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interview with Superorganism

interview with Superorganism

僕らが目指しているのはポップ・ミュージックを作るってことだけ

──スーパーオーガニズム、インタヴュー

取材・文:Casanova S.    通訳:長谷川友美 写真:小原泰広   Jul 15,2022 UP

 パンデミックの影響もあってか昨今はひとつの街に属さず離れて暮らすバンドも増えてきた。だがスーパーオーガニズムのように国境をも超えているバンドは多くはない。そもそもスーパーオーガニズムはそれ以前の世界から、それ以後の世界で当たり前になったような感覚を持って活動していたのだ。ロンドンに暮らすイギリス人のハリー、ニュージーランド出身のトゥーカン、ビー、オーストラリアに住む韓国人ソウル、日本人のオロノ、多国籍なスーパーオーガニズムにどこの国、あるいはどこの街のバンドなのかと尋ねたら果たしてどんな答えが返ってきたのだろう? 答えなんてなくとももうこの状態が物語っている。スーパーオーガニズムはどこからでもアクセス可能な世界の中に存在していて、その場所は手紙を送ろうなんて考えが浮かばないくらいに近くにある。そんな古くてありふれたインターネットの幻想がもう当たり前のものとしてここに存在している。2017年に “Something For Your M.I.N.D.” をひっさげて登場しインターネットの寵児として受け入れられた 1st アルバムからさらに進んでスーパーオーガニズムは気負うことなく拡張したその世界を見せつける。

 『World Wide Pop』と名付けられた 2nd アルバムは日本の星野源、CHAI、フランスのSSW ピ・ジャ・マ、イングランド・レッドカー出身のラッパー、ディラン・カートリッジ、アメリカ・ポートランドに暮らすペイヴメントスティーヴン・マルクマス、世界各国数多くのコラボレーターが参加しながらもそこに強い光が当たるようなことはなく、まるで皆がその場所にいるのが当たり前だというように溶け込んでいてなめらかだ。前作の延長線上にあるような “It’s Raining feat. Stephen Malkmus & Dylan Cartlidge” の憂いを帯びたカラフルなサウンドの上でラップするディラン・カートリッジ、スティーヴン・マルクマスはいつもと少し違った表情を見せて、その間にいるオロノは自然と世界を繋ぎ合わせる。何かの映画に使われるはずだったという “Flying” は遊び心と少しのいら立ちを併せ持った最高のインディ・ポップで(途中でニュー・オーダーの影さえ見える)アコースティック・ギターの音が鳴り響く “crushed.zip” はSSWが作った孤独な原曲を切り裂いてリミックスしたかのような不思議な感触でそれでいてこのアルバムの世界に見事に馴染んでいる。スーパーオーガニズムの持つこの感覚はベッドルームの扉を開けてそのまま世界を拡大したかのようで(それは音楽以外のものに対してもそうなのだろう。“Teenager” のビデオを思い浮かべて欲しい。上下左右、二次元方向にも三次元方向にも、興味は広がり拡大していく)、境界線が消えたみたいに薄くなりジャンルの枠はぼやけ、ついにはメインストリームとアンダーグラウンドの境目さえも見えなくなる。自由で複雑で繁雑、そんな状態になっているのがいまのスーパーオーガニズムの魅力だろう。世界はひとつだけで完結したりはしない、意識することのない当たり前の『World Wide Pop』がそこにあるのだ。
 複数の世界が繋がって世界が作られ拡張していく、スーパーオーガニズムのオロノとハリー、ふたりの話を聞いて頭に浮かんだのはそんな言葉だ。実際に触れあえるようなオンラインと仮想世界を通過したような現実、ひょっとしたら次の世界とはいつの間にかそこに存在しているものなのかもしれない。


Teenager

僕たちはふたりとも複合的な分野のアーティストだってところが似ていると思うんだ。音楽はコアとしてあるけど、オロノはアルバムのアートワークを手がけたりもするわけだし、ビデオをみんなで一緒に作ったりもする。(ハリー)

スーパーオーガニズムとして日本に来るのはどれくらいぶりになりますか?

ハリー:2019年の1月以来かな? たぶん、それくらいぶりだと思う。

フジロックの後にあった来日公演ぶりですか?

オロノ:そうですね。来日公演ぶりだから2019年以来です。

じゃあ3年ぶりくらいなんですね。いまはひとつの国じゃなくてメンバーがそれぞれバラバラに住んでいる感じなんですか?

ハリー:前はみんなで同じ場所に住んでいたときもあったんだけど……、1st アルバムを作り終わったくらいの時期にみんなで同じ家に引っ越して。でもなんていうか「トゥーマッチ」だったんだよね。だから4年くらい前かな? それでみんなバラバラに住むようになって。いまはソウルはオーストラリア、オロノは日本、残りのメンバーはロンドンに住んでる感じかな。

そうなんですね。でもそれだとメンバー同士でいまどんなモードになっているとかどんなものに興味を持っているとか把握しにくかったりしませんか?

ハリー:そうだね。そういうある種の難しさはあるよ。

オロノ:でももうその段階は通り過ぎたって感じする。

ハリー:そうだね、うん。僕らはもうお互いのことはだいたいわかっているから「いまのモード」はどんななのかっていうのは把握しやすいのかもね。ズームとかでも「いま何に興味を持ってる?」とかよく話すし。もちろん同じ家に住んでたときほどではないんだけど。でもだいたいのことはわかるよ。何かやるときにコンセプトとか素材とかそういうのを話すんだけど、その過程でもみんなが何に興味を持っているのかわかるから。

そんな感じなんですね。

ハリー:うん。たとえば、ミュージック・ビデオを作るときなんかがそうなんだけど。いまたくさんビデオを作っててさ、二週間くらい前にも新しいビデオに取り掛かったところで、電話で何に影響を受けただとかどう思ったとかたくさん話して。オロノが影響を受けた本の一節から組み立てたりもして。だから、僕たちはいろんなことを共有してアイデアや影響についてお互いに理解できるまでトコトン話すって感じなんだ。

今回取材に応じてくれたハリー(左)とオロノ(右)

ミュージック・ビデオの話が出たのでここでビデオの話を聞かせていただきたいです。今回は全てのビデオを同じ人が監督しているせいか一貫した雰囲気を感じて、ひょっとしたらアルバムの一部として制作したのかなとも思ったのですが、今回のビデオはどんな風に作られたのですか?

オロノ:そんな風に感じるのはそれが最初に出てきたコア・アイデアだったからかもしれないですね。言ってくれたみたいにビデオをアルバムの一部として作ったってのもあるし。あとはもちろんビデオとしても美しくなるようにって感じに。ダンは私たちのヴァイヴをよくわかってるし、凄くいい感じにリメッシュしてくれて。たぶんあの人こっちの望んでるもの完全にわかってんじゃないかな。私たちにはアイデアはあってもビデオを作る技術はないから。

ハリー:まぁだよね(笑)。

オロノ:うん。だから彼はプロセスの中で重要な役目を担っている。にしてもヴァイヴを理解してくれて細かいディテールを説明しなくていい人を見つけられたっていうのは超良かった。

ハリー:めっちゃ直感的だったよね。なんていうかな、普段は僕たちふたりでアイデア出し合ってときどき他のバンド・メンバーもって感じなんだけど、ビデオの全体のストーリーを描いて、参考になるいろんな写真を組み合わせたりして、ちょっとしたトリートメント・ドキュメントを作るんだ。で、それを今回彼がまとめあげてくれたっていう。だからそれで連続性とか近似性を持ったんじゃないかな。僕たちから生まれた最初のアイデアから全部ドライヴしていって、それを彼が上手く解釈というか翻訳するみたいな形で具現化してくれたわけだから。

今回はアニメーションが効果的に使われていたと思うんですけど、アニメに関してはどうですか?

ハリー:もちろんアニメは大好きなんだけど、現実的な問題として僕たちはいま同じ場所に住んでいなくて、どこかひとつの場所に集まってビデオを撮影するってことができないっていうのもあったかな。アニメだとみんな一緒にスタジオにいる必要もないし、僕たちが持ってたアイデアも実現しやすかったっていうのがまずあって。で、もうひとつの理由として、伝えたいストーリーをスタジオ撮影の限定的なショットだけで表現したくなかったっていうのもあった。だから自然とアニメを中心に作ろうって方に傾いていったんだ。たとえば “crushed.zip” のビデオは単細胞のアメーバが恋に落ちるってストーリーなんだけど、単なるミュージック・ビデオじゃなくて、ショート・フィルムみたいな感じにしてこの小さなストーリーを伝えたいってアイデアで……。なんていうかさピクサーの映画の前にはいつも短いアニメがあるよね、あれってある種の良さがあって心に残るから、そういう感じにできないかなって考えたんだ。


crushed.zip

取材・文:Casanova S.(2022年7月15日)

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