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Our Favorite LGBTQ+ Songs

Our Favorite LGBTQ+ Songs

プライド月間特別企画:わたしの好きなLGBTQ+ソング

Jun 28,2018 UP

 セイント・ヴィンセントの新しいミュージック・ヴィデオが最高である。昨年のアルバム収録曲“Slow Disco”のディスコ・ヴァージョン、その名も“Fast Slow Disco”に合わせて用意されたもので、ベア/レザー系のゲイ・クラブが舞台になっているのだが、裸の胸と尻をさらけ出したゲイたちの群れのなか、汗まみれのアニー・クラークが歌うというものだ(彼女はバイセクシュアルをカミングアウトしている)。派手なバッキング・ヴォーカルを入れたベタベタなゲイ・ディスコ・サウンドもかえって効果的だ。そこでわたしたちはHIV/エイズ以降の現在にあってなお、70年代のフリー・セックスの祝祭を再訪する。ディスコ・シーンが生み出した性の解放を、そこではダンス・ミュージックが大音量で鳴らされていたことを……。

 こうしたヴィデオが発表されるのは、世界的に6月は「プライド月間」であるからだ。49年前の1969年、6月28日に起きた〈ストーンウォールの反乱〉から半世紀が経とうとしているが、今年の6月も世界各地でLGBTQ+の権利やジェンダーの平等を掲げるプライド・パレードが開催された。はためくたくさんのレインボー・フラッグ。今年のNYプライドの写真をいくつか見ていると、かつての女子テニス界の女王であり現在のLGBTQ+運動のシンボルのひとりであるビリー・ジーン・キングが、現在の銃規制運動のアイコンでありバイセクシュアルをカミングアウトしている坊主頭の高校生エマ・ゴンザレスと並んで笑顔を見せているものに引きこまれた。歴史の積み重ねにより、世代を超えた共闘が清々しく実現されているからだ。
 そして音楽を愛するわたしたちは、その歴史のなかでたくさんの歌たちがあったことを知っている。70年代のディスコ、80年代のハウスやシンセ・ポップ、90年代のライオット・ガール、そして21世紀のじつに多種多様な音楽が、セクシュアル・マイノリティの自由を鳴らし、切り拓いてきた。音楽だからこそ感じられるジェンダーとセクシュアリティの多様性がそこにはある。もしあなたが「プライド」の意味を知りたければ、トム・ロビンソン・バンドの“Glad to Be Gay”を聴くといいだろう。アイデンティティ・ポリティクスにおけるもっとも重要な命題が、そこでは端的に提示されているからだ。
 あるいはまた、音楽は音楽であるがゆえに、「プライド」だけでは掬い取れないセクシュアル・マイノリティの感情や実存にも入りこんでいく。「イエスはホモ野郎が嫌いなんだよ」と父親に切々と説かれる様を描いたジョン・グラントの“Jesus Hate Faggots”、マフィアに性奴隷のような扱いを受けて非業の死を遂げたゲイ・ポルノ俳優の内面に入りこむディアハンターの“Helicopter”の凄み。アノーニの声はそれ自体の響きでもってジェンダー規範をゆうに超越してしまうし、自らを「ミュータント」と呼んだアルカは歌詞に頼らず電子音でクィアの官能を鳴らしてみせた。

 この企画を思いついたのは、まずは単純にプライド・マンスに便乗しようと思ったからなのだけれど、もうひとつ、ピッチフォークが先日発表した「過去50年のLGBTQ+プライドを定義する50曲」のリストがなかなかに興味深かったというのもある。こうしたリストを作るとき、たとえば自分ならついつい当事者性にこだわってしまうのだが、ピッチフォークのリストはミュージシャンの当事者/非当事者の線引きに関係なく……いや、SOGI(Sexual Orientation and Gender Identity の略。性的指向と性自認を示す)の区分に関係なくアイコニックな50曲を選出している。作り手がヘテロであってもゲイであっても、トランスであってもシスであっても、ゲイ/トランス/クィア・ソングは歌えるし、それに合わせて踊れると、こういうわけである。
 いまや大人気バンドであるザ・エックスエックスはシンガーふたりがゲイで、同性愛に限らないジェンダーレスなラヴ・ソングを歌っているが、こうした態度は非常に現代的だと感じる。最近ではジェンダーが流動的であるという「ジェンダー・フルイド(gender fluid)」や対象のジェンダーに関係なく性的願望を抱く「パンセクシュアル(全性愛)」なども認知され始めており、当事者/非当事者の線引きがますます難しくなっている。それはおそらく良い兆候で、更新されていく価値観に合わせて、音楽やそれにまつわる言説も柔軟に変化しているということなのだろう。

 そんなわけで、今回はSOGIの区分にこだわらず、ライター陣に自由な発想で私的に偏愛するゲイ/トランス/クィア・ソングを選んでもらった。正史にこだわったものではないが、そのぶん、じつに多彩なサウンド、多様な性のあり方が集ったと思う。楽しんでいただけたら幸いだ。
 「わたしの・俺の魂の一曲がないじゃないか」という方は、ぜひわたしたちにもあなたのお気に入りを教えてください。Happy Pride! (木津毅)

※性的少数者の総称として、この記事ではLGBTQ+というタームを使っています。僕はフラットな意味で「セクシュアル・マイノリティ」と書くことが多いのですが、とくに欧米だと「マイノリティ」というと人種のことを先に連想しやすいということもあるそうで、現在ではLGBTQ+が適切な表現として採用されることが多いようです。


My Favorite (21st century ver.) 
選:木津 毅

Kylie Minogue - Come into My World (2001)
Pet Shop Boys - The Night I Fell in Love (2002)
The Soft Pink Truth - Gender Studies (2003)
Rufus Wainwright - Gay Messiah (2004)
Antony and the Johnsons - For Today I Am a Boy (2005)
Matmos - Semen Song for James Bidgood (2006)
John Maus - Rights for Gays (2007)
Hercules and Love Affair - Blind (2008)
The XX - VCR (2009)
Deerhunter – Helicopter  (2010)
St. Vincent - Cruel (2011)
Frank Ocean - Forrest Gump (2012)
John Grant - Glacier feat. Sinéad O'Connor (2013)
Perfume Genius - Queen (2014)
Arca - Faggot (2015)
坂本慎太郎 - ディスコって (2016)
Syd - Bad Dream/No Looking Back (2017)
Serpentwithfeet - Bless Ur Heart (2018)

野田努

Tom Robinson Band - Glad To Be Gay (1978) 

「この歌を世界保健機構に捧げる。国際疾病分類における302.0の病気に関する、これは医学の歌だ」、そうトム・ロビンソンは話してからこの曲をはじめる。この当時、ホモセクシャルは性的/精神的な病気に分類されていたのだ。この曲の歌い出しはこうだ。「イギリスの警察は世界で最高だね。信じられない話だけど、奴らはずけずけとオレらのパブに入って、いっぽうてきに客を壁に一列に並ばせるんだ……君がゲイに生まれて嬉しいなら、一緒に歌ってくれ/君がゲイに生まれて嬉しいなら、一緒に歌ってくれ」

ジャジーなパブロック調の魅力的な曲だ。この曲を聴いたのは高校生になったばかり頃だった。そして、曲の真の意味を知るのはもっとずっと後になってからのことだったが、パンクに触発されたこの勇気あるメッセージを真に受けた連中がいたからこそ、それもひとつの力となって、いまこうして世界は変わったんだと思う。

小川充

Lou Reed - Coney Island Baby  (1975)

“Walk On The Wild Side”はじめ、同性愛、トランスジェンダー、セックス、ドラッグ、生と死といった題材が多いルー・リードとヴェルヴェット・アンダーグラウンドの作品。それらの多くは荒々しくギラギラした演奏だったり、またはクールでソリッドなロック・ナンバーだったりするのだが、そうしたなかにあって1975年という彼の転換期にあったアルバム『コニー・アイランド・ベイビー』のタイトル曲は、内省的でアコースティックなイメージのバラード調の作品。少年時代に自身がゲイであることに気づき、そのために父親から虐待されていたというルー・リード。そんな彼の救いはフットボールで、高校時代に教えてもらったコーチを慕い、「彼のためにフットボールがしたかった」と歌う。「都会はサーカスや下水道みたいで、いろいろな嗜好をもった人が集まる」とも。それまでのルーにあったワイルドでキャンプなイメージとは違い、肩の力が抜けて枯れたムードに始まり、エンディングへ向けて次第に熱くなっていく展開で、極めてナチュラルに自身の心情やニューヨークで生きることについて歌っている。私が音楽を通じてLGBTQについて知るようになったのは、デヴィッド・ボウイやルー・リードの作品を聴いてからだが、そうしたなかでルーのこの曲はもっとも好きな曲のひとつ。性別やLGBTQであるか否かを超えて、ルーの裸の歌は切々と響いてくる。

行松陽介

忌野清志郎+坂本龍一 - い・け・な・いルージュマジック (1982)

まだジェンダーという言葉も知らない子供の頃にこの曲のPVを見て、少なからず衝撃を受けました。ACT UPの活動や様々なジェンダーに関する問題などについて知ることになるのは、それから随分と後になってからでした。

沢井陽子

St. Vincent - New York (2017)

この曲は、聴けば聴くほどいろんなシナリオが浮かんでくる。「“New York isn't New York without you love,” ニューヨークは、あなたなしではニューヨークでない」の歌詞は、カーラ・デルヴィーニュやクリステン・スチュワートなどの、彼女の恋人との別れを歌っていると言われたが、ヒーローをなくし友だちをなくし、たくさんの人が去ったけど、自分はまたここで全部をひとりでやり直す、という彼女のハートブレイク感と、ニューヨークへの強い愛が描かれている。自分の知らない誰かのために涙を流し、数ブロックの中で起こるドラマは、ニューヨーク的で、LGBTQだけでなく、ニューヨーカー、誰に置き換えても当てはまる普遍性を持っている。そんな弱さを見せる彼女も素敵。

鈴木孝弥 (ライター・翻訳家)

Freddie McGregor feat. Marcia Griffiths - United We Stand (2005)

レゲエ愛好家だからアンチ同性愛者だと思われるのははなはだ迷惑だし、あなたがそう結びつけるとしたら、そのあまりに短絡的な見方を猛省してほしい。たしかに過去何名かの急進派レゲエ・アーティストが過激な反同性愛ソングを発表し世界規模のスキャンダルとなった。とりわけ欧米では人権活動家がそんな曲を看過しないから、当該歌手の来訪コンサートは中止に追い込まれ、当局が興行ヴィザを発給しないという判断にまで至った。そうした“アンチ・ゲイ・チューン”の根拠に“男色法”や“聖書の記述”(本当に全知全能の神があんなことをたびたびのたまったのだとしたら、だが)があるとしても、それらは人が自由に生きる権利に先立つものではない、という判断を断固支持する。この曲をデュエット・カヴァーしている2人の思いもきっとそうだろう。イソップ起源とされる団結のためのモットーの古典〈United we stand, divided we fall(団結すればひるまず、分裂すれば倒れる)〉をモティーフとし、どんな困難があろうと、愛し合う私たちが一緒なら大丈夫と歌う、英ブラザーフッド・オブ・マン70年の大ヒット曲だ。これまでとくに性的マイノリティの人権運動において熱烈に愛唱されてきたこの曲を、レゲエ界を代表するこのヴェテラン歌手2人が組んで2度も録音していることはもっと知られるべきだ。

Lisa Stansfield - So Be It (2014)

このミュージック・ヴィデオは、自然をあるがまま見せる。何故、こんな風にわざわざ映像で自然を確認する価値があるかというと、それが美しいからであり、そして我々が往々にしてその美しさを見失いがちだからだ。

Lisa Stansfield - Never Ever (2018)

彼女がLGBTQ界隈からも大きな支持を得てきたことは、この最新曲を聴いても合点が行く。普遍の愛を描くシンプルな言葉。琴線に触れ、活力となり、背中を押してくれる。世の雑音にあたふたする自分を後ろに捨て去れる気がする。

柴崎祐二

Bola de Nieve - Adios felicidad(1963)

革命期におけるキューバ音楽の変遷は、ジャズなどをはじめとした米国ポピュラー音楽の流入・融合の流れと、それを排除しようとする共産勢力との拮抗の歴史だった。数年前日本でにわかに再発見された「フィーリン」も、当初革命政府から「帝国主義的音楽」と目されていたのをご存知だろうか。発端となった曲が「アディオス・フェリシダ(幸せよ、さようなら)」で、同曲が当局から批判されたことで、カストロをも巻き込んだ論争に発展していったのだった。ナット・キング・コールなどの米ジャズ・ボーカル音楽に影響を受けた甘く気怠い洗練が、退廃的かつ反動的な音楽だと指弾されたという。

この曲、日本ではブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブでもおなじみのオマーラ・ポルトゥオンド版が知られているかもしれないが、当時上記のような論争を引き起こすきかっけとなったのは男性シンガー、ボラ・デ・ニエベによる版だったという。ピアノ弾き語りのスタイルで数々の名唱を残した彼こそは、革命体制下のキューバ音楽史上では極めて珍しいゲイ・アーティストであった(そのころアカデミック〜文化界において同性愛は厳しい弾圧の対象にされたが、彼はそれを奇しくも免れた)。

削ぎ落とされた歌詞と、過ぎ去りし日々に哀切を捧げるような歌い口、歌詞、全てが美しい。深読みが過ぎるかもしれないが、上記のような経緯を知った上で聴くと、どうしても表現や性の自由を暗喩的にかつ静かに称揚する音楽であると思えてならない。

ちなみに同曲の作者のエラ・オファリルは、一連の論争ののちに今度は「同性愛者の嫌疑」で勾留され、拷問まがいの取り調べを受けることになり、ついには国外へと逃れているのだった。

岩沢蘭

Tin Man - Constant Confusion (Tama Sumo mix version) (2009)

2009年に〈KOMPAKT〉から出たタマ・スモ『Panorama Bar 02』のミックスの一曲目。パラノマ・バーに飾られているというヴォルフガング・ティルマンスの写真をいつか見に行きたい。

Bronwen Lewis - Bread and Roses (2014)

映画『Pride』(邦題『パレードへようこそ』)の挿入歌。ジェームズ・オッペンハイムの詩をもとに作られた100年以上前のこの歌は、ユニオンソングとして有名な曲だ。クィア・ソングとしての趣旨は外れてしまうかもしれない。ただ映画のなかで歌われていたこの曲がよかったことと、次回日本のパレードでこの歌を聴きたいと思い選曲しました。
以下映画の字幕から引用です。

ささやかな技と愛と美を
不屈の精神は知っている
私たちはパンのために闘う
そしてバラのためにも

小林拓音

がつんと正面から「LGBTQ+」というテーマに向き合っているものというよりも、まずはサウンドありきで、ふだん好きでよく聴いていたり動向を追っかけたりしているミュージシャンの作品のなかから、どうにも気になってしかたのないものやその文脈とリンクしていそうなものをいくつか。

Oneohtrix Point Never - Returnal (Antony's Vocal Version)  (2010)
https://soundcloud.com/oneohtrix-point-never/returnal-antonys-vocal-version

当初歌詞の内容はまったく気にせず聴いていたけれど、紙エレ最新号で坂本麻里子さんが訳しているのを読んだらなぜか頭から離れなくなった。「君が去ったことはなかった/君はずっとここにいたんだ」。

Kingdom - Stalker Ha (2011)
https://www.youtube.com/watch?v=XpXjaCIFFg4

最近ではシドとのコラボが話題の〈フェイド・トゥ・マインド〉のボスによる、比較的初期の曲。MAWをサンプリング。

Mykki Blanco - Join My Militia (2012)
https://www.youtube.com/watch?v=WC-QH74zha8

「あんたの場所がどこにあるのか忘れるな」。ラップもトラックもとにかく強烈。プロデューサーはアルカ。

Grizzly Bear / Gun-Shy (Lindstrøm Remix)  (2013)
https://soundcloud.com/grizzlybearband/grizzly-bear-gun-shy-lindstrom

アゲアゲである。原曲の情緒はいったいどこへやら。毎年クリスマス・イヴにイルミネイションを眺めながら聴いている。

Owen Pallett - Infernal Fantasy (2014)
https://www.youtube.com/watch?v=4VMpu-03zuM

「べつの時代を待つ」「べつの人生を待つ」というイーノの声が耳に残り続ける。「地獄のファンタジー」とはいったい。

Le1f – Koi (2015)
https://www.youtube.com/watch?v=aUBzGKpHGAY

恋かと思ったら鯉だった。興味深いことにプロデューサーのソフィーは同年、安室奈美恵と初音ミクのデュエットも手がけている。

Yves Tumor - Serpent I (2016)
https://yves-tumor.bandcamp.com/track/serpent-i

ひとつのアイデンティティに固定されたくないからだろうか、さまざまなエイリアスを用いていろんなスタイルを試みる彼のなかでも、とりわけわけのわからないトラック。

Fatima Al Qadiri – Shaneera (2017)
https://fatimaalqadiri.bandcamp.com/track/shaneera-feat-bobo-secret-and-lama3an

「シャニーラ」とは「邪悪な、ひどい」といった意味のアラビア語の、誤った英語読みだそう。彼女の出身地であるクウェイトではクィアのスラングとして用いられているのだとか。リリックは出会い系アプリ Grindr のチャットから。

三田格

Gizzle - Oh Na Na (2017)

去年、ヒップホップで一番好きだった曲。何度か聴いているうちにクィア・ラップだということに気がついた。LGTBQだから好きというわけではなく、好きになった曲がLGTBQだったというだけ。そんな曲はたくさんあります。

大久保潤

Limp Wrist - I Love Hardcore Boys, I Love Boys Hardcore (2001)

Limp Wristはフィラデルフィアのクィア・ハードコア・バンドである。90年代に活躍したシカゴのラティーノ・ハードコア・バンド、Los Crudosのヴォーカリストであるマーティンを中心に結成された。
なんだかんだでヘテロの白人男性中心のUSハードコア界にあって、Crudosはシーンにおけるヒスパニック系を中心としたマイノリティの置かれた状況などについて、ほぼ全曲スペイン語で歌ってきた。
そんなマーティンの次なるプロジェクトとしてスタートしたLimp Wristは音楽的にはCrudosの延長上にある1分前後のファストでシンプルなパンク・ロックだが、歌詞は基本的にゲイ・コミュニティに言及したもの。
2015年、アメリカ最高裁で同性婚を認める判決を出たタイミングでLos Crudosが来日、場内が「マーティンおめでとう!」というムードがいっぱいだったのが忘れられないのでこの曲を選んでみました。

田亀源五郎  (ゲイ・エロティック・アーティスト)

Man 2 Man - Male Stripper (1986)

レザーパンツを履いた青年のヌードという、ゲイゲイしいジャケットに惹かれて12インチシングルを手にとったら、裏ジャケに載ってたアーティスト写真もハードゲイ(和製英語だけど)風だったので即購入。目に付いたゲイっぽいものは、とりあえず買っておくという年頃だった。当時の自分の好みからすると明るすぎ&軽すぎではあったのだが、音の好み云々よりも、映画『クルージング』に出てきたようなレザーマンが集まるゲイディスコ(行ったことがない憧れの地だった)では、こういう曲がかかっているのだろうかと想像してドキドキしていた。そして後に20年くらい経ってから、この曲のプロデューサーが、次のMan Parrishだったと知ってビックリ。

Man Parrish - Heatstroke (1983)

80年代に海賊版VHSで観た、自分が大好きだったゲイポルノ映画に、Joe Gage監督の『Heatstroke』(1982)という作品があった。主演のRichard Lockeが大好きだったというのもあるのだが、ホモエロスを濃厚に描き出すGage監督の映像表現にも大いに惹かれ、ぶっちゃけ自分のマンガにも影響を与えている。そしてこの『Heatstroke』には、ゲイポルノ映画としては珍しくオリジナルの主題歌まであり、しかもそれがなかなかカッコ良かった。その主題歌を手掛けていたのがMan Parrishで、後により凝ったアレンジになってオーバーグラウンドでリリースされた。私が音源をゲットできたのはCD時代になってからだが、ハードコア・ゲイポルノ映画の主題歌がCDで入手できるなんて、この曲くらいのものじゃないだろうか。インターネット時代になってから本人のブログを見つけ、キャリアの初期にアダルトフィルムの音楽を手掛けていたことや、Joe Gage監督と未だにコンタクトがあることなどが明記されていたのも、なんかとても嬉しかった。

Jamie Principle - Sexuality (1992)

ハウスに興味を持ち始めたころに、何かのレビュー(『ミュージック・マガジン』だったかな。当時買っていた音楽雑誌はそれくらいだったし)でアルバム『The Midnite Hour』を知って購入。その中で私が特にこの曲を推したいのは、曲として好きだというのもさることながら、多分これは自分がsexualityという言葉と出会った最初期のケースだったから。少し経ってから、この言葉は日本のメディアでも見られるようになったけれど、当時の日本語表記はもっぱら《セクシャリティ》だった。でも私はこの曲で、「いや《セクシュアリティ》だろう、はっきりそう歌っているし」と思っていたので、自分の文章ではずっとその表記にこだわっていた。昨今ではこの表記の方が優勢になってきた感があり何より。

大久保祐子

Rostam / Half-Light (2017)

イラン移民の親を持つアメリカ人で、ゲイをカミングアウトしている元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタム。
昨年発表したアルバムの表題曲にもなった“Half-Light”という言葉には夜明けと日暮れというふたつの意味があるらしいとの話を知ってから改めてこの曲を聴くと、「Baby, all the lights came up what are you gonna do ?」と繰り返されるフレーズが美しい曲をより輝かせているように感じる。アルバムには「他の男の子たちとは違う男の子」と同性愛について歌っている曲もあるのだけれど、ぼんやりしていて曖昧で影を持った言葉のほうに強く想像を掻き立てられる。
あかりが消えるように終わりかけた最後にウェットのケリー・ズトラウの歌声が現れ、視点が変わるところがまたいい。