Home > Columns > 12月のジャズ- Jazz in December 2025

СОЮЗ (SOYUZ)
Krok
Mr. Bongo
ウクライナとロシアの紛争問題が長期化する中、その両国に隣接するベラルーシは政治的にロシアへの加担が見られ、そのため国内では体制派と反体制派の対立が深まっている。そうした政情不安な状況下のベラルーシのミンクスから、2022年にポーランドのワルシャワへ移住して活動するバンドがソユーズである。ソユーズは2018年にマルチ・プレイヤーのアレックス・チュマクを中心に、共同設立者であるミキタ・アルー(ベース)、アントン・ネマハイ(ドラムス)が集まって結成された。彼らの音楽性の基軸にはブラジル音楽があり、特にミルトン・ナシメントやロー・ボルジェス(先日11月2日に死去)などのミナス派や、ブルニエール&カルチエールなどのMPB、そしてアルトゥール・ヴェロカイの影響が見られる。
2021年に録音されて2022年にリリースされた通算3作目の『Force Of The Wind』がミンクス時代の最後のアルバムだが、それ以来となる新作『Krok』はワルシャワ移住後の初めての録音となる。アレックスとミキタのほか、バンドのドラマーはポーランド人のアルベルト・カルチへ代わり、ギタリストのイゴール・ヴィシネフスキが新加入して4人組となっているが、今回はアレックスとアルベルトがブラジルに赴いて録音を行っている。主な録音はサン・パウロのセッサのスタジオで行われ、ロック・バンドのオ・テルノのビエル・バジーリとティム・ベルナルデスのほか、パッソ・トルトやマージナルズといったバンドで活動するマルセロ・カブラルというブラジルのミュージシャンとセッションしている。その後、ポーランドに戻ってバンドでの録音を加え、最終的にスウェーデンのスヴェン・ワンダーのスタジオでミックスして『Krok』は完成した。『Krok』とはベラルーシの言語でステップを意味し、ベラルーシからポーランドへ渡った彼らの新たな道筋を示すものなっている。それに伴い、これまで歌詞にはロシア語を用いていたのだが、今回は全てベラルーシ語(ブラジル音楽ということで、一部にポルトガル語の歌詞もある)を使っており、彼らの政治的な立ち位置やベラルーシ人としてのアイデンティティを示している。また、日本の打楽器奏者でヴォイス・パフォーマーでもある角銅真実が参加する曲も収められた。
フェンダー・ローズが奏でる陰影の深いメロディにスキャット・ヴォイスが絡む“P7 Blues”は、1970年代にミルトン・ナシメントのバック・バンドとして活動し、アルトゥール・ヴェロカイのプロデュースでアルバムもリリースしたソン・イマジナリオを連想させる演奏だ。“Voo Libre(自由の飛行)”は女性のワードレス・コーラスをフィーチャーした幻想的な楽曲で、ソフト・サイケやアシッド・フォークのような風合いを持つ。ブラジルの幻のシンガー・ソングライターであるピリや、イタリアのアルベルト・バルダン・ベンボによるボサノヴァを取り入れたサントラを彷彿とさせる。“VCB”におけるオーケストレーションや木管楽器のアレンジは、まさにアルトゥール・ヴェロカイによるそれで、メランコリックなワルツ曲“Smak žyćcia”では角銅真実による日本語のポエトリー・リーディングが神秘の世界を作り出す。竹村延和のスピリチュアル・ヴァイブスを思い出すような楽曲だ。

Black Jesus Experience
Time Telling
Agogo
ブラック・ジーザス・エクスペリエンス(BJX)はオーストラリアのメルボルンを拠点に活動する9人組バンドで、アフリカ音楽やアフロビートの影響を受け、ジャズ・ファンク、ファンク、ソウル、ヒップホップなども融合したミクスチャーな音楽を展開する。グループの中心人物はエチオピア難民のシンガーであるエヌシュ・タイエで、彼女の存在から特にエチオピアン・ジャズから多大な影響を受けている。そして、エチオピアン・ジャズの始祖であるムラートゥ・アスタトゥケとのコラボも果たし、彼との共同アルバムである『Cradle Of Humanity』(2016年)や『To Know Without Knowing』(2019年)をリリースしている。ほかにもトニー・アレンのサポートでツアーを回ったり、世界中のフェスに参加するなどの活動を行ってきたが、2008年のデビュー作からこれまでに7枚のアルバムをリリースし、2022年の『Good Evening Black Buddah』以来の3年ぶりのニュー・アルバムとなるのが『Time Telling』だ。
アルバム・ジャケットにはエチオピア系アメリカ人の現代美術のアーティスト、ジュリー・メレトゥの2001年の作品『eye of (Thoth)』の一部を使用している。古代エジプトの知恵の神であるトートの目(ホルスの目とも呼ばれ、月、知識、真理、癒し、修復の力を象徴する)をモチーフとする作品で、BJXはジュリー・メレトゥの創造性に対するシンパシーや思想の共有をアルバムのテーマとしている。“Lullaby For A Homeless Child”はエヌシュ・タイエの実体験から生まれた作品で、ジャズ・ファンクとヒップホップが融合したトラックに乗せて、彼女のボヘミアンな歌声と哀愁に満ちたトランペットが印象を残す。“Stipa”はエチオピアン・ジャズ特有のエキゾティックなメロディを持ち、エチオピアの弦楽器であるマセンコを中心に野趣に富む演奏を展開する。“Your Heart Is My Refuge”はゆったりとしたグルーヴのネオ・ソウル調の楽曲で、エチオピアン・ジャズ版のディアンジェロといった趣だ。“Alemtsahaye”は深みのあるジャズ・ファンクで、ソウルフルな演奏とラップ、エヌシュのアラビア語のヴォーカルによってほかのバンドにはない独特の世界を作っていく。

Joe Kaptein
Pool Sharks
Jandal
今年7月のコラムで紹介したニュージーランドのバンドのサークリング・サンだが、そのメンバーであるジョー・カプテインがソロ・アルバム『Pool Sharks』をリリースした。彼はキーボード、シンセ、オルガン、ギター、グロッケンシュピール(鉄琴)などを扱うマルチ・プレイヤーで、2024年に『Eternal Afternoon』というアルバムをリリースし、そこにはネイサン・ヘインズなども参加していたのだが、今回はその『Eternal Afternoon』に参加していたウィル・グッディンソン(ベース)やベン・フレイター(パーカッション)のほか、サークリング・サンのフィン・ショールズ(トランペット)などが加わり、アルバム・タイトルであるプール・シャークスというバンドを形成している。
幻想的なフレーズを奏でるキーボードを中心に、サックスやバス・クラリネット、グロッケンシュピールなどが浮遊感のある演奏を展開し、随所にスペイシーなSEが散りばめられていく構成。全体的にアンビエントを感じさせるアルバムだが、中でも“Five Stone Sourdough”が秀逸。1970年代半ばのアジムスやロニー・リストン・スミスなどを彷彿とさせる深く美しいコズミック・ジャズだ。

MOb
II
Veego
ジャズの世界ではあまりギリシャ出身のミュージシャンの話は聞かないが、近年はトランペット奏者のアンドレス・ポリツォゴプロスのトリオ、ピアニストのフリストス・イェロラツィティスのトリオなどが日本でも紹介されている。エレクトロニクスを用いた瞑想的な演奏の前者、抒情的なピアノ・トリオの後者と、それぞれ持ち味が異なるが、MObはその二つとはまた異なる個性を持つアテネのトリオである。サックス、シンセ、プログラミング担当のマリオス・ヴァリナキス、ベーシストのアレクサンドロス・デリス、ドラマーのパナギオティス・コストプロスにより、2023年にファースト・アルバムをリリース。アヴァンギャルドなジャズ・パンク・バンドを標榜し、シンセ、エフェクト、ループ、ドローン・サウンドを用いて型にとらわれない演奏を展開する。ジャズだけでなくエレクトロニカやポスト・ロックなどの要素もあり、英国のジ・インヴィジブル(レオ・テイラー、デイヴ・オクム、トム・ハーバート)に近いイメージのトリオだ。
ファースト・アルバムに収録された“5055”という曲は、翌年にジェイムズ・ラヴェルのアンクルがリミックスを手掛けていた。その関係によるものかわからないが、この度リリースされたセカンド・アルバムはマッシヴ・アタック、アンクル、ニュー・オーダーなどを手掛けたミキシング・エンジニアのブルーノ・エリンガムと、ヒーリオセントリックスのマルコム・カトゥーがミックスを手掛ける。“Fall”はジャズ・ファンクとヒップホップが融合したような楽曲で、覚醒したようなビートとアブストラクトな空間の構築がブルーノ・エリンガムとマルコム・カトゥーのミックスの技によって冴えわたる。2013年に他界した伝説のマルチ・リード奏者のユセフ・ラティーフがフィーチャーされた“The Listener”という楽曲も収められるが、これは生前の彼のサックスやヴォイスの素材をサンプリングしたものだ。
小川充/Mitsuru Ogawa