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Lawrence English

Drone

Lawrence English

Observation Of Breath

Hallow Ground

デンシノオト   Oct 12,2021 UP
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 ここのところローレンス・イングリッシュのリリースが活発になっている。自身が主宰するエクスペリメンタル・ミュージック・レーベルの老舗〈Room40〉から鈴木昭男、デヴィッド・トゥープとの共演盤『Breathing Spirit Forms』、イングリッシュのソロ作品『A Mirror Holds The Sky』をリリースしたのだ。両作ともフィールド・レコーディングを主体とした音響作品である。環境音に深く没入するようにリスニングすることでリスナーの聴覚の遠近法が刷新されるような見事な音響作品だ。

 今回取り上げるのは、もうひとつのソロ作品『Observation of Breath』である。このアルバムは〈Room40〉からのリリースではない。シアヴァシュ・アミニ、カリ・マローン、FUJI||||||||||TA、ノーマン・ウェストバーグ、ミキ・ユイ、マッツ・アーランドソンなどのアルバムをリリースしてきたスイスの実験音楽レーベル〈Hallow Ground〉からのリリースである。意外に感じるかもしれないが、イングリッシュは同レーベルにおいてマスタリングを手がけてきたので唐突なことではない。
 音楽性は環境音主体の〈Room40〉からの『Breathing Spirit Forms』『A Mirror Holds The Sky』とは異なり、ローレンス・イングリッシュがこれまでリリースしてきた多くのアルバム、特に近年の『Wilderness Of Mirrors』(2014)、『Cruel Optimism』(2017)、『Lassitude』(2020)などで追及されてきたダークなトーンのドローン作品である。ちなみにこれらの作品で用いられたオルガンはブリスベンのミュージアムに収蔵されていた1889年製のオルガンという。

 『Observation of Breath』は、イングリッシュが追求してきた「ドローンという音楽」の達成ともいえるアルバムである。クラシック・オルガンの機能・性能を追求し、人間の呼吸のリズムに深く作用するようなドローン作品に仕上げているのだ。音の持続と循環が呼吸のように持続していると言うべきか。呼吸のように音が生成し、そして変化し、人の感覚の中で音は拡張されていくのだ。
 本作は、シャルルマーニュ・パレスタインの提唱する「マキシマル・ミュージック」に挑戦したドローン作品という。現代的な音響に視点を向ければ、カリ・マローンや FUJI||||||||||TA などのモダンにしてクラシカルなオルガン・ドローン作品の現代的系譜に連なるアルバムともいえよう。ここにあるのはミニマリズムを超えてマキシマリズムに至るドローンである。

 アルバムには全4曲が収録されている。1曲目と4曲目がそれぞれ10分と20分の長尺で、2曲目と3曲目がそれぞれ6分と2分40秒ほどのトラックだ。アルバムの曲は、オルガンの音が中心である。そのアブストラクトなサウンドを聴きこんでいくと、オルガンの音がまるで顕微鏡で拡大されたかのように拡張されていく。
 特にアルバムの最終曲である4曲目 “Observation Of Breath” は、20分に及ぶ長尺の楽曲で、アルバムを象徴するような曲といえよう。オルガンの音色が、柔らかくも霞んだ理想的な音色を生成し、没入的なドローン・リスニングへと誘ってくれる。もちろん1曲目 “A Torso” もアルバム特有のサウンドスケープを鳴らしているし、2分42秒の小曲である3曲目 “And A Twist” では二音の往復によってドローンから旋律へと変化する音楽の原型のようなサウンドを聴かせてくれる。まさにドローン作品の逸品である。

 それにしてもわれわれはなぜアンビエント/ドローンを聴くのか。メロディもリズムも希薄な音響作品になぜ深く魅了されてしまうのか。いろいろな意見があるだろうが、音へのフェティシズムを得る快楽と、心に安らぎと静謐さを与えるためではないか。一定のトーンの持続音の連鎖に耳を澄まし、その微細な変化に耳を澄ますこと。不安定な知覚の揺れを、持続する音によって調整・調律すること。心の平穏を得ること。
 しかしだからこそ、この『Observation of Breath』において各曲が唐突に、途切れるように終わるのはなぜなのかと考えてしまうのだ。ロマン主義的なサウンドを断ち切るような終わり、中断。音という現象の終わり。もしかすると現在のローレンス・イングリッシュは、ドローンを過度に精神的な安定剤のようにするのをどこかで避けたがっているのではないか。音の物質性を追求するマテリアリストのように。

 ロマンティシズムとマテリアリズム。彼にはこの二種の顔がある。これは00年代のローレンス・イングリッシュの頃からみられた傾向だ。例えばマテリアリストなサウンド・アーティストとしての側面は『it's Up to Us to Live』(2009)、ロマンティックやアンビエント・コンポーザーとしての側面は『A Color for Autumn』(2009)というように。しかし10年代から20年代にかけて、この二つが融合しはじめているように感じられるのである。自分はその傾向を非常に興味深く思っている。

 10月にリリースされるローレンス・イングリッシュとジェイミー・スチュワートとのユニット、ヘキサの新作アルバム『Material Interstices』は、そのタイトルからしてマテリアストとしての側面が存分に発揮されているアルバムではないか。
 そう、ローレンス・イングリッシュは、音の探求者であり、音のロマン主義者であり、現代的なドローンの実践者であり、音のマテリアリストでもある。そしてレーベル主宰者とし、さまざまなアーティストを繋ぐ存在でもある。
 彼の音の追求は、さながら人生のように出会いと出会いを重ねながら続いていくのだろう。

デンシノオト