「Nothing」と一致するもの

8 イン・サークルズ - ele-king

 リンゴ・スター、チャーリー・ワッツ、ジョン・ボーナム、レヴォン・ヘルム…ロック・ドラマーのコピーから始まった僕のドラム遍歴は、早々と「なんか違う」というところに座礁してしまい、だったらレコードにでも浸ってぷかぷかしていればよかったものの、パーカッションに出会ってやっぱり藻掻くこととなった。レコードのなかのドラマーたちがジャズに影響受けているとか語っているし、部室がかなり自由に使えそうだったから大学のジャズ研に入ったものの、全然スイングしないことをジャズとJ-POPしか聴かない閉鎖的な輪になんて入れるものかなんて責任転嫁して、レコードを漁り倉庫で太鼓ばかり叩いていた所謂ジャズ落第生のまま卒業。それなのにその後も2,3年は寄生虫のように部室で練習する有様。だから、ローラン・ガルニエが自身のラジオで、先日発売したGONNO×MASUMURA『In Circles』を、「ジャズとテクノのハイブリッドだ」と紹介してくれたことは嬉し恥ずかし……。

 「なんか違う」というところをクリアしたかったのは、ロック・バンドに参加してアルバムを作りたかったからで、それは、どうしてもどうにかしないといけないこと、をクリアしないといけないという青春気分から出ないものからで、シェイカーを振ると点ではなくて「シュー」とずっと音が鳴っていることに気づいたときに“なるほど”と、どこかひらめきめいたものを感じたことと、はっぴいえんどに学んだ「オリジナリティを勝ち得るためのルーツからの発進」がリンクした時点で長い道のりは始まってしまい、その過程で時間的にも気分的にも青春なぞ当に過ぎてしまった。ドラムのルーツでありそうなパーカッションからドラムに孵化することができたときには、曲は誰かに任せて、唯一わだかまりなく自分たちのルーツと思えた日本語で歌ってもらえばいいと考えたわけである。だから、いま結果的にドラムと作詞をしているのは誰かに憧れたわけではない。そう理由付けてみたものの、どちらも続けることができたのは、単に肌に合うところがあったからで、出鱈目に練習しながらも、理解半分本を読み漁っていたのも、どこか血行のわるいところをほぐしてもらっているような気分に浸っていただけなのかもしれない。そして、出鱈目を矯正してくれた何人かのパーカッショニストらには感謝しかない。

 そんな遍歴のいつか、10年近くも以前に、前回も登場したAと部室でトニー・アレン研究会をしたことがあった。Aに聴かされたときとても衝撃で、止まらずに流れつづけること、多彩なフレーズのなかにシンプルなエンジンが見いだされ踊れること、そこから来るリズム的説得力、その上でドラムという楽器で喋ることができること、そもそもパーカッションではなくドラムという楽器、とそのとき欲しかったもののすべてがあった。8ビートに孵化する前にここを通らないわけにはいかないと感じた。早速ふたりでコピーがはじまった。はじめはこれ本当にひとりで叩いているのかと、全然にモノにならないは、そのうち頭がどこかわからなくなるほどだったが、まずはバスドラとスネアの関係だけ捉えよう、次にハイハットと左足、くっつけよう、すべての音が繋がっていて、よくできている! すぐにできていたらきっとワン・フレーズとしてしか残らなかったであろう。右手、左手、右足、左足に四人のドラマーがいると語るアレンの凄まじさの断片に少し触れた気がした。彼らはたしかに自在にアンサンブルしている。Aとリンクしたのは、トニー・アレンとスピリチュアル・ジャズで、ロイ・ブルックスの話で盛り上がり、スティーヴ・リードを教えてもらい、一緒にサン・ラ“ニュークリア・ワー"を聴いた。パーカッションは教えてもらうばかりだった。

 別冊ele-king『カマシ・ワシントン/UKジャズの逆襲』でも書かせていただいたが、トニーのドラミングのルーツはパーカッションではなくて、ジャズとりわけバップ・ドラミングだったようだ。子供の頃パーカッションに行かずドラムに行っただけでも驚きなのだが、トニーとジャズに夢中だったフェラ・クティが当時ナイジェリアで断トツに流行っていたハイライフを新しい形で発展させることによってアフロ・ビートを発明した。(余談ですが、それを聞いて、現在たまーに大分で活動する際は専らジャズなのですが、ヒーヒー言いながら真摯に取り組むようになりました……。)

 GONNO×MASUMURAでは、そんな遍歴の途中のことを前面に出させてもらっている。GONNOさんと出会ったきっかけは『ロンドEP』で、あの曲はブラジルっぽいリズムと言われることもあるが、スティックをブラシに持ち替え、右手をハットからスネアに移して、トニーに倣ったリズムを叩いているし、また、編成的にも参考として上がったキエラン・ヘブデン&スティーヴ・リードが、あのスティーヴ・リードだったこともあり、自然とそういう方向性になった。キエラン・ヘブデン&スティーヴ・リードを教えてくれたのは実はGONNO×MASUMURAの発起人でもある野田さんで、障子の目から覗かれているような気がしたものだが、ちょうどそのレコーディング中に教えてもらった最近のUKジャズに、僕はいま、一方的な視線を送っている。つづく

Eartheater - ele-king

ロボットに人種はない ──マッド・マイク
コンピュータは無垢である ──アレクサンドラ・ドリューチン


 これはまた奇妙で、並外れたエレクトロニック・ミュージックのアルバムだ。作者の名前はアースイーター。NY在住のアーティスト、アレクサンドラ・ドリューチンのソロ・プロジェクトで、本作『IRISIR』が3枚目のアルバムになる。彼女はまたグレッグ・フォックスとガーディアン・エイリアンなるプロジェクトで〈スリル・ジョッキー〉などのレーベルから4枚のアルバムを出している。

 ダンスするのと、ダンスさせられるのではまったく意味が違う行為だが、彼女の音楽はダンスするよう感覚を引き起こす。初期ダンス・カルチャーの本当の素晴らしさのひとつは、広告看板が目に飛び込んでくる現代と違って、資本主義的洗脳から完璧に解放されることだった。もっとも、かつてはマトモスのフロントアクトを務めたことがあるアースイーターの音楽は、いわゆるクラブ・ミュージック的なダンスではない。それは聴いたことがあるようでない、まったく新鮮な響きによって病んだ心をみずみずしく再起動させる。2曲目“Inclined”はぼくが今年聴いた音楽のなかで最高の1曲だ。

 ファッキンな水が私の生命
 私はグローブを脱うとする
 分離したレイヤーたちを引き剥がそう
 私は私の身体をカスタマイズする
 営利目的ではない身体に

 美しさと激しさがせめぎ合う。哀愁を帯びたヴァイオリンのループとフットワークを崩したかのようなリズム、そしてアレクサンドラ・ドリューチンの透明な歌声。ケイト・ブッシュは彼女の英雄だが、この音楽をIDM版ケイト・ブッシュと言いたくなるのを抑えなければならない。ムーア・マザーがフィーチャーされた“MMXXX”では、彼女は破壊的なノイズと帰属的なわめき声そしてラップで空間をねじ曲げてみせている。また、“Curtains”ではハーブの音にジェフ・ミルズ流のミニマルがコラージュされ、“C.L.I.T.”では破片となったベース・ミュージックが再構成されているかのようだ。多彩なレイヤーを複合させることの妙は、評価された過去の2枚のアルバムですでに証明済みだが、『IRISIRI』には明確な主題が浮かび上がってくる。テクノロジー、身体、そしてジェンダー。生命と科学。その複雑性。最後の曲、“OS In Vitro(生体外のOS)”では、彼女は自分の詩をコンピュータのtext to speechになんども読ませている。最初は低い声で、そして甲高い声で、そして女性の声でなんどもなんども。

 この身体はケミストリー……ミステリー
 これらの乳房は副作用
 あなたは彼女を算出(コンピュート)できない
 あなたは彼女を算出(コンピュート)できない

 アレクサンドラ・ドリューチンは、歴史的に意味づけされた女性性というアイデンティティの神話を語り直そうとしているように見える。女性なら誰もが見てきた悪夢を振り払うかのように、彼女は自分の身体をあり得ない角度にねじ曲げながら、新しい抵抗の音楽を作り上げている。きっとそうに違いない。

[2019年1月9日編集部追記]
私たち ele-king はアースイーターのこの『アイリシリ』を「2018年ベスト・アルバム30」の第1位に選出しました。それを機に、急遽歌詞・対訳付きの日本盤CDもリリースされることに。紙版『ele-king vol.23』(https://www.ele-king.net/books/006651/)には彼女のインタヴューが掲載されています。非常に興味深い内容ですので、ぜひご一読を!

ele-king vol.22 - ele-king

これは、「音楽が世界をどのように見ているか」という特集である。

特集1:加速するOPNとアヴァン・ポップの新局面

 昔の「良かった」時代への郷愁をぶっちぎり、ポップ・ミュージックは最先端に向かって疾駆する。坂本龍一のリミックス・アルバムへの参加、カンヌ映画祭でのサウンドトラック賞の受賞。着実にアップデイトしているOPNが満を持してポップ・アルバムを完成させた! 間違いなく2018年の話題作となるであろうこの新作を中心に、ポップ・ミュージックにおける先鋭性について特集します。いわゆるアヴァン・ポップと呼ばれる音楽──ポップとは保守的な音楽を意味するようになった現代だからこそ、ビートルズの「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」に端を発した、ポップとアヴァンギャルドの関係を特集します。
 巻頭のOPN ロング・インタヴューに加え、アヴァン・ポップの代名詞とも言えるステレオラブのレティシア・サディエール、知性派の代表としてドイツからはマウス・オン・マーズ、7月に驚異的な新作を控えるダーティ・プロジェクターズのインタヴューも掲載。さてと……OPNは21世紀のブライアン・イーノたりうるのか?

特集2:アフロフューチャリズム

 チーノ・アモービと彼のレーベル〈NON〉の登場は、長きブラック・ミュージック史における衝撃です。彼らの過激なテクノ・サウンドとその政治性は、知性で武装するアフロ・ディアスポラ・ミュージックの新たなはじまりと言えるでしょう。彼らは世界を変えようとしています。彼らの音楽の根底には、ポール・ギルロイの『ブラック・アトランティック』とデトロイトのドレクシアがあります。彼らのコンセプトにはアフロフューチャリズムが横たわっています。
 チーノ・アモービのインタヴュー、ドレクシア再考、ブラック・カルチャーにおける知性と抵抗の系譜、アヴァン・ポップとアフロフューチャリズムを繋ぐクラインのインタヴュー、そしてポール・ギルロイからコドウォ・エシュン、マーク・フィッシャーからニック・ランドまで、音楽に大きな影響を与えているイギリス現代思想の概観──希望なき時代を生きる希望の音楽の大特集です。

contents

巻頭写真:塩田正幸

特集1:加速するOPNとアヴァン・ポップの新局面

preface OPNに捧げる序文 (樋口恭介)
interview ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー (三田格/坂本麻里子)
column 私の好きなOPN(佐々木敦、坂本麻里子、河村祐介、八木皓平、松村正人、木津毅、デンシノオト、小林拓音、野田努)

アヴァン・ポップの新局面 [※ポップに実験が必要である理由]

interview レティシア・サディエール(ステレオラブ) (イアン・F・マーティン/五井健太郎)
interview ダーティ・プロジェクターズ (木津毅+小林拓音/坂本麻里子)
interview ヤン・セント・ヴァーナー(マウス・オン・マーズ) (三田格/坂本麻里子)
column ホルガー・シューカイ (松山晋也)
column ブライアン・イーノ (小林拓音)
column 坂本龍一 (細田成嗣)
column グレン・ブランカ (松村正人)
column アーサー・ラッセル (野田努)
column 「前衛」と「実験」の違いについて (松村正人)
avant-pop disc guide 40 (三田格、坂本麻里子、デンシノオト)

CUT UP informations & columns [※2018年の上半期の動向を総まとめ]

HOUSE(河村祐介)/TECHNO(行松陽介)/BASS MUSIC(飯島直樹)
/HIP HOP(三田格)/POPS(野田努)/FASHION(田口悟史)
/IT(森嶋良子)/FILM(木津毅)/FOOTBALL(野田努)

特集2:アフロフューチャリズム [※黒に閉じないことの意味]

column 周縁から到来する非直線系 (髙橋勇人)
interview チーノ・アモービ (髙橋勇人)
column ドレクシアの背後にあるモノ (野田努)
interview クライン (小林拓音/米澤慎太朗)
column 未来を求めて振り返る (山本昭宏)
interview 毛利嘉孝 (野田努+小林拓音)
afrofuturism disc guide 35 (野田努、小林拓音)

REGULARS [※連載!]

幸福の含有量 vol. 1 (五所純子)
乱暴詩集 第7回 (水越真紀)
東京のトップ・ボーイ 第1回 (米澤慎太朗)
音楽と政治 第10回 (磯部涼)

DJ Koze - ele-king

 ストリングスがうなり、フルートが戯れ、そこにシンプルなリズムが慎ましやかに寄り添う何やら壮大なオープニング“Club der Ewigkeiten”(“クラブ・永遠”)で荒野に夕日が沈むと、2曲め“Bonfire"で聞こえてくる聴き覚えのある声のサンプリングに思わず頬がほころぶ。それは、僕がその声の主=ジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)のたんなるファンだから……というのはもちろんあるが、それだけではなく、そのハウス・トラックにまぶされた色彩感覚や柔らかな透明感の可憐さにときめくからだ。ヴァーノンがかつて孤独を滲ませた歌が、しかしここではメロウなソウルとなってベースのグルーヴと呼応する。3曲めはエディ・ファムラーのエフェクト・ヴォーカルが気だるく重ねられる“Moving in a Liquid”。リズムはシャッフルしている。続いてアトランタのアレステッド・ディベロップメントをフィーチャーして、90sヒップホップの空気をたっぷり持ちこんだファンキーな“Colors of Autumn”……ここでもリズムは横に揺れている。緩やかに。この曲が流れる頃には、僕は、それにきっとあなたも、すっかりこのアルバムに心を許している。これは目の前の風景の美しさに意識を奪われること、たったいま流れるグルーヴィーなサウンドに身を任せることに疑いのない人間が作ったダンス・ミュージックだと肌で感じるからだ。だからこそ、次のトラックはダンス音楽ですらなくてもいい。ビートレスのフォーク・ソング、よく歌うギターと鳥のさえずりに合わせてホセ・ゴンザレスが優しい声を聴かせる。「ハニー、ハニー」……。

 とにかくヴァラエティ豊かなトラックが78分ぎゅうぎゅうに詰めこまれている。DJコーツェのオリジナル・フルとしては5年ぶりとなる本作だが、このドイツのベテランは、当然その間にも数々のシングルやリミックス、ミックス・アルバム、それに数えきれないDJプレイを披露してきた。夜から夜へ、ときにはスタジオやベッドルームへ、それからまた夜へ。その日々がそのまま封じこめられているかのようだ。『ノック・ノック』の軸足にはしっかりとハウスがあるが、しかしもう片足は彼らしいロマンティックな感覚のもとで様々な土地の様々な時代を自由に行き来する。70年代風のソウル、ブレイクビーツ、アフロ・ポップ、フォーク、シンセ・ポップ、ディスコ、アンビエント。00年代は〈KOMPAKT〉のイメージが強いコーツェだが、自身のレーベル〈Pampa〉からのリリースとなった前作辺りからより幅広い音楽性を見せている。もともとヒップホップDJで様々なジャンルをミックスするのを得意としていたこともあるだろうが、それにしてもこの引き出しの多さには驚かされる。なかでもラムチョップのカート・ワグナーを招聘した“Muddy Funster”などは人選からして意外だが、陶酔感の強いアブストラクトなドリーム・ポップがそこでは展開される。かと思えばボーズ・オブ・カナダをよりチャイルディッシュにしたようなブレイクビーツ“ Baby (How Much I LFO You) ”や“Lord knows”もあるし、多くのひとがコーツェに期待するであろう激バウンシーなフィルタード・ハウスのシングル“Pick Up”もある。
 ゲストの多彩さ、音楽性の多様さは間違いなくこのアルバムの魅力だが、それはたとえば政治的な意味でマルチ・カルチュラルでなければならないといった大上段に構えたテーゼからではなく、いろいろな要素が入っていたほうが気持ちいいからという生理的欲求から来ているように感じられる。理屈抜きにダンスフロアにはいろんな種類のひとが踊っていたほうがいいし、いろんな音楽が鳴っていたほうがいいというような大らかさ。文字通りのDJミックス。
 だがバラバラになっていないのは、さっき書いたようなコーツェらしい色彩感覚によるところが大きいのだろう。ジャケットのように淡くサイケデリックな色合いで統合されていて、しかもそれは、よく聴けばごく細い筆で隅々まで丁寧に塗られている。『ノック・ノック』を、あるいはコーツェを聴いていて感じる胸の高鳴りは、昨日まで図画工作の時間で使っていた12色入りの絵の具の代わりに今日からこれを使っていいぞと48色入りを渡された子どもが抱くそれと似ている。それでいて実際出来上がった絵は、職人が手がけた確かなものなのだ。
 コーツェのトラックはよくカレイドスコーピック、つまり万華鏡的だと評される。その通りだと思う。幾何学的な美は様々に姿を変えていくが、それはつねに温かく優しい色を携えている。いずれにせよ『ノック・ノック』はよく出来たファンタジー世界で、そこに身体と意識を預ければ最高のトリップが約束されている。レイジーでカラフルな夏がもうすぐやって来る。

Autechre - ele-king

 レヴューは書きそびれてしまったけれど、昨年〈Skam〉から久しぶりにボラのアルバムがリリースされたのはじつに喜ばしい出来事だった。みんなが忘れた頃にぽろっと作品を送り出すマイペースなマンチェスターのレーベル、その主宰者がアンディ・マドックスである。彼はオウテカのふたりとともにゲスコムを構成する一員でもあるわけだが、今回フロントアクトを務める彼のステージもまた、この日の大きな楽しみのひとつだった。〈Skam〉からは最近、アフロドイチェなるニューカマーの興味深いデビュー作がリリースされているけれど、いまかのレーベルがどんなサウンドに関心を寄せているのか、少しでもそのヒントを摑みたかったのである。
 開始時刻の19時30分から少し遅れてフロアへ入場すると、ゆさゆさと身体を揺らしている多数のオーディエンスの姿が目に入る。マドックスのプレイはエクスペリメンタルでありながらも基本的には機能的で、全体的にはジャングルに寄った内容だった。これが最近の〈Skam〉のモードなのか彼自身のモードなのか、あるいは今日のための特別な仕様なのかはわからないけれど、これでもう〈Skam〉から実験的なジャングルの作品がリリースされても驚かない。心の準備は整った。

 そして20時30分。会場の照明がすべて落とされて暗闇が出現、オウテカのショウがスタートする。
 身体の芯までずっしり響く低音と、その合間を縫って忍び寄るメタリックないくつかの音塊。ひんやりとした空調の効果もあって、少しずつ鳥肌が立っていくのがわかる(まあこれはたんに僕が立っていた場所の問題かもしれないが)。おもむろに抽象度を高めていくビートレスな音響空間。そのあまりに曖昧模糊としたサウンドに歓喜したのか、あるいは逆にもっとダンサブルな音が欲しくて物足りなかったのか、10分を過ぎたあたりで誰かが雄叫びを上げる。音は絶えず変化を続け、アンビエントともサウンドアートとも形容しがたい独特の音響が会場を覆い尽していく。

 しばらくすると金属的なノイズが連射され、ふたたび喚声があがる。一瞬、ビートらしきものが形成される。またも喚声。オーディエンスの一部はやはりもっと具体的なものを求めていたのかもしれない。しかしその期待に抗うかのようにオウテカは、次々と深淵を覗き込むかのようなアブストラクトな音塊を放り込んでいく。何度も訪れる静寂な瞬間。そのたびに近くの人たちの会話や衣擦れの音が耳に入ってくる。フェティッシュとしてのそれではない、本来の意味でのノイズ。これもまた彼らの意図した効果なのだろうか。
 リズムのほうも相変わらず複雑で、強勢の位置は短いスパンでどんどん変更されていく。とはいえ小節らしきものを把握することも不可能ではないので、踊ろうと思えばぜんぜん踊れる音楽なのだけれど、ほとんどの人たちが棒立ちになっていたような気がする。退出していく者もちらほら。もちろん、暗闇のなかだからその正確な実態はわからない。

 フェティッシュとノイズとのあいだを綱渡りするかのように、どんどん変化を遂げていく音の数々。それにつられて頭のなかでは、いろんな問いがぐるぐると回転しはじめる。ベースとは何か。リズムとは何か。ドローンとは何か。アタックとは何か。反復とは何か。ノイズとは何か。ビートとは何か。ダンスとは何か。ライヴとは何か――。さまざまな思考が浮かび上がっては消えていく。これぞまさにブレインダンス。ここではたと、前座のアンディ・マドックスのプレイが伏線の役割を果たしていたことに思い至る。身体的な機能性との対比。
 そのことに気がついた途端、場面は急展開をみせた。1時間が経過した頃だろうか。とつぜんリズミカルな音塊が会場を襲う。巻き起こる喚声の嵐。真っ暗ではあるけれど、周囲のオーディエンスが一気に身体を揺らしはじめたのがわかる。リズミカル、とは言ってももちろんそれは4つ打ちなどではない。オウテカらしい変則的なビートとメロディらしきものの断片がいやおうなくこちらの身体を刺戟する。思考のあとに与えられる快楽。なんとも練り込まれた構成である。そのまま彼らはバシバシのサウンドを放出し続け、8年ぶりの来日公演を締めくくったのだった。

 オウテカはいまでもオウテカであることを、すなわち慣習への服従に抵抗することを諦めていない。およそ30年にわたってその姿勢を貫いているのはさすがである。――ぐだぐだと御託を並べて何が言いたいかって? 端的に言って、最高だよ。

Leslie Winer & Jay Glass Dubs - ele-king

 ユーチューブにアップされている「ポップ・ミュージックの歴史まとめ」みたいな動画を見ていると、題材によってはそれなりに同じような時間をかけて同じものを見ているはずなのに、こんなにも違って見えているのかということがわかって、なかなかに面白いし、音楽について誰かと話をすることの無力さを再確認させてくれる。ヒップホップでいえば、昨年は若い世代が盛んに2パックをディスったり、聴いたこともないという発言が相次いで揉めに揉めていたけれど、意外と多かったのが「知らない方がいいサウンドをつくれることもある」というヴェテランたちの意見で、歴史とクリエイティヴを秤にかければクリエイティヴに軍配があがり、退廃をよしとするのはなかなかに潔いなとも思わされた。あるいは、この数年、再発盤の主流となっているのがプライヴェート・プレスの発掘で、実はこんなサウンドがこんな時期につくられていたというスクープの効果みたいなことも「再発」の意味には多く含まれている。これは言ってみれば、歴史というのは世に出て多くの人の耳に届いたものを限定的に歴史扱いしているだけで、そのことと実際のクリエイティヴには確実なエンゲージメントは保障されていないということでもある。それこそ再発盤が1枚出るたびに歴史が書き換えられていくに等しい思いもあるし、ポップ・ミュージックの歴史というのは勝ったものの歴史でしかなく、それによって隠蔽されてきたものがあまりに多すぎるとも。なんというか、もう、ほんとにグラグラになっているんじゃないだろうか、歴史というものは。

 ギリシャを拠点とするジェイ・グラス・ダブスことディミトリ・パパドタスは事実とは異なるダブ・ミュージックの歴史的アプローチ、つまり「ダブ・ミュージックの偽史」をコンセプトに掲げ、これまでに7本のカセット・アルバムをリリースしてきたらしい(ちゃんとは聴いてない)。この人が昨年のコンピレイションや「ホドロフスキー・イン・デューン・イン・ダブ」などという空恐ろしいタイトルのシングルに続いてレズリー・ワイナーと組んで、なるほどダブの偽史をこれでもかと撒き散らした見本市のような6曲入りをリリース。レズリー・ワイナーというのがまたよくわからない人で、アメリカのファッション・モデルとしてヴァレンティノやディオールと仕事をしていた人らしく、ゴルチエをして「初のアンドロジーニアス・モデル」と言わしめた人だという。彼女がそして、ウイリアム・バローズやバスキアと知り合ったことでファッション業界から離れ、ミュージシャンへと転向してロンドンに移ってZTTからデビューした後、ジャー・ウォッブルとつくったアルバム『ウィッチ』(93)はトリップ・ホップの先駆として後々にも評価されるものになる(その後はレニゲイド・サウンドウェイヴを脱退したカール・ボニーと活動を続け、ボム・ザ・ベースのアルバムで歌ったりも)。つまり、ダブ・ミュージックの偽史を標榜するパパドタスにとっては彼女が格好のコラボレイターであったことは間違いなく、なるほどレイヴ・カルチャーの到来とともにどこかで迷子になったダブ・インダストリアルのその後をここでは発展させたということになるだろうか。

 アンビエント・ドローンあり、レイジーなボディ・ミュージックにウエイトレス紛いとスタイルは様々。ダブという手法はジャマイカを離れ、イギリスのニューウェイヴと交錯した時点で、偽史として構築するしかないものになっていたとも思えるけれど、それにしてもここで展開されている6曲は歴史の闇を回顧しているようなサウンドばかり。どこに位置付けられることもなく、これからも迷子のままでいることだろう。それともジェイ・グラス・ダブスにはダブステップを経た上でここにいるというムードもありありなので、ことと次第によっては自分のいる場所に歴史を引き寄せてしまうことも可能性としてはないとは言えない。まあ、ないと思うけど。ちなみにアルバム・タイトルの『YMFEES』は“Your Mom’s Favourite Eazy-E Song”の略だそうです。なんでイージー・E?

KAORU INOUE - ele-king

 2ヶ月前にインタヴューを掲載した井上薫、ポルトガルのレーベルからアナログ盤のみのリリースだった『エン・パス(Em Paz)』がボーナストラック2曲追加でCDとしてリリースされます。発売は6月20日。アートワークも一新して、ライナーノーツは井上薫が自ら書いています。まさにいま旬なニューエイジな1枚になっていますよ。

KAORU INOUE
Em Paz

Pヴァイン
発売日:6月20日
Amazon

Laibach - ele-king

 米朝、と言っても桂ではありません。昨夜の首脳会談、ふたりの満面の笑みからはきな臭い匂いが漂っています。いったい裏でどんな取引を交わしたのやら……。
 そんな米朝首脳会議を記念して、〈Mute〉所属のライバッハが朝鮮民謡のカヴァー曲を発表しています。7月14日からは、彼らが北朝鮮でライヴを催すまでを追ったドキュメンタリー映画『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』の公開も控えています。聴き手に考えることを促すスロヴェニアのバンド=ライバッハは、いまどんなふうにあの会談を捉えているのでしょうか。
 いやしかしきな臭い。じつにきな臭い……。

ライバッハ、歴史的な米朝首脳会談の開催を記念し、朝鮮民謡“アリラン”のカヴァー曲を発表。
ドキュメンタリー映画『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』は、7/14より公開。

ライバッハは、シンガポールでおこなわれた米朝首脳会談を記念して、朝鮮民謡“アリラン”のカヴァー曲を発表した。

https://youtu.be/w_PCdJ3Dn9E

ライバッハと北朝鮮の関係は、2015年8月15日の北朝鮮「祖国解放記念日」に、北朝鮮政府がライバッハを招待したことから始まる。1980年にスロベニア(旧ユーゴスラビア)で結成して以来35年、革新的な表現活動をおこなってきたインダストリアル・ロック・バンドが北朝鮮の大切な記念行事に招待されたことは、それも初めて招待した外国のミュージシャンが彼らだということは、世界中に衝撃をあたえた。

ライバッハによる“アリラン”のカヴァー曲は、朝鮮民謡“アリラン”と、北朝鮮で広く親しまれている“行こう白頭山へ”を融合させたもので、平壌クム・ソン音楽学校のコーラス隊が参加している。後に、彼らは南北統一を祈願して、韓国の全州でもコンサートをおこない、北朝鮮と韓国の両国で演奏した最初のバンドとなった。


©VFS FILMS / TRAAVIK.INFO 2016

またライバッハが北朝鮮で奇跡のコンサートをおこなうまでの悪戦苦闘の1週間を追ったドキュメンタリー映画『北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ』が、7月14日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開する運びとなっている。彼らが所属する〈MUTE〉レーベルの創始者ダニエル・ミラーも北朝鮮ツアーに同行し映画に出演している。

「ユーモラスで異形、示唆に富みながら時折現実を超えた社会主義の世界へどっぷりと入り込んでいく」 ――MOJO

映画公式HP:https://kitachousen-rock.espace-sarou.com/

いまから35年以上前、当時ユーゴスラビアの工業の町トルボヴリェで結成して以来、ライバッハはいまでも中央や東ヨーロッパ旧社会主義国出身としては、世界的に最も評価の高いバンドである。ユーゴスラビア建国の父チトーが亡くなったその年に結成され、ユーゴスラビアが自己崩壊へと舵を切るのとときを同じくしてその名を知られるようになる。ライバッハは聴くものを考えさせ、ダンスさせ、行動を呼びかける。

最新アルバム『Also Sprach Zarathustra』(2017年)

[Apple Music/ iTunes] https://apple.co/2ENp7CL
[Spotify] https://spoti.fi/2sVQtj1


www.laibach.org
www.mute.com

The Last Poets - ele-king

 去る6月4日、アメリカの黒人詩人にしてミュージシャンのジャラール・マンスール・ナリディンが74歳で死去した。近年は癌のために闘病生活を送っていたそうだが、彼はラスト・ポエッツの創設メンバーであり、ライトニング・ロッドなどの名前を使い、ラップのゴッドファーザーと呼ばれてきた伝説の存在である。盟友のアビオダン・オイェウォレやウマー・ビン・ハッサンら、ラスト・ポエッツの現メンバー3人も追悼のコメントを述べていたのだが、その少し前の5月にラスト・ポエッツが新作『アンダースタンド・ワット・ブラック・イズ』をリリースしたばかりというのも奇遇だ。
 音楽は喜びや悲しみなど人間のさまざまな感情を表現するものだが、ラスト・ポエッツはそのなかでずっと怒りを表現し続けてきた。アメリカおいては故ギル・スコット・ヘロンはじめ、ニューヨークのラスト・ポエッツ、カリフォルニアのワッツ・プロフェッツという、ポエトリー・リーディングやスポークン・ワード、いわゆる詩の朗読を楽器演奏に乗せてきた黒人アーティストは、白人中心のアメリカ社会において黒人たちの怒りを代弁する存在だった。公民権運動が盛んだった1960年代に活動を開始した彼らは、人種差別はじめ戦争や政治腐敗、マス・メディアの偏向報道などの社会問題をテーマに怒りの声を発し、黒人の自由や解放、社会進出やアイデンティティを一貫して説いてきた。彼らのスタイルや思想は後のラップの先駆けとなり、昨今の「ブラック・ライヴズ・マター」にも繋がっている。このなかでラスト・ポエッツは、1968年のハーレムで過激思想の活動家であるマルコムXの誕生日にあたる5月19日に結成され、そして今年で活動50周年を迎えた。

 彼らの過去を振り返ると、ジミ・ヘンドリックスからマイルス・デイヴィスをプロデュースしてきたアラン・ダグラスのもと、過激に怒りをぶちまけるスポークン・ワードをフリー・ジャズ調の演奏に乗せた『ディス・イズ・マッドネス』(1971年)、名ドラマーのバーナード・パーディーをフィーチャーし、ジャズ・ファンクと詩の朗読の融合した傑作『ディライツ・オブ・ザ・ガーデン』(1977年)、ビル・ラズウェルと組んでエレクトロ・ヒップホップ~ラップ・スタイルに挑んだ『オー・マイ・ピープル』(1985年)と、時代によってじょじょにスタイルを変えてきた。
 1980年代後半から1990年代前半にかけては、レア・グルーヴ~アシッド・ジャズのムーヴメントによってイギリスで再評価され、ガリアーノなどは明らかにラスト・ポエッツのスタイルに影響を受けていたと言えるし、サイレント・ポエッツも『ワーズ・アンド・サイレンス』(1994年)で共演している。『オー・マイ・ピープル』以降はたびたびビル・ラズウェルと共同制作を行っており、ブーツィー・コリンズとバーニー・ウォーレルというPファンク勢、およびヒップホップの始祖のひとりであるグランドマスター・メリー・メルと組んだ『ホーリー・テラー』(1993年)、ファラオ・サンダースとパブリック・エネミーのチャックDと組んだ『タイム・ハズ・カム』(1997年)をリリースする。
 その後も客演やライヴ活動はいろいろと行っており、コモンの『ビー』(2005年)でカニエ・ウェストとともに“ザ・コーナー”にフィーチャーされていたのだが、『タイム・ハズ・カム』を最後にアルバムは途絶えていた。『アンダースタンド・ワット・ブラック・イズ』はそれから21年ぶりの復帰作であり、50周年アニヴァーサリー・アルバムでもある。

 アルバム・リリース時のインタヴューでアビオダン・オイェウォレは、「ブラックというのは単なる色ではなく、白も含めたすべての色の根源である。すべての人類はひとつの種族から生まれたものである」と述べており、それがアルバム・タイトルの『アンダースタンド・ワット・ブラック・イズ』に込められたメッセージである。
 ラスト・ポエッツが生まれた1968年当時は、キング牧師の暗殺などによって黒人の怒りが頂点に達していた頃で、アビオダンらも銃を手に取り、黒人を制圧しようとする白人の殺戮の衝動に駆られたという。ただし、実際には彼らは言葉という銃弾で、社会を糾弾していった。それがラスト・ポエッツの原点であり、今回のアルバムでも“ハウ・メニー・バレッツ”という曲に引き継がれている。“レイン・オア・テラー”はフランス革命時の恐怖政治を捩ったもので、「アメリカ国家はテロリストだ」と断罪している。
 サウンド面を見ると、『タイム・ハズ・カム』はじめ1990年代のラスト・ポエッツはジャズ・ラップ~ヒップホップに寄せたスタイルだったが、『アンダースタンド・ワット・ブラック・イズ』はダブ/レゲエ寄りのアルバムとなっている。制作はロンドンで行われ、プロデュースを務めるのはマッド・プロフェッサーからホーリー・クックなどを手掛けるプリンス・ファッティと、過去にそのプリンス・ファッティと組んでダブ・アルバムも作っているベン・ラムディン。ベン・ラムディンはノスタルジア77名義で数々のジャズ作品もリリースしてきたのだが、『アンダースタンド・ワット・ブラック・イズ』の演奏には彼の周辺のジャズ系ミュージシャンが多くフィーチャーされており、トゥモローズ・ウォリアーズ出身のジェイソン・ヤードから、レゲエ勢ではマックス・ロメオやジャー・シャカらと仕事をしてきたウィンストン・ウィリアムズなども参加している。
 ルーツ・レゲエやアフロ・ダブ、ナイヤビンギにジャズのフレーヴァーを織り交ぜたもので、往年のダブ・ポエットのリントン・クウェシ・ジョンソンの作品から、近年ではザラ・マクファーレンの『アライズ』やサンズ・オブ・ケメットの『マイ・クイーン・イズ・レプタイル』あたりとの共通項も見い出せる。レベル・ミュージックの象徴であるレゲエと、ラスト・ポエッツががっぷり四つに組んだアルバムである。

 2009年にはじまったノースサイド・フェスティヴァルは、SXSWのブルックリン版とも呼ばれている。ブルックリンのノースサイド(グリーンポイント、ウィリアムバーグ、ブッシュウィック)で行われ、これまでもこの連載でも何度かカヴァーしてきた
 10年目に突入した今回は、イノヴェーション(革新)と音楽に的を絞り、300のバンド、200のスピーカーがライヴ会場からクラブ、教会からルーフトップ、ピザ屋およびブティック・ホテルなどに集まり、朝から晩までの4日間に渡るショーケースが催された。


Near Northside festival hub


Innovation panel @wythe hotel

 2018年のイノベーション・テーマは「未来を作る」。この先5年後の世界を変えるであろう、スタートアップの設立者、起業家、デザイナー、ジャーナリスト、マーケッターなどがパネル・ディスカッション、ワークショップ、ネットワーキングなどを通し、未来について熱く語った。
 登場したのは、imre (マーケッター)、バズ・フィード(メディア)、ディリー・モーション(VR)、メール・チンプ(メディア)、ニュー・ミュージアム( メディア)、パイオニア・ワークス(メディア)、レベッカ・ミンコフ(デザイナー)、ルークズ・ロブスター(フード)など。WWEBD? (what would earnest brands do?/真剣なブランドは何をするか?)という主題について、経験や物語などを通して語る。ブランドの力や自分のケースなどを例に出し、ブランドに必要な物をアドバイスするという。スピーカーとモデレーターも真剣勝負で、人気パネルは立ち見もあったほど。ちなみにイノベーション・パスは$599。


Innovation panel @williamsburg hotel

 昼間にイノベーションが行われ、その後に音楽プログラムがはじまる。今年のハイライトはリズ・フェア、ルー・バロウ、パーケケイ・コーツ、ピスド・ジーン、スネイル・メール、ディア・フーフという、90年代に活躍したバンドが目立った。地元の若いバンドは、ブッシュウィックのアルファヴィル、リトルスキップに集中していた。野外コンサートは今年はなかったが、パーケット・コーツとエチオピアのハイル・マージアが出演する3階建てのボート・クルーズが追加された。時代はファンシーである。


Thu June 7 th

Corridor
Lionlimb
Snail mail
@ Music hall of Williamsburg

Lau Barlow
@knitting factory

NNA tapes showcase:
Erica Eso
Tredici Bacci
@ Union pool

Fri June 8th

NNA tapes showcase:
Jake Meginsky
Marilu Donovan
Lea Bertucci
@ Film noir

Sat June 9th

Brooklyn vegan showcase:
Deerhoof
Protomartyr
@ Elsewhere

Wharf cat showcase:
Honey
The Sediment club
Bush tetras
@ El Cortez

 木曜日は8時ごろリズ・フェアーに行った(彼女の出番は9時30分)が、2ブロックほど長ーい行列があるのを見て早速諦める。隣のミュージック・ホールでコリドーとライオン・リムを見る。モントリオールのコリドーは初NYショーで、ジャングリーな勢いを買う。ブッシュウィックにミスター・ツインシスターやピル、フューチャー・パンクスなどを見に行きたかったが、時間を考えると無理だと諦め、代わりに近所の会場をはしごした。
 スネイル・メールに戻ると、会場はぎゅうぎゅうになっていた。この日は彼女のニュー・アルバム『Lush』の発売日。白いTシャツに黒のテイパーパンツ、スニーカーだけなのに、超可愛い! 彼女の唸るような声は特徴的で、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、なんでも大げさに反応するオーディエンスに「クレイジー」と言っていた。その後ルー・バーロウの弾き語りを見て、NNA tapesのショーケースに行く。ライアン・パワーとカルベルスは見逃したが、エリカ・エソとトレディシ・バッチを見た。


Snail mail @MHOW

 エリカ・エソは、アートポップ、シンセ・アンサンブル、ギターレスの現代的R&B、クラウトロックなどを織り交ぜた白人男子と黒人女子のツイン・ヴォーカルがシンクロする、新しい試みだった。
 トレディシ・バッチ(13 kissesの意味)は、トランペット、サックス、オーボエ、3ヴァイオリン、キーボード、ドラム、ヴォーカル、フルート、ベース、ギター兼指揮者の14人編成のオーケストラ・バンドで60、70年代の、イタリアン・ポップ・カルチャーに影響されている。フロントマンのサイモンはスツールに立ち、みんなを指揮しながらギターを弾き、オーディエンスを盛り上げ、ひとり何役もこなしていた。彼のハイパーぶりも凄いが、ついてくるバンドも凄い。必死にページをめくっていたし、ヴォーカルの女の子は、すましているのにオペラ歌手のような声量だった。


Erica Eso @ union pool


Toby from NNA Tapes


Tredici Bacci @union pool

 金曜日、2日目のNNA tapesショーケースは、「新しい音楽と映画が出会うところ」というテーマで、ミュージシャンとヴィジュアル・アーティストがコラボする試みだった。会場は映画館。ジェイク・メギンスキーは、ボディ/ヘッドのビル・ナースともコラボレートするエレクトロ・アーティストで、宇宙感のある映像をバックにメアリール・ドノヴァン(of LEYA)は、アニメーションをバックにハープを演奏。リー・バーチューチは、自然の風景をフィーチャーした映像をバックに天井も使い、サックス、エレクトロニックを駆使し、ムーディなサウンドトラックを醸し出していた。映像を見ながら音楽を聞くと、第六感が澄まされるようだ。可能性はまだまだある。


NNA Tapes merch

 最終日は、写真でお世話になっているブルックリン・ヴィーガンのショーケースにディアフーフ、プロトマーダー(Protomartyr)を見にいった。ディアフーフは、ドラムの凄腕感とヴォーカルの可愛いさのミスマッチ感が良い塩梅で、全体的にロックしていてとても良かった。プロトマルターはナショナルみたいで、ごつい男子のファンが多かった。


Deerhoof @elsewhere

 それから近くの会場に、硬派なバンドが多いワーフキャット・ショーケースを見にいく。ハニーは見逃したが、セディメント・クラブは無慈悲なランドスケープを、幅広く、残酷にギターで表現していた。ブッシュ・テトラス、NYのニューウェイヴのアイコンが、10年ぶりにEPをリリースした。タンクトップ姿のシンシア嬢は、年はとったがアイコンぶりは健在。80年代CBGB時代のオーディエンスとワーフ・キャットのミレニアム・オーディエンスが、同じバンドをシェアできるのはさすが。
 その後アルファビルに行くが、シグナルというバンドを見て、すぐに出てきた。この辺(ブッシュウィック)に来ると、ノースサイドの一環であるが、バッジを持っている人はほとんどいない。


The sediment club @el Cortez

 今年はハブがマカレン・パークからウィリアム・ヴェール・ホテルに移動し、会場もブッシュウィックやリッジウッドが増えた(ノースサイドからイーストサイドに)。日本にも進出したwe workは、ノースサイドのスポンサーであり、ウィリアムスバーグのロケーションをオープンすることもあり、この期間だけイノベーションのバッジホルダーにフリーでデスクを提供していた。
 ハブにもデスクがあり、コーヒー、ナチュラルジュース、エナジーバー、洋服ブランド、ヘッドホンなどのお試しコーナーもある。ウィリアムスバーグ・ホテル、ワイス・ホテル、ウィリアム・ヴェールの3つのホテルを行き来し、合間に原稿を書く。ノースサイドの拠点は、豪華なブティック・ホテルが次々とできているウィリアムスバーグ。高級化は止まらず、それに応じてフェスが変化し、イノヴェーションが大半を占めるようになった。時代はデジタルを駆使し、いかにブランドをソーシャル・メディアで爆発させるかで、音楽のヘッドライナーも懐かしい名前が多かったが、若いブルックリンのインディ・バンドたちはDIYスペースで夜な夜な音楽をかき鳴らし、「ノースサイド・サックス」と言いながら別のシーンを創っている。とはいえ、こういうバンドなどを含めてすべて巻き込むノースサイドの力こそが、いわゆるブランド力ってものなのかもしれない。

Yoko Sawai
6/10/2018

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