI ROCK FESTIVAL'14」、「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2014 in EZO」などの国内大型フェスティバルや海外フェス「SXSW 2015」、「The Great Escape 2016」へ出演、そして今年、3月16日に6曲収録のEP「Through The Deep」をリリースして、日本、アジア、UKでリリースツアーを成功させるなど、新世代バンドの中心的存在となっている。
https://www.thefin.jp

▼DYGL
2012年に大学のサークル内で結成。すぐさま東京でライヴを始め、これまでにCassie RamoneやJuan Wautersなどといった海外のミュージシャンとも共演。2015年には『EP #1』をカセットとバンド・キャンプで自主リリースし、世界の早耳な音楽 リスナーの注目を集める。その年の秋にはアメリカに長期滞在し、感性の近い現地のミュージシャンたちとコミュニケーションを交わすなか、LAの注目レーベル〈Lolipop Records〉のスタジオでレコーディングを決行。ライヴでも盛り上がりをみせる、“Let’s Get Into Your Car”などの曲を再録し(『EP #1』に収録)、台湾ツアー後に書き溜めていた“Don’t Know Where It Is”なども録音。彼らが影響を受けてきた普遍的なインディー・ロックの音の鳴り、スタイル、そしてスケール全てをサウンドに消化させ、6曲入りファーストEP『Don’t Know Where It Is』が完成し、リリースされる。2016年、ロックの夢は決して終わらない。膨大なロマンスと漠然とした勇気をのせた歌がある限り。
https://dayglotheband.com

Frank Ocean × KOHH - ele-king

 フランク・オーシャンの周囲が騒がしい。

 8月18日、唐突に『Endless』と題されたヴィジュアル・アルバムが Apple Music で独占公開された。その後、新曲 "Nikes" のMVが公開され、20日にはこれまで何度も延期されていた4年ぶりとなるアルバム『Blonde』がリリースされた。それと同時に、LA、ニューヨーク、シカゴ、ロンドンの4都市では「Boys Don't Cry」という名のポップアップ・ショップが展開され、そこでは『Boys Don't Cry』と題されたジン(冊子)が無料で配布された。そのジンには写真や詩が掲載されているほか、新アルバム『Blonde』のフィジカル・ヴァージョンとなるCDも同梱されている。オンライン版『Blonde』には17曲が収録されているのに対しCD版『Blonde』は全12曲で構成されているが、後者にはオンライン版には収録されていない "Mitsubishi Sony" および "Easy" の2曲が収録されていたり、曲順が大幅に異なっていたりと、両者の間には目立った違いがある。なかでも注目すべきは、CD版では "Nikes" がオンライン版とは異なるエクステンデッド・ヴァージョンで収録されていることだろう。そのCD版 "Nikes" には、なんと、あのKOHHが参加しているのである。彼は同曲の終盤で日本語のラップを披露している。

 『Blonde』にはビヨンセやケンドリック・ラマー、アンドレ3000やジェイムス・ブレイクなどが客演しており、それだけでも十分豪華な面子なのだけれど、アルバムのコントリビューター(貢献者)の欄には、タイラー・ザ・クリエイターやファレル・ウィリアムスやカニエ・ウエスト、アルカやジェイミー・XX、エリオット・スミスやジョニー・グリーンウッドやリック・ルービン、はたまたデヴィッド・ボウイやブライアン・イーノ、ビートルズやギャング・オヴ・フォーの名前まで記載されている。それらビッグネームの中に KOHH と Loota の名前が侵入していることは、日本の音楽シーンにとって大事件と言っていいだろう。特に KOHH の参加は『FADER』誌でも大々的に取り上げられ、海外でも大きな話題となっている。すでに世界的な注目を集めていた KOHH だが、今回のフランク・オーシャンのフックアップによって、海外での彼の活躍がその加速度を増すのは必至だろう。現状、CD版の『Blonde』を入手するのは困難であるが(ネット・オークションではすでに10万円もの値がついているそうだ)、もしかしたら今後別の形でオフィシャルにリリースされる可能性もあるかもしれない……と思いたい。

 フランク・オーシャンとKOHH──しばらくかれらから目が離せなさそうだ。

WIRED CLASH - ele-king

 来る9月3日(土)、日本随一の大型テクノ・パーティ『WIRED CLASH』が今年もageHaで開催される。
いまノりにノっている石野卓球が盟友ウエストバムと共演する──これは見逃すわけにはいかないだろう。ベルリンのテクノ・シーンの礎を築いたこの男、実は相当ラディカルなDJである。11月半ばに刊行予定のウエストバムの自伝『夜の力』(大方の予想を裏切るとんでもない内容です)によると、ベルリンの壁で暴動が起こったとき、彼はその傍らでシカゴ・ハウスをスピンしたのだという。そんなアツい男がこの日本随一のパーティでどんなプレイを見せるのか──それだけでも十分「買い」な『WIRED CLASH』だが、日本からはケン・イシイ、大沢伸一、スギウラムといった大御所が出演するなど、素晴らしいアーティストたちが目白押しである。
 また、同パーティではおなじみの VENUS LASERとLIGHTING MIURAによるライティング&レーザーや、REALROCKDESIGN、HEART BOMB、VJ MANAMIら映像チームによる演出にも注目だ(各アーティストの出演エリアやタイムテーブルは後日発表予定)。
なお、現在『クラベリア』にて発売中の前売チケットは、9月2日の『STERNE』および9月3日の『WIRED CLASH』というふたつのパーティへ入場可能な、とってもお得な共通券となっている。この機会を逃すな!

WIRED CLASH
2016.09.03.Sat. at ageHa
23:00 Open/Start Door 5,000yen/ageHa MEMBER 4,000yen

■LINE UP
TAKKYU ISHINO [Tokyo/JP]
WESTBAM [Berlin/GER]
DER DRITTE RAUM [Berlin/GER]
POPOF [Paris/FRA]
FRANK LORBER [Frankfurt/GER]
DJ COOKIE [Taipei/TW]
DOZEGUISE [ASYLUM/Hawaii/US]
ERIC HSUEH [6AM/Guam/US]
KEN ISHII [Tokyo/JP]
SHINICHI OSAWA [Tokyo/KP]
SUGIURUMN [BWR/Tokyo/JP]
DJ SODEYAMA [Tokyo/JP]
A.MOCHI [Tokyo/JP]
OSAMU M [Tokyo/JP]
DJ PI-GE & KIKIORIX [TRESVIBES/Tokyo/JP]
SEKITOVA [Osaka/JP]
SUNSEAKER [Tokyo/JP]
NAO NOMURA [BWR/Osaka/JP]
SAKIKO OSAWA [Tokyo/JP]
KiTE [SUNNY/Tokyo/JP]
QUE SAKAMOTO [Tokyo/JP]

■VJ
REALROCK DESIGN
HEART BOMB
VJ MANAMI

■LIGHTING
MIURA

■LASER
VENUS LASER

■HOSTED BY
YASUHIRO ARAKI & MANABU HOSAKA


料金:
当日:5,000円 ageHa MEMBER 4,000円
第1弾 : 4000円 8/5(金)~8/9(火) ※受付終了
第2弾 : 4250円 8/10(木)~8/15(月) ※受付終了
第3弾 : 4500円 8/16(火)~8/21(日) ※受付終了
第4弾 : 5000円 8/22(月)~9/2(金)
※前売チケットは『STERNE』、『WIRED CLASH』共通券として両パーティーでご使用いただけます。

■前売チケット販売サイト
クラベリア→https://www.clubberia.com/ja/events/255980-WIRED-CLASH/

・『STERNE』の詳細は下記ウェブサイトからご確認いただけます。
https://www.womb.co.jp/event/2016/09/02/sterne-12/


 デーモン・アルバーンは「民主主義が我々を裏切った」と言い放った。トム・ヨークは「老人たちの自殺行為で、とても混乱している」と再投票を要求した。ノエル・ギャラガーは「ブラック・デイ」とインスタグラムに投稿し、リアム・ギャラガーは「世界を止めろ、俺は降りる」とツイートした。それぞれ表現は異なっているものの、この四人が大枠で同じ意見を表明するなど滅多に見られぬ光景である。かれらだけではない。ジョニー・マーやリリー・アレン、エド・サイモンズやスチュアート・マードックらは憤慨あるいは落胆の言葉をツイートし、ジャーヴィス・コッカーも再投票を求める署名活動に参加している。

 ロック・ミュージシャンだけではない。ミラ・カリックスは投票の結果を受け、「48%へのサウンドトラック」というコメントとともにレディオヘッド "How To Disappear Completely" へのリンクをツイートした。ミラニーズやマウント・キンビーは投票前から残留を願う言葉を発していたし、DJフードやハーバート、コード9やクラーク、ゾンビーらが今回の投票結果を憂いている。マッシヴ・アタックはハイド・パークで "Eurochild" を演奏し、あるいは先日『ele-king』でもお伝えしたようにビル・ドラモンドはロマの一団と「第九」を演奏した。スクエアプッシャーは新曲を公開して抗議への共闘を呼びかけ、ゴールド・パンダはブレグジットにインスパイアされたEPをリリースした。

 UKだけではない。フランスではロラン・ガルニエが、合衆国ではローレル・ヘイローやDJシャドウが離脱という結果を嘆いている。OPNは「老人たちからぼくらを守れ」とツイートし、アノーニはブレグジットの原因が「25年間に及ぶ米国による犯罪的な外交政策」にあるとフェイスブックに投稿した。

 調べればもっと出てくるだろう。多くのミュージシャンが残留を願っていた。文化的なものや創造的なものは、異文化同士の接触やコミュニケイション、ヒトやモノの絶えざる往来と交流によって紡ぎ出されていく。それを肌で知っているからこそ、かれらはみなこうした怒りや嘆きを表明しているのだろう。とはいえ、そのようなクリエイティヴィティや多様性にのみ争点を限定してしまうこともできないというところが今回のブレグジットの厄介なところでもある。ミック・ジャガーやロジャー・ダルトリー、ブルース・ディッキンソンは離脱を支持していた。そのうち最初のふたりは70代である。今回の国民投票では高齢層の離脱支持率が非常に高かったことが明らかになっているが、それはミュージシャンも例外ではなかったということだ。事態は単純ではない。

 昨年『ガーディアン』に労働党党首ジェレミー・コービンを支持する声明を寄せたり、同じく『ガーディアン』でギリシャの元財務大臣ヤニス・バルファキスと対談したりしていたブライアン・イーノは、投票日の5日前というギリギリのタイミングに、フェイスブックで残留への投票を呼びかけた。そこで彼があらわにした「『偉大なる』英国への抑えがたい熱狂」に対する危機感は、彼の最新作『ザ・シップ』でも表明されていたものだが、イーノがその最新作で試みた分の悪い賭けも、今回は負けに終わったと言っていいだろう。
かれらが見ていたのは理念や理想だった。かれらには見えていなかったのだ、「地べた」が。

 まず、バンクシーのグラフィティをどでかく掲げたジャケットが最高にクールだ。ブレイディみかこ4冊目の著作となる本書には、「Yahoo! ニュース 個人」で発表されたUKの政治や社会をめぐる時評が年代順に収録されており、読者はブレグジットという決定的な転回点に至るまでのUKの2年間の歩みを、ひとつの物語のように読み進めていくことができる(これは紙の本ならではの構成だ)。

 NHSという無料の医療制度やファーザー・エデュケイション(Further Education)という成人教育システム、あるいは保守党と労働党のせめぎ合いやイングランドとスコットランドの緊張関係など、日本ではあまり報じられないUKの政治的・社会的状況が平易な文で綴られている点も参考になるが、やはり読み物としての本書の魅力を最大限に高めているのは、三人の主人公の存在だろう。スコットランド国民党(SNP)のニコラ・スタージョン、労働党のジェレミー・コービン、ポデモスのパブロ・イグレシアス。かれらがどのようにUKやヨーロッパの現状を見つめているのか、かれらがいかにその現実を変革しようとしているのか、かれらがそのためにどのような言葉を発しどのような行動を起こしてきたのか、そしてなぜそれが成功を収めているのか。本書はこの三人の闘争を追った戦記としても読むことができる。かれらが浮かび上がらせるのは、もはや「右」と「左」というタームでは整理できなくなってしまった現在のUKやヨーロッパの政治的な構図である。著者はそれを「上」と「下」というタームに置き換える。これまでも「地べた」から社会や文化を捕捉し続けてきた著者だが、とりわけ本書では彼女の「地べた」節が炸裂している。

欧州で新左派が躍進しているのは、彼らが「負ける」という生暖かいお馴染みの場所でまどろむことをやめ、「勝つ」ことを真剣に欲し始めたからだ。
右傾化する庶民を「バカ」と傲慢に冷笑し、切り捨てるのではなく、その庶民にこそ届く言葉を発すること。 (136頁)

左派は、経済をこそ訴えていかねばならない。 (233頁)

この歪みを正してくれるなら右だろうが左だろうがイデオロギーは関係ないというところにまで来ている。 (260頁)

 などなど、本書には「地べた」から投げられた石=メッセージが随所に刻み込まれているが、その中でも最高にかっこいいのが次の一節である。

米と薔薇、すなわち金と尊厳は両立する。米をもらう代わりに薔薇を捨てるわけでもないし、米を求めたら薔薇が廃るわけでもない。むしろわたしたちは、薔薇を胸に抱くからこそ、正当に与えられてしかるべき米を要求するのだ。 (281頁)

 要するに、「金をよこせ」ということである。「金をよこせ」という話に穢れたところなど少しもない。そういう当たり前の要求を当たり前にできるような社会を作っていくにはどうしたらいいのか。かつての「一億総中流」という幻想が「一億総活躍」という言葉に置き換えられ、極度に「上」と「下」との分離が進み、「地べた」が存在しないものとして処理されるこの日本では、特にそれを考える必要があるだろう。参院選や都知事選を経てどんどんと沈んでいくこの暗澹たる日本に生きる者にとって、本書で描かれるUKやヨーロッパの状況には参照すべき点が数多く含まれている。

 本書は書店の棚のジャンル名でいえば「政治」や「社会」に分類される本で、いわゆる「音楽」の本ではない。ミュージシャンもそんなに登場するわけではない(ビリー・ブラッグとイーノくらいだ)。けれど、この本からはUKの様々な音楽が聞こえてくる。かの地と同じ島国であるこの国では、海外から音楽が輸入されるときに必ずと言っていいほどその背景が切り離されてしまうが、本書が描いているのはまさに、そのように運搬中に海の中へと投げ捨てられてしまう、音楽の様々なバックグラウンドなのだ。
 確かに、残留派のミュージシャンたちには「地べた」が見えていなかったのかもしれない。それでもかの地では多くのミュージシャンがそれぞれの思いを胸に抱き、それぞれの言葉で今回の国民投票について発言している。それは、かれらにとって政治や社会の問題が音楽と同様に身近で、リアルで、大切なことだからだ。いまだに「音楽に政治を持ち込むな」などという議論が巻き起こってしまうこの国で、ブレグジットというこのタイミングに本書が刊行されたことには大きな意味がある。本書は「日本」の「音楽」ファンたちにこそ向けて投げられた石なのだ。

interview with Gonjasufi - ele-king


Gonjasufi
Callus

Warp / ビート

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いまの日本でこの音楽を聴くと、“汚さ”に違和感を覚えるだろう。すっかりお馴染みのシティポップ・マナー、これをやっておけば誰からも嫌われないだろうというネット時代の倦怠、保守的で、品性が良いだけのkawaii国では、ドレッドヘアーの汚らしいラッパーの歪んだサウンドは、まず似合わない。
 逆に言えば、小綺麗な日本のシーンに居場所がない人にとっては、ゴンジャスフィの『カルス』から広がる荒野は心地良いだろう。汚さ……というものがなくなりつつある世界において、西海岸の(異端児)ラッパーは、4年ぶりの新作で、照りつける太陽と砂漠のような怒りをぶつけている。トム・ウェイツが幻覚剤を通して西海岸のビートを摂取したような、錆びたサンプルで歌うブルース歌手、悪夢と人生を賛歌するような、いろいろな感情が入り混じったなんとも魅惑的なアルバムである。ぜひ、聴いて欲しい。こんなサウンドもありなんだと、ひとりでも多くの人に知ってもらえたら幸いだ。

俺はオバマに投票するね(笑)。トランプになっても、ヒラリーになってもダメだ。いまのアメリカは、解決すべきものがたくさんあると思う。TVやインターネットがなければ、もっと良い世界になるはずなんだよ。

2010年にあなたに取材したとき、あなたは「政治は大嫌いだし、政治にはいっさい関わりたくないと思っている」と話してくれました。11月に大統領選を控えていますが、今回は支持したい候補者がいなくて困っている人が多いと聞きました。

ゴンジャスフィ:たしかに選択肢はないな。俺はオバマに投票するね(笑)。トランプになっても、ヒラリーになってもダメだ。いまのアメリカは、解決すべきものがたくさんあると思う。戦争もそうだし、人種間の緊張感もそうだし、メディアに大きく左右されている部分もあると思うね。TVやインターネットがなければ、もっと良い世界になるはずなんだよ。皆、自分の判断ができる。政治には、いまだに関わりたくないね。ファック・ノーだ(笑)。

この4年、いったい何をされていたのですか?

ゴンジャスフィ:体調をくずしていたから、そのリカバリーに1年くらいかかったんだ。その治療で強い薬を摂ったしていたから、死にそうにもなってさ。で、そこからまた回復しなければならなかったし、手術やいろいろ大変だったんだ。

ヨガのほうはいかがですか?

ゴンジャスフィ:ヨガはもう2年くらい教えていない。引っ越したのもあるけど、いまのヨガ業界にもウンザリしていたんだ。ヨガ講師がインスタグラムをやったり、そこで人気になるのも良いケツをしたヨガ・インストラクターだったり、ヨガは「人からどう思われるか」ではないのに、外見を気にしたり、ステータスでヨガをやっている奴が多いんだよ。ヨガとは何なのかを本当にわかっていない。ヨガを教えてはいなくても、ヨガを好きなことは変ってないけどね。

どこか、他の文化圏への旅行をされた経験などの影響はありますか?

ゴンジャスフィ:ギリシャに行っていくつかショーをやったけど、それ以外はアメリカを出ていない。あまりこれといった影響はないな。これからの予定は、12月にヨーロッパに行くんだ。そのあと、来年もツアーがある。もう1枚、春に出したいと思っているレコードがあるから、その準備もしないといけなくてね。〈ワープ〉からリリースされるんだけど、それもGonjasufiのレコードなんだ。

では、どのようなきっかけがあって本作は制作されていったのでしょうか?

ゴンジャスフィ:制作をはじめたのは2013年、いや、2011年だな。ヴェガスで制作をスタートしたんだ。曲のなかには、2004年にサンディエゴで作りはじめたものもある。ギター・パートが出来ていて、あとから1年くらいかけてセッションで発展させていったんだ。

通訳:音楽制作は2011年からずっと続けていたのですか?

ゴンジャスフィ:前作が出た後から、ずっとレコード制作はしていたんだ。でも、2012年に病気になって、そこから制作のスピードが遅くなっていった。で、2014年にまた作業を再開して、トラックを仕上げはじめて、2015年にアルバムを完成させた。あと、音楽活動は常にやっていたんだけど、音楽業界からは離れていたね。業界がイヤになってね。でも、音楽そのものへの愛が変わったことはない。あのジェイ・Zの一件があってから(2013年、ジェイ・Zがゴンジャスフィの曲をサンプリングした)、早くレコードを出せとまわりりがうるさかったんだ。でも俺自身はその準備が出来ていなかった。金のために音楽はリリースしたくなかったし、そんなことしたら、音の出来の悪さにがっかりするリスナーも出てくるだろうしね。

元キュアーのパール・トンプソンが参加していますが、1980年ぐらいのUKのポストパンク、しかもゴス的な感覚というか、ノイジーでダークな衝動を感じましたが、いかがでしょうか? 

ゴンジャスフィ:そういった音楽からも影響は受けているよ。最近もよく聴いているんだ。最初は、自分でギターとドラムを演奏して作っていたんだけど、ギターの部分が自分ではうまく表現できなくてフラストレーションがたまっていた。指が思うように動かなかったんだ。そこで、彼に依頼することにしたのさ。

通訳:あなたはこのアルバムの方向性をどのように考えていますか?

ゴンジャスフィ:ただただ、俺は正直なアルバムが作りたかった。俺の中身がそのまま表れている作品をね。あと、音的にはダークでディストーションの効いた作品を作りたかったというのはあったな。それと、痛みが表現された作品。俺は、フェイクな内容なものを作ることは避けたかったんだ。ララララ~なんて、エレヴェーターで流れているような音楽は作りたくなかった(笑)。まあ、作ろうと思えば作れるぜ(笑)。めちゃくちゃ良いR&Bレコードを作れる自信はある(笑)。絶対に金になるだろうな(笑)。

いま、痛みを表現したかったとおっしゃいましたが、強いて言うなら、今回は怒りのアルバム? 苦しみのアルバム? 

ゴンジャスフィ:選べないな。どっちもだよ。いまだに怒りはあるし、苦しんでるし(苦笑)。

通訳:どんな怒りや苦しみを未だに抱えているのですか?

ゴンジャスフィ:子供を育てる環境もそうだし、金銭問題もそうだし、自分のまわりのことすべてさ。俺はミリオネア(金持ち)じゃないからな。でも、レコードには愛もつまっている。ネガティヴなエナジーを音楽を作ることによってポジティヴに変えているんだ。

“Afrikan Spaceship”や“Shakin Parasites”のようなインダストリアルなビートからはマーク・スチュワートを思い出したんですが、お好きですか?

ゴンジャスフィ:誰? わからないから答えられない(笑)。ははは。

通訳:ポップ・グループの人ですよ。

ゴンジャスフィ:ホント知らないんだ。

たとえば“Carolyn Shadows”や“The Kill”など、今回のアルバムの重苦しさ、こうしたエモーションの背後に何があったのかを教えてくれますか?

ゴンジャスフィ:難しい質問だな。どの曲にも同じアプローチで望んだし、同じ感情が込められていると思う。俺のソウルが込められているんだ。それがブルースってもんだろ? そのソウルは、“ファック・ユー”でもあるし、“アイ・ラヴ・ユー”でもある。そのふたつは紙一重だからな。
 で、何があったんだっけ……"The Kill"の歌詞を振り返ってみるから、ちょっと待っててくれよ。あれは……正直わかんねえな。歌詞を書いているときって何も考えないんだ。俺って説明出来ないんだよ。そのとき感じている痛みだし、それを振り返ること自体も痛みなんだ。母親と話しているときも説明を求められて、俺、ぶちぎれるんだよ(笑)。ゴッホにだって、何でその絵を描いたのかなんて訊かないだろ(笑)? そこから何を自分が感じるかが大切なんだ。いちいち説明を求められると、気が滅入るんだよ。俺の母ちゃんは、俺の大ファンだけどな。両親とも仲は良いけど、母ちゃんの方が近い。「この曲が好き」とか、毎日メールしてくるしな(笑)。でも、はいはいって感じで流すんだ(笑)。
 母親はサンディエゴに住んでいるから、俺は年に2、3回くらい帰るようにしてる。子供が俺の子供しかないから、彼女を孫に会わせるのは大切だと思って。母親って好きなんだけど、ずっとはいれない。わかるだろ(笑)? 俺の人生初のコンサートは8歳で、衣装も全部母ちゃんががデザインしてくれたんだ。頑張れと楽屋の前で励ましてくれた。観客席からも応援してくれている姿が見えたし、彼女は俺のすべてだな。この話をしていたら、泣きそうになってきたよ(笑)。

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どの曲にも同じアプローチで望んだし、同じ感情が込められていると思う。俺のソウルが込められているんだ。それがブルースってもんだろ? そのソウルは、“ファック・ユー”でもあるし、“アイ・ラヴ・ユー”でもある。そのふたつは紙一重だからな。


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あなたは、スーフィーやトルコなど、中東文化を取り入れるのも早かったと思うのですが、今日の音楽の世界では、わりとそれはひとつのトレンドにもなっています。苛立ちはありますか?

ゴンジャスフィ:いいことだと思うぜ。知られることで音楽も広がるし、受け入れられるのはいいことだと思う。

通訳:トレンドを追うこともありますか?

ゴンジャスフィ:いや、きらいだな。君はどう?

通訳:私はたまにのってしまいますね。

ゴンジャスフィ:いまは何の流行にのってるんだい?

通訳:グリーンスムージーとか(笑)?

ゴンジャスフィ:ははは! 出た! 俺はパープルじゃないと飲まないね(笑)。ベリーが入ってるから美味しいんだ。グリーンは激マズ。ファック・ノーだな。マジで無理(笑)。芝生なんて入れやがってさ。とくに胃が空っぽの時は無理だな(笑)。

政治的に言えば、今日ではイスラムへの偏見はさらに増しています。そうした偏見への怒りは、今回の作品の主題にはありますか?

ゴンジャスフィ:そうだな……もちろんそれがテーマになっているものもあるし、すべての曲に入っている。“Maniac Depressant”は、宗教や人種に関しての怒りが歌っているし、“Krishna Punk”も、人びとの関係について歌っている。アメリカ全体の問題がこのアルバムではテーマになっているんだ。

“Krishna Punk”は曲調も一風変わっててユニークですが、歌詞には、たとえばなにが綴られているのでしょうか?

ゴンジャスフィ:この曲では、“組織”についてが歌われているんだ。歌詞を思い出してみるから待ってくれよ。「共同体を崩し……世界を救え。組織を消して、テレビをなくせ。そうすれば自由になれる」そんな感じだな。俺たちが組み立ててきてしまったものを崩せ、みたいな内容。フリースタイルさ。俺にとっては、フリースタイルで歌う方が簡単なんだ。昔からやってきたからな。サンディエゴやLAのアンダーグラウンドは皆そうなんだよ。

『カルス』というタイトルは、どこから来たのでしょうか? そこにはどんなメッセージが込められていますか?

ゴンジャスフィ:自分の心臓の周りにスペースを作っているんだ。世界からの攻撃から自分を守っているのさ。俺というより、世界が俺の心に“たこ”を作った。でもそれは美しいことでもある。純粋なものをを守ることが出来るからね。俺は、敵を近くに置いたりはしない。近くに置くのは家族だけ。同時に、俺は悪から逃げることもしないんだ。それよりも、向こうが目を背けるまでじっと見ていたい。あと、悪というのは男のエナジーだと最近気づいたんだ。神は女性のエナジー。男は命令して何かをさせようとするけど、女は全体を見てバランスをとろうとする。男にはマッチョなエゴがあるんだ。神は男という考え方は、捨てるべきだね。

“Your Maker”や“Prints Of Sin”のようにヒップホップ・トラックを発展させたような曲もありますが、今回の作品のなかにフライロー周辺からの影響はありますか?

ゴンジャスフィ:ないね。彼と俺の音楽に近いものは何もない。でも、彼自身のことは大好きだけどな。彼は俺の人生を変えたし、借りがたくさんあるんだ。まわりの奴らが俺にビビっていたときも、スティーヴ(フライロー)は温かく接してくれた。サウンドの影響はないけれど、やりたいことをやるという彼の姿勢には確実に影響を受けているね。彼も繊細だし、俺も繊細。人生短いんだから、大胆にいかないと。人間皆繊細だし、自信もない。でも、その氷を崩していかないといけないんだよ。

前回の取材で、「ジミは世界いち最高にクレイジーなマザー・ファッカー野郎さ」とあなたは話してくれましたが、とくに今回はその影響が強いと思いますか?

ゴンジャスフィ:ジミは前ほどは聴いていない。でも、俺は彼の演奏を見てから、演奏と歌をすぐにはじめたんだ。彼はいまだに大きく影響を受けているし、彼のあの特有のリズムとあのリズムと同時に歌うことが出来る才能は、本当に素晴らしいと思う。あれは、やろうと思うとすごく大変なんだ。あの時代にそれをやったのもすごいし、しかも左利きでもある。あれは神だな。彼とマイルズ・デイヴィスとプリンスの3人はそう。デイヴィッド・ボウイもそうだな。

あなたがジミ・ヘンドリックスのアルバムでいちばん好きなのは、『Axis: Bold As Love』ですか?

ゴンジャスフィ:そうだな……『Axis: Bold As Love』だと思う。

通訳:それは何故?

ゴンジャスフィ:わからないけど、俺が聴いてきた経験でそう思うんだ。この質問はいままで聴かれたことがなかったから、すぐにはわからない。ジミ・ソングだったら、“Voodoo Child”だな。

前作のときと違って、現在カリフォルニアでは大麻は合法です。こうした状況の変化は新作にどのように関係していますでしょうか?

ゴンジャスフィ:もちろん制作中は吸ってたさ。体調も崩していたから、薬としても使っていた。でも、いまは吸ってないんだ。半年は吸ってないね。1、2年やめようと思ってる。実は、『A Sufi and a Killer』のときはほぼ吸ってなかったんだ。今回は、スロー・ソングのときはだいたい吸ってた。でも、いまは酒も飲まないし、飲むとしてもビール6缶を3ヶ月で飲み終わる程度。酒を飲むとリカバリーに時間がかかるし、身体が拒否するんだ。サンディエゴに帰ったときに一杯飲んだりはするけど、それも5ヶ月に1回とかだしな。ワインも好きだけど、カミさんが妊娠してるし、いまは飲んでない。俺、長生きしたいんだよ(笑)。いまは子供がいるしな。子供が産まれるまでは、40歳くらいまで生きれればいいと思ってたけど、いまは80歳まで生きないと(笑)。60歳になって腹が出て、シワだらけになったとしても、俺はシャツを脱いで上半身を見せるぜ(笑)。女がどう思うかなんてどうでもいい。じゃなきゃ、いまだってヒゲをはやしてはいないしな。ないほうがハンサムって言われてるんだ(笑)。でも、カミさんはありのままの俺を愛してくれているからそれでいいのさ。

あなたはヨガのインストラクターですが、多くの人はヨガをやるべきだと思いますか?

ゴンジャスフィ:全員やるべきだ。それに、子供や身体障害者、病人たちにはタダで教えるべきだと思うね。学校のカリキュラムやリハビリ、刑務所のプログラムに取り入れるべきだと思う。俺の娘もやってるし、平和な気持ちを得るには必要なものだと思うから。週3~5回はやりたいね。このレコードの売上金で、ジョシュア・ツリーにヨガ・スタジオを作ろうと思って。ただし俺は、ヨガで金もうけしようとは思わない。ただ、ヨガを広げたいだけなんだ。

いま世界は転換期を迎えていますが、このような時代に、「ぼくたちに何ができる」と思いますか?

ゴンジャスフィ:ヨガさ(笑)。インターネットとテレビを消して、自然に注目すること。人に合わせるんじゃなくて、自分自身を持ち、自分が受けた恩恵をまた別の人に送り、親切の輪を広げていくことだね。世界や周りを変えるより、まず自分を変えればいい。皆がそれに集中すれば、世界なんてすぐに変わるさ。

通訳:ありがとうございました!

ゴンジャスフィ:ありがとう。またな。

Death Grips - ele-king

 ナプキンの裏に殴り書きされた解散宣言を文字通り水に流して以降初のフィジカル・リリース(『Death Grips Interview 2016』と題された50年代のサラリーマン風の男インタヴュアーが誰もいない記者席を前にデスグリにインタヴューをする風景の映像と共に6曲のインストが流れるビデオ、もちろん当のインタヴューの音声は一切ミュートされている、が明確には活動再開後初の音源だろう)となった『ボトムレス・ピット(底ぬけ地獄)』はデスグリ史上最もキャッチーな音源と言っても過言ではない。過去に唯一〈エピック〉からリリースされた『ザ・マニー・ストア』と出来るほどポップだ。しかし前作『ザ・パワーズ・ザット・B』の2枚目、「ジェニー・デス」のラストを飾る強烈なトラック、"デス・グリップス2.0" が暗示するように、彼らは全てがアップデートされているのだ。

 同名タイトルを冠した動画が昨年の秋にデスグリのYouTubeアカウントから配信された。『イージー・ライダー』の売春婦役(みんなで墓場でアシッドを食らって乱痴気するアレ)以降70年代映画を象徴する米国人女優の一人であるカレン・ブラック。2013年の8月に膀胱癌で亡くなった彼女と同年2月に友人を介して出会い、意気投合したザック・ヒルは当時制作していた映像作品に彼女のためのシーンを書き上げた。病床のカレンが完成作品を自分が観ることが叶わないであろうことを知った上でカメラの前でセリフを読み上げるビデオとなっている。例によってデスグリ・ファンの多くが現代最高のカルチャー・ジャミングの名手であるデスグリのコンセプトを読み解こうとこのビデオに釘づけになったわけだ。もちろんその明確な答えなど示されないわけではあるが、ハードコアなデスグリ・ファンはその美しい言葉に耳を傾けて欲しい。現在進行形のミュージック・ジャンルを縦横無尽に食い散らかすエクストリーム・クロス・オーヴァーとして完成するポップネスを90年代末期から00年初期のデジタル・ハードコアやグリッチ・テクノ等の単なるリヴァイヴァルに聴かせない、掘り下げようと思えばいくらでも掘り下げることのできるデスグリ・ワールド(彼らの言うところの第三世界だろうか)の唯一の法である「ファック・エヴリシング・バット・アート(表現行為以外は全部ファック)」を最もシンプルに体現しているのがこの『ボトムレス・ピット』なのではないだろうか。


旧譜3選:

『Ex Military』
全てはここから始まった。それまでヘラ解散以降数多くのバンドを渡り歩いたザックが突如ガイキチ・ラッパー・MCライドと実験ヒップホップ・バンドを結成し、フリー音源を上げているとなれば話題にならないはずがない。ヴェイパー・サウンドを筋肉で表現するとこうなるんだなーと衝撃を受けました。全曲パラトラックに分けられたブラック・グーグルもあるのでDJやリミキサーにも嬉しい。thirdworld.netでダウンロード可能です。

『NO LOVE DEEP WEB』
〈エピック〉なんてメジャー・レーベルがガイキチ二人組と仕事などできるわけもなく大喧嘩した後にこれがリリースされたわけで、デスグリ史上最もファック・アティテュードに満ち満ちています。ジャケもザックのムスコだし。ダークなトラックが最も揃っているので個人的には好きです。唯一観たライヴもこれの直後で、マジにPCトラックと寸分もブレないドラミングに度肝を抜かれました。

『The Powers That B』
なかったことにされた解散宣言後にリリースされた「ニガズ・オン・ザ・ムーン」と「ジェニー・デス」から成る2枚組音源。デスグリ史上最も混沌としたヴァラエティに富んだ内容で特に「ジェニー・デス」で大々的にフィーチャーされるバンド・サウンドによる音の壁が素晴らしい。「ニガス」で使用されるビョークのヴォーカル・サンプリングもイマジネーションを拡げます。この音源こそ是非バイナルで聴いていただきたい。

マチカドフェス2016 - ele-king

 日本のインディ・シーンが好きなアナタ、こんな魅力的なフェスを見逃してませんか?
 群馬県は足利を拠点に活動するバンド、スエットの岡田圭史が主宰するマチカドフェス2016が、小平の里キャンプ場(群馬県)にて9月10日、11日の2日間にわたって開催される。
 出演予定のアーティストは、地元出身のCAR10、スエットをはじめ、ネバー・ヤング・ビーチ、DYGL、ジャッパーズ、ノット・ウォンク、ホームカミングス、テンパレイ、柴田聡子などなどインディ・シーンの名だたる若手たちが揃い踏みだ。こんなメンツを2日間に渡って、しかも野外で見れるイベントって意外とないんじゃなかろうか。
 マチカドフェスは、群馬県桐生の有志たちが作りあげるDIYなフェス。ロケーションも最高だし、東京からも案外気軽に行けちゃうし、リラックスした雰囲気のなか聴ける音楽も最高となれば、群馬まで繰り出すしかないでしょう!

日程:2016年9月10日、11日
会場:小平の里キャンプ場  群馬県みどり市大間々町小平甲445
OPEN/START:10:45/11:30
END:19:40

出演 :
・1日目
CAR10
Homecomings
Not Wonk
Special Favorite Music
Tempalay
TENDOUJI
フジロッ久(仮)
上州八木節保存会
DJ星原喜一郎
DJ遠藤孝行
DJ田中亮太

・2日目
DYGL
JAPPERS
never young beach
Suueat.
踊ってばかりの国
柴田聡子
すばらしか
上州八木節保存会
DJ星原喜一郎
DJ遠藤孝行
DJ田中亮太

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