ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Politics 黒船MMTが来航、開国を迫る。その時、日本の与野党は (columns)
  2. James Ferraro - Requiem For Recycled Earth (review)
  3. ハッパGoGo 大統領極秘指令 - 原題 Get the Weed (review)
  4. Bon Iver ──ボン・イヴェールが8月末に新作をリリース (news)
  5. TODD TERJE JAPAN TOUR 2019 ──ノルウェーのディスコ王、トッド・テリエが来日 (news)
  6. Ken Ishii ──ケンイシイが13年ぶりのニュー・アルバムをリリース、新曲を公開 (news)
  7. Politics オカシオ-コルテス、“MMT(現代貨幣理論)”を語る (columns)
  8. IO - Player's Ballad. (review)
  9. interview with Jordan Rakei 人間性を忘れてはいけない (interviews)
  10. 編集後記 編集後記(2019年7月9日) (columns)
  11. Kokoroko - Kokoroko / Various - Untitled (review)
  12. Stereolab ──ステレオラブ再始動キャンペーン第二弾、代表作3枚が一挙リイシュー (news)
  13. Flying Lotus ──衝撃を与えた映画『KUSO』がまさかの再上映決定 (news)
  14. 子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から - ブレイディみかこ (review)
  15. Politics オカシオ・コルテス現象について (columns)
  16. interview with Francesco Tristano 日本らしいものを作っても意味がない (interviews)
  17. Charles Hayward - (Begin Anywhere) / Charles Hayward - Objects Of Desire (review)
  18. Koji Nakamura - Epitaph (review)
  19. Merzbow ━━メルツバウが再び〈Room40〉からアルバムをリリース (news)
  20. interview with Primal 性、家族、労働 (interviews)

Home >  Reviews >  Album Reviews > 七尾旅人- Stray Dogs

七尾旅人

FolkJazzJukePopRock

七尾旅人

Stray Dogs

felicity

Amazon

北中正和木津 毅   Dec 15,2018 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加
E王
12

歌から生まれる音楽北中正和

 デビューしたころから既知感のある音楽だった。はじめて聞く曲ばかりなのにそんな気がしなかった。お父さんの影響で子供のころからジャズを聞いていたことや、彼が興味を持っているというミュージシャンの名前を見て、なるほどと思えるところもあったが、音楽が誰かのフォロワーというわけでもなく、その既知感がどこから来るのか、しばらく説明できなかった。しかしいつしか曲の作り方がそう感じさせるのかもしれないと思うようになった。

 いま世間では、リズム・トラックを先に作ってそこにメロディをのせて最後に歌詞を合わせていくような音楽の作り方が主流だ。そういう音楽ではリズムが細分化され、転調が多用され、コントラストの強い音がぎっしり詰めこまれている。それはそれで目立つための工夫であり、いまの社会のありようの一面をとらえた音楽ではあるのだろう。
 ところが七尾旅人の音楽はそんなふうに感じさせない。もちろん、いろんなタイプの作品があるので、一概には言い切れないのだが、あえて言えば、歌なりメロディなりが先にあって、リズムやサウンドがそれに寄り添う形で作られてきた作品が多いように思える。それは80年代までは普通にあった伝統的な曲の作り方だ。つまり彼の音楽が誰かの何かに似ているという以上に、歌声とメロディとリズムの織りなし方に、ぼくのような高齢者は既知感や懐かしさをおぼえてきたのだ。

 そんなふうに構造的にいまの時代の方法論から一歩距離を置いたオルタナティヴなところで“きみはうつくしい”や“スロー・スロー・トレイン”や“DAVID BOWIE ON THE MOON”、ジャジーな“いつか”のような曲を作れるのは素晴らしい才能だと思う。伝統的といえば、5音階的なメロディとケルト系のサウンドが重なる“天まで翔ばそ”のような曲もある。
 ただし伝統的といっても、彼はアンティーク趣味の音楽をやっているわけではない。レイヴ・パーティ的なイベントにギターひとつで出て行っても違和感がないたたずまいを持ち、ネット配信の可能性も試みてきた人だから、彼がいまのポップスのありように無関心であるはずがない。歌詞のはしばしや声の加工からひとつひとつの楽器の音色まで、どこを切り取ってもいまの音楽だ。音を引き算して聞き手の想像がふくらむ余地を残すところも、考えてそうする人が多いのだが、彼の場合はとても自然な感覚でやっている印象を受ける。
 旅する感覚にも似た、せつない希望に満ちた余韻が残るアルバムだと思う。

北中正和

Next > 木津毅

12