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Vladislav Delay / Sly Dunbar / Robbie Shakespeare

Dub

Vladislav Delay / Sly Dunbar / Robbie Shakespeare

500 Push-Up

Sub Rosa

河村祐介   Oct 15,2020 UP

 ウラディスラヴ・デレイことサス・リパッティ、そしてジャマイカのレゲエ最強リズム・デュオ、スライ(ダンバー)&ロビー(シェイクスピア)のコラボ・アルバム。すでにこの邂逅は2度目、この座組のスタートは2018年の作品へと遡る。〈ECM〉などからのリリースで知られるノルウェーの現代ジャズのアーティスト、トランペッターのニルス・ペッターと彼の朋友であるギタリスト、アイヴィン・オールセット、そしてサスとスラロビによる四すくみのコラボ・アルバム『Nordub』がそのスタートだ。同作品をきっかけにサスとスラロビは意気投合、ジャマイカへと彼らを訪ね、レコーディングを敢行、その後、フィンランドの自身のスタジオでミックス&オーヴァー・ダブをおこない完成させたのが本作『500 Push-Up』だ。だがしかし、本作を『Nordub』の文字通り「続編」と言ってしまうには音楽性からして少々違和感があるものと言えるだろう。

 ノルウェー&フィンランドの北欧連合+ジャマイカのスラロビで、『北欧ダブ』と題された件のアルバムは、浮遊するトランペット&ギターと、スラロビによる抑制されたリディム──重さがあるのに軽やかな、それを司るスライのスネアはエレガント、むしろ幽玄ですらある──がグルーヴを刻むアンビエントな質感のクールなロッカーズ・ダブ。こちらも最高なのだが、対して本作はどうだろうか、ギンギンのノイズにまみれたインダストリアルな質感のダブで、その音像で頭をよぎるのは、1980年代の〈On-U〉~マーク・スチュワートの諸作品、またはケヴィン・マーティンのザ・バグによるインダストリアル・ダンスホール、もしくはレベル・ファミリア(秋本 “Heavy” 武士+Goth-Trad)あたり、とにかくノイジーな電子音が空間を埋め尽くし、重戦車のごときリディムが突き進む、インダストリアル&ヘヴィーな音像の代物だ。スラロビのたたき出すリディムも、1980年代の初期ワンドロップ・ダンスホール期の演奏を彷彿とさせるラフ&タフ、ワイルドな魅力に溢れたもの(となれば前者はどこか〈アイランド〉のコンパスポイント・スタジオでスラロビが演奏した、ミクスチャーなレゲエやディスコの繊細なタッチを彷彿しさえもする)。前者の幽玄さと、本作のノイジーな過剰さ、ダブ・ミックスにも全く違ったコンセプトが用いられている。“間” を空けて、繊細なレイヤーでうっすらと差し色を入れ、演奏を引き立てるダブ・ミックスな前者、目の前の空気をひしゃげさせ、スピーカーの振動を暴力へと生成変化させるダブ+サウンドシステムで浴びる身体感覚をそのまま体現したかのような後者──その過剰なノイズによる空間の支配はウラディスラヴ・デレイ名義の近作『Rakka』にも共通するものでもある。

 ダブ+エレクトロニック・ミュージックと言えば、サスの先輩にあたるモーリッツによるベーシック・チャンネル一派、ことレゲエが介在したスタイルにおいては、引き算の美学とでも言えそうな、彼のリズム&サウンドによるミニマル・ダブがひとつエポック・メイキングなスタイル。それはベイブ・ルーツなど、いまだに数多くのフォロワーを生み出しているが、モーリッツのトリオへの参加も含めて、サスは直接のベーシック・チャンネル門下生でありながら、全く違ったアプローチでダブ+エレクトロニック・ミュージックを模索した結果と言えるかもしれない(世に知られるようになったのはやはり、その傘下〈Chain Reaction〉からリリースされたウラディスラヴ・デレイ名義のアルバムだ)。本作はミキシングによるヴァーチャルな “空間” を生み出す録音作品としてのダブと、サウンドシステムで受容する物理的衝撃に満たされた “空間”、身体感覚としてのダブをひとつの表現へと昇華させたかのようである。クラブのフロアで浴びるダブステップ的な “ダブ”、もしくはここ数年で勃興するインダストリアル・ダンスホールの波にも接続できる感覚でもある。もっと拡張させていえば、ある種の職人芸のようにエンジニアたちが引き算の美学で作り出したダブのスタイルというよりも、サスのそれはリー・ペリーの〈ブラック・アーク〉末期、過剰なエフェクトとコラージュで空間すらも音でゆがめる、そんなダブ・ミックスに感覚としては近いのかもしれない。

河村祐介