ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Ryoji Ikeda ──池田亮司が約10年ぶりのオリジナル・アルバムをリリース、渋谷WWW Xにて最新ライヴも (news)
  2. Cornelius - 2022.7.30@Fuji Rock Festival (review)
  3. interview with Hudson Mohawke 待っていたよ、ハドソン・モホーク (interviews)
  4. Kangding Ray - ULTRACHROMA (review)
  5. ニュー・ダッド──あたらしい時代のあたらしいおっさん - 木津毅 (review)
  6. Random Access N.Y. vol.84:最後はコーネリアスの“スター・フルーツ・サーフ・ライダー” (columns)
  7. Tonalism ──LA発のアンビエント・イベントがPARCOで開催 (news)
  8. David Sylvian ──デイヴィッド・シルヴィアン『Sleepwalkers』がCD&LPでリイシュー (news)
  9. Jeff Mills ──ジェフ・ミルズの来日公演が決定 (news)
  10. Whitearmor - In the Abyss: Music for Weddings (review)
  11. Squarepusher ──長らく延期になっていたスクエアプッシャーの来日公演がついに決定、真鍋大度に加えハドソン・モホークも参加 (news)
  12. METAFIVE ──ラスト・アルバム『METAATEM』をリリース (news)
  13. Ebi Soda - Honk If You're Sad (review)
  14. interview with Squarepusher スクエアプッシャー、原点を語る (interviews)
  15. black midi - Hellfire (review)
  16. interview with HASE-T 人生が変わるような音楽 (interviews)
  17. Matmos - Regards/Ukłony dla Bogusław Schaeffer (review)
  18. Brian Eno - The Ship (review)
  19. Brian Eno ──ブライアン・イーノのニュー・アルバムがリリース、ひさびさのヴォーカル作品 (news)
  20. Stick In The Wheel - Perspectives on Tradition (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Black Midi- Cavalcade

Black Midi

Post Punk Jazz

Black Midi

Cavalcade

Rough Trade/ビート

Amazon

野田努   Jun 04,2021 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
E王

 SNS時代では、好きなことを好きなようにやることがますます難しくなっているのだろう。もはや自分が何を好きなのかさえもわからなくなっているのかもしれない。とにかく、不特定多数の誰かに自分がどう見られるのか、市場やメディアでの自分の見せ方ばかりを気にしているミュージシャンやライターを見るにつけ、本当につまらない連中だなと思う反面、大衆自らが監視装置になっている現在のディストピアにぞっとする。
 しかし、絶望的なこのがんじがらめから脱出するには、ひとつ方法がある。誰になんと思われようと知ったことではない、好きなことを好きなように情熱をもって徹底的にやり抜く。ブラック・ミディというロンドンの若き4人組のロック・バンドはまさにそれをやった。

 彼らの音楽にはトレンドらしきものなどない。ラップもダンスもドラッグも恋愛もない。パンク版キング・クリムゾン? XTC風のキャプテン・ビーフハート? ときにボアダムスっぽくもあり、そしてヴァンダーグラフ・ジェネレイターっぽくもあり……、いやまあなんにせよ、象徴的に言えば、少なくとも誰もが待ち望んでいるであろうことなど眼中にないサウンドをもって、だからこそ逆説的に誰もが待ちのぞんでいたことをやってのけたと。そう、この突然変異体は彼らのサウンドのパワーでもって、人びとを惹きつけたのである。最近出たばかりの『カヴァルケイド』はブラック・ミディにとってのセカンド・アルバムで、プログレ御仁をも泣かせたという前作『シュラゲンハイム』にはそれほどピンとこなかったぼくにも今回はガツンときた。
 先ほどぼくは、ぼくのいつもの怠惰さゆえに既存のバンド名などあげつらってブラック・ミディを説明しようとしているが、彼らの言うなれば“パンク・ジャズ・ロック”はもっと多様で(ボサノヴァまでやっている)、そして完璧に新鮮だ。10代という若さでダモ鈴木と共演している彼らだが、後ろ向きの郷愁など感じない。今年で22歳になる彼ら自身が若いように、この音楽にもはち切れんばかりの若さがある。それが『カヴァルケイド』における緻密さと勢いの両翼にわたって、ときに激しくリンクしている。ケオティックであるが凛としたサウンドで、この暗いご時世のなか物事に立ち向かっているような勇敢さを携えている。
 また、このアルバムには「別世界からの人物たち──苦境に陥ったカルト教団のリーダーからダイヤモンド鉱山で発見された古代の死体、伝説のキャバレー歌手マレーネ・ディートリッヒ──が、列を成して、彼らの前を誘惑的に通り過ぎていくようなイメージが描かれている」と資料には書いてある。それぞれの楽曲はそれぞれの人物のそれぞれのストーリーであり、そしてそれぞれのパレードだというが、ま、ぼくにひとつ言えるのは、ここで語られるそれぞれのストーリーやパレードはひどくエキサイティングだということである。
 アルバムはバランスも取れている。激しいリズムの“John L”や“Chondromalacia Patella”そして“Slow”の「動」に対してボッサ調の“Marlene Dietrich”、ゆったりしたアメリカーナ風の“Diamond Stuff”のような「静」もあり、スコット・ウォーカーめいた歌とアコースティックな圧倒的な美しさの“Ascending Forth”で締めている。サブスクの恩恵はあるにせよ、まあ、よくここまで折衷的なサウンドをうまくまとめ上げて、しっかりブラッシュアップさせたなと。
 
 過去がアーカイヴされた現代では、古いものも新しいものも等価であり、ときには古いものが新しいとも言われる。いや違う、新しいものが新しく、いまここに新しさがはじまろうとしている。ブラック・ミディを聴こう。お小遣いをためて高価な中古盤を買うのも悪くはないけれど、こんな苦難な時代においても前を向けるという意味で、少なくとも精神的には良いことがあると思います。

野田努