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Dave

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Dave

Psychodrama

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米澤慎太朗   Jun 25,2019 UP
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E王

 2019年3月にリリースされたUKのラッパー Dave のデビュー・アルバム『Psychodrama(サイコドラマ)』はラップで物語を紡ぐことのパワーを力強く感じさせる傑作である。

 Dave が最初に注目されたのは、デビューEP「Six Paths」収録の“Wanna Know”が突然 Drake にリミックスされたときだった。Dave の憂いげに、ときに甘く歌い上げるフロウと、対照的に言葉遊びを混ぜたセルフボーストで攻撃なラップの際立った対比によって、弱冠18歳のラッパーは注目を集めた。2018年には、ロンドンのラッパー Fredo とのコラボレーション曲“Funky Friday”でウィットに富んだラップを披露し、UK総合チャートで1位を獲得した。

 しかし、彼が「物語を語る」というスキルの非凡さを世に知らしめたのは、2017年にリリースされた“Question Time”(「Game Over」収録)である。7分長に渡るこの曲で、UKの政治・戦争・警察・福祉といった幅広いトピックに対して意見を表明した。同EPに収録された“My 19th Birthdays”も自身の苦境を比喩を駆使しながら説明していく1曲で、リリシストとして印象付けた。

 Dave がこのアルバムのタイトルに付けた「サイコドラマ(心理劇)」とは、演劇を用いた心理療法のことである。心理劇にもいろいろなタイプがあるというが、例えば主人公役の人は過去の失敗や乗り越えたかった場面などを演劇を通して再現していく。観客を交えて、またときに観客と演者が入れ替わる形で進行するこの心理劇によって、参加した者の精神にポジティヴな影響をもたらしていくのだという。このコンセプト通り、Dave がこの心理劇の主人公となり、アルバムを通してセラピストに自分のストーリーを吐露していく。

 アルバムは“Psycho”で幕を開ける。セラピストの「これが最初のセッションだ、さてどこから始めようか」という言葉に導かれて、治療前の彼の深刻なメンタルが吐露される。曲の中盤でリズムが変わるパターンでセルフボーストの「俺最強」モードになったかと思えば、リズムが戻ると再び追い詰められた彼の心情が戻ってきてしまう。地元の地名が冠された 2. “Streatham”では、幼少時代や学校時代のエピソードや情景が、3. “Black”ではイギリスで黒人として生きることの難しさを吐き出している。トラックでは Dave 自身が弾くピアノが全面に出ており、彼の暗く行き場のない感情を代わりに代弁しているようである。

 重苦しい3曲から一転して、彼女との関係をロマンティックに歌う 4. “Purple Heart”、この曲の最後にセラピストは「君にとっては、誰か信じられる人が大事なんじゃないかな」という言葉をかける。5. “Location feat. Burnaboy” 6. “Disaster feat. J Hus”の2曲では、言葉巧みなセルフボーストで、ラップ・ゲームの中で差を見せつける。

 7. “Screwface Capital”では再び、彼の影が姿を表す。父親はおらず、母親との辛い日々がラップで綴られていく。生活のハードさを誇りながらも、音は常に物悲しく、彼の深い孤独を思い起こさせる。8. “Environment”では有名になった「ラッパー」の立場からセルフボーストするが、「有名になった自分」すらどこか批判的である。

 そして、アルバムのハイライトとなる11分に及ぶ 9. “Lesley feat. Ruelle”につながる。この曲は、Dave が心を寄せていた女性 Lesley の悲痛そのものの物語が語られる。「心理劇」のように、その場面が目の前で展開するような生々しさがあり、その生々しさはラップを通じてリスナーにもヒリヒリと伝わってくる。
 この曲を通じて、言葉を奪われた女性の悲しみや痛みを Dave 自身まで引き受けてしまっていたことが感じられる。その一方で、ラップという表現は過去を語り、言葉を与えることができる。最後の1分30秒では Ruelle が Lesley に言葉を与えるかのように演じて歌う。

 3年という短いキャリアの中で桁違いの成功を収めながらも、精神的に問題を抱える Dave、その心の奥底にあったトラウマを物語として語ることによって乗り越えた彼は、ガラージ・チューン 10. “Voices”を挟んで、そして懲役で刑務所で8年間過ごしている実兄へのメッセージとして語られる 11. “Drama”でアルバムは幕を閉じる。

 ラスト3曲には、ふたつの意味で「ラップ」という表現の根源的な力が宿っている。ひとつ目は、Dave 自身が心につっかえていたストーリーを11分のラップにし、「自分に語りかける」行為となること、それによって乗り越えるきっかけとなり癒されたこと。ふたつ目は、暴力を受けて声も出せなくなった女性の Lesley、そして 11. “Drama”で8年間刑務所で過ごしている実兄を登場させていること。このふたりはともに、打ちのめされて言葉が発せない、または声を届けることのできない存在である。Dave は彼らに対して語りかけることで言葉を与え、外に開かれた「声」をもう一度取り戻そうとしている。このふたりが登場する曲をつなぐのは、10. “Voice”である。

愛しい君よ、俺はいま自分の声を聴ける
愛しい君よ、俺はいま自分の声を聴けるんだ、寝てるときだって
愛しい君よ、俺はいま自分の声を聴ける
それでこの声は、君は僕の全てなんだ
“Voice”

 『Psychodrama』、その11曲を使って描き切った物語、それは無論1曲単位でなくアルバムという単位でしか成し遂げられないアートであり、ラップの素晴らしさを肌に感じることのできるUKラップの大傑作である。

米澤慎太朗

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