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Album Reviews

Courtney Pine

Jazz

Courtney Pine

Black Notes From The Deep

Freestyle / OCTAVE-LAB

Tower HMV Amazon iTunes

小川充   Dec 15,2017 UP
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 近年はジャズ界の新世代ミュージシャンとか新鋭の活躍に目を奪われがちだが、2017年はヴェテランの作品にも光るものが多かった。パット・マルティーノの実に11年ぶりの録音となる『フォーミダブル』、チャールズ・ロイドの7年ぶりのアルバム『パッシン・スルー』に、アーマッド・ジャマルやルイス・ヘイズという80歳を超すプレイヤーたちの新録も聴けた。ラテン・ジャズ方面では大御所のエディ・パルミエリ、チューチョ・ヴァルデスらの健在ぶりを示す作品があり、アフロ・ビートの始祖のトニー・アレンがバップ・スタイルのジャズに取り組んだアルバムもあった。イギリスのマルチ・リード奏者であるコートニー・パインも、かれこれデビューから30年ほどが経過し、こうしたヴェテランの域に足を踏み入れつつある。

 ジャマイカ人の両親を持つコートニーは、音楽界で活躍するUKジャマイカンの先駆的存在のひとりである。1980年代半ばにジャマイカ系黒人によるビッグ・バンド、ジャズ・ウォーリアーズを結成し、そこに集ったスティーヴ・ウィリアムソン、クリーヴランド・ワトキスたちと共に、アシッド・ジャズの動きともリンクする。ちなみにジャズ・ウォーリアーズの一員のゲイリー・クロスビーは、トゥモローズ・ウォリアーズという音楽教育機関を主宰し、ザラ・マクファーレン、モーゼス・ボイド、シャバカ・ハッチングスなど、現在のロンドンのUKジャマイカ系アーティストの若手は、みなトゥモローズ・ウォリアーズ出身者である(カリビアン系ではない白人だが、先だってのレヴューで紹介したトム・スキナーも出身)。コートニーはアート・ブレイキーと共演するなどジャズの王道を極めるが、それだけでなくソウル、レゲエ、ラヴァーズ・ロックにも傾倒し、キャロル・トンプソンとの名曲“アイム・スティル・ウェイティング”を生み出した。オマーやキャロン・ウィーラーといったUKソウルの系譜も、こうしたUKジャマイカンの音楽的土台から出てきたものと言える。1990年代半ばはジャイルス・ピーターソンの〈トーキン・ラウド〉からも作品がリリースされたのだが、バップ~モードのモダン・ジャズ・スタイルにヒップホップやドラムンベースなどクラブ・サウンドの要素を柔軟に融合し、現在のロバート・グラスパーたちがやっていることを20年以上前にトライしていたと言える。近年はあまり目立った話題がなかったが、それでもコンスタントに作品をリリースしており、レゲエやスカ、アフロ・キューバン・スタイルのジャズ・アルバム『ハウス・オブ・レジェンズ』(2012年)、ピアノをバックにバス・クラリネットのみで演奏したバラード集『ソング(ザ・バラード・ブック)』(2015年)などがある。

 2017年の夏、そんなコートニーが久しぶりにクラブ寄りの新曲を〈フリースタイル〉から発表した。こちらも今春にニュー・アルバム『ラヴ・イン・ビーツ』を〈フリースタイル〉から発表したオマーとの共演で、ハービー・ハンコックのカヴァーの“バタフライ”とオリジナル曲“ルールズ”をカップリング。シンセ・ウィンドを披露する“バタフライ”は、ドラムンベースを咀嚼したリチャード・スペイヴン風のドラム・スタイルだが、かつてそのスペイヴンもバンド・メンバーだったロバート・ミッチェルのピアノ・トリオがバックを務めている。一方“ルールズ”のベース・ラインは、マーク・マーフィーがフレディ・ハバートをカヴァーした“オン・ザ・レッド・クレイ”をアップ・テンポにアレンジしたようなもの。“オン・ザ・レッド・クレイ”はクラブ・ジャズ・クラシックとしても有名だが、そうしたあたりにアシッド・ジャズ期からの長い活動を誇るコートニーのセンスの一端が伺える。このシングルを経て発表されたニュー・アルバムが『ブラック・ノーツ・フロム・ザ・ディープ』である。オマーはほかにもブルース曲の“ダーカー・ザン・ブルー”、ボッサ・ジャズ調の“イン・アナザー・タイム”と合計4曲に参加しており、今回のアルバムはコートニーと彼のコラボ的な色合いも強い。前者、後者共にロバート・ミッチェルのオルガンがフィーチャーされ、そこでコートニーはフルートやテナー・サックス、アルト・サックスを持ち変えながら演奏するのだが、基本的にこのアルバムでの演奏はオーソドックスなネオ・バップやモード・スタイルに基づく。

 オマー参加曲以外はどちらかと言えば静かなイメージのアルバムで、“バタフライ”を除いて全てコートニーのオリジナル曲。“ユー・ノウ・フー・ユー・アー”や“リヴァーズ・オブ・ブラッド”といったバラードは、ジョン・コルトレーンのモード・スタイルに倣った正統的なもの。“ユー・ノウ・フー・ユー・アー”は“バタフライ”同様に、コートニーがよく用いるシンセ・ウィンドをフィーチャーしており、それが彼特有の軽やかで澄んだ空気を生み出している。“ア・チェンジ・イズ・シュア・トゥ・カム”はボビー・ハッチャーソンの“リトル・ビーズ・ポエム”のような雰囲気があり、コートニーのフルートもそこで演奏していたジェイムズ・スポルディングのプレイを彷彿とさせる。“ザ・モーニング・アフター・ザ・ナイト・ビフォア”でのテナーは、デューク・エリントン楽団で活躍したベン・ウェブスターやポール・ゴンザルヴェスあたりをイメージさせる演奏だ。そして、むせび泣くようなテナー・ソロを披露する“ハウ・メニー・モア”と、全編を通じてコートニーのエモーションが込められた演奏が収められている。『ブラック・ノーツ・フロム・ザ・ディープ』は特に新しい演奏、楽曲スタイルではない。しかしながら、そうした変哲のない演奏だからこそ、アルバム・タイトルの意図する「深く黒い旋律」が伝わってくるし、ヴェテランだからこそ出せる理屈ではない味わいだろう。そして、コートニーにとってここ最近ではもっともソウルフルなアルバムであり、だからこそオマーの歌やミッチェルのオルガンをフィーチャーした意味もある。

小川充