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北ロンドン出身のラッパー、ヘディー・ワン(Headie One)の8枚目のミックステープ『GANG』はUKドリルのジャンルを超えて力強さとその裏側にある脆さを強く感じる作品だ。
ヘディー•ワンは前作『Music × Road』(2019)で一気に知名度を高め、シルバー・ディスクの獲得やEUツアーの成功といった実績を積みながら、着実に人気を集めるラッパーとなった。彼自身の声や、ラフでギミックに富んだリリックもさることながら、UKドリル・ミュージックとソウルやゴスペル、R&Bといった他ジャンルの音楽性をミックスしたことで、ハードさを失わずにポップな肌触りを獲得し、多くのファンを惹きつけた。本作『GANG』では、数々のメインストリームのヒット曲をプロデュースしてきた Fred again.. とコラボレーションし、音楽性をさらに深化させながらヘディー・ワンの様々な側面に光を当てた。
ピアノとコーラスが印象的な 1. “Told” で幕をあける本作。彼が前作のタイトル曲 “Music × Road” のラインをラップする形で入り、それがオートチューンをかけられて変形させられるところに、音楽的な冒険の予感を感じ、2. “Gang” ではドラッグや音楽で成功を収めた彼が他のギャングに目もくれず、自分のビジネスに邁進することをラップしている。しかし、その威勢の良い言葉はオートチューンで歪められ、深いリヴァーブとともに孤独や不安を覗かせる。コラボレーターの Berwyn のコーラスは、Francis Starlite やボン・イヴェールを彷彿とさせるオートチューンで、ある種の行き場のなさや不安を感じさせる。
3. “Judge Me (Interlude)” にはFKAツイッグスが参加し、ヘディー・ワンの「Don’t Judge Me (俺をジャッジするな)」と同じラインを復唱しながら、優しいコーラスでその孤独を歌い、音楽に幅を与えている。先行リリースで発表された 4. “Charades” は Fred Again.. のビートも素晴らしいが、リリックもウィットに富んでいる。「Charades=ジェスチャーゲーム」を意味するタイトルは意味深だが、フックに重ねられた意味を紐解くと、その抜け目ないリリックに唸らされる。
5. “Smoke” では裁判所や刑務所の経験を織り交ぜながらラップする。そこには彼の孤独、賭け、幸運がシリアスな言葉で綴られる。ジェイミーxxのUKガラージを彷彿とさせる重心の低いシャッフルビートはアップダウンの激しい人生そのものを表しているようだ。
スロータイが参加した 6. “Tyron” のインタールードを挟み、アルバムのラストは、サンファが参加した 8. “SOLDIERS”。サンファ自身が書いたというサビの言葉は、この作品全体で一貫している自分を信じる力強さ、その裏側にある孤独や脆さをエモーショナルに歌い上げ、スピリチュアルな余韻を残して幕を閉じる。
作品を通じてギャング同士の敵対といった「ドリル」の定番的な要素は減り、ヘディー・ワンの内省的な部分が増えたことで、キャリアとともに成熟している。物足りなかったのは全体的な曲数の少なさだが、今年1月にナイフ所持の罪で6ヶ月の服役を言い渡されたことを考えれば致し方ないかもしれない。未発表の Kenny Beats とのコラボレーションも含めて、2020年後半に新たな作品とともにシーンに舞い戻ってくることを期待したい。
米澤慎太朗