「Nothing」と一致するもの

Smoke - ele-king

Hakushi Hasegawa - ele-king

 長谷川白紙がフライング・ロータス主宰のレーベル〈Brainfeeder〉と契約を交わしたことがアナウンスされている。発表に合わせ、シングル曲 “口の花火” が公開。2年前のインタヴューでフライング・ロータスが長谷川白紙の名を挙げていたのは、この布石だったのかもしれない。詳細は下記より。

Various - ele-king

 IDMというジャンルは明らかに白人男ばかり、それでも私は自分の音楽をIDMだと思っている、とロレイン・ジェイムスは言った。ジャンル名には暗になんとなく、いつの間にか人種的な区分けがある。とくにそれがハイブローなジャンルになってくると、やはり暗になんとなく、いつの間にか白人色が強まる傾向にあるようだ。たとえば、およそ50年を経てようやくまともに評価されたジュリアス・イーストマンではないが、前衛音楽/実験音楽とはクラシック音楽の延長なのだから、すなわちそれは白人史だと無意識ながら決めてかかっている排除の声、すなわちある種の権力がいまもないとは限らない。

 『破壊的な周波数』と題され、UKの〈ノンクラシカル(非古典)〉なるレーベルからリリースされたこのコピレーションは、エレクトロニック・ミュージック、それも実験的かつ学際的でハイブローな一群において非西欧的なるものの台頭を待ち望むユートピアンにお薦めの1枚だ。実験だの前衛だのノイズだのといった音楽のサークルやシーンにおける“白さ”を文化的かつ制度的に問題視したアミット・ディネシュ・パテル(Amit Dinesh Patel)博士が、「実験音楽における黒人と褐色アーティストの明らかな知名度の欠如」に対処することを目的に、ロンドンのグリニッジ大学の支援のもと、UK在住の非白人の作品に絞ってコンパイルしたアルバムである。パテルはDushume名義で2曲提供し、ほか、 5人の黒人/褐色のアーティスト(Poulomi Desai、Nikki Sheth、NikNak、Dhangsha、Bantu)が参加。言うなれば現代のジュリアス・イーストマンたちをどうぞ、と。彼ら・彼女らは制約のないカンバスを広げ、創造性をもって文化の格子をぶち壊さんと、文字通り“破壊的な周波数”を発信する。これが素晴らしいのだ。
 
 アルバムの出だしと結びには、プーロミ・デサイ(Poulomi Desai)の曲が配置されている。サウンド・コラージュを駆使し、声とシタールをノイズ発信器とする彼女の音楽は驚異的で、最初期のKlusterにも似たアナーキーな音の渦をまき散らす。オープニング曲の冒頭で、彼女はインドの音階の歌を歌い上げているが、歌詞は「詩的テロリスト・アート」についてのマニフェストになっているそうだ。実験的な瞬間のムーア・マザーとも共振するであろう、写真家およびマルチメディア・アーティスト、活動家でありコミュニティ・ワーカーでもあるこのUKエイジアンのことを、ぼくは本作で初めて知った。いやはや、すごい人がいるものだ。
 が、すごいのは彼女だけではない。バントゥ(Bantu)は抽象化されたエレクトロニック・ノイズの複雑なうねりを紡ぎ出し、コンパイラーであるドゥシューム(Dushume)ことパテル博士もまた、ざわめく電子の粒子たちを地獄のサブベースを道連れに創出し、動かし、羽ばたきさせる。ニッキー・シェス(Nikki Sheth)はいま密かにブーム(?)となっているフィールド・レコーディング作品を提供、水しぶきや鳥の囀りのリアルな再現をともなって極彩色による音の風景画を描いている。元エイジアン・ダブ・ファインデーションであるダンシャ(Dhangsha)は、ダンスフロアを揺り動かしながら、もこもこしたベースと鋭い宇宙線を交錯させ、テクノの更新をはかっている。ニックナック(Nicole Raymondで知られる)は声のコラージュとグリッチを実験とユーモアの表裏一体のなかで推し進めている。ターンテーブリストである彼女の音響作品はときに漫画的で、ローリー・アンダーソンの領域にもリーチしていることは言うまでもない。ダビーな曲だが、言うなればこのコンピレーション・アルバム全体が空間的で遠近法の効いた奥行きもっているので、ヘッドフォンか、なるべく音量の出せる再生装置で聴くことを推奨したい。
 
 アンビエントとサウンド・アートの境界線がいま溶解し、曖昧になっていることは先日の坂本龍一の追悼アルバムを聴いてもわかる話で、かつてアンビエントと呼ばれた音楽が未来においてはイージー・リスニングに括られてしまうんじゃないかと思えるほど、近年はその茫漠たる地平において興味深い音楽作品がたくさん生まれている。こうした〈現在〉に非白人からのアプローチをこのように見せることは、未来を諦めていない人たちの仕業であって、しかも疎外された声がいかに独創的で、そして圧倒的であるのかを証明もする。なるほどこれはたしかに〈クラシカル〉などではない。音の海に連なるあたらな一群。ニューエイジ的な快適さが皆無であるばかりか、むしろその手の飼い慣らされた快適さとは徹底的に抗しようという腹づもりだ。ぼくが夢見る御仁たちにお薦めするのも、わかってもらえただろうか?

JAMES MASON - ele-king

BILL SPOON - ele-king

Mixed Bag - ele-king

Marcus Belgrave - ele-king

市川修トリオ - ele-king

ロバート・ラフ - ele-king

Squid - ele-king

 高い評価を得たファースト・アルバム『Bright Green Field』(以下『BGF』)から2年。ブラック・ミディBCNR など、同世代のバンドたちが順調にリリースを重ね、それぞれ異なる道を歩みはじめるなか、はたしてスクイッドはどんなオリジナリティを目指したのか。
 セカンド・アルバム『O Monolith』でまず注目すべきなのは、ジョン・マッケンタイアがミックスを手がけている点だろう。ひとつひとつの音の粒立ちが上品になっているのは、まさに彼のなせるわざにほかなるまい。冒頭 “Swing (In A Dream)” に代表されるように、電子音の存在感が増しているのも新鮮だ。
 突然の静と動の切り替え、激しいディストーションなど、これまでのスクイッドを特徴づけていた冒険心は本作にもしっかり引き継がれている。けれども耳を奪われるのはやはりそうした新しい試みのほうで、管楽器を導入する曲が増えたことも見逃せない。メンバーのローリー・ナンカイヴェルによるトランペットもしくはコルネット、ゲスト奏者たちによる木管は、多くの曲に深みのある陰影をもたらしている。
 歌い方の変化も大きい。あの叫ぶような発声法こそドラマー兼シンガーたるオリー・ジャッジのトレードマークだったわけだけれど、ゆえにスクイッドの音楽はリスナーを選ぶものになってしまってもいた。シングル曲 “The Blades” にあらわれているように、今回のヴォーカリゼイションはだいぶ「歌」に寄っている。彼らがこれまで以上にメロディに意識的になっていることは、前作から引きつづいての参加となったマーサ・スカイ・マーフィーとのデュエット曲 “After The Flash” からもうかがえる。不穏な空気を呼びこむハープ、終盤で不気味に重なり合う複数の歌声──この声のぞっとする使い方もまた『O Monolith』の肝だ。

 本作はもともと、『BGF』リリース後のツアーでお試し的に披露されたいくつかの曲からはじまっている。その後ブリストルへと移動した彼らはそこで作曲に専念、最終的には南西部ウィルトシャーのボックス村に位置するピーター・ゲイブリエルのリアル・ワールド・スタジオで録音をすることになった。ここがまたかなりの田舎だったようで、同地で過ごした経験が本作に大きな影を落としている。たとえば切れ味鋭いギターが炸裂する “Green Light”。フィールドレコーディングされた鳥の鳴き声は、非産業的なものの象徴だ。『BGF』で描かれていたのが「コンクリでがっちり固められたランドスケープ」(紙エレ28号)、すなわち現代の大都市、資本主義の恐るべき強大さだったのにたいし、新作は田舎や田園の風景を立ち上げようと試みている。
 より古の時代への想像力がそれを補完する。ボックス村から40kmほど離れているとはいえ、ウィルトシャーはかのストーンヘンジを擁する区域でもある。迫りくる新石器時代の気配──『O Monolith(おお一枚岩よ)』のタイトルは、まさにこの「石」のイメージに由来している。あまりに長大な人類史の、タイムトラヴェル。
 フォークとノイズ・ロックを接ぎ木したような “Devil's Den” は、やはりウィルトシャーに存する新石器時代の遺跡を曲名に頂戴する一方で、劇作家キャリル・チャーチルの目を借りつつ中世に端を発する魔女狩りを眺めてもいる。聴き手をどきっとさせる「浮かんでも死ぬ、沈んでも死ぬ」のフレーズは、今日の社会にたいする優れた批評でもあるだろう。
 こうした時間旅行、過去と現在のアクロバティックな接合は随所で試みられている。魅惑的なファンクのリズムのうえで、亡霊の唸り声のごときノイズとサックスが駆けめぐる “Undergrowth”。この曲でジャッジは家具に生まれ変わった人間を演じている。アニミズムのアイディアを援用した歌詞だが、無生物にも魂が宿るという日本ではおなじみのその発想は原始社会を想起させもする。他方アクティヴィストたちを鎮圧する警察の暴力を歌った “The Blades” は最近のフランスにおける蜂起を連想させるし、加工された音声が耳に残る “Siphon Song” はネット・ニュースに浸りつづけることの疲労感を表現している。太古に引き寄せられながらも、彼らが見つめているのはあくまで現代なのだ。

 その “Siphon Song” でも招かれていた〈Erased Tapes〉の合唱アンサンブル=シャーズ(Shards)は、旋律やハーモニーへの関心を高めた本作における、もしかしたら最大の功労者かもしれない。最終曲 “もし牡牛が泳ごうとしているのを見ていたならきみは近寄らなかっただろう” における大胆なコーラスの導入は、間違いなくスクイッドの新基軸だ。ギターのアントン・ピアソンが作詞を担当したこの曲では、タイトルとは裏腹に、ネズミとの暮らしが描かれている。貧困の隠喩にちがいない。
 もうひとりのギター奏者ルイス・ボアレスによれば、本作に影響を与えた作品のひとつにガゼル・ツイン&NYXの『Deep England』があるという(https://northerntransmissions.com/squid-arent-resting-on-their-laurels/)。前作収録曲 “Paddling” はマーク・フィッシャーからインスパイアされた楽曲だったけれど、そのフィッシャーが「21世紀のアート・ポップの女王」と賛辞を送ったのがブライトンの電子音楽家、ガゼル・ツインだ。代表作『Pastoral』は一見のどかな田園をテーマにしながら、不安を煽る電子音や民謡、貧者やレイシストのことばを衝突させることで田舎の残虐さをほのめかす、一大電子音響ホラー絵巻だった。今回ボアレスが言及している『Deep England』でもどこかペイガニックで神秘的な音声がつぎつぎと重ね合わせられており、その実験精神はたしかにこの最終曲における合唱と響きあっている。

 現代都市からの離脱をほのめかす『O Monolith』は、一方でその複雑な展開や音響、数々の創意工夫のおかげでなまなましい現代性を携えてもいる。ここではないどこかの想像が、むしろ「いま、ここ」を診断する手段になることを、スクイッドの新作は証明しているのだ。豊かな音楽性によってもたらされたこの遠近法こそ、今回彼らが獲得したオリジナリティにほかならない。

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