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Skepta

Grime

Skepta

Ignorance Is Bliss

Boy Better Know / ビッグ・ナッシング

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米澤慎太朗   Jun 05,2019 UP
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 グライム・シーンの立役者であるスケプタの5作目となるアルバム『Ignorance is a Bliss』がリリースされた。このアルバムは彼のシーンの「キング」としての地位を誇示するとともに、グライムの感覚を一歩前に進める意欲作だ。

 2016年にリリースされた前作『Konnichiwa』でロンドン発祥の「グライム」を世界に知らしめ、メインストリームに押し上げたスケプタは、ここ3年でも多くの話題を呼んだ。エイサップ・ロッキーとのコラボレーション曲“Praise the Lord”でプラチナの獲得、ナイジェリアへのカムバックツアーの成功、ウィズキッド(Wizkid)とのコラボレーション“Energy (Stay Far Way)”とのヒット、Nike とのコラボレーションの「Sk Air」シューズの発売、Louis Vuitton メンズのアーティスティック・ディレクターとなったバージル・アブローとの交友、など話題には事欠かない。

Wizkid - Energy (Stay Far Away)

 華々しい表舞台での活躍の一方で、スケプタはUKの次世代のラッパー、ミュージシャン、デザイナーもサポートしてきた。例えば、Levi's と協働し Levi's Music Project で若手のミュージシャンと新たな場作りをおこなったり、自身のブランド「MAINS」で若手デザイナーやアーティストを起用したりしている。音楽だけでなく、ファッションやデザインの領域でも様々な形でシーンをリードする存在となった。

Skepta | Levi’s® Music Project

 音楽面で言えば、新旧グライム・シーンのショーケース的なパーティである《Grime Originals》にサプライズ出演したり、自身のヨーロッパ・ツアーのサポートアクトにランシー・フォックス(Lancey Foux)、67、スロータイ(Slowthai)といったグライムの枠にとらわれない若手アーティストをラインナップしたりと、サポートを継続してきた。
 そしてリリースされた本作は、オーセンティックなグライムの感覚を一歩前に進めた意欲的な作品となっている。

 先行シングルでリリースされた“Bullet from A Gun”は、生まれ育ちや身の回りの刹那的な人間関係について突き放した目線で歌い出す。そこで彼自身に大きな力を与えていると語るのは、彼の両親のルーツであるナイジェリアであり、最近のスケプタ自身の家族である。MVでは最近赤ちゃんが生まれた彼が、地下鉄のプラットホームで乳母車を横置きしながらラップしている(アルバム・ジャケットの真ん中にも、赤ちゃんを抱えた男性が写っている)。

Skepta - Bullet from A Gun

 2. “Greaze Mode”からの3曲でセルフボーストが続く。彼のフロウはストレートに言葉をはめていくスタイルだが、アメリカ人にも聴き取れるクリアなデリヴァリーを意識していることに気づいた。『Konnichiwa』ではそのラップのフロウが不自然に感じられるほど意識的だったが、今回は肩の力が抜けているというか、自然なフロウになっているのが良い。

 ジェー・ハス(J Hus)を迎えた5. “What Do You Mean?”では得意のアフロビートではなく、ヒップホップで歌い上げる。6. “Going Through It”では一転してオーセンティックなグライム・ビートで、ワンラインで歌い続けるスケプタの本領を発揮し、オールドスクールなトラックの7. “Same Old Story”につながる。女性との関係を歌った1曲ではあるものの、以前ビーフがあったワイリーのビート・サンプルを使っていることで、ファンにとってはワイリーとの関係を(勝手に)深読みさせるラインとなっている。

 このアルバムの核心は次の3曲で、8. “Love Me Not”、ランシー・フォックスが客演の9. “Animal Instinct”、Wizkid 参加の10. “Glow in the Dark”でエモーショナルなメロディで畳み掛けるラップと歌い上げるフックのメロディが新しく、またUKらしさ、グライムらしさも感じさせ、リリカルな表現も多彩さが光る。最後の3曲は再びクラシックなグライムとなり、クルーの BBK を迎えたグライムレペゼンの12. “Gangsta”、そしてナイジェリアで袋詰めで売られている氷水パックにインスパイアされたという13. “Pure Water”で幕を閉じる。

Skepta - Pure Water

 このアルバムのステートメントは、まさにタイトルである「Ignorance is Bliss (無知はこの上のない至福だ)」に込められている。ここでは、むしろ「ignorance」と同じ語源を持つ「ignore」、つまり無視という能動的な言葉に寄って解釈できないだろうか。長年存在してきた“しきたり”や、自分が作り上げてきたこれまでの遺産を“無視”して、「やりたいようにやる」こと。または、他人が期待することや思考の枠組みを意図的に“無視”すること。新たなチャレンジに必要な無視によって、“無知”を肯定する哲学こそが、このアルバムを貫いている。

 サウンド面では前作『Konnichiwa』よりもグライム色がより強くなっているものの、懐古主義的なサウンドではなく新たなサウンドを模索している。また、ワンライン繰り返しのサビ、ハスラーの定型表現といった“お決まり”には縛られておらず、音、詩の両面で様々な挑戦をしている。コンパクトながらアルバムというフォーマットにふさわしい重層的な作品だ。

米澤慎太朗

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