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interview with Kid Koala

interview with Kid Koala

カナダのベテラン・スクラッチDJ、久びさにターンテーブルが主役のアルバム

──キッド・コアラ、インタヴュー

質問・序文:原雅明    通訳:原口美穂 photo by Corinne Merrell   May 02,2023 UP

Nintendo Switchで出た『Floor Kids』っていうヴィデオ・ゲームのプロジェクトに参加したんだ。子ども向けのブレイクダンスのフリースタイルのゲームで、僕はそのゲームの音楽と効果音を全て担当したんだ。

『Nufonia Must Fall』のペーパーバックをいまも大切に持っています。あのイラストレーション、物語、世界観というのは、その後のあなたの様々な作品の根底に流れているもののように感じますが、いかがでしょうか?

KK:そうだね。ストーリーテリングという考え方が、僕の作品作りの原動力になっていると思う。実際、ニュー・アルバムを作っているときも、頭の中でストーリーは描かれていたんだ。そのストーリーにどんな曲が必要なのかを考えることは、曲作りのときにとても役に立った。このショーやストーリーを実現するためには、どんなタイプの曲が必要なのかってね。だから、『Creatures of the late Afternoon』はまるでアクション映画のような仕上がりになっているんだ。制作中にそれが見えてきたから、第3幕の最後には大きな対決バトルが必要だと思ったし、イントロ・トラックがいるな、とか、クリーチャーたちがバンドとして皆で集まって自然史博物館を救うトラックを作ろう、なんて考えるようになった。バイクの追いかけあいのシーンとかもね。物語という観点は、新作でも基本になっているんだよ。

その新作アルバム『Creatures Of The Late Afternoon』のコンセプトについてもう少し詳しく教えてください。「ボードゲーム機能付きのアルバム」とありますね。

KK:アルバムは、ダブルパックみたいな感じになっていて、ボードゲームがついてくるんだ。さっきも話したけど、パンデミックの間、僕は全てのクリーチャーのキャストを作っていた。ゲームに登場するクリーチャーのキャストたちは、全員楽器を演奏するクリーチャーで、プレイヤーはゲームの中を回ってカードを集め、様々なクリーチャーと出会い、バンドを結成して、いろいろなスタイルを作り上げる。ラヴ・ソングから、アクション・ビートのソングまでね。コンセプトは、絶滅危惧種に指定されている生き物のグループがいて、彼らが自分たちの生息地と自然史博物館を守るために団結するんだ。でも、テクノロジー系で頭の固い大手の会社が現れ、音楽をひとつのスタイルだけにすることを強要し始める。そこで、多様な音楽スタイルのクリーチャーたちがバンドを結成しひとつとなり、異なるスタイルが存在することを祝福する。そしてある意味、音楽におけるアルゴリズムというアイディアをからかっているんだ。人気だからといって、全ての人が突然それだけを聴くようになり、それが全てだと思い込んでしまう考え方をね。

音楽的には、ストレートなビートやスクラッチが聴けるアルバムに仕上がっています。これにはどのような意図があるのでしょうか?

KK:たしかにそうだね。『Nufonia Must Fall』では、音楽はもっとチャップリン風だったと思うんだ。だから、ピアノとストリングスがすごくロマンティックなサウンドを作っていたりする。でも今回のアルバムのイメージは、もっとアクション映画のようなスタイルの作品だった。だから、アルバム全体を通して、ヘヴィーなドライヴ感や推進力のあるグルーヴが必要だったんだ。例えば、“High, Lows & Highways” のような曲は、さっき話した数年後に公開されるショーのバイクのチェイス・シーンに必要なトラックだった。ドラムが多めになっているこのトラックは、その瞬間に最適なグルーヴを与えてくれる曲。そういうトラックが、この作品のストーリーを表現するのに役立ってくれると思ったんだよ。

(新作の)コンセプトは、絶滅危惧種に指定されている生き物のグループがいて、彼らが自分たちの生息地と自然史博物館を守るために団結するんだ。でも、テクノロジー系で頭の固い大手の会社が現れ、音楽をひとつのスタイルだけにすることを強要し始める。

Lealaniをはじめ、フィーチャーしたゲストについて詳しく教えてください。

KK:シンガーであり、ソングライターであり、プロデューサーでもあるLealaniは本当に素晴らしい。彼女は、自分のガール・パンク・バンドも持っているんだ。Lealaniはギターとキーボードも演奏できるし、ドラムパッドも演奏できるし、歌えるし、信じられないくらいの才能を持っている。彼女の声を聴いたときに、「この人ならら大丈夫だ」と思った。“Things Are Gonna Change” を書いたとき、歌詞はできていて、ライオット・ガールのような声を持つ人を探していたんだけど、彼女の声ならピッタリだと思ってさ。僕の友人があるプロジェクトで彼女と一緒に仕事があったから繋いでもらって、僕から連絡をとったんだ。「いまこのトラックを作っているんだけど、君ならこのトラックで素晴らしいサウンドを奏でられると思うんだ。どう思う?」と聞いたら、嬉しいことに彼女は僕のLAでの『Nufonia Must Fall』のショーを見たことがあって僕の作品を知ってくれていて、それが楽しかったらしく、オーケーしてくれた。それでコラボが実現したんだ。彼女は本当に素晴らしいと思う。
 それから、“When U Say Love” という曲でヴォーカルを担当しているのは、実は僕の妻(笑)。いま同じ部屋にいて、「言わないで!」ってジェスチャーをしてるけど(笑)、どうせバレるから言っちゃおう(笑)。楽器に関しては、今回は、パンデミックでスタジオに人がいなかったから、ドラム、ベース、キーボード、サックス、ヴィブラフォン、クラヴィネットなどアルバムに収録されている全ての楽器を僕が演奏しないといけなかったんだ。

『Music to Draw To: Satellite』や『Music to Draw To: Io』のようなシンガーとのコレボレーション作品は、あなたにどんなことをもたらしましたか?

KK:『Satellite』のとき、初めて歌詞を書いたんだ。ニュー・アルバムでも全曲の歌詞を書いたけど、初めて書いたのは『Satellite』。エミリアナ(Emilíana)はアイスランド出身のシンガーで、僕は彼女のファンだったから、曲がほとんどでき上がっていた状態のときにモントリオールに招待したんだ。で、5日間しか時間がなかったんだけど、彼女は時間をかけて歌詞を書くタイプのアーティストだったから、僕自身が歌詞を書かないといけなくなってしまって。書いた歌詞を見せたら、「すごく美しいと思う。ぜひ歌ってみたい」と言ってくれて、うまくいったんだ。大好きなシンガーに僕が書いた歌詞を理解してもらえたなんて、本当に嬉しかったね。『Io』のときも同じ。トリクシー・ウィートリーが僕に歌詞を書いて欲しいと言ってきたから、また歌詞を書くことになった。そして、彼女がヴォーカルのメロディを考えて、見事にそれを表現してくれたんだ。シンガーたちとコラボしたことで、またビリー・ホリデイの話に戻るけど、彼女たちの音楽のように、正しいことを正しい言葉で表現することができたと思う。自分の声を美しくコントロールできる人がいるような感覚だったね。彼女たちの声は、まるで自分から発せられた声のような心地よさがあったんだ。

音楽家としてレコーディング作品をリリースすることは、あなたの中で、どの程度のプライオリティを置いているのでしょうか? いまもレコーディング作品を残すことは活動のメインになりますか?

KK:レコードを作りたいのは、まず、自分自身がそれを聴きたいから。そしてその次に、それを演奏してある方法で見せたい、あるいは、一緒に仕事をしたい人たちとコラボレーションしたい、という気持ちが出てくる。音楽は、いつも扉を開き、橋渡しをして、僕と人びとを繋いでくれる存在なんだ。僕にとっては、全ての音楽制作がつながっているんだよね。全て同じスピリットでやってる。僕にとっての活動の違いは、わかりやすく言うと、季節の違いに近いと思う。初夏のような気持ちのいい時期はドライヴに行くときの音楽が作りたくなったり、パーティー・ミュージックを作りたくなる。で、雪が降り始めると、ピアノ音楽でメランコリーなコードを弾くようになったり。カナダの冬は長いからね。そのときの気分に合わせて音楽を作っていく感じ。僕が住んでいる街のエネルギーや天気にも左右されるし。

ターンテーブルは、あなたにとって音楽的な楽器でしょうか? あるいは慣れ親しんできた道具でしょうか? どういう存在なのでしょう?

KK:その両方だと思う。気分を表現できる楽器でもあり、その音を作るのに役立つツールでもあるから。僕は、人と出会ったりオーディエンスとつながるためにターンテーブルを使い演奏することに多くの時間を費やしてきた。だから、ある意味ターンテーブルは僕のDNAの一部になっているんだ。スクラッチを始めると、全てが溶けていくような感じ。禅の世界に入り込むとでも言うかな(笑)。スクラッチしていると、心が安らぐんだよね。すっと一緒に時間を過ごしてきたからなのか、ターンテーブルと一緒にいると、家にいるような感覚になるんだ。


新作に参加したシンガーのLealaniと

スクラッチしていると、心が安らぐんだよね。すっと一緒に時間を過ごしてきたからなのか、ターンテーブルと一緒にいると、家にいるような感覚になるんだ。

現在のターンテーブリストたちの活動に関心はありますか?

KK:最近、ブラジルで日本のDJ KOCOを見たんだ。僕とLealaniでブラジルでショーをやってたんだけど、プロモーターが、その日の夜にDJ KOCOがクラブでプレイしていると教えてくれて、彼を見にいったんだんだよ。彼がやっていたことはかなりすごかった。まるでヒップホップを使って素晴らしい冒険を繰り広げているかのような感じだった。地元のオーディエンスのためにブラジルの音楽もたくさんプレイしていたし、彼のプレイはすごく楽しかったし、本当に素晴らしかったね。

あなたにとって、インスパイアされる音楽というのはどのような音楽でしょうか? また、あなたが最近よく聴いている音楽を教えてください。

KK:D・スタイルズはかっこいいと思う。彼の545っていうプロジェクトがあるんだけど、そのプロジェクトではマイク・ブーやエクセス、Pryvet PeepshoといったDJが集まるんだけど、5日間かけて一枚のアルバムを作るんだ。僕が好きなのは、本当に才能のあるプレイヤーが集まって、リアルアイムでライヴのように演奏して何かを作り上げるってジャズっぽくてすごくいいと思う。だから、僕はこのスタイルのグルーヴが大好きなんだ。スクラッチのフェロニアス・モンクみたいな存在。たった数日間しかないという制約の中で何か一貫性のあるものを考え出すというのは、本当に深いと思うね。
 ポップの世界でいうと、ベンジー・ヒューズっていうシンガーがいる。彼は本当に素晴らしくて、僕はジョン・レノンに近いものがあると思っているんだ。曲にヴァラエティがあるんだよね。風変わりで面白いことをやっていると思う。そしてもちろんLealaniの音楽もよく聴いてる。彼女のパンク・プロジェクトもすごく気に入っているんだ。あと、Walliceっていうシンガーの音楽は聴いたことある? LA出身で、多分日本とアメリカのハーフなんじゃないかな。最近発見したんだけど、彼女の音楽もエンジョイしてる。あと、ラプソディーは好きでいまだに聴いてるね。2年前のアルバム『Eve』はまだ聴いてる。あの作品は、時代を超越した素晴らしい作品だと思う。

現在取り組んでいるプロジェクトや今後の予定を教えてください。

KK:いまは、長編アニメのプロジェクトに取り組んでいるんだ。長編アニメの監督をするのは初めて。原作は『Space Cadet』で、僕の2作目のグラフィック・ノヴェルなんだ。昼間の時間はほとんどそのプロジェクトに使ってる。あと、Lealaniと一緒にショーもやっているんだけど、それもすごく楽しい。2人組の新しいバンドのような感覚でライヴをしてるんだ。

質問・序文:原雅明(2023年5月02日)

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Profile

原 雅明/Masaaki Hara原 雅明/Masaaki Hara
音楽ジャーナリスト/ライター、レーベルringsのプロデューサー、LAのネットラジオ局の日本ブランチdublab.jpのディレクターも担当。ホテルの選曲やDJも手掛け、都市や街と音楽との新たなマッチングにも関心を寄せる。早稲田大学非常勤講師。著書『Jazz Thing ジャズという何か』ほか。

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