「Nothing」と一致するもの

Chihei Hatakeyama + Federico Durand - ele-king

 いまや日本のアンビエント・ミュージック・シーンを牽引する存在といっても過言ではない畠山地平。彼は2006年に米〈クランキー〉からデビューして以降、〈ルーム40〉、〈ホーム・ノーマル〉、〈オウン・レコード〉など国内外のレーベルから素晴らしいアンビエント・ミュージックを多くリリースしてきたアーティストである。
 また、マスタリング・エンジニアとしれも知られる畠山は、レーベル〈ホワイト・パディ・マウンテン〉を主宰し、自身のソロ・ワークやコラボレーション・ワークのみならず、シェリング(新作リリース!)、岡田拓郎+ダエン、ハコブネ、ファミリー・ベーシック、フェデリコ・デュランドなど、数多くのアーティストたちの素晴らしいアルバムを送り出してきた。このラインナップを見るだけでも分かるが、〈ホワイト・パディ・マウンテン〉がリリースする作品は、いわゆるアンビエントだけに留まらず、シューゲイザーからドリーミーなポップまで実に幅広い。しかし、そこには共通するトーンがあるようにも思える。
 マスタリング・エンジニアでもある畠山らしいサウンドのトリートメントかもしれないが、それだけではない。どの作品からも濃厚な「アンビエント/アンビエンス」の空気が醸し出されているのだ。清冽で、濃厚な、空気=時間の深い感覚。それが〈ホワイト・パディ・マウンテン〉の魅力に思える。そして、これは畠山地平のアンビエント作品にも共通する感覚である。

 この春、〈ホワイト・パディ・マウンテン〉から2枚のアンビエント・アルバムがリリースされた。ひとつは、畠山地平+フェデリコ・デュランドによる『ソラ』。もうひとつは伊達伯欣(イルハ)とフェデリコ・デュランドのデュオ・ユニット、メロディアの新作『スモール・カンバセーションズ』である。
 フェデリコ・デュランドはアルゼンチン出身で1976年生まれのアンビエント・アーティスト。〈ホワイト・パディ・マウンテン〉、〈スペック〉、〈12k〉、〈プードゥ〉など錚々たるレーベルからアルバムを発表してきたことでも知られ、この2017年は、すでに〈12k〉からソロ・アルバム『ラ・ニーニャ・ジュンコ(La Niña Junco)』を発表している。『ラ・ニーニャ・ジュンコ』もまた彼らしい優雅な時間と深い記憶の交錯、純朴な音と繊細なサウンド・トリートメントによって、「音楽」が溶け合うようなアンビエント・アルバムに仕上がっていた。聴いていると耳がゆっくりと洗われるような気分にもなってくる。ちなみにローレンス・イングリッシュが主宰する〈ルーム40〉からの新作も控えている。

 そう考えると、フェデリコと畠山地平とのコラボレーションの相性の良さも分かってくるだろう(彼らは新作『ソラ』以前もコラボレーション作品をリリースしている)。畠山のアンビエンスもまた身体の記憶から生まれるような濃厚な時間、繊細さを称えたアンビエントなのである。ゆえに彼らの音は体に「効く」。聴き終わったあとに心身ともに浄化された気分になる。
 本作『ソラ』もまた同様である。1曲め“アナ”の密やかなノイズの蠢きと細やかな音の揺らぎ、音楽と音響の境界線が溶け合うアンビエンス。2曲め“ナツ”の深い響きと繊細な音量の変化によって生まれる透明なドローン。3曲め“ルイザ”の星の光のような音の瞬きの清冽さ。4曲め“キサ”の冬の厳しさのようなノイジーな音。5曲め“イルセ”の春の息吹のようなアンビエント/アンビエンス。
 全5曲、どのトラックも、ふたりのアンビエント・アーティスト特有の「時間・記憶・音意識」が繊細な空間意識と音響感覚で見事に融合している。記憶と時間の結晶? まるで異国の地への郷愁のような、不思議な旅情を称えたアンビエント・アルバムのようにも思えた。

 一方、伊達伯欣とフェデリコ・デュランドのデュオ、メロディアのサード・アルバム『スモール・カンバセーションズ』は、音数を限りなく減らしたミニマムな音世界を展開する。ふたりのギター、ピアノ、僅かな環境音。このミニマムな編成のなか、伊達とフェデリコは、非反復的に、点描のようにポツポツと素朴な響きを落としていく。まるで小さな会話のように。とても少ない音数だからこそ、聴き手との「あいだ」にもイマジネーションゆたかな「会話」=「音楽」が立ち現われてくる。それは慎ましやかな「音楽」だが、同時に、聴き手を深く信頼しているような音楽/アンビエンスである。
 1曲め“ア・ブルー・プレイス”と2曲め“ア・ラスト・メッセージ・オブ・ア・レイニー・デイ”は、ふたりのギターによる点描的で乾いた音の連鎖。3曲め“レヴェリー”では淡いピアノが断続的に鳴り、朝霧のようなドローンが生まれては消えていく。4曲めにして最後の曲“ア・ライラック・ネーム・リィトゥン・オン・ウォーター”は楽器が消え去り、透明なアンビエント/ドローンを展開する。その透明な空気のカーテンのようなドローンに、微かなノイズがレイヤーされ、音楽・記憶・時間の融解するような感覚が生まれているのだ……。

 以上、2作とも作風の違うアンビエント作品だが、濃厚で繊細な時間の生成という意味では共通する。美しく、儚く、優しく、心と体に効く。そんなアンビエント/アンビエンスのタペストリーがここにあるのだ。新しいアンビエント・ミュージックを聴きたい方に、心からおすすめしたいアルバムである。

TOYOMU - ele-king

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Rohey - ele-king

 ノルウェイの〈ジャズランド〉は、かつて1990年代後半から2000年代初頭にかけ、フューチャー・ジャズというキーワードが浮上した頃に脚光を浴びたレーベルである。設立者でもあるブッゲ・ウェッセルトフトを筆頭に、シゼル・アンデルセン、ビーディー・ベル、ウィビューティーなどが作品を発表している。ウェッセルトフトはもともとコンテンポラリー・ジャズ畑出身のピアニストだが、そこからエレクトロニックなクラブ・サウンド方面へと進んでいったヨーロッパにおける先駆的存在である。エレクトリック・ジャズにディープ・ハウスやテクノを融合したそのサウンドは、クラブ・シーンでも火が付いてカール・クレイグなども絶賛していた。そして、ウェッセルトフトは後にローラン・ガルニエ、ヘンリック・シュワルツ、ジョー・クラウゼルなどともコラボをおこなっている。その後、フューチャー・ジャズという言葉が廃れるとともに、〈ジャズランド〉がクラブ寄りの作品をリリースすることは減っていったのだが、この度リリースされたローヘイというアーティストの『ア・ミリオン・シングス』は、久々にかつてのクロスオーヴァーな要素に溢れた〈ジャズランド〉を彷彿とさせる作品だ。

 ローヘイは黒人シンガーのローヘイ・ターラーを軸とするユニットで、白人のイワン・ブロンクイスト(キーボード)、クリスチャン・B・ヤコブセン(ベース)、ヘンリック・ロードーエン(ドラムス)からなるバンド・スタイルを取っている。ローヘイ・ターラーについて、北欧のメディアはジル・スコットなどのネオ・ソウル系シンガーから、ローラ・ムヴーラなども引き合いに出している。メンバーはいずれもオスロで活動する若手ミュージシャンたちで、グループの結成は3年ほど前。どのようにして〈ジャズランド〉から本デビュー作を発表することになったのかは不明だが、サウンドのタイプとしてはビーディー・ベルのように女性ヴォーカルを武器とするソウルフルなものである。2000年代前半に活躍したビーディー・ベルのプロダクションは、アシッド・ジャズ的なものからドラムンベース、ブロークンビーツやディープ・ハウスを取り入れたものとヴァラエティ豊かで、そしてかなりポップな側面を意識したジャズだった。ローヘイもジャズを基盤に、ソウルやファンクなどへと触手を伸ばしたフュージョン・サウンドと言える。現在のアーティストと比較するなら、女性シンガーがキーになっている点で、ネイ・パームを擁するオーストラリアのハイエイタス・カイヨーテに近いだろう(グループの編成も同じである)。実際にそのサウンドもハイエイタス・カイヨーテを意識したようなところがあり、同じようなカテゴリーではスナーキー・パピーからムーンチャイルド、ロバート・グラスパー・エクスペリメントにサンダーキャットなどのそれを彷彿とさせる場面もある。すなわち、ジャズにネオ・ソウル、ファンクにヒップホップ、ロックにブギーにAORなどが自然体で繋がった、現在のフュージョン・サウンドそのものだと言える。

 “アイ・ファウンド・ミー”はフェンダー・ローズとタイトなリズム・セクションをバックに、ローヘイ・ターラーのアルト・ヴォイスがクールなジャズ・ファンク調のナンバー。アシッド・ジャズ的な匂いとともに、1970年代のロイ・エアーズやジェイムズ・メイソン的な雰囲気もある。“マイ・レシピ”はジャズ・ロックで、こちらはリターン・トゥ・フォーエヴァーとかビリー・コブハムなどを彷彿とさせる。こうした例からわかるように、ローヘイには1970年代のジャズを中心としたその周辺のサウンドからの影響が色濃く表われている。“セルフォンズ・アンド・ペイヴメンツ”での幻想的な音色にも顕著だが、ブロンクイストの奏でるエレピやピアノがグループのサウンドで重要な鍵を握っていることがわかる。“テル・ミー”はロバート・グラスパー・エクスペリメントに近いタイプのネオ・ソウル的な曲で、ブロンクイストの美しいピアノとともにロードーエンの細かく刻まれた今っぽいドラムのコンビネーションが見事。“ナウ・ザット・ユー・アー・フリー”や“マイ・ディア”もローヘイのソウル・サイドを象徴する作品で、ローヘイ・ターラーの切々とした歌が光る。このあたりの雰囲気はムーンチャイルドに通じるものだ。“レスポンシビリティーズ”でもグラスパー的なエレピと今風のドラムがフィーチャーされているが、ローヘイ・ターラーの艶やかな歌があるため、全体的によりソウルフルなムードがある。そして何よりも、4ピースのバンドでありながら壮大なスケールを作り出してしまう点がローヘイの魅力のひとつ。こうしたバンドとしての力量はハイエイタス・カイヨーテにも匹敵するだろう。

 “イズ・ディス・オール・ゼア・イズ?”“キャント・ゲット・ディス”“アイ・ワンダー”などはハイエイタス・カイヨーテ的と言えるフュージョン・ナンバーだ。ハイエイタス・カイヨーテでも、ドラムのサイモン・マーヴィンがサウンドの骨格作りに多大な貢献を果たしているが、これら作品でもロードーエンの役割は大きい。“キャント・ゲット・ディス”はサンバ風のビートを用いた躍動感のあるもので、“イズ・ディス・オール・ゼア・イズ?”では彼のドラムからダイナミズムが生み出されている。アルバム・タイトル曲の“ア・ミリオン・シングス”もリズム・チェンジの激しい変則的な曲だが、それをうまく進行させるのもロードーエンのドラムやヤコブセンのベースがあるからだろう。なお、ローヘイはライヴ・アクトとしても北欧中心に活躍の場を広げている最中で、近い将来にはハイエイタス・カイヨーテのように世界的な成功を収める存在となることだろう。

Jeff Parker - ele-king

 去る4月に最新ソロ作『The New Breed』の日本盤がリリースされたジャズ・ギタリスト、ジェフ・パーカー。彼はトータスのメンバーとして有名ですが、ソロとしても魅力的な活動を継続しています。その彼の来日公演が来週から始まります。スコット・アメンドラ・バンドやトータスのステージも含めると、なんと14公演もプレイする予定です。詳細を以下にまとめましたので、ぜひチェックしてください!



■SCOTT AMENDOLA BAND featuring
 NELS CLINE, JEFF PARKER, JENNY SCHEINMAN & CHRIS LIGHTCAP

会場:COTTON CLUB
日程:2017年5月11日(木)~5月13日(土)
時刻:
●5.11 (thu) & 5.12 (fri)
[1st. show] open 5:00pm / start 6:30pm
[2nd. show] open 8:00pm / start 9:00pm
●5.13 (sat)
[1st. show] open 4:00pm / start 5:00pm
[2nd. show] open 6:30pm / start 8:00pm
出演:Scott Amendola (ds), Nels Cline (g), Jeff Parker (g), Jenny Scheinman (vln), Chris Lightcap (b)

* ウィルコのネルス・クラインとともにスコット・アメンドラ・バンドの公演に出演。

https://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/scott-amendola/


■Jeff Parker『The New Breed』発売記念ミニ・ライヴ、トーク&サイン会

会場:タワーレコード 渋谷店 6F
日時:2017年5月14日(日) 16:00 start
出演:Jeff Parker (Jeff Parker & The New Breed, TORTOISE), 柳樂光隆 (Jazz The New Chapter) ※インタヴュアー

* 〈HEADZ〉主催のインストア・イベントに出演。今回の来日公演のなかでは唯一のソロ・ライヴ。

https://towershibuya.jp/2017/05/01/95261


■TORTOISE

会場:Billboard LIVE TOKYO
日程:2017年5月15日(月) & 2017年5月17日(水)
時刻:[1st] 開場 17:30 開演 19:00 / [2nd] 開場 20:45 開演 21:30

会場:Billboard LIVE OSAKA
日程:2017年5月19日(金)
時刻:[1st] 開場 17:30 開演 18:30 / [2nd] 開場 20:30 開演 21:30

* ビルボードライブ東京およびビルボードライブ大阪にてトータスの単独公演が開催。

PC: www.billboard-live.com
Mobile: www.billboard-live.com/m/


■GREENROOM FESTIVAL ‘17

会場:横浜赤レンガ地区野外特設会場
日程:2017年5月21日(日)

* GREENROOM FESTIVAL ‘17の2日目、〈GOOD WAVE〉ステージにトータスとして出演。

https://greenroom.jp

【リリース情報】

アーティスト: Jeff Parker / ジェフ・パーカー
タイトル: The New Breed / ザ・ニュー・ブリード
レーベル: International Anthem Recording Company / HEADZ
品番: IARCJ009 / HEADZ 218
発売日: 2017.4.12
価格: 2,000円+税
日本盤ライナーノーツ: 柳樂光隆(Jazz The New Chapter)
※日本盤のみのボーナス・トラック Makaya McCraven Remix 収録

[Tracklist]
01. Executive Life
02. Para Ha Tay
03. Here Comes Ezra
04. Visions
05. Jrifted
06. How Fun It Is To Year Whip
07. Get Dressed
08. Cliche
09. Logan Hardware Remix (produced by Makaya McCraven)

https://www.faderbyheadz.com/release/headz218.html


【関連盤ご紹介】

アーティスト: Jamire Williams / ジャマイア・ウィリアムス
タイトル: Effectual / エフェクチュアル
レーベル: Leaving Records / Pヴァイン
品番: PCD-24617
発売日: 2017.4.19
価格: 2,400円+税
解説: 柳楽光隆(Jazz The New Chapter)
※日本盤限定ボーナス・トラック2曲収録

[Tracklist]
01. Who Will Stand?
02. The Fire Next Time
03. Selectric
04. Truth Remains Constant
05. Dos Au Soleil
06. Chase The Ghost
07. Wash Me Over (Pollock's Pulse)
08. In Retrospect
09. Futurism
10. [ Selah ]
11. Children Of The Supernatural
12. Illuminations
13. The Art Of Losing Yourself
14. Collaborate With God
15. Collaborate With God (Drums and Strings Mix)
16. Triumphant's Return

* ジェフ・パーカー『The New Breed』にも参加するドラマー、ジャマイア・ウィリアムスによるデビュー・アルバム。

https://p-vine.jp/music/pcd-24617

interview with Arca - ele-king

自分は100%プロデューサーだとも、あるいは自分は100%シンガー・ソングライターだとも感じていないんだよ。僕が「自分は中間にいる、どっちつかずだ」と感じる。そんなわけで、僕のこれまでの人生というのはずっとこう、思うに……「中間に存在する」っていう瞬間の集積なんじゃないかな。


Arca - Arca
XL Recordings/ビート

ExperimentalArca

Amazon

 無性の生命体である「ゼン」、あるいはその名の通りの「ミュータント」と、これまでのアルカの表現は自画像を極端なまでに奇形化したものとして出現していた。それは彼、アレハンドロ・ゲルシのルーツであるヴェネズエラにおいて同性愛を隠さねばならなかったことと密接に関わっていることはすでに明らかにされており、彼が描く官能はひどく禍々しくグロテスクなものだ。それはヴェネズエラ時代の彼にとってセクシュアリティ自体が端的に異物だったからだ。
 さらに過剰に断片化したビートやノイズが吹き荒れる攻撃的なミックステープ『Entrañas』を通過して、しかし、彼の新作『アルカ』はゲルシ自身の声と歌を中心に据えたもっとも甘美な一枚となった。そこではたしかにインダストリアルな音色や複雑怪奇な打撃音の応酬も聞こえはするが、それ以上に引きずりこまれるように誘惑的な旋律が響いている。それはかつて自分が話していた言葉であるスペイン語で歌うことを通して、自身の内面と過去の痛ましい記憶にさらに潜行し、そこにたんなる悲しみや苦しみで終わらない美しい何かを見出したことによるものだ。『アルカ』はだから、ゲルシが異物としての自分を柔らかく受容するアルバムである。
 
 以下のインタヴューでアルカは、自らのメランコリーやセクシュアリティ、歌うことやあるいは彼だけの「美」について驚くほど率直に語っている。隠蔽されていたものが解放される瞬間に沸き起こるエロス、その眩しさをアルカはわたしたちに余すことなく体感させようとする。 (木津)

このレコードで何が起きたかと言うと――たまたまなんだけれど、自分の取り組んでいたテーマ群そのものが、僕に自分のヴォイスを用いることを欲してきたんだ。だから、ある特定の類の……「傷つきやすさ」を現す、その必要が僕にはあった、と。それからまた、ある種の……「生々しさ」を体現する、その必要もあった。

坂本(以下、□):もしもし、アルカでしょうか?

アルカ:うん、アルカだよ。(日本語で)ハジメマシテー!

(笑)わぁ……ハジメマシテ! す、すごいな(笑)。えーと、電話インタヴューをやる予定なんですけども、始めてかまわないでしょうか?

アルカ:(児童が答えるように元気な日本語で)ハイッ!!

(笑)このまま、日本語でインタヴューしましょうか?

アルカ:いやいやいや、それはなし(笑)! どうなるか、想像してごらんよ(笑)……ヨロシクオネガイシマース!

(笑)ヨロシクオネガイシマース。にしても、アルカさん、日本語お上手ですね。

アルカ:日本に行ったことがあるし、日本は大好きだからね。フフフッ!

いつ、日本に行かれたんですか? 

アルカ:日本には何度も行ったよ。たしかもう4回、いや、5回くらい行ったことがあるんじゃないかな。

それは、ライヴをやるために、ですか?

アルカ:最初の3回は、旅行だったね。僕は……とても若い頃から、日本のカルチャーと強いつながりを感じていてね。だから、大学では日本映画と日本文学について学んだんだよ。

ああ、そうだったんですか! それは素晴らしい。

『アルカ』はとても独創的な音響を持ち、メランコリックで、しかもパワフルで、強く訴える何かを持った作品です。まず、アルカにとってはじめてのヴォーカル作品であり、ある意味ではシンガー・ソングライターとしてのアルバムだと言えます。高校生当時ニューロ(NUURO)名義で歌っていたとはいえ、やはりそれとは意味合いがかなり異なると思えますが、アルカというプロジェクトにおいて歌とは何を意味するのでしょうか? 

アルカ:フム……そうだな……君の言わんとしていることは理解できるけれども……そうだな、この点をもっとも簡単に説明するとすれば、思うに……ミュージシャンとして、自分が音楽を作る際に、僕は……ある種の「ゴーストたち」を、人間として、自分の人生のその時々の中に捜し求めているんだよ。で、僕はたいてい、いつも音楽を作っているわけだよね。だから……「これをやろう」と決めると言うよりも、むしろ「受け入れる」ってことなんだ。ときに、直観は僕にとある響きを持つひとつのレコードを作りなさいと言ってくるし、また、その次の作品はそれとはまったく違う音のものになることもある。ただ、そういう経験は僕にとってはべつに目新しいものでもなんでもなくてね。思うに、自分がつねに追い求めているのはそれなんじゃないか、と。
 というわけで……そうだな、今回はある意味、自分にとって楽ではないことをやろうと仕向けた、みたいな感じかな。自分自身にチャレンジしようと、とても努力したよ。というのも……もしも自分が挑戦を受けたら……そうやって、自分自身の内面で何かと闘おうとする、あるいは、自分でもこれまであまりよく知らなかった自分のとある側面にコネクトすべく奮闘すれば……おそらく、自分は自分の「正直さ」を見つけられるんじゃないか? と。コミュニケートするときの誠実さ、ということだよね。で、このレコードで何が起きたかと言うと――たまたまなんだけれど、自分の取り組んでいたテーマ群そのものが、僕に自分のヴォイスを用いることを欲してきたんだ。だから、ある特定の類の……「傷つきやすさ」を現す、その必要が僕にはあった、と。それからまた、ある種の……「生々しさ」を体現する、その必要もあった。だから、純粋に必然、だったんだ。なんというか、ほとんどもう自分の口が勝手に開いて声を出していた、みたいなね。というわけで、僕としては自然に声が出てくるのならそうさせようじゃないか、そう、意識的に決断するしかなかった、という。

なるほど。

アルカ:で……うん、これを「ある意味でのシンガー・ソングライター•アルバム」と呼ぶのはアリだろ? 僕もそう思うんだよ。ただ、僕は……自分のこれまでの過去が非常に……複雑なものであったこと、その点については本当に感謝している、というかな。だから、僕というのは……人生のじつに多くの面において、僕は「自分は“中間点(in between)”にいる」、そんな風に感じていてね。だから、僕はヴェネズエラで生まれたけれど、いまこうして話していてもお分かりのように、ヴェネズエラの訛りなしで英語で話している。だから、僕はふたつの言語をアクセントなしで喋っている、ということ。で、それがどういうことかと言えば、アメリカ、ヴェネズエラの両国でそれぞれ暮らしていたときも、僕はいつだって「自分はアメリカ人だ」とも、あるいは「ヴェネズエラ人だ」とも感じたためしがなかった、という。だから、その意味で、僕には「自分はどこにも属することがなかった」みたいなフィーリングがあるんだよ。で……おそらく僕のセクシュアリティ、それから……僕の装いを通じての自己表現の仕方について、それらを……「アルカは、彼の抱いている“自分は(「あちら」でも「こちら」でもない)中間点に存在する”という感覚を、ああして外に見える形で出している」と評することはできると思う。セクシュアリティ、そしてジェンダーの双方の意味合いでね。

はい。

アルカ:で……だから、僕はそれと同じように、自分は100%プロデューサーだとも、あるいは自分は100%シンガー・ソングライターだとも感じていないんだよ。思うにそれもまた、僕が「自分は中間にいる、どっちつかずだ」と感じる、そういう場所のひとつなんだろうね。そんなわけで、僕のこれまでの人生というのはずっとこう、思うに……「中間に存在する」っていう瞬間の集積なんじゃないかな。で、「中間点」っていうのは、普通はみんなが避ける場所なんだよ。というのも、ものすごく居心地の悪い状態だから。

(笑)たしかに。

アルカ:そういう状態にいるなと自分が感じていると、まず、他者とのコミュニケーションが難しくなる。それに……自分自身に対しても楽でいにくくなる。というのも、「自分はどこにも属せないんだ」って風に感じているわけだからね。だから、たぶん、僕のこれまでの人生というのはすべてそうした「中間点/どっちつかず」の連続だったんだろうし、そんな空間に存在することで自分の感じている苦痛を、僕は……美しいものとして見ようとしている、あるいは、その苦痛から何かしら美しいものを作り出そうとトライしているんだ。おそらく、それがある意味、人間としての僕がたどる人生における旅路なんだろうね。ということは、それらは僕の作る音楽の中にも反映されることになる、という。

なるほど。ある意味、音楽作りを通じて、あなたはあなた自身が快適に感じられる「自分の空間」をクリエイトしようとしてきた、とも言えますか?

アルカ:まあ、そういう風に言うことも可能だろうね。ただ、僕だったらべつの言い方をするだろうね。だから、自分だったら、それをこう言うんじゃないかな……「僕は、自らの弱さの数々を“パワー”に変えようとしている」と。

ああ、分かります。

アルカ:だから、たとえば僕が自ら「恥だ」と感じるような物事、それらを僕は……祝福しようとトライする、というか。自分を悲しくさせてきた色んな物事、それらの中に、僕は……美を見出そうとする、と。だから単純に公平でニュートラルというのではないし、ただたんに「自分が楽に存在できる空間を作ろうとする」ではないんだよ。そうではなく、自分が自分のままで輝けるスペースみたいなものであり、かつ……自分は愛情を受けるに値するんだ、そんな風に感じられる空間、ということなんだ。

はい。

アルカ:だから……ただ「自分のことを許容し、大目に見てもらえる」程度の場ではなくて……愛を見つけることのできる、そういう空間を作ろうとしているんだよ。

と同時に、そこは「あなたがありのままのあなた自身でいられる場所」、でもあるんでしょうね。

アルカ:うん、そうだね。ただし……そう言いつつ、僕はいまのこの回答もややこしくしたいな、と思ってしまうんだけど。

(苦笑)はい。

アルカ:だから、ただたんに「自分自身のままでいることを許す」だけではなくて、同時に自分自身に「変化」も許す、という。

ああ、なるほど。

アルカ:だから思うに、ある意味……「自己」というのはそもそも存在しないんだよ。僕にとっては、そうだね。そう思うのは、もしかしたら僕の生まれ育ちのせいかもしれないけれども。だから僕はこれまで数々の「中間点」に存在する経験を経てきたわけだし、それもあって……僕たちはみんな、ちょっとばかり役を演じているところがあるんじゃないか? そう僕は思っていてね。だからたとえばの話、Tシャツにどうってことのないただのショーツ姿の男性を見かけた、としようか。気取りはいっさいなしだし、とても普通な見てくれの男性。ところが、そんな格好にしたって、やっぱりひとつの選択であることに変わりはない、みたいなね。要するに、ごく普通の格好をするってのは、その人は「目立ちたくない」と思ってるってことだよね。ただ、その「目立ちたくない」という想い自体、その人間が何らかの決定を下した結果だ、という。
 そんなわけで僕からすれば、自分たちの内面世界を、それがどんなやり方であれ、外に見える形で現した表現というのはすべて……とにかく、そこには「リアル」も「フェイク」も存在しないんだ、と。だから、僕たちはたまに自分たち自身で「自分は何かにすごく捕われている」と感じる状態に追い込んでしまうんじゃないか、僕はそう思っていて。ひとは「わたしはこういう人間です、これがわたしなんです」、「わたしはこうじゃなくちゃいけない」などと言うことによって自らを閉じ込めてしまう。そんなわけで、きみに「あなたの音楽は、あなたが自分自身であるためのプロセスということでしょうか?」と問われたら、僕は「イエス」と答えるわけだけど、と同時に「だけど、それ以上に大切なのは、僕自身が変化することのできる、そういう場所を見つけることだ」と言うだろうね。だからそのときどきの僕の感じ方次第で、あるいはその日に自分の感じた「僕はこんな人間なんだな」というフィーリング次第で変われる、そういう場所。だから……たんに「どちらか一方」という話ではなくて、その両方を切り替えることのできる状態、という。それって……より自由に自らを表現させてくれる、そういう何か、なんじゃないかな?

何に対してもコメントがくっついてくる、という。だから、あらゆるものがインターネットによって消費されている時代だし、少なくとも西洋社会のウェブサイト群においては、そこにかならず「ユーザーのコメント欄」みたいなものが添えてあるじゃない?

あなたのアルバム作品はこれまでもセルフ・ポートレイト的な意味合いが大きかったと思うのですが――

アルカ:ああ、うん。

本作『アルカ』ではさらに踏み込んであなたの内面の愛や欲望、性愛といったモチーフが赤裸々に言葉で歌われています。アルバム・タイトルを『アルカ』にしたのも、自身の正体もしくはトラウマを明かすという意味があるのでしょうか?

アルカ:んー……僕としては……「さらに踏み込んだ」、以前よりもその度合いが増したとも、減った、とも言わないね。正直なとこ、そうだな。思うに……僕の中には……人々とコネクトする、それだけの強さを充分に備えた部分もあるからね。

ええ。

アルカ:だから、僕は……自分の音楽において「正直であろう」、そう非常に努力しトライしてきたんだよ。で……ただ、今回のアルバムについては、たまにこんな風に感じもしたんだ。「もしもここで自分を誤解されても、僕としてはオーケイ、かまわない。けれど、僕はより無防備で傷つきやすい何かを、自分自身にもっと近い何かを聴き手とシェアしたいんだ」、とね。で、それをやるのは本当に難しかったんだよ。というのも、とてもおっかないことだからね。そうやって自分の内面を明かすのは、とても恐ろしいことだ。というのも、思うにいまみたいな時代、この2017年という年は、何もかもがこう、ものすごく「即座」なわけじゃない? 僕たちが音楽を消費する、そのやり方にしても一瞬なわけで。

はい。

アルカ:そんなわけで、何に対してもコメントがくっついてくる、という。だから、あらゆるものがインターネットによって消費されている時代だし、少なくとも西洋社会のウェブサイト群においては、そこにかならず「ユーザーのコメント欄」みたいなものが添えてあるじゃない?

ええ。

アルカ:で、そういう2017年の社会に対し自分自身を開いて明かすってのは、かなり……なんというか……フム……だから「危険な行為だ」ってフィーリングがある、という。ゆえにそれをやるには、自分は本当に強いんだ、自らを明かすだけの確信が自分にはちゃんとある、そう強く感じる必要があるんだよ。でも僕にとっては、自分をもっとクリアなやり方で人びとから理解してもらうべくトライすること、それはとても重要だったし、かつ「自分はどちらでもない“中間点”にいる」という風に強く感じている、そういう他の人びととコネクトしようと努めることは非常に大切だったから、(たとえ危険な行為であっても)これはやるに値することだ、そう感じた、みたいな。

なるほど。

アルカ:きっと、それなんだろうね、ひとりの人間としての僕にとって重要なことというのは。だから、人びとから「あなたの音楽を聴いたおかげで、『自分はひとりじゃない』と感じて、孤独感が薄れました」と声をかけられたときだとか……あるいは、「自分は異形の者だ」とか、「自分はミュータントだ」なんて風に感じている誰かのことを、たぶん僕は自分の活動を通じて……ただたんにそのひとに「自分はこのままでかまわない、オーケイなんだ」って感じさせるだけではなくて、彼らを彼らたらしめている「他との違い」を、彼ら自身に祝福させることができるんじゃないかな。あるいは、彼らが自ら恥だと感じているような物事を、そうではなく美しいものとして眺めようとすること、というか。だから、さっききみが言っていたような「自らの内面を明かそう、自分自身の内面における対話をもっと表そう」っていう勇気を僕に与えてくれたのは、たぶん、そうした想いだったんだろうね。意味、通じるかな?

はい、分かります。で、自分自身でこれは重たい作品だと思いますか?

アルカ:(軽く、「ハーッ」と息をついて)……うん、たしかにヘヴィな作品だと感じるけれど……なんというか、その重さというのはある意味……重いんだけど、でも、同時にほとんどもう「祝福」みたいなものでもある重さ、というか。で、これって、以前に友だちに説明しようとしたことと同じ話なんだけど……僕たちのレコードというのは……そうだな、まあ、ここでは、自分が毎回使うおなじみのメタファーにまた戻らせてもらうけれども――まず、「自分はドロドロの沼地の中に立っている」、そういう図を想像してみてほしい。

はい。

アルカ:で……そこは何やら暗い場所で、しかも沼は毒を含んだ有害なもので。その水に、きみは膝まで浸かっている。いや、もっとひどくて、胸までその水に浸かった状態、としよう。

(苦笑)うーん、嫌ですねぇ。

アルカ:ところが、そんな君の頭上には、白い光のようなものが差している、と。だから、その有毒な水というのは、きっと……深淵(abyss。地獄の意味もある)や罪、そして悲しみすら表現しているんだよ。対して頭上にある光というのは、ある種の……希望だ、と。だから、そんな毒性のある水に浸かってきたとしても、その人間がいまだに頭上にある光に目を向け続けているとしたら……それはある意味、ただただ楽しいだけのレコード、「FUN」について歌っただけのレコードよりも、もっとオプティミスティックなものなんじゃないのかな? そうやって重さに敬意を表し讃えるのは、自分が楽しい状態になるための、そして「生」を祝福するための、僕なりのやり方なんだ。というのも、あらゆるものというのは……同じコインの裏/表みたいなものじゃないか、僕はそんな風に思っているからね。たとえば苦痛と歓喜とは、何らかの意味を持つためにそれぞれお互いを必要としているわけだし……そうだね、イエス! だから、僕はこれを「重いレコード」と呼ぶだろうけど、なぜヘヴィな方向に向かったのか? と言えば、それはある意味において、僕が光を信じているからなんだよ。

なるほど。

アルカ:もしも光を信じていなければ、これほど重く感じられる何かを作る、それだけの強さが僕には備わらなかっただろうからね。

そう言われると、これは個人的な印象に過ぎませんけど、アルバムの最後のトラックである“Child”は特に、聴いていると心の中に光を感じる、そういう美しい曲だと思います。

アルカ:それは、とても……(軽く感極まったような口調で)きみがそこを僕と分かち合ってくれたのは、本当に嬉しいよ!

いやいや、こちらこそ、ありがとうございます。

» アルカ、ロング・ロング・インタヴュー(2)

Aphex Twin - ele-king

 フジロックフェスティバルへの出演も話題となっているエイフェックス・ツインが、去る4月28日、リチャード・D・ジェイムス名義で新たなデモ音源を公開した。タイトルは“4xAtlantis take1”で、『ピッチフォーク』によれば、Sequentix のシーケンサー Cirklon をテストするために作られたトラックだそうである。現在、同曲は Sequentix のプロモーション動画にて試聴することが可能。しかしこの曲、か、かっこいいじゃないか……

JOYFUL TOKYO for 2020 - ele-king

 日本のイラストレーション界に大きな足跡を残した河村要助。その展示会が6月5日から10日にかけて、南青山のSPACE YUIにて開催されます。「100パーセント・スタジオ」で活動をともにした湯村輝彦および矢吹申彦の描き下ろし作品も出展されるとのこと。詳細は下記より。

JOYFUL TOKYO for 2020
河村要助傑作イラストレーション展

2017年6月5日(月)~10日(土)
11:00~19:00

天才イラストレーター、河村要助が1985~89年に発表した傑作シリーズ=「ジョイフル・トーキョー」。ニッポンならではの食文化、作法、シキタリ、日常のマナー……それらを、根底にある美意識とともに大キャンバスに描いた愛あるイラストたち。手書の英文解説とともにニンマリ、シミジミと味わう。

原画や版画とともに作品集『河村要助の真実』(*)、グッズなどを展示販売致します。その他初公開作品も展示予定。また、特別参加で幻の「100%スタジオ」の僚友、湯村輝彦、矢吹申彦の描き下ろし作品出展も決定!!

(*)購入の方限定で河村要助の特製絵皿のプレゼントの用意もあります。

会場:SPACE YUI
〒107-0062
東京都港区南青山3-4-11ハヤカワビル1F
03-3479-5889

後援:㈱Pヴァイン
協力:佐藤卓デザイン事務所、y.k.プロジェクト委員会、SPACE YUI

Lusine - ele-king

 昨年は、キルンの『ダスカー』(2007)や、テレフォン・テル・アヴィヴの『ファーレン・ハイト・フェア・イナフ』(2001)がリイシューされるなど、にわかに「00年代エレクトロニカ」再評価の機運が高まりつつある。
 近年ではIDMと称されることも多いエレクトロニカだが、テクノをルーツとしつつ(初期〈ワープ〉、エイフェックス・ツイン、初期オウテカなどのインテリジェント・テクノ)、ルーム・リスニング主体の音楽であったこと、サウンドにハードディスク制作以降の多層性や複雑さがあったということ、それゆえの細やかなサウンドレイヤーゆえ電子音楽の進化を感じることができたことなど、あの時代(90年代末期から00年代中頃まで)のエレクトロニカには不思議な固有性があった。それは90年代のダウンテンポやアブストラクト・ヒップホップなどがサンプリングからHD制作や録音の電子音楽/音響へと変わった時代ともいえよう。

 では2010年代中期である現在、「90年代末期から00年代中期のエレクトロニカ」は、どのような形で受け継がれているのだろうか。近年人気のアンビエント/ドローンにもその流れを聴きとることもできる。となればビートの入ったテクノ以降ともいえるエレクトロニカの系譜は?(それは〈ラスター・ノートン〉などのグリッチ/電子音響の系譜とも違う)と思っていた矢先、今年、ルシーン、4年ぶりの新作『センソリモーター』がリリースされたわけである。
 エレクトロニカ的にはこのリリースは事件といえる。「00年代エレクトロニカ」の技法をここまで継承・洗練させているアーティストやアルバムは、なかなか見つけることができないからだ。00年代の〈n5MD〉、〈U-カヴァー〉、〈メルク・レコード〉などのサウンドを受け継いでいるというべきか。

 ルシーンはジェフ・マキルウェインのソロ・プロジェクトである。1998年からカリフォルニア芸術大学で20世紀エレクトロニック・ミュージックとサウンド・デザイン、映画を専攻していたというジェフ・マキルウェインのサウンドには、実験性と聴き手の心理に寄り添うようなポップさが同居しており、ファースト・アルバム(L’usine名義)『L’usine』から聴き手を惹きつけてきた。続く、ルシーン Icl(Lusine Icl)名義で、〈U-カヴァー〉から『ア・スード・ステディ・ステート』(2000)やライヴ・アルバム『コアリション 2000』(2001)、〈ハイマン・レコード〉から名盤『アイアン・シティ』(2002)をコンスタントにリリースし、エレクトロニカ・リスナーからの信頼と高評価を得た。
 ルシーン(Lusine)名義として2004年に〈ゴーストリー・インターナショナル〉からリリースした『シリアル・ホッヂポッヂ』が最初で、以降は〈ゴーストリー・インターナショナル〉よりいくつものアルバムを送り出していくことになる(ルシーン Icl名義では2007年に〈ハイマン・レコード〉からリリースした アンビエント・アルバム『ランゲージ・バリア』などがある。そのほかレーベルを超えてのリミックス・ワークや本名での映画音楽制作など、その活動は多岐にわたっている)。

 彼のサウンドの特徴は、緻密なビート・プログラミングをベースにしながら、細やかな電子音をレイヤーさせている点にある。フロアとリスニング、聴きやすさと実験性を絶妙なバランスで成立させているのだ。まさに00年代エレクトロニカの特徴を体現しているような存在といえよう。
 そのダウンビート・エレクトロニカとも称したい作風は、4年ぶりの新作となる『センソリモーター』でも変わらない。2009年の『ア・サートン・ディスタンス』で結実した自身のサウンドをより磨き上げているのだ。どうやら「MPC1000、アナログ・シンセ、ハンド・パーカッション、グロッケンシュピール、フィールド・レコーディング、ライヴ・インストゥルメンツのサンプル」などを駆使しつつ、端正にサウンドメイクをおこなっているようで、細やかな電子音をレイヤーさせ、ポップなサウンドに仕上げる。
 なかでも格別にポップな4曲め“ジャスト・ア・クラウド”と8曲め“ウォント・フォーゲット”に注目したい。2曲とも Vilja Larjosto のヴォーカルを細かくエディットし、緻密なサウンドレイヤーの中に馴染ませるように構成・作曲され、どこか都会の夜の孤独な感覚と不思議なサウダージ感が同居し、本アルバム中、格別な存在感を放っている。

 ほかにも、カラカラと乾いた鈴の音のような音から次第にドラマティックなサウンドへと変化する1曲め“キャノピー”、彼の妻サラ・マキルウェインをフィーチャーしたエディット・ポップな2曲め“ティッキング・ハンズ”も良い。また、ミニマル・ミュージックのようなノンビートの音響空間を展開する7曲め“チャター”、ヴォイスなどを加工したノイジーなドローン・トラックの10曲め“トロポポーズ”などから、ジェフ・マキルウェインの幅広い音楽性を垣間見る(聴く)ことができるだろう。
 全曲、端正に作り込まれた、繰り返し聴いても飽きのこない普遍的なエレクトロニカ/エレクトロニック・ミュージックであった。まさに15年以上に及ぶ彼のキャリアを代表する傑作アルバムといえよう。

Oto Hiax - ele-king

 まったく新しい様式を発明したから素晴らしい。かつてないサウンドを鳴らしてみせたから優れている。たしかにそういう評価のしかたはある。あるいは、最近の傾向を反映しているから重要である。こんな時代にこんなサウンドを鳴らしているからこそ価値がある。そういう判断のしかたもある。でも、当たり前の話ではあるが、そういう基準からはこぼれ落ちてしまう作品だってある。特に目新しいわけではない。何かの波に乗っているわけでもない。でも、完成度自体はきわめて高い――Oto Hiaxのこのアルバムはまさにそういう「こぼれ落ちてしまう」作品だ。どうしても何らかの文脈を用意しなければならないのであれば、「90年代リヴァイヴァル」あるいは「00年代リヴァイヴァル」といった言葉をあてがうこともできるだろう。そのどちらにも当てはまってしまうところがこのアルバムの魅力でもあるのだが、しかしどうにもこの作品からは、そういうふうに「整理されてしまうこと」を拒むような不思議な温度が感じられる。
 Oto Hiax は、シーフィールの中心人物として90年代の音楽シーンに多大な痕跡を残したマーク・クリフォードと、ループス・ホーント名義でおもに〈Black Acre〉から作品を発表してきたスコット・ゴードンのふたりから成るユニットである。2015年に自主リリースされた最初のEP「One」の時点では、「とりあえずコラボしてみました」という印象が強く、まだ方向性の定まっていない感のあったかれらだが、ラシャド・ベッカーがカッティング&マスタリングを手掛け、名門〈Editions Mego〉からリリースされたこのファースト・アルバムは、その多彩な音響の実験とは裏腹にしっかりとしたまとまりを持っている。アンビエント、ドローン、シューゲイズ、サイケデリック、ノイズ、ミュジーク・コンクレート、ミニマル……本作にはさまざまなジャンルやスタイルの要素が盛り込まれているけれど、それらの音の群れをひとつの作品としてまとめ上げているのは、牧歌性である。
 このアルバムでは、ぬくもりのあるシンセやフィードバックがどこまでもノスタルジックな風景を現出させている。その繊細な情緒は、はかなげな電子音がよく晴れた穏やかな午後のイメージを呼び起こす冒頭の“Insh”から、すぐに聴き取ることができる。細かく切り揃えられた電子音がセンチメンタルなコードのなかを流れいき、そこにときおり鋭利な刃物が紛れ込む2曲め“Flist”なんかは、ゆったりと水中を漂っているかのような心地良さを与える。こうした牧歌性は、フィードバック・ノイズとエコーが極上のシューゲイズ的サイケデリアを錬成する5曲め“Creeks”にもっともよく表れており、そのたゆたう音の波のなかでわれわれはただただ安らかな光にくるまれることになる。

 しかしこのアルバムはただ夢見心地なだけではない。フィードバックを背後に具体音が舞い踊る3曲め“Dhull”や、民族的な高音とドローンに支えられながらさまざまな音の展覧会が催される4曲め“Eses Mitre”、もこもこした低音としゃらしゃらした高音が耳をくすぐる小品“Bearing & Writhe”と、トラックが進むごとにアルバムはミュジーク・コンクレートの側面を強めていき、それは9曲め“Lowlan”でひとつの山場を迎える。フィードバックとドローンの上をノイズが転がる7曲め“Littics”や、センチメンタルなコードの往復運動をバックに打撃音が乱れ舞う8曲め“Thruft”などでは、シューゲイズとミュジーク・コンクレートが同時に追究されている。ギターが電子音との一体化を目指しているかのような10曲め“Hak”もおもしろい。
 ノスタルジックでドリーミーなムードのなかに、即興的でノイジーな、ある意味では破壊的でもある要素が巧みに散りばめられている。このアルバムのなかを行き交うさまざまな音たちは、生の喜びを祝福すると同時にその喜びに疑いの眼差しを向けてもいる。音たちは交錯しながら、一方で牧歌的な風景を現出させつつ、他方でその素敵な夢の景色に小さな引っかき傷を刻み込もうとする。情緒に頼り切るのでもなく、かといってエクスペリメンタリズムに振り切れるのでもない。感傷と実験との絶妙な共存。
 このアルバムはけっして後世まで語り継がれるような「傑作」の類ではない。が、確実にある一部の人びとの耳を捉え、いつまでもその記憶の隅っこに留まり続けるだろう。ただ垂れ流しているだけでもじゅうぶん心地良いが、じっくり聴き込めば多くの発見がある。すでにさまざまな佳作や話題作が出揃ってきている2017年の音楽シーンだけれど、2月から3月にかけて個人的にもっともよく聴いていたのがこの Oto Hiax のアルバムであった。きっとこれからも何度も聴き返すことになるだろう。白熱する年間ベスト・レースからは「こぼれ落ちる」、地味ながらも愛おしい1枚である。

Juana Molina - ele-king

 先週、3年半ぶりとなる最新アルバム『ヘイロー』を日本先行でリリースしたばかりのフアナ・モリーナですが、このたび彼女の来日公演が発表されました。フアナは先日のインタヴューで「東京と京都に行きたい」と語っていましたが、見事にその夢が叶いましたね。8月19日にサマーソニックの東京会場に出演、翌8月20日には京都METROにて単独公演をおこないます。いったいどんなステージになるのでしょう。すでにチケットの受付が始まっていますので、早めにチェックしておきましょう。

フアナ・モリーナ、3年半振りのニュー・アルバムが日本先行発売!
サマーソニック出演&京都公演も決定!
“Lentísimo halo”のミュージック・ビデオが公開に!

先週金曜日に、約3年半ぶりとなるニュー・アルバム『ヘイロー』を海外に先駆け日本で発売したフアナ・モリーナが、この夏サマーソニックに出演することが決定した! 当日はEGO-WRAPPIN’の中納良恵を迎えたスペシャル・セットとなっており、8月19日(土)に東京GARDEN STAGEに出演する。また翌日には、京都METROにて単独公演をおこなうこともあわせて決定!! こちらの公演は5月2日(火)より早割チケット(¥3,500)の受付スタートとなっている。

好評発売中のニュー・アルバム『ヘイロー』は、フアナらしいエクスペリメンタルな方向性と独特の歌声は健在ながらも、さらなる高みを目指した12曲を収録。催眠作用のあるリズム、魔術、虫の知らせや夢といった隠喩を用いたミステリアスなリリック、感情やムードを体全体を使って表す様は、これまでに増してマジカルである。
そんななか、先日収録曲より“Lentísimo halo”のミュージック・ビデオが公開となった。

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“Lentísimo halo”のミュージック・ビデオはこちら:
https://youtu.be/--pC7g_eGgo
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これはけっして新たに発見されたマン・レイやハンス・リヒターが作る、1920年代のモノクロのエクスペリメンタルな超現実主義的映画ではない。アルゼンチン人映画監督マリアーノ・ラミスが制作した、フアナ・モリーナの新曲のミュージック・ビデオなのだ。
フアナとふたりでアイデアを出し合って完成したこのビデオは、同楽曲を書く際にフアナの脳裏に浮かんできたという“ひし形をしたヘイロー”に関する伝説がインスピレーションの元となっている。
「ヘイローっていうのは、灯りから発されるぼんやりした光や、聖人の頭の後ろに浮かんでいる後光のこと。それは聖なる光ではなくて、夜に野原を漂う緑色の邪悪な光なの。人を追いかけてくることもあって、200年ぐらい前の田舎に住む人びとは恐れていたらしい。現代になって、それは腐った骨から発せられる蛍光性の光だと判ったそうなの」とフアナは話す。

他にも、収録曲“Cosoco”やアルバムのティーザー音源も公開となっているので、あわせてチェックしよう!

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アルバムのティーザー音源試聴はこちら:
https://youtu.be/W6_Dzl712i8
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「Cosoco」の試聴はこちら:
https://soundcloud.com/crammed-discs/juana-molina-cosoco-1
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■来日公演情報

●サマーソニック2017
2017年8月19日(土)、20日(日)
※フアナ・モリーナは8月19日(土)に東京GARDEN STAGEに出演します。
東京会場:ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ
大阪会場:舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
サマーソニック公式サイト:https://www.summersonic.com/2017/

●晴れ豆インターナショナル presents JUANA MOLINA Japan Tour 2017 京都公演
@京都METRO
Open 19:00 / Start 19:30
チケット:5/13より一般発売開始
早割¥3,500 ドリンク代別途 [受付期間:5/2~5/12]
前売¥4,000 ドリンク代別途
当日¥4,500 ドリンク代別途

【限定早割】
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★期間限定:早割¥3,500 ドリンク代別途 [受付期間:5/2~5/12]
※『特別先行早割お申し込み方法』
→ タイトルを「8/20 フアナ・モリーナ 早割希望」として頂いて、
お名前と枚数を明記して 宛てでメールして下さい。
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【一般PG前売り】
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チケットぴあ (0570-02-9999、Pコード:332-717)
ローソンチケット (ローソンLoppi、Lコード:53857)
e+ (https://ur0.work/DfpZ)
にて5/13より発売開始
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詳細: https://www.metro.ne.jp/single-post/170820
お問い合わせ: 075-752-4765


■リリース情報
アーティスト:Juana Molina(フアナ・モリーナ)
タイトル:Halo(ヘイロー)
品番:HSE-6388
レーベル:Hostess Entertainment
定価:2,490円+税
発売日:発売中!(海外発売:5/5)
※日本盤は先行発売、ボーナス・トラック1曲、歌詞対訳、ライナーノーツ(石田昌隆) 付

【トラックリスト】
1.Paraguaya
2.Sin dones
3.Lentísimo halo
4.In the lassa
5.Cosoco
6.Cálculos y oráculos
7.Los pies helados
8.A00 B01
9.Cara de espejo
10.Andó
11.Estalacticas
12.Al oeste
13.Vagos lagos *
* 日本盤ボーナス・トラック

※新曲“Cosoco”iTunes配信スタート&アルバム予約受付中!
リンク:https://itunes.apple.com/jp/album/halo/id1205397001?app=itunes&ls=1&at=11lwRX


■ショート・バイオ
音楽ジャンルの壁を凌駕する唯一無二の独創的才能を持つアルゼンチンのアーティスト。1996年デビュー。'00年に発表した2ndアルバム『セグンド』によって人気に火がつき、徐々に世界にその名が知られ始める。3rdアルバム『トレス・コーサス』は、U2、ビョーク、カニエ・ウエスト、アニマル・コレクティヴなどのアルバムと並んで、『New York Times』の "The Best Pop Album of 2004" に選出される。'04年には元トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンと全米をツアー。来日も多く、レイ・ハラカミ、勝井佑二(ROVO)、高橋幸宏、原田郁子(クラムボン)、相対性理論など日本のアーティストとの共演多数。中納良恵(EGO-WRAPPIN')からフィリップ・セルウェイ(ds. レディオヘッド)まで、様々なアーティストからフェイヴァリットに挙げられている。2013年11月、約5年ぶりとなる最新作『ウェッド21』をリリース。その後もほぼ毎年来日し公演をおこなっている。2017年4月、約3年半ぶりとなるニュー・アルバム『ヘイロー』を発売。8月にはサマーソニックへの出演が決定。

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