「Nothing」と一致するもの

Vladislav Delay / Sly Dunbar / Robbie Shakespeare - ele-king

 ウラディスラヴ・デレイことサス・リパッティ、そしてジャマイカのレゲエ最強リズム・デュオ、スライ(ダンバー)&ロビー(シェイクスピア)のコラボ・アルバム。すでにこの邂逅は2度目、この座組のスタートは2018年の作品へと遡る。〈ECM〉などからのリリースで知られるノルウェーの現代ジャズのアーティスト、トランペッターのニルス・ペッターと彼の朋友であるギタリスト、アイヴィン・オールセット、そしてサスとスラロビによる四すくみのコラボ・アルバム『Nordub』がそのスタートだ。同作品をきっかけにサスとスラロビは意気投合、ジャマイカへと彼らを訪ね、レコーディングを敢行、その後、フィンランドの自身のスタジオでミックス&オーヴァー・ダブをおこない完成させたのが本作『500 Push-Up』だ。だがしかし、本作を『Nordub』の文字通り「続編」と言ってしまうには音楽性からして少々違和感があるものと言えるだろう。

 ノルウェー&フィンランドの北欧連合+ジャマイカのスラロビで、『北欧ダブ』と題された件のアルバムは、浮遊するトランペット&ギターと、スラロビによる抑制されたリディム──重さがあるのに軽やかな、それを司るスライのスネアはエレガント、むしろ幽玄ですらある──がグルーヴを刻むアンビエントな質感のクールなロッカーズ・ダブ。こちらも最高なのだが、対して本作はどうだろうか、ギンギンのノイズにまみれたインダストリアルな質感のダブで、その音像で頭をよぎるのは、1980年代の〈On-U〉~マーク・スチュワートの諸作品、またはケヴィン・マーティンのザ・バグによるインダストリアル・ダンスホール、もしくはレベル・ファミリア(秋本 “Heavy” 武士+Goth-Trad)あたり、とにかくノイジーな電子音が空間を埋め尽くし、重戦車のごときリディムが突き進む、インダストリアル&ヘヴィーな音像の代物だ。スラロビのたたき出すリディムも、1980年代の初期ワンドロップ・ダンスホール期の演奏を彷彿とさせるラフ&タフ、ワイルドな魅力に溢れたもの(となれば前者はどこか〈アイランド〉のコンパスポイント・スタジオでスラロビが演奏した、ミクスチャーなレゲエやディスコの繊細なタッチを彷彿しさえもする)。前者の幽玄さと、本作のノイジーな過剰さ、ダブ・ミックスにも全く違ったコンセプトが用いられている。“間” を空けて、繊細なレイヤーでうっすらと差し色を入れ、演奏を引き立てるダブ・ミックスな前者、目の前の空気をひしゃげさせ、スピーカーの振動を暴力へと生成変化させるダブ+サウンドシステムで浴びる身体感覚をそのまま体現したかのような後者──その過剰なノイズによる空間の支配はウラディスラヴ・デレイ名義の近作『Rakka』にも共通するものでもある。

 ダブ+エレクトロニック・ミュージックと言えば、サスの先輩にあたるモーリッツによるベーシック・チャンネル一派、ことレゲエが介在したスタイルにおいては、引き算の美学とでも言えそうな、彼のリズム&サウンドによるミニマル・ダブがひとつエポック・メイキングなスタイル。それはベイブ・ルーツなど、いまだに数多くのフォロワーを生み出しているが、モーリッツのトリオへの参加も含めて、サスは直接のベーシック・チャンネル門下生でありながら、全く違ったアプローチでダブ+エレクトロニック・ミュージックを模索した結果と言えるかもしれない(世に知られるようになったのはやはり、その傘下〈Chain Reaction〉からリリースされたウラディスラヴ・デレイ名義のアルバムだ)。本作はミキシングによるヴァーチャルな “空間” を生み出す録音作品としてのダブと、サウンドシステムで受容する物理的衝撃に満たされた “空間”、身体感覚としてのダブをひとつの表現へと昇華させたかのようである。クラブのフロアで浴びるダブステップ的な “ダブ”、もしくはここ数年で勃興するインダストリアル・ダンスホールの波にも接続できる感覚でもある。もっと拡張させていえば、ある種の職人芸のようにエンジニアたちが引き算の美学で作り出したダブのスタイルというよりも、サスのそれはリー・ペリーの〈ブラック・アーク〉末期、過剰なエフェクトとコラージュで空間すらも音でゆがめる、そんなダブ・ミックスに感覚としては近いのかもしれない。

KODAMA AND THE DUB STATION BAND & Jagatara2020 - ele-king

 嬉しいお知らせの到着だ。12月16日、ファン待望の12インチ2枚が同時発売される。
 ひとつは、こだま和文率いる KODAMA AND THE DUB STATION BAND による、じゃがたらの名曲“もうがまんできない”のカヴァー。もうひとつは、今年大復活を遂げたじゃがたら(Jagatara2020)による30年ぶりの新曲 “みんなたちのファンファーレ” と “れいわナンのこっちゃい音頭”。
 80年代を駆け抜けた両雄による入魂のアナログ・シングル×2、これは必携です。

※こだま和文のインタヴューはこちらから、OTOのインタヴューはこちらから。

元ミュート・ビートのこだま和文率いるKODAMA AND THE DUB STATION BANDが、こだまの盟友JAGATARAの大名曲「もうがまんできない」をカヴァー。
12インチ・シングルでリリース!

■昨2019年にリリースした初のオリジナル・フル・アルバム『かすかな きぼう』がきわめて高い評価を受けている、元ミュート・ビートのこだま和文率いるKODAMA AND THE DUB STATION BAND。彼らがたびたびライヴで披露してきた、こだまの盟友JAGATARAの大名曲「もうがまんできない」のカヴァーを、アナログ12インチ・シングルでリリースする。数あるJAGATARAの名曲のなかでも1、2を争う人気曲のカヴァー。まさにファン待望のリリースとなる。

■この曲はもともと、宮藤官九郎の作・演出による大人計画の舞台、ウーマンリブvol. 14「もうがまんできない」のために、音楽担当の向井秀徳のご指名で演奏し、録音したもの。だが、新型コロナウイルス感染拡大を受け、残念ながら舞台は中止に。しかし、宮藤官九郎監督のもと、WOWOWでのオリジナル番組化が実現。無事、この曲も使用されることになった。
https://www.wowow.co.jp/detail/170250/-/01

■なによりもまず、レゲエ・マナーに則ったこだまの歌唱がすばらしい。その滋味深い歌声には、江戸アケミのオリジナルとはまた違った味わいと説得力がある。バンドの演奏も盤石で、手塚貴博によるダブ・ミックスも冴え渡っている。乞うご期待。

■カップリングは、アルバム『かすかな きぼう』から、収録時間の関係でLPには収録されないクロージング・ナンバー「STRAIGHT TO DUB (Tez Dub Version)」。こちらも待望のアナログ化となる。

■Jagatara2020が2020年1月にリリースしたジャイアント・シングル「虹色のファンファーレ」から2曲の新曲、「みんなたちのファンファーレ」と「れいわナンのこっちゃい音頭」を収録した12インチ・シングルを同時発売。

《商品情報》
アーティスト:KODAMA AND THE DUB STATION BAND
タイトル:もうがまんできない
レーベル:KURASHI/Pヴァイン
商品番号:KURASHI-005
フォーマット:アナログ12インチ・シングル
価格:定価:¥2,500+税
発売日:2020年12月16日

収録曲
A. もうがまんできない
B. STRAIGHT TO DUB (Tez Dub Version)

https://dubstationband.weebly.com

日本のロック史における最重要バンドのひとつ、JAGATARAが奇跡の復活をとげ、Jagatara2020としてリリースしたジャイアント・シングルから、30年ぶりの新曲2曲を12インチ・シングルでリリース!

■日本のロック史における最重要バンドのひとつ、JAGATARA。1990年に中心人物のヴォーカルの江戸アケミの急死により解散〜永久保存となってしまった彼らが、2019年に江戸の志を受け継ぎJagatara2020として奇跡の復活。そして、江戸の30回目の命日にあたる2020年1月27日に渋谷クラブクアトロでイベント「虹色のファンファーレ」を開催。そのイベントに合わせてリリースした同名のジャイアント・シングルから、じつに30年ぶりの新曲2曲、「みんなたちのファンファーレ」と「れいわナンのこっちゃい音頭」をアナログ12インチ・カット。

■どちらもOtoの作曲で、南流石の作詞・リード・ヴォーカルによる「みんなたちのファンファーレ」は、JAGATARA再始動を自ら祝うかのような、文句なしに楽しい祝祭性に満ちあふれた楽曲。TURTLE ISLAND/ALKDOの永山愛樹の作詞・リード・ヴォーカルによる「れいわナンのこっちゃい音頭」は、辺境グルーヴと日本の音頭のハイブリッドといった感のきわめて秀逸なナンバー。どちらも西アフリカあたりの音楽のにおいを感じさせるJAGATARAならではの作品。アナログで躍動するJagatara2020のメッセージとグルーヴを存分に味わってほしい。

■JAGATARAの盟友こだま和文率いるKODAMA AND THE DUB STATION BAND による、JAGATARAの大名曲「もうがまんできない」のカヴァーを収録した12インチ・シングルを同時発売。

《商品情報》
アーティスト:Jagatara2020
タイトル:未定(虹色のファンファーレ)
レーベル:Pヴァイン
商品番号:P12-6999
フォーマット:アナログ12インチ・シングル
価格:定価:¥2,500+税
発売日:2020年12月16日

収録曲
A1 みんなたちのファンファーレ
A2 みんなたちのファンファーレ(カラオケ)
B1 れいわナンのこっちゃい音頭
B2 れいわナンのこっちゃい音頭(カラオケ)

www.jagatara2020.com

プログレッシヴ・ロックのアルファにしてオメガ

69年の結成前夜から50年にわたり、形を変え、スタイルを変えながらも常に先鋭的であり続けたキング・クリムゾンの全てがここに!

2001年に刊行された Sid Smith “In The Court of King Crimson” に大幅に増補加筆されたバンド・ヒストリーに加え、詳細な楽曲解説と膨大なライヴ音源レヴューを加えた決定版。

著者:シド・スミス
フリーランス・ライター。『クラシック・ロック』『プログ』『Uncut』『レコード・コレクター』『BBC Music』など、多数の雑誌、オンライン・マガジンで記事や評論を書く。またラジオやテレビで音楽記事の書き方について教えるほか、数百本にのぼるライナーノーツをメジャー、インディペンデント双方のニュー・リリース、リイシュー盤に寄せている。詳しくは@thesidsmith facebook.com/thesidsmith

監修:大久保徹
リットーミュージックが刊行するドラムとパーカッションの専門誌『リズム&ドラム・マガジン』編集部に在籍し、数多くのアーティスト取材を経験。2012~2014年には編集長を務め、別冊『パーカッション・マガジン2013』や国内唯一のヴィンテージ・ドラム専門書『Vintage Drum ReView』も制作する。2014年にフリーランスとなり書籍/ムックを数多く編集。主な編集/寄稿本は『THE DIG Special Edition キング・クリムゾン』『THE DIG Special Edition キング・クリムゾン ライヴ・イヤーズ1969-1984』『THE DIG Special Edition エマーソン、レイク&パーマー』『THE DIG Special Edition ピンク・フロイド』『THE DIG Special Edition ジョン・ウェットン』『ヒプノシス全作品集』『プログレ「箱男」』『すべての道はV系に通ず。』(以上、シンコーミュージック刊)、『イエス全史』『ダフ・マッケイガン自伝』『NOFX自伝』『誰がボン・スコットを殺したか?』(以上、DU BOOKS刊)など。キング・クリムゾン関係では、これまでビル・ブルーフォード、ジョン・ウェットン、パット・マステロット、ジャッコ・ジャクスジク、ギャヴィン・ハリソンにインタヴューを行なった。2018年刊行の編著『人生が「楽」になる 達人サウナ術』(ele-king books 刊)も書籍&電子書籍で好評発売中。

翻訳:島田陽子
早稲田大学第一文学部英文学科、イースト・アングリア大学大学院翻訳学科卒。(株)ロッキング・オン勤務などを経て、現在フリー翻訳者として様々なジャンルで活動。『レディオヘッド/キッドA』『レディオヘッド/OKコンピューター』『プリーズ・キル・ミー』(以上 ele-king books)、『ブラック・メタルの血塗られた歴史』(メディア総合研究所)、『ブラック・メタル サタニック・カルトの30年史』(DUブックス)、『フレディ・マーキュリーと私』(ロッキング・オン)他、訳書多数。

目次
Preface――序
LEVEL 1 The tournament's begun... 闘いが始まる……
LEVEL 2 And reels of dreams unrolled... そして夢が広がる……
LEVEL 3 A tangle of night and daylight sounds... 夜と昼の音が絡み合う……
LEVEL 4 It remains consitent... 常に変わらず流れるもの……
LEVEL 5 The jaws of life, they chew you up... 終わりが生む始まり……
After Crimson――キング・クリムゾンを去っていったメンバーたち、その後
Track by Track――楽曲解説
 チアフル・インサニティ・オブ・ジャイルズ・ジャイルズ&フリップ
 クリムゾン・キングの宮殿
 ポセイドンのめざめ
 マクドナルド・アンド・ジャイルズ
 リザード
 アイランズ
 太陽と戦慄
 暗黒の世界
 レッド
 ディシプリン
 ビート
 スリー・オブ・ア・パーフェクト・ペアー
 スラック637
 ザ・コンストラクション・オブ・ライト
 ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ660
Annotated Gigography 1969-2003――ライヴ音源レヴュー

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Can × VIVA Strange Boutique - ele-king

 自由が丘のVIVA Strange BoutiqueがCANのアートワークを元にデザインしたスウェット、MA-1ジャケット、パーカー、ロングスリーヴTシャツを10月17日(土)より販売します。
 これまでもロッビング・グリッスルのクリス・アンド・コージー、モノクローム・セット, WIRE,、DNA、ドゥルッティ・コラムといったアーティストとのコラボレーション・アパレルの制作をしてきましたが、今回のCANもかなりかっこいいです。編集部的には「DELAY」にやられました。
 なお商品はなくなり次第終了です。また、CANのリリース元であるトラッフィックからは『エーゲ・バミヤージ』と『フューチャー・デイズ』のTシャツ付き限定盤が出ていますが、次は『タゴ・マゴ』のTシャツ付限定盤が11月27日に発売されます
 で、別冊エレキング『カン大全~永遠の未来派』は10月31日に刊行予定……です!!(果たして……ただいま編集の佳境です)

Nubya Garcia - ele-king

 昨今異常な盛り上がりを見せるUKのジャズ・シーンにおいて、ユセフ・カマールジョー・アーモン・ジョーンズらと並び日本でも人気を集めるアーティスト、ヌバイア・ガルシアのニューアルバム『Source』がリリースされた。僕が最初に彼女の存在を知ったのは2017年に〈Jazz Re:freshed〉から出た『Nubya's 5ive』(アルバムの中の “Red Sun” を初めて聴いたときはジョン・コルトレーンの楽曲かと勘違いしてシャザムしたのをいまでも覚えている……)。そこから約3年間の飛躍を考えると驚くべき成長速度である。UKジャズの決定版とも言えるコンピレーション『We Out Here』(9曲中5曲に参加するという異例の抜擢)や女性メンバー主体の7人編成のアフロビート・バンド「ネリヤ」、そして盟友ジョー・アーモン・ジョーンズのソロ・アルバムにも参加するなど、活動は多岐に渡り、まさに駆け抜けるような素晴らしいキャリアをここ数年で築き上げた。デビュー当時は「女性版カマシ・ワシントン」という呼び声もあったが、様々なコラボレーションや活動を通して自身独特の演奏と音楽を披露しているのがこのアルバムを聴いてもわかる。

 リード曲となる “Source” では『We Out Here』周辺のコミュニティーに共通して見えるレゲエやカリビアンなサウンドの縦ノリに力強くサックスが絡み合い、曲の展開が進むにつれてその熱量がさらに高くなっていく。ハウスやブロークンビーツ界隈のアーティストとも交流があってか、とにかく彼女のサックスは非常にグルーヴを感じる。激しすぎず、緩すぎずな絶妙なバランスが常にキープされていて、メロウなジャズから激しいレゲエ調まで緩急も素晴らしい。アルバムのなかで僕がいちばんオススメしている T.4 の “Together Is A Beautiful Place To Be” はジョー・アーモン・ジョーンズの美しいピアノのソロに乗せて、まるで歌っているかのような美しい音色を奏でてくれる。アルバム終盤ではコロンビアのマルチ・インストゥルメンタル・トリオ「ラ・ペルラ」とのコラボレーションで “La cumbia me está llamando (featuring La Perla)” を披露。ロンドンのローカル・ラジオ「NTS Radio」にてラジオDJも務める彼女はジャズやレゲエに混ざって時折クンビアも紹介していたが、まさかアルバムにこのような形で入ってくるのはサプライズだった。スタンダードなジャズ・アルバムというよりは彼女のサックスを軸に自身の吸収した様々な音楽をヌバイア・ガルシア流に表現したと言ってもいいだろう。DJ的な目線でも色んなジャンルの間に挟んでも違和感がないし、幅広いジャンルのリスナーに受け入れられるアルバムに仕上がっている。

 ジャイルス・ピーターソンも彼女を絶賛し、次の10年、20年の音楽シーンの担い手としても期待のかかる彼女のフル・アルバムは様々なジャンルを内包したUKジャズ・シーンのマイルストーン的な作品と言っても過言ではないだろう。今頃であればアルバムをリリース後、順調にワールドツアーもおこない、ここ日本の地でもライヴを披露してくれただろうがしばらく実現できないのは残念。代わりに先月披露された NPR Music の名物企画 Tiny Desk (なんと彼女の自宅から放送)もぜひお見逃しなく。観葉植物で囲まれた空間が逆にUKジャズ特有のDIYなコミュニティーを象徴するかのようだ。


Sufjan Stevens - ele-king

 ぼくは幸運、ぼくは自由
 ぼくは光の熱のよう
 この機会に満ちた土地で
(“America”)

 スフィアン・スティーヴンスのことを本当に理解できたと思ったことがない。彼が「アメリカ」なるものにずっと疎外感と、しかしそれだけではない、おそらく愛と憎悪が入り乱れた複雑な感情を抱え続け、それをときに過剰なコンセプトにしたり、ときにごくパーソナルなものにしたりしながら表現していることはわかる。だが、強く豊かな「アメリカ」から自分が滑落していると感じること……果たしてそれがどんな痛みを伴うものなのか、ラストベルトの貧しい町で育ったことのない僕は、簡単にシンパシーを感じるわけにはいかない気持ちになってしまう。ただ、彼のいまにも壊れそうな歌の凄味に息を呑むことしかできない。

 音においても感情においても、散らかっていて、混乱したアルバムだ。頼りなかった幼少期の記憶を引っ張り出し、母への引き裂かれた想いを繊細なフォークにこめた前作『Carrie & Lowell』よりも前々作『The Age of Adz』における壊れたエレクトロニカ・ポップに近いが、昨年義父のローウェル・ブラムス(『Carrie & Lowell』に登場するそのひとである)とリリースしたニューエイジ作品『Aporia』を通過した影響もあるのだろう、より抽象的なレイヤー構造の楽曲が並ぶ。とはいえアンビエント風のイントロに導かれるオープニング・トラック “Make Me an Offer I Cannot Refuse” はやがて奇怪なデジタル・オーケストラへと変貌していき、どこかノスタルジックなエレポップ調の “Video Game” へと至るころには、これはあくまでスティーヴンスにとってのエレクトロニック・ポップ・アルバムであることがわかる。けれども、そこに過去作のようなファンタジックな優しさはない。皮肉めいていて冷たく、醒めている。「ぼくはきみのビデオゲームをプレイしたくない、姿を消してしまいたいだけ」。それは、過度にデジタル化され誰もが監視される現代社会に対する、強烈な嫌悪感だ。
 その “Video Game” がまさにそうだが、本作には、「~したい」「~したくない」というきわめて断定的な欲求を示す言葉が溢れかえっている。この高度にソーシャル化した現実のなかで、人びとは自分が本当に求めているものがわからなくなっているという。それは企業の広告にコントロールされたものにすぎないのだと。本作はおそらくスティーヴンスのアルバムでもっともインダストリアルなビートが鳴っているアルバムだが、荒涼とした消費社会に呼応しているのだろう。そこから逃れるようにして、か弱いエレクトロニクスで幕を開ける “Die Happy” で、彼はただ祈るように囁き繰り返す──「ぼくは幸せに死にたい」。自分が本当に望んでいるのはそれだけなのだと。けれども音は乱れていき、とめどない不安から逃れてしまえというダークなエレクトロニカ・トラック “Ativan” へと至る。アチバンは抗不安薬の名前。現代では、社会が不安を生み、憂鬱もまた薬を売るための材料に過ぎない。パニックを模したかのように、テンポを増してデジタル音が強迫観念的に行き交う。
 代表作『Michigan』や『Illinois』でスティーヴンスは、「アメリカ」が崩壊しつつあることを寓話的なストーリーテリングに託し、愉快なオーケストラを交えることでどうにか向き合おうとしていたのだと思う。けれどもはや、そのファンタジーも失われてしまった。本作で彼は、もうとっくに現実は破綻しているのだと混沌とした音で表そうとする。

 80分もあるこの迷宮的なエレクトロニック・アルバムを聴いていると、システムばかりが肥大化したこの資本主義社会から逃れられないのか? という問いにぶつからずにはいられない。スティーヴンスはアルバムを通してもがき続ける。こんなところで、こんな風に生きたくはないのだと。
 スティーヴンスを長く聴いてきたリスナーが本作でようやく息をつけるのが、ラストから2番目のタイトル・トラック “The Ascension (昇天)” だろう。シンセの柔らかい音と優しいメロディ、それに穏やかな歌が聴けるこの曲で、彼は自分の死が訪れるときを夢想する。この音楽のなかでは、安堵は死とともにのみあるのだろうか……。

 そして本作の精神が集約するのが大曲 “America” だ。ポスト・トランプ・エラにおけるプロテスト・ソングと見る向きもあるようだが、これが直接的に政治的な曲であるとは自分には思えない。抵抗しているのはもっと大きなものに対してだろう。聖書のモチーフが散見されるこの曲で、歌の話者は傍若無人に振る舞う大統領にではなく、「神」に向かって話しかけているからだ。「あなたがアメリカにした仕打ちを、ぼくにはしないでくれ」──「幸運」も「自由」も「機会」もごく限られた人間にしか許されなくなったアメリカで、ここから逃れたいと誰もいない空を見上げること。
 もし『The Ascension』にそれでも幻想的な瞬間が残っているのならば、それはこの曲、彼が見つめ続けた「アメリカ」と題された曲で、アメリカはもう壊れてしまったんだと微笑むときだ。「ぼくは傷つき、打ちひしがれている」──スティーヴンスがそう歌うとき、それはもう彼だけのものではない。そして続ける。「それでも自分の進むべき道を見つけてみせる」。そこから生まれるかもしれない想像を予感させて、アルバムは終わる。

Marie Davidson & L'OEil Nu - ele-king

 「アプリケーションは拒否した?/私はあなたの機能の奴隷ではありません/あなたは気晴らしの大量兵器が欲しい/私はあなたにデモンストレーションする/あのー、ところで、これは金儲けするレコードではありませんから/今回、私は敗者の視点で調査します/言葉は気にしないでね/それが裏切り者のブレイクダウン」
 彼女の新プロジェクト、マリー・デイヴィッドソン&ルウィユ・ニュはこんな風に、敗者の弁からはじまる。裏切り者(レネゲイド)とは、彼女自身。なにからの? クラブ・カルチャーからの。
 「私のスピーチをもっと良くしようなんていう、あなたのアドヴァイスなどいらない/あなたの政治の話にも興味なし/あなたの意志は株式相場のように変動/あなたの仮面舞踏会はグロテスクだし、あなたのその格好ときたら計算しすぎ」

 “Renegade Breakdown”は敗者の曲にしてはファンキーなエレクトロ・ディスコで、歌詞には相変わらず男性社会へのアイロニーがあり、アグレッシヴだ。転んでもただでは起きない人になっているようにも感じられるが、この場合タイトルは「裏切り者の挫折」とでも訳すべきなのだろう。もっともマリーは2016年に『Adieux Au Dancefloor(ダンスフロアにさよなら)』なる題名のアルバムを出している。内的にはつねに葛藤があったのだろうけれど、彼女の出世作となった前作『Working Class Woman』のサウンドの骨格にあるのはテクノやハウスといったクラブ・ミュージックだったし、しかしそれ以前となるともっとぐちゃぐちゃな電子音響だったりもする。ちなみに彼女のデビュー・アルバムのタイトルは『Perte D'Identité(アイデンティティの喪失)』。

 「捨てることはなんも恥ずかしくない/最初から必要なかったから/すべてを取り戻してやる/商品になんかにしがみついてたまるか/もし香水があるのなら、その名は「ノーコラボ」/コラボレーションへの期待などありません/警察は必要なし/自警するから/私が作るすべてに背く/怒りが私のすべて」
 
 マリーの20代はたいへんだったと、彼女は『ガーディアン』の取材で打ち明けている。アルコール依存症、睡眠薬中毒、慢性的な拒食症。彼女はクラブ・カルチャーの浅はかな側面に関しては嫌悪しているが、しかしクラブと決裂した大きな理由はそこではない。それは彼女の悪化する健康状態に起因している。前作にあった“Workerholic Paranoid Bitch”とは自分のことで、あの曲のヒステリックな感覚は自虐でもあったのだろう。いずれにせよ、マリーがこれ以上音楽を続けるには、クラブ以外のほかのやり方を探すしかなかったと。
 そんなわけで、彼女はミュージシャンで夫のピエール・ゲリノーとプロデューサーでマルチ楽器奏者でもあるAsaël Robitailleといっしょにバンドを組むことにした。バンド名はフランス語で「肉眼=L’OEil Nu」。
 表題曲は途中で転調し、マリーはフランス語でシャンソン調に歌う。カナダのモントリオールの住民の大半がフランス系で公用語はフランス語。カナダのメディアではイアン・F・マーティンの記事もフランス語に訳されている。

 『Renegade Breakdown』はポップ・アルバムを目指して作られたアルバムで、マリアンヌ・フェイスフルやビリー・ホリデー、それから同郷の歌手ミレーヌ・ファルメールを参照しているという。なるほど、マリアンヌの『ブロークン・イングリッシュ』のように心身共にボロボロになったところからの回復はアルバムのテーマとしてたしかにあるのだろう。が、マリーが良いのは、拙訳で申し訳ないけれど、引用している歌詞を読んでいただければわかるようにパンチの効いたユーモアがあるところだ。幻滅や惨めさや自分の弱さを歌いながら傷口を見せびらかすのではなく、風刺やジョークをまじえてそれを観察し、怒りも忘れずに、そしてクラブの外側にある人生を綴ろうとする。
 
 いろんなスタイルをシャッフルした『Renegade Breakdown』はスタイリッシュで、ポップ・アルバムとして充分に楽しめるアルバムだ。前作の“Work it”のようなずば抜けたハウス・トラックがないのは残念だが、アコースティック・ギターをバックに歌う内省的な“Center Of The World”、キャッチーなエレクトロ・ポップな“C'est Parce Que J'm'en Fous”、ラウンジ・ジャズを展開する“Just In My Head”、そして美しいバラードの“My Love”やフレンチ・ポップな“La Ronde”などなど、一度で好きになれるような曲がアルバムの大半を占めている。
 彼女が活動をはじめた10年前はちょうど同郷のグライムスが脚光を浴びはじめた頃で、同じリハーサル・スタジオを使っていた自分たちはアンダーグラウンドのなかのさらに下の下だったとマリーは件の取材で回想している。つまり自分は何もないところから来たんだと、そんな風に腹を括れたことで、なんとか自分の居場所を見つけることに成功したと。クラブから外の世界へと出たときの、その広さのなかで。

 「私のたった一度限りの人生は反戦略的/それは喜劇と悲劇のあいだに横たわっている」



※CDとアナログ盤には歌詞が掲載されている。

DISTANCE 2020 - ele-king

 これは果敢な試みだ。静岡県沼津市の「泊まれる公園」こと INN THE PARK にて、11月6日(金)から8日(日)の3日間、野外フェス《DISTANCE》が初開催される。

 ラインナップにはじつに贅沢な面々が並んでいて、DJ Nobu、dj masda、Mars89 らをはじめ、エレクトロニック・ミュージックの最前線で活躍する気鋭たちが一挙集結。寺田創一、食品まつり、YPY、鴨田潤らはライヴを披露、人気テクノ・イベント《KONVEKTION》を主催する Takaaki Itoh & DJ YAZI は初めてのB2Bに挑戦する。

 名前にもあらわれているように、出口の見えないこの時代だからこそのフェスになるようで、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐべく、定員数を制限しての開催となる(沼津市役所とも相談済みとのこと)。マスク着用、ソーシャル・ディスタンスなど、ガイドラインに沿いつつ秋の野外で音楽を楽しもう。

[開催概要]

名称:DISTANCE 2020 ***Limited Open Air Music Festival***
日程:2020年11月6日(金)~8日(日)開場15:00~閉場21:00
会場:INN THE PARK(静岡県沼津市)

料金:前売3日通し券(400枚限定)18,000円 / 前売25歳以下限定3日通し券(100枚限定)10,000円
駐車:前売パーキング券(180枚)無料
宿泊:近日公開(会場内テントサイト及び宿泊棟のほか、近隣にも宿泊施設がございます)
チケット販売:https://www.residentadvisor.net/events/1426560

出演:Akiram En, DJ Nobu, dj masda, Eugene Kelly, guchon, Jun Kamoda [Live], Mari Sakurai, Mars89, Soichi Terada [Live], Takaaki Itoh & DJ YAZI, YPY [Live], 食品まつり a.k.a. foodman [Live] and more * Sound Design: OtOdashi sound system * Lighting: Nagisa * Decolation: 密林東京

※料金・宿泊・注意事項・新型コロナウイルス感染拡大防止対策について下記を必ずご確認ください。
https://note.com/distance___fest/n/n84d2eb115c8f
https://www.facebook.com/events/370934564086868
https://twitter.com/Distance___fest
https://www.instagram.com/distance_festival/

Tigran Hamasyan - ele-king

 2010年代以降のコンテンポラリー・ジャズの世界で注目を集めるピアニストのひとりであるティグラン・ハマシアン。彼の名を一躍広めた『ア・フェイブル』(2011年)や『シャドウ・シアター』(2013年)は、現代ジャズにクラシックや教会音楽を融合した上で、ハード・ロックやヘヴィ・メタルからプログレ、そしてダブステップやビート・ミュージックに至る多彩な音楽的要素を取り入れ、それらを違和感なく結ぶべく故郷のアルメニア民謡のメロディや変拍子をモチーフとした意欲作であった。それ以前もセロニアス・モンク国際ジャズ・コンペティションで第一位を獲得するなど、ジャズ・ピアニストとして高い評価を受けてきたティグラン・ハマシアンであるが、これらの作品以降はジャズ以外の分野からも注目を集め、ダブステップ界のL.V.の『アンシエント・メカニズムズ』(2015年)にもゲスト参加するほか、2019年に公開されたオダギリジョー監督の『ある船頭の話』の映画音楽も担当している。

 ソロ活動に話を戻すと、2015年からは〈ノンサッチ〉と契約し、トリオ作の『モックルート』ではよりアルメニア色を強めた演奏を推し進めるほか、さらに同年は〈ECM〉からもアルメニアの聖歌隊と共演した『ルイス・イ・ルソ(光からの光)』をリリースする。アルメニアのクラシック界の作曲家であるコミタス・ヴァルダペットの作品を演奏するなど、アルメニアの宗教音楽に傾倒した世界へと没頭していった。アルヴ・アンリクセン、アイヴァン・オールセット、ヤン・バングらノルウェー勢と組んだ〈ECM〉録音の『アトモスフィアズ』(2016年)は現代音楽色の濃い作品だが、その音響のなかにもアルメニアの歴史や宗教が強く入り込んでいる。そして2017年の〈ノンサッチ〉作の『アン・アンシエント・オブザーヴァー(太古の観察者)』は、ピアノと和声に少々シンセを付け加えたミニマルなソロ・アルバムで、太古の時代にノアの方舟が漂着したと言われるアルメニアのアララト山頂からの風景を音として表現したものだ。

 その『アン・アンシエント・オブザーヴァー』から3年ぶりの新作『ザ・コール・ウィジン』は、ティグラン・ハマシアンにとって通算10枚目のソロ・アルバムとなる。2018年にはアルメニアの街であるギュムリへ捧げた「フォー・ギュムリ」というEPを発表したが、そうしたアルメニアからのインスピレーションが『ザ・コール・ウィジン』にも一貫して流れている。キリスト教伝来以前のアルメニアの古代民話や伝説、伝来以降のアルメニア文化、そして天文学や幾何学、ペトログリフ(岩面彫刻)などから映画撮影技術など、ティグランが関心を寄せる事象が『ザ・コール・ウィジン』の中の題材となっている。
 参加ミュージシャンはこれまでもティグランと演奏してきたドラマーのアーサー・ナーテク、同じくティグランと共演経験があるアルメニア系アメリカ人で、即興ヴォイス・パフォーマンスを得意とする民謡歌手にして詩人/ピアニストのアレニ・アグバビアン、アラン・ホールズワースなどとも共演してきたエレキ・ベースの鬼才のエヴァン・マリエン、アルメニア出身のチェリストのアルティョム・マヌキアンなど。さらに “ヴォルテックス” という曲にはアメリカのメタル・バンドであるアニマルズ・アズ・リーダーズのギタリスト、トーシン・アバシも参加する。アニマルズ・アズ・リーダーズのメンバーは数年来のティグランのファンで、以前ツアーに彼を誘ったもののそのときは実現しなかったが、そうした縁もあって今回の共演に繋がったそうだ。ティーンエイジャーの頃はジャズやクラシックを学ぶ一方で、メタルやハード・ロックにハマっていたというティグランらしいコラボである。

 宗教音楽的な和声とピアノに続いてメカニカルで強力な変則ビートが流れ出す “レヴィテイション・21” は、現代ジャズとダブステップやビート・ミュージックを繋ぐティグランならではの作品。“ザ・ドリーム・ヴォイジャー” もエレクトリック色の濃いナンバーだが、独特のメロディ・ラインを紡ぐピアノやヴォイス・ハーモニーにはルーツにあるアルメニア民謡の影響が見える。アレニ・アグバビアンとアルティョム・マヌキアンをフィーチャーした “アワー・フィルム” は、口笛の紡ぐ美しいメロディが印象的な1曲。映画制作にも関わったティグランのインスピレーションから生まれた曲だろう。
 “アラ・リサレクティッド” は次々と変調するリズム、緩急のついたトリッキーな展開のなか、リリカルなメロディを生み出すティグランのピアニストとしての技術やスキルの凄さを再認識できる。またクラシックからメタルにまで通じるレンジの広い音楽性と、そこから編み出した彼独自のジャズを聴くことができるだろう。“スペース・オブ・ユア・イグジスタンス” も同様に、ジャズ、フュージョン、プログレが融合したような曲だが、こうした複雑なリズム、メロディやコード変換を生み出すのもアルメニア民謡を学んだことが大きい。アルメニア民謡にも複雑なリズムが多く、それに乗せてメタルやエレクトロニカなどを取り入れていくことが、ティグランにとっては自然なことだったそうだ。
 トーシン・アバシが参加する “ヴォルテックス” も複雑な構造の曲で、アルメニア民謡をベースにメタル、ジャズ、クラシックなどあらゆる音楽を融合するティグランの独壇場の世界である。ギュムリにあるヴァルディ・アート・スクールの少年合唱団をフィーチャーした “オールド・マップス” や、ヴォイスと口笛、ピアノとシンセで綴るモダン・クラシカル~アンビエント系の “37・ニューリーウェズ” では、ティグランの作品で欠くことのできないピアノと和声のハーモニーが描かれる。“ニュー・マップス” は、20世紀初頭にオスマン帝国との民族紛争を逃れてアメリカに渡ったアルメニア移民についての作品。多くの民族が暮らすアメリカは、アルメニア人にとってロシアに次いで多い移民の受け入れ先だったが、そうしたアルメニア人のディアスポラがティグランの曲作りの大きなモチーフになっていることを示す曲だ。

Sound Patrol 久々にやります - ele-king

Yosuke Tokunaga - ''''''' | .TOST

AmbientExperimental

E王

 ようやく涼しくなって過ごしやすくなってきたけれど、ここはむしろ氷点下の世界。なにもかもが凍りついている。2012年あたりから作品を発表しつづけている Yosuke Tokunaga は、いまだ謎に包まれているアーティストだ。どうやら東京にいるらしいこと、おもに自身のレーベル〈.TOST〉を足場にしていること、それくらいしかわからない。
 彼の存在を編集部に教えてくれたのはじつは、かのザ・バグである。ちょうど1年前にリリースされた『7 Patterns』についてケヴィンは、「ベリアルやDJクラッシュ、スコーンのように冷たい氷のカクテル。なんでみんなもっと彼のことを讃えないのかわからない!」と讃辞を送っている。
 最新作『'''''''』(なんて読めばいいんだ?)でもベリアル直系の凍てついたサウンドは健在で、日本からこのような表現が生まれてきたことがすばらしい。もうすぐ冬もやってくることだし、まさにこれから聴き込みたい音楽だ。

FLATPLAY - Slightedge | NATIVE ARCHIVES / BAYON PRODUCTION

Techno

 少しまえから90年代リヴァイヴァルはトレンドのひとつとして定着していたわけだけど、この極東の地もその機運としっかりリンクしていて、新たな才能が登場してきている。D.A.N. のサポート・メンバー、篠崎奏平のソロ・プロジェクトである FLATPLAY がもう、ストレートにデトロイティッシュなサウンドを響かせているのだ。
 D.A.N. のメンバーと同年代とのことなので、現在20代後半。リアルタイムではないその世代がデトロイト・テクノに影響を受け、みずからの音楽の糧としていることじたいが、いまの音楽シーンのある側面をよく物語っている。
 河村さんによるインタヴューによれば、若き時分にホアン・アトキンスを知ったことがそうとうデカかったようで、とくに『The Berlin Sessions』に大いに刺戟されたのだという。同記事ではデラーノ・スミスの名もあげており、いやこれはほんとうにデトロイト・サウンドにぞっこんなんだろう。
 かくして FLATPLAY は2018年、それこそ〈Transmat〉から出ていてもおかしくなさそうなトラックの詰め込まれたファーストEP「First Extended Play」をリリースすることになるのだが(D.A.N. の櫻木大悟と〈TREKKIE TRAX〉の andrew によるリミックスも収録)、つい先月、さらに洗練度を高めたシングル「Slightedge」が送り出されている。
 1曲目の表題曲からしてリスペクトのかたまりだ。キックとハットが確たるコンビネイションで土台を形成、ダビーなシンセが曲の色彩を決定し、どこかオリエンタルな、あるいは未知の「異国」を喚起させるヴォーカルがさりげなくオリジナリティを主張してもいる。2曲目 “Orpus” はよりダブ・テクノの要素を強めたスタイルでミニマリズムを探求しているが、こちらもメロディの部分に独特の悲哀が宿っている。3曲目の “Orpus (Altone rephrase)” はそのダブ・ヴァージョンで、ベーシック・チャンネル一派を想起させる仕上がり。
 一周、いや、もう二周まわったのかもしれない。このように20代後半の世代が、そしてDJのようにクラブを主戦場とするわけではないミュージシャンが、独自の要素を加えつつデトロイトやベーシック・チャンネルの遺産を継承していることは、素直に喜ぶべきことなのだろう。

XTAL - Aburelu | 813

Electronica

 90年代から活躍するDJ/トラックメイカーの XTAL (旧名義 CRYSTAL)が4年ぶりに発表した2枚目のソロ・アルバム。
 (((さらうんど)))JIN TANA & EMERALDS のメンバーでもあり、K404 とのユニット TRAKS BOYS として2016年まで川崎の工場の屋上でレイヴを開催していた彼は、本作でダンスとはべつの試みにチャレンジ。ときおりギターがシューゲイズ的なノイズを鳴らしたりもするが、基本的には美しさを追求したエレクトロニカ・サウンドが展開されている。

Various Artists - REITEN presents ENSō 2020 | REITEN

ExperimentalAmbientTechno

 ベルリンを拠点に活動するサウンド・アーティストの Kosei Fukuda も要チェック。レーベル〈REITEN〉を主宰し、すでに10枚以上の12インチを送り出している彼は、この4月に宇都宮で電子音楽のフェス《REITEN presents ENSō 2020》の開催を予定していたものの、COVID-19 の影響により延期に。このまま立ち止まっているわけにもいかないからだろう、7月24日に同名のコンピがリリースされている。
 レニック・ベルイヴ・ド・メイなど、フェス出演予定だった各国のアンダーグラウンドの精鋭たちが参加しており、エクスペリメンタルなテクノ~アンビエントの最前線を堪能することができる内容だが、なかでも先日紹介した YPY をはじめ、Fukuda 本人の手による本作全体のコンセプトを体現する2曲、ヴェテランの ENA、あるいは Katsunori Sawa や Yuji Kondo など、日本人アーティストたちが気を吐いている印象があり、各人の今後の動向が気になってくるコンピだ。

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