「Nothing」と一致するもの

Speaker Music - ele-king

 また1人、ブラック・ミュージックの優れた才能が宇宙に向かっている。サン・ラーやURなど地上に公平なパラダイムが見出せないミュージシャンが宇宙に独自のヴィジョンを投影する系譜はさらに先へと伸びようとしている。アメリカの黒人たちを取り巻く状況が好転せず、ブラック・ライヴス・マターを頭から非難したキャンディス・オーウェンズのようなオピニオンが力を持つことでさらに悲観的になっているということだろうか。スピーカー・ミュージックことディフォレスト・ブラウン・ジュニアが4年前にケプラと組んだコラボレーション・アルバムのタイトルは『黒人であることの対価は死(The Wages of Being Black is Death)』(19)というもので、対価(Wage)は肉体労働に限定された報酬の意。それこそ『こき使われて死ぬだけ』というタイトルをつけたわけである。このことはさらに翌年からの新型コロナでエッセンシャル・ワーカーの死亡率という具体的な数字にも表れ、『別冊ele-king アンビエント・ジャパン』で取材したチヘイ・ハタケヤマもカリフォルニアに行くと「あちこちにブラック・ライヴス・マターのステッカーが貼ってあるけれど、エッセンシャル・ワーカーとして働いているのは黒人しかいない」という光景として認識できるという。スピーカー・ミュージックのセカンド・アルバム『Black Nationalist Sonic Weaponry』(20)はそうしたブラック・ライヴス・マターの動きをフィールド録音し、ドキュメンタリーとしての側面も併せ持っていたものの、21年にブラック・ライヴス・マターの幹部であるパトリッセ・カラーズらが寄付金を着服して豪邸を手に入れていたことが報道されてからは右派だけでなく左派からも風当たりが強くなり、評価はかなり流動的な様相を呈している。また、ブラック・ライヴス・マターの副作用として警官になろうという人が全米で減少傾向にあり、警官の数がどこも少なくなっているのをいいことにこのところブラック・ライヴス・マターのデモがある時を狙ってカリフォルニアやフィラデルフィアで不特定多数のフラッシュデモが商店の打ちこわしや略奪を繰り返していることは日本のニュース番組でも報道されている通り。店舗を閉めざるを得なくなった経営者からはブラック・ライヴス・マターのデモさえなければ……という逆恨みの声も。一方で昨秋、キャンディス・オーウェンズの知名度を引き上げることに一役買ったカニエ・ウエストは「ホワイト・ライヴス・マター」と書かれたTシャツを着てファッション・ショーに出たことでほんとに人気がなくなってしまった。最近のカニエ・ウエストはビアンカ・センソリと籍を入れたことも含め宗教的な話題ばかりになってしまった。

 『Black Nationalist Sonic Weaponry』はブラック・ライヴス・マターをメインに扱ったアルバムではなく、彼の政治的な主張はアメリカの産業構造やマルクス主義など歴史性を問うものが多く、それらが斬新なサウンドと組み合わせられることで初めて意味を持つアルバムだった。耳新しいと感じたサウンドのなかではハーフ・タイムとドラム・ファンクを組み合わせたような独特のドラミングが素晴らしく、これによってベース・ミュージックに新たな地平が切り開かれたことは確か。『Black Nationalist Sonic Weaponry』と前後してリリースされたディフォレスト・ブラウン・ジュニア名義『Further Expressions Of Hi-Tech Soul』(20)や4曲入りの『Soul-Making Theodicy』 (21)でもそのドラミングはさらに中心的な役割を果たし、シンコペーションの多用を存分に楽しませてくれた。そして、3年ぶりとなった3作目のフル・アルバム『Techxodus(テクノと大量脱出の合成語)』にももちろんこのフォーマットは受け継がれ、2曲目から4曲目は同系統の曲が並べられている。比較的、安心して楽しめるパートである。スピーカー・ミュージックのデビュー・アルバム『of desire, longing』(19)では、このドラミングはまだ大きな役割を与えられていず、サウンドの基調をなすのはゆらゆらとどこか幽霊めいたドローンだった。これが『Techxodus』ではオープニングと5、6、8、9曲目でパワフルなトーンを帯びて蘇り、単純に迫力を増したドラミングとドローンの組み合わせはスピーカー・ミュージックの新局面をなしている。ノイズともいえる攻撃的なドローンはURの登場を思い出させ、アルバム全体に漲る「怒り」を印象づける。そう、『Techxodus』はエルモア・ジェームズのブルーズ・ギターを思わせるほどパッショネイトで、同時にパブリック・エナミーのような恐怖の演出も試みる。フリーキーなトーンは曲を追うごとに激しくなり、最後に置かれた“Astro-Black Consciousness”ではあまりにも混沌としたウォール・オブ・ノイズが組み上げられる。もはやそれは地獄図に等しいものがある。僕はジャズにはあまり積極的な関心はないのでちょっと適当だけれど、この5曲はジョン・コルトレーン『Ascension』(66)の混沌としたアンサンブルを想起させるものがあり、思わず聞き直してしまったほど。『Techxodus』は彼がテクノやエレクトロニック・ミュージックの歴史について書いた著書『Assembling A Black Counter Culture』(未読)のエピローグの役割を果たし、また、ドレクシアの神話を語り直したものでもあるという。どの曲がどうそれに対応しているのかはわからないけれど、エピローグにあたるということは歴史の最先端を実践しているという意味に取れるし、ドレクシアの『Grava 4』や『Harnessed The Storm』といったアルバムに曲名として出てくる〝Ociya Syndor〟をそのまま曲名に使った“Our Starship To Ociya Syndor”は明らかにドレクシアの引用で、ドレクシアの「こんな星にいられるか」というメッセージと宇宙旅行を結びつけたロング・ドローンということなんだろう。この曲だけはドラミングがカットされている。そして、コンセプトが優先されたということなのか、それとも別に理由があるのか、これが7曲目に置かれてしまったことで、せっかくの流れが寸断されてしまい、どうも後半に入ると集中力を欠くアルバムとなってしまった。この曲はオープニングか最後に置かれた方がもっと活きたはず。あるいは、まとまりがよく感じられた『Black Nationalist Sonic Weaponry』に対して『Techxodus』はそのせいで重厚長大に過ぎて一気呵成に聴き通すのが少し面倒なアルバムになってしまったと僕は思う。なので、僕は“Our Starship To Ociya Syndor”は別で聴くか、『Ascension』系の5曲だけを繰り返し聴くことが多い。兵士たちの叫びをサンプリングしてオーディエンスが興奮しているかのように聞かせる“Dr Rock’s PowerNomics Vision”、レゲエ風のブラスがむちゃくちゃに貼り合わされた“Jes’ Grew”、あるいはJ・リンに影響を受けたらしき“Feenin”の奇妙なインプロヴィゼーションと、とにかく混沌としたヴィジョンがこの5曲は凄まじい。

Christopher Willitst & ILLUHA - ele-king

 サンフランシスコを拠点に活動するクリストファー・ウィリッツが、2023年の来日公演の一環として御茶ノ水RITTOR BASEにて3Dサウンドシステムを使用したライヴコンサートとセミナーを開催します。
 また、スペシャルゲストとして〈12K〉レーベルのメンバー、ILLUHAのライヴもあり。
 ILLUHAはドラマーの山本達久を新メンバーに迎え、9月22日にアルバム『Tobira』をリリースしたばかり、今回は伊達伯欣と山本のデュオによるライヴ。イベントの最後にはウィリッツとILLUHAがギター、生ドラム、エレピによる生演奏を披露。アンビエント・ファンの皆様、ぜひお見逃しなく。
(*ウィリッツのセミナーは日本語の通訳があります)

主催: RITTOR BASE(御茶ノ水)
開催日時:2023年10月29日 (日)
Open 14:45 Start 15:00
https://rittorbase.jp/event/948/

14:45- 開場(チケット番号順の入場になります)
15:00- クリストファー・ウィリッツによるセミナー
15:45- ILLUHA live
16:45- クリストファー・ウィリッツ live
17:45- ウィリッツ+ILLUHA live
(終演予定18:30)
会場参加券:4,950円(学割:3,300円)
オンライン視聴券:3,300円

*会場参加券、オンライン視聴券ともに2023年11月5日23時までアーカイブ視聴が可能です

※なお、:2023年10月31日 (火)京都METROでも、Christopher WillitstとTomoyoshi Dateのライヴがあります。関西の方はこちらもぜひチェックしてくださいね。https://www.metro.ne.jp/schedule/231031/

The Montclairs - ele-king

Clifford Jordan Quartet - ele-king

Romy - ele-king

 ロミーのソロ・デビュー・アルバム『Mid Air』は、彼女が10代のときに通っていたクィア・クラブでの経験や記憶がインスピレーションになっているという。それで僕も、アルバムを聴きながらはじめてゲイ・クラブに行ったときのことを思い出していた。
 忘れもしない。大学浪人が決まったあとの18歳の春だった。クラブ・イヴェント自体慣れていなかった自分には刺激が強かったけれど、それよりも何よりも、自分が住んでいる街にこんなにもゲイがいることに驚いた。それは普段の生活のなかではまったく見えないものだったからだ。よく身体を鍛えた薄着のお兄さんたちが光に照らされて楽しそうに踊っていた。ドラァグクイーンやゴーゴーボーイのショーにも目を丸くした。ディスコ・クラシックやハウス・ミュージックがかかっていたような気がするけど、当時の自分には何もかもが衝撃的だったので音楽についてはあまり覚えていない。あのときの経験がなかったら、ゲイとしての自分の人生はもっと違うものになっていたと思う。見知らぬひとたち、だけどもしかしたら似たような経験をしてきたひとたちと同じ夜を過ごすことが、どれだけ高揚感に満ちたものかそれまで知らなかったから。

肩を並べていっしょに踊ろう
この世界にいままで存在しなかった
自分たちより親密な他人同士は
自分たちより親密なふたりなど
(“Loveher”)

 いかにもシャイな若者たちとしてザ・エックスエックスがデビューしたとき、僕はすぐにその親密なインディ・ポップに夢中になったけれど、シンガーのふたり、ロミーとオリヴァーがレズビアンとゲイであることを知ったのはもう少しあとのことだった。そのメランコリックなラヴ・ソングは「I」と「You」で綴られるジェンダーレスなものだったし、世界に自分の姿をさらけ出すことをどこか遠慮しているような奥ゆかしさがあった。ゲイ・クラブでよく流されるマドンナの「あなた自身を表現しなさい」という問答無用の強さ、エンパワーメント志向とは距離のあるものだったのだ。
 だけどそれから時間が経ち、オリヴァー・シムはHIVポジティヴである自身の経験や感情を主題にしたソロ・アルバムを発表し、ロミーはこのアルバムを「She」や「Her」によるレズビアンのラヴ・ソングでいっぱいにした。オープニング・トラック “Loveher” の舞台はおそらくクィアのナイトクラブだ。4つ打ちのハウス・ビートとはかなげなピアノの旋律が鳴らされれば、彼女は彼女を愛していると柔らかな歌声で繰り返す。けれども彼女はまだ少し恥ずかしそうに、テーブルの下でそっと愛する彼女の手を握るのだ。胸が締めつけられるようなダンス・ポップの名曲である。
 盟友のプロデューサーであるフレッド・アゲインの力を借りて2000年代初頭頃にクィア・クラブでよく流されていたポップなハウスの要素をふんだんに入れているという『Mid Air』だが、ザ・エックスエックスに通じる切ないメロディがたくさん聞こえてくるのもポイントだろう。それはつまりベッドルームの感傷であり、本作はだから、孤独な場所にいた控えめなクィアの子どもがクラブに行って仲間や恋を見つけるまでのドキュメントのようなものである。そこでは、たくさんのものがキラキラと輝いている。集まったひとたちが着る服やメイクが、ミラーボールに反射する光が、流れるダンス・ミュージックの上モノが。ダンス・トラックとしてはシングル・カットが強力ないっぽうで、たとえばミドルテンポの “One Last Try” の開放感も気持ちいい。“Strong” や “Did I” ではやや安っぽく感じられるようなトランスのサウンドも聞こえてくるけれど、それもまた、10代のロミーの心を奪ったものだった。彼女はクィア・クラブの愛すべきところとして、誰もが知るポップスが皮肉ではなくアンセミックに流されることを挙げている。サビのメロディをみんなで歌いながら光に手をかざせば、自分たちの性愛を祝福するようなフィーリングが得られるから。
 僕がそうだったように、音楽それ自体よりも出会いや仲間との楽しみを求めてクィアのクラブに来るひとが多いと思う。もちろんセックスへの期待もあるだろう。このアルバムはそうした場所のフィーリングを立ち上げつつも、ゲイ男性が占有しがちなシーンのなかにレズビアンの愛を歌ったダンス・トラックを投入することで、より現代的にインクルーシヴなものにしようとする意図も見て取れる。アルバムのハイライトである力強いハウス・トラック “Enjoy Your Life” でサンプリングされているのは、トランスジェンダーのシンガーのビヴァリー・グレン=コープランドの歌だ。「あなたの人生を楽しんで」。それはクィア、とりわけトランスジェンダーへの攻撃が世界中で激化するなかで切実なメッセージとして引用されているように僕には思える。そもそもクィアという言葉自体、何かと内部で対立しがちなLGBTQ+コミュニティを「ヘンタイ」という意味を逆手に取って緩やかに繋げようとするものだ。『Mid Air』は、ハウスのビートときらびやかなシンセ・リフで、何よりも「わたしたち」の心を結びつけようとする。まだベッドルームにいるあなたにも届くように。
 アルバムは女性が女性に恋に落ちる瞬間をとらえた軽やかなシンセ・ポップ “She’s On My Mind” で幕を閉じる。肩を横に揺らすベースラインと、静かに熱を持つ鍵盤の打音。「もう隠したくない/たとえ傷ついても/もう気にしない/恋に落ちてしまった/彼女と」。『Mid Air』は、ダンスフロアのそんな瞬間を讃えるためのポップ・アルバムだ。だから、SNSの心ない言葉を相手にしてる時間なんてない。夜の街に出て、同じ曲で歌って、踊って、仲間や恋を見つけよう。

サン・ラ - ele-king

THE CHITINOUS ENSEMBLE - ele-king

Irreversible Entanglements - ele-king

  優れた演奏以外に、今日のジャズが何を意味するのかという問題は1990年代から議論されている。草の根の黒人解放という政治性との明白なコネクションを無くした——その歴史やノスタルジーやプロ根性はあるとしても——今日の名人芸などに意味などあるのだろうか? グレッグ・テイト『フライボーイ2』

 「結局のところ、人びとがジャズを見捨てたのは良いことだったのかもしれない。というのも、ジャズはより資本主義に適した音楽製品に成り下がったわけだから」、これはムーア・マザーの昨年のアルバム『Jazz Codes』の最後に曲において、作家トーマス・スタンレーが皮肉たっぷりにつぶやく言葉である。しかしこの後に続く言葉は、そうした過去との訣別を宣言している。いまやジャズは「生きた音楽として再発見」されて、「計量的安定性という牢獄の鉄格子から解き放たれる」のだ、と彼は言う。
 冒頭に引用したグレッグ・テイトの言葉は2011年の原稿からの抜粋だが、テイトがいまも生きていたら彼の憂いは、まあ、少なくとも軽減されていただろう。なぜならここ数年のブラック・ジャズは、シャバカ・ハッチングスをはじめ、今年アルバムを出したハープ奏者のブランディー・ヤンガー、それからゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラーの拠点〈Constellation〉から作品をリリースする前衛主義者マタナ・ロバーツ……、ことに名門〈インパルス〉(*ジョン・コルトレーン、ファロア・サンダース、アーチー・シェップ、アリス・コルトレーンなどの作品を出してきた)に関して、欧米のジャズ・ファンたちは、最近のリリース──サンズ・オブ・ケメット、ザ・コメット・イズ・カミング、シャバカ&ジ・アンセスターズという、反迎合主義的な攻めのリストゆえに、長い低迷期を抜けいま往年の輝きを取り戻しつつあるんじゃないかと気の早い話に喜んでいたりする。喜びがたとえそれがつかの間のものだったとしても、最近その機運を高めたのがイレヴァーシブル・エンタングルメンツによる、ここに紹介する最新作なのだ。

 それにしても……である。このグループ名、古くはアインシュテュルツェンデ・ノイバウテン、近年ではワンオートリックス・ポイント・ネヴァーに並ぶ憶えにくさだ。とくに日本人にとっては。まあ、とにかくそのイレヴァーシブル・エンタングルメンツ(以下、IEと略)、和訳すると「不可逆的なもつれ」なる名のクインテットは、広くはムーア・マザー(カマエ・アイエワ)という詩人/音楽家/活動家が在籍しているフリー・ジャズ・グループとして認識されているし、ぼく自身もそのように説明してきてしまった。が、しかしそれは、この5人組を説明する上では不適切である。というのも、集団であること、コミュニティであること、人が集まることをこのバンドは、それ自体がひとつのコンセプトといってくらいに大切にしている。この音楽は、抗議デモを契機に生まれているのだから。
 彼らが初めて会ったのは2015年4月の、無実な黒人を射殺したニューヨーク市警への抗議活動として開催された音楽とトークの一夜においてだった。その次に彼らが会ったのは、音楽スタジオだった。そこで1日かけて録音したデビュー・アルバムが、ホテルのラウンジでかかるような、ムーディーでスムーズなジャズである可能性は低いだろう。2017年にリリースされたそのアルバム『Irreversible Entanglements』は、怒りのこもった抗議音楽集だった。
 サックス奏者のキアー・ノイリンガー、トランペット奏者のアキレス・ナヴァロ、ベーシストのルーク・スチュワート、ドラマーのチェザー・ホルムズ、それから詩を担当するカマエ・アイエワ(ムーア・マザー)の5人は、それ以降も、フリー・ジャズのイディオムを応用しながら、真っ向からの政治的な抗議──反植民地主義、反再開発、反独裁化など──としての2枚のアルバムを録音し、シカゴのインディ・レーベルからリリースしている。だからそんなわけで、クインテットにとって4枚目のアルバムとなる『Protect Your Light』が〈インパルス〉からのリリースになったことは、「ついに来たか!」というか、ちょっとした嬉しい話なのだ。

 もっともこの新作は、彼らの闘争的な過去3作と違って、スピリチュアル・ジャズに寄った平和な音色にはじまっている。オープナーの“Free Love”はいたって優美で、コルトレーンたちが表現してきたその宇宙的な愛を受け継ごうとしているかのようだ。IEの音楽とは、「伝統に敬意を表しながらも、それに反抗する音楽であり、未来を主張しながらも現在に語りかける音楽」というのが彼らによる説明なのだが、それはまさにその通りで、ここには本当にいろいろなものが注がれ、スパークし合っているのだろう。 “至上の愛” を体内に注入しながらもそれとは違うもの出し、過去の再評価ではなく、現在のサウンドで人びとを鼓舞する。リズミックな躍動感をもって、ゴスペルの影響がうかがえる表題曲“Protect Your Light”には、その前向きなパワーがみなぎっている。
 ジャズ史においては聖地であろう、有名なルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオで録音された今回のアルバムは、長尺のインプロヴィゼーション主体だった過去作と違ってわりと短めの、ある程度アレンジされた曲が8曲収録されているが、それらはスタジオ内でのオーヴァーダブを施されたことで空間的な、繊細な音響となっている。このことからも、IEが本作をより多くの人に届けたいと思っていることはたしかで、たとえば叙情感たっぷりのサックスが激しいドラミングに重なる、もっとも政治色の強い“Our Land Back”のような曲でさえも、サウンドに艶があり、アイエワの詩の朗読が聴き取れなくても、楽曲それ自体の魅力に引きこまれる。ほかの曲もそうだが、ドラムとベースが創出するグルーヴは素晴らしく、ジャズの伝統に沿いながら、これはもう、ダンス・ミュージックとしても機能できるかもしれない。内蔵に響くような、烈火のごときIEが暴れている“Soundness”を聴けば、よし、立ち上がるぞ、という気持ちになるし、反復するビートにエレクトロニック・ノイズが渦を巻く“root <=> branch”で語られるアイエワのシンプルな言葉は胸の奥に響いてくる。

  飛ぼう/私たちは自由になれる
  苦しみから自由になれる
  闘いから自由になろう
  自由になろう/飛ぼう
  すべての悩みから自由になろう
  何ものにも縛られない
  自由になろう

 いまパレスチナで起きていることを思えば、これは祈りである。それはそうとして、ブラック・ジャズの闘争史をよく知るこのクインテットが、いちどは途絶えてしまった歴史をたぐり寄せて、火を点けようとしていることは自明だ。彼らを取材した『Wire』誌は、その炎を讃えながらも、「 “アメリカのクラシック音楽 ” としてのアカデミックな名声と敬意にジャズ業界が溺れるなかで、どんな反乱も結局は短命に終わる運命にあるのでは、という問題がある」と慎重な見解を見せている。それに、「より資本主義に適した音楽製品」としてのジャズだってこの先もずっと聴かれるだろうし、いくらいま〈インパルス〉が攻めに出ているからと言って、60年代〜70年代とは比べようのないくらいに趣味が細分化された現代では、音楽の反乱が昔のようにひと塊の何かとなって突進するなんてことも、可能性はなくはないが高くはないだろう。
 いやいや、そんなふうに “文化への期待値を下げる” のが資本主義リアリズムだとマーク・フィッシャーは言っているじゃないか。この夏IEは、ジャズのシーンに留まらず、インディ・ロックやラップやエレクトロニック・ミュージックのフェスティヴァルでも演奏しているのであって、やはり、何かが動いていると思いたい。「いま、ジャズはラザロのように蘇る」とムーア・マザーの『Jazz Codes』のなかで作家トーマス・スタンレーが言ったように、ああ、それは真実だったと。

Byron Morris & Unity - ele-king

Sahib Shihab - ele-king

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