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Oval

AmbientExperimentalGlitchSpoken Word

Oval

Ovidono

uovooo

デンシノオト   Jan 20,2022 UP
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 2021年12月23日。マーカス・ポップ=オヴァルの新作アルバム『Ovidono』(https://oval.bandcamp.com/album/ovidono)が、突如リリースされた。リリースは、近年、マーカス・ポップ=オヴァルの音楽作品を送り出している〈uovooo〉からで、現在は Bandcamp のみでリリースされている。
 リリースの報は電子音楽マニアのSNSに駆け巡った。自分もやや遅れてニュースを知り、即、バンドキャンプで購入した。年の瀬に唐突な大物のリリースにツイッターのTL(のごく一部?)は大いに湧いた。
 『Ovidono』には全9曲が収録されていた。録音は2021年にベルリンでおこなわれたという。どこかアクション・ペインティングのようなアートワークはベルリン在住のアーティストのロベルト・ザイデル(https://robertseidel.com)によるもの。

 肝心の音だが素晴らしい出来栄えであった。驚くべきことにピアノと電子音と声が交錯するエレクトロ‐アコースティック・モダン/クラシカルな音楽に仕上がっていたのである。マーカス・ポップがモダン・クラシカルなサウンド? と90年代のオヴァルしか知らない人からすれば意外に思うかもしれない。だが、2010年『O』、2011年『OvalDNA』、2013年『Voa』、2016年『popp』、2020年『SCIS』などのアルバムで展開されていた軽やかでポップな電子音楽と細やかなグリッチの共存を設計してきた2010年代のオヴァルを聴き込んできたリスナーからすれば納得の変化だ。音楽の「響き」を突き詰めていけば、このようなクラシカルな響きに行き着くことは当然ともいえる。
 そのうえであえていおう。長年、オヴァルの音楽を聴いてきたリスナーであっても、このアルバムを聴いた人の多くは驚きを隠せなかったのではないか、と。なぜか。それは圧倒的に「美しい」音楽だったからである。ポップから美へ。美しさの希求と生成変化。まさに作曲家・音楽家としての途轍もない進化/深化を感じたといってもいい。
 音楽が解体されていくような「スリリングさ」と、それが蘇生されていくような「美」が共存していた。その空間に身を浸すように聴き込んでいくと、さらには深い睡眠へと誘発させるような「安息」もある。ピアノと声の響きのテクスチャーを活かした圧倒的に美しい電子音楽なのである。
 このアルバムの音楽はコンピューターによる音響空間で生成されているものだが、まるで仮想空間で音楽の解体と演奏が同時におこなわれているような感覚が横溢していた。私はアルバムを聴きながら、「この音楽と音響を演奏で再現することは可能なのだろうか」と考えてしまった。コンピューター・エディットされた音楽にも関わらず、である。ここに姑息本作の未知の部分があるのではないか。
 そう、マーカス・ポップは未知の音楽をずっと創作し続けている。彼はグリッチを活用したサウンド・デザイナーである以上に、まずもって独自のメソッドを追求する「音楽家」「作曲家」なのである。モダン・クラシカル的なピアノの美麗な音が加工され、解体され、響きそのものに変化していく様は、紛れもなくエクスペリメンタル音楽の最先端。そこにASMR的ともいわれる声の肌理の官能性が交錯する。フェリシア・アトキンソンのソロ・アルバムに近いといえば良いだろか。ではこの声の主は誰なのか。それがヴラトゥカ・アレックである。

 『Ovidono』はマーカス・ポップとヴラトゥカ・アレック(Vlatka Alec)による「聴覚的なアート・プロジェクト」だ。プロジェクトのコンセプトはヴラトゥカ・アレックによる。そして全編に横溢する「声」も、そのヴラトゥカ・アレックによるものである。彼女こそこのプロジェクト/アルバムの要ともいえる。
 発表されたインフォメーションによると「ローマの詩人オウィディウス(Ovid)と平安時代前期9世紀頃の歌人、小野小町の壮大で不朽の歌・詩の新しい解釈と、オヴァルのエレクトロ・アコースティック・コンポジション、ポスト・デジタル・サウンドスケープ、そして野心的なヴォーカル・プロセッシングを組み合わせたもの」らしい。アルバム名『Ovidono』もこの二つの名の合成なのだ(!)。
 じっさい日本語による小野小町の歌の朗読もある。この日本語朗読を担当しているのが、かつてマーカス・ポップと SO というユニットで活動した豊田恵里子であることも重要なトピックだ(『Ovidono』には、いわばアフター『SO』という面もあるのではないか)。
 ヴラトゥカ・アレックと豊田恵里子の空間を透明するような美しい朗読は、このアルバムの肝といえる。マーカス・ポップはふたりの声の肌理をことさらに大切にエディットしているように思う。

 オウィディウスと小野小町という時を超えた饗宴という発想、それをエレクトロ‐アコースティック/モダン・クラシカルな音楽性に落とし込む手腕。どちらも本当に見事だ。千年以上の長き時にわたり、愛され、継承されてきた詩から新しい意味を引き出すこと。
 その意味ではオウィディウスと小野小町に関して、特に知識がなくとも時間と音楽の問題を考えることができるアルバムである。ピアノ、弦楽器、電子ノイズ、言語、声が、時空間を超えて集結し、ズレ、砕かれ、そして蘇生する。その結果、聴き手の知覚を心地よく刺激する快楽的なサウンドスケープが生成されているのだ。
 どうやらこのプロジェクトは、当初「ASMR 2.0」と呼ばれていたようだ。透明なサウンドがもたらす音の心地良さ、音への没入感、音の快楽はまさにASMRのアップデート・ヴァージョン。マーカス・ポップは、ASMRを21世紀の音響音楽の新しいフォームとして刷新しようとしているのだろうか。普遍にして革新。清冽にして静謐。そんなエレクトロ‐アコースティックなサウンドスケープが本作なのである。
 深い安息と未知の音響音楽のサウンドスケープにふれてみたい方はぜひとも音源を購入して聴いみてほしい。自分もこの先、何度も繰り返し聴取することになるだろう。

デンシノオト

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