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Home >  Interviews > interview with Fat Dog - このエネルギーは本当に凄まじいものがある

interview with Fat Dog 取材に応じてくれたのは向かって左端のクリス・ヒューズ(キーボード)と中央のモーガン・ウォレス(サックス)。その間が中心メンバーのジョー・ラヴ(ヴォーカル/ギター)。右から二番目がジャッキー・ウィーラー(ベース)、右端がジョニー・ハッチ(ドラムス)。

interview with Fat Dog

このエネルギーは本当に凄まじいものがある

──ライヴが評判のニューカマー、ファット・ドッグ

質問・序文:Casanova.S    通訳:長谷川友美 photo by Pooneh Ghana   Jul 30,2024 UP

 サウス・ロンドンのカオスを生み出すバンド、ファット・ドッグのエネルギーは本当に凄まじいものがある。暗く激しく、それでいてユーモラスなエネルギーがぐるぐるぐるぐると渦を巻くようにして迫ってくる。その熱に触れてみたいと手を伸ばしたくなるような、彼らの音楽を聞いているとふつふつとそんな思いが湧き上がってくる。ファット・ホワイト・ファミリーの邪悪なユーモア、HMLTDの大仰なロマン、ヴァイアグラ・ボーイズの人を食ったようなふてぶてしさ、PVAのネオンの明かり、それら全てを彷彿させながらそれらのどれとも似ないカオスを生み出すバンド、ヤバいという言葉がこんなにも似合うバンドはなかなかないだろう。
 ファット・ドッグは2020年のロックダウンのさなか、中心メンバー、ジョー・ラヴの部屋で生まれた。彼は抑圧された心、そうして身体を解放するかのようにひとりエレクトリックでハードな曲を作り続けた。それは彼が以前所属していたポスト・パンク・サウンドのバンドDREXXELS(Peeping Drexels)とはかけ離れたもので、しかし同じように、あるいはそれ以上に、ライヴの熱を求めたのだ。
 制限が解除され、サウス・ロンドンのライヴ・ハウス、ウィンドミルで他のバンドをやっていたメンバーが出会い、そうして部屋の中のアイデアが具現化され身体を持った。エネルギーに名前が与えられ、サウンドは夜を重ねるごとに熱を帯び、飢えた獣の身体は肥大化していく。「サックスをバンドに入れないこと」。ジョー・ラヴが最初に立てた誓いはあっという間に破られて、やがてサックス奏者のモーガン・ウォレスが加入した。そしてその音がファット・ドッグにさらなる熱をもたらしたのだ。サックスをプレイしている意識ではなく音のレイヤーのひとつを加えるという感覚だとそう彼女は言うが、そのレイヤーはバンドの中でなくてはならないものなった。
 長らく正式な音源が1曲もなかったという状況の中、彼らはライヴを重ねファンベースを拡大していく。そうしてそれが騒ぎになって、曲をリリースしていないにもかかわらずスポーツ・チーム、ヴァイアグラ・ボーイズ、ヤードアクトのサポートに抜擢された。そこで目撃した観客が彼らを知って、それを広めて……そうやってまた口から口に評判が広がっていく。それは古き良きバンドの成功物語を思い起こさせ、同時にSNSを通し熱が伝わる現代の渦を感じさせもする。

 そんな彼らが〈Domino〉と契約を果たし曲をリリースしたのが去年、23年のこと。それから1年、2024年9月6日についに1stアルバム『WOOF.』がリリースされる。さらにはなんと12月に大阪、名古屋、東京で来日公演がおこなわれるというのだ(インタヴュー後に正式にツアーの発表がなされた)。アルバムにそしてライヴ、ここに来てさらにギアを上げるファット・ドッグ。デビュー・アルバムのリリースを前にサックスのモーガンと鍵盤奏者のクリス・ヒューズにこのカオスを生むバンドについて話を聞いた。あるいはふたりの目を通し完璧主義者だという創始者ジョー・ラヴの感性が見えてくるようなそんなインタヴューにもなっているかもしれない。それにしても何かがはじまりそうな、ヤバい匂いがプンプンだ。

人間がどんなに壊れていても、アイデアそのものは生き残ることができる、って彼は言いたかったんだと思う。(M)

日本のインタヴューは初めてなので、まず最初にメンバーの紹介をお願いします。

モーガン・ウォレス(Morgan Wallace、以下MW):私はサックスとキーボード担当で、クリスがキーボードとシンセサイザー担当、ジョー・ラヴがヴォーカルとギター、ジャッキー・ウィーラーがベース、ジョニー・ハッチンソンがドラムス担当ね。

ファット・ドッグはどんな経緯で結成されたのでしょうか? メンバーはそれ以前からバンド活動などしていたのでしょうか? ジョー・ラヴはPeeping Drexelsにいましたよね?

MW:そうそう。ジョーはPeeping Drexelsにいて、他のメンバーも全員ロンドンでなんらかのバンドをやっていて。みんなそれぞれ違うバンドでプレイしてたんだけど、ウィンドミルでギグをやることが多かったから、それで知り合ったという感じ。このバンドは、ジョーがロックダウン中の2020年に結成した。他の多くのミュージシャンと同じように彼も外の世界でやることが何もなくなってしまったから、曲作りに没頭するようになったんじゃないかな。ロックダウンの間、自分のベッドルームで楽曲の核となるエレクトロニックなパートを作曲するようになって、それで規制が少し緩和されるようになってから、ミュージシャンを集めてバンド活動をはじめて。エレクトロ・ミュージックをベースに、そこに私たちの音が乗っていったという感じかな。そこから彼がさらに楽器を増やして、で、ライヴをやるようになったみたいな流れ。何年もの間、生の音楽に触れてこなかったから、みんなが求めているものはライヴなんだって思ったっていうのもあって。ライヴ限定のバンドという感じではじまったのはすごく良かったと思う。少しずつバンド活動に対する意識も変わってきてはいるけどね。

ファット・ドッグというバンド名はどのように決めたのでしょうか? アルバムの最後に名前とひっかけたような「人間を殺すことはできても犬を殺すことはできない」という言葉が出てきますが、活動をしていくうちに「Dog」という言葉になにか特別なニュアンスが出てきたということはありますか?

MW:ジョーが考えたバンド名だからな。でもウィンドミルでのギグが決まったときに、ブッカーのティム・ペリーが彼に「ポスターにバンド名を書きたいんだけど、なんて書けばいい?」って訊いて、それで急いでキャッチーな名前を考えなくちゃならなくなったって話があって。だからたぶん名前に深い意味はないと思う。バンド名について、少し前にジョーと話し合ったことがあるんだけど、ふたりとも2音節の名前がキャッチーでバンド名としてはすごく良いよね、って言ってて。でも、私たちの評価を通して、バンド名にも少し意味が出てきたような気がする。あのフレーズはシンセ・プレーヤーのクリスが書いたんだけど、クリスはサヴァイヴァル能力に長けているから、人間がどんなに壊れていても、アイデアそのものは生き残ることができる、って彼は言いたかったんだと思う。ツアー中はどんなに寝不足でも、どれだけたくさんの飛行機に乗らなきゃいけないとしても、ステージで生きるための術を私たちは学ぶことができるから。そういう意味が込められているんじゃないかな。

いまはもちろん重要なアクセントになっているかと思いますが、結成当初作ったルールに「音楽にサックスを持ち込まないこと」というのがあったという話があります。これは21年当時大流行していたウィンドミル・シーンのポスト・パンク・バンドへのカウンターを意識したものだったのでしょうか?

MW:そういう意味もあったかもね。ジョーが前にやっていた Peeping Drexels はポスト・パンク・バンドだったから。彼がファット・ドッグの音楽を作りはじめたときはひとりでコンピュータで作っていたんだけど、以前のバンドとは対極にあるようなサウンドで。いわゆるダンス・ミュージック。ダンサブルなサウンドで、とにかくみんなを踊らせたいっていう欲望があった。もちろん私はサックス・プレイヤーだから、彼の意見には同意しかねるけど、サックスを取り入れたポスト・パンク・バンドがたくさん存在していたのはそうだったと思う。たしかにサックスを入れることで、目新しさを感じるからね。それに対し私のファット・ドッグでの役割について言うと、いわゆる普通のサックスを吹いていないということ。私はジャズ・ミュージシャンで、ときどきジャズも演奏しているけど、そういうものとファット・ドッグとでは全く異なるプレイの仕方をしているから。私だけじゃなくて全員が自分の楽器が目立つような演奏をなるべく避けるようにしている。私たちが目指すのは全体としてまとまりのあるサウンドだから。それぞれの楽器はひとつのレイヤーに過ぎないというか。そんな感じだから、私はサックスをプレイしているという意識はしてない。自分が出す音はあくまでもレイヤーのひとつであってとてもリズミックなサウンドだから。アルバムにしても、サックスというよりもエフェクトやレイヤーのひとつという感覚でプレイしているし。それが効果的に使われているみたいな。いわゆる目新しくて目立つようなサックスではなくて、ものすごい大音量で爆発する音だったり、抑えめのトーンで淡々と演奏したり。いわゆるステレオタイプなサックスではないと思うけど、それでもジョーが言ったことは承服しかねるかな(笑)。

以前はジャズ・バンドにいたんですか?

MW:大学でジャズを勉強して、いくつかのジャズ・バンドに参加していたけど、その他にもいろいろやってた。ファット・ドッグ以前にもジャズではないバンドもやってたし。ただサックス・ソロを吹きたくてこのバンドに参加したというわけではなくて。

(ここでクリスが入ってくる)

いまちょうどファット・ドッグ以前にも音楽をやっていたのかどうか訊いていたところだったのですが、クリスはどうですか?

クリス・ヒューズ(Chris Hughes、以下CH):モーガンほどの器じゃないけど、僕もクラシックとジャズが好きで育ったんだ。それに、ダブル・ベースもプレイしていたね。高校を卒業して昔からの友人たちとバンドを組んだりしたけど、本当にゴミみたいなバンドだったよ。みんなが好き勝手にソロを弾きたがるようなバンドで、クソみたいなサウンドだった(笑)。ファット・ドッグに加入するまでは音楽業界みたいなものには全然縁がなくて。まぁいまでもこういう環境には全然慣れないけどね。すごく変な気分だよ。ずっと大規模なオーケストラやビッグ・バンドで演奏していたから、6人組の、言ってみればポップ・バンドでプレイするのは本当にそれとは全く違う経験なんだ。ギグをやることにしろ、他のバンドとの奇妙な競争みたいなものにしろ、ビッグ・バンドにいるときとはまるで違う。すごく変な気分だよ。

私のファット・ドッグでの役割について言うと、いわゆる普通のサックスを吹いていないということ。私はジャズ・ミュージシャンで、ときどきジャズも演奏しているけど、そういうものとファット・ドッグとでは全く異なるプレイの仕方をしている。(M)

そんなサウス・ロンドン、ウィンドミル・シーンは、あなたたちの眼から見てどんなふうに映っていましたか?

MW:ウィンドミル・シーンにいたのは何年か前から去年くらいまでだから何とも言えないけど、私もクリスと同じで、音楽業界という世界でバンド活動をするのが初めてだから、パブ・ヴェニューでプレイすることについてよりもそっち方が大きいかも。たくさんツアーに出て、海外で演奏するって本当に信じられないような体験だから。それ以前には旅行にもほとんど行ったことがなかったし。少し前にオランダでインタヴューを受けたんだけど、そのときに「ファット・ドッグを一言で表すと?」って訊かれて。ジョーは “トラベル” って答えていたんだけど、私も同じことを声を大にして言いたい。私たちの視点から見ると、このバンドは “旅” そのもの。ウィンドミル・シーンを飛び出して、もっといろいろなところでたくさんのギグをやるようになった。ずっと旅をしている気分で、これまで触れることのなかったより多くの文化や世界に触れているから。

ファット・ドッグの音楽はシンセサイザーのネオンのきらめきが印象的で、ある種のいかがわしさがあり、モノクロ・サウンドのポスト・パンク・バンドとまったく違っていて新鮮に聞こえました。活動をする上で影響を受けたバンドは何かあったのでしょうか?

MW:クリスは誰を挙げる?

CH:曲によるかなぁ。それに、いろいろな曲の影響や要素をひとつの曲にたくさん詰め込んでいたりもするしね。大きなインスピレーションのひとつに、ScootaとThe Intergalactic Republic of Kongoを挙げられると思うけど。そのふたつは、ジョーが曲作りの上で大きな影響を受けていることは間違いないね。それに、映画や映画音楽にも多大な影響を受けているよ。

MW:レコードのヴァージョンは、つねにライヴ・ヴァージョンとは違っているからね。だから最初にレコーディングに入ったときはなんだか変な気分だった。ライヴとは全然違うものになるなと思ったから。でも、実際にアルバムを作ってみたらライヴとはまた違った良さがあることに気付いて。ストリングスとかレイヤーをたくさん重ねることの良さというか。そういうものはライヴのステージでは再現できないから。フルのストリング・オーケストラを入れる余裕はステージのサイズ的にも予算的にも不可能でしょ(笑)。

現行のバンドで共感しているようなバンドはいますか?

MW:Pink Eye Clubかな。すごく良いよ。男性のソロなんだけど、clubを名乗ってる(笑)。

CH:彼はすごく良いね。僕はGetdown Servicesっていうバンドがすごく好きなんだ。ブリストル出身の2人組で、とてもファンキーな音楽をやっているんだけど、歌詞がかなり攻めてて面白いよ。めちゃくちゃ良い人たちだし。彼らはとてもクールだね。自分たちにしかできない音楽をやっていて、まるで海みたいに毎回同サウンドが変化していく感じ。

質問・序文:Casanova.S(2024年7月30日)

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Profile

Casanova.SCasanova.S
インディ・ミュージック・ファン。フットボール・ファン。アルバムが出る前のバンドやレーベルに独自にインタビューしたり、シーンや人について考えたり、noteでそんな活動もしています。溺れているときは沈まない。
note: https://note.com/novacasanova
Twitter: https://twitter.com/CCYandB

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