「Nothing」と一致するもの

水曜日のカンパネラ - ele-king

(菅澤捷太郎)

 我らがエレキング編集部はJ-POPに疎く──(こういうことを言うと、「敢えて」だそうで、編集長いわく「方針として海外文化の紹介を優先させている」そうであります)、2月の、まだまだ寒い、どんよりした曇りの日のこと、このままでは世間から見はなされるのではないかという不安に駆られたのである。誰が? 編集部の周辺、とくに泉智と野田のあいだでは、宇多田ヒカルvs水曜日のカンパネラという不毛な言い争いがあるようで、もういい加減にして欲しい。ビートルズのTシャツを着ながら言うのもなんだが、ぼくは編集部で唯一の20代だ。少なくとも〈Warp〉しか聴いてないような小林さんよりはJ-POPについて知っている。知っているどころじゃない。コムアイに足を踏まれたこともあるぞ!
 昨年の7月8日、代官山UNITだった。参議院議員選挙に向けたイベント『DON’T TRASH YOUR VOTE』。ぼくはイベントにザ・ブルシットのドラム担当として出演した。終盤ではSEALDsのメンバーがステージに上がり、選挙に向けたスピーチをおこなった。そのとき飛び入りしてマイクを持ったのがコムアイだった。
 で、彼女は開口一番、「さっきまで××に出てたんだけど、いてもたってもいられなくて来ました! こっちのほうが本番でしょ!」と言い放ったのである。その日彼女は某音楽番組に生出演していた。番組終了後イベントに直行した。会場は大盛り上がりだ。まさか、あのコムアイがやって来て、そんなことを口にするとは思ってもいなかったからだ。
 スピーチを終えたコムアイはステージから降りると、ぼくの目の前でしばらく他愛もないような会話をしていた(当然ながら、彼女はぼくのことなぞ知らない)。そして、談笑を終え立ち去ろうとした彼女は、その第一歩目をぼくの足の上に着地させてしまったのである。うぉ。ぼくはその感触をいまでも忘れない、と言ったら変態だろうか。彼女は「あ、すいませーん!」とハニカミながら去った。
 こうして、ぼくは水曜日のカンパネラを意識するようになった。ナンセンスなラップとエキセントリックなキャラクターでのし上がってきた彼女が、あのステージでスピーチをしたこと。しかも「こっちが本番だ」と言ったこと、ぼくと水曜日のカンパネラの距離は縮まったのである。
 さて、それで話題の新作『スーパーマン』である。すでにいろんなメディアに大々的に露出しているので、多くの方もご存じだと思うが、新作には、前作『UMA』でみせた脱J-POPとでも言えるような展開はない。よりポップに、より開かれた音楽として昇華しようとする水曜日のカンパネラのスタンスがはっきりと明示されている。
 サウンドの面だけでない。ナンセンスな歌詞とそれを成立させてしまうコムアイのキャラクターもそうで、“一休さん”のラップには洗練されすぎないことの美学がある。“チンギス・ハン”における(ラム肉料理の)のバカバカしさにもその美学を感じる。
 また、ぼくはコムアイのラップには独特のグルーヴを感じるのだ。例えば、今作における私的ベスト・トラックであるフューチャー・ガラージ調の“オニャンコポン”での弾けるような「ポンポンポポンポン」の言い回し。クワイトのリズムを採り入れた“チャップリン”での後ろにモタるような言葉のはめ方など素晴らしいし、ほかにも随所においてコムアイのスキルが発揮されている。今作の聴きどころのひとつである。
 たまに思うのだが、コムアイが先述のイベントで「こっちのほうが本番でしょ!」と言い放ったことは、果たして本気だったのだろうか。メディアでエキセントリックなキャラクターを演じながら、ナンセンスなラップを繰り返し吐き続ける彼女を見ていると、あの夜に出会った彼女と同一人物だということをつい忘れてしまうときがある。しかし、コムアイは戦略的なナンセンスによって、声を勝ち取ろうとしているのだ。メディアでナンセンスな水カンを見て油断しているぼくらは、思いがけないタイミングで食らわされる政治的発言や行動にノックダウンされる。ナンセンスによってこの社会と繋がる。それが水曜日のカンパネラの戦い方なんですよ、小林さん。わかりましたかぁ?

菅澤捷太郎

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(野田努)

 ハローキティには口がない──と海外のある思想家は指摘する。J-POPエキゾティシズムは、洋学的な広がりからいえば明白に孤立しているが、向こうからみればこっちが孤立しているわけで、兎にも角にも今日の消費社会において、立派に、堂々と、それはひとつの棚を確保している。そんなJ-POPにおける日本のキュート・ポップ文化はいまや世界を一周して、たとえば鏡を見ればケロ・ケロ・ボニトがいる。この──おかしくてキュート、そして清楚な──ポップ文化に、ぼくはときとして笑い、と同時にどこか居心地の悪さも覚える。ハローキティには口がないことに。
 コムアイには口がある。ラップはうまければいいってもんじゃないことも、結果、あらためて証明した。まずは下北ジェットセットに感謝だ。このレコード店で「トライアスロン」の12インチが売られていなかったら、こうしてぼくがレヴューを書くこともなかったのだから。
 コムアイには何かがある。海外で面白がられているエキゾティックでキュートなJ-POPではない何か……、そこからむしろはみ出そうとする型破りな何か……、そのほとんどが旧来の女性像を壊せなかった90年代ディーヴァたちとは違った何か……、90年代的自由奔放さを打ち出したビョークともUAとも違った何か……、ザ・ブルシットの内省とは違った何か……。
 とは言うもの、今回の水曜日のカンパネラが選んだ綱渡りは、音の冒険ではない。言葉の深みでもなければ、もちろん時代や社会の語り部でもない。そうした深刻さ、意味から解放されることなのだろう。ぼくが「トライアスロン」EP収録の“ディアブロ”で大笑いしたのも、世界は重苦しく政治や社会はたいへんで、正直ナンセンスに飢えていたというのもあった。
 そして、だが、新作において水曜日のカンパネラが選んだ綱渡りは、ポップ・チャート・ミュージックとしてのそれだろう。自分たちのサウンドを微調整しながら曲調の幅を持たせてはいるが、本作を聴く限りでは、前作で関わったマシューデイヴィッドやオオルタイチといった連中から何かを吸収したとは思えない。カタチだけ取り入れても意味はないし、毒を抜いた洋楽になるくらいなら……賢明そうな彼らのことだ、そう考えたのかもしれない。
 多くの曲はせっかちなダンス・ミュージックで、その音色においてお茶の間との回路を保ち、基本メロディアスである。当たり前だがMC漢のようなドープネスはなく、背徳のクラブ・ダンスフロアとはまずつながらない。まあ、J-POP的リング上ではある……が……、コムアイはそのなかでもあらがい、どこか異彩を放っているのは事実で、そして彼らはいまもウェットさを拒んでzany(滑稽さ)とnonsense(無意味さ)を追求している。その方向性は、J-POP──拒絶も否定もない特異な文化空間として完結することを裏切らんとし、じつは他との接続を求めているがゆえにほころびを探し、もちろん日本のキュート・ポップ文化から切り離され、数年後のヴァラエティ番組のゲスト席ないしはハローキティと草間彌生の水玉との境界線がぼやけるところを尻目に、ひたすら突っ走っている……のだろう。が、どこに? レイヴ会場? いやまさか。

野田努

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(仙波希望)



 もはや「水カン」は社会現象と言っても過言ではない。「ねぇ、水曜日のカンパネラって知ってる?」「知ってる。『いま』流行ってるやつね、なんだっけ、きっびっだーんのやつ」「そうそう」みたいな学校や職場での会話は容易に想像できるし、コムアイは私立恵比寿中学とコラボレーションした『FNS歌謡祭』や『ミュージックステーション』などに登場。音楽番組のみならず、『めざましテレビ』や『スッキリ!!』といった朝の情報番組にも出演を果たした。「J-POPなき後のJ-POP」における、新たなるミューズと化したコムアイの姿は、フォトジェニックな存在として幾多もの雑誌の表紙を飾ることも納得できよう。

 と、このように書くといつの時代の話だ、と錯覚してしまうかもしれない。満を持して発表されたメジャーでのファースト・フル・アルバムとなる『SUPERMAN』。本作のリード・トラック“一休さん”の歌詞にある「レインボー・ブリッジ、封鎖できません」――すなわち『踊る大捜査線』がふたつ目の映画化をはたしてしまった頃、それはJ-POPマーケットがまさに「終わりの始まり」を迎えた時期にあたる。指摘されすぎた事柄でもあるが、一般社団法人日本レコード協会の定点観測によれば、「CDシングル・アルバム」市場はおおよそミレニアムを境目に縮小を続けている。ゴールデン・タイムを占めていた「ランキング型」の音楽番組の多くは、その後を追うかのごとくお茶の間から退出する。例を挙げれば、『THE夜もヒッパレ』が終わったのは2002年、『速報!歌の大辞テン』の終了は2005年。いみじくもその2005年に YouTube は設立される。

 周知の通り、これ以降「J-POP」をめぐる状況は大きく様変わりした。無論それは「J-POP」というカルチャー自体の終焉を示すものではない。

 時代錯誤な用語使用を許してもらえれば、水曜日のカンパネラはたしかに「メディア・ミックス」の寵児だ。だが、彼女たちが遂行してきた戦略自体はアップデートされた「いま」のものである。2012年のβ版の時期から積み重ねられた YouTube 上のオフィシャル・ミュージック・ビデオの数々は、徹底した作りこみ、それぞれが異なる独特な世界観、そして累積された結果としてのアーカイヴ性をもってして、もしかすると新手のマーケティングの教科書に成功事例として掲載されてもおかしくないほどの成功をおさめ(「きっびっだーん」の“桃太郎”は2017年3月現在で1,500万再生にも届こうとしている。およそ8年前、そういえば前作『UMA』に参加した Brandt Brauer Frick も“Bop”のMVが YouTube 上で大変話題になった、しかしこちらは90万回再生)、冒頭に記した「水曜日のカンパネラって知ってる?」という質問に万が一答えられなかった人のためには、Google の検索窓の先に、驚くほど膨大な数のインタヴューが用意されている。水曜日のカンパネラを知らないままではいることのできない状況が広がっている、というのは、やはり過言ではないだろう。

 この「ポストJ-POP」的状況のなかで、水曜日のカンパネラはきわめて戦略的な姿勢を崩さない。Perfume に続くかたちとなったSXSWやシンガポールのフェスへの参加など、グローバル展開への睨みを保ちつつ、他方で3月8日にはアンシャン・レジームの象徴とも言える日本武道館でのライヴを成功裡に導いた。かつてのサクセス・ロードをトレースしつつも、「これまでとは異なる」像を追求し続ける。堅実にも積み重ねられた差異を武器に、「水カン」というムーヴメントはひとつの到達点に近づきつつあるように見える。

 そして『SUPERMAN』は――繰り返しになるが――「満を持して」上梓された。“桃太郎”や“ディアブロ”で見られた過剰さは後退し、全編ケンモチヒデフミが手がけた曲たちは、これまでの水曜日のカンパネラの延長線上に位置する、ビート・ミュージックに目配せしたハウス・トラックとして並んでいる。確かに歌詞は旧来通り風変わりだが、かつてその中身を占めていた「サブカル」要素は影を潜めた。例えば“モスラ”はその名の通り過去の「モスラ」シリーズへの深すぎる言及、“桃太郎”ではレトロ・ゲームからの参照など、楽曲ごとに所定のテーマからの専門用語を偏執的なまでに歌詞へ詰め込むのが「水カン」の常套句となっていたが、本作では“アラジン”でマニアックなホームセンター用品/メーカーが登場するものの、全体としていままでの「サブカル」的ジャーゴンは後景に退いている。「サブカル」の一聖地である下北沢ヴィレッジ・ヴァンガードをホームとした「水カン」の姿はここにはない。そのプロジェクトの性質の色をリプレゼントするように、より「開かれた」かたちとしての「水カン」を聞くことができる。

 しかしこの「開かれた」かたちとは、また同時に「閉じた」ものでもある。いかなる意味か。先ほど登場した Perfume であれば、(パッパラー河合からバトンタッチした)「中田ヤスタカ」というプロデューサーを媒介に、「ポリリズム」発売時に席巻していたエレクトロ・ムーヴメント、もしくは CAPSULE などの別プロジェクトへと容易に遷移することが可能であった。しかし、「水カン」を聞いたうえで、ケンモチヒデフミを通して Nujabes へ、もしくは前作『UMA』に参加した Matthewdavid からLAビート・シーンへ、Brandt Brauer Frick から〈!K7 Records〉へ、Cobblestone Jazz へ、といった聴取姿勢は想定されていないだろう。全ての要素は、「水カン」というプロジェクト自体へと還流される。本作『SUPERMAN』では、コムアイ自身が同作のインタヴューで繰り返す「スーパーマンが不在の現代日本」というイメージのもと、選定された古今東西の「スーパーマン」でさえ、周知の「水カン」色を触媒に、またプロジェクトの内側へと取り込まれている。端的に言えば、水曜日のカンパネラは、音楽的係留点としての機能を追い求めてはいない。

 ここで冒頭の描写に戻りたい。「水カン」はひとつの社会現象であり、コミュニケーションの中継地点であり、メディア環境に点在する存在となりつつある。誰にでも開かれた存在として/それだけで完結した存在として。何かしらのシーンから生み出された存在でなくとも、それ自体がひとつのムーヴメントとして。水曜日のカンパネラはだから、「ポストJ-POP」的時代の最中、また異なる解答を生み出そうとするプロジェクトである。メディアの寵児な「だけ」ではなく、奇抜さや楽曲の本格さ「のみ」を、もしくはコムアイの可憐さ「ばかり」を売りにするものではなく、その道途の先を見据える「異種混肴(heterogeneity)」的な姿勢そのものこそが、「ポストJ-POP」的なるものを内包している。

仙波希望

ハリウッドの地獄から西ドイツ・ベルリンへ、
多くの謎に包まれた1975年から1978年までのデヴィッド・ボウイを追う。
ベルリン3部作の背後に横たわる物語がいま明かされる──

デヴィッド・ボウイが、2016年1月10日、自らの死を想定して作られた新作『ブラックスター』をリリースした2日後に他界し、世界中に衝撃を与えたことは記憶に新しい。

長いキャリアのなかで多くの名作を残しているデヴィッド・ボウイだが、70年代のなかばアメリカに渡り、そして強度のコカイン中毒のなかで衰弱しながら、そしてベルリンへと移住して生まれることになる、通称「ベルリン3部作」──『ロウ』、『ヒーローズ』、『ロジャー』──は、ボウイのキャリアのなかのもうひとつのクライマックスとして知られる。

本書は、そのベルリン時代にスポットを当てた評伝である。じつに深い内容の、ファン待望の1冊と言える。


目次

   INTRODUCTION

 1 地獄から来た男
   THE MAN WHO CAME IN FROM HELL
 2 ボウイ教授のキャビネット
   THE CABINET OF PROFESSOR BOWIE
 3 『ロウ』、あるいはスーパースターの医療記録
   LOW, OR A SUPERSTAR’S MEDICAL RECORDS
 4 新しい街、新しい職
   NEW CAREER, NEW TOWN
 5 崖っぷちのパーティ
   THE PARTY ON THE BRINK
 6 デヴィッド・ボウイを見たかい?
   DID YOU SEE DAVID BOWIE?
 7 ヒーローズ
   HEROES
 8 さらばベルリン
   GOODBYE TO BERLIN

結び 彼は今どこに?
   CODA: WHERE IS HE NOW?


ロック画報読本 鈴木慶一のすべて - ele-king

鈴木慶一ミュージックは、北野武映画の「ヘソ」である。
――北野 武

★鈴木慶一未発表音源9曲54分! CD付き

2011年12月にムーンライダーズの活動休止を宣言した鈴木慶一。
その後、北野武監督の映画『アウトレイジ・ビヨンド』や
蜷川幸雄の舞台音楽を手がけるなど、ミュージシャンとしての活動はますます盛ん。
バンド、ソロ、ユニット、プロデュース(原田知世ほか)、
映画音楽(『アウトレイジ』、『座頭市』、『ゲゲゲの女房』、ほか)、
劇伴(蜷川幸雄、ほか)、CM音楽など、
幅広い音楽活動を網羅し、多面的な魅力を持つ鈴木慶一の本質に迫る!

ムーンライダーズからはちみつぱい、Controversial Spark、No Lie-sense、
THE BEATNIKS、ソロ作品、映画音楽、ゲーム音楽、プロデュース作品など、
テーマごとにまとめた章構成。

関連ミュージシャンのインタヴュー、昨年の話題作『Records and Memories』まで、過去の評論なども掲載。事務所秘蔵のビジュアル要素も豊富に掲載し、鈴木慶一の全仕事をアーカイヴ化したクロニクルとなっています。

さらに旧友であるイラストレーターの矢吹申彦氏の表紙で。

■Photos and Memories
■鈴木慶一インタヴュー
■アクティヴな音楽家としての鈴木慶一
■はちみつぱいと鈴木慶一
■ムーンライダーズと鈴木慶一
■ビートニクスと鈴木慶一
■鈴木慶一の歌詞からみる情けない男の系譜
■活動年表(14頁)
■インタヴュー:ゴンドウトモヒコ/曽我部恵一/高橋幸宏/鈴木博文/田中宏和/森昌行/藤本榮一/KERA/konore
■そして60頁にも及ぶ鈴木慶一関連のディスク・ガイド!
■未発表音源多数収録CD付き

Gábor Lázár - ele-king

 マーク・フェルやラッセル・ハズウェルなどとコラボレーション・アルバムをリリースし、そのうえロレンツォ・セニの〈プレスト!?〉からアルバムを発表しているなど、現在のエクスペリメンタル・ミュージック・シーンにおける(隠れた?)キーパーソン、ガボール・ラザールが〈シェルター・プレス〉からソロ・アルバムをリリースした。〈シェルター・プレス〉は、フランスはブルターニュを拠点として、個性的な電子音楽/エクスペリメンタル・ミュージック作品をコンスタントに送り出しているレーベルである。

 それにしても「危機の表象」とは、なんとも意味深なアルバム・タイトルではないか。じっさい、その名が示すように、本アルバムにおいては、どの曲もグリッチされたテクノの残骸が高速に展開していくわけである。となれば、この「危機の表象」とは、グリッチ・サウンド/ノイズのことだろうか。それを示すかのように、アルバム全曲に“クライシス・オブ・リプレゼンテーション”と共通の名前が付けられており、それぞれ「#」記号のあとに、1から8までがナンバリングされている(“クライシス・オブ・リプレゼンテーション #8”はCD盤ボーナス・トラック)。
 じじつ、このアルバムの各トラックは、ノイズ・モチーフが反復され、そしてそれが少しずつ壊れていく構成になっている。まるでグリッチ・ノイズ・サウンドの実験報告のような構成である。エラーの生成がリズムとなり、刺激的な電子ノイズ・サウンドを生成・展開していくのだ(ちなみにマスタリングはラシャド・ベッカー)。

 一聴して分かるように、本作は、SND/マーク・フェル直系のサウンドである。しかしグリッチが、新奇性やフェティシズムの対象ではなく、手法として「当たり前のもの」として存在している点に注目したい。オートマティックでありながら、じつに流麗にコンポジションなされているのである。「無意識」をコントロールするかのように。
 むろん、これはガボール・ラザールだけの特質ではない。たとえばリー・ギャンブル、イヴ・ド・メイ、ロレンツォ・セニなど、新世代エクスペリメンタル・テクノ・アーティスト全般の特徴といえる。彼らはテクノ・アーティストでありながら、同時に(90年代末期から)00年代初頭のグリッチ・サウンドに多大な影響を受けている世代なのである。じじつリー・ギャンブルは〈エディションズ・メゴ〉のマニアだという。
 そう、この10年代初頭においてエクスペリメンタルな電子音響/テクノを創りだしているアーティストたちは、テクノという形式を愛しながらも、しかしそれがグリッチというエラー・ノイズで破壊されていくさまから始まっている。いわば、あらかじめ引き裂かれた「表象の危機」の世代。その「危機」への感覚は、グリッチ以降を生きる者を貫通する意識/無意識ではないかと思う。
 前提となるべき条件がすでに壊れていること。この『クライシス・オブ・リプレゼンテーション』において生成するグリッチ・ノイズは、壊れた時代・世代における(無)意識の発露とはいえないか。私には、この精密で整ったグリッチ・サウンドに、今の時代特有の引き裂かれた無意識と、しかし、その意識を「引き裂かれたまま」統御しようとする強い欲望=意志が感じられてならないのである。

 また、アートワークを手掛けるのは ソフィア・ボダ(Zsófia Boda)。彼女の作品もまた「壊れていることが前提」という時代のアトモスフィアを感じさせる(https://zsofiaboda.tumblr.com/)。こちらも必見だ。


Rebound Tenderness No.2

Carl Craig - ele-king

 いまデトロイトはクラシックを志向しているのだろうか? 先日のジェフ・ミルズに続いて、なんとカール・クレイグまでもがオーケストラとのコラボ作をリリースする。4月28日に日本先行で発売される彼の新作『Versus』には、昨秋デリック・メイをフィーチャーしたアルバムを発表しているフランチェスコ・トリスターノのほか、「スピリチュアル・アドバイザー」なる名目でモーリッツ・フォン・オズワルドも参加している模様。カールとモーリッツのコンビといえば、大胆にカラヤンを解体して再構築してみせた『ReComposed』が思い出されるが、しかし「スピリチュアル・アドバイザー」って何? モーリッツってば、もしかしてスピってるの? これは買って確かめるしかない。

C A R L  C R A I G

クラシック・テクノからモダン・クラシックへ
テクノ史を塗り替えた名曲群がオーケストラで蘇る。
フランチェスコ・トリスターノも参加した
スペシャル・プロジェクトが待望のリリース決定!

 デリック・メイによって見出されデトロイト・テクノ第2世代としてシーンに登場し、様々な名義でテクノ史を塗り替える斬新な作品を世に送り出してきたプロデューサー、カール・クレイグが、オーケストラとコラボし、自身の名曲群を蘇らせたアルバム『Versus』のリリースを発表した。
 本プロジェクトには、新進気鋭の指揮者、フランソワ=グザヴィエ・ロト率いるレ・シエクル・オーケストラとフランチェスコ・トリスターノが参加しているほか、世界で最も長い歴史を持つクラシック・レーベル〈ドイツ・グラモフォン〉の『ReComposed』シリーズでも、カール・クレイグとの強力なタッグを見せたモーリッツ・フォン・オズワルドがスピリチュアル・アドバイザーとして名を連ねている。

 本作の発端となったのは、2008年にパリでおこなわれたコンサートである。カール・クレイグとレ・シエクル・オーケストラとのコラボレーションで、カール・クレイグの名曲“Desire”、“Dominas”、“At Les”、“Technology”、“Darkness”、“Sandstorms”、さらにはスティーヴ・ライヒの“City Life”やブルーノ・マントヴァーニ“Streets”がすべて交響曲として演奏され、2回のスタンディング・オベーションと4回のアンコールが起こるなど、賞賛を浴びた。

 クラブ・カルチャーと伝統音楽の融合は今では真新しいことではないだろう。しかし、これほどまでに見事にふたつが溶け合い、テクノの高揚感とオーケストラの壮大なサウンドスケープが相乗的なシナジーを生み出しているのは、カール・クレイグの秀でた音楽性を証明している。

 カール・クレイグのトラックをオーケストラ用に編曲したのは、クラシックとテクノの両シーンで活躍する天才ピアニスト、フランチェスコ・トリスターノである。トリスターノはこれまでにも、自身のアルバム『Not For Piano』でジェフ・ミルズやデリック・メイ、オウテカのピアノ・カバーを発表するなど、クラシックとダンス・ミュージックを繋ぐキーパーソンとして活躍し、アルバム『Idiosynkrasia』のプロデュースを依頼するなど、カール・クレイグとも親交が深い。本作では、編曲のほか、自身のオリジナル曲も2曲(“Barcelona Trist”、“The Melody”)提供している。また2008年のコンサートで、フランチェスコ・トリスターノとともにステージに加わったモーリッツ・フォン・オズワルドもスピリチュアル・アドバイザーの肩書きで本作に貢献している。

 『Versus』は、変形、再融合、再解釈のアプローチを通じて、カール・クレイグがまったく新しい表現方法を追求する意欲的なプロジェクトである。

重要なのはオーディエンスの概念を変えることや人々を驚かせることだけじゃなくて、音楽について、そして世界における音楽の位置づけとオーディエンスについての型通りの考えを吹き飛ばすことだ。煽動するんじゃなくて、新鮮で新しい議論によってね。
- Carl Craig

エレクトロニックとクラシックのコラボレーションは数多くあったが、これは本当の意味で、精神と精神の音楽的出会いだ。我々が目指したのはオーケストラのアレンジをエレクトロニックの派手さで装飾するのではなく、異なるジャンルの間で会話を生み出すことだった。
- Francois-Xavier Roth

音楽とは整理された音にすぎないということを、もうずっと前にジョン・ケージが教えてくれた。第一にピアノとは装置であり、音の源のひとつであり、ぼくがそれを使う方法はテクノの作曲方法に明らかな影響を受けている。
- Francesco Tristano

 カール・クレイグ注目の最新作『Versus』は、4月28日(金)日本先行リリース! iTunesでアルバムを予約すると収録曲“Sandstorms”がいちはやくダウンロードできる。

label: INFINÉ / PLANET E / BEAT RECORDS
artist: CARL CRAIG ― カール・クレイグ
title: Versus ― ヴァーサス
release date: 2017.04.28 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-546 定価 ¥2,200(+税)
国内盤特典:ボーナストラック追加収録 / 解説付

special talk : Unknown Mortal Orchestra × Tempalay - ele-king


Unknown Mortal Orchestra
Multi-Love
Jagjaguwar / ホステス

Indie Rock

Amazon Tower HMV iTunes


Tempalay
5曲
Pヴァイン

Indie Rock

Amazon Tower HMV iTunes

 去る2月27日。US屈指のサイケデリック・ポップ・バンド、アンノウン・モータル・オーケストラの来日公演が開催されました。当日フロント・アクトを務めた若き日本のバンド、Tempalay(テンパレイ)は、まさにそのUMOに刺戟されてバンドをスタートさせたという経緯があります。となれば、これはもう対面していただくしかないでしょう! というわけで急遽、渋谷 duo MUSIC EXCHANGE の楽屋にて特別対談を敢行しました。以下がその記録です。夢の邂逅をどうぞお楽しみください。

僕たちはUMOを知ってから、3人でもこういうサイケみたいな音楽ができるってことに気がついて、やってみたいと思ったんです。 (竹内)

ルーバン・ニールソン(Ruban Nielson、以下RN):今回のイベンターが「Tempalayも前座に入れていい?」って連絡してきた時に、前座のバンド全部を聴いてみたけど、Tempalayがいちばん良かったよ。

Tempalay:うわー!!!

小原綾斗(ギター。以下、小原):センキュー! あははは(笑)。

RN:他のバンドとは明らかに違ったからね。

竹内祐也(ベース。以下、竹内):僕らはアンノウン・モータル・オーケストラ(以下、UMO)が好きでTempalayというバンドをはじめたんですけど、最初に作った曲(“Band The Flower”)を聴いてもらってもいいですか?

RN:オーケイ、もちろんいいよ。

小原:“FFunny FFrends”をパクってます。(と言いながらスマホで曲をかける)

RN:(流れた曲を聴きながら)うわあ! 2年前に俺の友だちが「日本人のバンドで“FFunny FFrends”みたいな曲を書いたヤツらがいるよ」と言って送ってきた曲を聴いていて、その時はTempalayの曲だってことを知らなかったけど、今初めて気づいたよ(笑)。

竹内:ウソだ(笑)! なんでなんで?

(一同笑)

小原:スゲえ……

RN:ニュージーランドの友だちはどうやって見つけたのかはわからないけど送ってきてくれて、すごくカッコいいと話していたんだ。教えてくれてありがとう(笑)。ドラムの音が素晴らしいね。これは2年前に作ったの?

竹内:そうそう。たぶん2年前ですね。

RN:いいね。クールだよ。これからまたアメリカに来る予定はある?

竹内:去年は行ったんですけど、これから先に行く予定は決まってないので、連れて行ってください(笑)。

RN:オーケイ、もちろん。本当にカッコいいよ。

竹内:僕たちはUMOを知ってから、3人でもこういうサイケみたいな音楽ができるってことに気がついて、やってみたいと思ったんです。ミント・チックス(The Mint Chicks)からUMOになった時に、3人でそういう音楽をやろうと思った理由はあるんですか?

RN:今のバンドはすごく長い期間をかけてどんどん形になっているような感じなんだ。これはよく知られていることかもしれないけど、最初は俺しか曲を書いていなくて、それをネットに上げたらいろんなブログが載せてくれたんだ。それで、当時は『ピッチフォーク』が「いろんなブログを見て、新しい音楽を見つけよう」という感じで、たまたま取り上げてくれたんだよね。そしたら一気にいろんな人たちやレーベルから連絡が来たんだ。その頃はジェイク(・ポートレイト)と俺の弟と一緒に仕事をしていたんだけど、パソコンで「『ピッチフォーク』に載っているこれ、俺なんだけど」って見せたら、「お前バンドやってるなんて言わなかったじゃん!」って言われて。「誰にも言ってないんだよ」と言ったら、「お前のバンドはあるの? ないなら組む?」という話になって、それがジェイクとバンドを組むきっかけだったんだ。そこからレーベルとも契約して、ライヴ・ツアーにたくさん行ったらどうなるか見てみようと思ってUMOを始めたんだよ。ジェイクはいまだに一緒にやっているけど、これだけツアーをやっているとドラマーがみんな疲れて辞めていっちゃうんだよね(笑)。アンバー(・ベイカー)という新しく加わったメンバーが5人目のメンバーかな。

藤本夏樹(ドラム。以下、藤本):えっ、あの女性の方ですか?

通訳:女性の方ですね。

Tempalay:へえー!

RN:今はキーボードのクインシー(・マクラリー)が加わって4人組なんだ。

藤本:ホイットニー(Whitney)のドラマーは?

通訳:ホイットニーのジュリアン(・エーリック)は(UMOの)最初のドラマーですね。

RN:できれば今の4人組が最終形態になればいいと思っているよ。ただ自分のバンドにいろいろな人が加わって、それぞれが別のバンドを組むというのも面白いと思うんだ。いま話したジュリアンがやっているホイットニーとは一緒にツアーを回ったし、前のドラマーのライリー(・ギア)はもう新しいバンドを始めているし、そういう流れも面白いと思うよ。

小原:“FFunny FFrends”が、最初に作ってSoundCloudに上げた曲ですか?

RN:そうだよ。

竹内:そうかー。じゃあ今の4人だったら、ルーバンがやりたいと思っていることが実現可能なのでしょうか?

RN:そうだね。多分実現できると思っているし、彼らと一緒にバンドをできていることは本当に恵まれていると思っているよ。俺は自分の曲をただ演奏してくれるだけのバック・バンドは嫌で、メンバーそれぞれが自分のアイデアを持ち込んだり、特にライヴの時に自分の特徴を出してくれたりするような人が欲しかったんだ。(今のメンバーは)それぞれそういうことをやってくれるし、普通のバンドよりメンバー間で音の交流をいつもやっているから、本当に恵まれていると思う。

小原:(ルーバンが着ているシャツを見て)ちなみに『ストレンジャー・シングス』(ネットフリックスで公開されているテレビドラマ)が好きなんですか?

RN:ああ、そうだね(笑)。自分を気持ちよくさせてくれるようなTシャツを着たいと思っているんだけど、『ストレンジャー・シングス』を観た後に興奮して、eBayで買ったよ(笑)。(小原の着ているTシャツを見て)君が着ているのはコミックの方の『キリング・ジョーク』のジャケットに似ているよね。

小原:『キリング・ジョーク』大好きです、はい(笑)。ところで、今まで聴いて育った音楽とか、影響された音楽についてお訊きしたいですね。

RN:俺の父親がジャズのミュージシャンだったから、小さい頃からジャズやラテンの音楽を聴いていたね。その父親の影響でマイルス・デイヴィスやスティーヴィー・ワンダーとかを聴くようになったんだ。若い頃はよく東海岸のヒップホップが好きで聴いていて、特にウータン・クランはすごく好きだったね。UMOはビートルズから影響を受けていると思われることが多いんだけど、19、20歳くらいまで(ビートルズを)聴いたことがなかったんだ。だから、どちらかと言うと(ビートルズは)自分としては「新しいバンド」という感覚で聴いているんだよね。あとは昔のパンクものでバズコックスとか、ポストパンクのワイヤー、ギャング・オブ・フォー、PiL、ラモーンズとか、あの辺りはぜんぶ聴いていたね。このバンドを始める時はその要素をごちゃまぜにしたような感覚でやっていたよ。

小原:逆に最近聴いている音楽はなんですか?

RN:最近はサンダーキャットが好きだね。

竹内:ああ、最高。サンダーキャットはヤバいですよね。

小原:“Tokyo”って曲があるじゃないですか。

RN:あるね! その新しい曲の歌詞のなかに、歯医者へ行ったら悟空の人形のおもちゃがあって、その悟空のせいで人生が狂った、みたいなことが書いてあったね(笑)。

小原:サンダーキャットさんとは繋がりがあるんですか?

RN:LAのケンドリック(・ラマー)とも繋がりがあるようなジャズ・ミュージシャンは好きなんだ。カマシ・ワシントンとサンダーキャットは、自分たちが出たフェスで俺らの演奏が終わった後に楽屋に来てくれて、そこにはフライング・ロータスもいて、それまで彼らとは会ったことがなかったけど彼らの音楽は大好きだったから、思わず興奮してしまったね(笑)。そこで一緒にハッパを吸って楽しんだんだけど(笑)、そこから仲良くなったんだ。もしかしたら俺たちがこれから作るアルバムで、サンダーキャットに1曲参加してもらえないか提案するかもしれないんだよね。

竹内:特ダネじゃないですか。

RN:俺は10代の頃から音楽オタク並みにいろんな音楽を追っていたんだけど、今は自分が音楽を作る側になったのと、常に音楽に囲まれた生活になっていることもあって、あえて新しい音楽を無視することもよくあるんだ。ひとりの人間が「新しい」と呼ばれているものを発見するまでって時間がかかると思うんだよね。だから自然と友だちのバンドの音楽を聴くことが多くなっている。テーム・インパラ、マック・デマルコ、コナン・モカシンといった自分と繋がっている人たちの音楽を聴くことのほうが多いかな。ただLAのサイケ・シーンとかヴァイナル・ウィリアムス、モーガン・デルト、あとはダーティ・プロジェクターズなんかも好きなんだけどね。発見するまで時間がかかるようになったね。

小原:モーガン・デルト大好きです。

RN:そうなんだ。年越し(ライヴ)を一緒にやったよ。

竹内:インディペンデント(サン・フランシスコのライヴ・ハウス)でですか?

RN:そうだね。

竹内:去年SXSWでTempalayのライヴをした時に、インディペンデントへ行きましたよ。

RN:本当? いいね。昔KING BROTHERSと一緒にツアーをしたときに「すげえ」って言葉を教えてもらったり、ギターウルフと4、5回一緒にやったりしたね(笑)。

小原:ところで、レコーディングはハッパを吸いながらやるという記事を読んだことがあるんですが……

RN:いや、食べるほうが多いね。そのほうがゆっくりキマるし。

(一同笑)

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オタク並みに色んな調整を追求していくのもいいんだけど、行き過ぎるのはあまり良くないってことだね。大切なのは正しく演奏するということで、それを忘れちゃいけないんだ。 (ルーバン)

小原:ひとつ発見したことがあるんですけど、UMOの“From The Sun”という曲は、逆再生しても同じように曲が流れますよね?

RN:え、本当? 気づかなかったよ(笑)! いいね、今度試してみたいな。

小原:これです。(“From The Sun”の逆再生ヴァージョンをかける)

RN:これが逆再生? ははは(笑)。戻ったら自分でもやってみるよ。どうして逆回転することになったのかわからないね(笑)。

小原:たまたまです(笑)。ところで僕はルーバンのギターの音が大好きなので、ルーバンのあのギターの音を出してみたいです。

RN:ありがとう! (小原持参のギターを指しながら)このギターはたぶん合うと思うよ。僕がよくやっているのは……(ギターを弾きながら)アドナインスコード、メジャーコードだね。あとはこんな感じでマイナーのコード。今のが俺の音のすべてだね(笑)! 君なら全部できるよ(笑)!

小原:センキュー! キマります(笑)。

RN:あとはこんな感じでネックとボディをプッシュして……

竹内:たしかに映像で見たことあります。プッシュするのはネック? ボディ?

RN:その両方だね。ネックとボディをプッシュするんだ。

小原:(弾きながら)これけっこう力いるな……

RN:俺は慣れちゃっているからわからないけど、そんなに力はいらないよ。立っているほうがやりやすいと思う。

小原:ギターがかわいそうなんですけど……

RN:俺はいつも半音下げのチューニングで弾いているんだけど、弦のテンションが下がっているからよりやりやすいんだと思う。ジミ・ヘンドリックスのチューニングだね。

小原:ああー。ジミ・ヘンドリックス大好きです。サンキュー。後でギターを見せてもらってもいいですか?

RN:もちろんいいよ。

小原:僕は以前ニューヨークで、まだ3人でやっている頃のUMOを見たんですよ。その時にエフェクター・ペダルをパチパチやっていて……

RN:今はちょっと入れ替わったものを使っているんだよね。

小原:自分で(エフェクターを)作っている?

RN:そうだね。

小原:(自作エフェクターを)ください(笑)。

RN:じゃあアメリカでツアーを一緒に回った時に、かな。(笑)

Tempalay:うおーい!!!

小原:スゲー、スゲー! センキュー!

RN:俺らを見たのはどこの会場か覚えている?

小原:ブルックリンのウィリアムズバーグ・ミュージックですね。でも対バンがいなくて、DJなどの出演者が多いイベントでした。

RN:自分でもあまり思い出せないな……

小原:3ピースでしたね。『II』のアコースティック・ヴァージョンみたいな青いジャケのEP(『ブルー・レコード』)があるんですけど、そのツアーの時でしたね。

RN:ああ、思い出したよ。

小原:僕は涙しました。

RN:本当に? 僕も泣いたよ。

Tempalay:ははは(笑)。

竹内:音源のローファイな質感をライヴでそのまま再現するのは難しいと思うんですけど、ライヴの時はどんな質感の音を出したいと思っていますか? ライヴだからダイナミクスをつけるとか、そういう意識はしているんですか?

RN:ライヴではなるべくライヴなりの音に変えようと思っていて、特にヴォーカルを歪ませるということをすごく意識している。ジェイクとオタク並みに話し込むことがよくあるんだけど、プリアンプを多めに使うことがあるね。プリアンプを通すことによってヴォーカルの歪みをもらってよりアナログ的な音にする、ということをやっているよ。(バンドを)長く続けていて機材にお金をつぎ込めるようになってきたから、プリアンプの量を増やしたりすることができるようになってきていて、今よく使っているのはJHS 500シリーズのニーヴ(Neve)・コンソールという種類のペダルで、それを通すことで独特の歪みを作っているんだ。

小原:メモりたい(笑)。

竹内:こんなに教えてくれるとは思わなかったね。ライヴではヴォーカルの音にいちばん気をつけているということですか?

RN:そうだね。でもヴォーカルだけじゃなくて、みんな音全体に気を使っている部分もあるし、自分もギターのペダルは時間をかけて調整しているよ。たとえば今回のツアーのシンセサイザーは、アルバムで実際に使ったものを持ってきているんだ。コルグの700とか、ローランドのRS-9とか昔のアナログ・シンセなんだけど、それを自分で少し改造して使っている。本当は昔のフェンダー・ローズなんかを持ち運べれば最高なんだけど、それはまだ現実的じゃないね。ジェイクもずっとベースの音を調整しているし、みんなそれぞれ音に気を使ってつねに改善しようとしているよ。ただ、ヴォーカルはアンプを通していないから、プリアンプを使うことで調整しやすいということがあるかな。

無意識で舞い降りてくるようなものがいちばんいいアイデアだったりするから、そういうところを解放してあげるといいんじゃないかな。意識的に何かをやろうとするとうまくいかないよね。 (ルーバン)

RN:初めてアンバーとライヴをやったのがカナダのフェスだったんだ。もちろん彼女は俺たちの作品を聴いていたけど、その直前に数時間しか練習する時間がなくてね。しかも会場に行ったら機材が全部届いていなくて、自分たちの機材がない状態だったんだ。それで、前の出番のバンドの(ドラム・)ペダルだけ変えたり、自分も人からギターを借りたり、全員知らない人たちの楽器を弾いたんだ。シンセも小さいデジタルのものだったし、その場でやらなくちゃいけなかったんだけど、そのライヴがすごく楽しかったんだよね。つまり言いたいのは、オタク並みに色んな調整を追求していくのもいいんだけど、行き過ぎるのはあまり良くないってことだね。大切なのは正しく演奏するということで、それを忘れちゃいけないんだ。

竹内:いいこと言うねえ。

小原:エフェクターの回路についてアドヴァイスが欲しいです。

RN:まずディストーションを最初に置いて、真ん中は空間系のリヴァーブとディレイ、モジュレーター系は最後のほうに持っていくのがいいかな。一般的にはそういった構成が多いよね。

小原:じゃあ意外とスタンダードなんですね。

RN:そうだね。

小原:サンキュー。曲作りのアドヴァイスもいただけたら嬉しいです。UMOの曲の作り方、知りたいです。

RN:そうだなあ。ある本を読んだんだけど、自分にとっていちばん大切なライヴで悪い演奏をしてしまって、誰もいないようなド田舎での10人くらいのライヴでいちばんベストなライヴができたという話が書いてあったんだ。ライヴでも曲作りでも、意識的に気にしないということがすごく大切なことだと思う。今まで学んできたことや培ってきたさまざまな技術があると思うんだけど、ある意味それに無関心でいるというか、それを気にしてしまって何かを表現しようとすると自分のエゴが出てきてしまうから、そういうような曲を書いていたら良いものは生まれないと思う。たぶん、無意識で舞い降りてくるようなものがいちばんいいアイデアだったりするから、そういうところを解放してあげるといいんじゃないかな。意識的に何かをやろうとするとうまくいかないよね。それは作曲においても当てはまるんじゃないかな。

竹内:いいこと言うなあ。

小原:お酒は好きですか?

RN:ああ、今もけっこう二日酔いだよ。

Tempalay:ははは(笑)。

RN:お酒はよく飲むんだ。でも、アンバーはまだ24歳でバンドでいちばん若いんだけど、彼女は他の誰よりも飲むんだよね。彼女の出身地のケンタッキー州はバーボン発祥の地だからね(笑)。自分たちもけっこう飲んだくれだと思っていたんだけど、彼女はもっとタフなんだ(笑)。ちなみに昨日の夜はロボットレストランに行ってきたよ。

竹内:おおー。2年くらい前にも行っていたよね?

RN:2年前はロボットレストラン自体には入っていなくて、その近くまで行って写真を撮ったんだ。実際には行かなかったんだよね。それを想像で曲にしたんだ(笑)。今回行ったのが初めてだったね。

小原:想像なんだ(笑)。

RN:でも今回は楽しかったよ。

小原:じゃあライヴの後に乾杯しましょう。

RN:おお、いいね!

小原:センキュー! 最後にサインを貰ってもいいですか?

RN:たぶん来年の後半にツアーをするから、もし本当に一緒に回るならちゃんと話したほうがいいよね。

竹内:本当?

RN:ああ、本気だよ。

小原:センキュー!

RN:いい出会いだね。(ペンを渡されて)ギターに書こうか(笑)?

竹内:それ、めっちゃ嬉しいじゃん。

小原:好きなところに書いてください。たくさん絵を描いて!

竹内:イタリアの古いビザール・ギターなんだよね。

RN:クールだね。これ好きだよ。

竹内:ルーバンはライヴ前に飲まないんですか?

RN:俺はいつもステージで(酒を)飲んでいるよ。感覚を忘れないようにね(笑)。

Tempalay:ははは(笑)。

RN:(ギターを渡して)これでいいかな?

小原:センキュー! やったぜ。

【イベント情報】

●3/18 (土) 東京 渋谷WWW
Tempalay『5曲』リリース・パーティ & Jerry Paper来日東京公演
OPEN 18:00 / START 18:30
TICKET: adv. ¥3,500 (D別) / door. ¥4,000 (D別)
LIVE: Tempalay / Jerry Paper (from LA) / ドミコ (OA)

※各プレイガイドにてチケット発売開始

●3/26 (日) 大阪 アメリカ村CLAPPER
Tempalay『5曲』リリース・パーティ & not forget pleasure4
OPEN 17:00 / START 17:30
TICKET: adv. ¥2,500 (D別) / door. ¥3,500 (D別)
LIVE: Tempalay / オオサカズ / Klan Aileen / DIALUCK

※各プレイガイドにてチケット発売開始

【リリース情報】

Tempalay
New EP 『5曲』
Release: 2017.02.15
PCD-4549
¥1,500+税
https://p-vine.jp/music/pcd-4549

[Track list]
1. New York City
2. Austin Town
3. ZOMBIE-SONG feat. REATMO
4. CHICAGO in the BED
5. San Francisco


Unknown Mortal Orchestra
Multi-Love
Jagjaguwar / ホステス

Indie Rock

Amazon Tower HMV iTunes


Tempalay
5曲
Pヴァイン

Indie Rock

Amazon Tower HMV iTunes

Sleaford Mods - ele-king

 グラマラスなファンタジーや甘美な逃避、あるいは癒される家庭料理のような音楽が人気の現イギリスにおいて、苦く塩辛く喉にイガイガ引っかかる、容赦なく辛辣で露悪でノイジー、しかもコミカルな地声で気を吐くユニークなアクトのひとつであるノッティンガム発のデュオ:スリーフォード・モッズ。それをパンクと呼ぶ人間もいるし、ポエトリー(ジョン・クーパー・クラーク)とUKヒップホップ(ザ・ストリーツ)の融合と称する者もいる。いわゆる「ロック・セレブ」のなかでSMファンを探せば、イギー・ポップとスティーヴ・アルビニというタフな面々が名乗りをあげている。
 逆に言えば浮いているということで、政治家から単調な仕事、ヒップスターにロック・スターまでモダン・ライフにこびりついたクソを容赦なく指摘しディスるゆえに一種の「鬼っ子」として煙たがられているフシもある。そんな彼ら──2005年にジェイソン・ウィリアムソンの宅録ソロとして始まり、試行錯誤の末にジェイソン(ヴォイス)&アンドリュー・ファーン(ビート)のデュオ体制を確立──がプロパーなスタジオ・アルバムとしては4枚目になる本作『イングリッシュ・タパス』(自主制作でネットやCD-R流通の初期作品まで含めれば9th)にまで漕ぎ着けたことに、それだけでも一種の感慨を抱いてしまう。
 「漕ぎ着けた」なんて、大袈裟な……と笑う人もいるかもしれない。だが、彼らに最初のブレイクをもたらした『オースティリティ・ドッグス』(2013年)をリリースした〈Harbinger Sound〉は、地元ノッティンガムの市バス運転手という「表」の仕事のかたわら、スティーヴ・アンダーウッド(SMのマネージャーも兼任)が自宅を拠点にしこしこ運営してきたDIYレーベル。それを思えば、どこまでもローカルでパーソナルな声が、「ポップ」あるいは「ラジオ向けのヒット」という意匠にすり寄ったり持ち味を中和することなく全国区に届いた、これは稀な例のひとつと言っていいと思う。
 ちなみにイギリスにおける『ET』の全英チャート成績を見ると、前作『キー・マーケッツ』(2015年)よりも1ランク下がった初登場12位という結果になった。ストリームやYoutube再生回数といったバブルも「売り上げ」として換算されカウントされる現在のUKチャートに、おそらくスリーフォード・モッズ側もさほど執着はないのだろうと思う。しかし上昇し続ける人気と注目度に反して今作での初のトップ10入りを逃したのは、おそらく同じ週に発売されたエド・シーランの新作『÷』とそのマッシヴな波状効果(おかげでシーランの過去2枚もアルバム・チャートのトップ5に返り咲いている)の影響だ。シーランが世界的なポップ・スターであるのを考えれば、当然の話かもしれない。とはいえ、人畜無害を絵に描いたようなシーランとその巨大なファン層=静かなる多数派が、スリーフォード・モッズという異分子を安々と押しつぶした──いまのイギリスを象徴する構図だよなあ、などとつい深読みしたくもなる。
 アルバムに話を戻そう:〈ラフ・トレード〉移籍第1弾として昨年発表された、いわば「予告編」に当たるEP『T.C.R.』の表題曲はベース・ラインにニュー・オーダーやザ・キュアーが思い浮かぶ「インディ・ポップ」とすら呼んでいい作風だった。彼らにとっては新境地であり、この飄々とした自嘲トーンがアルバムを方向付けるのか? と思ってもいた。しかし『ET』は、『キー・マーケッツ』でのサウンド&音楽面でのストイックさを押し進め、歌詞も歌い手の外側だけではなく内側にも広がる闇を飲み下し凝縮したものへとシフト・チェンジしている。彼らの進み方は「三歩進んで二歩下がる」型だと思っているが、これまででもっともタイトでフォーカスの絞れた成長作であると同時に、ビターでダウナーな余韻を残す1枚にもなっている。 
 過去のアルバムのように「イントロ」的なオープニング・トラックで軟着陸するのではなく、のっけから本編に突入=“アーミー・ナイツ”の乾いたスパルタ・ビートがムチのようにうなる展開にも変化は感じる。この曲も含めた冒頭3曲は、小気味良くシンプルなビートといいシンガロングしやすいコーラスやポゴ誘導型シャウトといい、いわば「王道なSM節」を性急にたたみかける。リリックにしても、過剰にシビアなジム文化を軍隊教練に重ねる①、成功を妬むイギリス人気質を自らも含めてクサしノスタルジアを断罪する②、ポスト・トゥルース時代を嘆くごとき③と、リアリティをスパッと切り取る観察眼とそこに皮肉なコメディを見出す筆舌は健在だ。
 だが、ここから先の展開こそ意外でスリリングだと思う。作品中盤〜後半にも、軽快なビートが引っ張る掴みの良い楽曲はいくつか含まれている。とはいえ、ミッド・テンポ〜スローな“メッシー・エニウェア”、“タイム・サンズ”、“ドレイトン・マナード”、“カドリー”、“B.H.S.”、“アイ・フィール・ソー・ロング”といったいわゆる地味めなトラックの堂々巡りに円環するグルーヴやダビーな反響、そしてフィルム・ノワールを思わせる閉塞感は、本作にサイコソマティックな内省の絵も浮かび上がらせる。
 「うるせぇ! オレはパラノイアなんかじゃねぇよ!」のモノローグからはじまる“タイム・サンズ”は、しかし通勤という判で押されたルーティンを重〜い二日酔いを引きずりながらこなす苦痛と、それを癒すための酒のグラス(=時間が砂になって落ちていくガラスの砂時計もだぶる)という悪循環を見つめる視線がうそ寒い。「スパー(コンビニ・チェーン)への買い出しは火星へのトリップ気分」の傑作なコーラスに笑いつつもやがて泣けてくる“ドレイトン・マナード”には、ビールでもウィスキーでもドラッグでもなんでもいいからハイになり頭を空っぽにすることを求めるキャラが出てくる。彼は酔った勢いで破れかぶれになって“メッシー・エニウェア”のようにトラブルを起こし、夜が明けると共に訪れる後悔が“タイム・サンズ”のサイクルをまたはじめるのだろう
 その“ドレイトン・マナード”のヴァースには、「21歳だった頃、クラブで〝(酒やクスリで)無茶したってどうにかなるだろ? オレたちは実験用モルモットなんだし〟と笑っていた/でもいま気づいたのは:モルモットから成長できた連中はほんのわずかに過ぎなかったってこと」という箇所がある。現在46歳であるジェイソンにとって、若き日のケアフリーで「なんでも来い!」な無邪気さと、25年経っても社会の実験台あるいはハムスターのように回り車をカラコロ走り続ける自分の姿が本質的に同じであることを認めるのは、痛かったはずだ。

 本作は、なにも「おっさんの嘆き」が詰まった作品ではない。しかしジェイソンが音楽業界における年齢差別(彼が若いバンドをこきおろすと、「おっさんは黙れ!」、「嫉妬は醜い」等ケナされるらしい)をこぼしているように、中年男性はこういう風に案外もろくて、メンタル/アイデンティティ面で危機を抱えているのかも……という疑念は、自分の周囲からもよく感じてきた。子持ちで50歳を越えたいまもクスリ仲間とクラブに向かい、ヘロヘロになる「失われた週末」を繰り返すレイヴ系オヤジとか。生来のシャイさを克服すべく酒に空元気をもらい、しかし毎回度を越えて酔っぱらい単なる傍若無人な迷惑野郎に変身してしまう中年とか。20近い年齢差のある若く可愛いガールフレンドをゲットしたものの、彼女の感情的なアップ/ダウンの激しさやドラマに翻弄されケンカ沙汰が絶えない者とか。みんなよく体力が持つよな、と感心させられる。
 レクリエーションをどう過ごそうが当人の勝手だし、楽しいからやっている&最低限の節度を守っていれば結構。しかしそうした一見無茶な飲み方・食い方や懲りない振る舞い──「オレはまだイケてる、若い連中と張り合える」型のブラフと言ってもいい──には、ある種の悲壮感も漂う。イギリス人のなかにも「酒は百薬の長」とばかりに飲酒を「セルフ・メディケイション(自主服薬)」と称して言い訳する/正当化するフシはある。ただ、飲んでいたはずが飲まれていた、ストレス発散のはずがストレス発生源になっていた、というシャレにならない状況に陥りあれこれ苦悩する中年男性たちを見ていると、彼らの潜在意識には一種の地雷が内蔵されているのだろうか? とすら感じることがある。基本的にはその地雷を踏まないように動いているわけだが、でも、地雷があるのであれば──爆発をどこかで欲してしまう妙な衝動も生まれるだろう。
 過去の歌詞からも窺えるが、先だってのele-king取材でも、ジェイソンは若い頃に酒やドラッグといったエクセスにハマっていたことを話していた。去年から禁酒しているだけあって、改宗者の常である「バカだったよな、オレ」型の反省が取材の場でもつい顔を出してしまうようだ。が、それを聞いていてこの人はセルフ・メディケイションからセルフ・エデュケイションに移行したのだな、と感じた。ヤケになって地雷原に踏み込むこともできるが、地雷のメカニズムを知りその所在を割り出し、解体するか不発弾として終わらせることもできるのだ。面倒くさいが、彼は後者の道を選んだようだ。

 素面じゃ面白くないだろうとか、有名なラフ・トレード西店前での2014年のパフォーマンス映像──歌おうとした矢先に、マイクを乗っ取ろうとフラフラ寄って来たちょっとおかしい通行人を「失せろ!」とジェイソンが一喝──のように、剥き出しの怒りや苛立ちをブチまけるカタルシスがSMだ、という考え方もあるだろう。しかし、かつての彼らが映画『プレデター』の特殊部隊のように「見えない敵」やジャングルを相手にするフラストレーションから誰彼構わずペイントボールを発射していたのだとしたら、『ET』はエイリアンの恐ろしさを悟った『プレデター』の後半でのシュワルツェネッガーの姿勢=より正確に標的を選定し見定め、弾丸を無駄にせず的中させようとするサヴァイヴァーのマインドを感じさせる。そこに失意や疲労感が聞こえるとしたら、おそらく、酩酊やドーパミンに押されたマッチョな悪夢から醒めたところ、起きたら現実もまた悪夢だった……という認識があるゆえではないだろうか。

 “B.H.S.”という曲は、British Home Storeという名の88年の歴史を誇る庶民向けデパートが小売り業界の名うての富豪に買収劇のコマとして使われた末に潰れ、従業員たちの年金がパーになったスキャンダルを背景にしている。今朝、近所のショッピング・センター街に行く用事があったのでついでに見にいったところ、昨年9月に閉店したにも関わらずBHS旧店舗はまだテナントが見つからないまま、お店の立ち並ぶ通りにみっともない隙っ歯を作り出していた。
 この曲のコーラス部の「オレたちはBHSみたいに沈んでいく/いい身体をしたハゲタカみたいに業突く張りな連中に監視され、ついばまれながら(We're going down like B.H.S./While the abled bodied vultures monitor and pick at us)」というフレーズを聴くたび、「B.H.S.」が「N.H.S.(National Health Service:イギリスの国民保険サーヴィス)」にだぶってしまう。2012年のロンドン・オリンピック開会式で総合ディレクターを務めたダニー・ボイルは、第二次大戦後イギリス社会の最大の功績のひとつとしてNHS制度を讃える場面──おそらく、世界中のオリンピック観衆には意味不明なシークエンスだったと思うが──をわざわざ挿入した。そこから5年経ったいま、NHSは予算から人員からベッド数まで、様々な不足で危機に見舞われているという。本作のジャケットに映り込んだ空が真っ黒なのも、不思議はない。

 覚醒を経て戦略を少々変えたSMは、今後どうなるのだろう。本作のヒットによってイギリスにおいては人気の面での最初のピークを迎えたと言えるし、知名度の広がりに伴いコア・ファンだけではなくグレー・ゾーンの聴き手も増えてくるタイミング。実際、知人の友人には「四文字言葉で罵りまくっててすげえ。最高!」とSMにうっぷん晴らしを求めるだけのファンもいるというし(中学生じゃあるまいし)、ジェイソンが否定しているにも関わらず彼らに付いて回る「政治的なアクト」や「労働者階級の声」なるレッテルを作品そのものをちゃんと聴かないまま鵜吞みにし、SMのリアルさを問う声も出てくる(ストレート・エッジじゃあるまいし)。こうした状況に、イギリスにおいてオイ!パンクがたどったのに似た展開を想像できてしまうのには軽く目眩すら感じる(たぶん、筆者の杞憂ですが)。

 “ジョブシーカー”のコーラスを合唱し拳を突き上げ、“ツイート・ツイート・ツイート”のUKIP批判に溜飲を下げるのも、もちろんOK。が、モッシュの汗が拭われビールの泡が消え嗄れた喉の痛みが去った後も、本作に描かれる様々な闇は残る。ブレクシットも、トランプも、簡単には去らない。だったら、腹をくくって長期戦の準備をはじめるしかない──常にリアリストであり続けてきたSMにはその点が見えている。『ET』はいささか重いアルバムだが、それは嘘をついていない音楽だからだ。

Daymé Arocena - ele-king

 2015年7月20日にキューバはアメリカと54年ぶりの国交回復を果たし、その後オバマ前大統領や安倍首相がキューバを訪問し、ラウル・カストロ国家評議会議長との首脳会談をおこなった。そして、2016年11月25日にフィデル・カストロ前議長死去のニュースが世界を駆け巡ったが、近年のキューバの自由化は世界の政治・経済に大きな影響を与えている。一方、音楽やスポーツの面では、キューバの世界に対する影響力は昔から計り知れない。キューバ音楽はラテン音楽の中枢をなすもので、たとえば20世紀前半に誕生したソンはその後のラテン・ダンス音楽の基盤となり、そこからルンバ、マンボなどがアメリカはじめ世界でも流行した。1959年にキューバ革命が起こり、アメリカとの国交が断絶するものの、ニューヨークを中心にアメリカのキューバ移民はラテン音楽の発展に大きく貢献している。また、1970年代はイラケレがキューバ音楽にファンクやフュージョンを取り入れた電化サウンドで、旧ソ連など共産圏でも人気を得た。そして、1990年代後半にブエナビスタ・ソシアル・クラブが誕生し、再度キューバ音楽にスポットが当たる。一方、クラブ・サイドから登場したニューヨリカン・ソウルも、その源流を辿ればキューバ音楽にたどり着く。さらに、ジャイルス・ピーターソンによるプロジェクトの「ハバナ・カルチュラ」が2008年にスタートし、伝統的なキューバ音楽とクラブ・サウンドの融合が試みられ、キューバ音楽の新しい時代が始まった。そこから発展してマーラの『マーラ・イン・キューバ』(2012年)が生まれ、「ハバナ・カルチュラ」にも参加したシンガーのダイメ・アロセナがソロ・デビューした。

 ダイメ・アロセナは20代前半の若手女性シンガーだが、8歳からセミ・プロ活動をおこない、14歳でビッグ・バンドのロス・プリモスのリード・シンガーに抜擢され、キューバを訪れたウィントン・マルサリスとも共演するなど、ソロ・デビュー前から既に実績は十分だった。キューバの国立音楽学校でクラシックとキューバ音楽を学び、クワイアで宗教音楽のサンテリアを歌う一方、ジャズからネオ・ソウル、R&Bといったアメリカ音楽にも親しんできた。キューバ音楽やジャズの伝統的な技法やフィーリングを身につけながら、同時に現代的な手法や表現も理解し、その融合や発展を示していくことができるシンガーだ。音楽学校で基礎から学んでいるため、歌だけでなく作曲やアレンジもおこない、コーラスの指揮者やバンド・リーダーとしての顔も持つ。ジャイルスの〈ブラウンズウッド〉からリリースされたファースト・アルバム『ヌエヴァ・エラ』(2015年)は、キューバ音楽にジャズやソウルの要素を交えた意欲作で、そうした彼女の試みやライヴでの迫力あるパフォーマンスは高い評価を得た。『ヌエヴァ・エラ』発表後は、ワールド・ツアーをおこなってさまざまなフェスにも出演してきたが、そうした合間の中で新作『キューバフォニア』は録音された。

 タイトルが示すように、本作はキューバと米国カリフォルニア州ロサンゼルス録音が収められる。LA録音では、ビルド・アン・アーク、ライフ・フォース・トリオなど、2000年代からカルロス・ニーニョ関連の多くのプロジェクトに参加してきたドラマー、デクスター・ストーリーが共同プロデュースをおこなう。彼はドラム以外にも数多くの楽器を演奏するマルチ・ミュージシャン/プロデューサーで、ソロ・アルバムの『ウォンデム』(2016年)ではエチオピアン・ジャズに傾倒した世界も見せるなど、民族音楽に通じたところもある。従って、ダイメのようなキューバ音楽についても十分に理解した上でのレコーディングだったのだろう。また、デクスター・ストーリーとは数多く共演する盟友のミゲル・アトウッド・ファーガソンが、ストリングスを担当しているという点も心強い。キューバ録音は、日頃からダイメと一緒に演奏をおこなう若手ミュージシャンたちが参加。現在のキューバ音楽を担う実力派によるビッグ・バンドで、ダイメがもっとも得意とする演奏形態となっている。

 『ヌエヴァ・エラ』はジャイルスと「ハバナ・カルチュラ」などにも関わったシンバッドとの共同プロデュースで、ロンドン録音にキューバでのレコーディング素材も混じったものだった。それによってキューバ音楽の伝統に現代性を融合した作品となっていたわけだが、本作はビッグ・バンドというダイナミックな演奏形態により、キューバ音楽の真髄である祭事のようなパワフルさが強調されている。神が降臨するがごときドラマ性に満ちた“エレグア”が好例で、往年のイラケレやロス・バン・バンを思わせる迫力の演奏とヨルバ語による霊的なコーラスは、キューバという土壌がなければ生み出せないものだろう。“ラ・ルンバ・メ・ラーモ・ヨ”のダイメのヴォーカルには、ジャズやネオ・ソウルの影響が見出せるものの、演奏自体は伝統的なルンバ形式に則っている。後半のインプロヴィゼイション感に富むリード・ヴォーカル&コーラスも圧巻で、キューバ音楽が持つ高揚感を見事に表現している。これら冒頭の2曲からもわかるように、『キューバフォニア』は『ヌエヴァ・エラ』よりさらに、ルンバやマンボなど古典的な音楽形式を踏襲し、20世紀の黄金時代を彷彿とさせるキューバ音楽ルネッサンスを謳ったものとなっている。そうした音楽的ベースを確立させた上で、マンボ形式の“マンボ・ナ・マ”ではパーカッシヴなビートにリズミカルなヴォーカルを組み合わせ、ニューヨリカン・ソウルにも通じるクラブ・サウンド的要素も垣間見せる。メロウネスに富む“コモ”ではミゲル・アトウッド・ファーガソンのストリングスが効果的で、ソウルにラテン音楽特有の哀愁を巧みに織り交ぜた作品となっている。キューバ音楽を軸にいろいろな音楽を融合し、また伝統性と革新性を同居させる点が、ダイメ・アロセナの真骨頂なのである。

 昨年7月、世を去ったウッドマンがのこした音源の発掘を日々進める虹釜太郎氏と〈WOOD TAPE ARCHIVES〉主宰のhitachtronics氏による「ウッドマンを聴く会」が来る18日、神楽坂のNotre Musiqueに「北極ブギー vol.1」と称してお目見えする。主旨はいたってシンプル、よほどのウッドマン好きでも聴き逃したにちがいないカセット時代の名曲迷曲凄曲の数々をかけ聴きかけ聴きまた聴くこと。タイトルはウッドマンの未発表のフル・アルバム『Alaska2』冒頭の「北極ブギーdub」より拝命。Vol.1と掲げるだけに2弾、3弾と陸続するのを願ってやまないが、月あけて翌月の2日には空間現代のジョウバコである京都の「外」で「ウッドマンを聴く会」の出張版ともいえる「無機むき音楽研究所とゾンビサントラ解剖とウッドマンという謎」をふくむ2デイズ・イベントもあります。前日のエイプリルフールには「パリペキン未解決事件となぞ音楽」と題し、24年前にオープンしたレコード店パリペキンをふりだしに〈360°records〉、〈drifter〉、〈radio〉などのレーベル運営をとおし音(楽)のおおいなるナゾに併走しつつそのナゾを深めつづける虹釜太郎の足跡をたどるトークとゲストライヴがおこなわれるという。さらにとってかえす道中の伊勢では4日には多士済々によるトークとウッドマンの楽曲をもちいたDJイベントも。
 はたして事件はぶじ解決するのか迷宮に入るのか、予断を許さないが、ネット時代の整然としたアーカイヴにはあらわれない、歴史の地層にはしる断層と切断面を体感すべく、ぜひ会場に足をはこばれたい。 (松村正人)


■ ウッドの坩堝presents『北極ブギー vol.1』
2017年3月18日(土)15:00~20:00
神楽坂Notre Musique
No Charge (要ドリンク代/カンパ希望)
出演:虹釜太郎 / hitachtronics
※WOODMAN’s LABEL Sound Only.


■ 虹釜太郎の「パリペキン未解決事件」2days
2017年4月1日(土)、4月2日(日)
両日ともに開場:16:30 開演:17:00
料金:前売り2,000円、当日2500円
ウェブ予約(https://soto-kyoto.jp/0401-0402reservation/

4月1日
パリペキン未解決事件となぞ音楽

第一部 
ゲストライヴ:buffalomckie

第二部
パリペキン前史~未解決なこと~音楽をめぐる難題~
なにがアウトサイダーか~これからも記憶から消えたままかもな音楽と音と音楽家について

第三部
謎音楽の夕べ
トークゲスト:buffalomckie

4月2日
無機むき音楽研究所とゾンビサントラ解剖とウッドマンという謎

第一部 
ゲストライヴ:bonnounomukuro

第二部 
無機むき音楽研究所(忘れられた音楽)

第三部 
ゾンビ映画サントラ解剖サンプル

第四部 
ウッドマンのカセットレーベル【wood】と【japonica】と北極ブギー
トークゲスト:bonnounomukuro、hitachtronics
(New Masterpiece)
※4月2日資料協力:ウッドの坩堝 WOOD TAPE ARCHIVES


■ 北極ブギウギ全員集合
2017年4月4日(火)19:30~
伊勢2NICHYOUME PARADAISE
Charge: 1,500円

第1部:ウッドの坩堝トーク
第2部: WOODMAN楽曲使用でのDJ
出演:虹釜太郎 / takuya / bonnounomukuro / hitachtronics / buffalomckee
食料:再生▷

WOOD TAPE ARCHIVES
https://woodtapearchives.tumblr.com/
https://woodtapearchives.bandcamp.com/


https://soto-kyoto.jp/

Heroes - ele-king

 デヴィッド・ボウイの黄金期を1970年代とするなら、その最後の栄光の日々を彼はベルリンで送っている。コカインと水だけで生きていたと揶揄されるほど荒んだアメリカ時代に見切りを付けたとき、ボウイはロンドンに戻らず、西ドイツへと向かった。実現しなかったとはいえ、クラフトワークにツアーのフロントアクトをオファーし、ノイ!を愛聴し、旧友イーノが訪ねたクラスターの城に興味を覚え、そして彼はあらたな拠点としてベルリンを選んだ。やがて『ロウ』というタイトルの、スーパースターが企てた、ヒットパレード音楽からのもっとも過激な離脱が生まれた。
 『ヒーローズ ──ベルリン時代のデヴィッド・ボウイ』は、ドイツ人・ジャーナリストが描く、1976年から1978年までのデヴィッド・ボウイのドキュメント、物語、記録、解説、だ。ルー・リードは行ったことがない街の幻想を『ベルリン』として描いたが、ボウイはイギー・ポップを連れて、壁に囲まれたその歴史的な街に実際に住んだのだ。
 そこは1920年代の、ワイマール時代の幻影を残しながら、しかし大戦後東西に引き裂かれた街だった。時期はパンク台頭前夜、ドイツの左翼運動の転機となった「ドイツの秋」と重なる。また彼の地においてはデヴィッド・ボウイは、ベルリンの集会に出席したミシェル・フーコーが、深夜、フランス現代思想をドイツで出版する版元の編集者に連れられていった有名なゲイ・バーの常連だった。歴史のうねりを感じながら、デヴィッド・ボウイは、この時代の彼の圧倒的な名曲、先駆的なサウンドと素晴らしい言葉を持った“ヒーローズ”を描き上げている。
 本書は、ワールド・ミュージックを取り入れた『ロジャー』でベルリンから旅立つまでの濃密なときを数々の文献をもとに再構築しながら描き、ドイツ人ジャーナリストは、デヴィッド・ボウイとは何者であり、ベルリンとはいかなる場所であったのかを考察する。
 デヴィッド・ボウイのベルリン3部作こそ好きだ、というファンは必読。

ヒーローズ──ベルリン時代のデヴィッド・ボウイ
トビアス・ルター 著/沼崎敦子 訳
Amazon


■目次

INTRODUCTION

1 地獄から来た男
THE MAN WHO CAME IN FROM HELL

2 ボウイ教授のキャビネット
THE CABINET OF PROFESSOR BOWIE

3 『ロウ』、あるいはスーパースターの医療記録
LOW, OR A SUPERSTAR’S MEDICAL RECORDS

4 新しい街、新しい職
NEW CAREER, NEW TOWN

5 崖っぷちのパーティ
THE PARTY ON THE BRINK

6  デヴィッド・ボウイを見たかい?
DID YOU SEE DAVID BOWIE?

7 ヒーローズ
HEROES

8 さらばベルリン
GOODBYE TO BERLIN


結び 彼は今どこに?
CODA: WHERE IS HE NOW?

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